「中国の奇跡」が終わった 実質成長率 6.6% は眉唾

「日本の奇跡」がはやされたのは 1960 年代だった。 70 年代は「漢江(ハンガン)の奇跡」の韓国に、台湾と香港、シンガポールの「四小龍」が脚光を浴び、しばし遅れて巨龍・中国が離陸した。 昨年 12 月 18 日、「改革開放 40 周年記念大会」で演説した習近平(シー・ジンピン)国家主席は、世界経済に占める中国のシェアが 2% 未満から 15% 超に飛躍した 40 年間を「奇跡」と呼び、さらなる奇跡をなす決意を語った。

だが、その前々日、中国人民大学で講演した経済学者の向松祚(こう・しょうそ)教授が、2018 年の成長率を 1..67% とはじいた某重要機関の推計値を明かしていた。 1 月 21 日に中国国家統計局が発表した 18 年の実質成長率 6.6% は眉唾だ。 四半期ごとに、6.8% → 6.7% → 6.5% → 6.4% と穏やかに減速したというのだ。 日本電産の中国需要急減による業績見通し下方修正や、中国で想定以上に販売が落ち込んだ米アップルの決算などと、つじつまが合わない。

米中貿易戦争は一因にすぎず、下振れの根は深そうだ。 英誌エコノミストに昨年末、「中国経済は思ったよりソビエト的」とするコラムが載った。 中国の全要素生産性 (TFP) の伸びが近年マイナスになっている、という一橋大学のハリー・ウー(伍暁鷹)特任教授らの推計が論拠になっている。 ソ連の末期も、TFP がマイナスだった。 生産年齢人口がピークアウトした中国で、生産性の伸びがマイナスでは、潜在成長率が相当落ちているはずだ。 成長率を押し上げようと、力まかせに資本を投入すれば、非効率なインフラや不良債権の山を築きかねない。

壮大な投資の失敗を演じたのが 80 年代の日本だった。 バブルの後に企業は、設備・負債・雇用の過剰に苦しみ、経済は長期停滞に迷い込んだ。 今の中国は、平成日本の後を追っているように見える。 中国経済のマネーゲーム化に警鐘を鳴らしてきた向教授が最近、上海での講演で「ミンスキー・モーメント」に言及したと伝えられる。 資産の投げ売りが始まる瞬間を指す。 バブルの崩壊点と言い換えてもいいだろう。 あくまで if だが「その瞬間」が来れば、世界経済への影響はどれほどだろうか。 中国の一党独裁体制は無傷で乗り切れるだろうか。 (手毬、nikkei = 2-4-19)


中国経済のヤバイ実態を暴露した、ある学者の「発禁スピーチ」全訳

GDP 「大本営発表」をどう読み解くか

国家統計局の「大本営発表」

1 月 21 日午前 10 時、中国国家統計局寧局長が、年に一度の記者会見を行い、胸を張って発表した。 「初歩的な概算によれば、2018 年の国内総生産 (GDP) は 90 兆 309 億元で、昨年に較べて 6.6% の成長だった。 発展目標にしていた 6.5% 前後を実現したのだ。 四半期ごとに見れば、第 1 四半期 6.8%、第 2 四半期 6.7%、第 3 四半期 6.5%、第 4 四半期 6.4% だった。 産業別に見ると、第 1 次産業が 6 兆 4,734 億元で 3.5% 増、第 2 次産業が 36 兆 6,001 億元で 5.8% 増、第 3 次産業が 46 兆 9,575 億元で 7.6% 増だった。

全国の食糧生産量は 6 億 5,789 万トンで、0.6% 減だった。 肉類の生産量は 8,517 万トンで、0.3% 減だった。 全国の一定規模以上の工業増加値は 6.2% 増で、増加速度は緩やかになってきているものの穏やかに推移している。 形態別には、国有企業の増加が 6.2% 増、集団企業が 1.2% 減、株式会社が 6.6% 増、外資系企業が 4.8% 増だった。 1 月から 11 月までの 1 月から 11 月までの全国の一定規模以上の工業企業の利益総額は 6 兆 1,169 億元で、11.8% 増だった。

全国のサービス業の生産指数は 7.7% 増で高速成長を保持している。 1 月から 11 月までの一定規模以上のサービス企業の営業収入は 11.5% 増、利益は 5.7% 増だった。 社会消費品の小売総額は 38 兆 987 億元で、9.0% 増。 比較的速い成長を維持している。 その中で限度額以上の単位消費品小売額は 14 兆 5,311 億元で、5.7% 増。 都市部の消費品小売額は 32 兆 5,637 億元で 8.8% 増、農村部は 5 兆 5,350 億元で、10.1% 増だった。

インターネット通販による小売額は 9 兆 65 億元で、23.9% 増。 うち実物商品の小売額は 7 兆 198 億元で、25.4% 増だった。 売り上げ全体に対するネット通販の割合は、18.4% で、前年より 3.4 ポイント増加した。

全国の固定資産投資(農家分を除く)は 63 兆 5,636 億元で、5.9% 増だった。 そのうち民間投資は 39 兆 4,051 億元で、8.7% 増。 前年よりも 2.7 ポイント増加した。 全国の不動産開発投資は 12 兆 264 億元で、9.5% 増。 全国の商品不動産の売上面積は 17 億 1,654 万平方メートルで、1.3% 増。 うち住宅分は 2.2% 増。 全国商品不動産の売上高は 14 兆 9,973 億元で、12.2% 増。 うち住宅分は 14.7% 増だった。

貨物の貿易総額は 30 兆 5,050 億元で、9.7% 増。 初めて 30 兆元を突破した。 数量は増加し、システムは改善され、安定した中でよい方向に向かうという目標を、比較的よく実現している。 うち輸出が 16 兆 4,177 億元で、7.1% 増。輸入が 14 兆 874 億元で、12.9% 増。 貿易格差は 2 兆 3,303 億元で、前年より 18.3% 減った。 『一帯一路』沿線国家との貿易総額は 13.3% 増だった。

全国の消費者物価 (CPI) は 2.1% 増で、穏当に伸びており、3% の目標を下回った。 都市部も農村部もともに、2.1% 増だった。 都市部の新規就業者数は 1,361 万人で、前年より 10 万人増えた。 連続 6 年、1,300 万人以上を保持している。 12 月の都市部の失業率は 4.9% で、前月より 0.1 ポイント減った。 全国の農民工(出稼ぎ労働者)は 2 億 8,836 万人で、前年より 184 万人増加した。 農民工の平均月収は 3,721 元で、6.8% 増加した。

国民の平均年収は 2 万 8,228 元で、名目で 8.7% 増、実質で 6.5% 増。 一人当たりの平均 GDP の伸びを超えている。 都市部の住民の平均年収は 3 万 9,251 元で、名目で 7.8% 増、実質で 5.6% 増だった。 農村部は 1 万 4,617 元で、名目で 8.8% 増、実質で 6.6% 増だった。 国民の平均消費支出は 1 万 9,853 元で、名目で 8.4% 増。 前年より 1.3 ポイント増加した。 実質では 6.2% 増で、前年より 0.8 ポイント増加した。 うち都市部の住民の平均消費支出は 2 万 6,112 元、名目で 6.8% 増(前年比 0.9 ポイント増)。 農村部の住民は 1 万 2,124 元で、名目で 10.7% 増(前年比 2.6 ポイント増)だった。

経済システムも、引き続き改善されている。 第 3 次産業の GDP に占める割合は 52.2% で、前年より 0.3 ポイント増加した。 成長分に対する貢献率は 59.7% だ。 消費が GDP の成長率に占める割合は 76.2% で、前年より 18.6 ポイント増加した。

中国大陸の人口は、13 億 9,538 万人で、前年より 530 万人増加した。 出生数は 1,523 万人で、死亡者は 993 万人。男性が 7 億 1,351 万人、女性が 6 億 8,187 万人で、104.64 : 100 の比率だ。 年齢別には、16 歳から 59 歳の労働年齢人口が 8 億 9,729 万人で、全体の 64.3%。 60 歳以上が 2 億 4,949 万人で、17.9%。 そのうち 65 歳以上は 1 億 6,658 万人で、11.9% だ。

うち都市部の住民が 8 億 3,137 万人で、農村部が 5 億 6,401 万人。 都市化率は 59.58% だ。 このように、総合的に見て、2018 年の国民経済は、継続して合理的な範囲で推移しており、全体平穏、平穏の中に進歩するということを実現している。」

このように寧局長は、中国経済の現状に自信を示したのだった。

向松祚教授の「発禁スピーチ」

だが、こうした「大本営発表」に、中国国内で真っ向から異を唱える経済専門家も、中国国内には存在する。

話は、いまから約 1 ヵ月前に遡る。

昨年 12 月 18 日、驚異の経済成長の原動力となった改革開放政策を決めた「3 中全会(中国共産党第 11 期中央委員会第 3 回全体会議)」の開催から 40 周年を記念し、習近平主席が出席して、人民大会堂で盛大な式典を開いた。 改革開放政策の理論的な支柱となったのは、北京西郊にある「北京 4 大名門校」の一角、中国人民大学だった。 1949 年の新中国建国後、中国共産党が初めて創った大学である。

「改革開放理論の父」と仰がれる経済学者の呉氏から、現在、習近平主席の最側近の一人で米中貿易摩擦の中国側責任者である劉鶴副首相まで、中国の経済・金融業界には「人民大学人脈」が根づいている。 そんな「改革開放の拠点」とも言える人民大学で昨年 12 月 17 日、40 周年を記念した式典が開かれた。 記念講演を行ったのは、同校で最も著名な教授の一人、向松祚教授(人民大学国際通貨研究所理事兼副所長)だった。

だが、向教授が行ったスピーチは、その 1 ヵ月あまり後に寧吉附痩ニ統計局長が自信満々で述べた「大本営発表」とは真逆と言ってよい内容だった。 向教授は、中国経済の行く末を憂いて、衝撃的な実態を暴露したのである。 本来は、この記念講演の映像がネット上にアップされ、官製メディアでも取り上げられる予定だった。 だが、すべて中止となり、「発禁」になってしまった。

以下、向教授の発言を文字起こしして、訳出する。 それは、国家統計局による GDP 「大本営発表」への懐疑論から始まっている - -。

「われわれはアメリカを甘く見すぎていた。」

2018 年の中国は、尋常でない一年だった。 あまりに、あまりに多くの出来事が発生した一年だったと言ってよい。 そんな中で、最も重要なことは何か? 中国経済は下降しているが、2018 年にはいったいどの程度まで下降したのか? 国家統計局のデータは、(GDP 成長率が) 6.5% だ。 だが、ある非常に重要な機関の研究グループが内部で発布した報告は、(今年の)現時点までにおいて、中国の GDP の成長率は 1.67% に過ぎない。 もう一つの予測は、マイナス成長だと示している。

もちろんこの場で、こうした予測の真偽は討論しない。 また、どのデータを信じるべきかということも言わない。 だが今年の中国は、こうした状況下で、厳重な誤判断が生じているのだ。 中米貿易戦争について誤判断はないのか? われわれは(アメリカを)甘く見すぎていたのではないか? アメリカとの貿易戦争は、まもなく 1 年を迎える。 (2018 年)年初に主要メディアが言っていたことを思い起こしてみてほしい。

「中米貿易戦争というのは、アメリカ人が石を持ち上げて自分の足に落とすようなもので、中国が必勝に決まっている。」 「中国は堂々と戦っていこうではないか、必ずや大きく戦えば大勝し、中ほどに戦えば中勝し、小さく戦えば小勝するというものだ。」 こんなことを言っていた主要メディアは皆、どこへ行ったのだ? 結局、現時点において、われわれの中米貿易摩擦に対する、中米貿易戦争に対する形勢判断、国際的な形勢判断は、大きく誤っていた。 このことを深刻に反省すべきだ。

実際には、いまの中米の貿易摩擦、貿易戦争は、すでに貿易戦争でもなければ経済戦争でもない。 中米両国間の価値観の厳重な衝突だ。 完全に正しいと言ってよいのは、中米関係は現在、十字路に差し掛かっているということだ。 中米関係は巨大な歴史的挑戦に直面しており、いまだ穏当に解決する正答を見出せていないように思う。

誰もが最近、注視しているように、華為(ファーウェイ)の孟晩舟 CFO がバンクーバーで拘束された。 BBC などの(海外)メディアはどこも、アメリカの同盟国が全面的に華為を封じ込めると報道している。 これは何を意味するのか? まさに単純な貿易と経済の問題ではない。 われわれはこれまで、一言で言えば経済成長の戦略的チャンスの時代だった。 いまだ戦略的チャンスの時代は存在するのか、しないのか? 私の個人的見解では、いまや国際的な戦略的チャンスの時代は、急速に消滅に向かっているように思える。

数々のデータから見えてくるのは、民間投資、民営企業の投資は大幅に緩慢になってきており、経営者たちはひどい目に遭っていると感じているということだ。 (2018 年)年初から、私有制を消滅させるとか、民営経済を退場させるといった類いの議論が喧しくなった。 その結果、11 月 1 日に国家指導者(習近平主席)がようやく、専門家たちの会議を行った。 一部の人たちは、最近、中国経済が悪くなったから、民営企業との話し合いを始めたのだという。

そんなことだから中国経済は下降し、プレッシャーに直面し、中米貿易戦争は日々悪化していくのだ。 われわれは誤っていたことを反芻し、中国経済を真に振興させる方法を考え、真に持続的、安定的に成長させていかねばならない。

「いまや多くの企業が倒れかかっている。」

それには何をせねばならないのか? われわれが直面している問題は、われわれ自身の問題だけに、かえって多くの事柄が軽妙洒脱になってしまう。 まず第一に、中国経済の下降は、長期的な下降局面だ。 それ自体は特に大きな問題ではない。 だが注意すべきは、現在の中国経済は消費と第 3 次産業(サービス業)が、GDP の成長率の 78.5% を占めていることだ。 当局の説明によれば、それはよいことで、経済の転換はすでに成功を収めた。 (経済成長は)かつては投資と輸出に頼っていたが、いまはすでに消費とサービス業に依拠しているのだという。 一見するともっともな道理だ。

だがよく考えてほしいのは、そのような国、すなわち投資が大幅に緩慢になり、消費に頼る国が、経済の安定性を維持していけるのかということだ。 それは一面では朗報なのかもしれないが、別のもっと重要な面から見ると、朗報と言えないのではないか。 過去 40 年、改革開放の 40 年に、中国で 5 回にわたる消費ブームが起こった。 1 回目は衣食住の解決、2 回目は「新三種の神器」、3 回目は情報消費、4 回目は自動車で、5 回目は不動産だ。

だが、このような 5 回の消費ブームは、いまやもう終わりに近づいている。 自動車の消費は大幅に下降し、不動産も同様だ。 だからこそわれわれは、巨大な問題に直面しているのだ。 経済の下降と同時に、金融リスクが増している。 銀行資本は急速に委縮し、多くのメディアがこう述べている。

「以前は政策的考慮が行き届かない、各種の協調が足りない、執行が偏っている、監督管理が強すぎて信用の萎縮を招いているということがあった。 これらはもちろんいまも重要な原因ではあるが、最も深層の原因というわけではない。」 直接の融資市場を見てほしい。 債権の融資は問題ない、株式への融資も問題ない。 それなのに、どちらも今年は腰折れになったではないか。 違約が続出しているのは、さらに大きな問題だ。 10 月までにデータが出た第 1 四半期から第 3 四半期まで(1 月 - 9 月)で、企業債の違約はすでに合計 1,000 億元(約 1 兆 6,160 億円)を超えているのだ。

当局の発表データに基づいて考えれば、今年の企業債の違約は、合計 1,200 億元(約 1 兆 9,390 億円)を超えるだろう。 さらに大量の企業破産が起こる。 いまや多くの企業は倒れかかり、それは国有企業とて同様だ。 渤海鉄鋼は、世界 500 強に名を連ねる中国の偉大な企業だった。 この企業が(2018 年 8 月に)倒産した時、負債額は 1,920 億元(約 3 兆 1,030 億円)と言われたが、実際には 2,800 億元(約 4 兆 5,250 億円)に達する見込みだ。

地方債務も、中国の金融市場では非常に厄介な問題の一つとなっている。 国家審計署は、合計 17 兆 8,000 億元(約 290 兆円)だという。 だが、全国人民代表大会(国会)財経委員会の賀副主任は、『40 兆元(約 650 兆円)では止まらない』という。 40 兆元も債務があって、なおかつどの地方も返済する気がないのだ。

株式市場に関しては、春が来るのはまだ早いだろう。 よく見てほしい。 現在の株価の下落は、1929 年のウォール街の崩壊(世界恐慌)と比較して論じられるほどなのだ。 大多数の株式が 8 割、9 割に下落していくのだ。 この先、考えるべき問題は、いったいこの株式市場の苦痛が、どこまで続くのかということだ。 中国証券監督管理委員会や、そこの劉士余主席にあれこれ悪態をつく人もいるが、それは悪態をつく対象が間違っている。 監督管理の政策がおかしいとか、下々まで浸透していないとかいうことは、たしかにあるだろう。 それはおそらく重要な原因だが、決定的なものではない。

わが国の産業の利益構造を見てみるがよい。 銀行業界と不動産業界が、全体の利益の 3 分の 2 を持っていってしまっているのだ。 1,444 社の中小の上場企業の利益は、中国工商銀行の利益に及ばないのだ。 そのような株式市場が、どうして上昇するというのか? 株式を買うということは、その会社の利益を買うことだ。 企業の利益というのは、情報操作によるものではない。 エール大学のロバート・シラー教授はこう言っている。

「株式市場は短期的には、経済の指標ではない。 だが長期的には、必ず経済の指標になる。」

10 月 19 日、多くの政府の政策が発表され、劉鶴副総理自らが陣頭指揮を執って弁舌を振るった。 だが、いまどうなっているか? 先週金曜日に再び、(上海総合株価指数は) 2,600 ポイントのラインを割ってしまった。 いまは、2,600 前後を行き来している。 株式市場の春など来ていないのだ。 中国の株式市場は、かくもメチャクチャで、そこから導き出されることは、中国の実体経済は相当ヤバイということだ。M

「2019 年の中国は、戻れぬ坂を上っていく」

中国経済の下降は、われわれの過去の拡張モデル、成長方式、発展志向に重大な問題があったことを意味しているということは、周知の事実だ。 「実を脱して虚に向かってしまった。」 周小川・前中国人民銀行(中央銀行)総裁の言葉だ。 それでは、現在の金融リスクとは何か? 隠蔽体質、複雑さ、突発性、伝染力、危害の大きさ、そして構造の不均衡さの問題が突出しており、それに加えて法規違反の現象も増殖している。 ブラックスワン(黒鳥 = 想定外の突発事件)やグレイリノ(灰犀 = 逆に日常的なため見落としがちな危機)を防止していかねばならない。

ある時、記者が周小川総裁に聞いた。 「ブラックスワンはどこにいるのですか? 何がブラックスワンなのですか?」 周総裁はニヤニヤするばかりだった。 ブラックスワンは、われわれの身の回りにいる。 かくも多くの融資の詐欺事件はブラックスワンではないのか? それでも見えないだけではないか。 グレイリノはどこにいる? ブロックチェーンや B 圏(海千山千の投資情報が掲載されたアプリ)はグレイリノではないのか? 不動産は最大のグレイリノだ。 そのため、この種の『実を脱して虚に向かう』ようなものが、中国にはあまりに多い。 言ってみれば、アービトラージ(裁定取引)のようなものだ。

昨年の全国金融工作会議の席上で、習近平総書記と李克強総理が手厳しく、中国の金融業界を批判した。 「自作自演で弄び、実を脱して虚に向かい、金融を混乱させ、人心を攪乱させている。」 この種の金融のアービトラージ以外にも、企業の大量の資金はどこへ行ってしまったのだ? それらは本業には行っていない。 この 10 年間、IPO (新規公開株)の増加は 9 兆元(約 145 兆円)くらいだ。 9 兆元の 4 割を、どこへやったのだ? 株式投資に走り、先物取引にぶち込み、新たな金融業者の立ち上げに加わった。 どれも本業ではない。 上場企業がこんなことをやっていてよいのか?

私にも、少なからぬ上場企業の創業者や社長の知り合いがいる。 正直言って、彼らが株式の相当部分を抵当にして行っているのは、本業ではない。 彼らは何をやっているのか? 虚業に遊んで、やれ理財だ不動産だと買っている。 公表されているデータによれば、中国の上場企業の不動産への投機は、1 兆元(約 16 兆 1,600 億円)から 2 兆元(約 32 兆 3,200 億円)に上っている。 だから中国経済は、すべてが弄ぶ虚業の道具と化しているのだ。 すべてがレバレッジ(負債)に頼っており、しかもレバレッジは増しているのだ。

2019 年が始まると、中国は戻れぬ坂を上っていくことになる。 レバレッジ率(負債率)が急上昇していくのだ。 中国企業の現在のレバレッジ率は、アメリカ企業の平均のレバレッジ率の 3 倍であり、日本企業の 2 倍だ。 非金融業の中国企業の負債率は、世界最高なのだ。

「政治体制改革の実施が必須だ」

現在の中国経済の下降圧力は巨大なため、中国政府は再度、過去に行った政策を出してきた。 通貨の緩和政策、融資の促進政策、財政の緩和政策、資本の促進政策だ。 これらの政策によって、中国の根本的な問題を解決できるのだろうか? 今年の通貨政策は緩和を行わないことはなく、4 兆元(約 64 兆円)もの流動性資金を放出。 そして中期的な借款がしやすいように 2 兆 3,000 億元(約 37 兆円)を放出。 2 兆 3,000 億元に通貨をかけ合わせれば、十何兆元になる。

中国政府の信用貸付政策は、『3 本の矢』からなっている。 いわゆる『易綱(中国人民銀行総裁)の 3 本の矢』だ。 第一の矢は貸付、第二の矢は債券発行、そして第三の矢は抵当権問題の解決(返済の緩和)だ。 そのため現在の問題を思い返してみることだ。 そのような政策によって、根本的な問題を解決できるのか? 資本市場には、かくも多くの政策が出てきて、本当に実行できるのかと思えてしまう。 (政府が発表した) 10 月 19 日から、すでに 2 ヵ月が経過している。 それらはうまく適用できているのか? これはもしや、中国経済の問題は結局どこにあるのかと、われわれが真摯に反芻する意味がないということなのか?

私が言いたい結論は、次の通りだ。 現在の中国経済の問題は、すでに速度の問題ではなく、また数量の問題でもなく、質の問題だということだ。

(2017 年 10 月の)第 19 回共産党大会の報告はよく書けているし、(2013 年 11 月の)第 18 期 3 中全会の報告も素晴らしい。 ただ惜しいことに、その多くが実を結んでいないのだ。 中国の構造的な問題や、第 19 回共産党大会で論じた『6 大不均衡』の問題、さらなる多くの問題の解決が、不十分な状態のままなのだ。 その上、前述の貸付通貨財政政策の短期調整が根本的に解決されないまま、『不均衡、不十分』に発展してしまっている問題もある。

それではどうすればよいのか。 われわれはいまだ、旧態依然とした政策の枠組みと思考方式から脱却できていない。 ひとえに、考え方を転換し、昇級させられるかにかかっている。 カギとなるのは、民営企業の活力に着目することであり、(政府の)政策が企業経営者の創新(イノベーション)活力を刺激できるかに着目することである。 考えてみてほしい。 民営企業が直面している核心的な問題は、融資が受けづらくて、利子が高いということではない。 根本的な問題は何か? 彼らが恐れているのは、政府の政策の不確実性であり、政府が信用を守らないことなのだ。

そのため現在、解決すべき企業相互の遅延や欠落の問題は、まずは政府が企業に、国有企業が民営企業に、民営の大企業が中小企業に対して解決してやるべきだ。 3 大コスト(生産コスト、財務コスト、管理コスト)は引き続き上昇しているので、税率を下げる減税措置は真っ先に行うことが求められている。 そのような背景の下で、私の基本的な結論は、次の通りだ。

まず短期的には、これら通貨信用貸付政策では、問題を根本から解決することはできない。 中国経済を真に持続的かつ安定的に成長させていかねばならない。 現在直面している苦境から脱していくようにしなければならない。 そのためには、3 つの実質的な改革を実施しなければならない。 私はそれらの改革を、『税改(税制改革)』、『政改(政策改革)』、『国改(国家改革)』と呼びたい。

減税し負担を軽くするとはどういうことか?  それは政府の機構を簡素化することであり、政府の人員を大幅に削減することだ。 政府を簡素化し、その権限を減らす。 そのためには、政治体制改革の実施が必須だ。 北京大学の周其仁教授は、「中国の最大の問題は、社会統治のコストがあまりに高いことだ」と、一貫して述べている。

それから、政策の改革及び国家統治システムの改革だ。 当然、一連の教育改革、科学研究教育システムの改革も必要になってくる。 今年は改革開放 40 周年の大会が盛大に開かれると聞いている。 そこでわれわれは、心から期待を込めて、この大会でさらに改革を深化させるスローガンを吹聴し、皆が待ち望むようなものを実現したい。 もしも変わらないのであれば、中国経済は非常に見るも無残な境地に陥ってしまうであろう。

以上である。 中国経済は複雑であるが、それをどう発表するかということもまた、複雑であることを指摘しておきたい。 (近藤大介、現代ビジネス = 1-22-19)


中国、債務削減の誤算 民間企業が資金難に

中国が進めてきた企業や地方政府の債務削減を巡り、中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁が謝罪に追い込まれた。 民間企業の資金繰り悪化を招いた責任を認めたのだ。 米国との貿易戦争で経済が減速するなか、債務削減を柱とする構造改革は棚上げされそうだ。 「政策の考慮が不十分だった。 信用収縮が起きて民間企業の資金調達難を拡大した。」 11 月 6 日、国営新華社が配信したインタビューで易氏は債務削減が誤りだったと率直に認めた。 中国の官庁トップが政策失敗を表明するのは極めて異例だ。

リスクつかめず

中国は将来の金融危機発生の芽を摘もうと、2018 年初めから国有企業や地方政府が抱えた過剰債務の圧縮に乗りだした。 政策の柱は銀行を介さずにお金を融通する「影の銀行」の締めつけだ。 元手になる「理財商品」と呼ばれる高利回りの投資商品の販売を規制した。 お金の流れが複雑で監督当局すらどこにリスクがあるか把握しきれなかったからだ。

旗振り役は人民銀の易氏と銀行保険監督管理委員会(銀保監会)の郭樹清主席だった。 2 人とも経済理論に明るく、海外でも有名な改革派官僚だ。 債務削減による金融リスク抑制は、習近平指導部が 17 年秋の共産党大会で掲げた 20 年までの 3 つの重要課題の筆頭に掲げられていた。

締め付けの効果はてきめんに表れた。 影の銀行からの調達額は 17 年の 3.6 兆元(約 57 兆円)から 18 年(1 - 10 月)はマイナス 2.6 兆元に転換。 返済が調達を上回り、ざっと 100 兆円の信用収縮が起きた計算になる。 影の銀行を主に利用していたのは、地方政府がインフラ投資の資金調達に使うダミー会社と銀行が相手にしない民間企業だ。 当局はダミー会社の過剰債務圧縮を狙っていたとされ、実際に地方のインフラ建設は止まった。 一部の地方政府は資金難で職員給与すら払えなくなったものの、省政府などが財政支援した。

遅れた軌道修正

後ろ盾のない民間企業は干上がった。 もともと中国の銀行の融資は国有企業に偏りがちで、民間向けは全体の 4 分の 1 にすぎない。 影の銀行からの調達を断ち切られた民間企業は資金繰りに窮し、過去最高となった 7 - 9 月期の社債債務不履行の 4 分の 3 を占めた。

当局の軌道修正は遅れた。 ある証券アナリストが 5 月に「国有企業ではなく民間企業の債務を圧縮している」と債務削減策を批判すると、郭氏は「実名で反論文を出す」と激高したとされる。 経済減速が鮮明になった夏には、人民銀の現役局長が実名で「財政政策が積極的でない」と財政省に責任を転嫁。 猛反発した財政省と人民銀が論争を繰り広げるうちに影響は深刻になっていった。

「資金調達難を解決します。」 11 月 1 日、習氏は民間企業の経営者を集めて約束した。 習氏が乗り出さなければ収まらないほどに経営者の怒りや不安が高まった。 改革開放から 40 周年の記念すべき年に民間企業が資金繰りに苦しむのは皮肉だ。 重要課題のはずだった債務削減は事実上後回しにされそうだ。 人民銀の金融政策の方向性を占う「貨幣政策執行報告」。 11 月に公表した 7 - 9 月期分では「債務削減、金融監督強化と安定成長の関係をうまく処理する」と指摘した。 「経済成長に響くならやらない」とも取れる書きぶりで、1 - 3 月期分の「債務削減を堅持する」から大幅に弱められた。

中国の銀行が民間に融資しないのは、リスクの乏しい国有企業に融資しても厚い利ざやを確保できるからだ。 貸し出しや預金の金利自由化は名ばかりで、地区ごとに業界団体が各行の金利を調整する慣行が残る。 金融自由化停滞のツケが回ってきたのが問題の本質として浮かび上がる。 謝罪に追い込まれた易氏だけでなく郭氏も対応を迫られた。 7 日のインタビューで銀行に民間向け融資の目標を設定すると表明した。 郭発言で銀行株が急落したのは、政策迷走による金融リスクの先送りを嫌気したからだ。 「監督当局を監督するのは誰なんだ。」 ある銀行担当アナリストの嘆きには経済運営の矛盾が凝縮している。 (北京 = 原田逸策、nikkei = 11-21-18)


中国で P2P 倒産ドミノ 資産回収困難、自殺する出資者も

「彼らと闘うには私はあまりにも小さな存在だ。」 9 月上旬、中国浙江省出身の 31 歳の女性はそう書き残してこの世を去った。 オンライン融資の「ピアツーピア (P2P)」を手掛ける会社が倒産し、約 4 万ドル(約 450 万円)を失ったことを苦にした自殺だった。 「国有系の P2P が逃げ出し、株主も責任を取ろうとせず、捜査当局の腰も重い。 疲れ果てて希望が見えない。」と訴えた女性の両親宛ての手紙がソーシャルメディア「微博」のチャットグループに投稿された。

倒産した PP ミャオで損失を被ったとして何百人もの人々が 8 月下旬、抗議のために上海の国際ファイナンスセンターの外に集まった。 ここに同社と関係する企業がオフィスを構えていたが、地元の警察や警備員に追い返された。 「われわれは全てを失った。 私には 3 歳になる息子の保育料の支払いが来月に迫っているんだ。」と「チェン」とだけ名前を明かした男性が話した後、警察のバスに乗せられ、電車で 14 時間かかる江西省へと送り返された。

被害を受けたと訴える出資者らによると、PP ミャオが破綻した結果、最大 4,000 人が計 1 億 1,700 万ドルを失った。 その多くが資金の返還を求めて中国の主要都市に集まっている。

3 カ月で 400 社破綻

上海の調査会社、盈燦集団によれば、今年 6 月から 8 月までで 400 社余りの P2P プラットフォームが破綻。 それでも 1,800 社程度が残っているが、今後も倒産ドミノが続き 200 社弱まで減少すると中国国際金融 (CICC) は見込んでいる。 中国の P2P は、銀行の預金金利を大きく上回る 10% 以上のリターンで 5,000 万人を引き寄せてきた。 これは米国のニューヨーク、テキサス両州を合わせた人口を上回る。 6 月時点の投資残高は過去最大の 2,000 億ドルだ。

従来の銀行セクターではない金融機関、いわゆるシャドーバンキング(影の銀行)の一角で、ほぼ野放し状態だった P2P に対し、中国政府は監視を強めようとしている。 P2P のサイトに資金を預けるなら全てを失ってもかまわないとの覚悟が必要だと、銀行監督当局は今年の夏に警告した。

多くが自転車操業

経営難の P2P プラットフォーム全てに詐欺の疑いがあるわけではないが、中国当局は倒産した多くのサイトが当座の支払いに充てるため資金調達が必要だったと話している。 つまり「自転車操業」だったわけだ。 P2P サイトの運営者が資金を持ち逃げするまでの数週間だけ、出資者を募っていた例もある。 PP ミャオを所有していた 3 社の一角と出資者らが考えているのが華安基金管理の資産運用部門、華安未来資産だ。 華安は民間企業だが、大株主の一部は国有系だ。

華安は抗議活動が起きる寸前だった当日のリリースで、資産運用を託された顧客のために PP ミャオを所有する企業に投資していたと説明。 その後、この投資先企業と顧客はいずれも PP ミャオへの関わりを開示しなかったと主張し、「全ての被害者に深く同情する。 いかなる警察の捜査にも積極的に協力する。」と表明した。 命を絶った浙江省の女性にとってはあまりにも小さく、遅い約束だった。 (Jun Luo、Sheridan Prasso、Bloomberg = 10-11-18)


海航グループ会社、債務返済滞る、3 億元

【重慶 = 多部田俊輔】 中国の複合企業、海航集団(HNA グループ)のグループ会社でレジャー施設の運営などを手掛ける海航創新が 3 億元(約 50 億円)の債務返済を滞らせていることが 13 日明らかになった。 海航集団は今年に入って海外のホテルや不動産などを売却しているが、資金繰りが厳しい実態が改めて浮き彫りとなった。

海航創新は 2016 年 9 月上旬、信託会社から期間 2 年間で 3 億元を借り入れた。 信託会社側が 13 日、この借入金について期日までに返済されていないと発表した。 海航創新の筆頭株主、海航旅游集団が債務保証義務を果たしていないことも明らかにした。 海航創新は同日、3 億元の債務返済が遅れていると発表。 浙江省の観光開発プロジェクトで歴史的な問題にかかわり資産が凍結されたことから「資金繰りが厳しくなっている」と理由を説明した。

海航集団は海外での M & A (合併・買収)で急成長した。 中国当局が 17 年に借金に依存して買収を繰り返す企業の監視を強化したことから、資金繰りが急速に悪化。 当局の指導に従って、米ホテル大手、ヒルトン系列会社の持ち株や不動産などを相次いで売却した。 海航集団は共同創業者で董事長だった王健氏が 7 月に出張先のフランスで急死しており、経営の先行きは不透明な状況が続いている。 (nikkei = 9-14-18)


限界に近づく中国の「家庭債務」 リーマンショック時の米国状態

上海財経大学高等研究院は、2018 年 7 月 14 日に『家庭債務危機及びそこから生じ得るシステム性の金融リスク』と題する研究報告を発表。 その内容に多くの人々が驚愕した。 この報告では、中国の家庭債務がすでに多くの家庭が持ちこたえられる限界に到達している、と指摘している。 2017 年には、中国の家庭債務の可処分所得に対する比率が 107.2% に達しており、すでに米国の現在の水準を上回り、さらにリーマンショックと呼ばれる米国の 2008 年金融危機発生前のピーク値に近づいている。

また、表に出ていない民間ローンなどは統計に含まれていないため、事実上、中国の多くの家庭はすでに火の車の状態だ。

可処分所得を上回る借金

家庭債務の高低を判断するにあたり、一般的に二つのデータを統計の基準としている。 一つは家庭負債が国内総生産 (GDP) に占める割合であり、もう一つは家庭債務が可処分所得に占める割合である。 今回の報告によると、2017 年の中国の家庭債務が GDP に占める割合は 48% に達しており、この数字はすでに他の途上国を大きく上回っている。

中国の家庭債務の水準を評価するとき、家庭債務が GDP に占める割合が先進国の 76% 以下であるならば安全だとは言えず、中国にふさわしい評価指標について考える必要があり、それが家庭債務と可処分所得の比率で、この比率はなんとすでに 107.2% に達しているのだ!

住宅ローン金利上昇で短期借金に走る個人

2017 年以降、不動産バブルの調整政策及び銀行ローンの引き締め政策などの影響により、個人による人民元の中長期ローンの増加額は 16 年を大きく下回った。 しかし、個人の短期債務は顕著な増加が見られた。 2018 年の中国マクロ経済情勢分析及び予測段階の年央報告によると、2018 年に入って最初の 5 カ月間だけで個人による新たな短期債務は 8,600 億元(約 13 兆 7,600 億円)だった。 その前の 2015 年、16 年の 2 年分の短期ローン合計額は 1 兆 3,700 億元(約 21 兆 9,200 億円)に過ぎなかった。

今、人々が不安を募らせているのはまさにこの点だ。 関連する統計によると、短期ローンの増加部分は、いわゆる「消費のアップグレード」とされる。 しかし、これはかなりいい加減な見解だ。 仮に、「消費のアップグレード」を携帯電話やよりスマート化された家電の買い替えと単純にとらえるならば、人々の日常生活の経験からすると、どれだけの家庭がローンをしてまでこれらの物を購入するのだろうか?

重大な懸念をもって推測されているのは、これらの短期ローンの増加が銀行の住宅ローンの引き締めに起因しているのではないか、という点だ。 各家庭は住宅ローン以外の方法でローンを組んで住宅市場に入るしかない。 こうしたローンは償還期限が短く、利息も高く、家庭経済の流動性に強烈なショックを与えるだけでなく、さらに社会の不安定要素にもなることだろう。

企業収益にも連鎖する不安

今回の報告によると、家庭債務の累積が消費に働く作用は家庭部門の内部に限られているわけではない。 とりわけ企業部門の連鎖反応を引き起こす。 家庭債務の過度の累積は、家庭における消費を大いに圧迫し、総需要を下げることになろう。 総需要の低下は、必然的に企業収益にマイナスの影響を及ぼし、企業も経営を維持するためにレバレッジをかけざるを得なくなる。

企業業績が下がれば、従業員の昇給にも影響が及び、家庭経済の流動性の改善がより難しくなり、さらに家庭の消費が冷え込み、引いては総需要も後退することになり、従って、企業の経営業績は一層悪化する。 企業の活力が減退するならば、債務を期限までに償還できるかどうかに直接影響し、この影響がさらには銀行システムにも及び、銀行システムの安定性にも影響する。

中国社会科学院金融重点実験室の劉U輝部長は、7 月 21 日にあるフォーラムで、「我々は 3 年ないし 5 年の苦しい暮らしをするだろう」と警告している。 国外ではトランプ大統領が仕掛けてきた貿易戦争があり、国内では企業も家計もたいへん苦しい状況にある。 とくに限界に近づきつつある家庭債務の累積が中国経済に与える影響は極めて大きい。 (在北京ジャーナリスト 陳言、J-cast = 9-2-18)