中国経済復調という誤ったシグナル = 武者陵司氏

武者陵司 武者リサーチ代表(2013 年 9 月 4 日)

中国ではここ数カ月、予想外の変化が起こっている。 それは、複数の統計指標に改善の兆しが見られることだ。 前月比 0.7 ポイント上昇して 51.0 と、1 年 4 カ月ぶりの高水準を記録した 8 月の製造業購買担当者景気指数(PMI、中国国家統計局発表)もさることながら、一番意外だったのは鉄鉱石輸入が 6 月の低水準から一転し、7 月に過去最高の 7,314 万トンまで大幅に増加したことだ。 7 月の貿易額も、輸出入ともに予想を大きく上回った。 中国が最大の需要家である銅などの国際的なメタル市況にも顕著な改善が確認できる。

筆者は当初、中国経済の息切れは間近だろうと考えていた。 実質経済成長率は 2010 年の 10.4% から、11 年は 9.2%、12 年から 13 年第 2 四半期にかけては 8% 台を下回り、リーマンショック直後を除き、2000 年代では最低水準まで落ち込んでいた。 これを受けて、モノの動きもほとんど止まり、前年比 2 - 3 割増のペースで伸びてきた貿易額は前年並みの水準まで落ち込み、6 月には 12 年 1 月以来 1 年 5 カ月ぶりに輸出が減少に転じた。 複数の指標が、中国の景気失速を暗示していたのだ。

それだけに、7 月以降の急改善はあまりに不自然な感じがする。 世界貿易が大きく上向いているならば納得もいくが、その勢いはない。 投資から消費主導への中国経済の構造改革が、結果を数字で示せるような段階に入っている証拠も見当たらない。 要するに、この復調は権威主義的な「官製経済」の賜物なのだろう。 具体的には、インフラ整備加速など当局による各種景気テコ入れ策を見込んだ、期待先行の受注増や生産増、在庫積み増しが起こっているものと見られる。

確かに、指標を信じる限り、ただちに景気失速から経済困難に向かうことはないとはいえそうだ。 パッチワーク的な国策動員によって、しばらくは安定した時代が続くのかもしれない。 しかし、公的支援への期待に頼る投資主導の経済成長は、端的に言えば、「騙し」であり、持続不可能であり、何よりさらに深刻な経済困難を招来する可能性がある。 以下、中国経済の真の問題点を整理してみよう。

成長率は 4% 下回る可能性も

まず、中国にとって目下最大の問題は、経済成長をけん引してきた投資の採算性が悪化するに伴い資金不足が深刻化していることである。 株価の低迷に企業収益の悪化も重なって、増加し続けてきた海外からの資金流入はこのところ、勢いを失っている。 たとえば、野放図とも言える高投資の源泉となってきた外貨準備の対名目国内総生産 (GDP) 比率は、1980 年代の 1% 以下から、95 年 10%、2000 年 13%、10 年 49% と急上昇してきたが、12 年には 40% へと急低下、13 年前半では 38% 程度である。

むろん依然として高水準だが、これは非合法な資金流入によって嵩上げされてきたためだろう。 具体的には、輸出額の水増しが主な裏ルートになっていた可能性が指摘されている。 つまり、実額を上回る輸出額を申告し、為替管理が厳しい中国に海外から送金していた可能性がある。 中国と貿易相手国における統計上の不整合もそれで説明がつく。

この非合法の資金流入は、中国当局が今年 5 月に輸出統計の管理を厳格化して以降、ある程度抑制されたと見られる。 輸出額が減少した 6 月の貿易統計はそれを反映したのではないだろうか(7 月は輸出入ともに増加したことを考えると、政策期待などによって当面は糊塗できるのかもしれないが)。

ちなみに、6 月下旬に上海の金融市場で短期金利が跳ね上がったが、これも金回りが悪化したことと無縁ではないだろう。 もともと国際投資家の対中投資が抑制されている中で、中国人のイニシアティブによる海外からの資金導入が細った。 その結果として、クレジットクランチ(信用収縮)が一気に深刻化したと考えられる。 短期金利の急騰を中国人民銀行(中銀)によるバブル抑制姿勢の表れと評価する向きもあるが、それは一面にすぎない。 むしろ、中銀の予想を上回る信用収縮が生じていたためと考えるべきだ。

そもそも中国の投資主導型経済は、常識的な限界を超えている。 主要国の総固定資本形成の対名目 GDP 比率を見ると、そのいびつさがよく分かる。 韓国の 26.7%、日本の 21.2% やドイツの 17.6%、米国の 15.8% に対して、中国は 45.7% にも達する(12 年)。 固定資本形成が GDP のほぼ半分を占める計算だ。

経済合理性ではなく共産党の事情によって推進されてきた不動産投資、企業設備投資、公共投資は、その多くが不良投資化している可能性が高い。 他方、過度の投資主導型成長が追求される中で資本分配率の適正化は図られず、労働分配率は異常なほど低く抑えられたままだ。 富は国家と企業に集中する一方で、低所得者層が増え、都市部以外では消費力も高まっていない。

この状況は、非常に厳しい未来を暗示している。 会計上の投資とは、端的に言えば、費用の資本化、つまり先送りである。 将来の投下資本の回収義務、償却負担は発生するものの(つまりコストは決まっているが)、果実は不確定なのだ。

統制経済の中国の場合、需要に基づかない投資がより長期にわたり持続する可能性はあるが、永遠はあり得ない。 いずれ限界に達したときは、成長率は 5 - 7% 割れどころでは済まない可能性が高い。 消費は中国の GDP を 4% 程度押し上げているに過ぎず、投資の伸びが止まれば、一気に 4%、もしくはそれ以下の水準まで落ちる可能性は十分あるのだ。 場合によっては、中国経済の突然死、数十年にわたる長期停滞が起きても何ら不思議ではないということである。

実は米国もかつて 20 年間にわたってピークの需要を超えられないという長期の経済停滞に陥ったことがあった。 1929 年に 540 万台でピークを迎えた自動車販売台数が大恐慌を経て、その水準を超えたのは第 2 次世界大戦後の 1949 年のことだった。

むろん、消費主導型経済の米国とは単純に比較できないし、中国政府は恐らく様々な施策で市場をマニピュレート(操作)し続けようと試みるだろう。 最後の頼みの綱は恐らく資産価格上昇に働きかけることだろうが、企業収益が悪化する中で、株価や不動産をいくら押し上げようとしても、限界がある。 市場経済の「いいとこ取り」をしてきた中国が、市場のリベンジ(報復)を受けるのは時間の問題だと考えている。

消費主導への脱皮は絶望的に困難

筆者は、中国の消費主導型経済への脱皮の可能性についても悲観している。 投資から消費への成長率の誘導は、減税や財政出動などで民間の消費力を喚起するケインズ的な政策によって可能になるが、中国ではそうした政策がうまくいきそうにない構造的事情がある。国営企業を中心とする既得権益層の存在である。

国営企業がインフラなど非常に重要な部分を占め、独占価格によって高い収益を得て、そこにぶら下がる形でいろいろな既得権益が広がっている。 この仕組みを温存したままでは、民間主導の所得配分によって労働分配率を上昇させた日本型の持続的高度成長は実現できない。

また、戸籍制度など労働移動の制約もあって、労働力のミスマッチが国全体として調整できない点も大きな問題である。 とはいえ、この国営企業改革と労働改革は、いずれも中国の特権階級の基盤そのものを揺さぶりかねない。 そうした中で現在、習近平政権が前面に打ち出しているのは、汚職摘発、あるいは「中国の夢」といった理想論だ。 民主主義の強化や市場経済化の推進とは逆方向に求心力を動員しているように見える。 これでは、経済構造改革は絶望的に難しいと考えざるを得ない。

中国の地盤沈下は凶報ではない

最後に、このように深刻な問題を抱える中国経済と、日本企業はどう付き合っていけば良いのか、持論を言い添えておきたい。 突き詰めれば、その答えは、中国を生産拠点ではなく、最終需要地として扱うことだと思う。 経済成長のけん引役として消費が投資に取って代わるシナリオが期待薄だとしても、中国が巨大市場であることに変わりはない。 市場的なメリットは依然として大きい。 しかし、安い労働力の供給基地として期待を寄せる時代はすでに終わったということだ。 中国進出のモティベーションは大きく変わる必要がある。

はっきり言って、容易にコモディティ化してしまいそうな商品を主力とする企業は、中国に本格進出しないほうが良い。 圧倒的な技術優位性があり、それをブラックボックス化できる自信がある企業だけが中国に製造拠点を設けるべきだ。 後はコンビニのような日本的なビジネスの仕組みが中国で根付くかどうかだろう。 いずれにせよ、中国で成功するビジネスは今後ますます限定されていくのではないか。

ちなみに、中国経済の失速が世界経済にとって凶かと言えば、それは違うと考える。 中国の地盤沈下は、同国が独り占めしてきた世界の供給拠点を他の地域に譲るということだ。 その地盤沈下によって、他のアジア諸国やメキシコなどにチャンスが広がるということだ。 これらの国は、中国やロシアのような権威主義型の経済ではなく、市場資本主義に非常にフレンドリーな新興国である。 その興隆は、世界経済にとって吉報となるはずだ。 (Reuters = 9-4-13)

武者陵司氏は、武者リサーチ代表。 1973 年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。 87 年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。 その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97 年ドイツ証券入社。 調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。 2009 年より現職。


中国の地方政府、シャドーバンキングで膨らむ債務

[上海] 中国の経済成長は明らかに鈍化しているが、信用の伸びは止まらない。 将来性のないプロジェクトや衰退産業が信用の大半を飲み込む一方で、より生産性の高い借り手は資金繰りに窮している。 こうした状況は、銀行の通常の預金・融資とは別ルートで資金を集めるシャドーバンキング(影の銀行)で顕著だ。

国内の預金者に高利回りの金融商品を販売し、その資金で新規融資を行ったり資産を購入する信託会社は急速に成長している。 信託会社は、2012 年に保険業界を抜き、中国の金融セクターで、資産規模で最大の商業銀行分野に次ぐ規模となった。 信託部門はシャドーバンキングに占める割合が最も大きい。

ロイターは、信託商品や理財商品などのデータを収集するリサーチ会社、Use-Trust Studio から入手した 2012 年に行われた総額 2,340 億元(1,166 件)の信託融資を分析した。 これは、2012 年に行われた総額 3 兆元の信託融資の約 8% に相当する。 それによると、2012 年の信託融資のうち、新たな投資プロジェクトや既存設備の生産性向上など、現在の経済活動のために使われたのはわずか半分程度で、残りは、もはや経済成長に寄与していない過去のプロジェクト資金の借り換えだった。

これをみると、融資状況と経済成長が関連していないことが分かる。 多くのアナリストは、中国の経済成長が信用に依存する度合いが増していることを懸念している。 これまでと同じ成長率を維持するには、今以上の借り入れが必要になる可能性がある。 GK ドラゴノミクスのマネージングディレクター、アーサー・クローバー氏は、2009 年以降の中国経済成長は、不釣り合いなほどの信用の伸びにより実現されてきたが、その結果、地方政府や国有企業は返済不可能な債務を抱えることになった、と指摘する。

高金利の信託融資

信託融資は中国の債務問題を探るうえで有効な手がかりとなる。銀行融資とは異なり、信託会社は通常、投資資金を集めるために金融商品の販売資料で融資先を公表している。さらに、投資資金がどのように活用されるかといった詳細も公表していることが多い。

信託融資は通常の銀行借り入れや債券・株式市場で資金を調達できない借り手にも貸し出しを行う。 Use-Trust のデータをみると信託融資を含むシャドーバンキングの不透明な世界が浮かび上がってくる。 リサーチ会社 CN ベネフィットの Fan Jie 氏は「現時点で信託融資は中国に参入する上で最もハードルが低い資金調達方法だ。 そのため、もちろん借り入れコストは高くなる」と指摘する。

ロイターが分析した信託商品は、投資家に対して年 9 - 12% のリターンを提供する。 これは銀行が販売する金融商品の通常のリターン (5 -7%) を大きく上回る。 通常融資の 1 - 2% となる信託会社への手数料を入れると、地方政府や企業は 1 - 2 年の借り入れに最大 15% の金利を支払う。 一方、同様の銀行融資の金利は 7% 程度。 高金利により債務返済は困難になり、借り換えがますます増える。

ロイターの調べでは、信託融資のうち、借り換えに使われたのは 4% に過ぎなかった。 ただ、37% は「運転資金」や「流動性確保」など使途があいまいで、専門家はこうした融資もたいていは借り換えのための資金調達、と指摘する。 さらに 8% は使途が明らかにされていない。 ある信託会社の幹部は、地方政府は、新規融資を既存の債務返済に充てる方法を心得ている、と指摘。 「審査を行っている段階でそれは分かるが、指摘する者は誰もいない」と語った。

天津市の例

中国で 5 番目の規模の天津市の例をみると、赤字を抱える地方政府や企業がいかに中国のシャドーバンキングに頼っているかを垣間見ることができる。 ロイターの信託データの分析と天津市が公開している同市最大の資金調達機関の資料によると、同市が過去の債務返済のために高金利の資金調達に依存していることが明らかになる。

同市は金融センターの創設に向け 2009 年から 1,600 億ドル以上を投じている。 これは三峡ダム建設に投じられた資金の約 3 倍。 2011 年には 16.4% の成長を記録した天津市だが、47 の超高層ビルが建設された金融地区は、国内最大の無用の産物となっている。 北京に既にオフィスを構えている主要金融機関が天津市でもさらにプレゼンスを高める理由は見当たらない。

地方政府は直接資金を借り入れることが禁じられているため、天津市も他の都市同様、資金調達機関を通じて借り入れを行った。 融資関連資料によると、同市が債務返済のために新規融資を受けたことは明らかになっていない。 ただ、借入額や時期をみれば返済のための資金調達であることはほぼ間違いない。 Use-Trust Studio のデータによると、2012 年の春に同市の最大の資金調達機関である Tianjin Infrastructure Construction and Investment Group と子会社は信託融資で 40 億元を借り入れたが、その大半は金利が 10% を上回っていた。

CITIC トラストからの 20 億元の融資に関しては、CITIC のウェブサイトでは、調達資金は複数のプロジェクトの建設および運転資金に充てられる、と公表されている。 ただ、新規融資から数日以内に、30 億元相当の 2009 年融資の元本と金利支払いが期日を迎えることをみれば、資金が実際にプロジェクトのために使われたかは疑わしい。

CITIC トラストのバイスプレジデント Wang Daoyuan 氏は、貸し手にとり、貴重な顧客の融資が返済期限を迎える時に新規融資を行うのはよくあることだ、と語った。 天津市公表資料によると、同市の資金調達機関は、2013 - 2019 年の間に 2,460 億元の融資処理コストに直面する。 投資のマイナスリターンが何年も続き投資コストを回収できる見込みが当面ないなか、天津市は債務返済のための借り入れ継続を余儀なくされる可能性が高い。 (Gabriel Wildau、Reuters = 8-26-13)


中国小都市でも、住宅ブームに暗雲 経済成長の柱揺らぐ

[北京] 中国の比較的小規模な都市で不動産が供給過剰に陥っている。 中国経済が不動産市場頼みの様相を強める中、10 年間続いた住宅ブームがあとどのくらい持ちこたえられるか疑問が生じている。 投機的な購入を一因とする過去数年間の住宅建設ラッシュで、一部の開発業者は、ひとたび市場が減速すれば販売し切れないほどの住宅を建てた。 現在懸念されるのは、市場があまりにも急速に冷え込み、今でも動いている数少ない経済のエンジンが止まるリスクだ。

北京の新築住宅価格は 7 月に前年同月比 14.1%、上海は同 13.7% 上昇したが、より小規模な都市は遅れをとっている。 国家統計局のデータによると、中国の上位 70 都市の新築住宅価格は平均で前年同月比 7.5% の上昇にとどまった。 北京のコンサルタント会社、ゲーブカル・ドラゴノミクスの主任アナリスト、ロシーリー・ヤオ氏はリポートで「今でも中国の大半の都市住民が暮らしている何十もの小都市は、必要以上の数の住宅を抱えている。 こうした過剰供給が今後数年間、全国の建設拡大の大きな足かせになるだろう。」と述べた。

不動産セクターの健全な発展

厳しい住宅市場管理が敷かれる前に投機過熱に苦しんだ温州市では、約 2 年間にわたり住宅価格が下落している。 7 月は前年同月比 2.4% の下落となった。 苦境に陥った温州市は今月、最も厳しい不動産市場規制措置を一部緩和した。 同市の住宅価格下落は例外的な現象とはいえ、中国の景気減速と、住宅市場への取り締まりが厳し過ぎるのではないかとの懸念が高まる中で象徴的な出来事となった。

中国政府は 7 月 30 日、「不動産セクターの着実かつ健全な発展」を維持すると約束した。 政府指導部は経済における住宅セクターの重要性を痛いほど分かっており、価格高騰により何百万もの世帯が住宅を買えなくなるとの懸念をいったん脇に置いたと業界幹部やアナリストは受け止めている。 CLSA アジア太平洋市場の主任中国ストラテジスト、アンディー・ロスマン氏は「当面は価格上昇を抑えるために住宅購入に新たな制限を加えないという、明確なメッセージだ」と言う。

株式市場が不安定で銀行の預金金利が抑えられている中で、数百万人の中国の貯蓄者にとって不動産は唯一収益が見込める分野だ。 2013 年上期の国内総生産 (GDP) では不動産投資の比率が 14.8% と、前年同期の 13.5% から拡大。 うち居住用不動産は 70% を占めた。

開発縮小の動きも

中国政府にとって、住宅市場の持つ意味は大きい。 輸出と固定資産投資は減速しており、中国経済は 1 年前に比べて居住用不動産市場への依存を強めている。 第 2・四半期は製造業の雇用が 16 万 4,000 人失われた一方、不動産セクターの雇用は 8,000 人増えた。 上期の税収全体の伸びは 7.9% に減速したが、不動産セクターからの税収は 45.7% 増加した。

その上住宅セクターのすそ野は広く、セメントから鉄、家具、住宅設備まで少なくとも 40 の他セクターに影響を及ぼす。 地方政府は数兆元の債務を返済するため、開発業者向けの土地売却に収入を大きく依存している。 しかし一部の業者は開発を縮小している。 上場デベロッパー最大手の万科企業の Yu Liang 最高経営責任者 (CEO) は、浙江省の宜興市から手を引くと述べた。

北京を拠点とする中堅の住宅開発企業、サンシャイン 100 の Yi Xiaodi 社長は湖南省株州市での開発計画を撤回した。 社長は「供給過剰リスクがあるため心変わりした。 産業競争力が衰え、市場が供給過剰に見舞われている都市への投資は避ける。 非常に危険だから。」と話した。 (Langi Chiang、Bill Powell、Reuters = 8-24-13)


中国で銀行の不良債権が急増 輸出停滞、設備過剰など要因

中国の銀行の不良債権が今年に入って急増している。 輸出の停滞に加え、鋼材、船舶、太陽光発電などの設備過剰問題、さらには理財商品の発行に伴う資金回収難の問題も影響している。 特に浙江省、江蘇省、山東省といった経済の発展した沿海地区での増加が目立っている。

中国銀行業監督管理委員会の発表によると、今年 6 月末の全国商業銀行の不良債権は 5,395 億元(約 8 兆 6,158 億円)で、年初比 467 億元の増加となっている。 このまま増え続けると、年間では増加額が 1,000 億元を超えてしまいそうだ。 省別にみると、以前から不良債権の多かった浙江省だけでなく、最近はこれまであまり問題視されていなかった江蘇省や山東省などにも拡大していく傾向がみられる。

浙江省の銀行業監督管理委員会の発表では、6 月末の浙江省の不良債権は 1,046 億元だった。 全国のトップである。 江蘇省は未発表だが、昨年末現在で 528 億 9,000 万元だったので、今年 6 月末では約 700 億元に達しているとみられる。 もう一つの山東省は 725 億 6,600 万元と発表。 つまり 3 省を合計すると、約 2,471 億元となり、全国の約 45% を占めていることになる。

不良債権比率も上昇している。 全国ではまだ 0.96% にとどまっているが、この 3 省は飛び抜けて高い。 例えば浙江省は 1.65% で、全国平均を 0.69% も上回っている。 山東省も 1.58% と高い。 山東省は貿易が盛んだが、ことし上半期は前年同期比で 5.4% の伸びでしかない。 輸出が輸入を下回り、ここ数年で初めての貿易赤字を記録している。

最近発表されたいくつかの銀行の決算をみても、軒並み不良債権が増えている。 その一つ華夏銀行は、この半年間で 7 億 2,600 万元増え、70 億 6,500 万元となった。 この銀行は昨年末、理財商品の満期返済に必要な資金が足りなくなり、怒った購入者が銀行にプラカードを持って押し寄せ話題になった。 この 6 月にも資金不足が再燃している。

6 月半ばに発生した銀行間短期金利の急騰は一応、収まった。 しかし理財商品の発行残高はむしろ増え続けており、銀行の資金不足がいつ再発するか、予断を許さない。 このほか宴会や公用車使用の自粛は消費の停滞を引き起こし、各産業分野での設備過剰の調整も、企業の経営悪化につながる可能性が強い。 銀行の不良債権がさらに増えるのは避けられそうにない。 (拓殖大学国際学部教授・藤村幸義、sankei = 8-21-13)


中国経済に下げ止まり感 - 貿易統計予想上回る

【北京】 中国経済は 6 カ月にわたる減速のあと下げ止まりの兆しを見せており、米景気が着実に改善し、欧州がリセッション(景気後退)から抜け出しつつある中で、世界経済をめぐる明るい見通しが強まった。 8 日に発表された中国の貿易統計は、同国の輸出に対する世界需要が予想以上に旺盛であることを示して、主要な製造業部門にとって良いニュースとなった。 重要なのは輸入が予想を上回ったことで、これは内需が強まっていることを示唆している。

先週発表された製造業の調査は、7 月の同国工場の生産活動が緩やかに拡大したことを示していた。 こうした最新の統計は中国の経済成長率が今年第 2 四半期(4 - 6 月)に底を打ったことを示唆しており、今年残りの期間は着実に成長するとの見方が強まった。 これによって今年の成長率が中国政府の見通しである 7.5% に達する可能性もある。 多くのエコノミストは達成できないかもしれないとみていた。

HSBC ホールディングスのエコノミスト、Qu Hongbin 氏は「やっと中国から良いニュースが出てきた」と話した。 バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのエコノミストは調査ノートで、「7 月の貿易統計は中国経済の見通し改善に寄与する」と指摘した。

中国経済の安定の兆しは、同国の成長で利益を得たあと、最近の景気減速で打撃を受けているコモディティー(一次産品)に依存する国々にとって歓迎すべきニュースだ。 モルガン・スタンレーの中南米担当シニアエコノミスト、グレー・ニューマン氏は「この傾向が続き、輸入需要が本当に上向き始めれば、ブラジルおよびコモディティー生産国にとってポジティブだ」と述べた。

世界最大の鉄鉱石の生産会社で中国がその最大の顧客であるブラジルのヴァーレは 7 日、今年第 2 四半期の利益が為替面での損失などで前年同期比 84% 減少したと発表した。 同社は 8 日の電話会議で、中国では農村部から景気の良い都市に流れ込んでいる数百万人のための住宅を建設していることから、同国の鉄鋼需要は今後も続くとの見通しを示した。 フェレイラ最高経営責任者 (CEO) は中国の貿易統計が出たあと、「中国はまた、悲観論者の見方が誤りであったことを示した」と語った。

市場も貿易統計を好感し、中国の動向に敏感な豪ドルは米ドルに対して上伸し、銅相場も上がった。 南アフリカ・ランドなど新興国の通貨も、中国の需要回復期待で値上がりした。

ただ、中国にとっての最悪期が終わったと結論付けるのは早すぎるとするエコノミストも多い。 中小企業の比重の大きい別の製造業統計は引き続き 7 月の状況が悪化したことを示している。 野村の Zhang Zhiwei 氏は、7 月の貿易統計は「一時的な安定を示唆しており、確かにポジティブだが、これで中期的見通しが変わるわけではない」と指摘した。

より全体的な展望は、中国統計局が 9 日に発表する鉱工業生産、小売売上高、インフレ率によって明らかになる。 鉱工業生産の前年同月比での伸びが 6 月の 8.9% を上回れば、経済が強まっていることの裏付けとなろう。 同国の経済成長率は今年第 2 四半期に前年同期比 7.5% と、第 1 四半期の 7.7% から鈍化し、一部のエコノミストは今年下半期にさらに減速すると予想している。

中国政府は、このところ景気支援策を相次いで繰り出している。 ただ、08 年の金融危機に際して行ったような大規模支出という方法は避けている。 中央銀行は資金注入で金融市場の諸条件を緩和し、銀行の貸し出しを後押ししている。 政策立案者はまた、雇用促進を狙った減税など、小企業向けの支援策も導入した。

今回の中国の輸出統計は今年これまでとは異なり、同国に入る資金の監視を回避する不正インボイスで膨らんではいないようだ。 多くの中国本土からの輸出の最初の目的地である香港に向かう輸出 - これは水増し輸出の主なルートでもある - は前年同期比 2.3% の伸びにとどまった。 中国当局は水増しインボイスの取り締まりを行った。

その代わりに輸出改善の主たる要因になったのは米国と欧州からの需要増だ。 対米輸出は 5.3%、欧州連合 (EU) への輸出は 2.8%、それぞれ増加。 数カ月間の縮小から反転した。 これは中国のこれら 2 大貿易相手国・地域の緩やかな景気改善を反映したものだ。 第 2 四半期の米国の成長率は年率 1.7% で、前四半期の 1.1% から加速した。

アナリストは、ユーロ圏の経済はわずかではあるが第 2 四半期にリセッションから抜け出たとみている。 RBC キャピタル・マーケッツは前四半期比 0.1% の伸びと推定している。 中国の鉄鉱石輸入は 7 月に 7,310 万トンと前年同期比 26.4% 増加するとともに、過去最高を記録した。 これは建物やインフラの建設が鉄鋼需要を押し上げているためだ。

中国の 7 月の貿易収支は 178 億ドルの黒字となり、黒字額は 6 月の 271 億 2,000 万ドルから縮小した。 7 月の輸出は前年同月比 5.1% 増と、エコノミスト予想の 2.8% 増を上回った。 6 月は 3.0% 減だった。 輸入は同 10.9% 増加した。 6 月の 0.7% 減から大幅に改善するとともに、エコノミストの予想 1.3% 増を上回った。 (Tom Orlik and Richard Silk、The Wall Street Journal = 8-9-13)


中国地方政府の破綻という悪夢、代表格は江蘇省か

[無錫市(中国)] 中国経済を急成長から脱皮させようと試みる政府指導部にとって悪夢のシナリオは、地方政府が自らの債務の重みで崩壊することだ。 最も多額の債務を抱える江蘇省がその代表格といえる。 公式統計によると、江蘇省の省、市、郡政府は銀行や投資信託、起債を通じて借り入れを膨らませており、債務は他の地方投資をはるかに上回っている。

造船や太陽光パネル製造など、同省の主要産業の多くは過剰な生産能力を抱え、利益は低迷して税収は伸び悩んでいる。 中央政府が経済の投資依存を減らし、サービス業・消費主導型経済への移行を図っていることにより、江蘇省は打撃を被りやすい状態にある。 政府は改革の一環として、多くの地方政府にとって主な資金源である借り入れと土地売却の取り締まりを命じる一方で、産業の縮小に伴うコストを地方政府自らが吸収することを期待している。 江蘇省のような省にとっては八方ふさがりの状況だ。

スタンダード・チャータード、フィッチ、クレディ・スイスの推計によると、中国の地方政府の債務は国内総生産 (GDP) の 15 - 36% 相当、額にして最大 3 兆ドルに上る。 ドイツ銀行のグレーターチャイナ担当チーフエコノミスト、ジュン・マー氏は「中国地方政府の債務は、うまく管理しないとシステミックかつマクロ経済的リスクを同国にもたらし得る。 これにはブラジルの先例があり、1989 年、93 年、99 年の危機は州政府の過剰債務が根本原因だった。」と話す。

中国地方政府の債務総額について公的な情報は乏しいが、格付け会社やシンクタンクの情報を総合すると、江蘇省の債務リスクは全 31 省の中でも突出している可能性がある。 江蘇省が中国経済に大きなリスクをもたらしかねないことは明らかだ。 同省の域内総生産 (GDP) は 20 カ国・地域 (G20) メンバーであるトルコを超えて世界の上位 20 カ国に食い込む規模で、人口は 7,900 万人と大半の欧州諸国を上回る。

ストレスの兆候

江蘇省政府の財政に重圧が加わっているさなかで、省内主要企業の中には経営が行き詰まり、当局に救済を求めるところが出てきている。 中国最大の民間造船会社、中国熔盛重工集団は今月、地方政府に財政支援を要請した。 中国最大の太陽光パネル・メーカーの子会社である無錫サンテックパワーはことし、破産申請を行った。 複数の関係筋によると、同社は江蘇省無錫市の政府に財政支援を求める意向もある。

ストレスが高まっている兆候は他にもある。 中国メディアによると、経営難に陥った一部の地方企業は個々の職員に最大 60 万元(9 万 7,800 ドル)の資金調達ノルマを貸し、達成できない場合には勤務を許さないため、多くの職員が親戚や友人に金の工面を頼んでいるという。 地方政府にとっての主な資金調達手段は、借り入れか不動産デベロッパーへの土地売却しかない。 地方政府は地元の経済開発を担っているが、税収の 4 分の 3 は中央政府に吸い上げられる。

しかし無錫市のある村の住人によると、市政府はデベロッパーに売るためとして住宅を破壊して更地にしているが、家主に収用代金を支払うための資金が不足している。 「私の父は 600 平方メートルの土地を持っていたが 170 平方メートルを失った。 市政府は父に『あなたは住宅を多く所有し過ぎている』と言って支払いを拒んだ。」という。

中央政府は地方政府に対する銀行融資を絞めつけているため、江蘇省はシャドー・バンキング(影の銀行)からの借り入れを急増させている。 データ提供会社ユーズ・トラストによると、2012 年に中国で販売された投資信託のうち、江蘇省内の自治体が発行したものは 30% を占めた。 同業のウィンド・インフォメーションによると、12 年の同省の債券発行額は 3,430 億元で、中国で最も財政が豊かな広東省の 3 倍に上る。

無錫市だけでも投資信託の発行により 92 億元を調達し、銀行融資金利の 6% を大幅に上回る 10% 近くのリターンを投資家に与えた。 この資金の一部は不動産デベロッパーに土地を売ったり工業団地を建設するために村を更地にする資金に回された。 増大する中国の不良債権において、江蘇省が大きな割合を占めているのも不思議ではないだろう。 中国メディアが先月引用した中国人民銀行(中央銀行)幹部の発言によると、2013 年 1 - 5 月の不良債権増加分の 40% を江蘇省が占めた。

中銀や監督当局に政策助言を行っているトリプル T コンサルテイングのマネジングディレクター、ショーン・キーン氏は「モラルハザードの有無を点検するため、ある程度管理されたデフォルト(債務不履行)を起こせば市場は歓迎するだろうが、中国政府にその態勢が整っているかどうかはおぼつかない」と話した。 (Koh Gui Qing、Reuters = 7-25-13)


中国の金利改革、負債膨らんだ国有企業の支援目的との観測も

[香港] 中国が先週に決めた貸出金利の下限撤廃は幅広く評価されているものの、融資のデフォルトをめぐる当局懸念を反映し、負債が膨らんだ国有企業や地方政府の支援を目指しているのではないかとの観測が広がっている。 中国人民銀行(中央銀行)による 19 日の発表で、銀行は低い金利の融資で新規の借り手獲得に向けた競争を繰り広げることができるようになる。

ただし、一部の投資家はこの動きは象徴的なものとなり、短期的には少なくとも、国有企業 (SOE) や大規模な民間の雇用主、地方政府の融資会社にとって安堵感を提供する材料になる可能性を指摘する。 シルバークレスト・アセット・マネジメント(ニューヨーク)のマネージングディレクター・首席ストラテジストであるパトリック・チョバネク氏は「これが大きな改革の動きだとする評価は若干信じがたい」と述べた。 「何が起こるかというと、地方政府の融資プラットフォームが低水準な金利を確保できるということが、短期的な懸念だ」と付け加えた。

モスクワで開催された 20 カ国・地域 (G20) 財務相・中央銀行総裁会議では、人民銀のこうした動きを歓迎、日本の麻生太郎財務相は正しい方向の一歩と表現した。 バークレイズのエコノミスト、ジアン・チャン氏とジョイ・チョウ氏は、顧客向けノートの中で、金利の自由化や市場をよりベースにした改革に向け、人民銀や新指導部がコミットメントをこの発表で示したと指摘した。

ただし、彼らやその他のエコノミストは、中国の景気が鈍化する中で、中国工商銀行、中国建設銀行、中国銀行、中国農業銀行など主要な金融機関がこの機会を活用する可能性は低いと指摘する。 中国の大手行によって提供される融資のわずか約 11% が、貸し出しの基準金利である 6% を下回る水準で、大半が実際はそれよりも大幅に上回っている。 エコノミストらは代わりに、中国で不動産市場主導の信用バブルを作り出した状況に対応するための資本市場改革を推進する中国政府の決意を人民銀の動きが示していると指摘する。

中国で事業を展開する国際的な金融機関のバンカーや投資家は、改革のタイミングを挙げ、短期的には狙いが銀行の新規融資拡大というよりは、これまでの融資がデフォルトを起こさないようにすることにあるかもしれないと指摘している。 人民銀は約 1 カ月前、「影の銀行(シャドーバンキング)」の抑制に動いていた。 欧州系銀行(シンガポール)のシニアバンカーは、中国が景気減速や融資の焦げ付き、デフォルトの可能性をかなり懸念し始めていると指摘した。 「唯一、こうした好機を生かせるのは既に割安に融資を確保している SOE だけだ」としている。

保証された利益率

外資系のバンカーや投資家は、銀行が大口の融資先に対して融資の再編をせず、低い金利でリファイナンスを行っていた 1990 年代の日本と重なるところがあると指摘する。 中国が金利の自由化を進める必要があることに疑う余地はない。 19 日まで市中銀行の貸出金利の下限は基準金利である 6% の 0.7 倍とされていた。 同時に預金金利の上限は基準金利 3% の 1.1 倍である約 3.3%。

その結果、融資ごとに銀行は 0.9% ポイントの利益率が確保されていたことになる。 金融機関の健全性を維持するよう設計されたものだが、この政策により、貸し出しが不健全な状態となった。 確保された利益率を最大化するため、銀行は大規模な国有企業というリスクの最も低い融資先にだけ、主に貸し出しを行った。 またインフレ率を下回る金利により、預金者は投資商品でリターンのより高いものを模索し始めた。 これが大企業への過剰融資と、中小企業に対する規制の枠外での貸し出し拡大という構造を生み出した。

低金利の融資を受けた大企業はこうした資金をまた貸しし始めた。 委託貸付や銀行引受手形の発行規模は 1 - 4 月で倍以上の 1 兆 6,000 億元に達した。 もし借り手がデフォルトに陥れば、銀行が最も安全な融資だと思っていた融資でデフォルトが起きることになる。

エコノミストや国際通貨基金 (IMF) などは、信用の拡大が不動産やインフラ鉱工業分野での設備に対する過剰投資を生み出したと指摘する。 IMF は中国に関する最新の年次審査報告書の中で、成長をより持続可能なものとし、融資の伸びを抑え、金利を自由化するための改革を推し進める必要があるとの見方を示した。

銀行業界の競争を促進するための次のより困難な一歩は、預金金利の上限撤廃で、エコノミストは、金融機関が資本をより効率的に割り当てることができ、無駄な投資を抑えるような経済のリバランスを促すとみている。 中国は今年の国内総生産 (GDP) 成長率目標を 8% から 7.5% に引き下げたものの、必要な改革を進める意向を明らかにしている。 格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ (S & P) のチーフエコノミスト、ポール・グルエンワルド氏は、信用バブルを抑え、金融危機を引き起こさずに改革を進めることが中国の課題だと指摘した。 (Wayne Arnold、Reuters = 7-22-13)


「影の銀行」討議なし 中国の金融不安問題

G20 会議でにわかに焦点に浮上してきたのが、中国の金融不安問題だ。 中国人民銀行(中央銀行)は会議直前の 19 日に金融制度改革の一環として貸出金利の下限規制の撤廃を発表した。 ただ初日の討議では「中国から説明はなく、各国からの質問も出なかった(同行筋)」という。

中国の硬直的な金利規制は銀行外取引である「影の銀行」を膨張させており、多額の資金が地方の不動産開発に流れ込んでバブルの芽を生んでいる。 国際的な懸念が強まるなかで、市場では「各国が中国に問題解決の方策を求める」との見方が多かった。

これに対し、中国は自ら率先して金融制度改革に取り組む姿勢を見せることで、先進国などから批判や懸念を示される事態を避けようと試みた。 先進国としても世界経済への影響力が大きい中国の金融問題に焦点が当たれば、週明けの市場で混乱が生じかねない。 このため会議では、踏み込んだ議論を避けることで一致したとみられる。 ただ中国の規制撤廃は改革の端緒にすぎない。 麻生太郎財務相は討議後「一歩ではなく、半歩前進したぐらい」と述べるにとどめた。 (nikkei = 7-20-13)


中国の構造改革、まず統計システム 不信根強く

中国の 4 - 6 月期の実質国内総生産 (GDP) は前年同期比 7.5% 増で 2 四半期連続で減速した。 15 日の会見で中国国家統計局の盛来運報道官は「適度な成長率の鈍化は構造調整にとって有利だ」と言い放った。 中国は経済の構造改革のさなかにあり、減速は想定内と言わんばかりだ。 確かに 7.5% は政府目標でもあり、心配は要らないようにも映る。 それでも世界のあちこちで「中国は本当に大丈夫か」という声が繰り返されるのはなぜか。

答えは言うまでもない。 中国の統計を信用していないからだ。 最近も輸出の水増しが発覚したばかり。 政府が各地の統計を厳しく監視すると、緩やかに回復を続けていたはずの輸出が 6 月には減少に転じた。 輸出回復を理由に景気回復をもてはやしていたエコノミストは面目を失った形だ。 もっとも練達のチャイナウオッチャーならば中国の統計があまり信用できないというのは常識のはずだ。

そもそも中国の指導者からして統計を信用していないようなのだ。 「GDP 統計は参考用にすぎない。」 内部告発サイトのウィキリークスが公開した米外交公電に李克強首相のこんなコメントがあったという。 ロイター通信によると、2007 年当時、遼寧省の共産党委員会書記だった李氏が駐中国米国大使に語ったという。 GDP 統計の代わりに、李氏は電力消費、鉄道貨物量、銀行融資の 3 つのデータで成長速度を判断していると説明した。

中国政府、米国政府ともこの発言の真偽はもちろん確認していないのだが、さもありなんと中国内外のチャイナウオッチャーは受け取った。 電力消費、鉄道貨物量、銀行融資の 3 つは中国経済を分析するプロフェッショナルが用いているデータと同じだったからだ。

この 3 つを使って足元の景気を見てみよう。 景気の良かった 2 年前の 11 年 1 - 6 月期(以下発表時点の数字)。 このときの GDP は前年同期比で 9.6% 増。 電力消費に相当する「全社会用電量」は同 12.2% 増だった。 鉄道貨物量の「鉄路貨運量」も同 8% 増。 銀行融資に社債発行による資金調達なども加えた広義の融資額を示す「社会融資規模」は 7 兆 7,600 億元(約 125 兆円)だった。

一方、今年 1 - 6 月期の GDP は 7.6% 増。 鉄路貨運量は 2.8% 減に落ち込み、全社会用電量は 5.1% 増にとどまった。 社会融資規模だけが 10 兆 1,500 億元に膨らんでいる。 実体経済のモノの動き、なかでも石炭など原料の輸送を示す鉄路貨運量はプラスからマイナスになった。 生産や消費の動向を映す全社会用電量の伸びも大きく鈍化した。 それにもかかわらず、GDP はわずか 2% 下がっただけ。 GDP の伸び率がもっと低いのではないかとの疑念がどうしても浮かび上がる。

こうしたなかで社会融資規模が突出して伸びている。 真実の中国経済は、景気が大きく減速するなかで実体経済に伴わないマネーが氾濫し、バブルをつくっているのではないか。 そんな懸念が湧いてくる。 中国政府が「安定成長にある」とどれだけ力説しようとも、海外の市場関係者が不安を払拭できない理由がここにある。

昔からよく言われているのが成長率目標収斂(しゅうれん)論だ。 今年は習近平国家主席ら指導部は成長率を 7.5% に設定しているが、実際の成長率がこの目標数字から高すぎても低すぎても都合が悪い。 このため成長率が 7.5% 前後になるように、統計がどこかの段階で人為的に加工されているのではないかという疑念が語られてきた。 過去数年、自動車や家電などの販売統計が大幅な増減を繰り返しているのに、成長率だけはいつも目標に近い 7 - 10% に収まってしまうからだ。

中国の統計に不備があるのは何も今に始まったことではない。 1950 年代後半には当時の毛沢東指導部が農業生産の虚偽の増産報告を基に政策を進め、大きな悲劇を招いた。 実際には食糧は欠乏しており、天災も重なって餓死者であふれた。 60 年代初頭にかけて最低でも 1,500 万人が飢えなどで亡くなったといわれる。 指導者すら正確な統計を得られないのでは海外の市場関係者が不安になって当然だ。

すでに中国は世界第 2 の経済大国の地位にある。 半世紀前なら悲劇は国内だけだったが、今は違う。 万が一にも中国が経済危機や金融危機に陥れば世界経済も混乱に引きずり込まれる。 そこまでいかなくとも、中国経済に不安を感じるだけで世界中の市場が動揺する時代だ。 中国政府は経済が大丈夫と声高に宣伝する前に、説得力のある統計を世界に示す方が先ではないか。 構造改革を語るなら、まず虚偽を招きやすい統計システムの構造改革から着手してはどうだろう。 (編集委員 村山宏、nikkei = 7-18-13)