iPS 細胞つかったパーキンソン病治療、住友ファーマが承認申請

iPS 細胞からつくった神経細胞をパーキンソン病の患者に移植する治療について、住友ファーマは 5 日、厚生労働省に再生医療製品としての製造販売承認を申請したと発表した。 審査結果は年度内にも示される可能性があり、承認されれば、iPS 細胞を使った世界初の治療法となる。 パーキンソン病の患者は国内で推定約 25 万人。 ドパミン(ドーパミン)という物質をつくる脳内の神経細胞が減り、手足が震えたり、体が動きにくくなったりする。 脳にドパミンを補充する薬物療法で症状を抑えるが、数年経つと薬が効きにくくなる。

iPS 細胞を使ったこの治療法は、他人の iPS 細胞をドパミンをつくる神経のもととなる細胞に変化させ、患者の脳に移植し、症状の改善をねらう。 治療の安全性や効果について、京都大の研究チームが 2018 年から医師主導で治験(臨床試験)を進めていた。 治験結果によると、薬の効きが悪くなってきた 50 - 60 代の患者 7 人の患者の脳に計 500 万 - 1 千万個の細胞を移植したところ、健康上の大きな悪影響(有害事象)は無かった。 また、移植した細胞が定着し、ドパミンをつくり出すことを確認した。

飲んでいる薬が効いていないときの運動機能の改善を評価すると、6 人中 4 人の症状が改善した。 例えば、車いすが必要な患者が、介助を受けながら立ち上がったり歩いたりできるようになった。 住友ファーマは、京大の治験を支援しながら、承認申請に向けた準備を進めてきた。 iPS 細胞を使ったこの製品は、画期性や病気の重篤性などから、国の「先駆け審査指定制度」の対象になっている。 通常は申請から審査まで 1 年かかるが、審査期間が半年ほどを目安に短縮される。

早ければ年度内にも承認される可能性がある。 iPS 細胞を使った再生医療製品での申請は、大阪大発ベンチャーによる心筋シートに次ぐ 2 例目とみられる。

早期承認制度、6 製品で適用 本承認されない例も

iPS 細胞を使ったパーキンソン病の再生医療製品について、住友ファーマが製造販売の承認申請をした。 安全性や効果を確かめる治験はわずか 7 例。 条件付きの承認(仮免許)を受けた後、販売しながら「本承認」をめざすことになる。 通常、医薬品などの承認には大規模な治験が必要となる。 薬の場合、治験薬を使う患者と、偽薬を使う患者に分けて、効果と安全性を確かめる。 だが、ヒトなどの細胞を原料とする細胞製品を使った治療は、製品ごとにばらつきが大きく、安定した品質で大規模な治験をすることが難しい。

そのため、細胞治療や遺伝子治療といった「再生医療製品」について、国は「条件・期限付き早期承認制度」を 2014 年から導入している。 少数の治験結果をもとに、安全性の確認や効果の推定ができれば、早期に販売の仮免許を与える。 その後、最長 7 年間で数十人規模の大規模調査を実施。 製品の効果や安全性を検証し、本承認するか判断される。

これまで、6 製品がこの制度で早期承認された。 心不全治療の「ハートシート」、脊髄(せきずい)損傷の「ステミラック注」、慢性動脈閉塞(へいそく)症の「コラテジェン筋注」、悪性神経膠腫(こうしゅ)の「デリタクト注」、外傷性脳損傷の「アクーゴ脳内移植用注」、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの「エレビジス点滴静注」だ。

だが、本承認に至らない例もある。 ハートシートとコラテジェンは、市販後の調査で、有効性などが確認できず、販売終了や申請の取り下げとなった。 残りは調査中や販売開始前となっている。 早期承認に向けた今後の審査では、本承認を見すえて、どのような科学的根拠をもとに判断するかがポイントになる。 (後藤一也、asahi = 8-5-25)


iPS 細胞から心臓組織の多層化シート 拡張型心筋症の患者に移植

iPS 細胞からつくった心臓組織のシートを、重い心不全の患者に移植した、と東京女子医大が 28 日発表した。 患者は予定通り移植後 1 カ月で退院した。 このシートを移植する治験(臨床試験)は今後、東京大病院や九州大病院でも実施され、計 10 人の患者で効果と安全性を確認する予定だ。 心臓組織シートは京大発ベンチャー「アイハート・ジャパン(京都市)」が開発した。 今回の移植が 1 例目となる。

iPS 細胞から心臓の筋肉の細胞や血管の細胞を作り、シートを作製。 シートの間にゼラチンをはさみ、5 層に加工した多層シート(直径約 4 センチ、厚さ約 1 ミリ)を患者の心臓に移植する。 シートから分泌される物質によって心臓機能の回復を図る。 今回の治験は、心臓のポンプ機能が落ちて心臓が大きくなる「拡張型心筋症」の 18 - 79 歳の患者が対象。 この病気の患者は国内に約 2 万人いるとされ、子どもから高齢者まで幅広い年齢層で発症する。 薬を使って心不全を予防するが、症状が進行すると、補助人工心臓や心臓移植が必要となる。

発表によると、移植は 5 月 23 日に実施。 免疫による拒絶を抑えるために 24 週間は免疫抑制剤をのむ必要があるが、現在は外来で経過を観察しているという。 心臓移植は希望した全員が受けられるわけではない。 東京女子医大循環器内科の山口淳一教授は「拡張型心筋症は、治療に非常に難渋する病気。 この疾患に届く再生医療を育てていく必要がある。」と話した。 この研究を進めてきた東京大学の山下潤特任教授は「やっとここまで来た。 人に使われるようになり、身が引き締まる思いだ。」と述べた。

iPS 細胞からつくった心臓の細胞を、重い心臓病の患者に移植する治験は、大阪大発ベンチャー「クオリプス」と慶応大発ベンチャー「ハートシード」も進めている。 クオリプスは、iPS 細胞からつくった心臓の筋肉の細胞シートを虚血性心疾患の患者 8 人に移植する治験を実施した。 その結果をもとに、4 月に厚生労働省に製造販売承認を申請した。 ハートシードは、iPS 細胞からつくった心臓の筋肉の細胞を塊にして、虚血性心疾患の患者 10 人に移植した。 現在は、患者の経過を観察している。 (後藤一也、asahi = 7-28-25)


iPS 細胞からつくった精子・卵子の受精を容認 子宮への移植は禁止

内閣府の生命倫理専門調査会は 24 日、ヒトの iPS 細胞など幹細胞からつくった卵子や精子から受精卵(胚)をつくる基礎研究を認める報告書を大筋でとりまとめた。 国の指針で禁じられていたが、研究目的に限り容認する。 文部科学省などが今後、関連する指針の改正に向けた検討を進める。 受精卵からつくる ES 細胞(胚性幹細胞)や、血液などの細胞からつくる iPS 細胞(人工多能性幹細胞)は、無限に増え、様々な細胞に変化できる能力を持っており、世界ではこれらの幹細胞から精子や卵子をつくる研究が進められている。

日本では 2010 年の国の指針が、ヒトの幹細胞から精子や卵子をつくる研究は認めているが、受精は認めていない。 調査会がまとめた報告書は、幹細胞でつくった卵子や精子を受精させる研究について、受精直後に胚で起きていることの解明に有用で、遺伝性疾患や不妊治療の開発などにつながる期待があるとして容認。 ただ、胚を子宮に移せば、「『人』として誕生し得る存在」となることから、培養期間は 14 日まで、子宮への移植は禁止した。 目的も生殖補助医療や、遺伝性疾患の解明など一部の基礎研究に限る。

マウスを使った研究では、精子や卵子をつくり、その受精卵から子どもができることも確認されている。 ヒトでは現時点で iPS 細胞などから卵子や精子をつくれる段階に至っていないが、近い将来、実現する可能性がある。 研究計画に科学的合理性と社会的妥当性があるかについては、研究機関の倫理委員会が審査し、国が指針に合っているか確認することになる。 (後藤一也、asahi = 7-24-25)


ヒトの iPS 細胞からあごの骨を初作成、マウスで定着も確認 京大

ヒトの iPS 細胞から下あごの骨の一部をつくることに、京都大学の研究チームが成功した。 iPS 細胞から立体構造のあごの骨をつくったのは初めてという。 マウスの下あごの骨に穴を開け、そこに移植したところ骨ができて周りの骨にくっついた。 将来的には歯周病やがん治療などであごの骨を失った人への治療に役立てたいという。 あごの骨は、手足の骨などと違い軟骨をつくらずに集まった細胞が直接骨をつくる。 研究チームはヒトの血液細胞からつくった iPS 細胞で骨の細胞の元になる細胞をつくり、さらに骨を形作る骨芽細胞などに分化させ、米粒大のあごの骨の一部をつくることに成功した。

研究チームはさらに、マウスの下あごに 2 ミリの穴を開け、米粒大の骨の細胞を三つ移植したところ、新たな骨ができて周りの骨にくっついたという。 今後は、骨づくりに必要な代謝活動をつかさどる破骨細胞も加えた、より実際に近い骨をつくることを目指すという。 研究チームの京大 iPS 細胞研究所の池谷真准教授(幹細胞生物学)は「骨の治療には骨セメントなどを使った治療があるが、今回開発した細胞が実際の治療に使えるようになれば、より自然な硬さの質の高い骨で治療ができる。 また、靱帯などが骨になっていく進行性骨化性線維異形成症といった難病の解明などにも役立てたい」と話した。

研究成果は 2 日発行の科学誌「ネイチャー・バイオメディカル・エンジニアリング」に掲載された。 (坪谷英紀、asahi = 7-2-25)


ファストリ柳井氏寄付の iPS 製作所完成 自動化でコスト減めざす

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の寄付を主な財源とし、京都大学 iPS 細胞研究財団が運営する iPS 細胞の製造施設「Yanai my iPS 製作所」が大阪市内に完成し、20 日、開所式があった。 製作所は日本初の大規模な臨床用自家 iPS 細胞製造拠点で、人を対象にした臨床研究や治験用の iPS 細胞を患者自身の細胞からつくる。

開所式には、総額 45 億円を寄付する柳井さんや、財団理事長を務める山中伸弥・京大教授らが出席。 山中さんは「iPS 細胞を良心的な価格で提供していきたい。 多くの人の健康寿命を 1 日も長く延ばしていきたい。」と話した。 製作所では、細胞の培養などを自動化することでコストを減らし、1 人分のiPS 細胞を 100 万円程度で提供するのが目標。 年間 1 千人分を製造し、2028 年度中に臨床研究や治験用に提供することを目指している。 (坪谷英紀、asahi = 6-20-25)

 

iPS で膵島細胞、1 型糖尿病患者に移植、経過良好で安全確認 京大

血糖値を一定に保つインスリンを出す膵臓(すいぞう)の細胞が破壊される 1 型糖尿病について、京都大病院は 14 日、重症患者 1 人に iPS 細胞からつくった膵島(すいとう)細胞を移植する臨床試験を 2 月に実施し、経過は良好で安全性に問題ないことを確認したと発表した。 この成果を受け、移植する細胞数を増やして 2 例目を近く行う。 今後、治療効果を確認し、2030 年代の実用化をめざす。

 

1 型糖尿病は免疫異常などで膵島細胞が壊される病気。 国内の推計患者数は 10 万 - 14 万人。 食事や運動など生活習慣の見直しで改善できることの多い 2 型糖尿病とは異なる。 毎日数回のインスリン注射が主流の治療法だが、負担が大きい。 亡くなった人からの膵島移植もあるが、日本では年数例程度しかなく、慢性的なドナー不足が課題となっている。

京大 iPS 細胞研究所は、iPS 細胞から膵島細胞をつくってシート状にする技術を開発。 マウスやブタで効果が確認できたことから、研究チームは 2 月、名刺の半分ほどのシート複数枚を 40 代の女性患者の腹部 2 カ所に移植した。 他人の細胞由来だが、現時点では移植細胞への拒絶反応や、腫瘍(しゅよう)化するなどの症状はみられないという。 術後 1 カ月で退院し、現在は通院で状態を確認している。 研究チームはさらに今後 20 歳以上 65 歳未満の成人 2 人に移植する予定で、術後 1 年にわたり安全性を確認。 安全が確認できれば、治療効果を海外も含めた多施設で確認する。

京大病院の矢部大介教授(糖尿病・内分泌・栄養内科)は、「インスリン注射がいらなくなることをめざしたい。 今後は 1 型糖尿病の小児に対象を広げ、将来的には患者が圧倒的に多い 2 型糖尿病の治療にも応用できたらいい」と述べた。 (坪谷英紀、asahi = 4-14-25)


iPS細胞から作った心筋シート、承認申請 世界初の治療に一歩

重い心不全患者の治療で移植する様々な組織になれる iPS 細胞からつくった心臓の筋肉のシートについて、大阪大学発のベンチャー「クオリプス」が、再生医療製品としての製造販売承認の申請をした、と 8 日発表した。 承認されれば、iPS 細胞を使った世界初の治療法となる。 阪大などの研究チームは、心臓の太い血管が詰まり、心筋がはたらかない「虚血性心疾患」による重い心不全の患者に対し、他人の iPS 細胞からつくった心筋シートを移植する治療を開発してきた。 心筋シートから分泌される物質により、心臓の血管を再生させることなどをねらう。

2020 年から大阪大病院や九州大病院などで計 8 人の患者に移植する医師主導治験を実施してきた。 少数例でも効果があることが推定できれば、「仮免許」のような形で製造販売を承認する「条件・期限付き早期承認制度」を利用する。 研究を主導する大阪大の澤芳樹特任教授は「治験で移植した細胞の安全性を確認することができた」としたうえで、「iPS 細胞ができて約 20 年が経ち、患者に届けるための大きなステップだ。 新しい治療を世界に普及させ、多くの人の命を救いたい。」と話した。 (asahi = 4-8-25)


脊髄損傷の患者に iPS 由来の細胞移植、4 人中 2 人で一部回復 慶大

脊髄損傷による体のまひを治すために、iPS 細胞からつくった未熟な神経細胞を患者に移植する臨床研究に取り組む慶応大などの研究チームが 21 日、移植を受けた 4 人のうち 2 人で一部の運動機能が回復したとする結果を発表した。 チームは「有効性を持つ可能性が示唆された」とし、慶応大発ベンチャー「ケイファーマ」が、より多くの患者を対象に安全性や有効性を検証する治験を実施する予定だという。 脊髄は脳と体の各部をつなぐ神経の束。 交通事故などで圧迫され損傷すると、脳からの信号が体に届かなくなり、運動や感覚の機能がまひする障害が出る。 毎年 6 千人が新たに診断され、国内には 10 万人以上の患者がいるとされる。 リハビリ以外に確立した治療はない。

研究チームの岡野栄之・慶応大教授(生理学)らは、京都大の山中伸弥教授が 2006 年にマウスで iPS 細胞の作製を初めて発表した直後から、iPS 細胞を使って脊髄損傷を治す研究を本格化させた。 脊髄損傷では iPS 細胞を神経のもとになる細胞に変えて移植する手法は世界初の試みで、21 年 12 月に 1 人目の患者に移植し、注目を集めてきた。 今回の臨床研究は、脊髄が損傷してから 14 - 28 日経ち、体の一部の運動機能が完全に失われている患者が対象。 5 段階ある脊髄損傷の重症度のうち最も重い。

計 4 人に移植し、免疫抑制剤を使い、リハビリもしながら、24 年 11 月までに 1 年間の経過観察をした。 その結果、2 人は一部の運動機能が戻るまで回復し、うち 1 人は補助を受けながら立つ姿勢をとることができ、歩行に向けた訓練もしているという。 移植した細胞ががん化するなどの安全上の懸念はみられなかった。 専門医療機関である総合せき損センターのデータによると、「完全まひ」から運動機能が一部でも回復する人は約 10 - 12%。 今回移植を受けた人数は 4 人と少ないため、統計的に有効性があるのかどうかは判断できないという。

研究チームによると、患者に移植された細胞数は 200 万個で、事前の動物実験などから初めての臨床研究として認められた「最大限」の量だったという。 ただ、患者によって、脊髄の損傷部位の大きさには差もあったため、より移植する細胞数を増やすなどの改善点が考えられるという。 慶応大整形外科学教室の中村雅也教授は「4 例(という少ない数)であり、本当にすごいものができたと言うつもりはないが、(一定の改善がみられたことで)次につなげられる光が見えた」と語った。 (野口憲太、asahi = 3-21-25)