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「鋼鉄の長城に頭ぶつけ血流すだろう」習氏、異例の演説

中国の習近平(シーチンピン)国家主席は中国共産党の結党 100 周年の記念式典となる 1 日、天安門広場に集まった 7 万人超を前に演説を行い、党や自らの実績を強調するとともに、異例の激しい言葉で対外圧力に徹底的に対決する姿勢をあらわにした。 「我々は、全党、全国の各民族や人民の奮闘を経て、小康社会(ややゆとりのある社会)を全面的に実現した。」 午前 8 時過ぎ。 天安門の楼上から演説した習氏は冒頭、歴代指導部が目標としてきた小康社会の実現を宣言。 目標を果たしたことで、自らの指導力を示した。 その後は、共産党の功績を強調する言葉が並んだ。

「中国が共産党を生み出したことは、世界の歴史で例をみない大変化だ。 中国人民と中華民族の運命を変え、世界発展の趨勢と構造に変化をもたらした。」 「中国共産党がなければ新中国もなく、中華民族の偉大な復興もないということは、党成立以来の 100 年の歴史、建国以来 70 年の歴史が証明している。 党の指導は中国の特色ある社会主義の最も本質的特徴で、最大の優位性だ。」

「教師づらの説教は …」 強烈な表現、次々に

来年の党大会で総書記の任期を迎える習氏。 「2 期 10 年」の慣例を破って続投するとの見方が広がる中で、さらに自らの実績も誇示していった。

「党の 18 期(習氏の就任)以来、中国の特色ある社会主義は新時代に入った。 中華民族は立ち上がり、豊かになり、強くなるという大飛躍を遂げ、中華民族の偉大な復興の実現は、逆戻りできない歴史のプロセスに入った。」

そして、台湾海峡への圧力強化や、香港民主派やメディアの摘発や新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐって国際社会から批判が強まっていることを受けて「中国共産党と人民を切り離そうとするいかなるたくらみも実現しない」と主張した。

さらに「有益な提案や善意の批判は歓迎するが、『教師づら』の説教は絶対に受け入れない」、「我々をいじめ、服従させ、奴隷にしようとする外国勢力を中国人民は決して許さない。 もし何者かがそんなことを妄想すれば、14 億の中国人民が血肉をもって築いた鋼鉄の長城に頭をぶつけ、血を流すことになるだろう」などと異例の強烈な表現で批判を受け付けない姿勢を示した。

共産党の悲願とされる台湾問題については、「祖国の完全統一は決して志を変えることのない党の歴史的任務だ」と強調した。 「中華民族の偉大な復興という『中国の夢』は必ず実現できる!」、「共産党万歳!」、「中国人民万歳!」。 習氏が最後に力強く声を上げると、天安門広場の観衆からは大歓声があがった。 (北京 = 高田正幸、asahi = 7-1-21)

〈編者注〉 残念ながら、習近平の言葉は、真の強者が発するものではありません。 むしろ、心の奥底に潜む「恐怖」をまるで払いのけるように発せられた叫びのように感じられます。 日本人の編者すら感じるのですから、中国に住む方々は、もっと明確に受け取ったのではないでしょうか? 敢えて付け加えると、「確実に中国は変わる」と言ってもいいでしょう。

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「異質の大国」と渡り合うには 強さと弱さ併せ持つ中国

習近平(シーチンピン)指導部は 7 月 1 日、中国共産党の結党 100 年を盛大に祝う。 街角には党史をモチーフにしたオブジェが飾られ、天安門広場では大規模な式典のリハーサルが続く。 香港や新疆をめぐる強権支配、海洋などでの覇権主義的な動きに懸念を強める世界は、式典を複雑な思いで見つめるに違いない。 「中国に共産党の統治があったことは、中国、中国人民、中華民族にとっての一大慶事である。」 習氏は今月発表した論文でこう自賛したが、彼らの高揚感が強まるほど国外の当惑と反発は深まる。 それがここ数年の共産党政権の振る舞いがもたらした現状だ。

しかし世界はリーマン・ショックへの対応、ハイテク分野の急進ぶりや第 2 波以降の新型コロナの感染抑止などで、中国の独自のシステムが持つ力も目の当たりにしてきた。 「異質の大国」の台頭と膨張は、日本を含む世界が向き合わざるを得ない事実だ。 渡り合うためには拒絶や批判だけでなく、彼らの強さと弱さを併せ見る冷静さが欠かせない。 その核心にある中国共産党の生命力や自信の由来を、彼らが抱えるもろさや危うさとともに探る努力も必要になる。 (中国総局長・林望、asahi = 6-28-21)

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注ぎ込んだヒト・モノ・カネ コロナ禍、中国の光と影

6 月初旬、夕闇に包まれ始めた北京市郊外。 経済開発区を流れる川のほとりに建設中のビルのあちこちで溶接作業の火花がはじけ、闇を裂く。 道路に面した正面側だけでも同時に 10 本近くのクレーンが伸び、作業員たちがせわしなく動き回っていた。

「108 号棟」。 そう呼ばれるこのビルは、国有製薬会社「中国医薬集団(シノファーム)」傘下のワクチン製造企業「中国生物技術」の工場だ。 完成すれば同社にとって北京で 3 カ所目の新型コロナウイルスワクチン生産工場となり、年間 10 億回超分の生産を担う。

3 月に本格的な工事が始まり、現場には「党への誕生日プレゼント」との横断幕が掲げられた。 誕生日とは、中国共産党が結党 100 年を迎える 7 月 1 日を指す。 500 人以上の作業員が 24 時間態勢で作業を続け、100 日余りで落成させる計画だ。

作業員は「絶対に間に合わせる。 ワクチンはまだまだ足りないんだから。」と語った。 多大なコストがかかり、高い安全性も求められるワクチン開発は企業にとってリスクを伴う。 日本では政府の支援も限定的になり、開発は後手に回った。

中国共産党の結党から 100 年。 連載「『強国』の現在地」は、世界の盟主の座を見すえ、米国との覇権争いに挑む共産党の力の源泉や、待ち受ける課題を探ります。 連載の第 1 回はワクチンをめぐって中国政府がどう動いたかを描きます。

言い切った「採算の心配はいらない」

一方、中国政府は、研究開発と、ワクチン完成を見込んだ生産設備の整備を同時進行させた。 昨年 1 月 23 日の武漢封鎖から 2 日後、習近平(シーチンピン)国家主席や李克強(リーコーチアン)首相ら 7 人で構成される党最高指導部の政治局常務委員会を招集し、「ワクチンの研究開発を急ぐ必要がある」と指示すると、昨年 2 月 15 日には政府と国有企業などで「ワクチン研究開発専門班」が発足し、ほぼ時を同じくして量産用の工場建設にも着手したのだ。

支援も手厚かった。 専門班の政府側担当者は企業側に「採算の心配はいらない」と言い切った。 開発資金の保証や感染終息後も政府が保管用として買い取りを続けることなども約束された。 それからわずか 2 カ月後、シノファームのワクチンは臨床試験の段階に入り、ほぼ同時に北京に年産 1 億 2 千万回分の能力を持つ「世界初」の新型コロナのワクチン工場が落成。 治験用ワクチンの供給を担った。 9 月には一般接種の開始を見越して年産 8 億回分の北京で 2 カ所目の工場建設に着手。中国本土で一般接種が承認された 12 月に完成した。

そして、シノファームのワクチンが世界保健機関 (WHO) の緊急使用リストに入った今、完成を迎えるのが「108 号棟」だ。 国内での接種の加速や途上国への供給で高まる需要を支える役割を担う。 稼働すれば、同社製ワクチンだけで年間生産量は 50 億回分以上。 ほかのメーカーを加えれば、中国本土内で年 70 億回分以上の生産態勢となる。

最高指導部からのトップダウンでヒト、カネ、モノなど必要な資源を惜しみなく注ぎ込む。 共産党はこうしたやり方を「力を集中して大事をなす」と称し、欧米にはない「体制の優位」の一つと位置づける。 それが発揮されたのが、新型コロナの危機対応だ。

ウイルスとの闘いで自由主義体制の国々が感染対策と私権制限のバランスに苦慮する中、中国は共産党の強権的な支配の下、国家のあらゆる資源を投下する独自の統治システムで感染拡大を抑え込んだ。 1,100 万人都市の武漢を丸ごと封鎖し、数週間で専門病院や隔離施設を整備。 厳しい移動制限などで中国本土では半年を待たずに「新規の市中感染ゼロ」になる日を記録し、世界に先駆けて経済を回復軌道に戻した。 「第 2 波」以降の対応でも感染者が出た地域で共産党員や医療関係者を大量動員し、感染地域の封鎖や濃厚接触者の徹底隔離、さらに数日間で 1 千万人もの PCR 検査を施すやり方で拡大を防いできた。

武漢では今、「未来の戦時」に備えるとして、市郊外の 4 カ所で 1 千床以上の巨大病院の建設が進められている。 新型コロナに続く未知のウイルスが現れた場合、隔離病棟などとして使われるといい、建党 100 年の 7 月に完成する。

光をあてることが許されない負の側面

近年、経済や科学技術、軍事など様々な分野で「強国」を目指す中国の台頭は著しい。 米バイデン政権が中国との対立を「民主主義と専制主義」の体制をめぐる競争と定義したことは、国家的な目標に異論を許さずに突き進む共産党の統治モデルが、米欧の政治システムの優位を揺さぶっていることの裏返しでもある。 しかしその統治は、過ちも犯してきた。 毛沢東が 1958 年から進めた無謀な増産計画「大躍進」は経済を破綻させ、数千万人とも言われる餓死者を出した。

コロナの初期対応でも、武漢市や湖北省は国会に当たる全国人民代表大会の前に開催しなくてはならない地方議会の政治日程を優先し、コロナの危険性を訴える情報提供が制限されて感染拡大を招いた。 米政権が、中国側が繰り返し否定する新型コロナウイルスの「武漢研究所流出説」を根強く唱えるのも、中国共産党による情報統制がもたらす不透明さにある。

感染が出た地域では強制的な外出禁止措置が取られ、住民の不満が噴出した。 休業に追い込まれた飲食店は党の「指導」の前に補償の要求さえできない。 中国メディアがコロナを封じ込めたことを美談として報じても、こうした負の側面に光をあてることは許されない。 共産党政権の「成功」は、こうした多くの犠牲や忍耐の上に成り立っている。

武漢市郊外で建設が進む新病院周辺の農村では、住民が計画を知らされたのは着工のわずか 1 週間前。村人の家々は取り壊され、別の場所に建つマンションの部屋をあてがわれるという。 住民の熊秋栄さん (74) は、「同意も何もなく、国が『病院を造る』と言ったら造るんです。 仕方が無いことです。」と淡々と語った。 習氏は総書記就任直後の 12 年、中国と共産党の歩みを振り返って「我々は探求の末、ついに正しい道を見つけた。 我々はこの道を迷わず進む。」と語った。 結党から 100 年を迎え、多くの矛盾を抱えながらも自信を深める巨大政党は、14 億人の大国をどこに導こうとしているのか。

連載「『強国』の現在地」は、米国との「体制間競争」に入った中国共産党政権の力の源泉や、待ち受ける課題を探ります。 (北京 = 平井良和、asahi = 6-22-21)


英国の空母、なぜアジアへ 中国の反発覚悟で求めるもの

記事コピー (2-28-21)


中国国営 TV、ボーダフォン独法人も放送停止 欧州全域に波及も

[ベルリン] 英通信大手ボーダフォンのドイツ法人は 12 日、自社のケーブルテレビサービスで中国国際テレビ (CGTN) の視聴を停止すると明らかにした。 ボーダフォン独法人は、有効な放送免許がないと説明した。 英放送通信庁 (Ofcom) は 4 日、国営 CGTN の放送免許を取り消したと発表。 調査の結果、中国共産党が番組の最終的な編集権を握っていることが結論付けられ、英放送法に反すると述べた。

これに対し、中国の放送行政を担う国家広播電視総局は 12 日、英 BBC の中国国内での放送を禁止。 香港でも、公共ラジオ放送の香港電台 (RTHK) が BBC からの中継放送を 12 日から一時停止すると発表した。 独ノルトライン・ヴェストファーレン州のスポークスマンによると、同国では英免許に基づき CGTN が放送されていたが、英国も加盟する放送に関する欧州の協定では免許が他国にも適用されるため、CGTN は域内全域で放送停止を迫られる可能性がある。 (Reuters = 2-13-21)

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中国、BBC の放送停止 報道指針に「深刻な違反」

中国の放送規制当局は 11 日、英 BBC ワールドニュースの報道内容に国内報道指針の「深刻な違反」があったとして、同局の放送を停止したと発表した。 国家ラジオテレビ総局 (NRTA) は、BBC ワールドニュースの中国に関する報道で、ニュースは「事実に即し公正であるべき」で「中国の国益を害さない」とする放送指針の「深刻な違反」があったと発表。 「BBC に中国での放送継続を認めず、BBC による次年の放送申請も受理しない」と表明した。

BBC は今月 3 日、中国国内の収容所でウイグル人女性らが受けたとされる拷問や性的暴行について報道。 また英国の放送規制当局は今月、中国国営英語放送 CGTN の所有構造が英国法に違反するとして、CGTN の放送免許を取り消していた。 BBC は中国の決定に遺憾の意を表明。 同社の広報担当者は「BBC は世界で最も信頼されている国際ニュース放送局で、世界各地からのニュースを公平・公正かつ偏向なく報じている」と主張した。

ドミニク・ラーブ英外相は、「容認できないメディアの自由の剥奪」だと批判。 「中国は、メディアとインターネットの自由に対し、世界で最も厳格な水準の規制を設けている。 今回の措置は、世界での中国の評判を損なうことにしかならない」と表明した。 米国務省のネッド・プライス報道官も、「われわれは中国の BBC ワールドニュース放送停止の決定を断固非難する」と表明。 「国民に対し強権支配を行う中国などの国々に対し、インターネットへの完全なアクセスと報道の自由を認めることを求める」とした。 (AFP/時事 = 2-12-21)

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イギリス、中国国営テレビの英語放送の免許取り消し

イギリス通信業界の独立監視機関、放送通信庁 (Ofcom) は 4 日、中国の国営テレビ「中国環球電視台 (CGTN)」のイギリス国内での放送免許を取り消した。 CGTN のライセンスを保有するスター・チャイナ・メディア・リミテッド (SCML) が、英語の衛星ニュース・チャンネルについて「編集責任」を持たないことが、Ofcom のルールに違反したためとしている。

発表の中で Ofcom は、「SCML は認可されたサービスについて法的に求められている責任を果たしておらず、放送免許の合法的保持者とはいえない」と結論している。 イギリスの放送法では、放映するサービスやその編集方針については放送免許の保持者が責任を担う必要がある。 また、放送免許をもつ事業者は特定の政治団体に影響されてはならないという決まりもある。

「努力も底を尽きた」

Ofcom によると、CGTN の番組内容について「究極的な決定権」は、中国国際電視台総公司という会社が握っている。 しかし、「この組織は究極的には中国共産党に支配されており、これはイギリスの放送法では認められないため」、SCML の放映ライセンスを CGTN へ移管できなかったという。 Ofcom はまた、「申請書に重大な情報が欠けて」おり免許の移管が不可能だったことや、CGTN が「重要な質問に繰り返し回答しなかった」こと、組織再編を行わなかったことなどを明らかにした。

その上で、CGTN には「法定のルールに従うために十分な時間を与えた」が、「そうした努力も底を尽きた」と述べた。 Ofcom は昨年 7 月、CGTN が上海で拘束されたイギリス人ジャーナリストのピーター・ハンフリー氏が「刑事犯罪を自白しているように見える」映像を放送し、放送規定に違反したと発表していた。 ハンフリー氏は 2013 - 2015 年に上海で拘束され、「裁判を受けず、でたらめの罪状で」収監されていた。 この映像が放送された 2013 - 2014 年、CGTN は「中国中央電視台 (CCTV) ニュース」というチャンネル名だった。 また 5 月には、香港で行われた反政府デモについての放送で公平性を保たず、イギリスの放送規定に違反していた。

BBC に謝罪要求

Ofcom の決定が発表されると、中国政府は、新型コロナウイルスをめぐる報道で BBC が「フェイクニュース」を流したとして「厳しく抗議」すると発表。BBC に謝罪を要求した。 中国外交部は BBC に対し、「思想的偏向、中国を中傷したりするのを止めるとともに、プロとしての倫理観を持ち、中国について客観的で公正な報道をするよう」求めた。 BBC はこれに対して、「中国での出来事について正確かつ公平な報道をしており、フェイクニュースや思想的偏向などという無根拠な批判を、完全に否定する」と声明を発表している。 (BBC = 2-5-21)


中国政府、「クラブハウス」規制か 台湾などの議論警戒

米国発の音声型の SNS 「Clubhouse (クラブハウス)」が 8 日夜、中国本土で使えなくなった。 台湾や香港の問題など政治的な内容が自由に議論されていることから、中国内での影響拡大を警戒する中国政府が規制に踏み切ったとみられる。

クラブハウスは招待制で、テーマごとに「ルーム」と呼ばれる交流の場所をつくり、利用者同士で音声だけの会話を楽しむ。 香港メディアによると、中国でも利用者が増え始める中、台湾や香港国家安全維持法などの問題を台湾や香港の利用者と議論している点が注目されていた。 中国当局は国内で米フェイスブックやツイッター、LINE といった海外の SNS の利用を制限するなど、情報統制を強めている。 クラブハウスの利用者が中国内で急増して影響力が大きくなる前に、規制した可能性がある。 (北京 = 西山明宏、asahi = 2-9-21)

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中国の静かな 2 週間の実験 - ネット開放拡大容認し、国民監視継続か

→ ブラウザー「チューバー」で外国サイトへのアクセスが一時可能に
→ 熱狂的な歓迎は中国に鬱積した欲求の証し - ASPI ライアン研究員

静かな実験だった。 中国で禁じられている「ユーチューブ」や「インスタグラム」など外国のウェブサイトに本土からのアクセスが 2 週間だけ可能だった。 共産党政権は世界のインターネットに国民がより広くアクセスできるようにする一方で、誰が外国のどのようなサイトを見ているかの監視を図ろうとしているようだ。

中国政府も関係しているサイバーセキュリティー大手、三六零安全科技(360 セキュリティー・テクノロジー)が支援するモバイルブラウザー「Tuber (チューバー)」は 9 月後半、派手な広告もなく登場し、フェイスブックやグーグル、ニューヨーク・タイムズなどずっと禁止されていたサイトへのアクセスを可能にした。 違法な VPN (仮想私設網)なしでスマートフォンのブラウザーからこうしたコンテンツを直接閲覧できることは、中国のネットユーザーから歓迎された。

中国ネットユーザー称賛のアプリ消える - 国外サイトへの窓口なくなる

華為技術(ファーウェイ)運営によるものも含め複数のアプリストアに登場したチューバーは、9 億 400 万人のネットユーザーが禁じられていたサイトにアクセスできるようにするやり方を中国政府が実験していることを示唆していた。 国家による検閲の特徴を備えていたチューバーが説明もなくアプリサイトから消えたのは今月 10 日だった。 オーストラリア戦略政策研究所 (ASPI) のファーガス・ライアン研究員は、中国が「よりオープンな方向に向かうと見なすことも可能で、チューバーに関する展開は興味深い。 だが、実際に機能することになれば、アプリユーザーは厳しく監視され、このプラットフォーム経由でアクセスできる情報は検閲組織のフィルターにかけられるだろう」と指摘する。

検閲 2.0

「検閲 2.0」と言える状況だ。 新型コロナウイルス感染症 (COVID19) の感染拡大をうまく封じ込めたことで、中国政府は国民の支持を得ていると自信を深めている。 そして、科学的およびテクノロジーの研究の質を直ちに高める必要性のために、少なくとも一部国民によるネットアクセス拡大を容認するという考え方を政府が受け入れやすくなっていると捉えることもできるだろう。 中国政府はまた、国外で反中感情が広がっていることも認識している。

国民監視を強める政府は、テンセント・ホールディングス(騰訊)や動画投稿アプリ「TikTok (ティックトック)」を手掛ける北京字節跳動科技(バイトダンス)などの中国企業にコンテンツを検閲し、政府に批判的だったり政府方針にそぐわない内容が見つかれば削除するよう求めている。 中国には「防火長城(グレートファイアウオール)」と呼ばれる大規模なインターネット情報検閲システムがあるが、このシステムをかいくぐるために一般的に使われてきたのが VPN だ。 政府は数百の VPN 排除に数年にわたり取り組んでおり、国公認のインターネット窓口というアイデアは、VPN の有用性を低下させる可能性がある。

TikTok と微信、コンテンツ検閲を中国以外にも広げる - 豪研究所

チューバーは少なくとも 9 月後半以後、ファーウェイのアプリストアから 500 万回ダウンロードされた。 こうした熱狂的な人気を呼んだのは、このアプリの開発企業がテクノロジー業界の大物で資産家の周鴻●(= 示偏に緯のつくり)氏から支援を受けているということも一因だ。

周氏は自身のセキュリティー企業、奇虎 360 の米国上場を 2016 年に廃止しているが、奇虎が政府の承認なしにチューバーを開発し流通させた可能性は低い。 同社は中国人民解放軍向けのプロジェクトに取り組み、機密性の高いサイバーセキュリティー問題で政府に助言していると報じられている。 米商務省は今年 5 月、周氏の会社 2 社に制裁を発動。 この 2 社など大学を含む 24 4団体を米国側は人民解放軍とつながりがあり、国家安全保障を脅かす恐れがあると判断した。

中国が強く反発、米国の対中禁輸拡大 - 米中デカップリング進行か

アプリストアからのチューバー排除を政府機関が命じたかどうかは分からない。 三六零安全科技の広報担当者はコメントを控えている。 ブルームバーグ・ニュースは 10 日から中国サイバースペース管理局 (CAC) に電話と電子メールで取材を試みているが、返答はない。

欲求の証し

チューバーはユーチューブなどで一部のコンテンツを検閲していたとみられている。 中国語で習近平国家主席の名前を検索すると上海と天津、マカオのテレビ局だとする 3 つのアカウントによって投稿されたビデオクリップ 7 本だけが出てきた。 英語で共産党総書記でもある習氏の名前を検索しても何も出てこなかった。 中国内にある全スマホの電話番号は中国の身分証明番号とリンクしており、チューバーのダウンロードには携帯電話番号の登録が必要だった。 ASPI のライアン研究員は「特定のアプリに関するニュースが中国で急速に広まり、大きな興奮を招いたという事実は世界のインターネットにアクセスしたいという中国に鬱積している欲求の証しだ」とみている。 (Bloomberg = 10-13-20)


中国のウイグル政策をジェノサイド認定 米新政権も同意

ポンペオ米国務長官は 19 日、中国政府のウイグル族政策について、人道に対する罪に当たると認定し非難する声明を発表した。さらに、一連の政策は漢民族に同化させ民族として消滅させようとするもので、「ジェノサイド(集団殺害)」にあたると糾弾。 次期国務長官に指名されたブリンケン元国務副長官も、19 日の公聴会でジェノサイドとの認定に同意すると回答した。 中国政府は強く反発している。

ポンペオ氏は声明で、中国政府は共産党の指示の下、ウイグル族などイスラム教徒の少数民族に対して、強制収容などで 100 万人以上の自由を奪ったほか、強制労働を課したり信教の自由を制限したりするなどしたと指摘。 ある民族に対する集団殺害という意味で使われることの多い「ジェノサイド」とした理由については、そうした事実の有無には踏み込まず、「民族的、宗教的マイノリティーを強制的に同化させ、最終的に消滅させようとしている」と説明した。

トランプ政権は中国政府の政策は民族抑圧だと問題視し、複数の制裁措置を発動してきた。 20 日にバイデン次期政権が始動するが、ポンペオ氏は退任直前に中国の行為を人道に対する罪と認定することで、次期政権も同様の立場を維持することを狙ったとみられる。 これに対し、中国外務省の華春瑩報道局長は 20 日の定例会見で「ポンペオ氏のばかげた大うそに過ぎない」と反論。 在米中国大使館も声明で「ジェノサイドなど全くのでたらめで、中国を中傷するための茶番劇だ」と批判した。

一方、次の米国務長官に就任するブリンケン氏は 19 日の公聴会で、「ポンペオ氏が発表したジェノサイドとの認定に同意するか」と問われ、「イエス」と答えた。 中国政府にはバイデン政権との関係構築への期待もあるが、民族問題や人権問題での圧力が維持・強化される可能性もあるとみて、ブリンケン氏の発言の真意に注目している。 (ワシントン = 大島隆、北京 = 冨名腰隆、asahi = 1-20-21)


英国、ウイグル強制労働関係の商品排除へ 中国は反発か

英国政府は 12 日、新疆ウイグル自治区での強制労働に関係した製品を英国内から排除する、と発表した。 原材料の調達網から強制労働を排除していることの証明を企業に求める方針。 ウイグル族への人権侵害には国際的な批判が高まっており、これを否定する中国側は反発しそうだ。 ラーブ外相はこの日の英議会で、ウイグル族への人権侵害について、現地を訪れた外交官の報告などから裏付けがあるとして「規模と深刻さは本当に悲惨な状況だ」と指摘した。 「英国には対応する道徳的義務がある」とし、「人権侵害の産物が英国のスーパーの棚に並ぶことがないようにする」と述べた。

具体的には、新疆と取引のある企業が守るべき義務を詳述した指針を策定する方針。 原材料の調達網に関する透明性の確保を求め、義務に違反すれば罰金を科せるよう、必要な法整備を進める。 強制労働に関与した企業を公共調達からも締め出すため、英政府機関向けの指針もつくる。 新疆ウイグル自治区をめぐっては、米国政府が昨年 9 月、「強制労働で生産された」として新疆の綿を使ったアパレル製品などの一部の輸入禁止に踏み切っている。 英国政府によると、新疆での強制労働への対応強化は、豪州やフランス、ドイツ、ニュージーランドも検討しているという。 (ロンドン = 下司佳代子、asahi = 1-13-21)


中国「利益侵害」で軍動員も 国防法改正、米制裁意識か

【北京 = 羽田野主】 中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は 26 日、改正国防法に署名した。 中国の国益が脅かされたと判断した場合などに軍民を総動員して対抗できる態勢をとる狙いがある。 米国の経済制裁なども意識し、強軍路線を進める方針とみられる。 中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)常務委員会が 26 日に同法を可決した。 11 年ぶりの改正で、2021 年 1 月 1 日に施行する。 21 年 1 月に発足するバイデン次期米政権を意識した可能性がある。

人民解放軍が守る対象として国家主権や領土などと並び「発展利益」を明記した。 「発展利益が脅威にさらされた場合に全国または一部の動員を進める」と盛り込んだ。 発展利益の具体的な定義は書かれていない。 習氏は 10 月の演説で、朝鮮戦争で中国が北朝鮮を支援して米国と戦った歴史を振り返り「われわれは決して国家主権、安全保障、発展利益が損なわれるのを座視することはない」と述べた。

経済制裁も発展利益の侵害ととられかねないとの懸念が出ている。 東大の松田康博教授は「発展利益の定義があいまいで、拡大解釈につながる危険性がある。 軍が暴走するきっかけにもなりかねない」と指摘する。 トランプ米政権は中国に制裁関税を課し、中国最大の通信会社、華為技術(ファーウェイ)の排除などを進めてきた。 中国専門家はバイデン次期米政権による強硬策をけん制したとみる。 国防法は中国の安全保障の基本法。 共産党が軍を指導すると明記する。 (nikkei = 12-26-20)


中国の独禁規制強化案、曖昧さが臆測呼ぶ - 最悪のシナリオ想定も

→ 米西部開拓期のようなネット業界巡る「幅のある政策の時代」終わる
→ 1 つの巨大事業体に全てを認める国は世界にない - −証券弁護士

曖昧模糊とした言葉遣いの多い 22 ページにわたる文書が、中国の大手インターネット企業の将来に影を落としている。 独占禁止を強化する政府の指針案だ。 習近平政権が準備を進める新たな独禁規定が、アリババグループやテンセント・ホールディングス(騰訊)などにどれほどの悪影響を及ぼすか、投資家は見極めようとしている。 アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が育てたフィンテック企業アント・グループは超大型の新規株式公開(IPO)を計画していたが、上場直前で突然中止となった。

これまで大抵の場合そうだったように、中国指導部は規制をどれほど急いでいるのかや、今行動すると決めた理由についてほとんど説明していない。 ただ 10 日に公表された独占的行為禁止の新たな指針案は、中国における生活のほぼあらゆる面に拡大した企業帝国を率いる馬氏のような起業家を黙らせる広範な裁量を政府に付与した。 上海の法律事務所ジョイントウィン・パートナーズの証券弁護士ジョン・ドン氏は米国の西部開拓期のような緩い規制に基づくネット業界を巡る「幅のある政策の時代は終わった」と指摘した。

だが、当局は劇的な変更を始めようとしているわけではなく、ネット企業の監督権限をより明確にしつつあるだけだとの楽観的な見方もある。 CLSA のアナリスト、エリノア・レオン氏(香港在勤)は「各ネット企業のリーダーが一定の影響を受け、やり方の調整が必要になる可能性はあるものの、リーダーシップに影響が及ぶ公算は小さい」と述べ、「インターネット企業は生来、規模を必要とするビジネスだ」と説明した。

懸念の 1 つは新たな独禁規定を取り巻く不確実性だ。 当局が何を準備しているのか、よりはっきりさせるまで、投資や買収、ベンチャーキャピタルの資金調達が冷え込む恐れがある。 最悪のシナリオは、起業で成功し富を成したテクノロジー長者が高慢だとして不満を抱いた中国指導部が、たとえ経済と市場に短期的な痛みをもたらそうとも、そうした企業を分割することで教訓を与えたいと考えることだ。 中国を 70 年余りにわたり統治する共産党と民間セクターの関係は常に微妙だ。 10 月の金融会議で、アリババの馬氏が急成長分野を統制する当局の試みを近視眼的で時代遅れだと発言をしたことが、最近のフィンテック企業締め付けにつながったと多くのコメンテーターが論じている。

独禁指針案の文章は極めて曖昧で、不吉な脅しのようにも読み取れる。 違反企業は買収を禁止される可能性があり、買収計画を進めることが認められたとしても、保有資産の売却や知的財産・テクノロジーの共有、競争相手へのインフラ開放、アルゴリズム調整が強いられ得る。 ジョイントウィンのドン氏は指針案について、「最終的に子会社分離を招く可能性が非常に高い。 応じられない小さめの企業の多くがなくなるという結果になるかもしれない」と予想。 「1 つの巨大事業体に全てを認める国は世界にない」との認識も示した。 (Bloomberg = 11-13-20)


モスクになびいた国旗 記者には尾行、中国メディア沈黙

中国新疆ウイグル自治区で、ウイグル族の信仰の拠点となっているモスクが相次ぎ閉鎖・改造されている - -。 そんな情報の真偽を確かめるため、記者は自治区の区都ウルムチに向かった。 観光スポットの「大バザール(市場)」から東へ 1 キロ余り。建物の 3 階ほどの高さはある 4 本の緑色の円柱が特徴の黒甲山モスクは、鉄製の門が閉じられたままだった。 円柱の最上部にあったイスラム教のシンボルの新月は切り落とされ、鉄の棒が折れ曲がっている。 モスクの中をのぞくと、大量の建築資材やゴミが散らかっていた。

かつてここで礼拝していたというウイグル族の男性は「新年には多くのイスラム教徒が集まり、入りきれない人が建物の外からも祈っていたのに」と嘆く。 このモスクには、毎週金曜日には 5 千 - 1 万人が礼拝に訪れていたという。 新疆でモスクが閉鎖・改造されている問題は、中国国内でほとんど報道されていない。 記者は複数の人物からの尾行を感じながら、慎重に取材を続けた。 この地区を管轄する共産党委員会の幹部によると、モスクは 2017 年、耐震性が不十分だとして「危険な建造物」に指定されたため、「人民の命を最優先して閉鎖した」という。

建物は近づかないよう警告が貼られているだけで放置されたままだ。 別の地元政府関係者はモスクは保存されると話したが、党委員会の幹部は「この地区に来たばかりなので分からない」と言葉を濁した。 市内の水磨溝区にある緑のドームが特徴の高家荘モスクも閉鎖されていた。 ここも新月の装飾は取り外されている。 がっしりとした石造りの建物だが、隣接する居住区を管理する職員によると、やはり「危険な建造物」に指定され、2 - 3 年前に閉鎖されたという。

記者はウルムチで現在も地図アプリに表示される比較的大規模なモスクを中心に 8 カ所をまわり、うち 2 カ所が閉鎖されていることを確認した。 オーストラリア戦略政策研究所 (ASPI) の分析によると、新疆で破壊されたり改造されたりしたモスクの比率は、ウルムチが 35%、カシュガルが 46%。 観光客や外国人も訪れる両都市の率は比較的低く、新疆北部や南部の農村部では 80% 以上の地区もあった。

モスク閉鎖が相次いでいることについて、ウイグル族と同じくイスラム教を信仰する回族の男性はこう話す。 「小さなモスクを閉鎖し、礼拝する人を大きなモスクに集めた方が管理がしやすいからだろう。」 新疆でモスクが閉鎖されたり、改造されたりしている問題は、中国国内ではほとんど報道されていない。 記者の取材に当局の妨害はなかったが、当局者とみられる複数の男性の尾行を受けることもあった。

政治的に敏感な問題であることは当事者たちも承知している模様だ。 カシュガルで翡翠の土産店に改装された店は、地図アプリにモスクだった写真が残っているが、店員は「自分たちで建てた」と主張した。 カフェに改装して営業していた店は、関係者に話を聞いた4日後、SNS 上に「緊急公告」を発表。 建物の老朽化などを理由に、無期限で営業を中止すると発表した。

モスクに掲げられたスローガン

一方、閉鎖を免れて残っているモスクでは、習近平(シーチンピン)指導部が唱える「中国化」が進んでいる。

党とともに歩み、党に恩を感じ、党の話を聞け。

ウルムチ市水磨溝区にある六道湾モスクには、赤地の布にこんなスローガンが掲げられていた。 中国国旗がはためき、「富強、民主、和諧、愛国」といった中国共産党が唱える「社会主義の核心的価値観」の標語も飾られていた。 習指導部は 15 年の党の重要会議で「宗教が社会主義社会に適応するよう、宗教の中国化の方向を堅持する」との方針を決定。 これ以降、モスクに「民族団結」、「中国夢(チャイニーズドリーム)」などの党の標語が掲げられるようになった。

記者が 9 月に中国南部の海南島を訪ねた際も、モスクには習氏の写真のほか、習氏の著書を読んで学ぶよう求める看板があった。 統制強化の背景には、強まるウイグル族と漢族の対立がある。 09 年に漢族とウイグル族が衝突し、多数の死傷者が出たウルムチ騒乱以降、新疆の警察署などが襲われる事件が頻発。 13 年にはウイグル族が乗ったとされる車が北京の天安門前に突っ込んで炎上するなど過激化し、中国政府は「分裂主義勢力によるテロ」と断じて弾圧を強めた。 ウイグル族の信仰や習俗も「過激思想の温床になっている」として統制の対象となった。

米欧諸国からは多数のウイグル族住民が「収容所」に収容され、深刻な人権侵害が起きているなどとする批判が出る一方、中国政府は新疆で過去 3 年以上「暴力テロ事件」が起きていないとして、新疆統治の正当性を強調。 習氏は 9 月、6 年ぶりに開いた中央新疆工作座談会で、「新疆社会は安定し、中国の民族政策が成功したことを十分に証明した」と強調した。 (ウルムチ = 奥寺淳、asahi = 10-15-20)

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壊されるウイグルのモスク カフェに改装、寝転ぶ観光客

中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区で、イスラム教の礼拝所(モスク)が相次いで閉鎖されたり、カフェに改装されたりしている状況を記者が現地で確認した。 オーストラリアの研究機関は、衛星写真などで調べたモスクの 60% 以上が破壊されたりダメージを受けたりしたと指摘。 ウイグル族住民の信仰や文化を危機に押しやる行為との批判が出ている。 新疆の最西端の街、カシュガルでウイグル族が暮らす旧市街。 10 年ほど前までは、およそ 1 キロメートル四方の範囲にれんがや土壁でできた古い街並みが残っていたが、近年開発が進み、国家指定の重点観光地に造り替えられた。

それでも土産物屋や飲食の露店が並ぶ通りから横道に入ると、ウイグル族が暮らす居住区が残る。 複数の住民によると、旧市街のあちこちにあった小 - 中規模のモスクの大半が、この 2 - 3 年で閉鎖されたという。 今月初め、居住区を歩くと、茶色いれんが造りで、モスクに特徴的な丸いドームがそびえる建物があった。 しかし最上部にあったイスラム教のシンボルの新月は取り外され、カフェに改装されていた。 中に入ると、かつて礼拝所だったじゅうたんが敷かれた広間は休憩室として使われ、漢族とみられる観光客がお茶を飲み、寝そべっている人もいた。 関係者によると、経営者は広東省から来た漢族で、改装して昨年 5 月に開業したという。

近くの住民は、モスクが飲食店や休憩所として使われている様子を「見たくない」と言って顔を背けた。 周辺のモスクもほとんど閉鎖されたといい、「外で礼拝するのは怖いので、家族みんな自宅で拝んでいる」と話した。 この店から徒歩 1 分ほどの距離にあるモスクも、塔の一部が壊され、カフェに改装された。 しかし、欧米から来た観光客が昨年、ツイッターで写真をつけて批判的に投稿。 それがきっかけになったのか、昨年から閉店したままだという。

居住区の東側にある別のモスクは、新月の装飾があった 2 本の塔が壊され、観光客向けに翡翠を売る土産物屋に改装され、福建省出身の店員が働いていた。 旧市街地ではこの 3 カ所を含む小 - 中規模のモスク 6 カ所をまわり、うち 5 カ所が閉鎖されていた。 モスクをカフェに改装した漢族の経営者は取材に、建物は地元政府から賃貸を受けていると説明した。 モスクは党や政府が管理し、閉鎖後は別の用途として貸し出しているとみられる。

同様の動きは新疆各地で起きている模様だ。 豪政府系のシンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所 (ASPI) は 9 月に報告書を公表。 新疆にある約 2 万 4 千のモスクから約 530 カ所を抽出し、衛星写真などを分析した結果、2017 年以降、約 330 カ所が破壊されたり改造されたりしていると指摘した。 ASPI は安全保障やサイバー攻撃などでも中国に批判的な報告書を出している。 英紙ガーディアンと英国の調査報道機関も約 100 カ所のモスクを衛星写真などで調べ、16 年以降に二十数カ所が破壊されたとの分析を明らかにしている。

ASPI の報告について、中国外務省の汪文斌副報道局長は 9 月 25 日の定例会見で、「ASPI は外部から資金援助を受けて、反中国のでっち上げ報告をしている。 新疆の宗教と人権は十分に保障されている」と否定した。 (カシュガル = 奥寺淳、asahi = 10-15-20)

〈ウイグル族をめぐる問題〉 新疆ウイグル自治区にはトルコ系でイスラム教を信仰するウイグル族が多く暮らし、その人口は 2018 年現在、新疆全体の 50% 強の約 1,270 万人を占める。 政府の民族政策などへの反発からしばしば対立が起き、2009 年にはウルムチ市でウイグル族と漢族が衝突して 2 千人近くが死傷。 これを機に警察署や市民などが襲われる事件が相次いだ。 政府はウイグル独立を目指す過激派勢力の犯行として弾圧を強化し、ウイグル族住民への統制も強めた。 米国務省などは中国当局が新疆各地に造った「収容所」で 100 万人以上の住民を拘束していると指摘。 中国政府は職業訓練施設だと否定している。

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