小中学生 1 人 1 台の端末更新どう選ぶ? 授業での活用、広がる格差

全小中学生に 1 人 1 台の端末を配布し、学校の通信環境を整える「GIGA スクール構想」が、本格スタートして 4 年目になった。 授業も校務も改革する学校がある一方で、コロナ禍前と変わらず、アナログな学校もある。 格差が広がる中、早くも端末の更新時期を迎え、「Next GIGA」の時代へ。 各地で次のステージへの模索が始まっている。

5 月下旬、大阪府枚方市の会議室で、小中学校の教諭や管理職、臨床心理士、不登校の子を支援する NPO 職員らが議論を交わしていた。 1 人 1 台の端末更新に向け、同市教育委員会が設けた「意見聴取会(第 8 回)」だ。 同市では 2020 年度に、約 3 万 5 千台の iPad (LTE 通信モデル)を全小中学生に配布した。 国からの補助金に加え、約 30 億円の市独自予算をつけて、学校の通信環境も完備した。 毎日家庭へも持ち帰って活用することにしている。 それらの端末は、来夏に更新予定で、今年 9 月の市議会定例会までに機種などを決めなければならない。

市教委の担当者が、各種端末の価格や標準装備の比較表のほか、文部科学省が昨年末に示した目標「KPI (重要達成度指標)」や同市の実態データ、実際の学校での活用例などを示して意見を求めると、次々と声があがった。 「個々の特性にあわせた学びができる環境づくりが重要」、「探究的な学びができる形に」、「不登校の子が、自宅でも iPad で学習できることは大切」、「メタバース(仮想現実)などで国内外とつながる」。

必要なのは、LTE、動画編集、メタバース、翻訳 …

複数回の議論を重ね、必要な機能を整理した。 1 つ目は、屋外での使用を前提とした「LTE 通信モデル」だ。 体育の授業で児童生徒同士が動きを撮影し合って共有し、改善する。 校外学習で情報共有したり、QR コードを読み込んで動画視聴したりできる。 通信環境が整わない家庭でも、調べ学習や友達との共同編集ができるようにし、虐待など外部への「SOS 発信」にもつなげたい。 端末紛失の際、場所の特定や遠隔でロックできる便利さもある。

2 つ目は、動画編集や音楽制作、メタバース(仮想現実)や AR (拡張現実)などができる「高度な機能」。 プログラミングの他にも、学校の紹介動画を作成して海外の学校へ送ったり、問題の解説動画を作成して共有したりできる。 メタバース空間での交流や創作も求められている。 さらに、「支援機能」も重要になる。 外国にルーツを持つ児童生徒が増える中、翻訳アプリを活用した学習や、コミュニケーションは必須。 読み書きなどに困難があり支援が必要な子のために、文字起こし、音声入力、音声読み上げ機能も欠かせない。

必要項目別に、iPad、Windows、Chromebook の比較表も作った。 更新した端末は、5 年程度は使う。 その間に、次期学習指導要領での授業も始まる。 聴取会の座長で、各地の ICT アドバイザーを務める野中健次さんは「授業をどう変えていくかの視点が一番重要。 プロジェクトベースの学びも行い、持続可能な社会の担い手を作らなければ。 国も端末だけでなく、学習指導要領と標準授業時数の弾力化もセットで改革してほしい。」と話す。

一方、端末の活用は自治体・学校・教師間で格差が広がっている。 枚方市の取り組みが、各地の教育委員会関係者らの集まりで紹介されると、ため息がもれた。 「うちの自治体は大した議論もなく前回と同じになった」、「価格が抑えられれば何でもいい感じ」、「小学校はまだしも、中学では定期試験や高校入試があるからと言われ、端末をほとんど使わない先生もいて、更新への意見なんてとても聞けない …。」

1 台 5 万 5 千円、都道府県でまとめて調達、課題は通信環境

4 年目になり、活用格差だけではなく、故障時の予備機がない、修理補償の契約がないなど、自治体ごとの認識の差も見えてきた。 文科省は昨年 11 月の補正予算に、今年度から始まる端末更新に向けて、総額約 2,640 億円の「GIGA スクール構想加速化基金」の造成を計上した。 円安に鑑み、端末 1 台あたりの補助基準額は前回より 1 万円高い、上限 5 万 5 千円に。 故障時などの予備機も 15% 以内は対象とし、付属品は、キーボードに加え、タッチペン、カバー、保護フィルムも補助対象とした。 困難のある児童生徒への支援装置の費用も全額出る。

ただ、今回から、都道府県の共同調達を補助要件とした。 端末選定や通信環境整備は、学校を管理する市区町村が行っている。 種の統一は求めないが、まとめて調達することで契約内容の統一や事務負担軽減など利点がある。 また、教員は都道府県ごとの採用なので、災害時や働き方改革なども考えれば、都道府県が市区町村の端末や故障対応などを理解しておく必要がある。 全教員分への端末整備など、同省が示した「KPI」の各項目に取り組むことも補助要件になる。

より良い選定ができるよう文科省は今春、自治体向けに、各メーカーや通信事業者らを招いた説明会「GIGA スクール自治体ピッチ」も開いた。 ただ、「Next GIGA」への最大の課題はインフラ整備だ。 同省が昨年 11 月 - 12 月に、全国の教育委員会と全ての公立小中高校に初めて実施した実態調査では、通信速度が国の推奨値を満たした小中高校は 22% にとどまった。 大規模な学校ほど割合が低い。 全自治体の約 6 割が、原因を特定する分析もしていなかった。

通信速度は、校内の回線にとどまらず、自治体内全体での回線、端末のソフトウェアの状況など、様々な問題が絡む。 行政部門も交えた分析、契約やセキュリティーの見直しなど、垣根を越えた連携が求められる。 今年度から学習者用デジタル教科書も全国に正式に配布された。 全国学力調査や PISA などテストの CBT (コンピューターを使った試験方式)化も進む。 文科省は、基盤整備を喫緊の課題として、今年 4 月には「学校のネットワーク改善ガイドブック」を作成。 同省の「修学支援・教材課」を「学校情報基盤・教材課」に改め、支援を強化している。

一般社団法人教育 ICT 政策支援機構の谷正友・代表理事は「いまだに授業で端末活用をそれほどしておらず、通信速度などの問題に気づいていない学校もある。 全国学力調査の CBT 化などで困ることのないよう、まず使ってみることが大切。 Next GIGA の端末活用やデータ活用のグランドデザインはそこから始まる」としている。

災害時、子ども同士つながる安心感 毎日端末持ち帰りを

災害時を想定した、端末選定と活用も注目されている。 今年元日から襲った能登半島地震。 石川県南部の能美(のみ)市のある公立小学校 6 年生の端末のチャットでは、元日の地震直後から、児童同士が安否を確認し、励まし合うやりとりが見られた。 「みんなの家は大丈夫だった?? 始まりはこんなんになっちゃったけど、終わりよければすべてよしって今年の最後に言えるくらい、学校始まったらまた楽しんで最高な卒業式にしよう!!!!」、「帰ってきたら悲惨な状況でした。 家族皆無傷元気です」、「地震無事乗り越えましたよ。 みんなが無事なことを願うー。(泣)」

別の小学校でも、1 人の児童の「みんな大丈夫?」というチャットの問いかけに、次々と各児童の状況がアップされた。 特別支援学校の児童は、動画をアップし家の状況を伝えた。 後日のアンケートでは、大きな揺れで恐怖を抱いた子たちからも、「みんなの返信を見て安心できた」などの声が多く寄せられたという。 子どもだけではない。 職員も配布された端末を使い、地震直後から市内の校長会をオンラインで開いた。 「LTE 通信が理想だけれど、Wi-Fi が通じる場で、端末が手元にあればつながれる」と話す。

同市では、22 年 9 月から原則毎日、端末は自宅に持ち帰っている。 「オンライン学習だけでなく、学校や友達とのつながりを絶やさないことに端末が役立った」と市教委学校支援課の亀田香利課長は振り返る。 端末で先生に悩みが相談ができるサイトを設けた学校もあったという。 新潟市立大野小学校も、まずは、児童が持ち帰っていた端末のチャットに書き込んで、安否確認した。

登校再開には、道路のひび割れやブロック塀の崩壊など、通学路の状況や危険性も伝えなければならない。 教員だけでは限界があり、保護者との連絡システムで呼びかけ、近隣の情報を端末のグーグルフォームで集約した。 片山敏郎校長は「子どもも教員も、毎日端末を持ち帰り使えることはマスト。 非常時だけと思っていては、何かあった時に対応できないと痛感した。」と話す。 内全校で同様に行い、確認して、グーグルマップ上に危険地域を表示していくようなことも可能ではないかとみる。

ただ、昨秋、文科省が校務 DX 化の調査で、1 人 1 台の端末の家庭での利用状況について学校に尋ねたところ、「毎日持ち帰って毎日利用」が 18.3%、「毎日持ち帰って時々利用」が 15.2%、「時々持ち帰って時々利用」が 49.4% だった。 「(持ち帰るのは)臨時休業など非常時のみ」、「持ち帰らせていない」、「持ち帰ってはいけないことにしている」の三つを合わせると、約 17% を占めていた。

能登半島地震を受け、文科省は端末を活用して子どもたちの学びが継続できるように各地の教育委員会に要請する通知を出した。 末が手元にない子や自宅が被災した子のために、同省の要請でグーグルが端末を 1,500 台無償提供した。 (編集委員・宮坂麻子、久永隆一、asahi = 7-7-24)


学校の体育館やグラウンド、予約もカギもスマホで 教員らの負担軽減

小中学校の体育館やグラウンドを住民に利用してもらいたいが、手続きやカギの受け渡しで利用者や教職員の負担が大きい。 そんな問題を解決するため、神奈川県秦野市は、電子予約システムとスマホのアプリで開け閉めできる電子錠を導入した。 同市によると、県内の自治体では初の取り組み。 川崎市や寒川町などでも同様の動きが進んでいる。 秦野市スポーツ推進課によると、これまでは体育館やグラウンドを利用する団体が、土日の利用であれば金曜日に学校でカギを受け取り、月曜日に返却するという運用だった。 学校では主に教頭や職員が窓口となり、手続きの対応やカギの管理にあたってきた。

学校側の負担を軽減するため、市は 3 年にわたって見直しを進め、2022 年度と 23 年度に市内 22 校すべての小中学校で電子予約システムを導入。 さらに 23 年には、うち 6 校で電子錠を使った試行を始めた。

1 校あたり年間 25 万円

予約システムで予約が完了すると、スマホのアプリに施設を利用する時間帯にあわせて電子錠を開け閉めできるデータが送られてくる。 利用者は当日学校に行き、予約時間に電子錠にスマホをかざしてカギを開け、帰る時に同じようにスマホで施錠する。 試行の結果、教職員、利用者ともに好評だったことから、今年 7 月までに残る 16 校にも電子錠を取り付けることにした。 初期費用は 700 万円、アプリ利用や緊急時に対応する警備会社への委託費など年間のコストは 1 校あたり 25 万円、計 550 万円。

寒川町もスマホと電子錠の利用を進めてきたが、これまでは両者が連動しておらず、職員が予約状況を確認して、手打ちでスマホ向けにカギを開けるためのデータを送信していた。 8 月の利用分から秦野市と同様の運用を始めるという。 川崎市は「学校施設有効活用事業」を展開し、市内の小中、特別支援学校 170 校のうち、167 校の施設開放を実施している。 現在は小中の 5 校で予約システムの試験運用を始めており、25 年度から時間限定の暗証番号などを使ってカギを開け閉めする方法の導入をめざして、業者の選定を進めている。 市教育委員会の担当者は「多くの市民が利用できるように本格導入していきたい」という。 (中島秀憲、asahi = 6-8-24)


1 万台故障した学校配備のタブレット 納入業者が謝罪、無償対応へ

徳島県教育委員会が県立学校に配備した「1 人 1 台」のタブレット端末に故障が相次いでいる問題で、端末を納入した四電工(高松市)が 28 日、不足分を補いたいとして、端末の無償提供と修理を県教委に申し出た。 中川斉史(ひとし)教育長は受け入れる考えを示した。 県教委によると、バッテリーの膨張など端末の故障台数は今月 20 日時点で 1 万 117 台。 2021 度に利用を始めた 1 万 6,500 台の 61% に達している。 交換や修理が追い付いていない不足数は 1,464 台で、複数の生徒で 1 台を使う措置などをとっている。

四電工は、順調に手続きが進めば 7 月末までに追加納入などができるとしており、1 人 1 台の端末環境が回復できる見通しとなった。 この日、四電工執行役員の田中顕・徳島支店長らが教育委員会に出席し、「学校現場に多大なご迷惑をかけた。 社会的・道義的責任を果たしたい。」と謝罪。 無償による端末 500 台の提供と 2 千台のバッテリー修理に加え、今後も故障が出た場合は 1 千台を上限に追加修理に応じるとした。 すでに四電工は昨年 12 月以降、3,500 台を提供している。

これを受けて、中川教育長は記者会見で「製品自体の不良が認められないにせよ、学校で用いる機種としてふさわしいのかを、業者側は考えてほしかった。 一方で、最適なものを選ばなかった県教委にも落ち度がある」と言及。 「今回の申し出を受け入れ、四電工との責任論などの協議は終えたい。 痛み分けだ。」と述べた。 端末を製造したツーウェイ社と四電工の協議は引き続き見守るという。

この問題を巡っては、四電工が今年 3 月、故障端末と正常端末を比較するなどした第三者検査会社の調査として、「故障は(猛暑下での)学校での保管環境などが原因と推察される」と公表。 これに対し、後藤田正純知事は「端末に問題がないなどあり得ない」と疑問視し、原因究明と同社の社会的責任に触れていた。 (能登智彦、asahi = 5-28-24)

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「ありえない話」 タブレット故障問題で、四電工の見解に知事が反発

県立学校に配備した「1 人 1 台」のタブレット端末の故障が相次いでいる問題で、徳島県の後藤田正純知事は 5 日の定例会見で、タブレットを納入した四電工(高松市)が第三者検査会社の調査を踏まえて「製品の不良は認められなかった」と結論付けたことに対し、「端末に問題がないなど、ありえないのではないか」と強い不快感を示した。

知事は「故障の多発は全国で起きていない。 合点がいかない。」とし、「科学的根拠をもって白黒をはっきりさせなければならない」と述べた。 県教育委員会が消費者庁とも連携してしっかりと調査するよう求めた。 四電工は先月、故障端末と正常端末を比較するなどした第三者検査会社の調査結果を公表し、製品に不良はなく、故障原因は「学校の保管環境などが原因と推察される」とした。 (能登智彦、asahi = 4-6-24)

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学校タブレットの故障多発で、教育長が退任へ 代替機調達追いつかず

徳島県教育委員会の榊浩一教育長 (60) が来年 3 月の任期満了を待たずに退任する意向を固めたことが 29 日、関係者への取材でわかった。 県立学校に配備した「1 人 1 台」のタブレット端末に故障が相次いでいる問題では、代替機の調達が追いつかず、引責するとみられる。 県教委が 2020 年度に県立学校に配備したタブレットは、1 万 6,500 台のうち故障が 9 千台以上に及んでいる。 榊氏は 29 日の県議会文教厚生委員会で「タブレット問題はいまも進行形で深刻。 誠に申し訳ない。」と謝罪した。

この問題を巡っては、後藤田正純知事が昨年秋、「教育委員会だけに任せられない」として副知事に緊急対応を指示。 2 月 15 日の記者会見では、新年度の方針に絡んで「教育改革を進める。 体制を含め抜本的に改革したい。」と述べ、教育長の交代を示唆していた。 知事は榊氏の意向を受け入れるとみられ、県と県教委は後任には、教育現場に精通し最新機器の活用にも詳しい人材を軸に検討している。 早ければ開会中の県議会に人事案が提出される見通し。 榊氏は鳴門教育大大学院で障害児教育を専攻し、養護教諭などを経て 20 年 4 月に教育長に就任。 22 年 4 月に 2 期目に入り、障害児教育の推進などに力を入れていた。 29 日、取材に対し「(進退は)ノーコメント」と答えた。 (能登智彦、asahi = 3-1-24)

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徳島県立高のタブレット大量故障、年度内解消へ 端末 7,000 台確保

徳島県立高校などに「1 人 1 台」と銘打って配備されたタブレット端末に故障が大量発生している問題で、新規調達方法などを協議する「教育 DX 加速化委員会」が 20 日、県庁であった。 県教育委員会は、年度内に新規で計 7,000 台を確保できる見通しになったと明らかにした。

県教委によると、2024 年 1 月に 500 台、同 3 月に 3,000 台をそれぞれ調達する。 さらに、現端末を納入した四電工(高松市)から 3,500 台の無償提供を受ける予定。 この日の会合では、県教委が四電工から 8 日に無償提供の提案を受けたにもかかわらず、12 日の前回会合で委員らに報告しなかった点について陳謝。 県教委は「納入時期や受け入れ手続きの確認に手間取った」などと釈明した。 20 年度に 1 万 6,500 台導入された現端末は、18 日時点で 6,547 台が故障(このうち内蔵電池の膨張が 5,566 台)。 県立学校の生徒 1 万 4,164 人(5 月現在)に対し、4,894 台が不足している。 (植松晃一、mainichi = 12-21-23)

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学校のタブレット故障多発、教育長謝罪 1 人 1 台「戻せるめどない」

高校などに配備された「1 人 1 台」のタブレット端末の故障が多発している問題で、徳島県教委の榊浩一教育長が 26 日、記者会見し、「生徒の学びの場に不自由をおかけしており深くおわびする」と謝罪した。 故障機は全て中国の「ツーウェイ」社製で、約 1 万 5 千人の生徒に対し、3,500 台以上が故障で使えないと明らかにし、複数生徒で 1 台を利用するなど緊急措置でしのいでいるという。

県教委は 2020 年度に県立高校など 29 校に約 8 億円をかけて 1 万 6,500 台の端末を配備。 故障は今年 7 月から急増し、猛暑などでバッテリーに異常が起きたという。 代替機の確保を検討しているが、必要台数が多いためすぐには困難で、複数生徒で正常な端末を共有して使ったり、個人のスマートフォンで代用したりする状態という。 榊教育長は「故障台数はさらに増える可能性がある。 最善の努力をしているが、通常に戻せるめどは立っていない。」と説明した。

この問題で榊教育長が記者会見するのは初めて。 覚知から 3 カ月経過しており、「対応が後手後手になっている面は否めない」と述べた。 この問題を巡っては、後藤田正純知事が「学びの場が保障できておらず、非常に憤りを持っている」とし、県教委に対し、責任の所在を明らかにするよう求めている。 (能登智彦、asahi = 10-27-23)


公立教員の「残業代なし」維持方針に批判 「制度的なピンハネ温存」

公立学校教員の長時間労働が問題となるなか、人材確保に向けて働き方改革や給与制度改正などについて議論してきた文部科学相の諮問機関、中央教育審議会の特別部会が 13 日、具体案を盛り込んだ「審議まとめ」を了承した。 「残業代なし」の給与制度の大枠維持が決定的になったことを受け、大学教授や教員ら有志が記者会見し、「この案では長時間労働は解消しない」などと批判し、審議のやり直しを求めた。

審議まとめでは、公立学校教員に残業代を出さない代わりに、基本給の 4% の「教職調整額」を一律に上乗せすることを定めた「教員給与特措法(給特法)」をめぐり、教職調整額の割合を「4%」から「10% 以上」に増やすことなどが盛り込まれた。 働いた時間に応じた残業代が出ない現行の仕組みは維持される。

これについて、給特法の廃止を求めてきた岐阜県立高校の西村祐二教諭は「正直、0 点。 これでは残業が教員のボランティアであり続け、(校長ら)管理職は免責され続ける。」 最近、知人の 40 代教員 2 人が精神疾患になって退職したと明かし、「今後、教職を続けられるかと考えてしまう。 審議を一からやり直してほしい。」と求めた。

友人は教職をあきらめた 大学生「希望持てるようにして」

会見に同席した大学 4 年生の宇恵野珠美さん (22) は、長時間労働の実態を知って教員志望をあきらめた学生が周囲にいると語り、「給特法がある限り教師は際限なく働かされるのだと感じる。 教職に希望が持てるようにして。」と訴えた。 日本労働弁護団の竹村和也事務局長は、国・私立学校教員には残業代が支払われていることをあげ、公立学校教員がその仕組みから除外されていることについて「正当化される理由がないことは明らか」と指摘した。

広田照幸・日大教授は、文科省が 22 年度に行った公立学校教員の勤務実態調査で、小学校教諭の在校時間の平均が 10 時間 45 分、中学で 11 時間 1 分だったことを踏まえ、残業時間に応じた支給をするならば、教職調整額を少なくとも 37.5% にしなければならないとの試算を示した。 「10% というのは実態を踏まえていない数字で、ただ働きが生じる。 制度的なピンハネとも言える状況が温存されており、改めて議論せざるを得なくなるだろう。」と批判した。

「補給なしで『頑張れ』 インパール作戦のよう」

審議まとめでは、教員 1 人当たりの持ちコマ数を減らすため教員を追加配置して、小学校で「教科担任制(現在は 5、6 年生対象)」を 3、4 年生に拡大する案が盛り込まれた。 一方、学校現場からの要望が根強い教員の抜本的な増員は見送った。 これについて中嶋哲彦・愛知工業大教授は「人的リソースを供給しないと教育委員会も学校も動けない。 補給なしで頑張れ頑張れと言っているだけで、(太平洋戦争で日本軍に多数の犠牲が出た)インパール作戦をやらせようとしている」と批判した。

「人間的に働けない」 福岡では教員が街頭で訴え

審議まとめを受け、福岡県内の公立小中高の教員十数人が 13 日夕方、福岡市中央区の繁華街で街頭活動をし、「健康で人間的に働けない。 授業の準備ができない。 学校が大ピンチ。」などと訴えた。 小学校教員の男性は土日勤務が当たり前の現状に、「先生たちは疲れて元気がない。 子どもたちに元気を与える余裕がほしい。」、別の小学校教員男性は「総合学習や ICT 教育と、新しいことだけ増え、現場に丸投げ。 仕事を減らせないのなら人を増やしてほしい。」 ベテランの教員男性は「夜遅くまで働き、土日に出勤する現場に教育実習生が不安を覚え、教員になることをあきらめている」と憂えた。

県教職員組合連絡協議会の藤井隆晴議長 (59) は「調整額が少し上がるだけで、『定額働かせ放題』の現状は続く。 このままでは学校現場が崩壊し、持続可能性を失う。 残業代を認めない給特法の廃止に向けて声を上げていきたい。」と話した。 (高浜行人、前田伸也、asahi = 5-13-24)


「日本版 DBS」法案審議入り 性犯罪歴確認、子どもへの性暴力防ぐ

仕事で子どもに接する人の性犯罪歴を確認する新制度「日本版 DBS」の創設を盛り込んだ「こども性暴力防止法案」が 9 日、衆院本会議で審議入りした。 「法案を起点とし、こども家庭庁が中心となり、社会全体として子どもたちを性暴力から守る社会的意識を高める。」 衆院本会議で、加藤鮎子こども政策担当相は法案の成立に向け、力を込めた。 日本版 DBS は、英国の DBS (Disclosure and Barring Service) の制度を参考にしている。 どんなしくみなのか。

子どもを指導する「支配性」などがある業務のうち、行政に監督・認可などの権限がある学校や認可保育所などは、犯歴確認を義務化。 放課後児童クラブ(学童)や認可外保育所、学習塾などは任意の認定制度の対象とする。 参加を希望する事業者が一定の要件を満たしていれば認定する。 認定されると犯歴確認が義務化される。 広告で表示し、犯歴確認をしている事業者だと示すことができる。

犯歴が確認された場合は、配置転換などを事業者に義務づける。 犯歴のある人の就労を事実上、制限するしくみとなる。 対象とする「特定性犯罪前科」には、不同意わいせつ罪などの刑法犯に加え、痴漢など自治体の条例違反も含まれる。 照会できる期間は、拘禁刑(懲役刑・禁錮刑を 2025 年に一本化)は刑を終えてから 20 年、執行猶予がついた場合は裁判確定日から 10 年、罰金以下は刑を終えてから 10 年とした。

刑法には、更生の観点から刑を終えてから禁錮以上では 10 年、罰金以下では 5 年が経過すると刑が消滅する、という規定がある。 この規定を超えた照会期間を設けることになるが、制度は「雇用を禁じる」などの強い規制ではなく、配置転換などの「間接的な就労制限」にとどめるため、同庁は照会可能と判断した。 そのうえで、犯罪を繰り返す人が、性犯罪で有罪判決が確定した後、再び性犯罪で有罪判決が確定するまでの期間を調査。

その結果、禁錮以上は20 年、罰金以下は 10 年の範囲内に 9 割の再犯者が収まっていたため、この期間を定めた。 子ども政策の課題として長年指摘されてきた「縦割り」を打破し、関係省庁を円滑に連携させるべくできた同庁にとって、日本版 DBS は肝いりの政策だ。 学校や学習塾などで、子ども自身が被害に気づかなかったり、声が上げづらかったりする関係性を利用した、子どもへの性暴力は繰り返し起き、喫緊の対策を求める世論も高まる。 朝日新聞が 4 月、大手学習塾の運営会社 50 社にアンケートした結果では、全体の 6 割が参加の意向を示した。

政府は昨年秋の国会提出をめざしていたが、照会期間を無期限にするなど、より厳しい制度設計を求める与党の反発を受け、見送った。 調整を重ねて迎えた今国会でも、自民党派閥の裏金問題で国会の先行きは不透明に。 もともと窮屈な日程ということもあり、一時は審議入りを危ぶむ声もあった。 政府関係者は「真に国民の利益にかなった法案で、これを今国会で成立させなければ、政府として格好がつかない」と話す。 (川野由起、高橋健次郎、asahi = 5-9-24)


給食の全国無償化、子どものために 専門家「児童手当の一部で可能」

ほとんどの子どもたちが食べる学校給食。 東京 23 区や青森県など無償化する自治体が出てきています。 一方で、財政規模によって自治体単独での実施は難しい場合も多く、全国一律での無償化を求める署名活動も広がっています。 専門家は「給食の無償化は、お金が全て間違いなく子どものために使われる」と指摘しています。 学校給食法では、給食にかかわる人件費や施設設備費は、市町村などの学校設置者が負担すると定められており、それ以外の食材材料費などは保護者の負担とされている。

ただ、文部科学省によると、保護者の負担を軽減するため、設置者が食材材料費などを補助することを禁止しているわけではない。 文科省の 2021 年度の調査によると、公立小学校の給食費の平均は月 4,477 円、公立中学校は月 5,121 円だった。 国はこれまで、経済状況が厳しい家庭には就学援助などで支援してきたとして、更なる負担軽減については各自治体で検討するものとしてきた。 だが、東京都足立区で、給食の無償化を目指し活動してきた「足立っ子給食費無償化ネットワーク」代表の横田真美子さんは「全員が無償なのと、就学援助で支援されるのでは心理的負担が全然違う」と話す。

横田さんは以前、小学生と未就学児を育てるシングルマザーから「就学援助の申請をしたいが、近隣のうわさになったり、子どもがいじめに遭ったりしないか心配」と相談を受けたことがあった。 就学援助のような対象者を選別する支援は、支援を受ける人が恥ずかしい思いをしたり、周囲の目が気になったりするスティグマ(差別や偏見)の問題がある。 横田さんは「親も子どもも、負担を感じないで当たり前に給食を食べられるようになってほしい」と話す。

全国の公立小中学校の給食費の無償化のためには、いくら必要なのか。 16 年に行われた政府の経済財政諮問会議では、年間 5,120 億円が必要と試算されている。 国は昨年 6 月、「異次元の少子化対策」として児童手当の拡充などを盛り込んだ「こども未来戦略方針」を発表したが、給食費の無償化については、実態調査の結果を 1 年以内に公表するとの記載にとどまった。

東京大学大学院・山口慎太郎教授(経済学)は、国が中学生までのすべての子を対象に支給している児童手当の一部を、現物給付の形で給食無償化の財源にすることを提案する。 少子化対策というと、出生率に関心が集中しているが、すでに生まれている子により良い環境を用意することは、出生率の向上と同じかそれ以上に大切だと指摘。 「海外の研究から、給食は子どもの栄養状態の改善や、学校の出席率、成績の向上に少なからず良い影響を及ぼすことが明らかになっている。 給食の無償化は、お金が全て間違いなく子どものために使われるという点でも優れている。」と話す。 (大坪実佳子、asahi = 4-17-24)


公立校教員の給与、増額へ 調整額 4% → 10% 以上で検討 文科省

文部科学省は、公立学校教員の給与を一律に増やす方向で検討に入った。 残業代を支給しない代わりに「教職調整額」を一律に上乗せする今の枠組みを維持しつつ、調整額を現在の「基本給の 4%」から 10% 以上に増額する案を検討している。

公立学校教員の給与制度は 1972 年施行の教員給与特措法(給特法)で定められている。 「4%」は月の残業を平均 8 時間とする 66 年度の勤務実態調査をもとに設定され、施行時から変わっていない。 増額されれば約 50 年ぶりとなる。 同省の 2022 年度の調査では、月の残業が同省の定める上限(45 時間)に達していた教員は小学校で 64%、中学校で 77% に上り、「4%」は実態に合わないと批判されてきた。 実際の労働時間に見合った残業代が出ないという制度の骨格は維持される方向だ。 教員の間では、残業時間に応じて対価を支払うよう抜本的に制度を改めるべきだという意見が根強く、反発も予想される。

長時間労働などを背景に教員採用試験の受験者が減るなか、文科省は人材確保のため、中央教育審議会(文科相の諮問機関)の特別部会で教員の処遇改善の議論を重ねてきた。 部会は 5 月にも議論をまとめる。 文科省は来年の国会での同法改正を視野に入れている。 (山本知佳、久永隆一、asahi = 4-12-24)


「全然だめ」は駄目 若手教員離職防止へ、都教委がガイドブック作成

感情的、高圧的な態度をとる先輩や上司は尊敬されません - -。 若手教員の離職が課題となるなか、東京都教育委員会は職場内での適切なコミュニケーションの取り方などをまとめたガイドブックを作った。 職場での円滑な意思疎通によって、若手の離職防止などにつなげたい考えだ。 ガイドブックは全 17 ページ。 作成にあたって、採用 3 年目までの小中高、特別支援学校の教員にアンケートを実施し、5,280 人から回答を得た。 「生の声」を集め、若手が職場に求めることや、抱えている悩みの傾向などをまとめた。

「先輩や上司を頼りたいと感じる時」をたずねたところ、「児童生徒への生活指導」や「保護者対応」と答えた人が、全体の約 6 - 8 割だった。 ガイドブックでは相談を受けた際の対応方法として、「思いを否定せず、まずは受け止める」、「対話で悩みを整理する」などと具体的に示した。 さらに、高圧的な態度をとると、若手の行動や発言が抑制されると指摘した上で、「NG 例」も紹介。 「これじゃ全然だめだ、これでは指導案になっていないので作り直して」と突き返すのではなく、「できていることを評価しつつ、改善案について事実と理由を示し、相手が納得するよう指導」するよう促す。

「心の不調」への対応についても言及。 不調の際に現れる行動や外見のサイン、異変に気付いた際の周囲の声かけ方法、相談先などを紹介している。 こうしたガイドブックを作った背景には、若手の離職率の高さや、精神疾患で休職する職員の増加などがある。 2022 年度に都教委が正規採用した新任教諭 2,429 人のうち、108 人が同年度末までに退職。 離職率 4.4% は、過去 10 年間で最も高かった。

小学校の新任教諭全員が臨床心理士らと面談をしており、職場の人間関係への悩みが寄せられていた。 年代にかかわらず、精神疾患で休職する教員も増加傾向で、22 年度は都の教員全体の 1.24% が「メンタル不調」で休職している。 都教委はアンケート結果について、「上司や同僚のおかげでうれしかった、励みになったエピソードが数多く寄せられた」とする一方、「『反面教師』とするべき事例もあった」と受け止める。

担当者は「先生が生き生きと働けるかどうかは、子どもの学びに影響する。 円滑にコミュニケーションがとれる、風通しの良い職場づくりに生かしてほしい」としている。 ガイドブックは、都内の全公立学校の教員に配られる予定。 都教委のホームページでも閲覧できる。 (本多由佳、asahi = 3-12-24)

アンケートで寄せられた若手教員のエピソード

【うれしかった、励みになった】
・的確なアドバイス
・声をかけてくれた
・授業を評価し、フィードバック
・見てくれている、気にかけてくれていると実感

【落ち込んだ、つらかった】
・寄り添わない
・人前で叱責
・指示がない
・高圧的な態度

* 都教委作成のガイドブックから


外国出身の高校生に「母語」を必修にするわけは 大阪、一部公立校で

外国にルーツを持つ子どもたちがアイデンティティーを確立するうえでは、親の母語を学ぶことが大事だとされています。 一部の公立高校で母語を必修科目としている大阪府の取り組みを取材しました。

親とはタガログ語、弟とは日本語

大阪府東大阪市の府立布施北高校。 昨年 12 月、フィリピンにルーツを持つ3年生 3 人がフィリピン語(タガログ語)の授業を受けていた。 本を音読し、間違えるとフィリピン出身の先生が正す。 3 人の間では普段はタガログ語で話をするが、本を読むのは古い表現などがあって難しいという。 女子生徒のラモス・ジョセルさんは小学 5 年で来日した。 家で母親とはタガログ語で話すが、弟らとは日本語だ。 「タガログ語をだんだん忘れていってしまう」と言うと、中学 2 年で来日した男子生徒が「たまに何言ってるか分からない」とからかい、互いに笑った。

大阪府は 2001 年度から、一部の府立高校に日本語が十分できない生徒の入学枠を設け、現在 8 校ある。 この枠で入った生徒は、日本語学習とともに、週 2 時限ほどの母語学習が必修となる。 大阪はもともと在日コリアンが多く、朝鮮半島の言葉や文化を学ぶ課外活動が盛んだった。 差別や偏見を恐れる子たちの自尊心を高める狙いだ。 80 年代以降は大阪でもアジアなどから新たに来日する家族が増えた。 学校側は子どもたちが日本社会に早く溶け込めるよう、「家庭でもなるべく日本語を使って」と指導することもあった。

そんな教育の負の側面を示すものとして、教師らの間で知られる作文がある。 90 年代に小学 3 年の男児が書いたものだ。

おばあちゃんとでんわをしたかった

中国の祖母から電話があり、両親や兄は喜んで話した。 トイレで用を足していた男児は「おばあちゃんと話をするのは、日本にきてはじめてでした。 ぼくは、おしっこ早く出ろと思って、べんじょからもどってきました。」 ところが、受話器を向けられた男児は「いい」と手をふった。 「中国語、分からんから。」 男児が両親の顔を見ると、2 人とも目に涙を浮かべていた。 「ぼくが、中国語をわすれたので、お父さんとお母さんは、ないているのかなと思いました。 でも、おばあちゃんと話をすることができて、うれしいからないているのかなと思いました。」 そして作文はこう締めくくられた。 「ぼくも、おばあちゃんとでんわをしたかった。」

日本語を教えることで、祖母と話すことができない子を育てているのか - -。 教師たちが母語教育の重要性を再認識するきっかけになった。 いまでは研究者らの間で、母語の力を高めることはアイデンティティーの確立に加え、思考力や日本語能力の向上にもつながると広く認識されている。 文部科学相の諮問機関、中央教育審議会も 21 年の答申で「これまで以上に母語、母文化の学びに対する支援に取り組むことも必要」だとした。

だが、国としての母語教育に関する具体的な取り組みはまだない。 自治体でも、大阪府のように正規の授業で母語教育をする例はごく一部で、課外活動やボランティアによる取り組みが中心だ。 大阪大の矢元貴美准教授は「日本語や日本に関する学習が優先され、母語にはあまり目が向けられない。 ルーツのある国の言葉や文化が評価される機会をもっとつくるべきではないか」と指摘。 母語を指導できる人材の不足も課題だとする。 (浅倉拓也、山本知佳、asahi = 3-9-24)