各地で小中学校再開の動きも 新型コロナウイルス

11 日は新型コロナウイルスの感染防止のため休校していた各地の小学校や中学校で、学校再開の動きが見られました。

東京・多摩市の中学校では分散登校

東京・多摩市の多摩中学校では、先月の始業式から、休校となっていましたが、11 日から学年のクラスごとに時間を決めて分散登校を始めました。 中学 3 年のクラスは校舎に入る前に検温したあと、密集を避けるため体育館に机を並べてホームルームを行いました。 担任の教員は、休校中の過ごし方などを生徒に聞いたうえで「受験も控えて、いろんな不安があると思うけど一緒に頑張ろう」と呼びかけていました。

しかし、分散登校の間は 2 時間ほどしか生徒を学校に滞在させないため授業は行えず、教員が作った教科ごとの動画などを使って、家庭で学習してもらうということです。 今、議論されている 9 月入学をどう思うか学校で聞いてみると女子生徒のひとりは「4 月からの時間が削られてしまったので、9 月入学には賛成です。 中学最後の1年間はしっかり思い出を作って卒業したいです。」と話していました。

また、別の男子生徒は「自分だけで勉強するのは集中力も続かないし、このままだと受験は不安ですが 9 月入学には反対です。 いろいろな問題が出てくるかもしれないので、コロナが終わったあとは今までどおり、4 月入学でいいと思います。」と話していました。 千葉正法校長は「学力保障と いう点では 9 月から仕切り直して始めることは合理的ではありますが、そこに至るまでに大変な社会の変革が必要だと思います。 義務教育ですし、国民全体が変化を望むのか、あまり拙速になってはいけないと思います。」と話していました。

大阪市、小中学校で臨時の登校日

大阪市の小中学校では 11 日から臨時の登校日が設けられ、新年度に入って初めて子どもたちと先生が顔を合わせました。 大阪市は、緊急事態宣言の延長を受けて、10 日までとしていた小中学校などの休校を今月 31 日まで延ばす一方、週に 1、2 回、登校日を設けることにしています。 一部の学校では 11 日から登校日が始まり、大阪 旭区の大宮西小学校では、密集を避けるため、4 年生と 6 年生の児童、合わせておよそ 120 人がマスクをつけて登校しました。

体温の確認を済ませた子どもたちは運動場に移り、新年度に入って初めて、担任の先生や同じクラスの仲間たちと顔を合わせました。 先生は「やっとクラス全員がそろうことができました。 新型コロナウイルスの影響が続いていますが、みんなで乗り越えて仲のよいクラスにしましょう。」などと声をかけていました。 教室は、窓を開け放したり、席の間隔を空けたりして対策がとられ、先生が子どもたちに寝起きの時間など生活の状況を確認し、自宅学習用の教材について説明しました。 山口信時教諭は「元気そうな顔を見て安心しました。 保護者の方が心配しないよう感染防止に細心の注意を払います。」と話していました。

新潟県内、一部の小中学校で授業再開

新潟県内の一部の市町村でも、時間短縮などの対応をとりながら 11 日から小中学校の授業を再開しました。 新潟県内では 11 日から 12 の市町村で時間短縮などの対応をとりながら授業を再開しこのうち三条市の栄中央小学校ではけさ、マスクをした児童たちが登校していました。 全校集会で児童は感染防止のため体育館には集まらず、樋熊敏文校長が校内放送を通じて「手洗いやマスクの着用などが自分も友達も守ることになります。 新型コロナウイルスに負けないで 1 日 1 日を大切にしていきましょう。」と呼びかけ 2 年生の教室では子どもたちが真剣に聞いていました。

11 日の授業は 4 時間目までということですが、担任の教師が友達との距離をとることや大声は控えることを呼びかけたり休校中の宿題の漢字ドリルや算数のプリントを集めたりしました。 小学 2 年生の女子児童は、「みんなに会えてうれしいです」と話し、また、男子児童は「お昼休みが楽しみなのと勉強を頑張りたいです」と話していました。

青森市、全小中学校で分散登校で授業再開

青森市では 11 日、およそ 2 か月ぶりにすべての小中学校で授業が再開され、小学 1 年生は入学してから初めての授業を受けました。 青森市は 3 月 2 日から市内62のすべての小中学校を臨時休校にしてきましたが、11 日から学年ごとに登校日を分ける分散登校を行うことで授業を再開しました。 このうち堤小学校では 11 日、1 年生と 3 年生、それに 5 年生が登校し、玄関前で藤田茂実校長が出迎えました。

1 年生は先月 7 日に入学したあと初めてとなる授業で、はじめに休校中に出されていた宿題や、体温を記録したノートを担任に提出したあと、一人一人が「元気です」などと体調を報告しました。 そして 1 時間目の国語でひらがなの「あいうえお」をひと文字ずつ丁寧に書いていました。 1 年生の男の子は「初めての授業は楽しかったです。 学校生活では、給食当番を頑張りたいです。」と話していました。

藤田校長は「久しぶりに登校する様子を見ることができてうれしい。 学習の遅れを取り戻せるよう子どもたちの安全に配慮したうえで、授業に取り組んでいきたい。」と話していました。 青森市は分散登校を少なくとも来週まで続け、登校しない学年のうち小学 4 年生以上については、オンラインでの授業を実施することにしています。

鹿児島県内、多くの市町村で授業再開

鹿児島県内でも多くの市町村で授業が再開し、鹿児島市の小学校では 11 日、児童が元気に登校する姿が見られました。 鹿児島県内では 11 日から多くの自治体で学校の授業が再開し、およそ 650 人が通う鹿児島市の八幡小学校では朝 7 時半に校門が開くと児童たちが次々と登校しました。 この小学校では、登校前に自宅で体温を測るよう呼びかけていて、校門では学校の職員が、検温がまだの児童の体温を測り、体調に異常がないか聞き取っていました。

小学 6 年の男子児童は「友達と会えるのでわくわくしています。 手洗いとうがいをして新型コロナウイルスに負けないように過ごしたいです。」と話していました。 鹿児島市立の小中学校と高校では授業を 5 分短縮し、手洗いやうがいの時間にあてていて、子どもたちは念入りに手洗いなどをしていました。

また八幡小学校では児童どうしの接触を減らすため、昼休みを後ろ倒しにして授業の少ない低学年を中心に早く下校してもらう措置を取っているということです。 木原田雅彦校長は「1 学級が 40 人超えるうえ空き教室も十分に確保できず分散が難しい状況ですが、『3 密』の状態を作らないよう児童とともにできる対策を実行していきたいです」と話していました。

宮崎・綾町の小中学校、平日の毎日を「登校日」に

新型コロナウイルスの影響で各地で学校の休校が続く中、これまで感染者が確認されていない宮崎県綾町の小中学校では、11 日から毎日を「登校日」にして学習する機会を確保する異例の対応を始めました。 宮崎県内では、26 の市町村すべてが小中学校の臨時休校を今月24日まで延長することを決めています。 一方、子どもたちの学習の機会を確保する必要もあり、文部科学省でも地域の感染状況を踏まえたうえで分散登校日を設定することも運営上の工夫としています。

こうした中、これまで感染者が確認されていない綾町では、11 日から小中学校で平日の毎日を「登校日」とする異例の対応をとることにしました。 これを受けて、綾小学校でも 11 日は子どもたちが登校し、ふだんより 5 分短い 40 分の授業を午前中に 5 時間目まで受けました。

学校によりますと、子どもたちが下校したあと、先生たちが机やいすを毎日消毒するほか、児童や保護者の意向によって学校に来なくても欠席扱いとはならないということです。 6 年生の男子児童は「自宅ではゲームをして勉強があまりできませんでした。 学校だと勉強も進むし、友達とおしゃべりもできるので楽しいです。」と話していました。 高松公俊校長は「町内では感染者は確認されていないので、感染防止と子どもたちの学習のバランスを考えて、こうした対応を決めました」と話しています。 (NHK = 5-11-20)


コロナ時代の授業探る「夜の職員会議」 世界中から知恵

新型コロナウイルスの感染拡大で長期休校が続くなか、子どもたちとつながるために、何とか双方向型のオンライン授業ができないか。 そんな思いを抱く教員たちがオンライン会議システムでつながり、「夜の職員会議」を開催。 海外や国内の先進校の手法を学んできた。 情報は全国各地で共有され、様々な形で芽吹きつつある。 4 月 30 日夜 8 時、オンライン会議システム「Zoom (ズーム)」の画面には各地の教員らが続々と映し出された。 国内は北海道から沖縄、海外は米国、中国、イタリア …。 参加者は口コミで広がり、最も多い時間で 400 人近くに伸びた。

「コロナ時代にも学びを止めない」とネット上に発足した有志による会議は、この日が 4 回目の最終日。 4 月 16 日から回を重ね、延べ 800 人以上が参加した。 Zoom 会議を企画したのは、東京都調布市立多摩川小学校の指導教諭、庄子寛之さん (36) だ。 多くの公立校で双方向型のオンライン授業が進まない背景として、▽ ICT (情報通信技術)に理解がない、▽ セキュリティーが厳しすぎる、▽ 地域や他校と横並び意識がある - - などが指摘されている。 こうした壁に阻まれ、教員が身動き取れないケースも目立つ。

そこで庄子さんは、教員同士が横のつながりを作って世界の先進例やノウハウを知ることで、現状を打破できないかと考えた。 「いま一番必要なのは子どもたちと対面でつながること。 ICT はそのための手段にすぎません。」 この日、最初に発表したのは、休校直後からオンライン授業の実施に動いた小金井市立前原小学校の蓑手章吾教諭。 公立ながら、児童 1 人に対して 1 台の PC 環境があったため、校内でしか使えなかった設定を持ち帰りできるように切り替え、速やかに Zoom 導入ができた。 一斉休校が決まった日の夜にはオンラインにつないでいたという。

休校中は「学びの楽しさを取り戻す」をテーマに、児童が自らやりたい自習課題を決めた。 料理や図工、音楽、ゲームでも OK。 映像のシェア機能で互いの成果を見せ合った。 平日は午前 8 時半の朝の会から午後 4 時の帰りの会まで、Zoom をつなぎっぱなしに。 一人でお昼を食べている子には、「一緒に食べよう」と声をかけた。 オンライン授業が進まない公立校もあるが、「子どもが楽しむ姿を見せれば、大人の意識が変わるかもしれない」と話した。

初回から会議に参加してきた米国の日本人学校「ニューヨーク育英学園」は、オンライン授業を始めて 1 カ月で見えてきたことを報告した。 都市封鎖された 3 月下旬から準備を始め、わずか 1 週間で児童と教員をネットでつないだ。 同学園の中村健人教諭は「授業は会話と板書が基本。 PC やアプリを駆使し、リアルタイムに画面共有さえできれば難しくない」と強調した。 子どもたちは不安より楽しさが上回り、機器の操作にもすぐ慣れるという。

その一方で、画面を見続ける児童の疲れに配慮して授業時間を 1 コマ 30 分にしたことや、授業中に笑い声が聞こえず教員は手応えを感じにくい、といったデメリットも紹介した。 「一番大変なのは、朝から晩まで PC を見続ける先生。 教員の体と心のケアも必要だ。」とも話した。

「グーグル使う提案通った」 会議の成果、各地で

日本人学校では他にも、iPad を使った学習支援を進める香港、米グーグルの会議システムを活用してクラス会を開くシンガポールの実践報告もあった。 チャット欄には、教員らの声が次々と寄せられた。 「これぞ最高に主体的な学び」、「細かい工程がわかり、すごく参考になる」、「夢のまた夢状態。 今そこの百歩手前の段階です。」 会議は夜 11 時まで続いた。

6 年生を受け持つ庄子さんは、長引く休校で、教科書の未履修部分にまで自習課題が拡大するのを懸念する。 「プリントを大量に課された子どもは、間違いなく勉強嫌いになる。 家庭での負担も大きい。主体的で深い学びには、オンラインを上手に使って対話を生むことが不可欠です。」 4 月末、自身の学校で Zoom を活用した朝の会を提案。 近く実証校になる見通しだ。

会議の成果は各地で芽を出し始めている。 愛知や東京などの教員からは「Zoom 導入を試験的に認めてもらえた」、「グーグルを使う提案が一部通りました」といった報告が相次ぐ。 庄子さんは「反対された先生もいるが、あの日話して、次の日実行した人が多くいてうれしい。 人のせいにせず、自分のできる小さな一歩が子どもたちのためになる。」と話す。 (西村悠輔、asahi = 5-10-20)


臨時休校中の小中学校、授業を TV で放送 先生が出演

福岡市は 8 日、臨時休校が続く市立学校の小学 1 年から中学 3 年を対象に、新学年の教科書の内容を動画にして地元民放テレビで放送すると発表した。 11 日から休校期間の今月末までの平日。 オンライン授業を導入してもネット環境が整っていない家庭もあることから、より広く学習の機会を確保する狙い。 同様の取り組みは熊本市でも始まっている。 福岡市教育委員会によると、市内の小中学生がいる家庭の約 1 割がネット環境が整っていないという。

放送される教科は、小学校が国語、算数、理科、社会。 中学校が国語、数学、理科、社会、英語。 休校中の自宅学習は復習が中心だったが、放送する 1 本 2 - 6 分ほどの動画は新学年の教科書に沿った内容。 市立学校の教諭が出演し、教科書の内容などを補助して教えるという。 放送は 11 日に始まり、福岡放送 (FBS) で午前 10 時 25 分から約 1 時間。 18 日からは、FBS に加えてテレビ西日本 (TNC) でも午後 3 時 50 分から別の内容を約 1 時間放送する。

一つのチャンネルで同時に二つの内容を放送できる「サブチャンネル」を使う。 市教委の担当者は「毎日決まった時間にテレビで学習するので生活リズムを整えることにもつながる」と話す。 熊本市も地元民放 4 局と連携して学習支援番組を制作し、4 月 20 日に放送を開始。 休校期間が今月 31 日まで延長されたことに伴い、放映期間の延長も決まった。

11 - 29 日の平日計 15 日間、小学校児童向けの番組を放送する。 今月からは、タブレット端末の配備などオンライン授業の環境整備ができていない小学校低学年向けの番組も充実させる方針。 学習指導要領に示された内容で授業ができていない部分を扱い、市教育センター職員や市内小学校の教職員らが出演している。 (島崎周、白石昌幸、asahi = 5-9-20)


「チャンスなのに …」公立のオンライン授業、普及への壁

新型コロナウイルスの感染拡大で休校が長引くなか、学校間のデジタル格差が広がっている。 オンライン授業の普及は私立校などの一部にとどまり、公立校ではごく一部。 文部科学省は小中学生を対象にしたデジタル端末の購入費を大幅に積み増すが、使いこなせる先生や端末の不足など課題は多い。

「できない理由ばかりあげている」

「全生徒が参加できないと不公平になる」、「機材はどうするの」。北海道の公立中に勤める 40 代の女性教諭は休校中の 4 月、アプリを使った簡単なオンライン授業ができないかと提案したが、同僚からこう反対され、あきらめざるを得なかった。 女性教諭は「生徒に何かをやってあげたいのに、できることから始めることがこんなにも困難なのかと思い知らされた。 納得できない思いをしている先生はたくさんいるはず。 意欲ある先生の意欲をそがないで。」と訴える。

中部地方の小学校教諭も休校が決まった際、動画サイトのライブ機能を使った双方向授業をしたいと申し出たが、学校関係者に「学校の取り組みとしては認められない」、「他の先生には使いこなせないから無理でしょう」と止められた。 「録画したものを勤務時間外に個人的に発信するなら構わない」とも言われたという。 教諭は「できない理由ばかりあげて、最初からやる気がないと感じた。 動画サイトは何か危なそうだと先入観にとらわれているのだと思う。 今は長期休校の非常事態なのだから、前向きにとらえれば、教員自身も新しいことに挑めるチャンスなのに。」と嘆く。

文部科学省の 4 月 16 日時点の調査によると、休校中または休校予定の 1,213 自治体のうち、デジタル教材を使うのは 29% で、双方向型のオンライン指導をするのはわずか 5% だった。 公立校でオンライン授業がなかなか進まない背景には、教育現場での ICT (情報通信技術)の整備の遅れがある。 文科省は 10 年以上前から地方交付税での ICT の導入を促してきたが、自治体の優先順位は高くなかった。 2019 年 3 月時点で、パソコンなど教育用コンピューター 1 台あたりの児童生徒数は全国平均で 5.4 人だ。 宿題に PC などデジタル端末を使う子どもの割合は、日本は 3% と、OECD 諸国の平均 (22%) と比べて低い。

「電子黒板」の二の舞に?

昨年末、小中学生に 1 人 1 台のパソコンやデジタル端末を整備する「GIGA (ギガ)スクール」構想を打ち出した同省は、一斉休校を受け、目標達成の時期を 23 年度から今年度中に前倒しすると決定。 新型コロナ対策の補正予算に 2,292 億円を盛り込んだ。 自治体が端末などを購入する際に 1 台につき最大 4 万 5 千円を補助する。 東京都も 5 日、休校中の小中学校に、オンライン学習の環境を整える予算 84 億円を計上した。

だが、急な前倒しに戸惑う自治体もある。 端末は更新しなければ 3 - 4 年で陳腐化するが、更新費用は自治体の負担になりかねない。 端末への学習ソフトウェアの導入費やメンテナンス費が膨らむ恐れもある。 福岡市教委の担当者は「毎年の予算にどれくらいのランニングコストがかかるのか、不安がある。」 全国市長会は 4 月、こうしたコストを含めて補助の対象にし、補助単価の上限の引き上げなどを求める提言を出した。 全国規模で短期間にデジタル端末をそろえるのが難しい、という問題もある。 新型コロナでオンライン機器の需要が世界的に高まり、端末が市場になくなってきているからだ。

調査会社の BCN 総研(東京)によると、タブレットは年度末によく売れるが、今年は 2 月以降、販売数が前年の同じ時期より 40 - 50% 増の週が多く、欠品が出始めている。 小学校などに教材を販売している教育商社・内田洋行の青木栄太コンテンツ企画部長は「ネット環境を整えようにも今は端末が市場になく、短期間に用意するのは難しい」という。

さらに、使いこなす技術も必要になる。 校内で ICT の相談を一手に引き受けてきた首都圏の 40 代の男性教諭は、「ただ端末を配ればいいわけではない。 端末のトラブルや更新の対応をする支援員の配置、教員や生徒らへの研修が不可欠だ。」と話す。 関東のある県教委の担当者は、PC 1 人 1 台について、かつて国が力を入れながら広がらなかった「電子黒板」の二の舞いになりかねない、と心配する。 「端末を具体的にどう生かすかが現場で共有されていない状況のままでは、二の足を踏む市町村教委は多い。」

家庭でのネット接続は限定的

端末があっても、セキュリティーへの不安から生かし切れないケースもある。 佐賀県武雄市は 15 年度までに、市立小中学校の児童生徒に 1 人 1 台の端末を完備し、家庭に持ち帰らせてきた。 だが、危険なサイトへのアクセスや情報流出などの懸念から、ネット接続は校内のみに制限している。 家庭で使うときにはネットにつながず、端末に入っているドリル学習などしかできない。 「せっかく端末があるのだから先生と双方向でやりとりできたら、家庭の生活も随分変わるのに」と保護者の一人は言う。

市教委は「家庭でオンラインで使うには全端末を回収し、設定から変えなければならない。 子どもと教師への十分な事前研修も必要。」と説明する。 4 月下旬になり、モデル校の中学 1 校の 3 年生の端末にウイルス対策ソフトを入れ、各家庭でネットに接続させて使う試みを始めた。 通信環境のない家庭にはルーターを配る。

同じく 17 年度に全小中学生に 1 人 1 台の端末を配備済みで、ICT 教育を積極的に進める渋谷区。 新年度は新しい学級などの設定が必要で 4 月下旬にようやく終わった。 動画の配信や双方向の授業は「セキュリティーの問題も教師の負担もある」として行わず、クラウド上に課題などをあげる方法にしてきた。 休校の長期化により、5 月から動画配信を始めたが、双方向のオンライン授業はまだ検討中だ。

文科省は 4 月 21 日に出した通知で、平常時のルールにとらわれず、ICT の最大限の活用を自治体に求めた。 家庭のパソコンやタブレット、スマートフォンなどの活用に加え、学校の端末の持ち帰りも含め、あらゆる工夫をするように、としている。 23 日には具体的な活用手段も自治体に連絡。 「これらの取り組みに積極的な学校現場とそうでない現場との格差が広がることは適切ではない」と強調した。

動き始めた自治体もある。 埼玉県久喜市はユーチューブなどで担任がメッセージを送る動画配信を市立の全 34 小中学校で導入したほか、テレビ会議システム「Zoom」による朝の会を 1 日現在で 13 校で実施。 4 月から一部の学校貸与端末のセキュリティーを緩和し、Zoom などを使えるようにした。 三重県は 4 月末に県立高校に対し、休校が続く 5 月末まで週 3 - 5 日、午前中の一部の時間帯にオンラインのライブ授業を開くよう求めた。 家庭に通信環境がない生徒には、パソコンや接続機器を貸し出す。 広島県も県立高校生らに民間のクラウドサービスの ID を割り振り、動画や教材の共有を進める。

東京都中央区では 4 月下旬、小中学生の保護者らがオンライン学習のアンケートを実施。 保護者の 95% が賛成との中間報告を区に出した。 協力した小 2 女児の母親は「配られた宿題以外に学校との接点がなく、このまま学習機会が失われていくのが心配」と話す。 国際大グローバル・コミュニケーション・センターの豊福晋平准教授は「今の休校中に端末を全員分確保し、通信環境やセキュリティーまで整えるのは無理がある。 保護者も子どもも長期の休みで学習への不安や不満が高まっているのだから、スマホなどを活用し、できる範囲でまず子どもとつながることが大切だ。」と指摘する。 (西村悠輔、宮崎亮、宮坂麻子、土屋亮、asahi = 5-7-20)


9 月入学、政府が論点整理へ 6 月上旬めどに課題まとめ

政府は、秋から新学年が始まる「9 月入学」について、杉田和博官房副長官を中心に関係各府省の事務次官らによる検討に着手した。 検討は 4 月 30 日に始まり、杉田氏は論点と課題を洗い出すよう指示。 導入する場合の論点や課題などを 6 月上旬をめどに整理する。 9 月入学の案は、新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの学校で再開が見通せない中、教育機会を確保すべきだなどとして急浮上した。 安倍晋三首相は 4 月 29 日、「国際社会で 9月(入学)が主流であるのも事実。 様々な要素を勘案しながら前広に判断していきたい。」と述べた。

萩生田光一文部科学相も 5 月 1 日、閣議後の記者会見で「広く国民の間で認識が共有できるのであれば、一つの大きな選択肢」と語った。 野党の国民民主党の検討チームも 1 日、「検討を政府が迅速に行うべきだ」とする党の提言案をまとめた。 日本維新の会も 9 月入学への変更を主張する。 9 月入学をめぐっては、仮に今年 9 月から導入する場合、4 月から予定していた学習を最初から始めることができる。 運動会や修学旅行なども実施できる可能性が出てくる。 欧米諸国と入学時期がそろうことで留学生の往来が増え、大学の国際化などが進むとの見方もある。

一方、導入初年度の小学 1 年生の人数は他の学年の 1.5 倍近くに膨らむ可能性がある。 幼稚園、保育園を 3 月に卒園した子を 9 月まで受け入れる場所なども必要になる。 学校卒業後の就職では、企業の採用時期を変えてもらうなど経済団体などとの調整も課題になる。 日本 PTA 全国協議会は 1 日、「現在のような社会の混乱期に一気に導入する、という性格のものではない」として慎重な検討を求める緊急要望書を文科省に提出した。 (楢崎貴司、宮崎亮、asahi = 5-1-20)

9 月入学、考えられる利点や課題は?

【利点】
・ 今年度に予定されていた学習に最初から取り組める
・ 中止した運動会や修学旅行などの行事をできる可能性も
・ 欧米諸国と入学時期がそろい、留学しやすくなる

【課題】
・ 導入初年度の小学 1 年生は 1.5 倍近い人数となる?
・ 保育園などを 3 月に卒園した子の受け皿は?
・ 卒業後の就職活動と企業の採用時期とのずれをどうする?

◇ ◇ ◇

「9 月始業もありだよね」 高校生も保護者も教員も

新型コロナウイルスの感染拡大で、学校再開が見通せない状況が続いている。 子どもたちの学ぶ権利や、学校でさまざまな体験をする機会をどう守るのか。 家庭環境や地域による教育格差が指摘されるなか、これを機に欧米諸国などと同様の「9 月始業」を求める声が、高校生や保護者、自治体のトップからも上がり始めた。

高校生のツイートに 9 万 7 千以上の「いいね」

「学期の始まりを 9 月にして僕たちの学校生活を守る話。」 4 月 1 日、ある高校生のツイートが注目を集めた。 140 字では収まらない思いをつづった文章の画像が、添えられている。 「始まりはどんどん遅くなるのに、終点は変わってくれません」、「学期の始まりをずらすチャンス」。 9 月始業を提案する内容に、9 万 7 千以上の「いいね」がついた。

ツイートしたのは、都立高校の 3 年男子 (17)。 残り少ない高校生活も、部活の最後の大会も失いたくない。 オンライン授業は学校によって差が大きく、IT 環境のよくない友人もいて「明らかに不公平」。 9 月始業と決めれば、全国的にオンライン授業の準備ができる。 「平等なら納得できる。 何カ月もグダグダなまま受験と言われても、納得できない。」

ネット署名サイト「Change.org」でも、9 月始業を求める声が複数あがっている。 「Spring Once Again 〜日本全ての学校の入学時期を 4 月から 9 月へ!〜」と掲げ、友人と 2 人で賛同を呼びかけているのは大阪市の公立高校 3 年、西野桃加さん (17)。 受験生だが、英語などの外部試験も中止が相次ぐ。 次回の登校日に提出するよう言われている学校の課題は、その登校日がいつになるのかすら分からない。 不安な気持ちで、参考書や無料動画で自習する日々をすごしている。

「学校ですごすかけがえのない時間が、少しずつ少しずつ短くなっていくのはとても不安。 全員が 9 月から平等に教育を受けられるようにしてほしい。 私たち高校生は声を上げることしかできないけれど、世論が少しでも変わってほしい。」と話す。 署名は 1 週間で 3 千人超が賛同。 月内に文部科学相や 47 都道府県の教育委員会に届けたいという。

「千葉県の高校三年生」も 17 日、「全国一斉に年度の開始を 9 月に」とするページを立ち上げた。 「このまま 1 カ月、また 1 カ月と先送りになるよりも学生の精神的不安は軽くなる」、「(学校は)行事や日々の生活で学び、成長することが出来る、何よりも大切な時間を過ごせる場所。 私たちの 1 度しかない時間を奪わないで下さい。」と訴え、約 2 千人が賛同している。

22 日には、東京都内の公立小学校に子どもが通う保護者有志による「子ども視点のアフターコロナを考える会」も署名活動を始めた。 地域や家庭環境によって学ぶ機会の格差が広がっている現状は教育基本法の「教育の機会均等」に反する、世界では 9 月始業が主流、新学習指導要領の実施で授業時数が増え、子どもたちの機会損失は大きい、などとして 9 月始業を求めている。

同時に 9 月までは、家庭で安心して健康に生活できない子への支援や、各家庭のネット環境整備を進めることなどを要望している。 中心メンバーの 40 代の女性は「学校再開が見通せず子どもたちや保護者、とりわけ受験生は不安を感じている。 9 月始業を早期に決め、今からそこに向けて必要な準備を進めてほしい」と話す。 夏休みを短縮する議論もあるが、「エアコンが完備されていない学校もあり、熱中症のリスクが高い」と懸念する。

教員からも賛同の声

現場の教員からも、賛同する声がある。 福岡県のある小学校教員は最近、同僚らと「いっそ 9 月スタートもありだよね」と話すという。 このままでは夏休みを短縮し、土曜も登校させて、毎日 7 時間くらい授業をしないと終わらない。 運動会や修学旅行などもなくなりそうだ。 9 月始業にすれば、行事もできる。 「行事は作り上げていく過程が大事。 当日だけ短縮してやればいいってものじゃない。」 欧米とそろうことで、留学もしやすくなる。 受験も、インフルエンザや雪に悩まされずに済む。 「決まれば、9 月めざして頑張ろうと思える。」

教育評論家の尾木直樹さんは「ピンチをチャンスに変える絶好の機会」と、9 月始業に賛同する。 海外の大学と異なる 4 月入学が、留学の低迷など日本の大学のグローバル化が進まないひとつの要因だと指摘。 IT 環境が不十分なまま走り始めたオンライン学習も、落ち着いて整備し、対応できるなど「メリットはいっぱいある」という。 4 月に新年度が始まる社会との矛盾や、年中行事との兼ね合いなど課題はあるが、「大学入試をどうするかも含めて、政治主導でルネサンスを進めてほしい」と話す。 (渡辺純子、三島あずさ)

休校延長の自治体相次ぐ

コロナの収束が見通せないなか、群馬県や愛知県、名古屋市、岐阜県、滋賀県、熊本市など、5 月末までの休校延長を決める自治体が相次いでいる。 4 月、5 月、6 月 … と再開が先送りされている状況に、「早く長期的な見通しを示してほしい」という声が高まる一方、すでに 9 月再開を見すえて動き出した私立校もある。 関東地方の私大付属高校は、事態が収束しなければ 1 学期いっぱいオンライン授業をする方針だ。 8 月末の期末試験か課題提出で、成績をつけることも生徒らに伝えた。 広尾学園中学高校(東京都)ではオンラインでの期末試験も準備しつつある。 金子暁副校長は「収束が見えない現状では、9 月再開も念頭に動かなければ」と話す。

「9 月始業」案は、自治体の長からもあがる。 宮城県の村井嘉浩知事は 27 日の定例記者会見で、「コロナの影響が大きい所と少ない所で学力差が生じるのはよくない。 日本全体の問題として、これを千載一遇のチャンスと捉える方が、親にも子どもにもいいのでは」と述べ、入学や始業の時期を一律で 9 月にずらすことが望ましいとの考えを示した。 海外では 9 月入学が一般的で、留学がしやすくなることも利点に挙げた。

28 日に 17 人の知事でつくる「日本創生のための将来世代応援知事同盟」の会議があり、そこで政府への申し入れを提案するという。 文科省によると、入学時期を 4 月と定めたのは 1900 年の小学校令施行規則。 それまではバラバラだったという。 9 月始業をめぐっては、東大が 2011 年、国際化を進めるために秋入学への移行を検討。 高校卒業後に約半年の空白期間が生まれることなどがネックとなり、見送った経緯がある。

9 月始業を求める声も上がっていることについて、萩生田光一文科相は 24 日の会見で「承知している」としたうえで、「まずは早期の収束に向けて感染拡大防止の取り組みを徹底し、学習の保証のための取り組みをより一層進めていく」と述べるにとどめた。

慎重意見も「メリット見えにくい」

松岡亮二・早稲田大准教授(教育社会学)は「欧米などとの留学日程の組みやすさ以外の教育的メリットがみえにくい。 内実を伴わない政治的なパフォーマンスになりかねない」と、9 月始業に慎重な姿勢だ。 「先行きが不透明になればなるほど、家庭や地域によって元々ある格差がさらに広がる可能性がある。 学校再開や入試がどうなるかなど、見通しを早めに示すことが大切だ。」とし、9 月に再開できない可能性も見越して「義務教育だけでなく高校生まで含め、デジタル機器の普及など、一部の子どもたちにしわ寄せがいかない学習環境の整備を急ぐべきだ」と指摘する。 (宮坂麻子、徳島慎也、矢島大輔、asahi = 4-28-20)


小1・小6・中3 優先再開案 文科省、休校解除めぐり

新型コロナウイルスの影響で長期化している休校の解除を巡り、文部科学省が、小1・小6・中3 の 3 学年の登校を先行させる案を選択肢として示す方針を固めたことが、関係者への取材で分かった。 入学直後だったり、卒業や入試を控えたりして、優先度が高いと判断。 登校再開を段階的に行うことで、感染拡大の原因となる密閉、密集、密接の「三密」を避ける狙いがある。

文科省は政府の専門家会議の見解を踏まえ、学校再開時の考え方を近く公表し、学校の設置者である全国の教育委員会などに参考にしてもらう。 登校する学年を限定すれば教室に余裕ができ、一つのクラスを複数の教室に分け、密集を避けながら授業を行うことなどが可能になる。 同様の効果を狙い、登校時間をずらすことなども選択肢として示す見通し。

文科省はこれまで「多くの学校においては人の密度を下げることには限界があり、教育活動上、近距離での会話や発声等が必要な場面も生じる」と認めた上で、学校を再開する場合は毎朝の検温、授業中の窓開け、マスクの着用などの対策を取ることを求めてきた。 しかし、同省の 22 日正午時点の調査では国公私立の小中高校などの 9 割超が休校し、5 月の連休明け後も継続するとした自治体が増えている。 学習の遅れが深刻化する中、文科省は感染リスクをさらに抑える選択肢を明示することで、円滑な学校再開につなげたい考えだ。 (中日新聞 = 4-30-20)


学生団体が野党議員に要請書提出

新型コロナウイルスの感染拡大により経済的な影響を受ける学生が増える中、学生団体は 29 日、一律学費半額などを求める要請書を野党議員らに提出しました。 学生団体「高等教育無償化プロジェクト FREE」と「一律学費半額を求めるアクション」は、国による一律学費半額などを求める要請書と 1 万人を超える署名を野党議員らに提出しました。

「大学 vs 学生という構図を生まれさせないためにも、国に予算を組んでいただいて、そのような対立が生まれないような対策を講じていただければと(医療系大学の学生)」
「国会でも、与野党関係ありませんから、我々の方から提案がしっかりできるように(国民民主党 城井崇衆院議員)」

「FREE」が 27 日までに HP での呼びかけなどに応じた 1,200 人の学生に実施した調査によりますと、退学を検討している学生は 5 人に 1 人で、中間結果(21 日まで)の13 人に 1 人から大幅に増えました。 このうち 2 人の学生が「やめることにした」と回答しています。 「アルバイト収入が減った、またはゼロになった」が 7 割近くに、「親の収入が減った、またはゼロになった」が 5 割を超えています。

「やめる人も出ている現状を知って驚いている。 手がうたれなければ、もっと実態は深刻になっていくだろうと予想していて、緊急の対策が求められている。(高等教育無償化プロジェクト FREE 齋藤皐稀事務局長)」

団体は、このあと与党や文科省にも要請書を提出したいとしています。 (TBS = 4-29-20)


「日本だけ遅れるわけには …」 手探りのオンライン授業

新型コロナウイルスの感染拡大により、全国各地の小中高校などで休校が長引いている。 子どもたちの学習をどう担保するのか。 活路の一つとして注目されるのが、欧米や中国で「日常」となりつつあるオンライン授業だ。 国内で模索する先進事例をみた。

「出席を取ります。 名前を呼ばれたら、チャットで『はい』と書いて送って。 その記録で出席とします。」

国が、7 都府県に緊急事態宣言を出した今月 7 日の朝 8 時すぎ。横浜市の自宅リビングで、井上夢音(ゆうと)さん (15) は制服を着て iPad の前に座った。 画面の中で話すのは新担任。 新しいクラスメートの顔も画面上に並ぶ。 通っている静岡聖光学院中学・高校(静岡県)ではこの日、「オンライン始業式」が行われた。

式典では学院長と校長の動画メッセージが流れ、学年全員同じ「部屋」に入って「オンライン学年集会」に。 各教科の担当教師が画面上であいさつする。 「そんなに見つめないで」という教師の言葉に笑いが起きる。 翌日からのオンライン授業に向け、準備するものが伝えられると「うわっ、それもう捨てたよ」と生徒。 数人ずつの「オンライン面談」や「オンラインランチ」もするという。

首都圏の生徒が約 2 割で寮もある同校では、2 年前から中 2 以上の全員に iPad を配布。 一斉休校となった 3 月初めは、朝と午後に「オンラインホームルーム」をし、授業動画や課題を配信し、オンラインで提出させた。 だが、学力の担保には通常授業のようなやりとりが不可欠と判断。 新学期からは、全クラスが双方向のオンライン会議形式の授業をすることにした。 毎日午前 8 時 30 分から 10 分間ホームルーム。 中学は 1 日 40 分 x 6 コマ、高校は 45 分 x 6、7 コマの授業を行う。

美術では自宅にある白い紙に桜など春の花を描いて撮影し、画面上で全員で共有、教師と評価しあった。 体育は着替えて画面の前でラジオ体操やスクワット。 英語はオンライン上でグループに分かれて議論。 音楽は作曲アプリを使う …。 iPad には、スカイプ、テレビ会議システムの Zoom (ズーム)、学習管理ツールのグーグル・クラスルーム、エドニティ、キーノート、ロイロノート、ページズ、パワーポイント、オフィスレンズ、AR メーカー … など、40 以上のアプリが入っており、授業ではそれらを活用する。 放課後は質問のある生徒への指導。 寮生には、夜に 2 時間、寮担当教師によるオンライン学習時間も設けた。

開始から 3 日後、「疲れる」という声があがった。 翌週からは休憩時間を延ばし、今週から教師の在宅での授業も本格的に始める。 星野明宏校長は「生徒のことを思えば、通常に近い授業をしないわけにはいかない。 規則正しい生活を送り、先生や仲間と双方向で学べる方が、生徒にとってもいい。 リアルな対話授業と同じとはいかないが、やってみて、意見を聞いて改善していくことに意味がある。」と話す。

「おーい、ホームルーム始まってるぞ。」 井上さんが寝坊した日、同級生からこんな連絡が携帯電話に入った。 わからない宿題は、放課後、友達何人かでスカイプをつないで解く。 「リアルじゃないから友達と一緒に勉強していないという感覚はあまりない」と井上さん。 母の涼子さん (45) は、スマホやタブレットでの学習に懐疑的だったが「今回は本当によかった。 生活のペースもできるし、楽しそうに勉強している姿を見れば安心できる。」と話す。

公立校でも取り組み始まる

こうしたオンライン授業の挑戦は、環境の整わない公立校でも始まっている。 連休明けまで休校の熊本市。 熊本地震を受けてタブレットを配布したが、まだ「3 人に 1 台」しかない。 市教委は 3 月、小中学生の全家庭に端末や通信環境の調査を実施し、約 3 分の 2 の環境が整っているとわかった。 整わない家庭には、学校のセルラー型タブレットを貸与し、4 月中旬から原則、小 3 以上にオンライン授業を始めている。

ただ、端末の種類も教師の技術もバラバラなので方法は柔軟にしている。 例えば、ある小学校教師は午前中に双方向のオンライン会議形式で授業をした後、各自で課題に取り組ませ、午後に再びオンラインで全員で議論する。 今週から教師の在宅勤務も広げられ、黒板代わりに教師の端末画面を共有。 20 日から、NHK や民放テレビ局と連携し、サブチャンネルで支援動画のテレビ放映も始めた。

授業でのスマホの活用を以前から認めている東京の都立学校。都教委の調査では、都立高生のスマホ利用率は 97% にのぼる。 私有端末を活用する「BYOD(Bring Your Own Device) の研究校でもある都立白おう高校・付属中学は、4 月から中高生全員に民間のオンライン学習アプリ「スタディサプリ」の ID を配布し、家庭学習を始めた。 各家庭の端末を活用しながら、環境整備が難しい家庭には SIM フリーのタブレットを貸与。 低所得家庭向けの給付型奨学金での端末購入も行う。

同校では教師の 9 割が在宅勤務に。 自宅から YouTube で授業動画を配信する教師もいれば、Zoom で双方向の授業をする教師も。 善本久子校長は「交流のあるフランスや米国の学校では、早くからオンライン授業が行われている。 日本の生徒だけ、システムが整わず学習が遅れる、というわけにはいかない。 今後も休校延期や、災害などで休校になることもあり得る。 動画配信や双方向授業が充実できるよう改革を続けたい。」と話す。

文部科学省は 2023 年度までとしていた「1 人 1 台端末」整備の「GIGA スクール構想」を前倒しして、今年度内に行うことをめざす。 通信環境のない家庭向けには、ルーターも配る予定だ。 コロナによる休校は、学校教育のあり方を変えるきっかけとなるのか。 (宮坂麻子、asahi = 4-22-20)