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ディズニー映画「ムーラン」高まる批判 中国当局が協力

米ウォルト・ディズニーの最新映画「ムーラン」が、中国新疆ウイグル自治区当局の協力を得て製作されていたことが明らかになり、米国などで批判が広がっている。 同自治区のウイグル族住民らに対する人権侵害問題が議論の的になっており、米政府は関係当局などを制裁対象にしているためだ。 「ムーラン」は、1998 年公開のディズニーアニメを実写映画化したファンタジーアドベンチャー。 新型コロナウイルスの影響で劇場公開が延期され、米国や日本などでは 4 日から会員向け動画配信サービスで公開された。

ところが、映画のエンドロールで撮影協力機関への感謝を示すなかで、自治区の宣伝部門やトゥルファン市の治安部門などを紹介。 自治区がロケ地の一部となり、中国共産党や政府機関から協力を受けたことが明らかになった。 米国務省は 3 月に公表した人権報告書で、中国当局が自治区の各地に開設した「収容所」でウイグル族ら 100 万人を拘束し、再教育の名のもとで虐待や拷問をしていると指摘。 米政府は昨年 10 月、人権侵害に関与したとしてトゥルファン市治安部門などを制裁対象にし、米企業と取引するのを禁じていた。

米共和党のギャラハー下院議員は自身のツイッターで、「中国共産党は新疆で人道に反する罪を犯しているのに、ディズニーはこの犯罪について世界にうそをつく宣伝機関や、残虐行為をする治安機関に感謝している」と非難した。 米ニューヨーク・タイムズ紙や英 BBC も批判的に取り上げている。 これに対し、中国外務省の趙立堅副報道局長は 8 日の会見で、「新疆に再教育施設など存在せず、あるのは職業技能の訓練センターだ。 外国の一部勢力が中国の新疆政策に泥を塗り、攻撃している。」と反論した。

ムーランをめぐっては、ディズニーが主役に抜擢した中国生まれの俳優リウ・イーフェイさんが昨年、香港の反政府デモへの警察の取り締まりを SNS で支持したため、映画のボイコットが呼びかけられたこともある。 (広州 = 奥寺淳、asahi = 9-9-20)


中国の改革派教授を清華大が解職 当局の圧力の可能性

中国の改革派の知識人で、今月、警察に拘束された許章潤・清華大学法学院教授 (57) がこのほど、大学側からすべての公職を解くとの解職通知を受けたことがわかった。 許氏に近い知人が明らかにした。 許氏は今月 6 日、北京市の自宅で警察に拘束され、6 日後に釈放された。 警察は家族に対し、四川省・成都で売春に関わった容疑で許氏を拘束したと説明している。

香港メディアによると、大学は許氏の「道徳的退廃」を解職の理由にしているが、許氏の知人は「大学は当局の圧力に応じた可能性がある」と指摘する。 中国で言論活動への圧力が強まるなか、許氏はこれまで習近平(シーチンピン)指導部をいさめたり批判したりする文章を公開してきた。 2018 年 7 月には、習指導部が憲法を改正し国家主席の任期制限を撤廃したことを批判する文書をインターネット上で公開し、19 年 3 月に大学から停職処分を受けた。 (北京 = 高田正幸、asahi = 7-16-20)


両手バンザイのまま 15 時間 … 中国、弁護士弾圧の狙いは

中国当局が 320 人を超える人権派弁護士らを摘発した事件から、9 日で 5 年がたった。 取り調べに抵抗し、4 年半にわたる服役を終えた弁護士は「人権擁護の取り組みに対する圧力は、深刻になっている」と語る。 政権への異論を許さぬ習近平(シーチンピン)指導部の姿勢は、香港問題ともつながっている。 「人権派弁護士への政治的な掃討作戦だ。」 今年 4 月に出所した王全璋氏 (44) は、始まった日付けから「709 事件」と呼ばれる一連の大量検挙をこう評価する。

709 事件

2015 年 7 月 9 日以降、中国の人権派弁護士や民主活動家らが国家政権転覆容疑などで相次いで拘束されたり、取り調べを受けたりした。 香港の支援団体によると、国外への渡航禁止などを含め、翌年までに摘発の対象になったのは 320 人以上に上った。 15 人が起訴され、有罪判決を受けた。 王氏は共産党政権が「邪教」として弾圧する気功集団、法輪功メンバーの弁護で知られる弁護士だった。 2014 年に黒竜江省の拘置施設前であった抗議に加わったことが政権転覆罪にあたるなどとして、懲役 4 年 6 カ月の判決を受けた。

15 年 8 月に連行された王氏は、「居住監視」の処分を受けた。 逮捕ではないが政府施設や自宅などで事実上の拘束を受け、不適切な取り調べの温床になっているとも言われる措置だ。 王氏によると、この間、朝 6 時から夜 9 時まで両手を高く上げ続けるよう命じられた。 常に監視がつき、就寝中も寝返りを打つだけで大声で注意された。 逮捕されたのは翌年 1 月。 起訴はそれから 1 年余りたった 17 年 2 月、判決が出たのは 19 年 1 月だった。 時間がかかったのは、容疑を否認し続けたためとみられる。 家族との面会も、判決まで許されなかった。

一連の事件では周世鋒氏や王宇氏をはじめ 320 人以上の弁護士や人権活動家が拘束されたり、取り調べを受けたりした。 王全璋氏は出所後、事件で検挙された弁護士が資格をはく奪されたり、事務所を解雇されたりしていることを知った。 不当な判決や拘束に抗議するため、肉親らが裁判所や検察などに集まり抗議することも減ったと感じている。 「多くの弁護士が声を潜めるようになった。 人権擁護の取り組みにとって大きな挫折だ。」と話す。 王氏は今月、自身に対して違法な取り調べがあったとして当局者らを告訴した。 「権力を持つ者が法律を拡大解釈し、乱用している。 これでは法治国家とはいえない。」と批判する。

締め付け強める習指導部

習近平(シーチンピン)指導部は 13 年の「新公民運動」弾圧、15 年の 709 事件、17 年の海外 NGO 管理法施行と、人権派弁護士や NGO への締め付けを強めてきた。 その姿勢は、国家安全維持法による香港への統制強化と深くつながっている。 「(東欧などで親米勢力が政権を転覆させた)カラー革命の土台をつくっていた。」 709 事件で検挙された弁護士は、テレビで同僚をこう批判するよう迫られた。 習指導部は、市民の権利意識に基づく社会運動を率いているのが弁護士や NGO だと考え、その背後に体制の転覆を狙う米欧の支援があると疑っている。 そして香港が、そうした米欧の支援組織の拠点になっていると警戒していた。

中国の人権派弁護士を支援する香港の NPO 「中国人権弁護士関注組」は毎年 7 月 9 日に 709 事件への抗議デモをしてきたが、今年は取りやめた。 何俊仁主席は「我々もいずれ中国の弁護士と同じ境遇に置かれるのではないか」と不安を話す。 (北京 = 高田正幸、香港 = 益満雄一郎、asahi = 7-14-20)

709 事件 : 2015 年 7 月 9 日以降、中国の人権派弁護士や民主活動家らが国家政権転覆容疑などで相次いで拘束されたり、取り調べを受けたりした。 香港の支援団体によると、国外への渡航禁止などを含め、翌年までに摘発の対象になったのは 320 人以上に上った。 15 人が起訴され、有罪判決を受けた。


中国サッカー界のレジェンドが「共産党打倒」宣言 国内世論に衝撃

【北京 = 西見由章】 中国当局が民主化を求める学生らを、北京で武力鎮圧した 1989 年の天安門事件から 31 年となった 4 日、サッカー元中国代表で、歴代最多ゴールを記録した●(= 赤におおざと、カク)海東氏 (50) が米サイト「ユーチューブ」に「新中国連邦宣言」と題した動画を顔を出して投稿し、「中国共産党の殲滅は正義にとって必要だ」と主張した。 ユーチューブは中国で遮断されており、カク氏の発言に関する報道も禁止されたもよう。 ただ特殊なアプリを使えば中国内からも同サイト視聴は可能で、サッカー界のレジェンドによる突然の「共産党打倒」宣言は一部に衝撃を与えている。

カク氏は動画で、中国共産党の全体主義統治が「人権を無視し、民主を踏みにじり、香港で殺戮を行ってきた」などと主張。 また新型コロナウイルスによって「世界に生物化学兵器による戦いを発動した」とも語った。 トランプ米大統領の首席戦略官だったスティーブン・バノン氏や米亡命中の中国人元実業家、郭文貴氏との連携も示唆した。 カク氏の発言を含む動画が撮影された時期や場所は不明だが、カク氏は現在、海外に滞在中とみられる。

中国の有力スポーツ紙「体育界週報」が 4 日、「元中国代表の H が政府を転覆し、中国の主権を侵害する言論を発表した」としてカク氏を匿名で非難する声明を公表したところ、中国のネット上で「H とはだれだ」との声が相次いだ。(H とはカク氏の「●(= 赤におおざと)」の漢字の中国語読み「Hao」の頭文字だ。 ユーチューブのコメント欄には中国人とみられるユーザーから非難や困惑、称賛の声が書き込まれた。 「ヘディングの後遺症でおかしくなったのか」などと嘲笑する声もあった。 (sankei = 6-5-20)


正統性揺らぐ中国共産党、企業内党組織の実態に迫る
市場化と近代化で変質する党員集団

2019 年 7 月に発表された最新統計によれば、18 年末時点で、中国共産党(以下、中共)の党員数は 9,059 万 4,000 人あまり(人口の 6.5%)に達する。 これは 18 年の国別人口ランキングで、世界第 15 位のベトナムに次ぐ規模であり、ドイツ、トルコ、イラン、タイなど各地域の有力国より多い。 また、同じ年の日本の人口の約 7 割に相当する。 むろん世界最大の政党である。 ちなみに日本の最大政党である自由民主党は、19 年末時点で約 110 万人の党員を擁する(人口の 1% 未満)。

1921 年 7 月に成立した中共は、来年で創立百周年を迎える。 2014 年から 18 年までの過去 5 年間の党員数の平均増加率は 0.8% で、このままのペースでいけば 21 年には 9,280 万人前後となる。 創立時の党員数は 50 数名であり、過去 100 年間で創立時とは比較にならないほどの巨大な成長を遂げた。

しかし、その記念すべき年に中共はもう 1 つの大きな転機を迎える可能性が高い。 なぜなら、共産党の本来の支持基盤にして組織母体であるはずの労働者と農民の党員数が、そうでない職業の党員よりも少なくなる見込みだからだ。 具体的には、労働者と農民の党員の合計人数が、党・政府機関で働く党員と企業や各種非営利の社会組織(学校、病院、研究所など)の管理職・専門職に就いている党員のそれより少なくなるとみられる。

18 年の数字では、全党員のうち「労働者」と「農牧漁民」の合計比率が 35.3%、「党政機関工作人員」と「企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員」の合計比率が 34.6% で、かろうじて前者がまだ後者を上回っている。 10 年前の 08 年は 40.8% と 30.4%、20 年前の 1998 年は 48.8%、32% であり、「労農同盟」の凋落は一目瞭然である。 党員集団の「量」の面で、ホワイトカラーのグループが、ブルーカラーと一次産業のグループを逆転するのは時間の問題である。 これは中共にとって、政治集団としての本来のアイデンティティを失うことを意味する。

中国憲法は第 1 条で「中華人民共和国は労働者階級が指導し、労農同盟を基礎とする人民民主独裁の社会主義国家である」ことをうたっている。 党規約の冒頭でも「共産党は中国労働者階級の前衛であり、同時に中国人民と中華民族の前衛である」と定めている。 にもかかわらず、唯一の支配政党である中共が、労農同盟と労働者階級の前衛としての組織実態を失いつつある。 イデオロギー的正統性が損なわれることは間違いない。

なぜこのような状況に陥ったのか。 1970 年代末に改革開放政策が始まって以来、中国の経済と社会では、前出の「企業事業単位・社会組織の管理人員と専業技術人員」を含む「新社会階層」と呼ばれる新興エリート層が存在感を増してきた。 新社会階層とは、江沢民期の 2001 年に提起され、@ 民営科学技術企業の創業者と技術者、A 外資系企業の管理職と技術職、B 個人経営者、C 私営企業家、D 弁護士・会計士など「仲介機構」の就業者、E 自由業者を指す。

中共は、江沢民・胡錦濤の両時期を通じて、持続的な経済成長の実現とともに、これら新興エリート層による反体制運動の抑圧のため、「懐柔」と「統制」の両面から多様な活動を行ってきた。 懐柔の典型が、21 世紀に入って共産党にとっては階級敵であるはずの私営企業家の入党さえ、認めるようになったことである。 統制の代表的手段が企業内での党組織設置の推進である。 近年の米中貿易戦争で、米国政府がファーウェイなどの有力企業と中共との緊密な関係を問題視する背景には、企業内党組織の不透明な活動実態がある。 では、その役割と実態はどのようなものか。

企業内党組織の設立は、統治の効率を考慮して大企業を優先して設置されている。 18 年時点で、全国で党組織がある公有制企業は 18 万 1,000 社、非公有制企業は 158 万 5,000 社である。 しかし、この年の企業総数は 3,474 万 2,000 社であり、公有・非公有合わせても全体の 5% にすぎない。 むろん企業が倒産したり合併買収されたりすると、設置されている党組織も消滅・統廃合される。

事実、17 年の実績では、党組織が既設の公有制企業は 18 万 5,000 社、非公有制企業は 187 万 7,000 社であった。 わずか 1 年で、前者は 4,000 社 (-2%)、後者は 29 万 2,000 社 (-16%) も減った。 それゆえ新型コロナウイルスの感染拡大により、経済不況が深刻化すれば、20 年の企業内党組織の数は 19 年に比べて大きく減少するだろう。

(注 1) 「党政機関工作人員」は党や政府機関で働く党員、「企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員」は企業や各種非営利の社会組織(学校、病院、研究所など)の管理職・専門職

(注 2) 2014 年以降は、「企業事業単位・民弁非企業単位専業技術人員」と「企業事業単位・民弁非企業単位管理人員」の 2 つを、それぞれ合算した数字。 2018 年以降は、「企業事業単位・社会組織業技術人員」と「企業事業単位・社会組織管理人員」の 2 つを、それぞれ合算した数字

トランプ政権が警戒する企業内党組織の実態

企業内党組織の活動はどのようなものか。 そもそも、「フツーの党員」の最低限の義務的な活動は、政治学習会への参加と党費の納付である。 党員は、職場や学校で定期的に開かれる学習会に参加しなければならない。 そこでは国の基本政策や政治家の演説内容を学んだり、各種業務に対する自らの取り組みや反省などを他のメンバーの前で述べたりする。 党費は、毎月の所得の多寡に応じて金額が算定される。 例えば毎月の給与所得がある党員で、固定収入が 3,000 元以下の者はその 0.5%、つまり 3,000 元(1 元 16 円なら 4 万 8,000 円)の場合は 15 元(240 円)を所属する党組織に毎月支払う。

納付額が最も少ないのは、学生や生活困窮者の党員で、0.2 - 1 元(約 3 - 15 円)である。 現実にはあり得ないが、前述の 9,059 万 4,000 人の全党員が、最少の 3 円の党費を毎月滞りなく納めた場合、1 カ月で約 2 億 7,200 万円、1 年間で約 32 億 6,000 万円の「収入」となる。 まさに「塵も積もれば山となる」であり、党にとって「人民に奉仕する(毛沢東の言葉)」ため、先立つものは金である。

一方、企業内党組織の活動は企業ごとにさまざまだ。 基本的には「工会」と称する官製労組とともに、労務管理など企業活動に関するトラブルシューター的役割を務めていると思われる。 もちろん、イデオロギー研修なども行っているが、資本の論理が優先されるため、活動は総じて停滞気味である。 一部の大型国有企業を除けば、企業内党組織の幹部の多くも当該企業では被用者の立場であり、社員としての業務を優先して党務への注力は難しい。 また、民間企業の場合、党組織の活動は基本的には業務時間外で行うしかなく、形式的な活動に流れやすい。

米国は中国人社員による外国企業の情報窃取も非難している。 しかし、一般的には、社員が党員だとしても、専門的訓練を受けていない素人による情報工作は、組織や人的ネットワークを危険に晒すので推奨しにくい。 その代わり、各自の通常業務の中で知りえたさまざまな情報を、専門機関がしかるべきルートを通じて広く、浅く収集し、そこから有益な情報を取捨選択、深掘りしていくと思われる。 党組織を通じたインテリジェンス活動も、まずは数の多さが武器であり、ここでも「塵も積もれば山となる」のである。

一方、12 年に党総書記となった習近平は、企業や学生を中心とした量の拡大路線を見直し、入党者の総量規制を行っている。 13 年 1 月の政治局会議では、@ 入党活動の不備による党員の政治信念と規律観念の希薄化の是正、A 党員の「質」の向上を目指した入党者数の量的制限、B 中共の伝統的な支持基盤である三大集団(労働者、農民、知識人)の青年層へのリクルート重視が指示された。

イデオロギー研修は「時間のムダ」

また、習近平政権に入り、社会の変化に対応して、より効果的に政治的取り込みを行うため、新社会階層のターゲット集団を再定義し、個人経営者と私営企業家を「非公有制経済企業人士」として別の範疇とする一方、(a) 私営企業と外資企業の管理職・技術職、(b) 「仲介機構」と社会組織の就業者、(c) 自由業者、(d) ネット空間のオピニオンリーダーと IT 業界の経営者からなる「ニューメディアの代表者」とした。

しかし現在までのところ、習指導部が期待するような成果は得られていない。 A について、胡錦濤期に比べると習近平期には毎年の入党者は確かに減った。 例えば 08 年は 280 万 7,000 人、18 年は 205 万 5,000 人でマイナス 27% である。 だが、B の職業構成では、既述のとおり、労働者・農民集団の減少傾向に変わりはない。

共産党にとって最大の難点は、@ に関連した入党志願者の功利的動機である。 今日、入党者の中で共産主義の理想を信じている者はほぼ皆無ではあるまいか。 実際、中堅党員である筆者の友人たちも、習近平期政権下で職場の党組織によるイデオロギー研修の回数が増えたことについて「実のない退屈なもので、業務が忙しいのに時間のムダ」と愚痴をこぼしている。

以前に比べれば、党員の身分に付随するメリットも小さくなっている。 現在の中国社会では、党・政府機関、国有企業に就職したい者、および、それらに勤めている非党員で幹部への出世を望む者には党員資格が必要だが、そうしたインセンティブがなければ、自分の時間と行動を一定程度制限される党員になりたいと思う者は少ない。 要するに、自らのキャリア形成にとって必要を感じた場合に入党するのであり、そもそも功利的なのである。

また、非党員の企業家をはじめ、前述した新興の社会エリート層ほど、資金や人脈など、自身のライフチャンス実現のための資源と選択肢をすでに多く持っている。 そのため、これらの人々の入党志望度は元来さほど高くない。 むしろ中共の方が取り込みに積極的とみられる。 それゆえ新興エリート層が党員になったとしても、党活動への取り組み意欲は低いであろう。

市場化と近代化の結果、中国の社会と経済は大きく変化した。 これに伴い中共も、本来の支持基盤である労働者と農民を組織的に疎外してきた。 保守的信条を持つ習近平は、そのトレンドを変えようと試みているが、強権政治家も社会の大きな流れの前には無力である。 党創立 1 世紀の記念すべき機会に際し、組織面でもイデオロギー面でも、労農同盟の政党ではなくなりつつある中共は、矛盾をかかえたまま百周年を迎えることになる。 (鈴木隆、WedgeInfinity = 5-25-20)


北京、厳しさを増す厳戒態勢 習氏が恐れる崩壊の足音

中国の首都・北京は、新型コロナウイルスの感染封じ込めに一定程度成功しているにもかかわらず、人の往来などの移動制限が厳しさを増している。 旗を振るのは習近平(シーチンピン)国家主席。 厳戒態勢の裏には、「政治の中枢都市」という理由だけではない、複雑な事情があるようだ。 3 月 11 日、住民の出入りを厳格に管理しているという北京市郊外の黒庄戸郷郎各庄村に足を運んだ。 広さ 1.5 平方キロメートルの村全体がぐるりと壁に囲まれた構造で、中へ入る唯一の門の脇には、大きなプレハブの「登記所」が設置されていた。

一度外出した住民が村内へ戻るには、煩雑な手続きが必要になる。 まず、体温測定と消毒をその場で済ませる。 次に、過去 14 日間に汚染が深刻な地域に入っていないことを証明する。 これは、中国の携帯電話会社が無料で提供を始めた GPS 履歴サービスを利用する。 それもクリアすると、健康状況などの問診を受け、顔認識機能付きのカメラでデータを記録した後に、ようやく門が開く仕組みだ。

副郷長の田赫氏は「約 4,500 人の住民すべてをこのシステムで厳しく管理している。 この地区から感染者は出ていない。」と胸を張った。 中国の都市部は、そもそも日本の町内会にあたる「社区」ごとに共産党や公安が住民を管理するシステムで、北京でも警備員が人の出入りを見張る団地やマンションが多く存在する。 ただし、平時ではここまでの厳しさはない。

3 月中旬の午後、懇意にしている中国国営メディア記者をお茶に誘うと「しばらく外出できない」とやんわり断られた。 聞けば、ローテーション制となった職場での勤務と会見などの取材以外は自宅待機を厳命されているという。 「移動記録も会社にチェックされるから、ごまかせない。 不自由この上ないよ。」と電話の向こうで嘆いた。

入国管理は北京以外で

北京市衛生健康委員会によると、24 日正午時点での同市内の新型肺炎感染者は計 416 人。 8 人が亡くなったが、94% にあたる 392 人がすでに快復した。 2 月 27 日以降の新規感染者は 1 桁で推移しており、最近は「ゼロ」の日も多い。 感染者の減少ペースは他の都市と遜色ないが、飲食店や理髪店などの再開は明らかに遅れている。 日本料理店を経営する中国人女性 (52) によると、店舗の広さや通気性などを当局が厳しくチェックし、再開を認めない事例が目立つという。

市民の移動もままならないが、外から北京に入ることはさらに難しい。 中国政府は 3 月 23 日から、北京に向かう国際旅客便をいったん上海や天津、内モンゴル自治区フフホトなど別の 12 都市に着陸させ、そこで検疫をクリアした乗客だけを北京に移動させる措置を始めた。 直行便であれば成田から北京は 4 時間程度だが、半日以上遅れるケースも発生している。 北京に到着した後も、国籍に関係なく、政府が用意した施設で 14 日間の隔離生活を強いられる。

欧州や米国で感染が広がる中、中国政府は感染者の「逆流入」を防ぐ対策に力を入れている。 24 日発表の集計によると、国外から中国に入り感染が確認された人は計 427 人に上るが、うち 3 分の 1 が北京で確認された。 北京市の陳副秘書長は同日の会見で、一連の対策について、「首都の安全のために必要な措置だ」と強調した。 とはいえ、本来北京が担うべき感染者の管理を任される他の都市にすれば負担であり、リスクに違いない。 なぜここまで北京の対策に力を入れるのか。

北京の「特殊な地位」

背景には、習氏の強い指示がある。 「北京は特殊な地位にある。 感染予防対策を改善し、大衆の移動と密接な接触を減らすよう管理を強化する必要がある。」 最高指導部の党政治局常務委員を集めた 2 月 3 日の会議で、習氏はこう訴えた。 この発言は当日の発表にはなく、同 15 日に発売された党理論誌「求是」の中で初めて明らかにされた。 習氏は同 23 日の政治局常務委員会議でも、湖北省や武漢市と並んで北京を挙げ、「外部からの感染流入と内部の拡散を許すな。 感染源を可能な限り遮断せよ。」と命じた。

北京を重視する理由としては、当然、習氏ら党指導部が集う政治の中枢だからということがある。 党関係者は、習氏の意図を「党中央からあらゆる指示が下される以上、北京の機能をまひさせるわけにはいかない」と説明する。 天安門広場の西側に建つ人民大会堂で開かれる全国人民代表大会(全人代、国会に相当)も延期されたままで、開幕の日程も定まっていない。 北京の感染状況は全人代をはじめとするさまざまな政治日程にも大きく影響する。

SARS の苦い経験

一方、国営メディア記者は、習氏が北京の感染阻止に熱心なのは、別の理由もあると指摘する。 「SARS (重症急性呼吸器症候群)の時は北京の対応を誤り、政権の安定を揺るがした。 習氏は同じ失敗を繰り返さないことを強く意識している。」 広東省で後に SARS と分かる「原因不明の肺炎」が最初に報告されたのは 2002 年 11 月 16 日。 胡錦濤氏が江沢民氏の後継者として党総書記に就いたのは、その前日だった。

SARS の初動対応で、中国は大きくつまずいた。 しばらく事実が伏せられたまま、年が明けた 03 年 2 月の時点でも「クラミジアが原因とみられ、治療は容易だ」などといった報道が続いた。 対策が後手に回る間に、感染者を拡大させてしまったのが北京だった。 3 月には北京で最初の患者を確認していたが、その事実も 1 カ月以上伏せられた。 結果的に北京の感染者は、中国全土で最多の 2,521 人に達した。

当時、リーダーシップを発揮できず窮地に陥る胡氏に対し、軍トップの中央軍事委員会主席にとどまり実権を残していた江氏やその周辺は、しばらく静観を決め込んだという。 胡氏は楽観的な発表を続けた衛生相と北京市長を解任し、過小に報告されていた感染者数も修正。 3 月に首相に就いた温家宝氏や、海南省党委書記から北京市長代理に登用され、最前線で対応にあたった王岐山氏(現国家副主席)の助力もあり、何とか試練を乗り越えた。

習政権は 8 年目に入り、一見、当時の胡政権のような脆弱さは見られない。 だが、内情は決して盤石とは言えず、とりわけ初動対応のまずさや現場の医師の証言が封じられる現状に対しては、国民の不満がマグマのように蓄積している。 改革派の学者である清華大学教授の許章潤氏は 2 月中旬、「憤怒する人民はもはや恐れていない」と題した文章で「公権力を持つ者たちが感染を隠蔽するのは、核心(習氏)がぜいたくを楽しみ、平和であるかのように振る舞うためであり、人々の命に関わることなどまったく心にないのだ」と政権を痛烈に批判した。

政府の発表や多くの都市で経済活動が再開しつつある現状を見ると、中国の状況が良い方向に向かっていることは確かなようだ。 だが、厳しい管理がなお続く北京の様子からは「共産党による統治の優位性が示された」と習氏が豪語するような余裕は伝わってこない。 国営メディア記者はこう話す。 「感染症対応は、一つのミスが政権の崩壊にもつながる。 SARS を経験した王氏が、習氏によく説明しているはずだ。 だからこそ、北京対策に懸命になっている。」 (北京 = 冨名腰隆、asahi = 3-29-20)

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新型コロナ、中国から感染拡大 言論の自由なしに安全はない?

新型コロナウイルスの感染の広がりについて、米メディアで「中国は謝るべきだ」とコメントがあったことに対し、中国外務省報道官が 5 日、こう切り返した。「2009 年の新型インフルエンザは米国から爆発的に広がった。 米国に謝罪を求めた者はいたのか?」 だが問われているのは中国が発生源だったことではない。 初期対応の誤り、特に情報公開の遅れが批判されているのだ。

その象徴が李文亮医師の事件だろう。 ウイルスの危険性を SNS でいち早く発信した李さんは「デマを流した」として警察で処分を受けた。 その後、自身が感染し、「健全な社会なら声は一つであるべきではない」という言葉を残して亡くなった。 これを受け中国の知識人らが公開書簡を出した。 今回の悲劇は自由を抑圧した代償であり、「言論の自由なしに安全はない」と主張している。

賛同したいが、ちょっと引っかかる。 そもそも私たちが目指す社会は、一人ひとりが個性を発揮できる社会であり、そこには言論の自由も含まれるはずだ。 この書簡のような立論は、言論の自由を公衆衛生の一手段のように軽く扱っているとも感じられる。

中国出身のある学者に尋ねてみた。 どう思います? 「理解できます。 でも、言論の自由が大事だ、とだけ言っても、なかなか伝わりません。 それに比べて今回はわかりやすい。 自由がないと何が起きるか、はっきり示したわけですから。」 この好機を政治改革に生かそう、と柔軟に考えるべきなのだろう。 とはいえ、自由社会なら感染が抑えられるわけでもないことは私たち自身が経験中だ。 感染拡大後の中国にみる通り、公衆衛生はむしろ私権を平気で制限する独裁政権の得意分野という面がある。

それだけに、初動のもたつきを習近平(シーチンピン)政権は悔やんでいることだろう。 習氏の名で最近、党理論誌に掲載された論文は「疾病予防抑制システムの改革」を強調した。 これが今以上に厳しい監視と抑圧を意味するならば、李文亮事件が何かの突破口になると楽観することはできない。 (村上太輝夫、asahi = 3-11-20)

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新型肺炎対策で当局批判、学者ら次々失踪か 中国

新型コロナウイルスによる肺炎が拡大している問題をめぐり、香港の民主派団体は 19 日、当局に批判的な学者らの拘束や失踪が中国本土で相次いでいるとして、中国政府の香港出先機関前で抗議デモをした。 関係者によると、15 日、憲法に基づく権利を求める「新公民運動」を提唱した法学者、許志永氏が当局に連行された。 容疑は不明だが、ネット上で新型肺炎をめぐる当局の対応を非難し、習近平(シーチンピン)国家主席の辞任を求めていた。

市民ジャーナリストと名乗り SNS 上に動画を投稿していた陳秋実氏も 6 日を最後に発信が途絶えている。 原因不明の肺炎に警鐘を鳴らしながら処分を受けた医師、李文亮氏の死去などを受け、当局は体制批判が広がることに警戒を強めている模様だ。 香港の民主派団体は 19 日のデモで「告発者を『第 2 の李文亮』にしてはならない」と訴えた。 (香港 = 益満雄一郎、asahi = 2-19-20)

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中国知識人、肺炎情報統制で声明 「言論封殺による人災」

【北京】 中国の著名学者ら少なくとも 50 人以上が 11 日までに、当局が新型肺炎に関する情報を統制したことで感染拡大につながったとして、言論の自由を保障するよう中国政府に求める連名の声明を出した。 新型コロナウイルスのまん延は「言論の自由の封殺によって引き起こされた人災だ」と非難している。 声明は、肺炎の存在にいち早く警鐘を鳴らして当局に摘発された男性医師、李文亮さんが新型肺炎で 7 日に死去したことを受け、インターネット上に公開された。 北京大の憲法学者、張千帆教授らが署名。 「人民の知る権利が奪われた結果、数万人が肺炎に感染し、死者は千人に上った」と指摘した。 Kyodo = 2-11-20)


新型ウイルスが警鐘、経済より優先すべき開発秩序とは

[ロンドン] 新型コロナウイルスの感染拡大は、グローバル化と経済開発の両義性を浮き彫りにした。 感染力や致死率、経済的損失の全容はまだ分からないが、既に 3 つの知見が得られたのは確かだ。

1 つ目の知見は、21 世紀の科学は非常に有能だということだ。 中国当局が最初に深刻な健康問題を認識したのは昨年 12 月 8 日。 それから 1 カ月もたたないうちに、科学者は遺伝子配列を解析。 2 月初めまでに、中国の疾病予防機関は 15 分間で病原体の有無を調べられる安価な検査キットを開発したと発表した。  これをうのみにしてよいかどうかはまだ分からない。 ただ、世界的な努力によって間もなく迅速で正確な検査手段ができるのはほぼ間違いないだろう。 研究結果はオンラインで共有されているため、最良の治療法をウイルスより速いスピードで世界中に拡散することも可能だ。

第 2 の知見は、1 つ目に比べてずっと暗いものだ。 感染拡大への対処法は 19 世紀からほとんど進歩していない。 医療用マスクはハイテク化したが、昔ながらの手洗いが依然、感染予防の中心的な「技術」。 そして今のところ、ウイルスの拡散を抑制する最も実効的な方策は、感染者の隔離だ。 中国や世界各地でかなり徹底的な強制ないし自主的な隔離措置が講じられており、医療的に手荒い措置ではあるが効果を上げている。 ただ、経済的には世界中に痛みをもたらす可能性がある。

そこが昔と変わったところだ。 越境貿易や外国旅行が限られていた時代には、隔離が世界経済に影響することはほとんどなかった。 しかし現在は、多くの産業が複数国・地域にわたる長いサプライチェーンに頼っている。 感染拡大が長引くようなら、何であれ中国での生産活動は減速するだろう。 今や巨大産業に成長した海外旅行にも大きな被害が及ぶ。 経済活動の落ち込みに伴って下落することの多い原油価格は、年初から大幅に下落している。 感染拡大を迅速に抑制できないなら、今年の世界の経済成長率は急減速するだろう。 これが、19 世紀型の解決策で 21 世紀の問題に対処したときに起こることだ。

20 世紀型の対策を講じれば、急減速は回避できるかもしれない。 それが第 3 の知見だ。 つまり、発展途上国は国家的な優先課題として、公衆衛生への投資に取り組む必要がある。 貧しい国々がより豊かになり始めるときには、常に公衆衛生の改善がその中心にある。 ワクチンや清潔な水、教育、十分な栄養などにアクセスできる人が増える。 ウェブサイト「アワ・ワールド・イン・データ」によると、世界の平均寿命は 1950 年の 46 歳から今では 72 歳に伸びており、その大きな要因がこうした公衆衛生の改善だ。

しかし国が富を蓄えるに伴い、往々にして公衆衛生インフラがないがしろにされる。 新型コロナウイルスの背景や経緯を考えれば、問題点が見えてくる。 中国の食品供給網は概して管理が甘く、武漢の不衛生な海鮮市場がウイルスの感染拡大を助長したとされる。 20 世紀型の技術がもっと普及していれば、感染者はずっと少なく抑えられただろう。 先進国では、食品の温度、鮮度、水質が監視され、危険性のある廃棄物は従業員や顧客から離れた場所に保管される。 しかしこれらのシステムをきちんと運営するには、相応の社会体制が要求される。 何よりも誠実な検査官や官僚がそろっている必要があるからだ。

中国当局が、こうした公衆衛生対策をまったく無視していたわけではない。 当局は現在、近代的な医療制度に重点投資している。 ただ、最近まで観光開発や高速鉄道、最新鋭の兵器といった派手な目標にずっと多くのエネルギーを注いでいた。 中国共産党が、思想統制と同じくらい食の安全にも注力していたらどうなっていただろうか。 タイやカンボジアといった一部発展途上国の政府も、公衆衛生を脇に置いて、中国人向けの観光産業開発にはるかに力を注いできた。 新型コロナウイルスの感染が急拡大した場合、これらの国々の当局は有効な隔離措置を講じるのに苦労するかもしれない。 最悪の事態は避けられても、経済開発偏重は今や、危険な選択のように見受けられる。

コロナウイルス対策の人的・経済的コストが増大するにつれ、バランスの取れた開発と、多面的なグローバル化の重要性が明確になりつつある。 経済成長率が少しぐらい減速したとしても、より健康的な成長になるのであれば、その方がずっと良い。 (Edward Hadas、Reuters = 2-8-20)


権力集中が裏目に 習近平指導部、新型肺炎の拡大で苦境

中国で新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が止まらず、習近平(シーチンピン)国家主席率いる共産党指導部が厳しい立場に立たされている。 指導部は、対応が遅れた武漢市や湖北省政府など地方の問題とし、関係者を大量に処分することで乗り切る構えだ。 だが、国民の不満はくすぶる。 習氏が進めてきた権力集中が裏目に出た格好だ。

「あなたが責任者でしょう!」 1 月 30 日、武漢市に次いで感染者の多い黄岡市で、感染対策を担当する衛生健康委員会の女性主任が党中央の監察チームに詰め寄られる映像が、何度もニュースに流れた。 主任は市内病院の収容能力などを把握しておらず、能力不足を指摘され、直ちに解任された。 監察は、習氏が春節の同 25 日に党最高指導部の政治局常務委員による会議を開き、「感染予防へ再検討、再配置、再動員せよ」と号令をかけたことで始まった。

黄岡市長は 2 月 1 日、感染を防げなかったため幹部ら 337 人の処分を発表。 周辺の市や村でも、報告が遅れるなどした幹部の処分が相次いだ。 こうした事態に省レベルの幹部も謝罪に追い込まれている。 王暁東湖北省長は会見で「心を痛め、罪悪感と責任を感じている。」 同省幹部を兼務する武漢市トップの馬国強党委書記も、テレビ取材で「もっと早く厳しい対策をとっていれば、全国各地への影響は少なかった」と反省を口にした。

地方レベルとは言え、行政の失態を中国メディアが報じるのは近年では珍しい。 実際、湖北省政府は感染が広がるなか、春節イベントを盛大に開くなど対応のまずさはあった。 一方、国民の不満を地方に向けさせようとする党指導部の意図も透けて見える。 習氏ら最高指導部も迅速に対応したとは言えない事情があるからだ。

目立つ対応の遅さ

専門家グループの分析で新型コロナウイルスが検出されたのは 1 月 9 日。 その 2 日後には初の死者が発表された。 13 日にはタイを訪問した中国人女性の感染も判明し世界的な広がりを見せたが、習氏は 17 日からのミャンマー訪問を決行。 さらに 19 日からは、湖北省と約 1,300 キロ離れた雲南省を視察した。 20 日に「感染を断固抑えよ」と指示を出したのは、雲南からだ。

さらに李克強(リーコーチアン)首相は、習氏の指示が出た翌日から内陸部の青海省を視察。 新型肺炎の対策責任者として武漢入りしたのは、すでに中国全土で 3 千人近くが感染した 27 日になってからだった。 習政権以降、共産党は中央の権限を強め、あらゆる行動で連絡や報告を義務づける仕組みを整えてきた。 こうした空気が地方の判断を遅らせた可能性もある。 武漢市の周先旺市長は 27 日のテレビ取材で、情報開示の遅さを問われると「地方政府は、権限を付与されてからしか公表できない」と漏らした。

3 月には全国人民代表大会が控えるが、通常、その前に開かれる地方の会議が軒並み延期されている。 4 月には習氏訪日も予定されており、党指導部はこうした重要な政治日程をいかに進めるか、難しい判断を迫られることになりそうだ。 (北京 = 冨名腰隆、高田正幸)

専用病院、10 日で完成

建設が進んでいた、新型コロナウイルスによる肺炎の患者を専門的に受け入れる中国・湖北省武漢市の「火神山医院」が 2 日、ほぼ完成し、人民解放軍に引き渡された。 工事は春節による大型連休を返上して 24 時間態勢で行われ、工期 10 日ほどの「超突貫工事」だった。 病床数は約 1 千で、3 日に開院し、患者を受け入れる。 中国中央テレビなどが報じた。 病院の面積は 2.5 万平方メートルと東京ドームの半分程度。 工場であらかじめつくった部品を組み立てるプレハブ建築で、建設の過程を記録した映像は SNS で多くの人が閲覧した。

市内では 5 日の完成をめざす「雷神山医院(病床数約 1,600)」の建設工事も進んでいる。 二つの新設病院の病床数は計約 2,600 で、市内の 30 日時点の患者数約 2,400 人を収容できる規模になる。 だが、感染は拡大中で、受け入れ態勢の整備を続ける必要がありそうだ。 (北京 = 福田直之、asahi = 2-3-20)

塗り替える可能性は決して否定できない。 (趙●(= 偉の人偏の代わりに王偏)琳 : 富士通総研経済研究所上級研究員、東洋経済 = 5-25-19)

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