iPS 移植、パーキンソン病患者の脳に 京大が治験
京都大学の高橋淳教授らは 9 日、iPS 細胞から育てた神経細胞をパーキンソン病患者の脳に移植したと発表した。 医師主導による臨床試験(治験)の 1 例目。 10 月に 50 代の男性患者で実施した。 患者は手術前と同じように過ごしているという。 国内で iPS 細胞の移植は目の網膜の難病に続いて 2 番目、保険適用をにらんだ治験は初めてとなる。
記者会見した高橋教授は「手術後の経過は良好。 今までに積み上げてきた研究の審判が下るので厳粛な気持ちだ。」と語った。 治験では、あらかじめ備蓄しておいた他人の iPS 細胞から神経細胞をつくり、患者の頭蓋骨に穴を開けて特殊な注射針で移植する。 今回は脳の左側に移植した。 問題が起きなければ半年後に右側にも移植する。 2 年かけて経過を観察し、安全性と治療効果を確かめる。 計画では計 7 人の患者に移植し、治験の結果をもとに大日本住友製薬が国に製剤化を承認申請する。
パーキンソン病は手足などが震える神経の病気で、厚生労働省の推計では国内に約 16 万人の患者がいる。 神経伝達に欠かせないドーパミンという物質を作る脳の細胞が減って発症する。 現在は不足したドーパミンを補う薬を飲んだり、脳に電極を埋めて電気刺激で症状を抑えたりする治療があるが、効果が持続しないなどの課題がある。
海外では、中絶した胎児の神経細胞を患者の脳に移植する治験が進み、症状の緩和などに効果が出ているという。 ただ、移植に使う細胞を大量に調達するのは費用や倫理の面から難しい。 血液などから作れ、ほぼ無限に増える iPS 細胞ならこうした問題が起きにくい。 今回の治験がうまくいけば、再生医療の普及に弾みがつく。 iPS 細胞からつくった細胞の移植は、理化学研究所などが治療の実施に向けた研究段階として 2014 年に、加齢黄斑変性の患者を対象に実施した。 (nikkei = 11-9-18)
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iPS 細胞でパーキンソン病治療 京大で臨床試験開始へ
京都大がヒトの iPS 細胞からつくった神経細胞を、パーキンソン病の患者の脳に移植する臨床試験(治験)を始めることが 29 日、わかった。 学内の審査を終えたという。 チームは近く計画を正式に発表する。 国内の iPS 細胞を実際の患者に用いる臨床応用は目、心臓に続き三つ目となる。
移植は京大 iPS 細胞研究所の高橋淳教授(脳神経外科)らのチームが実施する。 治験を監督する医薬品医療機器総合機構 (PMDA) に届け出ていた。 パーキンソン病の主な症状は、神経を興奮させるドーパミンという物質をつくる脳内の細胞が減少することで起きる。 チームは、iPS 研が保管している他人の iPS 細胞から、ドーパミンを産生する神経細胞を約 500 万個つくり、患者の脳に移植。 安全性や治療効果を確認する。免疫抑制剤のほか、患者と免疫の型が似ている iPS 細胞を使うことで、拒絶反応が起きにくいようにする。 (asahi = 7-29-18)
iPS 細胞使って発見、既存薬が ALS にも効果 慶応大
iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を使って病気の状態を再現し、薬の候補を探す「創薬」により、パーキンソン病の既存薬が筋萎縮性側索硬化症 (ALS) に効くことを、慶応大などのチームが発見した。 13 日、東京都内であった再生医療のシンポジウムで、同大の岡野栄之教授が公表した。 将来的には患者の治療への活用が期待される。
ALS は進行性の難病。 筋肉を動かし、運動をつかさどる神経が障害を受けて、呼吸や手足などの筋肉が次第に動かなくなる。 国内に 9 千人あまりの患者がいるとされる。 進行を遅らせる薬はあるが、治療法は確立していない。
岡野教授らのチームは、血縁者に患者がいる家族性 ALS の患者から採取した細胞から作った iPS 細胞で、病気の状態を再現。 約 1,230 種の薬を試し、パーキンソン病の既存薬のロピニロール塩酸塩で効果を発見した。 血縁者に患者がいない孤発性 ALS の患者から採取した細胞から作った iPS 細胞でも試し、22 タイプの孤発性 ALS のうち約 7 割にあたる 16 タイプで効果を確認した。 (戸田政考、asahi = 10-14-18)
血管作れないマウス、iPS 注入で正常に 受精卵で成功
血管や血液を作れないようにしたマウスの受精卵に、別のマウスから作った iPS 細胞を入れたところ、血管や血液があるマウスに成長させることに成功した、と東京大のチームが発表した。 チームは、拒絶反応を起こしにくい移植用の臓器や血管、血液を作る研究に役立つと期待している。 論文は 21 日、米科学誌ステムセルリポーツに掲載される。
東京大医科学研究所の中内啓光特任教授や山口智之特任准教授、浜仲早苗特任研究員らのチームは、血管や血液を作る遺伝子を持たないマウスの受精卵に、別のマウス由来の iPS 細胞を入れた。 iPS 細胞は体内で血管や血液などに成長し、血管や血液がある大人のマウスに育った。 iPS 細胞に入れた緑色に光るたんぱく質により、iPS 細胞由来の血管だと区別できた。 腫瘍などの異常は見られなかった。 万能細胞の ES 細胞でも同様に確認できた。
これまで、血管や血液が作れないマウスの受精卵はまもなく死んでしまっていた。 中内さんらは、ヒトに移植するための臓器をブタなどの動物の体内で作る研究を続けている。 血管や血液などに動物の細胞が混ざると、移植時に拒絶反応が起きるおそれがあった。 今回の成果は、移植を受ける側の細胞をもとにした iPS 細胞を使い、血管や血液を作る可能性を示した。 チームは「拒絶反応を起こしにくい臓器づくりに貢献できる」と期待している。 (戸田政考)、asahi = 9-21-18)
腎臓病の状態、iPS 細胞使って再現 治療法開発に光
ヒトの iPS 細胞を使って、血液中のたんぱく質が尿に大量に漏れる腎臓の難病「先天性ネフローゼ症候群」の初期状態を再現することに、熊本大発生医学研究所などの研究グループが成功した。 腎臓の機能をつかさどる細胞の異常が、遺伝子操作で正常化することも確かめた。 発病の仕組みの解明と治療法開発につながる可能性があるという。 米科学誌ステム・セル・リポーツ(電子版)に 31 日掲載される。
先天性ネフローゼ症候群は、腎臓の中で血液から尿をこし取る細胞の濾過(ろか)膜が十分形成されていないために起こる。 熊大の西中村隆一教授らのグループは、患者の皮膚からつくった iPS 細胞で腎臓の組織を作製し、濾過膜の形成が進まない状態を初めて再現した。 この患者は、濾過膜を構成する主要なたんぱく質「ネフリン」の一部に異常があるが、細胞の遺伝子操作で修復したところ、濾過膜の形成が進んだ。 このため、ネフリンの異常が病気の原因であると特定できた。
先天性ネフローゼ症候群は根治が難しく、2 - 3 年で腎不全になることが多い。 濾過膜の人工的な再現方法がないことが研究の課題だった。 熊大によると、小児のネフローゼ症候群患者のうち 2% 程度は先天性とみられ、全国で 100 人弱の患者がいると推定される。 濾過膜の障害は、成人の腎臓病との関連も指摘されており、研究グループは、治療法の開発や創薬につながる可能性があるとしている。 (田中久稔、asahi = 8-31-18)
iPS 臨床研究、血小板でも 京大、血液難病患者に
出血を止める働きをする血小板を iPS 細胞からつくり、血液の難病患者に移植する臨床研究を、京都大のチームが厚生労働省に申請したことが 19 日、わかった。 同大は近く、計画を公表する。 厚労省の部会で 29 日、審議される予定。 認められれば、目の組織や心臓、脳の神経に続いて、iPS 細胞を実際の患者に用いる臨床応用となる。
関係者によると、治療対象は、血小板などが減少し出血が止まりにくい再生不良性貧血で、他人の血小板では拒絶反応が起きやすいタイプの患者。 患者自身の細胞をもとにした iPS 細胞から血小板をつくり、患者本人に複数回輸血し、1 - 2 年かけて安全性を確認する。 患者自身の iPS 細胞からつくった組織を移植するのは、理化学研究所が 2014 年に実施した目の難病の患者に、網膜組織を移植したのに続く 2 例目。
血小板の製剤は現在、献血によってつくられているが、少子高齢化の影響で献血する人が減り、将来的に不足が深刻化することが懸念されている。 計画を進める京大の江藤浩之教授らは、iPS 細胞からつくった血小板の製品化もめざしており、企業のメガカリオン(京都市)が今後、米国と国内で治験を始める計画を立てている。 (asahi = 8-19-18)
iPS からつくった角膜細胞移植、臨床研究を申請 阪大
iPS 細胞からつくった角膜の細胞を移植する臨床研究を、大阪大の西田幸二教授(眼科)らのチームが、学内の委員会に申請したことがわかった。 委員会は 22 日の会合で議論し、了承されれば、次に厚生労働省の部会が審査する。 角膜は黒目の表面を覆う透明の膜。 新たに角膜をつくる「幹細胞」が病気やけがによって失われると、結膜に覆われて視力が落ち、失明することもある。 他人の角膜を移植する治療法があるが、拒絶反応が起きたり、提供数が不足していたりするなどの問題がある。
計画では、iPS 細胞を角膜の細胞に変化させてシート状にした後、患者に移植する。 対象は、角膜の幹細胞が消失した「角膜上皮幹細胞疲弊症」の患者。 チームはこれまでにウサギなどの動物実験で、この方法による移植手術の安全性と有効性を確認している。 今回の臨床研究では、主に実際に患者に移植した場合の安全性をみる。 臨床研究の対象となる人数や患者の詳しい条件などは、委員会の了承後に公表する予定という。
iPS 細胞を実際の患者に使う臨床応用では、理化学研究所などのチームがすでに別の目の難病患者に移植手術を実施。 ほかに心不全やパーキンソン病でも近く手術が予定されている。 (合田禄、asahi = 8-11-18)
iPS 活用し創薬、遺伝性の難聴に効果 慶応大で治験へ
iPS 細胞を使って病気の状態を再現し、治療薬の候補を探す「創薬」によって、ほかの病気に使われる免疫抑制剤が、進行性の難聴となる難病に効果があることを、慶応大の研究チームが見つけた。 5 月にも慶応大病院で医師主導の治験を始める予定だ。 iPS 細胞を使った創薬は、心臓の筋肉や神経などの組織を作って患者に移植し、病気やけがを治療する再生医療とともに、iPS 細胞の有力な活用方法として期待されている。
この難病はペンドレッド症候群。 遺伝性で難聴が進むほか、めまいや甲状腺のはれなども伴うことがある。 国内には 4 千人の患者がいると推定されているが、有効な治療法がない。 また、マウスでは人間での病気の状態を再現できなかった。 (戸田政考、asahi = 4-24-18)
iPS 細胞からミニ肝臓を大量製造 再生医療実現に道
ヒトの iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から、直径約 0.1 ミリ程度の「ミニ肝臓」を一度に大量に製造することに、横浜市立大の谷口英樹教授らの研究チームが成功した。 重い肝臓病を治療する再生医療の実現に道を開く成果という。 米科学誌セルリポーツに 6 日、発表した。 研究チームは 2013 年、ヒトの iPS 細胞からミニ肝臓を作ることに成功。 実際の治療に使うには、一度に数十個が限度だったミニ肝臓を数万個以上作る必要があり、課題になっていた。
そこで、微細なくぼみをつけた特殊な培養プレートを民間企業のクラレ社と開発。 ミニ肝臓を作るのに必要な 3 種類の細胞をすべて iPS 細胞から作ってうまく混ぜ合わせ、高品質で均質なミニ肝臓を 1 枚のプレート上に 2 万個作ることに成功した。 肝不全のマウスに移植し、生存期間が大幅に改善することも確かめた。 研究チームは、重い肝臓病の赤ちゃんに、今回の方法で培養したミニ肝臓を移植することを目指している。 谷口教授は「今後、細胞のがん化などを調べる品質評価の手法を確立する必要があるが、ミニ肝臓を使う臨床研究に向けて一定のめどがついた。 19 年度に国に臨床研究の承認申請をしたい。」としている。 (佐藤建仁、asahi = 12-6-17)
iPS 創薬、京大が初の治験承認 筋肉に骨できる難病で
全身の筋肉に骨ができる難病「進行性骨化性線維異形成症 (FOP)」の進行を抑える治療薬の候補について、京都大の治験審査委員会が 6 日開かれ、効果を確かめる臨床試験(治験)を始めることを 7 日付で承認した。 同日から対象患者への説明や登録が可能になる。 研究チームは、iPS 細胞を活用して治療薬の候補を探し出す創薬による治験は世界で初めてだとしている。
京都大 iPS 細胞研究所(山中伸弥所長)の戸口田淳也教授(再生医学)らのチームは、FOP の患者から皮膚の細胞を採取して iPS 細胞を作った。 この細胞を使って約 7 千種類の化合物から病気の進行を抑える薬剤を絞り込んだところ、免疫抑制剤「ラパマイシン」に効果があることを突き止めた。 治験は、京大付属病院のほか東京大、名古屋大、九州大で行う。 6 歳以上の患者計 20 人を募る予定。 ラパマイシンと偽薬を投与する二つのグループに分け、半年間かけて効果や安全性を検証する。
この病気は、けがなどをきっかけに筋肉や靱帯(じんたい)などの組織の中に骨ができる難病で、根本的な治療法がない。 200 万人に 1 人が発症し、国内の患者は約 80 人とされる。(西川迅、asahi = 9-7-17)
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筋肉が骨化する難病の治療薬、iPS 活用し初の治験へ
全身の筋肉に骨ができる難病「進行性骨化性線維異形成症 (FOP)」の治療薬の候補を京都大のチームが発見し、1 日、京都大付属病院など 4 施設で治験を始めると発表した。 研究チームは「iPS 細胞を活用した創薬研究で、医師が主導する治験が行われるのは世界で初めて」としている。 京都大 iPS 細胞研究所(山中伸弥所長)の戸口田淳也教授(再生医学)らのチームは、FOP の患者から皮膚の細胞を採取して iPS 細胞を作った。 この細胞を使って約 7 千種類の化合物から病気の進行を抑える薬剤を絞り込んだところ、免疫抑制剤の「ラパマイシン」に効果があることが確認された。
この薬を使った治験計画をすでに京都大付属病院の審査委員会が承認しており、医薬品医療機器総合機構 (PMDA) に計画を届け出た。 治験は京都大、東京大、名古屋大、九州大の計 4 施設で 6 歳以上の患者 20 人を予定している。 FOP は筋肉や靱帯(じんたい)などの組織の中に骨ができる難病で、根本的な治療法がない。 200 万人に 1 人が発症し、国内の患者は約 80 人とされる。
様々な細胞に変化できる iPS 細胞を活用した医療では、細胞や組織を再生して患者に移植する「再生医療」のほか、患者の細胞などから病気の状態を再現して治療薬の候補を探し出す「創薬」も柱の一つ。 筋力の低下などの症状を起こす難病「筋萎縮性側索硬化症 (ALS)」など、今後様々な病気の治療薬の開発に役立つと期待されている。 戸口田教授は「FOP に対する有効性と安全性を検証したい」と話している。 (西川迅、asahi = 8-1-17)
iPS 心筋で心不全治療、阪大が審査申請 18 年開始へ
iPS 細胞から作った心筋シートで心不全の治療を目指している大阪大の澤芳樹教授(心臓血管外科)らのグループは 21 日、再生医療を審査する学内の委員会に臨床研究の計画を申請したと発表した。 委員会の審査などを経て、2018 年前半には始める予定。
iPS 細胞の患者への応用は心臓では前例がない。 目の難病の加齢黄斑変性では、理化学研究所などのグループが網膜組織を作り、患者に移植する臨床研究を進めている。 国内に重症の心不全患者は数万人いるとみられ、澤教授は会見で「一刻も早く重症心不全の患者さんを助けたいと進めてきた。 いよいよ本格的にスタートできるところまできた。」と話した。
計画では、血管が詰まって心臓の筋肉(心筋)への血流が滞り、心筋が重い障害を受けた虚血性心筋症の患者が対象。 グループは、患者の太ももの筋肉から作った細胞シートを心臓に移植する治療法を実用化しているが、重症になると効果が認められないのが課題だった。 (阿部彰芳、asahi = 7-21-17)
iPS 細胞で「他家移植」世界初の手術実施
他人に移植しても拒絶反応が起きにくい特殊な iPS 細胞を使って、重い目の病気の患者を治療する他家移植と呼ばれるタイプの世界初の手術を、理化学研究所などのチームが 28 日に実施したと発表しました。 成功すれば、1 人当たり 1 億円と言われる iPS 細胞を使った治療のコストを、10 分の 1 程度にできると見られていて、将来の再生医療の普及につながると期待されます。
世界初となる iPS 細胞の他家移植の手術を行ったのは、神戸市にある理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーと、神戸市立医療センター中央市民病院、それに、大阪大学と京都大学のチームです。 手術を受けたのは、加齢黄斑変性という重い目の病気の 60 代の男性で、これまでの治療では、症状の悪化が抑えられなくなっていました。 手術は、28 日中央市民病院で行われ、京都大学の山中伸弥教授らが作った、拒絶反応が起きにくい特殊な iPS 細胞から目の網膜の組織を作り出し、注射器を使って、男性の目に移植しました。 手術は、1 時間ほどで無事終了したということです。
今回使われた iPS 細胞は、特殊な免疫のタイプを持つ人から京都大学が作り出し、凍結保存しているもので、拒絶反応を起こしにくいうえ、解凍して培養すれば、ほぼ無限に増やせます。 このため、同様の症状に苦しむ多くの患者に使う事が可能で、3 年前の患者本人の iPS 細胞を使った自家移植の際には、費用がおよそ 1 億円かかったのに比べ、10 分の 1 程度にまで抑えられると期待されています。
今回の手術は、iPS 細胞を使った他家移植の安全性や効果を確認する臨床研究の一部で、拒絶反応が起きにくい他人の iPS 細胞を使った他家移植の実施は世界で初めてです。 チームは、患者 5 人を目標に同様の手術を行い、細胞のがん化や拒絶反応が起こらないかなどを慎重に確認することにしていて、成功すれば再生医療の普及につながると期待されています。
拒絶反応おきにくい iPS 細胞をストック
iPS 細胞ストックは、京都大学が 4 年前から進めているプロジェクトです。 日本人の中にごくわずかにいる、特殊なタイプの免疫を持つ人の細胞から、他人に移植しても拒絶反応をおこしにくい iPS 細胞を作りだし、患者が必要な時にいつでも使えるよう保存しています。 患者自身の細胞で一から作製する場合に比べ、移植までの待機期間や治療コストを数分の 1 に抑えることができます。
現在保管されている iPS 細胞は、日本人のおよそ 17% に移植できるということで、京都大学は今後、iPS 細胞の種類を増やし、日本人の大半をカバーできるようにする計画です。 一方で、この iPS 細胞ストックをめぐっては、ことし 1 月、保管していた iPS 細胞の 1 つに作製過程での管理のミスが見つかり、この細胞の研究機関への提供を停止しました。
今回の手術で使われた iPS 細胞には問題はありませんでしたが、ほかの臨床研究の中には、1 年から 1 年半程度遅れるなどの影響が出ています。 これを受けて京都大学は、滋賀県草津市の医薬品メーカー、タカラバイオと iPS 細胞の品質管理について共同研究を開始しました。 この会社は、患者に投与するための細胞の管理で豊富な経験を持っていて、京都大学はノウハウを持つ企業と連携することで、さらに徹底した管理体制を構築することにしています。 (NHK = 3-28-17)
脳の毛細血管を再現、京大グループ
ヒトの iPS 細胞から、脳の血管内皮細胞を作ることに、京都大の山水康平特定拠点助教(血管細胞生物学)らの研究グループが成功した。 脳の病気の解明や治療薬の開発につながると期待される。 23 日、米科学誌ステムセルリポーツに発表した。 脳の血管の内側には、細胞同士が密着して病原体や異物の侵入を抑える「血液脳関門」という機能がある。 脳に作用する薬剤を見つけても脳の神経細胞まで到達しないなど、この機能が治療薬を開発するうえでネックとなっている。
山水さんらは、健康な人の皮膚の細胞から作った iPS 細胞を元に、通常の血管内皮細胞や神経細胞など 4 種類の細胞を作製。 一緒に培養したところ、細胞同士が密着に結合し、血液脳関門と同じような、脳の血管内皮細胞の特徴を持つ細胞ができた。 この細胞を使えば、新しい治療薬の候補が脳まで到達するか判定でき、治療薬の開発につながると期待されるという。 山水さんは「治療薬開発にかかる時間やコストを削減できる。 脳の血管の病気などのメカニズムの解明にも活用できる」と話す。 (西川迅、asahi = 2-25-17)
iPS 細胞、10 倍速く培養 京大とグンゼが新素材開発
iPS 細胞や胚性幹細胞(ES 細胞)を、従来の方法と比べて 10 倍速く培養する技術を、京都大とグンゼ(大阪市)の研究グループが開発した。 海外の科学誌「バイオマテリアルズ」に 7 日発表した。 iPS 細胞から組織や臓器を作るには、大量の細胞を培養する必要がある。 だが、現在の培養皿で増やす方法では少量しか作れず、容器に多くの培養液を入れてかき回す方法も効率が低いことが課題だった。
亀井謙一郎・特定准教授(幹細胞工学)らは、ゼラチンなどを使ってきめの細かい布状の繊維素材を開発。 この素材に iPS 細胞を置いて培養すると、短時間で高品質な iPS 細胞が得られた。 従来の方法と比べて、培養期間を 5 - 10 分の 1 に短縮でき、コストも減らせるという。 亀井さんは「今後、素材の面積を大きくするなどして、実用化につなげたい」と話している。 (西川迅、asahi = 2-9-17)
他人の iPS 細胞で網膜移植 今年前半に世界で初実施の見込み
失明の恐れがある網膜の病気の患者に対して他人の iPS 細胞を使う臨床研究について、厚生労働省の部会は 1 日、理化学研究所などのチームが出した計画の実施を認めた。 今月中にも厚労相から正式に通知が出され、今年前半に移植が実施される見込み。 京大 iPS 細胞研究所 (CiRA) が健康な提供者の血液から作って備蓄する「iPS 細胞ストック事業」の細胞を網膜の組織に変化させ、加齢黄斑変性の患者の目に移植する。 計画では大阪大と神戸市立医療センター中央市民病院で計 5 人に手術し、安全性を評価する。 他人の iPS 細胞を使った臨床研究は世界で初めて。
CiRA では昨年 11 月、赤ちゃんのへその緒の血液(臍帯血(さいたいけつ))から作った iPS 細胞で、試薬ラベルが誤って貼られているのが見つかり、本来使わない試薬に含まれる遺伝子が混入した可能性を否定できないとして先月 23 日に提供を停止した。 今回の移植では、通常の血液(末梢血)からつくった別の iPS 細胞が使われる。 部会では CiRA の担当者が今回使う iPS 細胞の製造過程を再確認し、問題がなかったことを報告し、部会も「問題ない」と判断したという。 (福宮智代、合田禄、asahi = 2-1-17)
iPS 視細胞移植で失明マウスに光 理研
iPS 細胞から作った視細胞を失明したマウスの目に移植し、実際に光を感じさせることに理化学研究所の万代道子・副プロジェクトリーダーらが成功した。 失明につながる難病の治療を目指し、2 年以内に臨床研究を申請する計画だ。 米科学誌ステムセルリポーツに 11 日発表する。 光は網膜の中の視細胞が感じ取り、脳につながる神経に信号を送る。 視細胞は、信号を脳に伝える神経の層と、これらの活動を支える色素上皮細胞の層に挟まれ、体内で新たに作られないため、病気で壊れると視力を失う。
グループは、理研の笹井芳樹氏(故人)らが開発した、網膜を試験管内で作り出す技術を応用し、マウスの iPS 細胞から未熟な状態の視細胞を作製。 視細胞を失ったマウスに移植すると、目の中で成熟して正常な視細胞のようになることを突き止めていた。 今回、移植から 1 カ月以上たったマウスの目から網膜を取り出して調べると、視細胞が移植先の神経とつながり、光をあてると信号が流れることを確認。 マウスの行動テストでも、約 4 割が光に反応することがわかった。
グループは次の段階として、ヒトの iPS 細胞から作った視細胞の効果や安全性を動物で確認できれば、遺伝が原因で視細胞が壊れる網膜色素変性の患者で臨床研究を始める。 万代さんは「移植がうまくいけば、病気の進行を遅らせたり、視力を部分的に回復させたりできる可能性がある」と話す。 網膜色素変性は国内に約 3 万人の患者がいるとみられる。 根治治療がなく、カメラで得た情報で神経を刺激する人工網膜や遺伝子治療が試みられている。
理研では、色素上皮が傷ついて物が見えづらくなる加齢黄斑変性の患者にiPS 細胞から作った色素上皮を移植する臨床研究に着手し、2014 年に世界初の手術に成功している。 (阿部彰芳、asahi = 1-11-17)
iPS 創薬、国が支援 6 年で 60 億円規模、大筋了承
患者の細胞から iPS 細胞を作り創薬につなげようと、国が新たな支援事業に乗り出す。 文部科学省の部会が 9 日、来年度から 6 年間で約 60 億円規模の事業内容を大筋了承した。 製薬企業が薬を作る際の種となる研究を積極的に支援する。 同省幹細胞・再生医学戦略作業部会が、事業を担う研究機関の公募要領を了承した。 早ければ来年 1 月に公募を開始。 研究拠点 1 件ごとに数千万 - 1 億円、具体的な研究課題も 1 件あたり数千万円を支援する。
新事業は、再生医療と創薬の二本を柱に、10 年で 1,100 億円を iPS 細胞研究に支援するという国の目標を具体化したもの。 これまでは主に、高品質で安全な iPS 細胞を「作る」技術の開発が続いてきた。 新事業ではさらに進め、iPS 細胞を「使う」ことに主眼を置く。 難病に限定されてきた iPS 細胞の研究対象を、成果が期待できる場合に限り、難病以外の病気の創薬にも広げる方針。 各研究機関や大学には、理化学研究所バイオリソースセンターが中心となって iPS 細胞を提供する構想という。 (福宮智代、竹石涼子、asahi = 12-9-16)
iPS からがん免疫細胞、京大など作製 … 白血病治療活用へ
人の iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から、がん細胞を高い精度で認識し、攻撃力を強めた免疫細胞を作製することに成功したと、京都大などのチームが発表した。 チームは、この免疫細胞を使って血液のがんである白血病患者を治療する計画を進め、2019 年の臨床試験(治験)開始を目指している。 論文は 22 日、米医学誌電子版に掲載される。 京大の河本宏教授(免疫学)らは 13 年、人の iPS 細胞から、がん細胞を攻撃する免疫細胞の一種「キラー T 細胞」を作製することに成功した。 キラー T 細胞は、細胞表面にある分子の違いで攻撃相手を見分ける。 だが、iPS 細胞から作ったキラー T 細胞は分子を認識する力が弱く、そのままでは医療応用が難しかった。
今回、iPS 細胞をキラー T 細胞に変える途中で、質の良い細胞だけを取り出すなど培養方法を改良。 この方法で作ったキラー T 細胞は分子を認識する力が高まり、がん細胞を効果的に攻撃することが確認できたという。 このキラーT細胞を白血病のマウス 15 匹に投与したところ、4 匹が 150 日以上生存した。 投与しなかったマウスは 75 日以内に 15 匹とも死んだ。 河本教授は「治験に向け、さらに安全性を検証したい」と話している。 (yomiuri = 11-22-16)
マウスの iPS 培養で卵子を大量作製、九州大が世界初 人で実現すれば「不妊の原因究明に」
マウスの人工多能性幹細胞(iPS 細胞)から培養だけで卵子を大量に作ることに世界で初めて成功したと、九州大や京都大などのチームが 17 日付の英科学誌ネイチャーに発表した。 この卵子と通常の精子を体外受精させることで、8 匹のマウスが誕生。 今回の作製方法に磨きがかかれば、数年以内に人の卵子作りが実現する可能性もある。
これまでの手法では、作製過程でマウスの卵巣への移植が必要で、人への応用につなげるのは難しかった。 ただ人の卵子の作製は将来、子の誕生につながり得る技術のため、倫理的な課題も浮上しそうだ。 チームの林克彦・九州大教授は「不妊女性の iPS 細胞を使って卵子の形成を再現すれば不妊の原因究明につながる。 体外で大量の卵子を作ることができれば、絶滅危惧種の保護にも利用できるかもしれない。」としている。 (sankei = 10-18-16)
iPS を立体培養 = 細胞環境、体内に近く - 京大
人の人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を立体的に培養することに世界で初めて成功したと、京都大の亀井謙一郎特定准教授らのグループが発表した。 これまではガラスプレートなどの平面で培養してきたが、より体内に近い立体的な環境を実現したことで、創薬や再生医療への応用が期待される。 論文は独科学誌の電子版に掲載された。
研究グループは、半導体分野などで実用化されている微細加工技術に着目し、シリコンゴム製の「3 次元細胞環境プレート」を開発した。 培養部分は長さ 1 センチ、幅 1 ミリ、高さ 200 マイクロメートル(マイクロは 100 万分の 1)。 プレートに細胞と培養液のほか、温度に応じて液体やゲル状に変化する合成ポリマーなどを注入すると、球体になった細胞群を培養できる。 温度を変化させるだけで回収も簡単にできる。 亀井特定准教授は「実際の細胞は横だけでなく縦にも並び、それが組織の構築につながっている。 立体的に細胞を培養できるのは大きな一歩になる。」と話している。 (jiji = 10-15-16)
iPS 細胞でサルの心筋梗塞治療 信州大チーム成功
サルの iPS 細胞から作った心筋細胞を心筋梗塞(こうそく)を起こした別のサルに移植して治療することに信州大学などのチームが成功した。 10 日付の英科学誌ネイチャーに発表した。 拒絶反応が起きにくい特殊な免疫の型を持ったカニクイザルを選び、その皮膚の細胞から作った iPS 細胞を心筋細胞に変化させ、心筋梗塞を起こした別のサルの心臓に注射した。 免疫抑制剤を与えて観察すると、移植した細胞が生着し、移植しなかったサルに比べて、心臓を収縮させる力が一定程度改善するのが確認できた。
一方、移植から 14 日後までに移植した 5 頭すべてで「心室性頻拍」と呼ばれる不整脈が一時的に確認された。 チームの柴祐司准教授(循環器内科)は「心拍数が近いサル同士の移植だからこそ、不整脈の副作用を分析することができた。 今後は人での心臓治療の安全性のために、不整脈の副作用を予防する方法を考えたい」とする。 (福宮智代、asahi = 10-11-16)
iPS 細胞使い目の難病治療薬を開発へ 理研など
理化学研究所(埼玉県和光市)と先端医療振興財団(神戸市)、参天製薬(大阪市)の 3 者は、iPS 細胞を使って目の難病の治療薬を探す共同研究を始めたと、6 日発表した。 うまく候補が見つかれば、その後の臨床試験につなげたいという。 3 者は共同研究室を神戸市に設置。 研究期間は 3 年間で、一昨年に世界で初めて iPS 細胞を使った移植手術を手がけた理研の高橋政代プロジェクトリーダーが責任者を務め、ほか 7 人の研究者や医師らが参加する。
理研が技術を持つ、iPS 細胞を変化させて立体的な網膜組織を作る技術を活用。 その組織に手を加え、網膜色素変性症や加齢黄斑変性といった目の難病と同様の状態にする方法を開発する。 病気と似た状態になった組織で、参天製薬が持つ薬の候補物質などを試し、治療薬となりそうなものを特定していくという。
研究費は非公表。 iPS 細胞を使った創薬は企業や研究機関が試みているが、今回は立体的な網膜組織を使うことが特徴。 参天製薬の広報担当者は「細胞の相互作用などもある立体網膜を使うことで、新薬開発のスピードや可能性が高まるメリットがある」という。 (合田禄、asahi = 10-7-16)
iPS 由来細胞のがん化、予防法を開発 慶応大チーム
ヒトの iPS 細胞からつくった神経幹細胞が、マウスの体内でがんになるのを防ぐ方法を、慶応大の岡野栄之教授(生理学)と中村雅也教授(整形外科学)らのチームが開発した。 22 日付の米科学誌ステム・セル・リポーツ電子版に発表した。 iPS 細胞による治療の安全性を高めるのがねらいだ。
iPS 細胞が機能をもった様々な細胞になる過程で細胞が過剰に増殖して一部ががん化するおそれが指摘されている。 治療に使うには、がん化をいかに防ぐかが最大の課題で、様々な方法が研究されている。 チームは、神経幹細胞の中で、組織への分化や細胞の複製に重要な遺伝子の働きを調節する仕組みに注目。 ヒトの iPS 細胞から作った神経幹細胞を、この仕組みが働かなくなるようにする「GSI」という薬につけてから、脊髄が損傷したマウスに移植した。
その結果、GSI で処理しなかった細胞を移植したマウスでは、腫瘍ができるときにみられる異常な細胞増殖がおき、一時回復した運動機能は 42 日目以降に再び低下した。 一方処理した細胞を移植したマウスは、細胞が異常に増えることなく、移植後に回復した運動機能も維持された。 現在は目の加齢黄斑変性の臨床研究が進められ、がん化を防ぐ別の方法で対応している。 岡野教授は「がん化という iPS 細胞治療の課題を克服できる可能性がある。 実験で確認した仕組みは他の組織の細胞にも関わっており、様々な組織の移植治療の安全性向上につながる」と話す。 (福宮智代、asahi = 9-23-16)
拒絶反応ない iPS 網膜の移植 サルで成功 理研
サルの iPS 細胞から作った網膜組織を別のサルに移植し、免疫抑制剤を使わず拒絶反応を防ぐことに、理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらのグループが成功した。 人への移植の安全性を裏付ける材料の一つになる。 15 日付の米科学誌で発表する。 高橋さんらは 2 年前、目の難病患者に、iPS 細胞から作った網膜組織を世界で初めて移植。 この iPS 細胞は患者自身の細胞から作ったため、他人の細胞が体内に入ると通常起きる拒絶反応は避けられるが、費用と時間が課題だった。
このため、多くの人と免疫の型が合う健康な人の iPS 細胞を使う臨床研究を準備している。 患者と型が合えば、拒絶反応は起きにくいとみられている。 サル 2 頭に、型の合った iPS 細胞から作った網膜組織を目に移植したところ、6 カ月後も免疫抑制剤なしで拒絶反応が起きないことを確認した。 型を合わせずに移植した 5 頭では、数カ月以内に拒絶反応が起きた。
免疫抑制剤は感染症やがんなどのリスクがあり、使わずにすめば患者の利点になる。 グループは加齢黄斑変性の患者の免疫の型を調べる作業を進めており、杉田直(すなお)・副プロジェクトリーダーは「実際の患者でも型が合えば免疫抑制剤を使わなくても、うまくいくのではないか」と話している。 (阿部彰芳、asahi = 9-16-16)
iPS 細胞だけ取り除く技術、京大チームが開発
様々な細胞の中から、iPS 細胞だけを取り除く技術を京都大の斉藤博英教授(生命工学)らの研究チームが開発した。 iPS 細胞を使った再生医療の安全性を高めるのに役立つ可能性がある。 9 日、英科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表した。 様々な細胞になる能力がある iPS 細胞は、分化が不完全なまま混じると、腫瘍になる恐れがある。
斉藤教授らは、iPS 細胞内にある「マイクロ RNA」と呼ばれる小さな分子を活用し、iPS 細胞以外の細胞だけが光る試薬を作製。 iPS 細胞から分化した神経細胞は蛍光を発したが、残った iPS 細胞や分化が不完全な細胞は光らなかった。 (西川迅、asahi = 9-9-16)
iPS 細胞備蓄の採血、東京でも 対象者の負担を軽減
京都大 iPS 細胞研究所 (CiRA) は 8 日、健康な人の細胞から作った医療用 iPS 細胞を備蓄する「iPS 細胞ストック」を進めるため、京都大で実施している採血を東京都内でも始めると発表した。 これまでは採血のために平日に京都大に来てもらう必要があったが、8 月以降に東京海上グループの提携医療機関「海上ビル診療所(東京都千代田区)」での採血が可能になる。 同診療所は東京駅から徒歩約 5 分で、土曜日の採血も可能。
移植しても拒絶反応が起きにくい特殊な免疫の型を持った人の血液の細胞から iPS 細胞を作って備蓄する。 一部地域の献血者や、骨髄バンクの新規ドナー登録者らの中から該当する免疫の型を持つ人に協力を呼びかけている。 CiRA によると、これまで約 50 人が協力の意思を示し、十数人が採血を終えたが、遠方を理由に協力が得られない人もいたという。
現在は日本人の約 2 割に合う iPS 細胞を供給できる状況だが、2022 年度末までに日本人の大半と一致する型の備蓄を目指している。 日本人の 8 割と一致させるためには 75 種類の型が必要という。 CiRA の山中伸弥教授は会見で「(計画にとって)画期的なステップになると期待している」と話した。 (南宏美、asahi = 7-8-16)
高品質の iPS 細胞を効率よく作製 慶応大
質のいい iPS 細胞を効率よく作製することに成功したと慶応大などの研究チームが発表した。 米科学誌ステム・セル・リポーツ(電子版)に 27 日、論文が掲載された。 iPS 細胞などの万能細胞は通常、マウスの受精卵に移植して、どれだけ様々な組織になれるか「多分化能」を確かめる。 iPS 細胞では細胞によって多分化能にばらつきがあることが課題の一つだった。 慶応大の福田恵一教授(循環器内科)らは、iPS 細胞の作製に使う三つの遺伝子に、卵子のもとになる細胞にあるたんぱく質「H1foo」の遺伝子を加えて、iPS 細胞を作った。
この iPS 細胞をマウスの受精卵に移植して多分化能を調べると、三つの遺伝子だけで作る iPS 細胞よりも高いことが確認できた。 また、H1foo 遺伝子を加えることで、iPS 細胞ができる割合が約 50% から 90% 以上に高まることもわかった。 H1foo 遺伝子には、他の遺伝子を働きやすくする作用があると考えられている。 福田さんは「質の良い iPS 細胞を効率よく作れれば研究者の手間が省け、再生医療の実現にも有効な技術になるのではないか」と話す。 (南宏美、asahi = 5-27-16)
iPS 網膜臨床で理研など連携 他人の細胞から作り移植
iPS 細胞から作った網膜組織を患者の目に移植する臨床研究について、理化学研究所のグループが、京都大、大阪大など 3 機関と共同で準備を進めていることが 12 日、わかった。 移植には、他人の細胞から作った iPS 細胞を初めて使う予定で、安全性の評価などで連携し、iPS 研究を加速させる狙い。 研究は、理研多細胞システム形成研究センター(神戸市)の高橋政代プロジェクトリーダーらが計画。 京都大 iPS 細胞研究所(CiRA、山中伸弥所長)が iPS 細胞を提供し、阪大と神戸市立医療センター中央市民病院が、手術や診察を担う方向で現在調整している。
世界初となった 2014 年の移植では、患者自身の皮膚の細胞を元にした iPS 細胞で作った網膜の組織を使ったが、今回は、健康な他人の細胞から作り、品質をチェックした「医療用 iPS 細胞」を使うことが大きな特徴。 治療にかかる時間とコストを大幅に減らせると期待されている。 CiRA は昨年から製薬企業や研究機関に配り始めた。 (阿部彰芳、asahi = 5-13-16)
iPS で皮膚まるごと再生 理研などマウスで成功
マウスの iPS 細胞を使い、毛を生み出す「毛包(もうほう)」や皮脂腺などを含む皮膚全体をまとめて再生することに成功した、と理化学研究所(理研)などのチームが発表した。 やけどや重度の脱毛症などの治療に役立つ可能性があるという。 論文が 1 日付の米専門誌「サイエンス・アドバンシズ」に掲載される。 皮膚は表皮や真皮などの層状になっていて、毛包、皮脂腺、汗腺などが含まれる。 ヒトの皮膚から表皮のみを培養してやけどの治療に使う再生医療製品はあるが、複雑な構造をした皮膚全体をまとめて再生したのは初めてという。
理研多細胞システム形成研究センター (CDB) の辻孝チームリーダーらは、マウス iPS 細胞を培養し、皮膚の様々な組織のもとになる細胞の塊を作製。 この塊を複数個、コラーゲンの中に入れるなど独自の方法でマウスの体内に移植すると、一部で通常と同じような構造の皮膚が再生された。 その部分を別のマウスの皮膚に移植すると生着した。 毛がはえかわることも確認された。 辻さんは「ヒト iPS 細胞でも同様に皮膚をまとめて再生することは可能だろう」と話す。 (南宏美、asahi = 4-2-16)
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