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何でも対応 … 「私たちはコンビニ」 気持ちの糸が切れた保護者の一言 午後 7 時すぎ、東海地方の中学校で、職員室の電話が鳴った。 「兄弟げんかをしているから、止めてほしい。」 30 代の女性教員が受けたのは、保護者からのそんな電話だった。 管理職に相談すると、「行ってあげて」と言われた。 生徒の自宅に急行し、兄弟をなだめて学校に戻った。 そして、また残っていた仕事を再開した。 こうした「呼び出し」は珍しいことではない。 生徒の万引きが発覚して、店から迎えに来るよう言われる。 SNS で生徒間のトラブルが発生したからと、生徒たちに聞き取りに行く。 夕方の退勤時間後に対応することもある。 同じ学年の同僚教員が向かう場合は、戻ってくるまで帰れないこともある。 それが暗黙の了解だからだ。 「私たちはコンビニだからね。」 同僚たちとそう自嘲することもある。 教員は 24 時間対応する便利な存在 - -。 生徒や保護者から、そう思われているのでは、と感じる。 いつからか、学校に対して過度な要求をする親が「モンスターペアレンツ」と呼ばれるようになった。 自身も、保護者の要求は年々大きくなっていると思う。 生徒への発言、ノートに記録 ある時、不登校傾向だった中 3 の生徒の保護者から、他の生徒がいない早朝に登校をさせたいと頼まれた。 保護者の依頼に応え続けてきた女性教員ですが、「もう限界」と感じる出来事がありました。 新人教員が辞めることもあり、働く環境の改善を訴えます。 保護者の仕事の都合で、登校は午前 6 時半にしたいという。 その時間に学校にいるためには、午前 5 時半には家を出ないといけない。 遅くまで残業した上に、早朝に登校するなんて。 管理職に「断ることはできないか」と相談したが、「子どものためにやってくれ」と言われた。 それからしばらく、早朝出勤が続いた。 生徒を励ますために「勉強を頑張ろう」と声をかけたことで、思わぬ反発を受けたこともあった。 言葉づかいが生徒の保護者から問題視され、保護者会で質問されたのだ。 それ以来、自分を守るために、何月何日、生徒にどんな声をかけたのか、ノートに記録をつけるようにしている。 部活指導に疲れ、「もういいや」 先生という仕事に対する意識が変わったのは、教員になって 4 年目のころだ。 当時の勤務校は、部活が盛んだった。 教員全員が部活の顧問をするよう求められ、未経験の競技を担当することになった。 毎日練習の指導にあたり、授業の準備が始められるのは午後 9 時を過ぎてからだった。 土日も部活の練習があり、生徒の練習に懸命に寄り添った。 未経験の競技だったが、大会の審判や運営を任され、プレッシャーは日に日に大きくなった。 体調を崩し、ある朝、起き上がれなくなった。 「土日のどちらかは部活を休みにしたい。」 思い切って生徒や保護者に打診した。 すると、保護者から「先生には熱意がない」と言われた。 その瞬間、気持ちの糸が切れた。 「あぁ、もういいや。」 それまでも、部活の運営の仕方をめぐって、保護者から不満を言われることがあったが、我慢してきた。 プライベートを犠牲にしてでも、「生徒のために」と頑張ってきた。 でも、もう限界だった。 教員の仕事にやりがいを感じられなくなり、こう思うようになった。 職があって、給料がもらえて生活ができればいい。 良い先生にならなくたっていい。 「真面目でいい教員ほどつぶれる。」 いまの勤務校でも、部活の顧問は引き受けている。 生徒たちの練習が終わり、翌日以降の授業準備を始めるのは、午後 9 時をまわってからが多い。 大変なのは、自分だけではない。 学校全体に若手の教員を指導する余裕がなくなり、新人が辞めたこともある。 1 学年で 3 人の教員がいなくなり、代わりに管理職が授業をすることもあった。 「今の教員の働き方では、いい子、まじめな子ほどつぶれる」と思う。 たとえ、やりがいを失っても、後輩教員や先生をめざす若者たちのためにも、心の中ではこう訴えている。 「教員をとりまく環境を少しでも改善してほしい。」 (阿部朋美、asahi = 11-21-21) ◇ ◇ ◇ ぬぐえぬ疑問、とまらない涙 事務作業にコロナ … 追い詰められる教員 朝学習や行事の計画表、生活指導、新型コロナウイルス対策の書類 …。 A4 判で厚さ 10 センチほどのファイル 3 冊分。 中部地方のある市立小学校で今年の 1 学期、教職員に配られた資料だ。 「なぜ?」 「何のため?」 「必要?」 持ち主の女性教諭 (33) は、はさんである資料のあちこちに、そのつど疑問に思ったことを書き込んだ。 百人一首の暗唱は、その意味もわからない 1 年生にさせる意味があるのか。 計算にかかった時間を計り、順位をつけて表彰状を出し、通知表に書き込むことまでしなければならないのか。 そんな疑問だ。 「子どもにとって意味があるのかな。 しなくていい仕事ではないかな。 そんな『?』の連続で。」 今年 4 月、育児休業が明け、いまの小学校に異動した。 それまでとは雰囲気がまるで変わっていた。 新型コロナなど様々な事情が重なり、業務が大幅に増えていたからだ。 年度初めは、ただでさえ忙しい。 学級の児童名簿や引き渡しカード作り、違う学年同士の「縦割り班」の編成や下足箱のシール貼りに追われるからだ。 さまざまな締め切りが 2 日後、3 日後、1 週間後と押し寄せてくる。 そこに、コロナに備える雑務が加わった。 教員の長時間労働の実態を伝える連載の 2 回目。 記事の後半では、新型コロナウィルスの感染拡大の影響のほか、長時間労働の実態が反映されないシステム上の問題にも言及しています。 体調崩し、ゼリーしか食べられず 音楽の楽器の演奏はどうするか。 プールに入るとき、子ども同士の間隔はどのくらいとるか。 同じ学年を担当する他の教員と話し合い、細かい資料をつくる。 子ども 1 人が 1 台ずつのタブレット端末を使う「GIGA スクール構想」も、負担が大きかった。 コロナ対応でオンライン学習のニーズが高まり、実施が今年度からに前倒しされた。 教室の後ろの棚に端末を並べ、子どもたちが使えるように 1 台ずつパスワードを設定していく。 研修もなく、一つひとつの操作に右往左往した。 資料に一番多くの「?」をつけたのは、「PDCA サイクル」を強調する学校の方針だった。 計画 (Plan) → 実行 (Do) → 評価 (Check) → 改善 (Action) を繰り返して計画を実現することを求められた。 例えば、「身だしなみ月間」になると担任にチェックシートが配られる。 「ハンカチ・ティッシュを持っている」、「ネームをつける」、「シャツをズボンやスカートに入れている」の項目について、学級全員ができたら赤丸のシールを 3 枚、9 割以上だと 2 枚、8 割以上は 1 枚貼る。 それを全クラス分集め、掲示板に並べる。 教職員の会議では、管理職が「全校で、学年で、ベクトルをそろえましょう」と強調した。 若手の指導力向上を図ったり、「うちのクラスはやっていない」という保護者からの苦情に備えたりするためだ。 やった方がいいことは理解できた。 でも毎日、勤務時間内に事務仕事が終わらず、土日のどちらかに出勤することになった。 4月のある日、体調を崩し、ゼリーしか食べられなくなった。 心も追い詰められていたのかもしれない。 車で帰宅するとき、涙が止まらなくなった。 家族に話を聞いてもらい、何とか乗り切った。 やがて夏休みがやってきて、年度初めの「怒濤(どとう)のような忙しさ」は去った。 理想は「人生を一緒につくれる先生」 「こんなはずじゃなかった。」 振り返って、そう思う。 教師になったのは、苦手だった数学を好きな教科にしてくれた高校の先生がいたからだ。 クラスで仲間はずれにされることが続いたとき、その思いを聞き、味方になってくれた小中学校の先生にもあこがれた。 「子どもを励まし、自信を持てるようにして、人生を一緒につくってくれる先生になりたい。」 そう志していた。 なのに、今の自分は日々の忙しさに追われ、理想に近づけている実感がもちにくい。 手応えを感じる瞬間が、ないわけではない。 学年の当初、授業中に立ち歩いていた子は、「やめてね」と話すと素直に聞き、答案用紙の名前欄や裏に「大好き」と、この女性教諭の名前を書くようになった。 2 学期になると、別の子がバッタを捕まえてきた。 クラスで、産卵し死んでいく様子を観察して、生と死を見つめた。 「厳しい日々も、子どもの成長という魅力があるから耐えられる」と思う。 「でも、だから頑張ってしまう教師の善意があるから、厳しい日々が変わらないんじゃないか。」 「早く帰れ」と言われても … 職員室では、形の上では「働き方改革」が進んでいる。 パソコンに出退勤時刻を打ち込み、残業時間が月 45 時間を超えた人は、管理職から呼びだされて「働き方を見直して欲しい」と言われるようになった。 だが、この記録が自分たちの勤務実態を反映しているとは思えない。 まず、土日の出勤を記録する欄がない。 仕事が終わらないから土日に出たとしても、それを把握する仕組みになっていない。 さらに、持ち帰り仕事の時間の記載部分が一切ない。 「早く帰れ」と言われて帰ったとしても、持ち帰り仕事の時間が増えるだけだ。 管理職の呼び出しが面倒で、時間をあえて短くする教員もいる。 実質の残業時間は月 80 時間の過労死ラインを超えているが、記録上は問題ない。 そんな状況が続いている。 出退勤記録の機器を立ち上げるのに 5 分、時刻記録のページまでたどりつくのに 3 分かかるのも不便だ。 それでも、どうすれば働き方改革が実現するかを考え続けている。 授業以外の事務作業やチェックの活動を大胆に減らす。 教育内容にも踏み込む必要がある。 何より、教員同士で抱えている疑問を出し合うことが重要なのではないか - -。 簡単ではないのはわかっている。 一つひとつの作業や活動は長年積み重なってきたもので、教員によって思い入れの度合いが違う。 それが不要だと論破し、なくしていくのには多大なエネルギーがいるし、時間がかかる。 それでも、「まずは、資料に『?』を書き込んだ理由について同僚に話してみたい」と思う。 いまは時間がないけど、年度末ならできるかもしれない。 小さくてもまず、できることから挑戦していこう。 そう決めている。 (編集委員・氏岡真弓、asahi = 11-20-21) ◇ ◇ ◇ 11 時間休憩なし、ぶっつけ授業も 夕暮れの職員室で思う理想と現実 神奈川県の公立小学校の職員室。 窓の外の夕闇が濃くなるなか、4 年生の担任を務める 30 代男性教諭は、パソコンに向かっていた。 時計を見上げると、もう午後 6 時を回っていた。 退勤時間を 1 時間以上過ぎていたが、職員室では同僚の教員 10 人ほどが机に向かっていた。 子どもたちが下校してからこの時間まで、連絡や事務作業に追われていた。
電話がなるたび、取り次ぎのため作業は中断する。 出勤してから 11 時間近くたつのに、休憩はとれていない。 疲れが両肩にのしかかる。 昼に給食を数分でかきこんだきりで、空腹もこたえる。 これ以上は、翌日に差し障る。 心の中でため息をつきながら、帰宅の準備を始めた。 「きょうも自分の仕事ができなかった。」 男性がやりたかった仕事とは、翌日の授業の準備だ。 教員として一番大事なはずの授業がおろそかになっている。 男性は、そんなうしろめたさを常に感じながら、教壇に立っている。 「定額働かせ放題」とも言われる教員の長時間労働。 実態はどのようなもので、問題点はどこにあるのでしょうか。 先生たちの姿を通じて報告する連載を始めます。 初回シリーズでは、授業と直接関係のない事務作業に追われる若手教員らの思いを伝えます。 激しい動悸、「このままだと死ぬ」 もとは中学の教員だった。 運動部の顧問を任され、熱心な保護者の要望もあって土日も活動した。 休みはほとんどなかった。 やがて激しい動悸(どうき)がするようになり、追い込まれていった。 「このままだと死ぬ。」 続けられないと感じた。 大学の通信講座で単位を取り、小学校の免許をとった。 念願だった小学校に配属され、担任を任された。 子どもが興味のあることを調べ、まとめて新聞をつくる。 毎回ノートを提出してもらい、やる気がでるよう全てにコメントをつける。 そんな姿を思い浮かべていた。 だが、授業に全力を注げないのは、小学校も同じだった。 子どもが学校にいる間は、宿題のチェックや子ども同士のけんかなどへの対応に追われた。 授業の合間も息をつく暇は、ない。 学級には、ほかの子に頻繁に手をあげる子がいる。 そのたびに両方の保護者に時間をかけて経緯を説明しなければならない。 管理職は被害家庭への謝罪を求めるだけで、間に入ってはくれない。 放課後の事務作業はどれも削れないうえ、期限もあって後回しにはできない。 結局、手が回らなくなるのは授業準備や教材研究だった。 それでも、授業時間がやってくる。 先輩に相談 … 返ってきた言葉は 「次の国語、なにをやろうかな。」 授業直前の 5 分休憩の際、職員室に戻る時間も惜しみ、教室で教師用指導書を開く。 ぱらぱらとめくったあと、1 分ほどで授業の組み立てを考える。 教科書の文章を、授業中に子どもと一緒に初めて読んで内容を把握する。 そんな「ぶっつけ」も少なくない。 事務作業の合間を縫って、入念な準備ができる授業もある。 ただ、1 日 6 コマの授業があれば、1 コマ程度が限度だ。 テストの採点をする時間がなく、子どもに返せず、数日が過ぎることもある。 「子どもに申し訳ないけど、こんなもんなんです。」 以前は教材を持ち帰り、帰宅後に睡眠時間を削って、授業準備をしていた。 すると、翌日に疲労が残り、子どもにイライラをぶつけそうになった。 「やっぱり自宅では休養をとらないともたない。」 そう思うようになった。 どうすれば授業に力を入れることができるのか。 10 年以上の経験がある先輩に「準備する時間がないんです」と相談してみた。 ところが、返ってきたのはあきらめの言葉だった。 「ずっとそうだよ、私も。 まじめにやると、体を壊すよ。」 教員は誰もが余裕がなく、どこかで妥協せざるを得ない。 そう思った。 仕事に追われる余裕のなさが、取り返しの付かない後悔も生んだ。 同じ学校に、ある若手の教員がいた。 いまにも泣き出しそうな表情で、遅くまで 1 人で仕事をする姿をよく見かけていた。 気がかりだったが、声はかけなかった。 直接の指導役ではないし、何より自分のことで手いっぱいだったから。 若手の教員が突然 その教員があるとき、突然出勤しなくなった。 そして、そのまま退職してしまった。 若手が一定期間休むことは周囲ではしばしばあった。 だが、何とか復帰するケースが多かった。 学校は戻れるような職場ではなかったと言われたようで、ショックだった。 「職場に絶望したってことなのか。 二度と繰り返してはいけない。」 以来、つらそうな同僚をみかけると、意識して話しかけるようにしている。 減らない業務量、増えない人手。 教育行政への不満や怒りは常にある。 それでも、教師という仕事に、やりがいはあると思っている。 子どもと関わり、成長を間近でみられるからだ。 自身を慕って職員室までついてこようとする子、自宅で保護者に授業の様子などを細かく報告する子。 やりがいは感じつつも … この夏、卒業アルバムを受け取りにきた昨年の教え子たちが、「何か書いてください」と列をつくった。 そんなときは「先生をやっていてよかった」と思う。 そんな瞬間がたくさんある。 「仕事は肌に合っている。 楽しくなかったらもうやめています。」 限られた時間のなかで、少しでもいい授業をしたい。 いまも模索を続けている。 (高浜行人) 教員の仕事、事務作業が過大 経済協力開発機構 (OECD) が 2018 年度に実施した国際教員指導環境調査 (TALIS) では、日本の教員が仕事をしている時間は小学校が週 54.4 時間、中学校は 56.0 時間で、いずれも参加した先進国で最長だった。 内容別では、「事務業務」が小学校 5.2 時間、中学 5.6 時間と参加国で最長だったのに対し、知識や専門性を高めるための「職能開発」に費やした時間は小学校で 0.7 時間、中学で 0.6 時間。 いずれも参加国で最も短かった。 授業準備にかける時間は他国と比べて長かった。 13 年度実施の前回調査では教員の長時間労働や授業以外の業務の多さが浮き彫りになり、その後の働き方改革の議論につながった。 文部科学省は教職員定数を増やし、学校が回答する調査を減らすなどしたが、18 年度調査では状況が改善していないことが明らかになった。 (高浜行人) 訴訟で異例の苦言も 教員の長時間労働をめぐっては、時間外労働に残業代を支払わないのは違法だとして、埼玉県の公立小学校教員が 2018 年、未払い賃金を求めて県を提訴。 さいたま地裁は今年 10 月、法定労働時間の規制を超えた労働があったと認めながら、教員の請求を棄却。 理由について「時間外労働が日常的に長時間にわたり常態化しているとは必ずしも言えない」と指摘した。 一方、判決は、公立学校教員に残業代を支払わない代わりに、月給 4% 分を一律で支給するとした教職員給与特措法(給特法)について「もはや教育現場の実情に適合していないのではないか」と異例の苦言も。 「教育現場の勤務環境の改善を切に望む」と書いた。 (asahi = 11-19-21) 2020 年度の修学旅行、中高の半数が中止 東京や大阪を避ける傾向 コロナ下の昨年度、中学校の約 5 割、高校の約 6 割が修学旅行を中止 - -。 公益財団法人「日本修学旅行協会(東京都)」が行った一部学校へのアンケートでそんな実態がわかった。 実施した学校は感染者の多い都市部を避ける傾向が見られ、都道府県別の旅行先では、東京や大阪の人気下落が鮮明になった。 アンケートは全国の国公私立の中学、高校から約 3 千校ずつ抽出し、中学校は 1,046 校、高校は 1,147 校が回答した。 実施状況について答えた中学校のうち、「中止」は 51.5% の 530 校、「変更」は 47.2% の 486 校、「変更なく計画通り実施」は 1.4% の 14 校だった。 同じく回答した高校のうち、「中止」は 61.4% の 697 校、「変更」は 34.3% の 390 校、「変更なく計画通り実施」は 2.1% の 24 校、「海外は中止」は 2.2% の 25 校だった。 実施校が訪れた旅行先の都道府県別順位は、中学は京都(52 校)がトップで、2 位が奈良(47 校)、3 位が山梨(46 校)、4 位が北海道(41 校)と長野(同)だった。 2019 年度に 3 位だった東京、4 位の大阪、5 位の千葉は、いずれもトップ 10 圏外となった。 高校の昨年度の旅行先は、1 位が長崎(40 校)、2 位が沖縄(32 校)、3 位が広島(30 校)、4 位が大阪(28 校)、5 位が北海道と兵庫(27 校)。 19 年度に 4 位の東京や 6 位の千葉は 20 位以内にも入らなかった。 コロナ下の修学旅行について文部科学省は、中止ではなく延期としたり、近距離で実施したりするよう教育委員会などに求めてきた。 国の「Go To トラベル事業」も適用され、実施校は感染対策の費用をまかなったり、クーポン券を使ったりしたという。 協会の担当者は「大都市部には近づかず、地元や地域内を旅行先にした結果が顕著に出た。 今年度も近隣を旅行先に選ぶ学校が増えるだろう」と話す。 (伊藤和行、asahi = 11-9-21) ◇ ◇ ◇ コロナ下、修学旅行先に「山梨」躍進のなぜ 京都・奈良に続き 3 位 新型コロナウイルスの影響で昨年度、多くの学校が修学旅行を中止したり予定を変えたりした。 感染者数の多い都市部を避ける動きが広がるなか、これまで知名度が低かった県は誘致策が奏功し、人気の旅行先に浮上した。 集客が落ち込んだ自治体も、再起をかけて様々な支援策を打ち出している。 「うれしいニュース。 安心・安全をアピールした成果です。」 日本修学旅行協会の 2020 年度アンケートで、中学校の都道府県別旅行先の順位が京都、奈良に次ぐ 3 位(19 年度は 13 位)となった山梨県。 観光振興課の三井博志課長は喜んだ。 三井課長によると、昨年 7 月に県独自で始めた飲食店や観光施設などへの認証制度が「山梨モデル」と呼ばれ、首都圏や近隣の学校に選ばれた。 また、県内を修学旅行先に選んだ旅行会社に、児童生徒 1 人あたり 3 千円を助成。 今年度もこれを利用し、120 校近い小中高校が訪れるという。 三井課長は「修学旅行先を変えてもらう大きなインセンティブ(動機付け)になっている」と語る。 同じアンケートで 19 年度の 17 位から 20 年度は 8 位に上がった静岡県は 9 月中旬、隣接する長野県と山梨県の学校関係者を対象にオンライン説明会を実施した。 これまで首都圏や関西へ流れていた修学旅行客を静岡に取り込もうと、世界遺産の富士山や韮山(にらやま)反射炉、徳川家康ゆかりの久能山(くのうざん)東照宮などを紹介した。 担当者は「これまでは修学旅行先としてメジャーではなかったが、歴史や地理など教育のテーマになる施設は多く、いい機会になった」と言う。 「名所」に焦り 沖縄は 5 - 9 月末はほぼゼロ 一方、これまで修学旅行の名所だった自治体には焦りも見える。 コロナ禍以前、年間 80 万人超の修学旅行生が訪れた奈良市は、昨年は 17 万 4 千人に落ち込んだ。 市は昨年度から「3 密対策」として、宿泊部屋や貸し切りバスを増やす追加費用を学校に支援。 やむを得ず中止した学校には、シカをあしらったお菓子や奈良漬けなどの土産品を贈っている。 市の担当者は「秋を迎えようやく戻りつつある。 児童生徒が大人になってもリピーターになってもらえるよう魅力を伝えたい。」と話す。 沖縄県は緊急事態宣言が出ていた 5 月末 - 9 月末、修学旅行生がほぼゼロで、ひめゆり平和祈念資料館などの観光施設や土産店などの経営は大きな打撃を受けた。 県は、旅行中に児童生徒が濃厚接触者と判断された場合、宿泊費や保護者の航空運賃などを支援することにした。 県は「空港や施設など感染対策は徹底している。 安心して来てもらいたい」と呼びかける。 (伊藤和行、asahi = 11-9-21)
「1 人 1 台」端末で広がるデジタル教科書 現場では 今後どうなる 小中学校で「1 人 1 台」の情報端末を使った学習が進むなか、文部科学省は、2024 年度からの本格導入をめざす学習者用のデジタル教科書を、来年度、全国の国公私立小中学校に無償提供する計画を立てている。 デジタル教科書の学びは、どう広がっていくのか - -。(編集委員・宮坂麻子) 紙の教科書の内容をデジタル化した「学習者用デジタル教科書」は、法改正により、2019 年度から紙に代えて使えるようになった。 文科省の検討会議は今年 6 月、小学校で次の改訂教科書が使われる 24 年度を本格導入の契機とする第 1 次報告を出し、準備が進められている。 来年度から 1 教科分を無償提供 今年度から、小 5 - 中 3 を対象に、希望する全国約 4 割の学校に 1 教科分のデジタル教科書(付属のデジタル教材含む)を無償提供する普及促進事業を始めた。 来年度はさらに拡充し、国公私立の全ての小 5 - 中 3 に 1 教科分を提供。 さらに小学校の重点校については小 1 - 小 4 も、特別支援学校や特別支援学級では全学年を対象にする計画で、文科省は来年度予算の概算要求に約 51 億円を盛り込んだ。 また、デジタル教科書を活用した効果的な指導法の研究や発信、クラウド配信などの設計の検証、教科書検定や採択などをデジタル化する調査研究などの費用も、別途、計上した。 一部の自治体では、独自に活用を進めている。 朝日新聞が、道府県庁所在市、政令指定都市、東京 23 区に調査したところ、これら 74 自治体のうち 7 自治体は今年度、国の事業とは別の独自予算で、デジタル教科書を導入している。 松山市は小 5、小 6 の国語・算数・社会と中 1 - 中 3 の国語・数学・英語・理科で、東京都港区や千代田区は小 1 - 中 3 の国語・算数(数学)で導入。 岡山市、福岡市なども一部の教科で独自に採用している。 一方、国の事業への参加も見送った自治体は、「使用する端末の環境が整っていない」、「継続的に使用できる財政的な保証がない」などを理由に挙げている。 活用に際しては、ほかの課題も指摘されている。 今年度、文科省の事業に参加した関西地方の教育委員会の担当者は「教科書会社ごとに、入り方もパスワードの桁数も、仕様も異なり、複数の教科を使うと、児童生徒はいくつものパスワードや操作方法を覚えなければならない。 パスワード一覧を教員が管理できる会社もあるが、それはそれでセキュリティーの観点からどうかと思う」と話す。 「教科書会社によって質に差」 また、実際に使用している関東地方の公立小教諭は「教科書会社によって質に差がありすぎる」と指摘する。 「文章を切り貼りできなかったり、(算数の)付属教材で立体が回転できなかったりするものもある。 デジタルならではの良さを学習で生かせるように改善して欲しい。」と言う。 7 月に始まった文科省のデジタル教科書の技術的課題に向けたワーキンググループでは、「教科書の導入や管理で統一されることが望ましい仕様」や「備えることが望ましい機能や操作性」などを議論している。 委員からは「一つの ID とパスワードで全教科を使えるように」、「子どもの転出入にも対応を」、「特別支援教育の観点から、最低限備える機能を考える必要がある」などの意見が出ている。 文科省の検討会議の座長、堀田龍也・東北大教授(教育工学)は「課題はあるが、まずは紙とデジタル両方の教科書を使ってみて、それぞれの良い面や使い方を考えて欲しい」と話す。 漢字にルビ・友達と共有 「国語が楽しい」 デジタル教科書は、学校でどう使われているのか。 デジタル教科書の活用例 埼玉県戸田市立戸田東小学校は、数年前から活用してきた。 5 年生の国語の授業では教科書を読む際に、各自が使いやすい方法を選択。 画面の文章を拡大、ルビふり機能を使う、音声で聞きながら目で追うなどで、画面の明るさや背景色を変えている子もいた。 文章の構成を各自でまとめる時間では、画面の半分を使い、教科書の要点部分を素早く「コピペ」して、段落番号を振りながら、並べ替えていく。 ある子は、先生に当てられると、自分の画面を教室の電子黒板に共有して、「始めと終わりに言いたいことを持ってきていると考えました」と説明。 授業後、「漢字の読み書きが苦手だけど、デジタル教科書だと(読み書きの苦労が軽減されて)国語が楽しい」と話す子もいた。 「学習意欲の低い子、救われる」 担任の有泉孝一郎教諭 (29) は「学習意欲の低い子が、デジタル教科書で救われていると実感する」と話す。 読み書きが苦手な傾向のある子は年々増えているといい、読んで、ノートに写して、消して書き直すという「作業」だけで、国語が嫌になる子もいるという。 それが、ルビが振られ、コピペできて、友達と共有して「いいね」と言われることで、自己肯定感につながるとみる。 小高美恵子校長はデジタル教科書の効果について「何よりも子どもが学びに意欲的になることが大きい。 学校現場には『新しいもの = よくないもの』、『変える = 教師の負担が増える』という雰囲気があるが、採り入れてみれば良い方法が見えてくる。 時間短縮にもなり、授業も変わる。」と語る。 今春から始まった国の普及促進事業で、算数のデジタル教科書を使い始めた奈良県の小学校の教頭も「数や図形のイメージがわきやすくなり、算数の苦手な子が授業を楽しめるようになった」という。 全教科のデジタル教科書を待ち望んでいたのは、山陰地方の中 1 の男子生徒 (12) だ。 読み書きが苦手で、小学校時代から、家庭では iPad の音声読み上げやキーボード入力を使っていたが、学校では周囲の子の視線が気になり、使えなかった。 皆が使うデジタル教科書なら、そうした心配はいらない。 生徒の母親 (43) は「学年が上がるごとに文字も小さくなり、紙だけだったら不登校になりかねなかった。 デジタル教科書の導入で、(進学など)将来の選択肢も増える。」と話す。 視力への影響に懸念も 「意識的に目を休めて」 ただ、デジタル教科書をめぐっては、学習の定着度を疑問視する声や、視力、姿勢など健康面への影響も指摘されている。 文科省の検討会議の第 1 次報告では、「定期的に目を休める」、「画面を目から約 30 センチ以上離す」などの留意点が示された。 国立成育医療研究センターの仁科幸子・眼科診療部長は「スマホなどの小さな画面に顔を近づけ、ゲームなどで集中して見続けるよりはいいが、休み時間は外遊びをして遠くを見るなど、意識的に目を休める方法も教える必要がある」という。 様々な課題をふまえ、萩生田光一・前文科相は 5 月、「紙とデジタルをしばらくは併用するのが望ましい」と朝日新聞の取材に語り、24 年度に全面移行する考えはないと表明した。 今月就任した末松信介文科相は 15 日、戸田東小と戸田東中のデジタル教科書を使った授業などを視察後、報道陣に「効果を感じた。 地域差が出ないようにしながら、時間はかかるが、進めていきたい。」と話した。 (asahi = 11-1-21) ■ デジタル教科書をめぐる経緯
デジタル教科書のメリット・デメリット 子どもたちはこうみる
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