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中国のおむつ市場「激変」、花王が EC で席巻 転売騒動の裏には日本製への圧倒的人気が 2015 年 11 月初旬。 中国で 11 日の「独身の日」に行われる、EC (電子商取引)での巨大セールを前に、花王は対応に追われていた。 「『メリーズ』をいくらで売るか教えてくれ」と、転売業者らしい中国人からの問い合わせもあった。 中国の転売業者は紙おむつのメリーズを、日本の店頭にて 1 パック約 1,500 円で買い占め、EC 上にて正規輸出品より 50 元程度安い、約 100 元(日本円で約 1,750 円)で転売。 元高円安も後押しし利益を得ていた。 こうした転売は 2013 年ごろから本格化しており、一時は中国で流通する正規品の倍の量まで、転売品が出回っていたという。 転売に業を煮やしていた花王だが、独身の日の直前、アリババの越境 EC サイト「天猫(天モール)国際」に初出店した。 天猫国際とは中国で 4 億人以上が利用するアリババグループの EC の海外業者版。 需要拡大に応えるべく、栃木や愛媛工場を増強、2014 年には国内 3 カ所目となる酒田工場(山形)を新設し、品薄改善に努めてきた。 シェアを伸ばす花王「メリーズ」 海外業者に限られる越境 EC には利点が大きい。 中国政府の指定した保税区の倉庫から出荷されるため、一般的な輸入品より税率の低い行郵税のみで済むからだ。 花王の場合、標準価格 158 元をセールとして 138 元で販売。 一晩で約 2 億円を売り切り、転売業者に大打撃となった。 転売騒動の背景には、中国市場における、日本製の紙おむつの人気ぶりがある。 失速する「パンパース」、躍進の「メリーズ」 もともとは 1997 年に参入した米 P & G の「パンパース」が席巻していた中国の紙おむつ市場。 低価格が武器だったが、全体のパイが 2009 年の 168 億元(約 3,000 億円)から、2015 年には 457 億元(約 8,000 億円)まで膨らんでいく中、逆に同社はシェアを約 43% から約 37% へと落としてしまった。 逆風の原因は高価な分、高品質な日本製品ブームだ。 開拓者だった P & G の間隙を縫って台頭したのが日本メーカー。 2000 年にユニ・チャーム、2009 年には花王が進出した。 中国の消費者にとって、日本ブランドへの信仰は強い。 日本製品は紙の質から、漏れにくく蒸れないと、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)でも評判である。 従来、股割れパンツ(股間に穴が開いている)が主流だった中国だが、所得向上に伴い、使い捨ての紙おむつが浸透。 普及率は 25% に達した。 「気」の流れを大事にする国民性もあり、通気性のよさなどが支持されている。 もっとも、同じ日本メーカーでも振り向いてもらえるのは、現地製より日本製。 「中国製は、まだ導入していない最先端技術で開発したが、メインで売れるのは日本製。(花王の澤田道隆社長)」 一般に中国人は自国製品への不信感が根強いとされ、特に子ども向けでは、多少高くても日本製を選ぶとされる。 それも近年は実店舗に並ぶ製品でなく、発売元が明記された EC 上の製品を好む。 今や紙おむつにおける EC での購入比率は 4 割に高まった。 そうした市場環境変化を背景に、急速に先行者のシェアを食っているのが花王だ。 2009 年に輸出を始め、中国人間の口コミで評判が拡散、紙おむつの含まれる一般消費財事業の売上高は 3 年間で 3 倍超になった。 最後発ゆえ EC シフトにも機敏に対応。 今年末には、実店舗の流通で提携した大手日用化学品の上海家化と契約を解消し、EC への投資を一層拡大する。 工場を日本に戻すユニ・チャーム 一方、日本勢で先発のユニ・チャームは一時シェアを拡大させたものの、ここ 2 年ほど伸びが鈍化。 同社の場合、日本製で高価格帯の「ムーニー」と、現地製で中価格帯の「マミーポコ」の 2 ブランドを併売する。 ただ、少し前まで成功の原動力だった現地工場と広い店舗網は、早くも足かせになってきた。 ユニ・チャームの海外展開は地産地消が基本だ。 中国では上海など 5 工場を構える。 卓越した営業力で、都市部に加え、内陸部の小規模店も網羅してきた。 だが前期は EC 化の進行で店頭在庫がだぶつき、現地工場の稼働率も 5 割に下落。 中国ベビーケア事業は赤字転落した。 シェアも花王に僅差まで詰められた。 「今後は遅ればせながら、EC に経営資源を集中する。 二人っ子政策への転換を追い風に、一人目は日本製、二人目は現地製で訴求したい。(ユニ・チャームの高原豪久社長)」 現地工場の生産設備も日本に移管する。 変化のスピードは速い。 自国内の製造業を強化したい中国政府としては、4 月にも越境 EC の税率を上げる予定だ。 増税後の税率によっては日本製の競争力も厳しくなる。 想像以上に進む中国景気の失速も気掛かりだろう。 目まぐるしく主役が入れ替わる中国の紙おむつ市場。 変化への適応力に優れた者のみが生き残る。 花王も勝者で居続けられる保証はない。 (印南志帆、東洋経済 = 3-27-16) 世界経済での役割を変化した日本企業 競争力が落ちたわけではない = 中国メディア 中国メディア・環球時報は 6 日、日本貿易振興機構 (JETRO) の最新データを示したうえで「日本企業による中国からの大規模撤退」現象は事実に反すると結論づけた記事を掲載した。 記事ではさらに、日本企業の世界における役割、中国に対する立場が変化しつつある一方で、日本企業の競争力は決してなくなったわけではないとの見方を示した。 記事は、JETRO の報告では「多くの企業が中国での業務拡大を選択している」と紹介。 なかでも非製造企業における業務拡大が製造企業を上回り、とくに中国国内向けの「卸売り・小売」に関わる業種で業務拡大の姿勢が鮮明になっていることを伝えた。 そのうえで、「輸出型の日本企業は中国における優位性が少なくなっているが、販売型の企業にとってはなおも巨大な潜在力を持った市場である」とした。 一方で、製造業においても新たなメリットの模索が行われており「薄利な B2C (企業対顧客)から B2B (企業対企業)への移行が徐々に進んでいる」との見解も示した。 そして、復旦大学金融研究センターの専門家が「日本が世界経済に担う役割は、今や末端製品の製造ではない。 多くの『中国製』の中心部品は日本から来ており、日本企業の競争力を侮ってはいけない。」と解説したことを伝えた。 記事はさらに、今後日本企業による対中投資は自動車、医療、環境保護、エネルギーの 4 分野が中心になるとする専門家の見方を紹介。 また、日本企業にとって、以前は「支援」の対象だった中国が、その後「協力相手」となり、そして今では「競争相手」へと変化しており、技術を競争力の核とする日本企業にとって対中投資には慎重にならざるを得ない部分がある一方で、高齢者介護分野など新たな「協力」の可能性も見えていると説明した。 時代が変化すれば互いの協力の形にも少しずつ変化が見られるというのは、ごく自然の成り行きと言えるだろう。 中国は今や日本を政治的にライバルと目し、時としてやや過激とも思える言論でけん制を仕掛けてくるが、一方で互いの利益が合致する部分については積極的に協力関係を築こうとする柔軟性を持っている。 上手くやっていくには、やはり相互理解が必要だ。 (SearChina = 2-10-16) 日本の対中投資の魅力薄れる? 先行き悲観視する日系企業も増加 = 中国 中国メディアの中国日報は 15 日、日本貿易振興機構 (JETRO) が行った「2015 年度在アジア・オセアニア日系企業実態調査」の内容を紹介、中国進出日系企業の事業展開の方向性について伝えている。 調査によれば、中国に進出している日系企業の今後 1 - 2 年の事業展開の方向性として「拡大」すると回答した企業は 38.1% だった。 これについて、記事は「過去 17 年間の最低値」と指摘、14 年度調査時「拡大」と回答したのは 46.5%、13 年度は 54.2%、12 年度は 52.3% だったため、ここ数年で明らかに減少傾向を示している。 記事は「売り上げの減少」、「コストの増加」、「成長性、潜在力の低さ」などが今回の調査における中国進出日系企業の悲観的な見方の主要な要因であると紹介している。 コストには調達コストや人件費が含まれるが、賃金上昇が悲観的な見方の一因になっていることが分かる。 12 年度から 14 年度調査時も「コスト増加」は中国進出日系企業の悲観的な見方の主要な要因の 1 つだった。 さらに「経営上の問題点」についても、12 年度から 15 年度調査すべてにおいて「従業員の賃金上昇」が 1 位だった。 中国の賃金上昇が投資活動にマイナス影響を及ぼしていることは明らかだ。 しかし記事は楽観的な見方をする企業と悲観的な見方をする企業とにそれぞれ明確な特徴があると指摘。 例えば製造業に携わる日系企業は比較的悲観的な見方を示しており、その中で今後 1 - 2 年の事業展開の方向性として「拡大」と回答したのはわずか 34.9% だったとする一方、非製造業に携わる日系企業は比較的楽観的な見方を示しており、そのうち 49.3% が「拡大」と回答したことを紹介した。 この調査結果は中国の産業構造が変化してきており、第 3 次産業が拡大していることを示すともいえる。 だが、日本の対中投資が近年、減少傾向にあることからも分かるとおり、中国国内における事業環境が日本企業にとって魅力が薄れてきていることも事実と言えよう。 (SearChina = 1-21-16) 中国の減速、日本の重しに 主要 100 社アンケート 主要企業 100 社への景気アンケートでは、中国経済の減速が業績に及ぼす影響をたずねた。 マイナスの影響が「大いに出ている」、「少し出ている」と答えた企業は、製造業を中心に計 41 社にのぼった。 今夏以降の中国経済の変調が、日本の景気回復の重しになっていることが浮き彫りになった。 マイナスの影響が「大いに出ている」と答えたのは 7 社、「少し出ている」は 34 社。 あわせて 41 社のうち、製造業が 32 社を占めた。 鉄鋼や自動車、電機など幅広い業種に影響が出ている。 非製造業を中心に、「影響はほとんどない」と答えた企業も 54 社あった。 日立製作所の中村豊明副社長は「建設機械事業を中心に生産や売り上げが減少している。」 日本ガイシの大島卓社長は「中国で携帯電話の基地局の投資が遅れており、関連部品の売り上げが落ちている」と話す。 中国のタイヤ需要の伸び悩みに直面する住友ゴム工業の池田育嗣社長は「新規取引先の開拓や新商品の投入などで拡販を進めている」という。 京セラの山口悟郎社長は「中国語が得意なエンジニアやセールスを応援に送り、販売を強化している」と話す。 (大内奏、宮崎健、生田大介、asahi = 11-23-15) 中国で人員削減の波 コマツ・太平洋セメントは 1 割 景気が減速する中国で日本企業が人員削減に踏み切る動きが広がってきた。 コマツと太平洋セメントは現地従業員の 1 割を削減。 東洋製缶グループホールディングスは中国での飲料缶製造から撤退する。 2008 年のリーマン危機後の景気対策で投資が急増した建設関連などでは、設備や人員の過剰が鮮明になっている。 人件費上昇に受注獲得のための価格競争激化も加わり、事業縮小を迫られる企業が出てきた。 コマツは 15 年度に入って現地従業員の 1 割に当たる約 500 人の人員削減を実施したことを明らかにした。 希望退職者を募集し、派遣社員らの契約延長を見送った。 14 年度までの 2 年間の削減が 500 人だったのに比べて 2 倍のペース。 建設工事の減少を受け、中国での建設機械・車両の売上高は、15 年 4 - 9 月に前年同期比 44% 減と大きく落ち込んだ。 神戸製鋼子会社のコベルコ建機も15年初めに浙江省杭州と四川省成都の工場にいた約 1,500 人の人員を 15 年末までに約 200 人削減する。 人員削減の動きは建材メーカーにも広がる。 太平洋セメントも中国で希望退職を募り、16 年をめどに 3 カ所のセメント工場全体の 1 割弱にあたる 100 人程度を減らす。 中国はリーマン危機後に 4 兆元(当時のレートで 57 兆円)の大型景気対策を実施し、建機や建材などで設備投資が急速に膨らんだ。 中央政府は足元の景気減速を受け、地方政府にインフラ投資の積極化を呼びかけるが、財政難の地方政府は及び腰だ。 各社は受注獲得のための値引き競争を繰り広げ、業績が悪化して、さらに価格を引き下げる悪循環に陥った。 生産過剰が鮮明になったのは建機や建材だけではない。 東洋製缶は中国のアルミ缶製造子会社を解散する。 現地企業の増産で価格競争が激化し、収益が悪化したためだ。 スマートフォン(スマホ)市場の成長鈍化などで設備投資も減速し、工作機械メーカーの経営を圧迫している。 ツガミは 12 日、16 年 3 月期の連結業績予想を下方修正した。 最終的なもうけである純利益は前期比 66% 減の 18 億円に落ち込む。 中国での売上高が 1 年前比で半減するためだ。 工作機械の可動部に組み込む「直動システム」世界首位の THK も今期の純利益が 133 億円と前期比 41% 減に落ち込む見通しだ。 従来は 231 億円を見込んでいた。 メーカーの間で人員削減の動きが広がる一方、小売り大手は雇用を増やして高水準の出店を続けている。 ファーストリテイリングは「ユニクロ」で年 100 店程度の出店を継続する。 柳井正会長兼社長は「中国は生活大国になる」と話し、消費の力強い成長が続くとの見方を示す。 衣料・雑貨店「無印良品」を展開する良品計画も、17 年 2 月期末には現在より 5 割多い 200 店体制とする計画だ。 個人消費の動向を示す社会消費品小売総額は 10 月に前年同月比 11.0% 増と堅調な伸びを示す。 人件費の上昇は企業経営の重荷だが、所得増加で日本企業の商品販売の追い風にもなる。 (nikkei = 11-13-15) 中国市場、明暗分かれる日本企業 ビールは薄利多売に壁 上海市の中心部に近く、交通量も多い住宅街。 ビール工場の正門の横の壁に、薄い水色の「SUNTORY」の切り文字看板が掲げられている。 この正門から 10 月 28 日午後 5 時すぎ、従業員が続々と出てきた。 ここで 30 年以上も働く白髪の男性 (59) は「いま、ストライキ中だ。 『青島ビールになったら、閉鎖されるのでは』とみんな心配している」と話してくれた。 サントリーホールディングスが合弁先の青島ビールに、譲渡を決めた工場の一つ。 約 200 人が働くが、この 1 年は生産が著しく落ち込んでいるという。 醸造担当の男性は「10 月は生産計画すらない状況だ。 私たちの運命はどうなるのか。」と声を落とした。 1984 年に外資として初めて、中国に進出したサントリー。 いまも上海のビール市場でのシェアは約 3 割あり、首位を走る。 中国メーカーと正面から価格競争を繰り広げ、「三得利(サントーリー)」のブランドは完全に地元で定着した。 工場近くのスーパーでは、主要ブランド「超純」の 580 ミリリットル入り 1 瓶が 2.9 元(約 60 円)で売られている。 今後も青島を通じて販売は続けるが、こうした「薄利多売」戦略は、曲がり角にぶつかった。 安い国産ビールの大瓶をダース単位で並べ、杯を重ねるスタイルは、若者にとってもはや過去のものとなりつつある。 酒店では、瓶入りのカクテルドリンクがよく売れる。 ドイツやベルギーのビールの味や店の雰囲気を取り入れたクラフトビールの店も、北京や上海には次々とオープンしている。 北京市内の大型クラフトビール店に行けば、1 杯 40 元(約 800 円)前後でも、週末の夜には空席を待つ列ができる。 ■ 即席めん、低価格は苦戦 「カップめんはもう、家に置いてない。 おいしくないし、体に悪いでしょ?」 26 歳の会社員の女性客は、ラーメン店を月に 2 - 3 回は訪れる。 この日は、北京市中心部の大型モールの地下 2 階にある日系ラーメン店「博多一幸舎」だ。 豚骨スープのにおいが漂う店内は、ほぼ満席。 ラーメン 1 杯は 40 元(約 800 円)前後するが、こうした価格が高めのラーメン店に行列ができる風景は大都市ではもう、おなじみだ。 一方で、これまで中国の工事現場の「主食」であり、鉄道の旅での「お供」でもあった即席めんの存在感は薄れている。 北京の大手コンビニエンスストアでは、カップめんの売り上げが目立って落ちてきた。 幹部は「カップめんは『からだに悪い』というイメージが強い。 健康志向の高まりもある。」と話す。 工事そのものが景気の落ち込みで減り、高速鉄道(新幹線)ができて旅の時間が短くなったことも、要因にあるとされている。 苦戦するのは、低価格を強みとしてきたブランドだ。 「白象」で知られるシェア 3 位の白象食品は昨夏、予定していた上場をあきらめ、本社をコストの高い北京から元の河南省に戻したことが話題になった。 シェア 4 位で、大型カップめん 1 個が 5 元(約 100 円)ほどの「今麦郎」は今年の上半期、販売額が昨年からほぼ半減したと報じられた。(西尾邦明、斎藤徳彦 = 北京、岡林佐和) ■ 日本企業、中高級路線に活路 人口 13 億人超の中国は、ビールでは世界の消費量の 4 分の 1 近くを占める最大市場。 即席めんも世界シェアは 4 割超と言われる。 しかし、豊かになった庶民は、手ごろな値段の「庶民の味方」だったビールや即席めんから離れつつある。 多様な選択肢が一気に流れ込み、消費者の好みがあっという間に変わっているためだ。 2014 年、中国のビールの年間生産量は、24 年ぶりに前年割れとなる約 5 千万キロリットルだった。 即席めんの消費量は 444 億食で、過去 4 年で初めて減った。 ピークとされる 08 年の約 500 億食からは 1 割以上も落ち、人口が増えていても消費は減っている。 中国をめざす日本企業が活路を見いだそうとしているのは、中高級路線だ。 アサヒビールは看板ブランド「スーパードライ」を中心に、中国事業が黒字に転じた。 「中国産より高級というイメージを保ち、増える中所得層をねらう(関係者)」戦略で進む。 キリンビールも、「一番搾り」の売り込みを都市部で急ぐ。 カップめん「元祖」の日清食品は、中国で一般的なバケツ形ではなく、縦型のカップが都市部の若者に「ファッション性がある」と人気という。 市場が縮むなかでも、14 年度の売上高は伸びた。 (asahi = 11-8-15) 習主席も止められない 中国ビジネス、腐敗の現場 中国国家主席、習近平が躍起になる政権中枢の腐敗撲滅。 その手も行き届かない闇が社会を覆っている。 ビジネスの現場も例外ではない。 現地に進出する日本企業の末端でも、仕事の発注の見返りに金品を要求する「キックバック」が横行する。 最前線の現場で "腐敗の実態" に迫った。 ■ 30 代課長、もう一つの財布 中国南部の一大経済圏、広東省 - -。 2,000 社を超える日系企業が集中し、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダなど日本の大手自動車メーカーが主力拠点を置く、日本にもなじみの深いこの街で、日系の大手自動車部品メーカーに勤務する 30 代前半の中国人男性、寧恩達(仮名)が、腐敗に手を染め始めてから、もうすぐ 1 年になる。 見た目は小柄で、非常に真面目な雰囲気。 身なりもきっちりとした IT (情報技術)管理部の課長だ。 寧の給料は月額 5,000 元(約 10 万円)。 一般的な民間企業に勤める中国人の給料は数万円だから、待遇は良いと言っていい。 ところが彼には、実はもう一つ別の財布がある。 「キックバック専用」の財布だ。 昨年 12 月、4 年間務めた前任の中国人の課長から引き継ぎ、手に入れたその "黒い財布" には、給料の 4 倍の 2 万元(約 40 万円)が毎月、自動的に振り込まれるようになった。 振り込んでくるのは、寧が IT 管理部の課長権限で毎月発注するパソコンやモニター、プリンターのインクなど、工場で日常的に使う各種製品を取り扱う IT 関連の中国企業だ。 製品を毎月、寧に大量に発注してもらう代わりに、発注価格の 10% 分を「お礼」として、寧にキックバックしている。 寧が勤務する日系企業の従業員は、現在約 2,000 人。 IT 関連の製品だけでも毎月の発注金額は 400 万円ほどになるため、その 10% の 40 万円がキックバックされ、寧の懐に入る仕組み。 だから、寧は正規の給料の 10 万円と合わせ、合計毎月 50 万円を、この日系企業で稼いでいる計算になるのだ。 寧にも、もちろん後ろめたいことをしている自覚はある。 だからこそ月々 40 万円ものお金の振り込み先は、寧本人の銀行口座ではなく、寧の妹の口座にして、毎月振り込んでもらってきた。 だが、それでもまだ寧は不安になったのか、ここ 2 カ月は、中国で人気のスマートフォンのアプリ「微信(ウィーチャット)」の決済サービスを使って送金してもらい、銀行間の直接取引は止める念の入れようだ。 ■ 「権限委譲、好都合だった」 しかしなぜ、コンプライアンス(法令順守)に厳しいはずの日本企業で、こんな不正が可能なのか。 寧に毎月、キックバックを振り込む IT 関連企業の中国人男性担当者、張建新(36、仮名)との接触に成功した。 彼は中国ビジネス社会の常識や裏側を、分かりやすく、丁寧に語り始めた。 「中国でビジネスをするなら、何かしらの便宜やキックバックは欠かせません。 何も無ければ、人は動かない。 仕事は永遠にもらえない。 ただ、それだけですよ。」 張はそう言い切った。 張が勤める中国企業は中国では中堅クラスの IT 企業。 取引先は、ほぼすべてが中国に進出する大手日系企業だ。 張によると、取引がある 100 社の日系企業のうち、約 90 社の日系企業でこうしたキックバックの裏取引が「中国人同士の間で日常的に行われている」のだという。 「今のキックバックの相場は 5 - 10% (張)」だが、「こんな中国ビジネスの常識ですら、日系企業の駐在員の日本人ビジネスマンは良く分かっていません。」 張はそう言って話を続けた。 「彼ら大手の日本企業のサラリーマンの中国駐在は、おおよそ 4、5 年と短く、複雑な中国人社会や中国ビジネスをよく理解しないまま、人事異動で日本へ帰国してしまいます。」 「それでいて日本企業は最近、一生懸命、現地化が大切だとか、中国人に権限を委譲すべきだとか、中国になじもうと努力はしてくれてはいるが、それは反面、中国人にとっては非常に都合の良いことだった。」と張は話す。 なぜなら、「中国人に権限を委譲してくれる分、キックバックなど裏取引はやりやすくなる」からだ。 「ただ、仮にもし日本人社員が中国人社員の不正に気付いたとしても、日本人はおとなしいからなのか、中国人同士の面倒な事に巻き込まれたくないのか、大抵何も言ってこない。」 張は少し苦々しい表情で、こう中国ビジネスの裏側を語った。 ■ 偽領収書で経費水増し 寧が勤める日系大手自動車部品メーカーの場合も、状況は全く同じだ。 IT 管理部門で働く寧の上司の部長は、40 代男性の日本人。 中国駐在歴は約 1 年とまだ浅く、「中国の事情をあまり良く分かっていないまま、今も仕事を続けている(張)」といい、一見、真面目に見える部下の寧にも、全幅の信頼を寄せているのだという。 そんな日本人上司の下で働ける寧が喜んでいるのは言うまでもない。 「まさか裏でキックバックの取引が行われているとは、日本人の部長は全く思っていない(同)」のだ。 張は問題の核心、キックバックの費用をどう会計処理しているかについても語り始めた。 「一般に中国の民間企業の場合、社員が、家族や友人と食事に行った時、会社名義で領収書をもらうなど、普段から会社全体で領収書をあちこちから集める工夫をしています。 それでも、キックバックなどで客先に支払った金額に比べ、到底足りませんから、足りない金額分は、領収書を専門に売る業者のところにわざわざ買いに行って、帳尻を合わせるのです。」 実際、中国には、領収書を不正に販売する業者が山ほどある。 ■ 車の中で、札束を 「私は絶対に足跡が付かないように、銀行口座は使わず、キックバックは、いつも現金で相手に手渡ししています。」 中国内陸部の中核都市、湖北省武漢市。 経済発展著しい同市内の中心部で、大手企業向けに通信関連のシステム工事を手掛ける企業のトップ、中国人男性の李金平(50、仮名)はこう打ち明ける。 この会社は電子部品や自動車関連メーカー向けに、各種のシステム工事を手掛けているが、やはり「取引先の中国企業はもちろん、大半の日本企業の取引先でも、当たり前のように中国人担当者からキックバックを求められ、裏取引を行っている」という。 手口はいつも同じだ。 まずは商品を注文してくる先方の日系企業の中国人担当者から、李の会社に、システムの注文段階で合図が送られてくる。 例えば「今回はプラス 1 で」といった具合だ。 プラス 1 とは 1 万元(約 20 万円)のこと。 プラス 6 なら 6 万元(約 120 万円)だ。 それがつまりキックバックの要求金額になる。 そのキックバック分の金額を、見積もり金額の中にうまく入れ込み、先方の会社に、正式な見積書として提出するのだ。 そうして、商品を注文してくれる中国人担当者の "指示通り" に作った見積書を、提出しさえすれば、仕事は予定通りに落札、受注させてもらえる。 その後、システム工事が無事完了した段階で、李はいよいよ工事を発注してくれた中国人担当者を、電話で食事に誘い出す。 2 人だけで食事を済ませた後、李が車で相手を自宅の目の前まで送り届けた段階で、誰も見ていない車の中で、資料に札束を入れた封筒をはさんで手渡すのが、李のいつものやり方だという。 「相手は何も言わずに黙って受け取ってくれ、次の仕事のチャンスをまたくれる。」 いつもがこの繰り返し。 キックバックの相場はやはり、工事代金の 5 - 10% だ。 ■ タイミング良く席を立つ 日本人がまったく蚊帳の外かというと、そうでもない。 「もう、私は、中国ビジネスのやり方に、慣れ過ぎてしまいましたけど …。」 そう話すのは、広東省広州市に拠点を持つ、ある日系大手の上場企業で営業マンを務める日本人男性の高塚克彦(44、仮名)だ。 彼には、10 年近い長年の中国駐在経験で身につけたちょっとした "技術" がある。 中国に進出する日系メーカーを中心に営業をかける高塚の会社では、営業に強い中国人の営業マンと、技術に強い高塚のような日本人の営業マンが、ペアを組んで、客先に営業をかけるのが、社内ルールになっている。 そんなスタイルで日々営業を重ね、客先の会社でようやく商談がまとまりかけると、日本人の高塚はきまって、携帯電話に電話がかかってきたフリをして、商談中、席を外すのだという。 その理由は、「キックバックの相談を中国人同士で話ができる環境をつくってあげる(高塚)」こと。 中国ビジネスではそれがマナーで、重要だと言うのだ。 いくらキックバック慣れした中国人でも、引け目はあるのだろう。 「日本人の前で、そういう話はしたくないのは、彼らのせめてものプライドなんです。 だから私は、自然な形で席を立ち、中国人のプライドを傷つけないよう心がけている。」という。 もちろん高塚自身、日本人として、思いは複雑だ。 取引先の日系企業に勤める若い中国人社員が、自分がもらう給料の何倍ものお金をキックバックで得て、数千万円のマンションを買い、高級車に乗る姿を幾度となく見てきたからだ。 業種で見ると、広告業界、建設業界、自動車関連業界、IT 業界、不動産業界など、扱う商品やサービスの金額規模が比較的大きかったり、商品の価格設定が分かりにくい業界で、やはりキックバックが横行し、腐敗の温床となっている場合が多い。 しかし、高塚は「この中国のビジネスの世界で、顧客からのキックバックの要求を断らずに商売をやることは相当厳しい」と切実に打ち明ける。 自らがやめても、やめない会社は中国には無数にあり、「それらの会社に仕事を持っていかれるだけ」だからだ。 ■ 庶民にはびこる腐敗 中国には誰もが知る有名なことわざがある。 「過了這個村,没這個店」 村をいったん通り過ぎてしまえば、もうお店を見つけることはできない - -。 日本のことわざで言うなら、「柳の下の泥鰌(どじょう)」。 柳の下で一度、泥鰌を捕まえたからといって、いつもそこに泥鰌がいるとは限らない。 いつも幸運を得られるものではないという戒めを込めたことわざだが、今の中国では、こんな解釈がはやっている。 「その職場で、権限を使わないと、2 度とチャンスは訪れない - -。」 習近平は「虎(大物)もハエ(小物)も同時にたたく」とのスローガンを掲げ腐敗撲滅運動を推し進める。 共産党内部の権力闘争はいまだ冷めやらず、大物取りが連日、報道で伝えられる。 それを見てスカッとしている庶民が実は腐敗に漬かっているのだ。 子供を有名大学に入れるための袖の下は序の口だ。 将来自分の子を共産党幹部にしようと、小学校の学級委員にさせたり、病院で不機嫌な看護師から機嫌良く注射 1 本を打ってもらったり、ただそれだけのためにカネが動く。 社会のありとあらゆるところで、賄賂の類いが頻繁に行き来する、それが中国の一面である。 日本の場合、一般企業でも従業員が取引先から裏リベートを受け取れば就業規則違反による懲戒免職に相当する。 それだけでなく、本来値引きで会社の利益になる分をキックバックとして受け取ったことが立証されれば、背任や詐欺、業務上横領などの刑事責任を問われる可能性もある。 雇用主の企業にとっては思わぬイメージダウンにつながりかねない。 独フォルクスワーゲンや東芝の不祥事で企業統治にこれまでにない厳しい目が注がれる中、日系企業はいつまで見て見ぬふりをできるだろうか。 今年 1 月、日立製作所の中国エレベーター合弁子会社のトップが突然、当局に拘束されたことが明らかになった。 汚職容疑だった。 容疑は日立合弁での業務に関わるものなのか、別にトップを務める国有企業でのものなのか明らかになっていない。 だが、彼の下で仕事をしていた中国人社員が最近、こんな事を話してくれた。 「捕まったあの方は、我々のような日系の外資企業が、中国ビジネスでいかに勝ち抜くか、まさにそれを全身で教えてくれた立派な人でした。 だからこそ、うちは中国では大きくなれました。 ですが、あの方が突然いなくなり、今後、うちのような日系企業がどうなるのか心配です。 中国では建前だけでは会社は大きくはなれません。 大きな仕事を取るためには、人脈が必要です。 人脈をつくるには、多くのお金がかかるのが現実です。」 今回の取材では、紹介し切れぬほど、数多くの日系大手の企業の名前が挙がってきた。 改めて、中国に駐在する日本人ビジネスマンに感想をたずねてみると、こんな答えが返ってきた。 「これ(腐敗)は、もはや中国の商習慣なんです」、「中国の文化、必要悪なんです」、「いまさら言ったところで、しょうがない」、「目をつぶっておいた方がいいんですよ」、「知らないふりが一番」、「そっとしておいた方がいいんですよ」。 (広州 = 中村裕、nikkei = 10-19-15) 外資企業から「奪い取る」中国 巨額罰金、資産や技術を収奪 シチズンの中国法人、西鉄城精密(広州)有限公司が撤退に当たって難題を抱えている。 シチズンは現地工場閉鎖の決定を発表したのだが、大きな反発を受けた。 同工場従業員に閉鎖を発表したのが 2 月 5 日で、生産ラインを止める当日だったという。 1,000 人を超える従業員たちは、雇用契約終了を受け入れる確認を 2 月 8 日限りで求められた。 中国では 20 人以上を解雇する場合、1 カ月以上前に従業員へ通告しなければならない。 2 月 10 日付朝日新聞によれば、シチズン側は「今回は解雇ではなく、会社の清算なので適用されない」としているが、7 日には抗議のデモが起こり、10 日朝の時点で 60 名弱が同意書にサインしていないという。 さらに悪いことに、現地で大きく報道されている。 その後、退職金に 2 カ月分の賃金を上積みすることにより、全従業員からの解雇同意を取り付けたという。 シチズン側は退職金の総額は明らかにしておらず、実際には相当の授業料を払って事態の収拾を図ったとみられる。 尖閣諸島問題などで反日感情は高まっており、12 年 9 月には中国全土 100 以上の都市で反日デモが起き、一部では暴徒化したデモ隊が日系スーパーや日本企業の工場を襲った。 シチズンの工場閉鎖争議が現地で報道されたということは、この工場も一触即発の状態だったことが想像される。 中国で種々の問題が起こると、日本企業は糾弾されやすい。 シチズンのようなケースの場合、まず地元で裁判を起こされるリスクがある。 あるいは行政により罰金を課せられる事態も想定しなければならず、その場合は 2 カ月の賃金上乗せどころではすまなくなり、懲罰的に高額な金額となるだろう。 さらに工場が保有している機器などの資産も差し押さえられたり、没収されることだろう。 工場内の資産は日本に返ってこず、技術情報など特許関係の知的財産まで収用されてしまう恐れもある。 折しも今月、中国は米半導体大手クアルコムが独占禁止法に違反したとして、約 1,150 億円もの巨額罰金を科したことが明らかとなった。 中国に進出する企業の間では「独禁法が恣意的に使われている」との批判も強く、中国が政治的あるいはビジネス戦略的に同国へ進出した外資系企業に対して独禁法を適用しているという見方が有力だ。 ● 往きは良い、帰りは怖い 中国への日本メーカー進出がブームとなったのは円高が急速に進んだ 1990 年代後半だった。 筆者は香港企業の日本法人社長という立場で、中国事情に目が開いた立場にあった。 当時、中国進出を検討していた日本メーカーに筆者は、「香港の華人系企業なら中国内でうまく立ち回れる。 彼らと組んで進出しなさい。 でなければ、撤退する時に何も持ち帰れませんよ。」と助言していた。 現在、日本メーカーの製造拠点国内回帰の動きが広まっているが、海外生産から撤退する企業は注意が必要だ。 例えば、1989 年にファッション品メーカーのスワニー(香川県)が韓国工場を閉鎖した際、現地従業員が同社の香川にある本社まで抗議に押しかけたトラブルが発生したが、そんな悪夢が再現されてしまう恐れもある。 アジアへの生産拠点進出を検討している企業に対し、筆者は韓国とフィリピンは避けるように助言している。 前者には対日感情、後者には治安の問題があるからだ。 「往きは良い、帰りは怖い」ということを、海外進出、特に設備投資額が大きくなる生産拠点進出の際には肝に銘じる必要がある。 (山田修、Business Journal = 2-23-15)
日系企業も大揺れ 中国、反腐敗の大波 中国人幹部も標的に 東京都千代田区の日立製作所本社からほど近い場所に、一般には公開していない迎賓施設がある。 通称 EBC (エグゼクティブ・ブリーフィング・センター)。 付近のビル街に秋風が吹き始めた昨年 9 月末、高級ホテル並みの調度品をそろえた VIP 専用の施設に一人の中国人が現れた。 ノーネクタイで紺のスーツに身を包んだ男の名は潘勝●(桑の又が火、64)。 20 年以上にわたって日立の中国でのエレベーター事業をけん引してきた人物だ。 EBC でのもてなしに満足げな笑みを浮かべていた潘は中国に帰ると、その後の成り行きを悟ったかのように身辺整理に動き出した。 潘は中国で日立のエレベーターを扱う子会社、日立電梯中国の総裁を務めつつ、同社に出資する国有企業、広州広日集団のトップも兼ねていた。 だが昨年 10 月 16 日付で潘は広日集団の職を「定年」を理由に突如辞した。 年が改まった 1 月 6 日。 共産党の広東省規律検査委員会が潘を「重大な規律違反と違法行為」の疑いで調査していると発表すると、潘は表舞台から姿を消した。 「労働者上がりの僕が日立に日本語や技術を学ばせてもらいトップになった。 こんな男は(階級社会の)中国にいないよ。」 周囲にそう漏らした潘が何の容疑で拘束されたかは今もわからない。 日立は「事実関係を調査中」とだけコメントし、関係者は「潘に連絡が取れず、決裁を仰げない。 事業が滞ってしまう。」と戸惑う。 約 2 週間後、潘の側近で、日立のエレベーター子会社の要職も務めた広州広日集団の副総経理まで拘束された。 習近平 (61) 指導部が進める反腐敗運動は党幹部や官僚にとどまらず、現地に進出する日本企業にも芋づる式に追及の手を伸ばしている。 「すべての役職から引いてもらいます。」 昨年 12 月 19 日に日産自動車の中国合弁、東風日産乗用車副総経理の任勇 (51) が党中央の規律検査委の調査を受けていることが明らかになった。 党側は同社の従業員に対し任の全役職からの辞任を一方的に通告した。 調査の詳しい理由はここでも明かされなかった。 潘と任はともに地元政財界に厚い人脈を持つ。 日系企業は事業拡大のテコに頼る一方、権力との近さはカネに絡む噂を生みやすい。 見て見ぬふりをしてきた闇が反腐敗の名の下に暴かれ「パンドラの箱」が開き始めた。 沿海部の地方都市で、ある日系企業が震えている。 数カ月前から中国人の副総経理が地元当局から任意で取り調べを受けているからだ。 「この取引先にだけ、なぜ割安で提供したんですか。」 言葉は丁寧でも厳しい表情で繰り返し尋ねる担当者に、副総経理は苦しい表情で答える。 「販売促進のキャンペーンです。」 1 回あたりの聴取は 4 - 5 時間に及ぶという。 押し問答の末に浮かんできたのは特定の取引先に対する便宜供与をあぶり出そうとする当局の強固な意志だ。 取引先はすでに摘発を受けた役人の親族の会社だった。 割引は見返りを求めた賄賂ではないか。 日本人総経理は「知らなかった。」と言うが、それで済むのか。 日本人の経営者の管理責任はどこまで問われるのか。 日々、社内に疑心暗鬼が膨らんでいる。 「採用のプロセスが適切だったのか、すぐに調べろ。」 上海の米系企業の人事・労務担当者に今、中国人の就職の経緯を洗い出すよう号令がかかる。 中国を牛耳る党・政府関係者に接近するため子息の「コネ入社」も珍しくなかった。 子息の一族が反腐敗の網に引っかかったら ・・・。 担当者は万が一のリスクを最小化しようと必死だ。 「販売代理店から高級腕時計を贈られてきた。 相手のメンツを立てながらどう返せばいいか。」 贈答品の一つ一つに神経を使う日系企業の社員を前に西村あさひ法律事務所で上海駐在の弁護士、野村高志 (50) は賄賂のイロハを教える講演を重ねる。 「毎月数件は依頼が舞い込む。 最近は日本人幹部だけでなく、中国人幹部らを対象にするものが多い。」 中国で 10 年以上、日系企業を助けてきた野村は焦りの広がりを実感する。 (敬称略、nikkei = 2-3-15)
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