中国の「ゾンビ企業」改革、担い手も国有企業か

[香港] 中国は今年、肥大化した同国国有企業の改革を加速させようとしている。 銀行や投資家は、10 月の中国共産党大会後に資産売却などが行われる可能性に期待を寄せている。 だが、中国政府が同改革に民間資本は不可欠だと奨励しているにもかかわらず、その役割は限られたものになる可能性が高いと、中国政府の計画に詳しい複数の関係筋は明かす。

彼らによれば、中国政府は、苦境にあえぐ国有企業のうち大規模なものの救済には、中国人寿保険や中国中信のような資金力のある国有企業に頼る公算が大きい。 中国人寿が先月、中国聯合網絡通信(中国聯通、チャイナ・ユニコム)による 120 億ドル(約 1.3 兆円)の増資の一部を引き受けたことを同関係筋は例として挙げた。 国有企業改革における民間資本の役割が限定的になれば、真に抜本的な改革といえるのか疑問が残ることになるだろう。 野心的な経済成長目標を達成し、国有企業の債務を軽減するため、中国は同改革のスピードを早めたい考えだ。

「現行のモデルでは、勝者の好調な企業が、不調な企業を一部所有することになる。」 こう指摘するのは、ナティクシスのアジア・太平洋地域担当のチーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・ヘレロ氏だ。 「言い換えれば、これは大方、国有企業のあいだで利益と損失の入れ替えを行っているようなものだ。」 関係筋によると、中国人寿は、水力発電デベロッパー大手の傘下にある中国三峡新能源有限公司と交渉中だという。

民間資本を国有企業に注入するいわゆる「混合所有制」の候補に挙がっている企業にとっても、民間資本の役割は極めて重要だと、同関係筋は指摘する。 そのような企業のなかには、中国南方電網や中国船舶工業集団、中国核建などが含まれている。 中国人寿と中国中信はコメント要請に回答しなかった。 国有企業は、金融から保険、エネルギー、通信に至るまで、中国の主要産業を支配している。 資金調達が容易なこともあり、国内外における投資において、国有企業は民間のライバル企業を凌駕し続けている。

しかし国有企業の収益力は民間企業に及ばず、中国の銀行が抱える不良債権で最大の割合を占めているのは国有企業である。 国有通信会社のチャイナ・ユニコムの資金調達は、2015 年の政府計画にアウトラインが示されていた混合所有制への期待を高めた。 ユニコムの増資には、アリババ・グループ・ホールディングや騰訊控股(テンセント・ホールディングス)など、同国の IT 大手を含む 14 の投資家が参加し、市場に歓迎された。

だが、中国政府が資本と支配をてんびんにかけるなか、中国人寿は結局、ユニコムの株式 10.6& を取得。 これは売りに出された株式全体の 3 分の 1 近くに相当する。 中国人寿を含む新しい投資家には、15 ある議決権のうち 3 つが与えられた。

「国有企業改革を成功させるには、こうした企業の所有権が、株式保有とガバナンスの両面において真に多様化されることが必要だ」と語るのは、北京に拠点を置き、中国の国家発展改革委員会 (NDRC) や民間企業と仕事をする弁護士だ。 「だが、それを達成するのは困難だろう。 国有企業のほとんどについて、民間企業には投資するインセンティブがないからだ。」と、この弁護士は慎重さを要する問題であるため、匿名でこう語った。 「したがって、基本的にはある国有企業のキャッシュを使って、別の国有企業をよみがえらせようとすることになるだろう。」 NDRC と国務院国有資産監督管理委員会は、ロイターのコメント要請に応じなかった。

資本調達への招待

とはいえ、民間資本は依然として大きな役割を担うことが期待されている。 今年一段と減少が予想される外国直接投資を呼び込むため、中国は先月、海外投資家への規制をさらに緩和すると発表した。 そのなかには、銀行、保険、証券といった、これまで外国勢の資本参加規制があり、中国市場への進出を目指す海外企業が不満を抱いていた分野も含まれている。

来月の共産党大会を念頭に置く銀行関係者は、その後の国有企業改革の波が単なるタイアップ以上のものになることに期待を寄せる。 (政府には)不要で割安に評価されているが、民間投資家には、所有権が得られるなら価値が出る小口資産の売却も含まれるかもしれないとみる向きもある。 共産党大会は「とても重要な転換点となる」と、モルガン・スタンレーの中国部門責任者ウェイ・スン・クリスチャンソン氏は今月ある会議で、国有企業の売却あるいは事業の分離独立の可能性についてこう述べた。

「そうした一切が投資家に好機を生み出す」と同氏は語った。 差し当たって、環境は中国人寿のような企業に有利となっている。 関係筋によると、次に中国人寿が出資する可能性が高い中国三峡新能源は、約 15 億ドルの増資を検討しているという。 他に中国三峡新能源の資本調達に名乗りを上げるのは、やはり国有企業の可能性があり、民間投資家からは熱い関心は見られないと、関係筋の 1 人は言う。

「混合所有改革の次のラウンドに積極的に参加する」と、中国人寿の 楊明生会長は先月、決算発表会見でこう述べた。 だが、一部の混合所有候補企業が民間資本を呼び寄せる魅力に欠ける一方で、中国が推進する改革の一端を担おうとする民間投資家のなかには、収益以上のものを考慮する者も出てくるだろう。 「中国では、金もうけだけを考えていてはやっていけない」と、ユニコムの増資に参加したある個人投資家は話す。 「国の政策への支持を示すため、そうした改革に参加する必要がある。」 (Julie Zhu、Sumeet Chatterjee。Reuters = 9-25-17)


中国の対外投資規制、裏目に出る可能性

[香港] 中国政府は、国内企業による海外のホテルやスポーツクラブなどの買収のうち、「非合理的」とみなした案件に対して強硬的な態度を取ることを正式に表明した。 思慮の浅い取引によって不良債権が積み上がることへの懸念が、この引き金になったとの見方が出ている。 その可能性はあるだろう。 だが今回の規制強化は、根本的な問題を見失っている。 それは、中国での利益率低迷を、より活気のある海外企業の買収によって補うよう企業に迫る国内の「歪み」の問題だ。

18 日に発表された投資抑制策は、熱心な海外買収で知られる安邦保険集団や大連万達集団(ワンダ・グループ)、復星国際、海航集団(HNA グループ)などの企業に対して圧力を強めてきた、中国政府のこの数カ月の動きを、政策として明確にしたものだ。 今回の規制強化により、従前からの保守的なポジションに戻ることになる。 中国企業による海外買収は、大きなニュースとなったり突飛な買収で注目されてはいるものの、国連貿易開発会議 (UNCTAD) によると、2016 年の対外投資はストックベースで 1 兆 3,000 億ドル(142 兆円)に過ぎない。

対外投資額は同年、過去最高の 1,830 億ドルに達したが、国内総生産 (GDP) の 2% 以下にとどまっている。 国内金融システムは 7 月だけでほぼ同額の信用供与を生み出している。 負債への懸念が取りざたされることが多いが、中国企業による合併と買収 (M & A) は、システミック・リスクをもたらしていない。 中国の対外投資が過少にとどまる背景には、2 つの歴史的理由がある。 まず、資本規制により、企業は契約締結前に多数のハードルを乗り越える必要があった。 次に、急速な経済成長により、国内投資の方が利益率が高かった。

だが、直接投資は外交の強力な道具になるため、中国政府がこの状況に満足せず、規制当局は認可要件を大幅に緩和。対外投資が活発化した。 しかし、これにはリベラルではない要因もあった。 国内で資金調達が容易であることの副作用の 1 つは、過剰な投資余力だ。 国営関連企業が安く資金を調達して手当たり次第に新市場に参入し、利益率の低下を招いた。 中核事業で利益を上げられなくなった多くの中国企業幹部は、他の分野で利益を稼ごうとするようになった。 投機に走った企業経営者もおり、政府高官は「本物を捨てて虚構に走った」と評した。

他の経営者は、賢明なことに、国内の価格競争を逃れて海外で事業拡大を図ろうとした。 例えば、自転車シェアリングのスタートアップ企業、共享単車 (ofo) や摩拝単車 (Mobike) は、中国の市街地が模倣ビジネスで一杯になるのを見て、より高い価格設定ができる欧州や米国の都市で急速に足場を築いている。 これは、安邦保険による米ニューヨークの高級ホテル「ウォルドーフ・アストリア」の買収にもあてはまると見て間違いないだろう。 中国の宿泊業界は、生き馬の目を抜くような競争にさらされている。

海外投資に、成功の保証はない。 だが、やめさせるのは不健康だ。 企業から国外で資金を生かす成長機会を奪えば、中国政府は競争力を損なうことになる。 それは最終的に、債務問題を改善するのではなく、悪化させる結果になるだろう。 (Pete Sweeney、Reuters = 8-22-17)

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中国政府、企業の海外投資を規制 資金流出阻止へ

香港 : 中国政府は 18 日、同国企業による海外投資を規制する方針を明らかにした。 海外への資金流出に歯止めをかけることを狙っている。 規制の対象は、不動産、ホテル、娯楽産業やスポーツクラブなど。 これら分野への中国企業による投資は近年加速し、昨年は最高水準を記録していた。

ただ、中国商務省によると今年に入って減速し、上半期では 46% 下落。今回、規制の対象とした分野では 80% 以上の落ち込みを示した。 海外投資に積極的な一部の中国企業は投資関連法規の違反行為も指摘され、当局の調査対象になっているともされる。 当局による締め付けを受け、企業集団「大連万達グループ」は娯楽産業分野への進出の縮小を余儀なくされたともいう。 (CNN = 8-19-17)

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中国から逃げるお金 封じ込め躍起、香港ドルの教訓も

中国からお金が逃げ、人民元の下落が進んでいる。 経済の変調を恐れ、中国の当局はなりふり構わず封じ込める構えだ。 20 年前、返還されたばかりの香港の通貨危機で知った国境を飛び越えるお金の流れの怖さ。 それは「富強の大国」になった今も中国を悩ませている。

中国悩ます「自由なマネー」

7 月 1 日、香港が中国に返還されて 20 周年の記念式典が、香港島の会議場で開かれた。 「中央の権力への挑戦は絶対に許さない。」 中国の習近平(シーチンピン)国家主席はそう訴えた。 中国からの独立をめざす一部の動きを、強く牽制した形だ。 体制を守るために力で押さえつける姿勢は、通貨防衛でも変わらない。

中国が、国境を越えて動き回るマネーに対抗するすべを学んだのは、20 年前の通貨危機だった。 返還翌日の 1997 年 7 月 2 日、投機筋の攻撃によるタイの通貨バーツの暴落をきっかけにアジア通貨危機が始まった。 香港は英国植民地の時代から、金融センターと位置づけられ、中国と外国を結ぶ貿易の中継地だった。 取引を円滑に進めるため対ドル相場を安定させようと、1 米ドルを 7.8 香港ドルに固定していた。

アジア各国が相次いで通貨の対米ドル相場を切り下げたことから、その固定相場が「高い」と見られて狙われる。 97 年 10 月、投機筋が先物市場で本格的に香港ドルを売り浴びせたのだ。 通貨当局の香港金融管理局 (HKMA) は、豊富な外貨準備の米ドルを売って、香港ドルが安くなるのを食い止めようとした。 投機筋が市場で売るための香港ドルを調達しにくくしようと、銀行間でお金を貸し借りする金利を引き上げた。

ただ、金利上昇の副作用で景気が冷え込み、香港株は暴落した。 それを見据えて投機筋は株の先物も売り浴びせ、香港ドルと株の両方で利益をあげる戦術をとった。 HKMA は 98 年 8 月、外貨準備で香港株式市場のハンセン指数構成株の現物と先物を買い支える「前代未聞」の対策に出る。 HKMA の任志剛(ジョセフ・ヤム)総裁(当時)は「投機筋が完璧に香港市場から去るまで措置を続ける」と表明。 結果、投機筋は撤退に追い込まれた。

この「香港ドル防衛戦」を中国は見守った。 中央銀行、中国人民銀行の戴相龍(タイシアンロン)総裁は 97 年 10 月、香港紙の取材に対し、「必要があれば、あるいは香港からの要請があれば、中国政府は香港ドルを支える用意がある」と口先介入している。 当時、中国は投資目的で流入するお金を厳しく制限していたため、危機に陥った他の国のように逃げ出すお金がそもそもなく、通貨危機の波及を免れた。

アジア各国が相次いで通貨を切り下げており、中国の輸出にとって不利な状況だったが、98 年 3 月の全国人民代表大会の記者会見で、朱鎔基(チューロンチー)首相は「元は切り下げない」と強調した。 こらえる決断をしたことで、人民元の評価は高まった。 中国が通貨危機で得た教訓は、資本規制の重要性だった。 中国の金融機関幹部によると、人民銀行は 90 年代半ば、2000 年までに国内外のお金の移動を完全自由化する構想を持っていた。 外国からの資金流入や海外への持ち出しに制限を設けない状態だ。

そんな構想は、アジア通貨危機で吹き飛んだ。 10 年後の 08 年 12 月、中国政府が貿易決済に人民元を使えるようにする方針を決め、人民元の「国際化」に乗り出す。 リーマン・ショックで米ドル一極体制が揺らいだ隙に、人民元を世界通貨に押し上げる「野望」だった。 それでも香港の経験は重く、お金の自由な流入は制限を続けた。

困難極める「人民元防衛戦」

20 年前の「教訓」は、今も中国に影を落とす。 今年 6 月中旬、中国の保険大手安邦保険集団の呉小暉(ウーシアオホイ)会長を当局が連行したと報道された。 米ニューヨークにある高級ホテルのウォルドルフ・アストリアを約 20 億ドル(約 2,2000 億円)で買収した会社だ。 呉は元最高指導者ケ小平(トンシアオピン)氏の孫と結婚歴があるとされ、同社幹部には昔の指導者の子がいる。 反腐敗で政敵をたたく習指導部が「幹部の親族の調査に踏み切った」とみられている。 同時に、安邦の外国への投資を封じ、中国からの資金流出を牽制する意図も透ける。

中国の銀行監督当局は 6 月中旬、ドイツ銀行の筆頭株主になった航空大手の海航集団や、欧米の映画館を手に入れた不動産の大連万達集団など積極的に外国で投資する企業の負債を調べるよう銀行に指示した、との報道も出た。 当局が躍起になっているのは、国内に蓄積されてきたお金が外国に逃げ始めているからだ。

人民元は 16 年 10 月、国際通貨基金 (IMF) の特別引き出し権 (SDR) を構成する通貨になり、米ドルやユーロ、円などと並ぶ国際通貨の仲間入りを果たした。 だが、他の通貨と違って完全変動相場ではない。 SDR 通貨となるのを控え、人民銀行は 15 年夏、人民元相場の基準値を算出する方法を変えた。 できるだけ市場の相場に合わせようとした結果とみられるが、突然の変更だったため、人民元の対ドル相場は 3 日で 5% 近く下落、市場に衝撃を与えた。

それを境に、中国の安定成長への懸念が噴出した。 一部の企業は巨額のお金を使って海外資産を買収し、中国から意図的にお金を持ち出していたともいわれる。 人民銀行の通貨政策委員を務めた余永定(ユイヨンティン)氏は「資本逃避の状況は厳しい。 政府は可能な限り監督を強める必要がある。」と見る。 20 年前と異なり「内なる敵」と戦う「人民元防衛戦」は困難を極めている。 ピーク時は 4 兆ドルあった外貨準備で元を買い支えたが、外貨準備はどんどん減り、17 年 1 月には 3 兆ドルを割った。外貨準備の底が見えれば、市場で「これ以上、買い支えられない」と見られ、通貨危機につながりかねない。

人民銀行の周小川(チョウシアオチョワン)総裁は 3 月、「執行が不十分だった政策を改善する必要がある」と述べ、資本流出の封じ込めを表明した。 年初からは銀行の窓口規制で海外送金を規制する対策をとっていたが、外資から猛反発を受けて 4 月に撤回。 5 月半ばからは、元安になりにくいように元の基準値の算出方法に新たに変更を加えた。 17 年上半期の金融を除く対外直接投資は前年同期から半減。相場は一頃より安定を取り戻したが、当局は警戒を解いていない。

金融市場が未発達な中国では、行き場のないお金が不動産と株に流れ込み、相場の過熱を招いてきた。 不動産開発投資は当局が規制を強めているのにもかかわらず、上半期は前年同期比 8.5% 増と高い伸びを保った。 15 年に大暴落を起こした上海総合指数もじりじりと上昇を続けている。 習国家主席は 7 月 15 日の全国金融工作会議で、「着実に資本の出入りを自由化する」と述べた。 だが、完全自由化の時期は示さなかった。 香港を襲った危機の前に描いていた、お金の出入りが完全に自由になる経済は、いまだその道筋さえ見えていない。 (香港 = 福田直之)

「元」の国際化、中国の国内改革次第 野村資本市場研究所シニアフェロー・関志雄氏

中国はアジア通貨危機で、東南アジア各国を尻目に人民元を切り下げず、成長率を維持し、地域の経済大国に躍り出た。 約 10 年後の米国発金融危機や欧州の債務危機時には、大規模な景気対策を通じて成長を素早く回復させ、グローバルな経済大国になった。 中国の人民元を含めてアジア各国の通貨は、基本的に通貨危機以降もドルに連動してきた。 ただ、近年は香港ドルを除くアジア通貨が、人民元に連動する傾向が見られる。

とりわけ 2015 年夏以降、人民元がドルに対して値下がりするようになると、韓国、台湾、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピンなどの通貨も一緒に下がった。 市場で売られたことに加えて、中国製品との輸出競争力を意識した各地の当局が、現地通貨を売ってドルを買う介入をした可能性もある。

危機のたびに存在感を高めてきた中国だが、通貨危機に翻弄されたアジアの国々の姿を見て、資本の移動の自由化は遅れた。 その条件となる国内の金融機関の改革はいまだ道半ばだ。 景気対策のツケで国有企業や「影の銀行」といわれる不透明な融資機関などの借金が膨らんでいる。 中国の人民元が国際化していくかどうかは、国内の金融改革の進展にかかっている。 (聞き手 = 編集委員・吉岡桂子、asahi = 7-23-17)


格下げにいら立つ中国、海外マネー呼び込みに冷や水

[北京/香港] 中国は、格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスが約 30 年ぶりに同国の格付けを引き下げたことについて、不適切な手法に基づいているとして一笑に付そうとしている。 しかしこのような反応は、国内の株式・債券市場に海外マネーを呼び込もうとするなかで、自国がいかに見られているかについて中国が敏感になっていることを如実に物語っている。 格下げにより、中国の債務問題において新たな事実が発覚したわけではない。 しかし、これにより同国の経済見通しに効果的に異議を唱え、大々的に宣伝された改革の効果に疑問を呈し、外国人投資家の懸念が高まったと専門家は指摘する。

ムーディーズが 24 日に中国格下げを発表してから数時間後、中国財政省が引き下げは不適切な手法に基づいており、中国経済の問題を誇張する一方、改革の取り組みを過小評価しているとの声明を出すまで、中国国営メディアは、格下げについて報じることはなかった。 ムーディーズによる中国国債の格下げは約 30 年ぶり。 これまでの「AA3」から「A1」へ 1 段階引き下げた。 ムーディーズ当局者は 26 日、中国が膨れ上がる債務を抑制しない限り、今後一段の引き下げもあり得ると語った。

来月見直される米 MSCI 新興国株指数における中国株の採用を目指し、外国人投資家に向け今年一段の債券市場開放を計画する中国に対して、海外の評価と透明性を求める声は増すばかりだ。 ムーディーズと中国が同じ債務に対し異なる見方をするのであれば、それは、中国のリスク評価に必要な情報にアクセスするうえで、外国人が直面する困難をある程度映し出している可能性がある。 「中国での(情報)アクセスレベルは、資金調達をひどく必要とする国とは大違いだ」と、別の格付け会社のアナリストは神経質な問題であるため匿名でこのように語った。

「資金調達は中国ではあまり問題ではない。 財政省や中国人民銀行(中央銀行)の会合レベルはさまざまだ。 当局者にアクセスできるかどうかは、格付け会社が築く関係に左右される。」 財政省と人民銀は、ファクスでのコメント要請に直ちに回答しなかった。 20 カ国・地域 (G20) の監督当局で構成する金融安定理事会 (FSB) はちょうど今月、中国が主要な金融データを提供しないため、シャドーバンキング(影の金融、私的融資や信託ローン、ノンバンクからの借り入れなど)によって世界が直面する金融リスクに関する報告書の作成に遅れが生じているとして、同国を批判した。

気にしない金融市場

債務需要の大半は巨額な国内貯蓄プールから資金調達されており、中国は当面、国際格付けの重要性を重視せずに済む余裕がある。 また、一部のトレーダーは多少なりとも当局の支援があったとみているものの、中国の金融市場も格下げを気にしていない感がある。

人民元は 25 日、対米ドルで 2 カ月ぶり高値を付けた。 ムーディーズによる格下げを受け、通貨の強さを誇示するため主要国有銀行が支援したとトレーダーの一部は指摘。 元は 26 日、一段と上昇した。 中国の株式市場も 25 日、急騰した。 上海と深セン市場に上場する有力企業 300 銘柄で構成される CSI300 指数は、2016 年 8 月以来の大幅上昇となった。 ここでも政府主導の買いが入ったとみられている。

心配無用か

ムーディーズは中国の格付けを引き下げた理由として、同国の債務が増加し、公式の成長目標を達成するため政府が刺激策に依存し続けることが予想されることを挙げた。 中国は債務問題は認めたが、リスクは管理可能だとしている。 外国人投資家はすでに債務増加を織り込み済みのため、中国本土の債券市場に対する関心に影響を及ぼす可能性は低いと、BNP パリバ・インベストメント・パートナーズのジャンシャルル・サンボー氏は指摘。 「これら債務構造をもっと良く理解したいかと言えば、もちろんだ」とサンボー氏。 「非常に複雑で、重複していることもある。 予想はどれも完璧ではない。」

格下げによって、中国の国有企業が国内投資の資金として使っていた海外からの借り入れコストが一段と高くなる可能性があるだけでなく、一部の外国ファンドは中国資産のポートフォリオ組み入れに対し制限を受ける可能性がある。 「(ムーディーズが)中国の実情を理解しているとは思わない。」 こう語るのは中国のシンクタンク、中国国際経済交流センター (CCEE) のチーフエコノミスト代理である Xu Hongcai 氏だ。 「今年の中国の経済成長予想は昨年より良い。 経済は安定し、向上している。 (ムーディーズは)地方政府の債務について心配しているが、そのような必要はない。」 (Elias Glenn、Umesh Desai、Reuters = 5-29-17)


中国の格下げ、日本のバブル崩壊を想起 似通う経済状況

一部のエコノミストは以前から、中国が日本と同じ運命をたどる恐れがあると警告してきた - - つまり過剰融資に後押しされた好景気の後に長期停滞に見舞われ、その後遺症に苦しむということだ。

米格付け大手ムーディーズは 24 日、中国の長期国債格付けを「A1」に引き下げ、少なくとも現状では両国の格付けは同水準になった。 中国は、25 年前に不動産バブルから金融機関の破綻危機に至るバブル崩壊を経験した日本と同様の問題に直面し、対応に取り組んでいる。 しかし格付けが日本と同じレベルに引き下げられたことは、中国が日本のような経済の長期低迷を免れることができるかどうか不透明なままであることを想起させた。

日本は第 2 次大戦後急速に経済を復興させ、1990 年代には経済力は最高潮に達し、もう少しで世界一の経済大国になる勢いだった。 当時、中国はまだ毛沢東時代の長年にわたる経済政策の失敗から立ち直る途上にあった。 だが中国経済は 2001 年に世界貿易機関 (WTO) に加盟した後、急成長に転じた。 21 世紀に入ると日本を追い抜いて世界第2の経済大国となり、トップの座を米国と争うまでになった。

ムーディーズなどが指摘している中国経済をめぐる懸念は、日本が 1990 年代初めに直面した問題と共鳴する部分がある。 中国の成長の牽引役となってきたのは、当時の日本と同じ高水準の設備投資だ。 設備投資が中国の年間成長率に占める比率は、1990 年の 3 分の 1 から 2010 年にはほぼ半分に拡大した。

不動産価格が急騰し、そのテンポが世帯収入やオフィス賃貸料の上昇率をはるかに上回っていることは、現在の中国と 1980 年代末の日本との共通点の 1 つだ。 日本のバブルのピーク時には、東京の住宅用不動産価格は 1 年間に 69% も跳ね上がった。 だが同国の不動産投機家は間もなく熱狂の代価を支払うことになった。 1990 年代初めには土地価格が 15 年連続の下落を開始したのだ。

不動産バブルの崩壊は、規制が不十分だった日本の金融システムの脆弱性を露呈した。 それは、現在の中国にも重なり合うもう 1 つの懸念である。 日本政府は住宅金融専門会社 7 社を救済するために多額の公的資金を注入した。 また、不動産価格の高騰に依存した経営を行っていた大手百貨店そごうなど一部企業は事実上倒産した。

その状況は、中国の一部銀行が影の銀行を利用して会計上の操作を行い、十分な情報開示なしに不動産融資を拡大していることを思い起こさせる。 中国の不動産市場は過去 2 - 3 年の間不調だったが、ここに来て再び急騰し始めている。 北京の不動産価格は今年これまでに 16% 値上がりしている。

他にも類似点はある。 1990 年ごろには日本の人口は 15 - 20 年後には減少し始めることがはっきりしていた。 実際にその通りになっている。 高齢化と人口減少の見通しは、消費者や企業のムードを沈滞させた。 それと同様に、国連の予測では中国の人口は今から約 15 年後の 2030 年代初めにはピークに達し、その後には急減すると見込まれている。

現在、両国の経済統計はどの程度似ているのか。 幾つかの経済統計をみると、日本の状況は中国より深刻なようだ。 2017 年第 1 四半期に日本経済の実質成長率は 2.2% と比較的力強かったが、それでも中国の 6.9% 成長を大きく下回っている。 日本の債務問題も、中国よりはるかに深刻なままだ。 国際決済銀行 (BIS) によれば、2016 年第 3 四半期末時点で、中国の非金融部門(政府、企業、家計)の債務残高の対国内総生産 (GDP) 比は 256% に上昇したが、日本は 373% と途方もない規模である。

日銀の黒田東彦総裁は最近、中国が日本より相対的に有利な点があることを認めた。 「80 年代遅くに日本は既に成熟した先進国となり、成長率は 6.5% を大きく下回り、人口増加率はほぼゼロになっていた。 一方中国では人口はまだ増加を続けており、都市化は今も進んでいる」と、黒田氏はウォール・ストリート・ジャーナル (WSJ) が東京で開催したイベント「CEO カウンシル」で述べた。

それでも、日本が引き続き圧倒的に優位なのは、日本がすでに豊かな国だということを示す統計だ。 世銀によれば、2015 年に日本の 1 人当たり GDP は 3 万 4,524 ドルで、中国の 8,069 ドルの 4 倍強に達している。 中国の指導者は多くの構造的問題に立ち向かっているものの、中国が豊かな先進国の仲間入りをするにはまだまだ先は長く、多くの努力を要する。 (Andrew Peaple and Peter Landers、The Wall Street Journal = 5-25-17)


不動産、ネット金融 … 中国バブル再び 規制でマネー氾濫

上海の住宅、年収の 20 倍超 最盛期の東京上回る

通貨・人民元の急落を防ぐために海外送金などの規制を強めた中国で、国内にあふれたマネーが不動産市場やインターネット金融などに集中し、バブル懸念が再び強まっている。 投資の過熱で足元の景気は持ち直している半面、鉄鉱石など資源輸入が急増し、経常収支が悪化する恐れも出てきた。 膨らむバブルは中国経済の安定を損なう波乱要因になりかねない。

上海市郊外の小昆山鎮。 工場などが点在する不便な地域だが、上海市が払い下げた土地の 3 月末の落札価格は 1 平方メートル当たり 3 万 6 千元(約 58 万円)。 1 坪当たりは円換算で約 190 万円と、東京・世田谷などと変わらない。 住民は「マンションを建てれば 1 平方メートル当たり 5 万元」と噂する。 野村資本市場研究所によると、2015 年の上海の新築住宅価格は平均年収の 20.8 倍だ。 東京カンテイによると 1990 年の東京は 18.1 倍。

中国の大都市の住宅はすでにバブル期の東京を上回る高根の花だが、上海では 15 年から足元までさらに 4 割値上がりした。 北京や広東省深センも同様で、今年 3 月は主要 70 都市のうち 62 都市で住宅価格が上昇。 1 - 3 月の 300 都市の土地払い下げ額は 1 年前の 5 割増だ。 値上がり期待が投資資金を引き寄せ、さらに価格を押し上げている。

当局の目が届かない「影の銀行(シャドーバンキング)」問題も再燃し始めた。 インターネットを通じて個人が投資資金をやりとりする「ピア・ツー・ピア (P2P) 金融」の残高は 4 月末で 9,500 億元超と、1 年前の 1.7 倍に膨らんだ。 企業などが銀行を通じて余剰資金を貸し出す「委託融資」は 13 兆元を突破。 1 年前より 2 割増え、一部は運用先が不透明な投資商品(理財商品)に流れる。 委託融資や理財商品など狭義の「影の銀行」は 16 年末で 60 兆元弱と、国内総生産 (GDP) の 8 割の規模だ。

ベイン・アンド・カンパニー中国代表の韓微文氏は「資本規制で海外投資が難しくなり、国内への還流が起きている」という。 中国政府は米利上げに伴う急激な元安や資金流出を防ごうと、16 年半ばから資本規制の強化に動き、500 万ドル(約 5 億 6 千万円)を超す海外 M & A (合併・買収)などに事実上、待ったをかけた。 中国は従来、国境をまたぐ資金のやりとりを制限してきたが、出口を一段と絞られたマネーが国内にあふれた。

15 年夏に価格急落に襲われた株式市場にも資金が舞い戻っている。 約 3,200 社の 16 年 12 月期決算の合計純利益は前の期に比べ 5% 増だったのに対し、足元の上海総合指数は 16 年初めの底値から 2 割近く上昇した。 1 - 4 月の新規株式公開 (IPO) は 167 社と 1 年前の 4 倍に膨らんだ。 ベンチャー投資も 1 - 3 月に 535 億元と 3 四半期ぶりに増加。 シェアサイクルの ofo は 3 月、4 億 5 千万ドルを調達し、非上場ながら評価額が 10 億ドルを超す「ユニコーン」に仲間入りした。 仮想通貨ビットコインの元建て価格は 9 千元前後と最高値圏で推移する。

中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は「過度の流動性はインフレやバブルを起こす」と警戒する。 もっとも、中国政府が投資ブームに火を付けている面も強い。 中国の 1 - 3 月の財政収支は 1,551 億元の赤字。 1 - 3 月の赤字は 1,995 年以来 22 年ぶりだ。 秋の共産党大会を控え、政府が景気を安定させようとインフラ投資を加速している。 1 - 3 月の主要建機 25 社のショベルカーの販売台数は前年同期比 98% 増えた。 1 - 3 月平均の卸売物価は前年同期比 7.4% 上昇と、16 年通年の 1.4% 下落から急反転している。

国内での過剰投資は、経常収支の悪化という副作用をもたらしている。 モノに加え、知的財産取引なども含めた貿易・サービス収支の黒字は 1 - 3 月に 187 億ドルと、前年同期比 64% 減った。四半期では赤字を記録した 14 年 1 - 3 月以来、3 年ぶりの低水準だ。 国内投資の拡大で鉄鉱石などの輸入が倍増、貿易黒字が 25% 減ったためだ。 所得収支は 16 年まで 2 年連続の赤字で、貿易・サービス収支と合わせた経常収支の黒字は 16 年 10 - 12 月に前年同期比 86% 減の 118 億ドル。 経常黒字の減少が続く可能性があり、通貨・元の信認を揺るがす恐れがある。

中国経済は 6% 台後半の成長を保ち、金融市場に安心感も漂う。 一方で、中国の金融機関を除く民間債務は GDP 比 200% 超と日本のバブル末期並みだ。 警戒を強める人民銀は金融政策を引き締め気味に運営し始めたが、社債の発行延期や中止が相次ぐといった影響がすでに出ている。 投機の過熱をうまく抑え込めなければ、貸し倒れの急増など、世界が再び中国リスクを意識する展開が現実味を増す。 (上海 = 張勇祥、北京 = 原田逸策、nikkei = 5-6-17)


中国人民銀、巧みな裁量的政策駆使でリスク抑制へ

[北京] 中国人民銀行(中央銀行)は金利調整や規制監督の面で自らの裁量余地を巧みに駆使し、国内金融システムのリスク抑制を進めている。 より大きな狙いは、政治的に極めて重要な秋の共産党全国代表大会を前に、経済や社会の安定を確保することだ。 複数の関係者が明らかにした。 金利に関しては、変更する場合に国務院の承認が必要な政策金利の代わりに市場調節をより積極的に活用し、タイムリーで効果的な金利形成を目指す。 一方、規制監督では銀行のリスク性資産の蓄積を点検・制限するための手法を強化し、他の当局との間に摩擦が起きないよう工夫している。

中国は今、投機バブルやリスクの大きい融資を抑え込みながら、急激な金融引き締めで経済に打撃を与えるのは避ける必要があるという難しい時期に差し掛かっているが、人民銀はこうしたやり方を通じて対応能力を高めている形だ。 ある政策アドバイザーは「中国は大きなシステミックリスクに直面しており、2017 年はそれらのリスクを制御するための大事な年だ。 人民銀は規制面の機能を拡張し、(リスク制御において)優越的な役割を背負いつつある。」と指摘した。

人民銀は 1 月に中期貸出ファシリティー (MLF) 金利、2 月に常設貸出ファシリティー (SLF) 金利とリバースレポ金利をそれぞれ引き上げた。 さらに 3 月 16 日には短期市場の金利を高めに誘導。 エコノミストは、米国の利上げに対応して資金流出に歯止めをかけ、人民元の安定を図ったと受け止めた。 今後も、小回りが利かずに多額の債務を抱えた企業セクターに悪影響を及ぼしかねない政策金利の引き上げを手控え、これらの市場金利を高めに誘導する公算が大きい、というのが何人かの政策アドバイザーの見立てだ。

2 人目のアドバイザーは「中国経済の基本的環境はゆっくり改善しているものの、引き締めを急ぎ過ぎると問題が起きてもおかしくない」と述べた。 人民銀の独立性はまだ西側諸国の中銀に比べると弱く、政策金利調整や人民元の水準に関する最終的な発言権はない。 金融政策と通貨政策の大きな方向性は共産党指導部が決定している。

主役としての期待

人民銀は長らく総裁を務める周小川氏の下で、さまざまな改革を主導してきた。 長期的な目標は銀行の借り入れコストを市場の決定に委ねる部分を大きくして、資源配分の効率性を高め、経済を公共投資依存から脱却させることにある。 2015 年には株価急落後に、銀行、保険、証券の規制当局を 1 つにまとめる「スーパー監督機関」の構想も浮上したが、政策担当者や関係省庁の間ではいまだに規制体系の抜本的な見直しをどのように進めていくか合意は成立していない。

別のアドバイザーは「抜本的な見直しが近々行われそうにはない。 なぜならさまざまな利害関係や人事、省庁同士のしがらみが絡んでいるからだ。」と説明した。 そこで人民銀の「マクロプルーデンス評価 (MAP)」が脚光を浴びている。 MAP は昨年導入され、各銀行の資産の質や資本状況、流動性資産比率などを指標に基づいて四半期ごとに成績評価する制度。 具体的な評価項目は公表されていないが、関係者の話では第 1・四半期から理財商品 (WMP) を対象に加えたとみられる。

ある大手商業銀行筋は「金融リスクを制御するためには、異なった機関が勝手に動くばらばらの規制体系であってはならない。 人民銀行が通貨供給量や流動性の監視とシステミックリスクの制御という使命を与えられている点を踏まえれば、リスク制御役の中心に据えるのは理にかなっている。」と話した。 2 人目のアドバイザーは「中国の金融安定を脅かす恐れがある隠れたリスクが多く存在する以上、人民銀が MAP の下で規制機能を高める必要がある」と主張している。 (Kevin Yao、Reuters = 4-14-17)


「世界の工場」で復権目指す中国 ベトナムの追撃に対抗姿勢

中国はかつて世界の工場だった。 2011 年には米国を抜き、世界最大の製造品生産国になった。 工場は所得水準を上げるエンジンになり、中国の国民 1 人当たりの GDP は 2013 年までの 10 年間で倍増した。 だが、中国は経済成長や環境のサステナビリティを確保するため、2011 年ごろから国内消費やサービスセクターへの投資を重視するようになった。

そして中国は今、世界の工場のポジションを取り戻そうとしている。 この動きは、中国の最大のライバルとなったベトナムに対抗するものだ。 政府系シンクタンクの中国国際経済交流センターによると、中国への海外直接投資は今年 15% 増加し、伸び率は前年を 4.1% 上回る見込みだ。 海外資本への開放政策と、海外からの投資手続きの迅速化が、直接投資の伸びにつながったという。 中国の英字メディアのチャイナデイリーは「新材料、新技術分野が投資の増大をけん引している」と報道した。

中国は資本流出を食い止める必要があるが、資本流出の多くは、自国を競争過多で制約が多すぎると考えている中国企業によるものだ。 資本流出は 2015 年に 1 兆ドル(約 114 兆円)に達し、2016 年もさほど変わらないとみられている。 シンガポールのムーディーズソブリンのマリー・ディロンは「FDI (直接投資)流入額から FDI 流出額を差し引いた額は、この 2 年間マイナスが続き、外貨準備高を減らしている」と述べた。

チャイナデイリーによると、昨年の海外からの対中投資は 1,180 億ドル(約 13 兆 5,000 万円)で、中国の GDP の 2% にも及ばない。一方、ベトナムへの海外直接投資額の GDP 比率は中国、インド、インドネシアを上回り 6% で、無名の家具メーカーからフォックスコンやサムスン電子といった企業がベトナムに投資している。 世界の工場として存在感を高めるベトナムは、年間 6% 近い経済成長を実現している。

エレクトロニクス分野で急伸のベトナム

ベトナムはこれまで衣類や車の部品製造など、低付加価値の作業を担ってきたのに対し、中国はPCのような高付加価値製品の製造を担ってきた。 しかし、ベトナムもこの 5 年で電子製品の製造拠点に変貌しつつある。 米シンクタンクで中国ビジネスが専門のスコット・ケネディは「多国籍企業は昔のように中国への投資意欲を持っておらず、投資を他の場所に移そうとしている」と指摘した。

世界の工場のポジションの復権を目指す中国に相対し、ベトナムの動きはより活発化するかもしれない。 ホーチミン市在住のコンサルタントは「現状ではベトナムが誘致しているのは、製造バリューチェーンの下流にある業種だ。 つまり、ベトナムの成長はまだこれからだ。」と述べた。 (Ralph Jennings、Forbes = 3-7-17)