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IT エンジニア U & I ターンの理想と現実 : 島根編 * * * * * * * * * * 就業も支援! コミュニティーも支援! 呑み会も支援!
U & I ターンに興味のあるエンジニアの皆さんは「本当に U & I ターンできるの?」なんて思っていませんか? そんなときは、誰かが相談にのってくれれば心強いですよね。 安心してください。 われらが島根県には強い味方がいます。 なぜ島根県は IT エンジニアの移住に熱心なのか、どのような組織と情熱で U & I ターンをサポートしているのか、公務員たちはどのようにエンジニアのコミュニティーに関わっているのか - - 「IT エンジニア U & I ターンの理想と現実 : 島根編」、第 3 回は、移住者の不安や悩みの相談に乗ってくれる島根の公務員をお招きして、座談会を開きました。 (羽角均 = モンスター・ラボ、@IT = 10-7-16) ☆ 羽角(ハスミン) こんにちは。 今日はよろしくお願いいたします。 早速ですが、今どのようなことに問題意識を感じていますか? 杉原さん 圧倒的な人口減少です。 島根はついに人口が 70 万人を割ったんです。 統計で人口減少数を見たとき、「このままだと 200 年後には島根がなくなってしまうじゃないか」と思いました。 日本全体で人口が減っているので、増やすというよりも、いかに減少を緩やかにするかが課題です。 若い人が少しでも残ってくれるように。 そのために、ワクワクするような街を作っていきたいです。 福田さん 少し情緒的な言い方になるけれど、私は自分の息子に堂々と引き渡せる地域を作りたい。 大事な人が長く暮らしていける仕組みを作りたいです。 佐藤さん 松江市役所も島根県庁も「縮んでいく松江・島根」という後ろ向きな状態に接していく部署が多いのですが、今の部署でエンジニアの U & I ターンや IT 企業の誘致に関わって、「こんなに島根に人が来てくれている」って初めて知りました。 杉原さん 過疎化が進んでいる島根は、逆から見ると「課題の先進地」です。 人口減少を始めとした地域課題に対処する新しいサービスを島根から生み出し、世界に再販できるビジネスモデルを作りたいんです。 それが私たちが IT 産業の支援に力を入れている理由です。 福田さん 以前は内心で「そんなことできるわけないだろう」と思ってたけど(笑)、最近は 10 年もたたないうちにそういう時代が来るような気がしています。 新しいことを始められる人、新しいものを生み出せるエンジニアたちに島根に残ってもらう、あるいは都会から U & I ターンしてもらい、松江や島根の環境を変えていきたい。 単純に人数を増やすのではなく、変化を起こすためのキーになる「ひと」、「もの」に集中したいです。 杉原さん 変化にはチャレンジが必要です。 新規ビジネスの成功率って 1,000 回バット振って 3、4 回当たるくらいだから、前向きに 1,000 回挑戦できる環境を島根に作りたい。 そのためには、チャレンジした人を褒める文化、空気、雰囲気を作りたいです。 福田さん 松江では Ruby がこうした動きの核になり始めています。 あの飽きっぽい松江市役所が … あ、上司に怒られそう。 佐藤さん (笑) 福田さん 10 年も続けている施策なんですよ、「Ruby City MATSUE プロジェクト」って。 スーパー公務員はいかにして誕生したか ハスミン 「杉原・福田は島根のスーパー公務員コンビ」という話をよく聞きます。 お二人のなれ初めを教えてもらえますか? 佐藤さん なれ初め(笑)。 福田さん 始まりは 2006 年です。 松江市の人口が初めて減少に転じました。 当時の松江市役所は観光振興が中心で、産業振興にはあまり取り組んでいなかったのですが、当時松江市の産業振興を担当していた田中哲也という私の元上司が、Ruby に注目した地域おこしを考えついたんです。「Ruby City MATSUE プロジェクト」の始まりです。 杉原さん そして 2008 年、「島根で Ruby の国際イベントをやりたい、島根が Ruby の聖地だよねって発信できるイベントをやりたい」と思って、「RubyWorld Conference」の準備を始めた。 ハスミン すごいな。 杉原さんがカンファレンスの仕掛け人なんですか? 杉原さん いえ、裏方です(笑)。 次に関わったのは「Ruby アソシエーション(以下「RA」)」の強化です。 「RA の拠点を松江に置こう!」と。 2011 年のことです。 ちなみに私は県の職員で、福田さんは市の職員です。 県と市が協力して RA を支援しようとなったとき、松江市の課長だった田中さんから「松江市は何をしようか」と聞かれたので、「福田くんを差し出してください」と(笑)。 福田さん 私はそこから深く関わっていくことになりました。 杉原さんのせいですね(笑)。 杉原さん 県と市という別の立場で IT 産業振興に関わっていたのですが、たまたま同時に島根県の東京事務所に転勤になって、一緒に IT 企業の誘致を担当しました。 IT 企業が島根県の誘致対象の大きな柱になり、エンジニア不足が課題になり始めたころです。 福田さん 全国的なエンジニア不足ではあるものの、国が地方創生を掲げ、震災後に価値観が大きく変化していくタイミングだったこともあって、誘致や U & I ターンへの追い風を感じました。 企業誘致とエンジニアの U & I ターンの両輪を進めるために、二人でいろいろ取り組みました。 3 号機はイベント番長 ハスミン スーパー公務員の初号機が杉原さんで、福田さんは 2 号機ですね。 そしてニューフェースとして最近異動してきた 3 号機が松江市役所の佐藤さん。 杉原さん 佐藤くん、U & I ターンしたエンジニアたちを自宅に招いてお酒を飲む定例会をやってるよね? Facebook の写真で見たけど楽しそうだよね。 そもそもどうやって始まったの? 佐藤さん ある日、王祿(おうろく、島根県の有名な日本酒)を自宅で飲みながら写真を Facebook にアップしていたら、羽角さんが「飲みたい」ってコメントをくれて。 羽角さんとそんなに親しくなかったけれど「うちに来ますか?」って返信したら、本当に来て。 ふつう来ないですよね(笑)。 そうしたら「ミラクル・リナックス」の押田さん (*) が「私、呼ばれてませんけど」と言い出して。 「じゃあ、次はちゃんと集まってやりましょう」ってなったんです。 * ミラクル・リナックスも松江に進出したIT企業。 押田さんは松江オフィス勤務のため I ターンしたエンジニア。 杉原さん そして「お勤め開発」ね。 なぜ、やることになったの? ハスミン 佐藤さんの実家のお寺でお花見したときに思いついたんです。 木魚をたたいて精神統一をしてプログラムを書いたらいい仕事ができるんじゃないかって。 佐藤さん それで「明日、モンスター・ラボさんが実家の寺で開発するんで、サポートのため仕事を休みます」って上司に話したら、「それ業務でいいよ」って(笑)。 ハスミン 市役所ゆるい(笑)。 福田さん ゆるいっていうか、IT 企業のオフィスや U & I ターンするエンジニアが増えてきた。 もっともっと進めようとなったときに「U & I ターンしたエンジニアの活動をサポートしたり PR したりしていくのは立派な仕事だよね」って。 お勤め開発も地元の新聞で記事になって PR できたし、少しずつ結果が出始めているから、市役所の中もそういう(活動をサポートする)雰囲気になってきた。 「市立中学校で Ruby の授業実施」の裏話 佐藤さん 松江市立中学校の授業で Ruby やるようになったのも大きいですね。 福田さんが風穴を開けたっていうか。 ハスミン え、福田さんが? 福田さん 風穴を開けたなんてカッコいいもんじゃないです。 あるとき急に、市長が「市立中学校で Ruby を教えます」って発表して、メディアにも「松江市が市立中学校で Ruby プログラミング授業を開始へ」なんて出ちゃいまして(笑)。 困ってしまって、ネットワーク応用通信研究所の高尾宏治さんや本多展幸さんに「力を貸してください」とお願いして巻き込んだ。 そうしたら、彼らの教育に対するモチベーションがすごく高い。 安易な方法で楽しようとしてたら、楽したくない人たちのボタンを押しちゃって(笑)。 今では NPO の「Ruby プログラミング少年団」ができて、小学生向けの取り組みにまで広がってます。 杉原さん 何に 1 番苦労しました? 福田さん 先生たちに「私は先生たちの仕事を増やす敵じゃないですよ! 一緒にできることを考えながらやりましょう!」と説明するのに苦労しました。 平成 28 年度から市内の全中学校で実施できるようになったのは、後任が粘り強く先生たちとコミュニケーションを取り続けたおかげです。 佐藤さん 新しいことを始めようとすると最初は警戒されますよね。 杉原さんと福田さんは新しいことにチャレンジして形にできるのがすごい。 福田さん 最近やっと、プロジェクトの方向性に確信を持てるようになってきました。 活動を続けてきたことで私たち公務員の役割も増えてきたので、Ruby を軸に、新規事業の支援をしたり、企業誘致を担当したり、U & I ターンを支援したり、と部署が変わっても IT 業界に関わり続けられるようになってきました。 杉原さん 公務員のプレーヤーが増えてきたね。 福田さん そう。 新しいプレーヤーにノウハウを引き継いでプロジェクトを多様化させることができるようになってきました。 「U ターン」と「I ターン」は、かなり違う ハスミン U ターンと I ターンは同一の文脈で語られがちですけど、実は全く異なるものではないでしょうか。 杉原さん そうですね。 I ターンには大きく 2 つのパターンがあります。 1 つ目は所属している企業が島根にブランチオフィスを出して本社から異動してくるパターン。 今のところ島根ではこれが多い。 もう 1 つは、島根に縁はないけれど島根や Ruby を意識していた人たちが単身で乗り込んでくるパターン。 佐藤さん モンスター・ラボの御供(みとも)さんのパターンですね。 まつもとゆきひろさんのツイートを見て、東京で開催した U & I Iターン転職イベントに参加して、本当に I ターンしてくれた。 福田さん 当時、私と杉原さんは、専任のコーディネーターが個別に話を聞いて、転職候補の企業をレコメンドしたり、企業や居住環境の視察に島根へ行くための旅費を半額サポートしたり、といった IT エンジニア向けマッチングサポートを東京事務所で担当していました。 御供さんは、どうしてモンスター・ラボに I ターン転職を決めたんですか? ハスミン そのイベントで、ぼくが彼と面談したんです。 自分で言うのも何だけれど、「ハスミが仕事できそうだったのと、その後 Skype で面接した島根開発拠点代表の山口が優しくていい人だったから決めた」って言ってました(笑)。 杉原さん I ターンを決めるには「キーマン」が必要なんだね。 ハスミン U ターンはどうですか? 福田さん U ターンの人たちは、何というか「重たい」ことが多いんです。 故郷に帰るとなると本当に骨を埋める決断になるから、なかなか決まらない人が多い。 考え過ぎてしまって、何社就職先を紹介しても決まらない人もいます。 佐藤さん I ターンの方がそういう意味では「軽やか」ですね。 必ずしも終の棲家ではないから。 福田さん 全員がそういうわけではないけれど、U ターンはシリアスな決断が多いから、ワクワク感が少ないみたい。 エンジニアって本当は、場所に縛られない働き方ができるもっと軽やかな仕事なので「何かもったいない」と思います。 杉原さん U ターンと I ターンでは、決断するときの優先順位が違うよね。 羽角さんたち I ターンは、「やりたいこと」、「住みたい環境」が先にある。 3 号機はぐいぐい行くよ! ハスミン エンジニアコミュニティーが盛んなのはこの街の特徴の 1 つです。 エンジニアコミュニティーって基本的には民間の活動ですが、そこに公務員としてどう関わっているんですか? 佐藤さん 代表的なものだと、月に 1 回、土曜日に開催される「Matsue.rb」というコミュニティーがあり、私も参加しています。 参加しても仕事扱いにはならないけれど、仕事について相談したい人や意見を聞きたい人に会えるので、結果的に仕事がはかどります。 福田さん 地方の IT 企業も、企業同士のグループや仕事で付き合いのある関係を基本とした枠内でエンジニア同士の交流が行われることが多くて、それが壁になっちゃう側面もあるんです。 でもコミュニティーがあれば、その枠を超えて交流が広げられる。 IT ならではのオープンソースの思想を地域社会に取り込んだんだよね。 佐藤さん U & I ターンを増やすためにはコミュニティーって重要ですよね。 企業の枠を超えて交流が横に広がるから、地域に馴染んでいきやすい。 福田さん 自分たちでいうのも何だけれど、市役所に IT コミュニティーのコンシェルジュがいるってすごいことかも。 U & I ターンしたエンジニアから「こういう話するなら誰だろ?」って聞かれると佐藤くんが答えられる。 佐藤さん この半年でそれを身に付けました。 ぐいぐい行きましたから(笑)。 人と人が仲良くしているのを見るだけでうれしいんですよ。 杉原さん 基本的にみんなおせっかいが好き。 公務員の本性がコミュニティーに合ってるんですね。 福田さん ドラクエでいう「気性の荒い僧侶」なんですよ。 「がんがん行こうぜっ!」ていうわりに、回復魔法くらいしかスキルはないんですが(笑)。 U & I ターンの現実 ハスミン U ターンも I ターンも、みんながみんな満足して成功するわけじゃないって話を聞くことがありますが、島根や松江はどうですか? せっかくなんで、赤裸々なお話を伺いたいです。 福田さん 辞めた人は 2 人くらいだったかな。 「転職して入った松江の企業が、思っていたよりもレベルが高かった」という理由で辞めていった人がいましたね。 杉原さん 「全員が高いレベルの仕事や環境を望んでる」と私たちは思っていたんだけれど、逆もあるんだなという気付きになりました。 福田さん この 3 年間で島根県全体で 50 人くらいのエンジニアが U & I ターンして来て、3 人くらいがうまくいかなかった。 全員うまくいくのがベストなんだろうけれど、このくらいで済んでいるのは、U & I ターンする前に丁寧に企業とマッチングするサポート体制があるし、移住した後のフォローも私たちができるだけきめ細かくするようにしているからじゃないかなと思います。 杉原さん U & I ターンの成功や失敗は、長い目で見た方がいいかもと思います。 親の介護で U ターンした人など、これからすごく重たい問題として表面化するかもしれないし。 福田さん 移住後のフォローはこれからも手厚くやっていきたいです。 移住後に状況が変わったり、転職した会社が合わなかったりしたら、他の会社を紹介することもできますし。 杉原さん 早めに「実は …」といった相談をしてもらうには、普段からの関係作りが大切だと思います。 佐藤さん そこでもやっぱりコミュニティーですね。 どんどん相談してほしいです。 ほっとけないですから。 杉原さん 直接関わって U & I ターンしてくれた人たちには個人的な思い入れもあるし。 困っている人を助けるのが喜びなんですよ。 福田さん やっぱり僧侶なんですね。 佐藤さん 私、実家はお寺ですし。 ハスミン お後がよろしいようで。 * * * * * * * * * * 通勤は自転車、ランチは出雲そば - - 松江っ子エンジニアの I ターンライフ
こんにちは! 千葉県生まれの I ターンエンジニア、「モンスター・ラボ」島根開発拠点のハスミンです。 「IT エンジニア U & I ターンの理想と現実 : 島根編」第 1 回は、私たちが実践している屋外開発事例をご覧いただきました。 今回は、仕事以外の I ターンライフ@島根県松江市を紹介します。 松江市の住宅事情 松江市は、東京 23 区の 92% ほどの面積に、文京区と同じくらいの人口 20 万人が暮らしています。 人口密度が低いので、家賃はもちろん安いです。 松江の市街地(意外と都会です)にある賃貸住宅の家賃は、東京の住宅地(中野区、杉並区当たり)の 60% くらいではないでしょうか。 注意しなければならないのは「ガス」です。 都市ガスが供給されている範囲があまり広くなく、範囲内であっても古い建物には導入されていないことがあります。 その場合は「プロパンガス」を使うことになります。 東京で暮らす人はご存じないかもしれませんが、プロパンガスは非常にコストが高いのです。 ここに注意して部屋を探してください。 オール電化物件があればそれも良いと思います。 松江市の通勤事情 第 1 回で書いた通り、松江市はコンパクトな街ですから、職住近接であり、通勤は非常に楽です。 モンスター・ラボ島根開発拠点 4 人の通勤時間は、自転車で 5 分が 2 人、自転車で 10 分が 1 人、バスで 15 分が 1 人です。 全員が徒歩でも帰宅できます。 中野区や杉並区から中央区のオフィスまで通う場合、満員電車で 1 時間近くかかりますよね。 私もそうでした。 このように恵まれた通勤事情を実現できるのは、私たちが全員 I ターンであり、自由に居住地を選択できたからです。 同様に I ターンする人なら誰でも可能だと思います(U ターンであれば実家に暮らすなどの制限が加わるかもしれませんが)。 島根は冬になると雨が多く、自転車には乗りづらくなります。 そこで、公共交通機関で通勤することを少し考えてみましょう。 松江市では普通、電車は通勤の選択肢に入りません。 なぜなら松江駅からひと駅離れたら、そこは別の街です。 電車が街と街をつなぐ交通であるのに対し、路線バスは 1 つの街の中を走るので、有力な通勤手段です。 本数が少ないだろうとお考えになるかもしれませんが、複数路線が乗り入れるバス停の近くに住めば、朝夕の時間帯は十分便利です。 しかし最終バスの時間が早いので、なるべく徒歩可能圏内に住むことを考えてください。 オフィスの立地など複合的な要因で便利/不便利が決まるので、移住後しばらくしてから便利なところを見つけて引っ越すのを前提に最初の住居を選ぶのが賢明でしょう。 自動車と運動不足 上述の通り公共交通機関は「すごく便利」というわけでもありませんから、「自動車」を持っていると行動範囲がぐっと広がります。 松江中心部から自動車で 30 分くらい走れば、温泉やきれいな海や国宝に指定されている神社などバラエティに富んだ場所に行けます。 自動車のある生活に慣れてしまうことの引き換えに払う代償、それが「運動不足」です。 地方での生活は運動不足になりがちであると聞いてはいましたが、真実でした。 私は東京に住んでいたころ、週 1 回のヨガ、週 2 回の水泳、晴れた日は自転車で往復 16 キロ通勤という健康生活を営んでおりました(とはいえ都会暮らしのストレスを相殺するぎりぎりの生活ではありました)。 島根では食べ物がおいしいことと、水泳プールの少なさ、あまりにも恵まれた通勤事情、週末には日帰り温泉や釣りやコンサートや各種イベントに自動車で出掛けるのが楽し過ぎるために、運動不足が深刻です。 お買い物と銀行 お買い物好きな人が松江市に移住したら、少し困るかもしれません。 お洋服好きなおシャレさんは特に。 私は服に無頓着なのであまり困りませんが、それよりもヨドバシカメラのような家電量販店がない方がつらいです。 秋葉原や大阪日本橋のような PC・電子パーツショップもありませんし、自作 PC マニアやラジオ工作少年が楽しめる街もありません。 Amazon などの通販はもちろん便利ですが、手にとって商品を選びたいというニーズを満たせません。 この辺は割り切りが必要だと思います。 もしもあなたが、お買い物大好きな 20 歳代エンジニアだとしても、30 歳をすぎたら意外とそうではなくなるかもしれません。 ご自身のここ数年間の消費行動を一度冷静に振り返り、地方都市でも問題なく暮らせそうかを考えてみてください。 ちなみに、アニメイトなら松江にもあります。 もう 1 つ困るのが「銀行」です。 松江市にあるメガバンクは、みずほ銀行だけです。 三菱東京 UFJ 銀行などは支店がないだけでなく、ATM もありませんので記帳ができません(コンビニ ATM からの出金は可能です)。 地元の銀行口座からしか引き落としできない公共料金もありますので、口座開設の検討をオススメします。 出雲そばについて 少々ネガティブな情報が続いたので、ここからはパラダイスな島根生活をお届けします。 唐突ですが、読者の皆さんは「出雲そば」をご存じでしょうか。 「西日本はうどん」と思い込んでいる人も多いようですが、島根県はそば文化圏です。 出雲そばは、東京や信州のそばよりも(どちらかというと)黒っぽい、そば殻ごとひいた田舎そばです。 出雲そばの典型的なメニューに「割子(わりご)そば」というものがあります。 円形朱塗りの器が三段 1 人前で提供される冷たいそばです。 私は東京に住んでいたころからそばが大好物で、更科そばよりも田舎そばが好きでした。 移住してみたら松江にはおいしいそば屋がたくさんあり、今では平日のほとんどのランチでそばを食べます。 松江のそば屋がどれだけハイレベルかは、ぜひググッて調べてください(私が書いた別の記事を発見するかもしれません)。 宍道湖と松江城 島根・松江の観光名所を幾つか紹介しましょう。 夕日の美しさで有名な「宍道湖(しんじこ)」は松江市と出雲市に挟まれた、JR 山手線ぐらいの大きさの汽水湖です。 しじみの漁獲量が日本一、他にもシラウオやスズキなどが獲れる豊かな漁場です。 水が近くにある生活の素晴らしさは、体験した人なら誰でも共感してくれるはずです。 東京でも、一度多摩川の近くに住んだ人はなかなかよそへ引っ越さないでしょう? 松江市の宍道湖畔はとてもきれいに整備されており、散歩にジョギングにドライブに最高です。 湖を見ながら食事できる喫茶店などもあり、夏はリゾート地のようです。 泳ぐ人はいませんが、ヨットやカヌーなどのマリンスポーツも楽しめます。 次は「松江城」です。 2015 年に天守としては 5 番目の国宝に指定されました。 お城だけではなく、お堀や武家屋敷の保存活用も全国に自慢できるものです。 船でお堀をめぐる「堀川めぐり」は松江観光のハイライトでしょう。 私は既に 3 回乗りました。 この文化にいつでも触れられるのはとても幸運なことです。 勉強会 「島根にはエンジニアの勉強会がありますか?」 U & I ターンに興味を持っているエンジニアから、しばしばこの質問を受けます。 恐らく最頻出の質問です。 いつも不思議でならないのですが、勉強会がないなら U & I ターンしないのでしょうか? しないつもりなのかもしれませんね。 でも、勉強会なら東京がダントツに多いのは自明ですよね? エンジニアとして勉強会をそんなに重視するなら、地方都市に移住しようとは考えない方がよいでしょう。 でも、考えてみましょう。 東京で開催される勉強会も含めて「それに参加しないと絶対に得られない知識やスキル」というのがどの程度あるでしょうか。 たまにはあるかもしれませんが、大体はインターネットで得られる情報なのではないかと思います。 IT エンジニアはどこでも働けます。 どこでも勉強できます。 勉強会があるかどうかを気にするよりも、その街はあなたが住むのに適した場所かどうかを見極めるべきです。 エンジニアとつるんでないで街へ出よう 詳しくは次回紹介しますが、松江にはエンジニアの立派なコミュニティーがあります。 そりゃあります。 勉強会だってあります。 ぜひフル活用してください。 しかし、U & I ターンするならば、島根の文化や山陰の自然をめいっぱい楽しんだ方が幸せになれます。 ちょっと信じられないでしょうけれど、夏の海水浴場は「沖縄か!」というくらいきれいです。 初心者でも魚が釣れます。 冬は大山(だいせん)でスキーやスノボができます。 日帰り温泉や歴史のある温泉街もあります。 日本史好きなら「たたら製鉄」は必見です。 I ターンで地方都市に移住するならば、その街を第二の故郷にしてください。 U ターンならもともと故郷ですが、大人になってから眺める故郷は新鮮な景色かもしれません。 「IT エンジニア U & I ターンの理想と現実 : 島根編」、次回は「結局のところ U & I ターンなんて本当にできるの?」、「どうやったらできるの?」、「誰か手伝ってくれるの?」という疑問にお答えします。 お楽しみに! (羽角均 = モンスター・ラボ、@IT = 9-16-16) * * * * * * * * * * どこでも働けるということ - - I ターンエンジニアが実践する屋外開発と開発合宿
はじめまして! 「モンスター・ラボ」島根開発拠点のハスミです。 私は 2014 年 7 月に島根県松江市へ I ターンしたエンジニアです。 今回から 3 回に分けて、極めて個人的な I ターンの理想と現実の体験をお話しします。 個人的な体験こそ、U & I ターンに興味がある多くのエンジニアにとって参考になるだろうと考えています。 屋外開発実験の 1 つ「城山花見開発」 ボクたちは自由だ! 自己紹介 : あらためまして、羽角均(ハスミヒトシ)と申します。 社内では若手エンジニアにも「ハスミン」と呼ばれています。 大学で建築を学び、建設専門新聞、いわゆる業界紙を作る会社に就職しました。 ここで新聞記事データベースと Web サイトメンテナンスに業務時間の半分を費やし、残り半分で建築関連書籍の編集業務に携わっていました。 たまに新聞記事を書きました。 社内のデータベースメンテナンスアプリケーションがあまりにも使いづらく、「こんなものオレが作り直してやる」と大風呂敷を広げたのが、エンジニアとしての小さな 1 歩でした。 当時、ボーランドの「Delphi5」という Windows アプリ統合開発環境が 6 万円ぐらいだったと記憶しています。 「これを買ってください」という稟議書を書き、ブログラミング言語「Object Pascal」というおもちゃを手に入れました。 通常業務の傍ら、1 カ月くらいで社内のデータベースを作り直し、CRUD やバッチ処理を統合した業務アプリケーションを作りました。 他にも記事データベースを Web で閲覧できる有料システムなども作りました。 2000 年代の最初の数年間に PHP や MySQL (バージョンはともに 3.x か 4.x でした)のオープンソースミドルウェアを業務・商用システムに導入できたのは、その後の私の人生にとって幸運でした(この活動が会社から評価されていたかどうかは、よく分かりません)。 10 年ほど上記の会社に勤め、「よっしゃ、エンジニアとして生きていこう」と思い立って、開発企業に転職しました。 それまではエンジニアのまねごとをしていただけで、本格的なキャリアはここからスタートしたのです。 そして松江へ 島根県の県庁所在地であり、全国に 5 つしかない国宝天守のうちの 1 つを頂く城下町、松江市。 ニッポンの白地図を前にして、松江市の場所を正確に指せる人は極めて少ないでしょう。 さあすぐに地図を検索してください。 「検索してください」と言われる前に既に検索していた人には、エンジニアの素養があります。 さらに精進してください。 2014 年当時東京に住んでいた私は、フリーランスのサーバサイドエンジニアとしてモンスター・ラボを手伝うようになっていました。 そこで「どうやらモンラボが島根県にオフィスを作るらしい」というウワサを聞き、ビビッときました。 松江についての私の知識は以下のような程度でした。 Ruby の生まれ故郷 (?) である。 城下町である。 まあまあ近くに出雲大社がある。 海産物がおいしそう。 酒もありそう。 千葉県生まれの私にとって、島根県はほとんど海外です。 普通に人生を過ごしていたらあまりにも縁がありません。 そんなところに暮らして Rails 中心のエンジニアリング生活を送れるとは何て素晴らしいんだと考え、後に島根開発拠点の代表になる同僚の山口に「おいらも松江に行きたいです!」といったところ、「おお、いいんじゃね」と返事をもらい、2014 年 7 月に開設されたばかりの島根開発拠点にやってきました。 出勤リモートワーク 2016 年 7 月現在、モンスター・ラボ島根開発拠点はこんな組織です。 島根で私たちがどのように仕事をしているかを紹介しましょう。 多くの場合、島根のメンバーの他に、東京の本社にもエンジニアやディレクターなどの開発メンバーがいます。 さらにベトナムなど海外のグループ/パートナー企業に開発メンバーがいることもあります。 コミュニケーションツールは「Slack」です。 クライアントの多くは東京などにいるので、彼らが Slack チームに参加している案件もあります。 文字やファイルのやりとりだけでは意図が伝わらないことが多いので、「appear.in」などのビデオ通話サービスを 1 日に何度も起動します。 これにもクライアントを巻き込みます。 ソース管理は「GitHub」、ファイル共有は「Google ドライブ」、サーバは「AWS (Amazon Web Services)」などのクラウドです。 どこにいても社内にいるのと同様の環境で安全かつ効率的に仕事ができます。 プリンタはほとんど不要です。 これは素晴らしいことです。 インターネットと電源さえあれば仕事になります。 この事実は東京の SIer に勤めるエンジニアたちにも知識としては知られているでしょう。 しかし、知識として知ることと実際に体験することの間には大きな溝があります。 あるんじゃないかと思っています。 私たちの仕事のスタイルは、今のところリモートワークに近いです。 在宅ではなく事務所に出勤しますが、在宅でもほとんど変わらずにできることを、たまたま事務所でやっているだけです。 しかし在宅で、全くの独りきりで仕事をし続けるのはしんどいと思いますので、松江のオフィスに数名のエンジニアが集まって働くのはちょうどいい環境です。 ボクたちの屋外開発 島根にきたのが 2014 年 7 月。 2 カ月ほど上述のような「出勤リモートワーク」をしたところ、「事務所を飛び出すべきだ!」と心の声が叫びました。 冒頭の「城山花見開発」は、私たちが実践した屋外開発の一例です。 この年の初秋から試みた他の屋外開発風景をご覧ください。 これらはちょっとしたトレーニングです。 「IT エンジニアならどこでも働けるよね」と言いつつ、実際に「どこでも働いている」人はどのぐらいいらっしゃるでしょうか? 私たちはやってみました。 実行に移してみると、ちゃんとしたデスクがないから肩がこる、日が陰ると寒いのに午後はやたらと暑い、日光がまぶしくて画面が見えづらい、トイレが微妙に遠いなどの不便はありました。 でも苦痛というほどではありません。 何とかなります。 午後に給電が必要になるという課題は悩ましいところではありますが、私たちはオフィスを捨てても闘えるチームになりました。 現実問題として、東京の IT エンジニアが気軽に屋外開発をするのは難しいでしょう。 なぜなら、大都市には「みんなが大都市に(そしてオフィスに)集中していることが前提のワークフロー」が出来上がっているからです。 モンスター・ラボ島根開発拠点は、開設されたばかりだったこともあって、そんな既成概念がありません。 松江市はいわゆるコンパクトシティであり、ブブーンとクルマを飛ばせば簡単に屋外開発現場へアクセスできます。 そこは神秘的なくらい人が少なく、カラスもいませんし、たまに通りかかるおじさんが「何やってるの?」と質問してくるくらいです。 「プログラミングです」、「へぇ、何だそれ」、「こう見えても仕事です」、「そっかぁ、まあがんばれや」という程度なので、開発に集中できます。 カラスがいない、というのを冗談だと思った方がいるかもしれません。 決してそうではありません。 松江にはカラスを追い立てるトンビが住んでおり、既述のように人口が少なく街がきれいなため、本当にカラスが少ないのです。 カラスが近寄ってこない屋外活動は気持ちのいいものです。 開発合宿と行政サポート そんな私たちの野外活動を知った松江市の職員さんから「開発合宿」のお誘いを頂きました。 開発合宿ならみなさんもよくご存じしょう。 日本で最初にこれをやったのは、かの伊藤直也さんだそうです。 ご本人がおっしゃっていたので間違いありません。 松江市は(そして松江市以外の島根県内自治体の幾つかも)、IT 企業の開発合宿宿泊費などをサポートしてくれます。 補助の内容は年度ごとに変化しますし、補助を受けられる条件も異なるため、詳しくは各自治体にお問い合わせください。 ともかく私たちは、美保関(みほのせき)というところで開発合宿を開きました。 美保関がどこにあるかはググってください。 美保関の日本海側にある民宿を借りたのですが、もう何ていうかジオパークです。 5 月の渡り鳥の声が響く神がかった環境で 1 日を過ごしました。 松江市がデスクとチェアと高速インターネット回線と無線 LAN を用意してくれ、電源もあるので、快適さはいつものオフィスと変わりません。 それどころか、島根開発拠点代表の山口によると「開発効率は 3 倍だった」とのことです。 暮らしをデザインする いかがでしょうか。 私たちがどのように仕事のスタイルをデザインしてきたか、その一端をご紹介しました。 一端です。 ぜんぶ見たい方は島根に遊びに来てください。 次回は、仕事以外の残り半分、すなわち住人としての I ターンライフについてお届けします。 東京から地方都市へ移住して、環境の変化を暮らしのデザインにどうつなげられたのか、何ができなかったのか、をお伝えします。 お楽しみに。 (羽角均 = モンスター・ラボ、@IT = 8-19-16) |