変異ウイルスにも対応 新型コロナ薬の候補開発 東京科学大など

新型コロナウイルスの感染を防ぐ薬の候補を開発したと、東京科学大と大阪医科薬科大の研究チームが発表した。 簡単に合成でき、変異ウイルスにも効果があることや安全性を動物で確認した。 今後、臨床試験をしていきたいという。 チームは新型コロナウイルスが感染する際に細胞につく「スパイク」と呼ばれるたんぱく質に注目。 ウイルスの変異によってスパイクの構造がどのようになるのか詳細に解析。 感染にとくに重要な部分の構造は、変わらないことを確認し、この部分に強くくっついて、感染をじゃまする薬を設計した。

薬は、簡単に合成できるペプチドというアミノ酸の連なりで設計した。 デルタ株やオミクロン株などさまざまな変異ウイルスを感染させた細胞で、感染 18 時間後にこのペプチドを与えた。 ペプチドがないとほとんどの細胞は死滅するが、ペプチドを与えると死滅する細胞の量が激減した。 デルタ株に感染させたハムスターに、このペプチドを与えると、肺のウイルスがほとんど見られなくなる効果を確認した。

「このペプチドはスパイク以外には結合しないので、副作用は考えにくい。 ペプチドは簡単に合成でき、安く大量に供給できる。 室温でも安定で、品質管理も簡単なので、多くの国や地域に供給できる。 薬として開発を進めていきたい」と東京科学大の藤吉好則特別栄誉教授は話している。 論文は米科学アカデミー紀要に発表する。 (瀬川茂子、asahi = 1-22-25)


コロナ「5 類」後の死者 4 万人 国内初確認から 5 年、13 万人が死亡

新型コロナウイルスが原因で亡くなった人が、2024 年 8 月までに 13 万人を超えたことが厚生労働省の人口動態統計でわかった。 新型コロナが「5 類感染症」になり、感染対策が緩和された 23 年 5 月以降に亡くなった人が約 4 万 4 千人で、3 分の 1 を占めた。 新型コロナは 5 年前の 20 年 1 月 15 日に国内で初めて感染者が確認された。 24 年 8 月分まで公表されている人口動態統計によると、新型コロナが原因で亡くなった約 13 万 2 千人のうち、20 歳未満は 141 人、20 - 30 代は 295 人、40 - 50 代は 3,006 人。80 歳以上は 10 万 720 人で、76% を占めた。

21 年春に流行したアルファ株や同年夏のデルタ株は、若い人でも重症例が目立ち、21 年は 65 歳未満の死者が全体の 11% を占めた。 一方、ワクチンが普及し、オミクロン株が主流になった 22 年以降は、65 歳未満の死者は全体の 3% ほどになっている。 新型コロナ感染後に亡くなる場所も変化している。 20 年には約 96% が病院だったが、22 年以降は 4 人に 1 人が介護施設や老人ホーム、自宅などで亡くなっている。 新型コロナは 23 年 5 月、感染症法上の扱いが季節性インフルエンザと同じ「5 類感染症」に変わった。 感染者の全数把握がされなくなり、約 5 千の定点医療機関で診た患者数が報告されるようになった。

5 類になって以降の流行のピークをみると、定点医療機関あたりの患者数は減少傾向が続く。 だが、入院者数は 3 千 - 4 千人で減っていない。 国立国際医療研究センター病院の大曲貴夫・国際感染症センター長は「入院患者は多いため、診断されていない無症状あるいは軽症の新型コロナの患者も相当数いると考えられる。 流行の全体像が見えにくくなっているが、規模はかなり大きいのではないか」と話す。 医療機関側も感染対策に慣れたことなどから、全体的に医療が逼迫する事態にはなっていない。 ただ、患者一人ひとりでみると、大きな影響が出ることがある。

大曲さんは「特に高齢の方はコロナにかかると消耗が激しく、弱ってしまう。 これまでのくらしをガラッと変えてしまう病気だ。」と指摘する。 高齢者 2 人で生活していて、コロナにかかって弱ってしまい、2 人の生活が難しくなって介護施設を探す人も少なくない。 福岡資麿厚労相は 1 月 14 日の会見で「引き続き国民の健康に大きな影響を与える感染症であることには変わらない。 手指衛生やせきエチケットといった基本的な感染防止対策の実施に努めていただきたい。」と訴えた。 (後藤一也、asahi = 1-16-25)



ウイルス感染症の治療用製剤の開発に世界で初めて成功
 すべての感染症に対応する製剤開発に大きな一歩 京都大医生物学研

ウイルスを殺傷する能力がある「キラー T 細胞」を使った新型コロナウイルス感染症の治療用製剤を試験管レベルで作成することに世界で初めて成功したと、京都大学が発表しました。 今後、ヒトに使える製剤にするための臨床試験を行いますが、新型コロナに限らず、新しく発生する、あらゆる "未知の感染症" に対応できる製剤を目指した開発を進めるということです。

京都大学医生物学研究所の河本宏所長らは、新型コロナウイルスへの攻撃力を高めたキラー T 細胞を使った治療用製剤の開発を試験管レベルですが、世界で初めて成功したと発表しました。 研究では、今回作製したキラー T 細胞によって、12 時間ほどすると、ウイルスに感染した細胞が次々に死滅したということです。 このキラー T 細胞の作製方法はまず、新型コロナワクチンを接種して、免疫ができた人の血液からキラー T 細胞を分離し、遺伝子配列を解読。 その遺伝子情報を、あらゆる細胞に分化することが可能な ES 細胞に組み入れて、新型コロナウイルスへの攻撃に特化したキラー T 細胞を作ります。

他人の遺伝子を用いたキラー T 細胞が、患者の体でいわゆる "拒絶反応" を起こさないためには、"ES 細胞から高品質なキラー T 細胞を作ること" が求められますが、河本所長は「質の良いキラー T 細胞を作る技術を持っているのは、今のところ世界で我々だけだ」と独自の技術によって、今回の製剤化が実現したと強調しました。

さらに、この製剤にはいくつものメリットがあります。 ▼ ES 細胞を使うことで、大量生産が可能なため、コストを低く抑えることができます。 また、▼ 必要な時に、必要な細胞数を、患者に提供できるだけでなく、▼ 凍結保存できるので、いざというときのための備蓄も可能です。 河本所長らは、まずは難治性の新型コロナの患者向けに、藤田医科大学で 3 年後を目指して、臨床試験を開始したいとしていますが、同時に、SARS や MERS などに加え、全く新しい感染症にも対応する製剤の開発も進めることにしています。

今回の製剤化の成功について河本所長は「新しい未知の感染症が出現したとしても、アミノ酸配列など、ウイルスの正体はすぐにわかる。 それさえわかれば、ウイルスを攻撃する T 細胞がすぐに作れて、新興再興感染症で患者が死ぬこともなくすことができる。 そういうことに繋げられる技術だと思う。」と話していました。 (TBS = 7-30-24)


新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中 今夏は「爆発と強さ」に要警戒

新型コロナウイルスの新たな変異株「FLiRT(フラート)」がアメリカで拡大中。 既存の変異株より感染力が強い可能性が指摘されている。

新型コロナウイルスの新たな変異株がアメリカで拡大中だ。 今夏、感染の波が来る可能性を専門家は警告している。 新たな変異株の通称は FLiRT (フラート)。 米疾病対策センター (CDC) によれば、アメリカでは 5 月、フラートの 1 種の KP.2 が新型コロナ感染症例のうち最多を占めた。 6 月に入ってからは新手の KP.3 が流行し、その割合は 25% に上っている。 どちらも既存の変異株より感染力が強い可能性がある。

「現在のワクチンが対応するのは(オミクロン株の亜系統) XBB1.5 だが、ある程度の交差免疫が働くはずだ」と、南オーストラリア大学のエイドリアン・エスターマン教授(生物統計学)は言う。 「(オミクロン株の亜系統)JN.1、またはフラートの 1 種に対応したワクチンは 9 月頃に入手可能になる予定で、より大きな予防効果が期待できる。」 現時点では、フラートは一般的に重症化しないと指摘されているが、油断は禁物だ。 (NewsWeek = 6-17-24)


感染症危機で柔軟対策 コロナ禍の教訓で政府が行動計画の抜本改定案

政府は、新たな感染症の大流行に対応するための「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の改定案をまとめ、意見募集を始めた。 コロナ禍の経験をふまえ、病原体の特徴や、薬やワクチンの普及に応じ、緊急事態宣言などの対策を柔軟に切り替えていく。 計画には、全国的に急速にまん延し、感染すると重篤になる恐れがある感染症への対策が記されている。 該当する感染症が生じた際、政府は新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づき、計画の対策を選び取って基本的対処方針を決める。

しかし、2013 年に作られた今の計画では、個人防護具の備蓄や医療機関の役割について記載されていたものの、十分に具体化されず、結果として医療の逼迫を招いた。 今回は初の抜本改定で、5 月 7 日まで改定案の意見募集を実施し、6 月に閣議決定する方針だ。 改定案では、感染対策にメリハリをつけた。 国内での発生初期段階では、人同士の接触機会を減らすなど、封じ込めを念頭に置いた対策をとる。 政府や都道府県は、必要に応じて「まん延防止等重点措置」や「緊急事態宣言」を検討し、営業時間の変更や多くの人が利用する施設の使用制限を要請することなどが選択肢になる。

病原体の特徴がわかってくれば、対応も変える。 感染性が高くても重症化率が低ければ、緊急事態宣言などによらない強度の低い対策を選び、幅広い医療機関で患者を診るために医療機関の役割分担を見直す。 ワクチンや薬で感染拡大に伴うリスクが下がれば、基本的な感染対策のみへの速やかな移行を検討する。 改定案では、新たにリスクコミュニケーションの対応が記載された。 信頼性の高い情報と低い情報が入りまじって拡散され、社会が混乱する「インフォデミック」に言及し、感染症に関する偽情報や誤情報の拡散状況をモニタリングし、正確な情報を提供する方策も盛り込んだ。

コロナ禍では、PCR 検査や感染防護具の不足、薬やワクチン開発の遅れといった様々な準備不足が露呈した。 また、人口当たりで世界トップクラスの病床数があるものの、コロナの診療体制の確立が遅れ、当初から医療が逼迫した。 こうした反省から、政府は 23 年 9 月に感染症対応の司令塔となる内閣感染症危機管理統括庁を設置。 25 年 4 月には、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターが合併し、国立健康危機管理研究機構 (JIHS) が発足する。

改定案ではこうした制度変更を踏まえたうえで、水際対策や検査、治療薬・治療法、物資といった対策項目を新たに設け、平時からの準備にも力点を置いた。 現行の計画よりは各機関の役割が明確化されたが、政府は今後、ガイドラインを作成して、行動計画の内容をより具体的な対策として示す。 (足立菜摘、後藤一也、asahi = 5-1-24)


病床、発熱外来の確保は国目標の 6 割 新たな感染症に備えた協定締結

新たな感染症が流行した時の病床確保や発熱外来設置などに向け、都道府県と医療機関が結ぶ協定の締結見込みが国の目標の 6 割程度にとどまっている。 厚生労働省の専門家部会で 9 日、調査結果が報告された。 新型コロナでの教訓をふまえ 4 月に施行される改正感染症法では、都道府県は次のパンデミックに備え、感染者が入院する病床の確保や、感染が疑われる人を診察する発熱外来の設置、自宅や施設で療養する患者への医療提供などについて、事前に各医療機関と協定を結ぶことになっている。

調査によると、昨年 12 月 15 日時点での締結見込みは、病床が国の目標(5 万 1 千床)の約 66% にあたる 3 万 3,723 床、発熱外来が目標(4 万 2 千カ所)の約 62% の 2 万 5,959 カ所にとどまった。 自宅療養者への対応も目標(2 万 7 千カ所)の約 61% の 1 万 6,349 カ所だった。 厚労省によると、医療機関側から「財政支援が明らかではない」、「医療従事者が感染した場合の補償がない」といった懸念が出ているという。 部会では、感染症に対応できる人材の育成にかかる支援の必要性を指摘する意見も出た。 厚労省は 24 年 9 月末の協定締結完了をめざし、改めて医療関係団体などに協力を要請する。 (藤谷和広、asahi = 2-9-24)



コロナ感染、症状なくても心不全に要警戒 iPS 細胞用い示す 理研

新型コロナウイルスの持続的な感染で心不全のリスクが高まるおそれがあることを、理化学研究所と京都大の研究チームがヒトの iPS 細胞を使った実験で明らかにした。 チームは、ヒトの iPS 細胞から心筋細胞や血管の細胞からなる「心臓マイクロ組織」を作製。 新型コロナウイルスを感染させて影響を調べた。 高い濃度で感染させると、心筋の収縮力が下がったままで、新型コロナ感染による急性の心臓病の状態を再現した。

一方、低い濃度で感染させると、一時的に収縮力は下がったが、次第に回復し、心筋細胞の構造も保たれていた。 しかし、4 週間後も増殖可能な新型コロナウイルスが残っており、心臓の働きに影響せずに、持続感染が可能なことが示された。 そこでチームは、表面的に問題がなくても、追加のストレスがあった場合に心不全になるリスクを調べることにした。

心臓にいく血液が不足した状況を模して、低酸素状態においた。 感染させなかった組織は、拍動数が上がって収縮機能が回復したが、感染させた組織の収縮機能は回復しなかった。 しかも新型コロナウイルスの感染が広がっており、低酸素にしたことでウイルスが活性化した可能性がある。 「ポストコロナ後に心不全が増えることを警戒する必要がある」と理研の升本英利上級研究員は話している。 論文は 国際科学誌 に発表した。 (瀬川茂子、asahi = 12-23-23)


新型コロナ、変異でウイルス排出量 5 倍に ピークも 1.5 倍早まる

新型コロナウイルスは変異を繰り返してきた。 その中で、変異株の感染力をシミュレーションで再現し、変異に伴う感染力の変化や変異に影響した要因が推察できたと、名古屋大などのチームが発表した。 新しく登場した変異株のうち優勢となっていたウイルスは、変異によって感染対策の行動をかいくぐりやすくなるような性質を獲得していた。 具体的には、変異に伴って、感染者が排出するピーク時のウイルス量が増えたり、ピークに達するまでの時間が短くなったりしていた。

感染者が体外に排出するウイルス量などは変異株ごとに異なり、他人に感染させる割合(感染力)に違いがあるとみられていたが、これまでその詳細は不明だった。 感染予防の行動と変異との関連も分かっていなかった。

排出ピーク時の体内ウイルス量が 5 倍に

感染者が排出するウイルス量は、体内ウイルス量と密接にかかわっている。 このため、研究チームは最初に流行した株(86 人)、次のアルファ株(59 人)、2021 年夏のデルタ株(80 人)、22 年のオミクロン株(49 人)計 274 人のデータを使い、変異株ごとに感染初期から症状が治るまでの体内のウイルス量を調べた。 このデータから個人差などを考慮し、変異株ごとの平均的な体内ウイルス量をシミュレーションで再現した。 その結果、最初の株からアルファ株への変異では、排出ピーク時の体内ウイルス量が 5 倍に増えていた。

さらに、アルファ株とデルタ株を比較すると、排出ピーク時のウイルス量は同じだった。 ただ、ピークに達する時間は、アルファ株が感染から 5.5 日後だったのに対しデルタ株では 3.6 日後で、1.5 倍早まっていた。 デルタ株とオミクロン株を比べると、排出ピークに達する時間は同じだったが、オミクロン株の体内ウイルス量は 5 分の 1 に減っていた。

人の行動変化とウイルス変異が関連している可能性

一方、変異を経るごとに体内ウイルス量とピークまでの時間がどういう要因で変化したのか、別の手法でシミュレーションをして探った。 その結果、感染対策の行動をかいくぐるようにウイルスが変異していると分析。 「感染初期にウイルスがヒトの体内で一気に増加してたくさん排出され、それによって流行を維持するように変異したウイルスが、優位になっていった可能性が示唆される(研究チーム)」との見方を示した。

オミクロン株になって排出ピーク時のウイルス量が減った理由については、無症状の患者が増えて感染拡大を避ける行動をしなくなり、これまでより流行が維持されやすくなったことに加え、ワクチン接種が普及したことなどが考えられると評価した。 研究チームの岩見真吾・名大教授(数理科学)は「人の行動変化とウイルスの変異が関連している可能性を明らかにできた。 今後、新たな感染症が出た場合には、ウイルスの変化を踏まえるなど先回りした公衆衛生対策を取れば、早期の収束が可能になる」と話した。 成果は、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された。 (渡辺諒、mainichi = 11-21-23)


国産初のコロナワクチン、秋接種で使用へ 厚労相「早く欲しかった」

新型コロナワクチンの秋接種に、国産では初となる第一三共のワクチンが使われる見通しとなった。 厚生労働省が 17 日、オミクロン株の亜系統「XBB」に対応したワクチン計 140 万回分を同社から購入することで合意したと発表した。 承認されれば、12月上旬から自治体へ配送される。 第一三共のワクチンは米ファイザー、米モデルナと同じタイプのメッセンジャー RNA (mRNA) ワクチン。 今年 8 月に国産で初めて国内での製造販売が承認された。 ただ、従来株向けだったため、全世代を対象にした 9 月からの秋接種には使われていなかった。

同社は改めて XBB 対応ワクチンの承認を厚労省に申請。 11 月 27 日の専門家部会で承認が了承されれば、12 月 4 日の週から自治体へ配送される。 準備が整い次第、接種が始まるが、購入量は少ないため、接種できる場所は限られる見込みだ。 厚労省はすでに、秋接種用のワクチンは、米ファイザー社と米モデルナ社から計 4,500 万回分の購入契約をしている。 厚労省によると、購入量は第一三共の今年度の生産能力に基づき決めたという。

米ファイザーのワクチン接種が国内で始まったのは 21 年 2 月。ワクチン開発は欧米に大きく遅れた。 武見敬三厚労相は 17 日の会見で「ようやくできた。 もっと早く欲しかった、というのが正直な感想だ。」と述べた。 国内産が使われるようになれば、今後、国内でコロナに大きな変異が発生した際、海外企業に頼らずワクチンを調達することが期待できる。 国は 22 年 3 月、国家戦略としてワクチンの開発を進める「先進的研究開発戦略センター (SCARDA) 」を創設し、次なる感染症に備えた研究開発を進める。

武見氏は「今後の感染症危機に備え、国産ワクチンの開発、生産体制の確立について費用の助成など引き続き必要な支援はしていく」と話した。 秋接種は、生後 6 カ月以上のすべての世代が対象だが、自治体による接種の勧奨は 65 歳以上の高齢者ら重症化リスクの高い人に限られる。 来年度からは、重症化リスクの高い人を対象に、秋から冬の年1回の接種となる見込みだ。 また、接種の全額を公費で負担する臨時接種は来年 3 月末で終わる。 自己負担が生じる可能性もある「定期接種」への移行が検討されている。 (神宮司実玲、asahi = 11-17-23)


コロナ感染でできる抗体保有率、若年層で 7 割前後 高齢者は 3 割弱

新型コロナウイルスに自然感染した後にできる抗体を保有している人の割合(抗体保有率)について、5 - 29 歳は 7 割前後で、高齢者は 2 - 3 割弱であることが分かった。 15 歳以下や 70 歳以上の抗体保有率が明らかになったのは初めて。 厚生労働省が 15 日に調査結果を公表した。 コロナに感染後、ウイルスを排除するために体内には抗体ができ、しばらく残る。 ワクチンによる抗体と自然感染による抗体は区別でき、抗体保有率を調べれば、どれくらいの人が感染した経験があるのか分かる。

従来の調査は献血者が対象だったため、子どもや 70 歳以上のデータがなかった。 今回の調査では、今年 7 - 8 月に診療所で検査のために採った血液の残りを用いた。 関西、中部、中・四国を中心とした 22 府県 4,235 人分の血液を調べたところ、全体の抗体保有率は 45.3% で、7 月に献血者を対象にした調査の結果 (44.7%) と同水準だった。 年代別では、0 - 4 歳は 54.6%、5 - 9 歳は最も高く 73.8%、10 - 14 歳は 71.7%、15 - 19 歳は 61.0%、20 代は 67.6%、30 代は 62.8% と若年層で高かった。 40 代は 47.8%、50 代は 36.7%、60 代は 29.8%、70 代は 26.6%、80 歳以上は 23.2% だった。

小中学生にあたる年代の子どもの 7 割がすでに感染を経験した可能性がある一方で、70 歳以上はワクチン接種率は高いが、4 人に 1 人程度しか自然感染の経験がないことになる。 一般的に、欧米ではほとんどの人が自然感染した経験があるが、日本はまだ感染したことのない人が多く、ウイルスが広がりやすいと考えられている。 一方、現在感染が広がっているオミクロン株の「EG.5」系統は、抗体から逃れて感染しやすいという指摘もある。 (神宮司実玲、asahi = 9-16-23)

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新型コロナ感染で得られる抗体、51% が保有 厚労省が調査

厚生労働省は 8 日、新型コロナウイルスの感染によって得られた「N 抗体」を保有している人の割合は 51.1% (速報値)だったと明らかにした。 西日本の 22 府県の診療所で 7 月 22 日 - 8 月 21 日、検査用に採取された血液 4,235 人分を対象に N 抗体の有無を調査していた。 年代別では、5 - 29 歳の各年代の保有率は 70% 前後に上った。 70 代以上の高齢者では、どの年代も 25% 前後と低かった。 一方、新型コロナに感染するだけでなく、ワクチンを接種した場合にも得られる「S 抗体」の保有率は 92.9% (速報値)だった。 5 歳以上の全年代で 85% を超え、0 - 4 歳も約 75% が保有していた。 (mainichi = 9-8-23)


コロナ感染抑える人工たんぱく質、サルで効果確認 薬の実用化めざす

新型コロナウイルスに対して、特殊なたんぱく質を「おとり」のように使って抑え込む治療法の効果をサルで確認したと医薬基盤・健康・栄養研究所などのグループが米専門誌に発表した。 実用化をめざしている。 グループは、ヒトの細胞表面にある「ACE2」と呼ばれるたんぱく質に新型コロナウイルスがくっついて感染することに注目。 ACE2 を改変してウイルスを強力にくっつけるようにした人工たんぱく質が候補薬になると考えた。 人工たんぱく質が「おとり」のようにウイルスにくっつき、細胞への侵入を抑える。 ウイルスが変異しても、感染するのに ACE2 を足がかりにするかぎり、有効だと見込まれた。

そこで人工たんぱく質を候補薬として作り、オミクロン株などの変異ウイルスに対しても効果があることをマウスやハムスターで確認してきた。 今回、ヒトに近いサルで効果を検証した。 病原性が強い新型コロナウイルスのデルタ株を感染させたサルに注射で候補薬を与えると、肺のウイルス量が減り、肺炎症状が抑えられた。 吸入薬の形で与えると、注射の 20 分の 1 の量で効果があった。 副作用はみられなかった。 グループの順天堂大の岡本徹教授は、「サルで効果を確認できたので、研究をサポートしてくれる会社を見つけて、実用化につなげたい」と話している。 論文は31日、米専門誌 に掲載された。 (瀬川茂子、asahi = 8-31-23)


コロナワクチン、来年度以降のあり方議論始まる 定期接種化も視野に

来年度以降の新型コロナウイルスワクチン接種の位置づけについて、厚生労働省が 9 日、議論を始めた。 全額を公費でまかなう現在の「臨時接種」から、自己負担が生じる可能性がある「定期接種」への移行を視野に、年内に結論を出す予定だ。 コロナワクチンは、予防接種法で「まん延予防上緊急の必要がある」場合のみに認められる臨時接種として、全額公費負担で実施されてきた。 オミクロン株が流行し、重症化率が低下したことなどから、昨年 11 月の財務省の財政制度等審議会が定期接種化を検討すべきだとしていた。 だが、流行の継続を理由に、今年度末までは期限を延長し臨時接種が続けられている。

9 日に開かれた厚労省の専門家分科会では、パンデミックが始まって 4 年目となり「費用対効果なども考える時期だ」といった意見が出た。 定期接種には 2 種類ある。 集団予防を目的とした「A 類疾病」では、原則公費負担で接種の勧奨や努力義務も適用される。 一方、高齢者の季節性インフルエンザなど個人の重症化予防が目的の「B 類疾病」では、一部自己負担が生じる場合もある。 今後、別の専門家部会でウイルスの重篤性やワクチンの有効性、費用対効果などについて議論を進める。

また、分科会では、9 9 月 20 日からの全世代を対象にした接種についても議論。 現在主流のオミクロン株の亜系統「XBB」に対応したワクチンの製造販売が承認されれば、これを使用する方針を了承し、「生後 6 カ月以上」を接種対象とすることを決めた。 今秋の追加接種では、接種の努力義務や勧奨の適用は 65 歳以上の高齢者や生後 6 カ月以上の基礎疾患のある人に限られる。 生後 6 カ月 - 4 歳の 1 - 3 回目や、5 歳以上の 1、2 回目接種についても勧奨などの適用外となる。 (神宮司実玲、asahi = 8-9-23)


塩野義コロナ薬「ゾコーバ」シェア 6 割に 高い汎用性、医療現場が評価

新型コロナウイルスの感染が増加傾向にあり「第 9 波」が始まった可能性も指摘される中、塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」の使用が広まっている。 国内のクリニックなどで処方される新型コロナ飲み薬でのシェアは 5 - 6 割。 先行して承認された米国製 2 剤と違い、若者を中心に重症化リスクのない患者も服用でき、使いやすいとの評価が医療現場で高まっている。

医療従事者向けサイトを運営するエムスリー(東京)は独自のデータベース「JAMDAS」から、全国のクリニックなど中小規模の医療機関約 4,100 施設の処方データを分析した。 その結果、新型コロナ飲み薬の処方全体に占めるゾコーバの割合は 6 月 19 - 25 日の 1 週間平均で 57.8%、米メルクの「ラゲブリオ」が 35.8%、米ファイザーの「パキロビッド」が 6.4& だった。

ゾコーバは 3 剤のうちで最も後発で昨年 11 月に緊急承認された。 政府が購入した分を指定された医療機関や薬局に供給していた今年 2 月上旬までは 10% 台にとどまっていたが、一般流通が始まった 3 月末から急速に伸び、4 月中旬には 50% に達した。 年齢別では 18 - 39 歳が約 40% を占め、60 歳以上が約 50 - 60% の米国製 2 剤と対照的に、若年層に集中する傾向にある。

感染者数が急増している沖縄県内の医療機関でもゾコーバへの関心は高い。 大浜第一病院(那覇市)で診療する藤田次郎・おもと会グループ特別顧問が 1 日に診療する新型コロナ陽性者数は約 10 人で「経験したことのない(多い)数」という。 多くは基礎疾患のない軽症の 20 - 30 代で、特にのどの痛みなどの症状が強い場合にゾコーバを処方している。 ゾコーバは早期に投与すれば症状が消えるまでの期間を短縮するほか、倦怠感や集中力の低下などの後遺症のリスクを低減させる効果も期待されている。 藤田氏は「処方できる患者の範囲が広く、飲み薬を積極的に使う医師にとっては使いやすい」と指摘する。

ゾコーバが「広く使いやすい」理由は薬の特性にある。 3 剤とも軽症・中等症患者向けだが、米国製 2 剤は処方対象が高齢者のほか、心疾患や糖尿病などの重症化リスクのある患者に限られるのに対して、ゾコーバは若年層などリスクがない場合も服用できる。 塩野義によると新型コロナ陽性者の 7 - 8 割は重症化リスクがないとみられ、ゾコーバの利用拡大につながっていると考えられる。 一方、服用のリスクについて患者からの同意書取得が義務付けられ、併用できない薬が多いパキロビッドはシェアが低迷している。

ただ、ゾコーバは妊婦には処方できず、併用できない薬も多いため同意書取得が必要で、医療現場では引き続き注意が求められる。 治療薬代は 9 月末まで全額公費支援だが、3 割負担の支払額はゾコーバが約 1 万 5 千円、米国製の 2 剤は約 3 万円となる。 (牛島要平、sankei = 7-2-23)


秋以降のコロナワクチン、「XBB.1」対応に 厚労省専門家分科会

9 月以降に始まる予定の新型コロナウイルスのワクチン接種について、厚生労働省の専門家分科会は 16 日、国内外で主流になっているオミクロン株の亜系統「XBB.1」系統に対応したワクチンを使う方針を決めた。 5 歳以上のすべての人を対象とする予定だが、最新の知見や海外の動向を踏まえ、秋までに最終的に決めるとした。 現在の接種は、65 歳以上の高齢者や医療従事者らが対象。 オミクロン株の「BA.1」、「BA.4 と BA.5」対応のワクチンが使われている。 分科会は、米国など海外の検討状況もふまえ、9 月以降の接種について、XBB.1 系統に対応した開発中のワクチンを使うことで一致した。 主流となっている XBB.1 系統に対して、感染を防ぐ「中和抗体」の増え方が、現在のワクチンより大きいという。

米食品医薬品局 (FDA) の専門家委員会は 15 日、XBB 系統に対応したワクチンを推奨することで全会一致し、その系統のひとつ「XBB.1.5」が望ましいという意見も付けた。 FDA はこの見解を踏まえて最終的に判断し、それに応じたワクチンを製薬会社がつくることになる。 今年度中の接種は、全額公費負担となる。 厚労省は来年度の接種について、「定期接種」への移行も検討する。 定期接種は原則、公費負担だが、高齢者の季節性インフルエンザワクチンなど一部で自己負担が生じる場合もあり、今後、議論する。 (神宮司実玲、asahi = 6-16-23)


変異に強い新型コロナ抗体を発見 重症患者の体内で偶然発生

新型コロナウイルスが変異をしても感染を防ぐ可能性のある中和抗体を見つけたと、広島大などのチームが国際専門誌「コミュニケーションズ・バイオロジー」に発表した。 変異に強い抗体は、これまでもいくつか見つかっているが、今回のものは効果のある変異株の種類が特に多いという。 重症化し約 2 カ月間入院した患者の体内で偶然できていた。

無症状や軽症で済んだ人では自然に作られる見込みがほぼないが、少しずつ異なるワクチンを複数回打つなどして、体内で免疫反応が長く続くようにすれば、同様の抗体を獲得できる可能性がある。 広島大の保田朋波流教授(免疫学)は「新たな変異株が登場しても追加接種をしなくていいような方法を開発したい」と話している。 チームは、流行初期に欧州から流入して広がったウイルスに感染した 18 人の血液を分析。 重症化した高齢者 2 人から見つかった抗体が、アルファ株やデルタ株、オミクロン株の派生型など幅広いタイプに効果があった。 (kyodo = 6-3-23)

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