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教員免許の更新制廃止へ 人手不足や負担増の一因と不評 教員免許に 10 年の期限を設け、更新前に講習を受けないと失効する「教員免許更新制」について、萩生田光一文部科学相は 23 日、事実上廃止することを表明した。 教員の資質確保を目的に第 1 次安倍政権時代に法改正され 2009 年度に始まったが、教員不足や負担増の一因と指摘されていた。 文科省は来年の通常国会で、廃止に必要な法改正をし、早ければ 23 年度から新たな研修制度を始める。 文科相の諮問機関・中央教育審議会の委員会が 23 日、「新たな教師の学びの姿の実現に向け、更新制を発展的に解消することを文科省が検討することが適当」と結論づけたのを受け、萩生田氏が会見。 「一定の成果はあったが、多忙を極める先生にとって、講習の中身が十分伴っていなかったことが問題だった」と話した。 文科省は更新制の代わりに、都道府県教育委員会が行う教員研修やオンライン研修の拡充のほか、研修履歴の記録管理の義務化を検討している。 更新制は、無期限だった幼稚園や小中高校などの教員免許に 10 年の有効期限を設け、期限が切れる前の 2 年間で最新の知識や技能などを学ぶ講習を 30 時間以上受け、修了認定されなければ失効する仕組み。 中教審が提言し、第 1 次安倍政権の教育再生会議が「不適格教員に厳しく対応を」と厳格な修了認定を求め、07 年に教育職員免許法が改正されて09 年度に始まった。 しかし導入前から、教員の身分が不安定になり、人材不足や多忙化を招くと懸念されていた。 実際、免許を更新していないために、育休や産休をとる教員の代わりになる臨時的任用教員が不足するなど、なり手不足の一因となっている。 現職教員が更新を忘れる「うっかり失効」も相次ぎ、免許を管理する都道府県教委や学校長からも制度廃止を求める声が高まっていた。 萩生田氏は 3 月、中教審に更新制の「抜本的な見直し」を諮問し、早期に結論を出すよう要望していた。 (伊藤和行、asahi = 8-23-21) ◇ ◇ ◇ 教員免許更新制廃止へ 文科省、来年の法改正目指す 安倍政権導入 文部科学省は、教員免許に 10 年の有効期限を設け、更新の際に講習の受講を義務づける「教員免許更新制」を廃止する方針を固めた。 政府関係者への取材で判明した。 今夏にも廃止案を中央教育審議会に示し、来年の通常国会で廃止に必要な法改正を目指す。 文科省は免許更新講習に代わる教員の資質向上策として、オンラインなどを通じた研修機能の強化を検討している。 教員免許更新制は第 1 次安倍晋三政権による法改正で 2009 年度に導入されたが、大きな方針転換を迫られることになった。 免許更新制は、幼稚園や小中学校、高校などの教員免許に 10 年の期限を設け、更新の際は約 3 万円の講習費用を自己負担し、大学の教育学部などで計 30 時間以上の講習を受けることを義務づけている。 しかし、教員たちはこうした講習を学校の夏休み期間などを利用して受けにいかざるを得ず、大きな負担になっている。 文科省が今月 5 日に公表した調査でも、受講費用や講習時間について、8 割を超える教員が負担に感じていることが判明。 一方、講習内容が「役に立っている」と考える教員が 3 人に 1 人にとどまるなど、実効性が疑問視される結果が出ていた。 また、教壇に立っていない免許保有者が更新をせずに失効するケースが多いため、産休や育休の取得者が出た場合、代替教員の確保が難しくなっている問題も指摘されていた。代替教員が見つからなかった学校では、教頭が授業を実施してしのいでいるなどの実態が明らかになっている。 さらに、現職教員が更新講習を受けるのを忘れて教壇に立てなくなる「うっかり失効」も各地で相次いでいる。 神戸市では今年 4 月、30 - 50 代の小中学校の教員ら 7 人が更新を失念していたことが判明し、担任教員の差し替えを迫られるなど、対応に追われた。 萩生田光一文科相もこうした現状を問題視しており、昨年度以降、制度の廃止の必要性を訴えてきた。 今年 3 月には、中教審に制度の抜本的な見直しを議論するよう諮問している。 (大久保昂、mainichi = 7-10-21) オンライン授業可能 9 割 「1 人 1 台」端末配備の自治体 この春、国の「GIGA (ギガ)スクール構想」による「1 人 1 台」の情報端末を使った教育が、小中学校で本格化した。 朝日新聞が活用状況をアンケートしたところ、教員と児童生徒が別々の場所にいても、互いにやりとりが可能なオンライン授業ができる自治体が 9 割以上に上ることがわかった。 新型コロナウイルスによる昨春の一斉休校は地域によっては 3 カ月近く続き、「学びの空白」が課題になった。 これを受け、「1 人 1 台」は、2023 年度までの配備計画が 20 年度内に前倒しされた。 コロナや災害で登校できない事態になっても、学びを止めない態勢は一定程度、整った形だ。 調査は 6 月、道府県庁所在市と政令指定市、東京 23 区の教育委員会に行い、全 74 市区が回答した。 双方向のオンライン授業については、児童生徒のパソコンやタブレット端末にテレビ会議システムを入れるなど、71 自治体が「できるように設定している」と回答。 家でも端末を使えるよう持ち帰りを認めている自治体は 44 で約 6 割、「今後認める予定」は 23 あった。 通信環境が整っていない家庭があることや、活用スキルを身に付けるのが先決などとして、7 市は「現時点で認める予定はない」とした。 支援員不足、重い財政負担 … 課題も 調査では「1 人 1 台」をめぐる課題も浮かんだ。 端末の操作や活用のスキルは、学校や教員によって差がある。 国は 18 - 22 年度の5年間、「ICT (情報通信技術)支援員」を 4 校に 1 人配置する予算をつけているが、ある自治体の担当者は「1 人 1 台の達成前に作られた基準で不十分」と指摘した。 また、端末の配備時期や予算の都合などから、教員に児童生徒と同じ機種を配備していない自治体は 3 割を超えた。 端末の使い方を教える際に、子どもの端末を借りなければならず困っている教員もいる。 財政面の負担も大きい。 国は端末 1 台あたり 4 万 5 千円の購入費を自治体に補助しているが、アンケートでは「有料版のオンライン教材やアプリなどの予算がない」、「毎年子どもが数百人増えている。予算や機器の確保が課題」、「付属品や回線利用料などで年間数億円かかる。 国の政策なので、文科省には財政の補助をきちんと考えてもらいたい。」など、補助の拡大を求める声が目立った。 配備された端末が約 5 年後に更新時期を迎えるため、その費用負担について「国の方針を早く示してほしい」と求める自治体も複数あった。 「1 人 1 台」配備未了の自治体も このほか、学校内のネットワーク回線の整備の遅れや、研修や慣れない機器の扱いで教員の負担が増すという懸念、子どもの視力低下の心配などを訴える声もあった。 「1 人 1 台」の配備が進む一方で、納入の遅れなどで、6 月末までに全学年への配備が終わっていない自治体は 10 市区あった。 盛岡、長野、名古屋、佐賀の 4 市と足立区は 9 月までに完了予定。 青森、静岡、浜松、鹿児島の 4 市は年明けから来春にかけて完了見込みとした。 大津市は小 4 以上に先行配備し、「小 1 - 小 3 の配備は小 4 以上の状況を検証して考える」としている。 (阿部朋美、三島あずさ、編集委員・宮坂麻子、asahi = 8-1-21)
休校は感染を抑えたか 847 自治体を分析した政治学者 新型コロナウイルスの感染が広がるなか、政府は昨春、全国の小中高校に一斉休校を要請した。 子どもたちや保護者らに大きな負担をかけた決断に、感染を防ぐ効果が本当にあったのかどうか、データに基づいて検証している研究者がいる。 政治学者の福元健太郎・学習院大教授だ。 どんな手法で分析し、どんな結果が出たのか、話を聞いた。 (小宮山亮磨、asahi = 6-17-21) - - 研究の内容はどういったものですか。
人口、収入、首長年齢 … 43 要素を分析 - - ただ、感染者数には、休校したかどうか以外のさまざまな要素が影響しますよね。
- - 具体的にどんな要素が似ている自治体を比較したのですか。
- - 一筋縄ではいかない作業ですね。
- - 休校に効果がなかったのは、どうしてなんでしょうか。
メリットないならデメリット甘受の必要ない - - この研究結果を、国民はどう受け取ればいいんでしょう。
- - 政治からの反響はありましたか。
- - この論文は、まだ正式なものではありませんね。
- - 政治学者の福元さんが、感染症についての研究に着手したのはなぜですか。
- - 海外でもこうした研究はあるんですか。
☆ 論文は ウェブサイト で読める。
学校健診で「病院で受診を」 → 受診せず コロナで増える 学校であった健康診断で「医療機関での受診が必要」とされた児童や生徒が、実際は医療機関を受診していないケースが 2020 年度は増え、歯科では 6 割以上が受診していないことが、全国保険医団体連合会の調査でわかった。 連合会は 17 日の会見で「新型コロナウイルスの感染不安による受診控えの影響も出たとみられる」としている。 連合会は 19 年度から、学校健診後の子どもの治療状況を調査している。 2 回目の今回は 31 都道府県の小・中学校、高校、特別支援学校を対象に 4,923 校の回答をまとめた。 未受診率が最も高かったのは歯科で 62.3% (前回 57.0%)。 受診が必要とされた約 39 万 4 千人のうち約 24 万 5 千人が未受診だった。 診療科によって受診が必要とされた人数には差があるが、そのほかの未受診率は眼科が 55.4% (476%)、耳鼻科が 57.4% (50.8%)、内科が 53.6% (50.5%) と、いずれも前回から増えた。 未受診の理由として主に考えられるものを学校の養護教諭に聞き取ったところ、「保護者の理解不足」、「新型コロナ感染を不安に感じた受診控え」、「共働きで子どもを医療機関に連れて行く時間がない」が挙がったという。 このほか、新型コロナの影響で「給食後の歯磨きや歯科指導ができていない」といった事例もあり、未受診にとどまらず、子どもの歯に与える影響を心配する報告も寄せられた。 (滝沢卓、asahi = 6-17-21) 免許更新は「懲役 1 週間、罰金 3 万円」 先生も疑問の声 2009 年から続く教員免許更新制について、朝日新聞が教員の任命権を持つ 67 教育委員会にアンケートしたところ、53 教委 (79%) が「見直しが必要」と回答した。 学校の先生が、10 年ごとに 30 時間以上の講習を自費で受ける教員免許更新制。 なり手不足や多忙化が問題となるなか、当事者たちはどう受け止めているのか。 各地の教師から疑問が次々「意義がない」、「手間に対して利点が …」 「ただただ、アリバイ的に授業をやっているという印象。 有意義な時間にならなくて残念だった。」 北海道の 30 代の高校教諭は、数年前に免許を更新した。 近くに講習会場はなく、3 泊 4 日で遠くの大学での講習に臨んだ。費用は約 5 万円かかった。 講習には小中高の教員が参加し、大学の講師がオンラインで講義する様子をひたすら見た。 実践的な指導方法が学べるかと期待していたが、自然や文化など講師の専門分野の授業が繰り広げられただけ。 自身が担当する数学に関する講義も、授業法にまつわる内容もない。 職場に持ち帰って実践できる「収穫」はなかった。 学校では不祥事があるたびに校内研修が行われ、残業がさらに増える。 睡眠時間が削られると、仕事上のミスも増加。 そんな悪循環に陥っていると感じる。 そこに更新講習が加わると、さらに時間を取られてしまう。 「教員として新たな学びがあれば、時間やお金がかかっても文句はない。 実態は、実のない講習を聞かされるだけなのが残念。」 教委の 8 割、免許更新「見直しを」 教員確保のネックに 文部科学省によると、更新講習は主に大学が開設し、受講生の評価はおおむね高いという。 元教員の 30 代男性はプログラミングや教育哲学について学んだ。 「楽しくて勉強になった。 教員が研鑽するのはいいと思う。」 ただ、内容や形式は講師によってまちまちなのが現状だ。 福岡県の中学校教諭 (36) も、数年前に更新講習を受けた。 夏休みに 5 日間ほど研修センターに通い、朝から夕方まで話を聞き、筆記試験を受けた。 「(教委が行う)普段の研修内容と変わらない」と疑問を感じた。 職場は常に人手不足で、新卒でも学級担任になる。 産休などで代わりの教員が必要になっても、なり手が見つからず、管理職から「大学の同級生で誰かできる人はいない?」と聞かれるほどだ。 更新制の導入以降、免許に 10 年の期限が設けられ、現職ではない人の免許が切れていることが、影響していると感じる。 「少しでも人を増やしてほしいのに逆効果。 意義が全く感じられない。」 神奈川県の小学校教諭 (31) は、まだ更新時期を迎えていないが、受講費が自腹であることに疑問を感じている。 休みの日に「拘束」されることも合わせ、職場では冗談交じりに「懲役 1 週間、罰金 3 万円」と評しているという。 授業準備に時間をかけたい思いが強いが、学校では事務仕事に追われ、教材研究は残業を終えた帰宅後にやることも多い。 「今の制度は、手間に対して利点が少なすぎる。」 教育委員会からも改善求める声相次ぐ 教員免許更新制については、教育委員会からもさまざまな課題が指摘された。 朝日新聞が 47 都道府県と 20 政令指定市の教委にアンケートしたところ、▽ 教員経験者を臨時任用する際に、失効ですぐに任用できないことがある (53 教委)、▽ 講習が教員の負担になっている (44 教委)、▽ 「うっかり失効」を防ぐため、各教員の年限チェックが管理職の負担になっている (28 教委)の順に多かった(八つの選択肢のうち、三つまでの複数回答)。 京都市は、臨時任用の際に「応募者の免許状が(更新講習を受けていない)休眠状態であると発覚することが度々ある」と回答。 免許を取得しながら教職に就いたことがない人の中には、更新制そのものを知らない人もいるという。 東北地方のある県も「未更新で、すぐに任用できない場合が少なくない」という。 「教員採用選考の倍率低下や講師不足が深刻になるなか、退職した教員を採用する際のネックとなっている」と指摘する関東地方の県もあった。 教員や管理職の負担を訴える声も多く寄せられた。 西日本のある県は「離島やへき地が多く、移動などにかかる経費が大きな負担となっている」と回答。 計 30 時間の受講要件を満たすため、1 日 6 時間の講習を 5 日連続で受けた場合、「前泊も含めた最低 5 泊分の宿泊費や、往復の船や飛行機代も全て教員の自己負担となる」として、負担の軽減が必要だと指摘した。 中部地方のある県は「免許更新は自己責任と言いながらも、失効の場合は県教委などの対応が問われる。 結果的に(免許の有効期限の確認など)管理職による管理事務が多くなり、多忙化につながっている。」と指摘。 西日本のある県も「現職教員のうっかり失効や、未更新者を誤って任用することを防ぐため、人事担当者の負担も大きい」と回答した。 政令指定市からは、免許管理者は都道府県のため、更新状況を随時得られず、有効期限の把握が難しいとの指摘もあった。 大阪市では、採用時や、数年前の大阪府による状況調査の結果をもとに、各教員の免許情報を管理。 本人からの申し出を頼りに更新している。 期限が近づいた教員には勤務校を通じて更新状況を照会しているが、担当者は「本人の思い込みや失念などによって申請がなければ、最新の状況をつかめない。 膨大な教員数の免許状の有効期限管理に苦慮している」という。 「うっかり失効」への救済措置や、育児などによる離職者が復職する際は期限を延ばすなど、柔軟な対応を求める声もあった。 (阿部朋美、高浜行人、三島あずさ、asahi = 5-29-21)
PC 1 人 1 台で学力低下? 「最低レベル」日本を救う道 この春、全国のほとんどの小中学校に「1 人 1 台」分のデジタル端末が配られた。 実は、日本の子どもが授業でコンピューターを使う時間は、先進国の中で最低レベルだ。 一方で、学校での使用時間が長いほど、成績が下がるという報告もある。 「ICT (情報通信技術)教育」は、本当にいいことなのか。 「第四次産業革命と教育の未来」を出版した東大名誉教授の佐藤学さんに聞いた。 ☆ - - 我が家の小学生の子どもにも iPad が配られましたが、学校での使い方を聞くと、鉛筆で書けばいいことをキーボードで入力したり、知育ゲームのようなアプリだったり。 本当に必要なのかと思ってしまいます。
読解力も数学の点数も下がっていた - - どんな内容ですか。
- - なぜでしょう。
- - 一方で、2018 年の PISA テストで日本の子どもの読解力の順位が 8 位から 15 位に落ちた際は、「デジタルの情報を読む力が不足しているからだ」と指摘されました。
- - では、日本の子どもの読解力が下がっているのですか。
日本は今の順位をキープできるのか - - たまたま、18 年の成績が低かったということですか。
- - そもそも、教育の分野において科学的根拠を出すことはできるのでしょうか。
- - つまり、デジタル端末を学校現場に持ち込むだけでも、効果が出ると。
- - では、佐藤さんは ICT 教育に反対なのですか。
- - どういうことでしょう。
企業だけにソフト開発を任せてはダメ - - 後者の方がこれから求められる能力だと思いますが、なぜでしょう。
- - そもそも日本は、学校現場におけるコンピューター活用が先進国の中では最低レベルですよね。
- - そういう状況で、1 人 1 台を進めても効果的に使えるのか …。
- - 今の流れでICT教育が進んだ場合、子どもたちの学力はどうなるのかと心配です。
◇ ◇ ◇ 学校 1 人 1 台コンピューター「一見よさそう」の落とし穴 小学生の娘が、学校から配られた iPad を使うようになってから 2 カ月がたつ。 コンピューターを活用した教育を広げるため、文部科学省が進める「GIGA スクール構想」の一環だ。 3 月末までに、全国のほとんどの小中学校に 1 人 1 台分のパソコンやタブレット端末が配られた。 アップルのスティーブ・ジョブズは家で子どもが iPad を使うのを制限し、読書や会話の時間を大切にしていたという。 だから私も、娘が幼い頃からなるべくスマホや iPad を遠ざけてきた。 それなのに。 娘は喜々として「今日はヤフーで『三角形』を検索した」などと教えてくれる。 国は、この構想は学びを個別最適化し、創造性を育むと言う。 でも本当にそんなエビデンス(科学的根拠)があるのだろうか。 学びの質を研究してきた東大名誉教授の佐藤学さんに聞いてみた。 「実は、ICT (情報通信技術)教育が学力向上につながるというエビデンスはほとんどないのです。」 最も信頼できるのが、国際学習到達度調査 (PISA) の調査委員会が 2015 年にまとめた報告書だという。 先進国の集まりである OECD 加盟の 29 カ国のデータを分析すると、学校でコンピューターの使用が長時間になると、読解力も数学の成績も下がっていたという。 衝撃的な内容だ。 PISA の担当者はその理由を二つ挙げる。 一つは深い思考を育む先生と子どもの対話がコンピューターによって阻まれる可能性。 もう一つは従来の授業スタイルのままコンピューターを入れることの限界だ。 佐藤さんはこれに加え、今の ICT 教育の現場で使われるソフトの質を挙げる。 答えを入力すると即座に○×が表示され、正解なら次に進むといったものも多い。 「刺激と反応の学びは短期記憶にしかなりません。 そもそも GIGA スクール構想は 20 年前のコンピューター教育。 協同で探究する学びに改革する必要があります。」 世の中には、「一見、よさそう」と思って導入したものの、実は効果がなかったということが結構ある。 今から半世紀前の 1976 年 2 月。 米国の陸軍基地で 1 人の新兵が豚インフルエンザで亡くなった。 見つかったウイルスは、18 年のスペイン風邪と同じ H1N1 型だった。 パンデミック再来を恐れた当時のフォード大統領は、専門家の助言に従い、全国民 2 億人以上にワクチンを接種するという前代未聞の事業を決断した。 接種は 10 月から始まり、4 千万人以上がワクチンを打った。 だがギラン・バレー症候群など多数の副反応が報告され、わずか 10 週間で事業は中止された。 実際のところパンデミックは起きなかった。 残ったのは、公衆衛生行政への不信感だけだった。 検証報告書は、貧弱な証拠から組み立てられた理論に、専門家らの過信があったと指摘している。 エビデンスがない政策は税金の無駄となるだけでなく、ときに害を与える。 コンピューターに向かう時間が増えることが、子どもたちから深く思考する機会を奪うとしたら。 その代償は計り知れない。 私は子どもには、物事を多面的にとらえ、自分の意見をしっかり持った大人になってほしい。 1 人 1 台を進めるにしても、エビデンスのないまま広げ、貴重な学びの場が「実験台」になるのは勘弁だ。 コンピューターに一切触れるなと言っているわけではない。 実は PISA の報告書には、ヒントとなりそうなデータもある。 例外的に、オーストラリアではコンピューターを使うほど読解力が上がっていた。 日本の ICT 教育は、先進国の中では周回遅れだ。 だからこそ、効果をあげている他国の例に学べるというメリットがある。 ジョブズはこうも語っている。 「教育の問題はテクノロジーでは解決できない。 これは、政治の問題なのだ。」 (科学医療部次長岡崎明子、asahi = 5-25-21) |