iPS から血小板、難病患者に輸血 世界初の試み、効果と安全性は

京都大学は 9 月 30 日、患者本人由来の iPS 細胞からつくった血小板製剤を輸血した世界初の臨床研究の結果を発表した。 安全性が確認された一方、血中の血小板数に大きな変化はなく、有効性はわからなかった。 京大によると、輸血したのは血小板などの数が減る「再生不良性貧血」という難病患者 1 人で、他人の血小板を使うと拒絶反応が起きる特殊なタイプだった。 そこで、患者自身の血液細胞をもとにした iPS 細胞から血小板をつくり、2019 年 5 月から 20 年 1 月にかけて計 3 回、100 億 - 1 千億個を輸血した。

1 年間の経過観察中に目立った副作用はみられなかった。 ただ、血中の血小板数は大きくは変わらず、効果は判断できなかった。 輸血した血小板が通常より大きいために検査で捉えられなかったり、輸血前の時点で血小板の数が比較的多い患者だったことが影響したりした可能性があるという。

研究開発責任者の江藤浩之・iPS 細胞研究所教授は「実用化にはかなりギャップがある。 慎重に少量から投与し、安全性をきちんと見られて少し安心した。」 実施責任医師の高折晃史・医学部付属病院教授は「人に初めて投与したということは大きな前進だ」と話した。 今後、より血小板の数が少ない患者に、さらに多くの血小板製剤を輸血することを検討するという。 江藤教授らが創設したベンチャー企業「メガカリオン(京都市)」は、他人の iPS 細胞からつくった血小板製剤についても、実用化を目指した臨床試験(治験)を進めている。 (鈴木智之、asahi = 9-30-22)


iPS 細胞に「匠の技」を ロボットと AI だけで分化の最適条件実現

理化学研究所などのチームは、iPS 細胞から目的の細胞を作る際に最適な培養条件を、ロボットと人工知能 (AI) だけで自動的に発見する技術を開発し、27 日、発表した。 再生医療に使う細胞の効率的な生産だけでなく、煩雑な作業をロボットに任せることで生命科学研究の加速につながることが期待される。 体の様々な細胞になれる iPS 細胞を、治療などに使う際は、人の手で目的の組織や臓器の細胞に分化誘導させる必要がある。 ただ、わずかな操作の違いが品質に大きな影響を与える。 安定した品質の細胞を生み出せる「匠の技」は多くの人に伝えることが難しいという課題があった。

チームは、バイオ実験用のヒト型ロボットと AI を組み合わせて、この課題に挑戦。 iPS 細胞を、光を感じる視細胞に栄養を送る「網膜色素上皮細胞」に分化誘導させる最適条件を、人の手を借りずに探すことに取り組ませた。 ロボットには、従来の人の手による細胞の培養方法をプログラムとして組み込み、作業をさせた。 さらにAIの最適化アルゴリズムが作業の結果から検討を重ねることで、144 の培養条件を踏まえ、最適の条件を導き出した。 匠の技による品質と同等の細胞を作り出すことに成功したという。

理研の神田元紀上級研究員は「ロボットと人の役割分担がより進む。 ロボットができることはロボットにやってもらい、難しいことに人が挑戦することが可能になる。」と話している。 (矢田文、asahi = 6-28-22)


iPS + ゲノム編集で悪性脳腫瘍の治療 がん巻き込んで一緒に死滅

iPS 細胞にゲノム編集で特殊な遺伝子を入れて、悪性の脳腫瘍を治療する研究を、慶応大の戸田正博教授(脳神経外科)らのチームが進めている。 2026 年の臨床応用をめざす。 iPS 細胞を使った治療で心配される、入れた細胞ががん化するリスクはないという。 脳に入れた細胞が腫瘍を巻き込んで一緒に死ぬ、という方法だからだ。 治療の対象は、膠芽腫(こうがしゅ)という悪性度の高いがん。 脳腫瘍全体の 1 割程度を占める。 手術で取れる範囲を除去し、抗がん剤や放射線による治療が標準的だが、5 年生存率は約 10% と低い。

治療が難しい理由について、戸田教授は「脳に染みこむように広がるため、手術で取り切れず、薬や放射線も届かずに効果が出にくい」と説明する。 シャーレ上の実験ではがんをすべて殺せても、抗がん剤を脳内に届けられなかったり、放射線を脳の奥まで到達させられなかったりするのが課題となっている。 戸田教授らは 2000 年代から、脳にある神経幹細胞という神経の元となる細胞が、患部に向かっていく現象があることに着目。 なぜ向かうのかはよく分かっていないが、「おそらく腫瘍による炎症に対処しようという動きでしょう。」

「神経幹細胞を治療に応用できないか」と発想したものの、がんが広がる患者の脳から神経幹細胞を取り出すのは非現実的だった。 壁にぶつかっていたが、07 年に山中伸弥・京都大教授が体のあらゆる組織になれる iPS 細胞を人の細胞から作ったと発表。 「これは使える」とひらめいた。 iPS 細胞を使ってどのように治療するのか。 研究を重ね、たどり着いたのが、遺伝子を自在に入れられるゲノム編集の技術と組み合わせて、iPS 細胞を改良する方法だ。

酵母には、抗菌剤の成分を取り込んで抗がん剤の成分に変えてから、自らは死ぬという働きをもつ遺伝子がある。 この遺伝子を入れた iPS 細胞を、神経幹細胞に変化させる。 神経幹細胞を脳に注入すると、腫瘍をめがけて脳の奥にも届く。細胞が行き渡ったところで、抗菌剤を服用。 血液を通して脳に到達した抗菌剤を元に細胞が抗がん剤を作り、腫瘍とともに死滅する、という仕組みだ。 抗菌剤、抗がん剤とも既に広く使われているもので、安全性は確立している。 iPS 細胞を使った治療では、注入した細胞のがん化が心配されるが、この治療法ではその細胞もすべて死ぬため、がん化のリスクもないという。

動物実験では効果が確認できており、戸田教授は「2026 年には人に用いる臨床研究に進みたい」と話している。 脳腫瘍の遺伝子治療に詳しい東京大の藤堂具紀(ともき)教授(脳腫瘍外科)は「海外では他の幹細胞などを使った試みがあったがうまくいかなかった。 iPS 細胞によるメリットがどの程度あるのか、慎重に見極めていく必要がある。」と説明する。

今回の遺伝子を組み込んだ iPS 細胞について、戸田教授は、ほかの病気の治療にも使えるとみている。 別の部位のがんに対して、それぞれの部位に向かう性質のある細胞に変えて同様の方法でがんを退治できる可能性があるからだ。 また、病気で傷んだ組織の細胞に変えて移植する再生医療でも、がん化などの問題が起きた時に速やかに死なせることができるため、安全性を高められるという。 戸田教授は「今後はゲノム編集した iPS 細胞、という遺伝子治療と再生医療の技術の組み合わせが広がっていくのではないか」と話している。 (野中良祐、asahi = 3-26-22)


iPSから「ひも状」網膜細胞作製 定着率向上期待、50 人に移植へ

神戸市立神戸アイセンター病院は 18 日、全身の様々な組織になる iPS 細胞からつくった網膜の細胞をひも状にして、目の難病の患者 50 人に移植する臨床研究を始めると発表した。 ばらばらの細胞を使うとしていた従来の方法より、移植後に細胞が定着しやすくなると見込む。 国の審議会で 17 日に計画が了承された。 光を感じる視細胞に栄養を送る役割がある「網膜色素上皮細胞」の異常が原因で引き起こされる「網膜色素上皮不全症」の患者が対象だ。 失明につながることがある加齢黄斑変性の一部などが含まれる。

他人の細胞由来の iPS 細胞からつくった網膜色素上皮細胞を、長さ 2 センチの、髪の毛よりやや太いひも状に加工。 注射器のような器具で最大2本を患者の網膜の下の部分に入れる。 移植後1年間観察し、細胞が定着するかや、視力の維持・回復などの有効性、安全性を確認する。 同院などのチームは、ばらばらの細胞を含んだ液を注射する方法での臨床研究も進めており、昨年 1 人に移植した。ひも状の細胞はこの方法に比べて定着する比率が高いことを動物実験で確かめているといい、方法を切り替えていくことになるという。 栗本康夫院長は「手術中に、直接細胞を確認できる利点もあり、安心感がある。 多くの患者に早く治療を届けたい。」と話した。 (asahi = 2-19-22)


iPS 細胞からつくった細胞、脊髄損傷患者に移植 世界初 慶大

慶応大は 14 日、iPS 細胞からつくった神経のもとになる細胞を、症状が重い脊髄(せきずい)損傷の患者 1 人に移植したと発表した。 iPS 細胞をつかった脊髄損傷の治療は世界で初めて。 経過は順調で、リハビリをしながら、今後 1 年かけて安全性や有効性を確認する。 移植の対象は、事故などで運動や感覚の機能が失われた「完全まひ」という最も重い状態で、脊髄を損傷してから 2 - 4 週間の「亜急性期」の患者。 京都大 iPS 細胞研究財団が備蓄している他人の iPS 細胞を使い、神経のもとになる細胞を約 200 万個つくって、損傷部に移植した。

脊髄損傷は、リハビリ以外に有効な治療法は確立していない。 移植した細胞には、いたんだ神経回路を修復したり、脳からの信号を伝える組織を新たにつくったりする効果があると考えられている。 慶応大は4人の患者に移植する予定だ。 慶応大の臨床研究の計画は 2019 年 2 月に厚生労働省の部会で了承されていたが、新型コロナウイルスの流行などで、患者の募集が延期となっていた。 (神宮司実玲、asahi = 1-14-22)


「着床」を iPS 細胞使って再現 欧州グループ、不妊の原因解明へ

iPS 細胞などの技術を使って、受精から 5 - 6 日の段階の「受精卵(胚)」をヒトの細胞からつくり、子宮の内膜に入り込む「着床」の始まりを試験管内で再現することに欧州の研究グループが成功した。 不妊の原因解明や治療の開発につながる画期的な成果だが、命の始まりを人工的につくり出す技術でもあり、倫理的な議論を呼びそうだ。 科学誌 ネイチャーオンライン版 に 3 日発表する。

オーストリア科学アカデミー分子生物工学研究所などのグループは、さまざまな細胞に変化することができる ES 細胞(胚(はい)性幹細胞)、iPS 細胞のそれぞれから受精から 5 - 6 日目の「胚盤胞(はいばんほう)」によく似たものをつくった。 さらにヒトの子宮内膜の組織からつくった子宮内膜にそっくりなミニ臓器(オルガノイド)を使い、内膜に付着することを確認した。 不妊治療の体外受精では、胚盤胞になるまで培養し、子宮に移植する。

グループを率いるニコラス・リブロンさんは「今回の実験では、着床の第一歩である子宮内膜への付着を、驚くほど信頼性の高い方法でモデル化することができた」と説明する。 着床は、胚が子宮内膜に付いた後、数日かけて内膜に入り込んで完了する。 「着床は非常に複雑なプロセスで、現時点では子宮内膜にくっつくという最初のステップしかモデル化できていない。」 ヒトの受精卵の研究は、命の誕生につながるため、受精後 14 日以降は培養してはいけないという国際的なルールがあり、日本も採用している。 今回の研究は受精卵そのものではないが、受精後 13 日に相当する時点で培養を中止したという。

人工的に胚盤胞をつくる技術は今年 3 月、海外の二つのグループがそれぞれ成功した、とネイチャーで発表。 ただ、胚盤胞よりもう少し日数のたった胚に近いという指摘がされるなど、発展途上の技術とも見られていた。 今回はさらに別の技術を開発し、胚盤胞をつくることに成功した。 東北大の大隅典子教授(発生学)は「これまでの研究よりさらに一段高い、きわめてエポックメイキング(画期的)な研究と言える」と評価する。 ただし、「今回の試験管内での着床が、どこまで生体内での着床の状態を反映しているかが今後の課題だろう」と指摘する。

大隅さんによると、ヒトが誕生するまでの過程で、最もわかっていない部分が「着床」だ。 着床する際に、受精卵と子宮内膜との間に何らかのやりとりがあり、それによって次の器官形成にすすむことなどは理解されつつあった。 しかし、着床を体外で再現することは難しかった。 着床のしくみが理解できれば、不妊治療や、望まない妊娠を避けるためのよりよい避妊薬の開発などにつながることが期待されるという。

一方、北海道大の石井哲也教授(生命倫理)は「いのちの萌芽(ほうが)を人工的につくりだせるようになりつつあるとも見なせる」と指摘。 体外で人工の受精卵を研究に使うなら倫理的なハードルが低いとの見方もあるが、「そうとは断言できない段階に達しつつある」と懸念する。 (阿部彰芳、後藤一也、asahi = 12-3-21)


iPS からつくった免疫細胞をがん患者に移植、京大などが治験

京都大と国立がん研究センターは 11 日、iPS 細胞からつくった免疫細胞を卵巣がんの患者に移植したと発表した。 iPS 細胞を使ったがん治療は、千葉大などのチームに続き 2 件目。 今回は安全性や副作用を調べるのが主な目的の治験で、今のところ患者に拒絶反応などは起きていない。 患者は、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)を受診している 50 代女性。 卵巣がんを再発、がん細胞が腹膜にも散らばっており、有効な治療法がない状態だった。

9 月に 3 回、京大側が作製し保管している iPS 細胞からつくった免疫細胞のナチュラルキラー細胞計数千万個を、患部に近い腹腔(ふくくう)内に注射した。 免疫細胞ががん細胞を攻撃する働きに期待する。 チームの金子新・京大 iPS 細胞研究所教授らは、治療効果を高めるため、がん細胞を認識する力を高める遺伝子を iPS 細胞に組み込んだ。保険適用となっている白血病治療薬キムリアに使われているのと同様の技術だ。 大量に増やせる iPS 細胞の段階から組み込むことで、安定して供給することができるという。

チームは今後、十数人を対象に移植を進める計画。 治験を担当する国立がん研究センター東病院の土井俊彦・先端医療科長は「順調に進んだとして、数年以内に実用化をめざしていきたい」と話している。 (野中良祐、asahi = 11-11-21)


iPS 細胞駆使して難病の原因解明 拡張型心筋症

大阪大学の研究グループが、iPS 細胞などを駆使して、重い心臓病の仕組みを突き止めた。 治療法として遺伝子治療が考えられることもわかった。 患者ごとに原因を探り、それぞれにあった治療をする「個別化医療」は、がん治療で進められているが、難病にも応用できる可能性を示した。 27 日に発表した。 研究対象は、心臓を収縮させる心筋細胞の働きが悪くなり、心室が広がる「拡張型心筋症」だ。 悪化すると心臓移植や補助人工心臓が必要になる。 原因はさまざまで、重症化する詳しい仕組みは不明だ。

グループは、根本的な治療法の開発をめざし、心筋症の患者の遺伝子を解析した。 10代で発病し重症化した患者では、「デスモグレイン 2」と呼ばれる遺伝子の異常が見つかった。 遺伝子異常と病気の仕組みを探るため、患者の細胞から、様々な細胞になれる iPS 細胞を作った。 iPS 細胞を心筋細胞にして調べると、細胞どうしの結びつきが異常になっており、不整脈を起こし収縮する力も弱いことがわかった。

そこで、遺伝子を効率よく改変できるゲノム編集技術を使い、患者 iPS 細胞の遺伝子修復を試みた。 2 つあるデスモグレイン 2 遺伝子はともに働かなくなっていたが、一方を修復したところ、不整脈を防ぎ、収縮する力も戻った。 この遺伝子の異常が病気を起こしていたことが確認された。 次に、正常な遺伝子を組み込んだウイルスを、患者 iPS 細胞からつくった心筋細胞に感染させた。 遺伝子からたんぱく質ができると、収縮する力が戻ることがわかり、遺伝子治療が有望なことを示した。

がんの治療では、患者それぞれのがんを起こしている遺伝子異常を見つけ、それぞれにあった治療薬を使う「個別化医療」が進められている。 がん以外のまれな病気でも「個別化医療」の開発が探られている。 今回、iPS 細胞やゲノム編集技術で、細胞レベルで病気の状態を詳しく解析し、治療法の可能性を示すことができることを示した。 グループの肥後修一朗特任准教授は、「治療が難しい心筋症は、個別に原因を解析していくことが必要だ」と話している。 英専門誌に発表した論文は ウェブサイト で読める。 (瀬川茂子、asahi =5-27-21)


iPS 血小板、ベンチャーが治験開始 実用化の動き加速

iPS 細胞から止血作用のある血小板製剤をつくり、実用化をめざすベンチャー企業「メガカリオン(京都市)」が、国内で臨床研究(治験)を近く始めることがわかった。 今夏以降に患者に輸血し、安全性や効果を確かめる。 順調に進めば、2023 年に薬としての承認をめざす。 審査機関の医薬品医療機器総合機構 (PMDA) に計画書を提出し、治験の開始に必要な手続きを終えたことを明らかにした。 iPS 細胞からつくられた製品の企業治験は、慶応大発ベンチャーがつくる心筋に続いて 2 例目。 企業の治験が進み、iPS 細胞をもとにした再生医療の実用化の動きが加速しそうだ。

iPS 細胞由来の血小板は、京都大のチームが昨年 3 月、臨床研究として難病の患者に輸血している。 今回の治験は医薬品の販売承認を得るために必要な手続きで、研究目的の臨床研究に比べ、より実用化に近い。 治験は、京大 iPS 細胞研究財団が備蓄している第三者の iPS 細胞からつくった血小板を、重い貧血やがん治療中などで血液中の血小板が減少している成人患者約 10 人に輸血する。 京大病院や関連病院の患者が対象で、募集はしない。 対象患者は、通常の血小板製剤の輸血を継続的に受けており、iPS 細胞由来の血小板の輸血を少量から始め、段階的に全量を置き換える。

1 回の輸血に移植する細胞数は最大で 3 千億個。 iPS 細胞から変化する過程で、血小板は細胞分裂に必要な核がなく、ほかの細胞に比べ、腫瘍(しゅよう)化のリスクは低いとされるが、実際に人に輸血したときの安全性や効果は未知数だ。 まずは安全性の確認を主な目的としているが、輸血後の血小板数の増加の程度をみることで、効果も一定程度、評価できるという。

血小板は重い貧血や、多量の出血を伴う手術などで、患者への輸血に使われる。 献血からまかなわれており、少子高齢化が進む中、将来的に不足することが懸念されている。 新型コロナウイルス感染拡大の状況下では、外出を控え献血に訪れる人が減るといった影響もあり、血液製剤の安定供給はさまざまな課題を抱える。 無限に増やせる iPS 細胞から供給できるようになれば、献血の不足分を補うことが期待される。

メガカリオンは、京大の臨床研究を担う江藤浩之教授らが出資したベンチャー。 実用化に向け、量産するための技術開発などを担っている。 メガカリオンは当初、米国で治験を始める計画だったが、米食品医薬品局 (FDA) との調整に時間がかかっているため、国内での治験を先行させる方針に切り替えた。 (野中良祐、asahi = 4-26-21)


iPS 細胞で心不全治療 慶大発ベンチャー治験開始へ

体のさまざまな細胞になれる iPS 細胞から、心臓の筋肉の細胞をつくって、重症の心不全患者 10 人に移植する治験を、慶応大発の医療ベンチャー、ハートシード(東京都新宿区)が始める。 早ければ夏ごろに 1 例目を実施する。 10 人の成績をふまえ、条件つきで早期承認できる制度を利用して製品化をめざす。 治験を進める慶応大の福田恵一教授によると、治験の対象は、心筋梗塞などが原因で心臓の機能が衰えた「虚血性心疾患」の 20 - 75 歳の 10 人。 慶応大など 10 施設で予定している。

京都大 iPS 細胞研究所が保管している拒絶反応のリスクを少なくした iPS 細胞を使い、その細胞と免疫の型が合うことが条件となる。 ただし、移植後も免疫抑制剤を使う。 移植は、iPS 細胞から変化させた心筋細胞を、1 千個ずつのかたまりにした「心筋球」を、冠動脈バイパス手術と同時に心臓に注射する。 移植後 1 年かけて安全性や有効性をみる。 移植する細胞数は、5 千万個または 1 億 5 千万個で、どちらのほうが効果があるかも確かめる。

福田さんによると、心筋細胞の純度を高め、球状のかたまりにすることで長く心臓にとどまらせ、移植した細胞による不整脈を起こさないよう工夫したという。 慶応大のチームは、今回と同様の心筋球を「拡張型心筋症」の患者の心臓に移植する臨床研究も計画している。 すでに昨年 8 月に厚生労働省の部会で了承され、移植の準備を進めているという。 虚血性心疾患などが原因となる心不全の患者は高齢化で増加しているが、悪くなると根本的な治療は心臓移植しかない。 高齢者は移植の対象外になるため、心不全の進行を抑える治療法が求められている。 福田さんは「治験を積み重ねることで、再生医療を現実の医療としたい」と話している。 (市野塊、後藤一也、asahi = 4-3-21)


iPS から筋肉再生 目的の細胞だけ選ぶ技術開発 京大

京都大 iPS 細胞研究所などのチームは、ヒトの iPS 細胞から筋肉のもとになる細胞を作る際に、ほかの細胞が混じらないよう、目的の細胞だけ選び出す技術を開発した。 筋肉の力が衰える難病「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」を再現したマウスにこの細胞を移植し、筋肉を再生した。 今後、実用化をめざす。 2 日、米専門誌ステム・セル・リポーツに発表した。 この難病は遺伝子の変異が原因で、たんぱく質「ジストロフィン」が作れなくなり、筋力が落ちる。 国内の患者は約 5 千人とされる。

チームは、昨年、様々な細胞になれるヒトの iPS 細胞から、筋肉のもととなる「骨格筋幹細胞」を作り、難病を再現したマウスの右脚に注射して筋肉を再生させることに成功した。 しかし、骨格筋幹細胞を作る際には、幹細胞以外の細胞もできてしまう。 この時は骨格筋幹細胞だけを選び出すため、細胞を光らせる遺伝子を iPS 細胞に組み込んでおり、ヒトの治療にそのまま応用することはできない方法だった。

そこで、チームは目的の細胞だけを選び出す方法を探ってきた。 骨格筋幹細胞の表面にある特徴的なたんぱく質を 2 種類見つけだし、それらを目印に必要な細胞を選ぶことにした。 この方法なら、ヒトへの治療につなげやすい可能性があるという。 患者の細胞から作った iPS 細胞で病気の原因となっている遺伝子を修復し、骨格筋幹細胞を作成。 表面のたんぱく質をもとに選んだ細胞を、病気を再現したマウスに移植し、筋肉が再生することを確認した。 チームの櫻井英俊准教授は「長期間の安全性や効果の確認など課題はあるが、細胞移植治療に向けて有用な方法を示せた」と話している。 (瀬川茂子、asahi = 4-2-21)


iPS 細胞でがん治療、国内初 免疫細胞を注射で移植

iPS 細胞からつくったがんを攻撃する免疫細胞を、千葉大と理化学研究所のチームが、口や鼻などにがんができる「頭頸部(けいぶ)がん」の患者に注射して移植したことが 22 日、わかった。 がんの患者に iPS 細胞を使った治療がされるのは国内で初めて。 移植で使われた細胞は、ヒトの体内にわずかしかない「ナチュラルキラー T (NKT) 細胞」と呼ばれる免疫細胞。 がんを攻撃したり、ほかの免疫細胞を活性化させたりするはたらきがある。 健康な第三者の血液から採った NKT 細胞から iPS 細胞をつくり、大量に増やす。 それを再び NKT 細胞に変化させて患者に移植する。

今回の移植は千葉大病院で 4 日、実施された。 1 回約 5 千万個の細胞を、2 週間おきに計 3 回注射する計画のうち、1 回目の注射を終えた。安全性を確認しながら 2 回目以降の注射をするという。 治験の計画では、2 年間で、手術や抗がん剤などの標準的な治療の後に再発した頭頸部がんの患者 4 - 18 人に対し実施する。 がんは日本人の死因 1 位で、iPS 細胞を使った治療に期待がかかる。 一方、iPS 細胞にはがん化のおそれがあるとされ、第三者の細胞をもとにつくったものを移植する場合は拒絶反応が起きる懸念がある。 実用化に向けては、有効性とともに安全性の確認が大きな課題となる。 (市野塊、asahi = 10-22-20)

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がん患者の iPS 細胞で大量の免疫細胞 治療法を研究へ

京都大 iPS 細胞研究所は 1 日、がん患者の iPS 細胞から大量の免疫細胞をつくり、がんを治療する研究を、大阪大発ベンチャー企業「KOTAI (コウタイ)バイオテクノロジーズ」と始めると発表した。 研究期間は 3 年間で、その後、実際に患者に使う臨床研究をめざす。 研究では、患者のがん組織に含まれる、がんを攻撃する免疫細胞を採取し、iPS 細胞をつくる。 iPS 細胞は様々な細胞になるうえ、無限に増やせる性質がある。 この性質をいかして大量の免疫細胞に変化させ、患者に戻して、がんを退治する方法の確立をめざす。

免疫細胞は一つの細胞ごとに攻撃する対象が異なる。 がん組織に含まれる免疫細胞はがんを攻撃しているとみられ、治療効果の高い免疫細胞を見つけやすい。 攻撃対象を認識する仕組みは iPS 細胞になっても保たれるため、再び免疫細胞に変化させた後も、がんを攻撃することが期待できるという。 対象とするがんの種類は非公表。 京大は iPS 細胞の作製や免疫細胞への変化を担当し、KOTAI 社は免疫細胞の解析を担う。

免疫細胞を使ったがん治療は、血液のがんに対するスイス・ノバルティス社の「キムリア」のように、保険適用となっているものもある。 京大 iPS 研は今回の患者自身の iPS 細胞を使う方法とは別に、備蓄している他人の iPS 細胞を使う治療法の開発も進めており、2021 年に臨床研究を始めたい考えだ。 (野中良祐、asahi = 10-2-20)


失明おそれの患者に iPS 細胞移植 目の病気で 3 種類目

神戸市立神戸アイセンター病院は 16 日、様々な細胞に分化できる iPS 細胞からつくった「視細胞」の組織を、失明のおそれがある網膜の病気の患者 1 人に移植したと発表した。 iPS 細胞を使った目の病気への臨床研究はこれで 3 種類目。 光を受けとめる目の中心的なはたらきを担う組織での試みは初めてとなる。 移植を受けたのは、光を感じる網膜の視細胞が正常に機能しなかったり、なくなったりすることで、暗い場所で見えにくくなったり、視野が狭まったりする「網膜色素変性」の 60 代の女性。 失明のおそれもあり、同じ病気の患者は国内に約 4 万人いるという。 いまのところ、確立した治療法はない。

研究チームは、京都大 iPS 細胞研究所が備蓄している iPS 細胞をもとに、視細胞の元になる未熟な網膜の組織をつくってシート状にし、患者の目に移植した。移植した細胞は目の中で成熟して視細胞となり、脳に向かう神経とつながれば、光を感じられるようになることが期待できる。 今回は安全性の確認が主な目的で、移植した網膜組織が拒絶されないか、腫瘍(しゅよう)ができないかといったことを 1 年かけて評価する。 また、患者の視野がどうなっているか、目の前の物が確認できるかといった機能も評価し、将来有効な治療法となることを目指す。

iPS 細胞を使った目への移植は、これまでに 2 種類の組織で実施された。 2014 年に理化学研究所のチームが「加齢黄斑変性」で、19 年に大阪大のチームが「角膜上皮幹細胞疲弊症」で、それぞれ実施した例がある。

2014 年、理化学研究所のチームが、視細胞に栄養などを送る網膜色素上皮細胞のシート状組織を目の難病・加齢黄斑変性の患者に移植。 iPS 細胞からつくった組織の世界初の移植となった。 この病気には薬剤の注射やレーザーによって進行を抑える治療法がある。 ただ、効果が出にくい人もいる。 19 年には大阪大のチームが、黒目の部分を覆う角膜の表層にある角膜上皮細胞のシート状組織を角膜上皮幹細胞疲弊症の患者に移植した。 他人の角膜移植により治療できるが、角膜の提供数は慢性的に不足している。

iPS 細胞の医療、パーキンソン病や虚血性心疾患にも

iPS 細胞を使った目以外の再生医療では、18 年に京大チームが神経細胞をつくり、「パーキンソン病」の患者の脳に移植。 20 年に阪大チームが心臓の筋肉の細胞を「虚血性心疾患」の心不全患者に移植した。 京大チームは同年、血を止めるはたらきがある血小板をつくり、通常の輸血では拒絶反応を起こしてしまう「再生不良性貧血」の患者に移植したと発表した。 このほか、慶応大チームによる「脊髄損傷」、京大チームによる「ひざ関節軟骨損傷」での臨床研究の計画がすでに国から了承されており、両チームは移植に向けた準備を進めている。 (杉浦奈実、田村建二、asahi = 10-16-20)


iPS 細胞から子宮頸がん攻撃の細胞作製 順天堂大など

iPS 細胞から子宮頸(けい)がんを攻撃する免疫細胞を作製したと、順天堂大学などのチームが発表した。 マウスで効果を確認したという。 チームは人への応用も検討している。 子宮頸がんの多くはヒトパピローマウイルス (HPV) の感染が原因で発症する。 20、30 代の子育て世代でかかることが多く、進行も速いため、「マザーキラー」とも呼ばれる。

チームは健康な人の血液から HPV を攻撃する免疫細胞をつくり、それを iPS 細胞に変えて増やしてから、再び免疫細胞に変化させた。 HPV を攻撃する免疫細胞は血中からわずかしかつくれず、増やすことも難しい。 そこで一度 iPS 細胞にすることで大量作製を可能にした。 マウス実験では、血液からつくった免疫細胞よりも、iPS 細胞からつくった免疫細胞の方が、がんを小さくする効果が高いことが確認できたという。

他人の細胞を入れると拒絶反応が起きるが、今後はゲノム編集で細胞の遺伝子を患者にあわせて拒絶反応が起きにくくなるよう編集し、より多くの患者に使えるようにするという。 2021 年には人を対象にした臨床研究の開始を目指している。 チームの安藤美樹・順天堂大学准教授は「子宮頸がんは若い世代で罹患(りかん)率が高く、若いと進行が速いため治療が難しくなりやすい。 実用化されれば、有効な治療法になる可能性はある。」と話した。 米科学誌「モレキュラー・セラピー(電子版)」で 8 日、発表した。 論文は 同サイト で読める。 (市野塊、asahi = 7-17-20)


iPS 細胞使い筋ジスを治療 京大など、筋肉再生に成功

京都大 iPS 細胞研究所などのチームは、筋肉の力が衰える難病「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」を再現したマウスに、ヒトの iPS 細胞からつくった筋肉のもととなる細胞を移植し、筋肉を再生した。 今後、実用化をめざす。 研究成果が 3 日、米科学誌 ステム・セル・リポーツ電子版 掲載された。 この難病は遺伝子の変異が原因で、たんぱく質「ジストロフィン」が作れなくなり、筋力が落ちる。 国内の患者は約 5 千人とされる。 今年 3 月に新薬「ビルテプソ(一般名ビルトラルセン)」が承認されたが、治療対象は限定的なのが現状だという。

チームは、様々な細胞になれるヒトの iPS 細胞を胎児の成長過程を模して培養し、筋肉のもととなる骨格筋幹細胞に、効率よく変化させることに成功。 難病を再現したマウスの右脚に、約 30 万個の骨格筋幹細胞を注射したところ、ジストロフィンがつくられ筋繊維になり、筋肉が再生した。 注射した右脚は何もしなかった左脚と比べて、筋力が 8% 程度高く、病気の悪化を食い止めることができた。 チームの櫻井英俊准教授は「長期間の安全性の確認など課題はあるが、治療法としてのポテンシャルがあることを示せた」と話している。 (野中良祐、asahi = 7-4-20)

前 報 (8-20-15)


iPS 細胞使い効果確認 アルツハイマー病の薬を治験へ

京都大と三重大は 4 日、家族性アルツハイマー病の患者からつくった iPS 細胞をもとに効果を確認した薬を、実際の患者に服用してもらう治験を始めると発表した。 iPS 細胞の研究をもとに、アルツハイマー病の薬の治験をするのは世界で初めてだという。

三重大病院の冨本秀和教授(脳神経内科)によると、家族性アルツハイマー病は平均の発症年齢が 40 代と若く、進行が速いのが特徴。 一般的なアルツハイマー病と同様に、根本的な治療薬はない。 京大 iPS 細胞研究所の井上治久教授らは、アルツハイマー病患者からつくった iPS 細胞を脳神経に変化させ、他の病気に使われる既存の薬の効果を研究。 パーキンソン病などに使われる「ブロモクリプチン」に、アルツハイマー病に特徴的な、異常なたんぱく質の蓄積を抑える効果があることを確かめた。

研究では、アルツハイマー病の中でも、特定の遺伝子に変異がある家族性アルツハイマー病でもっとも高い効果がみられた。 今回の治験では、家族性アルツハイマー病患者 10 人を薬を飲むグループと偽薬のグループに分け、1年ほどかけて安全性や病気の進行抑制といった有効性を評価する。 患者の公募はしない。 京都大の井上教授は「一刻も早く患者に薬を届けられるよう頑張りたい」と話している。

患者数が少ない難病などの薬は、収益を見込むのが難しいため、企業による新薬の開発がなかなか進まないのが現状。 患者の iPS 細胞を使って既存の薬の効果を調べる方法は、比較的低コストで有効な治療法を見つけられるメリットがある。 ブロモクリプチンは既にジェネリック薬(後発薬)があり、仮に治験が順調に進んで実用化に至った場合でも、患者の費用負担は少なくて済む。 (野中良祐、asahi = 6-4-20)


iPS 治験センターが開設 「死の谷」越え実用化めざす

京都大は 6 日、様々な体の組織になれる iPS 細胞を使った再生医療や、がん、希少疾患などの治療法の効果や安全性を人で調べる臨床研究(治験)を重点的に実施する「次世代医療・iPS 細胞治療研究センター」を開設した。 こうした病棟を設置するのは国内初だという。 大学の研究室が細胞や動物の実験で病気の治療法を開発しても、実用化するまでのコストや安全性、人での効果の違いなどから、企業が治験を担って実用化するまでに至らないことも多い。 研究開発と実用化の間は「死の谷」と呼ばれ、それを乗り越えるのが狙いだ。

センターは京大の研究成果と付属病院がもつ病気の情報などを集積し、開発した治療法で有望なものを患者に早く届けることをめざす。 京大付属病院の敷地内に専用の病棟を新設し、今年度は 15 床でスタートし、2021 年度から 30 床に増やす。 開設にあたり、京大 iPS 細胞研究所の山中伸弥所長は「研究成果が臨床で使えるようになるのかを評価するためには、臨床研究に精通した医療スタッフが必要不可欠。 一日でも早く、できるだけ安価に革新的な医療技術を患者さんに届けられることを祈念している」とコメントを発表し、期待を寄せた。 (野中良祐、asahi = 4-6-20)


iPS 移植、実用化へ着々 5 例目、京大が血小板輸血 安全性 → 効果確かめる段階へ

様々な細胞になれる iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から、病気やケガで失われた細胞や組織をつくりだし、患者に移植する再生医療が、少しずつ実用化に近づいている。 京都大の研究チームが 3 月 25 日、移植 5 例目となる血小板の輸血を発表した。 今後は企業の動きも注目される。 「皮膚からつくった(網膜組織の)細胞が役割を果たしている。」 理化学研究所などのチームが iPS 細胞からつくった網膜の組織を目の難病「加齢黄斑変性」の患者に世界で初めて移植した手術から 5 年余り。 執刀医を務めた神戸アイセンター病院の栗本康夫院長は、朝日新聞の取材に胸を張った。

栗本院長によると、移植した細胞は今もその場にとどまっている。 移植するまでは定期的な注射で視力を維持していたが、移植後は注射なしで視力を維持できている。 2014 年の網膜の後、18 年には京大チームが神経細胞をつくり、「パーキンソン病」の患者の脳に移植した。 19 年には大阪大のチームが目の角膜の細胞をつくって「角膜上皮幹細胞疲弊症」の患者に、20 年にも阪大のチームが心臓の筋肉の細胞を、「虚血性心疾患」の心不全患者に移植した。 京大チームは血を止める血小板をつくり、通常の輸血では拒絶反応を起こしてしまう「再生不良性貧血」の患者 1 人に移植した。

今後も、さまざまな移植の計画が控えている。 慶応大のチームによる「脊髄損傷」、京大のチームによる「ひざ関節軟骨損傷」の臨床研究の計画も、すでに国から了承されており、早ければ 20 年中に移植が始まる可能性もある。 心臓の筋肉の細胞を患者に移植した阪大の澤芳樹教授は朝日新聞の取材に、「日本の再生医療は世界より数年くらい先に進んだ位置にいる。 日本から安全で優れた医療を発信するチャンスだ。」と話す。

これまでの 5 例は、いずれも iPS 細胞からつくった細胞が、がん細胞にならないかなどを調べる安全性の確認が主な目的だった。 今のところ、細胞のがん化や、大きな副作用などの問題は報告されていない。 今後は、治療の有効性を確かめる段階に入っていく。

質担保や費用、普及へのカギ

iPS 細胞を使った再生医療を誰もが受けられるようになるためには、企業による治験を経て、つくった細胞が医薬品として認められなければならない。 目の網膜組織を使った治験をめざす大日本住友製薬(大阪市)とヘリオス(東京都)、血小板では日米での治験を計画するメガカリオン(京都市)など製薬企業やベンチャー企業が取り組んでいる。 だが、いずれも当初掲げていた目標時期は過ぎており、スケジュールを修正している。

医薬品には均一な品質が求められるが、iPS 細胞は遺伝子の変異が起きることがある。 がんに関連する遺伝子以外の変異があってもよいか、といった基準がはっきりせず、製品化のハードルとなっている。 また、こうした安全性の評価には費用もかさむ。 現状では、大学などの研究機関が iPS 細胞をつくって目的の細胞に変えて移植するまでに、数千万円かかる。 実用化にたどり着いても、治療費が高額になることも予想され、どれほどの効果なら社会が受け入れるかといった議論が出てくる可能性がある。

iPS 細胞をつくってノーベル賞を受賞した京大の山中伸弥教授は、iPS 細胞を使った再生医療の現在地について、趣味のマラソンに例え、「ちょうど折り返しに来たところ」と表現している。 (後藤一也、杉浦奈実、野中良祐、asahi = 4-2-20)