... - 12 - 13 - 14 - 15 - 16 - 17 - 18 - 19 - 20 - 21 - 22
コロナ飲み薬で入院リスク 9 割減 ファイザー、臨床試験の中間結果 米製薬大手ファイザーは 5 日、開発中の新型コロナウイルスの飲み薬が、ワクチン未接種で、重症化しやすい持病などがある人の入院リスクを 89% 減らせたとする臨床試験の中間結果を発表した。 米食品医薬品局 (FDA) に近く緊急使用許可を申請する。 臨床試験に参加した約 1,200 人を分析した。 新型コロナを発症後、3 日以内にのんだ 389 人のうち、入院は 3 人で、死者はゼロだった。 一方、偽薬をのんだ 385 人では 27 人が入院し、7 人が亡くなった。 副作用も軽いものがほとんどで、割合も偽薬と変わらなかった。 結果を受け、第三者機関は、試験規模を拡大するための参加者の追加を中止するよう推奨した。 ファイザーのブーラ最高経営責任者 (CEO) は「パンデミックを止める、本当のゲームチェンジャーだ」とする声明を出した。 発表を受け、米ニューヨーク株式市場の時間外取引でファイザーの株価は 10% 超値上がり、経済活動が再開するとの期待から、米大手航空会社など旅行関連の株価も軒並み値上がりしている。 ブーラ氏は 5 日、米 CNBC テレビのインタビューに対し、FDAへの緊急使用許可申請について、「感謝祭の日(11 月 25 日)までに提出したい」と述べた。 飲み薬は、米製薬大手メルクが開発した「モルヌピラビル」の販売を英当局が 4 日、承認した。 メルクは FDA にも緊急使用許可を申請している。(ワシントン=合田禄、ニューヨーク=真海喬生、asahi = 11-5-21) 塩野義、コロナワクチンの最終治験を今月開始 塩野義製薬は 1 日、開発中の新型コロナウイルス感染症のワクチンについて、11 月中に最終段階の臨床試験(治験)を始めると明らかにした。 2022 年 3 月までの実用化を目指す。 同社は 20 年 12 月に治験を開始。 感染を防ぐ「中和抗体」の量が十分に増えなかったため、ワクチンに混ぜる補助剤を変更し、7 月から初期の治験をやり直した。 10 月下旬からは国内の 3 千人を対象とした次の段階の治験を進めている。 国に承認申請するには、さらに大規模な最終段階の治験が必要となる。 同社は 11 月から、開発中のワクチンの効果をプラセボ(偽薬)と比較する試験をアジアで、すでに承認されているほかのワクチンと比較する試験を国内外で始める。 1 日に開いた 21 年 9 月中間決算の会見で、手代木功社長は「下期にどう製品化するか、勝負の時を迎えている。 ワクチンは非常に良いものができている。」と手応えを口にした。 ワクチンは 3 回目の接種(ブースター接種)用としても承認を目指し、11 月中に国内外で治験を始める予定。 同社はまた、最終治験中の飲み薬タイプのコロナ治療薬について、国内の感染が落ちつき治験に必要な患者数を集められないため、シンガポールや韓国、英国など海外の患者も含めて最大 2 千人を対象に実施すると明らかにした。 従来の予定通り、年内の承認申請を目指す。 (田中奏子、asahi = 11-1-21) ◇ ◇ ◇ 国産ワクチンの壁、治験方法変更で突破目指す 国内企業も準備 開発段階の新型コロナウイルスワクチンの臨床試験(治験)が、これまでより規模を小さくして実施できるようになりそうだ。 厚生労働省が各国と続けてきた協議がおおむね合意に至り、近くまとまる見通しになった。 欧米に比べ、出遅れが目立つワクチン開発を後押しするねらいがある。 国産ワクチン開発急ぐも大規模治験に壁 国産ワクチンは輸入に頼らない安定した供給や、国内で独自の変異株が流行したときの対策としても、開発が期待されている。 厚労省は国内で「ブースター接種」と呼ばれる 3 回目のワクチン接種をする方針を決定。 流行が数年単位で続く可能性もあり、長期的なワクチン確保の必要性も出る中で、政府は関係閣僚会議を立ち上げるなどして国産ワクチン開発に力を注ぐ。 治験は通常、参加者を半数ずつワクチンをうつグループと、生理食塩水などの「偽薬」をうつグループに分け、その後の発症率などをもとに効果を比べる。 しかし新型コロナのように、すでに使える有効なワクチンがあるのに、半数の人に偽薬をうつのは倫理的な問題が残る。 国内でもすでに米ファイザー、米モデルナ、英アストラゼネカの 3 社のワクチン接種が進んでいる。 治験の参加者を集めにくくなっているが、最終段階の治験には数万人単位の参加者が必要となる。 国際的に議論が進む、別の治験方法 このため、厚労省は偽薬を使わない方法を検討してきた。 既存のワクチンをうったグループに対し、新しいワクチンをうったグループの効果が一定以上劣らないことを証明する。 発症率ではなく、ワクチンをうった後に体内でつくられてウイルス感染を防ぐ「中和抗体」の量を比べることが検討されている。 参加者を数千人単位に減らせ、効果をみる期間を短くできる可能性があるという。 ただ、この方法は新型コロナワクチンで使われた例はなく、日本だけが採用しても、国際的な信用が得られない。 このため厚労省は、米食品医薬品局 (FDA) など約 30 の国・地域の規制当局で構成される「ICMRA」で協議。 6 月にはこの方法による治験をすることへの合意を得た。 比較対象とするワクチンや中和抗体の測定方法について最終調整を続けている。 厚労省幹部は「これから治験を始める国内企業の後押しになる」と期待を寄せる。 国産ワクチンの開発を急ぐ厚労省は、この方法を念頭に、各企業から治験についての相談を受けている。 塩野義製薬(大阪府)は 8 月、中和抗体価を使った最終段階の治験を年内にも始めると発表した。 同社は新型コロナのウイルス表面のたんぱく質だけを合成したものを使った「組み換えたんぱくワクチン」と呼ばれるタイプのものを開発している。 だが、大規模治験の実施が難しいとして、政府に柔軟な対応を求めてきた。 ほかの企業も同様の方法の治験を検討している。(市野塊、野口憲太) 既存のワクチンを比較対象とし、中和抗体の値で効果を比べる - -。 国産ワクチンを後押しするための治験方法だが、課題は少なくない。 「中和抗体」を指標に使う難しさ 名古屋大大学院医学系研究科の松井茂之教授(生物統計)は、「承認済みのワクチンを比較対象にすると、発症数での評価が難しくなる」と話す。 承認済みのワクチンは発症を抑制する有効性が確認されていて、参加者の中から発症する人は少なくなると予想される。 新しいワクチンとの比較には一定以上の発症数のデータが必要なので、結局多くの参加者が必要になる。 「現実的な評価の一つとして、中和抗体を測ることが検討されているのでしょう。」 さらに、松井さんは「中和抗体を測ることで、発症や重症化を抑制する効果を『十分予測できる』ことが試験の前提だ」と話す。 そのためには、どのくらいの中和抗体があれば、実際に発症や重症化を防げているかの確認が不可欠で、「(既存ワクチンの)臨床試験データの公開や、新しいワクチンが承認を受けた後にも、接種者の情報を追跡していくことが求められる」と話す。 既存のワクチンの接種は世界中で進んでいるものの、現状では、発症などを予防するために、どのくらいの中和抗体の値があれば十分なのかは、はっきりしていない。 どこまで後押しになるのか、ほかの懸念も 別の課題もある。 治験で比較対象とするための既存のワクチンをどう確保するか、という点だ。 ファイザー、モデルナ、アストラゼネカのワクチンが想定されるが、世界的な需要は高く、国が公的な接種のために確保するだけでも精いっぱいだ。 治験に使うには、基本的には企業が用意する必要がある。 厚生労働省予防接種室は「企業が交渉する中で必要に応じて仲介役になるなど支援したい」とするが、企業がどこまで治験環境を用意できるか見通せない。 参加者の確保も依然、課題として残る。 未接種者が、すでに効果がわかっているワクチンがある中で、効果がわからない開発中のワクチンをうつメリットは少ない。 参加者には治験協力金などがあるが、どれほど集まるかは不透明だ。 (野口憲太、asahi = 9-21-21) ブースター接種は違うワクチンのほうが有効? 注目される研究報告 新型コロナウイルスのワクチンを追加接種する「ブースター」について、最初と違う種類を打つ「交差接種」に米国で注目が集まっている。 米食品医薬品局 (FDA) は近く、製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン (J & J) のワクチンを接種した人を対象に別のワクチンの追加接種を認める可能性が高まっている。 米国内で交差接種への関心が高まるきっかけになったのは、米国立保健研究所 (NIH) の研究者らが 15 日に公開した、査読を受ける前の論文。 ファイザーとモデルナ、J & J の接種が完了した約 450 人を約 50 人ずつの 9 グループに分けたうえで、3 種類のワクチンをブースター接種した。 ファイザー、モデルナが 2 回接種なのに対し、J & J は 1 回接種で完了となる。 1 回目に J & J を接種した人では、追加接種から 15 日後の感染を防ぐ抗体の量が、もう一度 J & J を打つと 4.2 倍だったのに比べ、ファイザーなら 35.1 倍、モデルナなら 75.9 倍になったという。 最初にファイザーを打った人では、もう一度ファイザーだと 20 倍、モデルナだと 31.7 倍、J & J だと 12.5 倍だった。 最初にモデルナを打った人は、もう一度モデルナだと 10.2 倍、ファイザーだと 11.5 倍、J & J だと 6.2 倍だった。 米国ではファイザーの接種を完了してから 6 カ月以上過ぎた高齢者らを対象に、ファイザーの 3 回目接種が始まっている。 FDA の諮問委はモデルナや J & J についても、対象を限定して同じ種類の追加接種に緊急使用許可を出すよう勧告していた。 交差接種を認めるかについて、FDA の幹部が「可能性はある」と発言。 米メディアは FDA が今週中にも、J & J 製のワクチンについて、ファイザー製やモデルナ製の追加接種を承認すると伝えている。 米紙ニューヨーク・タイムズは 18 日、開発段階のワクチンがブースター接種向けに使われる可能性があると指摘。 とくに米バイオ企業ノババックスや仏製薬大手サノフィが開発しているようなウイルス表面のたんぱく質だけ合成した種類が有望になるかもしれないとした。 日本では 12 月にも医療従事者らへの 3 回目接種が始まる見込み。 厚生労働省は現在、1 - 2 回目と同じワクチンを基本としているが、今後の研究結果や海外の実績などを踏まえて、3 回目に交差接種を認めるか結論を出す考えだ。 J & J のワクチンは日本では承認申請されている段階だが、ファイザーとモデルナの交差接種で免疫が高まるという米国内のデータは、日本の今後の議論にも影響を与えそうだ。 ブースター接種に向けて、政府は来年からファイザー製 1 億 2 千万回分、モデルナ製 5 千万回分の追加供給を受ける契約を結んでいる。 まだ承認されていないが、別のタイプのノババックス製ワクチンも 1 億 5 千万回分の供給を受ける契約も結んでいる。 (合田禄 = ワシントン、市野塊、asahi = 10-20-21) 少量接種で効果? 新コロナワクチンの治験開始 来年の実用化めざす 創薬ベンチャーの VLP セラピューティクス・ジャパン(東京)は 18 日、少量の接種で効果が期待できる新しいタイプの新型コロナワクチン開発について記者説明会を開き、今月 12 日に初期段階の臨床試験(治験)を始めたと発表した。 2022 年春に最終段階の治験に進み、同年中に実用化することをめざしている。 同社が開発しているのは、接種後に体内で増える「自己増殖型(レプリコン)」と呼ばれるメッセンジャー RNA (mRNA) ワクチン。 すでに実用化されているファイザーやモデルナなどの従来型に比べ、接種量が 10 分の 1 - 100 分の 1 で済むのが特徴。 開発がうまくいけば、同じ生産量でより多くの人に行き渡るうえ、少量接種のため副反応も軽減される可能性があるという。 同社は米国立保健研究所 (NIH) などでワクチンの研究開発に携わった代表の赤畑渉氏が昨年 6 月に設立。 開発は大分大学や大阪市立大学、国立国際医療研究センターなど国内 6 機関と共同で進めてきた。 治験に使うワクチンは富士フイルムが製造する。 今回の治験は 20 - 65 歳の男女 45 人が対象。 大分大学医学部の付属病院でワクチンの接種を始めた。 4 週間隔で 2 回投与し、安全性と有効性を確認する。 中間解析の結果を踏まえ、最終段階の治験をする。 65 歳以上を対象にしたワクチン開発も検討しており、22 年春に初期段階の治験を開始する見込み。 厚生労働省は今夏、VLP 社の国内生産体制を整備するために 143 億円を助成すると発表している。 (渡辺淳基、asahi = 10-18-21) 米メルク、コロナ飲み薬の緊急使用許可を申請 認可なら世界初か 米製薬大手メルクは 11 日、新型コロナウイルスの飲み薬「モルヌピラビル」について、米食品医薬品局 (FDA) に緊急使用許可を申請したと発表した。 メルクによると、認められればコロナ向けの飲み薬としては初めてという。 対象は、重症化や入院のリスクがある軽症から中等症の成人。 米国のほか、日本や欧州などでも臨床試験(治験)を行っており、今後、数カ月以内に各国の規制当局に申請する方針という。 モルヌピラビルは、メルクが米ベンチャー「リッジバック・バイオセラピューティクス」と共同開発。 すでに生産を始め、年内に 1 千万人分をつくれるという。 米国政府とは 170 万人分の供給契約を結んだ。 日本政府も調達する方向で交渉している。 メルクによると、治験の中間結果では、偽薬を使った場合と比べて軽症や中等症の患者が入院するリスクを半減させた。 軽症者向けの治療薬は点滴薬があるが、自宅で使える飲み薬への期待は大きい。 飲み薬は米ファイザーやスイスのロシュ、塩野義製薬なども開発している。 (ニューヨーク = 真海喬生、asahi = 10-11-21) ◇ ◇ ◇ 新型コロナの「のみ薬」もうすぐ? 高まる期待、効果発揮には課題も 新型コロナウイルスの治療薬で、軽症者用の「のみ薬」の開発が欧米企業を中心に進んでいる。 国内で承認されている軽症者用の薬は点滴薬しかなく、自宅でも使いやすいのみ薬があれば、新型コロナの脅威を抑えるカギになりうる。 しかし、専門家からは、これだけでは不十分だという指摘もある。 先行する海外企業 メルクやファイザーは治験終了見込み 「我々としても早く申請いただいて、なるべく早く国民の皆様に提供できるようにしたい。」 田村憲久厚生労働相は 3 日の閣議後会見でこう話し、期待感を示した。 のみ薬は世界中でまだ開発段階だが、先行するのは海外企業だ。 米メルクの「モルヌピラビル」は最終段階の治験に進んでいて、10 月にも治験結果をまとめ、年内に米国で緊急使用許可 (EUA) を申請する見込みだ。 米ファイザーも治験は最終段階で、年内の EUA 申請をめざす。 いずれも米国への申請に伴い、日本の厚労省にも承認申請される可能性がある。 ほかにスイスのロシュも治験は最終段階に入っていて、2022 年にも申請するとみられる。 国内企業では、塩野義製薬が 27 日から最終段階の治験を開始。 厚労省への早期の承認申請をめざす。 抗インフルエンザ薬として承認されている富士フイルム富山化学の「アビガン」は、昨年 3 月に新型コロナ向けの治験を始め、同 10 月に承認申請した。 しかし、厚労省の専門部会で審議継続となった。 国内で再び治験を始めていて、10 月末まで続ける予定だ。 ウイルスの複製を阻害 自宅療養者にも使いやすく これらののみ薬は、細胞に感染したウイルスの増殖を防ぐ。 薬の成分が、ウイルスが増えるために必要な酵素である「RNA ポリメラーゼ」や「3CL プロテアーゼ」などのはたらきを邪魔する。 分子量の小さな化合物のため、消化管から血流に乗ってねらった細胞の中まで届く。 処方や服用が比較的簡単で、自宅でも使うことができるのが利点だ。 国内で承認されている治療薬は現在 4 種類あるが、軽症者に使えるのは「抗体カクテル療法」と呼ばれる点滴薬「ロナプリーブ」のみ。 9 月に自宅などで療養する人への往診でも使えるようになったが、点滴中と経過観察を含めて数時間は医療従事者が対応する必要がある。 「第 5 波」のように自宅療養者が 10 万人を超えるようになると、すべての患者に対応することは難しい。 さらに、抗体カクテル療法は製造に費用がかかることから高価になりやすく、国の医療費の負担も大きくなる。 このため、のみ薬が実用化されれば、患者に広く使えるようになり、新型コロナを季節性インフルエンザのように扱うことに近づくという見方が政府内にある。 診断体制なければ十分な効果発揮できないという指摘も ただ、感染症に詳しい新潟大の斎藤玲子教授(公衆衛生学)は、のみ薬とともに、感染の有無を迅速に判断する抗原検査キットを普及させる必要があると指摘する。 インフルでは、医療機関でキットを使ってすぐに診断し、のみ薬を処方できる体制ができたことで重症者を減らせるようになったという。 斎藤さんは、「のみ薬は必要。 ただし、早い段階で使い、ウイルスがこれ以上増えないようにするための薬。 新型コロナに感染したと思ったらすぐにのみ薬を使える体制がなければ、効果を十分に発揮することはできない。」と話す。 (市野塊、asahi = 9-27-21)
mRNA ワクチン成功の裏にあった発見とは ノーベル賞有力の声も 新型コロナウイルスのワクチンとして実用化された m (メッセンジャー) RNA ワクチン。 不可欠とされる技術を開発した、独ビオンテック社のカタリン・カリコ氏らに 9 月、「科学界のアカデミー賞」ともよばれるブレークスルー賞が贈られた。 成果の裏には、どんな発見があったのか。 これまでのワクチンは無害化したウイルスのたんぱく質などからつくっていた。 これに対し、mRNA ワクチンは、ウイルスのたんぱく質そのものではなく、それをつくるための「レシピ」を体内に届ける。 それをもとに体内でたんぱく質をつくり、同じウイルスの次の襲来に備える。 「レシピ」書き換えスピード開発 大きな利点は、スピード開発が可能なことだ。 新しいウイルス感染症が流行しても、そのウイルスの遺伝子配列さえ分かれば、短期間でつくることができる。 レシピを柔軟に書き換えるイメージだ。 実際、新型コロナワクチンの開発スピードは驚異的だった。 新型コロナの遺伝子配列の情報が公開されたのは昨年 1 月 11 日。 米モデルナ社は数日でワクチンの試作品を作製。 ビオンテック社の技術を使う米ファイザー社も昨年 4 月に臨床試験(治験)に入った。 11 カ月後の昨年 12 月には英国で、世界で初めてワクチン接種が始まった。 過去、実用化まで最速だったワクチンはおたふく風邪とされるが、それでも 4 年かかっている。 これまでの常識を覆す異例のスピードに世界が驚いた。 そしていま、世界中で接種が進んでいる。 実現を阻んだ「炎症」 しぼむ期待でも続けた研究 mRNA をワクチンや薬として使うという発想は、30 年以上前からあった。 しかし、実験で動物に mRNA を注入すると、異物として認識され、「炎症」反応が強く起きた。 目的とするたんぱく質も、思ったように効率的にはつくられなかった。 mRNA はとてもこわれやすく、扱いが難しいという難点もあった。 ワクチンや薬に使うという期待はしぼみ、望みの薄い研究とみられ、研究資金を得るのも難しかった。 こうした状況で、ハンガリー出身のカリコ氏は、米ペンシルベニア大で研究を続けていた 90 年代末ごろ、同大のワクチン研究者ドリュー・ワイスマン氏と共同研究を始め、ある工夫を mRNA に加えることで、炎症を最小限に抑えることに成功。 2005 年に米国の免疫学専門誌イミュニティで発表した。 その工夫とは、mRNA に「飾り」をつけること。 センサーだます「飾り」がカギに 体の中には、感染に備え、侵入してきたウイルス由来の RNA を見つけ出す「RNA センサー」がある。 これが警報を出すと炎症などが起こる。 初期の実験で導入した mRNA はこのセンサーにひっかかっていた。 一方、人間の遺伝情報を担うのは DNA。 その一部分のコピーとして、RNA は私たちの体内でも、日々つくられている。 mRNA もその一種だ。 ウイルス由来と違い、「自分の RNA」で炎症は起きない。 特有の「飾り」がつけられていて、センサーが反応しないからだ。 カリコ氏らは、「飾り」を接種する mRNA につけて、あたかも「自分の RNA」であるかのようにセンサーをだまし、炎症を防いだ。 05 年の論文では、この研究が「治療用 RNA を設計するうえでの将来の方向性を示した」と記した。 ファイザー製やモデルナ製ワクチンの日本での名称には「修飾ウリジン」とついている。 「修飾」はまさに、カリコ氏らが着目したセンサー回避の「飾り」を意味している。 今月、カリコ氏とワイスマン氏に生命科学部門のブレークスルー賞が贈られた。 2 氏はノーベル賞有力との声も多い。 「大きく広がる」可能性 mRNA 医薬の未来 「強い信念の人。 情熱をもって研究を進めていた。」 2005 年以降、カリコ氏と共同で研究を続けた米ペンシルベニア大の村松浩美・主任研究員は、こう当時を振り返る。 成果は当初、大きく注目されたわけではなかったが、試行錯誤を続け、論文発表を重ねた。 10 年代から mRNA に目をつけ、医薬品として開発をめざす企業が現れた。 ワクチンやがん治療薬など、さまざまな開発が進んだ。 その実績が下支えとなって、新型コロナの mRNA ワクチンは 1 年たらずで開発された。 05 年の論文と同じ号で紹介記事を書いた、東大医科学研究所の石井健教授(ワクチン学)は「彼女らの研究は、私たちの体が『自分』と『自分以外』をどう見分けているのかを解き明かす基礎的なもの。 でもこの研究がなければ、これほどよい mRNA ワクチンは実現できなかった。」と評価する。 mRNA ワクチンの実用化にはほかにも、「キャップ」と呼ばれる mRNA の安定性を高める構造の研究や、体内に運ぶための「入れ物」となる脂質ナノ粒子の研究なども大きく貢献している。 mRNA の医薬品への応用を研究する東京医科歯科大の位高啓史教授は、「これまで採算が期待できずワクチンや薬が開発されないような風土病にも、『中身』を入れかえればよい mRNA ワクチンなら応用できるかもしれない。 ワクチンとしてだけでなく、さまざまな病気の治療薬としての応用もめざされていて、可能性は大きく広がっています。」と期待する。 (野口憲太、瀬川茂子、asahi = 9-24-21) 新型コロナワクチン「5 - 11 歳にも効果」 ファイザー製接種 新型コロナウイルスのワクチンについて、米製薬大手ファイザーと、共同開発した独バイオ企業ビオンテックは 20 日、5 - 11 歳でも安全性と効果を示すデータが確認できたとする新たな臨床試験の結果を発表した。 近く米食品医薬品局 (FDA) や各国の規制当局にこのデータを提出するという。 発表によると、臨床試験には 5 - 11 歳の 2,268 人が参加。 大人が接種する量の 3 分の 1 の量を 2 回、3 週間あけて接種したところ、16 - 25 歳の臨床試験結果と同程度に、ウイルス感染を防ぐ抗体ができることが確認できたという。 副反応についても、16 - 25 歳と同程度で、深刻なものはなかったという。 ビオンテックのウグル・サヒン最高経営責任者 (CEO) は「学校に通う年齢の子どもたちのデータを冬が始まる前に提出できたのはよかった。 5 - 11 歳は少ない接種量だったが、安全性や免疫反応を引き起こす性質は、より多い接種量だったそれ以上の年齢の人たちと一致していた」としている。 2 社は、生後 6 カ月 - 2 歳、2 - 5 歳についてもそれぞれ近く臨床試験の結果を出す予定としている。 (ワシントン = 合田禄、asahi = 9-20-21) ワクチン有効性はモデルナが最高 他メーカーも「十分効果」 米 CDC 発表 アメリカの CDC (疾病対策センター)は 17 日、新型コロナウイルスワクチンをメーカーごとに比較したところ、モデルナ製ワクチンの有効性が最も高く、4 カ月後も効果がほぼ維持されると発表した。 CDC が最新のデータを分析したところ、感染による入院を防ぐ効果は、モデルナ製ワクチンが 93% で最も高く、次いでファイザー製が 88%、ジョンソン・エンド・ジョンソン製が 71% だった。 また、ワクチンの効果の持続性について、接種から 4 カ月後を調べたところ、モデルナ製は、92% とほぼ維持していた一方、ファイザー製は、77% に低下していた。 数値にばらつきがあるものの、CDC は、「メーカーは異なっていても十分効果がある」と強調している。 (FNN = 9-19-21) モデルナ、新型コロナワクチン免疫低下の可能性が新たな解析で判明
米モデルナの新型コロナウイルスワクチン第 3 相試験に関する新たな解析で、同試験の早い時期に接種を受けた人の方がブレークスルー感染(ワクチン接種後の感染)の割合が高いことが分かった。 同社の 15 日の発表文によると、今回の分析は臨床試験でワクチン接種を受けたが、デルタ変異株が拡散した今夏に新型コロナに感染した症例を検証した。 モデルナの臨床試験で最初にプラセボ(偽薬)を投与された人は、有効性に関する良好な初期結果を受けて、昨年 12 月にワクチン接種が開始された。 このグループのワクチン接種のタイミングは、治験の早い時期に接種を受けた人から 5 カ月遅れ(中央値)となった。 同社によると、最初に接種を受け、7 - 8 月に症状が出る形でブレークスルー感染した人の割合は、後から接種を受けた人より 50% 余り高かった。 モデルナは既存ワクチンの半量でのブースター(追加免疫)接種について米食品医薬品局 (FDA) に承認申請している。 モデルナ、ブースター接種の FDA 正式承認目指す - 初期データ提出 発表文でモデルナは「今回の解析で判明したブレークスルー感染のリスク上昇は、免疫低下の影響を数量化するものだ」とした上で、「ブースター接種が有益となり得る証拠が追加された」と指摘した。 同社によると、今回の分析は専門家の査読前のウェブサイトに提出され、今後、医学誌での正式発表に向けて提出される。 (Robert Langreth、Bloomberg = 9-16-21) ブースター接種、大半の人には不要 - 一線の科学者らがランセット誌で
新型コロナウイルスワクチンは非常に有効であるため、大半の人はまだブースター(追加免疫)接種を必要としていない - -。 世界の一線の科学者で構成される委員会が論文で指摘した。 ブースター接種実施の是非を巡る議論が、これを機に一段と活発化する公算が大きい。 各国・地域政府は未接種者へのワクチン投与に集中し、どのブースター、どの程度の分量が最も効果的かといったデータがさらに集まるのを待つ方が良いと、科学者らは指摘。 臨床試験のデータと広範囲にわたる実地の観察研究を基に分析したと説明している。 論文は権威ある医学誌ランセットに掲載された。 米食品医薬品局 (FDA) の著名な専門家 2 人も共同執筆者に名を連ねている。 科学者らは「いずれの研究も、重篤な疾患に対する防御力が大幅に低下していることを示す信頼に足る証拠を提示していない」と記述。 ブースター接種をあまりに早期、広範に導入すれば追加の副反応も生じかねないと警告した。 ワクチン供給を潤沢に受けている大半の国は、居住者の免疫力を高め、デルタ変異株の感染拡大を食い止めるために、余剰分をブースター接種に回すかどうかを議論している。 バイデン米政権は今月 20 日からブースター接種を開始する意向。 ただ、計画を実施に移すには FDA 米疾病対策センター (CDC) の承認が必要となる。 論文は「ブースター接種が重篤な疾患の中期的リスクを低下させることがいずれは示されたとしても、現在のワクチン供給状況からすれば未接種者にワクチンを投与した方が、より多くの命を救える可能性がある」としている。 (Naomi Kresge、Bloomberg = 9-14-21) 新型コロナ「ミュー株」、抗体の効き目 7 分の 1 以下に 東大など研究 世界保健機関 (WHO) が新たに監視対象にした新型コロナの変異ウイルス「ミュー株」には、ワクチンの接種でつくられる「抗体」が効きにくい可能性がある。 そんな研究結果を、東大医科学研究所などのチームが報告した。 従来の株に比べて、抗体が感染を防ぐ効果が 7 分の 1 以下になったという。 チームは、新型コロナがヒトの細胞に感染するときに重要な「スパイク」というウイルス表面のたんぱく質に着目。 実験では、本物の新型コロナウイルスではなく、扱いやすい別のウイルスの表面にスパイクだけをつけた「偽ウイルス」を使った。 複数の変異株を模した偽ウイルスを用意し、これが実験用の細胞へ感染するのを、ワクチン接種者の「中和抗体」でどのくらい防げるかを調べた。 ワクチン接種で得られる免疫には、抗体とは別のしくみではたらくものもあり、東大医科研の佐藤佳・准教授(ウイルス学)は、「ワクチンがミュー株に効かないわけではなく、個人で必要な対策が変わるわけではない」と強調。 そのうえで「抗体への抵抗性は、いままでの変異株のなかでも最も強かった。 どんな変異株が広がっているかを把握することは重要で、そのためには、ウイルスの遺伝情報が細かくわかるゲノム解析の体制の拡充が必要だ。」と話した。 研究結果は、専門家による査読を受ける前のものとして 7 日、論文投稿サイト で発表された。 WHO は 8 月 30 日付で、ミュー株を国際的な監視が求められる「注目すべき変異株 (VOI)」に指定。 日本でも検疫でミュー株への感染者が 2 人確認されている。 世界的に流行しているデルタ株が分類される「懸念される変異株 (VOC)」より警戒度は一段低い。 (野口憲太、asahi = 9-12-21) 「デルタ株」入院リスク 2 倍以上 感染者の 74% が未接種 |インド型変異ウイルス「デルタ株」による入院リスクは、これまでの変異ウイルスに比べて 2 倍以上になることがわかった。 イギリスのケンブリッジ大学などが、感染者 4 万 3,000 人を調べたところ、デルタ株に感染した場合の方が、イギリス型変異ウイルス「アルファ株」より 2.26 倍入院するリスクが高かったという。 また、感染者の 74% がワクチンを受けていないのに対し、2 回の接種を終えた人は、1.8% にとどまっていた。 調査では、「ワクチンを接種していない人たちにデルタ株が感染拡大すれば、医療体制に大きな負担を与える可能性がある」と指摘している。 (FNN = 8-29-21) 「コロナは空気感染が主たる経路」 研究者らが対策提言 新型コロナウイルスの感染対策について、感染症や科学技術社会論などの研究者らが、「空気感染が主な感染経路」という前提でさらなる対策を求める声明を出した。 「いまだ様々な方法が残されており、それらによる感染拡大の阻止は可能である」と訴えている。 声明は、東北大の本堂毅准教授と高エネルギー加速器研究機構の平田光司氏がまとめ、国立病院機構仙台医療センターの西村秀一・ウイルスセンター長ら感染症の専門家や医師ら 32 人が賛同者として名を連ねた。 27 日にオンラインで記者会見を開き、説明した。 空気感染は、ウイルスを含む微細な粒子「エアロゾル」を吸い込むことで感染することを指す。 エアロゾルの大きさは 5 マイクロメートル(0.005 ミリ)以下とされ、長い時間、空気中をただよう。 厚生労働省のウェブサイトでは、新型コロナの感染経路として、くしゃみなどで出る大きなしぶきを介した「飛沫感染」や、ウイルスの付着した場所に触れた手で鼻や口を触ることによる「接触感染」が一般的と説明されている。 一方、世界保健機関 (WHO) や米疾病対策センター (CDC) はそれぞれ、ウイルスを含んだエアロゾルの吸入についても、感染経路だと明記している。 距離離れてもリスク 「エアロゾル」減らす対策を 声明は、空気感染が新型コロナの「主たる感染経路と考えられるようになっている」と指摘。 考えられている以上に距離が離れていても感染リスクはあり、逆に空気中のエアロゾルの量を減らすような対策で感染抑制ができるとした。 そのうえで、国や自治体に対して、▽ ウレタン製や布製のよりも隙間のない不織布マスクなどの着用徹底の周知、▽ 換気装置や空気清浄機などを正しく活用するための情報の周知、▽ 感染対策の効果を中立な組織によって検証することを求めた。 声明は、内閣官房、厚労省や文部科学省に送付したという。 医師で民法・医事法が専門の米村滋人・東大教授も賛同者の一人。 米村さんは政府の対策は「マクロ対策の一つである緊急事態宣言に大幅に依存している」と指摘。 個人の感染を直接防ぐための対策の徹底や、外国の事例の検討などが求められると述べた。 賛同者の西村氏は「人流と(感染拡大という)結果の間にはいくつものプロセスがある。 その一つ一つをつぶしていくことがとても大事。 そのためには、『入り口』のところの空気感染への対策をきちんとやらなければいけない。」と述べた。 (野口憲太、asahi = 8-27-21) J & J の新型コロナワクチン、追加接種で「抗体 9 倍」 米製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン (J & J) は 25 日、開発した新型コロナウイルスのワクチンを 1 回目の接種後、さらに追加接種することで、ウイルスに対する抗体が大幅に増えることがわかったと発表した。 J & J のワクチンは、2 回接種が必要なファイザー製などと違い、1 回の接種で十分な効果が得られるとされてきた。 今回の研究では、1 回接種から 8 カ月後にもう一度接種することで、1 回目の接種後よりも、9 倍の量の抗体が体内で確認できるようになったという。 追加接種をめぐっては、米政府が 9 月 20 日から、ファイザー製とモデルナ製を 2 回打った 18 歳以上を対象に、3 回目の追加接種を始める。 J & J は「米国や欧州などの当局と追加接種について協議している」としている。 米国ではファイザー製とモデルナ製、J & J 製のワクチンが接種されている。 J & J 製を打った人に血栓ができる副反応がまれに起きることが報告されたこともあり、米国内で接種された計約 3 億 6 千万回のうち、ファイザー製が約 2 億回、モデルナ製が約 1 億 4 千万回を占めるが、J & J 製は約 1,400 万回にとどまっている。 日本では、J & J は厚生労働省に承認申請しているが、政府との供給契約は現段階では結んでいない。 (ワシントン = 合田禄、asahi = 8-25-21) ワクチン 3 回で 2 回より発症 86% 減 ファイザー製調査 新型コロナウイルスのファイザー製ワクチンをめぐり、イスラエルの保健機構は 18 日、3 回目の接種に効果があったとする暫定的な調査結果を発表した。 60 歳以上の場合、3 回目の接種をした人は 2 回接種の人に比べ、発症を 86% 減らす効果があったという。 イスラエルでは今月 1 日、2 回目の接種から 5 カ月以上が経過した 60 歳以上を対象に 3 回目のワクチン接種を始め、すでに 60 歳以上の半数以上が 3 回目の接種を終えた。 現在は対象を 50 歳以上に拡大している。 イスラエルでワクチン接種を担う保健機構「マッカビ」によると、60 歳以上で 3 回目を接種して 1 週間以上たった人と、1 - 2 月に 2 回のみ接種した人を比較調査したところ、前者は後者に比べ、発症した人が 86% 少なかった。3 回接種した 14 万 9 千人超のうち陽性反応を示したのは 37 人にとどまった一方、2 回のみ接種した 67 万 5 千人超のうち 1,064 人が陽性となったという。 調査を行った専門家は、「3 回目の接種は、感染を防ぐにも重症化を防ぐにも有効であることが示された。 3 回目の接種が感染拡大を抑える解決策だ」としている。 (エルサレム = 清宮涼、asahi = 8-19-21) |