1 - 2 - 3 - 4 - 5 - 6 - 7 - 8 - 9 - 10

中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切り下げ」の前触れか

その露骨な勢いに、経済的な「核オプション」とも呼ばれる通貨切り下げで景気のテコ入れを図るつもりか、との懸念が広がっている

このところ、中国が国際商品市場でさまざまな商品(= コモディティ)を急ピッチで買い上げている。 その特異な動きにアナリストたちは、中国は「最終兵器」を用意しているのではないか、と疑念を抱いている。  「中国は何か大きなことに備えている。 重要な資源の備蓄を増やしているので、それがますます明らかになってきている。 中国人民元の一回限りの大幅切り下げを準備しているのだろうか?」 ステノ・リサーチのアンドレアス・ステノ・ラーセン CEO は先日、こう問いかけた。

通貨切り下げは、世界的に深刻な影響を引き起こす可能性があるため、経済学者の間では経済的な「核オプション」とも評されている。 例えば、人民元を意図的に切り下げることで、中国は自国の商品の価格をより安く、より競争力のあるものにして輸出を増やすことができる。 だがそこには、貿易相手国を激怒させる、アメリカとの貿易戦争を悪化させる、といった深刻な影響も伴う。 だが、金や石油のような資源をあらかじめ備蓄しておけば、貿易摩擦が起きてもある程度の経済的安定と交渉力を得ることができるし、人民元安による輸入コスト増やインフレなどの悪影響も相殺することができる。

激増した中国の金取引量

中国の中央銀行は今年 3 月も、金の購入を続けた。 金価格が過去最高値を記録し、人民元安が続いているにもかかわらず、中国は 17 カ月連続で金保有高を増やしているのだ。

ドルからの離脱をめざして

エコノミストらはこうした中国の行動を、2022 年のウクライナ侵攻でロシアが受けた経済的打撃を目の当たりにした中国政府が、アメリカとの地政学的緊張の中で準備通過の分散を図っている、と分析している。 かつて国際通貨基金 (IMF) で中国を担当していたコーネル大学のエスワール・プラサド教授は、「公的部門の金購入は、外貨準備をドルなど西側の通貨から分散させたいという願望を反映している」と本誌に語った。

民間部門による金地金や宝飾品の保有量の増加については、「中国の金融システムから資本を移動させる方法であり、国内の政策リスクが背景になっている可能性がある」と、プラサドは言う。 世界最大の輸出国である中国にとっては、通貨切り下げは魅力的かもしれない。 国内のデフレと消費需要の不足に直面する中国は、ますます輸出を増やしたいからだ。 だが、この動きがアメリカやその他の主要貿易相手国との緊張を高めることは間違いないだろう。

中国の産業界はすでに、鉄鋼や化学製品など低価格の輸出品を市場にあふれさせていると非難され、各国でダンピング調査が行われようとしている。 アメリカと EU はすでに、中国の電気自動車に対する関税を検討している。 「中国がドルに対して自国通貨を切り下げる準備をしているとは思わない」と、ラダックトレーディングのマクロアドバイザー、クレイグ・シャピロは本誌に語った。 「だが、中国がロシアやイランのような、欧米の制裁対象国から人民元で購入できる商品を買い続けていることは確かだ。」

台湾侵攻の準備という可能性も

中国が資源を備蓄する動きの背景には、もっと不吉な、別の理由があるかもしれない。 台湾侵攻による国際的孤立に備えている可能性がある。 「中国の習近平国家主席は、西側諸国がウクライナ問題でロシアに対して行った制裁の手口を研究し、中国経済の万一の危機に備えるために長期的な保護措置を開始したようだ」と、元海軍情報局代表のマイケル・スタッドマンはウェブマガジンのウォー・オン・ザ・ロックスに寄稿した。

中国はまた、食料やエネルギーの禁輸という形で制裁を受けた場合、その影響を軽減する方向に動いている。 石油の戦略的備蓄を増やし、「石炭火力発電所の建設に新たな情熱を注いている」というのだ。 「台湾を中国に統一しようとすれば、世界的に激しい反発が起き、厳しい影響が中国社会全体に及び、何年も続くことを習は知っているのだろう。 そして習は、中国がそれに耐えられるように準備するつもりなのだ。」とスタッドマンは主張した。

中国政府は台湾を自国の領土だと主張しているが、中国共産党が台湾を統治したことは一度もない。 米政府高官は、習が中国の軍部に、2027 年までに台湾を侵略する準備をするよう指示したと考えているが、その脅威がどれほど現実的なものか、米政界では意見が分かれている。 (マイカ・マッカートニー、NewsWeek = 5-2-24)


成長率「5% 前後」が集める不安の視線 中国経済、封じられる悲観論

中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が 5 日、北京の人民大会堂で開幕した。 今年1年の政策方針を示す政府活動報告で、今年の経済成長率目標を「5% 前後」に設定した。 一方、市場の予想は 4% 台にとどまり、経済成長率は鈍化するとの予測が多い。 2023 年も 5.2% という高率の経済成長を果たしたはずの中国経済へ、不安の視線が内外から注がれる大きな理由は、強まる不透明さだ。 中国経済の課題を象徴する数字とみられてきた若者の失業率は昨年 6 月分で 20% を超えた後、約半年間公表されなかった。 統計方法を見直したあと、今年 1 月に14.9% という数字が公表された。

「ネガティブな言及をしないよう」指示

昨夏以降は、アナリストらが経済について「ネガティブな言及をしないよう」に当局などから指示されたことが明らかになった。 有力経済誌が改革路線を論じた社説や、ニュースサイト大手が出稼ぎ労働者の困難さを描いた動画などがネット上で閲覧できなくなった。 共産党指導部の姿勢は、昨年末に今年の経済運営について話し合った中央経済工作会議で明確になった。 「中国経済光明論を高らかにうたう」とし、経済の明るい側面を宣伝する方針が打ち出された。 これを受け、スパイ摘発などを担う国家安全省が中国経済の衰退を説く「虚偽の議論」への警戒を呼びかけた。

悲観的な見方によってさらに消費や投資に後ろ向きになってしまうという、「マインド」に注目した議論だとも言える。 物価は上昇しないとの意識が消費者に長く定着した日本の経験に学んだ可能性もある。 ただ、悲観論を封じれば、経済政策を批判的に分析しづらくなりかねない。 日本企業など外資企業に反スパ イ法などの取り締まりへの懸念が高まる中で、国家安全省が警告を発したことも波紋を広げた。

開かれない 3 中全会

政策決定のプロセスも見えにくくなっている。 中国共産党は通例、党大会の翌年秋に中央委員会第 3 回全体会議(3 中全会)を開き、中長期の重要方針を決めてきた。 中国経済の急成長をもたらした改革開放路線は、1978 年の第 11 期 3 中全会が起点になったとされる。 習近平(シーチンピン)体制で初めて開いた 2013 年の第 18 期 3 中全会も、市場開放の加速や一人っ子政策の大幅緩和を打ち出して話題になった。

だが、今回は 2022 年の党大会から 1 年半近くが経つのに開かれていない。 人口が減少に転じたことや不動産頼みの経済が曲がり角にさしかかったことなど、「歴史的」ともいえる節目への指針がないままに、全人代で目下の経済状況への対応に迫られている。 今年の政府活動報告は不動産問題や就職難、高齢化などの課題を並べ、対策への記述も昨年よりも増やした。 ただ、それぞれが中国社会の行方を左右する難題だけに、説明が十分とは言えない。

不透明さを振り払うことに中国当局がどこまで取り組むのか。 世界の関心は、いつになく高い。 中国がそれに答える数少ない機会ともなってきた全人代閉幕後の首相会見も、今年は開かれないことが決まっている。 (北京 = 斎藤徳彦、asahi = 3-5-24)

◇ ◇ ◇

中国、「5% 成長」に漂う手詰まり感 「強国」へ国債 21 兆円

中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が 5 日、北京で開幕し、李強(リーチアン)首相は今年の経済成長率目標を「5% 前後」にすると表明した。 4% 台に鈍化するとの世界の見方に「反論」した格好だが、打開策には乏しい。

全人代の政治活動報告の読み上げ、李首相が一部省略 習氏は硬い表情

「達成は容易ではなく、的確な政策を講じ、倍の努力をする必要がある。」 5 日の開幕式で人民大会堂の壇上に立った李氏は、あえて高めの目標を設定したとの認識を示した。 そのうえで「中国の発展が必ず明るい未来を切り開くことは十分に明らかだ」とも強調した。

コロナ禍を経て経済が変調

同じく 5% 前後の目標を掲げた昨年、国内総生産 (GDP) の物価の影響を除いた実質成長率は 5.2% となり目標を達成した。 厳しい移動制限を伴う「ゼロコロナ」政策で前年の実質成長率が 3.0% と低い水準にとどまったことによる反動が大きく、今年は李氏が言うように達成の難易度は増す。 国際通貨基金 (IMF) が今年は 4.6% と予測するなど、市場は昨年からの成長鈍化を予想する。 急速な成長を続けた世界第 2 位の大国の経済は、コロナ禍を経て変調している。

経営難の不動産企業が債務不履行(デフォルト)を繰り返し、値上がり「神話」が終わった住宅の販売は 2 年連続で落ち込んだ。 一部の地方政府は野放図なインフラ投資で財政難に陥り、職員への給与未払いが起きている。 消費者は生活不安でお金を使うのをためらい、消費者物価指数 (CPI) は 4 カ月連マイナスとデフレ懸念は強まる。 急速な少子高齢化で人口減少も始まった。

日系を含む外資企業はコロナ禍で強権的に工場の稼働を止めさせられて供給網が一時寸断した。 医療機器や複合機で政府調達から排除される動きが進み、アステラス製薬の日本人社員がスパイ容疑で逮捕された。 外資企業は昨年、前年から 8 割も対中投資を減らした。 李氏が「直面する困難と課題を冷静に認識している」とする政府活動報告では、そうした課題にどう対応するかについて書き込まれた。

不動産企業の資金繰りを支援し、地方政府の債務増加を抑制する。 電気自動車や電子機器などの買い替え促進で消費を刺激し、保育サービスの拡充で子育てを支援する。 若者の就業促進政策を強化する - -。 ただ、過去にすでに挙げられてきた内容が多く、現状維持の印象はぬぐえない。 市場が注目する景気刺激のための財政出動では、インフラ投資の財源となる地方特別債は 3 兆 9 千億元(約 82 兆円)と前年から微増にとどめた。 香港のアナリストは「今回の野心的な目標のためにはもっとやるべきことがあるのでは」と疑問を呈すなど、手詰まり感も漂う。

「国家の安全」を優先,/p>

民生よりも「国家の安全」を優先する姿勢も垣間見えた。 政府活動報告では、その年に政府が重点的に取り組むべき「任務」を列挙する。 昨年の政府活動報告で最も重要な 1 番目の任務として挙げたのは「内需の拡大」だった。 だが今年は 3 番目に「降格」した。

今年の 10 項目の任務のうち 1 番目は、米中対立を背景にデカップリング(切り離し)などの危機にある供給網の強化や、競争分野となる水素や創薬、宇宙など産業の発展。 次に、重要な科学技術を他国に頼らない「自立自強」のための人材育成だった。 1 兆元(約 21 1兆円)の超長期特別国債を発行するが、「強国づくりと民族復興」のためという。 外資企業が強く懸念する改正反スパイ法の不透明な運用の改善などに言及はなかった。「国家の安全」に関わるためとみられるが、不安感から来る投資減少の流れが止まるかは見通せない。 (北京 = 西山明宏、asahi = 3-5-24)


中国経済は「日本化」していない - 香港メディア

中国メディアの環球時報は 21 日、中国経済は「日本化」していないとする香港英字メディア、アジア・タイムズの記事を取り上げた。 それによると、記事はまず、「あるメディアのアナリストが書いた『脚本』によると、中国の経済成長は『日本モデル』と呼ばれるものに従ってきた。 このモデルは短期的には成功していることが証明されているが、最終的には常に同じ致命的な制約に遭遇する。 そしてその後は痛みを伴う経済調整の時期が訪れるという。 これは2010年に書かれたもので、当時の中国経済の規模は現在の半分以下だった。 あまりにも早く結論を下したがる人もいるものだ。」と指摘した。

その上で、「『日本モデル』に従ってきたすべての国が長期間にわたる痛みを伴う経済調整に苦しむ必要があったというのは真実ではない。 少なくとも日本の不況に匹敵するものはない」とし、「韓国、台湾、香港、シンガポールの『アジアの 4 頭の虎』はいずれも数十年の停滞を経験していない」、「中国の出生率は日本やアジアの 4 頭の虎を大きく上回る。 20 歳未満人口が総人口に占める割合では、中国はアジア諸国よりかなり高く、米国や欧州と同水準だ。 65 歳以上人口が総人口に占める割合は先進国より低い」などとした。

そして、「日本の『失われた 20 年』の原因が人的資本の劣化であるのとは対照的に、中国では高等教育への学生入学がまだ頭打ちになっていない。 大学入学者数が頭打ちになったとしても、中国の大卒労働力は今後 30 年間で 4 倍になる。 中国で高等教育の急増が産業と技術の成長を推進する中、日本では人的資本とともにそれらが停滞している。」と論じた。

記事は、日本の年間の国内特許出願数が世界全体に占める割合はかつての 25% 強から 22 年には 3% に低下したこと、世界の製造業生産額に占める日本のシェアは 1995 年の 20%強から21年には6% に低下したこと、日本が数十年にわたり緩やかに衰退する中で、中国のこれらに関するデータチャートを見ると、「右斜め 45 度」で上昇していることに触れた。

そして、「10 年当時と同様に今日でも中国の『日本化』に関する論評は的外れだ」とし、「中国には『不動産バブル』という日本と表面的な類似点があるだけで、中国の場合、これは今のところ無秩序な崩壊ではなく、制御された調整だ」、「中国の人的資本の向上はようやく本格化し始めたばかりだ。 中国は今後 20 - 30 年、CATL、BYD、DJI、miHoYo、BOE など、少し前までは聞いたこともなかった企業に、新たに誕生した科学者やエンジニアの人材を大量に送り込むことになるだろう」、「中国の不動産開発業者のバランスシートなどにこだわるアナリストは『木を見て森を見ず』だ」などと論じた。 (柳川、Record China = 2-23-24)

〈編者注〉 日本式とか、今は中国にとって全く関係ない話です。 中国にとって、現在の財政危機をいかに乗り越えられるのか、もっと真摯に向き合うべきでしょう。 まるで他人事のように書き連ねるとは、新聞と言うより、おとぎ話です。 列記している企業もどれだけ生き残れるのか心配した方が現実的です。 環球時報も中国人にとって道しるべにはなりませんね!


時価総額 1,000 兆円消失すらかすむ、中国から届いた「最悪のニュース」

3 年間で 7 兆ドル(約 1,050 兆円)もの時価総額が失われた中国の株価暴落について、エコノミストたちはその途方もなさをどう説明したものやら頭を悩ませている。 中国の株式市場は 2021 年以降、日本とフランスの国内総生産 (GDP) の合計に匹敵する時価総額を失ったと言えば、規模の大きさが最もよく伝わるだろうか。 とはいえ、アジア最大の経済大国から伝わってきた最悪のニュースは、他にある。 中国のデフレが過去数十年で最速のペースで進んでいるという話ではない。 大手不動産会社の中国恒大集団に香港で清算命令が出されたという件でもない。 最悪のニュースは、まさに中国に関する「悪いニュース」に対して、中国の習近平指導部が戦いを本格化させたらしいことだ。

報道によれば、中国の主要な情報機関である国家安全省は最近、中国経済や市場の見通しに関して批判的な見解を広める者を見張っていると明らかにした。 「虚偽の言説」によって「中国経済をおとしめる」言動をするな、という背筋の寒くなるような警告は、アダム・スミスに始まる近代経済理論とはかけ離れた毛沢東的な発想だ。 そしてこれは、中国の影響力が高まるなかで非常に厄介な問題を引き起こしている。 国家安全省は「経済宣伝と世論誘導を強化する」と公言した。 だが、本当に気がかりな問題は、具体的にどのような行為が取り締まりの対象になるのかという、発表文の「行間」に隠された部分だ。

ブルームバーグ通信は 1 月、米金融大手のシティグループが中国本土を訪れるプライベートバンカーたちに、人民元やその為替ヘッジ戦略について話さないよう指示していると報じた。 また、習主席の強い意向を受けた香港政府は先ごろ「国家安全条例」の制定手続きを開始すると発表した。 香港の憲法にあたる香港基本法 23 条に基づくこの法令は、中国共産党が 20 年前から香港に押し付けようとしてきたものである。

あいまいな条文の国家安全条例は、かつて「アジアのロンドン」と呼ばれた香港で、中国本土と同様に、政府が国家にとって危険とみなした情報を統制するのが狙いだ。 香港の法令としては、2019 年に起きた大規模抗議行動を受けて翌 20 年に施行された香港国家安全維持法(国安法)を補完するものになる。 国家安全条例の原案では、「国家に対する反逆」、「反乱」、「スパイ行為」、「国家の安全に危害を加える破壊活動」、「外国勢力による干渉」の 5 つの犯罪を取り締まるとしている。 だが、どのような行為が各犯罪に問われるのかははっきりせず、外資系投資銀行や報道機関、コンサルティング会社、インターネットプラットフォームの関係者からすれば腹立たしいほどだ。

たとえば、中国経済は苦境にあると確信しているエコノミストは、中国国内で発表するリポートやスピーチでそれに言及しても大丈夫なのか。 中国本土の企業が帳簿をごまかしていると判断できる場合、当局の事情聴取を受ける危険を冒さず投資家に警告するにはどうすればいいか。 あるいは、中国本土の不動産開発会社が近くデフォルト(債務不履行)に陥りそうだと感じたストラテジストは、その懸念を公の場で表明してよいものだろうか。

外国の報道機関の場合も同様だ。 所属する記者が、中国の地方政府の債務リスクは知られている以上に悪いという内容の記事を執筆した場合、それを配信してよいのか。記者がマディ・ウォーターズのような空売り投資会社を取材したら、国家安全省の手入れを受けることになるのか。 ソーシャルメディア企業は、カイル・バスのようなヘッジファンドマネジャーやジョージ・ソロスのファンドが人民元の下落や香港ドルの米ドルペッグ制崩壊に賭けているニュースが SNS でシェアされたとして、責任を問われるのだろうか。

昨年過去最悪を記録して政府が公表を取りやめた中国本土の若年失業率の影響を研究している香港の学者は、その研究を葬り去るべきか。 非政府組織が中国の広域経済圏構想「一帯一路」による環境破壊に関する研究を中国で禁止されたくない場合、どうしたらよいのか。 ここ最近の動きを踏まえると、こうしたシナリオはもはや仮定の話にとどまらなくなりつつある。 昨年 12 月、中国の SNS 「微博(ウェイボー)」は一部のユーザーに、中国経済についての悪口を言わないよう求めた。 ユーザーは「中国経済をおとしめることを意図したさまざまな決まり文句」や「中国を戦略的に封じ込め、抑圧しようとする試み」を控えるよう促されている。

また、ここ数週間で、著名なエコノミストやジャーナリストの論評が中国のネット空間から削除されている。 ちょうど習の側近らが、中国の経済や不動産部門、株式市場に関する明るい見通しを広めるよう働きかけているタイミングでだ。 これらは、力強く自信に満ちあふれた政府がとるような行動ではない。 自国の資本市場が、世界で評価される状態にないと自覚している政府の行動だ。 中国は、自国の経済が 2021 年以降に被った何兆ドルもの資金流出を反転させたいのであれば、むしろ透明性を高めるべきなのだ。 良いニュースであれ悪いニュースであれ、公表させるのだ。

習は 2012 年に政権を発足させたあと、資源配分で市場に「決定的な役割」を担わせると約束した。 ところが、その後 10 年間で中国経済はブラックボックス化がさらに進んだ。 習時代は「検閲を再び偉大に」し、金融界の不透明性は増した。 コーポレートガバナンス(企業統治)が後退しただけではない。 中国政府はこれらの現象を香港にも広げようとしている。 信用格付け方法の改善や、市場監視メカニズムの透明性向上、非効率性と増大するリスクや不正行為に対するメディア界の監視機能などへの期待もしぼんでいる。

こうした諸々によって、習が自身で築き上げたと考える中国経済と、世界の投資家が向き合う中国経済の乖離は大きくなっている。 繰り返しになるが、投資家の目から実態を隠すために照明を落とすような振る舞いは、2024 年の自国経済に心配がなく自信に満ちた政府なら、まずやらないことだ。 中国から良いニュースが届くのは、むしろ悪いニュースが流れるようになったときだろう。 それは習指導部が中国経済への自信を取り戻した表れだろうから。 (William Pesek、Forbes = 2-18-24)


"中国の池上彰" は日本で人気 YouTuber になっていた
 … 著名人も富裕層も国外に逃げ出す "洗脳国家" の裏側

習近平体制は「戦前日本の関東軍」に似ている

習近平体制の中国では、他国に対して強硬な対外工作が繰り返されている。 今後はどうなっていくのか。 『戦狼中国の対日工作(文春新書)』を書いたルポライターの安田峰俊さんは「過激な行動は出世と紐付いている。 習近平が政治的実権を失えば、現在の姿勢は骨抜きになるかもしれない。」という。

「ハエがウンコに」と投稿する外交官

攻撃的な姿勢と言えば、中華人民共和国駐大阪総領事の薛剣(シュエ ジェン)も戦狼中国を象徴する人物ですね。

彼は近年、X (旧 Twitter)での過激な投稿で注目されています。 21 年 10 月、国際人権団体アムネスティが香港から撤退した報道について「害虫駆除!!! 快適性が最高の出来事がまた一つ」と書き込んだほか、日本の政治家の玉木雄一郎氏に対して「ハエがウンコに飛びつこうとする西側子分政治家」、アメリカ政府元高官に「気ちがいのこの人達がアメリカをダメにしたのだ!!!」などと投稿し、話題になりました。

安田さんはこの薛剣総領事に、直接インタビューしています。 どうやったのですか? そして、彼の人物像は?

なぜ、現役の中国総領事へのインタビューが成功したのかは本書を読んでもらうとして …。 彼って、実際に話してみると非常に温厚で物腰も穏やかなのですが、「○○イニシアチブが …」みたいな "カタい日本語" は非常に上手ないっぽう、軽口を叩くような口語的な日本語はヘタなんです。 もう少し若い世代の中国の外交官であれば、日本のアニメに親しんでいる人が多いので口語も自然ですが、薛剣総領事の世代だと、若いときに生の日本と接した経験が限られている。 外交官養成機関の北京外国語学院(現・北京外国語大学)で学んだ "カタい日本語" だけがベースになっている。

習近平体制では "過激発言" が出世につながる

薛剣総領事が外交官らしからぬ過激な言葉を使う理由は何なのでしょうか?

現在 50 代の薛剣総領事はおそらく、「バカじゃね?」みたいな軽い悪口を言うような日本語の会話を過去にあまり経験していないんです。 友達となる日本人も、日中友好人士みたいな "上品" な人ばっかりですから (笑)。 なので、「戦狼外交」モードで日本やアメリカを罵ろうとすると、語彙がすくなくて「ウンコ!」、「気ちがい!」みたいな表現になっちゃうのだと思います。 ちなみに彼の過激ツイートの大部分は、本人が直接自分のスマホで書き込んでいるようです。 最近はおとなしいですが、初期には深夜 1 時に投稿していた例もありますよ。 ツイッターで言論の自由を行使するのが面白かったみたいで …。

そもそも、彼が「戦狼外交官」として振る舞う動機はどこにあると思いますか?

ひとつは出世でしょう。 1968 年生まれという彼の年齢やキャリアから考えれば、総領事赴任の初期の時点(21 年 6 月)では、活躍次第で駐日大使などより上のポストを狙える可能性があった。 ネット上で戦狼的な言葉を発することで、自身の出世につながるという機会主義(日和見主義)的な計算もあったのでしょう。

ただ、別の理由もありそうです。 往年の薛剣は江蘇省北部の農村から北京へと進学した泥臭い苦学生でした。 これまでも、実は彼は日本で農作業を頻繁に行っており、素手でサツマイモを手掘りする、素人離れした速度でミニピーマンを収穫するなど、受け入れた農家に取材すると、エリート外交官らしからぬ「伝説」を数多く耳にします。 現在の中国の支配者である習近平は、性格やライフスタイル面で農民気質が強く、政策面でも農村重視の姿勢が見られる人物です。 農村への愛着や思い入れという点からも、薛剣が習近平に対して心からの忠誠をささげている可能性も、意外と高いのではないかとも思えます。

「中国の池上彰」が日本に移住した理由

習近平政権下では中国国内でも反体制派への締め付けが強化され、メディア業界も大きく変化しました。 国営放送 CCTV の元論説委員で、「中国の池上彰」こと王志安(ワンヂーアン)は、2019 年末に日本に移住して現在は YouTuber として情報発信を続けているそうですね。

1968 年生まれの王志安は薛剣と同世代で、89 年の天安門事件に穏健派の学生リーダーとして参加した経験もあります。 北京大学で中国近現代史の修士号を取得したのち、国営放送局 CCTV (中国中央電子台)のニュース評論部に就職。 09 年からはニュース評論員(論説委員)として頻繁にテレビ画面に登場し、中国では誰もがその名前と顔を知る著名人でした。

胡錦涛時代はメディアに独立性があったが …

胡錦濤時代の中国メディアには一定の範囲で自由や独立性があり、環境問題や貧困問題などさまざまな社会課題について取り上げることも黙認されていました。 中国共産党や指導者を直接否定するような内容でなければ、世の中の問題点を明らかにするために一定の批判は認められていたのです。 しかし、習近平政権以降は明らかに方針が変わり、現在は「正能量(ポジティブなエネルギー)」と呼ばれる明るいニュースばかりが報じられるようになりました。 中国社会に対して肯定的なニュースだらけとなり、社会の問題点を指摘するような報道はネガティブ情報として禁忌扱いとなったのです。

命に関わる問題でも政権批判は許されない

習近平体制以降の中国国内では、ジャーナリスト的な活動はほとんどできなくなったということですね。

ええ、王志安の場合も活動できる範囲が急激に狭くなっていきました。 彼は CCTV の在籍末期に、救急車の不正問題を取材していたそうなんです。 北京市内では各病院と救急車が金銭的な癒着関係にあり、たとえば交通事故の現場のすぐ近くに受け入れ可能な病院があっても、わざわざ時間をかけてはるか遠くの提携先の病院まで患者を運ぶ、という実態があった。 ただ、そのニュースは結局お蔵入りになり、過去にも似たようなことが多くあったことで、CCTV で記者活動を続ける意欲を失ったようです。

その後は北京の大衆紙「新京報」の動画チャンネルで活動を続けていたのですが、19 年 6 月に 673 万人のフォロワーを擁した自身の微博(ウェイボー、中国の SNS)アカウントを凍結され、その後、仕事もできなくなる状態へと追い込まれていきました。 もともと日本に拠点を持っていたところ、日本に滞在中にコロナ禍が発生して中国に戻れなくなり、そのまま YouTube を始めたら人気が出たので、拠点を完全に日本に移しました。 中国共産党に対する批判的な発言も臆せずしているので、もう中国に戻れないことは本人も理解しているようです。

YouTube のフォロワーは 110 万人。 彼は中国では下の世代からは嫌われがちな天安門世代の著名人で、日本でいう「団塊世代の成功したジャーナリスト」みたいな雰囲気もあるので、若者からの人気はイマイチだったりもしますが、それでも知名度と影響力は健在です。 世界最大の華人 YouTuber は、日本にいるわけです。

ダメになるほど強気の姿勢は崩せない

経済成長が頭打ちになるなか、今後の習近平政権は戦狼的な姿勢を緩めたり転換したりする可能性はないのでしょうか?

習近平自身がどういう意向を持っているかとは無関係に、多少の調整はあるとしても、なかなか止められないと思います。 国家や組織にとって本来望ましい方向を考えるなら、戦狼的な姿勢なんかやらないほうがいいに決まっているのですが、官僚たち「個人」が組織内で生き抜く上での最適解は、組織全体の最適解と同一ではありません。 日本のサラリーマン組織も同じかもしれませんが。

国際協調を重視すべきとか、バランスの取れた外交をなどと提起しても、上から「消極的」と判断されて自身の評価が下がるリスクがある。 みんなが頭のどこかで「このままではまずい」と思っていても、誰にも止められない構造がある。 第二次大戦中に満州で暴走した関東軍と近い状態かもしれません。 いまの状態は当分続くと考えられます。 彼らの価値観はどこまでも内向きで、他国から自分たちがどう見られているかということを、ほとんど考えようとしません。

加えて、中国はありのままで良いのだ、欧米の真似をする必要なんてないんだという姿勢は、中国国内の大多数の人々にとっては非常に心地よく、受け入れやすい。 "中国スゴイ" というメッセージだけがばら撒かれているのが現状です。 欧米の国家システムや思考・技術などから、学べるものは学び取ろうとしていた胡錦濤政権(2003 年 - 2013 年)までの時代とは、大きく異なります。

余裕があるほど外交は "粗く" なる

この 10 年ほどの間に、中国のイメージはすっかり変わってしまったわけですね。

大陸の中国人のみならず、香港や台湾に住む人々も含めて「華人」全体がそうかもしれませんが、彼らは自分たちが弱い立場にいる間は、驚異的に「したたか」になれます。 2019 年に香港でデモが起きた際、民主派の人々は日本や欧米の心を非常に巧みにつかんでいましたよね。 いまの台湾が、「媚び」と言っていいほど日本を上手に持ち上げて日本側に親近感を抱かせるのに成功しているのも、自分たちが力では中国より劣っていることを自覚しているから。 生き残り戦略の一環でもあるでしょう。

ただ、自分たちの図体が大きくなると粗雑になる (笑)。 これは華人に限ったことではないかもしれません。 諜報活動については、イスラエルのような国のほうが、アメリカよりもずっと優れていると言われますよね。 イスラエルの場合、少しのミスが国家の存亡に関わるわけですから。 でも、アメリカは多少粗雑なことをしても国が潰れることは決してない。 中国についても似た部分があるかもしれませんが、中国はより極端です。

突発的な力はあるが持続力はない

日本人の抱く中国の国家イメージと、現実で行われていることの間には距離があるようですね。

戦狼中国は脅威であることに違いはないのですが、それは多くの日本人がイメージするような緻密な戦略があるからではなく、場当たり的で粗雑だからこそ怖い。 合理的な判断力を持たず、「愛国的」な建前さえあれば誤った行為であっても誰も修正できず、予測不可能な突発的な動きをしかねない。 これが戦狼中国のもっとも恐ろしい点です。

こういう話をすると、X (旧 ツイッター)などで「それは『したたかな中国』がわざと油断させるための計略だ」と反論してくる人が必ず出てくるのですが、なんら具体的な根拠なく敵を万能視する思考は、ほとんど陰謀論に近い。 むしろ、実態と異なる「敵の脅威」を煽り立てるのは利敵行為ですよと言いたいところです。

戦狼中国は強力な爆発力を持つ一方で、持続力はありません。 現在のような姿勢は、習近平政権の個性によってもたらされている部分も大きいですし、仮に彼が今後なんらかの理由で権力を失った場合には、体制は一気に弛緩しかんするかもしれません。 もちろん、弛緩してからのほうがもっと怖い事態が起きる可能性もありますが。 (安田 峰俊・ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員、President = 12-30-23)


中国記者 20 万人「工作部隊」に メディア業界 25% 減少

【北京】 中国の習近平指導部が、約 20 万人いる新聞やテレビの記者を、共産党の方針を浸透させる「世論工作部隊(党機関紙)」に育て上げようとしている。 記者向けの全国統一試験を初導入し、習国家主席の思想の習熟を義務付け。 SNS を拠点とするメディアの管理も強まり、当局が出す記者証の保有者数はここ数年で約 25% 減少した。 当局から独立した立場で報じる言論空間は消滅寸前だ。

「習主席の思想をしっかり理解してこそ、記者を名乗るのにふさわしい。」 今月 4 日に初めて実施された「全国新聞記者職業資格試験」。 北京の会場で受験した通信社勤務の 20 代の男性記者が誇らしげに語った。 試験は、習氏の思想や指導部の戦略の理解度を試すとして今年導入された。 習氏が重視する「国家安全」、「台湾統一実現」,「世界一流の軍隊建設」といった戦略の知識を問う。 すらすら答えられない記者は排除される。 中国新聞事業発展報告によると、12 年に習指導部が発足して以降、14 年に 25 万 8 千人だった記者証保有者は 21 年時点で約 19 万 4 千人まで減少した。 (kyodo = 11-19-23)


米大統領「習氏は独裁者」、首脳会談直後に発言 中国側は反発

[ウッドサイド(米カリフォルニア州)] バイデン米大統領は 15 日、中国の習近平国家主席との会談後の記者会見で、習氏が事実上の「独裁者」という見方は変わっていないと述べた。 バイデン氏はこの日、サンフランシスコ郊外で習氏と約 4 時間にわたり会談した。 その後に単独で行った記者会見で、習氏が独裁者だという見方を現在も抱いているか問われ、「われわれとはまったく異なる政治形態に基づく共産主義国を率いる人物という意味で彼は独裁者だ」と述べた。

バイデン氏は 6 月にも習氏を「独裁者」と表現し、中国の反発を招いた経緯がある。 米高官によると、習氏は今回の会談で、中国共産党に否定的な米国内の見方は不公平だとバイデン氏に伝えた。 中国外務省の毛寧報道官は定例会見で、バイデン氏を名指しすることは避けた上で、発言に「強く反対する」と述べた。 「この発言はひどく間違っており、無責任な政治的操作だ」とし、米中関係を扇動しダメージを与えようとたくらむ人々が常に存在するが、失敗に終わると指摘。 具体的にどのような人々を指しているかは答えなかった。 (Trevor Hunnicutt、Jeff Mason、Reuters = 11-16-23)


"英議会に中国のスパイか" 英首相 G20 で中国首相に懸念

イギリス議会の事務職の男らが中国のスパイとして活動した疑いで逮捕されていたことが分かり、スナク首相は G20 サミットで中国の李強首相に対し非常に強い懸念を伝えました。 イギリスの新聞「サンデー・タイムズ」は 10 日、イギリス国籍の男 2 人が中国のスパイとして活動していた疑いでことし 3 月、ロンドン警視庁のテロ対策部門に逮捕されたと報じました。 このうち 1 人は、イギリス議会で外交政策に携わる議員のために情報収集などをする事務員で、捜査当局は男がかつて住んでいた中国で工作員として採用され、中国に批判的な議員などに影響を及ぼそうとしていた可能性があるとみているということです。

これについてイギリスのスナク首相は、G20 サミット = 主要 20 か国の首脳会議で行った中国の李強首相との会談で、非常に強い懸念を伝えたことを明らかにしました。 スナク首相は「われわれの議会制民主主義へのいかなる介入も容認できない」としたうえで、自国の価値観や利益を守るため中国への関与を続けていくとしました。 中国外務省によりますと、これに対し李首相は「双方は意見に違いがある問題を適切に処理すべきだ」と述べたということです。 両国は 8 月、5 年ぶりの外相会談を行うなど関係改善を模索していますが、イギリス国内では中国への警戒感も根強く、先行きは不透明です。

中国外務省「全くのでっち上げで断固反対する」

イギリス議会の事務職の男らが中国のスパイとして活動した疑いで、ロンドン警視庁に逮捕されたことについて、中国外務省の毛寧報道官は 11 日の記者会見で「全くのでっち上げで断固反対する」と述べ、強く反発しました。 そのうえで「イギリス側がうその情報をまき散らし、反中国の政治的な工作や悪意ある中傷をするのをやめるよう求める」と述べ、イギリス側をけん制しました。 (NHK = 9-11-23)

1 - 2 - 3 - 4 - 5 - 6 - 7 - 8 - 9 - 10