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| 「デジタルのみ」でも正式な教科書に 質・量を厳選、発達への考慮も 「デジタル教科書」が、正式な教科書となる方向性が固まった。 これまでは教科書の代わりの「教材」という位置づけだったが、小中学生への無償提供や、国の教科書調査官による検定の対象となる。 「学びの充実につながる」とされる。 ただ、細かな点は、これから話し合われる部分が多い。 QR コードがついた今の小学校教科書。 タブレット端末で読み込むことでデジタル素材につながる。 今はデジタル部分は「教材」の扱いだが、「教科書」として検定で認められた内容だけになる見込みだ。 中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の作業部会が 24 日、約 1 年間の審議のまとめを示した。 これを受け、文科省が詳細に検討する。 文科省は、来年に関連法の改正を想定。 来年度中に発行や使用の指針をつくり、2030 年度にも変わる次の学習指導要領に合わせて学校に導入する予定だ。 教科書のかたちは 3 種類に 教科書は、今は紙だけ。 それを、@ デジタルのみ、A デジタルと紙の組み合わせ(ハイブリッド)、B 紙のみ - - の 3 種類を認める方向性を示した。 このうちデジタル教科書と呼ばれるのは @ と A。 文科省は、制作費などの理由で A が多くなるとみる。 デジタル技術を活用すると、子どもの特性にあわせた学びが実現できる。 ▽ 文字の拡大、▽ 音声の読み上げ、▽ ルビ振り - - などの機能が一例だ。 今「デジタル教科書」と呼ばれている教材にもこうした機能は備わっている。 ただ、中身は紙の教科書を電子化した「電子書籍」のようなもの。 作業部会や文科省は、機能に加え、デジタルならではの内容を多く採り入れ、教育内容を充実させようと考えている。 端末をつかった「国語」のデジタル教科書 例えば、▽ 単語を音と映像で見せる(英語)、▽ プログラミングのやり方を動画で見せるだけでなく、実際に打ち込んで簡単な動作を見せる(情報・技術科 = 仮称)、▽ 図形をアニメーションで動かす(算数、数学)、▽ 紙では見開きの内容をスライド形式で順に表示(各教科) - - などだ。 2019 年に GIGA スクール構想が打ち出され、22 年度末までに、ほぼ全小中学校で 1 人 1 台のタブレット端末が配られた。 通信環境とともに学校のデジタル環境が大きく進んだことも、デジタル教科書を広げる背景にある。 これからの「デジタル教科書」のイメージは では、どんなデジタル教科書になるのか。 その形はよく見えていない。 文科省が最も普及するとみる「デジタルと紙の組み合わせ(ハイブリッド)」について、審議まとめでは「一部が紙、一部がデジタル」という表現にとどまった。 文科省の担当者は「教科書会社が創意工夫できるように、自由度を高めたい。 紙とデジタルのバランスや組み合わせ方は自由」と説明する。 例えば、▽ 基本は紙で必要なところは QR コードからデジタル素材につながる、▽ 単元ごとに「デジタルで学ぶ」、「紙で学ぶ」と分ける、▽ デジタル素材を見られるアプリを端末に入れて紙と併用 - - などが考えられる。 今の紙の教科書にも、デジタル素材につながる QR コードが多数載っている。 ただし、検定対象ではないため内容は様々。 今後は、教科書についた QR コードから見られるデジタル素材は、検定の対象とし、作業部会や文科省は、質・量ともに厳選したい考えだ。 デジタル部分が増えれば今より情報量が膨らむ可能性がある。 また、最新の情報に随時更新することも考えられる。 そのため、検定の方法も今後、専門家の会議で話し合う予定だ。 今の「4 年に 1 回」が適切かどうか、動画が長くなりすぎないように時間の基準が必要かどうか、などが論点となる見込みだ。 作るには価格やコストの問題も 制作コストも課題だ。 国が無償提供している小中学校の教科書は、あらかじめ国が示した価格の中で作られている。 デジタル部分が増えると、制作費が増え、維持管理費もかかるとみられている。 適正な価格についても議論が必要だ。 中教審の作業部会では「コストに見合わない教科書では赤字になる。 価格の議論が進まず、何にどうコストをかければいいか検討を進められない」との声も上がった。 資金や人材が豊富な大手会社が有利との見方もある。 数社しか作らなければ学校側の選択肢が少なく、「教科書の多様性を失いかねない」との声もある。 子どもの発達や教科の特性も考慮が必要だ。 「低学年は紙で学ぶ方がよい」などの有識者の指摘がある。 文科省は今後、学年や教科ごとに、どんな場面でデジタルを使うのがいいか、イメージを指針で示すことにしている。 また、活用には教員の習熟も大事になる。教育委員会や学校が研修などを工夫することが求められる。 (植松佳香、asahi = 9-24-25) 次期学習指導要領シンポ 理想と現実のギャップは 日本教育学会 次期学習指導要領について議論する、日本教育学会のシンポジウムが、8 月 25 日に東京都内で開かれた。 指導要領を審議する中央教育審議会特別部会の委員 4 人と、指定討論者 2 人が登壇。 現段階での改訂の方向や、働き方改革などとの兼ね合いも話し合われた。 発表したのは、司会の奈須正裕・上智大総合人間科学部教授(教育方法学)と秋田喜代美・学習院大文学部教授(教育心理学)、堀田龍也・東京学芸大教職大学院教授(教育工学)、貞広斎子・千葉大教育学部教授(教育行政学)。いずれも教育研究者で、特別部会のメンバーだ。 まず、奈須教授が議論の全体像を描いた。 指導要領の検討は昨年末に文部科学相から諮問され、特別部会で 10 回以上審議した後、各教科などの専門部会で議論、来年度中に答申をまとめるという流れを説明した。 教育課程弾力化、不登校や才能持つ子に特例 ポイントは、どの学校も授業時数などを弾力化できるようにしたうえで、▽ 不登校や特異な才能を持つ子らの特別の教育課程を設ける、▽ 指導要領自体の構造、教科の系統や内容をつかみやすくする、▽ 情報活用能力の育成に力を入れる、の 3 点だと紹介した。 教員養成や採用、評価、教科書の議論も一体に議論 次に、秋田教授が審議の進め方の特徴を語った。 指導要領の改訂と教員の養成・採用・研修の改革の検討はこれまで別時期だったが、今回は同時に議論している。 また、指導要領と評価の在り方を一緒に検討しており、指導要領と教科書などの在り方を一体で議論しているという。 課題については、▽ 学校の裁量を生かすにはどうするか、▽ 格差拡大への歯止めをどうするか、▽ 深い、探究的な学びのために指導と評価をどう一体化するか、▽指導要領をつくって 10 年後に実施するサイクルは妥当か、などを挙げた。 情報活用能力の向上について語ったのが、堀田教授だ。 情報取り出し整理する力を まず、教室で端末を使って学ぶ写真を示した。 子どもが端末や紙の教科書を使い、教員が支える場面や、前の授業の映像を確認する場面、などだ。 そのうえで「いままでのように教員の説明を聞くだけでなく、これからは自分で情報を取り出し整理する力を身につけなければ」と訴えた。 次の指導要領は、小学校の総合的な学習の時間に情報の領域をつくり、中学では情報教育に力を入れる新しい技術分野を設け、高校も充実させるという方針についても語った。 特別部会の主査でもある貞広教授は、政策立案のプロセスを分析した。 従来は「先生たち頑張ってね」で終わっていたが、今回は教育課程の実施に必要な条件整備が諮問の柱の一つとされた、▽ 有識者検討会が論点を出したうえで諮問文が書かれた、などと指摘。 今後の懸念については、予算を削り込もうとする圧力などの政治的影響は、▽ 学力低下や格差拡大などでもっと勉強させるべきだといった悪影響が起きたら、▽ 基準を緩和し学校の裁量を広げる方針は奏功するか、▽ 1 コマを数分ずつ削って単に勤務時間をやりくりするようにならないか、などを示した。 新課程実施の環境整備は … 続いて、指定討論者の広田照幸・日本大文理学部特任教授(教育社会学)と、佐久間亜紀・慶応大教職課程センター教授(教育方法学)の 2 人が質問した。 広田教授は、今改訂で新しく付け加わったこととして、▽ ICT を活用した教育への転換、▽ 学びの個別化、▽ 長時間勤務の蔓延、の 3 点を挙げた。 「理想を語るのは教育としては素晴らしい」とした上で、教員や子どもの現状から「理想と現実のギャップは埋まるのか」と問うた。 教育課程の実施に向けた条件整備は進むか、情報活用で教員の指導や支援は - - などを質問した。 一方、佐久間教授は、教員不足や長時間労働の現状を踏まえ、▽ 総授業時数、▽ 教育課程の柔軟化による教員負担増、▽ 教育研究者が審議に加わる意義 - - などを質問した。 後半は回答が続いた。 秋田教授は、理想と現実とのギャップについて、「次期指導要領の内容を先生方の実践に合わせて、どう伝えていくのかという議論が今後必要になる」と回答した。 裁量の時間による負担は「教師や学校だけに委ねるのではなく、教育委員会や指導主事、研究者も含めた外部からの支援も考えなければいけない」とした。 堀田教授は、端末活用について「子どものやる気はコンピューターだけでは引き出せない」と指摘。 学び続けなければならない変化の激しい時代に「コンテンツはうまく使いつつ、自分で学び続ける方法を学校でしっかり教えなければならない。 その伴走支援こそが教員の役割になる」とした。 また「教育研究者が審議に加わる意義」について、「情報活用を 20 年以上言い続けてやっと変わった。 研究実績を政策までつなげていくことが意義」などとした。 貞広教授は、教員定数の改善が不十分でリソース不足に陥らないかという問いに触れた上で、教員定数増は大きな予算を伴うと指摘した。 「高校無償化のように宝くじ的に予算をつけるには、政治家が動くか、コロナ禍が 35 人学級や GIGA スクールを動かしたように、大きな社会的変動がなければ、日本は難しい仕掛けになっている」などとした。 さらに、文部科学省や財務省を擁護するのではなく教育行政学の専門である前提から、「日本は事前の基準設定で教育の質保証をする仕組みをとっている。 その一例が総授業時数。 条件整備がこれくらいだから教育課程をこれくらいにという政策志向にはなり難い」と解説した。 指導要領改訂の議論とは別に、若手教員の持ちコマ数での調整なども挙げた。 議論は、幼児教育や探究まで広く及んだ。 (編集委員・宮坂麻子、編集委員・氏岡真弓、asahi = 9-21-25) |