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AI 学習に個人情報、統計目的なら同意不要 経済界の要望受け改正案 政府がまとめた個人情報保護法改正案の内容が 4 日、判明した。 病歴や犯罪歴などの「要配慮個人情報」について、統計情報の作成が目的の場合は本人同意なしで取得できるようにする。 経済界の要望を受け、企業などが AI (人工知能)の開発を進めやすくなるよう規制を緩和する。 一方、悪質な違反に対する課徴金制度を新設する。 同法は 3 年ごとに見直すよう定められており、所管する個人情報保護委員会が 2023 年から改正に向けた検討を続けてきた。 国会への早期の改正案提出をめざすとしている。 同法は、要配慮個人情報を取得する場合と、要配慮個人情報に限らず取得した個人情報全般を第三者に提供する場合、本人の同意が必要と定めている。 また、学術研究目的の場合は例外として、本人から同意を取得しなくていいことになっている。 改正案では、統計情報などの作成にのみ利用される場合は、要配慮個人情報を取得する場合も、個人情報全般を第三者に提供する場合も、本人同意を不要にする。 本人同意を求める規定が、大量のデータを必要とする AI 開発の妨げになっているとの声があるためだ。 また、学術研究の例外の対象に研究機関だけでなく病院や診療所なども含むことを明記する。 課徴金制度導入の見返り さらに、子どもの権利を守るため、16 歳未満の個人情報を取得する場合は、同意取得や通知の相手を本人ではなく法定代理人にすることを義務づける。 規制緩和の一方で、課徴金制度を新設して規制を強化する。 個情委はもともと今年の通常国会への改正案提出をめざしていたが、課徴金制度について経済界から強く反発されて断念。 本人同意に関する規制緩和は、課徴金制度導入の見返りという側面もある。 新設する課徴金は、お金もうけのための意図的な違反行為を抑止するのが狙いで、情報漏洩などの安全管理義務違反は対象外とする。 具体的には、本人をだますなどして 1 千人を超える大量の個人情報を収集し、その情報を売るなどして経済的利益を獲得し、人権などの重大な権利利益を侵害した事業者が対象になるとしている。 こうした違反行為で得られた利益に相当する額を課徴金として科す。 個情委は 23 年に、官報で公表される破産者の名前や住所をデータベース化し、ウェブサイト「破産者マップ」として公開していた運営者を、個人情報保護法違反で刑事告発した。 この運営者は、破産者からの情報削除の要請に対して、削除してほしいなら金銭を払うよう要求していた。 個情委はこうした悪質事案の未然防止を念頭に置く。 (川嶋かえ、村井七緒子、asahi = 12-4-25) AI リスクに対応、国際コンソーシアム設立 日米欧などが技術結集 富士通は 2 日、虚偽や誤った情報といった、人工知能 (AI) にまつわるリスクに対応する国際コンソーシアム(共同体)「フロントリア」を設立したと発表した。 国内外の 57 組織が参画して技術や知見を持ち寄り、対策ツールの開発などに取り組む。 AI を巡っては、AI で作られたコンテンツを悪用した偽・誤情報の拡散や、AI が不正に操作されたり、意図しない動作をしたりするシステムの脆弱性などの課題やリスクが指摘されている。 法規制への準拠も求められる。 こうした問題に対処するため、富士通が主導し、IT、金融・保険、法務、コンサル、大学など幅広い業界からなる共同体を作った。 日本からはLINEヤフー、みずほフィナンシャルグループ、第一生命ホールディングスなど、海外からは欧米、インド、豪州の組織が加わった。 2026 年度中に 100 以上の組織に拡大し、複数の事例をつくる。 「偽・誤情報」、「AI の信頼性」、「AI セキュリティー」に焦点 共同体では「偽・誤情報対策」、「AI の信頼性」、「AI セキュリティー」に焦点を当て、業界ごとの課題やニーズを検討し、課題解決のためのアプリケーションやサービスを開発する。 それらを国内外に展開し、収益につなげることを目指す。 富士通の岡本青史・執行役員常務は 2 日に開いた説明会で「グローバルの先端技術を組み合わせ、非常に大きな社会的・経済的なリスクに取り組むところを出発点にしたい」と話した。 (篠健一郎、asahi = 12-2-25) 孫正義氏「AI バブルかどうか、馬鹿げた問い」 過熱感への懸念一蹴 ソフトバンクグループ (SBG) の孫正義会長兼社長が 1 日、東京都内であったイベントに登壇し、「(今が) AI (人工知能)バブルかどうか、という馬鹿げた問いを議論している人たちは賢いとは言えない」と述べた。 SBG をはじめとする AI・半導体関連銘柄への投資熱は高まっており、東京株式市場の日経平均株価が初めて 5 万円の大台を突破する歴史的な株高の牽引役となっている。 一方で株価は乱高下しており、AI 関連の過熱感を警戒する声もあるが、そうした懸念を一蹴した。 孫氏は保有していた米半導体大手エヌビディアの全株式を売却したことにも言及。 米オープン AI への投資に資金が必要だったとして、「もっとお金があればもちろん保持していたが、泣く泣く売却した」と話した。 5 年後の日本の姿を問われると、「大問題だ。 あまりに保守的で野心が足りない。 日本よ、目を覚ませ! と言いたい。」と語気を強めた。 (村井七緒子、asahi = 12-1-25) 生成 AI で制作の画像を複製した疑い、著作権法違反容疑で書類送検 生成 AI で制作された画像を無断で複製したとして、千葉県警は 20 日、神奈川県大和市の無職の男 (27) を著作権法違反(複製権の侵害)の疑いで書類送検し、発表した。 容疑を認めているという。 千葉県警は起訴を求める「厳重処分」の意見を付けた。 生活経済課によると、男は昨年 8 月 25 日、千葉県我孫子市の自営業の男性 (27) が生成 AI を使って作成し SNS に投稿したデジタルアートの画像を、自らが発行する電子書籍の表紙に使い販売サイトのサーバーに送って著作権を侵害した疑いがある。 男性が昨年 10 月末、県警に「SNS に投稿したデジタルアート画像を何者かが無断で使用している」などと相談し、県警が捜査していた。 男は「私の本のタイトルや内容にフィットする格好いい素材だった」などと動機を説明しているという。 生成 AI による制作物が著作物にあたるかどうかについて、文化庁は、AI に対する指示の分量や内容、生成の試行回数などを総合的に考慮して判断されるとしている。 県警は、男性が画像を制作するために AI に多くの指示を出し、多数の生成画像の取捨選択を繰り返して作り上げたことに着目。 こうして AI で作成した画像は著作物にあたり、男性に著作権があると判断したという。 (植松敬、asahi = 11-20-25) 「科学のための AI」 グーグル強化、東北大の認知症研究に 1.5 億円 米グーグルは 17 日、AI (人工知能)を活用した東北大の認知症リスク低減の研究支援に 100 万ドル(約 1 億 5 千万円)を寄付すると発表した。 AI が科学的な仮説を提案するシステムについて、京都大 iPS 細胞研究所と実証試験をしていることも明らかにした。 AI で科学や医学研究を加速する「AI for Science」分野への投資強化策の一環で、東京都内で開いたイベントで公表した。 グーグルは科学研究に力を入れている。 2024 年のノーベル化学賞を受けた AI 研究、25 年にノーベル物理賞が贈られる量子コンピューター関連の研究で、いずれも社内の研究者が選ばれた。 解析や予測が難しかったたんぱく質の構造を AI で示すソフト「アルファフォールド」は現在、世界の科学者 300 万人以上が利用し、日本でも 15 万人が使うなど、科学分野でもプラットフォーマーの地位を確立しようとしている。 科学向け AI 開発責任者を務めるプッシュミート・コーリ氏は取材に対し、「AI で科学は加速し、新しい時代に立つことができる。 科学的発見は将来、商業的なインパクトにもつながる。」と語った。 さらなる加速に向け、この日は大学の研究現場への支援を次々に発表した。 東北大のプロジェクトでは、AI を使って古い写真などをもとに過去の街並みを映像や画像で再現。 認知機能を刺激することで認知症のリスクを下げられないか研究する。 京大 iPS 細胞研究所とは、共同研究者を意味する「AI Co-Scientist」と呼ばれるプログラムの実証試験を 9 月にスタートさせた。 次世代型の iPS 細胞作製などの研究課題について、AI が研究所内外のデータを読み解いて適切な仮説を提案してくれるという。 イベントに登壇した京大の斉藤博英教授は「非常に優れた科学者がもう 1 人、研究室にいるようで、アルファフォールドの登場と同じように、パワーをひしひしと感じる。 科学には AI 活用が必須になるだろう」と話した。 (竹野内崇宏、asahi = 11-17-25) チャット GPT による歌詞無断複製は「著作権法違反」 ドイツ裁判所 ドイツのミュンヘン地方裁判所は 11 日、米オープン AI の対話型 AI (人工知能) ChatGPT が無断で歌詞を複製したことは著作権法違反にあたるなどとして、オープン AI に損害賠償の責任があるとの判断を下した。 欧州での生成 AI をめぐる今後の訴訟の判断にも影響を与える可能性があるとみられている。 ドイツの音楽著作権管理団体の GEMA は、チャット GPT が質問に対して、ドイツの著名なミュージシャンの 9 曲の歌詞をほぼ正確に回答したと主張。 オープン AI 側が、ライセンスを取得して正当な対価を支払うことなく、これらの曲を無断で生成 AI の学習に利用したなどとして、昨年 11 月に提訴していた。 判決では、生成 AI が歌詞を記憶することや回答時に歌詞を複製することは、著作権の侵害にあたるとの判断を下した。 GEMA は「欧州において初めて、生成 AI システムによる、著作権で保護された作品の利用が法的に評価され、クリエーターに有利な判決が下された」とする声明を出した。 オープン AI の広報担当者は朝日新聞の取材に「この判決に同意しておらず、次の対応を検討している」と回答した。 「この決定は一部の歌詞に対するもので、我々のテクノロジーを毎日利用するドイツの何百万人もの人々、企業、開発者には影響しない」とした。 (ベルリン・寺西和男、asahi = 11-12-25) 適正な AI 活用指針、素案が判明 「安全確保徹底」、「利益偏らぬよう」 AI (人工知能)を安全に研究開発し、利活用するための政府の「AI 適正性確保に関する指針」の素案が判明した。 法の支配や人権、「人間中心主義」を尊重し、開発者や企業には詐欺やサイバー攻撃に悪用されないよう「徹底した安全確保」を求める。 AI がもたらす利益が一部の人に偏らないよう、公正な競争環境の重要性もうたう。 指針は、5 月に成立した AI 法に基づき、研究開発や利活用を進めるうえで適正な環境を定めるもの。 法的拘束力はないが、研究者や事業者、政府、国民がそれぞれ留意すべき点をまとめる。 4 日に開かれた政府の有識者会議で検討され、年内にも策定する。 素案では、AI の偽・誤情報の拡散や犯罪、サイバー攻撃などのリスクについて「多くの国民が不安を抱いている」と指摘。 不安を払拭し、国際的にもモデルとなるような安全確保策として、事業者や研究者にはディープフェイクや、差別を助長するような使われ方を防ぐ努力を求める。 政府には世界的な AI 規制(ガバナンス)の最新動向の注視を、国民にも AI の仕組みや特性を理解する AI リテラシーを養うよう呼びかける。 AI の安全性については、4 日の有識者会議で、政府機関「AI セーフティ・インスティテュート (AISI)」の抜本的な強化方針も示された。 海外製を含め、日本に適した AI の性能や安全性を評価できるよう、組織強化を国家戦略となる「AI 基本計画」に盛り込む。 政府として、専門知識を有する「AI 人材」についても数万人単位で育成・確保する目標をつくる方針も示した。 (小木雄太、竹野内崇宏、asahi = 11-4-25) 米 AI 企業アンソロピック、日本拠点を開設 「安全性」で差別化図る 米新興の AI (人工知能)開発企業アンソロピックが 29 日、東京都内で記者会見し、日本拠点を開設したと発表した。 政府機関とも連携して安全性重視の姿勢を打ち出し、ライバルの米オープン AI に続いて日本市場の開拓を図る。 アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者 (CEO) は同日、高市早苗首相と会談。 AI の安全性に関する基準作りを手がける日本の政府機関「AI セーフティ・インスティテュート (AISI)」と協力する覚書に署名した。 東京はアンソロピックにとって初の日本拠点。 アジアではソウル、インドのベンガルール(バンガロール)にも拠点を持つ。 企業向けに特化 オープン AI と差別化 アンソロピックは、安全性をめぐる路線の対立からオープン AI を辞めたとされるアモデイ氏らが 2021 年に創業。 米アマゾンや米グーグルから出資を受けており、生成 AI の基盤モデル「クロード」や、対話型 AI サービスを提供している。 クロードはコード生成の性能に定評があり、最新モデル「クロード ソネット 4.5」は、オープン AI の基盤モデル「GPT-5」やグーグルの「ジェミニ」を上回るとしている。 対話型 AI をめぐっては、オープン AI の「ChatGPT (チャット GPT)」のやりとりが 16 歳の少年を自殺に追いやったとして、米カリフォルニアの少年の両親が提訴。 オープン AI は 9 月に公開した動画が生成できる SNS アプリ「Sora (ソラ)」でも、真偽不明の動画が拡散するとして批判を受けている。 アンソロピックのポール・スミス最高商務責任者 (CCO) は 29 日の記者会見で「我々は消費者向け AI 企業のように、エンゲージメントを高める必要がない。 我々の焦点は、信頼できる AI を企業に届けることだ」と話し、オープン AI との姿勢の違いをにじませた。 アンソロピックはオープン AI ほどの知名度はないものの、売り上げの約 8 割を企業向けが占めている。 日本でも法人向けサービスを重視した戦略を鮮明にしている。 オープン AI はチャット GPT の利用者が世界で 8 億人を超えたものの、米メディアによると企業向けの売り上げは 3 割にとどまる。 有力な AI の基盤モデルを持たず、AI 導入の遅れが指摘される日本は、米国の主要 AI 企業にとって有望な市場とみられている。 最近ではオープン AI 幹部も相次いで来日しており、日本企業との協業を進めるなど攻勢を強めている。 (編集委員・五十嵐大介、asahi = 10-29-25) アマゾンの倉庫で見た AI 仕分けロボット、50 万人の職を奪うのか 米アマゾンは 22 日、人工知能 (AI) を搭載した新型ロボットを物流施設に導入すると発表した。 AI の判断で荷物を仕分けて運ぶ。 人間がやっていた作業を効率化するが、多くの雇用を奪うのではないかという疑念は高まっている。 シリコンバレーにあるアマゾンの倉庫で開かれた最新技術の発表会。 1 日に平均約 9 万個の商品を仕分ける巨大倉庫で発表された目玉は、AI が自律的に制御するロボットだった。 新型 AI ロボット「ブルージェイ」は、商品を箱から出し入れしたり、複数の箱に分散している商品を一つにまとめたりする。 これまで 3 種類のロボットを使っていた仕分け作業を 1 台で担わせることができる。 現在はサウスカロライナ州の拠点でのみ使っているが、今後は数千台を各地に導入したいという。 衝撃的な内部資料の内容 また、倉庫や生産ラインの稼働状況のデータを統合して、人をどこに移すべきかといった人員配置や機械の稼働率を調整するなど、最適な対応策を提案する AI も発表した。 開発者や幹部たちが重ねて強調していたのが、「人間中心」、「人を支える」という言葉だった。 「知能は人間にしかない(開発幹部)」として、AI やロボットはあくまでも人間の補助であると繰り返した。 背景にあるのは、米紙ニューヨーク・タイムズの衝撃的な報道だった。 アマゾンが AI ロボットによる効率化で、2 年後には米国で 16 万人以上の雇用を削減できるとする内部文書を作成していた、という内容だ。 ロボットで業務の 75% を自動化することを目標とし、2033 年には 50 万人以上の雇用を置き換えるという。 アマゾン広報は「(引用された資料は)一つのチームの視点を反映しているもので、戦略全体を代表するものではない」と認めていない。 アマゾンは米国だけでも倉庫などで 100 万人以上が働いているとされ、米国で最も雇用を生み出してきた企業の一つだ。 それだけに影響の大きさは計り知れない。 ロボット事業責任者のタイ・ブレイディ氏は報道へのコメントを避けた上で、「私たちの目標は、単調で退屈で、反復的な仕事をすべてなくすことだ」と語る。 「人々が得意なことに専念し、ロボットがそれを助けるようになる」と効用を強調した。 アマゾン関係者は、「労働集約型の産業で AI とロボットの進化が人を置き換えてしまうのは、前からわかっていたこと。人間は自分に何ができるのかが問われるようになる」と話す。 AI の進化と普及で、米国のテック企業では人員削減が目立つ。 マイクロソフトやインテルなどは数千人規模の削減を実施、検討している。 (サンフランシスコ・奈良部健、asahi = 10-25-25) 航空券価格、AI が顧客の「足もとみる」時代? 個人情報巡り米で物議 AI (人工知能)が個人データに応じた価格を設定する手法が、米国で議論となっている。 同じ航空券でも、五つ星ホテルの宿泊客には、三つ星の客よりも高く売れると見込む。 だが、急病の家族のもとへ駆けつけなければならない時、急いでいることを知った AI が価格をつり上げる可能性も。 そんな事態、許せますか? 論争の発端は、米デルタ航空が 7 月に発表した、AI を使った新たな価格戦略だ。 グレン・ハウエンスタイン社長が投資家向け説明会で「便や時間によって個人ごとの価格を提供する」と述べた。 空席の削減や便ごとの収益最大化を狙い、新興 AI 企業と提携して年内に米国内路線の 20% に導入する計画だ。 需要と供給で価格を変動させる仕組みは「ダイナミック・プライシング」と呼ばれ、航空券やホテルの室料などで使われてきた。 空いている時は安く、混んでいる時は高くなる仕組みだ。 デルタの計画はこれとは異なる。 集団の需給で調整するのではなく、AI が個人情報を分析し、個人ごとに「支払う意思」を予測し、金額をはじくとみられている。 具体的にどんな個人情報が利用されるかは明らかにされていないが、閲覧や決済の履歴、収入データなどの可能性が指摘されている。 反発受ける「足もとをみる」手法 購入を迷う新規顧客には「お試し価格」として安く設定するが、常連には価格をつり上げる。 そのタイミングに乗らざるを得ないと判断した客には価格を引き上げることもできる可能性がある。 いわば AI が「足もとをみる」手法だ。 これに反発が相次いだ。 民主党の上院議員 3 人は「消費者ごとに『痛みの限界』となる価格まで引き上げられかねない。 すでに物価高に苦しんでいる米国の家庭にとってさらなる負担だ」として、同社に説明を求める書簡を送った。 プライバシー侵害と価格差別が結びついているとの批判も呼んでいる。 同社は、議員宛ての書簡で「個人情報に基づいた価格設定はこれまでもないし、今後も導入する予定はない」と弁明し、火消しに追われた。 議員側は「デルタは投資家と市民で説明内容が異なる」と批判している。 米シンクタンク「グラウンドワーク・コラボレーティブ」でテクノロジーと労働政策の関係を研究するケイティ・ウェルズさんは、「デルタに限らず、大企業は長い間、どうやって値上げするかを模索してきた」と話す。 その上で、ネットと AI の発達により「個人データを追跡・収集し、処理する力を持ち、その過大な力で私たちから搾り取ることができるようになった」と指摘する。 粉ミルク買うと、おむつ価格が上がる? ウェルズ氏は、「消費者はインターネット上で多くの個人データを企業向けに落としている」とも話す。 例えば、割り引きや特別価格で誘い込まれたサイトやアプリを通じ、位置情報や購入履歴、利用する時間帯、端末情報などが集められる。 それらが価格操作に利用される。 企業は粉ミルクの購入履歴から乳児がいる家庭だと推定し、おむつの価格を引き上げることが可能となっている。 バイデン前政権下での米連邦取引委員会 (FTC) は、これを AI と個人情報を使った「監視的価格設定」と呼び、調査していた。 今年 1 月に公表された初期結果には、「ネット上のマウスの動きから、通販サイトのカートに残された未購入の商品に至るまで、あらゆる消費者行動が追跡でき、それをもとに価格を個別調整することが小売業者には可能だ」と記されていた。 代わったトランプ政権は、7 月の「AI 行動計画」で AI の規制よりも推進にかじを切った。 FTC に対して過去の調査を見直し、AI の革新を不当に妨げないように勧告した。 企業による AI と個人情報の活用は一層進められる可能性がある。 ライドシェアのウーバーを研究してきたウェルズさんは、「AI は消費者にはできる限り高い価格を提示する一方、運転手には妥当な額より常に低い報酬を設定している」と話す。 消費者や労働者には、自分の情報が支払価格や賃金にどのように影響しているかがわからない。 「AI によってブラックボックス化され、理解することを不可能にしている」と話す。 そして、こうも語った。 「価格設定は企業が私たちに仕掛ける一種のゲームのようなものになった。 そして賭け事は、いつだって情報を持っている胴元が勝つ。」 (サンフランシスコ・奈良部健、asahi = 10-20-25) 動画生成 AI 「ソラ」にまた批判 著名人の「侮辱的」利用に怒る遺族 米オープン AI が 9 月末に発表した動画生成 AI アプリ「Sora (ソラ)」を巡る混乱がやまない。 故人を「再生」させた動画が出回り、遺族らが憤慨している。 ソラの生成動画と判別するマークを取り除く技術も出始め、本物と区別がつきにくい状態も生み始めている。 ソラは、リアルな動画を高速につくることができるとして話題を集めている。 アプリ配信後、マイケル・ジャクソンやエルビス・プレスリーなどの著名人を再現した動画が SNS 上で拡散している。 ただ、不快感を隠さない遺族もいる。 公民権運動家マルコム X は、下品な冗談を言い、キング牧師と取っ組み合いをしているような動画が出回った。 マルコム X の遺族らは「父が一生を捧げた『真実』という理念を、無神経で軽率な形で利用されるのは侮辱的で、心を痛める」と、米紙ワシントン・ポストに語った。 「開発者は、自分の家族に対して求めるであろう良心や思いやりを、なぜ自分の行為にも持てないのか」とも問いかけたという。 オープン AI は当初、実在の人物の動画生成には本人の同意を必要とし、著名人の動画生成を防ぐ機能も入れたとしていた。 ところが、「歴史上の人物」を制限から外した。 「歴史的人物の描写には表現の自由上、強い公益性がある」と主張するためだ。 しかし、同紙によると、批判の高まりを受けたオープン AI は「最近亡くなった公人」は、代理人がソラでの使用禁止を申請できるようにするという。 ただ、「最近」の定義は不明だ。 一方、オープン AI は生成動画の悪用を防ぐため、ソラで生成されたとわかるマークを動画上につけているが、これを簡単に除去できるサイトが複数見つかった。 有効な歯止めの手段がなければ、ネット上に真偽不明の動画が増えるとの懸念が広がっている。 ソラでは当初、ポケモンやドラゴンボールなど日本のアニメキャラに酷似した動画が次々と投稿され、「著作権を侵害している」との批判が日本で噴出。 その後、修正した。 自由に扱えるようにして話題性を高め、利用者を急速に獲得する宣伝効果を狙ったとの指摘もある。 (サンフランシスコ・奈良部健、asahi = 10-15-25) ◇ ◇ ◇ オープン AI の新アプリ「ソラ」、アニメ類似動画次々 違法の可能性 オープン AI が 9 月末に発表した SNS アプリ「Sora (ソラ)」が波紋を呼んでいる。 文章を入力すると、その内容に合わせて音声付き動画やアニメーションを生成できる。 SNS ではすでに、このアプリを使って日本の人気アニメ作品に類似した動画などが次々と投稿されており、専門家からは違法性を指摘する声が上がる。 「ソラ」は、米国とカナダで公開されたが、日本でも利用者の招待状があれば利用できる。 中国発の動画投稿アプリ「TikTok (ティックトック)」のように縦長の動画が表示され、AI (人工知能)で生成した動画が投稿できる。 既存のアニメキャラクターなどを表示させるように指示すると、声までそっくりのキャラクターの動画や画像が生成される。 また、実在する人物の動画を入力すると、AI で生成した映像に、外見と声を正確に再現して組み込むこともできる。 SNS ではすでに、このアプリを使って作ったアニメキャラに酷似した動画が次々とアップされ、「著作権を無視している」といった批判も高まっている。 専門家「著作権法上、違法になる可能性」 専門家からも、違法性を指摘する声が上がる。 著作権に詳しい早稲田大学の上野達弘教授は、実在するキャラクターと表現において酷似した画像や映像が生成された時点で、「たとえ私的領域における出力でも、公衆に対する送信として、著作権法上、事業者側(オープン AI)が違法になる可能性がある」と語る。 米国や他の先進国など各国の著作権に関する法律でも同様に違法となる可能性があるという。 また、ユーザー側については、「私的利用であれば違法でないが、SNS などで拡散した場合、違法になる可能性が高い」と語る。 一方、アプリでは、ディズニーやマーベルといった米国アニメのキャラクターの名前を入れても、「コンテンツとの類似性に関する当社の安全基準に違反している可能性があります」といった警告メッセージが出て、映像を作ることはできない設定になっているようだ。 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは先月 29 日、新しいアプリは、著作権者がオープン AI に対して、著作物の使用を拒否する「オプトアウト」という手続きをとらない限りは、著作物が自由に使用できる仕組みになっていると報じている。 こうした事態に、アニメやマンガの著作権者も対応を迫られそうだ。 2 日、定例会見を開いたテレビ東京の吉次弘志社長は、「著作権の侵害はあってはならないというのが我々の立場としての大原則」との見解を示した。 テレビ東京も多くのアニメ作品に「製作委員会」の一員として参画している。 アニメを担当する廣部琢之取締役は、「情報収集を進めて、製作委員会のパートナーと連携して適切に対応したい」と述べた。 生成AI、画像や音声で進化 生成 AI は、文章だけでなく画像や音声などを扱う「マルチモーダル」と呼ばれる技術の進化が進む。 画像生成の精度でも競争が激しさを増すなか、オープン AI が公開したのが、ソーシャルメディアアプリ「Sora (ソラ)」だった。 米オープン AI は昨年 2 月、入力した文章に合わせてリアルな動画を生成する AI 技術「ソラ」を発表。 昨年 12 月に公開を始めた。 今回のアプリは、新たに開発した動画生成モデル「ソラ 2」を活用している。 動画の生成 AI をめぐっては、物理的な空間の表現が課題とされてきた。 オープン AI は昨年のソラの発表時点では、複雑な場面の再現は不完全で、「人がクッキーをかじった場面でも、クッキーにかじった跡が残らない可能性がある」などと説明していた。 「ソラ 2」は初代のモデルと比べ、大きな精度の向上がみられる。 同社が公開した、湖に浮いたサーフボードの上で人がバック転をする動画では、水しぶきがはね、ボードがゆらゆらと波に揺れる様子が表現されている。 3 分でそっくりさん動画 実際に「ソラ」のアプリを試してみた。 自分の顔の画像を撮影し、数秒の音声を読み込ませた後、「富士山の頂上でパンダと口論をしている動画をつくって」と入力。 数分後、自分のそっくりさんが、雪で覆われた山頂で二本足で立ったパンダと言い合いをする動画が生成された。 オープン AI は、2018 年に文章を生成する大規模言語モデル「GPT1」を開発後、生成 AI ブームの火付け役となった ChatGPT (チャット GPT)に使われた「GPT3.5」を 22 年に公開している。 昨年発表した「ソラ」は動画分野の「GPT1」に匹敵し、「ソラ 2 は GPT3.5 にひとっ飛びしたようなものだ」と訴えた。 文章から動画を生成する AI 技術は、米グーグルや米メタ(旧フェイスブック)も発表しており、開発競争は激しくなっている。 ただ、生成できる動画の精度の高まりは、ディープフェイクへの懸念を強めている。 悪用をどう防ぐかも大きな課題だ。 オープン AI は、ソラ 2 で生成された画像に目に見えるラベルをつけたほか、目に見えない電子透かし技術を使っていると説明。 自分の画像と音声を生成に使う場合は、本人の同意が必要で、著名人の動画の生成を防ぐ機能も入れたとしている。 (定塚遼、松本紗知、編集委員・五十嵐大介、asahi = 10-2-25) |