薬の効果、患者の iPS 細胞使って確認 京大など

患者からつくった iPS 細胞を使って、骨の難病に高脂血症治療薬スタチンが効く可能性があることを見つけたと京都大などのグループが発表した。 グループは患者での臨床試験(治験)を 2 年以内に始める計画で、iPS 細胞技術を用いた治療薬研究の先駆けとして期待される。

iPS 細胞は培養条件によって様々な組織や細胞に変えられる。 このため、患者の細胞で iPS 細胞を作り、病気を再現し、有効な薬を効率的に見つける研究が進んでいる。 コレステロール値を下げるスタチンは、すでに多くの人が使っている。 薬の承認に向けた治験で、骨の難病でも有効性が確かめられれば、新薬を開発するより、早くコストを抑えて実用化できるという。

論文は英科学誌ネイチャー電子版に 18 日掲載される。 この難病は軟骨無形成症と呼ばれ、骨を作り出す軟骨細胞が正常に増えず、手足の骨が短くなってしまう。 遺伝子の突然変異が原因で、およそ 2 万人に 1 人の割合で起き、国内には推定で約 6 千人の患者がいる。 (阿部彰芳、asahi = 9-18-14)


iPS 手術「見え方明るくなった」 執刀医「経過順調」

iPS 細胞(人工多能性幹細胞)からつくった細胞を目の難病患者に移植した世界初の手術から一夜明けた 13 日、執刀した先端医療振興財団(神戸市)の先端医療センター病院のチームが記者会見し、患者の容体について「経過は非常に順調だ」と語った。 執刀した栗本康夫眼科統括部長らは 13 日午前 9 時ごろ、患者の 70 代女性を診察。 その際、眼帯を外した女性は「見え方が明るくなった。 (医師の)白衣の白さがきれいに見える。」と話したという。

栗本氏は「病気の部分を取り除いたことによるか、移植した細胞が機能しているかの(2 つの)可能性があるが、慎重に評価しなければならない」と説明。 一方で、「翌日からそうなるとは想定していなかった」と語った。 手術は、網膜の組織が傷む難病「加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」の女性から採った皮膚の細胞を iPS 細胞にして、正常な網膜組織の細胞を作製。 12 日午後、女性の右目に移植した。

13 日は女性の目や移植した細胞の状態を検査。 眼圧などの数値は正常だという。 視力測定はしておらず、見え方は女性自身の認識によるものだという。 大きな出血や網膜はくりなどは起きておらず、移植した細胞は同じ位置にあり、今のところ、炎症などの拒絶反応はみられないという。 栗本氏は「1 日後時点では、きちんと(iPS 細胞からつくった細胞が)ついていると考えられる」と話した。(野中良祐、asahi = 9-13-14)

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iPS 細胞使った移植手術実施 理研、世界で初めて

理化学研究所などのチームが 12 日、目の難病患者の皮膚から作製した iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を網膜の組織に分化させ、患者に移植する手術を実施したと発表した。 iPS 細胞を使った治療を人で試すのは世界初。 手術の安全性を確認するのが目的で、計 6 人に実施する予定だ。 同日夜に記者会見する。

理研発生・再生科学総合研究センター (CDB) の高橋政代プロジェクトリーダーを中心に研究を進め、先端医療振興財団(神戸市)の先端医療センター病院が手術を実施した。 手術を受けたのは、網膜の下の細胞が傷み、視力が落ちたり視界がゆがんだりする難病「加齢黄斑変性」の患者。 兵庫県在住の 70 代の女性という。 (福島慎吾、asahi = 9-12-14)

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iPS 細胞、9 月中にも移植手術 理研が世界初臨床研究

理化学研究所などが取り組む iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を使った世界初の臨床研究について、厚生労働省の「ヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会(委員長 = 永井良三自治医大学長)」が 8 日夜に開かれ、移植に使う細胞の品質などに特に問題がないと判断した。 これを受け、理研などのチームは今月中にも、移植手術を始める見通し。

臨床研究は、iPS 細胞からつくった網膜色素上皮細胞を加齢黄斑変性の患者 6 人に移植し、治療するもの。 この日、患者の皮膚細胞からつくった iPS 細胞と、iPS 細胞からつくった網膜色素上皮細胞の解析結果について、理研から委託を受けた京都大 iPS 細胞研究所の山中伸弥所長や、臨床研究に取り組む理研の高橋政代プロジェクトリーダーらが説明した。 加齢黄斑変性は、網膜の中心部にある「黄斑」で色素上皮という層に余計な血管が生え、網膜を圧迫して視野がゆがむなどする難病で、失明する場合もある。 (asahi = 9-9-14)


京大、ヒト iPS 細胞から肺胞上皮細胞を分化誘導・単離する方法確立

京都大学大学院医学研究科の三嶋理晃教授らの研究グループは、京大 iPS 細胞研究所の長船健二准教授、京大の小川誠司教授らと共同で、ヒト iPS 細胞から肺胞上皮細胞を分化誘導し、単離する方法を確立した。 肺の再生研究や呼吸器の難病を治療する創薬開発につながると期待される。

研究グループは、まず肺胞上皮細胞の前段階となる肺胞前駆細胞を単離濃縮できるようなたんぱく質を突き止めることが重要とみて、条件を調べた。 その結果、CPM が有用な表面たんぱく質であることが分かった。 また肺胞を作る際に不可欠な II 型肺胞上皮細胞に、蛍光たんぱく質 (GFP) を導入し、分化すると光るヒト iPS 細胞を作製した。

CPM を使って単離した肺胞前駆細胞を 3 次元培養して肺胞上皮細胞を分化誘導すると、GFP が光り、II 型肺胞上皮細胞の単離を確認できた。 京大病院長を務める三嶋教授は「これまで難しかったヒトの細胞を使って肺の再生や難治性疾患の研究に踏み込める大きなチャンスが到来した」としている。 (日刊工業新聞 = 8-22-14)


iPS のパーキンソン病治療、4 年後に治験計画 京大

iPS 細胞から作った神経細胞でパーキンソン病の治療を目指す京都大 iPS 細胞研究所 (CIRA) の高橋淳教授は 20 日、作製する神経細胞の薬事承認を得るため、2018 年度にも治験を始める構想を明らかにした。 承認が得られれば、品質の安定した神経細胞を製品として流通させることができ、再生医療普及の大きな足がかりになる。 報道関係者との会合で明らかにした。 パーキンソン病はドーパミンという神経伝達物質を作る細胞が減っていき、運動に障害がでる難病。 動物実験では、重症化する前なら、神経細胞の移植で治療効果が期待できるとされている。

高橋教授らは来年度から患者自身の細胞から作った iPS 細胞を使い、臨床研究を始める予定だ。 iPS 細胞によるパーキンソン病治療は例が無く、安全性や一定の効果が確認できれば、治験に進む方針。 治験では CIRA がストックする iPS 細胞を使う予定。 患者にとっては他人の細胞で拒絶反応のリスクがあるが、大量生産が可能になり、コストを大幅に下げられるメリットがある。 一方、患者自身の細胞を使う治療法も京大病院で続ける計画だ。 4 年後には、保険診療と併用できる先進医療への認定を目指すという。 (阿部彰芳、asahi = 8-21-14)


血友病の遺伝子治療、マウスで成功 京大などのグループ

血友病のマウスを遺伝子治療で治すことに京都大や奈良県立医科大などのグループが成功した。 今後、ヒト iPS 細胞などに応用する。 米科学誌プロスワンで 16 日発表した。 血友病は血液を固まらせるたんぱく質をつくれないか、足りないため、血が止まりにくくなる病気。 重症の患者は数日ごとにこのたんぱく質の製剤を注射しなければならず、根本的な治療法はない。 このたんぱく質は肝臓でつくられるが、患者ではそれをつくる正常な遺伝子が欠けている。

京大 iPS 細胞研究所の堀田秋津助教らは、血友病のマウスの肝臓に、この遺伝子を特殊な運び屋分子を使って入れ込んだ。 すると、このたんぱく質がつくられるようになり、300 日以上効果が続いた。 出血が止まりやすくなるなど血液を固める機能が回復したことも確かめた。 今後、この方法で遺伝子を組み込んだヒト iPS 細胞からこのたんぱく質を出す肝臓の細胞をつくって移植するなど、患者の治療への応用を目指すという。 (鍛治信太郎、asahi = 8-16-14)


iPS 細胞研究所 細胞作製に特定ウイルス

京都大学の iPS 細胞研究所は、ヒトの細胞が iPS 細胞に変化する際、特定のウイルスが活性化していることを発見しました。 今後、質の高い iPS 細胞の作製につながると期待されています。 iPS 細胞は、体のあらゆる部分になることができる万能細胞で、動物の皮膚などの細胞に 4 つの遺伝子を導入することで作製されます。

今回、iPS 細胞研究所は、ヒトの体細胞を iPS 細胞に変化させる過程で、「HERV-H」と呼ばれるウイルスが活性化していることを発見しました。 一方で、「HERV-H」の活性化が続くと、他の細胞に変化しにくい不完全な iPS 細胞が出来上がることも分かったということです。 これまでの研究では、このような細胞を移植すると腫瘍になる可能性が指摘されていて、今回の研究が、安全で質の高い iPS 細胞を効率的に作る鍵になると期待されています。 (MBS = 8-5-14)


がん再発の原因細胞を作製 神戸大・京大、iPS 応用

大腸がん細胞から、再発や転移の原因となる「がん幹細胞」を作り出すことに、神戸大と京都大の研究チームが成功した。 iPS 細胞をつくる技術をがん細胞に応用した。 治療困難ながんの「親玉」のがん幹細胞を標的にした薬の開発などに役立つと期待される。

研究チームによると、大腸がんの組織には、ごくわずかな量のがん幹細胞が含まれ、転移や再発を引き起こしているとみられている。 微量でがん組織から取り出すのは、技術的にも難しく、がん幹細胞だけでは培養できず、治療研究を進める際の壁となっていた。 チームは、ヒトの大腸がん細胞に、iPS 細胞の作製に使う遺伝子を入れて、がん細胞を増やすのと同じ条件で培養。 10 日後には、2 - 5% が、がん幹細胞になった。 細胞の性質を調べたり、薬の効果を確かめたりするのに十分な量だという。 (野中良祐、asahi = 7-10-14)


iPS で ALS マウス "延命" 京大、特殊細胞移植で成功

京都大 iPS 細胞研究所の井上治久教授らのグループは、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) を発症したマウスに、人間の人工多能性幹細胞 (iPS 細胞)から作製した特殊な細胞を移植することで、病気の進行を遅らせることに成功したと発表した。 研究成果は、米科学誌「ステム・セル・リポーツ」の電子版に 27 日掲載される。 将来的には、人間でも iPS 細胞を使った再生医療で ALS を治療できるようになる可能性があるという。 国内には ALS の患者は約 8,500 人いる。

井上教授らは、運動神経を維持するのに必要な「グリア細胞」のもとになる細胞を、人間の iPS 細胞から作製。 ALS を発症したマウスの腰に移植したところ、体内でグリア細胞に変化して運動神経の維持に必要なタンパク質を作ることが確認できた。 細胞移植を受けたマウスは運動機能が改善。 細胞移植をしなかったマウス 24 匹の平均生存期間は 150 日だったが、移植をしたマウスは 12 日延びた。 井上教授は「根本的な治療のためには運動神経の細胞そのものを再生する必要があり、さらに研究を進めたい」としている。 (sankei = 6-27-14)


iPS 細胞の大量培養に成功 京大、タンクで量産目指す

ヒトの iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を、高い品質を保ちながら大量培養する新技術を京都大などのグループが開発した。 従来の技術より生産規模を拡大しやすく、大量の iPS 細胞が必要な脊髄(せきずい)損傷などの再生医療に適した量を安定供給する実用システムにつながると期待される。 米科学誌ステムセルリポーツ電子版に 25 日発表する。

iPS 細胞は無限に増える能力を持つが、量産は難しい。 培養皿で増やす方法では一枚で得られる量が限られる。 底の深い容器に培養液を入れて増やそうとすると細胞が底に沈んで増えなくなる。 沈まないようにかき混ぜると細胞が傷つくおそれがある。 また、細胞の塊が大きくなると内部まで栄養が届かなくなる。

京大の中辻憲夫教授(幹細胞生物学)らは、食品添加物に使われる増粘剤を培養液に加えると細胞が沈まなくなることを発見。 別の添加剤で細胞の塊同士をくっつきにくくさせ、大きくなった塊を網目に通して安全にバラバラにする技術も確立した。 その結果、培養液 200 ミリリットルの容器で、直径 10 センチの培養皿約 20 枚分の高品質な iPS 細胞を得ることに成功した。

中辻さんは「容器を大きくして培養液を増やせば量産につながる」と話す。 企業と連携し、3 年以内に大型タンクで大量培養するシステム作りをめざす。 (阿部彰芳、asahi = 4-25-14)


パーキンソン病治療へ iPS 移植 京大、16 年春にも

iPS (人工多能性幹)細胞を使ったパーキンソン病治療の臨床研究について、京都大 iPS 細胞研究所は 6 日、早ければ 2016 年の春から夏にかけて初めての移植手術に着手する見通しを示した。 移植用の安全な細胞の大量作製と移植に適した細胞の効率的な選別の方法を開発し、臨床研究に必要な技術をほぼ確立した。 理化学研究所による網膜の再生に次ぐ iPS 細胞の臨床研究になる。

研究所の高橋淳教授や土井大輔研究員のグループ。 iPS 細胞からドーパミンを分泌する神経の元となる細胞を作り、パーキンソン病患者の脳に移植して症状を改善させるための研究を進めている。 サルの実験で効果を確かめているが、人への応用には動物由来の成分を使わないようにするなど課題が残っていた。

グループはヒト iPS 細胞から神経の元となる細胞を作る際、従来のマウス由来の細胞に代わり、人工タンパク質を使う手法を開発。 腫瘍化の恐れが低く、脳内で機能する細胞だけに結合する抗体を見つけ、移植に適した細胞のみを選ぶことにも成功した。 関連論文を米科学誌ステムセルリポーツで 7 日に発表する。 グループによると、臨床研究は京大医学部付属病院と連携し、患者 6 人の血液細胞から iPS 細胞を作製。 ドーパミン神経の元となる細胞に変化させてそれぞれ数千万個を脳に移植する。

15 年 1 月にも法律に基づく京大の第三者委員会に計画を提出。 委員会での審査を経て厚生労働相の承認を受け、早ければ同年夏に臨床研究を開始できる見込み。 患者の血液の採取から神経の元の細胞の作製、品質の検証に 9 カ月を要し、1 例目の移植手術の実施は 16 年春から夏になるという。 高橋教授は「今年は、開発した技術を霊長類で実験して検証し、臨床研究の安全性や有効性を高めるための準備をしたい」と話している。 (京都新聞 = 3-7-14)


iPS 細胞の作製、効率 20 倍に 理研がマウスで成功

iPS (人工多能性幹)細胞の作製効率を、卵子のたんぱく質を導入することで 20 倍に上げる手法を理化学研究所の石井俊輔上席研究員(分子生物学)らがマウスで開発した。 卵子の成分には細胞の初期化を促す働きがあるらしい。 6 日付の米科学誌セル・ステムセルに発表する。

グループが注目したのは、細胞内で DNA が巻き付いている「ヒストン」と呼ばれるたんぱく質。 山中伸弥京都大教授は四つの遺伝子を細胞に導入することで iPS 細胞を作ったが、今回、グループはこの 4 遺伝子とともに、卵子に特有な構造をした 2 種類のヒストンを導入したところ、作製効率が 20 倍に上がった。

このヒストンは、初期化に必要な遺伝子の発現を活発にするらしい。 このヒストンが機能しないように遺伝子操作すると、マウスの半分は育つ前に死んだという。 石井さんは「ヒトも同じような仕組みを持っている。 より高い多能性を持つ iPS 細胞の作製につながる可能性がある。」としている。 (asahi = 2-7-14)


iPS 細胞増やす費用、激減 慶大・味の素が培養液開発

iPS 細胞を安く効率よく増やす培養液の開発に、慶応大医学部の福田恵一教授(循環器内科)らと味の素が共同で成功した。 従来品に比べ費用が 10 分の 1 になるという。 味の素では 2016 年度の発売を目指す。

iPS 細胞を増やすには細胞の栄養になるアミノ酸や糖、ビタミン、成長因子などを含む培養液が欠かせない。 特に心筋梗塞(こうそく)などの治療で iPS 細胞から心筋細胞を作って移植することを想定すると、患者 1 人あたり 50 - 100 リットルの培養液が必要。 従来品は 1 人分 1 千万円程度とみられるが、今回の開発で 100 万円程度に抑えられるとしている。

細胞を効率よく増やす性能を約 3 倍にし、製造コストを約 3 分の 1 にした。 慶応大が必要な栄養成分を細かく分析し、味の素が高価な成分を自社生産するか、代替成分を開発することでコストを減らしたという。 (編集委員・浅井文和、asahi = 2-6-14)


iPS 培養、より安全に 広島大、動物使わない手法発見

ヒトの iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を、これまで一般的だったウシの血清やマウスの細胞を使わず作製し、培養する手法を広島大の研究グループが見つけた。 従来より安全で安定的に培養できるという。 米科学誌プロスワン電子版で 30 日発表した。

広島大病院顎(がく)・口腔外科の診療医、山崎佐知子さん (30) らのグループが発表した。 iPS 細胞は通常、ウシの血清を使った培養液と、マウスの細胞を栄養源に増やす。 ウシの血清は入手しやすく細胞が増えやすいが、ヒト由来でないため、人間に拒絶反応が起きやすい。 マウスの細胞も個体差があるといった課題がある。

山崎さんらは、ウシの血清やマウスの細胞ではなく、精製された成分のみの無血清培養液を使い、成長因子など三つの成分を加えて iPS 細胞を作製。 さらに、別の成長因子「TGF-β1」を加えた。 iPS 細胞の性質を保ったまま 60 回まで培養を繰り返すことができ、安定的に増やせることも示されたという。

山崎さんは「動物由来の血清や細胞を使わず安全性が高いため、難病の原因解明や新薬の開発に有効な手法になる」と期待する。 京都大や大阪大などの研究グループが 1 月に発表した同様の研究ではヒト由来の血清が使われていた。 (南宏美、asahi = 1-30-14)


iPS 細胞:作製で染色体異常を修復 移植治療応用に期待

米研究グループが発表

山中伸弥京都大教授が参加する米グラッドストーン研究所(サンフランシスコ)などの研究グループは 12 日、染色体異常の一種「リング染色体」を持つ患者から iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を作製したところ、染色体異常が自己修復されることを発見したと発表した。 修復された iPS 細胞から臓器などを作って移植治療に応用したり、新たな染色体治療につながる可能性があるという。 13 日付の英科学誌「ネイチャー」オンライン版に掲載される。

リング染色体は、一対の染色体のうち 1 本が環状になるなどの異常で、さまざまな発育不良やがんと関係があることが知られている。 研究グループによると、3 人の患者から取り出したリング染色体を含む細胞から 15 株の iPS 細胞を作製すると、10 株で環状になっている方の染色体が消え、正常な 2 本の染色体を持つ細胞になることを発見した。

リング染色体が消失する詳細なメカニズムは不明だが、染色体を解析したところ、正常な 1 本が増幅して 2 本になっていることが判明した。 通常は父と母から 1 本ずつもらう染色体が、片方の親から 2 本もらった状態(片親性)で、機能異常のリスクは残るという。 グラッドストーン研究所の林洋平研究員(幹細胞生物学)は「iPS 細胞作製の過程で染色体が自己修復されるという発見は画期的。 今後、この iPS 細胞を特定の臓器などへ分化誘導し、安全性を確認したい」としている。 (堀智行、mainichi = 1-13-14)


筋肉が骨に変わる難病、iPS で進行再現 京大チーム

【小宮山亮磨、下司佳代子】 全身の筋肉が骨に変わっていく難病「進行性骨化性線維異形成症 (FOP)」の患者の皮膚から iPS 細胞(人工多能性幹細胞)をつくり、実際の病気と同じような骨への変化を再現できたと、京都大が 25 日発表した。 病気の詳しい仕組みの理解や薬の開発につながる可能性があるという。

京大 iPS 細胞研究所(山中伸弥所長)の戸口田淳也教授らは複数の FOP 患者から皮膚の細胞を採取し、iPS 細胞を作製して培養。 FOP ではない人から作った iPS 細胞と比べると、骨の成分であるカルシウムなどミネラル成分が多く沈着していた。 たまったミネラル成分の内部には、実際の骨と同じような繊維状のコラーゲン組織ができていることも確かめた。

FOP は 200 万人に 1 人が発症するという難病。 研究のため患者の病気部分の組織を採取すると病気が進行してしまう。 患者の筋肉細胞では、細胞表面で骨を作る合図を受け取る役目をしているたんぱく質のかたちが、病気でない人とはわずかに異なる。 このたんぱく質にくっつくことで、骨を作る合図が伝わるのをはばむ化学物質を、患者の iPS 細胞に加えると、ミネラル成分が余計にたまるのを防げたという。 (asahi = 12-25-13)


iPS 細胞作製法で包括特許 京大、実用化研究を後押し

【鍛治信太郎】 京都大は 20 日、iPS 細胞(人工多能性幹細胞)の作製法で、国内の新たな特許が成立したと発表した。 事実上、遺伝子を使う作製法すべてをカバーする権利を京大が押さえたことになり、国内の研究者や企業が安心して実用化研究に取り組めるようになる。

日本や欧米などで認められていた特許は、山中伸弥教授らが見つけた遺伝子かその類似遺伝子を使う方法に限られていた。 ほかの遺伝子を使う米国などの方法は京大の特許に触れなかった。 今回、いくつか条件付きだが、山中さんら以外の方法の遺伝子も含め、すべて対象になる。 遺伝子を使わない方法は効率が非常に悪く、この特許に触れずに iPS 細胞をつくるのは極めて困難だ。 (asahi = 12-20-13)


血液から iPS 細胞を作製、臨床研究用に 京大

将来の再生医療に備えて iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を凍結保存する「iPS 細胞ストック計画」で、京都大 iPS 細胞研究所は 4 日、協力者の血液から iPS 細胞を初めて作製したと発表した。 細胞に遺伝性疾患を起こす遺伝子変異や微生物感染がないことを確かめたうえで、2014 年末以降、大阪大や慶応大、理化学研究所へ、臨床研究用に提供する。

計画は、現在の技術では iPS 細胞の作製に時間がかかりすぎて早期の治療が必要な患者に使えないという課題を解消しようと、昨年から始まった。 ただ、他人の細胞から作った iPS 細胞を使う場合は、拒絶反応を起こしにくい細胞を選ぶ必要がある。 75 - 150 種類の iPS 細胞を確保できれば、日本人を対象にした 8 - 9 割の再生医療がカバーできるとされ、iPS 細胞研究所は 22 年度までにストックを完了させる。 (yomiuri = 12-4-13)



iPS 細胞移植、自前なら拒絶リスク減少 京大など確認

【鍛治信太郎】 自前の iPS 細胞からつくった神経を脳に移植すれば拒絶反応はほとんど起きないことを京都大などのグループがサルで確かめた。 一昨年、米国でマウスの iPS 細胞を遺伝的に同じマウスに移植すると拒絶反応が起きたと報告があり、iPS 細胞の安全性が議論になっていたが、他者間での移植よりは有利であることを裏付けた。 京都大 iPS 細胞研究所 (CIRA) の高橋淳教授らは、パーキンソン病で減る神経の細胞を iPS 細胞でつくり、患者の脳に移植する治療法の臨床試験を目指している。 (asahi = 9-27-13)


iPS 初臨床で特設サイト開設 加齢黄斑変性の患者対象

目の難病「加齢黄斑変性」の患者を対象にした iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を使った初の臨床研究について、理化学研究所と先端医療振興財団(ともに神戸市)は 9 日、特設ウェブサイト (http://www.riken-ibri.jp/AMD/) を開設した。 参加できる患者の条件や応募方法のほか、今後は研究の進み具合なども公開していくという。 (asahi = 8-9-13)


iPS 細胞の臨床研究、8 月から患者募集 目の難病治療

【小宮山亮磨】 iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を人に応用する世界初の臨床研究について、理化学研究所と先端医療センター病院(神戸市)が 30 日、会見を開き、研究計画を正式に発表した。 理研の高橋政代プロジェクトリーダーは「治療法を作るための第一歩。 これから長い道のりがある。 責任をひしひしと感じている。」と述べた。

臨床研究は、目の「色素上皮」という組織によけいな血管が生えて視力が落ちる難病「加齢黄斑変性症」の患者 6 人が対象。 血管や古い色素上皮を取り除き、患者自身の肌から iPS 細胞を通して作った色素上皮を移植する。 理研は 2 月、計画書を厚生労働省に提出した。 iPS 細胞は遺伝子導入で作られるため、移植後にがん化するなどして人体に害を与える恐れもある。 こうした問題が起きないかどうか、専門家による厚労省の審査委員会での審議を経て、今月 19 日に田村憲久厚労相が計画を了承した。

参加する患者の募集は、8 月 1 日から始まる。 高橋さんは会見で「厚労省において、諸手続きを迅速に行っていただいた。 世界に先駆けて、適切な形で臨床研究を行えることを感謝している。」と述べた。 (asahi = 7-31-13)


iPS 細胞、世界初の臨床応用へ 目の難病向け、国了承

【下司佳代子、小宮山亮磨】 iPS 細胞(人工多能性幹細胞)が世界で初めて、人の病気の治療研究に使われることになった。 26 日、目の難病・加齢黄斑変性の臨床研究計画についての国の審査が実質的に終わり、来夏にも移植手術が行われる。 人での作製発表から 6 年で、iPS 細胞は、再生医療への応用に向けて大きく動き出した。

iPS 細胞のような新しい幹細胞技術は人体への影響がわからないことが多く、厚生労働省の指針で国が審査することになっている。 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の高橋政代プロジェクトリーダーらのチームが 2 月、審査委に申請した。 審査委は、iPS 細胞が移植後に異常な振る舞いをしないかなど今回の研究の第一の目的である安全性の確認について集中的に議論した。 (asahi = 6-26-13)


動物体内でヒト臓器、研究容認へ 移植用、倫理面で課題

【下司佳代子】 ブタなどの体内で人間の膵臓や肝臓を作る実験が動き出す - -。 動物を利用して人間の移植用臓器を作るための基礎研究を認める方針を 18 日、国が示した。 iPS 細胞(人工多能性幹細胞)などの技術を活用したものだが、人間と動物の両方の細胞を持った新たな動物を生み出すことにつながり、双方の境界をあいまいにさせるなど、人間の尊厳に関わる問題もはらむ。

対象になったのは、人間と動物の両方の細胞を持った「動物性集合胚(はい)」を作る研究。 例えば、ブタの膵臓ができないようにした受精卵を、胚に育て、人間の iPS 細胞を入れて動物性集合胚を作る。 これをブタの子宮に戻すと、人間の膵臓を持つ子ブタが生まれる可能性がある。 ブタの臓器は人間とほぼ同じサイズで、人間の移植用臓器になりうる。 (asahi = 6-19-13)


iPS 細胞で治療用血液 英チーム、3 年後の治験めざす

【下司佳代子】 iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から治療用の血液を作る計画が英国で動き出した。 英エディンバラ大などが赤血球を作り、3 - 4 年後から臨床試験(治験)を目指す。

チームは当初、ES 細胞(胚〈はい〉性幹細胞)を使う計画だったが、受精卵を壊して作るために反発があった。 iPS 細胞はこれをクリアできる。 人の皮膚などの細胞から iPS 細胞を作って、輸血に使う赤血球を大量に製造する計画だ。 同大などが 5 月末、英国医薬品庁から、治療に使う細胞の製造を許可されたと明らかにした。 臨床試験には、あらためて国の許可が必要。 (asahi = 6-14-13)


iPS でパーキンソン病治療 来年度にも臨床研究申請へ

【下司佳代子】 iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から神経の細胞をつくり、パーキンソン病の患者の脳に移植する新しい治療法について、京都大 iPS 細胞研究所の高橋淳教授は 6 日、早ければ来年度にも臨床研究の実施を国に申請する意向を明らかにした。

パーキンソン病は、神経伝達物質ドーパミンを作る神経細胞が脳内で減り、手足のふるえや運動機能の低下が起きる難病。 高橋さんらは、患者の細胞から作った iPS 細胞をドーパミンを作る神経細胞に変化させて脳に移植する。 東京都内で開かれた講演で高橋さんは「プロトコル(研究の計画)はほぼ固まった。 今後 1 - 2 年かけて有効性、安全性を検証し、臨床研究に進みたい」と話した。 (asahi = 6-7-13)


止血剤 : iPS 細胞から作製、生産へ

京都大と東京大の研究グループによるバイオベンチャー企業「メガカリオン(東京都港区)」が、iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から血液成分の血小板を作製し、外科手術や出産時などに使われる新たな止血剤の生産に乗り出す。 iPS 細胞から医薬品を大量生産する世界初のケースとなるという。

止血剤は血小板を原料とする血液製剤の一種。 現在、血小板の供給は献血に頼っているが、保存期限が約 4 日しかなく、ウイルス混入による感染症への対策も必要で、安定供給が課題となっている。 同社によると、研究・開発は、東大医科学研究所の中内啓光教授、京大 iPS 細胞研究所の江藤浩之教授らが主導。 既に血小板を作製する技術で特許を取得した。 年内にも京大内に開発拠点を置き、早ければ 2015 年から臨床試験を開始、18 年にも日米で販売に乗り出す計画という。

同社の三輪玄二郎社長は「血小板を大量生産することで、安全で安価な止血剤を供給できる。 臨床応用に向け、生産技術を確立したい。」と話している。 (五十嵐和大、mainichi = 5-2-13)


てんかん : 脳内病態を再現 iPS を神経細胞に変え

薬が効かない「難治てんかん」の患者の皮膚細胞から人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を作って神経細胞にし、脳内で起きる病態を再現することに成功したと、福岡大と慶応大の共同研究チームが 2 日付の英医学誌で発表した。 人の細胞を使うことで新薬の開発が加速できるという。

てんかんは、体が震えるなどの発作を繰り返す脳の病気。 電気信号で情報をやりとりしている神経細胞の活動がうまくいかなくなって起こると考えられている。 人口の 1% が患者とされ、多くは飲み薬で発作を抑えられるが、約 3 割の患者では薬が効かない。 チームは、乳児期に発症する難治てんかん「ドラベ症候群」の患者の皮膚細胞から iPS 細胞を作製。 これを神経細胞に変化させて調べた結果、脳の抑制機能をつかさどる神経細胞で電気信号を作る能力が低下していることが確かめられた という。 (斎藤有香、mainichi = 5-2-13)


iPS で筋ジス再現 = 筋肉細胞、効率よく作製 - 京大

体のさまざまな細胞になれる人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を使い、筋肉が次第に衰える筋ジストロフィー患者の細胞を作製することに、京都大 iPS 細胞研究所の桜井英俊講師らのグループが初めて成功した。 新薬の開発に応用が期待できるという。 研究成果は 24 日、米科学誌プロスワンに掲載された。

iPS 細胞を使って再現したのは、「三好型」と呼ばれる筋ジストロフィー。 研究グループは患者の細胞から iPS 細胞を作り、骨格筋細胞に変化させた。 三好型には、骨格筋細胞の細胞膜が壊れる症状がある。 iPS 細胞から作った骨格筋細胞の細胞膜にレーザーで穴を開けると修復されなかったが、三好型の患者にない特殊な膜たんぱく質を細胞内で働くようにしたところ、穴をふさぐ修復機能が回復した。

骨格筋細胞について研究グループは、iPS 細胞から効率よく作製する方法も開発した。 遺伝子の運び屋(ベクター)を工夫し、従来は 40% 程度だった作製効率を 90% に引き上げることに成功、作製期間も6週間から 2 週間に短縮できた。 (jiji = 4-24-13)


貧血治療に iPS 活用 赤血球増やす細胞作製に成功

【小宮山亮磨】 赤血球が増えるのを手助けする細胞をヒトの iPS 細胞(人工多能性幹細胞)からつくり出すことに、香川大と京都大のチームが成功した。 腎臓が原因で起きる貧血について、現行の治療法より体の負担が軽い新治療法の開発を目指す。

つくったのは、エリスロポエチンというホルモンをつくる細胞。 腎臓にあり、酸素を運ぶ赤血球を必要に応じてつくるよう、骨髄に促す働きをしている。 腎機能が落ちてこのホルモンが減ると貧血になる。 香川大の人見浩史助教らは、ヒトの iPS 細胞を数種類の化学物質などで刺激。 できた複数の種類の細胞から、ホルモンをつくる細胞だけをより分けた。 細胞がつくったホルモンを貧血のマウスに注射すると、赤血球の量が回復した。 (asahi = 4-22-13)


iPS 細胞、初の臨床研究を承認 目の細胞つくり移植

【東山正宜】 ヒト iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から目の細胞をつくり、患者に移植する初の臨床研究について、移植手術を担う神戸市の先端医療振興財団は 13 日、倫理委員会にあたる再生医療審査委員会を開き、計画を条件付きで承認した。 研究チームが所属する理化学研究所などは年度内にも厚生労働省に申請する。

対象は、目が見えにくくなる加齢黄斑変性という病気。 網膜に酸素や栄養を橋渡しする色素上皮という細胞の層が壊れ、視界が狭くなったり、視力が落ちたりする。 計画では、神戸市の理研発生・再生科学総合研究センターが、患者自身の細胞から iPS 細胞をつくり、色素上皮細胞に変化させてシートにする。 このシートを財団の付属病院が患者の目の底に移植する。

シートづくりは理研の倫理委が昨年 11 月に承認。 財団側の委員会は研究チームに対し、iPS 細胞の安全性について第 4 次となる確認試験の結果を報告するよう求めていた。 13 日の審査で「3 次までの試験でも安全性は保たれている」と判断、報告を条件に計画を承認したという。 (asahi = 2-13-13)


iPS 再生医療、承認制に 厚労省案、罰則付きで法規制

【編集委員・出河雅彦、佐々木英輔】 iPS 細胞(人工多能性幹細胞)などを使った再生医療や細胞治療の安全確保を目的にした「再生医療規制法」の厚生労働省案が明らかになった。 人体へのリスクが大きい治療を計画する医療機関には、国の承認を求め、患者に健康被害が出た場合の補償も義務付ける。 厚労省は今国会での提出、成立を目指す。

これまで再生医療などの臨床研究は国による指針で対応しており、法規制は初めてとなる。 iPS 細胞などから作った様々な細胞や組織を移植して、病気などで失われた働きを回復させる再生医療は将来の応用が期待されているが、安全性など未知の面も少なくない。 血液や骨髄、脂肪の中にある幹細胞を使って、がんなど万病に効くと PR する治療も安全性や効果がはっきりしないまま、広がる。 不信感が広がれば実用化の妨げになりかねず、厚労省は罰則付きで法規制が必要と判断した。

「再生医療・細胞治療の安全性の確保等に関する法案(仮称)」によると、人体の働きの再生に限らず、加工した細胞を使う医療行為を、人体へのリスクに応じて 3 分類して規制する。 (asahi = 1-29-13)


iPS 細胞から「毛包」 脱毛治療・育毛剤開発に光

【大岩ゆり】 ヒトの iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を使い、髪の成長に欠かせない組織「毛包」を作ることに慶応義塾大医学部の大山学講師(皮膚科)らの研究チームが成功した。 脱毛の治療や、育毛剤の開発などに役立つと期待される。 毛包は、ケラチノサイトと呼ばれる皮膚細胞でできた筒状の組織で、毛乳頭細胞が出すたんぱく質に促されて毛髪に変化する。 脱毛症の治療では、自分の毛包を別の場所から採取して移植することもあるが、採取できる毛包に限りがあるという。 (asahi = 1-26-13)


ヒトの iPS から腎臓細胞 京大グループが成功

【鍛治信太郎】 ヒトの iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から腎臓の細胞をつくることに京都大のグループが成功した。 マウスでは報告があるがヒトでは初めてという。 腎臓病の治療薬開発や再生医療への応用が期待される。 英科学誌ネイチャーコミュニケーションズで 23 日発表する。

京大 iPS 細胞研究所の長船健二准教授らは、培養の方法を従来よりも工夫して、iPS 細胞からまず腎臓や卵巣、精巣の元になる中間中胚葉(ちゅうはいよう)という塊の細胞をつくった。 さらに、これを培養することで、血液から尿をこしとったり、そこから必要な水分を体に戻したりする腎臓の各器官の 5 種類の細胞ができた。 (asahi = 1-23-13)


iPS、がんやエイズ治療に応用も 免疫細胞「若返り」

【石塚広志、下司佳代子】 iPS 細胞(人工多能性幹細胞)の技術が、がんや感染症の治療に使える可能性が出てきた。 免疫細胞を若返らせる実験に日本の二つの研究チームが成功し、免疫療法の効率を高められることがわかったからだ。

4 日付米科学誌セル・ステムセルにそれぞれ論文を発表した両チームが注目したのは、T 細胞と呼ばれる免疫細胞。 がん化したり、ウイルスに感染したりした細胞が持つ目印(抗原)をアンテナ分子で認識し、これらを殺す働きがある。 免疫療法では、がん細胞や感染細胞を認識する T 細胞を体外で増やして患者に戻すが、もともと数が少なく、1 - 2 週間とされる寿命を終えつつあるものもあるため、効果は限定的だ。

理化学研究所の河本宏チームリーダーらのチームは、皮膚がんの一種、悪性黒色腫の患者の T 細胞に「山中因子」と呼ばれる遺伝子を入れて「初期化」し、iPS 細胞を作った。 さらに「分化」という操作で T 3細胞に戻したら、98% 以上ががん細胞の抗原を認識でき、生まれたばかりの元気な状態になっていた。 iPS 細胞から何万倍もの T 細胞を量産できるといい、数の少なさの問題も克服できる。

一方、中内啓光・東京大教授らのチームはエイズウイルスに感染した細胞を殺す T 細胞で同様の実験に成功。 やはり「若返り」が確認された。 中内さんは「これまでより強力な免疫療法につながる」と話す。 「再生した T 細胞が健康な細胞を傷つけず、がん細胞だけを攻撃するかを確かめるのが次のステップ」という河本さんは、他のがん抗原での作用の確認を計画中。 臓器の再生や創薬で注目される iPS 細胞技術が、がんや感染症の治療に用いられれば、iPS の応用範囲は大きく広がることになる。 (asahi = 1-4-13)