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「雪の東京を歩くパンダ」で作られた動画は … 中国 AI、独自の進化

中国で生成 AI (人工知能)市場が急拡大している。 世界で高いシェアを誇る ChatGPT (チャット GPT) など米国製は、中国では使えない。 政府の強力な後押しと規制のもとで独自の市場が形成され、新規参入が相次ぐ。 上海市で 4 日から開かれている AI の見本市「世界人工知能大会」。 7 回目の今年は、百度(バイドゥ)やアリババなど中国の IT 大手をはじめ過去最多の 500 社以上が参加した。 注目を集めたのは中国の動画アプリ大手「北京快手科技」が 6 月に一般公開した動画生成 AI 「可霊 (King)」だ。

「1 匹のパンダが東京の街を歩いている、街には雪が降っている、温かみのある雰囲気」

記者がそう文章で打ち込み、3 分ほど待つと、パンダが雪の街を歩く 5 秒の動画ができた。 誰が見ても東京の街と感じるほど特徴を捉えているわけではないが、パンダが歩く姿や、雪が降り積もる風景はリアルに表現されている。 Kling は文章だけで最長 3 分の動画が作成できるという。 文章から動画を生成する AI では、チャット GPT を運営する米オープン AI も 2 月に「Sora (ソラ)」を発表し、一般公開に向けて作業を進めている。 同様の技術は米グーグルも発表し、開発競争が世界で激しくなっている。

顔認証技術大手の「商湯科技(センスタイム)」は生成 AI 「日日新」の最新モデルを紹介していた。 本のページをスマートフォンのカメラで写して「要約して」と指示すると、すぐに内容を簡潔にまとめた。 人の姿を映しながら「今日の洋服はどう?」と聞くと、「とても似合っている」などと感想を語り出した。

中国では百度やアリババ、華為技術(ファーウェイ)やテンセントといった IT 大手だけでなく、ベンチャーや研究機関なども次々に生成 AI に参入する。 中国メディアによると、4 月までに国内で発表された生成 AI の基盤となる大規模言語モデル (LLM) は 300 以上にのぼる。 中国・南開大学の研究所などによると中国国内の AI の中核産業の規模は 2023 年、前年より 13.9% 増えて 5,784 億元(約 13 兆円)に達したようだという。

政府が強力後押し、チャット GPT 不在の独自の市場を形成

世界 AI 大会の開幕式にはこれまで、上海市トップが登壇することが多かったが、今回初めて李強(リーチアン)首相が出席した。 中国政府は 2017 年に「次世代人工知能発展計画」を定めるなど、重点領域としてAI 開発を後押ししてきた。 生成 AI が注目を集めた 23 年以降、北京や深セン、上海などハイテク産業が集まる大都市を中心に地方政府も支援策を次々と打ち出している。 特許権などを扱う国連の専門機関、世界知的所有権機関 (WIPO) の報告書によると、14 - 23 年の 10 年間で公開された生成 AI 関連の特許約 5 万 4 千件のうち、7 割にあたる 3 万 8,210 件が中国からの出願だった。 2 位の米国の 6 倍だ。

一方で、中国政府はこの分野へのコントロールも強めようとしている。 昨年 8 月、生成 AI を規制する法律を施行。 サービスの提供者や利用者に「社会主義の核心価値観」を堅持するよう定める。 国家転覆を扇動する内容などの生成を禁じ、サービスの提供には当局の事前審査が必要だ。 欧米のサービスが中国市場へ参入することは難しく、チャット GPT も基本的に利用できない。 世界 AI 大会には、グーグルやマイクロソフト、テスラなどの米国企業も出展するが、大半は中国企業だ。

中国のデジタル産業に詳しい野村総合研究所の李智慧氏は「チャット GPT のような汎用(はんよう)型 AI については中国企業は米国のレベルにはまだ及ばない」という。 一方、個別の領域の課題解決に絞った「業界特化型」では「中国の方が進んでいるものもある。」 社会実装を重んじているのが中国勢の特徴だという。 (上海・鈴木友里子、asahi = 7-5-24)


中国のサイバー攻撃情報が流出 IT 企業、警察や軍利用

【北京】 AP 通信は 28 日までに、中国 IT 企業「安洵信息技術有限公司(本社上海)」がフランスやインドなど各国にサイバー攻撃を仕掛けたことを示す内部資料がインターネット上に大量流出したと報じた。 ハッキングで入手した情報の利用者として中国の警察や軍が記載されており、AP は複数の同社従業員の話として、中国警察が流出の経緯を捜査していると伝えた。

ウェブサイト「GitHub (ギットハブ)」で安洵の社内向け資料とされるデータファイルが公開され漏えいが判明した。 この資料にはパリにある教育機関やエジプト政府、モンゴル外務省などが「目標」と記され、ハッキングの標的としていたとみられる。 台湾へのハッキングでは各市の建物や道路の 3D データをターゲットとしていた。 中国新疆ウイグル自治区での反体制派の監視強化で警察に協力したことを示す資料があり、当局との結びつきの強さをうかがわせた。 契約相手や内容、金額が記載された一覧表にある「最終利用者」の項目は警察が多数を占め、軍や税関も含まれていた。 (kyodo = 2-28-24)



特需終了で失速する中国のネット出前「美団」、海外事業も苦戦中

中国のフードデリバリー大手、美団の創業者の王興の保有資産は、北京を拠点とする同社が消費の低迷と競争の激化の中で苦戦しているため、年初から 66 億ドル(約 9,730 億円)も減少した。 現在 44 歳の王は、それでも 93 億ドルという巨額の資産を維持しているが、香港市場に上場する美団の株価は、第 3 四半期決算を発表した 11 月 29 日に 12% 急落し、年初来では約 50% 下落している。

香港の招商証券のアナリストのトミー・ワンは、コロナ禍を追い風に業績を伸ばした美団のフードデリバリー事業が、需要の減少やマクロ的な逆風に直面していると分析する。 美団も同様の見方を示しており、同社の最高財務責任者 (CFO) の陳紹輝は、28 日のアナリスト向け電話会議で、2023 年最終四半期のデリバリー件数は前年同期比で減少する可能性が高いと述べた。 同社はまた、暖冬の影響で消費者がデリバリーに頼らず外食を増やしていると説明した。

さらに、美団は競争の激化にも直面している。 短編動画プラットフォーム TikTok の中国版の Douyin (抖音)は、フードデリバリーを含むローカルサービスへの進出を開始した。 このため、美団もプロモーションの費用の増額を迫られ、利益率が圧迫されている。 フードデリバリーを含む美団のローカルコマース事業の第 3 四半期の営業利益率は、前年の 20.1% から 17.5% に低下した。

調査会社モーニングスターのカイ・ワンは「美団の経営陣は、人工知能 (AI) やライブストリーミングなどを用いて、より大きな需要を喚起しようとしているが、現時点ではあまり効果を出せていない」と語った。 一方、美団を率いる王は中国本土以外に活路を見出し、5 月には香港でフードデリバリーの新ブランド「Keeta」を立ち上げた。 しかし、一部のアナリストは人件費が高騰する中で、中国よりもデジタル決済の利用率が低い諸国で、美団が国内の成功を再現するのは難しいと考えている。

調査会社ブルー・ロータス・キャピタル・アドバイザーズの創業者で CEO のエリック・ウェンは、美団が国際的な足場を築きたいのであれば、競合のフードデリバリーを買収するのが得策だと語る。 美団は、東南アジアにおけるデリバリーヒーローの事業の買収に向けて交渉中と報じられたが、その進捗は発表されていない。 「彼らが買収以外の方法で海外に進出するのは非常に難しい」とウェンは述べている。 彼はまた、適切な買収ターゲットはそれほど多くはなく、買収額はかなりの高額になるかもしれないと指摘した。 (Yue Wang、Forbes = 12-1-23)


中国ファーウェイ、秘密の半導体ネットワーク構築か - 米業界団体

→ ファーウェイ、米国の制裁回避を狙った製造ネットワークか
→ ファーウェイ、推定 300 億ドルの政府支援受け取る - 米半導体工業会

中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)は国内全土で自社名を隠した形で半導体製造施設の建設を秘密裏に進めていると、米半導体工業会 (SIA) が警告した。 国家安全保障上の懸念がある企業のリストに掲載された同社が、米国の制裁を回避するため影の製造ネットワークを構築しようとする動きだ。 SIA によると、ファーウェイは昨年、半導体生産に乗り出し、政府と地元の深セン市から推定計 300 億ドル(約 4 兆 3,700 億円)の資金を受け取った。 同社は少なくとも 2 つの既存工場を買収し、3 つ以上の工場を建設中だと、SIA が会員向けプレゼンテーションで明らかにした。 ブルームバーグがその内容を確認した。

米商務省は 2019 年、国家安全保障上の懸念がある企業を指定する「エンティティーリスト」にファーウェイを掲載し、最終的にほぼ全ての状況において米企業との取引を禁止した。 しかし SIA が指摘するように、ファーウェイが自社の関与を明らかにすることなく他社名義で施設を建設・取得する場合は、こうした規制を免れ、同社が禁じられている米国製の半導体製造装置や他の部品を間接的に調達できる可能性がある。

米商務省産業安全保障局 (BIS) は、これまで報道されていない SIA の警告に関するブルームバーグ・ニュースの問い合わせに対し、状況を見守っており、必要ならば行動する用意があると説明した。 同局は既にファーウェイ以外の中国企業数十社をエンティティーリストに載せており、その中にはファーウェイのネットワークの一部と SIA が主張する福建省晋華集成電路有限公司 (JHICC) と鵬芯微集成電路製造有限公司 (PXW) の 2 社が含まれている。

BIS はブルームバーグへの声明で、「ファーウェイや JHICC、PXW などへの厳しい規制を考えると、そうした企業が固有技術の開発を試みるためにかなりの国家支援を求めたとしても不思議ではない」とした上で、「われわれは変化する脅威の状況に基づいて輸出規制を継続的に検討・更新しており、米国の国家安全保障を守るため適切な措置をためらうことなく取っていく」と表明した。

なぜ今なのか

バイデン政権は昨年 10 月、中国の軍事力抑制を目的に、特定の先端半導体や半導体製造装置の対中輸出規制を発動。 中国企業による旧世代半導体製造装置の購入についてはほぼ容認されているが、ファーウェイなどエンティティーリストに掲載された企業は無許可での購入が禁じられており、例外はまれだ。 ファーウェイのほか、同社ネットワークの一部と SIA が主張する JHICC や PXW などの企業は、いずれもコメントの要請に返答しなかった。 中国政府は米国の輸出規制に激しく反発し、米国も自国の主要企業に補助金を提供していると反論している。

SIA がなぜ今になってこうした問題に警鐘を鳴らすのかは明確ではない。 SIA は米インテルや韓国のサムスン電子、台湾積体電路製造 (TSMC) など、世界の半導体メーカーの大半を代表している。 また、米アプライド・マテリアルズやオランダの ASML ホールディングなどの半導体製造装置メーカーも会員に名を連ねている。

中国は国内の半導体産業にかつてない規模の資金を投入している。 30 年までに 1,000 億ドル超の投資を計画している製造施設が国内に少なくとも 23 カ所あると SIA は推定。 中国は 29 年か 30 年までに回路線幅 28 ナノメートルか 45 ナノの旧型半導体で、世界生産能力の半分余りを占めることになると予想している。 米欧の政府当局者は、中国が輸出禁止の対象とはなっていない旧型の「レガシー半導体」に大規模な投資を行っていることに懸念を強めている。 こうした半導体は多くの軍事用途には十分に要求を満たすことができ、電気自動車 (EV) などの主要市場でも広く使われている。

SIA のプレゼンテーションで名前の挙がった 5 カ所の半導体工場は、ファーウェイとは異なる企業の名義だが、いずれも同社が本拠を置く深センの近辺にある。 SIA が指摘する通り、こうした施設がファーウェイの名前を付けずに運営されている場合、サプライヤーが取引相手を把握するのは難しいかもしれない。 (Ian King、Debby Wu、Bloomberg = 8-23-23)


13 億人が使うスーパーアプリ 中国社会が拒み続ける「あの機能」

中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」での何げない書き込みが 7 月半ば、異常な閲覧数を記録した。 中国版 LINE とも呼ばれるチャットアプリ「微信(ウィーチャット)」の機能についてだった。

「もしも微信に既読機能がついたら、私は友人たちに断罪されるだろうなあ。 返信したくないんじゃなくて返信を忘れてるだけだとしても。」

意見の表明と呼ぶにも素朴すぎる書き込みが共感を呼んだのか、全国で瞬く間に広がった。 閲覧数は実に 5 億に達し、「いいね」も 8 万 3 千個がついた。 微信のユーザー数は、2022 年末に 13 億 1,300 万人。 中核のチャット機能に加え、お金を支払う機能やそれに付随するタクシー予約、チケット購入などの各種サービスもそろえ、中国人の生活になくてはならない「スーパーアプリ」だ。 ただ、このチャット画面では「既読」はつかない。 自分が送ったメッセージを相手が読んでいるかどうかは、分からないままだ。

今回、さらに注目されたのは、「もしも既読機能がついたら」のつぶやきが話題となったその日に、微信の運営会社で IT 大手テンセントの公式アカウントが、次のようにつぶやいたことだった。 運営元が明かした方針は、

「安心して。 もしも、なんてないから。」

続いて、広報担当者の張軍氏も詳細に表明した。 「この問題は以前にも討論したことがある。」 微信のサービス開始は 2011 年。 似た時期に世界中で同様のチャットアプリが現れた。 日本で人気を集めた LINE など他のアプリが既読機能をつけているのを知りながら、故意にこの機能をつけてこなかったのだという。 「既読機能はメッセージを受け取った相手の心理の負担、SNS ストレスを高めてしまう可能性がある。」 だから、と張氏は続ける。 「微信はかたくなに既読機能をつけてこなかったし、これからもつけることはあり得ない。」 中国社会ではいま、初対面の人同士が名刺を交換することはほとんどない。 「微信を交換しよう」の方が、はるかに大事だからだ。 ビジネスでも、プライベートでも、微信でつながっていればいつでも連絡を取り合うことができる。

仕事でもフル活用、だから …

ひっきりなしにやってくるチャットに返信し続けることが、中国の現代の生活そのものとなっている。 微信のメッセージを音声で吹き込みながら、交差点を渡る姿も当たり前だ。 仕事の指示も返答も微信が用いられるから、目を離すこともできない。 「秒回(秒の早さで返信する)」という言葉も生まれている。 それだけに、既読機能がもしついたなら、私用が中心の日本の LINE とは、まるで違う重みを持つことになる。 今回の書き込みを機に実施されたネット投票には 20 万人以上が参加し、8 割が「既読機能がない方が良い」を選んだ。

ネット上の討論では、「いまならメッセージを見落とした、で言い訳できる。 新機能がついたら逃げられない。」、「自分のメッセージに返事がないとき、『忙しいんだな』で済ませていたことが、もし『既読スルー』となると心が傷つくだろう」といった受信側・送信側双方からの反対が目立つ。 濃厚な人づきあいを伝統としてきた中国社会が、プライバシーの境界線があいまいなまま、SNS 時代に突入したという事情もありそうだ。

ネット上では「この機能を入れようと思っているのは(いつでも部下から返事をほしがる)上司か、(相手の様子を全部知りたいと思う)交際相手がいない人なんじゃないか」という意見もあった。 「既読」がついた上で返信をしないのは、中国人が重視する「メンツ」に関わる、との見方もある。 微信が公式に否定したことで、今回は多くの中国のネットユーザーにとっての「悪夢」は逃れられそうだ。

ただし、そもそも既読機能もユーザーのための情報提供の一つなので、その利便性は無視できない。 実際、中国で他に利用されている仕事向けなどの対話アプリでは、既読機能がついているものが多い。 中国メディアは、今回の件が話題となったさなかの 7 月 11 日、微信のテンセントが気になる特許を申請していたと報じている。 「グループチャットのメンバーがメッセージを読んだかどうかを表示する機能」に関わる特許だった。 (北京 = 斎藤徳彦、asahi = 7-31-23)


アリババ傘下金融会社に罰金 1,400 億円 当局「マネロン防止怠る」

中国の金融当局は 7 日、ネット通販大手アリババ集団傘下の金融会社アント・グループに対して、約 70 億元(約 1,400 億円)の罰金を科すと発表した。 消費者保護やマネーロンダリング防止を怠ったほか、決済サービスなど様々な金融業務で違法行為が確認されたためだという。 当局は、ここ数年続くアントへの集中的な指導は一段落したとしている。 発表によると、金融当局はアントの保険事業の停止も命じた。 アントを含め、金融事業を営む IT 企業に対し、違法行為を改善するよう指導してきたと指摘。 「多くの突出した問題の改善はすでに完了した」とし、今後はこうした IT 企業が持つ金融事業を当局の監視下に置くとした。

アントはスマートフォン決済「アリペイ」で得た膨大な決済情報を元に消費者金融など様々な金融事業を展開し、急成長した。 だが、従来型の金融機関ではないため、規制や監視の目が行き届かないことを金融当局は問題視してきた。 金融当局がアントへの改善を要求し始めたきっかけは、アリババの創業者である馬雲(ジャック・マー)氏による当局批判ともとれる 3 年前の発言だ。 アントは直後に予定していた新規株式上場 (IPO) を延期。当局の指導に従い、マー氏の議決権の割合を下げたり、金融持ち株会社への移行を発表したりした。 当局が取り締まりの終了を宣言したことで、延期されていたアントの IPO 手続きが再開される可能性がある。 (北京 = 西山明宏、asahi = 7-7-23)

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ジャック・マー氏の後継者、張会長兼 CEO が退任へ 中国アリババ

中国ネット通販大手のアリババ集団は 20 日、張勇会長兼最高経営責任者 (CEO) が 9 月 10 日付で退任すると発表した。 張氏は 2019 年に創業者の馬雲(ジャック・マー)氏から会長職を引き継いだ。 ネット通販で中国最大のセールイベント「独身の日」を始めたことでも知られる。 蔡崇信副会長が会長、子会社の淘天集団の呉泳銘会長が CEO を引き継ぐ。 張氏は退任後も、クラウド事業を担う子会社のトップを引き続き務めるという。 発表文で張氏は「今が引き継ぐのに適切なタイミングだ」とした。

アリババは中国を代表する IT 企業として、通販や金融、物流など様々な分野でイノベーションをもたらしてきた。 だが、張氏の在任期間中は苦難も続いた。 20 年秋のマー氏による当局批判ともとれる発言以降、中国政府が同社への取り締まりや圧力を強化。 当局の意向で傘下の金融会社アント・グループの上場延期やアリババとの分離も余儀なくされた。

ゼロコロナ政策の影響なども重なり、アリババに以前ほどの勢いは見られない。 23 年 3 月期決算の売上高は前年同期比 1.8% 増と、直近 10 年で最も低い伸びにとどまっている。 アリババは 23 年 3 月に組織変更の方針を発表。 持ち株会社の下に 6 つの主要事業会社がぶら下がり、一部は上場させる方針だ。 トップ交代で再び成長軌道に戻ることが出来るかが問われる。 (北京 = 西山明宏、asahi = 6-20-23)


「新型 CPU」を発表した中国企業が「Intel のラベルを貼り替えただけでは?」
という疑惑を完全否定、「コピーではなくコラボ」と発表

2023 年 5 月、サーバー向け製品を中心に開発・販売している中国企業の PowerLeader (宝徳)が x86 互換の CPU を発表しました。 モデル名「P3-01105」として公にされたこの CPU は調査により Intel 製 CPU と酷似しているとの指摘がありましたが、PowerLeader が後日詳しい情報を明らかにしました。 5 月に登場した P3-01105 は、あらゆるデスクトップアプリケーションに対応する国産 CPU であることがアピールされて市場に登場しました。 しかし、Intel の「Core i3-10105」という CPU に見た目も名前もスペックも似ているとの指摘が多数行われ、「ラベルを貼り替えただけのコピー製品ではないか」との疑惑が浮上していました。

Intel が開発した x86 と互換性を持つ CPU はそもそもの数が少なく、ライセンスの供与を受けて x86 互換の CPU を製造しているのは AMD、台湾の VIA からライセンスを受け継いだ兆芯という企業等に限られています。 そのため、「新たに x86 互換の CPU を作った」というニュースは「Intel が新たにライセンスを供与したのか」という推測にもつながり、地政学的にアメリカと対立構造を取る立場にある中国に CPU 製造の新風が巻き起こるのではという観点からも注目されていました。

しかし、前述の「コピー製品では」という疑惑が浮上したため、PowerLeader および販売元の Baode が 6 月に「P3-01105 は Intel の支援を受けて設計したカスタマイズ CPU です」との新たな声明を発表。 コピー製品ではなく Intel とのコラボ製品であると疑惑を否定し、「業界やメディアの友人たちの関心とサポートに特に感謝していますが、一部のインターネットメディアユーザーが虚偽の発言や写真、動画を直ちに配信停止・削除して、業界や企業の発展のために良い世論環境を作り出すことも期待しています」と述べました。 一方、Intel からのコメントは記事作成時点では発表されていません。 PowerLeader は、年間 150 万台の販売を見込んでいると主張しています。 (Gigazine = 6-12-23)


アリババ創業ジャック・マー氏、東大の客員教授に 食糧問題に関心

東京大学は 1 日、中国のネット通販最大手アリババ集団の創業者である馬雲(ジャック・マー)氏を、研究組織である「東京カレッジ」の客員教授として迎えたと発表した。 任期は 10 月末まで。 年単位での更新も可能という。 馬氏は、2019 年 12 月に東大で行われた国際会議に登壇。 東大は、この時から「一定の関係を築いてきた」と説明する。 東大が行う世界の食糧問題に関する研究が、馬氏の関心事項だったことが今回の就任につながったといい、今後は講演や講義を通じて、起業や企業経営、イノベーションについての経験や知見を、学生や研究者と共有することを期待するという。

馬氏は 1999 年にアリババを創立。 2020 年に当局批判ともとれる発言をし、傘下の金融会社アント・グループの株式上場が延期に追い込まれた。 21 年には、独占禁止法違反でアリババが巨額の罰金を科され、昨年 8 月には、アリババなどプラットフォーム事業者への規制を強化する改正独禁法が施行された。 馬氏は中国当局がアリババやアントに圧力をかけ始めてから、徐々に表舞台に姿を見せなくなっていた。 (山本知佳、asahi = 5-1-23)

〈編者注〉 編者にとっても懐かしい 1999 年です。 当時、日本でも「EC アリババ」は中国産品の紹介サイトとしてスタートしました。 編者のメールブラウザにも、その PR メールが溢れていました。 その後、ご存じのように本国で世界最大の EC ポータルとして花開きます。 ジャック マーの新しい事業は、再び東京からということなのでしょうか?


ジャック・マー氏の不在、中国への不信浮き彫り - 政府は支援表明でも

資産家の馬雲(ジャック・マー)氏の存在は、中国政府が国内外の民間セクターを巡る評判を取り戻す上で最良の切り札の 1 つになるかもしれないが、これまでのところ同氏は当局の誘いに慎重な姿勢を崩していない。 中国で最も著名なビジネスリーダーの 1 人で、同国の電子商取引最大手アリババグループと傘下のフィンテック企業アント・グループの共同創業者である馬氏は、2020 年に上海で行ったスピーチで中国の規制当局を批判した後、公の場に姿を現すことはほとんどなくなっていた。

それ以来、中国政府は不動産からインターネット・プラットフォーム、教育に至るさまざまなセクターを締め付けてきた。 その結果、世界の実業界は中国の非国有企業に対するコミットメントにますます懐疑的になっている。 しかし、習近平国家主席が権力を固め、経済に再び焦点を絞る中、同国の新指導部は企業に優しいイメージを構築したいと考えている。 事情に詳しい関係者 1 人によれば、中国当局は実業界への政府の支援をアピールするため、海外に滞在する馬氏に帰国するよう説得を試みたという。 しかし、馬氏は農業技術の研究に専念するため企業経営から手を引いたとして、海外にとどまることを選んでいたと、複数の関係者が非公開情報であることを理由に匿名を条件に明らかにした。

関係者の話では、馬氏はアントとアリババの幹部に対し、自らの帰国に固執しないよう内々に伝え、離れていても両社の成功にコミットしていると強調したという。 そうした中、馬氏は今月 27 日、浙江省杭州市の学校を訪問し、米オープン AI のチャットボット「ChatGPT (チャット GPT)」などについて論じたほか、かつて務めた教職にいつか戻りたいと話していたと同校が微信(ウィーチャット)公式アカウントで明らかにした。 中国にどのくらいの期間とどまる計画かは不明で、同国での他の予定やどのくらい前から今回の訪問を計画していたかも分かっていない。

中国の学校を訪問していたとのニュースを受け、アリババ株は 27 日の香港市場で一時 5.5% 高を付けたものの、上昇分を全て吐き出して取引を終えている。 李強新首相は 3 月の全国人民代表大会(全人代)で民間企業への「揺るぎないサポート」を表明したが、長期にわたる馬氏の不在は企業家や世界の投資家が中国政府に対して抱く不信感を浮き彫りにしている。 国務院新聞弁公室と外務省にファクスでコメントを求めたが、すぐには返答がなかった。 アリババとアント、馬氏の財団からのコメントも得られなかった。

根深い不信感

習主席や側近が民間セクターへのサポートを表明しても、不信感は根深い。 「毛沢東と市場 : 中国企業の共産主義的ルーツ」の共著者、クリストファー・マーキス氏は「公のメッセージでは企業家精神をサポートしているが、なお強力な国家統制とイデオロギーが吹き荒れている。 ビジネスは依然として党の支配下にある。」と分析した。 中国の投資銀行、華興資本のトップでハイテク業界の花形バンカーだった包凡氏が先月、突然消息を絶ち、政府の調査との関連が指摘されたことで、中国のビジネスエリートの間で民間セクターに対する締め付けはまだ終わっていないとの懸念が再燃した。

今年 1 月には、中国人民銀行(中央銀行)がテクノロジー企業の支援策を検討していると表明したにもかかわらず、中国政府は傘下の事業体を通じアリババのメディア事業部門の「黄金株」を取得し、アリババに対する支配をさらに強化。 テンセント・ホールディングス(騰訊)の子会社についても同様の計画があると、関係者 1 人が同月明らかにしていた。 また、中国は国内にある膨大なデータを監督・保護する新たな部署を設ける方針も示している。

「紅旗 : 習近平の中国が危機に直面している理由」の著者、ジョージ・マグナス氏は「政府のアプローチは依然として党と国家機関が優先だ」と説明。 民間企業の発展が許されるのは、「党の目標と理念を追求・尊重する場合の話で、内部から乗っ取るようなものだ」と述べた。 民間セクターをリードするアントや馬氏にとって、それは大きな意味を持つ。

アントの行方

アントはかつて中国の企業家精神とイノベーション(技術革新)の象徴と見なされており、20 年 11 月に予定されていた新規株式公開 (IPO) は過去最大規模になると予想されていた。 その数年前には、北京の人民大会堂で行われた盛大な式典で、馬氏の国家への貢献が称えられた。  同年の上海の金融会議で、馬氏は時代錯誤の規制は中国の技術革新を窒息死させると警告し、伝統的な金融機関を 「質屋」と揶揄した。 数日後、当局はアントの IPO を土壇場で差し止め、香港や米国などの市場を震撼させた。 事情に詳しい複数の関係者によると、同社は依然として最終的に上場する計画だが、IPO が年内に実現する可能性は低い。

馬氏は今年 1 月、アントの支配権を放棄すると発表し、自身が持つ議決権を 6.2% に縮小した。 アントが IPO を再検討するときには、20 年当時に企業価値 3,150 億ドル(約 41 兆円)と評価された巨大企業から様変わりしているだろう。 同社がテクノロジーよりも金融に特化したモデルにシフトする中、投資家は同社の企業価値評価を引き下げている。 フィデリティ・インベストメンツは昨年 11 月末時点のアント評価額を約640億ドルに下げた。

アントはウェルスマネジメントや決済、クレジットなど多岐にわたる事業をどこが監督するのかについても把握する必要があり、さらに重要なのは生き残りに向けた金融持ち株会社の免許がいつ付与されるのかということだが、状況はなお流動的だ。 こうした理由から、馬氏はより慎重に行動せざるを得ない。 事業から手を引くだけでなく、馬氏は地域社会のリーダーとしての影響力も弱めており、昨年 12 月には故郷である浙江省の企業家協会の会長職を返上した。

低迷する民間セクター

複数の関係者によると、馬氏は上海での自分の発言がアントに対する締め付けを加速させたと責任を感じている。 しかし、そうしたきっかけがなくても、変化は起きようとしていた。 アントは伝統的な金融機関の縄張りを侵してきた上、膨大なデータを所有していることから、国家安全保障面の規制強化とそうした資源の経済活動への活用を図る当局の標的となった。 前進の兆しはある。 規制当局は最近、同社の消費者金融関連会社の増資を承認した。 アントの井賢棟会長は今年に入って国営メディアのインタビューに応じ、政府の民間企業への支援を強調した。

同会長は「中国が民間経済を支援する姿勢やレベルに変化はない」とした上で、インターネットプラットフォーム企業が引き続き雇用を創出し、国際的に競争することを政府は期待していると付け加えた。 アリババとアントの成長鈍化は、大手企業の大きなエコシステムに依存している新興企業に影響を及ぼしており、民間の企業家は当面、緊張状態が続きそうだ。 馬氏が拠点を中国に戻すかどうかにかかわらず、そうした影響は長引く可能性が高い。

中規模の民間企業の創業者で安全上の理由から名字だけを明かしたフー氏は「事業が大きくなればなるほど、われわれには危険な状況になると言える。 馬氏にとっては、自社の精神的指導者にとどまり、世界中を旅するというのが一番安全な選択だろう。 野心は忘れた方が良い。」と語った。 (Bloomberg = 3-28-23)

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アリババ創業者、ジャック・マー氏が帰国 学校を訪問

【上海 = 若杉朋子】 中国ネット通販大手アリババ集団の創業者である馬雲(ジャック・マー)氏が同国に帰国したことが 27 日、明らかになった。 馬氏は 1 年以上、中国本土から離れて日本や欧州などを転々としていたとされる。 本土に戻ったことが確認されたのは今回が初めてとなる。 浙江省杭州市にある私立学校「杭州雲谷学校」が同日、SNS (交流サイト)で馬氏が訪問したことを明らかにした。 馬氏は同校の校長らと面会し、教育問題や米オープン AI が開発した「Chat (チャット) GPT」などについて議論したという。

馬氏を巡っては、日本や欧州、東南アジアなどを訪れる様子が報じられてきた。 馬氏は各地で農業技術などを視察していたとされ、日本滞在中には近畿大学の養殖関連の研究施設を訪れたという。 習近平(シー・ジンピン)指導部はこれまでネット大手への統制を強めてきた。 足元では締め付け一辺倒の姿勢をやや緩めており、こうした状況の変化が馬氏の帰国につながったとの見方もある。

馬氏は 2020 年秋に「良いイノベーションは(当局の)監督を恐れない」などと、中国政府を批判したと受け取れる内容を発言した。 その後、傘下の金融会社であるアント・グループの上場が当局の圧力で延期に追い込まれた。 21 年 4 月には独占禁止法で 182 億元(約 3,500 億円)の制裁金が科されるなど、アリババに対する政府の締め付けが強まった。 アントは今年 1 月、馬氏が関連会社を通じて保有する議決権比率を下げて実質支配株主から外れ、アントの井賢棟・董事長兼最高経営責任者 (CEO) などによる集団指導体制に移行すると発表した。 中国当局はネット企業の金融業務について「基本的に是正が完了した」との見解を示していた。 (nikkei = 3-27-23)

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中国アント、創業者の馬氏が経営権放棄へ 株式保有を調整

[上海] 中国電子商取引大手アリババ・グループ傘下の金融会社アント・グループは 7 日、創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が経営権を手放すと発表した。 株主が一連の株式保有調整の実施で合意し、同氏が議決権の大部分を放棄することになったという。 馬氏はこれまで議決権の 50% 以上を保有していたが、ロイターの算出によると、今回の変更で 6.2% に低下する。

アントが 2020 年に提出した新規株式公開 (IPO) の目論見書によると、馬氏は同社の株式を 10% しか保有していないものの、関連企業を通じてアントの支配権を握ってきた。 アントは、馬氏と 9 人の主要株主が議決権行使の際に協調せず、単独で投票することに同意したと明らかにした。 また、5 人目の社外取締役を任命する方針も発表。 同社の取締役は現在 8 人だが、これによって社外取締役が過半数となる。 同社は「この結果、直接もしくは間接的な株主が単独または共同でアント・グループの支配権を握る状況はもはやなくなる」とした。 (Reuters = 1-7-23)


米司法省と FBI、TikTok を捜査 米記者の情報監視疑惑で

動画投稿アプリ「TikTok (ティックトック)」の中国の親会社バイトダンスが米メディアの記者を監視していた疑いがあるとして、米司法省と米連邦捜査局 (FBI) が捜査を始めたことが明らかになった。 複数の米メディアが 17 日、報じた。 バイデン米政権はバイトダンスにティックトックの売却も求めており、強硬姿勢を強めている。

米ウォールストリート・ジャーナル紙によると、バイトダンスが昨年 12 月、ティックトックと中国政府のつながりを取材していた米メディアの記者らの個人情報に同社の従業員が不正にアクセスしていたと認めた後、司法省が捜査を始めた。 米フォーブス誌は昨年 12 月、バイトダンスが内部情報をリークした情報源を調べるため、同社の従業員が記者の位置情報を示す IP アドレスなどにアクセスし、監視していたと報じていた。

米国民の個人情報が中国政府に流出するとの懸念から、米国ではティックトックに対する圧力が強まっている。 米メディアは 15 日、バイデン政権がバイトダンスにティックトックの売却を要求し、応じなければ米国内での使用を禁止する可能性があると伝えたと報じた。 ティックトックは声明で、米政府の対応について「国家安全保障の保護が目的だとすれば、事業の売却は問題の解決にならない」と反論している。 米下院エネルギー商業委員会は今月 23 日に公聴会を開き、ティックトックの周受資・最高経営責任者 (CEO) が証言する。 (サンフランシスコ = 五十嵐大介、asahi = 3-18-23)


中国版 ChatGPT、百度が発表 当局統制による限界も

中国の検索大手の百度(バイドゥ)は 16 日、対話型の人工知能 (AI) 「文心一言(アーニーボット)」を開発したと発表した。 世界的に注目を集める米オープン AI の「ChatGPT (チャット GPT)」の中国版とされる。 米国への対抗を掲げる習近平(シーチンピン)指導部の下で中国 IT 大手も開発を急ぐなか、中国ならではの問題も指摘されている。 同日の発表会で、百度創業者の李彦宏会長が文心一言のデモを披露。 「有名な小説の続きを書くならどんな内容にするか」、「企業のプレスリリースを書いて」などの問いかけに、数秒以内で次々に回答していた。

現在利用できるのは百度側が招待したユーザーのみで、今後多くのユーザーに開放する予定。 また企業向けにも提供を始める予定で、すでに 650 社が活用を検討しているという。 中国メディアによると、こうした対話型 AI は IT 大手のテンセント、ネット通販大手のアリババ集団なども開発に乗り出している。 習指導部が米国への対抗意識から AI 技術などのイノベーションを重視しており、開発競争が熱を帯びる。

一方で、中国の対話型 AI が世界的に影響力を持つかは見通せない。 党や政府と異なる見解を表示できない限界があるからだ。 中国国内でチャット GPT は使えない。 また、中国のスタートアップ企業が昨年 12 月に対話型 AI を公開したところ、2 月になって利用できなくなった。 台湾メディアによると、ロシアのウクライナ侵攻や中国の経済状況について、党の見解とは異なる回答をしたためだという。 (北京 = 西山明宏、asahi = 3-17-23)

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チャット AI、中国では多難? 「共産党万歳」と呼びかけたら …

人工知能(AI)を活用し、人間のように巧みに質問に答えてくれる米国発の自動応答ソフト「チャット GPT」が、当局による規制のためにアクセスできない中国でも話題となっている。 開会中の全国人民代表大会(全人代)でも記者会見で質問が出た。 中国は AI の分野でも米国と激しく競っているが、中国共産党への批判が許されない中国で果たして同様のソフト開発は可能なのか。

チャット GPT 問われ「成果に時間」

チャット GPT は米国のベンチャー企業「オープン AI」が開発した。 全人代で記者にこの件を問われた中国の王志剛科学技術相は「我が国もこの分野では多くの布石を打ち研究を続けてきたが、成果に至るには時間が必要だ」と米企業に先行されていることを認めた。 その上で「中国企業にせよ外国企業にせよ、AI の領域でより多くの成果を上げることを期待している」と、自国企業による開発を促しているとも強調した。

しかし中国では、共産党を批判するようなインターネット上の書き込みは検閲され、素早く削除される。 ネット上の膨大な情報を読み込んで回答を作るチャット GPT のような機能が、中国のネット環境で高いレベルで実現できるのかを疑問視する見方もある。 王科学技術相も「いかにリスクを避け、利益を得るかに注意する必要がある」と、自動応答ソフトの問題点についての指摘も忘れなかった。

サービス突然停止、今も昔も

中国では過去に、IT 企業が AI による対話サービスを開始しては停止に追い込まれてきた経緯がある。 IT 大手の騰訊控股(テンセント)の対話サービスは 2017 年に突然サービスを停止した。 「中国共産党万歳」という呼びかけに対して「あんなに腐敗して無能なのに何が万歳だ」と回答した画面を撮影した写真が出回っており、こうしたことが停止された原因の一つだと報じられている。

今年 2 月にも、始まったばかりの AI による対話サービスが突然、停止された。 運営企業は技術的問題だと説明しているが、インターネット上のコメントでは、政府の検閲に引っかかったためだとの見方が少なくない。 チャット GPT も人権侵害などに関わる問題で一定の制限をするが、中国では社会状況に応じて検閲対象のキーワードが次々に増えるなど、事情はより複雑だ。 「常に 500 以上の検閲キーワードがある規制環境が、AI 対話サービスの土台になるのは難しいだろう」と見る専門家もいる。

検索大手の百度(バイドゥ)や電子商取引 (EC) 大手のアリババグループ、ネット通販大手の京東集団(JD ドット・コム)などは今年に入り、相次いで対話サービスの投入や開発状況を発表し、チャット GPT と競争する姿勢を示している。 ただ、百度の対話サービスは自社の検索サイトに組み込むためのものだ。 米中を拠点に中国のテクノロジー情報を詳報するネットメディア「ピンウェスト」は「中国のテック企業の対話サービスは、活用範囲が幅広いチャット GPT などに比べ、その対象や範囲を絞り込むことで潜在的なリスクを避けようとしている」と指摘している。 (北京・米村耕一、mainichi = 3-7-23)

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