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「上海では豚汁がタダで、北京ではタバコが無料」の自嘲的揶揄が意味するものとは
 … 過剰生産を続けてきた中国が今支払う代償

アメリカが牛耳るドル覇権に挑戦するのは、モノの供給超大国・中国。 過剰生産で成長してきた中国が今抱える内憂とは …。 『米中通貨戦争 - - 「ドル覇権国」が勝つのか、「モノ供給大国」が勝つのか(育鵬社)』より一部抜粋・再構成してお届けする。

中国ビジネスモデル膨張の限界

中国企業の水増しの実態は、米国の証券取引所が、2002 年 7 月に施行された「サーベインス・オクスレー法(略称 SOX、企業改革法とも呼ぶ)」を 2006 年あたりから中国企業にも適用するようになってから次第に明らかになってきた。 米国は積極的に認めていた中国企業の上場審査を非常に厳しくして、いまはむしろ追い出しにかかっている。 財務内容がインチキだらけという事件が多発して、投資家をだますような中国企業の上場はまかりならんということになった。 また、華為技術(ファーウエイ)のような、人民解放軍と繋がる企業が企業買収を仕掛けてくるようになると、さすがに安全保障上の理由をつけて止めさせる。 こうして中国企業の米市場展開は頭打ちになってきた。

もはや、人民元を操作して外資を呼び込み、モノマネで製品をつくり、世界に膨張していく中国のビジネスモデル自体が、壁に突きあたっている。 外資側とて、低賃金が魅力だったことに加えて、将来的な中国の内需も見込んでいたのに、賃金水準を上げなければならない状況になったうえに、内需もなかなか伸びないことがわかってきた。 中国は中間層の比率がそれほど高くない。 2020 年 5 月、全人代閉幕後、李克強首相が手取りベースの月収(税金・社会保険料等を支払った後の可処分所得) 1,000 元(約 1 万 5,650 円)で暮らす人々が 6 億人いると暴露し、世界を驚かせた。 中国全人口(以下、全人口)の約 42% を占める。

中国共産党が一番恐れているもの

人口の 4 割強が貧困階層である。 彼らにまで豊かさが行きわたる前に、失業と環境問題で成長の限界が来るのではないかという危惧が、現実だ。 それでもまだ、政府転覆に繋がるような暴動が起きないのは、厳重なインターネット情報統制と批判勢力を許さない徹底的な市民監視と弾圧が存在するからだ。 局地的にデモが起き、ネット上でも政府批判が出てきても、ただちに消去される。 2023年のいまは前述したような暴動件数は不明であるが、それは暴動が減っているということを意味しないはずだ。

おおがかりな予算と人員を投じる中国のデジタル・ネットワークの監視技術と体制は世界に類を見ない。 情報が広がらないので、局地的な抗議デモは全国的な広がりにはならない。 フランス革命やロシア革命など、過去の革命の発端となる市民の暴動はいずれも大都市で起きているが、中国の北京、上海など大都市住民は、そこに戸籍があるというだけで特権階級であり、共産党に対し、さほどの違和感を覚えない市民が多数派を占める。 特権階級に刃向かい、対抗できるような組織もない。 共産党が一番恐れているのは宗教だ。 歴史上、中国の農民暴動は、キリスト教に名を借りた太平天国の乱をはじめ、黄巾の乱、白蓮教徒の乱など、みな宗教暴動である。 「法輪功」が邪教として大弾圧を受けているのも、宗教団体が大衆を組織し、全土に浸透しかねないからだ。

上海では豚汁が、北京ではタバコが無料!?

過剰生産を止められなければ、「世界の工場」から「世界のゴミ捨て場」になってしまう。 経済の矛盾は、砂漠化や極度の環境汚染など、国土全体の崩壊という形をとって表れるだろう。 汚染が激しい 2013 年、中国のネットには、「上海市民はタダで豚汁が飲めて、北京市民はタダでタバコが吸える」などという書き込みが見られた。 これは、飲料水にもなっている上海の黄浦江に病死の豚 1 万頭の死骸が不法投棄されたことや、北京に 1 日滞在すると PM2.5 による大気汚染でタバコを 21 本吸ったのと同じになるということを自嘲的に揶揄したものだ。 生活ゴミの量は 1985 年の 4,477 万トンから 2012 年には 1 億 7,081 トンに急激に増加し、2030 年には 5 億トン前後に達するとの予測もある。

2013 年、中国国務院(中央政府)は『大気汚染防止行動計画』を発表した。 その内容は、2017 年までに全国の都市では粒子状物質 (PM10) の濃度を 2012 年比で 10% 以上下げ、大気優良日の日数を年々増加させる。 さらに微小粒子状物質 (PM2.5) の濃度を北京市、天津市、河北省で 25%、長江デルタで 20%、珠江デルタで 15% 前後にまで下げる。 とくに北京市では微小粒子状物質の年平均濃度を 1 立方平方メートル当たり 60 マイクログラム前後に抑えるという目標も定めたものだ。

さらに、基幹産業の脱硫(有害作用を持つ硫黄化合物を除去)、脱硝(排気ガス中から窒素酸化物を除去)、除塵(空気中の細かな塵などを除去)に向けた施設の改築推進や、新エネルギー車の普及推進、燃料油品質の向上の加速などの対策も打ち出した。 このほかにも 2017 年までに総エネルギー消費に占める石炭の割合を 65% 以下にする目標を掲げ、中央政府と各地方政府が目標責任書に調印し、年度ごとに評価した結果によって責任を厳しく追及するとした。

北京の空は七色に変わる

それでも、2023 年時点でも抜本的な解決には至っていない。 微小粒子物質 PM2.5 による大気汚染は相変わらず深刻である。 中央政府は時折、工場の操業をやめさせ、厳しいマイカー規制を敷いたりしている。 2014 年 11 月にアジア太平洋経済協力 (APEC) 首脳会議が北京で開催された。 その期間中、工場の操業停止や車の通行規制により北京の空からスモッグが消え、久々に青空が戻ったことは、日本のメディアでも伝えられた。 しかしそれも束の間、会議が終わるとすぐさまいつもの "北京グレー" に戻り、中国のメディアやネットでは、皮肉交じりに「APEC ブルー」と呼ばれた。

日本も同じような試練に晒された時代があった。 1950 年代半ばから 1970 年代初めにかけての高度経済成長期には、工場からの煤煙を「これが日本の活力の象徴だ」と歓迎していた。 重工業地帯の北九州市などでは、排煙に覆われた空を「七色の空」とポジティブに捉え、誇りにさえしていた。 筆者も高知で小学生のころ、近所の製紙工場の低い煙突から校庭に石炭の煙が流れてきて、みんなそれを平気で吸い込んでいた。 そういう時代だったのだ。

ところが、各地で公害病が頻発し、産業界もメディアも発想の転換を迫られた。 利権にまみれた政治家ですら、世論の高まりを受けて反公害が選挙で有利だと見るや、「公害は退治しなければいけない」と言いだした。 企業城下町で、日ごろ大企業に頭が上がらなかった政治家や役人たちが、あっという間に変化した。 これが民主主義というものだ。

「大気汚染は中国進出した外国企業のせい」

中国では、上記のように、行政トップが口を酸っぱくして環境対策を力説しても、どの地方政府も実際の行動に移すことは少なく、依然として生産優先だ。 中国の大気汚染が深刻になった大きな要因のひとつは、じつは日本が円借款を打ち切ったことにある。 2006 年、小泉純一郎首相が新規の円借款を 2008 年で打ち切る決定をしたことが、中国の環境対策に大きなダメージを与えた。 なぜなら、地方政府と電力会社など国営企業は、硫黄酸化物の脱硫装置や防塵など、公害防除のためのクリーン設備の費用を中央の特別枠でもらうようなのだが、その特別枠の財源が円借款だったからだ。 日本の資金援助がなくなると、地方政府は環境対策のための設備投資をしなくなったというわけだ。

中国の新聞で〈大気汚染は中国進出した外国企業のせいだ。〉という記事が出ることがあるが、環境保護を自己責任とせずに、他国に頼る身勝手さの表れだろう。 (集英社 = 8-16-23)


中国、マイナス情報書くなと要求 企業の海外上場で証券監督管理委

【北京】 中国当局が中国企業の海外上場を手がける法律事務所に対し、投資家に公表する目論見書には中国の政策やビジネスなどについて否定的な内容を書かないよう求めていると、ロイター通信が 25 日までに報じた。 中国では金融情報などの国外持ち出しの規制が強まっており、今回もその一環とみられる。 米国などの海外当局が求める基準の情報を開示できなくなれば、上場が困難になる可能性もある。 ロイターが情報筋の話として伝えたところによると、証券監督管理委員会が 20 日に中国の法律事務所などを対象に会合を開き、目論見書の記載内容について要求した。 従わないと上場が不許可となる可能性を警告したという。 (kyodo = 7-25-23)


中国各地で教員の思想信条一斉チェック 進む統制「ついにここまで」

中国各地の教育当局が、教員らの素行や思想信条を調査するよう大学などに指示している。 特に厳しいチェックの対象になったのは政治科目を受け持つ教員たち。 習近平(シーチンピン)国家主席の号令を踏まえた動きで、不適格と判断した場合は解雇や配置換えなどを求めている。 北京市教育委員会は 6 月、管内の大学や研究機関、職業学校などを対象に教員らの大規模調査をするよう命じる通知を出した。

体罰や保護者からの賄賂の受け取りなどの洗い出しに加え、「思想信条の鍛錬アクション」を実施するよう指示。 昨年の共産党大会の成果を深く学び、習氏の核心的地位や習氏の政治思想の重要性を認める「二つの確立」という党の理念を堅持するよう求めた。 特に厳しいチェックの対象になったのが、「思想政治科」と呼ばれる政治教科の担当教員たちだ。 社会主義を掲げる中国では大学や高校に思想政治科の授業があり、マルクス主義の理想や毛沢東以降の歴代指導者らの政治思想を学ぶ。 北京の大学関係者によると、近年は習氏の思想をまとめた教材の整備が進み、毛思想やマルクス主義と並ぶ格付けで長い時間を割いて教えられている。

不合格なら解雇も

通知は「過去に不適切な言動があった者が思想政治科の教師陣に紛れ込むことを厳しく防ぐ」とし、「信念や信仰、政治的規律、思想や道徳が水準に至らぬ者は、担当替えや解雇などの方法で教壇から退かせる」と明記した。 同様の通知は、北京以外に河南省や陝西省などでも出ている。 いずれも 5 月に教育省が出した通知がひな型となっており、香港紙によると、山東、江蘇、福建、湖南の各省でも確認されている。 背景にあるのは、習氏の指示だ。 習氏は 2019 年の会議で「中国の特色ある社会主義を発展させる仕事に学生を導き入れる上で、思想政治科の教員が背負う責任は重い」とし、▽ 政治的立場が強固、▽ 国家への深い情を持つ、▽ 自らを厳しく律することができる - - など 6 項目の資質を求めた。

欧米と異なる発展モデルへの自信を深める習指導部は、共産党が率いる中国の政治制度の「優位性」を唱え、習氏の政治思想を「21 世紀のマルクス主義」などと公言し始めている。 一連の動きには、そうした考えを若い世代に浸透させるために、異論や疑問を挟む可能性のある教員を排除しようとする狙いが透ける。 ただ、教育現場で進む統制には悲鳴に近い声も上がる。 北京の研究者は最近、地方の党員育成機関に勤める教授からこんな相談を受けた。「SNS で誰とどんなやりとりをしているか、すべて上司に画像を提出するよう求められた。 来るところまで来た気がする。」 (北京 = 林望、asahi = 7-16-23)


「近海は全てわが物」中国の横暴なマイルール ... 日本がとるべき対応は?

東シナ海と南シナ海でゴリ押す、根拠なき「歴史的権利」への対処法

中国は東シナ海と南シナ海で過剰な、あるいは違法な領有権の主張を繰り返している。 ルールに基づく秩序を脅かし、自分たちが「近海」と呼ぶ海域を国際的な海事法の管轄外にしようとしている。 圧力と威嚇で近隣諸国に権利を放棄させ、中国の覇権を認めさせようというのだ。 領有権紛争の焦点は、東シナ海では尖閣諸島、南シナ海ではパラセル(西沙)諸島とスプラトリー(南沙)諸島、およびスカボロー礁(黄岩島)と東沙諸島だ。 特に南シナ海で、中国は水面下にある多数の岩礁を「南海群島」の一部と主張し、それに伴う海底が領土であり主権主張の対象であるかのように装っている。

海域紛争では、東シナ海で中国は琉球海溝まで続く大陸棚の権利を主張しているのに対し、日本は両国の中間線に基づいてはるかに公平な境界線を求めている。 状況を複雑にしているのは尖閣諸島の存在だ。 日本の領土だが、中国も尖閣諸島を基点に排他的経済水域 (EEZ) と大陸棚の権利を主張。 2012 年には尖閣諸島周辺に直線基線を一方的に設定し、内側は中国の内海だとして管轄権を主張した。 南シナ海では、中国の海洋権益の主張はさらに横暴だ。 ブルネイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどの国々は国連海洋法条約 (UNCLOS) に従い、自国の海岸線と、領有権を主張する島々を基点に海域の権利を主張している。 中国も同様だが、南シナ海全域に「歴史的権利」を持つという独自の違法な主張がそこに加わる。

九段線も人工島も国際的な海事法を無視した存在

中国が歴史的権利の範囲を定めているとするのが悪名高い「九段線」。 9 本の領海線で囲む全ての海域、海底、空域の管轄権を主張するものだ。 フィリピンは 16 年、中国も批准する UNCLOS に基づき国際仲裁裁判所に提訴。 南シナ海での中国の領有権の主張を認めない判断が示された。 中国は軍事的脅威とそれより弱い威圧を組み合わせ、領有権を主張する全ての海域と空域を支配しようとしている。 この「グレーゾーン威圧」を担うのは中国の海警局(沿岸警備隊)とその民兵組織だ。

彼らは船舶で意図的に衝突の危機をつくり出し、相手国の海軍、空軍、沿岸警備隊の即応性を低下させる。 数で圧倒的に勝る中国勢に対し、常に緊急発進や警備の態勢を整えなければならないことは、日本の海上保安庁や自衛隊はもちろん、実力で劣る東南アジア諸国にとっては深刻な問題だ。 アメリカや日本などの関係諸国は、短期的には自国の能力を強化し、抑止力を高めながら、係争海域へのアクセスを維持するために協力しなければならない。

日米は東南アジアのパートナー諸国、特に実力が不足するフィリピンに空海軍と沿岸警備隊の能力を強化する支援を続けるべきだ。 そしてアメリカは米軍の南シナ海への定期的アクセス維持のため、フィリピンでの限定的軍事プレゼンスを強める活動を加速すべきだ。 なにしろグアムと日本はその任務には遠すぎる。 そして長期的な連合を構築して中国を非難し、外交的・経済的コストを課して、妥協点を探る時間を稼ぐのだ。 ただし、変化が起きるのは習近平(シー・チンピン)国家主席の次の世代以降になるだろう。 それまで 2 つの海は、管理は可能だとしても危険な状態が続く。

日本への影響

2 つの海における中国の主張は異なるが、意味する脅威は同じだ。 尖閣周辺における海警の執拗な侵入は拡大するかもしれず、南西諸島で日本のプレゼンスを高めて対抗するほかない。 だが東シナ海での現状維持は闘争の半分にすぎない。 国際法と主権の尊重が南シナ海で毀損されれば、あらゆる場所でも弱まる。 だから日本は東南アジア諸国への支援を直接的国益と見なしてきた。 中国への短期・長期的戦略が失敗すればグレーゾーン威圧はいずれ成功し近隣国は権利の放棄を強いられ、法の支配と地域安定が損なわれるだろう。 インド太平洋は再び覇権主義と力が正義の地政学によって定義される。 (グレゴリー・ポーリング、NewsWeek = 7-13-23)


国安法めぐる通報 40 万件、日本留学中でも 香港「密告」に息苦しさ

香港政府が、反中国的な言動を禁じた香港国家安全維持法(国安法)の制定後に設けた「国家安全通報ホットライン」に、これまで計 40 万件の通報があったことが明らかになった。 3 月には日本の大学で学ぶ香港の女子留学生が通報され、日本での SNS 投稿が原因で逮捕される問題も起きた。 中国政府は 2019 年の市民による大規模デモを受け、20 年 6 月 30 日に香港の頭越しに国安法を制定した。 国家分裂や政権転覆などの行為を禁じ、海外にいる香港人や外国人も取り締まりの対象とする。 中国共産党に批判的なメディア幹部や元議員らが逮捕されるなど、影響が広がった。

香港警察は 20 年 11 月、国家安全通報ホットラインを設置。 生活の中で見聞きした情報を通報するよう市民に呼びかけた。 英国統治時代の最後の香港総督だった、クリス・パッテン氏らの書籍を売っていた書店に関する通報なども明らかになっている。 香港の親中紙によると、「国家分裂扇動の罪」で起訴された、日本に留学していた香港の留学生に関しても、匿名の通報があった。 留学生が日本で SNS に投稿した内容について、中国本土の SNS 「微信(ウィーチャット)」の通報窓口に情報提供があったという。こ の通報が捜査の端緒になった可能性がある。

香港では、当局が「密告」を奨励し、反愛国的な言動がないか相互監視するような仕組みに息苦しさを感じる人が少なくない。 香港警察によると、こうした通報などに基づき、国安法施行後に「国家安全」に関わる容疑で逮捕されたのは計約 260 人に上り、うち半数超が起訴されているという。 (台北 = 石田耕一郎、asahi = 6-30-23)


中国が GDP で米国を上回ることは、もうない? 習近平体制下での栄枯盛衰

一部では、「2029 年に中国の GDP が米国を上回る」との予想があったが、足元の経済状況を考えると、実現の可能性はかなり低下しているとみられる。 それは、毛沢東の時代から現在の習近平国家主席まで共産党の政策と経済の動向を振り返れば明らかだ。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

中国の GDP が米国を上回ることは、ない …?

2023 年 1 月にゼロコロナ政策が終了して以降、中国経済の回復のペースは大方の予想を下回りつつある。 輸入や、国内の不動産投資は停滞気味で推移している。 また、16 - 24 歳の若年層を中心に雇用や所得の不安定感も高まっている。 そのため内需の回復ペースは弱い。 これまでの高度経済成長期は終焉を迎えつつある。

一部では、「2029 年に中国の GDP が米国を上回る」との予想があったが、足元の経済状況を考えると、それが実現する可能性はかなり低下しているとみられる。 その要因の一つとして、共産党政権が改革開放による成長促進よりも、権力基盤強化をより重視し始めたことは見逃せない。 生産年齢人口の減少、経済格差などの問題、台湾問題や半導体などでの米中対立の先鋭化も、中国経済の先行き不透明感を高めている。

中長期的に、中国経済は停滞気味に推移する可能性が高まっている。 今後、値ごろ感から一時的に中国株を買う投資家も出るだろうが、直接投資が増加基調で推移することは予想しにくい。 労働コストの上昇や地政学リスクを背景に、中国から ASEAN 諸国やインドなどへの生産移転が加速しそうだ。 また、今後の展開次第では、中国の不動産デベロッパーや地方政府の債務懸念が高まり、世界の金融市場に動揺が走る恐れもあるだろう。

こうして中国経済は成長した 〜政策を振り返る〜

振り返ると 1978 年 12 月の中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議にて、共産党は主要任務を「階級闘争」から「社会主義の現代化」に変更した。 毛沢東時代に政治を優先し、経済の優先順位を下げた結果、「大躍進」政策の失敗や「文化大革命」が起き、経済は停滞した。 その後、ケ小平の指揮で、深センなどに経済特区が設けられ、海外企業から国営・国有企業への製造技術移転は進み、工業化が加速した。 IT や通信、不動産などの分野で民間企業の設立も認可された。

こうして共産党政権は「改革開放」を進めた。 また、党の権能に基づいた経済運営体制が維持された。 徐々に、国営企業の分割や民営化など市場原理を取り入れ、経済運営の効率性を高めた。 改革開放政策は、多くの人に党の経済政策に対する信頼感を植えつけた。 1989 年、「天安門事件」が発生した時、日米欧の経済の専門家は「中国の民主化は一気に進み、一党独裁から民主主義、資本主義経済への転換が加速する」と予想した。 しかし、当初の予想と異なり、共産党の一党独裁体制は今なお続くことになった。

90 年 11 月、株式市場は再開された。 共産党の指揮による成長分野へのヒト・モノ・カネの再配分はさらに強化された。 天安門事件後、中国の実質 GDP 成長率は年率 10% を上回ることが増えた。 そうして多くの人が、民主化よりも党の経済政策のほうが、豊かな暮らしを送る最善策と考えるようになった。 天安門事件以後、人口増加による消費増加などのベネフィットを獲得するため、海外からの直接投資は増えた。 中国経済の工業化は加速し、「世界の工場」としての地位を確立した。 90 年代後半にはアリババやテンセントなど有力 IT 企業も起こり、雇用機会も増えた。 リーマンショック後は投資による経済下支えが強化され、2010 年に中国は、わが国を追い抜いて世界第 2 位の経済大国に成長した。

経済より政治を優先する習近平国家主席

2012 年、中国の最高意思決定権者の地位に就いた習近平国家主席は、改革開放推進による経済成長より、自らの支配基盤の強化を優先している。 22 年の党大会では、習氏の側近の多くが最高指導部である「政治局常務委員」に選出された。 23 年の全人代(全国人民代表大会)で、習氏の幼なじみであり経済テクノクラート(技術官僚)として高い評価を受けてきた劉鶴副首相(当時)は退任したものの、市民の反発にもかかわらず、上海のロックダウンを実行した李強氏が副首相に選出されたのは象徴的だった。 経済より政治を優先する習氏の姿勢は鮮明に示されたといえる。

今の中国で改革開放への機運は薄れつつある。 22 年、国有企業の平均年収は民間企業の 1.89 倍にまで増加した。 国家統計局が調査を開始した 08 年以降で最大だ。 一方、中国の生産者物価指数 (PPI) は下落している。 それは、在来分野を中心に過剰な生産能力、人員、債務を抱える「ゾンビ企業」が政策などで延命している証拠とも言える。 その結果、国有・国営企業の高い賃金が常態化しているとみられる。 株価を見る限り、政府による規制が強化された主要 IT 企業のバイドゥ、アリババ、テンセント(3 社は BAT と呼ばれる)の成長期待は停滞している。

また、20 年 8 月の「三つのレッドライン(大手企業に対する財務指針)」、米欧での金融引き締めによって中国の不動産バブルは崩壊しつつある。 特に、不動産デベロッパーの債務問題は深刻化している。 土地の譲渡益の減少やゼロコロナ政策の経費増加によって地方政府の財政も悪化し、「融資平台」の信用リスクも高まっている。 民間企業の成長期待が低下し、国有・国営企業が厚遇されるという状況は、改革開放とは対照的だ。 近年まで、改革開放以降の高度経済成長の「貯金」に支えられてきた中国。 しかし今、その貯金と経済成長を実現する余力はなくなりつつあるといえるだろう。

中国経済が世界の足を引っ張る恐れ

現時点で、習政権の政策運営が経済優先に転換することは考えづらい。 習氏が終身制の最高意思決定権者の地位を狙っているとの見方も増えている。 他方、中国の最先端の製造技術は必ずしも十分ではない。 戦略的物資として重要性が高まる半導体の製造などに関して、中国は高純度の半導体部材、製造や試験に用いられる装置、半導体製造の専門家を日米欧などに依存してきた。 米国の対中半導体規制の強化によって、中国の半導体自給率向上は遅れるだろう。 となると、中国が世界最大の経済大国に成長する可能性は低下する。 中国内外でそうした警戒感が高まっている。

現在、個人消費の持ち直しは緩慢だ。 若年層の失業率は調査開始以来で最高の 20.4% に上昇し、固定資産投資も停滞している。 先行きの経済環境悪化を懸念し、支出を抑制する家計、企業は増えていると考えられる。 金融市場では台湾問題など地政学リスクの高まりもあり、中国株や人民元を売る海外投資家が増えている。 債務問題の深刻化も大きい。 足元、共産党政権は、インフラ投資の積み増しで景気を下支えしようとしている。 そのためには地方政府の財政支出増加が求められるのだが、ゼロコロナ政策のための支出増、土地譲渡益減少による歳入減によって地方政府の財政は悪化してもいる。

不動産や地方政府で増加する不良債権を、どう処理するかも不透明だ。 不良債権処理を進めると、企業の倒産が増え失業者は増加する。 一時的な痛みを避けるために、共産党政権の政策対応が近視眼的なものに終始する可能性は高い。 今後、米国やユーロ圏で金融引き締めが長期化する可能性は高い。 一方、中国は緩和的な金融政策を続けざるを得ないだろう。 世界的な景気後退懸念が高まると、中国の不動産分野などで信用リスクは上昇するだろう。 状況によっては、中国から投資資金が流出し、世界経済と金融市場の足を引っ張る展開も想定される。 (真壁昭夫、Diamond = 6-6-23)


「天安門の母」が中国政府批判、武力弾圧から 34 年「人民にざんげすることを期待する」

【北京 = 比嘉清太】 中国で民主化要求運動が武力弾圧された 1989 年の天安門事件から来月 4 日で 34 年を迎えるのを前に、犠牲者の遺族らでつくるグループ「天安門の母」は 25 日、116 人の連名で、中国政府に対し、事件の真相公表や賠償を求める声明を発表した。 この 1 年で遺族 7 人が新型コロナウイルス感染などのために死去したという。

声明は、遺族の心の傷はいまだに癒えていないと訴えた。 また、事件を風化させようとする共産党政権の対応を「政府は人びとの心の中から残酷な事実の記憶をぬぐい去ろうとしている」と批判し、「希望は見えないが、あきらめない。 政府が謝罪し、人民にざんげすることを期待する。」と強調した。 (yomiuri = 5-27-23)


NY で中国の警察署運営か 2人逮捕、「主権侵害」

【ニューヨーク】 米ニューヨークのブルックリン連邦地検は 17 日、米政府の同意なしに中国の警察機能を担うニューヨークの出先機関の運営に関わったとして、2 人を逮捕した。 声明で「中国政府の目に余る主権侵害だ」と批判した。 また、米国在住の中国反体制派を監視したり、嫌がらせを行ったりしたなどとして、中国公安当局の職員ら 42 人を訴追したことも明らかにした。

米メディアによると、中国の警察機能を担う海外出先機関に関する逮捕者は初めてだという。 出先機関は中国での犯罪の疑いがある在米中国人に帰国を促す拠点となっていた恐れがあり、米連邦捜査局 (FBI) が捜査していた。 地検によると、中国政府の代わりに活動することを共謀した疑いのほか、司法妨害の疑いでニューヨークに住む 61 歳と 59 歳の 2 人を逮捕した。 2022 年前半にニューヨークのチャイナタウンのオフィスビルに出先機関の開設を支援。 FBI の捜査後に閉鎖されたという。

訴追された 42 人は中国国内に住むとしている。 中国は、各国の同意のないまま世界の主要都市に警察機能を担う出先機関を設置し、在住中国人らを監視しているとの指摘が人権団体などから相次いでいた。 スペインの人権監視団体による報告書で日本国内にも設置が指摘され、昨年 12 月、松野博一官房長官は「実態解明を進めながら必要な措置を講じる」と述べた。 (kyodo = 4-18-23)


失速も成長もどちらも困る中国経済 最大のリスクは習氏「一強」体制

中国の 2022 年の経済成長率は前年比 3.0% と、目標の「5.5% 前後」に届かず、世界平均 (3.4%) をも 40 年超ぶりに下回った。 この経済情勢の悪化が「ゼロコロナ」政策の転換の大きな理由となった。

経済活動の本格的な再開をねらう大転換は、世界経済にとって「福音」となった。 国際通貨基金 (IMF) は 1 月末に発表した世界経済見通しで、中国の 23 年の経済成長率について、昨年 10 月時点の 4.4% から 5.2% へ上方修正した。 世界全体の成長率も 0.2 ポイント引き上げた。 チーフエコノミストのピエールオリビエ・グランシャ氏は会見で、中国の成長率が 1 ポイント上がれば、他地域に 0.3 ポイントの波及効果があると指摘した。 IMF によれば先進国経済は 23 年に急減速する。 中国の世界経済成長への貢献度は全体の 3 割前後を占める見通しだ。

中国の国内総生産 (GDP) は過去 20 年ほどで約 15 倍に急伸した。 22 年には米国の約 7 割、日本の約 4 倍に達している。 輸出と輸入を合わせた貿易総額では米国を抜いて世界トップだ。 日本を含むアジアやアフリカなど多くの国にとって最大の貿易相手である。 日本の貿易に占める中国の比率は約 2 割だが、中国に占める日本の比率は 5.7% に過ぎない。

ふくらむ経済を源泉として中国は国際社会での発言力を強めている。 米国が主導してきた安全保障の分野から、民主主義や人権といった価値観に至るまで、国際秩序とぶつかることが増えた。 米国は秩序そのものの再編を図ろうとする相手だとみなすようになった。 日本を含む先進国にとって中国経済は失速すると困るが、成長しても手放しで喜べない存在になっている。

ポイント : 中国の力の源泉は米国に次ぐ世界 2 位の経済。 その動向は内政、外交を決定づける。 米国は中国との経済関係の一部を切り離そうとしているが、相互の貿易額は過去最高。 中国経済の最大リスクは習近平(シーチンピン)氏への権力集中だ。 判断が非合理的になる恐れがある。

23 年は急回復が見込まれる中国経済だが、過剰債務を抱える不動産業界は成長の牽引役から重荷に変わりつつある。 人口減少は想定より早まり、社会保障費の増大もあって中長期的には成長の鈍化は必至だ。 米国との対立は長期化が見込まれ、先進国からの高い技術の導入はかつてほど簡単ではない。 中国に進出した外資系企業は、部品の供給網の見直しも迫られている。

米国は安全保障を理由に、中国との経済関係の切り離し(デカップリング)を強める。 軍事技術につながる先端半導体などについて、サリバン米大統領補佐官が「小さな庭、高い柵を実行中」と表現したように、一部の製品を囲い込もうとしている。 一方で、米商務省によれば 22 年時点での米中の貿易総額は 6,906 億ドル(約 90 兆円)と 4 年ぶりに過去最高を更新した。 バイデン政権の規制強化で先端半導体などハイテク分野の輸出は減ったが、中国へは大豆など穀物の輸出が、中国からはおもちゃなど日用品の輸入が増えた。 米中の相互依存の幅広さを改めて示した。

ジェトロ・アジア経済研究所のチームはデカップリングが世界経済に与える影響を調べた。 米陣営(日欧など)と中ロ陣営、どちらの陣営にも加わらない中立国に分けて試算した。 米国が中国に 18 - 19 年にかけて実施した関税率引き上げと同等の非関税障壁が 25 年以降も続く場合、30 年の世界経済への影響はマイナス 2.3% (約 2.7 兆ドル)に及ぶ。 日米欧や中国もそれぞれ 3.0 - 3.5% のマイナスとなる。

両陣営と従来通り貿易ができる東南アジア諸国連合 (ASEAN) や南米などはプラス 0.3% と「漁夫の利」を得られる。 チームは「対立が深まれば深まるほど、中立国にとってはどちらかの陣営に属するコストが高まるので、中立を維持する。 このため、相手陣営をデカップリングによって世界全体から孤立させられない。」としている。 日本は安全保障上は米国と協調しながらも、自国の経済構造に根ざした戦略が求められる。

対立点あるからこそ対話

安全保障上の対立と経済の相互依存というジレンマを抱える国々にとって、経済活動を支える外交は死活的に重要だ。 昨年 10 月に中国共産党大会で総書記 3 選を決めた習近平氏に真っ先に会いに行ったのは、ベトナム共産党首脳だった。 南シナ海の領有権をめぐる争いに加えて、かつて戦火を交えた歴史からも対中感情は ASEAN で最悪とされる。 それでも経済にも大きく関わる隣国との関係を重視した対応だ。 今年最初に北京で習氏と会談したのは、ベトナムと同じく南シナ海での問題を抱えるフィリピンのマルコス大統領だ。 米軍拠点の拡充など米国と関係を強めつつ、習氏にも配慮を欠かさない。

先進国ではドイツのショルツ首相が昨年 11 月、主要 7 カ国 (G7) の先頭を切って経済界を引き連れて訪中した。 ドイツは新疆ウイグル自治区など人権や安全保障の問題から、かつてより距離をとるようになっている。 首相の訪中直後にも中国系企業による自国の半導体関連企業の買収を阻止したが、対立点があるからこそ影響を最小限に抑えるために対話に臨んだ。

3 期目の習政権からは、経済通で知られた首相李克強(リーコーチアン)氏、副首相劉鶴(リウホー)氏、日本の経済界とも交流があった元副首相汪洋(ワンヤン)氏らがトップ 7 にあたる政治局常務委員から姿を消した。 新体制で経済政策を担う何立峰(ホーリーフォン)氏は、習氏の懐刀とはいえ中央政府での経済運営の経験は 10 年足らず。 外国との関係も浅い。 かつての部下らで周囲を固めた習氏の「一強」体制こそが、中国経済の最大のリスクである。 内部で忖度が増し、誤った情報が届けば、判断が合理性を欠くものになりかねない。 日本も対立点が多いだけに、習氏と緊密に意思疎通できるような外交のパイプ作りが一層重要になる。 (記者解説 編集委員・吉岡桂子、asahi = 2-18-23)


北京に溢れる人 コロナ禍から「驚異の回復」も 予測不能な今年の中国

2022 年年末の中国・北京には人が溢れかえっていた。 池に張った氷の上では所狭しと人が遊び、人気のある通りには老若男女が楽しげに歩き、笑う姿があった。 コロナなどなかったかのような活気には唖然とするしかなかった。 火葬場に行列が出来たのも現実だが、すでに陽性を経験した「陽過」、「陽康」という新たな言葉が定着し、人々が日常を取り戻しつつあるのも現実である。 朝夕の渋滞は以前よりも激しくなった印象すらある。 日本をはるかに凌ぐスピードで変わっていく中国の今年を考える。

"異質な中国" を知る市民

コロナ対策への不満がデモに繋がったように、中国市民の権利意識、特に生活に直結する問題への関心は今後もさらに高まるだろう。 ネットや SNS の普及で人々は諸外国の実情を簡単に知ることが出来るようになった。 中国の体制やルールが異質であることに、すでに多くの人が気づいている。 海外旅行なども通じて自国と全く違う環境を体験する中、中国国内の限られた自由や権利を当局がさらに押さえつければ反発するのは当然である。

北京で最後の隔離生活を送った 12 月中旬、あまりの拘束時間の長さにバスの中で乗客が「もうフラフラだ!」と一斉に不満を口にする一幕があった。 市民の不満は思いがけないところで噴出するものだと感じた瞬間だった。

去年 12 月のデモでは、習近平体制への批判も出る一方で「国の政策を実行しない地方政府、現場レベルへの不満もあった(日本大使館筋)」との分析もあり、体制批判は大きなうねりにはなっていないようだ。 少なくとも北京市民は感染するリスクよりも各種の制限がなくなり、自由を享受出来ることに充実を感じているように見える。 北京の感染増加が続く中で起きたデモだっただけに、複数の関係者が「(デモは)ゼロコロナを緩和するには渡りに船だった」と指摘している。

医療体制が脆弱な地方や、高齢者への影響についても「すでに地方もピークアウトしはじめている(外交筋)」との見方も出るほどで、今のところその影響は限定的なようだ。 政策の急激な変更に粛々と応じる市民には、政治に参画できない割り切りのようなものが感じられるが、ひとたびその不満と先行き不安の高まりが表面化すれば、国内はたちまち混迷の度を増すことになるだろう。

経済が最大の懸案

一方の国を治める共産党政権側にとってはどうか。 去年秋の党大会で最高指導部を自らの側近で固め「誰もチャレンジできない体制(外交筋)」を確立した習近平国家主席にとって、政権基盤はさらに安定した。 ただ、このコロナ禍で影響を受けた経済をどう立て直すかは喫緊かつ最重要な課題だ。 中国入国者への隔離措置がすぐに撤廃されたのはその表れにほかならない。

アメリカをはじめとする諸外国と渡り合うには経済の強さが武器になる。 また、それがもたらす豊かな生活は国民の支持にも繋がり、選挙を経ない共産党政権の正当性を内外にアピールできるからでもある。 コロナの感染拡大が非常に早いこと、重症化しなければ 1 週間程度で回復することから「対策緩和による経済への影響はそれほど深刻ではないのでは(外交筋)」という見方もあるが、まさに市民生活に直結する問題だけに、指導部も慎重に対応するだろう。 大晦日に習主席はコロナ問題について「対策は新たな段階に入った」と述べて、いっそうの努力と団結を呼びかけたが、一方で「皆が耐えながら努力をしている」と国民への配慮も忘れなかった。

その習主席は 3 月 5 日に始まる全人代 = 全国人民代表大会で、李克強首相の後任など新たな政府の体制をスタートさせる。 コロナの影響はもとより、高齢化社会と労働人口の減少、不動産市場の悪化、就職難と高い失業率、都市と地方の格差など、中国を取り巻く環境が厳しさを増す中、どのような政策を打ち出すかが注目される。 中国経済の浮沈は世界経済の行方にも関わるだけに、日本にとっても決して他人事ではない。

日本との関係は …

習主席は党総書記として 3 期目のスタートを切った後、G20、APEC などの国際会議でアメリカや日本と、対面では初めてとなる首脳会談を行った。 岸田首相に満面の笑みを浮かべた習主席は融和的な対応に終始したように見えるが、額面通り受け取る向きは少ない。 「中国の本質は全く変わっていない(外交筋)」との指摘があるように、習主席の笑顔は国益を確保する手段に過ぎず、その強かな姿勢は今後も続くと見るのが自然だろう。

岸田首相も国交正常化 50 年の節目での首脳会談を成果として強調した一方、ゼロコロナ政策の崩壊を受けて中国への新たな入国規制を発表した。 政策的判断ではなく、保守派に配慮した政治判断という側面が見られる。 「日本政府は中国の反応を気にしている(政府筋)」との話が北京にも伝わり「気にするならやらなければ良かった」という評価すら聞かれる。 日本の外交官拘束事件への対応をはじめ、北京の日本大使館は東京よりも強い態度で、時に対立を辞さない覚悟で当局と向き合っているが、実態としては官邸が譲歩、ないし妥協する形で中国との交渉に舵を切っているようだ。

だからといって日中関係が今後順調に推移するかはわからない。 最大のポイントは今年広島で行われる G7 サミットだ。避けて通れない中国問題について日本が議長国としてどのようなメッセージを発するのか。 その中身によっては中国の反発が日本に向かう可能性もある。 「まさにこれからが大変だ(大使館幹部)」というように、日中関係は予断を許さない状況が続く。 もはや日中関係は好き嫌いや良好か否かではなく、安定しているかどうか、率直に話し合える場を持てるか、ウィンウィンの関係を築けるかどうかが第一義に問われる次元に来ている。 日本の覚悟が今年も問われることになる。 (山崎文博、FNN = 1-2-23)


三代「軍師」、学者出身のトップ 7 王滬寧氏 日本行きをやめた理由

23 日に発足した中国共産党の新指導部に、習近平(シーチンピン)総書記に引き上げられた指導者が居並ぶなかで、異彩を放つのが学者出身の王滬寧氏 (67) だ。 江沢民、胡錦濤、習近平 3 代の政権で理論的な支柱を提供したと言われる王氏は、中国では「三代帝師(3 代の皇帝の知恵袋)」と呼ばれる。 気鋭の国際政治学者は、いかにして中国政治を動かす指導者になったのか。

フランス・パリの会議場で、中国代表団は凍りついていた。 中国で改革開放が始まってまもない 1980 年代初めのことだ。 世界に門戸を開き始めた中国は、パリでひらかれた政治学の国際会議に代表団を派遣した。 北京と上海から 1 団ずつ。 メンバーには国内の著名学者のほか、両市の党幹部も加わっていたという。 文化大革命に終止符を打ち、中国が歩み出した「改革開放」とは一体何なのか、世界が注目した。 会議では各国の学者たちから鋭い質問が相次いだが、中国がまだ国際会議に慣れていない時代。 代表たちは満足に答えられず、会場にしらけた空気が広がり始めていた。

演台の学者がいよいよ言葉に詰まった時、客席から立ち上がった人物がいた。 当時 20 代後半で、上海の名門、復旦大学の助教授だった王氏だった。 国内でもまだ無名だった王氏はフランス語の能力を買われ、上海市の代表団に通訳代わりに随行していた。 会場からの質問に、フランス語で鮮やかに答えてみせた王氏のお陰で、中国の代表団は大いに面目を施した。 「とりわけ北京にライバル意識を持っていた上海の代表団は鼻が高かった」と、現場にいた学者は振り返る。

その後の経緯は明らかではないが、王氏の才覚を示すこうした出来事が次第に上海や中央の指導者の耳に入り、王氏の政界への道をひらいたのではないかと、この学者は推察している。 39 歳の若さで復旦大学の法学院院長(法学部長)になった王氏は、1995 年、40 歳で共産党の政策・路線立案の中心にある党中央政策研究室に転身。 2002 年にトップの主任に就くと、20 年まで実に 18 年もその要職にとどまった。

江沢民指導部の「三つの代表」、胡錦濤指導部の「科学的発展観」、習近平指導部の「新時代の中国の特色ある社会主義」など、党の看板となるスローガンや政治理念を設計したのは、いずれも王氏だと広く信じられている。 王氏は 17 年に最高指導部入りするまで、習氏の外遊に必ず随行した。 スピーチライター役だったとも言われるが、それだけにとどまらない「軍師」に近い王氏の力を見た場面がある。

15 年の習氏の公式訪米の際、ホワイトハウスのローズガーデンで習氏とオバマ大統領による共同記者会見が開かれた。 両首脳の登場を待つ間、記者の目に入ったのは、会場の前列に座る王氏のもとに、ケリー国務長官をはじめ当時の対中戦略にかかわる米高官が我先にと歩み寄る姿だった。 真剣な表情で話し込む彼らの様子は、中国政治を動かすキーマンとして、米政府がいかに王氏を重視しているかを示していた。

中央政策研究室に転じる直前の 1994 年、王氏は訪問学者として日本で働く予定があった。 しかし、求められる資料の多さにうんざりし、申請を辞めたと自著に記している。 もしあの時、来日して日本との縁を深めていたら、その後の日中の政治関係も違ったものになっていたかも知れない。 その後の出世は、そう思わせるほどのめざましさだ。 (北京 = 林望、asahi = 10-24-22)

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