中国不動産・奥園集団がデフォルト 1,200 億円規模

【香港 = 木原雄士】 不動産開発の中国奥園集団は 19 日夜、20 日と 23 日に満期を迎える米ドル建て社債を償還せず、他のオフショア債務も返済しない方針だと発表した。 オフショア債務について「債務不履行(デフォルト)が起きるか、すでに起きた」と認めた。 オフショア債務の総額は現時点で 10 億 8,600 万ドル(約 1,200 億円)という。 奥園は広州を拠点に不動産開発や販売、投資を手掛ける中堅不動産会社。 2021 年 12 月に格付け会社 S & P グローバルが部分的なデフォルトに相当する「SD」に認定していた。

奥園は上場する香港取引所への開示で「資産売却の機会を積極的に模索してきた。 投資家と予備的な協議を行ったが、合意は結んでいない。」と指摘。 「流動性を慎重に検討し、債務再編の実施中に債権者間の公平性を維持するため不払いを決定した」と説明した。 今回満期を迎えるものとは別の社債の利払いも実施しない。

格付け会社フィッチ・レーティングスの鄭俊英氏は「22 年も中国の不動産会社に厳しい環境が続く。 資金繰り悪化の圧力にさらされ、デフォルトにつながる可能性がある。」と話す。 多くの不動産会社は資本市場での調達が難しくなり、中国本土で社債を発行できたケースも、調達コストが上がったという。 フィッチは 22 年 1 月、中国大手の広州富力地産を部分的なデフォルトと認定した。 (nikkei = 1-20-22)


中国不動産開発の世茂集団、全プロジェクト売り出し = 財新

[上海] 中国の不動産開発会社、世茂集団が居住用、商業用を含む全ての不動産プロジェクトを売りに出したと、財新が週末に報じた。 同社は先週、信託会社から受けていた融資でデフォルト(債務不履行)を起こした。 財新によると、世茂は昨年 12 月下旬から売却先の模索で仲介業者に支援を求めているという。 同社は現時点でコメント要請に応じていない。

世茂集団は居住用不動産開発を主力事業とし、上海世茂建設が主な事業プラットフォームとなっている。 一方、上海世茂が主に商業不動産開発を手掛けている。 財新によると、世茂は上海にある商業不動産「上海世茂国際広場」を 100 億元超で中国国有企業に売却することで仮合意したという。 (Reuters = 1-10-22)

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世茂集団の株・債券急落、中国不動産セクターへの懸念が再燃

[ロンドン] 中国不動産開発の世茂集団の株価が 14 日の市場で 20% 急落した。 中国の不動産セクターに関する懸念が再燃している。 同社の社債価格も急落した。 子会社の上海世茂も 32% 下落。 取引終了後、社債の支払い能力に影響を与えるような重大な問題はなく、事業は正常に運営されているとの声明を発表した。 売りの発端となったのは、上海で同社のマンションを購入した人が、すでに物件に抵当権が設定されていたため所有権の移転ができなかったという週末の報道だった。 UBS はリポートの中で「この報道は、特に不動産市場が低迷する中、同社のイメージや今後の契約販売に影響を与える可能性がある」と述べた。 (Reuters = 12-15-21)


中国地方財政悪化が加速 黒竜江・鶴崗市が初の「破綻」

【北京 = 川手伊織】 中国で地方財政の悪化が加速している。 東北部の黒竜江省にある旧産炭地、鶴崗市が事実上「財政破綻」したことが明らかになった。 省直下の市としては初めてとみられる。 地方財政の悪化は公共事業の足かせになるほか、公務員給与の削減を通じて個人消費の下押し要因にもなる。 「不動産価格が白菜の値段のように安い。」 鶴崗市は「5 万元(約 90 万円)あれば家を買える」といわれるほどの過疎地だ。 かつて黒竜江省四大炭鉱の一つとして発展したが、2011 年に国が資源枯渇都市に認定。 その頃から経済成長が止まった。

現役世代を中心に人口が流出し、20 年時点では 10 年前から 16% 減った。 直近で人口約 90 万人の同市では 60 歳以上の比率が 24% と、全国平均の 19% を上回る。 経済の停滞と高齢化で財政赤字は拡大している。 一般会計にあたる一般公共予算をみると、23 億元の歳入に対し、歳出は 6 倍の 137 億元に達した。 同市は 21 年 12 月下旬、職員採用計画を取り消すと発表。 その公表文の中で、財政再建計画を実施していると明らかにした。 北海道夕張市が 07 年に財政再生団体に指定されたのと似た状況といえる。

中国の国務院(政府)によると、財政再建計画を策定した地方政府は徴税を強化する。 補助金の支給や職員の新規採用も止め、建設支出も抑える。 そのうえで省政府に財政支援を申請できる。 同市は財政の立て直しに着手したが、人口減少や産業転換の遅れという構造問題の解決策はみつかっていない。 住民負担が高まる一方、歳出抑制が進めば、地域経済が一段と衰退しかねない。

地方財政の悪化は局所的な問題ではない。 中国財政省によると、一般公共予算に含む税収は 21 年 11 月、前年同月比 13% 減少した。 2 カ月連続のマイナスで、20 年 4 月以来の 2 ケタ減となった。 景気の減速に伴い、中央政府と地方政府で折半する増値税(付加価値税)などの伸びが鈍った。 中小企業などの資金繰り支援を目的とした納税猶予も、最近の税収が落ち込む一因だ。 中国政府は 21 年 11 月から 22 年 1 月の納税申告期間にかけて、中小製造業の法人税(企業所得税)払いなどの先送りを認めた。 猶予規模は約 2,000 億元と見積もる。

地方財政が依存度を高めてきた土地収入も落ち込む。 地方政府が国有地の使用権を不動産開発企業に売って稼いだ 20 年の収入は税収の 5 割超に相当した。 ただ習近平(シー・ジンピン)指導部が不動産金融の規制を強めたことで、仕入れにあたる土地の売買も停滞している。 財政省によると、21 年 1 - 11 月の売却収入は前年同期比 4% 増にとどまった。 20 年までの 2 ケタ増から失速した。 米格付け会社 S & P グローバルは売却収入が 22 年に前年比 20%、23 年に同 5% それぞれ減ると予測する。 土地収入の減少は当面、地方財政の手足を縛る要因になりそうだ。

緊縮財政の流れは経済規模が大きい沿岸部にも広がる。 「上海市の下級幹部の年収は 24 万元から 15 万元に減った。」 インターネット上では、地方公務員の給与カットが話題になっている。 以前の給与削減や遅配は、省都クラスより小規模の中小都市が中心だった。 江蘇省や浙江省、広東省、福建省でも手当やボーナスの支給を減らしたり見送ったりする動きが出てきたという。 民間企業より待遇が恵まれた公務員の所得減少は消費に影を落とす。 とりわけ中小都市では、財政悪化に伴って地方政府が発行するインフラ債(専項債)の償還リスクが高まり、公共事業の執行にも響く。 習指導部は 22 年秋に開く党大会を見据え景気への配慮を示すが、地方財政の逼迫が中国経済の復調の重荷となりかねない。 (nikkei = 1-8-22)

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中国で土地需要失速、入札激減でひっ迫する地方財政

[北京] 中国政府が民間不動産開発業者の借り入れを締め付けている影響で、都市部の土地入札は需要が落ち込んでいる。 土地の売却収入に依存する地方政府は財政がひっ迫し、不動産税など新たな財源探しを迫られる恐れもある。 昨年の土地売却は過去最高の 8 兆 4,000 億元(1 兆 3,000 億ドル)と、オーストラリアの年間国内総生産 (GDP) に匹敵する規模に急増。 新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた地方政府の財政を支えた。

しかし、規制当局が昨夏以来、民間不動産開発業者の借り入れ規制を強化すると、土地の需要は先細りとなった。 ロイターが財政省のデータを基に試算したところ、今年 8 月の全国の土地売却総額は前年同月比 17.5% 減と、昨年 2 月以来の大幅な落ち込みを記録した。 地方政府は平均で収入の 2 割を土地入札に頼っており、土地需要がさらに減れば、財政支出や投資を削減せざるを得なくなるかもしれない。

エコノミストの多くは、不動産市況の冷え込みや、不動産大手、中国恒大集団の経営危機が余波を広げるリスクを理由に、中国の今年の成長率予想を引き下げている。 収入を増やすために債券を増発し、債務負担が増える地方政府もありそうだ。 アナリストは、異論の多かった不動産税の導入計画を急ぐ地方政府すら出かねないとみている。

弱まる土地需要

ANZ (香港)のシニア中国エコノミスト、ベッツィー・ワン氏は「地方政府は全般に収入に占める土地売却の比率が非常に高く、20% を超えている。 従って土地売却が落ち込んだり、伸びが鈍れば、地方政府の支出に一定の圧力が掛かるだろう。」と述べた。 当局は今年 2 月、22 の大都市の土地入札について、年内は 3 回にとどめると発表した。 不動産価格が最も高い都市で地価、ひいては住宅価格を抑制するのが狙いだった。 当局は入札価格への上限も設けた。 経済や社会の不均衡是正を目指し、広範な産業を締め付ける習近平国家主席の政策の一環だ。

だが、資金繰りの苦しくなった不動産業者が参加を見送ったため、土地入札は 3 - 6 月期の第 1 回以降、需要が減少している。 ロイターが 1,000 件余りの告示情報を分析したところ、現在進んでいる 6 - 10 月期の入札は 9 月 30 日時点で、入札が撤回されたり、応札がなかった区画が全体の約 40% に達していた。 第 1 回入札では 5% だった。

ロイターの調べによると、北部の天津は 61 区画のうち、売却されたのが 40 区画。遼寧省の省都、瀋陽は 46 区画中 19 件だった。 ムーディーズは今年の土地売却額の伸びが 1 けた台の前半にとどまり、来年はマイナスに転じると予想している。 昨年は 16% 増だった。 ムーディーズによると、土地売却の状況がさらに悪化すれば、負債額が大きい天津や遼寧省などは、債務返済に窮しかねないという。

国有企業の支援

土地入札は民間不動産開発業者が参加を見送っているため、国有企業の独壇場となっている。 ただ、地方政府の収入減を食い止めるのに十分かどうかは不透明だ。 6 - 10 月期の入札のこれまでの結果を見ると、国有企業の落札額が民間の 3 倍に膨らんでいる。 応札の総額を見ると、9 月 30 日時点で 2,772 億元と、3 - 6 月期から 45% 減少した。

南西部の大都市、成都では、国営の中国鉄建 (CRCC) が 15 区画に応札し、42 億 8,000 万元(6 億 6,200 万ドル)という巨額の頭金を支払った。 ロイターの分析によると、対照的に花様年控股集団や華夏幸福基業といった民間不動産開発業者は、今年の土地購入額が前年を下回るか、全く取得していない。 中国恒大は地元の開発業者を通じて、6 月に 1 区画を購入しただけだ。

ANZ のベッツィー氏によると、長期的にみると地方政府は、不動産市況変動の影響を埋め合わせるため、不動産税など他の財源を模索する可能性がある。 中国はこの 10 年間、不動産税の全国的な導入を検討してきたが、地方政府を含め、不動産の価格急落や市況悪化を懸念する関係者の抵抗に直面してきた。 ベッツィー氏は「試験的に始め、状況に応じて規則を手直しすることができる」と話した。 (Ryan Woo、Liangping Gao、Reuters = 10-9-21)


恒大など不動産各社資産の買収「国有企業が意欲」 中国人民銀行

中国人民銀行(中央銀行)は 30 日に記者会見を開き、中国恒大集団など経営不振の不動産企業が持つ資産について、国有企業などが買収する意欲があるとの見解を示した。 資金繰り問題を解決する狙いがある。 30 日の会見で鄒瀾・金融市場局長は、経営難の不動産各社が持つ子会社の株式や開発物件といった資産を「国有企業や優良な同業他社は買収する意欲がある」とした。 費用を積極的に融資するよう、商業銀行に通知を出したという。

恒大は子会社の株式や開発中の物件などの売却がうまくいかずに資金繰りに苦しみ、社債の利払いなどが遅れている。資産売却が進むことで、鄒氏は「不動産市場の構造変化につながり、(経営難の企業の)負債のスリム化にもつながる」とした。 習近平指導部はこれまで、中国政府が直接恒大などの不動産企業を救済することに否定的な姿勢だった。 だが、不動産市場の冷え込みが続き、経済成長率が減速するなど全体への悪影響も指摘される中、金融機関や国有企業などを動員して市場での再編を促す方針になったとみられる。 (北京 = 西山明宏、asahi = 12-30-21)


中国開発業者サンシャイン 100、1.7 億ドルの社債がデフォルト

[上海] 中国の不動産開発会社サンシャイン 100 チャイナ・ホールディングス(陽光 100 中国控股有限公司)は 6 日、1 億 7,000 万ドルの社債について、流動性の問題によりデフォルト(債務不履行)に陥ったと発表した。 数日前には、資金繰り難に陥っている不動産開発大手の中国恒大集団が債務返済に十分な資金を確保できる保証はないと表明している。

中国当局は開発業者が通常の資金ニーズを満たせるよう、資金調達環境の緩和に動いているが、一部では依然として厳しい状況が続いているようだ。 サンシャイン 100 は取引所への提出文書で、12 月 5 日に償還期限を迎える社債(表面利率 10.5%)の元本と金利の支払いができなかったと表明。 「マクロ経済環境や不動産業界を含む複数要因による悪影響から生じる流動性の問題」が理由としている。 この支払い延滞により、他の一部債券についてもクロスデフォルト条項が発動されるという。 (Reuters = 12-6-21)


社債の償還延長、同意得られず デフォルトの恐れ - 中国佳兆業

【北京】 中国の中堅不動産開発会社、佳兆業集団控股は 3 日、満期を 7 日に迎えるドル建て社債について、資金繰り悪化を理由に 1 年半の償還延長を提案したが、債権者の同意を得られなかったと発表した。 同社は代案を模索するが、デフォルト(債務不履行)に陥る恐れが高まった。 中国では政府による不動産業界の締め付け強化に伴い、多くの企業が経営難に直面している。

佳兆業は 11 月 25 日、問題の社債の元本 4 億ドル(約 450 億円)の支払いが困難になったとして、2023 年 6 月を満期とする社債との交換を提案。 しかし、債権者の賛同は、借り換えの実行に必要な全体の 95% に届かなかった。 佳兆業は、12 月 7 日までに債権者との間で何らかの合意が成立しなければ、「財務に重大な悪影響を及ぼす」と警告した。 同社は 15 年に中国の不動産開発会社で初めて、ドル建て社債の利払いをめぐってデフォルトに陥った経緯がある。 (jiji = 12-4-21)


中国が「不動産税」を導入 乱開発で価格高騰が問題に、格差解消狙う

中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は 23 日、日本の固定資産税にあたる「不動産税」を一部都市で試験的に導入することを決めた。 まずは 5 年間の試験期間としているが、習近平(シーチンピン)指導部は不動産市場の安定や格差是正のため、本格導入を目指すとみられる。 国営新華社通信が同日報じた。 中国では土地は基本的に国の所有物であるため、個人や企業は土地の使用権を国から購入して建物を所有している。 土地も対象に含めた固定資産税は課されていなかった。

新華社によると、中国政府が今後、実施都市や具体的な税率などを決める。 課税対象者は土地の使用権を持つ人や住宅など建物の所有者。 農村の住宅などは含まれないという。 すでに 2011 年から上海市や重慶市では購入した住宅への課税を先行して実施してきたが、土地の使用権は対象外だった。 試験導入の期限について、状況次第で延長するかを再度決めるともした。 さらに「条件が熟せば適時法律を制定する」として、将来的に立法化し全国的に拡大していく可能性も示唆した。

中国が不動産税の導入へと動いた背景には、富裕層による投機や不動産会社による乱開発により価格の高騰が社会問題となっていた不動産市場の改革に加え、習指導部が掲げる「共同富裕(共に豊かになる)」の実現がある。 中国共産党の理論誌「求是」は 16 日付の最新号で、習氏の演説を掲載。 高所得者への対策として、所得税の強化と並び不動産税の立法化に向けた試行などの税制改革を打ち出していた。

また、中国では地方政府が土地の使用権の売却収入に過度に依存していることが、不動産価格の高騰に拍車をかけていると問題視されてきた。 税収を安定させることで、こうした問題を解決する狙いもありそうだ。 (北京 = 西山明宏、asahi = 10-23-21)

中国の不動産税をめぐる経緯
1990年代使用権を売買する形で個人の不動産取得が可能に
2011年2 軒目以降の住宅や高額の住宅を対象にした不動産税を上海と重慶で試験導入
2012年習近平指導部が発足
2013年共産党の中央委員会全体会議で不動産税の立法を急ぐ方針を決定
2018年全国人民代表大会の政府活動報告で「不動産税の立法を着実に推し進める」
2021年全人代の常務委員会が不動産税の一部地域での試験導入を決定

中国デフォルト危機、10 月 15 日に次のヤマ場 - 投資家はカレンダー凝視

→ ●(= 金が三つ)苑置業のドル建て債 2 億 2,900 万ドル相当、15 日が償還日
→ 建業地産の社債 4 億ドル相当、償還期限は 11 月 8 日

中国不動産業界では、ここ数週間に中国恒大集団の危機が一段と深まって以降で初のドル建て債デフォルト(債務不履行)が起きた。 債務を膨らませて資金調達に走った他の不動産会社と世界への影響波及を巡って、投資家の懸念が増幅している。 高級マンションや都市再開発プロジェクトを手掛ける花様年控股集団(ファンタジア・ホールディングス・グループ)は、4 日が期限だった社債 2 億 570 万ドル(約 230 億円)相当を償還できなかった。 5 日には同社を「一部デフォルト」に格下げする動きが相次いだ。

緊張感の高まる中国不動産業界で次にトラブルを起こすのはどこか。 社債保有者らは各発行体の元利払いの日程を精査している。 投資家がまず注視しているのは、●(= 同上)苑置業のドル建て債 2 億 2,900 万ドル相当の償還日である 10 月 15 日だ。 格付け会社フィッチ・レーティングスは先月、●(= 同上)苑置業の格付けを 1 段階引き下げて「CCC」とした。 10 月に償還期限を迎える同社社債に関する「借り換えリスクの高さ」を理由に挙げた。 さらに、建業地産(セントラル・チャイナ・リアルエステート)が社債 4 億ドル相当の償還期限を迎える 11 月 8 日も注目される。

中国恒大を巡り不透明性がある中で花様年が社債を償還できず、市場には懸念が広がった。 ブルームバーグの指数によると、中国のハイイールド・ドル建て債の平均価格は 5 日に 7 月以来の大幅安を記録。 不動産開発会社の株価も下落し、融創中国と中国奥園集団はともに 10% 余り下げた。 (Rebecca Choong Wilkins、Bloomberg = 10-7-21)


中国「不動産バブル」の現在地 恒大の経営危機はなぜ起きた

中国の不動産大手・中国恒大集団が巨額の負債を抱え、経営危機に陥っています。 北京や上海など一部の大都市で住宅価格が異常に高騰する「不動産バブル」の様相を呈する中国。 そもそも「社会主義市場経済」を掲げて個人には土地の所有権がない中国で、不動産価格の高騰とはどういう現象なのでしょうか。 急成長を遂げてきた恒大集団は、なぜ今、経営難に直面しているのでしょうか。 中国の不動産や金融業界に詳しい日本総研の関辰一主任研究員に聞きました。

社会主義国家での不動産売買とは?

- - 土地は国のもので、個人は所有できない中国において、不動産売買の仕組みとはどうなっているのでしょうか?

不動産というと、土地とその上物である建物の大きく二つがありますが、日本では両方とも個人の所有が可能です。 中国の場合、土地の所有権は国が持っており、売買されるのは建物になります。 ただ、建物を買った人にはその土地の使用権が与えられます。 その使用権が建物価格の中に含まれているという形です。 使用権は、用途によって年限が限られています。 住宅は 70 年、工場用地は 50 年、などです。

形式上、建物を買った人は期限が来たら土地の使用権と共に国に返さなければなりませんが、住宅用地使用権の期限が満了した場合は自動更新となります。 そもそも、住宅の売買、つまり住宅の私有化が始まったのは 1990 年代です。

- - 北京や上海など一部の都市では不動産価格が高騰しています。

全国規模で見れば、政府が厳しく不動産市場を管理していることで、不動産は妥当な価格にコントロールされています。 ただ、確かに一部の都市では住宅価格が実体経済に比べ非常に高いバブルの様相が見られます。 バブルの定義では、実体経済から資産価格がどれだけ乖離しているかが重要です。 実体経済の指標として分かりやすいのは平均世帯年収です。 不動産の場合、一般の住宅価格が年間の平均世帯年収の 5 - 6 倍くらいが適正範囲と言われますが、上海や北京の中心部では数十倍というところも少なくなく、所得に比べ極めて高いと言えます。

日本でも、今、都心のマンションは高騰していると言われ、特に六本木などは非常に高くなっています。 ある民間調査によると、港区六本木の中古住宅の平均価格は 1 平方メートルあたり 134 万円でした。 70 平方メートルだとおよそ 1 億円になります。

一方、上海にある六本木のような高級住宅街「南京西路」の中古住宅の平均価格は、1 平方メートルあたり、日本円にして 225 万円です。 住宅価格はあまりにも高く、バブルが見られる状況です。 ただ、全国平均でみると、住宅価格は世帯年収の 6 倍前後で落ち着いています。 住宅価格がこれだけ世帯年収と乖離せずに低い価格で抑えられているのは、日本のバブル期では考えられないことです。

- - なぜそうなっているのですか。

何が起きているかというと、中国政府が買い手側に住宅を購入するにあたっての様々な条件を課し、買いにくくしているのです。 需要を抑えれば、価格は高騰しない。 もしくは、供給を適度に増やせば価格は高騰しないので、不動産開発企業にどれだけ土地を持たせて、住宅を供給させるのかを調整してきました。 アクセルとブレーキを頻繁に踏んで需給のバランスを調整してきたのです。

- - 需要を抑えるために課される住宅購入のための条件とは、どのようなものがあるのでしょうか?

例えば、不動産企業は、住宅購入希望者のその都市での在住履歴、つまり住民税の支払い履歴が 5 年ないと売ってはいけないといった条件や、不動産転がしを防ぐため、前回の売買から一定期間は売買できないといったもの、セカンドハウスを売ってはいけないといったものがあります。中にはペーパー離婚をして事実婚にしてしまい、形式上 2 世帯にして住宅購入規制をかいくぐろうとする夫婦もいます。 なので、事実婚の世帯は離婚してから 3 年以内は住宅を買ってはいけない、というものもあります。 全国一律の規制ではなく、各都市ごとに必要な規制がかかっている状況です。

日本のバブル期にも、今の中国にも共通しているのが、給料がすごいペースで増えているということです。 中国は今、賃金上昇率が年間 10% を維持しています。 そうなると、今の給料から考えると高い物件でも買おうとします。 私の感覚からすると、その給料でよくその物件を買おうと思うなあ、と心配になるぐらいの人が今の中国には山ほどいるのです。

- - こうした一部の都市での不動産バブルの状況は、いつごろからあったのでしょうか?

住宅市場が出来上がった90年代から、既に良い物件はとても高い値段がついていました。 特に問題が深刻化したのは、2000 年代前半にあった不動産市場の過熱と、2000 年代後半のリーマン・ショック直後に中国政府が金融緩和を行ったことで緩和マネーが流れ込み、住宅価格が大幅に上がった時です。 今回は、新型コロナウイルスの感染拡大による景気悪化に対応するために中国政府が金融緩和をし、再び緩和マネーが住宅市場に流れ込んで住宅価格が上がっている状況です。 先ほど紹介した「南京西路」の中古物件の価格も、1 年前に比べて 27.4% も上がっています。

資金調達の抑制と、住宅需要の縮小

- - こうした中国の不動産業界の中にあって、中国恒大集団とはどういう会社なのでしょうか?

中国の不動産開発企業は数多くありますが、恒大集団はその中で第 2 位の規模です。 他の不動産開発企業に比べて、事業の拡大、成長ペースがとても速かった。 積極的な土地の取得・開発と販売がそれを可能にしてきました。 不動産業以外にも電気自動車 (EV) 事業や、サッカーチームの運営を行うなど積極的に事業領域を拡大してきた企業でもあります。 その裏側で多額の資金を、銀行や投資家から調達し、その借金の拡大ペースも速かったです。 過度にリスクを負い、債務を増やしすぎたことが問題だと言えます。

- - 恒大が経営危機に陥った背景には何があったのでしょうか?

大きく二つあります。 ひとつは昨年 8 月に中国人民銀行(中央銀行)が設けた、大手不動産会社に対する資金調達の厳格化策である「三つのレッドライン」です。 自己資本に対する純負債比率を一定水準以下に保つことなどが盛り込まれています。 要するに、あまりにもリスクのある事業拡大や債務拡大をおこなってきた不動産開発企業に、これ以上の有利子負債を急増させることを容認しないということです。 市場関係者の間では当初から、恒大集団を狙い撃ちにした政策だという見方が出ていました。

その結果、銀行融資が受けにくくなり、社債発行を通じた資金調達の拡大ペースも鈍っていました。 不動産株の大幅下落により株式市場で調達する資金も減りました。 つまり、資金調達が政府に抑制されたことで、事業の継続が難しくなったのです。

もう一つの要因は、住宅需要の縮小です。 今年に入り、政府は金融機関が個人に貸し出す住宅ローンの総量に規制をかけました。 さらに、去年夏ごろから、住宅購入の条件も少しずつ厳しくしていました。 結果として今年に入り、住宅需要は 2 - 3 割ほど縮小しています。 恒大は、お金が調達できないだけでなく、手持ちの住宅も売れないというダブルパンチに見舞われてしまったのです。

- - 中国政府が不動産市場を引き締め始めたのはなぜですか。

世界的に起きていることですが、コロナ禍の景気対策として金融緩和が行われ、緩和マネーが住宅市場に集まり、過熱感が見られています。 中国は世界に先駆けて過熱抑制の措置を講じ始めていると言えるでしょう。 不動産バブルが膨張しないよう、早めに火消しをしようというのが当局が考えていることだと思います。

- - 今後、政府は恒大集団を救済するのでしょうか?

これまで、中国の大手企業の経営破綻はあまり多くありませんでした。 雇用や地域経済の悪化を懸念して、政府が救済してきたからです。 ところが、去年の後半から大手企業の破綻が起き始めているのです。 これまでのように救い続けると、大手企業が過剰にリスクをとった経営を続けて、金融システムの暴走を助長し、金融危機を引き起こしかねないという認識があるのだと思います。 経営が悪化した場合でも政府が混乱を避けるために救済するという「暗黙の政府保証」の問題を解消しようとしていると言えます。

今、政府が救済するかどうかは、その企業が国策を担っているかが重要になってきます。 中国の経済 5 カ年計画のような大きな政策を推し進めるのに必要な会社は、経営危機に陥った場合も政府によって救済されています。 不動産開発企業はどうかというと、その中に入るのは難しいのではないかと思います。

恒大問題はどこまで広がるか

- - もし恒大が経営破綻した場合、影響の大きさをどう見ますか。

限定的だと思います。 他の不動産開発企業で恒大ほど過剰な債務を抱えて今にも破綻しそうな会社は少ないです。 恒大だけの話であれば、雇用が失われても労働市場全体からみると規模としては小さいと言えます。 中国国内では人手不足であることも安心材料です。

また、金融機関への波及もほとんど無いと見ています。 中国のどの銀行が、どの不動産開発企業に、どのくらいの金額を貸し付けていて、それが全部焦げ付いた時にどれだけダメージが出てくるかはある程度調べられています。 恒大以外にも不良債権が多くあれば金融機関の経営破綻という可能性もありますが、5 年前に比べて金融機関が抱えている不良債権自体がだいぶ少なくなっているのです。

- - であれば、金融危機の引き金になる可能性は低いということですか。

ただ、心配なのは、銀行が政府の目をかいくぐり、銀行融資以外の方法で資金を融通する「シャドーバンキング(影の銀行)」のルートです。 そうしたルートで恒大に貸し付けてできた債権を、銀行は他の企業などへの貸し付け債権と組み合わせ、「銀行理財商品」として個人投資家に販売してきたと考えられます。 今、銀行理財商品の元金が期日に戻ってこないとして投資家が恒大本社に詰めかけているのがニュースになっています。

今後、恒大の債権を含んだ銀行理財商品の債務不履行がどんどん増えると、その銀行理財商品を売却した金融機関に投資家たちが押しかけることになります。 そうなると金融機関が損失補填をするケースは少なくないので、金融機関のアセット(資産)にダメージが生じる可能性はあります。

最悪のシナリオは、中国の銀行理財商品の投資家がパニックになり、恒大の債権が組み込まれているかどうかに関わらず、とりあえず手元の銀行理財商品を一斉に売ることです。 これが何を意味するかというと、銀行理財商品を使って資金調達をしてきた他の不動産開発企業や地方政府がみな一斉に借金返済を求められるということです。 ただその影響も、5 年ほど前にくらべて半分程度になっています。

ここ数年の政府の企業統制の強化を受けて、中国のシャドーバンキングの総額は減っています。 中国の金融システムの健全さについて言えば、5 年前であればすぐにでも中国発の金融危機が起きそうな状況だったと言えます。 少なくとも私はそう主張していました。 ただ、今は、政府の強権発動により不良債権やシャドーバンキングの問題はかなり健全化している状況といえます。

- - 今回の恒大の経営危機も、中国政府は織り込み済みなのでしょうか?

想定内だと思います。 中国政府は、大手の不動産開発企業の 1 社や 2 社が潰れてもしょうがないという考えで昨年、「三つのレッドライン」を打ち出したといえます。 一方で、中国の不動産株を見ると 7 月で底を打ち、9 月も戻しています。 政府が更なる不動産市場抑制策を打ち出す可能性は低いとの見方が広がっており、私もそう思います。 むしろ政府は不動産市場の安定化を図るべきフェーズになりました。 住宅需要についても例年の水準まで減っているので、これからは住宅購入制限を緩和することも考えられます。 今後、不動産開発企業の景況感も改善してくるのではないでしょうか。 (聞き手・鈴木友里子、asahi = 10-1-21)


第 2、第 3 の恒大か、中国で広がる不動産危機 中国政府、警戒強める

不動産大手・中国恒大集団の過剰債務問題で揺れる中国で、経営危機に陥る不動産会社が相次いでいる。 多くが負債が積み上がる中で中国政府の規制が重なり資金繰りに苦しむケースで、恒大と類似する。 中国政府は不動産市況の悪影響が経済全体に波及しないよう警戒を強めている。

「政府の指導の下、総合的なリスクの解消に向けて債権者と話し合っている。」 24 日にこんな発表をしたのは、中国不動産大手・華夏幸福基業(河北省)だ。 グループで 800 億元(約 1 兆 4 千億円)を超える社債の元本や利息を期限が過ぎても支払いできていない。 同社の株式は重大な経営リスクがあるとして、上海株式市場で最大 5 日間の取引停止になった。

今年上半期の売上高は前年同期比で約 44% 減で、95 億元(約 1,600 億円)の純損失を出した。 負債総額は 3,923 億元(約 6 兆 7 千億円)で、資産に対する負債比率は約 83% に。 事業収入が伸び悩む中で負債が膨れあがり、返せなくなった構図は恒大と共通する。

別の不動産大手・新力ホールディングス(上海市)も 20 日の香港株式市場で株価が 87% も暴落。 今も取引停止が続く。 中国メディア・第一財経によると、創業者の張園林董事長が海外投資家に対し、10 月 18 日が期日の発行総額約 2.5 億ドル(約 280 億円)の米ドル建て社債の償還について明確な説明をしなかったことが引き金になった。 同社は 2016 - 18 年で借り入れが約 3.5 倍に増えるなど、負債が急増しているという。

また米ブルームバーグは今月 27 日、昨年の住宅販売面積で 4 位だった融創集団(天津市)が、浙江省紹興市の当局に支援を要請した文書を報じた。 同社は信用不安を抑えようと同日夜に 24 年 2 月償還の社債 3,360 万ドル(約 37 億円)分を市場で買い戻したとも発表。 さらに同 28 日、文書の存在は認めつつも当局に支援要請した事実はないと否定した。 負債総額約 1 兆元(約 17 兆円)を抱えるだけに注目が集まった。

不動産会社の経営危機の直接のきっかけは習近平(シーチンピン)指導部が昨年夏から導入した不動産会社への規制だ。 資産に対する負債比率を一定水準以下に保つなど三つの基準を設けた。 これをクリアしないと資金調達が困難になった。 不動産市場調査の貝殻研究院によると、今年 6 月時点で主要 85 社のうち規制をクリアしているのは 4 割にとどまり、華夏を含む約 1 割の企業は 3 つとも達していない。 恒大は 2 つ、新力、融創は 1 つを満たしていない。

一方、中国人民銀行(中央銀行)は 27 日の金融政策委員会で「不動産市場の健全な発展と、住宅購入者らの合法的な権利を守る」と表明した。 恒大に端を発した金融不安を抑える狙いがある。 また、ロイター通信によると、恒大本社のある深セン市政府が投資家に対し、恒大について「徹底的な調査」を進めていると文書で回答した。 当局による調査が明らかになったのは初めてとみられる。 (北京 = 西山明宏、asahi = 9-29-21)


英紙が指摘 「恒大集団のデフォルト危機はリーマン・ショックより、北海道拓殖銀行の破綻に近い」

中国の大手不動産企業「恒大集団」の存続が危ぶまれる。 巨額負債の解消への糸口はいまだ見えず、デフォルトも懸念されている。 一連の報道は 2008 年に起きたリーマン・ショックや、米政府による保険会社大手 AIG 社の救済などの事例を思い出させるかもしれない。 しかし、英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」のコラムニストであるジリアン・テットは、1997 年に起きた北海道拓殖銀行の経営破綻にこそ共通点が見出せると書く。 不動産会社である恒大集団と、金融機関である北海道拓殖銀行を比較することは奇妙に思えるかもしれない。 だが、資産価値を保証する "信頼の柱" が両者ともに「政府」にあったという点では同じだというのだ。

「政府」を過信することで起きた惨劇

テットは問題の根源を探るべく、第二次大戦後における日本の経済再建を振り返る。 当時の日本政府は国内の銀行に指示し、成長産業への増資を進めた。 この施策は実際に功を奏したが、経済がひとたび成熟すると日本は銀行中心のシステムから脱却し、西欧から資本市場の仕組みを導入した。 ここで置き去りになったのは、企業の透明性や真の意味での独立性だと、テットは指摘する。 そのため、銀行や不動産会社が本当に資産価値があるのか、投資家たちには判断材料となる情報が不足していた。

このような背景もあって、1990 年代に不動産バブルが崩壊しても「政府や系列会社が企業を支援していれば破綻はない」と考えられるようになったという。 だが、日本銀行が北海道拓殖銀行の資金調達が不可能になったことを発表すると、企業会計では政府に代わるような資産価値の保証ができなかったため、同銀行は急速に崩壊へと向かった。

企業の透明性がなければ長期的な不安が続くだろう

テットは、政府主導で急成長を遂げた中国にも同様の問題が見られると述べる。 中国は株式市場や企業報告書、格付け機関など、資本主義の経済システムを導入するも、企業の借入金が GDP の 160% に達していることを指摘し、その脆弱性に対して不安があるのは当然だと続けた。 最後に、中国の中央銀行「中国人民銀行」は介入によって恒大集団の資産価値を再築できるのだろうか。 テットは、短期的には恒大集団のデフォルト危機を回避できても、企業の透明性が信頼に足るものでなければ、長期的な企業価値の見極めは難しいと述べる。 そして、肝心の透明性の改善はまだ不充分だという。

日本が 1997 年の金融ショック以降に長いデフレを経験したことからわかるように、政府の支援を失い、大企業への信頼が崩れることで市場は大きなダメージを受ける。 当分、先が見えない状態が続くだろう。 (クーリエ・ジャポン = 9-27-21)