公立教員の「残業代なし」維持方針に批判 「制度的なピンハネ温存」

公立学校教員の長時間労働が問題となるなか、人材確保に向けて働き方改革や給与制度改正などについて議論してきた文部科学相の諮問機関、中央教育審議会の特別部会が 13 日、具体案を盛り込んだ「審議まとめ」を了承した。 「残業代なし」の給与制度の大枠維持が決定的になったことを受け、大学教授や教員ら有志が記者会見し、「この案では長時間労働は解消しない」などと批判し、審議のやり直しを求めた。

審議まとめでは、公立学校教員に残業代を出さない代わりに、基本給の 4% の「教職調整額」を一律に上乗せすることを定めた「教員給与特措法(給特法)」をめぐり、教職調整額の割合を「4%」から「10% 以上」に増やすことなどが盛り込まれた。 働いた時間に応じた残業代が出ない現行の仕組みは維持される。

これについて、給特法の廃止を求めてきた岐阜県立高校の西村祐二教諭は「正直、0 点。 これでは残業が教員のボランティアであり続け、(校長ら)管理職は免責され続ける。」 最近、知人の 40 代教員 2 人が精神疾患になって退職したと明かし、「今後、教職を続けられるかと考えてしまう。 審議を一からやり直してほしい。」と求めた。

友人は教職をあきらめた 大学生「希望持てるようにして」

会見に同席した大学 4 年生の宇恵野珠美さん (22) は、長時間労働の実態を知って教員志望をあきらめた学生が周囲にいると語り、「給特法がある限り教師は際限なく働かされるのだと感じる。 教職に希望が持てるようにして。」と訴えた。 日本労働弁護団の竹村和也事務局長は、国・私立学校教員には残業代が支払われていることをあげ、公立学校教員がその仕組みから除外されていることについて「正当化される理由がないことは明らか」と指摘した。

広田照幸・日大教授は、文科省が 22 年度に行った公立学校教員の勤務実態調査で、小学校教諭の在校時間の平均が 10 時間 45 分、中学で 11 時間 1 分だったことを踏まえ、残業時間に応じた支給をするならば、教職調整額を少なくとも 37.5% にしなければならないとの試算を示した。 「10% というのは実態を踏まえていない数字で、ただ働きが生じる。 制度的なピンハネとも言える状況が温存されており、改めて議論せざるを得なくなるだろう。」と批判した。

「補給なしで『頑張れ』 インパール作戦のよう」

審議まとめでは、教員 1 人当たりの持ちコマ数を減らすため教員を追加配置して、小学校で「教科担任制(現在は 5、6 年生対象)」を 3、4 年生に拡大する案が盛り込まれた。 一方、学校現場からの要望が根強い教員の抜本的な増員は見送った。 これについて中嶋哲彦・愛知工業大教授は「人的リソースを供給しないと教育委員会も学校も動けない。 補給なしで頑張れ頑張れと言っているだけで、(太平洋戦争で日本軍に多数の犠牲が出た)インパール作戦をやらせようとしている」と批判した。

「人間的に働けない」 福岡では教員が街頭で訴え

審議まとめを受け、福岡県内の公立小中高の教員十数人が 13 日夕方、福岡市中央区の繁華街で街頭活動をし、「健康で人間的に働けない。 授業の準備ができない。 学校が大ピンチ。」などと訴えた。 小学校教員の男性は土日勤務が当たり前の現状に、「先生たちは疲れて元気がない。 子どもたちに元気を与える余裕がほしい。」、別の小学校教員男性は「総合学習や ICT 教育と、新しいことだけ増え、現場に丸投げ。 仕事を減らせないのなら人を増やしてほしい。」 ベテランの教員男性は「夜遅くまで働き、土日に出勤する現場に教育実習生が不安を覚え、教員になることをあきらめている」と憂えた。

県教職員組合連絡協議会の藤井隆晴議長 (59) は「調整額が少し上がるだけで、『定額働かせ放題』の現状は続く。 このままでは学校現場が崩壊し、持続可能性を失う。 残業代を認めない給特法の廃止に向けて声を上げていきたい。」と話した。 (高浜行人、前田伸也、asahi = 5-13-24)


「日本版 DBS」法案審議入り 性犯罪歴確認、子どもへの性暴力防ぐ

仕事で子どもに接する人の性犯罪歴を確認する新制度「日本版 DBS」の創設を盛り込んだ「こども性暴力防止法案」が 9 日、衆院本会議で審議入りした。 「法案を起点とし、こども家庭庁が中心となり、社会全体として子どもたちを性暴力から守る社会的意識を高める。」 衆院本会議で、加藤鮎子こども政策担当相は法案の成立に向け、力を込めた。 日本版 DBS は、英国の DBS (Disclosure and Barring Service) の制度を参考にしている。 どんなしくみなのか。

子どもを指導する「支配性」などがある業務のうち、行政に監督・認可などの権限がある学校や認可保育所などは、犯歴確認を義務化。 放課後児童クラブ(学童)や認可外保育所、学習塾などは任意の認定制度の対象とする。 参加を希望する事業者が一定の要件を満たしていれば認定する。 認定されると犯歴確認が義務化される。 広告で表示し、犯歴確認をしている事業者だと示すことができる。

犯歴が確認された場合は、配置転換などを事業者に義務づける。 犯歴のある人の就労を事実上、制限するしくみとなる。 対象とする「特定性犯罪前科」には、不同意わいせつ罪などの刑法犯に加え、痴漢など自治体の条例違反も含まれる。 照会できる期間は、拘禁刑(懲役刑・禁錮刑を 2025 年に一本化)は刑を終えてから 20 年、執行猶予がついた場合は裁判確定日から 10 年、罰金以下は刑を終えてから 10 年とした。

刑法には、更生の観点から刑を終えてから禁錮以上では 10 年、罰金以下では 5 年が経過すると刑が消滅する、という規定がある。 この規定を超えた照会期間を設けることになるが、制度は「雇用を禁じる」などの強い規制ではなく、配置転換などの「間接的な就労制限」にとどめるため、同庁は照会可能と判断した。 そのうえで、犯罪を繰り返す人が、性犯罪で有罪判決が確定した後、再び性犯罪で有罪判決が確定するまでの期間を調査。

その結果、禁錮以上は20 年、罰金以下は 10 年の範囲内に 9 割の再犯者が収まっていたため、この期間を定めた。 子ども政策の課題として長年指摘されてきた「縦割り」を打破し、関係省庁を円滑に連携させるべくできた同庁にとって、日本版 DBS は肝いりの政策だ。 学校や学習塾などで、子ども自身が被害に気づかなかったり、声が上げづらかったりする関係性を利用した、子どもへの性暴力は繰り返し起き、喫緊の対策を求める世論も高まる。 朝日新聞が 4 月、大手学習塾の運営会社 50 社にアンケートした結果では、全体の 6 割が参加の意向を示した。

政府は昨年秋の国会提出をめざしていたが、照会期間を無期限にするなど、より厳しい制度設計を求める与党の反発を受け、見送った。 調整を重ねて迎えた今国会でも、自民党派閥の裏金問題で国会の先行きは不透明に。 もともと窮屈な日程ということもあり、一時は審議入りを危ぶむ声もあった。 政府関係者は「真に国民の利益にかなった法案で、これを今国会で成立させなければ、政府として格好がつかない」と話す。 (川野由起、高橋健次郎、asahi = 5-9-24)


給食の全国無償化、子どものために 専門家「児童手当の一部で可能」

ほとんどの子どもたちが食べる学校給食。 東京 23 区や青森県など無償化する自治体が出てきています。 一方で、財政規模によって自治体単独での実施は難しい場合も多く、全国一律での無償化を求める署名活動も広がっています。 専門家は「給食の無償化は、お金が全て間違いなく子どものために使われる」と指摘しています。 学校給食法では、給食にかかわる人件費や施設設備費は、市町村などの学校設置者が負担すると定められており、それ以外の食材材料費などは保護者の負担とされている。

ただ、文部科学省によると、保護者の負担を軽減するため、設置者が食材材料費などを補助することを禁止しているわけではない。 文科省の 2021 年度の調査によると、公立小学校の給食費の平均は月 4,477 円、公立中学校は月 5,121 円だった。 国はこれまで、経済状況が厳しい家庭には就学援助などで支援してきたとして、更なる負担軽減については各自治体で検討するものとしてきた。 だが、東京都足立区で、給食の無償化を目指し活動してきた「足立っ子給食費無償化ネットワーク」代表の横田真美子さんは「全員が無償なのと、就学援助で支援されるのでは心理的負担が全然違う」と話す。

横田さんは以前、小学生と未就学児を育てるシングルマザーから「就学援助の申請をしたいが、近隣のうわさになったり、子どもがいじめに遭ったりしないか心配」と相談を受けたことがあった。 就学援助のような対象者を選別する支援は、支援を受ける人が恥ずかしい思いをしたり、周囲の目が気になったりするスティグマ(差別や偏見)の問題がある。 横田さんは「親も子どもも、負担を感じないで当たり前に給食を食べられるようになってほしい」と話す。

全国の公立小中学校の給食費の無償化のためには、いくら必要なのか。 16 年に行われた政府の経済財政諮問会議では、年間 5,120 億円が必要と試算されている。 国は昨年 6 月、「異次元の少子化対策」として児童手当の拡充などを盛り込んだ「こども未来戦略方針」を発表したが、給食費の無償化については、実態調査の結果を 1 年以内に公表するとの記載にとどまった。

東京大学大学院・山口慎太郎教授(経済学)は、国が中学生までのすべての子を対象に支給している児童手当の一部を、現物給付の形で給食無償化の財源にすることを提案する。 少子化対策というと、出生率に関心が集中しているが、すでに生まれている子により良い環境を用意することは、出生率の向上と同じかそれ以上に大切だと指摘。 「海外の研究から、給食は子どもの栄養状態の改善や、学校の出席率、成績の向上に少なからず良い影響を及ぼすことが明らかになっている。 給食の無償化は、お金が全て間違いなく子どものために使われるという点でも優れている。」と話す。 (大坪実佳子、asahi = 4-17-24)


公立校教員の給与、増額へ 調整額 4% → 10% 以上で検討 文科省

文部科学省は、公立学校教員の給与を一律に増やす方向で検討に入った。 残業代を支給しない代わりに「教職調整額」を一律に上乗せする今の枠組みを維持しつつ、調整額を現在の「基本給の 4%」から 10% 以上に増額する案を検討している。

公立学校教員の給与制度は 1972 年施行の教員給与特措法(給特法)で定められている。 「4%」は月の残業を平均 8 時間とする 66 年度の勤務実態調査をもとに設定され、施行時から変わっていない。 増額されれば約 50 年ぶりとなる。 同省の 2022 年度の調査では、月の残業が同省の定める上限(45 時間)に達していた教員は小学校で 64%、中学校で 77% に上り、「4%」は実態に合わないと批判されてきた。 実際の労働時間に見合った残業代が出ないという制度の骨格は維持される方向だ。 教員の間では、残業時間に応じて対価を支払うよう抜本的に制度を改めるべきだという意見が根強く、反発も予想される。

長時間労働などを背景に教員採用試験の受験者が減るなか、文科省は人材確保のため、中央教育審議会(文科相の諮問機関)の特別部会で教員の処遇改善の議論を重ねてきた。 部会は 5 月にも議論をまとめる。 文科省は来年の国会での同法改正を視野に入れている。 (山本知佳、久永隆一、asahi = 4-12-24)


「ありえない話」 タブレット故障問題で、四電工の見解に知事が反発

県立学校に配備した「1 人 1 台」のタブレット端末の故障が相次いでいる問題で、徳島県の後藤田正純知事は 5 日の定例会見で、タブレットを納入した四電工(高松市)が第三者検査会社の調査を踏まえて「製品の不良は認められなかった」と結論付けたことに対し、「端末に問題がないなど、ありえないのではないか」と強い不快感を示した。

知事は「故障の多発は全国で起きていない。 合点がいかない。」とし、「科学的根拠をもって白黒をはっきりさせなければならない」と述べた。 県教育委員会が消費者庁とも連携してしっかりと調査するよう求めた。 四電工は先月、故障端末と正常端末を比較するなどした第三者検査会社の調査結果を公表し、製品に不良はなく、故障原因は「学校の保管環境などが原因と推察される」とした。 (能登智彦、asahi = 4-6-24)

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学校タブレットの故障多発で、教育長が退任へ 代替機調達追いつかず

徳島県教育委員会の榊浩一教育長 (60) が来年 3 月の任期満了を待たずに退任する意向を固めたことが 29 日、関係者への取材でわかった。 県立学校に配備した「1 人 1 台」のタブレット端末に故障が相次いでいる問題では、代替機の調達が追いつかず、引責するとみられる。 県教委が 2020 年度に県立学校に配備したタブレットは、1 万 6,500 台のうち故障が 9 千台以上に及んでいる。 榊氏は 29 日の県議会文教厚生委員会で「タブレット問題はいまも進行形で深刻。 誠に申し訳ない。」と謝罪した。

この問題を巡っては、後藤田正純知事が昨年秋、「教育委員会だけに任せられない」として副知事に緊急対応を指示。 2 月 15 日の記者会見では、新年度の方針に絡んで「教育改革を進める。 体制を含め抜本的に改革したい。」と述べ、教育長の交代を示唆していた。 知事は榊氏の意向を受け入れるとみられ、県と県教委は後任には、教育現場に精通し最新機器の活用にも詳しい人材を軸に検討している。 早ければ開会中の県議会に人事案が提出される見通し。 榊氏は鳴門教育大大学院で障害児教育を専攻し、養護教諭などを経て 20 年 4 月に教育長に就任。 22 年 4 月に 2 期目に入り、障害児教育の推進などに力を入れていた。 29 日、取材に対し「(進退は)ノーコメント」と答えた。 (能登智彦、asahi = 3-1-24)

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徳島県立高のタブレット大量故障、年度内解消へ 端末 7,000 台確保

徳島県立高校などに「1 人 1 台」と銘打って配備されたタブレット端末に故障が大量発生している問題で、新規調達方法などを協議する「教育 DX 加速化委員会」が 20 日、県庁であった。 県教育委員会は、年度内に新規で計 7,000 台を確保できる見通しになったと明らかにした。

県教委によると、2024 年 1 月に 500 台、同 3 月に 3,000 台をそれぞれ調達する。 さらに、現端末を納入した四電工(高松市)から 3,500 台の無償提供を受ける予定。 この日の会合では、県教委が四電工から 8 日に無償提供の提案を受けたにもかかわらず、12 日の前回会合で委員らに報告しなかった点について陳謝。 県教委は「納入時期や受け入れ手続きの確認に手間取った」などと釈明した。 20 年度に 1 万 6,500 台導入された現端末は、18 日時点で 6,547 台が故障(このうち内蔵電池の膨張が 5,566 台)。 県立学校の生徒 1 万 4,164 人(5 月現在)に対し、4,894 台が不足している。 (植松晃一、mainichi = 12-21-23)

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学校のタブレット故障多発、教育長謝罪 1 人 1 台「戻せるめどない」

高校などに配備された「1 人 1 台」のタブレット端末の故障が多発している問題で、徳島県教委の榊浩一教育長が 26 日、記者会見し、「生徒の学びの場に不自由をおかけしており深くおわびする」と謝罪した。 故障機は全て中国の「ツーウェイ」社製で、約 1 万 5 千人の生徒に対し、3,500 台以上が故障で使えないと明らかにし、複数生徒で 1 台を利用するなど緊急措置でしのいでいるという。

県教委は 2020 年度に県立高校など 29 校に約 8 億円をかけて 1 万 6,500 台の端末を配備。 故障は今年 7 月から急増し、猛暑などでバッテリーに異常が起きたという。 代替機の確保を検討しているが、必要台数が多いためすぐには困難で、複数生徒で正常な端末を共有して使ったり、個人のスマートフォンで代用したりする状態という。 榊教育長は「故障台数はさらに増える可能性がある。 最善の努力をしているが、通常に戻せるめどは立っていない。」と説明した。

この問題で榊教育長が記者会見するのは初めて。 覚知から 3 カ月経過しており、「対応が後手後手になっている面は否めない」と述べた。 この問題を巡っては、後藤田正純知事が「学びの場が保障できておらず、非常に憤りを持っている」とし、県教委に対し、責任の所在を明らかにするよう求めている。 (能登智彦、asahi = 10-27-23)


「全然だめ」は駄目 若手教員離職防止へ、都教委がガイドブック作成

感情的、高圧的な態度をとる先輩や上司は尊敬されません - -。 若手教員の離職が課題となるなか、東京都教育委員会は職場内での適切なコミュニケーションの取り方などをまとめたガイドブックを作った。 職場での円滑な意思疎通によって、若手の離職防止などにつなげたい考えだ。 ガイドブックは全 17 ページ。 作成にあたって、採用 3 年目までの小中高、特別支援学校の教員にアンケートを実施し、5,280 人から回答を得た。 「生の声」を集め、若手が職場に求めることや、抱えている悩みの傾向などをまとめた。

「先輩や上司を頼りたいと感じる時」をたずねたところ、「児童生徒への生活指導」や「保護者対応」と答えた人が、全体の約 6 - 8 割だった。 ガイドブックでは相談を受けた際の対応方法として、「思いを否定せず、まずは受け止める」、「対話で悩みを整理する」などと具体的に示した。 さらに、高圧的な態度をとると、若手の行動や発言が抑制されると指摘した上で、「NG 例」も紹介。 「これじゃ全然だめだ、これでは指導案になっていないので作り直して」と突き返すのではなく、「できていることを評価しつつ、改善案について事実と理由を示し、相手が納得するよう指導」するよう促す。

「心の不調」への対応についても言及。 不調の際に現れる行動や外見のサイン、異変に気付いた際の周囲の声かけ方法、相談先などを紹介している。 こうしたガイドブックを作った背景には、若手の離職率の高さや、精神疾患で休職する職員の増加などがある。 2022 年度に都教委が正規採用した新任教諭 2,429 人のうち、108 人が同年度末までに退職。 離職率 4.4% は、過去 10 年間で最も高かった。

小学校の新任教諭全員が臨床心理士らと面談をしており、職場の人間関係への悩みが寄せられていた。 年代にかかわらず、精神疾患で休職する教員も増加傾向で、22 年度は都の教員全体の 1.24% が「メンタル不調」で休職している。 都教委はアンケート結果について、「上司や同僚のおかげでうれしかった、励みになったエピソードが数多く寄せられた」とする一方、「『反面教師』とするべき事例もあった」と受け止める。

担当者は「先生が生き生きと働けるかどうかは、子どもの学びに影響する。 円滑にコミュニケーションがとれる、風通しの良い職場づくりに生かしてほしい」としている。 ガイドブックは、都内の全公立学校の教員に配られる予定。 都教委のホームページでも閲覧できる。 (本多由佳、asahi = 3-12-24)

アンケートで寄せられた若手教員のエピソード

【うれしかった、励みになった】
・的確なアドバイス
・声をかけてくれた
・授業を評価し、フィードバック
・見てくれている、気にかけてくれていると実感

【落ち込んだ、つらかった】
・寄り添わない
・人前で叱責
・指示がない
・高圧的な態度

* 都教委作成のガイドブックから


外国出身の高校生に「母語」を必修にするわけは 大阪、一部公立校で

外国にルーツを持つ子どもたちがアイデンティティーを確立するうえでは、親の母語を学ぶことが大事だとされています。 一部の公立高校で母語を必修科目としている大阪府の取り組みを取材しました。

親とはタガログ語、弟とは日本語

大阪府東大阪市の府立布施北高校。 昨年 12 月、フィリピンにルーツを持つ3年生 3 人がフィリピン語(タガログ語)の授業を受けていた。 本を音読し、間違えるとフィリピン出身の先生が正す。 3 人の間では普段はタガログ語で話をするが、本を読むのは古い表現などがあって難しいという。 女子生徒のラモス・ジョセルさんは小学 5 年で来日した。 家で母親とはタガログ語で話すが、弟らとは日本語だ。 「タガログ語をだんだん忘れていってしまう」と言うと、中学 2 年で来日した男子生徒が「たまに何言ってるか分からない」とからかい、互いに笑った。

大阪府は 2001 年度から、一部の府立高校に日本語が十分できない生徒の入学枠を設け、現在 8 校ある。 この枠で入った生徒は、日本語学習とともに、週 2 時限ほどの母語学習が必修となる。 大阪はもともと在日コリアンが多く、朝鮮半島の言葉や文化を学ぶ課外活動が盛んだった。 差別や偏見を恐れる子たちの自尊心を高める狙いだ。 80 年代以降は大阪でもアジアなどから新たに来日する家族が増えた。 学校側は子どもたちが日本社会に早く溶け込めるよう、「家庭でもなるべく日本語を使って」と指導することもあった。

そんな教育の負の側面を示すものとして、教師らの間で知られる作文がある。 90 年代に小学 3 年の男児が書いたものだ。

おばあちゃんとでんわをしたかった

中国の祖母から電話があり、両親や兄は喜んで話した。 トイレで用を足していた男児は「おばあちゃんと話をするのは、日本にきてはじめてでした。 ぼくは、おしっこ早く出ろと思って、べんじょからもどってきました。」 ところが、受話器を向けられた男児は「いい」と手をふった。 「中国語、分からんから。」 男児が両親の顔を見ると、2 人とも目に涙を浮かべていた。 「ぼくが、中国語をわすれたので、お父さんとお母さんは、ないているのかなと思いました。 でも、おばあちゃんと話をすることができて、うれしいからないているのかなと思いました。」 そして作文はこう締めくくられた。 「ぼくも、おばあちゃんとでんわをしたかった。」

日本語を教えることで、祖母と話すことができない子を育てているのか - -。 教師たちが母語教育の重要性を再認識するきっかけになった。 いまでは研究者らの間で、母語の力を高めることはアイデンティティーの確立に加え、思考力や日本語能力の向上にもつながると広く認識されている。 文部科学相の諮問機関、中央教育審議会も 21 年の答申で「これまで以上に母語、母文化の学びに対する支援に取り組むことも必要」だとした。

だが、国としての母語教育に関する具体的な取り組みはまだない。 自治体でも、大阪府のように正規の授業で母語教育をする例はごく一部で、課外活動やボランティアによる取り組みが中心だ。 大阪大の矢元貴美准教授は「日本語や日本に関する学習が優先され、母語にはあまり目が向けられない。 ルーツのある国の言葉や文化が評価される機会をもっとつくるべきではないか」と指摘。 母語を指導できる人材の不足も課題だとする。 (浅倉拓也、山本知佳、asahi = 3-9-24)