中国で今年最大級のデフォルトか、債務危機が深刻化

中国の複合企業が債務危機の深みにはまっている。 保険や不動産、航空機リース業などを手掛ける中国民生投資集団(中民投、CMIG)は 19 日、8 月 2 日に償還を迎える 5 億ドル(約 540 億円)の 3 年債について、元本や利子の支払いができないことを明らかにした。 中国企業のドル建て債デフォルト(債務不履行)としては今年に入り最大規模となる。

中民投は表面利率 3.8% の 3 年債を海外子会社のブーム・アップ・インベストメントを通じて発行した。 香港のトレーダーによると、19 日の取引で価格が 3 割近く下落し、額面 1 ドル当たり 50 セントとなった。 これはデフォルトに陥る可能性が高いことを示している。 2014 年創業の同社は、中国の経済発展および広域経済圏構想「一帯一路」の関連投資に軸足を置く「世界有数の投資グループ」と自称している。 バミューダ諸島に登記された不動産・損害保険のシリウス・インターナショナル・インシュランス・グループの大株主でもある。

中民投の株主には多数の中国民間企業が名を連ねる。 経営難に陥った理由については不明点が多いものの、元従業員によると同社は長期資産を支える資金を短期の借り入れで賄い、資金繰りが苦しくなっていた。 中国の格付け会社、上海新世紀資信評估投資服務(上海ブリリアンス)は昨年 10 月のリポートで、中民投の 2018 年 1 - 6 月期売上高が 144 億元に半減し、純利益は 77% 減の 12 億 6,000 万元に落ち込んだと指摘。 昨年 6 月末時点の債務残高は 134% 増の 2,321 億元に達する一方、資産総額は 3,096 億元だと述べていた。

S & P グローバルの 6 月 2 日付リポートによると、同社が本土市場(オンショア)で発行した社債のうち総額 23 億 5,000 万元分が今年に入りデフォルトとなった。 4 月には、債権者が元建て融資の即時返済を要求する可能性を表明し、オフショア市場のドル建て債でクロスデフォルト条項が発動された。 格付け会社フィッチ・レーティングスは同月、中民投の「債務および流動性の危機が深まっている」として、保険子会社シリウス・インターナショナルに悪影響を及ぼしていると指摘した。

中民投は 2020 年償還のドル建て債も 3 億ドル発行している。 この社債を保証していたのは国有の中国建設銀行の香港支店だ。 同行は 6 月、元本と未払い利息を支払い、債権者の損失を補てんした。 中国企業の社債デフォルトは増加傾向にある。 S & P によると、本土市場では今年これまでに二十数社が合計約 330 億元の社債でデフォルトに陥った。 中国経済が冷え込む中、下半期にはデフォルト率が一段と高まると % & P はみている。 (Frances Yoon and Stella Yifan Xie、The Wall Street Journal = 7-20-19)


中国債務が再拡大、昨年の借り入れ抑制から一転 - 景気減速の中

→ 全体の債務は対 GDP 比 303% 強、昨年 1 - 3 月は 297% 弱 - IIF
→ 4 - 6 月は 6.2% 成長 - 景気対策に乗り出すも債務増の代償

中国当局の景気支援策によって債務が再び拡大している。 習近平指導部が金融リスクの抑制で直面する課題が浮き彫りになっている。 国際金融協会 (IIF) が公表したリポートによると、家計と企業、政府部門を合わせた全体の債務は対国内総生産 (GDP) 比 303% 強となり、世界全体の債務の約 15% を占めた。 2018 年 1 - 3 月(第 1 四半期)は 297% 弱だった。

対米貿易戦争による影響や人口高齢化などより長期的な要因を背景に、中国の今年 4 -6 月(第 2 四半期)の実質 GDP 成長率は 6.2% に鈍化。 四半期ベースで過去最低を記録した。 当局は景気対策として民間セクターに与信が行き渡るよう取り組んでいるほか、国内消費の喚起にも努めており、債務増という代償を伴う。 いわゆる「シャドーバンキング」からの企業借り入れ抑制に向けた全面的な取り組みを進めていた昨年からは一転した状況となっている。 IIF によれば、これは一定の成果を上げたが、他部門の借り入れがこれを打ち消した。 債務が中国経済にかける負荷も景気減速で重くなっている。

オーストラリア・ニュージーランド銀行 (ANZ) の楊宇霆氏によると、名目 GDP 成長率は現時点で 8% 程度となっており、約 11% というファイナンス規模の伸びが大きく上回っているため、債務の対 GDP 比は拡大が避けられないという。 債務の再拡大は今のところ、景気減速に歯止めをかけるため中国当局が支払っても構わない代償となっているようだ。 (bloomberg = 7-17-19)


中国「3 - 4 年で経常赤字に」社会科学院・張氏

「経常黒字減少、貯蓄率低下も影響」

中国の経常収支は今後どうなるのか、仮に赤字が定着すればどんな影響があるのか。 中国社会科学院の張明研究員に聞いた。

- - 過去数年間に中国の経常黒字は減少してきたが、どんな原因がありますか。

「モノの貿易黒字が減る一方、サービスの貿易赤字が膨らんだ。 貿易黒字の減少は国内の労働力、土地、資金のコストが上がったためだ。 サービス赤字の拡大は中国人が、海外旅行に出かけたり、子供を海外に留学させたりするようになったからだ。」

「ある国の経常黒字は理論上、国内の貯蓄から投資を引いたものだ。 このうち貯蓄率は人口構造に影響される。 中国は 2010 年が転換点だった。 10 年以前は労働力も増え、労働力が人口に占める比率も上昇した。 10 年以降はこの 2 つの指標がいずれも減少に転じた。 高齢化の加速で中国の家計部門の貯蓄率は低下が続いている(このため貯蓄から投資を引いた経常黒字は減りやすい。)」

- - 中国の経常収支の今後の推移をどうみていますか。

「中期では赤字が定着する可能性が高い。 なぜなら中国の貿易黒字はさらに減りそうだからだ。 貿易摩擦を巡る米中協議が合意すれば米国から輸入を増やすし、合意しなければ米国はすべての中国製品に追加関税をかける。 いずれの場合も貿易黒字全体の 60% 前後を占める対米黒字は減少する。」

「中国人の平均収入は伸びており、質の良いサービスへの需要は強烈だ。 サービス貿易の赤字も減らず、むしろ増える可能性すらある。 経常収支はさらに赤字になりやすくなる。 別の角度から言えば、今後の高齢化加速は確実だ。 これは家計部門の貯蓄率のさらなる低下につながり、中期で経常収支は赤字になる可能性がある。」

「この点で日本は中国のよい先生だ。 日本は世界最速の高齢化を経験したが、モノの貿易は赤字になっても経常収支は黒字を保っている。 海外投資による所得収支の黒字が大きく、貿易赤字を上回ったからだ。」

「中国は約 2 兆ドルの海外純資産があるが、所得収支はマイナスだ。 中国の海外資産は主に外貨準備だ。 中央銀行が米国債などに投資しており、収益率は低い。 日本は外貨準備の占める比率が低く、多くの海外資産は日本企業や個人が保有している。」

「中国が経常赤字の圧力にうまく対応するには、中国もより多くの外貨を民間にゆだね、中国企業と個人により多くの海外資産を保有してもらうことだろう。 海外資産の収益率を高めれば、貿易黒字の減少をカバーできる。」

- - 経常赤字になる「中期」とはどのくらいの時間を想定していますか。

「中期とは 3、4 年後だ。 国際通貨基金 (IMF) の予測と近い。」

- - 仮に経常赤字が定着すれば中国にはどんな影響がありますか。

「少なくとも 3 つの影響がある。 まず人民元の下落圧力は将来さらに増すだろう。 ある国の通貨が長期的に上昇するか下落するかは経常収支がカギだからだ。」

「次に国内資産、とくに株式市場と債券市場に不利な影響がある。 経常赤字になれば資本収支は黒字にする必要があり、海外からお金を借りてきてバランスさせる必要がある。 海外のこの種の短期資金は動きが激しく、株式市場や債券市場の変動は増すだろう。」

「最後は中国の資金供給方式だ。 これまでは中央銀行は流入するドルを為替介入で買い、代わりに人民元を市場に供給してきた。 資金が増えすぎないように中央銀行は手形を発行して資金を吸収したり、銀行が中央銀行に預けるお金の比率(預金準備率)を上げたりしてきた。 14 年からは資金流入が減り、中央銀行は預金準備率を下げたり、公開市場操作(オペ)をしたりして資金供給してきた。 仮に経常赤字になれば米国のように国債を買い切る方式で資金供給する必要があるかもしれない。」

- - 通常は経常黒字の累計は対外純資産の増加額に等しいですが、中国では経常黒字ほど対外純資産が増えていません。 背景に資本逃避があると指摘されています。

「2 つの解釈が可能だ。 1 つは最近は米ドルが基本的に上昇してきたので、米ドルで海外資産を換算すると目減りした。 もう 1 つは潜在的な資本逃避だ。 お金が出ていくのに中国の海外資産にはならず、グレーゾーンにある。」

「国際収支の管理の透明性を高め、反腐敗を強めれば資本逃避の緩和に役立つ。 人民元の相場変動を大きくし、人民元が対米ドルで下落し続けるという見方を打ち消すことも資本逃避を防ぐのに役立つ。」 (nikkei = 6-23-19)


統計修正で「縮む」中国経済 15 年水準に

中国経済が「縮んで」いる。 過去の水増しを圧縮し、数値が小さくなる統計が相次いでいる。 企業利益や小売売上高は公式には増加が続いているが、実際は 2015 年の水準に逆戻りした。 中堅企業が減少しているためで、地方経済の疲弊を映しているようだ。

3 年連続で利益が増えたと公表したが …

中国の国家統計局が毎月公表する工業企業の利益は、売上高が年 2,000 万元以上の「中堅以上」の製造業と鉱業の利益を合計する。 統計局は 18 年は前年比 10.3% 増の 6 兆 6,400 億元(約 110 兆円)となり、16 年から 3 年連続で増えたと公表した。 一見順調だが、過去の利益額を調べて目を疑った。 17 年どころか 16 年にも及ばず、上海株や人民元の急落で市場が混乱した 15 年と同じ水準にとどまったからだ。

同じく統計局が毎月公表する社会消費品小売総額は、卸や小売り、レストラン、ホテルの合計売上高だ。 中国のエコノミストが注目するのは街の雑貨屋など零細事業者を除いた「中堅以上」の事業者の売上高で、小売りなら売上高で年 500 万元以上が対象だ。

零細事業者の売上高は地方政府の統計部門が抽出調査し、国家統計局に数値を報告する。 「地方政府が見栄えを良くするため数値をいじっている」との疑念がある。 一方、中堅以上の事業者はオンライン入力で直接、国家統計局に数値を送るため信頼性が高いとされる。 統計局の盛来運報道官(当時)も 16 年のインタビューで「(他の統計も含め) 100 万社の企業が統計局に直接オンラインで報告する。 地方政府に干渉されない。」と説明した。

中堅以上の小売売上高は 18 年に 14 兆 5,300 億元と前年比 5.7% 増えた。 統計局によると増加が続くが、17 年は 16 兆 600 億元だった。 実に 1 兆 5,300 億元 (9.5%) も減り、やはり 15 年並みの低水準だ。 急成長するインターネット通販を含むので実店舗の大半は前年割れだろう。 「無印良品」を展開する良品計画の中国事業は 19 年 2 月期の既存店売上高が 2.1% 減った。 減少幅は上期の 0.2% から下期は 4% に拡大した。 「勝ち組」の無印がこのありさまでは普通の小売店は本当に厳しいはずだ。

金額が減るのに増減率がプラスなのはなぜか。 統計局は、(1) 虚偽の数値を正した、(2) 売り上げ減少などで一部企業を統計から外した、(3) 前年と比較可能な対象で増減率を計算 - - と説明する。 (1) はいいが (2) と (3) はどういうことか。

例えば小売店 A、B、C は売上高がいずれも「中堅以上」の条件を満たす 600 万元だったとする。 A は売上高が 300 万元に落ちたが、B、C は 600 万元のままの場合、「中堅以上」はB、Cの2社になり、合計売上高は1800万元から1200万元に減る。 ただ、「中堅以上」の増減率を計算するときは前年と比較できる B、C の売上高だけを比べるから横ばいとなる。 A、B、C の 3 社の合計売上高が減っても増減率には反映されない。 実額と増減率の動きがずれるのは中国の「中堅企業」が減っているからだ。 国際的なたこ揚げ大会で有名な山東省●(さんずいに維)坊市はその良い例だ。

急減する中堅企業

昨年 9 月、国家統計局は●坊で統計不正を見つけたと発表した。 製造業 18 社、卸 6 社、小売り 11 社が本当は売上高の条件を満たさないのに満たすとウソをつき、「中堅以上」として統計局に数値を報告していた。 昨年 7 月の同市副市長の内部発言が興味深い。 「中堅企業が急減している。 このままでは域内総生産に響く。 中堅企業の数を確実に増やせ。」 市幹部の圧力が統計不正につながったのは間違いない。 市によると製造、建設、流通、不動産、サービスで 13 年に 9,588 社あった中堅企業は 18 年に 6,802 社まで減少し、実に 30% も減った。 その多くが民間企業とみられる。

中国は 16 年から鉄鋼や石炭の設備削減で企業を統廃合した。 環境規制の強化で多くの工場が操業停止し廃業した。 債務削減で資金繰り倒産が広がった。 人件費高騰で海外移転も進む。 ●坊の電子機器大手、歌爾声学(ゴーテック)はベトナムに生産の一部を移した。 ●坊の不正は氷山の一角。 似た手口は全国に広がっているとされる。 全国統計では「中堅以上」の鉱工業企業の数は大きくは減っていないが、実態を映していない恐れがある。

次の焦点は毎月公表する工業生産の統計だ。 売上高 2,000 万元以上の「中堅以上」の企業が対象となる。 この統計は生産の付加価値額の伸び率だけを実質値で出し、実額は公表しない。 中国景気が急失速した昨年 11 月も 5.4% 伸びた。 「中堅以上」の企業数が減れば、見た目の伸び率は安定しても金額は減る。 企業利益や小売売上高と同じだ。 生産の付加価値が減れば国内総生産 (GDP) も減る。

そこで統計局の「経済景気月報」で昨年 11 月の 96 品目の生産量を調べてみた。 実に 3 分の 2 にあたる 66 品目が前年割れで、主力の自動車や携帯電話も減った。 統計局は「高付加価値品にシフトした」と説明するが、短期間に生産品目を変えるのは簡単ではない。 中国では地方の域内総生産の合計が国の GDP を大きく上回ってきた。 元凶の一つは工業生産の水増しだったとされる。 地方経済の疲弊が統計不正をあぶり出す。 そんな展開が現実になりつつある。 (原田逸策、nikkei = 5-6-19)


中国の経常黒字消失、変化へ好機

中国のオンライン旅行最大手、携程旅行網(シートリップ)の本社の管理室には、大きなデジタル世界地図がかかっている。 その地図を横切るように毎秒、十数本の線が光る。 同社のシステムを通じて国際航空券が売れるたびに光る仕組みだ。 筆者が訪問した 3 月 11 日朝、最も人気の高い行き先はソウル、バンコク、マニラだった。 リアルタイムで更新されるホテルの予約ランキングでは、欧州で一番人気の町は英リバプールだった。 工業が盛んだったリバプールの粗削りな魅力が、ベネチアやバルセロナよりほんの短い間だったが勝っていた(この時、リバプールが特別価格の対象になっていたことが影響したようだ)。

21 世紀に入って最初の 10 年の中国人の海外旅行件数は年平均 3,000 万件弱だった。 これが昨年 1 億 5,000 万件に達し、その約 4 分の 1 はシートリップを通じて予約されたという。 これは世界中のホテルや土産物屋がもうかるという話にとどまらない。 世界の金融システムにおける重大な変化、つまり中国の経常黒字が消失していく要因でもある。

つい 2007 年までは、中国の経常黒字は国内総生産 (GDP) 比 10% で、一般的に経済学者が健全とする水準を大きく上回っていた。 それは当時、米連邦準備理事会 (FRB) 議長だったベン・バーナンキ氏が「世界的な過剰貯蓄」と表現した現象を象徴していた。 中国のような輸出大国が、他国から収入を得る一方で支出をせずにため込んでいた状況を指す。 中国の巨額黒字は、裏返せば米国の赤字を意味し、世界経済の均衡が取れていないことを象徴していた。

だが、それは過去の話だ。 中国の昨年の経常黒字は GDP 比 0.4%。 米金融大手モルガン・スタンレーのアナリストの予想によると、中国は今年、1993 年以降で初めて経常赤字に転落し、それが今後何年も続くという。 国際通貨基金 (IMF) などは、わずかながら黒字を維持すると予測している。 いずれにしても 10 年前よりグローバル経済のバランスが改善してきたことを示す。 このことは、中国が自国の金融システムを近代化するきっかけにもなるかもしれない。

昨年の中国の海外旅行収支は 26 兆円の赤字

経常収支悪化の基本的な理由は、中国が輸入を大幅に増やす一方で、輸出が苦境に直面しているためだ。 世界輸出に占める中国の割合は 2015 年の 14% をピークに少しずつ低下している。 そこに米国との貿易戦争という逆風も加わった。 同時に輸入は急増している。 中国の財の貿易黒字は 18 年、過去 5 年で最低を記録した。

さらに驚くのはサービスの貿易、特に旅行収支だ。 08 年の北京オリンピックの際は、外国人による中国での支出が中国人の外国での支出を少し上回ったが、以来、外国人観光客数は伸びず、中国人の海外旅行は急増した。 それだけではない。ロ ンドンのヒースロー空港で付加価値税 (VAT) の払い戻しを受けるため長蛇の列に並んだ人なら知っているが、中国人観光客の爆買いはすごい。 中国の旅行収支は 18 年に 2,400 億ドル(約 26 兆円)の赤字を記録し、過去最大となった。

経常収支の変動は、景気に左右される部分もある。 香港の調査会社ギャブカル・ドラゴノミクスのチェン・ロング氏は、中国の主要輸入品である石油と半導体は昨年、高値で取引されていたと指摘する。 これらが今後、値下がりすれば、経常黒字が再び増加する可能性もある。

ただ、もっと深い要因もある。 経常収支は基本的に貯蓄と投資の差額を表す。 中国の投資率は、GDP 比約 40% という高水準だが、貯蓄率の GDP 比は 10 年前の 50% から 40% 程度に低下している。 国民が財布を開く(スマホの決済アプリをタップすると言った方がいいかもしれない)楽しさを覚えてしまったからだ。 高齢化で貯蓄率はさらに下がるだろう。 多くの退職者を現役労働者が支えることになるからだ。 よって黒字の消失は、中国がより豊かになり高齢化していることを反映しているとも言える。

とはいえ、こうした変化がもたらす影響を懸念する向きもある。 新興国では、巨額の経常赤字は金融不安化の前兆となる場合がある。 分不相応に支出を拡大し、その資金を調達するために移り気な外国人投資家に頼るケースだ。 だが、中国はそうした危機には陥っていない。 今後、赤字になっても、GDP のほんの一部にとどまると予想される。 しかも、政府は 3 兆ドルに上る外貨準備高という潤沢なバッファーも抱えている。 これで時間は稼げるはずだ。

重要なのは、中国がその時間をどう使うかだ。 定義上、経常収支が赤字の国は、外国からの収入でそれを穴埋めする必要がある。 海外から資本を自由に受け入れられ、為替が変動相場制の場合、中央銀行が特に介入しなくても収入と支出は均衡する。 だが中国は、資本の流れも為替相場も政府が厳しく管理している。

資本市場開放で金融システム近代化の好機

中国が経常赤字に転落する可能性に直面している以上、海外からの収入を増やすには管理の手を緩めるほかない。 実際、その方向に進んでいる。 中国は長く、外国人投資家に厳格な投資割当枠を設け、自国の資本市場へのアクセスを管理してきた。 年金基金などの機関を優遇してきたが、近年は香港証券取引所を通じたルートなど、慎重に管理しつつも割当枠を拡大している。

こうした変化から、世界の投資家にとって重要なベンチマークとなる主要な株価や債券の指数の構成銘柄に、少しずつだが中国の資産が選ばれるようになっている。 米 MSCI は先月、新興国株指数に中国本土上場株を組み入れる比率を 4 倍以上の 3.3% に増やすとした。 ブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合インデックスは、4 月から中国債を採用する。 そうなれば、2 年以内に約 1,000 億ドルが中国債に投じられる可能性がある。

その結果、好循環が生み出される可能性があると、IMF は中国の債券市場に関する近著の中で指摘している。 債券にもっと積極投資できるようになれば、金融政策としての金利を(昔ながらの行政指導ではなく)より強力な武器に使いたい政府の目標にもかなう。 債券市場に海外資金が流れ込むのと同時に、為替レートも柔軟に変動するようになれば、中国はより近代的で効率的な金融システムを築けるかもしれない。 つまり、うまく対処すれば、経常赤字は歓迎すべき現象になり得る。

経常赤字拡大阻止にはサービス業の強化を

ただ、中国に徹底してやる覚悟がないのは明らかだ。 外国人投資家を誘い込む試みが進む一方、中国人の海外投資を促す動きは見られない。 中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は、人民元の「基本的な安定」を維持すると何度も発言している。 英シンクタンクのオックスフォード・エコノミクスのルイス・クイジス氏は、結局、どれほど自由化するかは考え方の問題だとみる。 中国政府は、市場の動きに任せるには慎重だ。 「つまり、開放するにしてもゆっくりだろう」と言う。

従って、中国の経常赤字対策のもう 1 つの手法は、赤字幅を大きくしすぎないことだ。 それには中国はサービス業の競争力を高める必要がある、と元中銀幹部の管涛氏は指摘する。 観光や大学、病院などのレベルを上げれば、もっと多くの外国人を引きつけるだけでなく、中国の国民ももっと国内で消費するようになるというわけだ。 第 2 の万里の長城と考えればいい。 建設から 2000 年以上、何度も外敵に侵入され、要塞としてはほぼ機能しなかった。 だが今回の万里の長城の役割は、中国ならではの独自性を生かし、維持することで、海外から観光客を大量に呼び込むことだ。 この戦いの方が勝ち目はある。 (The Economist、nikkei = 3-20-19)


中国が恐れる「灰色のサイ」

中国メディアが「経済は良好だ」と書きたてるときは気をつけた方がいい。 習近平(シー・ジンピン)指導部が先行きに強い不安を抱いている表れだからだ。 「灰色のサイ」と呼ぶ過剰債務の問題が暴れ出すのを警戒し、景気対策も恐る恐るにならざるを得ない。 「90 兆元(約 1,500 兆円)突破! わが国経済は新たな大台に。」 2018 年の国内総生産 (GDP) が発表になった翌日の 1 月 22 日、中国共産党機関紙の人民日報は 1 面にこんな見出しを掲げた。 「90 兆元」とは名目 GDP の額である。

実質成長率(前年比 6.6%)が 1990 年以来、28 年ぶりの低い水準だった事実には触れていない。 中国メディアの関係者によると、党の中央宣伝部は昨年秋に「景気の減速を示す数字を報じてはならない」との通達を出した。 少しでも経済の不振をほのめかす記事を書けば、当局の指導を受けるという。 習氏は 21 日、地方や中央官庁の幹部を集めた学習会で「わが国の経済情勢は総じて良好だ」と演説した。 経済の変調を認めないのはなぜか。 ヒントは同じ演説にある。 「『黒い白鳥』だけでなく『灰色のサイ』も防がなければならない。」 習氏は唐突にこう訴えた。

「黒い白鳥」はリーマン・ショックのようにめったに起こらない危機をさす。 一方、「灰色のサイ」は高い確率で現れるが、何もできずに見ているしかないリスクを意味する。 いずれも金融界で広く使われる言葉だ。 中国で「灰色のサイ」は、人民日報が 17 年 7 月の論説記事で取り上げて有名になった。 直前に習氏は 5 年に 1 度の「全国金融工作会議」を開き、巨額の債務が中国経済をむしばみかねないとの危機感をあらわにした。 人民日報は債務問題を象徴する言葉として「灰色のサイ」を使ったのだ。

国際決済銀行 (BIS) によると、中国の地方や企業などが抱える債務はいまも増え続けている。 残高は 13 年の約 120 兆元から、18 年 6 月に約 220 兆元まで膨らんだ。 習指導部は 18 年の初めから、銀行を介さずに地方や企業にお金を流す「影の銀行」の取り締まりに乗り出した。 強力な引き締め効果があったとみていい。 地方や民営企業にたちまちカネが回らなくなった。 米国との貿易戦争が追い打ちをかけ、中国経済は「11 - 12 月に尋常でない変化が起きた。(日本電産の永守重信会長)」

習指導部が慌てたのは言うまでもない。 すぐに減税とインフラ投資だけで 2 兆 5 千億元(約 40 兆円)超の対策を固めた。 しかし財政政策とは裏腹に、金融政策の方向性はわかりにくい。 習指導部は昨年 12 月の重要会議で「穏健で中立な金融政策を続ける」とという従来の方針から「中立」を削除した。 緩和方向への修正だが、中国人民銀行(中央銀行)の幹部は「政策の枠組みは変わっておらず、金融緩和ではない」と方針転換をかたくなに否定する。

「灰色のサイ」が気になるからだ。 景気対策のために再び資金の蛇口を全開にしたら、過剰債務の泥沼からいよいよ抜け出せなくなる。 習氏もそれがわかっているから、あえて「景気は良好」としたうえで「灰色のサイ」への警戒を怠らぬよう訴えたのだろう。 インフラ建設の実動部隊となる地方政府や企業には戸惑いがみられる。 景気刺激と債務圧縮のどちらに軸足を置けばいいかわからないからだ。 ある外資系銀行の幹部は「地方や企業にはいまも十分にお金が回っていない」と話す。 資金不足でインフラ建設が計画より遅れるリスクは残る。

08 年秋にリーマン・ショックが起きたときは違った。 当時の胡錦濤(フー・ジンタオ)指導部はただちに金融政策を「緊縮」から「緩和」に転換し、4 兆元(当時のレートで 57 兆円)の景気刺激策になりふり構わず資金を注ぎ込んだ。 いまに至る債務問題の起点となったが、中国経済の失速を防いだのは確かだ。 習指導部は「灰色のサイ」が暴れるのを抑えながら、景気対策を軌道に乗せるという微妙なかじ取りを迫られる。 10 年前と比べられない難路になるのはまちがいない。 (高橋哲史、nikkei = 2-15-19)


中国経済の大幅減速、犯人は国有企業の「逆襲」か

[香港] ブームは終わった。 中国経済はハードランディングにこそ見舞われていないものの、大幅に減速しており、世界中の資本市場を揺るがしている。 しかし、こうした状況の回避は可能だった。 グローバル金融危機を受けた中国の景気減速は、政策の不手際が原因だった - -。 ピーターソン国際戦略研究所のニコラス・ラ―ディー氏は新刊「ステート・ストライクス・バック(国有企業の逆襲) : 中国の経済改革は終わったのか」の中でそう分析している。

中国の成長率は金融危機前の 4 年間に年平均 12% だったが、2015 年以降は 7% 弱に落ち込んだ。 ただ、減速には避けようがない面もあった。 ラ―ディー氏によると、元安や高い貯蓄率、巨額の貿易黒字で加速した成長が、より持続可能な水準に戻ったことで、減速の半分は説明がつく。 この著作の核心は「回避可能だった」残り半分を解き明かしている点にあり、その大部分が国有企業の復活だ。

ラ―ディー氏によると、企業向け融資全体に占める国有企業の比率は 2011 年に 28% だったが 16 年には 80% 余りに上昇。 一方で民間企業向けの比率は半分強からわずか 11% に低下した。 要するに資源の配分ミスが起きたのだ。 国有企業の ROA (総資産利益率)は民間企業に劣っており、そのギャップは金融危機以降に広がった。 ラ―ディー氏の試算によると、国有企業の経営効率が民間企業並みであれば、中国の 2007 - 15 年の平均年間成長率は最大で 2% ポイント押し上げられていたはずだという。

さらに事態を悪化させたのは国有企業の負債の増加で、企業の借り入れの対国内総生産 (GDP) 比は 2009 年には 120% 前後だったが 16 年には 170% 近くに上昇した。 国有企業の復活は企業幹部の間で信頼感の低下も招き、民間投資が落ち込んだ。 ラ―ディー氏の著作には明るいメッセージも含まれている。 発展途上国では通常、先進国並みを目指す急成長がいずれ勢いを失うものだが、中国はまだその段階に近づいていない、というのだ。 日本や韓国、台湾、シンガポールはいずれも、1 人当たり GDP で見て今の中国と同じ発展段階を踏み、さらに成長を続けた。

ラ―ディー氏によると、仮に中国政府が改革を再開すればさらに 20 年間にわたり 8% 以上の成長を続けることが可能だという。 この著作で最も考えさせられる部分は、何が起きたかということだけでなく、その理由を解明しようと試みて今後の改革の見通しにつなげている点だ。 ラ―ディー氏に言わせれば、根本的な障害は、「国有企業は成長の足を引っ張っているかもしれないが、共産党の立場や支配を維持するのには不可欠だ」という最高指導部の考え方にある。

つまり、中国の政治システムには、大胆な改革が不可能ではないとしても、その実行を困難とするような仕組みが内包しているのではないかという問題提起だ。 これは、盛んに議論の対象となっている「民主主義と富」というテーマにもつながる。 一握りの小国を除けば独裁体制国家が富裕国に仲間入りした例はない。 中国はこの法則をひっくり返しそうに見えたが、やはりだめなのだろうか。

政治的な側面は、中国内で変化が到来する気配を感じとっている向きもいるだけに、大変興味深い。 金融危機以降、同国のビジネス界では「国進民退(国有企業が躍進し、民間企業は退潮する)」という言葉がささやき交わされていた。 ラ―ディー氏は 2014 年の著作「マーケッツ・オーバー・マオ」でこのテーマを取り上げ、与信獲得で国有企業が民間企業を締め出しているという主張は全く間違いだと論じていた。

しかしデータに変化が生じ、数字に基づくラ―ディー氏の主張も変わった。 それ自体は悪いことではないが、ここから読み取れるのは、中国政府のブラックボックスの内部をのぞき、将来を見通そうとする場合、いかに慎重にデータを分析しても限界があるということだ。 金融危機後に「国進民退」を口にしていた人々は、国有企業への資金の流れを注目していたのかもしれないし、風向きの変化を感じ取る政治的な第六感のような、もっと微妙なものがあったのかもしれない。 いずれにせよ中国の民間セクターは、統計に表れる何年も前に国有セクターがもはや退潮しておらず、逆襲に転じたことを直感していた。 (Christopher Beddor、Reuters = 2-15-19)


中国で大型の支払い遅延、今月 2 件発生 - 関係者

中国では今月、大型の支払い遅延が 2 件起きた。 債務不履行(デフォルト)に陥る企業が記録的水準に増える中、信用市場で山積しつつあるリスクが浮き彫りになっている。 再生可能エネルギーと不動産を対象に投資を手がける中国民生投資 (CMIG) は、債券保有者に約束していた 2 月 1 日の返済を怠った。 事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。 一方、昨年デフォルト(債務不履行)に陥った永泰能源は、債務再編計画の一環である支払いを先週履行しなかった、と別の関係者は話した。

両社とも借入額が大きいため、今回の動向は重要だ。 こうした企業が資金調達で問題を抱えている状況は、11 兆ドル(約 1,200 兆円)規模の債券市場に生じた亀裂を埋めようとする政府の取り組みが、すべての企業に行き渡っていないことを示唆する。 格付け会社のリポートによると、中国民生投資は永泰能源と並んで中国最大級の債務不履行となる恐れがある。 債務残高は 6 月 30 日現在で 2,320 億元(約 3 兆 8,000 億円)だった。 (Bloomberg = 2-11-19)


中国、経済危機が現実味 … 民間債務が異常膨張、貿易赤字に転落、株式市場暴落

2019 年の世界の注目のひとつは中国の大変調となろう。 ハイテク覇権争奪戦にまで発展した米中貿易戦争は、昨年秋以降すでに下降局面に入っていた中国経済をさらに下押しした。 他方、社会不安を映して習近平体制の言論統制は一層過激になり、監視社会化が加速する。

18 年の中国の国内総生産 (GDP) 実質成長率は 6.6% と 1990 年以来 28 年ぶりの低水準となった。 18 年 10 - 12 月期は 6.4%。 かつては力強かった経済指標の伸び率が次々に急低下しだした。 自動車販売台数、スマートフォンなどハイテク製品、小売り売上高、不動産投資額など、すべてだ。 消費額の大きい自動車販売では、日系とドイツ系メーカーは比較的堅調だが、米国系と中国系メーカーの落ち込みが大きい。 米中貿易戦争の爪痕が生々しい。

中国政府は景気対策として、高速道路、高速鉄道、地下鉄建設など公共投資を一気に進めたが、これを映して政府と自治体の財政は悪化の一途をたどる。  今や 40 都市に地下鉄が敷設され、約 4 億人が利用するなか、国債と地方債の発行残高はうなぎ昇りだ。 国債は 15 兆元(約 240 兆円)、地方債は 20 兆元(約 320 兆円)の大台に迫る。 企業と家計を合わせた民間の借金もふくらむ。 民間債務の対名目 GDP 比率は 200% に近づき、世界最大の債務国と化した。 日本が 130%、米国が 150% 前後とされており、中国経済の異常な借金依存が浮かび上がる。

国際収支の赤字も深刻だ。 米中貿易戦争の影響で中国の輸出は急落し、18 年 1 - 6 月期に経常収支は赤字に転落した。 01 年 12 月の世界貿易機関 (WTO) 加盟以降、初の貿易赤字だ。 サービス収支も旅行収支の大赤字で急落中だ。 中国で勃興してきた中産階層の人々は日本や東南アジアなどへの海外旅行を増やしているが、海外からの訪中者はここ数年、急減している。

先行きも険しい。 国連推計によれば、中国の強みだった豊富な労働人口(15 - 64 歳)が 50 年まで減少傾向をたどる。 この間、米国が増加傾向を保持するのとは対照的だ。 こう見てくると、19 年は中国経済が危機的な状況を迎える可能性もある。 そうなれば、経済が好調の間は抑えられていた共産党独裁への国民の不満が一気に爆発する可能性も否定できない。

中国の異常な監視社会の実態

国家主席の習近平・共産党総書記は昨年 12 月、改革開放 40 年を祝う中国共産党の記念式典で「共産党の全面的な指導堅持」を強調した。 「党、政、軍、民、学、東西南北すべてを党が指導する」と言い放ったのだ。 昨春の全国人民代表大会(全人代)で習近平は国家主席の任期を撤廃し "終身独裁" への道を開いた。 この中国の「特色ある社会主義」で、自由な言論や表現活動はことごとく統制され、抑圧される。

筆者は昨年 11月、訪中して杭州から北京に向かおうと新幹線に乗ろうとしたとき、利用者への当局の異常な監視ぶりを目の当たりにした。 新幹線は全席指定で、まず切符に自分の名が印字されていることに気づいた。 航空券並みである。 次いで、搭乗口に入る前に、公安警察が身分証明書やパスポートを別々に二度も点検した。 知り合いの中国人に聞くと、「北京行」は公安が二度点検、北京と反対の南方向は一度の点検だという。 政治中枢の北京がテロや抗議活動をどれほど恐れているかを示す監視ぶりだ。 こういう統制体制が今後も長く続くことはあり得ない、いつまでもつか、と自問した。

米中両首脳は昨年 12 月、2,000 億ドル(約 23 兆円)分の中国製品への追加関税引き上げを 90 日間猶予することで合意した。 懸案が解決できなければ 3 月 2 日にも引き上げが実施される。 解決が困難とみられているのは、米側が中国のハイテク分野の産業政策を問題視しているためだ。 知的財産権の侵害、技術移転の強要、巨額の補助金、サイバー攻撃などを不公正行為とみなしているからだ。

米国のマイク・ペンス副大統領は 18 年 10 月の講演で、「知的財産権の窃盗」という言葉まで使って中国を非難した。 米国が中国の通信機器最大手のファーウェイ副会長・孟晩舟氏をカナダ当局に要請して 12 月に逮捕したのも、ファーウェイが次世代高速通信システム「5G」で世界の先頭を走り、米国の安全保障に脅威を与えているためだ。

中国は、すでに施行した国家情報法で国民や企業に対し「国家の情報活動を支援し、協力すること」を義務付けている。 これに従ってファーウェイのようなハイテク企業が盗聴などのスパイ活動をする恐れが強まった、と米側は危惧しているのだ。 中国・上海株式市場は 12 月末、総合指数で 1 年前に比べて 25% 近い大幅安で 18 年の取引を終えた。 下降を続ける景気は谷底に向かう。 にもかかわらず、 中国がハイテク産業育成策を大きく変えるとは考えにくい。 米中対立が長期化し、中国経済を揺さぶり続ける可能性は高い。 (北沢栄、Business Journal = 2-7-19)