「世界が米国に反旗」 関税戦争でトランプ孤立、ブラジルと EU が強硬姿勢を鮮明に

米国の「関税交渉」、依然として摩擦が続く … ブラジルは法廷へ、EU は再検討

ドナルド・トランプ米大統領は連日「関税交渉の成功」を自画自賛している一方で、世界各地で摩擦が生じている。 貿易交渉が難航し、世界最高水準の 50% 関税を課されたブラジルは強硬な対応に出た。 すでに貿易和解を文書化した EU (欧州連合)さえ、細部を巡って神経戦を繰り広げている。

27 日(現地時間)、『ストレーツ・タイムズ』など海外メディアの報道によると、ブラジルのフェルナンド・アダジ財務相は「(米国の)関税は痛手だが乗り越えられる」と述べ、「国が関税引き下げのためのロビー活動を行うことはできないので、必要であれば裁判所に訴える」と明言した。 これは、米国の法廷に立つという意味だ。 米国は先月、ブラジルに対する相互関税を 10% から 50% に引き上げ、大統領令で確定した。 ただし、一部の主要輸出品目は除外され、ブラジルの対米輸出品全体の 36% にのみ適用される。

トランプ大統領がブラジルに超高率の関税を課した背景のひとつとして、「ブラジルのトランプ」と呼ばれるジャイル・ボルソナロ前大統領のクーデター容疑裁判が挙げられる。 これに先立ち、ルーラ・ダ・シルバ大統領は米国との交渉を優先する一方で、うまくいかなければ経済互恵主義法に従うと述べ、報復関税の可能性を示唆していた。 一方、米国と EU はデジタル規制を巡って対立している。 ポリティコによれば、ステファン・セジュルネ EU 繁栄・産業戦略担当上級副委員長は同日、フランスで開催された会議の場で「(米国が)我々のデジタル規制に報復措置を講じるなら、EU は貿易和解を再検討する」と警告した。

これは、25 日にトランプ大統領がソーシャルメディアに投稿した内容に対する反応である。 彼は自身の SNS 「トゥルース・ソーシャル」において「差別的措置を撤廃しない限り、その国の対米輸出品に相当する追加関税を課し、我々が厳格に保護している技術と半導体の輸出制限を導入する」と発言していた。 EU のデジタルサービス法 (DSA) やデジタル市場法 (DMA) などのデジタル規制は、主として米国の巨大テクノロジー企業を対象としている。

さらに、米国の最大貿易相手国であるメキシコは、この日に対中貿易戦争に加わる動きを見せた。 ブルームバーグ通信は複数の情報筋を引用し、クラウディア・シェインバウム政権が作成した来年度予算案に、自動車・繊維・プラスチックなど中国製品に対する関税引き上げ計画が含まれていると報じた。 これは、低価格の輸出品で市場を席巻する中国からメキシコ企業を保護すると同時に、対中関税を引き上げるよう求めるトランプ政権の執拗な要求に応える狙いがあると解釈される。 (有馬侑之介、江南タイムズ = 9-1-25)


「トランプ関税」に再び違法判決 米控訴審 政権側は最高裁に上訴へ

米連邦控訴裁判所は 29 日、トランプ米大統領が各国からの輸入品に課した「相互関税」などについて、違法だとする判決を出した。 関税を「違法で無効」とした 5 月の一審判決を支持するものだ。 トランプ大統領は同日、判決を不服として、連邦最高裁に上訴する方針を明らかにした。 判決は一審に続いて原告の主張を認めており、世界を揺るがす「トランプ関税」の正当性に疑問を投げかけるものだ。 控訴裁は、原告の中小企業または政権側が最高裁に 10 月 14 日までに上訴し、最高裁に却下されるか最高裁判決が出るまでは、現状の関税の徴収を認めるとした。

今回の裁判で争点となったのは、トランプ氏が日本など各国・地域に課した相互関税や、合成麻薬の米国への流入を問題視して中国、カナダ、メキシコにかけた「国別関税」の適法性だ。 根拠となったのは「国際緊急経済権限法 (IEEPA)」だ。 同法は「異常かつ極めて深刻な脅威」に米国がさらされた場合、大統領が緊急事態を宣言すれば、「輸入の規制」などの権限を大統領に与える。 ただ、1977 年の法成立時から、同法を根拠に関税をかけた例はなかった。 判決はまず、関税は「連邦議会の核心的な権限」であり、大統領が関税を課すには、議会からその権限の委譲がなければならないと指摘した。

一方で、IEEPA の条文には肝心の「関税」という文言が一度も登場しない。 大統領が関税を課すうえでの「制限」についても言及がないとした。 控訴裁は、議会が IEEPA を制定した当時、「大統領に関税を無制限に課す権限を付与するために、確立された慣行から逸脱する意図があったとは考えにくい」として、相互関税や国別関税のような「広範な課税権限」をトランプ氏に与えたとはいえないと判断した。

判決を受けトランプ氏は自らの SNS で、「極めて党派的な控訴裁が誤って我々の関税を撤廃すべきだと述べた」、「この決定の放置は、米国を文字通り崩壊させる」などと批判した。 そのうえで「最高裁の助けを得て、我々は関税を国家の利益のために活用する」とつづり、最高裁に上訴する方針を明らかにした。 今後、最高裁ではどのような展開が予想されるのか。

最高裁は 9 人の判事から成るが、トランプ氏が第 1 次政権で保守派の判事を次々に指名したことで、現在は保守派 6 人、リベラル派 3 人という構成だ。 刑事責任を問われたトランプ氏に一部免責を認めるなど、同氏や現政権に有利な判断をした事例も少なくない。 それだけに、最高裁では一審や二審よりも、政権側に有利な判決が出る可能性はある。 仮に IEEPA による関税発動を全面的に認める判決が出れば、トランプ氏はもちろん、それ以降の大統領も、緊急事態を宣言して無制限に関税をかけられるようになる。

とはいえ、税を課す権限を政府でなく議会(立法府)に全面的に認めたことは、米国の建国の精神でもある。 課税を含め政府に多大な権限を持たせることへの忌避感は、伝統的な保守層にこそ根強い。 保守派判事の多い最高裁が、トランプ関税に一定の歯止めをかける判断を出す可能性はある。 ただ、最高裁も認めなかった場合でも、トランプ氏は関税をかけ続ける方法を模索するとみられている。一審や二審ほど厳格な判決が出ない可能性も十分にあり、その場合は判決の指摘を踏まえて関税のかけ方などを調整すれば、IEEPA を課税根拠として維持することもできうるという。

また、専門家の間では、IEEPA による関税発動が難しくなった場合を見越して、トランプ政権が別の法的根拠により関税をかける道を探るとの見方も出る。 典型例が米通商拡大法 232 条だ。 トランプ氏が第 1 次政権時から関税をかけるのに使っている法律で、現在でも鉄鋼・アルミニウムや自動車など個別品目への関税は、この法律が根拠だ。

同法は IEEPA とは違って、関税をかけるまでに事前の調査や意見公募など、一定のステップを踏むことを大統領に要求している。 似たような法律は他にもあり、煩雑な手続きをいとわなければ、「トランプ関税」の継続の道はなお残されている。 (ワシントン・榊原謙、asahi = 8-30-25)


歯止めなきトランプ氏、側近の警告無視 ホワイトハウスまで改造

ドナルド・トランプ米大統領がホワイトハウスにボールルーム(舞踏室)を建設すると言い出した際、側近はイーストウイング(東棟)の一部を取り壊す必要があり、日常業務や見学ツアーに支障が出ると警告した。 事情に詳しい関係者が明らかにした。 トランプ氏はそれでも建設すると述べ、契約はホワイトハウスが選んだ業者に与えられた。 トランプ大統領の 1 期目では、政権高官らは関税、移民、米連邦準備制度理事会 (FRB) の支配など、大小さまざまな問題でトランプ氏の衝動を抑制していた。

一方 2 期目では、トランプ氏を思いとどまらせようとする人々が周囲に少なくなっている。 ホワイトハウス当局者やトランプ氏の協力者、大統領職の観察者らはそう指摘する。 1 期目の政権で立法問題担当ディレクターを務めたマーク・ショート氏は「トランプ氏は、自分のやりたいことを止められるものはほとんどないと学んだのだと思う」と述べた。 トランプ氏は最近、郵便投票の廃止を改めて呼び掛け、地方政府に保釈保証金なしで被告を保釈する制度を放棄させる新たな方針を発表し、ボルティモアに軍を派遣する可能性をちらつかせ、ニューヨークとシカゴにも派遣したいと述べた。 これらはいずれも大統領権限の範囲を超えるものだ。

その方向性を示す最も強硬な措置の一つとして、トランプ氏は 25 日、FRB のリサ・クック理事の解任を試み、最高裁判所との対立を引き起こした。 最高裁は、中央銀行は直接的な政治的介入から保護されているとの見解を最近示していた。 新たな指示の一部は顧問らが後押ししているが、他はトランプ氏自身から出ているようだ。

トランプ氏は大統領選挙戦で就任「初日」のみ独裁者になると述べていたが、2 期目就任から7カ月が経過する中、権威主義的な発言をより頻繁に行うようになっている。 選挙戦でのこの発言は民主党から非難を浴び、民主党はトランプ氏を民主主義への脅威だとして選挙戦を展開したが、敗北を喫した。 トランプ氏は 25 日、首都ワシントンでの自身の厳格な治安政策を称賛し、この話題に戻った。 「多くの人が『独裁者が好きかもしれない』と言っている」と述べた後、「私は独裁者が好きではない。 私は独裁者ではない。」と付け加えた。

こうした動きは、米国が建国時に脱却した統治の形に再び近づくもので、連邦政府の権力を誇示し、他の大統領を抑制してきた規範を打ち破っている。 政権当局者らによると、トランプ氏は 1 期目とは異なり、各機関での解雇や採用を促しアイデアを提供するなど、政府の細部にまで関与している。

トランプ氏は 1 月の就任以来、トップレベルの大学や法律事務所、テクノロジー企業、メディア企業に脅しをかけ、広範な和解を引き出してきた。地元選出の公職者の反対を押し切ってロサンゼルスに海兵隊を派遣し、ワシントンの警察を掌握して数千人規模の軍隊と連邦職員を街頭に送り込んだ。気に入らない月次雇用統計を作成した労働省労働統計局(BLS)の局長を解任し、各省庁のキャリア職員の解任を命じ、さらには厳密には同氏が運営していない国立肖像画美術館などの機関の職員の解任も目指した。これらの措置に異を唱えた側近はほとんどおらず、むしろトランプ氏の行動は称賛されることが多かった。

トランプ氏が今年、揺れ動いた数少ない分野の一つが関税だ。 金融市場の反応を懸念し、数回にわたり立場を後退させている。 ライス大学の大統領史研究者、ダグラス・ブリンクリー氏は、トランプ氏は「米国のあらゆる機関を支配下に置くこと」に動機付けられているとの見方を示した。 「全員の首をつかんで『私が指揮を執っている』と言いたがっているようだ。」

トランプ氏は、6 月に陸軍創設 250 周年を記念して軍事パレードを開催し、大統領職を君主制的な方向に演出することも推し進めてきた。 1 期目の政権当局者らはこうしたパレードについて、第三世界的な見せ物のように見えると主張し阻止していた。 複数の政権当局者によると、ワシントンで行われたパレードが行われた後、トランプ氏は行進に失望したと側近らに語り、米海軍は今秋、艦船を使用したより大規模な祝賀行事を計画しようとしている。

トランプ氏は大統領職のあり方を作り変える中で、米国の権力の象徴も物理的に作り直している。 一部の顧問の反対を押し切り、大統領執務室を湾岸諸国の宮殿を思わせるような金色の装飾で覆い、世界の指導者や訪問者から称賛を受けていると語っている。 ホワイトハウスの前庭と裏庭には新たな旗ざお 2 本を設置した。

 米国の歴史には、大統領職を変革した人物の例がある。 アンドリュー・ジャクソンはエリート層に立ち向かい、ポピュリズムを最高位の公職に持ち込んだ。 エイブラハム・リンカーンは人身保護令状を停止し(後に議会が追認)、最終的に奴隷制を廃止した。 フランクリン・D・ルーズベルトは社会保障制度を構築した。 トランプ時代は、連邦権力を大統領執務室に集中させることが特徴となっている。 「私には何でもやりたいことをする権利がある」と同氏は 25 日に述べた。

キャロライン・レビット大統領報道官は、トランプ氏が「比類のない政治的直感と、米国民が望むものを見抜く並外れた能力」によって大統領職に就いたと述べた。 「トランプ大統領が意思決定者であり、素晴らしいチームを編成したことは誰もが知っている。」 一部の当局者は、1 期目からの急激な変化に衝撃を受けているようだ。 1 期目に BLS 局長を務めたウィリアム・ビーチ氏は、当時はトランプ氏の側近らと頻繁に話をし、敬意を持った関係を築いていたと述べた。 「政治的な干渉は一切なかった」とし、「非常に驚いている」と語った。

元当局者らによると、1 期目のジョン・ケリー大統領首席補佐官らは定期的にトランプ氏の行動を抑制しようとし、例えば移民を第三国に送還しようとする試みを阻止した。 国家経済会議 (NEC) 委員長を務めたゲーリー・コーン氏は 1 年にわたり関税措置に反対し、ホワイトハウスの法律顧問だったドナルド・マクガーン氏は司法省の調査への干渉に警告を発し、財務長官だったスティーブン・ムニューシン氏は FRB の独立性を損ねようとする試みに異議を唱えた。

2 期目のトランプ氏はより頻繁にホワイトハウスにいることを望んでおり、大統領執務室のドアを開けて大音量で音楽を流し、夜遅くまで仕事を続け、顧問らに『楽しんでいる』と話している。 スタッフとの対立や捜査に直面していた 1 期目について、時にどれほど惨めだったかを側近らに語って聞かせている。

同氏は 1 期目には文化施設ケネディ・センターや FRB、国家安全保障会議 (NSC)、国防総省、司法省についてよく不満を漏らしていたものの、実際にはこれらの組織を変えるための行動はほとんど取らず、自身の権限に制限があることを受け入れているようだったと、元政権当局者らは語る。 リベラルと見なされた大学や法律事務所に対抗することにもほとんど関心を示さなかったという。 現在の大統領首席補佐官であるスージー・ワイルズ氏は、トランプ氏の個人携帯電話の使用を制限したり、意思決定を思いとどまらせたりすることはしていない。

ワイルズ氏は自身の仕事は大統領ではなくスタッフを管理することだと周囲に述べている。 トランプ氏の閣僚らも、今回は大統領職に関する同氏のビジョンに賛同している。 「われわれは革命の最中にいると確信している」と、ブルック・ロリンズ農務長官は 26 日の閣僚会議で述べ、トランプ氏の指揮下における米国の変化を 1776 年の建国と南北戦争になぞらえた。 「これはドナルド・トランプ氏が先導する第 3 の革命だ。」 (Josh Dawsey、The Wall Street Journal = 8-29-25)


9 月、米 0.5% 利下げ観測に識者「ばかばかしい」 FOMC 分裂含み

米連邦準備制度理事会 (FRB) のパウエル議長が「9 月利下げ」の可能性を示唆した。 ただ、検討する米連邦公開市場委員会 (FOMC) は、是非をめぐって分裂含みの様相だ。 雇用情勢の悪化が続けば大規模な利下げが検討されるとの観測が出る一方、「トランプ関税」が物価高(インフレ)をあおる懸念から、利下げには慎重論も根強い。 パウエル氏は 22 日、毎年夏に米西部ワイオミング州で開かれる「ジャクソンホール会議」の講演で、直近の雇用統計の減速を踏まえて「政策スタンスの調整が必要になるかもしれない」と語った。

金融政策を議論する次回の FOMC は 9 月 16、17 日の開催。 パウエル氏ら FRB の正副議長を含む理事 7 人と地区連銀総裁 5 人の計 12 人の投票で決める。 利下げすれば昨年 12 月以来 6 会合ぶりとなる。 今後注目されるのは FOMC までに発表される雇用統計や物価指標だ。 米金融大手JPモルガン・アセット・マネジメントのデービッド・ケリー氏は米メディアに、雇用情勢の悪化が続けば、通常の 2 倍の 0.5% 幅の大規模利下げもあり得るとの見方を示した。 ベッセント財務長官も、9 月の 0.5% 幅利下げの必要性に言及している。

一方、FOMC で投票権を持つカンザスシティー連銀のシュミッド総裁は 21 日、米メディアに「インフレリスクは雇用リスクよりも若干高い」との考えを示した。 9 月利下げに懐疑的な姿勢とみられる。 年内の利下げには前向きでも、「関税インフレ」の動向を見極めるため、当面は様子見を続けるべきだと考える FOMC メンバーは少なくない。 ブルームバーグ通信は 24 日、29 日公表の物価指標が 5 カ月ぶりの高い伸びを示し、早期利下げ論に冷や水を浴びせる可能性を伝えた。 パウエル氏は講演で利下げの可能性を示唆する一方、政策決定は「データ次第」との従来の姿勢も強調している。

米ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は「関税の影響による物価上昇は始まっており、今後 6 - 8 カ月間でさらに上昇するだろう」と述べ、拙速な利下げには警鐘を鳴らす。 0.5% 幅の利下げ案については「ばかばかしい」と厳しく批判した。 (ワシントン・榊原謙、asahi = 8-25-25)


米国の牛肉好きに量減少と値上げの二重苦、26 年は生産減と関税が直撃

・ 米国の 26 年牛肉供給総量、19 年以来の低水準の 311 億ポンドへ - 農務省
・ トランプ政権はブラジル産牛肉に高関税、輸入量は 6.1% 減へ

米国の牛肉好きの人は来年、皿に盛られる量の減少と値上げのダブルパンチに直面する可能性がある。 米国の牛肉生産量は 10 年ぶりの低水準となり、関税で輸入が抑制される見通しが米政府予測で示されたからだ。 米農務省 (USDA) の月次報告書によれば、米国の 2026 年の牛肉供給総量は前年比 2.5% 減の 311 億ポンドと、19 年以来の低水準になる見通し。 供給減少は、高騰する牛肉価格をさらに押し上げる恐れがあり、そうした打撃を輸入業者が緩和する余地は関税で制限されかねない。

米国の牛肉供給は、飼育頭数の減少で制約を受けている。 牧場主は長引く干ばつと高コストの影響で長年にわたり牛を減らしており、国内の飼育頭数は数十年ぶりの低水準に落ち込んでいる。 食肉処理に適した体重の牛の記録的高値を受け、牧場主が 26 年に飼育頭数の再構築に動き出すとの見方が広がっているが、短期的には、繁殖用に雌牛をより多く確保する必要があるため、供給は一段と引き締まる。

一方、トランプ政権はブラジル産牛肉に高関税を課しており、牛肉輸出で世界最大の同国からの供給コストが上昇している。 USDA によれば、米国の牛肉生産量は来年、1.8% 減少し 255 億ポンドと、16 年以来の低水準になる見込み。 輸入量は 6.1% 減の 49 億 5,000 万ポンドに落ち込む見通し。 いずれの予測も前月から下方修正された。 (Gerson Freitas Jr、Bloomberg = 8-13-25)


トランプ氏就任半年、貿易赤字は 27% 増 関税で「駆け込み輸入」増

米商務省が 5 日に発表した 2025 年 1 - 6 月の貿易統計は、モノの貿易収支の赤字額(季節調整値)が、前年同期比 27.4% 増の 7,355 億ドル(約 109 兆円)となった。 トランプ大統領は米国の貿易赤字の削減をめざしているが、関税の本格発動を見込んだ「駆け込み輸入」を招き、結果的に就任して半年間の貿易赤字は大幅に増えた。 1 - 6 月のモノの輸入は1.8兆ドル(約266兆円)で、前年同期を13.3%上回った。1 - 3 月では前年同期を 25% 以上上回り、全体を押し上げた。

トランプ氏は 1 月に大統領に復帰して以降、貿易赤字解消のために高関税をかける意向をくり返し表明。 「相互関税」や自動車関税が発動する 4 月を前に、関税がかかっていない製品を大量に輸入する動きが広がった。 一方、その反動から、4 - 6 月の輸入は減少傾向となった。 最大の貿易赤字国の中国に対しては、6 月のモノの貿易赤字は 95 億ドルにとどまり、2004 年 2 月以来の低水準となった。 同月の中国からの輸入が、前年同月と比べて 45% も減ったことが大きい。 中国にかけている 30% の関税が影響している可能性がある。

米国の 6 月のモノとサービスをあわせた貿易収支は、前月比 16.0% 減の 602 億ドル(約 8.9 兆円)。前月を下回るのは 2 カ月ぶりとなった。 (ワシントン・榊原謙、asahi = 8-6-25)


「統計局長解任」でアメリカ経済に暗い影、トランプは統計も自己都合で操作する - ネイト・シルバー

<政権に不利な就業者数の下方修正は「不正操作」だと憤慨、独立性が重要な統計局長の首をすげ替えることに>

世論調査分析サイト「ファイブサーティエイト」創設者で統計学者のネイト・シルバーは、2025 年 8 月 3 日に公開したニュースレターで、最新の雇用統計は「操作されている」としたドナルド・トランプ大統領を批判した。 シルバーは、トランプが「否認主義」に陥っており、それがアメリカ経済減速の解決には何の助けにもならないと指摘する。

また労働統計局 (BLS) が予想を下回った 7 月の雇用統計を発表した直後、トランプがエリカ・マクエンターファー BLS 局長を解任したことについて、「局長を解任しても関税の影響は防げない。 それどころか、アメリカの経済的リードを損ない、企業、労働者、投資家にとっての不確実性を大きくするだけだ」とシルバーは述べた。 シルバーは、アメリカの経済データは、「極めて複雑なアメリカの現代経済を測定するという困難な作業」を達成するため精緻に記録・改訂されており、信頼性は維持されていると強調した。

「この解任劇がトランプ関連の "騒動リスト" のどこに位置づけられるかは正直よく分からない」としながらも、「仮に議会が正常に動いて、マクエンターファーの後任に有能な人物が就いたとしても、BLS や他の独立行政機関の自律性を脅かす冷却効果は避けられない」と懸念を示している。 マクエンターファー局長の解任は、全米に衝撃を与えている。 経済学者や民主党議員からは批判の声が相次ぎ、「問題に対処せず、問題を報告した人を罰している」との指摘も出ている。 BLS は 7 月の雇用統計発表と同時に 5 月と 6 月の雇用統計を大幅に修正し、合計で 25 万 8,000 人の雇用が「消えた」ばかりだった。

雇用統計によると 7 月は 7 万 3,000 人の雇用者増で、事前予想の 10 万件を大きく下回った。 失業率も 4.2% に上昇している。 独立性の高い統計局長の更迭が、政権に不利な経済データの発表直後に行われたことは、独立機関の政治化やアメリカ経済統計の信頼性に対する疑念を呼び起こしている。 専門家や議員たちは、BLS の独立性こそが経済政策の基盤だと訴えている。 シルバーは自身のニュースレターで「7 月の雇用統計は経済減速の兆しを示しているが、トランプはその現実を否定している」と分析する。

BLS の雇用統計は、当月の発表後、翌月とその翌月の 2 回にわたって改訂され、さらに毎年 1 月には年間の見直しも行われる。 7 月の 7 万 3,000 件という数字も 8 月と 9 月に改訂される。 シルバーによれば、雇用統計の修正値はしばしば、初期値に対する「勝利」か「敗北」かという文脈で初期値より大きな注目を集める傾向があるという。 「これは世論調査にも通じる現象だ。 不可避の誤差や手法の限界を無視した "話題先行型" の騒ぎが繰り返される。」 トランプ政権 2 期目に入って以降、雇用統計に対する修正はほとんどが下方修正だった。 これは実は「よくあること」で、重要なのは毎月の推移を見ることだという。

本当にトランプの責任を問いたいなら、下方修正で騒ぐよりも雇用の数値が低いことを最初からもっと批判すべきだとシルバーは言う。 月と 6 月の下方修正も、「騒ぐほどの規模ではない。」 ちなみに過去最大の下方修正は、2020 年 3 月のパンデミック初期に発生した。 当初 70 万人のマイナス雇用と報じられた数字は、最終的には 140 万件超の減少に修正されている。 (ピーター・アトキン、NewsWeek = 8-4-25)


報道は「捏造だ」、トランプ氏主張 WSJ 紙や「メディア王」を提訴

トランプ米大統領は 18 日、未成年の少女を性的人身売買したとして起訴された資産家と自身との交友関係を報じた記事が名誉毀損にあたるとして、米紙ウォールストリート・ジャーナル (WSJ) の発行元や担当記者らに 100 億ドル(約 1.5 兆円)超の損害賠償などを求めてフロリダ州の連邦地裁に提訴した。 訴訟は発行元の会社などに加え、WSJ を保有し、「メディア王」として知られるルパート・マードック氏らも相手取っている。 トランプ氏は「マードック氏を証言台に立たせるのを楽しみにしている」と SNS に投稿した。

トランプ氏が問題視しているのは、WSJ が 17 日に掲載した記事。 2003 年に資産家ジェフリー・エプスタイン氏の 50 歳を祝うために贈られたアルバムに、多くの著名人に交じってトランプ氏も「下品な」メッセージを寄せていたという内容だ。 裸の女性の絵を描き、その中に文章と署名が記されていたと報じている。

事件めぐり、トランプ氏窮地に

トランプ氏は訴状のなかで、WSJ の記事は「捏造されたものだ」と指摘した。 エプスタイン氏へのメッセージを書いたこと自体を否定し、悪意に満ちた記事だと批判。 「フェイクニュースだ」と訴えている。 エプスタイン氏は数十人の未成年の少女を性的人身売買したとして起訴されたが、19 年に拘置所内で自殺した人物だ。 政治家や富裕層とも親交が深く、いまなお事件の全容をめぐっては議論が続いている。 トランプ氏も、エプスタイン氏と交友があったことは以前から知られている。 ただし性加害事件が発覚した 2000 年代半ばからは、距離を置いていたとされる。

今回の訴訟の背景には、トランプ氏がエプスタイン事件をめぐって政治的な窮地に追い込まれている状況がある。 トランプ氏や政府高官らはこれまで、事件の捜査記録である「エプスタイン・ファイル」を公開すると訴えてきた。 ところが 7 月、トランプ政権は一転して記録を公開しないことを決定。 これが支持基盤から大きな批判を招く異例の事態となっている。

記録非公開、広まる陰謀論

事件をめぐっては、エプスタイン氏の「顧客リスト」が実は存在しており、政財界の大物らの名前が載っているのではないかという陰謀論が広まっている。 司法省は「顧客リストは存在しなかった」と明言するが、不都合な真実を隠すために非公開にしているとの疑念が消えず、記録の公開を求める声が支持者からも強まっている。 苦境に立たされていたトランプ氏は当初、自らの支持者らに「もう支持はいらない」と怒りをぶつけていたが、その後は民主党やメディアに矛先を向けている。 今回の訴訟も、WSJ を「フェイクだ」と訴えることで、批判をそらす狙いもあるとみられる。 (ワシントン・高野遼、asahi = 7-19-25)


トランプ大統領、EU とメキシコに関税 30% 表明 8 月 1 日から

トランプ米大統領は 12 日、欧州連合 (EU) とメキシコに 30% の関税をかけると表明した。 8 月 1 日に発動させる。 米国にとって EU は 2 番目、メキシコは 3 番目に大きい貿易赤字の相手で、これまでよりも 5 - 10% 幅高い関税を課す。 欧州委員会のフォンデアライエン委員長とメキシコのシェインバウム大統領に税率を通告する書簡を、自らの SNS 上に公開した。 米国に対して報復関税を課した場合には、その分を 30% に上乗せするとも脅した。

トランプ氏は 4 月、EU への「相互関税」として 20% を課すと公表(現在は 10% のみ発動中)。 今回の措置で税率は 1.5 倍に跳ね上がる。 書簡でトランプ氏は、「30%という数値は、EU との貿易赤字の格差を是正する上では、はるかに不十分なものであることを理解いただきたい」と述べ、抑制的な対応であることを強調した。 EU は米国に自動車やワイン、医薬品などを大量に輸出しており、高関税を回避すべく交渉を重ねてきたが、トランプ氏が一方的に高税率を通告した形だ。 EU の反発は必至で、発動を猶予してきた対米報復関税を実行に移す可能性がある。

メキシコに対しては、同国から米国への合成麻薬フェンタニルの流入が続いていることを問題視した。 これまで 25% の関税を課してきたが、5% 幅引き上げる。 ただ、同じ理由で 35% の関税を課すとされたカナダよりは低い税率に設定された。 メキシコ側が軍を動員して国境警備を強めていることなどを一定評価したとみられる。 ただ、米国への麻薬の流入は圧倒的にカナダよりもメキシコの方が多く、カナダからみれば不公平な決定に映りそうだ。 書簡では、EU に対しては関税や非関税措置の削減、メキシコに対しては麻薬対策の進展がみられれば、通告した関税率を削減する可能性にも言及した。 (榊原謙、asahi = 7-12-25)


対ブラジル関税、ツケは米消費者に コーヒーやオレンジジュース高騰

[ロンドン/ニューヨーク] 米国でコーヒーやオレンジジュースをはじめとするさまざまな食品が高騰し、消費者を直撃する - -。 トランプ米大統領が、ブラジルからの全輸入品に 8 月 1 日から 50% の関税を課すと表明したことを受け、取引業者や専門家からは 10 日、こうした見方が聞かれた。 ブラジルのコーヒー輸出団体によると、世界で最も多くコーヒーが消費されている米国の消費量の約 3 分の 1 はブラジル産で、昨年の米国向け出荷量は 814 万袋(1 袋 = 60 キロ)と、前年比 30% 余り増加した。

ただトランプ氏の予告通り 8 月 1 日に 50% の関税が発動されれば、ブラジルから米国へのコーヒー輸出はストップすると予想されている。 米西部カリフォルニア州でコーヒー取引の仲介やコンサルティングに従事するマイケル・ナゲント氏は「この規模の関税では取引をやめるしかなくなる。 ブラジルの輸出業者も、米国の焙煎事業者も(負担を)吸収できないだろう。 重要な点は、ブラジルはコーヒーをどこか別の国・地域に売り、米国はコロンビアやホンジュラス、ペルー、ベトナムなどから買うことになるものの、ブラジルと同じ量ないし同じ価格では買えないということだ。」と述べた。

世界的な大手商社のブラジル担当責任者は「50% の関税でブラジル産コーヒーを米国に販売することに経済合理性があるとは思えない。 これから事態がどうなるかだが、それは非常に複雑な状況だろう。」と語った。 米国の焙煎事業者に直接販売しているブラジルの生産者パウロ・アルメリン氏は、関税が発動されれば、顧客は購入代金を支払えなくなると話す。 アルメリン氏によると、今年の出荷交渉も昨年のコーヒー価格が 70% 上昇したことで既に難しくなっていた。 「(米国以外の)別の市場、例えばドイツなどに目を向けなければならないだろう」という。

一方、米国で販売されるオレンジジュースの半分強もブラジル産だ。 米国国内では国内消費量のごく一部しか生産していないし、オレンジジュースは国内生産の急激な減少で輸入依存度が高まっている。 米農務省は今年公表した報告書で、2024/25 年度の国内オレンジ収穫量は 8 年ぶりの低水準に落ち込み、オレンジジュース生産量は過去最低に沈むと予想した。

ブラジルから米国へはこのほかにも砂糖、木製品、石油なども輸出されている。 ルラ大統領は 10 日、米国に対する対抗措置を示唆。 「世界貿易機関 (WTO) に提訴することも、国際調査を提案することも、説明を求めることもできる」とし、「米国がブラジルに 50% の関税を課す場合、ブラジルも米国に対し 50% の関税を課す」と地元メディアに語った。 (Maytaal Angel、Marcelo Teixeira、Reuters = 7-11-25)