知事の違法指摘、兵庫・第三者委報告 「納得しなければ」大臣は肯定

兵庫県の斎藤元彦知事らが内部告発された問題を調べた第三者委員会が、斎藤知事らの対応の大半を公益通報者保護法違反とする報告書をまとめたことについて、同法を所管する消費者庁の伊東良孝担当相は 17 日、衆院消費者問題特別委員会で「一定の納得をしなければならない」と述べ、報告書の内容を政府として肯定する姿勢を示した。

同日の特別委で立憲民主・川内博史議員の質問に答えた。 伊東消費者相は答弁の中で、「県議会や第三者委員会などでかなり長時間にわたり審議されてきているものとして、解釈及び結論には一定の納得をしなければならないという思いをしている」と述べた。 第三者委は、元県民局長がマスコミなどに告発文書を送付後、斎藤知事側が通報者捜しなどをしたことについて、3 月にまとめた報告書で同法違反と指摘。 これに対し、斎藤知事は「誹謗中傷性の高い文書で、公益通報にあたらないという意見もある。 対応は適切だった。」と主張している。 (井上道夫、asahi = 4-17-25)

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告発者特定「違法の可能性」、「文書は一定の事実」 兵庫百条委が決定

兵庫県の斎藤元彦知事らが内部告発された問題で、県議会調査特別委員会(百条委員会)は 4 日、調査報告書を全会一致で決定した。 元西播磨県民局長(故人)に対する「告発者捜し」や懲戒処分を「公益通報者保護法違反の可能性が高い」と結論づけ、内部告発判明後の斎藤知事らの一連の対応を「客観性、公平性を欠き、行政機関の対応としては大きな問題があった」と厳しく批判した。 報告書は 5 日の県議会本会議に提出する。

報告書や提言の内容に法的拘束力があるわけではない。 ただ、県議会議員は、知事と同様に選挙で選ばれている。 この「二元代表制」のもと、地方自治法に基づいて設置され、県議会議員が委員を務める百条委が下した判断は軽くない。 斎藤知事は内部告発の発覚から約 2 週間後の昨年 3 月下旬の記者会見で、元県民局長の告発について、調査をしていないのに「うそ八百」と批判。 告発者捜しなどの対応に関しても「問題ない」と繰り返し主張してきたが、百条委はいずれも受け入れなかった。

百条委は昨年 6 月に設置され、元県民局長が告発した斎藤知事らの「七つの疑惑」や、県の対応が公益通報制度に照らして適切だったか否かを調査してきた。 疑惑について斎藤知事は「誹謗中傷性が高く、真実相当性が認められない」と主張してきたが、報告書は総括として「一定の事実が確認された」と認定した。

百条委員会の調査の「総括」

県職員へのパワハラについては、執務室や出張先での厳しい叱責など告発どおりの出来事があったと指摘。 国のパワハラ防止指針をふまえると、「パワハラ行為といっても過言ではない言動があった」とし、知事ら県幹部への研修など「踏み込んだ対策」を求めた。 また、企業などからの贈答品の受け取りも問題があったとし、ルールの明確化を要請。 プロ野球優勝パレードをめぐる信用金庫からの補助金のキックバック疑惑は「違法性は認められない」と判断したが、県の補助金の拠出決定と、信金からの協賛金の時期が近接しており「不自然」と指摘。 この問題が刑事告発されたため、「捜査当局の対応を待ちたい」とした。

告発文書については「外部への公益通報に当たる可能性が高い」としたうえで、告発者捜しの是非を検討。 斎藤知事は昨年 3 月、匿名の告発文書を入手した直後、片山安孝・前副知事に「徹底調査」を指示して元県民局長と特定。 県は内部調査のみで 5 月に「(文書は)核心的部分が事実ではない」として、他の 3 件の不適切な行為も合わせて停職 3 カ月の懲戒処分とした。 こうした対応は「通報者がつぶされる事例と受け止められかねない」と言及した。

奥谷委員長「斎藤知事は説明責任果たして」

さらに、知事側近だった前総務部長が元県民局長の私的情報を漏洩した行為は「元県民局長をおとしめることによって、告発文書の信頼性を毀損しようとした。 告発者つぶしと言われかねない」と指摘。 第三者による調査結果は速やかに公表し、県として刑事告発も含め、適切かつ早急な対応をするよう提言した。 そもそも、元県民局長の懲戒処分の理由となった不適切な行為は、違法の可能性がある調査で公用パソコンを回収されたことで見つかった。 これを踏まえ、元県民局長の懲戒処分については、保護法の指針に基づき「適切な救済・回復の措置をとる必要がある」と対応を求めた。

百条委の調査途中だった昨年 9 月、県議会は全会一致で斎藤知事の不信任を可決し、失職。 11 月の知事選で斎藤知事は再選したが、選挙期間中から百条委メンバーに対する真偽不明の情報や中傷が SNS で拡散された。 その一人だった竹内英明・前県議は議員辞職後の今年 1 月、自殺とみられる形で死去した。 奥谷謙一委員長は「斎藤知事は報告書の内容を重く受け止め、兵庫県の混乱と分断を一刻も早く解消すべく、県民に対する説明責任を果たしてほしい」と述べた。 (添田樹紀、滝坪潤一、asahi = 3-4-25)

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「維新全体のイメージ悪く」 兵庫の情報漏洩、後手に回り結局除名

兵庫県の斎藤元彦知事らが内部告発された問題をめぐり、日本維新の会所属の兵庫県議らが政治団体「NHK から国民を守る党」党首の立花孝志氏に情報を漏洩した問題で、維新の県組織・兵庫維新の会は 26 日、除名などの処分を決定した。 しかし、今回の処分をめぐる過程では、維新の後手の対応が目立っていた。 発表された処分の妥当性や、今後の対応次第では、維新はさらに批判を招きかねない状況になっている。

兵庫維新、岸口県議を除名 増山県議は離党勧告 2 人とも辞職は否定

吉村洋文代表からの指示を受け、事実関係の調査を行った岩谷良平幹事長の 19 日の会見。 立花氏に県議会調査特別委員会(百条委員会)メンバーの竹内英明・前県議(故人)を中傷する内容を含む文書を提供した岸口実県議から聞き取りを行った「心証」として「極端な話、除名処分とかに該当するような大きな違法行為があったわけではない」と説明。 「あくまでも政治倫理上問題がある軽率な行為だった」との受け止めで、最終的な処分の判断は兵庫維新に委ねるとしていた。

ところがその夜、増山誠県議がインターネット番組に出演し、非公開で行われた百条委の証人尋問を録音して立花氏に渡したことを自ら明らかにした。 これを受け、SNS などでも維新への批判がさらに殺到。 維新では、各地域の組織が処分を決める規約にはなっているが、事案の重大性から地方組織への「丸投げ」との指摘も相次いだ。 維新幹部は「今回の問題は兵庫にとどまらず、日本維新の大きなダメージになる」と焦りを隠さなかった。

事態を重く見た吉村代表は 25 日、増山氏が除名相当で検討されていることを明らかにし、「厳しい対応が必要だ。 これを許せば維新はルールを守らなくてもいいのかということになる」と強調。 増山氏が除名処分となった場合は「維新の公認で当選している以上、議員辞職するべきだ」と厳しく対応する姿勢をみせた。 さらに、党改革実行本部長を務める東徹衆院議員をトップとする調査委員会を設置すると表明。 兵庫維新の組織としてのガバナンスに疑義を示し、党本部として兵庫維新の調査を行い、関与も強める方針を打ち出したのだ。

岩谷氏も処分の発表に先立つ 26 日の定例会見の冒頭、「大変ご迷惑をおかけし、信頼を揺るがしたことに対してお詫びを申し上げたい」と謝罪。  「党本部としても厳しく対処するべきだと考えている」と態度を硬化させた。 今回の処分は、「軽率な行為」とされていた岸口氏が最も重い「除名」、県組織の党紀委員会が除名相当で意見していたとされる増山氏が 2 番目に重い「離党勧告」となった。 昨年 12 月に代表に就任した吉村氏をトップとする新執行部にとって、初めての大型国政選挙となる参院選を今夏に控えるが、今回の問題が一定の影響を及ぼすことは必至だ。

国政では、高校授業料無償化などを実現するための政策協議について 25 日に自民党、公明党との3党合意にこぎつけたばかり。 その成果をアピールすることで党の存在感を高めていきたい考えだった。 兵庫選挙区(改選数 3)では過去 2 回の参院選で維新の公認候補がトップ当選を重ねてきたが、大阪府内選出の衆院議員は「兵庫のせいで維新全体のイメージが悪くなってしまっている。 兵庫も落とすかもしれない。」と漏らす。 (野平悠一、asahi = 2-26-25)

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維新、立花氏への情報提供を事実と認定 増山県議の離党届は受理せず

兵庫県議会の調査特別委員会(百条委員会)をめぐり、日本維新の会所属の県議が、政治団体「NHK から国民を守る党」党首の立花孝志氏へ百条委の非公開情報や真偽不明の文書を提供していた問題で、日本維新の会の岩谷良平幹事長は 23 日夜、神戸市内で記者会見した。

岩谷氏は、非公開の百条委証人尋問の音声データを提供した増山誠県議に対し「ルールを軽視した極めて不適切な行動があった」とした。 一部の百条委メンバーを「(内部告発問題の)黒幕」などと記した文書を提供した岸口実県議については「百条委員会副委員長としての自覚に欠けた行動があった」とした。 「日本維新の会として、深くお詫び申し上げる」と述べ、第三者調査委員会を立ち上げる考えを明らかにした。

維新は同日、増山氏と岸口氏による情報提供が事実と認める調査報告書を発表した。 その報告書を受けた地域政党・兵庫維新の会は党紀委員会を立ち上げ、調査を継続する。 情報提供した一人の増山誠県議は、日本維新の会に離党届を出したことを明らかにしたが、党として、受理はしていないという。 記者会見に同席した兵庫維新の会の金子道仁代表は会見で「彼らの行動によって再び県政に混乱を、停滞を招いたことに改めてお詫び申し上げる」と話した。 (谷辺晃子、添田樹紀、asahi = 2-23-25)

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維新・増山県議「立花氏がデマ言ったと認識せず」 情報提供巡り会見

兵庫県議会の調査特別委員会(百条委員会)をめぐり、地域政党・兵庫維新の会の所属県議が政治団体「NHK から国民を守る党」党首の立花孝志氏への情報提供に関与していた問題で、当事者の増山誠、岸口実、白井孝明の 3 県議が 23 日、神戸市内で記者会見を開いた。

増山氏は会見で、自身から立花氏に連絡を取って知事選告示日の昨年 10 月 31 日にカラオケボックスで会ったことを認めた。 報道陣から「立花氏が拡散したことで混乱が生じた。 (誹謗中傷を受けた)県議が亡くなっている。」との質問には、「立花氏がデマを言っていたとは認識していない。 立花氏の情報によって県議が亡くなったという因果関係も私として確信を持っていない」と説明した。 一方で、百条委の非公開情報を外部に漏らした責任として、党本部に離党届を提出したことを明らかにした。

増山氏が提供したのは、昨年 10 月 25 日に非公開で開かれた片山安孝・前副知事の証人尋問の音声データ。  片山氏は尋問で、告発文書を作成した元西播磨県民局長には不正な目的があったと主張し、その情報が含まれるとされる県民局長の私的情報の内容を話し出したことで、百条委委員長の奥谷謙一県議から制止されたやりとりが残る。

維新・増山県議「立花氏に音声データを渡した」 非公開の百条委尋問

増山氏は会見で、片山氏の発言が「重要な要素であり、県民が知らないまま、選挙に突入するのはよくないと考えた」と話した。 百条委は、知事選(昨年 10 月31日告示、11 月 17 日投開票)への影響を考慮し、10 月の証人尋問は非公開とし、選挙後に録画を公開する方針を事前に決めていた。 県議会事務局によると、会議規則で秘密会の議事の情報漏洩は禁じられている。

また、元県民局長から私的情報に関わる資料に配慮するようにとの申し入れがあり、県情報公開条例では通常他人に知られたくないと認められるものは非公開情報とする規定もあることから、片山氏が私的情報に言及した部分は録画公開後も非公表と決めていた。 岸口氏は、県知事選の期間中に民間人と一緒に立花氏と会い、一部の百条委の委員らを「黒幕」などと主張する文書を渡したことが明らかになっている。 岸口氏は23日の会見で、「結論から言うと、その場に同席している以上、私から提供したものということで結構」と述べた。

白井氏は 21 日、選挙期間中などに立花氏からの電話を受けたことを認めた。 立花氏は、SNS で岸口氏とは別に増山氏からも文書情報を受け取り、その内容を白井氏に確認したとしている。 白井氏は23日の会見で、「斎藤知事だけが悪者のような報道をされていることがフェアではないと思った」と理由を説明した。 (asahi = 2-23-25)

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告発した元県民局長の処分撤回を提言 兵庫百条委の報告書案が判明

兵庫県の斎藤元彦知事らが内部告発された問題で、県議会調査特別委員会(百条委員会)の調査報告書案が 18 日、判明した。 県関係者への取材でわかった。 報告書案によると、通報者を特定した斎藤知事らの初動は、公益通報者保護法に違反しているとし、通報者に対する不利益処分の撤回を提言。 斎藤知事が「真実相当性がない」と主張してきた告発文書の内容についても、パワハラ疑惑は「おおむね事実」と評価した。

斎藤知事らの疑惑は認定できるのか 兵庫百条委、慎重に報告書協議へ

百条委では報告書のとりまとめに向け、10 日から非公開の協議会で議論を開始。 今回の報告書案は、10 日までに集約した各会派の意見を反映した「統合案」として 18 日の協議会で示された。 県議会第 2 会派の維新の会は斎藤知事を擁護する立場からの意見を出していたが、今回の報告書案ではいずれも「意見」として付記されるにとどまった。 百条委として一定の方向性を示した形だが、維新の反発など、報告書の内容が固まる 3 月上旬まで曲折が予想される。

内部告発は 2024 年 3 月、県の元西播磨県民局長(故人)によって匿名でなされた。 一部の報道機関や県議に、斎藤知事ら県幹部の「七つの疑惑」を記した文書を配布した。 同 6 月に設置された百条委は、これらの疑惑の真偽と、元県民局長への対応が公益通報者保護法違反に当たるかどうかについて調べてきた。

「文書配布は不正な目的」とは判断できず

報告書案は、まず文書が公益通報に当たるかを検討。 片山安孝・前副知事らが主張している「文書配布は不正な目的」とは判断できず、外部への公益通報に当たると考えるべきだとした。 そのうえで、通報者を特定したことは、公益通報者保護法が定める体制整備義務に違反するとした。 斎藤知事は 24 年 3 月 20 日に文書を入手。 翌日には片山氏らに「徹底的な調査」を指示した。 文書の作成者を元県民局長と特定したうえで、同 27 日に退職人事を取り消し、同 5 月に文書は「核心部分が事実ではない」などと結論づけ、停職 3 カ月の懲戒処分とした。 報告書案では、これらの不利益処分を撤回し、元県民局長の名誉を回復するよう提言した。

前総務部長が元県民局長の私的情報を漏洩した疑惑についても「(第三者による)調査結果は速やかに公表し、県として刑事告発も含め、適切かつ早急な対応を求める」とした。 その一方、「下記の意見もある」と明示したうえで、「公益通報に該当するか強い疑念が生じたケースで、通報者の探索を行ったことはやむを得なかった」といった維新の意見も記された。

パワハラ疑惑「職員を萎縮させる」

パワハラ疑惑に関しては、証人尋問で確認された斎藤知事による職員への叱責や付箋を投げる行為について、「極めて理不尽」、「威圧的なもので、職員を萎縮させる」などとした。 そのうえで、パワハラの定義である、@ 優位性を背景に行われる、A 務の適正な範囲を超える、身体的もしくは精神的な苦痛を与えるか労働者の就業環境を害する、の全てに該当する可能性があると指摘。 平均的な労働者の感じ方からするとパワハラ行為であると見なされる可能性がある」と結論づけた。 一方、「パワハラの認定は高度な法的知識が必要で、司法の判断によるべきとの意見もある」など、維新提出の意見も付記された。

パレードは「捜査機関に調査ゆだねる」2023 年秋のプロ野球優勝パレードの寄付金集めで、金融機関に補助金をキックバックさせたという疑惑については、信用金庫への協賛金依頼と県の補助金増額の時期が近いことなどに疑念はあるが、証人は否定していると記載。 背任容疑での告発状が受理されており、捜査機関に詳細な調査を委ねるとした。

贈答品の受け取りは、斎藤知事が個人として消費したと捉えられても仕方のない行為もあったと言わざるを得ず、こうした行為が「おねだり」との臆測を呼んだと指摘。 「疑念を抱かせないためにルール作りが必要」とした。 県幹部を伴っての知事選の投票依頼、県幹部による知事選の事前運動、副知事による公益財団法人理事長に対する強いストレスと知事の政治資金パーティー券の購入の圧力については、いずれも認定はできないと評価した。 (添田樹紀、島脇健史、asahi = 2-18-25)

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兵庫知事選 SNS 運用問題、公選法違反容疑で PR 会社関係先など捜索

兵庫県の斎藤元彦知事が再選された昨年 11 月の知事選を巡り、斎藤知事と兵庫県西宮市の PR 会社が公職選挙法違反容疑で告発されていた問題で、神戸地検と県警は 7 日、PR 会社「メルチュ(兵庫県西宮市)」の関係先などの家宅捜索を始めた。 捜査関係者への取材でわかった。 地検と県警は資料を押収して、違法性がなかったかなどについて慎重に判断する。

告発状によると、斎藤知事側がメルチュの社長に支払った 71 万 5 千円が、SNSなどの「戦略的広報業務」などの選挙運動に対する報酬だった疑いがあるとしている。 公選法では、候補者が当選を得るなどの目的で選挙運動者に金銭を渡したり(買収)、それを受け取ったりする行為(被買収)を原則、禁じている。 昨年 12 月に元東京地検検事の郷原信郎弁護士と神戸学院大の上脇博之教授が告発していた。

知事選をめぐっては、メルチュの社長が選挙後に投稿サイト「note」に「(知事選の)広報全般を任せていただいた」などと投稿し、違法性の可能性が SNS などで相次ぎ指摘された。 斎藤知事はこれまでの会見などで、会社側に支払った 71 万 5 千円は、選挙運動への対価ではなく、公選法で認められたポスター制作など 5 項目への対価だったとして、違法性を否定している。 SNS による選挙運動をめぐっては、今年 1 月に神戸市議が自身のユーチューブのアカウントで動画を投稿し、斎藤知事側の広報担当者から告示前に「PR 会社にお願いする形になった」とのメッセージを LINE で受け取ったことも明らかにしている。

郷原弁護士「捜査当局はしっかり分析を」

兵庫県の斎藤元彦知事が再選された昨年 11 月の知事選をめぐり、斎藤知事と兵庫県西宮市の PR 会社社長を公職選挙法違反(買収、被買収)容疑で告発した元検事の郷原信郎弁護士は取材に対し、「知事選で PR 会社がどんな戦略で、実際に何をやったのかについての証拠を収集するために捜索に踏み切ったのではないか」と分析する。 取材は、神戸地検と県警が 7 日、PR 会社の関係先などの家宅捜索を始めたことを受けたもの。 郷原氏はさらに、「捜索で新たな事実が出てくるかもしれない」と指摘。 「捜査当局は押収資料をしっかり分析してほしい」と話した。

斎藤知事の代理人弁護士「答えられない」

一方、斎藤知事の代理人を務める奥見司弁護士は取材に「捜査に関することは答えられない」と話した。 朝日新聞は PR 会社社長が投稿サイト「note」に知事選の経緯を掲載した昨年 11 月中旬以降、社長らにたびたび取材を申し込んできた。 PR 会社は当初、取材に応じる意向を示していたが、SNS 上で公選法違反疑惑の指摘が相次いだ 11 月下旬、「取材は一律にお断りする」と回答。 疑惑について尋ねると、「弁護士とともに回答を打ち合わせしている」としたが、その後、連絡は途絶えた。 (asahi = 2-7-25)

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兵庫百条委が調査報告書素案を提示 疑惑の事実認定や評価は今後協議

兵庫県の斎藤元彦知事らのパワハラ疑惑などを内部告発した文書の真偽を調べる県議会の調査特別委員会(百条委員会)が 27 日開かれ、調査報告書の構成を示す素案が提示された。 今後は、認められる事実や評価について委員会としての判断を盛り込むために協議したうえで報告書を完成させ、2 月定例会での提出をめざす。

素案では、告発文書で指摘された斎藤知事のパワハラやプロ野球優勝パレードの寄付金を巡る補助金還流などの「七つの疑惑」と、告発者を特定するなどした公益通報者保護に関する項目について、斎藤知事や県幹部、職員らの証言を分類してまとめた。 この素案をもとに各会派や百条委が協議する予定で、告発文書が指摘した疑惑の問題点や違法性をどこまで認定できるかが今後の焦点となる。 (谷辺晃子、asahi = 1-27-25)

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兵庫百条委、知事らの疑惑などで事実認定協議へ 証言整理ほぼ終える

兵庫県の斎藤元彦知事らを内部告発した文書を調べる県議会調査特別委員会(百条委員会)が、県議会 2 月定例会への提出を目指している調査報告書について、斎藤知事ら関係者の証言の整理をほぼ終えた。 今後は 27 日に開かれる百条委で示される試案をもとに事実認定や評価について協議する。 23 日、百条委の奥谷謙一委員長が報道陣の取材に明らかにした。

百条委は昨年 6 月に設置され、告発文書にあった斎藤知事のパワハラ疑惑などを調査してきた。 奥谷氏は「証言の整理はおおむねできた」と話した。 そして「知事が『記憶がない』『言った覚えがない』ということを委員会としてどのように考えていくのか。 まず事実認定をして、どのような評価ができるのか協議を重ねる」とした。

さらに秘密会での証言など「公開に適さないものもある」として、百条委とは別に「非公開で議論できる協議会などを設置して、円滑に報告書をとりまとめるための方法を考えていきたい」と話した。 そのうえで、22 日に一部の報道機関が報告書で「斎藤知事のパワハラと認定する方向で調整している」と報じたことに対し、奥谷氏は「パワハラ認定するかどうかとかそういった協議をこれから始める」と否定した。 (添田樹紀、asahi = 1-23-25)

前 報 (11-17-24)


京都市の宿泊税、最大 1 万円に引き上げ方針発表 税収倍増、使い道は

京都市の松井孝治市長は 14 日の定例記者会見で、市が 200 - 1 千円を徴収している宿泊税について、最大 1 万円に引き上げる方針を明らかにした。 条例改正案を 2 月市議会に提出し、2026 年 3 月以降の実施を目指す。 今後は税の使い道が焦点となる。 京都市は現在、1 人 1 泊 2 万円未満は 200 円、2 万円以上 5 万円未満は 500 円、5 万円以上は 1 千円の宿泊税を徴収している。 改正案では 5 段階に細分化し、6 千円未満は 200 円、6 千円以上 2 万円未満は 400 円、2 万円以上 5 万円未満は 1 千円、5 万円以上 10 万円未満は 4 千円、10 万円以上は 1 万円とする。

高価格帯の宿泊施設の開業が相次ぐなか、宿泊客の担税力に見合った税を課すべきだとの考え方から、区分は増やして上限を大幅に引き上げたという。 市によると、今年度の税収見込み額をベースにした試算では、区分ごとの宿泊数は、1 泊 6 千円以上 2 万円未満の区分が 80% を占める。 6 千円未満は 14%、2 万円以上 5 万円未満は 5%、5 万円以上 10 万円未満は 1%、10 万円以上は 0.5% だ。 税収も 6 千円以上 2 万円未満が 65% で最多を占めるという。 全体の税収は約 126 億円と、23 年度の約 52 億円に比べて倍以上に増える見込みだ。

引き上げの狙いは、観光客の増加で市民生活に影響が出ていることへの対策費用を宿泊客にも負担してもらうことだ。 市は宿泊税の使い道として、周遊観光の推進や市バスの市民優先価格の実現などを想定している。橋の整備などにも用途を広げる方針だ。 宿泊施設からは不安の声もある。市内の各宿泊業界団体は有識者会議に対し「旅行先としての『京都離れ』につながる恐れがある」、「日帰り観光客も含めた観光税の検討があるべきところ、安易に宿泊者から徴収する宿泊税の増税が検討されているように見受けられる」などとする意見書を提出していた。

左京区で 1 人 1 泊 3 千円 - 4 千円程度のゲストハウスを営むルバキュエール裕紀さん (47) は「低価格の宿の宿泊税は据え置きでほっとしている」としつつ、「2 人部屋を 1 人で貸し切るケースでは宿泊税が上がることが想定され、徴収に手間がかかりそうだ」と話した。 高級老舗旅館「要庵西富家(京都市中京区)の西田和雄社長は「負担は増えるが、スイートルームに泊まるお客さんは気にしないのでは」と話す。 ただ、現状では宿泊税を何に使っているのか分からないとして、「わかりやすく示してもらいたい」と要望した。

市は宿泊業者に対し、宿泊税のキャッシュレス支払いへの対応などを支援するための特別徴収事務補助金の補助率を 3% に引き上げるなどの支援を実施するという。 松井市長は「宿泊客や関係者のみなさまにはご負担をお願いするが、京都の魅力を向上させることは、観光客のみなさまにもプラスになる。 ご理解をいただきたい。」と話した。

オーバーツーリズム対策に詳しい九州大アジア・オセアニア研究教育機構の田中俊徳准教授(環境政策論)は、「オーバーツーリズムに対して喫緊の対策が求められるが、一般財源に限りがある以上、対策費用を宿泊税に求めることは大いに理解できる」と評価する。 税収は観光地の PR のような観光振興ではなく、「文化財や良好な街並みの保全、自然環境の保護、渋滞などによって迷惑を被っている住民への還元などに用いられるべきだ」としている。

京都橘大の阪本崇副学長(文化経済学・財政学)は「宿泊税は市民からしたら懐が痛まない税で引き上げの意義はある」と話す。 その上で、オーバーツーリズムによって市民は路線バスに乗れないといった課題に直面していると指摘。 税収は「公共交通政策など観光客も市民も快適になるサービスにもっと使うべきだ」と語っている。 (武井風花、西崎啓太朗、asahi = 1-14-25)


高齢化率約 4 割の街を救うオンデマンドバス 無料スキーム確立なるか

堺市南区を中心に広がる泉北ニュータウン。 その端に位置する御池台の団地前に止まったミニバンに、女性 (76) が乗り込んできた。 「これから趣味のお稽古に通うんですが、買い物にも利用しています。」 目や耳が衰えた 4 歳上の夫は車の運転免許を返納し、マイカーはない。 徒歩 5 分のバス停まで息切れすることもある。 まとまった買い物をするにはバスと電車を乗り継がなければならない。 地区のスーパーが閉店したためだ。 だが、このミニバンなら自宅から目的地まで直行してくれる。 2022 年 7 月から御池台で運行されているオンデマンドバス「DOKOBUS (ドコバス)」だ。 「将来にわたる命綱です」と女性は言う。

病院、スーパー、レストラン、カラオケ喫茶、スポーツジムなど、御池台の中心部から車で 20 分の圏内であれば、どこでも目的地になる。 利用できるのは、御池台の自治会員のうち、65 歳以上の人と妊婦。 高齢者に付き添う家族も乗車できる。 昨年 11 月までに延べ約 3 万件の利用があり、最寄りのバス停まで歩くのが困難な住民が目立つ。

「きょうはスーパーまでたどりつけないかも」

泉北ニュータウンは高度成長期の住宅需要に応えるため、1967 年のまちびらき以降、丘陵地を造成してきた。 92 年には人口が約 16 万 5 千人に達したが、昨年 11 月は約 11 万人。 子育て世代のベッドタウンは、32 年間で人口が 3 分の 2 に縮み、高齢化率 37.6% の街になった。 「高齢者にとって長く続く坂道はつらく、外出も敬遠しがちになる。 この街の課題は明確だ。」 そう考えた南区選出の市議、吉川敏文さん (67) は御池台でオンデマンドバスの青写真を描いた。

「すべての人々に移動の自由を」と掲げ、堺市の隣の大阪府和泉市で自動車販売のコンサルタント業をしている篠藤美樹さん (51) は、こんな悔いが残っている。 「一人暮らしの母が認知症を発症して、ますます家にこもるようになり、症状が進行してしまったのではないか。 もっと車でお出かけに連れていってあげれば …。」 篠藤さんは車を運転中、歩道のフェンスにつかまりながら苦しそうに杖をついて歩く高齢の男性を見かけた。心配になって引き返すと、フェンスは途切れ、男性は途方に暮れていた。 行き先を尋ねると、「きょうはスーパーまでたどり着けないかも」と答えた。

買い物や通院の「交通弱者」がどんどん増える。 吉川さんと篠藤さんの思いは合致し、自治会も目的地を把握するため会員にアンケートを取り、準備段階から協力。 篠藤さんの会社が 2 台のミニバンを用意して DOKOBUS の実証実験を始めた。

「無料のスキームを確立したい」

東京大学の研究チームと東京の企業が共同開発した予約システム「コンビニクル」を導入。 利用者がスマホのアプリで時間と乗降場所の情報を送ると、コンピューターがグーグルマップの情報をもとに効率的な運行ルートを組み立て、車両に送信。 時間通りに利用者を目的地に運ぶことを可能にする。 高齢者の外出機会を増やすためにも、無料にしている。 では、運転手の報酬やガソリン代、車両の維持費といった経費をどう捻出しているのか。

広告料でまかなう計画で、企業や団体のロゴマークを印刷したステッカーを車体に貼っている。 地元でパーキンソン病や末期のがん患者が入居するシェアハウスを営む梶原崇志さん (41) は「外出したいという入居者のニーズに応えていただいているので、協力したかった」と、昨年 12 月から広告を出している。 だが、広告主は御池台の自治会と企業 3 社を数えるのみで、広告収入は年間で百数十万円。 運行経費の10分の1にとどまり、篠藤さんの本業が支えだ。

吉川さんは「運行エリアと利用者の範囲が極めて限られているため、企業広告が集まりにくいのが現状だ」と話す。 それでも「DOKOBUS の運賃無料のスキームを御池台で確立し、他の地域にも広げたい(篠藤さん)」と、実証実験を続けている。 今後、公的機関の支援を受けやすい NPO 法人やクラウドファンディングによる資金集めなどを模索するという。 (辻岡大助、asahi = 1-13-25)

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路線バス廃止は大阪の郊外でも 「お金では解決できない」その事情

市内から路線バスがほぼなくなる。 過疎地ではなく、大阪府内の郊外でもそんな事態に見舞われている。 京阪電鉄や JR が走り、大阪市中心部まで 20 - 30 分の交野市で 2025 年 3 月、京阪バスが路線の大部分を廃止する。 廃止されるのは京阪電鉄や JR の駅と市南部のニュータウンを結ぶ「交野南部線」を含む四つの路線だ。 残るのは寝屋川などとつながる一部の路線や京都市などとの急行バスだけになる。 「困るね、どうしようか。」 市内の高台にあるニュータウン、星田山手に住む女性 (75) は民生委員の活動の中でよくそんな声を聞いた。

市によると、南部の星田山手や妙見東、南星台といった山側のニュータウンは 1970 年ごろに開発された。 住民の多くは元サラリーマン家庭で、いま 70 代から 80 代に差し掛かる。 女性の話では、住民の多くは買い物や通勤に自家用車を使ってきたという。 ただ、現在は様相が異なる。 加齢で運転免許を返納した人や、運転を控える人が増えた。 街まで歩いていくには厳しい坂道もある。 女性は路線バスの廃止に不安を募らせる。 自身はかつて、自転車でニュータウンと市街地を往復することが多かった。 「若いときはよかったかもしれない。 でも、みんな『その時』になって初めて困ったとなってしまう。」

「交渉できる次元ではない」

京阪バスが廃止に踏み込んだのは、「そもそも運転手を確保できない」というのが理由だ。 国の残業時間規制のほか、「運転手が出て行くばかりで、新規採用がうまくいかない。(担当者)」 2016 度末時点で 990 人いた運転手は、24 度末には 829 人まで減る。 新規採用も苦戦し、運転手の平均年齢はこの 8 年間で 47.7 歳から 52.3 歳に上昇するという。

交野市都市まちづくり部の林直希次長は、24 年 8 月に京阪バスから通告を受けた際、「交渉で何とか存続できる次元ではない」と悟ったという。 廃止の話は 17 年にも持ち上がったが、行政側の働きかけや減便、コロナ禍での支援で存続してきた。 ところが今回は採算に加え、物理的に運転手を確保できない状況。 林次長も「(行政側が)お金を出せば解決する話ではなくなってしまった」と話す。 京阪バスは 25 年春、大阪府内の枚方市や守口市、門真市のほか、京都府八幡市の一部路線も廃止する。 阪急バスも 24 年 9 月で大阪府に接する京都府大山崎町で路線の大部分を廃止した。

自治体が赤字補っても「無理」

人手不足の深刻さを象徴する撤退は、大阪府寝屋川市でも起きている。 寝屋川市は京阪バスと協議し、採算が厳しい一部路線で負担金を支払うことを決めていた。 運賃収入で賄えない赤字を市が穴埋めし、バスの存続を図るという取り組みだ。 ところが、京阪バスは「人手不足」を理由に今春に撤退。 市は国の「自家用有償旅客運送」の制度に手を挙げた。 「交通空白地」として認められると、市町村や NPO 法人などが有償の旅客運送を提供できる。 市はワンボックスカーを買い上げ、運行を民間業者に業務委託した。 運転するのはタクシー運転手らだ。

交野市も同じ制度を使って、京阪バスが撤退するバス路線を維持するが、運行の担い手が寝屋川市とは異なる。 路線バスの運転手は本来、「大型二種運転免許」が必要だが、この制度では通常の「一種運転免許」でも条件付きで客を乗せて運転できるため、運転手を確保しやすくなる。 交野市は、二種免許が不要な送迎バスを運行する府外の事業者に業務委託する予定だ。 それでも、山本景市長は「将来的には(一種免許保有者の)元消防職員やごみ収集の職員に運転してもらうことも否定できない」と話す。 一種免許保有者でも全国的な取り合いが生まれると予想しているからだ。

公共交通に詳しく、交野市の公共交通の関係者会議で副会長を務める龍谷大の井上学教授は「コロナ禍と残業時間規制で打撃を受ける中、団塊ジュニア世代の定年退職で運転手の数は大きく減る。大都市周辺では遅かれ早かれ交野市と同様の問題が起きるだろう」といい、「自治体はまず路線バスの利用状況を可視化し、将来的にたたまざるを得ないであろう路線を把握する。 前もって代替手段の確保に着手すべきだ。 自治体が運転手を雇用、育成していくことも考えられる」と指摘する。 (村井隼人、asahi = 1-12-25)


京の舞妓さんにもパブリシティー権 撮影され商品に … 対価求める動き

芸舞妓(げいまいこ)の画像が無断で商用利用されないように、経済的な利益や価値を守ろう - -。 そんな動きが京都の花街で出ているという。 11 月 29 日、京都市であった撮影会を訪れた。 白塗りの化粧に日本髪、季節の花をモチーフにした花簪(かんざし)、歩くたびに揺れるだらりの帯。 「おたのもうします。」 4 人の舞妓が登場すると一気に場が華やいだ。

東山区の今熊野観音寺で開かれた「祇園の舞妓はん撮影会」。 事前に申し込んで集まった総勢約 120 人のカメラマンに、主催者の小杉豊和・全日本写真連盟関西本部事務局長が声をかけた。 「舞妓さんにはパブリシティー権があります。 くれぐれも商用利用はお控えください。」 撮影会は有料で、全日写連の会員は 5,000 円(非会員は 11,500 円)。 カメラマンに紛れ、スマホで撮影しようとする人には、主催者側が「有料の撮影会です」と呼びかけ、外国人観光客には両手を大きくクロスさせ「撮影 NG」を伝えた。

京都の花街でなじみのなかった「パブリシティー権」。 容姿や名前などがもつ、人気や名声によって生じる経済的利益を保護する権利だ。 この言葉が、花街で話題になったきっかけのひとつが、JR 京都駅の新幹線ホームに掲げられた大きな看板広告だった。  京都市に本社がある「創味食品」の広告で、同社は 2018 年から祇園甲部の芸舞妓をモデルにしてきた。 この看板を見た花街の客から「(看板広告の)対価はもらっているの?」と聞かれたお茶屋の女将(おかみ)が、パブリシティー権の存在を初めて知った。

街中を見渡すと、権利の侵害が疑われるケースが多いことが分かった。 ある土産物店では、何十年も前の舞妓の写真の絵はがきが売られていた。 これまで芸舞妓をモデルにした有志の撮影会や映画、CM の撮影では、日当にあたる「お花代」と心付けにあたる「ご祝儀」は支払われていた。 ただ、できあがった作品への報酬はなかった。 京都花街組合連合会の杉浦京子会長は「ご贔屓(ひいき)さんとのつきあいで成り立つ花街。 俗世界の秩序を持ち込んで良いものかという空気もあった」と振り返る。

「芸舞妓は、きれいな着物を着たモデルではなく、和文化の体現者そのもの。 今後のなり手のことも考え、芸舞妓の経済的利益と社会的地位を保障することが、花街文化を守ることになる。」 そんな問題意識で、京都の五つの花街「五花街(ごかがい)」の組合長たちが、2023 年春から半年以上かけて基準を話し合った。 その結果、撮影前に収録物の利用方法、公表時期と期間、範囲などを書く申請書を提出してもらうことになった。

商用利用の場合は別途「利用許諾契約書」を取り交わすことも決まった。 京都駅に看板広告を出す創味食品も、24 年 2 月に契約書を締結した際、23 年 11 月までさかのぼって契約した。 これまで支払っていたお花代などに加え、契約書に基づいて対価を支払うという。 山田佑樹社長は「時代の流れで伝統文化のルールが少しずつ変わっていく中、花街からパブリシティー権について要望を受けた。 京都に本社をおく当社としては、それに対応していくことが伝統文化を守ることになると考えている.。」と話す。

撮影依頼の窓口となる五花街のお茶屋にも周知するため、芸舞妓の権利を守るための対策をまとめた資料を配布した。 祇園甲部でお茶屋「井政」を営む角田幸子さんは、近年、花街と付き合いのない人が無断で写真を撮る機会が増えていることに不安を覚えていたという。 「どうすればいいのか分からなかったけど、対策案ができたことで、花街から注意できるようになったので良かった。 京都発の取り組みですが、全国の花街にも広がっていったらと思う。」と話す。

近年は SNS 上であっという間に画像などが拡散する例にも頭を悩ませている。 芸舞妓が普段着で歩く姿を隠し撮りに近い形で投稿するなど、看過できない例もあり、花街には、今回の動きが一定の抑止力になればという期待も広がる。 知財に詳しい「弁護士知財ネット」の元理事長の小松陽一郎弁護士は「最高裁でも認められているパブリシティー権や肖像権を、芸舞妓の権利として保護することは、当たり前の習慣として根付いていくべきだ」と話す。

被写体の承諾なく SNS に投稿する行為については、「SNS にアップしている当人は文化を発信しているつもりでも、やっていることは法律違反。 芸舞妓を保護するために目を光らせておくことは極めて重要な一歩だ。」としている。 (佐藤慈子、asahi = 1-12-25)

パブリシティ権とは

パブリシティ権 : 肖像や氏名(芸名)などから得られる経済的利益を保護する権利。 「あの人が言うなら欲しい」といった印象を与える「顧客吸引力」を使い、その恩恵だけを無断で受け取り、対価が支払われない場合は権利の侵害になる。 対象は著名人と限らない。 法律では明文化されていないが、2012 年に初めて最高裁判決の判例で明言された。 報道や伝記などはパブリシティ権の侵害にはあたらないと考えられている。