iPS から心筋細胞の塊 慶応大が臨床研究申請へ

慶応大医学部の研究グループは心臓の筋肉になる心筋細胞を、iPS 細胞から高純度でつくる方法を開発したと 1 日、米科学誌セル・メタボリズムに発表する。 重い心不全の患者の治療をめざして、来年にも再生医療の安全性を調べる学内の委員会に、臨床研究の申請をするという。

心臓は心筋をつくっている心筋細胞が収縮して拍動することで全身に血液を送り出す。 心筋細胞が病気で失われると、筋肉の収縮する力が低くなってしまう。 福田恵一教授(循環器内科)らの計画では、人の iPS 細胞から心筋細胞をつくって大量に培養。 手術で心臓の心筋内に心筋細胞が約 1 千個集まった直径 150 マイクロメートルの塊を多数注射して移植する。 (浅井文和、合田禄、asahi = 4-1-16)


iPS から角膜細胞 2 年以内に臨床応用へ 阪大など

ヒトの iPS 細胞から、目の角膜細胞をつくることに、大阪大などが成功した。 他人からの提供に頼っていた移植に代わる治療法につながる可能性があり、研究チームは 2 年以内に患者への移植をめざす。 研究成果は 10 日、英科学誌ネイチャー電子版に掲載される。 角膜は黒目の表面を覆う透明の膜。 病気やけがで角膜を作る幹細胞がなくなると、結膜に覆われて失明することもある。 他人からの移植は拒絶反応があり、提供する人も不足。 自身の口の粘膜細胞を移植する方法は、濁りが課題だった。

西田幸二教授(眼科学)らは、ヒトの iPS 細胞から角膜や水晶体などの「原料」が集まった組織を作製。 これを元に、厚さ約 0.05 ミリの角膜上皮の細胞シートを作った。 このシートを、病気の状態にしたウサギに移植すると、治療効果を確認できた。 角膜は血管が通っていないため、iPS 細胞ががん化して増殖する可能性は低く、これまでの研究でも問題は起きていないという。 (石倉徹也、asahi = 3-10-16)


iPS 2 例目見送り「必要ないったん停止」 山中教授

京都大の山中伸弥教授は 25 日、iPS 細胞を使った世界初の移植手術から 1 年以上が過ぎても 2 例目が実施されていないことについて、細胞の安全性評価の基準があいまいなことなどを挙げ、「必要ないったん停止だ」との見解を示した。 都内であった日本医療研究開発機構 (AMED) のシンポジウムで発言した。 理化学研究所などのチームが 2014 年 9 月、目の難病者に iPS 細胞から作った細胞を移植する手術を実施。 山中教授は細胞の安全性評価を担当した。 当初計 6 人の患者に移植する計画だったが、2 人目の患者の iPS 細胞で、遺伝子の一部に変異などが見つかって手術を見送った。

変異はがん化との関係がはっきりしなかったが、山中教授は、安全性を評価する基準があいまいで厳しい評価をせざるを得なかったことや再生医療の臨床研究をめぐる法制度が変わって研究の再申請が必要になったことを挙げ、「いったん立ち止まらざるをえなかった」と説明した。 今年中には臨床研究を再開させたい意向を示した。 また、iPS 細胞の医療応用には研究者が行う臨床研究や、製造販売を目指した治験など複数の選択肢があることを挙げ、「一番早く、安全なものを臨機応変に選んで臨床応用を考えるべきだ」と語った。 (合田禄、asahi = 1-26-16)


iPS 細胞 : 白血病治療に 京大など、免疫細胞作製へ

白血病患者の細胞から作製した人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を利用し、がんを攻撃する免疫細胞を大量に作って治療に役立てようとする研究を、京都大や大阪大、香川大などのチームが今春から始めることが 11 日、分かった。 チームの河本宏京大教授(免疫学)によると、2019 年度にも臨床試験(治験)を始め、数年後に実用化につなげるのが目標。 実現すれば、iPS 細胞を使ってがんを治療する初のケースとなる。

研究では、血液のがんである白血病の患者から血液を採り、免疫細胞「キラー T 細胞」を採取。 キラー T 細胞から iPS 細胞を作製し、再びキラー T 細胞に変化させて増やし、がん細胞に効くか、試験管内や動物を使った実験で確かめる。 キラー T 細胞を増やすのは難しいが、iPS 細胞にすると大量に増やせる利点がある。 また、採取したキラー T 細胞は、がん化した血液細胞だけを狙って攻撃する性質を持っており、iPS 細胞を利用すればこの特質を引き継いだキラー T 細胞を作製できるため、正常な細胞を誤って攻撃するリスクも減らせる。

チームはこれまで、同様の手法で、健康な人から採血して作ったキラー T 細胞を用いて研究してきたが、昨年 10 月、京大の倫理委員会から白血病患者のキラー T 細胞を使用する承認を得た。 河本教授は「これまでの治療法では効果がなかった白血病患者を救えるかもしれない。 他のがんにも応用できる可能性がある」と話している。 (kyodo = 1-11-16)


iPS から効率的に気道細胞 移植などに応用へ 京大ら

ヒトの iPS 細胞から気道表面(上皮)の細胞を効率的に作ることに、京都大と大阪大のグループが成功した。 上皮細胞の異常は重い難病などと関係しており、薬の開発や細胞移植につながる成果だ。 米科学誌ステムセルリポーツ電子版に 25 日発表する。 鼻の穴と肺を結ぶ気道の上皮細胞は様々な種類の細胞からなり、振動する細かい繊毛が生えたものや粘液を出すものがある。 これらが病原体や異物の侵入を防いでおり、うまく働かないと、肺の感染症を繰り返すのう胞性線維症やぜんそくなどにつながる。

気道の上皮細胞は体内から大量に取り出して研究に使うことができず、人工的に作る技術が期待されていた。 グループは、iPS 細胞を上皮細胞に変える途中に現れる特定の細胞だけを取り出して培養すると、高効率に上皮細胞が作れることを発見。 繊毛の動きや粘液の分泌なども確認した。 また、患者の iPS 細胞から上皮細胞を作る研究も進めている。 三嶋理晃・京大教授は「試験管で病気を再現できれば、病気の診断や治療薬の開発に役立てられる」と話す。 (阿部彰芳、asahi = 12-25-15)


iPS 細胞、京大と武田が共同研究 最短 3 年で臨床応用

京都大 iPS 細胞研究所 (CiRA) と武田薬品工業は 15 日、iPS 細胞の臨床応用に向けた 6 つの共同研究を始めたと発表した。 5 年以内の臨床応用が目標で、最短で 3 年後の実現を視野に入れているという。

CiRA の研究者 6 人がリーダーとなり、武田の湘南研究所(神奈川県)で研究する。 iPS 細胞から作った膵臓(すいぞう)の細胞による糖尿病の治療法の開発や武田が持つ薬の候補物質を使った薬の探索のほか、難病の筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 患者の細胞から作った iPS 細胞を使った薬の開発、iPS 細胞から作った免疫細胞による新しいがん治療法の研究などを並行して進める。

武田が 10 年間で 200 億円を提供。 両者からそれぞれ 30 人の研究者が参加する。 来年 4 月にはさらに研究を追加して 10 件以上の共同研究、計 100 人以上の規模にするという。 CiRA の山中伸弥所長は「iPS 細胞は 2005 年に完成していたので、いま 10 歳になる。 病気で苦しんでいる患者、家族の方に一日でも早く貢献できるようにしたい」と話した。 (合田禄、asahi = 12-15-15)


iPS 細胞で再生医療実現へ、行程表を改訂 文科省

文部科学省は 4 日、iPS 細胞による再生医療の実現に向けた研究ロードマップ(行程表)の改訂版を発表した。 心不全治療のための心筋は 2 年後、糖尿病治療のための膵臓の細胞は 4 年後など、iPS 細胞をもとにつくる計 19 の細胞や器官について、人を対象に研究で使い始める目標時期を明記した。 行程表の改訂は 2013 年 2 月以来 2 回目。 今回は、人を対象にした臨床研究や治験をまとめて「臨床応用」と定義。 研究者の見通しをもとにその開始目標を設定した。 研究の進展を受け、がん治療用の免疫細胞や毛髪をつくる頭部の毛包(もうほう)、歯など新たに 5 細胞・器官を追加した。

iPS 細胞からの網膜の細胞を目の難病患者に移植する研究が昨年始まったのに続き、早ければ来年度からパーキンソン病の治療に使う神経細胞や血小板、角膜について臨床応用を始めるとした。 一方、赤血球や腎臓などは、技術的な困難さからこれまでの目標よりも数年遅くなった。 臨床応用の開始まで 7 - 10 年以上かかる見込みという。

研究段階を経て実用化する時期のめどは示さなかった。 研究の結果に加えて、製薬会社などの参加が不可欠になるためという。 iPS 細胞研究に年 80 億円ほどを投じている文科省は「研究の進み具合を把握しながら、再生医療研究を引き続き支援していきたい」とする。 (須藤大輔、asahi = 12-6-15)


ヒト iPS の腎臓組織、成長に成功 熊本大グループ

ヒトの iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から作り出した腎臓の一部の組織をマウスの腎臓に移植し、血管とつなげて成長させることに、熊本大学のグループが成功した。 腎臓病の原因解明や再生医療への応用が期待される。 20 日、米科学誌「アメリカ腎臓学会雑誌(電子版)」に発表した。 熊大発生医学研究所の西中村隆一教授(腎臓発生学)らの研究グループは 2 年前、iPS 細胞を使い、血液から尿を濾過する「糸球体(しきゅうたい)」や、水や栄養分を体に再吸収する「尿細管」などの組織を作り出すことに成功したが、組織は濾過膜がまばらで少ないなど未熟だった。

同グループによると、今回、iPS 細胞で作る腎臓組織の元になる細胞をマウスの腎臓に移植し、成長させることに成功した。 腎臓と腎臓を覆う薄い膜の間への移植のため、圧力で細胞がつぶれてしまうことが課題だった。 そこで膜との間に寒天で作った棒を入れて空間を確保。 この工夫で比較的大きな細胞の移植が可能になったという。 (石川春菜、asahi = 11-21-15)


iPS 使ったパーキンソン病治療、京大が治験前倒し検討

iPS 細胞を使ってパーキンソン病の治療を目指す京都大の臨床研究について、実用化を前提にした「治験」の前倒しを、研究グループが検討をしていることが 11 日、わかった。 パーキンソン病は、ドーパミンという神経伝達物質を作る神経細胞が脳内で減り、手足のふるえなどが起きる難病。 京都大の高橋淳教授らは、iPS 細胞から神経細胞を作り、脳に移植する計画を進めている。 当初は、大学の審査を経て進める臨床研究で治療の安全性などを調べ、2018 年度ごろからより厳密な基準で保険適用を前提にした治験に移る想定だった。 (asahi = 11-12-15)

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脳に iPS 神経を移植へ パーキンソン病治療めざす

iPS 細胞から作った神経細胞を人間の脳に初めて移植し、パーキンソン病の治療を目指す臨床研究を、京都大 iPS 細胞研究所(山中伸弥所長)のグループが来年にも始める。 京大が近く設置する審査委員会に、6 月をめどに計画を申請する。 根本的な治療につながる可能性もあるが、未知のリスクもあり、審査で安全対策などを確認する。

パーキンソン病は、脳内でドーパミンを作る神経細胞が減るために起き、薬での治療には限界がある。 海外では死亡した胎児の神経細胞を患者の脳に移植する研究が試みられたが、有効性は十分に確認されていない。 移植する細胞の不足や様々な細胞の混入が理由とみられている。

京大 iPS 研の高橋淳教授(脳神経外科)らの計画では、患者自身の細胞から iPS 細胞を作り、ドーパミンを作る神経細胞に変えてから、針を使って患者の脳の中央部に高い精度で注入する。 今回の研究は、移植で有害なことが起きないか確かめるのが主な目的だが、移植した細胞がうまく働けば、病気の進行を抑えられる可能性がある。 (阿部彰芳、asahi = 5-18-15)


iPS 移植手術 1 年「経過は良好」 理研「予想通り」

iPS 細胞からつくった目の組織を移植する世界初の手術から 1 年が過ぎ、手術を実施した理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらは 2 日、患者の経過は良好で、がん化などの問題は起きていないと発表した。 高橋さんらは今後、2 例目の手術にも取り組むとしている。

手術は昨年 9 月 12 日に実施され、失明の恐れのある難病「加齢黄斑変性」の 70 代女性に、自身の細胞からつくった iPS 細胞を網膜の組織にして右目に移植した。 その後、移植した組織の様子や視力の変化などを定期的に調べていた。 今回は、移植手術の安全性を調べるのが第一の目的。 網膜の組織は移植した場所に定着して機能しており、今のところ、拒絶反応やがん化などの異常は起きていないという。 (asahi = 10-2-15)


iPS で筋ジス再現 = 治療法開発や創薬に活用 - 京大

筋力が低下する難病「筋ジストロフィー」のうち、デュシェンヌ型の患者から人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を作り、発症前の細胞を再現することに成功したと、京都大 iPS 細胞研究所が発表した。 患者の細胞を使った研究が可能になり、治療法の開発や創薬の迅速化が期待される。 論文は 20 日付の英科学誌サイエンティフィック・リポーツ(電子版)に掲載された。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD) は遺伝子の一部が欠損し、筋肉を支えるたんぱく質が作れなくなる病気。 慢性的な炎症で筋繊維が壊れ、最終的に死に至る。 日本には推定 5,000 人の患者がいるが、根本的な治療法はない。 同研究所の桜井英俊講師らのグループは、DMD 患者の皮膚から作った iPS 細胞を筋細胞に変え、炎症で損傷を受ける前の状態を再現。 電気の刺激で収縮させるなどして、細胞内の変化を調べた。

その結果、患者の筋細胞が収縮する際、細胞内にカルシウムイオンが過剰に流れ込むことを確認した。 欠損した遺伝子を修復すると、たんぱく質が生成され、イオンの流入が抑制されることも分かった。 遺伝子を修復しなくても、特定の化学物質で流入を抑えることができた。 桜井講師は「DMD の遺伝子欠損部位は患者によって異なり、修復は難しい。 カルシウムイオンの流入を抑制する物質が見つかれば、多くの患者に使える薬の開発につながる。」と話した。 (jiji = 8-20-15)


ヒト iPS の腎細胞を移植 マウスで腎臓病に効果 京大

ヒトの iPS 細胞から作った腎臓の元になる細胞の移植が急性腎障害に効果があることを、京都大などのグループがマウスで確かめた。 移植細胞が分泌する栄養で障害が和らぐとみられ、腎臓病の新たな治療法につながる可能性がある。 米科学誌電子版に 21 日発表した。 急性腎障害は脱水や手術による出血などが原因で、入院患者でよくみられる。 腎臓の働きが数時間から数日で急速に悪化し、死亡したり、慢性的な腎不全になったりする危険があるが、対症療法しかない。 完全に回復する人は 15% ほどとされる。

京大 iPS 細胞研究所の長船健二教授らは、ヒト iPS 細胞から腎臓の元になる「腎前駆細胞」を作り、腎臓の血流が一時的に止まって急性腎障害になったマウスの、腎臓を覆う膜の下に移植した。 移植しなかったマウスと比べ、腎機能の下がり方が軽く、腎臓の細胞が死んで線維化する障害も抑えられた。 移植した細胞はマウスの腎臓と一体化しておらず、細胞が放出する栄養物質が影響したとみられる。 長船教授は「どの物質が効いているかまだ分かっていないが、ヒトでも有効か研究を進めたい」という。 (阿部彰芳、asahi = 7-22-15)


iPS がん化恐れの細胞、除去方法を開発 鹿児島大

ヒトの iPS 細胞をさまざまな細胞に変化させたとき、がんになる可能性がある細胞だけを特殊なウイルスで取り除く方法を鹿児島大の小戝(こさい)健一郎教授(遺伝子治療・再生医学)らが開発し、21 日発表した。 万能細胞を使った再生医療で課題となるがん化を防ぐ技術として応用できる可能性があるという。 25 日に大阪市である日本遺伝子治療学会で報告する。

iPS 細胞や ES 細胞(胚性幹細胞)を目的の細胞に変化させて人に移植するとき、うまく変化せずに残った細胞があると腫瘍(しゅよう)ができるおそれが高まる。 研究チームは、がん細胞で働いているサバイビンという遺伝子に注目。 この遺伝子は、うまく変化しなかった細胞でも同様に働いていることがわかった。 そこで、サバイビンがあると増殖して細胞を殺すように遺伝子を組み換えたウイルスを作製。 このウイルスをまだ変化していない段階の iPS 細胞や ES 細胞に加えると、7 日後に全滅した。 一方、目的の細胞に変化した後では、細胞は生き残ったという。 (合田禄、asahi = 7-22-15)


生殖細胞 : iPS 細胞を操作、高効率で作製 京大チーム

精子と卵子のもとになる「始原生殖細胞」とみられる細胞を、人の人工多能性幹細胞(iPS 細胞)から高い効率で作製する手法の開発に成功したと、京都大の斎藤通紀教授のチームが 16 日付の米科学誌セルステムセル電子版に発表した。 人の卵子と精子を作る技術の開発につながる成果で、将来的には生物発生のメカニズムの解明や不妊治療法の研究に役立つと期待される。

チームはまず、さまざまな細胞や組織になる人の iPS 細胞に薬剤などを加えて「初期中胚葉様細胞」を作った。 次にこの細胞にサイトカインと呼ばれるたんぱく質を作用させ、始原生殖細胞とよく似た遺伝子パターンを示す細胞を作り出した。 これまでに斎藤教授らは、同様の方法でマウスの iPS 細胞や胚性幹細胞(ES 細胞)から始原生殖細胞とみられる細胞を作製している。 同じ方法でもマウスより人の方が高い効率で細胞を作ることができるという。

人の iPS 細胞から始原生殖細胞を作製したとする報告は、既に国内外である。 斎藤教授は、精子や卵子の作製には多くの課題があるとした上で、「今回、出発点となる細胞ができた。 研究をさらに発展させていくことが重要だ。」と話した。 国の指針では、人の iPS 細胞や ES 細胞からできた卵子と精子で受精卵を作製することは禁止されている。 (kyodo = 7-17-15)

人工多能性幹細胞(iPS 細胞)

皮膚や血液など特定の機能を持った細胞に数種類の遺伝子を導入して、受精卵のようにさまざまな細胞や組織に変化する能力を持たせた細胞。 培養条件を変えることで心臓や神経など特定の細胞になる。 開発した京都大の山中伸弥教授は、2012 年にノーベル医学生理学賞を受賞した。 14 年 9 月には理化学研究所の高橋政代氏らのチームが、iPS 細胞から作った網膜細胞を患者に移植する世界初の手術を実施した。


理研チーム、iPS 手術 2 例目見送り … 変異発見

iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から作った網膜細胞で、目の難病患者を治療する世界初の臨床研究を進めている理化学研究所などのチームが、2 例目の手術を見送ったことが分かった。 iPS 細胞に遺伝子変異が見つかったためで、今後、治療に使う細胞の作製には、京都大が備蓄を進めている安全性の高い他人の iPS 細胞を使うという。

「加齢黄斑変性」と呼ばれる難病で、視野の中央がゆがんだり、黒く欠けたりする。 チームを率いる高橋政代・プロジェクトリーダーによると、2 例目も患者本人の皮膚細胞から iPS 細胞を作製し、網膜細胞を作ったが、検査で iPS 細胞に複数の遺伝子変異が見つかったという。 うち一つが、がんとの関連が疑われる遺伝子だった。 高橋リーダーは読売新聞の取材に「危険性は非常に小さいとみているが、外部から『危険ではないか』との指摘があり、完全な安全を求められる中で手術に踏み切れなかった」としている。 昨年 9 月に初めて実施した 1 例目の患者の経過は順調という。 (yomiuri = 6-17-15)

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他人由来の iPS 移植計画を発表 理研・高橋さんら

昨年、iPS 細胞を使った世界初の手術を実施した理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーは 20 日、京都大が保管を進める iPS 細胞を活用し、目の難病患者に移植する新しい臨床研究を進めると発表した。 2 年以内の手術を目指す。 患者とは別人の iPS 細胞を使えれば、治療にかかる時間やコストを大幅に減らせると期待される。

横浜市内で開かれた日本再生医療学会での講演後、記者会見で語った。 高橋さんらのチームは、網膜の組織が傷む難病「加齢黄斑変性」の女性からとった皮膚の細胞を iPS 細胞にして、正常なシート状の網膜組織の細胞を作製。 昨年 9 月に女性の目に移植し、経過をみている。 (今直也、asahi = 3-21-15)

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理研の高橋政代さん、英誌ネイチャー「今年の 10 人」に

英科学誌ネイチャーは、科学で重要な役割を果たした「今年の 10 人」を 18 日付の同誌で発表する。 その 1 人に、iPS 細胞を使った世界初の移植手術を手がけた理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーが選ばれた。 高橋さんは、目の難病「加齢黄斑変性」の患者の皮膚の細胞から iPS 細胞を作製。 網膜の細胞に変化させ、今年 9 月に患者の目に移植した。 同誌は、理研の別の研究者らがかかわった STAP 細胞の問題が起こったなかで「眼科医が幹細胞分野に希望を注入した」と紹介した。

高橋さんは「将来多くの方を治療できるように、さらに開発を進めます」などとするコメントを出した。 10 人にはほかに、エボラ出血熱に感染しても患者の治療を続けて亡くなったシエラレオネの医師や、氷水をかぶって筋萎縮性側索硬化症 (ALS) への支援活動を広めるきっかけをつくった男性患者、欧州宇宙機関の探査機を彗星(すいせい)に初着陸させたチームの責任者らが選ばれた。(合田禄、asahi = 12-18-14)

前 報 (9-13-14)


京大、ヒト由来 iPS 細胞から分化した心筋細胞を 9 割超の精度で選別する手法を確立

京都大学 iPS 細胞研究所 (CiRA) の三木健嗣研究員らの研究グループは、ヒト由来の iPS 細胞や ES 細胞から分化した心筋細胞を 9 割以上の精度で選別する手法を確立した。 心筋細胞内に存在する特定の分子だけに反応する人工 RNA を構築し、細胞に導入した時の反応の違いで心筋細胞と他の細胞を識別できる。 従来の選別法に比べてゲノム損傷による細胞のがん化のリスクをより低減できるという。

研究グループは、細胞内のメッセンジャー RNA (mRNA) と結合してたんぱく質の生産や遺伝子の発現を抑制する分子のマイクロ RNA に着目。 心筋細胞とその他の細胞で異なる反応を示す人工 RNA を作った。 心筋細胞に多く存在する特定のマイクロ RNA を認識する mRNA と、蛍光たんぱく質の遺伝子を配合し、人工 RNA を設計した。 心筋細胞に導入するとマイクロ RNA と結合し、蛍光たんぱく質の生産を抑制するため発光しない。

心筋細胞特有のマイクロ RNA を持たない他の細胞に組み込んだ場合、蛍光たんぱく質が作られ、発光する仕組みだ。 約 95% の確率で細胞の選別に成功した。 また、人工 RNA の蛍光たんぱく質の配列部分に、アポトーシス(細胞死)を誘導する遺伝子を配合。 特定のマイクロ RNA を持たない心筋細以外の細胞は自動的に死滅するようにした。 この方法でも 90% 以上の確率で選別できたという。 (日刊工業新聞 = 5-22-15)


iPS 共同研究、京大と武田薬品が契約 資金 200 億円

京都大 iPS 細胞研究所と武田薬品工業は 17 日、iPS 細胞の医療応用に向けた共同研究の契約を結んだと発表した。 武田が 10 年間で研究資金 200 億円を提供する大型提携。 再生医療研究の中核拠点と製薬最大手が協力し、心不全や糖尿病など幅広い分野で iPS 細胞を使った新薬開発などに取り組む。

研究所長の山中伸弥教授と武田のクリストフ・ウェバー社長が都内で会見した。 山中教授は「臨床研究に向けて加速度的に資金が必要になっている。 医療応用の実現を加速させたい」、ウェバー社長は「iPS 細胞研究所の能力で創薬のやり方を変えることができる」と話した。

共同研究では iPS 細胞から様々な細胞を作り、薬の候補物質の安全性や効果を調べたり、患者に細胞を移植する新しい治療法を開発したりする。 武田の湘南研究所(神奈川県)に双方からそれぞれ約 50 人の研究者らが集まり、山中教授の指揮で約 10 のプロジェクトを進める。 心不全、糖尿病、認知症、がんなどが研究対象の候補という。 (合田禄、asahi = 4-18-15)


血液から iPS 細胞を作製 政府、特区で事業容認

政府は、血液を使ってヒト iPS 細胞をつくるビジネスを、地域を絞って規制を緩める国家戦略特区で認める。 採取した血液を原料として製造できるのは、現行法では血液製剤などに限られているが、事業としての iPS 細胞の作製も可能にする。 iPS 細胞を用いた創薬研究を後押しすることを目指している。

今国会に提出した国家戦略特区法改正案に盛り込んだ。 様々な細胞になれる iPS 細胞は、再生医療だけでなく、創薬研究での利用も注目されている。 ヒトの iPS 細胞から目的の細胞をつくって薬の安全性や効果を確かめれば、将来的に動物実験を省くことができるようになり、開発費用や時間を大幅に減らせる可能性がある。 厚生労働省によると、京都府内のベンチャー企業が事業化を検討している。 厚労省は事業者の認定条件を設け、血液の採取も一定の要件を満たした医療機関とする予定。 (田内康介、asahi = 4-13-15)


富士フイルム HD、iPS 細胞生産の米企業を買収

富士フイルムホールディングスは 30 日、iPS 細胞(人工多能性幹細胞)の大量生産技術を持つナスダック上場の米新興企業「セルラーダイナミックスインターナショナル」を、3 億 700 万ドル(約 370 億円)で買収すると発表した。 同社の株式を 1 株 16.5 ドルで買う株式公開買い付けを近く富士フイルムが始め、4 月下旬の買収完了を目指す。 セルラー社は 2004 年の設立後、営業赤字が続いている。 ただ富士フイルムは、同社の技術を使えば、薬づくりが効率化できる可能性があり、利益が得られると考えた。 (伊沢友之、asahi = 3-30-15)


iPS と人工神経で再生医療、マウスで成功 大阪市大

万能細胞の iPS 細胞と人工神経を組み合わせた「ハイブリッド型人工神経」を開発し、マウスの神経を再生させることに成功したと大阪市立大の研究チームが発表した。 神経損傷の従来の治療法より、体への負担が少なく、5 年以内にヒトへの応用を目指す。

大阪市大の上村卓也病院講師(整形外科)によると、事故などで手足の神経を欠損する患者は年間約 5 千人。 現在は他の部位の神経を取り出して移植する治療法が主流だが、取り出した部位にしびれが残るなど、体への負担が大きい。 チューブのような形の人工神経をつないで、神経の再生を促す治療法もあるが、効果は限られているという。 研究チームは、神経の再生力を高めるために人工神経と iPS 細胞を組み合わせる方法を考えた。 (野中良祐、asahi = 3-18-15)


難病患者の iPS細胞修復 … 京大チーム遺伝子操作

筋肉組織などが骨に変化する希少難病の患者の皮膚から作った iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を遺伝子操作で修復し、骨になりにくくすることに成功したと、京都大 iPS 細胞研究所の戸口田淳也教授らの研究チームが 12 日、米専門誌「ステムセルズ」電子版に発表した。 発症過程の解明、治療薬の開発などに役立つ成果としている。

「進行性骨化性線維異形成症 (FOP)」と呼ばれる難病で、遺伝子の異常によって筋肉や靱帯(じんたい)などの組織の一部が徐々に骨に変わる。 歩行困難になり、激しい痛みも伴う。 国内には 40 - 70 人の患者がいるとされるが、有効な治療法がない。 発表によると、チームは FOP 患者の iPS 細胞で、FOP の原因とされる変異のある遺伝子を、正常な遺伝子と置き換えて修復。 軟骨に成長させる薬剤を加え、変化を観察した。

その結果、修復した iPS 細胞は、修復しない細胞に比べて軟骨になりにくかった。 軟骨に成長する途中段階の細胞を調べたところ、修復しない細胞では、軟骨になるのを促進する 2 種類の遺伝子が活発に働いているのを確認。 これらが FOP の発症に関与している可能性があるという。

戸口田教授は「実験に用いた iPS 細胞は、遺伝子の修復部位以外は遺伝情報が同一で、薬の効果を比較しやすい。 他の病気の研究でもこの手法が応用できるだろう」と話す。 患者の一人で、同研究所に自らの皮膚を提供し、研究のための募金活動にも取り組んできた兵庫県の高校 2 年生 (17) は「研究が進んだのはうれしい。 最近、病気の進行が速く、食べる力が弱くなっている。 薬を早く開発して。」と訴えた。 (yomiuri = 3-13-15)


iPS から軟骨組織 膝関節症、4 年後の臨床目標

ヒトの iPS 細胞から軟骨の組織を作り、関節の軟骨が損傷したミニブタに移植して治療することに、京都大 iPS 細胞研究所のグループが初めて成功した。 成果は 26 日米科学誌電子版に掲載された。 グループは事故や加齢で軟骨が傷ついて歩行などが困難になるヒトの変形性膝(しつ)関節症患者への移植手術を 2019 年に実施することを目指す。 軟骨は骨の端を覆って関節を曲げたときにかかる衝撃を吸収するが、一度損傷すると治る能力が低い。 変形性膝関節症は、高齢化による膝の痛みの主な原因のひとつで、国内に約 1 千万人の患者がいる。

現在の治療は人工関節の使用のほか、患者自身の軟骨細胞を少量取り出し、培養して増やして体内に戻す自家軟骨細胞移植が行われている。 ただ、この方法で培養しても良質な細胞は増やせず、長期的には十分な治療効果が確認できていないという。 妻木範行教授らのグループは、iPS 細胞の作製後に軟骨細胞の形成には 3 種類のタンパク質を加える必要があることを特定。 さらに、細胞を溶液中に浮いた状態で培養する「浮遊培養法」を取り入れたところ、約 50 日でヒトの体内と同じ構造を持った良質の軟骨組織が形成された。

この軟骨細胞をマウスやラットに移植したところ、体内で正常に軟骨の一部となって定着し、がん化などの異常も起こらないことを確認した。 軟骨に損傷があるミニブタ(体重 30 キロ)に移植すると、軟骨が再生して、体重を支える役割を果たした。 妻木教授は「今回の治療手順はヒトにも応用できる。 安全性の確認をさらに進めたい」と説明。 ヒトで実際に治療する臨床応用を、18 年に厚生労働省に申請し、19 年の移植手術を計画する。 (中日新聞 = 2-27-15)


iPS 臨床試験病棟開設へ … 19 年度に京大病院

iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を用いた再生医療を目指す京都大病院は、新たに開発した移植用細胞や薬剤による臨床試験(治験)などを行う新病棟「iPS 等臨床試験センター(30 床)」を、2019 年度に開設する。 京大病院の三嶋理晃(みちあき)病院長が 22 日の講演会で明らかにした。

京大では、iPS 細胞から作った神経細胞をパーキンソン病患者に移植する臨床研究の準備を進めている。 また血液成分の血小板製剤などの治験も予定している。 新病棟には、これらの臨床研究や治験の参加者が入院し、安全性や治療効果など承認申請のためのデータを取る。 来年 2 月に着工し、19 年 9 月の完成を目指すという。 三嶋病院長は「日本は特に創薬の分野が遅れている。 iPS 細胞研究の拠点として先端医療への応用を主導していきたい。」と話した。 (yomiuri = 2-23-15)


ヒト iPS から視神経細胞 再生医療に貢献も 成育医療研など

ヒトの iPS 細胞からきちんと機能する視神経細胞をつくることに世界で初めて成功したと、国立成育医療研究センターなどの研究チームが 10 日、英科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表した。 緑内障など視神経の病気のメカニズム解明や新薬開発、再生医療に役立つ可能性があるという。 視神経細胞は網膜と脳を結ぶ視神経を形づくる細胞。 これまで iPS 細胞からつくることはほとんどできなかった。 目の病気の原因となることが多い、細胞から伸びていく「軸索」と呼ばれる神経線維の部分がうまくできなかった。

研究チームは iPS 細胞を条件を変えながら約 30 日間培養し、この細胞をつくる方法を見つけた。 1 - 2 センチの軸索が構築されており、電子顕微鏡による観察や、遺伝子の働きの解析などできちんと機能していることも確かめた。 視神経異常による病気は失明原因で最も多い緑内障や視神経炎などがあり、重い視力障害になる。 同センターの東範行・眼科医長は「軸索が長く伸びていて完成度は高い。 薬の試験など様々な研究に役立てられる。」と話している。 (合田禄、asahi = 2-11-15)


iPS 由来の心筋細胞、心臓と一緒に拍動 阪大など確認

大阪大学の澤芳樹教授らは 26 日、マウスの iPS 細胞から作った心筋細胞のシートをラットに移植すると、心臓の一部となり一緒に拍動することを確認したと発表した。 大型放射光施設「SPring-8(兵庫県佐用町)」を使った分子レベルの解析で確かめた。 研究チームは、2 - 3 年後に予定する重い心不全患者を対象にした臨床研究に向けて一歩前進したと評価した。 また今秋をめどに、京都大学から臨床研究に使えるヒト iPS 細胞の提供を受け、心筋細胞に育てて安全性などを確かめる考えを明らかにした。

阪大は実験で、マウスの iPS 細胞から作った心筋シートを心筋梗塞を起こしたラットに移植。 SPring-8 の放射光を当てて観察した。 心筋収縮に関わるアクチンとミオシンと呼ぶたんぱく質が、心臓の収縮に合わせて動いていることが分かった。 iPS 細胞から作った心筋シートを移植すると、心機能が改善することはこれまでの動物実験で分かっていたが、心臓と一緒に拍動する仕組みは詳しく証明されていなかった。 澤教授は「心筋シートを治療に使うためには、シートが働くメカニズムを解明することも重要だ」と話した。 研究は国立循環器病研究センターなどと共同で実施した。 (nikkei = 1-26-15)


iPS 細胞、京大、パーキンソン病で臨床試験申請へ

高橋淳教授 今年 6 月ごろ、学内の審査委員会に

iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を使ってパーキンソン病を治療する研究について、京都大 iPS 細胞研究所の高橋淳教授は 16 日、臨床研究計画を今年 6 月ごろに学内の審査委員会に申請する方針を明らかにした。 審査委が承認すれば、厚生労働省による安全性などの審査を受け、来年にも臨床研究を開始する。 iPS 細胞を使った臨床研究は、理化学研究所が昨年秋に実施した目の難病に続き 2 例目になる見通し。

高橋教授は、大阪府吹田市で開催中の国際シンポジウムの記者会見で、「他の研究グループと情報共有して手法を標準化させたい」などと話した。 パーキンソン病は神経伝達物質のドーパミンを出す神経細胞が減り、手足が震えたり、こわ張ったりする難病。 薬で症状を抑えられるが、根本的な治療にはならない。高橋教授らは患者の血液などから iPS 細胞を作り、神経細胞になる前の細胞にして脳に移植する治療法を計画している。【斎藤広子、mainichi = 1-16-15】


iPS 細胞で遺伝子変異を修復 筋ジス患者の細胞で成功

筋肉が衰えていく筋ジストロフィーの患者から iPS 細胞を作り、原因遺伝子の変異を修復して正常な筋肉の細胞に変えることに、京都大などのグループが成功した。 27 日発表した。 今回の技術は遺伝子変異をピンポイントで修復できることから、他の遺伝子を傷つけずより安全な遺伝子治療につながると期待される。

今回の研究は、筋ジストロフィーで最も多い「デュシェンヌ型」の患者の細胞を使った。 この型は、筋細胞を支えるたんぱく質の情報を持つ遺伝子に変異があって起きる。 グループは遺伝子操作の新技術を採用。 この技術は、DNA を構成する 4 種類の分子(塩基)の並び方を目印にする。 そこで、修復したい部位の近辺にしかない並び方を探し出し、この並び方を標的に、目的の部位の DNA だけに働くようにした。 修復した iPS 細胞を筋細胞に変えると、正常なたんぱく質を作った。 (阿部彰芳、asahi = 11-28-14)


心筋症悪化の物質特定 患者の iPS で研究 慶大教授ら

心臓の壁が厚くなり、全身に血液を送り出しにくくなる肥大型心筋症の患者の人工多能性幹細胞(iPS 細胞)から心筋細胞を作り、病気を悪化させる体内物質を突き止めたと、慶応大医学部の福田恵一教授、湯浅慎介専任講師らが 12 日、米心臓協会誌に発表した。 既存の薬が状態を改善する可能性があることも分かったとしている。

健康な人の心筋細胞の内部では、筋原線維という糸状のタンパク質が整然と並んでいるが、患者の心筋細胞では並びが乱れていた。 エンドセリン 1 という物質を加えると乱れがひどくなったが、細胞がこの物質を受け取れないようにする薬を与えると異常が治った。 この薬は肺動脈性肺高血圧症の治療に使われている。 細胞実験の段階だが、肥大型心筋症の発症や重症化を抑える可能性を示したとしている。

肥大型心筋症の患者は多くが軽症だが、スポーツ選手が突然死する原因となることもある。 遺伝子の異常で起こるが、異常があっても発症しない人がいるため、引き金となる環境要因があると考えられていた。 エンドセリン1は運動などで心臓に負荷がかかると出るホルモン。 (sankei = 11-12-14)


iPS 細胞で心臓組織シート作製 移植細胞の生存向上

人の iPS 細胞を使った新しい心臓組織の細胞シートを京都大 iPS 細胞研究所などのグループが開発した。 iPS 細胞を活用した従来の手法は心臓の筋肉(心筋)の細胞を移植してもすぐに死んでしまう問題があったが、今回は作り方を工夫し、細胞が生き残りやすくなった。 グループは「心筋が大きく損なわれた人の治療に将来役立つ可能性がある」としている。

英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に 22 日発表した。 心筋は傷ついても再生しないため、心筋に血を送る血管が詰まる心筋梗塞(こうそく)といった重い心臓病の治療は難しい。 このため様々な再生医療の研究が進み、人で治療が試みられたものもある。 iPS 細胞で心筋を作って移植する研究は基礎段階だが、動物実験で一定の効果をあげている。 ただ、これらの効果は、心筋細胞に血管作りを促す働きがあり、損傷した細胞が元気になった結果だと見られている。 移植した細胞のほとんどは死んでしまっていたという。 (阿部彰芳、asahi = 10-23-14)


iPS 細胞使い肌細胞若返り 67 歳 → 36 歳 コーセー

コーセーは 15 日、iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を使い、67 歳の日本人男性の肌の細胞を、同じ人の 36 歳時点の肌とほぼ同じ状態に若返らせることに成功したと発表した。 同じ人から 1980 年以降、定期的に提供を受けていた、36 - 67 歳の五つの異なる年齢の肌の細胞を、京大の iPS 細胞研究所で iPS 細胞にした。 同社が分析したところ、老化の指標となる染色体の状態は五つのすべての年代で回復し、67 歳時点のものも 36 歳時点とほぼ同じ状態になった。

同社は今回の結果を使い、老化のメカニズムを解明していく。 まだ基礎研究の段階だが、将来的には、一人ひとりの肌アレルギーに対応したオーダーメード化粧品の開発にもつながるという。 (asahi = 10-16-14)