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中国、19 年秋からコロナ感染拡大か 分析相次ぐ

新型コロナウイルスの感染拡大は 2019 年秋には中国で始まっていたと指摘する分析が相次いでいる。 ウイルスの全遺伝情報(ゲノム)に基づき、英国など複数のチームが報告した。 中国武漢市で最初の患者が確認される前に、人から人への継続的な感染が起きていたことになる。 中国のどこでどのように発生したのかは手がかりがなく、謎は深まっている。

新型コロナはコウモリが起源だとほぼ特定されている。 人に直接うつったのか、別の動物を経由して感染するようになったのかは定かではない。 武漢市によると、最初に患者が確認されたのは 19 年 12 月 8 日。 最初の発生が中国ということに研究者からの異論は少ないが、これが感染者第 1 号なのかは不明だ。 発生の時期と場所を絞り込もうと、世界中で新型コロナのゲノム解析が進む。 ウイルスは感染した細胞で自らを複製する。 その際に一定の割合で遺伝情報にわずかな変化が起き、受け継がれる。 各地で見つかるウイルスのゲノムに残る変化などを手掛かりにすれば、初めて人に感染した時期や広まり方が分かる。

英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン (UCL) などは、19 年 10 月 6 日 - 12 月 11 日に中国で人への感染が始まったと推定した。 米中欧などの患者 7,500 人超から採取したウイルスのゲノムから割り出した。 新型コロナが早い時期から各国に入り、流行の引き金をひいたとみている。 英ケンブリッジ大学なども約 1,000 人から採取したウイルスのゲノムから、19 年 9 月中旬 - 12 月初旬に人への感染拡大が始まったと分析した。 ただ「発生源は武漢市ではない可能性がある」と同大のピーター・フォースター博士は指摘する。 新型コロナは中国でまず発生したとみられるが、1 月中旬までは武漢市よりも広東省など中国国内の別の地域で多く見つかったという。

ゲノム解析以外の方法でも流行の分析が進む。 米ハーバード大学などは衛星画像をもとに、武漢の病院の駐車場の利用率が 19 年 8 月に大幅に上昇したと指摘した。 専門家から分析不足とも指摘されるが、新型コロナの流行と関連する可能性があるという。 欧米への感染拡大も早くに起きたとする見方がある。 米疾病対策センター (CDC) は 20 年 1 月中旬 - 2 月上旬に米国内で拡大が始まった可能性を報告書で指摘した。 フランスでは、19 年 12 月下旬にインフルエンザに似た症状で入院した 40 代男性の検体を 4 月に調べたところ、新型コロナへの感染が分かった。 当時、原因不明の肺炎患者が急増したとの報告はない。

中国当局は当初、発生源を武漢市の市場と発表したが、その後取り消した。 世界保健機関 (WHO) はこの市場が発生源なのか、集団感染が広がった場所なのかは分からないとし、国際協力による調査団派遣を検討している。 突き止めるには中国政府の協力が必要だ。 (スレヴィン大浜華、nikkei = 6-20-20)


新型コロナ、全国初のワクチン治験を開始へ 大阪大など

大阪府は 17 日、大阪大学や大阪市などと研究を進めていた新型コロナウイルスの予防ワクチンについて、30 日から医療従事者を対象に治験を始めると発表した。 府によると、新型コロナのワクチンの治験は国内初になるという。 研究は 4 月に連携協定を結んで始めた。 30 日から市立大病院の医療従事者 20 - 30 人を対象に治験を行う。 安全性が確認できれば、年内に 20 万人分のワクチンを製造することを見込んでいる。 大阪府の吉村洋文知事は 17 日の記者会見で「スピード感を持って進められている」と期待を寄せた。 (asahi = 6-17-20)

◇ ◇ ◇

コロナワクチン、鍵は「ガの幼虫細胞」 阪大で開発進む

大阪大学などの研究チームが、新型コロナウイルスに対するワクチン 3 種類の開発を急ピッチで進めている。 昆虫の細胞を利用して、効率よくワクチンの材料をつくる方法などを活用しながら、早期実用化をめざす。 大阪大学微生物病研究所(大阪府吹田市)の実験室を記者が訪ね、「VLP ワクチン」開発の様子を見せてもらった。 顕微鏡につないだパソコン画面に現れたのは、ワクチン開発のため、容器で培養している丸い細胞。 ヒトではなく昆虫、ガの幼虫の卵巣由来の細胞だ。

なぜ、ガの細胞なのか。昆虫の細胞に感染する「バキュロウイルス」をワクチン作りに利用するためだ。 この方法は、ワクチン作りに新型コロナウイルスそのものが必要なく、効率よくワクチン材料を増やせる利点がある。 危険な病原体を扱うため二重ドア入り口などを備えた「バイオセーフティーレベル (BSL) 3」の厳重な設備は必要なく、ウイルスを増やさなくてよいため、開発期間も短縮できる。

ワクチン開発を進める阪大の松浦善治教授は、バキュロウイルスに、ほかのウイルスの遺伝子を組み込む方法を 30 年以上前に開発した。 今回は、バキュロウイルスに新型コロナウイルスの遺伝子の一部を組み込んだ。 バキュロウイルスは感染した細胞を乗っ取り、ウイルスのたんぱく質を、とても効率よく作らせて、自分のコピーを増やす性質がある。

ワクチン開発へのステップは

この性質を利用して、新型コロナウイルスの殻と「スパイク」と呼ばれるたんぱく質を作らせてワクチンの材料にする。 見かけが新型コロナウイルスにそっくりな「ウイルス様粒子 (VLP)」をつくり、ワクチンにする戦略だ。 VLP を体内に入れれば、体を外敵から守る免疫反応で、ウイルスを無力化する「抗体」ができることが期待される。 VLP はウイルスと違って増えないので、安全に免疫をつけることができるというしくみだ。 VLP ワクチンは、インフルエンザや子宮頸がんのワクチンとして実用化されている。

VLP が完成したら、まずマウスに注射し、抗体ができるかどうかを調べる。 さらにサルの実験で安全性や効果を確認し、最終的にヒトで有効性を確かめる。 スパイクたんぱく質は、ウイルスが細胞に侵入する際に使うものだ。 スパイクを無力化する抗体ができれば、感染を予防する効果は高いと期待される。 松浦さんらは早期の実用化をめざすため、医薬基盤・健康・栄養研究所やワクチンメーカーの阪大微生物病研究会(大阪府吹田市)と共同で研究を進めている。 同研究会は阪大発ベンチャーで約 85 年の歴史があり、大学とともにワクチンを作った実績がある。

別に「DNA ワクチン」の開発も

松浦さんは「この協力体制で一つの方法だけでなく、複数の方法を試していく」と話す。 阪大では、製薬企業アンジェスと共同で、ウイルスの遺伝子を体内に入れる「DNA ワクチン」の開発も進めている。 ヒト用の DNA ワクチンはこれまで実用化の実績がない新型ワクチンだが、VLP より単純なしくみで早く開発できる可能性がある。 また、感染力をなくしたウイルスの一部を体内に入れる、従来型の「不活化ワクチン」も研究している。

小林剛教授らは、BSL3 の実験室で新型コロナウイルスをサルの細胞に感染させて培養。 ウイルスの性質を調べたり、ウイルスが感染しなくなるよう不活化する方法を研究している。 ウイルスを培養しているうちに毒性が弱くなれば、毒性を弱めたウイルスを体内に入れる「生ワクチン」の候補ができる可能性もある。 開発のノウハウは、別の新しいウイルスが出現した時にも役立つ可能性がある。

すでに中国のバイオ企業が、新型コロナウイルスの不活化ワクチンを開発し、サルで効果を確認したと発表した。 小林さんは「ワクチンの安全性や効果の検証は慎重に進めていく必要があり、時間がかかるが、確実に進めたい」と話す。 (瀬川茂子)

世界で進む臨床研究

世界保健機関 (WHO) によると、新型コロナウイルスのワクチンは 130 種類を超す研究が進み、10 種類がヒトで安全性や効果を調べる臨床研究に入っている。 日本ではまだ臨床研究は始まっていない。 トランプ米大統領はワクチン開発を加速させるため、「ワープ・スピード作戦」と名付けた計画を始め、約 1 兆 700 億円をつぎこみ、有望な候補を 5、6 種類に絞り込んで大規模試験を始める予定だ。 ワクチンを開発した国は、自国で優先的に使うと予想され、国内の開発が急がれている。

阪大だけでなく東京大など複数の大学や企業が開発に乗り出している。 国も 2020 年度補正予算案にワクチン開発や生産ライン整備支援なども含め約 2 千億円を盛り込んだ。 実用化は緊急の課題ではあるものの、通常 10 年かかるとされる開発をどこまで短縮できるかは未知数だ。 動物実験で効果を確認するまでは比較的早くできる可能性があるが、ヒトの試験には通常、年単位の時間がかかる。 少人数から始めて段階的に拡大し、数千人規模の試験で有効性と安全性を確認することが必要になる。 ワクチンは大勢の健康な人が使う。 メリットとデメリットは慎重に見極めていかなくてはならない。 (asahi = 6-3-20)


新型コロナウイルス治療に「画期的発見」 ステロイド剤が重症患者に効果

安価で手に入りやすいステロイド系抗炎症剤「デキサメタゾン」が、新型コロナウイルスで重症になる人の命を救うかもしれない。 英オックスフォード大学の研究チームによると、低用量のデキサメタゾンは新型ウイルスとの戦いで画期的な突破口になる。 新型コロナウイルスに対し、様々な既存の治療法の効果を試す世界的規模の臨床試験の一貫として、デキサメタゾンが試された。 その結果、人工呼吸器を必要とする重症患者の致死率が 3 割下がり、酸素供給を必要とする患者の場合は 2 割下がった。

新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)の初期からイギリスでデキサメタゾンを治療に使用していた場合、最大 5,000 人の命が救えたはずだと研究者たちは言う。 さらに、新型コロナウイルスによる感染症「COVID-19」の患者が多く出ている貧しい国にとっても、安価なデキサメタゾンを使う治療は大いに役立つと期待される。

重症者の致死率が大幅に下がる

イギリス政府は 20 万人分の投与量を備蓄しており、国民医療制度の国民保健サービス (NHS) で患者への使用を開始する方針を示した。 ボリス・ジョンソン英首相は「イギリス科学界の素晴らしい成果」を歓迎し、「たとえ感染の第 2 波が来ても備蓄が足りるよう、数を確保するための措置をとった」と述べた。 イングランド首席医務官クリス・ウィッティー教授は、「COVID-19 にとってこれまでで一番重要な臨床試験結果だ。 手に入りやすく安全でなじみのある薬によって、酸素供給や人工呼吸器が必要な人の致死率が大幅に下がった。 (中略)この発見が世界中で人命を救う。」と評価した。

新型コロナウイルスに 20 人が感染した場合、19 人は入院しないまま回復する。 入院する人もほとんどは回復するものの、重症化して酸素供給や人工呼吸器を必要とする人もいる。 デキサメタゾンはこうした重症患者の治療に効果があるもよう。 新型ウイルスに感染した患者の体内では、ウイルスと戦う免疫系が暴走することがある。 その免疫系の過剰反応による体の損傷を、デキサメタゾンが緩和するものとみられる。 「サイトカイン・ストーム」と呼ばれる免疫系の過剰反応が、患者の命を奪うこともある。 デキサメタゾンはすでに抗炎症剤として、ぜんそくや皮膚炎など様々な症状の治療に使われている。

初めて致死率を下げる薬

オックスフォード大学が主導する臨床試験は、約 2,000 人の入院患者にデキサメタゾンを投与。 それ以外の 4,000 人以上の患者と容体を比較した。 人工呼吸器を使用する患者については、死亡リスクが 40% から 28% に下がった。 酸素供給する患者は、死亡リスクが 25% から 20% に下がった。 研究チームのピーター・ホービー教授は、「今のところ、致死率を実際に下げる結果が出たのは、この薬だけだ。 しかも、致死率をかなり下げる。 画期的な突破口だ。」と話した。 研究を主導するマーティン・ランドレイ教授によると、人工呼吸器を使う患者の 8 人に 1 人、ならびに酸素供給治療を受ける患者の 20 - 25 人に 1 人が、デキサメタゾンで救えることが分かったという。

「これはきわめて明確なメリットだ」と教授は言う。 「最大 10日間、デキサメタゾンを投与するという治療法で、費用は患者 1 人あたり 1 日約 5 ポンド(約 670 円)。 つまり、35 ポンド(約 4,700 円)で人ひとりの命が救える。」 「しかもこれは、世界中で手に入る薬だ。」 状況が許す限り、新型コロナウイルスで入院中の患者にはただちに投与を開始すべきだと、ランドレイ教授は促した。

ただし、自宅で自己治療するために薬局に買いに行くべきではないと言う。 デキサメタゾンは、呼吸補助を必要としない軽症の患者には効果がないもよう。 3 月に始動した新型コロナウイルス治療薬の無作為化臨床試験「リカバリー・トライアル」は、抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」も調べたものの、心臓疾患や致死率の悪化につながるという懸念から、ヒドロキシクロロキンについては試験を中止した。 一方で、感染者の回復にかかる時間を短縮するとみられるレムデシビルは、すでに NHS の保険対象になり治療現場で使われている。

<解説> ファーガス・ウォルシュ BBC 健康担当編集委員 : COVID-19 の死者を減らすと初めて立証された薬は、高価な新しい薬ではなく、古くからずっと使われてきた、きわめて安いステロイド剤だった。 世界中の患者が直ちにその恩恵を受けることになるので、これは歓迎すべき発見だ。 この臨床試験の最新成果がこれほど急いで発表されたのは、そのためだ。 とてつもない影響を世界中にもたらすので。 デキサメタゾンは1960 年代初めから、関節リウマチやぜんそくなど、幅広い症状の治療に使われてきた。

これまでは、人工呼吸器を必要とする COVID-19 患者の半数が亡くなってきた。 その致死率を 3 割減らすというのは、絶大な効果だ。 集中治療室では点滴で投与する。 もう少し軽症な患者には、錠剤で与える。 これまでのところ、COVID-19 患者に効果があると証明された薬は、エボラ治療薬のレムデシビルだけだった。 レムデシビルは症状の回復期間を 15 日から 11 日に短縮する。 しかし、致死率を下げると言えるだけの証拠は出ていなかった。 デキサメタゾンと異なり、レムデシビルは数の少ない新薬で、薬価もまだ公表されていない。 ((ミシェル・ロバーツ、BBC = 6-17-20)


コロナ重症患者に幹細胞 ロート製薬、国内初の治験計画

新型コロナウイルスの患者に「間葉系幹細胞」という細胞を使って治療しようとする臨床試験(治験)をロート製薬(大阪市)が計画している。 東京都内で 10 日にあった国会議員有志の会合で、計画の概要を明らかにした。 医薬品医療機器総合機構 (PMDA) に近く、計画を届け出る。 新型コロナで幹細胞を使った治験は国内で初めてという。 新型コロナの重症化は、免疫にかかわるたんぱく質が暴走し、細胞を傷つける「サイトカインストーム」が関係しているとされる。今回使う間葉系幹細胞は、過剰な免疫反応によって誤って自分の体が攻撃されてしまうことを抑える効果が期待されると、ロート製薬は説明している。

計画では、他人の脂肪組織からつくった細胞を使う。 対象は人工呼吸器を装着するなどした重症者。 週 1 回、1 億個の細胞を計 4 回静脈に点滴する。 大阪大病院に入院した患者を中心に 6 人で安全性や有効性を調べる。 この細胞は、新潟大病院で肝硬変の患者を対象にした治験ですでに使われており、安全性は確認されているとしている。 ロート製薬などによると、幹細胞を使った新型コロナの治験は、米国や中国でも 60 以上の計画があるという。 米国では、骨髄からつくった間葉系幹細胞を中等症や重症の患者 12 人に使ったところ、9 人が 10 日以内に人工呼吸器を外すことができたとする結果もあるという。 (市野塊、戸田政考、asahi = 6-11-20)


新型コロナは「血管の病気」体中を大暴れ 目立つ血栓症

世界で 600 万人以上の感染が確認されている新型コロナウイルス。 当初は「新型肺炎」とも呼ばれ、重症化した患者が肺炎を起こして亡くなる例が目立った。 だが最近の知見で、肺だけでなく、全身に症状が出ることがわかってきた。 その理由はどうやら、「血管の炎症」にあるらしい。 新型コロナウイルスの正式名称は「SARS-CoV-2」という。 重症急性呼吸器症候群 (SARS) を起こす、2 番目のコロナウイルスという意味だ。

新型コロナウイルスに感染しても多くの人は命に関わることはない。 中国での新型コロナウイルス患者の大規模疫学調査によると感染しても 8 割は、軽症か中程度で、入院が必要になるのは 2 割程度。 重篤になるのは 5% とされる。 米科学誌サイエンスによると、感染者のせきやくしゃみなどの飛沫に含まれるウイルスは、鼻やのどから体内に取り込まれる。 すると、細胞の表面にある「ACE2」という受容体にくっつき細胞に侵入する。

鼻の内側の細胞にはこの受容体が多い。 細胞を乗っ取ってどんどん増えていく中で、熱や空ぜき、味覚や嗅覚の消失が起きるとされる。 ウイルスが肺に到達すると深刻度は増す。 気管支の末端には、酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する肺胞がある。 この表面には ACE2 が多く、ウイルスがくっつきやすい。 ウイルスが侵入すると、免疫が攻撃するため肺胞が炎症を起こす。 感染した細胞が死ぬことで、その残骸や体液などが膿(うみ)となり、肺にたまって呼吸が難しくなる。 中国・武漢で当初「原因不明の肺炎」と報告されたのはこのためだ。 しかし、影響は肺だけにとどまらないことが、最近の報告でわかってきた。

腫れ上がる指

サイエンス誌は「脳からつま先まで、体中を大暴れ」と題する記事をまとめた。記事によると、脳や目の結膜の炎症、腎臓や肝臓の損傷、下痢などの症状も出るという。 また手足の指が血流不全を起こし、しもやけのように腫れ上がる症状も出ているという。 子どもではごくまれに、全身の血管に炎症が起きる川崎病に似た症状を起こすことも報告されている。 チューリヒ大学病院のフランク・ルチツカ医師は「新型コロナは肺が主戦場だが、これは血管の病気だ」と、サイエンティフィック・アメリカン誌にコメントしている。

免疫の暴走と血栓

臓器の炎症にかかわっているのが、「サイトカインストーム」と呼ばれる免疫の暴走だ。 サイトカインは細胞から分泌され、免疫や炎症を調節するたんぱく質で、他の細胞に命令を伝える。 ウイルスの侵入によって分泌されたサイトカインが増えすぎて嵐(ストーム)のように暴走すると、正常な細胞も攻撃してしまう。 これが、新型コロナ重症化の原因と指摘されている。 サイトカインストームが起こる状況では、正常な細胞を傷つける過程で血管が炎症するなど、血栓ができやすい。 また血栓は、ウイルスが直接、血管の細胞にある ACE2 にくっついて侵入し、作用することでもできると見られている。

最近注目されているのが、こうした現象により血栓ができ、血管が詰まり容体が悪化するリスクだ。 ドイツの研究チームが 5 月に米内科学会誌に発表した論文によると、新型コロナにより亡くなった 12 人の病理解剖を行ったところ 7 人に深部静脈血栓塞栓(そくせん)症があった。 4 人は肺塞栓症が直接の死因だった。 オランダの研究チームが 4 月に欧州専門誌に発表した論文では、ICU (集中治療室)に入院中の患者 184 人中、31% に血栓症が確認されたという。 研究チームは「31% というのはとても高い割合で、ICU 患者への血栓症予防策の必要性を強く示唆する結果だ」と指摘している。

危機感強める循環器病専門医ら

こうした報告を受け、厚生労働省は 5 月 18 日、医療従事者向けの「診療の手引き」を 2 カ月ぶりに改め、血栓症リスクに注意するよう盛り込んだ。 また、血液中に血栓ができているかどうかを判定する「D ダイマー」の数値が正常値を超えている場合、血液が固まるのを防ぐヘパリンなどを使った治療を勧めた。 日本血栓止血学会の広報委員長を務める森下英理子・金沢大教授は「海外では新型コロナ感染者の 2、3 割に血栓症が見られるという報告もある。 金沢大病院でも新型コロナ感染者で D ダイマーの値が急に高くなるような症例があり、ヘパリンを積極的に使っている。 国内での血栓症の発症状況については、いまだ不明な点が多い。」と話す。

同学会理事の浦野哲盟・浜松医大教授は「もともと血栓を生じやすいリスクのある人はいる。 たとえば肥満やがん患者、妊娠している人などだ。 こうした人たちに新型コロナの感染が加わるとリスクがどれくらい高まるかは、まだはっきりしていない。 血栓は脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞の原因にもなる。 それほど重症ではなかったのに、突然死したような場合は、血栓症が原因となっている可能性は否定できない。」と指摘する。

実際、脳卒中や循環器病を専門とする医師らは、危機感を強めている。 日本脳卒中学会でコロナ対策に取り組む平野照之・杏林大教授は「コロナによって脳梗塞を起こしたという事例はまだ国内で確認していない。 ただ、コロナ治療中に発症した脳梗塞に対しカテーテル治療をした患者で、治療中に別の血管に新たな血栓が生じたという報告も届いており、警戒している。」と話す。 日本循環器学会常務理事の野出孝一・佐賀大教授も「心筋梗塞の多くは、突然症状が表れ、突然死の原因になる。 日本ではコロナによる死亡者が少ないこともあり、コロナとの関係の解明はこれからの課題だが、心臓病の人は感染に気を付けてほしい。」と呼びかけている。 (服部尚、ワシントン = 香取啓介、asahi = 6-4-20)


コロナ予防ワクチン、来年 1 月の供給目指す … 塩野義

製薬大手の塩野義製薬は、開発中の新型コロナウイルスの予防ワクチンについて、医療従事者などを対象に、2021 年 1 月の供給開始を目指す方針を明らかにした。 臨床試験(治験)が順調に進むことが条件だ。 生産体制を拡充し、21 年秋頃には一般向けにも供給を始めたい考えだ。 手代木功社長が読売新聞の取材で明らかにした。 塩野義は、国立感染症研究所(東京都)などと連携し、昆虫細胞などを用いて抗原となるたんぱく質を作製する手法で、ワクチンの開発を進めている。 今年 7 月後半から試験用ワクチンの製造に着手し、年内に臨床試験を始める計画だ。 (yomiuri = 6-4-20)


唾液で PCR 検査可能に 発症 9 日まで対象、負担も軽減

新型コロナウイルスに感染したかどうかを調べる PCR 検査に、唾液(だえき)が使えるようになる。 厚生労働省が 2 日、認めた。 発症から 9 日までの人が対象で、公的医療保険も使える。 これまでの鼻の奥の粘液を採る方法に比べ、痛みがなく検査時の感染リスクも少ないため、患者だけでなく医療者の負担も軽くなる。 これまでは看護師ら医療者が鼻の奥の粘液を綿棒でぬぐっていたが、採る際にせきやくしゃみをされるなど感染する危険があった。 そのため、採取できる場所は感染対策ができている「帰国者・接触者外来」などに限られてきた。

唾液は自分で容器に入れるため危険が少なく、一般の病院や診療所でも PCR 検査が可能になる。 検査のための人材確保も負担が減る。 感染防護具も、鼻の奥の粘液ではフェースシールドや長袖ガウンが必要だったが、唾液では医療用マスクと手袋で済む。 厚労省の研究班が発症 14 日以内に採取された 88 症例の鼻の粘液と唾液を調べたところ、9 日以内の検体では、判定の結果がほぼ一致するなど精度に問題がないことがわかった。 研究結果を受けて国立感染症研究所の検体採取マニュアルなどが改訂された。 加藤勝信厚生労働相は「患者負担も感染防御の負担も大幅に軽減される」と期待感を示した。 (asahi = 6-2-20)


新型コロナ、糖尿病やがん患者の治療にも影響大 WHO

世界保健機関 (WHO) は 1 日、新型コロナウイルスの感染拡大は、糖尿病、循環器疾患など非感染性の病気の患者の治療に対し、悪い影響をもたらしていると指摘する報告書を発表した。 5 月中に世界 155 カ国の政府から得た回答を分析した。

調査によると、77% の国が、新型コロナの感染拡大で非感染性の病気の治療が影響を受けたと報告。 高血圧の治療に影響があったと回答した国が 53%、糖尿病が 49%、がんが 42%、循環器疾患が 31% あった。 影響は、@ 新型コロナ患者の受け入れで他の患者の受け入れを制限せざるを得なかった、A 健康診断が中断された、B ロックダウン(都市封鎖)で交通手段が停止された - - などだった。 また、イタリアは病院で亡くなった新型コロナ患者のうち、67% が高血圧、31% が 2 型糖尿病を患っていたと報告。 非感染性の疾患を持つ人が特に危険であることを改めて指摘した。

一方、58% の国で医師が通信手段を使って遠隔で診察するなどの対策をとっており、新型コロナが医療を変えたことも浮き彫りになった。 テドロス・アダノム WHO 事務局長は 1 日、「通院を少なくしながら、医療ケアを提供する新たな方法を調整・開発することが鍵となる」と述べた。 WHO は同日、新型コロナウイルスの感染予防に努めながら、不可欠な医療保健サービスを保つための指針を公表。 指針には、薬の処方を遠隔でできるようにするといった対処方法を盛り込んだ。 (ウィーン = 吉武祐、asahi = 6-2-20)


「次亜塩素酸水」現時点では有効性は確認されず NITE が公表

NITE (製品評価技術基盤機構)は、新型コロナウイルスの消毒目的で利用が広がっている「次亜塩素酸水」について、現時点では有効性は確認されていないとする中間結果を公表しました。 NITE では噴霧での使用は安全性について科学的な根拠が示されていないなどとして控えるよう呼びかけています。

NITE などはアルコール消毒液に代わる新型コロナウイルスの消毒方法の検証を進めていて、29 日「次亜塩素酸水」についての中間結果を公表しました。 検証では、2 つの研究機関で、▽ 酸性度や、▽ 塩素の濃度が異なる次亜塩素酸水が新型コロナウイルスの消毒に有効かどうかを試験しました。 その結果、一部にウイルスの感染力が弱まったとみられるデータもありましたが、十分な効果がみられないデータもあるなどばらつきが大きく有効性は確認できなかったということです。 今後、塩素濃度を高くした場合などについて検証を続けるということです。

また、NITE では、次亜塩素酸水は噴霧することで空間除菌ができるとして販売されるケースが少なくないことについて、▽ 人体への安全性を評価する科学的な方法が確立していないことや、▽ 国際的にも消毒液の噴霧は推奨されていないことなどを紹介する文書を合わせて公表しました。 NITE は「加湿器などで噴霧することやスプレーボトルなどで手や指、皮膚に使用することは安全性についての科学的な根拠が示されておらず控えてほしい」と呼びかけています。 (NHK = 5-29-20)

◇ ◇ ◇

新型コロナウイルスに対し 98% 以上の消毒効果を確認

大阪大学は 5 月 8 日、要時生成型二酸化塩素水溶液 (MA-T) が、新型コロナウイルスを 98% 以上消毒できることを実証したと発表した。 MA-T を含む水溶液が 1 分間接触すると、ウイルスへの高い阻害効果が確認された。 MA-T は、エースネットが開発した除菌、消臭剤システム。 亜塩素酸イオンを主成分とし、反応する菌やウイルスが存在する時のみ、有効成分である二酸化塩素を必要な量だけ水の中で生成する要時生成型二酸化塩素水溶液だ。

今回、新型コロナウイルスを含む各種ウイルスについて、MA-T を含む水溶液を 1 分間接触させた場合、有効に消毒できることを確認した。 消毒効果の詳細については、今後の実験で検証予定だ。 既にその消毒効果については、MA-T を 0.01% 含む水溶液が SARS コロナウイルスや MERS コロナウイルスにも有効であることが実証されており、日本のほぼ全ての航空機や多くのホテルで利用されている。

反応すべきウイルスや菌がなければ主成分の亜塩素酸イオンの水溶液として存在するため、安全性、安定性に優れた除菌、消毒剤と言える。 今後は、医療現場での二次感染防止、マスクや防護服の除菌対策としての使用が期待される。 (MONOist = 5-28-20)


コロナ、1 週間で感染リスクなし? 隔離 2 週間は必要か

新型コロナウイルスに感染して入院した場合、現状では、症状が落ち着いてから PCR 検査で 2 回続けて「陰性」と判定されないと退院できない。 自宅やホテルでの療養者や、患者の濃厚接触者は、原則 2 週間の待機が求められる。 しかし難治性血液疾患などを専門とする小島勢二・名古屋大名誉教授は、最新の知見では、発症から 1 週間経てば他人に感染させるリスクはほぼなくなるという。 本当なのか。 小島さんが解説した。

その答えは台湾の研究に

東京や大阪など 8 都道府県をのぞき、ようやく新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が解除されることになった。 一方で、第 2 波への備えの必要性が叫ばれている。 第 1 波で科学的根拠に基づく対応がとれなかったのも仕方ないが、第 2 波については、科学的根拠に基づいた対策を取る必要がある。

新型コロナウイルスの陽性者および濃厚接触者は、いつまで隔離すべきであろうか? 現在の基準では、隔離を解くには、陽性者は PCR 検査で 2 回続けて陰性が確認されることが必要だ。 自宅やホテルでの療養者も、検査で 2 回陰性が確認されるか、2 週間の隔離が求められる。 濃厚接触者も原則、患者に接触した時点から 2 週間の自宅待機を求められる。

最近、台湾からこの問いの答えになる 研究結果が報告 された。 台湾で、新型コロナウイルス感染の確定診断がついた 100 人に濃厚接触した 2,761 人について、濃厚接触者が最初に患者に接触した時期と、感染の有無との関係について調べた。 患者のうち 9 人は無症状であった。 濃厚接触者の内訳は、家族が 219 人、病院関係者が 697 人、その他が 1,755 人である。

二次感染、発症 6 日目以降はなし

2,761 人の濃厚接触者のうち、二次感染したのは 22 人 (0.7%) であった。 軽症患者よりも重症患者に接触した人の方が、感染するリスクが高かった。 無症状の患者に接触した 91 人のうち、二次感染をおこした人はいなかった。 二次感染した 22 人のうち、10 人は患者に症状が出る前の接触歴があり、9 人は症状が出た日から 3 日以内、3 人は 4 日目あるいは 5 日目だった。 すなわち、発熱やせきなどの症状が表れてから 6 日目以降に接触しても、感染することはなかったのだ。

無症状の患者に接触した人についても、PCR 検査が陽性となった日から数えて 6 日目以降になると感染者はいなかった。 二次感染者の半数には患者に症状が出る前に接触歴があったが、この時期に患者との接触を避けるのは不可能であろう。

PCR 検査でわかること、わからないこと

コロナ禍を機に、「PCR 検査」という単語がわが国で市民権を得ることになった。 しかし、PCR 検査には「定性検査」と「定量検査」があることはあまり知られていない。 ウイルスの DNA は目では見えないので、定性検査では、特殊な装置を使って目的とする DNA を増やす。 目で確認できれば陽性、確認できなければ陰性と判定する。 新型コロナウイルスの診断には、通常の PCR 法で十分である。

一方、どれくらいウイルスがいるか(定量)を測定できるリアルタイム PCR という方法もある。 PCR の 1 サイクルで目的とする DNA は 2 倍になるが、増やした DNA がある量に達するのに PCR を何サイクル回したかがわかれば、最初に存在する DNA の量を推定することができる。 ウイルスが感染した時に症状がでるには、一定以上のウイルス量が必要である。 新型コロナウイルスについても、海外からリアルタイム PCR 法でウイルスの量を測定した研究が数多く報告されている。 これらの研究によると、症状の発症前後が最も多量のウイルスが検出され、感染から1週間を境にウイルス量は急速に減少する。

台湾からの報告と合わせると、新型コロナウイルスが他人に感染するには一定のウイルス量が必要で、発症から 1 週間経てば、この値を下回ると想像される。 ウイルスの診断は、元来、綿棒でのどをぬぐってとった液体などからウイルスを分離して確認していた。 細胞を培養中のフラスコ内に、ウイルスが含まれていると思われる検体を加え、細胞が変化するのを顕微鏡で観察するのだ。 煩雑なので、簡便な PCR 法がとって代わったが、感染力がある生きたウイルスがいるかどうかは、この方法に頼らなければならない。

PCR 法では、感染力のない死んだウイルスも併せて検出されるので、感染する力があるかどうかは、ウイルスの分離培養の結果を待たなければならない。

ドイツでも 8 日目以降はウイルスなし

新型コロナウイルスについて、診断時から時間を追うごとに分離培養を行った ドイツからの報告 では、診断直後は高い確率でウイルスを分離することができたが、日を経るごとに減少し、発症から 8 日目以降では、検査した全員において分離することができなかった。 新型コロナウイルスの分離培養は、もっとも危険な病原体を扱える限られた研究所しかできない。 ウイルスの定量や分離培養の結果も、台湾から報告された研究と符合しており、これらの研究結果を総合すると、新型コロナウイルスは、症状が出てから 1 週間経てば、すでに感染力を失っていると考えられる。

この研究結果は、今後の新型コロナウイルスの感染対策に極めて重要な意味を持つ。 今回の知見をもとに、これまでのわが国における新型コロナ感染対策を顧みるとともに、今後の対策にこの結果をどう生かすかについて論じてみたい。

従来、保健所が窓口になっている帰国者・接触者相談センターでは、PCR 検査を受ける基準は、発熱などの症状が表れてから 4 日以上経過してからとされてきた。 加藤勝信厚生労働大臣が保健所や国民の誤解であったと発言して物議をかもしているが、実際、ほとんどの患者が、PCR 検査を受けるのは発症から 5 日目以降であったと思われる。 さらに、PCR 検査の結果が届いて陽性が判明し、隔離されるのは、多くは発症から 1 週間以上経過してからであった。 すなわち、最も感染リスクが高い時期には隔離されておらず、すでに感染のリスクがなくなってから厳重な隔離管理をされていたことになる。

台湾では、今回の結果をもとに、発症後 1 週間経過し、病状が悪化する恐れがなければ隔離する必要はないとして、自宅療養を勧めることになった。

海外の知見から言えること

わが国では、自宅待機中の患者の中に病状が急激に悪化して死亡した例が続いたため、自宅療養患者を減らす方針である。 しかし病状が悪化するリスクのある期間が過ぎても入院させるのが隔離の目的のみであれば、自宅での療養が推奨されてもよいかもしれない。 家族を含め周囲への感染リスクがないとなれば、発症後 1 週間経った患者の多くは自宅療養を希望すると考えられる。 新型コロナウイルス感染症で入院する患者の大部分は発症から 1 週間以上が経過していることから、患者に接触する医療従事者の感染防御も簡素化できるかもしれない。

折しも、5 月 13 日から新型コロナウイルス感染の診断に抗原検査が保険適用となった。 抗原検査は 30 分間で判定結果が出るので、今後は新型コロナウイルスの診断の際に、最初に使われるようになるであろう。 抗原検査は定性検査であるので、リアルタイム PCR 法を併用することで重症化や感染力の有無を予測できれば、コロナ患者に対して、より的確な対応が可能となるであろう。

今回の提案は、台湾を始め、海外の研究結果に基づいたものである。 この提案を確固たるエビデンスとして診療現場に導入するには、これまで紹介してきた研究結果について、わが国でも確認する必要がある。 残念ながらわが国からは、新型コロナウイルスの診療に有用な情報は、ほとんど発信されていない。 今回のコロナ禍にあっては、中国からは怒濤のように重要な研究結果が報告されている。

今回紹介した台湾からの報告は台湾疾病コントロールセンター (CDC) が主導した研究であるが、武漢での新型コロナウイルス感染の流行を知り、直ちに研究計画が立てられたようだ。 台湾で最初の新型コロナ感染の患者が確認されたのは 1 月 21 日であるが、この研究は 1 月 15 日から始まっている。 今回のコロナ禍に対する台湾 CDC の対応が世界で高く評価されている一端をみる思いがした。 (構成・岡崎明子、asahi = 5-17-20)

小島勢二(こじま・せいじ) : 名古屋大学名誉教授・名古屋小児がん基金理事長。 1976 年、名古屋大学医学部卒。 専門は血液腫瘍学。 小児がんや難治性血液病の新しい治療法の開発に携わる。

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