FT 紙が指摘する 中国のケ小平以来の危機
英オックスフォード大学中国センターアソシエイトのジョージ・マグナスが、8 月 21 日付フィナンシャル・タイムズ紙で、中国はケ小平以来の移行の危機を迎えている、と述べています。
すなわち、8 月は中国にとって大変動の時期となった。 株式市場と人民元の動向、天津の恐るべき爆発事故は全体として、経済、政治面での中国モデルがゆっくり終焉していることを象徴している。 中国はケ小平以来経験したことのないような移行の危機を迎えている。 共産党の権威を再確立し、非現実的な成長率を維持する一方で、賛否両論のある諸改革、財政自由化、経済の重点の移動を行おうとしているが、複雑でお互いに相容れない。
習近平は権力の集中に努めているが、改革を行うべき諸機関の権限を奪い、重要な改革の停滞を生んでいる。 それゆえに 8 月の出来事が問題なのである。 株式市場は資本の効率的配分の手段であるはずだが、政府は株価下落防止のため強引な介入を行い、しかも介入は効果を上げていない。
人民元の引き下げは、元の動きをより市場に合わせるためと説明されたが、当局は経済の軸足移動のための元高政策と、成長の鈍化に見合う元安政策の間を揺れている。 中国政府の中心課題は雇用政策である。 4% という公式の失業率はでっち上げである。 投資と労働集約的建設業の現状、年 700 万人に上る大卒の就職難などから、失業率は ILO の推定の 6.3% より高いのみならず、さらに上昇していると考えられる。
本年の動きは、物事が計画通り進んでいないことを示唆している。 権力の集中は改革にとって諸刃の刃であり、汚職撲滅運動はイニチアチブと成長を殺している。 終わりなき景気刺激で非現実的な拡大路線を続けることは無理である。
* * * * *
中国の経済、そして経済政策が大きな曲がり角に来ていることは確かのようです。 習近平政権は、従来のように輸出と投資に頼る政策が行き詰っていることは十分認識しており、改革を実施し、消費主導の経済への転換を図ろうとしてきました。 ところが、習近平の権力の集中と反汚職運動が、官民を委縮させ、改革の停滞を生んでいるといいます。
そうであるとすれば、無理な投資により高成長を維持しようとの方針を放棄したとしても、改革は進みません。 これは単なる経済的な移行の危機であるのみならず、政治が絡んだ危機です。 習近平が権力の集中と反汚職運動を続けながら、いかに改革を推進するか、習近平に突き付けられた難題です。 中国がより低い成長率を受け入れざるを得ないというのはその通りでしょう。 7% 成長を維持するために無理で無駄な投資を続けることはできません。
しかし、より低い成長率はそれ自体大きな問題をはらんでいます。 イデオロギーの求心力を失った中国共産党政権にとって、経済的福祉の増大が正当性のよりどころです。 成長率が低下する中で、国民に生活が悪くなったとの実感を抱かせないようにする必要があります。 これは、とりもなおさず、消費に軸足を移すということであり、成長率低下の環境の中では改革が一層必要となります。
もう一つの問題は失業率との関係です。 かつて 7% 成長の必要な理由として雇用の確保が挙げられていました。 成長率が低下する中で、いかに失業率の低下を防ぐかが大きな課題です。 論説が指摘するように、中国の実際の失業率が公式の 4% よりはるかに高いとすれば一層然りです。 中国経済は従来の発展モデルがもはや有効でなく、新たな発展モデルを模索しています。まさに移行期にあります。それと同時に、その移行には難問山積で、移行の危機です。 習近平政権がこの危機を乗り越えられるか、その意味で危機は経済的危機にとどまらず、政治的危機でもあるのです。 (岡崎研究所 = 9-17-15)
G20 : 中国「5 年は苦難の調整」 生産・在庫が過剰
◇ 楼継偉財政相が経済の先行きの見通しを示す
【北京・井出晋平】 世界連鎖株安の震源地となった中国の楼継偉財政相が、中国経済の先行きについて「今後 5 年間は構造転換の陣痛期になる。 苦難の調整過程になるだろう。」との見通しを示したことが 6 日明らかになった。 トルコの首都アンカラで 5 日まで開かれた主要 20 カ国・地域 (G20) 財務相・中央銀行総裁会議での発言として、中国財政省が 6 日発表した。 中国の閣僚が厳しい経済運営が続くとの認識を示すのは異例だ。
G20 は中国を念頭に「必要に応じ新たなリスクに対処する」との共同声明を発表したが、具体的な対策には踏み込まなかった。 週明け以降の金融市場も中国の経済指標などに敏感に反応する不安定な状態が当面続きそうだ。 楼財政相は「構造転換の陣痛期」について「過剰生産や過剰在庫の解消には数年間が必要」と説明した。
中国は 2008 年のリーマン・ショック後、4 兆元(約 80 兆円)の大型景気対策を実施し、世界経済の回復をけん引した。 だが、鉄鋼や石炭、セメントなどの主要産業の設備が過剰となり、生産活動が停滞。 今年 7 月の工業生産は前年同月比 6.0% 増と前月の伸び(6.8% 増)を下回った。 7 月の新車販売台数は 7.1% 減と 4 カ月連続で前年割れし、在庫が拡大している。 また、不動産への巨額投資で相次いで建設された大型マンションなどが大量に売れ残り、ゴーストタウンが各地で出現している。
習近平指導部は、中国経済を投資依存の高成長から消費主導の安定成長に構造転換させることを目指しており、楼財政相は「構造転換に伴う主要な改革は 20 年までに完成させる必要がある」と表明。 だが、非効率な国有企業が温存されるなど投資依存からの脱却は難航が必至で、「消費主導への転換は苦難の調整過程になるだろう」と認めた。 一方、楼財政相は今後 4 - 5 年の国内総生産 (GDP) の実質成長率について「改革推進で(今年の政府目標の) 7% 前後を維持する」とも述べた。 消費関連のサービス業が発展していることを訴えたが、改革の具体策は示していない。
また、中国人民銀行(中央銀行)は 5 日夜、周小川総裁が G20 で中国の株価について「6 月中旬まではバブルだった。 それ以降、調整があった。」と説明したと発表した。 バブルがはじけたことを事実上認めたものだ。 周総裁は「(中国の株価が急落した) 8 月下旬の調整は全世界に影響を与えた」としつつも、「危機を避けるため中国政府は(追加金融緩和など)一連の措置を行った」と述べた。
今回の G20 は中国経済に議論が集中し、各国が構造転換を求める展開となった。 中国は楽観的な景気見通しを前面に出すことが多かったが、今回は厳しい現状を説明する異例の対応に追い込まれたとみられる。 G20 の声明は、中国経済の減速から世界経済の不透明感が強まっていることを踏まえ、「経済回復を維持するために断固たる行動を取る」と宣言した。
◇ 中国の経済成長
改革・開放政策が始まった 1979 年以降、高成長が続き、国内総生産の成長率は物価変動を除いた実質で 10% を超す年も多かった。 2010 年には名目 GDP で日本を上回り、米国に次ぐ世界 2 位になった。 だが、今年 1 - 3 月期の実質成長率は前年同期比 7.0% とリーマン・ショック直後の 09 年 1 - 3 月期以来の低水準に悪化。 4 - 6 月期の成長率も 7.0% だが、「実態はもっと悪いのでは」との指摘もある。 (mainichi = 9-6-15)
中国経済が抱える「非連続」の危険
中国の有力経済学者である李稻葵氏が次のように論じている。 「株式市場の急落が問題なのではない。 (中略)問題は中国経済そのものだ。 これは大問題ではないのだが、問題であることに違いはない。」私も 2 つの指摘に同意するが、1 つ違う点がある。 大問題になる可能性があるという点だ。
市場の混乱が無関係というのではない。 中国政府が失敗に終わった株価の下支えに 2,000 億ドルを費やし、外貨準備が今年 7 月までの 1 年間に 3,150 億ドル減ったことは問題だ。 また、スケープゴート探しが始まっていることも問題だ。 これらのことは資本逃避と政策当局のパニックを物語る。 つまりは信頼、それも信頼の低下を物語っている。
それでも、最終的に物を言うのは経済の実績だ。 中国に関する重要な経済的事実は過去の実績だ。 中国の国内総生産 (GDP) は購買力平価ベースで米国水準の 3% から約 25% まで上昇した。 GDP は生活水準の完全な指標ではないが、それでもこの変容は統計上の虚構でなく現実として目に見える。
第 2 次世界大戦後、さしたる天然資源を持たずに同様の成果を上げた「大きな(都市国家より大きな)」国・地域は日本、台湾、韓国、ベトナムだけだ。 しかし米国水準との比較で見ると、現在の中国の 1 人当たり GDP は 1980 年代半ばの韓国の水準程度だ。 韓国の 1 人当たり GDP はその後、実質ベースでほぼ 4 倍に増加し、米国水準の 7 割に迫っている。 中国が韓国並みに豊かになれば、その経済規模は米国と欧州の合計を上回ることになる。
これは長期的な楽観論の根拠になる。 しかし、その一方には「過去の実績は将来の実績を保証しない」という警句がある。 成長率は通常、世界の平均水準に回帰する。 もし中国が次世代にわたっても後追いの急成長を続ければ、極端な異常値ということになる。
■ 「新常態」にはない非連続
新興国の経済成長は「非連続」を特徴とする傾向にある。 しかし、中国の政策当局が「新常態」と呼んでいるもの自体にはそのような非連続はない。 中国の政策当局は、年率 10% の高度成長からなお高水準の 7% 成長へと滑らかな減速を導いたと信じている。 これよりはるかに大きな減速は起こりうるのか。 さらにそれにも増して重要なのは、これは 1990 年代末の危機下の韓国と同じような一時的中断なのか、それとも 80 年代のブラジルや 90 年代の日本のように長引く状態なのかということだ。
中国の経済成長が非連続になりうる理由は少なくとも 3 つある。 まず、現在の成長パターンは持続不可能であること。 次に、過剰債務が大きいこと。 そして、このような課題の克服に需要急減の危険がつきまとうことだ。 現在の中国の成長パターンに関して、最も重要な事実は供給と需要の源泉を投資に依存していることだ。 2011 年以降は追加資本が生産拡大の唯一の源となり、「全要素生産性(投入 1 単位当たりの産出量の変化で測られる)」の伸びがゼロ近くで推移している。 加えて、投資リターンが急低下するなかで、投資の成長への寄与度を測る限界資本係数が急上昇している。
国際通貨基金 (IMF) は、「改革がなければ、債務が急増するなかで成長率は 5% 前後へと漸減していくだろう」としている。 しかし、すでに債務が高水準に達していることなどから、そうした道筋は持続不可能だ。 融資の幅広い指標である「社会融資総量」は 2008 年の GDP 比 120% から 14 年の同 193% へ急上昇している。 中国政府にとって、この過剰債務を管理することは可能だ。 しかし、過剰債務を再び増大させるわけにはいかない。 融資に頼る投資は縮小させなければならない。
■ 投資急減、内需急減も起こす
投資がしぼむことになる理由は過剰債務だけではない。 欧州政策研究センター(ブリュッセル)のダニエル・グロス所長は、中国の資本・産出量比率が爆発的な上昇軌道にあることを示している。 注目すべき点として、すでに米国での伸びを大きく超えている。 資本・産出量比率が現状で安定するだけでも、中国経済は 6% ほどの成長ペースとなり、GDP に占める投資の割合が 1 割ほど減ることになる。 それが突然起きれば、需要への悪影響が不況を引き起こす。 GDP に占める投資の割合が 35% という状態(つまり 2000 年代初頭の状態に戻ること)は、改革の望ましい結果となる。 しかし、急激に移行すると内需が急減してしまう。
中国政府が認めるよりもはるかに大きく成長は減速していると見る向きは多い。 しかし、成長見通しが弱まれば投資リターンの不確実性が高まり、投資を先送りすることの合理性が増すため、さらに成長が減速することになる。
非連続の中心的論拠は、持続不可能な道筋から滑らかに移行するのは難しいということにある。 すでに現時点で予想されている範囲を大きく超えて経済が減速する恐れがある。 世界あるいは中国国内の不安定を高めないために、中国政府は対応方法を考え出さなければならない。 おそらく最善の方法は改革を続けると同時に、消費者の購買力向上と、公共消費と環境改善に対する投資拡大を図ることだろう。 このような対応は中国の必要性と完全に重なり合う。
中国の経済成長が非連続となる可能性は過去数十年間より増している。 非連続は短期で終わるとは限らず、政策当局は大きな難題に直面することになる。 墜落せずに減速していける経済に作り直す必要がある。 しかも、これはひとえに技術的な問題ではなく、さらには技術的な部分が中心を占める問題でもない。 大いなる疑問は、市場主導型経済が政治権力のさらなる集中と相いれるのか否かだ。 中国経済の次の段階は謎である。 その答えが世界を形作る。 (Martin Wolf、The Financial Times = 9-3-15)
中国 3.6 兆ドルの外準マネーは張り子の虎か
中国当局が米国債を売りに出ている。 そんな話が世界の金融市場を駆け巡っている。 中国の資金繰りはきついのだろうか。 案の定、中国人民銀行は人民元の先物売りの規制に乗り出した。
■ 資本流出に音を上げた人民銀
中国人民銀行は 8 月 25 日、利下げと預金準備率の引き下げに踏み切った。 その直後に、「人民日報(電子版)」が載せた、金融緩和の理由のひとつが興味深い。 「外貨買い取り専用資金の減少、近ごろの元安と資本流出という背景の下、預金準備率の引き下げは流動性供給につながり、市場の金利上昇圧力を和らげるのに役立つ。」 8 月 11 日の人民元の切り下げを機に、資本流出が膨らみ、国内金融市場の資金繰りがきつくなっている。 かくて 9 月 1 日には人民銀が資本流出の加速を防止すべく、銀行に対し元売りの規制を実施した。
外貨買い取り専用資金が減少したのは、資金の国外流出に伴うドルなどの外貨需要に、当局として応える必要があったからだ。 そのためには、外貨準備として保有する米国債を売却せざるを得ない。 8 月 28 日の米ブルームバーグの記事は、「過去 2 週間の売却額は少なくとも 1,060 億ドル相当」との市場推計を紹介する。 ここまでは自然な成り行きである。 ところが、奇妙なことに中国が保有する米国債の残高は、これまでのところ余り減っておらず、日本を上回りナンバーワンの座を維持している。
謎を解くカギは、ベルギーやスイスが保有する米国債残高の減少にある。 市場関係者はそんな推理を働かせる。 証券決済機関であるユーロクリアなどに預けていた米国債を、中国が処分している、というわけだ。 中国の外貨準備は昨年 6 月末時点で 3.99 兆ドルと 4 兆ドルに迫っていたが、その後は徐々に減少し今年 7 月末時点では 3.65 兆ドルに。 その間に外貨準備は 3,400 億ドル減った。 外貨準備の残高を国威の発揚と考える中国当局にとって、その減少は好ましい話ではない。 少なくとも、米国債の保有額を維持してみせることで、メンツを保ちたいのだろう。
一理ある見立てだが、中国の外貨準備は依然として断トツである。 それなのに、資金繰りのきつさが取り沙汰されるのは、なぜなのだろうか。 この問いの答えを得るには、外貨準備の中身を知るほかない。 中国当局は開示していないものの、ヒントはある。 米財務省統計によれば、中国自身が保有する米国債の残高は、外貨準備の残高がピークだった昨年 6 月末時点でも 1.82 兆ドルと、外準全体の約 45% にとどまっていたということだ。 ユーロクリアでの保管分などを合わせれば、もう少し多いだろうが、それでも米国債は外貨準備全体の半分程度だろう。
■ 拡大した開発投資に焦げ付き
ユーロ債や日本国債、日米欧の株式も一定部分はあるにせよ、「外準のうち、運用先の見当がつかない分が、少なく見積もっても 1 兆ドル程度はある」と、ベテランの市場エコノミストはいう。 もうひとつ不思議なのは、7 月末の外準残高が 3.65 兆ドルなのに、人民銀行が保有する外貨資産は 27.4 兆元つまり 4.40 兆ドルあるということだ。 外準を上回るおカネがあるように見えるが、実は 4.40 兆ドルと 3.65 兆ドルの差額は「過去の元高に伴う為替差損分」だろう。
市場関係者が気をもむのは、ソブリン・ウエルス・ファンドなどに、使途不明の外準マネーが流れていることだ。 直近ではシルクロード基金 (SRF) やアジアインフラ投資銀行 (AIIB) の元手ともなっている。 ここ 10 年ばかり、中国はアフリカや中南米で資源開発投資のアクセルを踏んできた。 外貨準備がこうした開発投資に振り向けられているとしたら、どうだろう。
ただでさえ開発・採掘コストの高いこれらの案件は、最近の国際商品相場の崩落で火を噴いているはずだ。 投入した資金も、相当額が焦げ付いていると思われる。 こうみると、中国の外貨準備や人民銀行の外貨資産も、水増しされた張り子の虎ということになる。 欧州の政府債務危機の発端は、ギリシャの財政赤字の粉飾が発覚したことだった。 中国の外貨準備の中身をめぐる疑惑が、新たな金融危機の火種になりはすまいか。 中国による米国債売りの情報に、市場が敏感になるのもむべなるかな。 (滝田洋一、nikkei = 9-2-15)
滝田洋一 (たきた・よういち) : 81 年日本経済新聞社入社。 金融部、チューリヒ駐在などを経て 95 年経済部編集委員。 07 年論説副委員長。 米州総局編集委員、論説副委員長兼編集委員を経て 11 年 4 月から編集委員。 マクロ経済、金融を担当。 08 年度ボーン・上田国際記者賞受賞。
中国首相「経済運営に新たな圧力」 厳しい認識示す
【北京 = 大越匡洋】 中国の李克強首相は足元の中国経済に関して「経済運営は新たな圧力にぶつかっている」との厳しい認識を示した。 28 日に開いた国務院(政府)の経済に関する専門会議で発言した。 李首相は「金融の安定は経済全般に関わる。 地域リスク、システミックリスクを発生させないという最低ラインを守る。」と強調した。
最近の株価の乱高下や人民元の切り下げを巡り、中国経済の先行き懸念が強まっている。 李首相は「最近の国際市場の混乱は世界経済の回復に不確定な要素を与え、中国の金融市場や輸出入が受ける影響も深まった」と指摘した。 そのうえで、金融緩和や地方のインフラ投資の実行などを通じて「今年の経済目標を達成する」と訴えた。
中国政府は今年、7% 前後の経済成長を目標としているが、市場では実現を危ぶむ声が出ている。 国務院として経済情勢に関する専門会議という通常は開かない会合を開き、景気の減速に対する中国指導部の強い危機感を示した格好だ。 中国国営新華社が伝えた。 (nikkei = 8-30-15)
白旗掲げた中国当局 2,000 億ドル介入の末
下落する株価を買い支えようと過去 7 週間で約 2,000 億ドルもの買い注文を入れてきた中国政府が 24 日、市場の力に降伏し、介入を打ち切った。 代表的な株価指数である上海総合指数は 8.5% 安となった。 24 日の下落は 2007 年 2 月以降で最悪の下げだった。 中国政府は先月、下落する株価を反転上昇させようと未曽有の介入に乗りだしたが、24 日はこれまでとは様子が異なり、国有企業で構成される「ナショナルチーム」が買い支えに現れなかった。
政府の指導者たちは遅まきながら、株式市場の重力に逆らうのは高くつくし結局は実も結ばないという判断に行き着いたようだ。 一段の通貨安を食い止める大規模介入も別途進めているとなれば特にそうだ。 中国人民銀行(中央銀行)とその市場介入に詳しい筋によれば、人民銀行は人民元を切り下げて「市場志向」の為替レート基準値設定メカニズムを導入した 8 月 11 日以降、人民元が政府の希望以上に下落するのを防ぐために 2,000 億ドルもの外貨準備を使わざるを得なかった。
この額は、人民銀行が元の対ドルレートを望ましい範囲内に収めるための介入に過去 2 年間で投じた金額の合計をも上回るという。 株式と為替の両市場における介入の規模から、多くの人が、中国当局は状況をコントロールできているのか、政策面で大間違いをしていないかといった疑問を抱くようになった。 「当局がいま直面している問題は、為替市場と株式市場の買い支えに 4,000 億ドルものカネを使ってしまい、介入を始めたときよりも悪い状況に置かれていることだ。」 人民銀行に近いある人物はこう語る。 「当局は自信過剰に陥り、人民元切り下げに対する世界の反応の強さを甘く見ていたんではないかと思う。」
人民銀行は、8 月 11 日以降の数日間で人民元が約 4.5% 下落するのを容認した後、それ以降は事実上のドルペッグ制に戻したように見える。 しかし、それはひとえに為替市場への介入のおかげで達成できたものだ。 人民銀行の公開市場操作デスクにいる政府のトレーダーたちは、取引終了前の 1 1時間にオンショア市場に介入し、1 日当たり約 100 億ドルもの人民元買い・ドル売りを行っている。 そして、人民元のオンショア市場とオフショア市場での人民銀行の動きをチェックしている人々によれば、それ以上に重要なのは、人民銀行が香港とロンドンのオフショア市場で初めて大規模な介入を始めたことだという。
そのうちの 1 人はこう語る。 「以前はあれ(CNH として知られるオフショア人民元)を少しだけ売買していた。 我々も気づいていた。 だが例の切り下げ以降は、オフショア市場にも明らかに参加している様子がうかがえる。」 中国は世界最大の外貨準備を誇る国であり、その額は今年 7 月末現在で 3 兆 6,500 億ドルに達する。 しかし今、これまでの積み上げとほぼ同じペースでこれを取り崩している。
中国の代表的な株価指数が先週 12% 近く下落した後、ほとんどのアナリストやエコノミストは、中国政府が週末のうちに新しい金融緩和策を発表すると予想していた。 市中銀行が人民銀行に預けなければならない準備預金の比率を引き下げる可能性が最も高いとみられていた。 かつて人民銀行金融政策委員会の学者委員を務めた余永定氏と李稲葵氏によれば、預金準備率が今後引き下げられることは今でも予想されるという。 ただ、引き下げれば人民元に下落圧力を加えることになり、人民銀行の仕事がさらに複雑になる。
「現在、世界中の人々の目が中国経済に向けられている。 中国の金融政策は(世界的な重要性の面で)米連邦準備理事会 (FRB) のそれに次ぐものだ。」 現在は清華大学の中国・世界経済研究センターに籍を置く経済学者の李氏はこう述べた。 「今後数日か数週間のうちに、さらなる(刺激)策が講じられると思う。 この局面で何かをすれば、中国の中央銀行は中国経済だけでなく新興国をも下支えすることになる。」
中国と中国が世界市場で招いている混乱がこれほど注目される中、一部のグローバルな投資家は、中国の権威主義的な指導者たちのお決まりの不透明さに困惑している。 人民銀行の周小川総裁は、8 月 11 日の通貨切り下げ以降、公の場に姿を見せておらず、他の共産党幹部も最近、急落する市場にほとんど言及していない。 24 日付の中国国営メディアの記事で、李克強首相は中国の 3D (3 次元)プリンティング産業を発展させるためにもっと対策を講じるよう党幹部に要請したが、市場の混乱や、次第に強まる経済全般の減速感については何も語らなかった。 (Jamil Anderlini in Beijing、The Financial Times = 8-26-15)
中国経済に不透明感 = 天津爆発事故で拍車
【北京】 中国経済をめぐる不透明感が強まっている。 当局は公共投資拡大や金融緩和などの景気下支えを繰り返しているが、景気は思うように上向かない。 突然の人民元切り下げや、天津の大規模爆発事故で不安に拍車が掛かり、世界中の投資家が中国経済の「視界不良」に戸惑っている。 中国メディアによると、景気の先行指標として注目されている民間調査会社の 8 月の製造業購買担当者景況指数(PMI、速報値)は 47.1 と、約 6 年半ぶりの低水準に落ち込んだ。 内需の勢いが乏しい上に外需も弱く、中小企業を中心に業績悪化が進んでいるとみられる。
中国人民銀行(中央銀行)は今月 11 日から 3 日間にわたり、人民元の取引の目安となる対ドル基準値を引き下げた。 「為替制度改革の一環(香港の有力エコノミスト)」との分析もある一方、輸出支援が狙いとの見方は根強い。 真相は依然不明だが、中国が輸出低迷で苦しんでいるのは事実。 切り下げの 3 日前に発表された 7 月の輸出総額は前年同月比 8.3% 減少した。
輸出不振で企業倒産が相次ぐ事態となれば、中国政府が最も警戒している雇用不安に直結する。 人民元切り下げに世界の投資家が右往左往していたところに起きたのが、天津での爆発。 貨物取扱量で世界 4 位の天津港は機能停止に陥ったものの、「当局が異例のスピードで復旧に取り組んだ(通商筋)」ため、出入港や船荷の積み下ろし業務は相当回復してきているという。 (jiji = 8-21-15)
いま中国で起きていることは突き詰めて言えば「山一破綻」のようなバランスシートの問題
いま中国で起きていることは「山一破綻」のようなバランスシートの問題であって、たんなる「景気、悪いよねぇ」という問題ではありません。 誤解しないように断っておくと、僕は中国が山一のように破綻すると言いたいのではありません。 僕はアルマゲドン論者じゃないし、チャイナ・ヘイターでもないです。 中国は嫌いじゃないけど、愚かな金融政策は大嫌い。 それが僕のスタンスです。
れではその愚策とは何か? と言えば、リーマンショック直後に中国政府が打ち出した財投や信用拡大に頼った景気維持策 … あれは(その当時から言ってきたことだけど)馬鹿げた措置だった気がします。 どうして? それは、一言でいえば、オーバーキャパシティの問題を、もっとハコモノを追加することで解消しようとしたからです。 それが不可能であることに気がついた中国政府は、後になって銀行の融資総量を規制する方針を打ち出しました。
しかし借金の借り換えが必要となった業者たちは、理財商品というオフ・バランスシート(= 簿外)の手法を援用することで、破たんを回避してきました。 (この部分は、山一を彷彿とさせます。) そういう奇抜な借金テクのノウハウのひとつとして、人民元ではなく米ドルで借りるという横着なやり方も編み出されました。 でもそんなやりくりは、全て回り回って中国へ帰ってくる循環取引のようなものです。 そのような策は、いくら弄しても究極的にはペケです。
まず「アンタが建てたこのビル、入居者ないですよね? 家賃収入、計画より大幅に少なくありません? キャッシュフロー、無いでしょ?」ということを問い、そして「そうなんです、駄目です」ということを認めるところから本当の意味での再生が始まるわけです。 これは時間をかけてほぐしてゆかなければいけない、しんどいプロセスです。 このように、これまでホイホイお金を出してきた貸し手が「ドン引き」してしまう状況のことを経済学ではミンスキー・モーメント (Minsky moment) と言います。 最近では 2007 年頃にアメリカでサブプライム・バブルが弾けたのがその例です。
ミンスキー・モーメントとは、借金を拡大することで捻りだした成長は、投資先から得られるリターンの漸減を必ず招き、それはいずれお金の出し手が「あなたのお金の使途は、ぜんぜんリターンを生んでないじゃないですか?」と追加融資に対して難色を示されてしまう局面のことを指します。 借り換えが出来ない! そうなるとお金を借りている主体は、しぶしぶ損を出しながらその資産(不動産や株)を売却しなければいけません。 売りは売りを呼び、資産価格は急落します。 これがミンスキー・モーメントです。
要するに僕が言いたいことは、現在中国で起きていることは、信用という膨らんだ風船から「しゅーっ」と空気が抜けてきているような状態であり、それはデフレ・リスクを伴う現象だということです。 人民元の切下げは(ちょうどアベノミクスで演出しようとしているインフレと全く同じ理屈になるけれど)デフレ克服の意味合いもあるのです。 借金に絡んだ調整は、普通、長引きます。 つまり「旦那、この問題は、時間かかりますぜ」ということ。
だから(あと何日すれば、事態が好転するか?)というように指折り数えて中国が出直る瞬間を待つのは、愚かなことだということです。 もっとも日本でバブルが弾けた 1990 年から 1991 年にかけては、そういう底入れの瞬間を今かイマかと待ち続けた、さむい投資家がいっぱい居ましたが。 (MarketHack = 8-12-15)
中国経済成長率、実際は公式統計の半分以下か 英調査会社が試算
[ロンドン] 中国の経済成長率は実際どの程度なのか - -。 こんな疑問を抱くアナリストらが試算したところ、中国国内総生産 (GDP) 伸び率は公式統計の半分、もしくはさらに低い水準であるかもしれないことが分かった。 中国国家統計局が先月発表した今年上半期の GDP 伸び率は 7.0% で、政府が掲げる 2015 年通年目標に沿う内容となった。
こうした公式統計には、実際の景況感との矛盾を指摘する声が常に聞かれるほか、そもそも 14 億人の人口を抱える新興国がなぜ、米国や英国といった先進国より数週間も前に四半期データを公表することができるのかといった疑問も付きまとっている。 しかも、中国がその後、公式統計を改定することはほとんどないにもかかわらずだ。 ロンドンに拠点を構える独立系調査会社ファゾム・コンサルティングのエリック・ブリトン氏は「中国の公式統計はファンタジーだと考えており、真実に近いということもない」と話す。
同社は昨年、公式 GDP の予想を公表するのをやめ、実際の成長率とみなす数値を公表することを決めた。 それによると、今年の中国成長率は 2.8%、2016 年はわずか 1.0% にとどまると予想している。 内部告発サイト「ウィキリークス」が公開した米外交公電によると、現在は中国首相を務める李克強氏が、遼寧省党委書記を務めていた数年前、中国の GDP 統計は「人為的」であるため信頼できないと語ったとされる。
ファゾム・コンサルティングは、李克強氏が当時、遼寧省の経済評価の際に重視するとした電力消費、鉄道貨物量および銀行融資の 3 つのデータを基にした、全国レベルのシンプルな指標を公表している。 それによると、実際の成長率は 3.2% であることが示唆されている。 鉄道貨物量の減少、トレンド成長を下回る電力消費を反映し、示唆された成長率は 2013 年終盤以降、公式統計から大幅にかい離している。
国家統計局にコメントを求めたが、回答はなかった。 先月の記者会見時には、公式統計に批判的な人は中国が利用する GDP 計算方法を完全に理解していないとして、統計は正確だと反論。 数値の正確性については常に向上に努めていると説明した。 (Reuters = 8-7-15)
中国の "党指令型経済モデル" は破綻している
鉄道貨物輸送量が示す作為的 GDP
上海株は中国共産党の市場統制強化によって暴落に「歯止め」がかかったように見えるが、中国経済は閉塞状況にある。 上海株暴落は、慢性デフレ不況の症状すら見せている実体経済の惨状を反映した。 党指令型経済モデルが破綻したのだ。 中国は今年 4 - 6 月期の国内総生産 (GDP) の実質成長率が年率で 7% と発表している。 党が目標とする水準そのもので、党官僚が明らかに鉛筆をなめた作文と言っていい。 まともなエコノミストやメディアなら、どこも信用しないだろうが、残念なことに、北京の顔色を気にする日本の多くのメディアやエコノミストは「大本営発表」を無批判に受け止めている。
そのインチキぶりを示すのがグラフの鉄道貨物輸送量である。 同輸送量も GDP と同じく、中国国家統計局がまとめるのだが、李克強首相は以前に「GDP は作為的だが、鉄道貨物輸送データは運賃を基本に集計するので信用できる」と米国の駐北京大使に打ち明けている。 輸送量は 2014 年初め以来、下がり続けている。 今年 6 月までの 12 カ月合計を前年同期に比べると実に 7.6% 減である。
消費者物価指数もなだらかながら、下落が続いている。 中国は内需減退でマイナス成長の局面にあるとみてもおかしくない。 もし、7% も生産が伸びているとしたら、莫大な過剰生産を続けているだけであり、企業は過剰在庫をさらに増やしているはずである。 注目すべきは、人民元の実効相場である。 実効相場はドル、円、ユーロなど他の通貨との交換レートを貿易量に応じて加重平均した値である。 元相場は実体経済の下降とは対照的に上昇を続けている。 円に対しては 50% 以上も高くなった。 道理で、日本製品は超安になるはずで、日本へ爆買いツアーが殺到する。
通貨高、慢性的物価下落・不況というのは、まさしく日本の 20 年デフレと酷似している。 中央銀行、商業銀行、国有企業さらに株式市場も党の指令下に置く以上、株価を引き上げるのはたやすいことで、個人投資家たちも「党が株価を上げてくれる」と信じたから、株価が急騰した。 しかし、実体景気とのギャップがはなはだしいので、香港経由の外国人投資家が売り逃げしただけで、暴落した。
日本を含む世界経済への影響は、上海株価そのものよりも、隠しおおせなくなった中国経済の惨状からくる恐れがある。 中国の輸入市場は日本の 2.5 倍、米国の 7 割に達する。 輸入額は 14 年秋から前年比マイナスとなり、対中輸出依存度の高い韓国、東南アジアなどの経済を直撃している。 日本からの輸入も減り続けているが、中国輸入市場の不振は日本のアジアなど対外輸出全体のマイナス材料となる。 また、流通業や自動車大手など対中投資を増やしてきた企業は泥舟に乗っているのも同然だ。 日本としては、本格的なチャイナ・ショックに十分耐えられるよう、アベノミクスを巻き直すしかない。 (田村秀男、ZAKZAK = 7-24-15)
老舗シンクタンクが発表した「中国経済予測レポート」驚きの悲観シナリオ
禁じ手のオンパレード
荒れに荒れた先週(7 月 6 日 - 10 日)の株式市場だが、終わってみれば世界 25 主要市場の週間騰落率で最も値を上げたのは、ギリシャと並んで世界市場を混乱に追い込んだ中国株(上海総合指数)だった。 その上昇率は前週末比 5.18% 高と、2 位スイス(SMI、2.48% 高)、3 位ドイツ(DAX、2.33% 高)などを大きく引き離したばかりか、23 位で 3.70% 安だった日本株(日経平均株価)とは対照的な動きを見せた。
しかし、この中国株相場の上昇が本物で、先月から続いた下落傾向にピリオドを打ったと考えるのは早計だろう。 というのは、中国の公安当局が空売りを取り締まるとの声明を発表したり、政府系金融機関が中央銀行の資金繰り支援を背景に株式の直接購入に乗り出す方針を示したり、ひと昔前ならば世界から批判の的になったであろう禁じ手のオンパレードで株価を下支えしているからだ。
足元の経済をみると、不動産バブルの崩壊、積みあがったシャドウバンクの不良債権、鉄鋼などの過剰在庫のヤマと、深刻な問題が一向に解決しない。 それどころか、最近まで年率で 2 桁の成長が当たり前だったのが、今年度は 7% 成長の維持すら覚束ない。 さらに、10 年後を展望すると、年率 3.0% と一段と成長が失速することもあり得ると危惧するシンクタンクも出てきた。
このままでは市場の調整機能がマヒする
中国株高がそれほど長く続くはずがない - -。 早くから、こんな見方は多かった。 なぜならば、中国株は 2007 年 10 月に上海総合指数が 6,124 と史上最高値を記録した後、翌年のリーマンショックを挟んで 3 分の 1 以下に急落したにもかかわらず、4 兆元という巨額の経済対策で株価を人為的に下支えしていたからだ。
この間、地方政府の不動産投資を過熱させて経済と市場のテコ入れを図る挙に出たことで、不動産バブルの崩壊とシャドーバンキングが扱う「理財商品」のデフォルト問題を引き起こした経緯がある。 日本の 7、8 倍という粗鋼の余剰生産能力を抱えた鉄鋼メーカーなど製造業も、不良在庫の整理に困り "ダンピング輸出" に走っていた。
にもかかわらず、中国政府は個人消費の刺激に役立つとの判断から、中国株市場への資金流入を促す政策をとり、上海総合指数は昨年夏から今年 6 月中旬までに 2.5 倍に急上昇した。 6 月 12 日には 5,166 と 2008 年 1 月以来 7 年 5 カ月ぶりの高値を付けている。 だが、その後は勢いが続かず、同指数は 7 月 8 日までの間に 3 割以上も下げる事態になった。
下げ過程では、中央銀行にあたる中国人民銀行が 2 カ月ぶりの短期資金供給の実施と、政策金利と預金準備率の同時引き下げを決定したのを手始めに、当局は続々と株価下支え策を打ち出した。 中国財政省は年金基金による株式投資を容認する草案を発表し、証券監督当局は信用取引の規制緩和と、証券 21 社に対する 1,200 億元を投じた投資信託の買い入れを命じ、政府系ファンドは投信の買い上げを発表する、といった具合だ。
さらに上海と深?の証券取引所が売買手数料の 3 割引き下げをテコに株式への投資を誘因しようと試みたり、予定していた 28 社の上場を先送りにして需給関係の改善を試みる決定を下したりした。
なんとか落ち着きを取り戻す端緒になったのは、公安省が 9 日に打ち出した「悪意ある空売り」の徹底的な取り締まりの表明だ。 摘発を恐れた向きが多かったのだろう。 翌 10 日には、先物を買い戻す動きが活発化した。 信用取引のために株券や資金の貸借を行う中国証券金融が株式を買い始めたとの見方も広がったことも、株価の回復に寄与したという。 これらが呼び水になって、中国株は先週、主要国の株価の中で最大の上昇を記録したのである。
だが、中国の株価下支え策は尋常の策とは言えない。 異次元緩和の名の下に、日銀や年金積立金管理運用機構 (GPIF) に大規模な株式や投資信託の買い入れを続けさせている日本政府には批判する資格はないが、中国のやり方は明らかに市場の価格形成機能をマヒさせるものと言わざるを得ない。
悲観シナリオと「反日化」への不安
そこで、紹介しておきたいのが、保守的なことで知られる老舗シンクタンクの日本経済研究センターが 6 月 30 日に公表した「アジア経済中期予測」報告書の内容だ。 習近平総書記が掲げた「新常態」への移行を通じて、中国は経済成長のソフトランディングを目指しているとしながらも、「生産年齢人口の減少や地方政府の債務増加など様々な構造問題の改革が進まず」、実質 GDP 成長率(年率)は、標準シナリオで「2020 年で 5.2%、25 年で 4.1% に」、悲観シナリオで「25 年に 3.0% に」低下しかねないとしているのだ。
同報告書は、悲観リスクについて、「中国が農業、戸籍、労働、土地、社会保険などの構造改革を行わなければ、高成長が続いた国の成長率は急落する傾向が歴史的にある」と中国経済がこれまで考えられないペースの減速に陥る可能性を指摘している。 日本のバブル経済崩壊が国力の転換点になったように、GDP で世界第 2 位の経済大国に躍り出た中国の世紀も、ついに終わりを告げた公算が大きい。 今後数年間は、中国向け輸出がさらに落ち込み、日本経済にとって依存できる外需は米国向け輸出が中心になりだろう。
一方、株価という経済の鏡をいくら磨いて見せても、長年のツケで、中国の実体経済の進退はいよいよ窮まりつつある。 もはや、そのことを覆い隠すのは難しい状況だ。 こうした時に、乱暴な指導者たちが採る常とう手段は、経済の他に不満のはけ口を作ることだ。 日米や東南アジア諸国が懸念する南沙諸島や尖閣諸島への中国の露骨な領土的野心の顕れや、習近平総書記のライバルとされる政治家たちの汚職問題の追及は、そうしたはけ口作りの色合いが濃い。 これまで以上に、我々は隣国との付き合い方に十分に注意を払う必要がありそうだ。 (町田 徹、現代ビジネス = 7-14-15)
|