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格差是正へ、アリババが 1 兆円超支援 当局の圧力かわす狙いも

中国の IT 分野を中心に大手企業やその創業者らが次々に巨額の寄付をしたり、基金を創設したりしている。 習近平(シーチンピン)国家主席が格差是正のために提唱する「共同富裕」の実現に向けて協力するためだが、当局による最近の IT 企業への締め付けがさらに強まることを避ける狙いもありそうだ。 「アリババが共同富裕に助力する行動計画。」 ネット通販大手のアリババ集団は 3 日、2025 年までに 1 千億元(約 1 兆 7 千億円)を投じる具体的な計画を策定したと発表した。 中小企業の経営に補助金を出したり、デリバリーの運転手など非正規雇用の労働者の待遇を改善したりする。 他にも共同富裕のための基金の設立なども挙がっているという。

同じく中国を代表する IT 企業のテンセントも、計 1 千億元を投じ、医療体制の改善、低所得層の収入改善、農村振興などにあてる。 スマートフォン大手の小米科技(シャオミ)は 7 月、創業者の雷軍氏が約 145 億元(約 2,500 億円)分の自社株を貧困対策のための自身の基金に譲渡。 他にも、動画アプリ大手バイトダンス創業者の張一鳴氏も 6 月、5 億元(85 億円)を教育関連の基金に寄付した。

習氏は 8 月にあった重要会議で、「全人民の共同富裕を人民の幸福を実現する取り組みの重点とし、党の長期的な統治の基礎を絶え間なく固めねばならない」と話した。 かつてケ小平が改革開放の未来像として想定した「共同富裕」の実現を実現できれば、格差を縮めて大衆の支持を得られるとの考えがある。 その格差是正のターゲットになり得るのが、中国経済の成長をリードし、巨万の富を築いた IT 企業だ。 すでに中国政府は締め付けを強めているが、率先して共同富裕に協力することで当局からの批判を回避したい考えがあるとみられる。 (北京 = 西山明宏、asahi = 9-3-21)


歴史を歪曲するゲーム「一切容認しない」規制を = 中国国営ラジオ

[上海] 中国国営ラジオ局の中央人民広播電台 (CNR) は、規制当局はオンラインゲームの審査を強化し、歴史を歪曲する内容のゲームは「一切容認しない」対応で臨むべきだとする論説記事をウェブサイト上に掲載した。

CNR の論説は、歴史を歪曲するゲームは若い人に間違った指導を与えるとしたうえで、例として南宋の武将岳飛を降伏者として描いたゲームを挙げた。 中国では、経済紙がオンラインゲームの中毒性を「精神的アヘン」と描写する記事を一時載せるなど、国営メディアがゲームやインターネットに批判的な記事を相次いで掲載。 ゲーム業界が当局の規制強化の次の標的になるとの懸念が高まっている。 (Reuters = 8-14-21)


中国株、ハイテク銘柄の比重さらに低下へ - 構図に変化とモルガン S

中国主要株価指数に占めるテクノロジー株の比重が年初の水準を回復する公算は小さいと、モルガン・スタンレーのジョナサン・ガーナー氏が指摘した。 テクノロジー株のバリュエーションは一段と下がる見通しだという。 アジア新興市場担当チーフストラテジストのガーナー氏(香港在勤)はブルームバーグテレビジョンに対し、中国株式市場の構図は「大きく」変化しようとしていると語った。

「インターネットプラットフォーム企業がオフショア市場に占める比重は今年初めには時価総額全体の半分近くで、それがおそらくピークだった。 それが戻るとは思えない。」と同氏は指摘。 「これは中国当局が実施した中で最も重要な規制環境の仕切り直しとなるだろう」と話した。 中国当局が社会・経済目標と相いれないとみなすセクターなどの締め付けを強化する中、香港のハンセン指数は 2 月につけた高値から 11 日までに、3 分の 1 余りの価値を失った。 中国国務院は 11 日遅く、国家安全保障や技術革新、独占禁止を含む分野での法整備に「積極的」に取り組むと表明した。

ブルームバーグがまとめたデータによれば、巨大インターネット企業を含む通信サービスと一般消費材セクターが MSCI 中国指数に占める比重は、1 月につけたピークの 58% から 51% に低下した。 ガーナー氏によると、中国当局が社会や金融、国家安全保障、環境に関するリスク要因を標的にする過程で、「株価指数ではテクノロジー分野のハードウエア企業や、クリーンエネルギー関連の銘柄が今後増えていく」ことが見込まれる。 (Ishika Mookerjee & Olivia Tam、Bloomberg = 8-13-21)


半導体供給網に中国が食指 日本勢、特需の陰にリスク

「一日も早く量産体制を構築しよう。」 中国南部の半導体メーカー、福建省晋華集成電路 (JHICC)。 東京ドーム 8 個分の敷地にそびえる巨大工場を 2 年ぶりに訪れると、真っ暗だったビルに再び明かりがつき、工場の稼働に向けた会議を開いていた。 JHICC は習近平(シー・ジンピン)指導部の後押しを受けた国策会社。 台湾企業による米国技術の漏洩にかかわったとして米国から制裁を受けて量産計画は頓挫したが、裁判の和解で計画が再始動。 このほど複数の日本企業の設備納入が固まったという。

米国のトランプ前政権が中国の「弱点」として半導体を突いたことから、習指導部は半導体の自給率向上にまい進する。 中芯国際集成電路製造 (SMIC) など多くの企業が生産能力を拡大。 「中国で『特需』が起きている」と日本の製造設備大手幹部は明かす。 日本の設備大手は中国の半導体工場に技術者を派遣し、据え付けに取り組む。 半導体向け材料大手も中国での現地生産を拡大する。 新型コロナウイルスで国境を越えた移動に制限がある中でも、中国側は半導体関連のビザを優先的に発行する力のいれようだ。

実際、日本半導体製造装置協会 (SEAJ) は 7 月、2021 年度の日本製の半導体製造装置の販売額は 20 年度比で 2 割増になり、2 年連続で過去最高を更新する見通しを発表した。 中国向けは 20 年に地域別販売額でトップとなり、世界全体の需要をけん引する。 「日本企業は特需に沸くが、いつまで続くか分からない。」 関係者は警鐘を鳴らす。 なぜなら習指導部は半導体の自給率を引き上げるだけでなく、製造装置や素材を含めたサプライチェーン(供給網)の構築を狙っているからだ。

中国政府は 19 年に総額 1,472 億元(約 2 兆 5,000 億円)に達するファンド「国家製造業転型昇級基金」を創設し、中国の製造設備メーカーに出資を始めた。 今年 7 月には国有素材大手の中国建材集団と共同で半導体向けなどの新素材産業を育成するための専門ファンドも立ち上げた。 M & A (合併・買収)や人材集めにも動く。 政府が出資する京東方科技集団 (BOE) といった大手は、半導体をはじめ日本企業などが不採算から撤退や縮小を検討している事業の買収に意欲的とされ、外資企業で経験を積んだ技術者らの獲得を進める。

日本企業はスマートフォンなどの完成品から中核部品や製造設備にシフトすることで競争力を維持してきたが、習指導部が進めるサプライチェーンの整備構想に基づいて、中国勢はひたひたと上流に進み、日本の得意分野に踏み込む。

米アップルの最新サプライヤーリストで、中国勢は 200 社中 51 社と、台湾や日本を上回る首位となった。 中国のサプライヤーには日本企業などの買収を狙っている企業もあるとされ、日本企業の中国での現地生産も「中国企業に技術が流出するリスクが否定できない(外交関係者)」との指摘もある。 競争力の源泉となる技術力を守りながら、成長が続く中国市場でどう攻めるのか。日本企業は難しい判断を迫られる。 (中国総局・多部田俊輔、nikkei = 8-1-21)


「半導体崛起」目指す中国の清華紫光集団が経営危機、「サムスン・SKの戦略コピーに失敗」との見方も

中国の「半導体崛起(くっき)」の先頭に立つ清華紫光集団(清華ユニグループ)が債権者の申し立てで破産の手続きに入った。 中国政府の全面的支援を受け、総合半導体グループに成長した同社は無理な事業拡張が仇となり、危機に直面した。

中国メディアの財訊によると、清華紫光集団の債権者のうち徽商銀行は 10 日、清華紫光集団が返済期限までに債務を返済できない上、資産が債務返済には十分ではないとして、同社の破産を北京市第 1 中級人民法院(地裁に相当)に申し立てた。 同社は「裁判所が債権者の申し立てを認めるかはまだ決まっておらず、グループ系列企業の日常的な経営活動は正常に行われている」と説明した。

清華紫光集団は 1988 年に国立の清華大学が設立した企業で、事実上の国有半導体メーカーだ。 中国の国有資産監督管理委員会が直接管理する中央企業であり、メモリー企業の長江存儲科技 (YMTC)、通信チップ設計の紫光展鋭などを設立し、総合半導体グループへと成長した。 2015 年にはサムスン電子にスマートフォン用のアプリケーションプロセッサ− (AP) を供給し、中国でも最も進んだ技術力を持つ半導体メーカーとして評価された。

清華紫光集団の失敗はサムスン・SKなど韓国の大企業の成功戦略のコピーに失敗したためだとの分析がある。 ブルームバーグは今年 2 月、「中国がどうして韓国を完全に間違ってまねたのか」と題するコラムで、清華紫光集団が韓国の大企業のように持ち株会社を通じ、主力子会社をコントロールしようとしたが、複雑で不透明な支配構造を変えられず、流動性危機に陥ったと指摘した。 3,000 億元(約 5 兆 1,000 億円)に達する資産を保有しているが、280 社余りの子会社を率いるには力不足だったとの指摘だ。

清華紫光集団が国家目標を達成するために過剰投資を行ったとの指摘もある。 ブルームバーグは清華紫光集団のような中国の大企業は韓国の大企業のような独自の事業目標ではなく、国家戦略のために動き、過剰債務を負うケースが多いと分析した。 実際に清華紫光集団は本業の半導体以外にクラウドなどの新事業への投資を毎年増やしてきた。 しかし、新事業に対する投資規模を増やしても技術力が伴わず、高付加価値の半導体で競争力を失った。

清華紫光集団は既に昨年末から揺らぎ始めた。 昨年 11 月に 13 億元の社債を償還できず、初の債務不履行に陥った。 12 月にも 4 億 5,000 万ドル規模の外貨建て社債を償還できなかった。 しかし、同社はそれ以降も半年以上経営を続けてきた。 中国では企業が債務不履行を宣言してもすぐに破綻につながらず、銀行から一定期間は資金を借り入れられるからだ。 中国政府が国家政策の観点で清華紫光集団の破産を放置する可能性は低いとみられている。 中国政府は米国の圧迫に対処するため、2025 年までに半導体の自給率を 70% に高める目標を掲げている。 (韓国・朝鮮日報 = 7-13-21)


習近平の抱く危機感 … 中国大手ハイテク企業の株価大下落で経済成長に強烈なダメージが!

兆候はあった

7 月 1 日の中国共産党結党 100 周年記念式典を終えた習近平指導部は、自国の大手ハイテク企業に対する締め付けを強めている。 8 日に上海で開幕した世界人口知能 (AI) 大会初日、登壇した中国ネット最大手の百度(バイドゥ)の李彦宏(ロビン・リー)董事長兼最高経営責任者 (CEO) と、ビデオメッセージを寄せたネットサービス大手・謄訊控股(テンセント)の馬化騰(ポニー・マー) CEO が講演し、各々次のように語った。

「交通システムや様々な社会問題の解決に AI 技術を活用して貢献できる。(李氏)」 「宇宙開発の分野で政府と連携し研究開発を加速させる。(馬氏)」 明らかに、ネット企業に対する規制強化を打ち出した中国当局への "恭順の意" を示したものだ。 兆候はあった。 中国ネット配車サービス最大手の滴滴出行(ディディ)は先の記念式典前日の 6 月 30 日、米国ニューヨーク証券取引所 (NYSE) に上場を果たした。 同社はこの新規株式公開 (IPO) で最大で 51 億ドル(約5,648 億円)を資金調達した。

ところがその 2 日後、インターネット規制当局の中国サイバースペース管理局 (CAC) が滴滴出行への立ち入り調査を開始したのだ。 共産党記念式典を控えた 6 月、CAC は同社に対して IPO を待つように警告を発していたが、その意向を無視されたため強制調査に踏み切ったというのである。

統治の強化

この一件が明るみに出たことで、中国の民間電子取引プラットフォーム企業が直面する困難が改めて浮き彫りとなった。 規制当局は、こうした企業を「戦略的情報インフラの運営者」と見なし、その企業とそのデータに対する統治をますます強化している。 米国内外の投資家は、6 月に成立して 9 月から施行される「データ安全法(データセキュリティー法)」など中国の厳しい規制環境が企業の評価額を低下させることを懸念しており、特に米国での IPO を実施し、投資回収を急いできた。 そうした中で、CAC が強制調査に着手したのだ。

先週末に規制当局によって配車アプリのダウンロード停止を命じられたため、週明けの 6、7 日には滴滴出行株は前週比で 30% 超の下落となった。 同株下落に引きずられて電子商取引最大手のアリババ集団株も大きく下げた。 米ニューズレター「Observatory View、7 月 6 日付)」が指摘するように、ジャック・マー(馬雲)氏が創立したアリババ集団を見るまでもなく、中国の巨大 IT 企業は国内よりも多額の資金を調達できる米国など海外の市場での IPO を選択してきた経緯がある。 だが、今回の中国当局による海外上場の規制によって、将来の海外上場を射程に入れてきた新興テック企業は大きなダメージを受ける。 それだけではない。 中国経済の成長の足かせとなるのだ。

米国への危機感

何故ならば、こうした巨大 IT 企業は中国共産党政権が描く「中国の国家資本モデルと政府の社会統制に対する潜在的脅威と見なされている (Observatory View)」からだ。 であるからこそ、滴滴出行(ディディ)調査は、継続的な中国の民間資本に対する統制強化の一環として見るべきなのだ。 過去の M & A (合併・買収)の際に当局への申請が行われなかったのは独占禁止法違反であり、アリババ集団、ディディ両社に罰金を科すと、国家市場監督管理総局 (SAMR) は発表した。 テンセントや小売り大手・蘇寧易購集団も独禁法違反が問われている。

こうした中国の規制強化の背景は、貿易・技術覇権を巡る米中対立がマネーにまで及んできたことで、その深刻度合いがさらに高まりつつある中、習指導部が米国に対する危機感を強めていることと無縁ではない。 トランプ政権末期の 20 年 10 月、注力すべき機微・新興技術 20 分野(AI、量子・半導体、通信ネットワーク、宇宙等)を列挙し、「機微・新興技術国家戦略」を打ち出した。 世上で「重要エマージング技術」と呼ばれたものだ。

そしてバイデン政権下の今年 6 月 3 日には、中国人民解放軍と関連する中国企業 59 社への投資を禁止する大統領令に署名した(8 月 2 日施行)。 即ち、中国の海外上場規制強化は貿易、技術、マネーの 3 本柱で対中締め付けを行う米国への意趣返しとも言えるのだ。 米中デカップリング(分断)はどこまで突き進むのか、先行きは見えてこない。 (歳川隆雄、現代ビジネス = 7-10-21)


中国、国外上場の規制強化 株式市場でも米中切り離しか

中国政府は 6 日、米国など国外で上場する中国企業への規制を強める方針を打ち出した。 背景には、中国国内で収集されたデータが米国側に渡ることへの警戒感がある。 米中対立のさなかでも中国企業の米国での上場数は伸び続けてきたが、米中のデカップリング(切り離し)が株式市場にも広がり始めた。 6 日の米ニューヨーク株式市場で、中国の IT 企業の株価が軒並み値下がりした。 特に目立ったのが、配車アプリ大手の滴滴出行(ディディチューシン)だ。 前週末の終値から約 20% 値下がりして取引を終えたが、一時は 25% も下落する場面があった。 このほか、ネット通販最大手のアリババ集団が約 3%、ネット検索大手の百度(バイドゥ)が約 5% 下落した。

中国国務院などは 6 日、国外で上場する中国企業への規制を強化する方針を発表した。 企業の情報管理の責任を明確にし、国境を越えるデータの移動や機密情報の管理などに関する規定を強化する。 中国の証券法を域外に適用する考えも明らかにした。 中国の規制当局は今月 2 日以降、6 月に米国市場に上場したばかりの滴滴など I T企業 3 社の審査を開始。 4 日には、滴滴について、個人情報の収集や使用で重大な違法行為があるとして、新規のアプリのダウンロードを停止するよう命じた。 中国国内のデータが上場先の米国に流れることへの警戒感が背景にある。

米紙ウォールストリート・ジャーナルは 5 日、中国政府が滴滴に対してネットワークの安全性に懸念を示し、米国での上場を延期するよう提案していたと報じた。 中国共産党の機関紙・人民日報系の環球時報は 4 日、滴滴について「米国に上場し、筆頭株主が外国企業のような企業には、国家が情報の安全をさらに厳しく管理せねばならない」とする評論を載せた。

増える中国企業の上場 強まる米国の監視

この数年、米中は半導体など先端分野での「切り離し」を進めてきたが、中国企業による米国での上場はむしろ増えていた。 米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」によると、今年 5 月の時点でニューヨーク証券取引所など米国の主要な三つの取引所に上場する中国企業は 248 社。 時価総額は計 2.1 兆ドル(約 230 兆円)にのぼる。 米調査会社のディールロジックによると、米国で今年、新規上場した中国企業は 36 社と既に昨年の 2 倍にのぼる。

中国企業が米国で上場するのは、投資家からの注目が高く、資金が集まりやすいメリットがあるからだ。 中国国内にも香港や上海に株式市場があり、米国と同時に上場している企業は多い。 さらに中国国内よりも審査が通りやすいとされ、滴滴は国内よりもニューヨーク証券取引所での上場を優先した経緯がある。 米国側は、こうした中国企業への監視を強めようとしてきた。 米上下院は昨年、中国企業を念頭に、当局が会計監査の状況をチェックできない状態が 3 年間続いた外国企業について、米国での上場を廃止できるようにする法案を可決した。

中国は国家機密などを理由に企業の監査書類を米当局に提供することを拒んできており、今回の規制強化の背景には、米国への対抗措置の意味合いもありそうだ。 中国企業の米国での上場に対し、米中双方から監視や規制が強まれば、米中の「切り離し」がさらに進むことになる。 滴滴の筆頭株主であるソフトバンクグループ傘下の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」のように、中国企業への投資や提携を進める日本企業にも影響が広がる可能性がある。 (上海 = 西山明宏、ニューヨーク = 真海喬生、asahi = 7-7-21)

中国政府は IT 企業への統制を強めてきた
2020年11月金融当局がアリババ集団傘下の金融会社アント・グループを聴取、新規株式上場が延期に
12月中国共産党が「独占禁止強化と資本の無秩序な拡大防止」を翌年の重大任務に挙げる
2021年4月アリババに独禁法違反として過去最高の約 3 千億円の罰金
7月2日国家安全上の理由で規制当局が滴滴出行への審査を開始
同5日規制当局が、米上場直後の求人アプリ、トラック配車アプリの 2 社を審査
同6日国務院などが国外市場で上場する企業への規制強化方針を発表

◇ ◇ ◇

データ大国中国、アメリカとの攻防 日本企業にも影響大

中国政府は 6 日、米国など国外で上場する中国企業への規制強化策を公表した。 米国へのデータ流出を警戒した動きで、中国配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディチューシン)などが標的になっている。 データが企業や国家の競争力を左右するなか、中国政府は関連する法律を矢継ぎ早に打ち出している。 背景にあるのは米国との対立激化だが、日本企業への影響も大きい。 中国の法制度に詳しい、方達法律事務所(上海)の孫海萍(スン・ハイピン)弁護士に話をきいた。

中国、国外上場への規制強化 米への情報流出を警戒?

- - 中国のデータセキュリティー法が 6 月に成立し、9 月から施行されることになりました。 データの管理や保護、安全審査などが盛り込まれています。 滴滴の審査でも使われたサイバーセキュリティー法(2017 年施行)のほか、個人情報保護法も近く成立する見通しです。 中国はなぜ、データや情報にかかわる法律の整備を急いでいるのですか。

「産業の発展を促し、国の安全を守ることが大きな狙いだ。 データ資源は、人工知能 (AI) や IT など次世代技術の扉を開く『カギ』と言われている。 とりわけ、中国政府は、データに関する法整備において、米国や欧州連合 (EU) より後れをとっているとみている。 欧米には、この分野で国際ルール作りを先導しようという動きもあるだけに、追いつく必要があると考えていると思う。」

- - データをめぐっては、米国との摩擦の一因にもなっています。

「中国、米国ともデータ大国。 双方ともその保護を重視している。 米国のマイクロソフト、グーグルなど大手 IT 企業は、世界中でビジネスを展開し、その活動により日々データを収集している。 いっぽう、14 億人規模の国内市場を抱える中国も、国内 IT 産業の発展により膨大なデータを蓄積している。 中国は、データ資源の『攻防戦』に対する体制を構築しなければならないと考えている。」

- - データセキュリティー法には、中国国内に保存しているデータを外国の裁判所、検察や警察などに提供する場合、中国当局の許可が必要とあります。 中国に進出した日本企業が中国に置いてある自社のデータを、日本の司法機関などに提出するのに、わざわざ中国当局の許可がいるのですか。

「米国の法律に対応したものだ。 『クラウド法』と呼ばれる法律が、米国で 18 年に成立した。 これにより、米国当局は米国内に拠点を持つ会社に対して、米国外に保存されるデータについても令状なしでデータの開示を要求できることになった。 勝手に中国内のデータを外国の当局に渡されては困るので、中国も厳しく対応する法律を導入する必要があったものとみられる。」

「米国はトランプ政権下で、中国発の動画投稿アプリ TikTok (ティックトック)に対して利用禁止令を出すなど、中国企業への締め付けを強めた。 TikTok の利用禁止例についてはバイデン政権になって撤回されたものの、こうした事案はいつ発生するとも限らない。 米中対立を背景に、グローバルに展開する中国の IT 企業を守るためにも、中国に対して差別的な禁止措置などをとる国への対抗手段を盛り込んでいる。」

「もちろん、法整備を急いでいるのは、米国など外国との関係だけではない。 システムへの侵入によるデータの不法な取得など、国内で事件が多発していることに対応するものでもある。」

- - 中国ビジネスにかかわる日本企業は、法律がどう運用されるのか心配しています。 詳細な規定はなく、抽象的な内容で、できたばかりで判例も乏しいからです。

「データセキュリティー法では、中国外の組織や個人、たとえば日本企業や日本人が中国外で収集した中国にかかわるデータを扱う場合でも、中国の国家安全などを損なうときには法的責任を問われる場合がある。」

「データや技術の分野について、中国政府は(米国との対立を含む)国際情勢の変化に応じて法令を打ち出している。 動きが速いので、日本企業を含めて外資系企業は状況をきちんとフォローしておく必要がある。 目下のところ、日本企業の多くは最悪の場合を常に想定して、リスクを避けるかたちでとても慎重に動いていると思う。」

中国で変わる個人情報への意識

- - 個人情報保護法については、なぜいま整備しようとしているのですか。 中国では、政府が市民の情報を得ることに対して、日本ほど反発はないようにみえます。

「個人情報にかかわる法律を作る動きは、08 年ごろから始まった。 米国との対立が強まるより前の話で、どちらかといえば、国内情勢をより強く意識したものだ。 中国社会でデジタル化が急速に進んだことが背景にある。 たとえば、航空会社のチケットを買うには身分証や携帯電話の番号などが必要になるが、その情報が航空会社から流出し、詐欺事件につながるような事件もあった。 かつては、ちょっとした景品とひきかえに個人情報を気軽に渡していた中国人も多かったが、企業に自分の個人情報を渡すと悪用されかねないと懸念する人が増え、市民による個人情報の保護を求める動きが活発になっている。」

「私が所属する方達法律事務所で公開データベースの裁判文書を集計したところ、個人情報の侵害にかかわる民事訴訟の件数は、年々増えている。 20 年は新型コロナウイルスの影響で訴訟件数自体は前年より減ったが、広く注目を集める裁判があった。 中国で初の顔認証の民事訴訟と呼ばれるものだ。」

- - 中国では AI による顔認証が普及していますが、誰が何を訴えたのですか。

「杭州市の動物園のある利用者が、動物園を訴えたものだ。 動物園側は、この利用者が年間入園カードを使って入園するにあたって、同意を取らないまま本人確認の条件に顔認証を加えた。 この利用者は顔認証を拒んだので年間入園カードは失効してしまった。 そこで、身分証明書と指紋認証で本人を確認でき、顔認証の情報まで収集する必要はないと主張して、動物園を提訴した。」

「顔認証は電子マネーの本人確認に使われる可能性もある。 仮に情報の漏洩や乱用があれば財産損失も起こりうるので、中国の人々も利用のされ方に対して敏感になりつつある。」

- - 裁判所の判断はどうなったのですか。

「一審では違法性はないと認定した。 ただ、顔認証の是非の判断は避け、手続き的な面から結論を出した。 上訴審では、裁判所は、動物園側が一方的に本人認証の方法を変更したことは、カードの発行や利用の手続きにかかわる契約違反に該当すると認定し、顔認証情報を削除する必要があると判断した。」

「いずれも顔認証情報の収集の必要性そのものについては分析や判断は避けたものの、上訴審の裁判所は、生体認証情報はセンシティブ情報であり、一般の情報よりさらに手厚く保護する必要があるとも明言した。 中国の市民社会は、デジタル化にともなって個人情報に対する意識が大きく変化しており、その変化に対応した法整備が求められている。」 (聞き手 編集委員・吉岡桂子、asahi = 7-7-21)


中国配車アプリが「違法に個人情報」 ダウンロード停止

中国政府の国家インターネット情報弁公室は 4 日、配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディチューシン)について、個人情報の収集や使用で重大な違法行為を認定したと発表した。 スマートフォンのアプリストアから滴滴のアプリを新規にダウンロードできなくするよう命じた。 巨大 IT への締め付けだけでなく、米国側へのデータ流出に警戒を強めている可能性がある。

同弁公室は 2 日、ネット空間の規制を強める「サイバーセキュリティー法」などに基づき、国家安全上の問題があるとして滴滴の審査を始めたと明らかにしていた。 滴滴は 4 日、「当局の指導に誠に感謝している。 真剣に改革し、利用者の個人情報とデータを守り続ける。」との声明を発表した。 すでにアプリをダウンロードしている利用者は通常通り使えるという。 滴滴はソフトバンクグループ傘下の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」が筆頭株主だ。

滴滴の違法行為の詳細は明らかになっていないが、米国とのつながりを警戒したとの見方が浮上している。 6 月 30 日に米ニューヨーク証券取引所に上場した滴滴が、アプリを通じて得たデータを米国側に提供したのではないかとの指摘がネット上であがった。 これに対し、同社幹部が 3 日、「データはすべて中国国内のサーバーに保存されている」と否定した。 さらに中国の規制当局は 5 日、求人アプリ「BOSS 直聘」や、トラック配車アプリ「貨車幇」などを展開する計 2 社についても、国家安全上の理由で審査を始めたと発表。 両社とも 6 月に米国で上場したばかりだった。 (北京 = 西山明宏、asahi = 7-5-21)

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中国、米上場の配車アプリを審査 「国家安全上の問題」

中国でインターネットの規制を担当する国家インターネット情報弁公室は 2 日、配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディチューシン)について、国家安全上の問題があるとして審査を始めたと発表した。 審査中は新規の利用者の登録を停止するよう命じた。 ネット通販最大手のアリババ集団への処分をきっかけにした、習近平(シーチンピン)政権による IT 企業への統制強化の一環とみられる。 国家の安全を理由にした統制の方針を定める「国家安全法」や、ネット空間の規制を強める「サイバーセキュリティー法」に基づいた審査で、「データの安全に対するリスクを防止し、国家の安全を守り、公共の利益を保証するため」だと説明している。

法令違反の有無など、審査の詳しい内容については明らかになっていない。 滴滴は同日、「審査に積極的に協力する」との声明を出した。 滴滴は 6 月 30 日に米ニューヨーク証券取引所に上場したばかりだった。 中国の規制当局は今年 4 月、アリババに独占禁止法違反で巨額の罰金を科したほか、他の中国のプラットフォーマーにも審査を拡大。 各社に政府の指導を全面的に受け入れるよう誓約書を書かせるなど、習政権は巨大化した IT 企業への圧力を強めている。 (北京 = 西山明宏、asahi = 7-3-21)


ネット消費に熱中する中高年 日中福祉プランニング代表・王青

近年、中国は IT イノベーションの最先端国として世界中から大変注目されている。 中国の IT 技術は新型コロナウイルス禍でさらに力を発揮。 自粛生活で外出や買い物がままならぬ状況の中、デリバリーやインターネットショッピングはなくてはならない存在となっている。 中国では若者に限らず、中高年層もネットショッピングに熱中し、使いこなしている人が急増している。

高齢者の健康や消費行動などを研究する専門の調査機関はこのほど、上海などの「一線都市」を中心とした高齢者のネット消費に関する調査を行い、その結果を公開した。 一線都市とは社会活動で重要な地位にあり、波及力とけん引力を持った大都市のことを指す。 調査によると、2020 年末現在、ネットで買い物をしている消費者 7.82 億人のうち、41 歳以上の中高年は 42% を占めた。その背景には、ネット環境が整備され、中高年もネットと接する機会が多くなり、便利な消費方法を享受しているからだという。

中高年のネット消費の特徴は以下の 4 つだ。

  1. 品質、価格、機能を重視

    上海では、54 歳以上の人のうち、77.5% は買い物の際、品質にこだわると回答。 57.1% は価格を、41.9% は商品の機能をそれぞれ重視するという。

  2. 便利さを重んじる

    若者にありがちな衝動的な消費行動と違って、中高年は目的があっての消費が多い。 時間の節約や実店舗での混雑を避けるためにもネットで買い物する。 また、一番利用するのがテレビショッピングで、昼間にテレビを見ることが多い高齢者ならではだ。 「ピンドゥオドゥオ」と「TikTok (ティックトック)」も活用する。

  3. 忠誠心がある

    中高年はいったんあるブランドを使って気に入ったら、その後も同じブランドを使い続ける傾向が強く、簡単に乗り換えない。 企業は、いったん信頼してもらえば固定客になってもらえるので、中高年にふさわしい商品の開発や品質の維持が重要となる。

  4. 理性が働く

    中高年は若者と比べ理性が働き、衝動買いはしない。 また、買い物する時は商品に対して総合的に判断し慎重である。 一方、簡単に人のまねはしないが、身内や身近な人の意見を聞き、信用する傾向が強い。

中高年のネット購買傾向は以下の通りだ。

  1. 健康関連商品が好まれる

    年齢を重ねていくにつれ、中高年は自身の身体と心の健康への意識が高まり、健康食品などを購入する。 また、大都市の高齢者は経済的に安定しているゆえに、精神的な満足を求める。 そのため、旅行や文化活動に関わる消費が増えている。

  2. 国内ブランドを好む

    国内メーカーは、海外企業より自国の中高年を観察・分析しており、商品の開発と販売が有利である。 高齢者が海外の商品に詳しくないこともあって、中高年は国内ブランドを好むほか、昔から使い慣れているブランドを選ぶ。

  3. 消費内容は多彩

    中高年がネットで主に買うのは、衣服や食品といった日常用品のほか、健康関連、娯楽関連、家電などと、かなりバラエティーに富む。 また、孫のための買い物も大きな割合を占めている。 パソコンよりもスマートフォンアプリでの決済にシフトしている。

調査によると、中高年のネット消費は、学歴が高いほど利用率が高くなる傾向があり、デジタル社会についていこうとする努力が見られる。 一方、地方都市や低学歴の中高年は、ほとんどが実店舗のみを利用し、多くがまだスマホを使えない状況にあるという。 こうしたことを考えると、今後、高齢者にとって使いやすいアプリの開発が急務となる。 デジタル化の恩恵を社会全体で共有するにはまだ課題は多い。(時事通信社「金融財政ビジネス」より、jiji = 6-20-21)

【筆者】 王青(おう・せい) : 日中福祉プランニング代表。 中国・上海市出身。 大阪市立大学経済学部卒業。 アジア太平洋トレードセンター (ATC) 入社。 大阪市、朝日新聞社、ATC の 3 者で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館 ATC エイジレスセンター」に所属し、 広く福祉に関わる。


中国ハイテク新興に逆風 88 社新規上場取りやめ
アリババ締め付けや米中対立長期化

【上海 = 張勇祥】 中国の新興企業に逆風が吹いている。 ハイテク企業向け市場「科創板」では 2021 年に入り、88 社が上場手続きを取りやめた。 10 日に中国政府がアリババ集団に巨額罰金を科すなどハイテク企業を締め付ける方向に転じたほか、バイデン米政権下でも米中対立が続いていることが背景にある。 統制強化が技術革新(イノベーション)の阻害要因になりかねない。

科創板は習近平(シー・ジンピン)国家主席の肝いりで 19 年に開設し、上場社数は 260 社に迫る。 ここにきて中国を代表するユニコーン(企業価値が 10 億ドル = 約 1,100 億円以上の未上場企業)などが新規上場を中断・中止する事例が増えており、年初からの 3 カ月半で 88 社に達する。 19 年 7 月から 20 年末までの 1 年半の累計中止社数(64 社)を大きく上回る。 1 - 3 月の世界の新規上場件数は 25 年ぶりの高水準となっている。

中国政府は技術覇権の確立を目的にイノベーションを奨励し、成長企業を資金調達面から後押しする戦略を続けてきた。 ところがデジタル決済で市場を二分するアント・グループの上場差し止め以降、成長重視から中国共産党による統制に力点を置く戦略が明確になっている。 中国人民銀行(中央銀行)など金融当局は 12 日、アント・グループに対し 3 度目となる聴取を実施。 アント・グループを金融持ち株会社に転換し、全ての金融事業を当局の監督下に置くよう定め、実施を求めた。

新規上場に関しては、中国証券監督管理委員会(証監会)が 1 月末、手続きを進めている企業に対する新しい規定を公表した。 抜き打ち調査を可能にする規定で、問題企業を「狙い撃ち」できる内容だった。 3 月には証監会トップの易会満主席が「問題を持ちながらも上場を目指す企業は厳粛に処理する」と表明した。

企業は統制を強める中国政府の意向に積極的に従っている。 アリババの張勇・会長兼最高経営責任者 (CEO) は 12 日の会見で「積極的に規制当局の監督に協力していく」との姿勢を示した。 香港市場でのアリババ株は 12 日、前週末比 6.5% 高となった。 張氏が協力姿勢を示し、今回の罰金で処分が一巡するとの見方が広がった。 ただ中国政府の締め付け姿勢は中長期的には株価の重荷となりかねない。 証監会の同規定は対象企業が自主的に新規上場を撤回できるとしており、2 月から 3 月にかけて有力新興企業が相次いで上場手続きを取りやめた。

顔認証技術の開発を手掛ける依図科技のほか、自動運転向け高性能センサー LiDAR (ライダー)開発の上海禾賽科技などだ。 両社とも企業価値は 20 億ドル規模とされる。 こうした企業は取りやめの理由について「上場規則への対応に時間がかかる(依図科技)」などと公式には説明する。 上海証券取引所は 4 月 2 日、京東数字科技控股が新規上場に向けた手続きを中止したと発表した。 同社は京東集団(JD ドットコム)傘下で個人向け与信などアント・グループと似たビジネスを展開する。 20 年 9 月に科創板への上場を申請し、200 億元(約 3,300 億円強)を調達する見込みだった。

バイデン米政権の中国ハイテク企業への対立姿勢も逆風だ。 米政権は 8 日、中国でスーパーコンピューターの開発を手掛ける企業や研究機関など 7 社・団体に事実上の禁輸措置を発動すると発表した。 バイデン政権も中国に対して強硬な姿勢を継続しており、中国の新興ハイテク企業は米国での事業展開の見直しを迫られる可能性が出ている。 株価も振るわない。 科創板の主要上場企業 50 社で構成する「上証科創板 50 成分指数」は足元では 1,300 を下回り、20 年夏の高値から 3 割近く下回って推移する。 世界株全体の値動きを示す「MSCI 全世界株指数 (ACWD)」が上昇を続けるのと対照的な値動きとなっている。 (nikkei = 4-13-21)

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