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中国・全人代の記者会見 おべっか質問にうんざり顔の記者

中国・北京で開催中の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)では、数多くのお膳立てされた記者会見が開かれる。検閲済みの質問からインターネットへの投稿制限まで、中国共産党はさまざまな手法で報道を規制しようとしているが、こうした状況にあっても手に負えなくなるケースもある。 今回の全人代でも記者会見のひとつを見れば、記者たちがあらかじめ政府関係者の精査を通った質問をさせられている可能性が高いことがわかるだろう。例えば王毅外相への記者会見でも、シリアや北朝鮮、貿易戦争の可能性、南シナ海の領有権といった問題について聞きたくない記者を探すのは難しくない。

代わりに記者たちが知りたいのはたとえば、こういう内容だ …。

人民日報 : 「中国共産党第 18 回全国代表大会(党大会)以降、中国は外交で前例のない重要な業績を残し、国民から称賛されました。 2018 年は第 19 回党大会が終わって最初の年ですが、今年の中国の外交的ハイライトはどんなものでしょうか?」

王外相 : 「第 18 回党大会以降、習近平国家主席を中心とする党中央委員会の正しいリーダーシップによって、われわれは中国らしい、中国の様式を持った力強い外交への道の上に立ってい(以下略)」

北京電視台 (BTV) : 「数日前、李克強国務院総理(首相)は内閣報告書で、2018 年は第 19 回党大会の精神を十全に発揮する最初の年となるだろうと述べました。 今年は改革開放から 40 周年です。 小康社会の実現と第 13 次 5 カ年計画の実施にとって重要な年です。 外相は常日頃、外交の中心的な任務は中国の発展に貢献することだと話されていますが、今年の外交政策について詳しく教えてください。」

王外相 「 中国は今なお発展途上国であり、国内の発展促進が中国らしい力強い外交の一部。 この新しい歴史的な任務を前に(以下略)」

ある記者会見では国務院国有資産監督管理委員会のトップに対し、米国の中国語テレビ放送、全美電視台 (AMTV) の張慧君記者が、特に張り切った様子で「<一帯一路>政策により中国は国外の国有資産を拡大させていますが、こうした資産をどのように保護していくのですか?」と質問した。

張記者のご機嫌取りの質問は、金融ニュースを手がける第一財経の梁相宜記者にとって目に余るものだったようだ。 テレビで放送された梁記者がうんざりした表情を浮かべる様子を、大勢がスマートフォンで撮影。 インターネットに投稿されると、たちまち拡散された。 梁記者の表情は GIF 動画になり、数時間後には人々が赤と青の服を着て両記者を真似る動画も投稿された。 中国のソーシャルメディアではすでに、梁記者の名前を中国語で投稿することは禁止されている。

自然な反応を抑え切れなかった梁記者が、この件で罰せられるかどうか気になる人もいるだろう。 他国では単なる面白い出来事だが、中国ではそうではない。 今回の件は全人代の記者会見が茶番に過ぎないことを示してしまっている。 これは正に共産党が恐れている事態だ。 こうした記者会見に、何十年もこの手のものを見ている中国人にさえ馬鹿馬鹿しく聞こえる質問者を選んだこと自体、共産党の失態だという人は多いだろう。

政府が国内メディアでさえ統制しきれないなら、外国特派員がそこに関わったらどうなるか、どれほど心配されているか想像してみてほしい。 たとえば中国外務省の関係者は時折、主要な外国報道機関に連絡をとり、全人代の記者会見で「質問したい」かどうかを聞いてくることがある。 そもそも共産党はなぜ、何をするか予想のつかない外国メディアをコントロールしようとするのか。 そんな厄介ごとに手を出すくらいなら単に外国メディアの立ち入りを禁止して、党の手中にある地元メディアに政府の望むとおりの質問をさせればいいのではないいか。 そう疑問に思う読者もいるだろう。

答。 外国メディアに来てもらいたいから。

外国人特派員が記者会見の場にいる様子を国民に見せて、全人代がいかに国際的に重要なものかと知らしめたいのだ。 全人代に伴う記者会見は全て、ある程度の統制下にあるが、その最たるものが最終日に行われる首相の記者会見だ。 外国人特派員の何人かは強制的に前方に座らされるが、質問の機会を得ることはまずない。 外国人記者が質問のために手を上げたり、中国政府の重大な発表をノートに書き留める姿を国内のテレビで流すためだ。

全人代の直前に米紙ニューヨーク・タイムズのクリス・バックリー特派員はツイッターで、プロパガンダの道具として使われないよう仲間の特派員に促した。 バックリー記者は「今回の全人代に向け私が祈っていること。 記者たちは、退屈な質問のための交渉ゲームをしないでほしい。 (中略) 説明責任を果たさせていると見せかけるのは誰のためにもならないし、我々の信用を落とす。」と書いた。

関与するか否か

全人代にどの程度まで関与すべきかについて、中国に滞在する特派員の間では相当議論がある。 ある者は一切参加せず、距離を置いて報道すればいいという。 他の者は、この欠点だらけの状況でベストを尽くすためにも、質問を提出し投げかけることに価値があると考える。 BBC は、質問を検閲に通さないことにした。 これは質問者として選ばれないことを意味する。 他の国では、選ばれなくても大声で質問を叫ぶ記者もいる。 もしかしたら、われわれもその方法を選ぶかもしれない。

中国政府が全人代をどのように報道されたがっているか、ここに一つの例を挙げよう。 全人代は 11 日、国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正を承認した。 これにより、習近平氏が望む限り国家主席の座にとどまることが可能になった。 15 億人を統治する方法が大きく変わったにもかかわらず、国全体での議論は一切行われなかった。 また、国有メディアは任期制限の撤廃をほとんど報じなかった。 国有新華社通信の報道から、該当する箇所を探してみてほしい。 全人代は今月 20 日、より権力を強めた習近平国家主席を「核心」と位置付けつつ閉幕する。

李首相の記者会見から目を離さないでほしい

国家主席の任期制限(これは新たな毛沢東を作らないために中国政府が導入した施策の一つだった)を撤廃し、習近平氏が生涯、国家主席の座にとどまることを可能にする必要がどこにあるのかと質問する記者が一人もいない可能性は十分にある。 任期制限の撤廃は中国政府の統治方法をめぐるここ数十年で最も大きな変革なのに、これに関するちゃんとした質問は一つも首相に投げかけられないかもしれないのだ。 様子を見ることにしよう。誰かが質問するのを期待しつつ。 (BBC = 3-15-18)


中国の方針転換が世界中の反感を買っている

習近平氏が渡ろうとしている「危ない橋」

一世代前の中国の発展は目覚ましいばかりで、国際的な枠組みの外側にあった国がその中心となり、貧しい辺境の地からあまたの富と権力を有する地位にはい上がってきた。 国際問題には「身を潜める」方針で臨むことで世界第 2 位の経済大国となったものの、その戦略が作り上げた状況も変化している。 そして中国に対する反発がそこかしこから始まっている。

習近平国家主席のもと、中国政府はつねに攻撃的かつ態度を明確に示した外交政策を推し進めており、歴代の国家主席が慎重に避け続けてきた「注目」を集めている。 中国からの投資や、中国とのかかわりをほんの数年前は歓迎していた国々も、今では中国からの影響力に対抗するために結集し始めている。

「目立たぬこと」を心がけてきた中国

国際社会が中国の興隆を受け入れようとし始めたのは冷戦終結の時である。 ソビエト連邦の崩壊を受け、西洋の国々、なかでも米国は自分たちが作り上げたと信じる世界秩序に新たな国々を加えることに積極的だった。

1990 年代を通じて、通商の自由化を進める力と、ソビエト社会主義に対する西側の勝利が「歴史の終わり」を宣言したというフランシス・フクヤマの論文に対する信頼は絶頂を迎えていた。 その結果、中国の独裁体制に対する懸念は西側諸国の政府の間では一様に棚上げされた。 ことさら米国は、中国の世界貿易機関への加入を推し進めた。

これがやがて中国の経済成長をもたらす転換点となる。 21 世紀に入って、米国の戦略的関心の中心は、イスラム教徒によるテロ、中東およびアフガニスタンに移り、欧州諸国ではユーロと欧州連合 (EU) の成長に意識が向けられるようになった。 日本だけが一世代前の中国の権力に対する野望について戦略的な焦点を当て続けていた。

こうしている間にも、中国政府はたくみな舵取りを行っていた。 数十年前にさかのぼるが、最初の経済改革を実施したとき、1997 年に死去するまで中国の指導者を務めたケ小平氏は、彼の後を継ぐ世代の指導者たちに対し、国際的に目立たぬようにするよう力説した。 「韜光養晦(「自らの力を隠し蓄える」という意味であるが、一般的には「身を潜めて時を待て」と訳される)」のスローガンを信奉し、これ見よがしに権力をひけらかすことのないよう訴えた。 諸外国とわたり合える立場になるまでは、自国の努力を外国に気づかれないようにするためだった。

外交では明確な態度は避けながら、中国は 2 国間の焦点を通商と投資にしぼった。 一貫して「ウィンウィン」の協力を呼びかけ、友好関係を築いていった。 国連では、西側諸国の行為に関する争議についてはロシアに主導権を譲った。 イラク戦争に対して国際社会が反発したときには、中国政府は国際社会に賛同する姿勢を見せ、2003 年に中国と欧州間で戦略的パートナーシップを立ち上げることまでした。 米国一極主義に対する第 2 の手段を意図したとも考えられる。

2009 年には新興国のための BRICs 首脳会議を創設し、「中国は信頼できるパートナー」なのかどうか、といった議論が発展途上国にまで拡がりをみせた。 増え続ける富と国力にもかかわらず、この時代を通じて、中国政府は、パートナー国の懐疑派を思い通りにさせないようにする意図が見透かされない程度の曖昧さを身につけていた。 オーストラリアの鉱山から西洋の大学における孔子学院にまで、その論争は拡がり続けた。

過去 5 年ですべてが様変わり

ところが、過去 5 年で、ほぼすべてがあっという間にくつがえった。 遠回しの外交的助言は注目を集める提言に変化した。 戦略的曖昧性は、国際的な軍事拠点や大規模軍事訓練、派手な行進や隣国との睨み合いと引き換えに姿を消した。

国家が貸し付ける大規模なローンを背景として、中国企業は国際的な爆買いに走り、ニューヨークのウォルドルフ・アストリア・ホテルやゼネラル・エレクトリック(GE)、ボルボといった一連の有名ブランドを買い漁った。 これにおそれをなした西側諸国の立法者の中には、買収されてしまうと貴重な商業資産が中国政府の影響下に置かれてしまうのではないかと心配する者もいた。

アフリカでも、中国からの出資はパートナーシップや投資を目的とするものとは言えず、むしろ資源が豊富な国々に対して中国政府が露骨な影響力を手に入れ、不当労働行為を持ち込もうとしているのではないかという懸念が拡がっている。 2017 年後半に中国共産党での基盤を盤石にした後、習主席はこのような変革を加速させている。 中国共産党中央統一戦線工作部は国外の大学で中国人留学生の振る舞いに対してガイドラインの適用を開始した。

カリフォルニア大学サンディエゴ校の中国人教授らの発言によると、9 月には、同校がダライ・ラマを卒業式でのスピーチに招いた後、中国教育省の一部門が彼らの資金を凍結した。 これは中国共産党の教義に反する考え方を抑制するために中国政府がとった手段の一つと解釈されている。

そして決定的なのが、習主席の提唱するインフラ構想「一帯一路」である。 莫大な金額の対外計画投資を包括した用語である。 最近では、スリランカの地元企業が中国の要求する過度の負担付き契約を不履行としたことで、スリランカの港の所有権を取得するに至った。 現地での抗議が高まったことで、中国とスリランカの今後の協力体制に照準が当たり、中国からの投資を受けるそのほかの国々にとって警戒心を呼び起こさせた。

中国は、1 つ前の世代では提携と「西側帝国主義」への抵抗というイメージを築いてきたが、習主席はそれを投げ捨て、自国の行動が世界でどのように受け止められるかということには関心すら示さない自信のある尊大な大国といったイメージを選んでいる。 明らかに、これこそが、中国共産党の利益にかなうものだと判断してのことである。 党は国家主義者の言明を党の国内基盤を強化するために用いることはよくあることだ。

世界の国々が中国に不快感を示している

こうした中、米国では貿易面での反中感情が膨れ上がっており、米政府の新たな戦略上の指令では、かつてはもっと穏やかな言葉が使われていたが、中国を敵対的な「修正主義大国」と認めている。 カナダとオーストラリアの政治家らも、中国による国内問題への介入について不快感を露わにしている。 オーストラリアでは、中国関連のビジネスマンからなされた上院議員への支払いをめぐる最近のスキャンダルを受け、政府が外国人によるオーストラリアの政党への寄付を禁止する計画を発表している。

広範にわたる一帯一路構想の一部となるパキスタンは通常なら友好国であるが、中国からの過大な約束と過少の実行の矛先となっている。 中国・パキスタン経済回廊として知られる計画において 3 つの主要なパキスタンの道路への資金供給を突然停止したと報道されている。 今週に入って、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は中国を公に非難する行動をとり、一帯一路構想は「新たなる覇権となってはならず、そうなってしまえば、そこを通過するものは皆家臣に変えられてしまう」と述べた。

中国が過去にその動機や目的について、西側諸国と発展途上国の両方から疑いの目を向けられることはなかった。 中国政府の外交は批判に対峙するよりも、それをはぐらかせたり、そらせたりすることに経験上長けている。 中国共産党の内部方針は「核心的利益」をほぼ絶対的に保護することである。 これは、世界中に対して外交的懸念を発している国にとってよい前提ではない。 中国政府がこの向かい風をどう処理するかで中国がどんな国になろうとしているのか、そして世界において新しい役割をどのように担っていこうとしているのかが見えてくる。 (Reuters = 1-13-18)

著者のピーター・マリノ氏は、ニューヨークに拠点を置くシンクタンク、メトロポリタン・ソサエティの創設者であり、グローバル・ナラティブ協会のシニア・リサーチャー。このコラムは同氏個人の見解に基づいている。


「中国のエルサレム」で統制と闘うキリスト教徒 浙江省温州

[温州(中国)] キリスト教徒コミュニティーを多く抱え「中国のエルサレム」とも呼ばれる中国南東部浙江省の都市・温州は、子ども向けの宗教教育を巡る中国指導部と敬虔な信者たちの対立激化の最前線となっている。 公式には無神論の立場をとる中国共産党は、キリスト教の影響力を抑制するための取り組みを強めており、信仰教育に対する制限を強化し、キリスト教の「欧米風」な思想に警告を発している。

とはいえ、温州のキリスト教社会の決意の固さから見て、国内 6,000 万人に上る信者の子どもたちに対して共産党が統制を及ぼそうとしても苦労するだろう、と同教徒らは語る。 温州では、今年に入って、キリスト教会の日曜学校が当局により禁止された。 だが、子どもたちにイエス・キリストや聖書について学ばせようという親たちの決意は固い。

温州の各教会は、個人宅やその他の場所を使って子どもたちを教育するようになった。 現地の信者らがロイターに語ったところでは、日曜学校は教育ではなく託児サービスと称するところもあれば、毎週土曜日に変更したところもあるという。 微妙な問題ゆえ、Chen とだけ名乗る信者の親は、彼女の家では「大切なのは信仰で、成績は二の次」だと言う。

クリーム色の毛皮コートをまとった小奇麗ないでたちで、大きなターコイズの指輪をはめた Chen さんは、温州に多い、富裕な信者の 1 人だ。 国家による教育は、十分な道徳的・精神的指導に欠けているため、子どもたちは聖書の授業に出席しなければならない、と彼女は語る。 「今日の若者のあいだでは麻薬、ポルノ、賭博、暴力が深刻な問題となっており、ビデオゲームの誘惑も非常に強い」と彼女はロイターに語った。 「いつも子どもの傍らにいるわけにもいかない。 (どういう行動が正しいのか)子どもに理解させるには、信仰に頼るしかない。」

状況を直接知る情報提供者 3 人によれば、温州の一部地区では、8 月以来、公式の命令により日曜学校が禁止されているという。 キリスト教系のニュースサイト「ワールド・ウオッチ・モニター」が 9 月報じたところでは、浙江・福建・江蘇・河南の各省、そして内蒙古自治区では、子どもたちがサマーキャンプなどの信仰活動に参加することが禁止されているという。 こうした政策が地方政府主導なのか、中央政府の指令によるものかも定かではない、とロイターの取材に応じた情報提供者は話す。 また中国国内で他の宗教についても同様の禁止措置があるかどうかも分からないという。

9 月には、宗教教育に対する国家の監督を全国規模に拡大する新たな規則が発表された。 当局者によれば、党に忠実な新世代の宗教指導者を生み出す試みだという。 中国の国家宗教事務局と温州市政府広報部に対してコメントを求めるファクスを送ったが、回答は得られなかった。

信仰の爆発的拡大

過去 40 年に及ぶ経済的繁栄のなかで、中国のキリスト教徒は急速に増加した。 公式データによれば信者数は現在約 3,000 万人だが、外部の試算では約 6,000 万人とされており、その大半がプロテスタントである。 温州では、19 世紀の宣教師らが創設した小規模な信者コミュニティーが、今や 100 万人を超える規模に開花している。 住民によれば、近年までは地元当局との関係は比較的穏やかだったという。

その後 2014 年になって、「違法」な教会を取り壊し、そこに飾られていた十字架を引きはがす政府キャンペーンが行われ、信者コミュニティーからの激しい抗議を引き起こし、彼らのあいだに当局への不信感の種がまかれた。 このキャンペーンは、かつて 2002 - 2007 年に浙江省の共産党トップだった習近平氏が党総書記に任命された直後に行われた。

だが、信者の急速な増加を抑えようという試みは、温州では難航している。 多くは敬虔な地元企業のオーナーからの寄付で支えられている教会が至るところに存在するからだ。 温州にある教会の牧師は、「温州市政府は、数があまりにも多すぎることを理由に、教会を登録制にしていない。 だから家庭教会も多く、政府がこれらを管理することは困難だ」と語る。

温州での取り締まりで特に問題になっているのが、日曜学校で用いられる教科書だと教師たちは言う。 政府は宗教関係の出版物を制限しており、教会では海外の教科書を翻訳して用いることが多い。 ある教師は、未認可教科書の使用をやめ、「日曜学校」という名称を避けたところ、授業が再開されたと明かした。

信教の自由

中国の法律は、公式には子どもを含めたすべての人に信教の自由を認めている。 だが同時に、教育と年少者の保護に関する規則では、国家による教育を妨害するため、あるいは子どもたちに信仰を「強要」するために宗教が用いられてはならないとされている。 最西端にある新疆地域など中国国内でも不安定な地域の地方政府は、子どもが宗教行事に参列することを禁じている。だがそれ以外の地域のキリスト教徒コミュニティーが全面的な制約に直面することはめったにない。

共産党は 2017 年、大学の学生、国有企業の従業員、そしてお膝元の政府当局者がクリスマスを祝うことに対し、国営メディアの報道によれば「西側の宗教文化による腐敗に抵抗する」といった文言を用いた、尋常ならざる厳しい警告を発した。 温州の親たちは子どもたちの教育を自身の手で管理したいと考えているが、政府は、党に忠実な新世代の宗教指導者を生み出そうとしている。

中国の国家宗教事務局を率いる王作安局長は 10 月にロイターに対して文書でコメントを寄せ、愛国的な宗教指導者を求める中国の「切迫したニーズ」に応えるためには、今回政府が公布し、2 月に施行される予定の宗教学校に関する新たな規則が必要だと述べている。 「宗教学校を卒業した人材が、政治的・宗教的性格の双方において水準を満たしており、国に対する愛と宗教に対する愛をうまく結合させていくことをわれわれは願っている」と王氏は言う。

だが、国際人権 NGO フリーダム・ハウスでアナリストを務めるニューヨークのサラ・クック氏によれば、多くのキリスト教徒にとって、党が宗教教育を統制することを容認すれば、神よりも党を優先せざるを得なくなり、受け入れがたいと語る。 したがって、党としても信仰教育を統制することしかできていない。 「寝るときに、聖書由来の物語の読み聞かせを受ける子どもは、今後も必ずいるだろう」とクック氏は言う。

温州の Chen さんは、中国の若者たちのあいだで無神論者よりも信者の方が多数になるまでは、教育で正面から信仰を扱うべきと考えている。 「次の世代では、キリスト教の信者がもっと増えるのは確実だろう」と彼女は言う。 「キリスト教の信仰が伝承され、受け継がれていく力は、ますます大きくなっている。」 (Christian Shepherd & Stella Qiu、Reuters = 1-1-18)


中国工業地帯を襲う天然ガス不足、環境対策が裏目に

[石家荘市(中国)] 深刻な天然ガス不足が、中国主要工業地帯の企業や住民を直撃している。 数十年に及ぶ抑制なき成長によって破壊された環境を回復させようと、政府が導入した前例のない取り組みが、裏目に出た格好だ。 現地の工場は閉鎖もしくは操業時間の短縮を強いられ、企業はサプライチェーンの混乱によって利益が低下している。 また、氷点下の寒さの中で、住民は自宅で十分な暖を取れず凍えていることが、ロイターの現地取材によって明らかになった。

天然ガス不足によって、中国全土でガス価格が高騰。 地域の大気汚染解消を目指す長期計画の一環として、この冬、数百万規模の住宅と数千の企業を石炭から天然ガスに転換させようとする政府の大掛かりな構想は、足元から計画が狂ってしまった。 約 400 万の民家を含んだ地域一帯を天然ガス化する計画は、大気汚染を改善するよう中央政府からの指示を受けた地方政府が、自ら急ぎ立案した計画に沿って実行された。 だがその計画は、野心的過ぎたようだ。

中国北東部一帯の民家や工場向けに天然ガスのパイプラインやボイラーが設置されたものの、この地域へ燃料を運び備蓄するインフラ整備が不十分だったためガスの供給が滞った。 かつて天然ガスと石油のコンサル会社 JLC に所属していた独立系アナリス Liang Jin 氏はそう指摘する。 また一部の地域では、暖房に必要なガスボイラーがまだ設置されていない住宅もある。

今回の天然ガス化計画は、中国がこの冬、鉄鋼などの汚染産業の生産を減らし、ディーゼルトラックの利用を削減する中で実施された。 環境汚染対策によって経済成長が阻害されるのではとの懸念も出ている。 河北省の企業経営者や住民、ガスなど公共事業者に対する取材によって、こうした問題が浮き彫りになり、多くの都市でこの問題に対処する用意がないことが示された。 北京に隣接する河北省で操業する工場は、冬に首都を頻繁に覆う大気汚染の元凶とみられている。

河北省で小さな床タイル工場を営むXue Huabingさんは、新たな環境規制に従ったため、今年は工場を 4 カ月しか稼働できなかったと語る。 人口 1,000 万人を擁する省都・石家荘市に近い Xue さんの工場生産は、環境検査のため数回停止させられ、夏には新たなガスボイラー設置のため操業を停止したという。 石炭から天然ガスへと燃料を転換し、9 月に操業再開したものの、10 月にはガス価格の高騰によって再び生産停止に追い込まれた。

「ガス価格は、1 立方メートルあたり 6 - 7 元(104 - 121 円)で、同 2 元だった昨年から上昇した」と Xue さんは言う。 「稼働すれば、赤字操業になる。」 天然ガス供給を確保すること自体も困難だったと、Xue さんはロイターとの電話取材で語った。 中国内のガス供給取引用オンラインサイト market.yeslng.com によると、国内の液化天然ガス価格は 11 月中旬以降、7 割以上跳ね上がり、1 トンあたり 8,000 元を超える記録的高値を付けた。

価格高騰は、石家荘市や保定などの産業都市における生産コストを膨らませ、その影響が下流の卸売業者や小売業者にも波及していると経営者は話す。 大気汚染の原因となる工場を減らそうと、以前に行われた生産抑制策が、原材料供給を直撃していると、業界関係者は言う。 天然ガス不足はいまや、中国南部にも波及し始めており、地元政府が警告を出したほか、操業を停止したり生産を遅らせたりする企業も出ている。

「(大気汚染抑制策の)取り組みによって、すでに経済成長に影響が出ている」と、シンガポールのキャピタル・エコノミクスのエコノミスト、ジュリアン・エバンスプリチャード氏は語る。 「10 月の統計は、急激に鈍化した。」 石家荘市で台所用品を扱う Zheng Wenmin さんの店では、今年の売上げが 2 割減少した。 大気汚染の取り締まりによって住宅建設が減速しており、新しい家の内装工事が減ったと語る。 「サプライヤーに支払う額のほうがずっと大きい。 工場閉鎖や生産削減によって、供給も不安定だ。」と、Zheng さんは話す。

中央政府の当局者は、大気汚染の取り締まりによって経済にマイナスの影響が出ることはないとしているが、それに賛同しないエコノミストもいる。 中国が大気汚染目標の達成に固執すれば、この冬だけで国内総生産 (GDP) 成長率が 0.5 ポイント鈍化しかねないと、キャピタル・エコノミストは推計する。 成長の遅れについて、近く「(中国政府が)心配し始めても驚かない」と、エバンスプリチャード氏は言う。

成長鈍化の兆しはすでに表れている。 石家荘市のデータによると、同市の経済は、今年 1 - 9 月に 7.1% 成長を遂げたが、前年同期の 7.8% 成長から鈍化した。 重工業の生産は、今年 1 - 10 月は前年同期比で 2.4% 減少。 2016 年は 4.5% 増だった。 石家荘市の政府や省政府、中央政府の環境保護部は、コメントの求めに応じなかった。 河北省発展和改革委員会はコメントしなかった。

ガス問題

中国の天然ガスのほとんどは、オフショア又は同国西部で生産されている。 北東部の産業地帯での需要増加に対応して、十分なガスを供給するには、パイプライン不足という大きな壁を乗り越えなければならない。 また、冬季の利用に向けて夏季にガスを貯蔵する施設も不十分だ。 国営メディアによると、政府はガス不足への対応として、ロシアからガスを運ぶパイプラインの建設を急いでいる。 「今後 3 - 5 年に、政府が問題解決できるとは思わない」と、前出のアナリスト Liang 氏は言う。 「今年、河北省政府は 20 億立方メートル分の供給不足に直面している。」

ガス不足が最も目に見える形で現れているのは、ガソリンスタンドだ。 ここでは液化天然ガスで走るタクシーが、数時間待ちの列に並んでいる。 北京から車で南西に 2 時間の距離にある町、保定のタクシー運転手 Wang Chao さんは、ガスを入手するため毎日最低 3 時間は並ぶと言う。 高騰するガス価格と、失われた稼働時間を考慮すると、毎月 1,000 元の収入減を招いていると Wang さんは推計する。 保定の地元政府は、コメントの求めに応じなかった。

石家荘市にある町、高邑の住民によると、町の陶器工場の 8 割が現在閉鎖している。 稼働中の大工場も、ガス不足と無縁ではない。 同町で最も大きい工場は、石家荘市がガス危機を宣言した 12 月初めに生産を半減しなければならなかった。 「この冬、従業員の仕事を維持することは非常に難しい」と、この工場の所有者は匿名を条件にロイターに語った。 同工場は毎年 5 億元程度の売上があり、数百人の従業員を抱えている。

寒い冬

河北省ではこの冬、氷点下をはるかに下回る気温が予想されており、住民はいつもより寒い冬に備えている。 保定郊外の埃っぽい村に住む Zhang Xu さん (31) は、寒い寝室で寝ている幼い息子 2 人が、この冬はいつもより頻繁に体調を崩していると話した。 「上の息子はいつも、なぜ家がこんなに寒いのかと聞いてくる。 私ができるのは、セーターを着せてやることだけだ。」

地元政府が設置したばかりの明るい黄色のガスパイプラインが、Zhang さんの村を縫うように走っている。 だが、ほとんどの家には、まだガスボイラーが設置されておらず、昨年残った石炭をこっそり使って暖を取っていると話す住民もいる。 北東部の多くの住宅にガス暖房がない実態を踏まえ、政府の環境保護部は最近方針を転換し、住民に一時的に石炭使用を認めた。

大騒動にもかかわらず、取材に応じた住民や経営者のほとんどは、大気汚染問題対して、何か手を打たなくてはいけないと述べている。 ただ、対策の実行方法については、問題があると話した。 「空は青い。けれど、その代償を払っているのは一般の人だ」と Zheng さんは言った。 (Reuters = 12-24-17)

◇ ◇ ◇

暖房使えず凍える中国の農村 - 習氏 1 強のリスク浮き彫りに

中国北部の凍えるような風がリウ・イングアンさんの家屋の一枚ガラスの窓の隙間から漏れた。 それでもキッチンに設置したガスヒーターは使われていなかった。 肝心のガスが供給されていなかったためだ。 リウさん (59) は北京の南に位置する農村、礼讓店に住んでいる。 中国共産党が同地域のスモッグ緩和に向けて石炭の使用を禁止してから数カ月、他の住民もガスの供給を待ち続けた。

夜には気温がセ氏マイナス 9 度まで下がり、8 歳の孫が眠れないとリウさんが地元当局に訴えても、1 人の当局者は「辛抱強く待ちなさい」と答えるだけだった。 当局は今月に入り最終的に方針を転換し、住民が再び石炭を燃やすことを認めた。 だが、15 日に礼讓店を訪れた際もリウさんの怒りは収まっていなかった。 リウさんは「ここにいる一般住民は社会の底辺だ。 農民が最低で、共産党が最上位だ。」と話す。 (Bloomberg = 12-20-17)


「貧しさ競う地方役人」 中国を代表する作家が告発する中国社会と言論統制の実態

笑うに笑えない行政のおかしな「規定」がはびこり、言論への厳しい締めつけも依然存在する - -。 現代中国を代表する作家の 1 人、余華(ゆい・ほあ)さん (57) の新しいエッセー集「中国では書けない中国の話(飯塚容訳、河出書房新社)」は、近年の中国社会が抱えるさまざまな矛盾を静かに告発する 1 冊だ。 来日した反骨の作家に、現在の同国の実情や言論状況などについて聞いた。

公権力の傲慢さ

「中国では書けない中国の話」に収められたエッセーは 28 編。 米紙ニューヨーク・タイムズに発表した文章を中心にして編まれている。 「中国は永遠に書くテーマには事欠かない。 読者は中国人ではない、というのが前提だから、中国について、より幅広く理解してほしい気持ちがありました。 文章の結びには笑いや含みをもたせ、楽しく、かみしめながら読めるものになれば、と。」

実際、話題は多岐に渡っている。 書籍や新聞、映画など媒体によって当局の検閲の厳しさに差が出る理由を理路整然と説き起こす。 その一方で、日本や欧米の強い批判を浴びても、海賊版が氾濫し続ける意外な事情もつづっている。 〈中国における権力の傲慢な態度(2013 年 5 月発表)〉と題した文章で告発するのは中国の行政をつかさどる公権力の傲慢さだ。

公務員採用の合格基準にバストの均整

〈社会問題がいかに複雑化していても、理屈が通りさえすればいい。 社会に受け入れられるかどうか、考えようともしない。 反対の声が上がる可能性は知っていても、気にかけない。 中国社会では長らく、公権力が個人の権利を侵害してきたからだ。〉

余華さんはそう記した上で、権力を行使する地方政府がつくったおかしな「規定」を俎上にのせる。 頼みの「理屈」にすら疑問符が付くような規定もあるからおかしい。 公務員採用時に行う身体検査の合格基準になぜか〈女性は両乳房の均整がとれていること〉という項目を入れた省があったかと思えば、ウエストが 80 センチを超えた警官をリストラするという命令を出した某市公安局の機動隊もある。 中学生の退学率を引き下げるため、中学を卒業していない者の結婚を認めない、という通知を出した県もあるという。

あげくは、交通事故の発生率を下げるために - という理由で、「黄色信号無視」を 6 点の減点とする交通法規が施行されたこともあるという。 ▽ 黄色信号は「警告」であって通行禁止を示すものではない、▽ ニュートンの慣性の法則に背いている、▽ より多くの追突事故を招くだけ …。 そんなもっともな批判がメディアや世論から上がり、結局、黄色信号無視のドライバーには指導を行うことにし、減点は見合わせることになったという。

「中国の免許証の持ち点は 12 点です。 1 年間に 12 点減点されれば免許証は取り上げられてしまう。 つまりこの法規によれば、黄色信号を 2 回無視したら、免許証を失い、3 年間は新たに取得できないのです。 あまりに不合理で、笑い話になってしまうのですが。」

腐敗の横行ぶりや、都市と地方の格差の拡大についても紙数を割く。 「例えば、中国では国家の政策として、豊かな地域のお金を貧しい地域に回そうという政策があります。 すると、金を楽にもらうおうと、地方の役人は自分たちが貧しい、と理解してもらうために、上級の役人たちに賄賂を贈ったり、お世辞を言ってごまをすったり …。 それで国家から(貧しい県という)判定が下ると『熱烈歓迎 めでたく貧困県に認定されました』といった赤い横断幕を掲げる。 笑ってしまうけれど、彼らは真剣なんですよ。(笑)」

「5 月 35 日」とは?

第一線の作家らしく、言論の自由に向ける論考はとりわけ鋭く、示唆に富む。 印象深いのは〈5 月 35 日(2011 年 6 月発表)〉と題されたエッセーだ。 「5 月 35 日」という、この奇妙な日付は天安門事件が起きた 1989 年 6 月 4 日を指す。 中国のネット上で「6 月 4 日」は今も禁じられた日付。 だから、ネット上に書き込みをする人々は、天安門事件の日を記念するとき、「5 月 35 日」という表記を使い、政府の検閲を巧みに逃れていたという。 浮かび上がるのは自由を希求する国民のしたたかな精神。 余華さんも本書の中で記している。

〈インターネット上で自由を追求し、独自の思想を表明しようとするとき、政府の検閲を避けるために、人々はできるだけ修辞法を使う。 暗示、比喩、風刺、嘲笑、誇張、連想などを最大限に利用する。 それによって、冷ややかな嘲笑、辛辣な風刺、暗示による中傷、あてこすり、遠回しな表現に磨きをかけるのだ。 われわれの中国語は、いまだかつて、こんなに豊富多彩で生き生きとしたことはなかった。〉

ユーモア = 反共産党?

そんな文章を発表してから、はや 6 年余り。 習近平総書記(国家主席)は自らの名を冠した「思想」を党規約に盛り込み、最高指導部を側近で固めている。 権力集中が一段と進む中、ネット上の言葉にも変化がみられるという。

「以前は、中国のネット上の言論を管理・チェックするスタッフというのは政治的に問題のある発言を取り締まるのに必死でした。 ところが今は、ユーモアやジョーク、皮肉といったものを片っ端からつぶしていく勢いです。 まるで、『ユーモア = 共産党に反するもの』に違いないととらえているかのように。 今、普通にネット上を見ていて、民衆が生み出した新しくて面白いジョークや遠回しな表現といったものが減ったなあ、と実感しています。」

目の前の現実は厳しく、息苦しい。 でも、余華さんは意気軒高だ。 「使命感や責任感を感じることが最近ますます多くなりました。 私が言いたいことを言わなければ、ほかの人も言ってはくれない。 だから、まず自分に書けるものを書いていこう、と。 社会には異なるさまざまな声が必要なのです。」 (文化部・海老沢類、sankei = 12-22-17)

余華 Yu Hua ユイ・ホア : 1960 年、中国杭州生まれ。 地元の診療所で歯科医として勤務し、88 年から魯迅文学院の創作研究班に学ぶ。 91 年の「雨に呼ぶ声」で長編デビュー。 92 年に発表した中編「活きる」は映画化されて話題に。 2005 年の長編「兄弟」はベストセラーになった。 中国の社会問題をつづったエッセー集「ほんとうの中国の話をしよう」は中国国内で発禁となるが、世界各国で翻訳出版された。

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