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イオン駐在員、武漢で苦闘中 「暮らし守りたい」配送も

中国湖北省武漢市を中心に続く新型コロナウイルスの感染拡大を受け、同省では企業活動の再開時期がまた延期されて 3 月 11 日からとなった。 だが、そんななかでも、流通や自動車といった現地の日系企業は日々、事業継続に向けた苦闘を重ねている。

「封鎖」後も営業続けたイオン

流通大手イオンは武漢市が 1 月 23 日に「封鎖」されてからも約 1 カ月間、市内で総合スーパー 5 店の営業を続けている。 イオンによると、同市では外部との交通が厳しく規制されている状態ながらも、日本人の駐在員が安全対策や商品の調達に奔走してきたという。 封鎖が始まった 23 日、市商務局から営業を続けるよう依頼があった。 店頭では、入店時の客の体温測定とマスク着用が義務づけられた。 出勤できない従業員もいて少人数での営業となり、春節の 25 日からは営業時間を午前 9 時 - 午後 3 時と短くした。

封鎖の長期化とともに課題となったのが商品の調達だ。 春節の期間中は土産品などの品ぞろえを充実させていたが、望まれたのは生鮮食品や日用品。 休業中の取引先に頼んで商品を手配し、小麦粉などは広東省広州市からチャーター便で仕入れた。 地域間の人の出入りの制限がさらに厳しくなった現在は、ネット販売や店舗近くへの配送も開始。 おむつなどの注文が増えているという。 「地域の一員として日々の暮らしを守りたい。 ただし従業員の健康と安全を最優先することが前提。 リスク回避について説明し、安心して勤務できる体制をつくっている。」 「人手は十分ではないが、みなさん、がんばって出勤している。」 駐在員の一人はこう話しているという。

従業員への感染防止のため、コロナウイルスの発生が伝えられるとすぐに従業員の体温測定などを実施。 トイレや従業員の食堂、事務所を 2 時間に 1 回、アルコール消毒しているという。 先月下旬には従業員用マスク 2 カ月分、消毒用アルコール 1 カ月分を緊急に仕入れて備蓄したほか、必要な物資は日本のイオンから調達するという。 イオン広報によると、武漢市に駐在員は 12 人いたが、一部が帰国した。 駐在員の家族は全員が春節前に日本に戻った。 (長橋亮文)

日本企業、活動再開遅れ響く

湖北省が企業活動の再開時期を先延ばししたことで、日系企業への影響はさらに広がりそうだ。 中国国内 7 カ所の完成車工場のうち、3 つが武漢市内にあるホンダ。 東京の本社では連日、国内外の拠点をモニターでつないだ対策会議が開かれている。 生産やサプライチェーン(部品供給網)、新車市場への影響などを議論し、「影響が数カ月残るケースも考慮している(関係者)」という。

中国シフトを加速してきたホンダは昨年、中国市場で新車 155 万台を販売した。 販売台数は 5 年で 2 倍になり、中国が世界販売全体の 3 割を占める。 中国での工場建設も急ピッチで進め、昨年 4 月に武漢市内に 3 つ目の完成車工場ができたばかりだ。 武漢では早期の操業再開を見据え、管理職数人を武漢市内に残していた。 だが、企業活動の停止が続く可能性が高まり、全員が帰国。 武漢市内の工場の操業再開に向けた準備は、広州市の工場の日本人駐在員で進める方針だ。

長期の生産停止は、業績にも影を落としかねない。 停止中の減産分は再開後の増産で挽回する方針だが、稼働率がもともと高く、上積みはそれほど望めない。 本格的な生産回復には時間がかかるとみられる。 国境を超えた部品供給網にも影響が広がる。 ホンダは中国からの内装部品の供給が不安定で、14 日発売の新車「フィット」の一部で納車が遅れる見通しだ。 販売店関係者は「納車遅れになる車種が増えるのではと心配だ」と話す。

日産自動車は、「24 日以降」としていた湖北省襄陽市の完成車工場の再開が、3 月 11 日以降にずれ込む見通しだ。 中国からの部品供給が滞っているため、福岡県の 2 工場で生産ラインを止める生産調整の日を追加し、今月 24 日と 28 日も取りやめる。 みずほ銀行は武漢支店にいた日本人全員が中国を離れ、再開できないままだ。 武漢や周辺に進出した日系企業の先行きへの懸念は深まっている。 (森田岳穂、友田雄大、箱谷真司、asahi = 2-21-20)

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店舗閉鎖も、小売り各社襲う新型肺炎ショック

世界保健機関 (WHO) が「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言するなど、新型コロナウイルスによる肺炎が中国を中心に急拡大している。 その猛威は、日本の小売各社にも襲いかかっている。 GMS (総合スーパー)最大手のイオンは中国で 21 のイオンモールを展開、そのうち武漢では 3 拠点を運営している(2019 年 12 月末時点)。 武漢の 3 拠点は 1 月 24 日から 31 日まで休業。 状況を見ながらの判断となるが、1 月 31 日時点で営業再開の見通しは立っていない。

武漢で時短営業を続けるイオンの 5 店舗

2019 年 12 月以降、新型コロナウイルスに関連した肺炎の発生が報告されていたが、「1 月中旬ぐらいまでは、営業面への影響はほとんどなかった。 ただ 1 月 23 日に武漢が閉鎖(交通機関が停止)され、自家用車が市内に入れなくなり、従業員が通勤できなくなった(イオン広報)」という。 武漢のイオンモールにはイオンの GMS 店舗が合計で 5 店入居しており、中国政府から生活必需品を安定供給するよう要請を受け、この 5 店は 9 時から 15 時までの時間を短縮して営業を続けている。 店舗の従業員は自家用車での通勤が認められている。

イオングループは武漢に約 1,100 人の従業員がおり、うち日本人スタッフは 12 人。 いずれも店舗運営の要となる人材で、帰国などの措置は取らずに、日本人スタッフのほとんどが武漢に残ったまま仕事を続けている。 武漢以外の 18 店舗は通常営業している。 ただ、感染者は中国全土に広がっており、消費者が外出を控えることが増えれば、売り上げ面のマイナス影響は避けられそうにない。 イオンモールの中国事業は、投資負担が先行して 2019 年 2 月期まで赤字が続いていたが、数年かけて北京や広東エリアなどでドミナント展開を徹底した効果が発現し、今 2020 年 2 月期は黒字化する見込みだ。 しかし、新型肺炎影響が長引けば、2021 年 2 月期は減益となる懸念がある。

アパレル各社への影響も深刻だ。 ファーストリテイリング傘下のユニクロは、中国のユニクロ 750 店舗のうち約 160 店舗を営業停止中(1 月 30 日時点)。 そのうち、武漢にある 17 店舗はすべて閉店している。 営業再開時期は未定で、「ほとんどは出店先の商業施設の判断に従って閉業しているため、商業施設の再開が決まらない限り、今後のことはわからない(ファーストリテイリング広報)」としている。

ユニクロはスタッフにマスク着用を義務づけ

ユニクロは国内店舗では、通常は店舗スタッフのマスク着用を原則として認めていない。 しかし、現在は感染拡大防止のため、銀座や新宿、大阪などの訪日外国人客の多い店舗では、スタッフにマスク着用を義務付けている。 良品計画も中国(台湾・香港を除く)で展開する無印良品の約 270 店舗のうち 50 店舗を営業停止中だ(1 月 29 日時点)。 そのうち、武漢の 10 店はすべて営業停止している。 営業再開時期は「顧客とスタッフの健康・安全を最優先に考え、国・地域の指示や出店施設との相談により対応していく。(良品計画の広報)。」 湖北省内に日本人駐在員はいない。

一方、コンビニエンスストアの国内最大手セブン-イレブンは、中国(台湾をのぞく、以下同)で子会社による運営とライセンス契約方式により計 3,040 店(2019 年 9 月末)を運営、そのうち湖北省には 12 店(1 月 30 日時点)を構えている。 武漢を含む湖北省内の店舗の現状については、「ライセンス契約のためノーコメント(セブン & アイ・ホールディングス広報)」とする。 北京などで子会社が運営する店舗は通常営業。 春節休暇で日本に帰国している日本人駐在員もいるが、強制帰国などの措置は取ってないという。

中国で約 2,700 店を展開するファミリーマートは武漢に店舗がなく、休業している店舗はない(2019 年 12 月末)。 一方、中国国内の店舗 2,509 店のうち、武漢に 377 店を構える(いずれも 2019 年 11 月末)ローソンは 、「武漢の店舗はライセンス契約のため先方企業に運営を任せている。 休業などの情報は入っていない。(ローソン広報)」という。 ローソンの現地駐在員は上海や北京におり、家族が帰国を希望する場合には会社負担で帰国できる。

日本国内でも新型肺炎に感染した患者が確認されており、小売各社は訪日外国人客の減少や心理的影響による売り上げの落ち込みを心配している。 特に、百貨店は免税売上高のうち、約 8 割が中国人観光客向けの売り上げとされており、深刻な影響が出る可能性がある。 三越伊勢丹ホールディングスは「今のところ、大きな影響は出ていない(同社広報)」という。 団体旅行に制限がかかる前に、既に来日している中国人が多かったようだ。 春節期間の売り上げを 2019 年と 2020 年の同期間で比較すると、新宿、日本橋、銀座の旗艦 3 店では前年比でマイナス数 % 程度にとどまり、全国店舗ではほぼ前年並みだった(ともに 1 月 30 日時点)。

春節後の "落ち込み" に懸念

大丸松坂屋百貨店を擁する J. フロント リテイリングも「1 月の免税売上高は 30 日までで前年比 3 割増。(広報)。」 銀座に基幹店を構える松屋も「春節ピークとなる 1 月下旬の 1 週間の販売動向は、前年比で 1.5 倍程度伸びている(IR 担当)」と説明する。 ただ、春節期間が終了し、団体客渡航を禁止した影響が出てくる 2 月は、中国人観光客の需要が一気に落ち込みそうだ。 さらに、国内客についても「消費マインドにも悪影響を与えている。 既にシニアや家族連れの客足が鈍くなっている」と老舗百貨店の中堅社員は語る。

ある中堅アパレルの幹部は、「2002 年後半から 2003 年にかけて流行した SARS (重症急性呼吸器症候群)は、およそ 8 カ月影響が続いた。 今回の新型コロナウイルスも、半年くらいマイナス影響が続くのではないか。 中国に限らず、日本国内でも人が集まるところに買い物に行くのを控える動きが出るので、じわりと影響が出てくるはず。」と先行きを危ぶむ。 小売り各社に新型肺炎の波紋が広がっていくのは、これからになりそうだ。 (梅咲 恵司、真城 愛弓、遠山 綾乃、東洋経済 = 2-1-20)

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ユニクロ、イオンは営業停止 新型肺炎、日系企業も打撃

中国・武漢市を中心にした新型肺炎の集団発生が、経済活動に影を落としている。 進出している日系企業では、閉店や現地への出張禁止が相次ぐ。 中国では 25 日から「春節」と呼ばれる旧正月。 訪日客を当て込んだ日本の春節商戦への影響も心配される。 武漢市の人口は、およそ 1,100 万人。 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、日系企業は年 10 社のペースで増えており、周辺地域を含めて約 160 社が進出済みだ。

ファーストリテイリングは市内のユニクロ全 17 店を 23 日から閉めている。 公共交通がとまって従業員の出勤が難しい。 営業を再開する時期は決まっていない。 市内のイオンモール 3 店も 26 日まで閉店。 27 日以降は未定という。 資生堂やブラザー工業、川崎重工業は、社員の現地への出張を原則的に禁止。 損害保険大手の SOMPO ホールディングスも渡航を自粛するよう指示した。

製造業のサプライチェーンへの打撃も懸念される。 自動車部品大手のヨロズは、現地でホンダや日産、仏ルノー向けの部品をつくっている。 春節明けの 2 月 4 日に再開する予定だが、公共交通の停止が長引くようだと、従業員の出勤に支障が出かねないという。 「状況がどうなるかわからないが、春節明けの操業再開に向けて取引先と情報交換をしている」と志藤昭彦会長は話す。

中国経済は米国との通商摩擦を背景に、ただでさえ減速している。 もしも 2003 年の重症急性呼吸器症候群 (SARS) のように中国経済の足を引っ張るようだと、日本への影響も小さくない。 梶山弘志経済産業相は 24 日の閣議後会見で「現地の日系企業をはじめとする経済への影響、従業員、家族に高い関心を持って注視をしていく」と話した。

国内の百貨店は、春節商戦への影響を心配する。 大丸の福岡天神店では、免税売上高の約 8 割を中国人が占める。 日韓関係の悪化で韓国人客が激減しており、中国人客は頼みの綱。 「行動が読めないだけに、影響がわからない」と広報担当者は話す。 大丸や松坂屋を運営する J フロントリテイリングは感染を防ぐための消毒液を売り場に準備するよう、全国の店に指示した。

株価にも響く。 中国で衣類の生産も手掛けるファストリ株は 24 日、20 日より 3.4% 安で取引を終えた。 一方、マスクなどを扱うユニ・チャームの株は 24 日の一時、年初来高値を更新する 3,839 円を付けた。 2018 年夏以来の高値水準だ。 (asahi = 1-24-20)


任天堂、新型肺炎で「スイッチ」出荷に遅れ 中国で生産

任天堂は 6 日、新型コロナウイルスの影響により、中国でつくっているゲーム専用機「ニンテンドースイッチ」の出荷が遅れると発表した。 生産の遅れが避けられなくなったためで、スイッチ自体が「品薄状態になる見通しだ(広報)」という。 ゲームのソフト「リングフィットアドべンチャー」についても同様に、出荷が遅れるとした。

任天堂は 1 月 30 日にスイッチの 2019 年度の世界販売台数の目標を、当初の 1,800 万台から 1,950 万台へ引き上げると発表したばかり。 同日発表した 19 年 4 - 12 月期決算は、スイッチの販売の好調を受け、売上高が前年同期比 2・5% 増の 1 兆 226 億円、純利益が同 16・4% 増の 1,963 億円だった。 快調だったスイッチ販売に、ブレーキがかかることになる。 今回の遅れに伴う業績の修正などは予定していないものの、「影響を注視していく(同)」とした。 (久保田侑暉、asahi= 2-6-20)


居酒屋「和民」が中国から撤退 「新型肺炎で客 9 割減」

居酒屋チェーン大手のワタミは 5 日、中国本土で展開している「和民」などの居酒屋 7 店を今春までにすべて閉店すると発表した。 新型コロナウイルスによる肺炎の拡大を受け、客数が大幅に減ったことなどを理由としている。

ワタミは 2005 年に中国本土に進出し、14 年には 42 店舗まで拡大した。 その後は業績の悪化などを受けて徐々に縮小し、現在は上海などに「和民」、「サーモン伝説和民」といったブランドで 7 店を展開している。 だが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて客が激減。 直近 2 週間ほどの売上高は、前年の同じ時期に比べて約 9 割減ったという。 広報担当者は「いつ収束するかの見通しも見えないこともあり、撤退を決めた」としている。 (土居新平、asahi = 2-5-20)


中国・武漢便を利用の企画旅行、JTB が当面中止

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために中国当局が武漢の空港の一時閉鎖に乗り出したことを受け、日本の航空会社も対応を始めている。 国土交通省によると、武漢への定期旅客便は成田、関空、中部、福岡から計週 38 往復あるという。 成田 - 武漢を毎日 1 往復運航している全日空。 武漢の空港が封鎖されれば、23 日午後 6 時 10 分成田発の便は欠航する。 空港の封鎖直前となる 23 日午前 9 時半の武漢発の便は通常通りに運航予定で、202 人乗りの機体がほぼ満席状態という。

乗客が発熱やせきなどを訴えた場合を想定し、入国時に検疫官へ申し出るよう機内アナウンスをする。 2 月末までの予約の変更やキャンセルは手数料なしで対応するといい、広報担当者は「まもなく春節(旧正月)を迎え、多くの乗客が見込まれていた。 封鎖がいつまで続くのか注視している。」 成田 - 武漢便を週 3 日 1 往復ずつ運航している格安航空会社の春秋航空日本。 22 日の搭乗率は武漢発、成田発ともに約 85% で平常通りだった。 空港閉鎖にともない、次の 25 日の便の対応は現在検討中という。

同社は 22 日、成田と武漢を結ぶ便の搭乗客にマスクを無償で配り、機内での着用を推奨するほか、乗務員も全員マスクと手袋をするなどの対応を発表していた。 広報担当者は「春節の時期にかかわらず、この路線の搭乗率は高い。 今後、新型コロナウイルスによる影響が出てくるかはこれからの状況次第。」と語る。 関西空港を運営する関西エアポートによると、関空と中国・武漢を結ぶ直行便は 3 航空会社が週 11 便を運航している。 航空会社から欠航の連絡は来ていないという。 関空と結ぶ中国の都市は 28 都市に及び、中国路線は冬ダイヤで国際定期旅客便全体の約 4 割を占めている。

関西エアの広報担当者は「武漢のみの移動制限であれば影響は限定的。 ただ、渡航を控えようという動きが広がってくれば旅客が減る可能性もあり、早く沈静化して欲しい。」と話す。 中部空港(愛知県常滑市)と武漢を結ぶ航空便は、中国南方航空が週 2 回、ウルムチ航空が月、水、金曜の週 3 回運航している。 空港を運営する中部国際空港会社によると、23 日午前 10 時半時点で両航空会社から運航の取りやめの連絡は来ていないという。 ただ、担当者は「空港が閉鎖されるなら、飛行機は飛べないだろう。 お客さまへの対応も含めて、航空会社の決定を待ちたい。」と話す。

中国南方航空では、準備ができ次第、同社のホームページで航空券の払い戻しの案内をする予定だ。 同社は名古屋 - 武漢便を毎週月曜と金曜に運航。 同社名古屋支店によると、ビジネス客よりも日本への観光客の利用が多く、24 日に武漢から名古屋へ向かう便は、春節に伴う大型連休も重なり、予約でほぼ満席だという。 支店の担当者は「いつまで空港の閉鎖が続くか、フライトはどうなるかを中国の支店に確認し、航空券の払い戻しなどの対応をしていきたい」と話す。

大手旅行会社の JTB は、成田空港や関西空港発着の中国・長江流域をめぐる企画旅行で、武漢発の中国南方航空便を帰国の際に使っていた。 現在、この企画旅行で中国を旅行している人はいないという。 JTB は 23 日、この企画旅行を当分の間、中止すると決めた。 同社広報室によると、武漢発着の航空券のみを予約し、中国を旅行している人がいるかどうかは確認中だという。 中国からの訪日旅行を扱っている「ジャパンホリデートラベル(大阪市中央区)」によると、今年の春節の時期には中国各地から数百件規模の訪日旅行の予約があり、今のところ新型コロナウイルス絡みのキャンセルは出ていないという。

状況が刻々と変わるため、武漢などの現地旅行会社に連日問い合わせて情報収集している。 担当者は「出国制限や感染拡大などの状況に応じて対応を検討する」と話す。 中国への出張手配などを手がける旅行会社「日中平和観光大阪支店(大阪市中央区)」によると、「出張中止の場合、キャンセル料はどうなるのか」などの問いあわせが 22 日に数社からあった。 3 月に武漢から関空に来日予定だった北京の団体客からも、出発地を上海に変更したいと連絡があった。 同社はウェブサイトに新型コロナウイルスに関する外務省の問い合わせ先などを掲載し、注意を呼びかけている。

上松成人支店長は「旧正月間近の今は元々ビジネスマンの出張が減る時期だが、今後の状況次第で影響を受ける可能性もあり、正確な情報を収集したい。これ以上、感染が広がらないことを祈るばかりだ」と話す。 福岡市博多区の旅行会社「大陸旅行」の関景斌(カンケイヒン)社長は「福岡空港を出発して、中国を旅行する日本人観光客自体がこの 5 年くらいはとても少ない」と話し、客の減少による営業への影響は小さいと考えている。 福岡と武漢を結ぶ国際線は 1 日 1 往復で、上海を経由している。 (asahi = 1-23-20)


ダイキン、中国逆風下で最高益呼ぶ抵抗力

中国関連企業に逆風が吹く中、一角を占めるダイキン工業の業績が堅調だ。 2020 年 3 月期の連結純利益は前期比 3% 増の 1,950 億円と最高益を更新する見通し。 厳しい環境下で最高益を呼び寄せる "抵抗力" は、利益率の高い高級住宅向けエアコンで顧客を囲い込むビジネスモデルにある。 「中国が厳しいという状況は変わらない。 だが変化に対応して最大限販売を伸ばしている。」 ダイキンの十河政則社長は強調する。

中国の空調市場は 19 年度に前年度と比べて 3% 程度のマイナスが見込まれている。 米中貿易摩擦による景気減速に加え、沿岸部などでは不動産の投資規制の影響を受けているためだ。 現地にひしめく家電メーカーを中心に「エアコンは 4,000 万 - 5,000 万台の在庫がある(業界関係者)」ともされる。 この状況でも 19 年 4 - 9 月期におけるダイキンの空調事業の中国売上高は、現地通貨ベースで 2% 増を確保した。 さらに今期の中国の売上高営業利益率は 25 - 26% と前期実績 (25%) からわずかながらも改善する見込みだ。 日本 (7 - 8%)、米州 (6 - 7%)、欧州 (10 - 11%)、アジア (13 - 14%) に比べて突出する。 中国が全体の営業利益の約 3 割を稼ぐ計算だ。

この利益率の背景にはダイキンが中国で進めてきた高級エアコン市場を重視した戦略がある。 ダイキンは中国市場の開拓にあたり、「プロショップ」と呼ばれる専門店チェーンを構え、高級ブランドのイメージを打ち出してきた。 ユーザーの要望に応えて素早いメンテナンスにも応じる。 中国の新築マンションは、購入者が内装を手掛ける「スケルトン売り」が主体だったものの、高級住宅を中心に内装工事済みの物件の割合が増えている。 不動産開発業者に対してマンションの設計・施工を含めた総合的な提案力が求められるのもダイキンには追い風だ。

一方、ライバルとなる珠海格力電器や美的集団など中国勢は低価格のルームエアコンに強みを持つ。 もちろん中国勢も上位機種へのシフトを狙っている。 だがダイキンはコンプレッサーなど主要部品を内製化し、省エネ性能の高さや製品群の多さで競合を引き離す。 同じ中国関連銘柄では、19 年 4 - 9 月期の中国売上高で、コマツの建機事業(25% 減)やファナック(44% 減)が大幅減収になった。 高級品でシェアを持つダイキンは低価格品と異なり安値競争が起きづらい。 コマツが品質が向上してきた中国勢に押されているのとは対照的だ。

上海など沿岸部で需要が頭打ちになれば、重慶や湖北省武漢など内陸部に販売網を広げる。 4 - 9 月期の内陸部での売上高は二ケタ増だった。 さらにポスト中国市場としてインドや東南アジアなどでもバランス良くシェアを拡大している。 成長期待を受け、ダイキンの株価は昨年 12 月 13 日に上場来高値(1 万 6,275 円)を更新した。 そんなダイキンに死角はないのか。三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券の佐々木翼アナリストは「米州の利益率が上がっていない」と指摘する。 その一因は、ライバルである米複合企業ユナイテッド・テクノロジーズ傘下のキヤリアなど米国ブランドが強固な販売サービス網を持っているためだ。

米大手は空調機器の販売だけでなく、メンテナンスやセキュリティーサービスを提供し、中長期で稼ぐ事業モデルを確立している。 キヤリアの 19 年 1 - 9 月期の売上高営業利益率は 16% と、前期のダイキンの米州事業 (6%) を大きく上回る。 ダイキンは分散していた米国内の工場をテキサス州に集約し、生産性を改善するなど手を打っている。 さらにアフターサービスでも稼ぐという米国流モデルのノウハウ吸収も進めている。 米大手の牙城を崩せれば、ダイキンにとって新たな成長機会につながる可能性もある。 (杜師康佑、nikkei = 1-9-20)


「レクサスで独禁法違反」トヨタ中国法人に罰金 13 億円余 中国

中国東部、江蘇省の政府部門は、トヨタ自動車の中国法人が高級車ブランド「レクサス」の販売で、担当者が販売店に対して値引きの額に制限を設けるよう通知していたことが独占禁止法に違反したとして、日本円で 13 億円余りの罰金を科しました。 中国江蘇省の市場監督管理局は、トヨタの中国法人が独占禁止法に違反する行為があったと 27 日までに発表しました。

発表によりますと、2016 年から去年にかけて、トヨタ側の担当者が高級車ブランド「レクサス」の販売に関して、江蘇省内の販売店に対し、各地区ごとの会議や SNS などを通じて、車種ごとの値引きの額に制限を設けるよう通知していたということです。 当局はおととし 12 月から調査を進め、こうした行為が「比較的拘束力が強く、市場の競争を制限し、消費者の利益を損なった」として、独占禁止法に違反していると認定し、トヨタ側に対して 8,761 万人民元(およそ 13 億 7,000 万円)の罰金を科しました。 トヨタの中国法人は「本件についてはすでに是正していますが、今後は法令遵守を徹底し、再発防止に努めます」と話しています。 (NHK = 12-28-19)


吉野家、中国安徽省合肥市中心地に出店

吉野家ホールディングスは 12 月 20 日、中国安徽省合肥市に「合肥百盛(フーフェイ バイシェン)店」をオープンした。 100% 子会社の吉野家(中国)投資有限公司が安徽省の企業と合弁契約を締結し、吉野家(安徽)餐飲有限公司を設立。 現地にて物件の選定を進めており、今回海外吉野家の 24 番目のエリアとして出店した。 同店を皮切りに、2 年以内に 10 店舗の出店を計画している。

新店舗の位置する淮河路歩行街は、安徽省省都・合肥市旧市街区の中心地に位置し、通行量の多い賑わいある立地。 淮河路歩行街の中心的商業施設である合肥百盛買物広場の地下 1 階、飲食店区画の入口付近へ出店する。 利便性、視認性が高く、安徽省でのブランド情報発信地点として期待している。 主な商品として、牛丼並盛 20 元(人民元以下同様)、チキン丼並盛 18 元、牛チキンコンボ並盛 30 元などを販売する。 (流通ニュース = 12-20-19)


中国「無印」商標訴訟で良品計画が敗訴 1 千万円支払い

「無印良品」を展開する良品計画は、中国での「無印良品」の商標権をめぐる訴訟で中国企業に敗訴し、約 1 千万円の支払いを命じられたことを明らかにした。 中国は二審制のため判決は確定し、支払いを済ませたという。

良品計画が「無印良品」の商標を登録するより先に、中国の企業が「無印良品」のタオルやベッドカバーの商標権を登録していた。 良品計画の中国子会社が、商標権を持たない商品を「無印良品」の商標で販売したところ、中国の企業が「商標権を侵害された」として訴えていた。 良品計画は 2017 年の一審で敗訴し、上告したものの、今年 11 月 4 日に確定した二審でも敗訴した。

タオルやベッドカバーなどの商品以外は良品計画が商標を登録しており、今後も中国で販売できるという。 「そもそも中国企業が『無印良品』の商標を有しているのは正当ではない(広報担当者)」として、この企業とは別の訴訟でも争っているという。 (asahi = 12-13-19)


パナソニック、中国に家電工場 16 年ぶり新設

【杭州 = 藤野逸郎】 パナソニックは中国に調理家電の工場を新設する。 2021 年に操業を始める予定で、電子レンジや炊飯器、ジャーポットなどを生産する。 中国に家電工場を設けるのは 16 年ぶり。 米中貿易摩擦の影響から生産拠点を中国外に移す企業が目立つなか、中長期の成長を見込んで投資する。 約 45 億円を投じて浙江省嘉興市に建てる。 敷地面積は約 5 万平方メートル。 生産した調理家電は中国内で販売するほか、アジアへの輸出も想定する。 軌道に乗ったあとの年間売上高は 20 億元(約 309 億円)を見込む。

工場運営の新会社を立ちあげ、商品の企画・開発機能も持たせる。 センサーで温度を管理して食材を最適な状態に炒める調理器など、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」技術を使った商品も開発する。 中国でパナソニックの家電全体の年間売上高は 2,000 億円規模ある。 調理家電はすでに上海、杭州、アモイの工場でつくり、家電量販店やインターネット通販などで販売してきた。 ただ、中国スマートフォン大手の小米(シャオミ)が手ごろな価格と優れたデザインを併せ持つ家電を強化するなど、競争は激しくなっている。

このため「新貴」と呼ばれる生活に余裕のある 30 歳前後のファミリー層を中心とする顧客の獲得を急ぐ。 生産性の高い新工場でコストを抑え、ネット接続機能を備えた商品などの発売スピードを上げて成長を維持する。 米中貿易摩擦で中国経済は減速しているものの、中間層の拡大などで家電需要は成長が見込めるため工場新設を決めた。 (nikkei = 12-6-19)


パナソニック、中国に旗艦店 ネット時代に逆張り戦略

パナソニックが 1 日、中国・杭州市に旗艦店「パナソニックセンター杭州」を開いた。 中国ではネット通販で家電を買う人が多く、あえて製品を体験する売り場を設けて「松下」ブランドの再興を目指す。 杭州はネット通販大手アリババ集団の本拠地でもある。 「逆張り」戦略は成功するか。

中国有数の景勝地・西湖近くの目抜き通り。 中国各地からやってきた観光客が行き交う場所に、2 階建て約 1 千平方メートルの店をつくった。 パナソニックがショールーム機能を兼ね備えた直営の旗艦店を構えるのは中国ではここだけ。 美容家電や調理機器、歩行補助機や物を持ったときに体の負担を軽減する装置といった介護用品などを展示。 いずれもネット通販で味わえない体験が購入のきっかけになるもので、市場の伸びも大きい。

パナソニックが得意とするドライヤーなどの美容家電は中国でも人気で、地場ブランドと比べても競争力が高い。 今後、資生堂の化粧品とのタイアップ企画も計画する。 年 3 回は展示を入れ替え、繰り返し来てもらえるようにする。 店を運営する松下家電(中国)の小林龍雄・営業企画部長は「パナソニック以外の商品も売るので、普段使いの店として寄ってほしい」と話す。

パナソニックは杭州市に中国の家電部門がある。 店は試作品を置いて反応をみるテストマーケティングの場としても活用。 利用者の声やデータをすくい上げて、現地向け商品の開発にも生かす。 また、「松下」ブランドに縁の薄い地方からの観光客への宣伝の場にもする。 米中貿易摩擦などの影響で消費が鈍り、2019 年の中国の家電市場は前年割れの見通しだ。 だが、同社は 20 年度に中国の家電部門の売上高を 17 年度の倍の 200 億元(3 千億円)にする目標を変えていない。 松下家電の呉亮社長は「今までが落ち込みすぎていた。 新しい取り組みで販売を増やせる。」と話す。 (杭州 = 福田直之)

「松下家電」中国人社長に戦略を聞いた

パナソニックの中国家電部門「松下家電(中国)」の中国人社長、呉亮氏に、中国で早くから親しまれた「松下」ブランドが巻き返すための戦略を聞いた。

- - パナソニックセンターを全国的に有名な西湖の近くに設置した理由は。

「中国の主な販売ルートは大都市だけだった。 地方都市に浸透し切れていない。 これから 2、3 年は地方への浸透に力を注いでいかなければいけない。」 「センターが立地する杭州の西湖近くには多くの観光客が来る。 中国人は人生で西湖に最低 3 回来る。 修学旅行、恋人ができたとき、そして子どもができたときだ。 高齢者になって来ることもある。 様々な年齢の人に来てもらえる。」

- - 家電に加えて介護用品を展示した。

「中国は高齢化が進むので、養老・介護産業がブームだ。 富裕層向け老人ホームもはやり始めている。 だが、中国には介護用品開発の蓄積がない。 パナソニックは 10 - 20 年前に日本で大画面や簡単な操作パネル、健康な老人の労力を軽減させる仕組みなどシニア向けの商品を作っていた。 それを中国でまた復活させたい。」

「8 月 1 日に養老・介護専門商品の開発部隊を 10 人程度でつくった。 日本の良いものを生かし、中国のニーズにあわせて開発する。 介護者の腕や腰を疲れにくくする商品を早急に作りたい。 歩行アシスト機器はリハビリにも使える。 そうしたものを賃貸を含めて展開したい。」

- - 経済成長はパナソニックの高級家電に追い風だが、国内メーカーの追い上げも激しくなりそうだ。

「1、2 年は業界トップの商品も、3 年目で模倣されて価格競争力を失ってきた。 だが、他社にないものを速いテンポでつくっていきたい。 例えばドライヤー。 中国人は電源コードを邪魔に感じている。 我々には充電池の技術がある。 掃除機でもできたのだから、ドライヤーもコードレスにしたい。」

- - 中国の家電市場は今年、前年割れの可能性がある。

「去年 10 月からかなり厳しくなったが、今年はより一層厳しい。 家電市場全体の規模は前年を割るペースだ。 だが、パナソニックは昨年下半期 2 桁成長した。 家電業界は年間の見通しが前年比 1 割減というなかで、我々は今年上半期前年比 5% 増を保っている。 年間で 3 - 4% 増を達成できると思っている。」

- - 消費不振の原因は。

「米中貿易摩擦による将来への不透明感があり、今までと同じ収入が得られるかという懸念から、お金を使うのを渋っている部分がある。 メーカーは設備投資もだいぶ控えている。 来年の米大統領選の決着がつかないと状況は変わらない。」 (聞き手・福田直之、asahi = 10-10-19)


日本企業の中国担当者、4 分の 1 が「脱中国」志向
米中分断が国際供給網崩す 1,000 人調査

米中摩擦に対する日本企業の警戒感が強まっている。 日本経済新聞社などの調査では、現在の中国事業について「縮小すべきだ」と答えた日本のビジネスパーソンが 23.9% に上り、4 分の 1 近くが「脱中国」志向を持つことが分かった。 米中対立の長期化で両大国の経済活動が分断されブロック化する「デカップリング(分離)」が進み、日本企業が築いてきた国際供給網が崩れつつあることを映している。

トランプ米政権は 2018 年から中国製品に対する制裁関税を段階的に上げ、米中貿易戦争は過熱する一方だ。 19 年 9 月には複合機やスマートウオッチなどを対象にした第 4 弾を発動した。 日経新聞と日本経済研究センターは第 4 弾を受け、9 月前半に主に日本企業で中国関連事業に携わる役職者ら約千人にアンケート調査を実施した。 回答者の 53.5% が製造業企業に属していた。

米中摩擦が激しくなる中、自社の中国事業をどうすべきかとの問いに、「縮小」と答えた人は 4 分の 1 近くに上ったが、それより多かったのは「現状維持で様子を見る」の 60.4% だ。 そう回答した人の姿勢を分析すると、大きく 2 つのグループに分かれる。

中国は人件費が上昇して生産コストが上がっていることに加え、米中貿易戦争で輸出拠点としての競争力を失いつつある。 「中国に工場を置く重要性が薄れてきた(製造業の 50 代女性)」、「東南アジアでの代替の可能性を探っている(非製造業の 50 代男性)」という縮小に傾く声も出た。 一方で「巨大市場を無視することは今も今後もできない(製造業の 40 代男性)との意見も目立つ。 14 億の人口を抱える巨大な中国の消費市場は多くの企業にとっては魅力的だ。 将来は事業の拡大を狙うものの、今は一時的に様子見し、米中対立や景気の先行きを見守る企業も多い。

これから中国との付き合いを深めるのか、それとも距離を置くのか。 見方は真っ二つに割れる。 巨大な市場規模に引かれて中国に傾斜してきたドイツや韓国に比べると、日本企業はこれまで貿易自由化の波に乗り、米中両国とうまく付き合ってきた。 電子機器の受託製造サービス (EMS) 世界最大手の台湾、鴻海(ホンハイ)精密工業などに委託し、中国で米国向けゲーム機を生産してきた任天堂が典型だ。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の 18 年の調査によると、中国に進出する日系製造業の 4 割が現地売上高の半分以上を輸出に頼る。 「今後 1 - 3 年の最も重要な輸出先」として米国を挙げる企業が日本に次いで多く、中国が対米輸出拠点になってきたことが分かる。 ところが貿易戦争は改善の兆しが見えず、長引けば米中のデカップリングが進むのは確実だ。 両国をつないできた供給網は崩れつつある。

リコーは 7 月に米国向け複合機の生産をタイに移し、京セラもベトナムへ移管する。 衣料品店「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングもベトナムなどに切り替える方針だ。 日本企業は、米国など中国以外の市場への輸出拠点として、東南アジアなどへの生産シフトを急ぐ。 もっとも、今後も成長が見込める中国市場を諦めるわけではない。 既存の現地工場を輸出拠点から国内向けの供給拠点に切り替え、事業を継続するという例が多い。

背景には企業が米中摩擦が長引くとみていることがある。 調査で自国に有利な国際秩序づくりを巡る米中対立について尋ねると、51.3% の人が「長期的(10 年超)に続く」と答え、中期的(5 年前後、25.8%)、短期的(1 - 3 年、10.8%)を上回った。 米中の価値観を巡る摩擦はやまず、2 つの経済圏の確執が強まるとみて、日本企業はこれまで米中を結んできた供給網の見直しを迫られている。 米中対立の影響を受けるのは日本企業だけではない。 米アップルの iPhone (アイフォーン)の対米輸出拠点を中国に持つ鴻海などにも暗雲が漂う。 (nikkei = 10-5-19)


土壇場で上海撤退を撤回の高島屋、厳しい市場環境は変わらず

高島屋は 8 月 23 日、中国の上海高島屋の閉店を撤回し、営業を継続すると発表した。 同社は 6 月、8 月 25 日に連結子会社の上海高島屋百貨を清算し、閉店すると発表していた。閉店まであと 2 日というギリギリでの撤回となった。

上海高島屋は 2012 年 12 月、「上質な商品とサービスをフルラインで提供」する本格的な日本型百貨店を目指して、上海市長寧区で開業した。 出店地は高級住宅街で、近くに商業施設がなかったことから「ポテンシャルが高い(広報・IR室)」と判断した。 店内ブランドの 4 割は「日本発」とし、シンガポールやベトナム、タイの店舗と比べても日本を意識した構成とした。 富裕層ファミリーや高所得のオフィスワーカーの来店を狙った。

ところが、もくろみは外れた。 開業 3 カ月前の 9 月、日本の民主党政権が尖閣諸島の国有化に踏み切ると、中国では反日デモが起こった。 平和堂など現地に出店する日系店舗が暴徒に襲われた。 反日の動きが落ち着いた後は、アリババ集団や騰訊控股(テンセント)などネットサービスが一気に普及した。 スマートフォン片手に買い物をする風景は日常となり、リアル店舗は国内外の企業を問わず、逆風を受けた。

上海高島屋百貨の最終利益は 10 億 - 30 億円の赤字を垂れ流した。 高島屋は家主と家賃の減額交渉を進めていたが、進展がなかった。 さらに米中貿易摩擦の影響で、中国国内の景気の減速懸念が強まった。 売上高は毎年 10% 前後伸びていたものの撤退を決断した。 しかし、家主との交渉を打ち切り、上海高島屋百貨の清算準備を進めている中で「先方から条件変更の打診があった。(広報・IR 室)」 具体的には「正確には家賃の減額を提示されたのではなく、賃貸条件の変更だ。 新たに合意した条件であれば、数年以内に黒字化できるとみて、精査している。(同)」という。

閉店直前に一転して営業継続となったことで、上海高島屋に入っていたテナントも撤退の準備を進めていたとみられるが、上海高島屋の関係者は「ほぼすべてのテナントが営業を継続してくれる」と話す。 清算に伴い、計上予定だった 20 億 - 30 億円の損失は抑えられる。

ただ、上海高島屋を取り巻く厳しい環境がすべて改善されるわけではない。 三菱 UFJ リサーチ & コンサルティングの細尾忠生・主任研究員(中国経済)は、「賃貸条件の変更で直前に撤退から継続を決めるというのは、戦略に幹がない印象を受ける」と手厳しい。 中国では経済成長に伴い、北京や上海に洗練された高級商業施設が「掃いて捨てるほどできた(同氏)」といい、中国でも日本や米国と同様、ネット通販によるリアル店舗への逆風「アマゾンエフェクト」は厳しさを増していると指摘する。

今回の賃貸条件の変更は、「棚からぼた餅」か、苦闘の継続なのか。 細尾氏は「中国の成長が期待できるマーケットであることは変わらず、高い利益率を得ている日系企業は 1980 - 90年代に進出して、地道に地元になじんでいる。 出店を続けるならば、顧客層を明確にするなど戦略の再構築が求められる。」と話す。 仕切り直しでの中国市場挑戦は果たして成功するだろうか。 (鷲尾龍一、日経ビジネス = 8-26-19)