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「明るい記事」だけ求める中国 不正暴いた記者は去った

中国のメディアで経験を積んだ記者たちが次々と辞め、社会の問題を暴く調査報道が激減している。 ネットの発展で新聞などの経営が悪化したから、というだけではない。 季節は春を迎えても、メディアを取り巻く環境は冷たく厳しい。

「一生のうち何回、言いたくない『さよなら』があるだろう。」 今年初め、「中国青年報」の調査報道部主任、劉万永 (47) が SNS に書き込み、20 年余りの記者生活に別れを告げた。 調査報道を手がけ、ワクチン業界の不正、地方政府幹部や警察の横暴、官民の癒着を暴いてきた。 勇敢な報道ぶりで「チベット犬」と呼ばれ、数々の賞を受けた記者の退職はニュースにもなった。

数日後、劉は北京で開かれた民間のジャーナリズム賞の授賞式に参加した。 警察が裏で高利貸に関与していた事件を取り上げた記事が 3 位を獲得した。 劉はこんなあいさつをした。 「うれしさの半面、心配もあります。 10 年前ならこの記事は 6 位がせいぜい。 こういう報道が本当に少なくなってしまった。」 中国の記者の給料は安い。 年齢や経験を重ねてもあまり上がらず、少ない基本給に、掲載記事量に応じて金額が加算される仕組みだ。 家庭を持つと生活が苦しくなり、転職する。 結果として職場は若手ばかりになる。 劉のいた調査報道部は全部で 4 人。 劉の下は入社 4 年目の記者だ。

部下の取材に指示を出すデスクを兼ねていた劉でも月収は 1 万元(約 16 万円)前後。 物価が高い北京で 3 歳の子を育てるにはきつい。 だが劉は以前、中国メディアにこう語っていた。 「記者として一番大事なことは、この仕事が好きかどうかだ。 報酬は唯一の物差しじゃない。」 2 月末、資産管理会社に転職した劉の給料は 5 - 6 倍になった。 劉は「経済的な理由が全てではない。 一生記者を続けようと思っていたが、書きたいことを書けなくなった。 環境が変わってしまった。」と嘆いた。

中国青年報は共産党の青年組織、共産主義青年団の機関紙。 官製メディアの一つだが、1995 年に始めた特集ページ「氷点」で社会問題に切り込み、時に政府や党の姿勢も批判して読者の支持を得た。 2006 年には歴史教科書をめぐる記事で当局を怒らせ、氷点は一時停刊となったが、復活して調査報道を続けた。 しかし 17 年ごろから政府批判どころか、市民がだまされた投資被害すら報道できなくなったと劉は言う。 その年の秋、習近平(シーチンピン)指導部の 2 期目が始まっていた。

党や政府がメディアに求めるのは中国語で「正能量(プラスのエネルギー)」と表現する前向きなニュースだ。 指導者をたたえ、中国の良い面を宣伝する。 不正を暴く調査報道は「負能量」で「社会の安定」には役立たないというわけだ。 退職後の 3 月末、南京大学でジャーナリズムについて講義した劉は、直前に同じ江蘇省内で起きた工場爆発を取り上げ、学生に問いかけた。 「人々が最も知りたいことは何か?」 死傷者の数。 事故原因。 責任は誰に。 そんな声が上がったところで、実際の記事を見せた。

見出しは「生命への礼賛」。 感動の救出劇を長々と伝えていた。 70人以上が死亡した惨事なのに。「記者は本当に大事なことは何か、考えなければいけない。 メディアが監督の職責を放棄し、声を上げる勇気をなくしたら、報道に何の意義があるのか。」 中国青年報の調査報道部はかつて週 3 回、1 ページ全面を使って記事を載せた。 今は月に 2、3 回、1 ページの一部に載るだけだ。 胡錦濤(フーチンタオ)政権期にほぼ重なる 03 年から 12 年ごろは中国メディアの「黄金の 10 年」と呼ばれる。 当局の規制下でも、広東省の週刊紙「南方週末」や都市報と呼ばれる各地の大衆紙が独自の調査報道を競い合った。

その時代を経験し、「調査報道は社会の公正、公平を守る」と信じる劉は寂しそうに言う。 「今の調査報道は量も質も黄金期の 100 分の 1 にも満たない。 記者を辞めると言ったら、記者仲間を含めて 9 割以上の人から『正解だ』と言われたよ。」

統制強めた習政権、長期化へ

広州にある中山大学の教授らの調査によれば、中国で調査報道に携わる記者は 11 年に 334 人いたが、17 年には 175 人にまで減った。 「メディア環境の変化の中で、調査報道は大きな困難に直面している」と警鐘を鳴らす。 原因として、@ SNS の拡大による既存メディアの権威低下、A 当局による規制強化、B 既存メディアの経営悪化、の 3 点を指摘した。

当局の姿勢が厳しさを増したのは、12 年 11 月の習近平指導部発足後、という見方でメディア関係者の見方は一致する。 北京外国語大学元教授の展江 (61) によると、広東省の週刊紙「南方週末」の 1 面記事が当局の介入によって差し替えられた事件があった 13 年 1 月を境に、統制は強まる一方だ。 メディアの経営悪化も重なり、15 年には調査報道の部署を廃止する新聞社が相次いだ。

昨年 11 月 8 日。 中国でこの日は「記者の日」とされている。 だが、記者たちが交流する SNS で流れたのは「(真相を追究する)記者はほとんどいなくなったのに、まだ記者の日を祝うのか」、「今はニュースが最も多く、内容が最もひどい時代である」といった嘆きの声だった。 中国では指導者が代われば社会の雰囲気も変わる。 習の次に望みをかけていた記者も多い。 だが、習指導部は昨年 3 月に憲法を改正、2 期 10 年だった国家主席の任期制限を撤廃し、長期政権になるとの観測が強まっている。 メディア環境は当分、変わりそうにない。

憲法改正が可決された昨年 3 月 11 日の夜。 北京のある新聞社の編集部に記者たちが上がってきた。 憲法改正を伝える 1 面の刷り上がりを見て、デスクはこうつぶやいたという。 「もうダメだな。」 = 敬称略 (北京 = 延与光貞、asahi = 5-6-19)

南方週末事件〉 改革派メディアとして知られていた広東省の週刊紙「南方週末」が 2013 年新年号の 1 面で、憲法に基づく政治や報道の自由を訴える「中国の夢、憲政の夢」と題した新年の辞を掲載しようとしたところ、同省共産党委の宣伝部が事前検閲。 その意向を受けた編集長が主導して内容を書き換えた。 怒った記者らが元の記事を公表し、調査を要求する騒動になった。 改革派メディアの拠点だった同省では、12 年に国営新華社通信から派遣された幹部が党宣伝部長に就き、15 年にかけて言論の締め付けを図ったとされる。

中国メディアをめぐる最近の状況 (中国での報道などから。メディア環境の改善を↑、悪化を↓で示す)
2004 年9 月当局が各地方メディアに「異地監督(所在地外での批判的報道)」を禁じる通知(↓)
07 年10 月胡錦濤総書記が共産党大会で人民の知る権利、参加する権利、表現する権利、監督する権利に言及(↑)
08 年5 月政府の情報公開条例施行(↑)
12 年11 月習近平指導部が発足
13 年1 月広東省の改革派メディア「南方週末」で「憲政の夢」を訴えた 1 面記事が当局の介入で書き換え(↓)
13 年報道の自由など 7 項目を教えることを禁じる「七不講(七つの語るべからず)」を共産党が全国の大学に通知(↓)
14 年2 月共産党が習氏をトップとするネット安全情報化指導小組を設け、政府のインターネット情報弁公室と一体化(↓)
15 年8-10 月雑誌「財経」と「南方都市報」の記者が相次いで拘束される(↓)
15 年11 月ネットメディアの記者も許可制に(↓)
16 年2 月習氏が国営メディアを視察し、「党と政府の宣伝の陣地」とアピール(↓)
16 年7-12 月当局の指導でネットメディアは独自の報道や評論ができなくなる(↓)
17 年6 月ネットの言論統制を強化する「インターネット安全法」を施行(↓)
18 年3 月政府が管理してきた新聞、雑誌、テレビなどを共産党中央宣伝部の直接管理下に(↓)


「習氏の記事はトップに」自由だったネットに当局の威嚇

2012 年 11 月の習近平(シーチンピン)指導部発足後、新聞やテレビへの締め付けが強まった中国。調査報道の記者たちは一時、急速に発達したネットメディアに活動の場を移した。 だが、ネットを活用したのは記者だけではなかった。 各ネットメディアの責任者には今、管理当局から「人在●(●は口へんに尼、みんないますよね)」という符丁を付けたショートメッセージが 1 日に何度も届く。 2 月にはこんな内容が流れた。

「習近平総書記が開いた会議の記事は、パソコンとアプリのトップページで一番上に置くように。 次には習氏と外国要人の会見の記事を。」
「江西省で起きた無差別殺傷事件では必ず権威部門(政府や新華社)の情報を使うこと。 血が写っている動画や写真は禁止。 記者は派遣しないこと。」
「(党幹部とのつながりが指摘される企業)安邦集団への国の監督が延長される報道は公式発表を使い、独自の取材、評論、解説は禁止。 トップへの配置や速報も禁止。」

メッセージがいつ届くかは分からないが、指示は絶対だ。 独自取材が禁じられれば現場に到着した記者は戻るしかない。 その結果、新聞だけでなく、ネットメディアの見出しや内容もほとんど同じになる。 トップニュースはほとんどが習氏に関するものだ。 締め付けが強まった 13 年から 15 年ごろ、多くの記者が自由に書ける場を求め、「新浪」、「網易」などの新興ネットメディアに転職した。 速報性が重視され、事前チェックは厳しくなかった。 独自の調査報道や評論のページが人気を集めた。

これに対し 15 年 11 月、国家インターネット情報弁公室は、ネットメディアの記者も政府発行の記者証がなければ取材できない制度を導入。 関係者によると、16 年夏から年末にかけて、ネットメディアによる独自の報道や評論が禁じられた。 ネットメディア幹部によると、新華社通信など転載してもよいメディアが当局から指定されており、批判的な視点がある改革派メディアの記事は広まらない。 芸能など締め付けが厳しくない分野では、記者証がなくても取材できる。 だが、あるネットメディアの記者は「当局が気に入らない内容を取材した時、記者証がなければ問題にされる可能性がある」と話す。 威嚇効果は十分だ。

「何も書けない」新聞社を辞めフリーになった

諦めずにもがく記者たちがいる。 広東省の「新快報」の記者だった劉虎 (43) は 13 年、SNS に政府幹部らの腐敗を実名で書き込み、誹謗や恐喝などの容疑で約 1 年拘束された。 容疑が晴れ、釈放された後は湖北省の「長江商報」で四川省の市の党内選挙での買収事件や福建省の化学工場の爆発事故などを取り上げたが、当局から上司に圧力がかかった。 15 年、フリーに。 「これ以上、新聞社にいても何も書けないと思った。」

内陸の重慶を拠点に全国を駆け回る劉はネットメディアに記事を売り、SNS で自らも発信する。 敏感な内容はペンネームを使う。 最近は、モデルガン所持が本物の銃並みに重く罰せられる問題を取り上げた。 他メディアに波及し、殺傷力や用途を重視する量刑基準の見直しにつながった。 多くの若者が釈放された。 「中国ではメディアを必要とする人がたくさんいる。 政府も裁判所も彼らを助けないからだ。 記者は事実を伝えることで、彼らの運命を変えられる。」

しかし、フリーの道も厳しさを増している。 陝西省西安の有力紙「華商報」に 16 年勤め、首席記者や評論部主任を務めた江雪 (45) は、自宅でポルノビデオを見ていた夫婦の家に警察が強制捜査に入った事件の報道で知られる。 市民のプライバシーと公権力の制約という観点からの問題提起が論議を巻き起こし、03 年には全国傑出記者の 1 人に選ばれた。

法治や市民の権利にこだわり、人権派弁護士や政治犯とその家族の取材を続けたが、国内メディアでは全く載せられなくなり、15 年にフリーになった。 「フリーなら書き続けられると思ったが、ここまで厳しくなるとは!」 江は当初、中国で大多数の人が使う SNS、微信(ウィーチャット)上に専用アカウントを作って記事を発表した。 敏感な内容が削除されるのは覚悟の上だ。 それでも 16 年ごろまでは、1 日か 2 日は読める状態が続いた。 拡散され、多い時は数万人が読んでくれた。 評価する人が自由にお金を払う仕組みで、1 本の記事で数千元(1 元 = 約 16 円)の収入になった。

検閲システムに引っかからないよう、敏感な人名は一部をぼかしたり、姓と名の間に記号を入れたり。ところが、次第に発表から数時間で削除されるようになり、今ではクラウドに保存している下書き段階で検閲され、削除される。 アカウントも 3 回封鎖され、微信を使うのはあきらめた。 今は新しいアプリを使ったり、検閲されにくいよう記事を画像にしたりしてネットに発表する。

収入は得られないし、結局は削除を免れない。 香港のネットメディアにも書くが、中国大陸側では特殊なソフトを使わなければ読めない。 「自分たちの社会の問題は国内の人にこそ読んでもらいたい」と国内での発表にこだわる江にも妙案はない。 固定収入はなく、蓄えを崩しながら取材を続ける。 「黄金の 10 年」と呼ばれた胡錦濤(フーチンタオ)政権の時代も当局の圧力はあった。 それでも記者はかいくぐって記事を送り出した。 江は「足かせをつけながら踊るようなもの」と表現した。 記者たちはできるだけ美しく踊ろうと奮闘した。 「今はがむしゃらに跳びはねるけど、もう踊りにすらならない。」

ネットの発展で新聞が売れなくなり、休廃刊の動きが続く。 北京でも昨年末、「法制晩報」と「北京晨報」が休刊となった。 地方紙、香港紙、ネットメディア、経済雑誌などを渡り歩き、官僚の不正や環境問題を報じてきた広東省広州の何光偉 (35) は 17 年、今の環境が嫌になって記者を辞めた。 何は当局の意向に従うメディアの体質も批判する。 「メディアが死んだとしても自業自得だ。 まともに報じないメディアを誰が読むのか。 誰も読まないものに誰が広告を出すのか。」

憤りながらも、何は絶望していない。 今も自身が体験した警察の横暴ぶりをネットで告発するなど、書く機会をうかがっている。 「中国にはニュースがいくらでも転がっている。 政治、経済、環境、冤罪、腐敗。 様々な問題が噴き出している。 当局が禁止しようと思っても、しきれないさ。 やる気さえあれば取材はできる。」 = 敬称略

中国青年報「氷点」の李大同・元編集長 (66) の談話 : 今、中国の新聞に市民が必要とする情報は全く載っていない。 明日全ての新聞の発行が止まっても、誰も困らないだろう。 中国のメディアが完全に自由だったことは過去にもないが、(習近平指導部が 2 期目に入った) 2017 年以降、特に指導者礼賛が目立つようになった。 ごく一部のメディアを除き、専門性の高い調査報道は消えた。

だが、ニュースが消えたわけではない。 今、本当のニュースは SNS 上にある。 政府批判やデモは新聞やテレビで報じられなくても、当事者が投稿して拡散し、みんなスマホで見ている。 当局に削除されても、人々は文字や写真を加工して再投稿する。 完全に封じることはできない。 中国の記者に理想や能力がないわけではない。 よい報道をしたいが、今の環境ではどうしようもないだけだ。 野焼きの火はくすぶっている。 春の風が吹けば、火はまた燃えさかる。(延与光貞、asahi = 5-3-19)


習近平氏「五四運動、核心は愛国主義」 100 周年で強調

中国の習近平(シーチンピン)国家主席は 4 月 30 日、反帝国主義や抗日を訴えて北京の学生らが天安門広場などで抗議した「五四運動」から 5 月 4 日で 100 周年を迎えるのを記念する大会で演説した。 習氏は「運動の核心は愛国主義だ」と述べ、若者らに政府や共産党の指導に従って祖国に貢献するよう求めた。

五四運動は、第 1 次大戦後のパリ講和会議で、山東省の権益がドイツから日本に引き渡される内容に怒った学生らが起こした。 当時の政府の方針に反発した側面もある。 今年は 6 月 4 日に民主化を求めた学生らの運動が軍に弾圧された 1989 年の天安門事件から 30 周年を迎えることから、政府や党への批判や抗議が広がらないよう、愛国心を強調したとみられる。

習氏は、五四運動を「知識青年らが先頭に立ち、多くの人民が参加した偉大な愛国革命運動」と位置づけ、共産党設立に向けた思想的な準備になったと評価。 大会に集まった学生や青年労働者に向け、「中国人にとって愛国は本分であり、職責だ。 愛国主義の本質は国を愛し、党を愛すること。 党の言うことを聞き、党に従わなければならない。」と訴えた。 これに対し、ネット上では「自由な精神と独立した人格が運動の遺産だ」、「党に全面的に従うのが本質とは」との皮肉も出ている。 (北京 = 延与光貞、asahi = 5-1-19)



習近平の「デジタル文化大革命」が始まる

八方ふさがりの習近平政権、徹底的な民衆管理へ

ここに来て、なんだか中国の様子がおかしい。 これまでも中国の行動はかなり強引であり国際的な常識を無視するものが多かったが、それが加速している。 変なニュースを耳にするようになった。 日本でも名前が知れた女優のファン・ビンビンさんが 3 カ月も消息不明になった。 米国に亡命した、犯罪に巻き込まれた、などといった噂が流れたが、蓋をあけて見れば税務当局が脱税容疑で彼女を拘束していた。

それが話題になっている最中に、今度は中国出身の孟宏偉 ICPO (国際刑事警察機構)総裁が行方不明になった。 その後、北京空港で当局に身柄を拘束されたことが判明した。 ある人が突然当局に拘束され、その事実がなかなか公表されない。 これは中国では頻繁に起こることである。 ただ、これまでのところ、中国政府が現代の「神隠し」のようなことを行っている状況を、世界の人々が知ることはなかった。

しかし、ファン・ビンビンさんは世界に名の知れた女優であり、また孟宏偉氏が国際機関のトップであったことから、中国当局が行う超法規的かつ野蛮な行為が、広く世界に知れ渡ってしまった。 こんなことをして、なんの得になるのだろうか。 孟宏偉氏はフランスを発って北京で拘束されたこともあり、フランスで大きな問題になっている。 その結果、日本や東アジアの国々だけでなく中国から離れた国に住む人々も、中国のやり方に疑念を抱くようになった。

習近平政権は経済も外交も失敗だらけ

なぜ中国は世界の評判をも省みずに、このような強引なことを行うのであろうか。 私はそれを中国が再び文化大革命に走る前兆と考える。 では、なぜ今、文化大革命を行わなければならないのであろうか。 よく知られているように、中国共産党のレジデマシー(統治の正統性)は経済成長にあった。 「豊かになるのだから、黙って共産党に従え」というわけだ。 それが実現している間、人々は共産党の支配を受け入れてきた。 農民戸籍など格差の問題もあるが、経済が成長すれば自然に解決されると思っていた。

しかし、習近平が総書記になった頃から経済成長に陰りが見え始めた。 それに対応して、どの国でも行うことだが、景気のテコ入れのために巨額の公共投資を行った。 だが、それは効率のよい投資とは言えず、地方政府と国有企業は巨額の負債を抱え込んでしまった。 現在、その処理を誤ればバブルを崩壊させかねない事態に至っている。

もう 1 つ。 習近平政権は「中国の夢」をスローガンに、一帯一路政策を推し進めたり AIIB などを設立することによって、民衆の目を海外に向けようとして来た。 しかし、マレーシアやモルディブに反中政権ができるなど、それが失敗だったことが明らかになり始めた。 そして、南シナ海などでの強引な膨張政策は、あろうことか米国との深刻な対立を招いてしまった。 習近平の対外政策は失敗だらけである。

経済もダメなら外交もダメ。 格差も解消されない。 それでは民衆は不満を持つ。 そんな状況で残された方法は、力ずくで民衆を押さえることしかない。 今回の海外への影響を無視した措置には、そのような危機感がにじみ出ている。 そして、習近平の思考方法もにじみ出ている。 それが文化大革命である。

中国人も気がついていない監視の実態

習近平が総書記になってから、教科書における文化大革命に対する記述が変化したことはよく知られている。 否定的な文言が消えて、扱いが小さくなった。 文革によって父親である習仲勲が失脚し、自身も陝西省の田舎に下放され苦労したのに、なぜか習近平は文化大革命を嫌悪していない。 ちっとドンくさくい習近平は下放で経験した田舎暮らしや、質素を旨とする生き方が嫌いではなかったようだ。 だから、派手な生活をおくるファン・ビンビンさんが許せなかったのかもしれない。

経済が低迷し対外膨張政策も上手く行かない中で、習近平は第 2 の文化大革命を開始した。 徹底的に民衆を管理し、文句を一切言わせない体制を作ろうとしている。 それは経済成長よりも統制に重きを置いた社会である。 ケ小平の始めた改革開放路線の真逆。 だから文化大革命なのだ。 今度の文化大革命は「デジタル文化大革命」になる。 デジタル技術がフルに活用される。 既にグレート・ファイア・ウォールを築いて海外からの情報を徹底的に遮断し、かつ膨大な数の監視カメラを設置して国民の監視を強めている。

習近平政権は新疆ウイグル自治区に対して、実験的に「デジタル文化大革命」を開始した。 そこでは、住民は当局によって徹底的に監視され、少しでもおかしな行動があると、徹底的に「習近平思想」の再教育が行われる。 このことは日本ではあまり報道されていないが、欧米では新疆ウイグルでの人権侵害は大きなニュースになっている。

情報が管理されているために、中国人自身がこのような事実を知らない。 日本人は上海などに滞在する日本人を通じて中国を知ることが多いが、中国に住む日本人は、案外、中国についての情報を持っていない。 中国の体制は、北京や上海に住む人々(特権階級)が利益を享受するように作られているので、そこで地方や少数民族の不満を聞くことはないからだ。

歴史はまたもや繰り返されるのか

今後、米国との貿易戦争によって、上海や深センなど経済が順調に発展してきた地域でもバブルが崩壊したり失業率が上昇したりし始めると、民衆の不満を力で抑えるために、現在新疆ウイグルで行われているような徹底的な管理が行われるようになろう。 共産党体制に文句を言う者は、「習近平思想」を学習しなければならなくなる。 我々が、ケ小平が始めた改革開放路線以降ここ 40 年ほど見て来た中国とは、大きく異なる中国が出現する。

中国は国が大きいために中央の力が少しでも衰えると、地方が中央の命令に服さなくなる。 それを防ぐために、どの王朝も衰えが見え始めると反体制派に対して過酷な取り締まりを行う。 人々はそれに一層反発するために、国内は混乱状態に陥り、そして分裂する。 それをまた偉大な英雄が統一する。 これが中国史の基本である。 習近平政権は、民衆の不満を抑えるために強権を用い始めた。 それは中国共産党支配の終わりの始まりと言ってよい。 (川島博之、JB Press = 10-17-18)


中国、騒動挑発容疑で 18 歳拘束 = ネットに「安倍首相は父」

【北京】 中国安徽省馬鞍山市公安局は 17 日、「安倍(晋三)首相は私の父」などとネット上に書き込んだとして、18 歳の男性を騒動挑発容疑で拘束した。 「台湾国」という書き込みもあり、公安局は「法律に違反し、民族感情を冒涜した」と判断した。 男性は 4 月に書き込みを行い、公安機関から警告を受けていたが態度を改めなかったという。 中国では、人権活動家らが言動を問題視され、騒動挑発罪に問われる例が多い。 (jiji = 8-17-18)

◇ ◇ ◇

「安倍首相は私の実の父」、中国ネットユーザーの投稿に警察が動く

8 月 15 日、環球網によると、あるネットユーザーの「不適切」な書き込みを受け、中国の公安当局が自首を呼び掛けるなど物議を醸している。 四川省綿陽市公安局のネットパトロール隊は 14 日、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)でアカウント名「司波達也太君」のネットユーザーに対して、「すぐに不適切なコメントを削除し、公安機関に自首してください。 さもないと、あなたを待ってるのは法的な厳罰です。」と警告した。

パトロール隊は「司波達也太君」さんについて、「度重なる警告にもかかわらず、コメント欄で民衆を惑わせ、精日(精神日本人)的な発言や中国侮辱発言、国家分裂をあおる発言をしており、こざかしく拙劣なパフォーマンスはすでに法律に抵触している」としている。

記事によると、「司波達也太君」さんはこれまで、

「安倍首相は私の実の父(崇拝の対象)なのだ」、「運が悪かった。 間違った国に生まれた。 結果、悲惨な未来しかない。 来世は台湾人か日本人に。」、「統一したら中国の警察は台湾人民をいじめるだろう。 だから台湾人民は統一を拒否しているんだ。」、「どの法律が『台湾国』と言ってはいけないと規定しているんだ?」、「2008 年の事件の時にも、殺害された警官を侮辱する人たちがいたが、その時は逮捕されなかった。 今は 18 年。 犠牲になった警官を侮辱すると逮捕される。 思わず歴史の教科書の表題『中央集権の強化』を思い出したよ。」

といったコメントをネット上で投稿していたという。

なお、このネットユーザーのアカウント名について、ネット上では日本のライトノベル「魔法科高校の劣等生」の主人公「司波達也」から付けたものと解釈されている。 「太君」は日本人を指す。

「司波達也太君」さんは 15 日に自身の微博の投稿をすべて削除。 その後、立て続けに次のような投稿を行っている。 「警察の方、私を誤解されています。 私は台湾独立を支持する意図はありません。 私が言いたいのは『中国の警察が素養と仕事に対する態度を、台湾の警察と同じくらいに高めてから統一を』ということです。 台湾の警察は本当に真面目です。 私はただ中国の警察にも彼らのように優秀になってほしい。 そうすれば、統一後に双方の人民にとって有益だということです。」

「私は実は精日ではなく、日本の警察が大好きなだけなのです。 日本の警察官の素養と仕事に対する態度は世界一です。 ドラマの中でも、現実世界でも素晴らしいです。 この点は、日本に留学している友人が証明してくれます。 私が好きなのは第 2 次世界大戦中のファシズムの野蛮な日本ではなく、現代の法治がしっかりした日本。 皆さん誤解しないでください。」 (RecordChina = 8-15-18)

〈編者注〉 この投稿者は、別に「親日派」でも「精日派」でもありません。 明らかに「反体制派」と言うべきでしょう。 インターネット利用者が全て登録されている現在の中国で、かような書き込みは異例です。 おそらく、巧妙に発信源が守られているのでしょう。 強制的に削除もできなかったとしたら、中国指導部は新たに頭の痛い問題を抱えることになります。


中国の #MeToo 運動は、「絵文字」を駆使して政府の検閲を回避する

中国で女性の権利を訴える活動家たちの SNS アカウントが停止される "事件" が起きた。 中国で高まるフェミニズム運動を押さえつけようとする政府の動きと見られているが、これに対してネットユーザーたちは SNS で絵文字を使うことによって検閲の目をくぐり抜けようと試みている。 茶碗 + ウサギ、アルパカ、クマのプーさん - -。 政府とネットユーザーの間で繰り広げられるいたちごっこは、中国社会に変革をもたらすのか。

3 月 8 日の「国際女性デー」の直後、中国で人気の短文投稿サイト「新浪微博(ウェイボ)」で「女権之声 (Feminist Voices)」というアカウントが停止される騒ぎがあった。 女権之声のフォロワーは 18 万人を超え、中国で女性の権利を訴える活動家たちにとって最も重要な発言の場だった。

ウェイボのアカウント停止の数時間後には、メッセージアプリ「WeChat (微信)」の女権之声に関連するアカウントも使えなくなった。 サービスの利用が禁止された理由は、公式には「規約に違反するコンテンツがあったため」という曖昧なものだったが、この措置が暗示するメッセージは明白だろう。 女性の権利を訴える声が、中国政府の監視の目に引っかかったのだ。 女権之声が政府からの検閲を受けるのはこれが初めてではない。 昨年には、「不適切な投稿」があったためにウェイボのアカウントが 1 カ月にわたって停止された。

「素敵なカーニバル」という儀式

あとから考えれば、ここには警告の意味合いもあったのだろう。 『Betraying Big Brother : The Feminist Awakening in China』の著者リタ・ホン・フィンチャーは、「今回は無期限の停止ですから、より深刻です」と説明する。 アカウント停止から数日後、カラフルな服を着て覆面をした女性たちが女権之声の "葬式" を執り行い、その "死" を悼む写真がネットに出回った。 女性たちのリーダーの呂頻(ルー・ピン)はツイッターで、これは葬儀ではなく「素敵なカーニバル」なのだとつぶやいた。 女権之声は必ず復活する。 アメリカを拠点とする呂は、「あらゆる法的手段を用いてアカウントを再開させてみせる」と誓った。

女権之声は 09 年に活動を始め、10 年にはウェイボのアカウントを開設した。 今回のアカウント停止は、国内で高まるフェミニズム運動を押さえつけようとする中国政府(とその要求に盲目的に従うプラットフォーム運営者)の試みのひとつだ。 インターネットやソーシャルメディアが普及するにつれ、中国でも都市部や大学などを中心に、男女格差や差別の問題を訴える声が高まっている。

フィンチャーは「こうした活動は大規模なものになる可能性があり、共産党の一党支配にとって脅威とみなされます」と指摘する。 しかし、若く活動的な中国のフェミニストグループは、記号学的な創造性を駆使して政府の検閲の一歩先を行く道を見つけている。

茶碗 + ウサギ、アルパカも SNS で拡散

中国における「#MeToo」運動を例に話を進めよう。 今年 1 月、羅茜茜(ルオ・シーシー)という北京航空航天大学の元学生が、ウェイボに「博士課程に在籍していたときに指導教官から性的な嫌がらせを受けた」という内容の投稿をした。 「#我也是(中国語で『わたしも』の意味)」のハッシュタグが付いたこの投稿は瞬く間に広まり、女性に対する不適切な行為を告発する機運が高まった。 だが、ウェイボは「#我也是」のハッシュタグでの検索をブロックした。

一計を案じた中国のフェミニストたちは、代わりにご飯を盛った茶碗とウサギの絵文字や、「#RiceBunny」というハッシュタグを使い始めた。 「米兎」を中国語で発音すると「ミートゥー」になるからだ。 フィンチャーは「フェミニズムは政治的に微妙なキーワードになりつつあります。 ですから、活動家たちは検閲を逃れるために常に新しい方法を考え出す必要があるのです。」と指摘する。 「猫とネズミの追いかけっこのようなものです。」

政府の検閲を回避するために絵文字や画像が使われたのは、#RiceBunny が初めてではない。 ハンブルク大学ハンス・ブレドウ研究所で情報統制とネットを利用した社会活動を研究するメグ・ジン・ゼンは、別の例として「草泥馬」を挙げる。 草泥馬は共産党政権の異議を象徴する架空の動物で、ネットではアルパカの姿を使って表現される。

カリフォルニア大学バークレー校准教授の蕭強が編集長を務める中国関連のニュースサイト「China Digital Times」によれば、草泥馬は「中国語では『相手の母親を侮辱する罵り言葉』とほぼ同じ発音になる。 共産党は比喩的に中国国民の『母親』と言われることがよくあるため、草泥馬は共産党への侮辱を示唆する図象として使われるようになった。」という。 草泥馬が「河蟹」を倒すという内容の歌までつくられ、ネットで拡散した。 河蟹は「フーシェー」で、胡錦濤政権時代に打ち出された「和諧(フーシェー)社会」というスローガンを揶揄するものだ。

検閲された「クマのプーさん」

絵文字やミームが政治批判や社会活動のシンボルとして使われるのは、珍しいことではない。 例えば、Twitter でアカウント名のあとにクリップの絵文字を付けると、それはヘイトクライムやハラスメントの被害者への同情と、こうした問題をなくすための団結を呼びかける意思表示を意味する。 一方で、いわゆる「オルト・ライト」と呼ばれる極右思想の持ち主たちも、こうしたシンボルを悪用したネットいじめの方法を編み出している。

しかし、これは言葉で表現するより簡単で便利なため絵文字を利用しているだけで、中国の活動家たちのように検閲を逃れるためではない。 もちろんこうした手段を使ったとしても完全に安全なわけではないが、少なくとも政府に目を付けられるまでの時間を延ばすことはできる。 では、実際にどれくらいの時間稼ぎができるのだろう。 中国のネットユーザーたちは過去数年、習近平国家主席を批判したいときに「クマのプーさん」のプーの画像を使ってきた。 体型や見た目がどことなく似ているというのが理由で、政府はすぐにこれをブロックするようになった。

その後、今年 2 月に国家主席の任期の上限が廃止され、実質的な「終身制」への布石が完了すると、王様の格好をしたプーの画像が出回り始めた。 もちろん、これも検閲対象に加えられている。 ハンブルク大学のゼンは、「わたしは研究者として日頃から当局と一般のネットユーザーとのせめぎ合いを追っています。 検閲の裏をかくために日々、新しい手段が考え出されていますが、それを見つけるための技術もどんどん巧妙になっています。」と話す。

社会運動のうねりは地方まで届くのか

さらに中国政府は、ネット検閲以外の方法でも言論統制を行っている。 その一例が「五毛党」と呼ばれる共産党の指示でネット世論を操作するために活動する秘密集団だ。 五毛党は正式名称ではなく、また組織として存在するかも不明だが、インターネットなどで政府寄りの書き込みをすると 1 回ごとに 5 毛(約 8 円)を受け取るとの噂からこの名前が付いた。 フェミニスト活動家の肖美麗は、女権之声のアカウントが停止されてから、五毛党と思われる書き込みにフェミニズムを批判する内容のものが増えたと指摘する。

「ウェイボの空気が極端に政府寄りになっていると思います。 それに、敵か味方かはっきりしろといった二極化の傾向も見られます。 ウェイボで注目を浴びるのはほとんどが有名人のゴシップ関連の投稿ということもあり、ここに五毛党の攻撃が加わって、ネットの世界ではこれまで以上に多様な声が届きにくくなっていると感じています。」

中国版の #MeToo 運動は、オフラインでも妨害に晒されている。 ゼンはこう説明する。 「アメリカのように大規模な社会運動にまで広げていくには多くの障害があります。 中国での文化的な文脈を理解することが重要です。 社会における男女の関係性が西欧とは異なるのです。 また地域格差も非常に大きいと思います。」

中国ではこういった活動はまだ都市部に限った現象で、地方までは届いていない。 また知識人や一部のホワイトカラー層が中心で、例えば製造業など産業に従事する女性からの積極的な支持は得られていないという。 それでも、大学を中心に盛り上がっている運動を抑え込むことは難しいようだ。 フィンチャーは「中国のフェミニズム運動には権力からの抑圧をはねのける強い力があります」と言う。

「活動を続けるうえで困難なことも多いでしょうが、フェミニストたちは粘り強く、何より非常に強固な意志をもっています。 世界がこれだけつながるようになった現在、中国政府といえどもこうした運動を完全に消し去ることはできないでしょう。」 (Margaret Andersen、Wired = 7-5-18)

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