中国、人民元安対策で支払った代償とは

中国政府は、人民元安に歯止めをかける戦いの「任務完了」宣言をしたがっているかもしれない。 しかし、そのために使った手段は、支払った代償を隠すようなものだった可能性がある。

中国人民銀行(中央銀行)が 7 日発表したところによると、3 月末の外貨準備高は 3 兆 2,130 億ドル(約 350 兆円)となり、前月から 102 億 6,000 万ドル増加した。 過去 4 カ月続いていた減少傾向には歯止めがかかった。 ただ、為替レートの影響も部分的にはあるだろう。 ユーロ相場の対ドル上昇により、中国の外貨準備のうちユーロによる保有分が大きくなり、これがドル建ての外貨準備を大きく見せているのだ。 ただ、3 月の外貨準備は、中国政府が少なくとも当面は大規模なドル売り介入せずに済むことを示唆していると思われる。

ただ、細かく見てみると、中国政府が資本流出懸念をどう乗り切ったのかという疑問が生じる。 かつて外為市場で中国が行う戦略を計量化することは極めて難しく、外貨準備高をはじめとする個別のデータをまとめて推定することぐらいしかできなかった。 ところが昨年 12 月以降、国際通貨基金 (IMF) の要請で中国の為替先物予約の持ち高が発表されるようになった。 理論的には、これさえ分かれば中国の人民元管理に絡む数十億ドルのパズルは解けるはずだった。 中国による大規模介入の証拠が示されると多くの人々が予想していたのだ。

だが、最新統計によると 2 月のドル売り越しは 260 億ドルにとどまり、一部エコノミスト予想の 4 分の 1 にとどまった。 残りはどこに行ってしまったのだろうか。 統計では大半の先物予約が1年物のため、すべてが決済期日を過ぎたということはないはずだ。 一つの可能性は、この統計が規制の厳しい中国国内市場での介入だけを反映しているということだ。 しかし、それでは毎日の国内先物予約の取引高データと整合せず、公表された契約規模よりずっと少ない。

となると、介入は別の場所で行われた可能性がある。 つまり、国営銀行のバランスシート上だ。 国営銀行は従来、国内市場とより規制の緩いオフショア市場の双方で直物市場での介入の取引相手となってきた。 そうした取引は外貨準備統計に捕捉されず、また、人民銀がいずれその持ち高の手仕舞いを強いられた場合、投資家にはサプライズとなる可能性が高い。

投資家にとっては残念なことだが、この統計はこれまでの疑問に答える以上に新たな疑問を生んでいる。 市場介入のルートが遠回りであればそれだけ、その通貨の安定に対する投資家の信頼は低くなるものだ。 (Anjani Trivedi、The Wall Street Journal = 4-8-16)


中国人民銀総裁、債務拡大に警鐘 - 安定した資本市場の育成が必要

中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は 20 日、企業借り入れの国内総生産 (GDP) 比率が高過ぎると指摘し、中国はより安定した資本市場を発展させる必要があるとの認識を明らかにした。 これは債務水準の高まりをめぐる警鐘と受け取られる発言だ。 周総裁は北京で開催されたフォーラムで、中国は違法な資金調達の問題を抱えており、金融サービスはなお不十分だと発言。 中国には外貨建ての行き過ぎたレバレッジを防ぐ規制が引き続き必要だと訴えた。

同総裁は「企業の借り入れを中心とする借入金の GDP 比率は高過ぎる水準にある」との見解を示し、レバレッジ比率が高くなれば、マクロ経済リスクの影響をより受けやすくなると述べた。 中国指導部は債務水準の上昇に対応する一方、2020 年までの 5 年間で年平均 6.5% 以上の経済成長を達成する目標とバランスを取る難しいかじ取りを迫られている。 李克強首相は 16 日の記者ブリーフィングで、企業債務比率の高さは「中国では目新しいものではない」とした上で、資本市場の改革を通じて押し下げを目指す考えを示した。

経済協力開発機構 (OECD) によると、中国では企業債務だけで GDP の 160% に達している。グリア事務総長は 20 日、特にレバレッジ比率が高いセクターとして、セメントや鉄鋼、石炭、板ガラスといった業種を挙げ、短期的なリスクであるこの問題に中国は対処する必要があると語った。 (Bloomberg = 3-21-16)


中国政府が P2P ローン取り締まりへ

中国当局は大都市で不動産価格を押し上げている規制の届かない貸し付けの急増を、それが経済全体に悪影響を及ぼす前に厳しく取り締まろうとしている。 中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は先週末のコメントの中で、住宅ローンの頭金のためのローンは違法だと非難した。 潘功勝副総裁も当局はこうしたローンを認める「ピア・ツー・ピア (P2P)」の企業を取り締まると述べた。

だが、多くの専門家は中国の四大都市への不動産投機が主にこうしたシャドーバンキング(影の銀行)により過去最高水準に達したことを懸念している。 過去数カ月で規制を受けないローンの資金数十億元が不動産市場に流れ込んだ。

「米サブプライム危機を思い起こさせる」

BBVA のアジア担当チーフエコノミストのシア・リー氏は「これは米国のサブプライム危機を思い起こさせる」とした上で、「以前は家を買う時は自分の資金を使ったが、今では投機的な影の融資が利用されている」と述べた。 中国で「1 級都市」とされる北京や上海、広州、深センでの昨年の住宅販売は中国全体の約 7% 増に対して 14% 伸びた。 深センでは 1 平方メートル当たりの平均価格が 2 月時点で前年の 2 倍近くになった。 バンクオブアメリカ・メリルリンチによると、1 級都市の市場とそれ以外の市場とで格差があるのは一部影の資金が市場に流れ込んでいることが原因だ。

政府による的を絞った一連の政策にもかかわらず、四大都市の不動産ブームは到来している。 2008 年の米住宅市場崩壊を受け、中国政府は、一部借入金による投機にあおられて当時過熱していた不動産市場を抑制するため不動産担保ローンの借り入れ条件を厳しくした。 住宅購入者に対し、1 軒目の購入の場合には 30%、2 軒目か 3 軒目の場合には 50% もの頭金の支払いを義務付け、過熱していた市場を徐々に制御したのだ。

深センの不動産、投機目的が最大 3 分の 1

だが、P2P 企業 - - 投資家からの資金と借り手をオンラインで引き合わせる規制の緩い金融業者 - - は不動産購入者によるそうした規制の抜け穴探しを手助けした。 P2P ローン企業大手約 15 社が、深センや北京、上海に商品が集中する中で無担保ローンを供与している。 こうしたローンを利用することで顧客は頭金を払い、銀行の不動産担保ローンに自由に申し込むことができるようになり、それが正規の銀行システムを投機の波にのみ込んでいく。

北京に拠点を置く P2P 企業、●貸網(●は目偏に分)のカク中皓・最高経営責任者 (CEO) は「これが多くの信用の低い借り手や、当然ながら不動産投機がしたい人々を呼び込んでいる」と言う。 同社は頭金のローンは提供していない。 P2P のコンサルティング企業、網貸之家の試算では、P2P に流入した資金は総額 50 億元(約 874 億円)で、これは不動産市場全体に比べればほんのわずかだという。

だが、北京に拠点を置き、先週事業を停止した不動産業者で P2P 金融業者でもあった鏈家網は単独で最大 30 億元を貸し付けていたことから、市場全体の実際の数値ははるかに大きいと考えられる。 この 50 億元には、借り手が P2P を利用して頭金を支払った上で銀行から受けた不動産担保ローンは含まれていない。 国営メディアは、不動産担保ローンの価値が 12 月時点で 1 兆元を超えた深センの不動産市場の最大 3 分の 1 が投機目的で購入されていると見積もっている。

中国の大都市の不動産市場が占める割合は同国全体の 5 - 9% にすぎないが、一部のアナリストはこのブームが経済全体に及ぼす影響への懸念を強調する。 ウォルターズ・クルワーの上海部門のスパーク・ワン氏は、P2P ローンは米国のサブプライム危機の時売られた商品の一部よりリスクが高いと指摘する。 P2P ローンの返済期限は通常 90 日で、金利は最大 12% になる。 (Don Weinland and Yuan Yang、The Financial Times = 3-16-16)


中国経済の苦境、統計で浮き彫りに

中国の今年 1 - 2 月の鉱工業生産と小売売上高は予想を下回った。 需要低迷と過剰生産能力が世界第 2 位の中国経済を圧迫する状況が続いた。 中国国家統計局が 12 日発表した 1 - 2 月の鉱工業生産は前年同期比 5.4% 増となり、伸びは昨年 12 月の 5.9% 増を下回った。 ウォール・ストリート・ジャーナル (WSJ) がまとめたエコノミスト予想 (5.6%) にもわずかに届かなかった。 1 - 2 月の小売売上高は同 10.2% 増で、12 月の 11.1% 増から伸びが減速した。

鉱工業が景気減速で不振に陥っているのに対し、小売売上高は比較的堅調を保ってきた。 そのため、例年消費が盛り上がる春節(旧正月)休暇と重なったにもかかわらず、1 - 2 月の小売売上高の伸びが鈍化したことは一部のエコノミストを驚かせた。 コメルツ銀行のエコノミスト、周浩氏は「全体的にかなり暗い状況が続いている」とし、「通常は春節の影響で大幅な増減がある。 今年は大幅に落ち込んだだけだった。」と述べた。

中国政府は一部の経済指標について、春節休暇に関連した歪み(ゆがみ)を最小限に抑えるため 1 月分と 2 月分をまとめて発表している。 今年の春節は 2 月初旬だった。 回復が見られた分野の一つは、工場や建物などの固定資産投資だった。 1 - 2 月の非地方部(都市部)固定資産投資は前年同期比 10.2% 増となり、エコノミスト予想や 2015 年通年の 10% 増を上回った。 エコノミストらによると、政府のインフラ支出や、過剰建設状態にある不動産市場の一部への投資による押し上げが大きかった。

エコノミストらは、全体として国内外の需要の鈍さが鉱工業を圧迫しており、多くの工場が不要な製品を生産し続けていると述べた。 国家統計局のエコノミストは、鉄鋼やセメント、たばこの生産会社が需要低迷に減産で対応したと述べた。 みずほ証券アジアは最近(12 日の一連の統計発表前)のリポートで、「中国の鉱工業にはまだ回復が見られない」と述べた。

浙江省金華市でハンドパレットトラックなど物流関連製品を生産している浙江蘭渓山野機械の営業部長によると、同社は資本調達や値上げに苦戦する状況が今も続く。 この部長は「競争は厳しい」とし、「ほぼ同じ製品を作っている企業があまりにも多いため、焦点は値下げに移っている」と述べた。

李克強首相は今月開幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の冒頭、事業環境の改善に向けて減税や官僚主義の是正、規制効率化に取り組む方針を明らかにした。 だが、山野機械の営業部長は、現場レベルでは何か大きく変わったということはないとし、「単なるスローガンで、全く役に立たない」と語った。

エコノミストらは、生産統計が弱かったことで、1 - 3 月期の経済成長率は今年の政府目標 (6.5 - 7%) の下限に向かう可能性があると指摘。 また、中国当局は成長の足取りがおぼつかないことを懸念し、1 月に資金供給の大幅な拡大やインフラ投資の強化に踏み切ったようだとも述べた。 HSBC のエコノミスト、馬小平氏は「成長減速が一服しただけだ」とし、「まだ好転してはいない」と述べた。

不動産市場は持ち直しているが、活動の大半は大都市に集中している。 エコノミストらによると、それ以外の大半の都市では、過剰生産能力が重荷となり改善の兆しはほとんど見られない。 1 - 2 月の住宅販売は前年同期比 49.2% 増、不動産投資は同 3% 増となった。 15 年通年はそれぞれ 16.6% 増、1% 増だった。 中国招商証券のエコノミストは、中国では今年、海外需要の鈍さや中国政府による鉱工業の過剰生産能力削減計画を背景に、不動産投資と国内消費が成長の主な原動力となる可能性があると述べた。

コメルツ銀行の周氏などのエコノミストは、投資資金が新規事業ではなく、過熱の兆しが見える一部の不動産市場に流入していることに懸念を示した。 周氏は、金融緩和で生まれた資金が実体経済ではなく不動産資産だけに向かっていると述べた。 エコノミストらによると、1 - 2 月の小売売上高の伸びが鈍ったのは、金融市場の混乱に加え、昨年の企業収益低迷が賃上げやボーナスを抑えたことを反映しているようだ。

春節休暇前後の統計のぶれを考慮した場合でも、今年の中国経済は低調なスタートとなっている。 2015 年の成長率は 6.9% と、25 年ぶりの低さだった。 昨年末から今年にかけて実施された一連の景気刺激策(直近事例は 2 月の銀行預金準備率の 0.5% 引き下げ)はまだ、景気減速を反転させるには至っていない。 (Mark Magnier、The Wall Street Journal = 3-14-16)


中国、400 兆円巨額損失も 米「空売り王」予言 600 万人リストラ地獄 …

中国経済の先行きに警戒感が強まるなか、5 日に全国人民代表大会(全人代=国会)が開幕した。習近平指導部で初めて独自に経済政策「第 13 次 5 カ年計画」を策定するが、財政、金融ともに景気対策で打てる手は限られ、企業の過剰債務や銀行の不良債権に欧米の投資家や格付け会社は強い懸念を示す。 さらに最大 600 万人のリストラなど、習指導部が抱える課題は山積している。

16 日までとみられる会期中には、今年の国内総生産 (GDP) 成長率目標が打ち出される。 2015 年の成長率は 6.9% と政府目標の 7% は未達で、今年は「6.5 - 7.0%」など幅を持たせた目標が全人代で確認される可能性もある。 ただ、中国の GDP 統計をまともに信じる向きは少なく、市場関係者の関心は景気失速や株・為替市場の混乱を止められるのか、習指導部の次の一手に集まっている。

まず注目なのが積極的な財政支出だ。 20 カ国・地域 (G20) 財務相・中央銀行総裁会議閉幕後の記者会見で、楼継偉財政相は「債務増大による財政出動の余地がある」と強調している。 しかし、第一生命経済研究所主席エコノミストの西濱徹氏は、「過去の財政依存が過剰設備や過剰債務問題を招いたこともあり、財政出動にはあまり期待できない。 減税や企業のコストを減らす施策が中心となるだろう。」とみる。

財政支出と並ぶ景気対策である金融緩和については、中国人民銀行は 1 日付で預金準備率の引き下げを行ったが、西濱氏は「過度な緩和は人民元安を招くのでやりにくい。 通貨安や資本流出を防ぐために資本規制を導入すべきだという声もあるが、人民元の国際通貨化を強調してきた政権のメンツがまるつぶれになってしまう」と指摘する。 財政、金融政策ともに手段が限られ、その効果も不透明のようだ。

地方政府や企業が抱える過剰債務問題への懸念も大きい。米格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスは 1 日、中国の信用格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げた。 格付けは「Aa3」(ダブル A マイナスに相当)に据え置いたが、引き下げも視野に入れる。 政府債務の増大や、資本流出による外貨準備高の減少、構造改革の不透明さなどを理由に挙げた。

金融機関の過剰融資に伴う不良債権を警戒するのは英格付け大手のフィッチ・レーティングス。 借り入れ比率がすでに高い状況で、中国の銀行が再び急速な融資拡大を持続することを危惧する。 全人代では構造改革も強調するとみられるが、欧米の市場関係者からは疑いの目で見られているようだ。

ブルームバーグによると、米サブプライム危機を事前に予測し、大もうけしたことで知られ、「空売り王」と呼ばれるヘッジファンドマネジャー、カイル・バス氏は、中国の銀行システムが不良債権で資産 10% を失えば、中国の銀行の損失額が約 3 兆 5,000 億ドル(約 400 兆円)になると予測した。 リーマン・ショック時に米国の銀行が抱えた損失の 4 倍余りになるという。

構造改革も難題だ。 石炭や鉄鋼、造船や建設資材などを中心とする「ゾンビ企業」の統廃合や工場閉鎖によるリストラで、5 年間で少なくとも 600 万人の退職者が出るとされ、雇用問題が拡大すれば社会不安に結びつきかねない。 「注目は、国有企業の整理と過剰生産能力の解消にどこまで道筋をつけられるかだ」と語るのは、『米中経済戦争 AIIB 対 TPP(東洋経済新報社)』の著書がある週刊東洋経済編集長代理の西村豪太氏。

「血を流す改革を実現するのは容易ではなく、バッファー(緩衝材)として期待されているのが現代版シルクロード経済圏、『一帯一路』だ。 設備リストラができなかった場合に、国内で消化できない鉄鋼やセメントのはけ口を周辺の新興国のインフラ需要に求めるもので、中国発の素材デフレが続くことが予想される。 構造改革路線と『一帯一路』のどちらにより大きなウエートがあるのかが、全人代での議論や人事から見えてくる」と予測する。

前出の西濱氏はこう語る。 「不良債権処理を性急にやると景気にマイナスになる。 また、製造業中心から内需・サービス中心の経済への移行を目指すとしているが、第 3 次産業が中国の景気を牽引できるかは疑問だ。 中国は市場との対話に失敗していることもあり、難しいかじ取りを迫られている。」 (ZAKZAK = 3-5-16)


ムーディーズ、中国格付け見通しをネガティブに 改革実行に不安

[上海] 格付け機関ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、中国の格付けを「Aa3」に据え置いたものの、政府の改革実行力や財政状況をめぐる不透明感から見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。 ムーディーズは 2 日付のリポートで「信頼性のある効果的な改革がなければ、高水準の債務負担が設備投資を妨げ、人口動態が好ましくない方向に一層変化し、中国の国内総生産 (GDP) 伸び率はより大幅に鈍化するだろう」とし、「政府債務はわれわれの現在の予想よりも大幅に増加するとみられる」と指摘した。

ムーディーズは 2 月 9 日に中国の格付けを検討する会議を開き、財政状況やイベントリスクへの耐性などについて討議。 財政の悪化が続き、外貨準備が減少するとの見方から見通し引き下げを決めたとしている。 改革のなかには実施が不完全だったり、方針が変更されたものもあり、政策責任者の信認が問われているとも指摘。 「ここ 1 年の株・為替市場への介入は、金融・経済の安定確保も目標であることを示唆しているが、政策の優先順位についてかなりの不透明感がある」との見解を示した。

減少したとはいえなお高水準な外貨準備が、改革実行に時間的余裕を与えているとして格付けを据え置いたが、持続可能な成長や財政を支えるために必要な改革にかげりがみえれば、格付けを引き下げる可能性があると警告した。 資産運用会社ナタクシスのアジア新興国担当シニアエコノミストは「中国にはそれを実行する余地がある。 他の新興国と比べて政府債務の対 GDP 比率はかなり低い。 最も重要なのは経常収支が黒字なことで、中国は財政拡大を自力で賄える」と指摘した。

ムーディーズは格付け見通し引き下げの主な理由として、国有企業の債務や地方政府の債務、3 大政策銀行である中国農業発展銀行、中国国家開発銀行、中国輸出入銀行の債務など偶発債務の多さを挙げている。 国有企業の債務は高水準で、さらに上昇しており、債務返済が他の支出を抑制することから、大幅な景気減速リスクや、銀行の資産の質が悪化するリスクが高まると指摘した。 キャピタル・エコノミクスの中国担当エコノミスト、ジュリアン・エバンズ・プリチャード氏は「理想的には、民営化をさらに進めるなど、より大規模な国有セクター改革を期待する」と述べた。 (Reuters = 3-2-16)


中国悲観論が加速、指導部への失望感で

【上海】 世界の投資家が中国に抱く心理はいつも、行き過ぎた楽観か極端な悲観かのどちらかに大きく振れていた。 ただ、足元の悲観ぶりはこれまでになく極端になっている。 この理由は、景気減速では説明がつかない。 昨年の公式経済成長率は 6.9% と 25 年ぶりの低水準で、エコノミストの多くは実際の成長率が 6% に近いと予想しているが、中国は依然として他の主要国の大半を上回るペースで成長している。 銀行には預金が大量にあり、政府にはまだ財政力がある。 失業は低水準だ。

今回、驚くほど悲観的なムードに転じた理由は、経済のパフォーマンス以外のところにある。 基本的には中国指導部、つまり、経済運営の手法が理由だ。 習近平国家主席が政権の座に就いた 2012 年、投資家は景気がぐらついていることを認識していた。 温家宝前首相の 07 年の発言で知られているように、「不安定、不均衡、不調和、持続不可能」な状態だった。 温氏が中国の壊れた成長モデルを一刀両断したことは、一種のざんげでもあった。 温氏と胡錦濤前国家主席は早期に問題を認識していたが、重工業やインフラへの投資で政府資金を浪費し、問題を大幅に悪化させた。

習主席は広範な改革を公約した。 トウ小平氏に比肩する改革路線を打ち出す習主席は、中国が投資主導から消費主導の成長に転換する中、国家の役割を縮小し、市場に「決定的な役割」を与えるために 60 項目の計画を発表した。 習政権は 10 年の任期の 4 年目に突入しているが、改革の大部分は棚上げとなっている。 中国からの資本流出は、一部の投資家が見切りをつけている兆候の一つと言える。

目下の失望感は、中国の現状ではなく主に将来の見通しに向けられている。 改革の進展が再び約束されない中、成長が失速するという予想が広がっているのだ。 疑問視されているのは、いつ失速が現実のものとなるかという時期だけだ。 改革はなぜ遅れているのか。 習主席は権力基盤を固めるのに忙しい、あるいは、汚職撲滅運動のことしか頭にない、といった声も聞かれる。 国有企業の再編、金融システムの開放と競争促進、土地や労働市場の自由化といった異論の多い改革は、合意を形成するのに時間がかかると指摘する向きもある。

だが、もっと基本的な理由で改革が行き詰まっている証拠がこのところ目に付く。 習主席は当初の大言壮語とは裏腹に、市場に限定的な役割しか求めていないのだ。 昨年夏、政府が誘発したバブル崩壊で上海株式市場が急落した際に荒っぽい介入で救済に動いたことでも明らかだが、市場原理への道を明らかに逆行する例がいくつかあった。 当局は、証券会社に株式購入を強制し、大口投資家の売りを禁止した上に、市場の混乱は投機筋や報道機関、さらには「敵対的な外国勢力」のせいだと批判した。

場当たり的な市場介入の影響は世界に波及している。 国際通貨基金 (IMF) のラガルド専務理事は特に、中国が昨年十分な説明もなく為替制度を変更し、金融の混乱をどれほど拡大させたかということにいら立ちを表明している。 中国指導部は過去何十年もの間、中国のような大規模な新興国が避けて通れない多数の問題について、市場原理を導入すれば成長への課題に打ち勝つことができる、というストーリーを語ることで悲観的な見方を打ち消してきた。

トウ小平氏自身、秀逸なストーリーの語り手だった。 1989 年の天安門事件を受け、投資家の中国離れが加速すると、同氏は世間の注目を一身に浴びる中、自身の改革発祥の地・深センへ赴くことで投資家を呼び戻した。 トウ氏は市場への肩入れを強調するため、1990 年代序盤に上海と深センに証券取引所を開設した。

1990 年代後半のアジア金融危機が市場改革の波の前兆となり、その勢いは現在まで続いている。 当時の朱鎔基首相は、中国の世界貿易機関 (WTO) 加盟交渉を進め(その狙いは外資との競争にさらすことで国有企業を再編することにあった)、企業に軍の影響力が及ばないようにした。 また、官僚主義の是正に努め、民間部門を後押しした。

習主席は 10 兆ドルを超える規模の経済のかじ取りで、はるかに複雑な課題に数多く直面している。 だが、習主席がこれまでに講じた果断な措置から、同氏が経営工学と国家計画を通じて経済の方向を事実上まだコントロールできると考えていることがうかがえる。 その好例が、政府系企業を合併し、さらに強力な独占企業を作り出すという習主席の手法だ。 こうした強大な企業への投資を民間企業に認める計画はあまり進んでいない。

海外投資家の意欲をかき立てるような大胆な改革構想が必要な時があるとすれば、それは今だ。 為替投機筋は香港市場で人民元を攻撃している。 著名投資家のジョージ・ソロス氏は中国経済がすでに崩壊しつつあるとみており、ダボスでの講演で「それは予想ではなく、実際に目の当たりにしている」と語った。

習主席の野心的な改革の進捗状況を定期的に採点している米中ビジネス評議会は、加盟企業の間で失望が広がっていることを証明している。 中国当局は煩雑な手続きの削減や分かりにくいと評判の許可制度の簡素化で進展があったとよく豪語しているが、同評議会の調査では、企業の 77% がこれらの分野で全く進展が見られないと回答した。 状況改善を期待できるような説得力のある説明がないため、投資家はますます厳しい結論に達しつつある。 それは、習政権は改革に関しては構想通りに進めることができなくなっている、というものだ。 (Andrew Browne、The Wall Street Journal = 2-17-16)


中国の銀行が被る損失、サブプライム危機時の米銀の 4 倍超 - バス氏

米国のサブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン債権売りで成功したヘッジファンドマネジャー、カイル・バス氏は、中国の銀行システムが被る損失額は米国の銀行が直面した前回の危機時の 4 倍余りとなる可能性があるとの見方を示した。

ダラスに本社を置くヘイマン・キャピタル・マネジメントを創業したバス氏は投資家への書簡で、中国の銀行システムが不良債権で資産の 10% を失えば、中国の銀行のエクイティ価値が約 3 兆 5,000 億ドル(約 395 兆円)消失すると指摘。 世界 2 位の経済大国である中国は、銀行の資本増強のため 10 兆ドル強相当の人民元を増刷する必要が生じ、人民元の対ドル相場を 30% 余り切り下げる圧力となるかもしれないと指摘した。 ブルームバーグが書簡を入手した。

「リセット」

バス氏 (46) は「われわれが目にしているのは、世界がこれまで見てきた最大のマクロ不均衡のリセットだ」と指摘。 「中国の与信は短期的な限界に達し、世界にとって深刻な影響をもたらす損失サイクルを中国の銀行システムは経験するだろう」とコメントした。

同氏は、自身が手掛けるヘッジファンドが昨年半ば以降にリスクが高めの資産の大半を売却し、「中国の与信と通貨のリセットに向けた長い道のりの過程で生じ得るさまざまなイベント」が起きる 1 年半に備えたと説明。 問い合わせに対し電子メールで答えた同氏は、ポートフォリオの約 85% が中国関連の取引に投じられていることを明らかにした。 「中国が直面している問題には過去に事例がない。 あまりにも大きく、不均衡是正のためには中国政府によるコミットメントが全面的に必要となるだろう。 こうしたこと全てが起きている間は、リスク資産の居場所はない。」との認識を示した。

シャドーバンキング

バス氏は、昨年の中国経済成長率が実際には政府発表の 6.9% を大きく下回り、3.6% 程度だったと分析。 中国が持つ外貨準備 3 兆 2,000 億ドルのうち、約 2 兆 2,000 億ドルに流動性があるとの推計も示した。 2015 年の中国成長率は 25 年ぶりの低水準だった。

中国の銀行システムについて、同氏は資産が過去 10 年で 10 倍に膨らみ、34 兆 5,000 億ドル余りに達したと試算。 金融会社が規制回避のために利用しているリスク商品であふれていると説明。 UBS グループのデータを引用し、中国で拡大したシャドーバンキング(影の銀行)はここ 3 年間に約 600% 拡大したと指摘し、最初にシャドーバンキングで「与信の問題が浮上している」と記した。

銀行が簿外融資として使ってきた資産運用商品が破綻し始めており、銀行のバランスシートに戻されつつあるとした上で、銀行側は貸し倒れを隠すため信託受益権を利用しており、これが「作動中の時限爆弾」になっていると論じた。 「問題の震源地は中国の銀行システムとその来るべき損失だと考えている」という。 (Bloomberg = 2-11-16)


中国不安、震源は製造業 過剰設備解消進まず 止まらぬマネー流出

中国経済の減速を震源とした市場の混乱が収まらない。 18 日の東京株式市場で日経平均株価は 3 カ月半ぶりに 1 万 7 千円を割り込んだ。 原油価格も低迷し、米国市場で一時 12 年ぶりの安値となる 1 バレル 28 ドル台をつけた。 世界経済に逆風が吹きつけ、足踏みを続ける日本経済は耐久力が試される。

「2015 年 12 月期の利益が著しく減少したもようだ。」 中国国有の複合企業「華潤集団」傘下のセメント会社、華潤水泥は 13 日、人民元安で外貨建て債務の為替差損が膨らみ、業績が悪化した可能性があると発表した。 翌日、同社の香港市場の株価は一時、上場来の安値まで売り込まれた。 年明け 4 日には中国東方航空が 10 億ドル(約 1,180 億円)の外貨建て債務を前倒しで返済したと発表した。 元安によって返済負担が増すことを懸念したためだ。 同様の動きは外貨建ての借金を膨らませてきた不動産会社などにも広がっている。

元安の加速をきっかけに上海株式市場の総合指数は昨年末から 18% 下落した。 世界を揺らす金融市場の混乱の背景には中国景気の減速と先行きの不透明感がある。 特に目立つのは中国の製造業の苦境だ。 景況感を示す製造業購買担当者景気指数 (PMI) は昨年春から景気低迷のサインを発し続ける。 15 年 12 月下旬、韓国サムスン電子などのスマートフォン(スマホ)の製造で急成長した中国広東省の IT (情報技術)機器メーカー、深セン中天信電子の工場前は騒然となった。 受注の急減で経営が破綻し、「給料を払え」と殺到した数千人の作業員を抑え込むため警察が出動した。

広東だけではない。 河北省の多くのセメント工場はここ 1 カ月、操業を止めている。 激しい値引き競争を見かねた中国政府が生産停止を命じたためだ。 国有大手、中国アルミが山西省の子会社の大幅な減産とリストラに踏み切るとの噂も飛び交う。 河南省の国有炭鉱会社で働く 40 代の男性は「15 年の年収はピーク時の 1 割未満に減った」と嘆く。 地元紙は「給料を予定通り払うことのできている製造業は全体の 3 割前後」と伝える。

かつては中国の高速成長を支えた製造業はいまや「古い中国」を代表する存在となった。 人件費の上昇や過剰設備という構造問題に加え、卸売物価が 4 年近く前年水準を下回るデフレ圧力にあえぐ。 中国製造業の調整圧力が世界的な資源安を招き、米国の利上げも重なってマネーはリスクを敬遠する。 「腕を切る覚悟で設備過剰を解消せよ。」 李克強首相は 4 日、視察先の山西省太原で 20 社余りの鉄鋼、石炭企業を集め、号令をかけた。 さらに李氏はこうくぎを刺した。 「強い景気刺激策を打ち出して内需をかさ上げするつもりはない。」

政府が巨額の財政出動で無理に需要を積み上げても、非効率な企業や産業が残ったままでは持続的な成長は保てない。 むしろ市場の変化に対応できない「ゾンビ企業」を温存させ、バブル崩壊後の日本がたどったような長期低迷に入りかねない。 中国の政策当局者にはそんな危機感が強い。 官主導で進める構造転換の圧力が製造業の不振を一段と際立たせているのは確かだ。 設備過剰の解消はなかなか進まず、中国国内で余った鉄などは製造コストを下回る安値で世界に出回り、デフレを輸出している。 中国の鋼材の海外輸出は 15 年に初めて 1 億トンを越えた。 市況の悪化に歯止めがかからない悪循環を生んでいる。

中国指導部が経済の成長スピードを緩めつつ安定を保つ青写真を描くうえで、「新しい中国」の芽も出ている。 インターネット通販は 3 割を超える拡大を続け、国内総生産 (GDP) に占めるサービス業の比率は 1990 年代初めの 30% 台から足元は 50% 超まで高まった。 個人消費や技術革新がけん引する成長モデルへの道を探りつつある。 減速したとはいえ、15 年の実質成長率は 6% 台を維持したとみられる。

しかし、ほかの産業への波及力の大きさや、受注など景気の先行きを示す指標の多さから、市場に影響を及ぼす「主役」の座はなお製造業が握る。 製造業を覆う不振が景気全体への不安を膨らませ、金融市場という鏡に「中国リスク」がより強く映し出される構図が鮮明になっている。 不安に駆られたマネーの逃げ足は速い。 中国の外貨準備は 15 年に 5 千億ドル減り、23 年ぶりの減少となった。 海外への資本流出で加速する元安を食い止めようと、中国人民銀行(中央銀行)がドルを売って元を買い支える為替介入を繰り返したことが大きい。

中国から流出する資金は月 1 千億ドルを超えるとの試算もある。 国境をまたぐマネーの動きが激しくなれば経済運営は難しさを増す。 中国当局の急激な元安への警戒感は強い。 中国当局は実体経済やマネーの流れの変化にうまく対応できるのか。 政策決定が見えにくいだけに、そんな疑念が不安心理を増幅する。

中国の官製メディアは「慌てて元をドルに替える必要はない」と呼びかけるが、香港との境界に近い広東省深センの銀行の店舗では預金者が列をなす。 深センでベンチャー企業を経営する李錚さん (21) は元建ての個人預金をすべて下ろし、香港ドルに両替する準備を進めている。 「元は必ず下落する。 シンガポールから近く受け入れる投資資金もすぐに元から米ドルに換えるつもりだ」と打ち明ける。

「古い中国」を震源とする原油安は一時 1 バレル 28 ドル台をつける水準まで進んだ。 中国経済の減速と市場の動揺が共振し続ければ、足踏みを続ける日本経済も下押しされる。 日本経済新聞社の総合経済データバンク「NEEDS」の試算では、中国の成長率が 6% に減速し、円相場が 1 ドル = 115 円、原油価格が 1 バレル 30 ドルになると、16 年度で 1.7% を見込む実質成長率は 1% にとどまる。

日本政府や日銀は設備投資や個人消費といった内需の持ち直しに支えられる形で 16 年度の国内景気は緩やかに回復すると見込んでいる。 しかし、外的な混乱がそのシナリオを大きく揺さぶっている。 (北京 = 大越匡洋、nikkei = 1-19-16)


中国経済が崩壊すると予言した日本人は、中国を甘く見過ぎた - 英紙

12 月 16 日、英紙フィナンシャル・タイムズは、同紙のアジア編集長を務めるデビッド・ピリング氏による、「中国経済が崩壊すると予言した日本人は、中国を甘く見過ぎた」とする記事を掲載した。 18 日付で環球時報が伝えた。

私(ピリング氏)が 14 年前に初めてアジアに来た時、日本の経済規模は中国の 3 倍を誇っており、多くの日本人が「中国の体制は内部矛盾により確実に崩壊する」と予言していた。 彼らは「中国経済は国が管理しているため、不合理な資本分配や浪費性の投資への依存が起きやすい」、「中国経済は驚くべき成長を遂げたものの、水や空気を汚染してきた」などと分析した。 これらは正しいが、「内在するストレスが中国社会の不安定化を招き、体制が崩壊する」という結論は "片思い" に過ぎなかった。

彼らは中国共産党を甘く見過ぎていた。 中国は崩壊しないどころか、ある方面ではますますその力を強めている。 中国の経済規模は、今や日本の 2 倍以上。 購買力平価から見ると、米国をも凌駕する。 中国の台頭は、世界の重心を西側から東側へと移した。 経済や政治において大きな変化をもたらし、米国の外交官らは日本や台湾などに無条件の安全保障を提供することについて、その実現性を考慮しなければならなくなった。 英国は米国の反対を顧みずに、中国が主導する AIIB (アジアインフラ投資銀行)への参加を決めた。

中国の発展にはリスクが付きまとうが、それでも祝福しなければならない。 戦後の日本は世界に対して、繁栄と現代化は白人の専売特許でないことを証明したが、中国は世界に対して日本の成功をより大規模に実践できると示して見せた。 実際は、中国はここまでうまくやらずとも世界を変えることができた。 中国は人口が多いため、国民の生活水準が米国の半分に達しさえすれば、米国の 2 倍の経済体になるのだ。 イェール大学のポール・ケネディ教授は自身の著書「大国の興亡」の中で、「軍事力と外交力は後から付いてくるものだ」としている。 (RecordChina = 12-20-15)


中国の脱ドルペッグ、米利上げが障害か

【北京】 中国人民元の事実上のドルペッグ(連動)制緩和に向けた新たな動きは、中国政府が直面する難しい問題を浮き彫りにしている。 それは、米連邦準備制度理事会 (FRB) が成長促進に向けた中国の取り組みを損ないかねないということだ。 米経済の改善を受け、FRB は今週の政策会合で利上げを開始するとみられている。 一方、中国は反対に減速する景気を刺激するため、利下げをはじめとする緩和策を打ち出している。

米国の利上げはこの努力を妨げる恐れがある。 利上げはおそらくドル高を引き起こし、中国はペッグを維持するための為替市場介入を余儀なくされるだろう。 この介入は国内の銀行から人民元を買う形となる場合が多いが、これは、企業や消費者に融資するための資金を増やそうとしている中で、実質的には金融システムから資金を吸い上げることになる。 中国ではこの 1 年 1 カ月で 6 回の利下げと預金準備率の引き下げを行ったにもかかわらず、すでに多くの借り手、とりわけ中小企業や非上場企業にとって信用がひっ迫している状態だ。

中国人民銀行(中央銀行)は 11 日、人民元相場の管理方法をドルのみではなくドル、ユーロ、円など主要 13 通貨のバスケットに対する為替レートに変更する意向を示唆し、ドルベッグ制の緩和を目指す考えを示した。 通貨バスケットに連動すれば、さらなる元安・ドル高の余地が生まれる。 香港の投資銀行リオリエント・ファイナンシャル・マーケッツのチーフストラテジスト、ウエ・パーパート氏は「中銀の元買いによる為替市場への介入が金融緩和を台無しにすることはもうないだろう」とし、「銀行の預金準備率引き下げは直接的で障害のない形で中国経済に恩恵を与えるとみられる」と述べた。

だが、通貨バスケット制の採用は人民元安につながるとの見方から、中国本土および香港のオフショア市場でも人民元の売りが先行した。 人民元は 14 日午前の本土市場の取引でドルに対して 6.4665 元と、4 年ぶり安値を更新。 オフショア市場ではさらに大幅に下落した。 人民銀は市場の鎮静化を狙い、14 日にウェブサイトに掲載した論説で、依然として高水準の経済成長率、十分な外貨準備高、中国資産に対する海外需要の高まりが人民元を妥当な均衡水準で維持するとの見方を示した。

中国が実際にドルペッグ制をやめるか否かは全く定かでない。 中国はこれまでにもその意向を示してきたが、実際には廃止していない。 政府関係者や中銀のアドバイザーらによると、人民元の安定性をめぐる投資家信頼感が揺らげば、資本流出がさらに拡大するリスクもある。 アドバイザーの 1 人は「ペッグ制の廃止は金融政策の独立達成に向け重要な一歩となるが、不安定化を招く資本流出が中銀を踏み止まらせる可能性がある」と話した。 ドルペッグ廃止の意向を表明した 4 年後の 2009 年初め、中国は金融危機下で人民元の下落を食い止めるため、ドルに再び連動させた。

中国は FRB の利上げによる影響をそれほど気にしていない様子だ。 中国国家外為管理局 (SAFE) の総合司司長、王允貴氏は 10 日、米利上げは中国の国際資本フローに「若干」影響を及ぼすが、大きな打撃にはならないとの見方を示した。 ただ人民銀の当局者らはここ数カ月、元の管理方法について柔軟性を高めたい考えをほのめかしている。 易綱副総裁は 8 月の記者会見で、「対ドルの為替レートを固定すれば、金融政策の独立性が低下する」と述べた。

FRB のイエレン議長は今月、15・16 日の米連邦公開市場委員会 (FOMC) で短期金利の引き上げを実施する用意があることを示唆した。 利上げが行われれ、7 年に及んだゼロ金利が終わりを迎えることになる。 一方、中国では貿易、鉱工業生産、不動産投資など、これまで成長をけん引してきた要素がここ数カ月に軟化している。 エコノミストの間では中国経済成長が政府目標の 7% に達する可能性は低いとの見方が優勢だ。 7% を達成してもここ 25 年で最低の成長率となる。 (The Wall Street Journal = 12-15-15)