iPS の心臓筋肉シート、患者に初移植 阪大チーム実施 大阪大は 27 日、様々な組織になれる iPS 細胞からつくった心臓の筋肉のシートを、重い心不全の患者に今月移植したと発表した。 阪大の研究チームが医師主導の臨床試験(治験)で実施した。 iPS 細胞からつくった組織を心臓に移植するのは初めて。 移植したのは、心臓の血管が詰まり、心筋がはたらかない「虚血性心疾患」による重い心不全の患者。 他人の iPS 細胞から心臓の筋肉の細胞をつくり、シート状にして、機能が落ちた患者の心臓に貼り付けた。 研究チームは今回、臨床研究より厳密な方法で安全性や有効性を調べる治験で移植を実施した。 今後、計 10 人の患者への移植を目標にする。 重い心臓病の治療には心臓移植もあるが、年齢制限やドナー不足の課題があり、新たな治療法が求められている。 2018 年に阪大のチームの臨床研究の計画が国から認められていたが、その直後に大阪北部地震が起き、細胞の培養施設が使えなくなる被害が出て、実施が遅れていた。 (asahi = 1-27-20) ◇ ◇ ◇ iPS の心筋シート移植、治験申請へ 心不全治療で阪大 大阪大の研究チームが、様々な細胞になる iPS 細胞から作った心臓の筋肉細胞のシートを、心不全の患者に移植する臨床試験(治験)について、近く国の審査機関に申請する。 学内の委員会が 23 日までに計画を承認した。 これまで計画してきた治療の安全性を確認する「臨床研究」に加え、有効性を調べる「治験」も進めることで、早期の実用化につなげるねらいだ。 阪大の澤芳樹教授(心臓血管外科)のチームは、心臓の血管が詰まって心筋がはたらかない、重い心不全の患者に、iPS 細胞から作った心筋細胞のシートを移植する研究を進めている。 昨年 5 月、細胞を移植しても腫瘍ができないかなど、主に安全性を確かめる目的の臨床研究が国から承認された。 昨年 6 月の大阪北部地震で学内の細胞培養施設が使えなくなり、当初の予定から遅れていた。 今回は有効性も確かめる治験の計画で学内から承認された。 治験は、薬や細胞製品を市場に出すために必要な手続きで、臨床研究よりも厳密な方法で安全性や有効性を調べる。 京都大のチームがすでにパーキンソン病の患者に iPS 細胞から作った神経の細胞を移植する治験を進めている。 (asahi = 10-23-19) ◇ ◇ ◇ iPS、心臓病への応用に一歩前進 難易度高く、課題も iPS 細胞からつくった心筋シートを重症心不全の患者に移植する研究が、厚生労働省の部会で了承された。 ヒトの iPS 細胞ができて 10 年。 生死にかかわる心臓病への応用に向け、一歩を踏み出したことになる。 期待も高まるが、難易度も高く、慎重な観察は欠かせない。 心筋シートは心臓のように自然に拍動し、移植後、数カ月間心臓にはりつく。 血管をつくらせる物質などを出し、血流を改善させることで、患者の心臓の働きを助けることが期待されている。 心臓病は日本人の死因で、がんに次ぐ 2 位。 重症心不全の患者は、国内に数万人いるとされる。 いずれ心臓移植が必要になることも少なくない。 提供数に限りがあるなかで、この治療により、心臓移植になる前の状態で食い止められれば、多くの患者を救う手段になる。 高齢化の影響もあり、国内に限らず世界中で心不全の患者が増えると懸念されている。 原則として 65 歳以上の人は心臓移植の対象にはならず、重症化した際の治療手段がなく、高齢の患者にとっては福音になる可能性も秘める。 ただし、今回、患者に移植する細胞数は約 1 億個。理化学研究所が目の網膜で実施した約 25 万個に対し、3 桁も多い。 変化しきれなかった iPS 細胞や、意図しない種類に変わってしまった細胞がまじれば、患者の体内で腫瘍になりかねない。 (合田禄、後藤一也、asahi = 5-16-18) ◇ ◇ ◇ iPS 細胞で心筋シート、心不全治療に 阪大・第一三共 iPS 細胞からつくった心筋シートでの心不全治療を研究している大阪大の澤芳樹教授(心臓血管外科)のグループと第一三共は 5 日、心筋シートの共同開発を始め、5 年後をめどに実用化をめざすと発表した。 心筋シートの事業化を目的に新設した阪大発ベンチャー企業「クオリプス(横浜市)」に、第一三共が出資。 技術を集約し、安定的に販売できる製品を共同で開発する。 心不全は、血液を体内に送り出す心臓の動きが低下する状態で、悪化すると心筋症や弁膜症などを発症して命を脅かす。第一三共によると、安静時にも心不全の症状がある重症患者は、国内に約 5 千人。 有効な治療法が心臓移植や人工心臓しか残されていない人もいる。 心筋シートは自ら拍動するため、こうした患者の心臓に移植することで、心機能を助けることが期待されている。 iPS 細胞の患者への応用は、心臓では前例が無い。 同社の中山譲治会長は「革新的な技術を世界に先駆けて患者に届け、次世代につなげたい」と話した。(野口陽、asahi = 10-7-17) iPS 細胞の一部に異常発生 京大から研究機関に出荷後 体の様々な組織になれる iPS 細胞を備蓄し、再生医療用に提供する京都大 iPS 細胞研究所のストック事業について、一部の iPS 細胞の出荷後、がんに関連する遺伝子などに異常が起きていたことがわかった。 京大は iPS 細胞を再生医療の研究機関に提供しており、提供先が様々な組織に変化させて患者に移植する。 ストック事業は、患者への移植後の拒絶反応が起きにくい特殊なタイプの人から提供してもらった血液を基に、iPS 細胞をつくって備蓄するもの。 患者本人の iPS 細胞をつくるよりも早く、コストを抑えられるメリットがある。 iPS 研によると、提供した iPS 細胞の一部で、がんに関連する遺伝子などの異常が見つかった。 提供時点で異常がないことを確認しており、提供後の培養や、組織に変化させた後で異常が起きたとみられる。 関係者によれば、がんを抑制する働きなどを持つ遺伝子「ARIDIA」に異常があった。 これまで患者に移植した組織は、直前に遺伝子をすべて解析して異常がないものを選んで使っているため、安全性は確保できている。 iPS 研の担当者は「どんな細胞でも増殖すれば異常が起きる可能性があり、研究途上にある」と話している。 (asahi = 1-8-20) 会社経営で iPS 研究を加速へ 理研離れた高橋政代さん 記事コピー (12-30-19) iPS で拒絶反応ない血小板 京大などがゲノム編集成功 人の iPS 細胞にゲノム編集を施し、輸血した際に拒絶反応がおきないようにした血小板の作製に、京都大 iPS 細胞研究所などの研究チームが成功した。 拒絶反応が問題だった患者にも使える血小板として、実用化が期待される。 研究論文が 27 日、米科学誌ステム・セル・リポーツ電子版 (https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2019.11.011) に掲載された。 血小板は血液成分の一つで、出血を止める働きをする。 手術などの際に輸血される。 だが、輸血を受けた人の免疫の型に合わないと拒絶反応が起きる。 研究チームによると、輸血を受ける患者の約 5% は拒絶反応で十分な効果が出ないという。 こうした患者には、免疫の型が合う特定の献血者の血小板が必要になるが、緊急時に不足するなどの課題がある。 研究チームは、遺伝情報を変えられるゲノム編集技術を iPS 細胞に使い、免疫細胞から攻撃されないように工夫して血小板を作製した。 その血小板を人の免疫細胞を持った特殊なマウスに輸血したところ、拒絶反応は起きず体内に残り続けた。 機能も通常の血小板と同等だった。 研究チームの江藤浩之教授は「現在の輸血制度を補完し、一段と高いレベルの医療を提供できる」と話している。 江藤教授らは iPS 細胞から通常の血小板を大量につくることにすでに成功しており、関連ベンチャーが米国での治験を計画している。 今回作製した拒絶反応を引き起こさない血小板の臨床応用は未定だが、通常の血小板と同様に、企業治験の可能性があるとしている。 (野中良祐、asahi = 12-29-19) iPS から作った細胞、目の難病患者に移植へ 研究申請 神戸市立神戸アイセンター病院と理化学研究所などのチームが 9 日、様々な細胞になれる iPS 細胞からつくった「視細胞」を、失明のおそれがある目の難病の患者に移植する臨床研究について、大阪大の委員会に申請したと発表した。 来年度中に 1 例目の移植をめざす。 研究の対象は、主に遺伝が原因で視細胞の性質が変わる病気「網膜色素変性症」の患者。 暗い場所で見えにくくなったり、視野が狭まったりする。 国内に患者は約 4 万人という。 視細胞に関わる遺伝子は少なくとも 70 以上あるとされ、確立した治療法はない。 臨床研究では、京都大 iPS 細胞研究所が備蓄している iPS 細胞から視細胞の元になる未熟な網膜組織をつくって直径 1 ミリほどのシート状にし、患者の目に移植する。目の奥にある網膜は、光を感じる視細胞などでできている。 視細胞で感じた光は、視神経を通って脳に伝わる。 移植した細胞は目の中で成熟して視細胞となり、神経とつながれば、光を感じられるという。 患者の視野を広げたり、病気の進行を遅らせたりする狙い。 研究チームの万代(まんだい)道子・理研副プロジェクトリーダーらは、失明したマウスやラットが、iPS 細胞からつくった視細胞を移植されると、光に反応することを確認した。 また、サルでは目の中に移植した細胞が 2 年以上定着していることも確認している。 目の中で成熟させるため、網膜以外の細胞が混じれば腫瘍化するおそれもあるが、網膜になる細胞だけを移植すれば、腫瘍化するリスクは高くないという。 拒絶反応を抑えるため、免疫抑制剤を使う。 臨床研究は安全性を確かめるため、病気が進行してほとんど見えない患者 2 人にシートを移植する予定という。 理研のチームは、2014 年に世界で初めて iPS 細胞を使って移植した。 そのときは、加齢黄斑変性という病気の患者に、iPS 細胞からつくった「色素上皮細胞」を移植した。 この細胞は、視細胞に栄養を送る細胞だった。 (後藤一也) iPS、目で進む応用 理由は「少しでいい」から 様々な組織になれる iPS 細胞を使った目への移植は、実現すれば今回の視細胞で 3 番目になる。 5 年前に世界で初めて移植が実現したのも目の網膜の細胞だった。 今年夏には角膜も移植された。 心臓や神経などの他の組織と比べて先行している。 なぜ、目で iPS 細胞の研究が進むのか。 目の組織には、奥にある網膜や、手前にある角膜などがある。 2014 年に理研などのチームが世界で初めて iPS 細胞を使った臨床研究をした。 iPS 細胞から網膜組織の一つ「色素上皮細胞」をつくって加齢黄斑変性の患者に移植した。 今年夏には大阪大のチームが iPS 細胞から「角膜上皮細胞」をつくって角膜上皮幹細胞疲弊症の患者に移植した。 今回は、網膜組織の一つ「視細胞」を移植する計画だ。 iPS 細胞から目的の組織をつくって患者に移植する臨床研究は、高い安全性が求められる。 目的以外の細胞が混じっているとがん化するおそれがあるが、移植する細胞数が増えるとリスクも高まる。 心臓の筋肉だと 1 億個ぐらいの細胞が必要になるが、網膜では移植するのは数万 - 数十万個の細胞にとどまる。 今回の移植では約 10 万個だ。 移植する細胞数の少なさは、他の移植より目が先行している大きな理由だ。 7 月末まで理研で網膜組織の移植のプロジェクトリーダーをしていた高橋政代さんによると、脳や網膜などの「中枢神経系」の組織は、再生能力が低く、傷つくと自然に回復することはほとんどないとされる。 14 年に理研などのチームが世界で初めて患者に移植した色素上皮細胞と今回の視細胞は、同じ網膜の組織とはいえ、視細胞は神経細胞の一種のため研究の難易度が高い。 高橋さんは「色素上皮細胞はその場に残って機能すると思われていたが、視細胞の移植は 20 年前に誰も信じなかったほどだ」と話す。 単純に視細胞を移植するだけでは機能を果たせず、移植した細胞が、患者側の残っている細胞と神経のネットワークを作らなければならない。 研究チームは、網膜の色素上皮細胞の効果を複数の医療機関で調べる臨床研究も近く申請する予定だ。 色素上皮細胞は視細胞に栄養を送る役割がある。 色素上皮細胞と視細胞は持ちつ持たれつの関係にあり、どちらかが失われるともう片方も傷んでくる。 将来的には、視細胞と色素上皮細胞を混合したシートを移植する計画も進めている。 (後藤一也、asahi = 12-9-19) 国産 iPS の海外進出、京大が支援へ ガラパゴス化回避 再生医療のために備蓄している iPS 細胞について、京都大 iPS 細胞研究所が、国内での使用を想定してきた方針を転換し、企業が米国でも使いやすくなるよう許認可などの支援に乗り出すことがわかった。 iPS 細胞の臨床応用に消極的だった欧米が近年、急速に研究開発を加速させており、国産の iPS 細胞を使った再生医療が世界市場に乗り遅れかねないとの危機感が背景にある。 山中伸弥所長が、朝日新聞の単独インタビューで明らかにした。 欧米ではこれまで、受精卵に由来する万能細胞「ES 細胞」が再生医療研究の主役だった。 iPS 細胞は遺伝子を導入して人工的につくるため、がん化しないかといった安全性への懸念が指摘されてきたからだ。 だが、日本が先行した目の病気やパーキンソン病などでの臨床研究でがん化がなかったこと、iPS 細胞の作製技術も向上したことで、欧米でも iPS 細胞を使う試みが増えている。 米バイオベンチャー「ブルーロック・セラピューティクス」は 2016 年、約 250 億円を調達して研究を開始。 iPS 細胞からつくった神経細胞をパーキンソン病の患者に移植する臨床試験を近く始める。 心不全や腸の難病での研究も進む。 iPS 細胞は、受精卵を使っていないため、安全性の懸念が払拭され、品質が高まれば、カトリックが多い国で受け入れやすい。 独製薬大手バイエルは今夏、さらに約 260 億円を投じて同社を完全子会社にすると発表。 欧米での研究環境は一変しつつある。 京大が独走してきた iPS 細胞の備蓄計画も、同様のバンクが米国で複数立ち上がっている。 韓国や豪州でも設置が進む。 すでに研究への投資は米国が日本をはるかに上回っており、実用化までに世界標準を奪われる可能性もある。 山中所長は「iPS 細胞からつくった海外の製品を日本が逆輸入することになりかねない」と指摘する。 このため、京大は、国内の研究で使う想定だった国産 iPS 細胞について、海外での普及を図ることを決めた。 連携する企業が米食品医薬品局 (FDA) の認可を取る場合などにノウハウを提供し、海外進出を支援する。 具体的には、京大が新たに設置した公益財団が来年から、ゲノム編集によって免疫反応を起こしにくくした iPS 細胞などを作製。 臨床応用に使えるとの品質を確かめた上で、企業が米国で臨床研究したり、医療を提供したりする際に、細胞のデータや認可の申請情報などを共有するという。 ノーベル賞を受けた本庶佑・京大特別教授の研究がもとになったがん治療薬「オプジーボ」は、小野薬品と共同開発する米製薬大手が米国市場で膨大な収益を上げている。 山中所長は「米国は行けそうだと分かると一気に奪いに来る。 国内で競争している場合ではなく、ここが今、本当に踏ん張りどころだ。」と語った。 (合田禄、阿部彰芳、野中良祐、asahi = 11-29-19) iPS から軟骨つくり、ひざに移植 京大が臨床研究申請 京都大は 27 日、iPS 細胞から軟骨をつくり、ひざ関節の軟骨を損傷した患者に移植する臨床研究の計画を、厚生労働省に提出したと発表した。 学内の委員会の承認を得て、提出は 7 日付。 今後、厚労省の部会で審議される。 移植の対象となるのは、けがなどで軟骨が欠ける「ひざ関節軟骨損傷」で、欠損範囲が限定的な成人患者。 京大 iPS 細胞研究所が備蓄している他人の iPS 細胞から、直径 1 - 3 ミリメートルの軟骨の塊を数十粒つくり、患者のひざに移植する。 移植する細胞数は数千万個レベル。 移植後、1 年かけて異常がないかなどの安全性を確認する。 患者は数人の予定で、募集はしない。 関係者によると、審議で認められれば、2020 年度にも一例目の移植手術を実施したいという。 ひざ軟骨の治療は、患者自身の軟骨を培養して移植する方法などがあるが、効果が限られたり、軟骨を取り出す手術の際にリスクがあったりするという。 iPS 細胞を用いることで、安全に大量の軟骨を移植できるメリットがある。 (野中良祐、asahi = 11-27-19) 京大 iPS 細胞備蓄事業、国支援打ち切りか 年 10 億円 拒絶反応が起きにくい再生医療をめざす京都大の iPS 細胞の備蓄事業について、政府が、年約 10 億円を投じてきた予算を打ち切る可能性を京大側に伝えたことがわかった。 ノーベル賞受賞から 7 年たって基礎研究から事業化の段階になってきたことや、企業ニーズとの違いが浮き彫りになったことが背景にある。 iPS 細胞は、体のどんな細胞にもなることができる万能細胞。 京大の山中伸弥教授が 2006 年に初めて作製し、12 年にノーベル医学生理学賞を受けた。 患者自身の皮膚や血液から iPS 細胞をつくり、網膜や心筋などにして移植すれば、他人から臓器提供を受けた際のような拒絶反応が起きにくい。 夢の再生医療につながると期待された。 しかし、患者自身から iPS 細胞をつくって移植すると、数千万円の費用と数カ月の時間がかかる。 重篤な患者では間に合わない可能性もある。 そこで京大 iPS 細胞研究所が打ち出したのが、献血のようにあらかじめ複数の型の iPS 細胞をそろえておく備蓄事業だった。 短期間に低コストで移植できるとして、140 種類の iPS 細胞をそろえて日本人の 9 割をカバーする目標が設定され、13 年に始まった。 国も 10 年間は支援することにし、昨年度は 13 億円、これまでに計 90 億円以上を投じてきた。 しかし、多くの型の提供者を捜すのに難航し、供給が始まった iPS 細胞は 4 種類にとどまる。京大は 140 種類そろえる方針をやめ、この 4 種類と、拒絶反応が起きにくいようゲノム編集した 6 種類の iPS 細胞で日本人のほぼ全員をカバーする方針に転換した。 ところが、iPS 細胞から移植用の細胞をつくる企業の側は、複数の型を使うことに慎重なことが明らかになった。 移植用の細胞ががん化しないか、別の細胞が混じっていないかといった安全性を型ごとに確認するのは大変で、多額の費用と試験の手間がかかる。 免疫抑制剤の進歩もあり、それなら 1 種類の iPS 細胞だけを使い、免疫抑制剤で拒絶反応を抑える方が事業として成り立ちやすい、という判断だ。 iPS 細胞からつくった細胞が臨床研究で目や神経の難病患者に移植されるようになったことで、政府は事業化の段階に入りつつあると判断。 複数の関係者によると、医療政策を担う内閣官房の幹部らが今夏、京大を訪れ、来年度から研究開発費を打ち切る可能性を山中教授に伝えたという。 一方、いきなりゼロにするのではなく、段階的に減らす案も出ている。 iPS 細胞の研究開発を進めてきた文部科学省にも「今後、国の支援が減るのは避けられない」との見方が出ている。 京大は細胞の販売などで収益を上げるため、備蓄事業を大学と切り離して法人を設立。 寄付金集めにも奔走している。 山中教授は今月、都内であった日本記者クラブの会見で「備蓄事業は文科省の公開の有識者会合で評価されて継続が決まったのに、一部から国のお金を出さないという意見が出てきた。 透明性の高い議論で決めてほしい。」と語った。 (合田禄、asahi = 11-19-19) iPS 細胞で肌老化の構造解明へ 京大とディオール 京都大 iPS 細胞研究所は 12 日、ディオールブランドの化粧品の研究・開発をする LVMH グループの研究所と、共同研究を始めたと発表した。 様々な細胞になれる iPS 細胞を使って、肌の老化メカニズムなどについて調べる。 LVMH グループは、ルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオールなどを傘下に持つ。 同グループの研究所では、肌の細胞が紫外線でダメージを受ける仕組みなどを調べている。 今回の共同研究では、iPS 研がもつ健康な人由来の iPS 細胞から肌の細胞をつくり、酸化ストレスの影響などを調べる。 研究の詳細や費用などは非開示としている。 iPS 研が海外の化粧品ブランドと組むのは初めて。 (野中良祐、asahi = 9-12-19) iPS 細胞で世界初 "角膜" 移植 女性の視力が改善 世界で初めて、iPS 細胞から目の角膜をつくり、患者への移植に成功した。 レンズの役割を果たす「角膜」が濁り、失明するおそれがある「角膜上皮幹細胞疲弊症」。 有効な治療法は、角膜の移植しかないが、移植後の拒絶反応や角膜を提供するドナー不足といった課題がある。 大阪大学は、iPS 細胞から角膜の細胞をつくり、さらに培養してシート状に加工したうえで患者に移植する、新たな再生医療の研究を進めてきた。 7 月、細胞シートをほぼ失明状態だった 40 代の女性患者の左目に移植し、経過に問題はなく、視力もかなり改善してきているという。 5 年後には、一般での治療でつかえることを目指している。 (FNN = 8-30-19) iPS 使いネズミの体内でヒトの臓器 東大の計画を了承 ヒトの iPS 細胞を使ってネズミの体内で人間の臓器を作る研究について、文部科学省の専門委員会は 24 日、東京大グループの計画を了承した。 人間と別の動物が混ざった生物が生まれるなどの懸念から、これまで国内では禁止されていた。 将来、移植用臓器を動物の体内でつくる技術につながる可能性がある。 計画は、東京大医科学研究所の中内啓光特任教授らが申請。 一部の臓器ができないように遺伝子を操作したネズミの受精卵に、ヒトの iPS 細胞を入れ、「動物性集合胚(はい)」という特殊な胚(はい)を作る。 それを代理母のネズミに移植し、赤ちゃんの体内でヒトの膵臓などを作ることを目指す。 出産後、最長で 2 年間観察する。 母体内である程度育った段階で、赤ちゃんの脳を調べ、ヒトの細胞の割合が 30% を超えた場合は実験を中止する。 肝臓や腎臓でも試みる。 将来、臓器のサイズが人間に近いブタやヒツジの体内で人間の臓器を作れれば、慢性的に不足する移植用臓器として使える可能性がある。 こうした研究について、国は 2012 年から専門家による議論を開始。 研究の目的や、対象にする動物の種類のほか、宗教学者の意見を聞くなど、社会的、倫理的な課題も検討した上で今年 3 月、「人と動物との境界があいまいな生物が生まれないように必要な措置をとる」などを条件に、指針を改正して研究を認めた。 中内さんは米スタンフォード大にも研究室を構え、米国でヒトの iPS 細胞をヒツジの受精卵に入れ、代理母に移植する研究を進めてきた。 「ヒツジの体内で育ったヒトの細胞は数千から数万個に 1 個と極めてわずか。 このレベルではヒトの顔をした動物はできない。 10 年がかりの研究がこれでようやくできるようになった。 すぐに人間の臓器が作れるわけではないが、これまでのノウハウを注いで研究を進めていきたい」と話す。 生命科学に詳しい「生命倫理政策研究会」の共同代表・島(ぬでしま)次郎さんは「人間の治療への応用を目指すなら、ネズミ類で試してもサイズが足りず解剖学的にも隔たりが大きいので、役に立つ結果が得られるとは限らない」と指摘。 「(様々な細胞に変化できる能力を保ったままの)ヒトの iPS 細胞を受精卵に入れるのは問題だ。 ヒトの細胞がネズミの脳や生殖細胞に混ざるなど、想定していない部位が(異種の細胞を一つの体にあわせもつ)『キメラ』になるリスクもあり、倫理面、安全面で疑問がある」と話している。 (戸田政考、合田禄、asahi = 7-25-19) ◇ ◇ ◇ 動物体内でヒトの臓器作成に道 文科省部会が指針了承 動物とヒトの細胞を持った「動物性集合胚(はい)」の取り扱いについて、文部科学省の専門部会は 20 日、より幅広い基礎研究ができるように指針を改正することを了承した。 今後、内閣府の専門会議で認められれば、動物の体内でヒトの臓器を作る研究に道が開ける。 動物性集合胚は動物の受精卵が成長した段階の胚にヒトの細胞を入れたもの。 国は 2013 年、動物の体内でヒトの臓器を作る基礎研究を認める見解をまとめており、文科省が指針改定に向けて技術面や倫理などの観点から検討してきた。 これまで、動物性集合胚を動物の子宮に移植し、子どもを産むことはできなかったが、指針の改正によって可能になる。 特に進むとみられるのが、動物の体内でヒトに移植する臓器を作る研究だ。 例えば、遺伝子操作して膵臓ができない状態にしたブタの胚に、ヒトの細胞から作った iPS 細胞を入れてブタの子宮に移植すると、ヒトの膵臓を持った子どものブタが生まれる。 その膵臓を取り出し、糖尿病患者に移植することで、治療に生かせる。 腎臓や肝臓などへの応用もできるといい、移植に使う臓器不足の改善に役立つことが期待される。 一方、動物の体内でうまく機能する臓器が育つかどうかは分かっていない。 生命倫理上の懸念を生みかねない、ヒトと動物の外見が混じるなどした生物が生まれる可能性について、同部会は「極めて低いと考えられる」とした。 海外の実験で、人の細胞がごくわずかしか残らなかったことなどを踏まえた。 一方、動物性集合胚のヒトへの移植や、生まれた動物の子どもを他の動物と交配させることは禁じる。 (戸田政考、asahi = 7-21-18) 富士フイルム、iPS でがん免疫薬 患者以外の細胞で 富士フイルムホールディングスは 1 日、独製薬大手バイエルと組み、iPS 細胞を使った新たながん免疫薬の開発に乗り出すと発表した。 従来の細胞を使ったがん免疫薬は薬価が高く処方まで時間がかかる。 両社は大量に培養できる患者以外の第三者の iPS 細胞を使う新たな手法を使う。 日本では 1 回の投与で数千万円する高額ながん免疫薬のコストが下がる可能性があり、治療の選択肢が広がりそうだ。 富士フイルムなどは CAR-T (カーティー)と呼ばれる技術を用いたがん免疫薬を開発する。 CAR-T は採取した免疫細胞に、がん細胞への攻撃力を高める遺伝子操作を加える治療法だ。 細胞を培養して増やし点滴で患者の体内に戻す。 今の技術では第三者の iPS 細胞から作った CAR-T 細胞を体内に入れると拒絶反応が起こる。 他人の iPS 細胞から誰でも使える CAR-T 細胞を作る技術は世界で研究が進むが、まだ手法は確立できていない。 富士フイルムなどは拒絶反応を起こさない技術を開発する。 富士フイルム子会社とヘルスケア分野に強い米ベンチャーキャピタル (VC) のバーサント・ベンチャー・マネジメントが設立した米社にバイエルが出資した。 各社の出資比率は非公表だが、富士フイルムが米社を持ち分法適用会社とする。 開発費は 2 億 5,000 万ドル(約 270 億円)を見込み、がん領域を強化しているバイエルが 9 割弱を負担する。 富士フイルム子会社は iPS 細胞に関する技術の提供と製造を担う。 2 - 3 年後をメドに治験を始める方針だ。 開発が成功すれば、富士フイルムは製造受託による安定収益などを見込める。 CAR-T はスイス製薬大手ノバルティスが開発した「キムリア」が代表的だ。 日本でも 5 月から公的医療保険の適用対象になったが、患者自身の細胞を培養させるため提供するまでに 1 カ月程度かかる。 専門の資格を持つ培養士がオーダーメードで作業するためコストがかさみ、日本での薬価は 1 回の投与で 3,000 万円を超える。 富士フイルムは第三者の iPS 細胞を使い、大量生産して常備する技術の確立を目指す。 まず健常者の細胞から作った iPS 細胞に遺伝子操作を加える。 がん細胞への攻撃性を持たせた免疫細胞を増やして最終的に製剤化する。 患者ごとに作る必要がなく、診断を受けてから処方されるまでにかかる時間を大幅に短縮できる見込みだ。 がん免疫薬は将来的に市場規模が 4 兆 - 5 兆円に拡大するとされる成長分野だ。 iPS 細胞を使った技術を巡っても、世界の製薬大手が今後相次ぎ開発に乗り出す可能性が高い。富士フイルムが先行して実現すれば、再生医療分野で日本企業が主導権を握れる可能性がある。 (nikkei = 7-1-19) iPS 細胞使い、がんを攻撃 来春にも国内初の治験 健康な人の iPS 細胞から免疫細胞を作り、頭頸部(けいぶ)がんの患者に移植する臨床試験(治験)を、理化学研究所と千葉大のチームが来年 2 月にも国に申請する方針であることが 24 日、わかった。 iPS 細胞を使って、がんを攻撃する治験は国内初という。 認められれば 3 月にも始める方針。 計画しているのは、理研生命医科学研究センターの古関明彦副センター長と千葉大の岡本美孝教授らのチーム。 鼻や口など、顔や首周りにできるがんの患者で、標準的な治療後に再発したり、効果がなかったりした 3 人を対象にする。 チームは「ナチュラルキラー T (NKT) 細胞」と呼ばれる免疫細胞に着目。 体内に存在するが数が少なく、がん患者では減っていたりうまく働かなくなっていたりするという。 治験では、健康な人の血液から採取した NKT 細胞から iPS 細胞を作製。 この iPS 細胞を大量に増やした後、改めて NKT 細胞に変化させてから、2 週間ごとに計 3 回移植する。 移植した NKT 細胞や、活発になったほかの免疫細胞が、がんを攻撃することを見込んでおり、2 年間かけて安全性や効果を調べる。 マウスでの実験では、がんの増殖が抑えられたことを確認したという。 古関さんは「有害事象が起きないことを確認しつつ、腫瘍がどのくらい小さくなるのか調べたい」と話している。 (戸田政考、asahi = 5-24-19) 目の難病に他人 iPS、1 年後の安全性初確認 … 理研・高橋政代氏 目の難病患者に対し、他人の iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から網膜の細胞を作って移植する臨床研究を進める理化学研究所の高橋政代・プロジェクトリーダーは 18 日、患者 5 人への移植から 1 年を経ても目立った拒絶反応や副作用は確認されなかったと発表した。 他人の iPS 細胞を用いた移植で、1 年にわたって安全性が示されたのは初めて。 発表によると、5 人中 1 人に軽い拒絶反応がみられたが、抗炎症薬の注射で治まった。 治療しないと視力が徐々に低下する恐れがあったが、移植した細胞は 1 年後も残り、全員の視力が維持されているという。 他人の iPS 細胞は京都大が備蓄しており、患者本人から移植ごとに iPS 細胞を作るよりコストと時間が大幅に削減できる。 このため、パーキンソン病(京大)や心臓病(大阪大)、脊髄損傷(慶応大)などの治療計画も進んでいる。 (yomiuri = 4-18-19) 初 報 (2-1-17) 脊髄損傷を iPS で治療、夏にも移植へ 厚労省部会了承 iPS 細胞から神経のもとになる細胞をつくり、重い脊髄(せきずい)損傷の患者に移植する慶応大の臨床研究について、厚生労働省の部会は 18 日、計画を了承した。 近く厚労相から正式に通知が出され、臨床研究を行える。 研究グループは早ければ夏ごろにも移植したいという。 脊髄損傷は、けがや事故などで脊髄が傷つき、脳からの命令を神経に伝えることができなくなるため手足が動かせなくなるなどする。 国内に 10 万人以上いるとされる。 リハビリ以外に有効な治療法は確立していない。 同大の岡野栄之教授(生理学)と中村雅也教授(整形外科学)らのグループは、京都大 iPS 細胞研究所から提供を受けた iPS 細胞を、神経のもとになる細胞に変化させ、患者の脊髄の損傷部に移植する。 脳からの命令を伝える組織をつくることで、運動や知覚の働きを回復させることを目指す。 臨床研究の対象は「完全まひ」で損傷から 2 - 4 週間の「亜急性期」と呼ばれる時期の 18 歳以上の 4 人。 損傷から時間がたった「慢性期」の患者より回復が期待できるという。 半年間のリハビリをしながら安全性や有効性を確認する。 iPS 細胞は腫瘍(しゅよう)化する恐れがあるが、グループはあらかじめ特殊な化合物を加え、リスクを下げるという。 十分に機能を回復させるには 1 千万個近い細胞の移植が必要というが、安全性を優先してまずは 200 万個にとどめる。 他人由来の細胞のため、拒絶反応を抑える免疫抑制剤を使う。 脊髄損傷の治療では昨年、患者自身の幹細胞を培養した細胞製剤を使い、神経の働きを回復させる治療法が、厚労相に承認された。 安全性や有効性の評価を続けている。 iPS 細胞を使う再生医療は、2014 年に理化学研究所などが目の難病患者を対象に移植したのが世界初。 その後、大阪大の心不全や京都大の血液の難病など、各グループが臨床研究の準備を進めている。 (戸田政考、asahi = 2-18-19) ◇ ◇ ◇ iPS で脊髄損傷治療、慶大が承認へ 来夏にも臨床研究 世界で初めて iPS 細胞から神経のもとになる細胞をつくり、重い脊髄損傷の患者に移植する、慶応大のグループの臨床研究について、再生医療を審査する学内の委員会は 13 日、計画の妥当性を検討した。 大きな異論はなく、承認される見通しになった。 承認後グループは計画を国に申請する。 厚生労働省の専門部会で認められ、順調に進めば来夏にも臨床研究が始まる。 事故などで国内で毎年約 5 千人が脊髄損傷になり、患者は 10 万人以上いるとされる。 脳からの命令を神経に伝えることが出来ず、手足が動かせなくなったり、感覚がまひしたりする。 現在は損傷した部位を完全に修復する治療法はない。 計画しているのは岡野栄之教授(生理学)と中村雅也教授(整形外科学)らのグループ。 京都大 iPS 細胞研究所から提供された iPS 細胞を、神経のもとになる細胞に変化させる。 200 万個の細胞を脊髄の損傷部に注入し、脳からの信号を伝える組織をつくることで、運動機能や知覚の回復を目指す。 運動や感覚の機能が失われた「完全まひ」で 18 歳以上の 4 人が対象。 組織の修復が盛んになる損傷から 2 - 4 週間程度の患者にする。 損傷から時間がたった人より修復を期待できるためだ。 他人由来の iPS 細胞を使うため、免疫抑制剤で拒絶反応を抑える。 移植した細胞が腫瘍化する恐れがあり、移植後の半年間のリハビリと合わせ、1 年かけて安全性と効果を慎重に確認していく。 岡野教授らは脊髄を損傷した小型サルの一種マーモセットに、ヒトの iPS 細胞からつくった細胞を移植し、歩けるよう回復させることに成功している。 iPS 細胞を移植して治療する臨床研究は、目の病気の加齢黄斑変性で 6 人に実施。 京都大でパーキンソン病の治験が進む。 大阪大では心不全の患者に心臓の筋肉のシートを移植する計画。 京都大では血液の難病などでも予定されている。 (戸田政考、asahi = 11-13-18) ◇ ◇ ◇ iPS で脊髄損傷治療、臨床研究を申請 慶応大 慶応大学の岡野栄之教授らのグループは 10 日、他人の iPS 細胞を使って脊髄損傷を治療する臨床研究の計画を大学内の倫理委員会に申請した。 2018 年前半の手術を目指す。 計画では、京都大学 iPS 細胞研究所の「iPS 細胞ストック」から供給される細胞を、神経細胞になる「神経前駆細胞」に変化させ、脊髄の損傷部分に注入する。 交通事故などで脊髄損傷を起こしてから 2 - 4 週間の患者が対象で、18 歳以上の 7 人に移植し、安全性やまひした手足などを動かす機能の回復具合を調べる。 iPS 細胞ストックでは、拒絶反応が起きにくい特殊な免疫の型を持つ提供者の血液から iPS 細胞をつくり、備蓄している。 今後、学内の倫理委員会と他の委員会での技術的な審査を経て、厚生労働省で計画が了承されれば、来年前半にも移植を実施したいという。 まずは損傷から時間があまり経っていない患者を対象にするが、将来的には慢性期の患者にも広げたい考えだ。 グループは、脊髄損傷を起こした小型のサルのマーモセットにヒト iPS 細胞からつくった細胞を移植し、歩けるまでに回復させることに成功している。 脊髄損傷は、国内に現在約 20 万人の患者がおり、毎年新たに 5 千人がなっているとみられる。 リハビリ以外に確立された治療法はなく、岡野教授は「たくさんの患者が待っている。 良い細胞を使って、治療につなげられるよう研究をすすめたい。」と話す。 (福宮智代、asahi = 2-10-17) iPS から対がん免疫細胞を作製 京大などが発表 人の iPS 細胞から、がんへの攻撃力を高めた免疫細胞「キラー T 細胞」を作製したと、京都大などのチームが発表した。 免疫の力でがんを治療する「がん免疫療法」の新たな手法につながる可能性がある。 京大 iPS 細胞研究所が保管する iPS 細胞を使うことで、短期間で多くのキラー T 細胞をつくることができる。 今後、実際の患者に使う臨床試験の準備を進めるという。 人の体内では、絶えずがんが生まれているが、キラー T 細胞を含む免疫細胞が攻撃することで、健康を保っている。 だが、がんが免疫のしくみを回避したり、免疫細胞の攻撃力が弱まったりするとがんが増殖し、発症すると考えられている。 チームは、第三者の血液由来の iPS 細胞にがんを認識する遺伝子を組み込んだ。 その後、キラー T 細胞のもととなる細胞の状態に変化させて増殖。 ステロイドホルモンなどを加えて培養し、がんを攻撃する高品質のキラー T 細胞をつくった。 人のがんを再現したマウスに注射したところ、何もしない場合に比べ、がんの増殖を 3 - 4 割に抑えられた。 がん治療薬「オプジーボ」は、がんが免疫のしくみを回避するのを防ぐ。 一方、今回の方法は免疫の攻撃力を上げることで、がんの治療をめざす。 チームの金子新・京大 iPS 細胞研究所准教授は「従来の免疫療法が効かない患者への治療法や、併用して使う選択肢にしたい」と話している。 米科学誌「セル・ステムセル」に掲載される。 (野中良祐、asahi = 11-16-18) |