グーグル、数千万人の医療情報を同意なく「合法的に」収集

データを資産として活用する "データエステート" 構想

Google が、米国第 2 の医療団体 Ascension との提携プログラムを通じて、数千万の米国人の詳細な医療情報を収集していると、The Wall Street Journal (WSJ) が米国時間11 月 11 日に報じた。 「Project Nightingale (プロジェクト・ナイチンゲール)」と呼ばれるこの取り組みは、米国 21 州の人々から情報を収集しており、その情報には検査結果や医師の診断、入院記録、さらに患者の氏名や生年月日も含まれるという。 プロジェクトの目的は、患者の病歴に焦点を当てた医療ソフトウェアを設計することだとされる。 WSJ によると、患者と医師は Google との提携について知らされておらず、Ascension の従業員らがプロジェクトに対し懸念の声を上げたという。

WSJ の報道を受け、Ascension はこの提携について発表するプレスリリースを出した。 この提携は同社インフラの「Google Cloud Platform」への移行や生産性ツール「G Suite」の導入に関するものだという。 また、このプロジェクトは HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)に準拠しているとした。 HIPAA は、特定の医療情報のセキュリティとプライバシーを規制する連邦法だ。

Google も 12 日に声明を出し、Ascension との合意を「ヘルスケアにおける標準的な慣行」と説明した。 「この合意の下でわれわれが提供するサービス以外の目的で、Ascension のデータが利用されることはあり得ないということを明確にしておきたい」と、Google Cloud 担当プレジデントの Tariq Shaukat 氏はブログへの投稿で述べた。 「患者のデータが Google のコンシューマーデータと結び付けられることはあり得ないし、起きることはない。(同氏)」

Project Nightingale のニュースは、Google が医療分野への注力を強めるなかで報じられた。 Google は 11 月、フィットネストラッカーを手がける Fitbit を 21 億ドルで買収すると発表し、医療サービスへの投資拡大の兆候を見せている。 Google の親会社 Alphabet も、医学研究の分野で着実な事業を展開している。 Alphabet のヘルステック部門 Verily は、医療用ウェアラブル端末を手がけており、老眼の人向けのスマートコンタクトレンズや、臨床研究データを収集するセンサー搭載ウォッチの開発に取り組んでいる。 また別の Alphabet 傘下企業 Calico は、人間の平均寿命を延ばす取り組みを行っている。 (Richard Nieva、CNET = 11-12-19)


スマホだけでなく街も支配? グーグル計画にカナダ動揺

米グーグル系の会社がカナダ・トロント市で進める「スマートシティー」の建設計画が、地元を揺るがしている。 最先端のインフラが整う一方、収集されるデータの扱いなどに批判が続出し、関係者が次々と辞任する事態に。 10 月末、計画に一定のゴーサインは出たが、当初の計画からは後退し、実現までは目が離せそうにない。

トロント市の南の端に広がる北米五大湖の一つ、オンタリオ湖に沿った道路を、工事車両が砂ぼこりを上げて走り抜けてゆく。 かつて工場などが並んだ土地について、トロント市や同市のあるオンタリオ州、カナダ政府でつくる開発機関「ウォーターフロント・トロント (WT)」が 2017 年、再開発をスタートさせた。 計画案を募集し、グーグルを傘下に持つアルファベットの子会社「サイドウォーク・ラブス (SWL)」が選ばれた。 今年 6 月、具体的な計画が明らかになると、世界的な注目が集まった。

建設予定地に建つ SWL の展示場で、広報担当者がスマートシティーの完成予定の模型を指さしながら説明してくれた。 「電力網のほか、地下にはゴミ処理設備、雨水の処理システムなど最新のインフラ設備を設置する予定です。」 それぞれをネットでつないでエネルギーの効率化を追求する。 新しい工法でコストを抑えた木造の建築で、約 3 千戸のマンション、オフィスや店舗を作る。 街中にセンサーを張り巡らせて歩行者や車などのデータを集め、通行量に合わせて車線数を変えるなど、交通も最適化するという。

そんな説明から見えてくる未来図は「スマホのような街」とも言える。 スマートフォン上で閲覧ソフトやゲーム、動画など多くのアプリが動くのは、グーグルの「アンドロイド」といった基本ソフト (OS) のおかげだ。 同じように、SWL が都市向けの OS を提供し、その上でさまざまな会社が自動運転車で配送サービスを展開したり、自転車のシェアサービスを提供したりする - -。 そんな未来も見える。 新都市から生まれる新たな技術を知的財産化し、ほかの都市にライセンス販売することも視野に入れる。

SWL は、計画段階だけで 5 千万ドル(約 54 億円)の投資を約束。 WT のクリスティーナ・バーナーさんは言う。 「スマートシティーの先駆者になるチャンスだ。 自治体の資金が限られている中で、こんな計画を実現する方法が他にあると思いますか。」 ところが住民からは、大きな批判が巻き起こった。 「トロントの中に監視都市ができあがるのでは」、「そこまで大量のデータを集める必要がどこにあるのか。」 10 月上旬の夜、仕事帰りの人や学生ら約 70 人の老若男女がトロント市内の住宅地に集まり、口々に不安を訴えた。

計画では、道路や公園など公共の場所から大量のデータが収集される。 SWL はこうしたデータを、事前に本人の同意が事前に得られない「都市データ」と名付け、「匿名化した上で誰でも使えるようにする」とし、既存の個人情報保護法などと別の枠組みでデータを管理すると提案していた。 オンタリオ州のブライアン・ビーミッシュ情報プライバシー委員長は「これまで、プライバシー保護の対象は、主にスマートフォンなどから生まれる個人情報だった。 都市から生まれるデータを丸ごと保護することは、想定してこなかった」と話す。 計画が実現して「都市 OS」が定着すれば、スマートフォンで起きた「プラットフォーマーの支配」が都市全体に及ぶことになりかねない。

さらに、SWL が当初の開発対象からエリアを大幅に拡大させる計画を出してきたことも、非難を浴びた。 批判の声は身内からも。個人情報保護の専門家である SWL の相談役が 18 年 10 月、「このままではプライバシーが守られる保証はない」と辞任。 ほかにも、WT の理事や諮問機関のメンバーなど、建設計画の関係者が次々と辞任する異例の事態に陥った。 8 月には WT の諮問機関が「現在の計画では、デジタル戦略について詳細な情報がなく、情報開示も不十分」として、具体的な計画を示すよう求めた。

WT は SWL と協議を重ね、あくまで自治体側が計画の主導権を握ることなどを再確認。 不安や疑念の払拭を図った。 10 月 31 日には WT の理事会を開き、当初の開発対象エリアについてのみ開発を認めること、SWL が提案した「都市データ」という区分をやめ、都市空間のデータは既存の法制度のもとで自治体が管理することなどで SWL と合意した。 WT はさらに「まだ最終的な合意ではない」と強調。 来年 3 月末前の合意をめざす最終案の取りまとめまで、市民の意見を聞く姿勢を示している。 (トロント = 宮地ゆう、asahi = 11-2-19)

スマートシティー : さまざまなインフラをインターネットにつなげ、都市から生まれる大量のデータを駆使して運営する新しい街のこと。 当初は省エネ目的が中心だったが、最近では交通、医療、気象、教育、行政サービスなど、収集するデータの範囲が拡大している。シンガポールやスペイン・バルセロナ、中国・杭州などが有名。 日本では神奈川県藤沢市のパナソニック工場跡地にある約 1,800 人の街が知られる。 とはいえ、トロント市のように、一つの企業が丸ごと設計するスマートシティーはまだ少ない。

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圧倒的に AI 人材不足の日本 カナダは長期戦略で大国に

急速に進化を遂げる人工知能 (AI) 分野では、研究、実用化する人材の獲得競争も激しさを増している。 産業への応用や開発面で「周回遅れ」とされる日本にとっても、AI 人材の確保は大きな課題になる。

理解できない、でも可能性に賭ける

北米・五大湖の北岸にあるカナダ・トロントは、高層ビルやマンションの建設ラッシュに沸く。 かつてともに世界的な大工業地帯を形成した南岸の米側が、工場の国外移転などで「ラストベルト(さびついた地域)」に変わり果てたのとは対照的だ。 その背景に、AI の存在がある。 「北のシリコンバレー」とも呼ばれるトロントの原動力は、AI の研究開発に携わるために世界から集まる有能な人材だ。 オンタリオ州立のトロント大が中心になって牽引する。

同大の真新しい近代的な建物に昨年、富士通が研究拠点を作った。 日本企業では唯一という。 ポーランドやトルコから来た学生と日本人技術者ら約 40 人が一緒にパソコンを並べ、多くの選択肢から最適な解を高速で探すデジタル回路の実用化をめざす。 「工学や理学、さらには医学や金融学など垣根を越えて、AI 技術を応用できる環境がある(担当者)」という。

産官学の強い結びつきを象徴する建物がトロント大の敷地内にある。 2005 年に設立した「MaRS (マーズ)」だ。 約 120 社が集まり、スタートアップ企業を支援し、投資家や大手企業をつなぐ架け橋になっている。 「トロントには AI の優秀な学生が集まる。 大学と企業がすぐに連携できるのが強みだ。」 富士通と共同研究し、同大でコンピューター科学を教えるアリ・シェイコレスラミ教授 (52) はそう話す。

その理由の一つが、米国の約半分の授業料で AI 分野が学べること。 2016 年以降はトランプ米大統領の排外政策の余波もあり、中東や中国を中心に外国人志望者が約 8 割増えた。 学生が集まれば企業も群がる。 市内には米グーグルやライドシェアのウーバー・テクノロジーズなどが相次いで研究拠点を構える。 米国よりもともと法人税が安いうえに、AI 研究には法人税が控除される。 市周辺には 1 万 5 千社を超える AI 関連企業がひしめく。

AI によるトロントの劇的な変貌は、一朝一夕で成し遂げられたものではなかった。 1983 年、同大は米国で教壇に立っていたジェフリー・ヒントン教授 (71) を招聘した。 大量のデータから特徴を見つけ出し、自ら学ぶ深層学習(ディープラーニング)を研究し、今につながる第 3 次 AI ブームの火つけ役になった大物学者だ。 畏敬を込めた「ゴッドファーザー」との愛称をもつ。

軍事転用を条件にしていた米国の研究環境に嫌気がさしていたヒントン教授に、大学は自由な環境を与えた。 「当初は誰も彼の研究を理解していなかった。 でも可能性に賭けた。」 同市への企業誘致を担う政府系 NPO 「トロント・グローバル」のトビー・レノックス最高経営責任者 (CEO、57) は振り返る。 第 2 次ブームが下火になった 90 年代以降も、政府がぶれずに AI 研究に投資を続けた。

いまヒントン教授はグーグルの AI 研究所にもかかわり、多くの門下生をフェイスブックやアップルといった巨大 IT 企業に送り出す。 「カナダは製造業と天然資源に頼ってきた。 でも、いずれ先細りになるし、人口も多くはない。 人を呼び込み、国の経済成長につなげたい。 その答えが AI だった。」 レノックス氏はこう説明する。

今後も州政府は 5 年間で 3 千万カナダドル(約 25 億円)を投じ、AI 関連の修士号を州内で取得する学生を 23 年までに年間 1 千人に増やす計画だ。 さらに連邦政府は 9 億 5 千万カナダドルを大学や研究機関に投資することで、5 万人以上の雇用をつくるという。 効果は着実に表れている。 カナダの AI 企業が英語圏の SNS や国際会議のデータを分析した調査によると、高度な AI 人材の国別数は 18 年、米国が断トツだが、3 位のカナダも人口(3,700 万人)比で考えれば米国を上回る。 30 年を超える長期戦略が、カナダを AI 大国に押し上げた。

圧倒的に AI 人材不足の日本

一方、高度な AI 人材の数で 9 位、人口比では米加の 10 分の 1 に満たない日本も、ようやく動き始めた。 3 月、政府が公表した AI 戦略の有識者提案は、AIを使いこなす人材を年 25 万人育てる目標を掲げた。 昨年末の時点では十数万人で検討されていたが、大きく引き上げられた。 欧米や中国に比べて「圧倒的に AI 人材が不足している(内閣府)」との危機意識からだという。

しかし 25 万人という規模は、年間の大卒生の半分近くになる。 理工系や医学部などの約 18 万人全員に、文系の 18% に当たる約 7 万人も加えて算出した。 肝心の政府内からさえ「実現できるか分からない」との声が聞かれる。 「AI には何度かブームがあったのに、日本は生かしてこなかった。」 有識者提案をとりまとめた安西祐一郎・日本学術振興会顧問 (72) は自省を込めてこう話す。 世界に比べて出遅れたことが、突然の「高い目標」に表れたことをうかがわせる。

安西氏自身、慶応義塾長を務めた経験があり、情報科学の専門家だ。 今から 30 年ほど前、第 2 次 AI ブームは過ぎ去って「冬の時代」に入っていたころ、当時もはや過去の言葉だった「人工知能」と自身の略歴には書けなかったと振り返る。 「そういう中でも粘り強く頑張ったヒントン教授は偉いよね」と安西氏。 それだけに、今回の提案を通して「AI 人材のすそ野を広げるための教育改革につなげたい」と言う。 新しい時代の「読み・書き・そろばん」として、「数理・データサイエンス・AI」を基礎知識に位置づけることを狙う。

安倍晋三首相は 18 日、首相官邸で開かれた会議で AI 戦略の早急なとりまとめを指示。 「子どもたちの誰もが AI のリテラシーを身につけられる環境を提供する」と語った。 大学側と 22 日に採用活動の改革で合意した経団連は、AI 分野で高い力を持つ学生を通年採用の対象にすると表明。 AI 分野の学部新設の推進なども政府に提言している。 しかし、AI を教えられる教員をどう確保するのかなど、具体的な道筋は見えていない。

産業界の現場ではすでに、AI 人材不足の弊害が現れ始めている。 かつて世界を席巻しながら、最近は欧米勢に追いつかれ気味とも言われるゲーム業界も例外ではない。 「日本の優秀な人材を見つけるのは難しい。 人が育たないことがゲーム業界を失速させている。」 スクウェア・エニックスの三宅陽一郎リード AI リサーチャー (43) は断言する。 三宅氏のチームには 10 人の AI 技術者がいるが、うち 4 人が米国やフランスなどの外国籍だ。 最近までドイツ人やアイスランド人もいた。

今やゲームキャラクターの頭脳も、目的地までの経路の計算も、ゲームを面白く演出するのも、AI なしでは成り立たない。 直面しているのは、完成したゲームに欠陥がないかを人に代わってテストしてくれる AI の開発だ。 「超難題」とされる。 ゲームには 3 次元カメラが使われ、操作も複雑になったため、人に頼った作業では開発費を圧迫するのだという。

自社で AI 人材を育成すべく、三宅氏は 8 年近く、社内向けのセミナーを毎週のように開いている。 3 月中旬、249 回目のテーマは「格闘ゲームと AI」だった。 同社の一室にゲーム開発者ら約 20 人が集まり、専門知識を社員と共有した。 全体の底上げを図ろうとする模索が、現場で続く。 しかし、トロントのレノックス氏は日本企業の本気度に疑問を感じている。 これまで 3 度、日系企業の誘致で訪日したが「大企業の反応は鈍い。 トロントには、こんなに優秀な人材が集まっているのに。」 一方で中国勢は、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)が今年、カナダの AI 研究者を 200 人追加することを打ち出した。 判断のスピードや規模の差は圧倒的だ。

金融、流通 … 広がる活躍分野

AI 人材は国内でも争奪戦になっている。 リクルートキャリアによると、企業が 18 年に募集した AI 関連の中途採用は 5 年前の約 60 倍。 採用が決まった人数も約 28 倍に増えた。 この 2 年で拍車がかかったという。 職種も、かつては自動車や家電といった製造業や IT 関連企業などが中心だったが、最近は金融や流通、消費財などあらゆる分野に広がる。

同社の転職サイト「リクナビ NEXT」の藤井薫編集長 (53) は「魅力的な報酬や活躍できる環境を約束できるのか、採用する企業側の本気度が試されている。 この傾向はしばらく続くだろう。」と指摘する。 経済産業省が 23 日にまとめた試算では、AI 人材は 30 年時点で 12 万 4 千人不足するという。 16 年調査では IT 人材の平均年収は、日本は 598 万円で、米国の 1,157 万円とは 2 倍近くの開きがあった。

人材面で不安を抱える日本が後れを取るのは北米だけではない。 米国人工知能学会に 17 年に投稿された論文数の最多は中国の 31%。 日本は 4% だ。 日本は製造業に依存する体質から抜け出せず、デジタル社会に見合った新分野も育っていない。 場当たり的な対応を続けるままなら AI 革命の波に乗り遅れ、産業構造の転換にも失敗しかねない。 (牛尾梓 = トロント、大津智義、asahi = 5-11-19)


勘や経験頼みの雑誌編集も AI で 大日本印刷が新技術

雑誌のレイアウトは将来、編集者と AI (人工知能)が協力してやることになるかもしれない - -。 大日本印刷は、AI が誌面を自動でレイアウトする技術を出版社 2 社と共同開発し、実用化が始まった。 編集者の経験や勘に頼りがちだったレイアウト作業を自動化することで、業務の効率化を手助けする。 建築専門誌の「新建築(創刊 1925 年)」を発行する新建築社と、海外の建築情報を伝える「a + u (エーアンドユー、同 71 年)」を発行するエー・アンド・ユーとともに共同開発した。 7 月発売の「a + u 8 月号」の一部のページで、さっそく新技術が活用された。

2 誌の各特集ではこれまで、1 人の編集者が毎回、レイアウトの原案を最低でも 5 つほどつくり、取り上げる建物の設計者らと議論を重ねて一つに絞っていた。 写真と文字のバランスや余白の取り方といった雑誌が持つ特徴は、長年担当した編集者の経験や勘に頼りがち。 一部の人に業務が集中している側面もあり、新技術でそうした状況が改善されることも期待される。 具体的な AI の活用は、次のように行われる。

まず、過去 15 年分の「a + u」から、約 1 千ページにわたる画像や文字、フォントや配置情報などのデータを「制作 AI」に学習させる。 次に、次号でレイアウトしたい画像や文字といった「素材」を入力すると、1 分半ほどで、ランダムに 100 個ほどレイアウトをつくる。 そして別の「評価 AI」が「その雑誌らしさ」を 1 千点満点で評価。 およそ 300 - 800 点ほどのスコアがつく。 「評価 AI」がなぜその点数を付けたのかは、「ヒートマップ表示」でわかる。

例えば、画像の端がそろっていたり配置のバランスが良かったりしている部分ほど、寒々しい色から暖かい色になる。 「『a + u』の誌面らしい」と、「評価 AI」が判定したことを示す。 「制作 AI」と「評価 AI」を分けることで、より良い誌面に近づくという。 大日本印刷ではもともと、文章の校正などで使う画像認識や解析技術の開発を進めていて、それを今回の技術に応用した。 開発に携わった田端聡さんは「600 点台の後半からは、ひとの目から見ても文字や画像の見やすさ、誌面全体の雰囲気が良いと思える。」

「a + u」の横山圭・副編集長も「写真が 1 ページに 8 つあるような、人間だったら『写真が小さくなりすぎる』と考えてしまうようなレイアウトもあったが、意外とそれも面白かった」と話す。 同誌では 6 月ごろからこの技術を導入し、AI の作ったレイアウト案も参考にして誌面制作を始めている。 編集者は、点数が高かったレイアウトを誌面づくりの参考にできる。 横山副編集長は「制作者間のコミュニケーションを活発にしたり、思いつかないアイデアを提案してもらえることで選択肢が増えたりして、誌面の質の向上につながる。 ゆくゆくは業務の削減にもつながる。」と語る。

もちろん今が完成形ではない。 田端さんによると、「レイアウトの対象は文字や画像の配置にとどまり、表のレイアウトや画像に文字をかぶせる処理はまだできない。」 処理速度の向上や、「その雑誌らしい」レイアウトができる確率が低いことも今後の改善点だ。 もともと大日本印刷は、顧客からデータを預かり、加工し、本や雑誌、ウェブサイトやアプリをつくってきた歴史がある。 今後はこの「編集 AI」を、クラウドサービスにして他の出版社に売り込むことも考えている。 「作業の効率化や、思いがけないアイデアを提案して、人が本来もつクリエーティブな能力を引き出したい(広報)」と考えている。 (江口英佑、asahi = 10-12-19)


居眠り防止・万引き監視 … AI サービスはどこまで広がる

人工知能 (AI) を活用したサービスや製品の企業向け展示会「AI・人工知能 EXPO」が 3 日、東京・有明の東京ビッグサイトで始まった。 省力化につながる AI のサービスや製品にとって、人手不足は追い風だ。 3 回目となる今回は 250 社が参加し、幅広い分野での活用方法が紹介されている。 5 日まで。

香港を本拠とするセンスタイムの日本法人は、脇見運転や居眠り運転を防ぐシステムを紹介した。 ハンドル付近に設置したカメラが、ドライバーの表情や目線の動きをとらえる。 視線が一定の範囲を超えて動いたり目を閉じた状態が続いたりすると、アラームで知らせる仕組みだ。 顔を登録しておけば、端末に顔を映すだけでビルや遊園地のゲートの開閉や、ロッカーの解錠ができるサービスも紹介した。

小売店のシステムを手がける「VINX (大阪市)」は、無人店舗の監視システムを展示。 入店者の動きを追い、万引きなどの不審な行動を検知するとスピーカーから「何かお探しですか」などと話しかけ、「警告」する。 1 人がモニターを通じて複数店舗を管理できる。 客はセルフレジで、キャッシュレスで会計を済ませる。 客数が少なく客層がある程度特定できる、工場や病院の建物内の売店などでの導入を想定しているという。

イラスト制作会社の「ジーアングル(東京)」は、イラストの評価ができる「アートディレクター AI」を発表。 対象のイラストをアップロードすると、その複雑さや制作費用、同様のイラストを描いているイラストレーターなどを分析する。 今は人の感性に頼っている評価を、客観的にできるとしている。 まだ研究段階だが、イラスト発注や、イラストレーターの採用などに役立てたいという。

弁護士らでつくるベンチャー「リーガルフォース(東京)」は、今月から企業向けの契約書を評価するサービスを展開している。 契約書内に自社に不利な条項が入っていたり、入れ忘れている条項があったりしたら指摘してくれる「AI 弁護士」だ。 契約書の定型文なども探すことができる。 自身も弁護士である角田望 CEO (最高経営責任者)は弁護士事務所に務めていたころ、同じような契約書を読み込む時間が長いことに疑問を感じていたという。 「法務部門や弁護士事務所はこれまで、メールやワードを使うのみだった。 今後、定型的な業務はテクノロジーでサポートしていきたい。」と話す。 (村井七緒子、栗林史子、asahi = 4-5-19)


100 万文字で 4 ドル? AI アナが登場、どうする人間

ナナコ、ゆい、エリカにトミー。 各地で人工知能 (AI) を使ったアナウンサーの開発が進んでいる。 人間との違いは? 関西空港が孤立するなど、関西地方で大きな被害がでた昨年 9 月の台風 21 号。 和歌山県では停電が発生し、ラジオが頼りにされた。 対象地域が半径 5 - 15 キロ程度のコミュニティー FM、「エフエム和歌山(和歌山市)」は、市内にしぼった気象や避難所の情報を一晩中繰り返し伝えた。

この放送を支えたのは、同局が独自開発した AI アナウンサーだった。 一帯では、南海トラフ地震で大きな津波被害が予想されている。 同局の山口誠二クロスメディア局長 (36) は、災害情報を伝える手段として AI アナウンサーを考えた。 独学でプログラミングを習得し、ニュースや天気予報の原稿を自動生成し、指定した時刻に読み上げる「オンタイムプレーヤー」のシステムを 2017 年 7 月に構築。 同年 9 月には、原稿を繰り返し読む「ダカーポ」システムを開発した。 (川本裕司、asahi = 3-5-19)


仕事を奪う AI と、予想外の仕事を創り出すAI

<技術の進歩という革命を悲観することはない。 トラック運転手からウエーター、数学者、医師まで、作業の「ロボット化」は多くの人から仕事を奪うが、多くの可能性ももたらす。>

先の戦争に学び次の戦争に備える。 碁や将棋の世界では既に人工知能 (AI) ソフトが名人級の棋士を次々と破っている。 でも、人間の棋士が失業したという話は聞かない。 なぜだろう? AI 棋士が今よりも賢くなるには、人間の棋士から学び続ける必要があるからだ。 そうであれば、AI が私たちの雇用を奪うというのは取り越し苦労にすぎず、むしろ今までとは違う雇用を生み出してくれると期待していいのかもしれない。

実際、今や世界の先端企業はこぞって AI の開発に取り組んでいる。 IBM は「ワトソン」の開発に 10 億ドルを投じ、アマゾン・ドットコムは AI アシスタントの「アレクサ」に期待をかけ、アップルも「Siri (シリ)」で対抗。 グーグルやフェイスブック、マイクロソフトも AI やロボットの研究に巨費を投じている。 AI がもたらす変化は速く、かつ巨大だろう。 過去にこれに近い変化が起きたのは 20 世紀初頭だった。 自動車や電気通信、飛行機、電気の使用が一気に普及し、その後の 20 年ほどで世界は劇的に変わってしまった。

私たちも今、新しいテクノロジーがものすごい勢いで登場してくるなかで同じような激動の時代に突入している。 とりわけ重要なのが AI だ。 それは技術哲学者のケビン・ケリーに言わせれば「全ての原動力」。 ロボットもバーチャルリアリティーも、ブロックチェーンも 3D プリンターも AI なしにはあり得なかった。 しかも現代は全世界がネットワークでつながり、30 億人がスマートフォンを持ち、世界規模のクラウドを共有している。 買い物も交際も、仕事も娯楽も、主たる舞台はネット上にあって、いや応なくグローバルにつながっている。 こんな世界では、変化の波は史上最強の津波となって私たちを襲ってくる可能性がある。

この変化についていくのは容易ではない。 現在の AI 主導の革命はあまりにスピードが速いため、私たちは今後どうなるのかを想像することさえできずにいる。 AI と人間の脳の研究企業ヌメンタを創業したジェフ・ホーキンズに言わせると、今の AI は 1950 年代初頭のコンピューターのような段階にある。 つまり、まだまだ黎明期だ。 しかしコンピューターは、その段階から 20 年もしないうちに航空機の予約システムや銀行の ATM を生み出し、人類の月面到達を手助けした。 1950 年代には誰も予想し得なかった変化だ。

トラック運転手がいなくなる

AI とロボットが今後 10 - 20 年で社会にどのような影響を及ぼすのか。 それを予想するのはさらに難しい。 では、AI は労働市場にどのような影響を及ぼすだろうか。 現在、世界で最も多くの人が就いている仕事はトラックの運転手で、アメリカだけでもその数は 350 万人に上る。 しかし 2016 年 4 月にはオランダ政府が、国境を越える自動運転トラックの走行試験を成功裏に実施した。 同年、配車サービスのウーバーは、自動運転トラックの新興企業オットーの買収に 6 億 8,000 万ドルを投じている。

コンサルティング会社のマッキンゼーは、8 年以内に全トラックの 3 分の 1 が自動運転車になると予想している。 つまり、ドナルド・トランプ米大統領の在任中に百数十万もの運転手が AI に仕事を奪われる可能性があるわけだ。 15 年後には「トラック運転手」という職業自体が過去の遺物となっていてもおかしくない。 著名な AI 研究者でスタンフォード大学のスリア・ガングリは、順調にいけば 5 年以内に、AI が医療の画像診断や司法の判例調査という作業で人間をしのぐだろうと予想する。

ホーキンズも、いずれは「偉大な数学者」のようなマシンが登場すると予測している。 「定理の証明や数学的構造の解明に挑み、麗しき高次元空間を頭の中で思い浮かべるのが数学者だが」と、彼は言う。 「それは必ずしも『人間的』な仕事ではない。 むしろ、そういう仕事のためのマシンを設計したほうがいい。 そうすれば初めから数学的な世界に生き、数学的な行動を取り、人間の 100 万倍のスピードで働いても疲れを知らない究極の数学者を作り出すことができるだろう。」

あなたが数学者やトラック運転手でなくても、機械的で単調な仕事に就いているならば、10 年後には「過去の遺物」になりかけている可能性が高い。 その手の雇用は徐々に失われ、いずれは博物館行きとなるだろう。 真っ先に消滅しそうなのは、大学に行かなくても就けるような仕事。 トラック運転手やウエーター、工場労働者やオフィスの事務員などだ。 その後は、いわゆる知識労働者にも危機が迫る。 例えば簡単な会計業務はソフトウエアに取って代わられるだろう。 単純で定型的な文書作成業務もそうだ。 既にブルームバーグでは、決算報告書の作成を AI ソフトに委ねているという。

医者も安泰ではない。 未来の患者は、まずスマートフォンで AI ドクターに相談する。 症状を説明し、患部の写真でも送れば、AI が初期診断を下し、市販薬を飲むか専門医にかかるかの助言もしてくれるだろう。 言うまでもないが、初歩的な AI は何十年も前から存在している。 グーグルの検索エンジンが極めて正確なのは AI をベースに構築されており、何十億件という検索結果から学習しているから。 フェイスブックがあなたのニュースフィードに、あなたが好きそうなものを送ってくるのも AI を活用しているからだ。

しかし AI がトラックを運転したり、患者の診断を行ったりすることを可能にするには、まだ何かが足りない。 例えば膨大な量のデータ(いわゆるビッグデータ)を瞬時に解析し、AI ソフトに学習させる能力だ。 今の私たちは何でもオンラインで済ませようとするから、そうした行為の全てが記録され、保存され、AI の学習材料となっている。 人や車、屋外のさまざまな場所に設置したセンサーを利用する「モノのインターネット (IoT)」も誕生した。 そうしたデータを解析して AI に供給するには膨大な計算処理能力が必要だが、それもクラウド・コンピューティングを使えば誰でも簡単に手に入れられる。

こうしたことから、AI がどんな仕事もこなせる段階に到達するのは時間の問題と考えられる。 そしてこの認識が、猛烈なパニックの連鎖を引き起こしている。 オックスフォード大学の研究によれば、人間が行っているあらゆる作業の約半分は機械で代替できる。 一部には、総労働人口の 90% が失業するとの予測もある。

生み出される新しい職業は

2016 年 9 月、人々の不安をなだめ、政府からの介入を未然に防ぐために、AI 企業大手数社は「AI に関するパートナーシップ」を結成した。 「われわれは AI が世界を肯定的に変える可能性を強く信じている」と、グーグルのムスタファ・スレイマンは語った。 一方、「心配なのは、ロボットが人間の仕事を奪い、人間を失業させることではない」と、米大統領経済諮問委員会のジェーソン・ファーマン前委員長は語っている。 問題は、AI が人間の仕事を奪うスピードが速いと、「多くの人が失業する期間が長引きかねないということだ。」

それでも、悲観し過ぎるのは禁物だ。 例えばライアン・ディタートが立ち上げたインフルエンシャルという会社は、IBM のワトソンをベースにした AI システムを構築した。 このシステムはソーシャルメディアを精査して、多数のフォロワーがいる「インフルエンサー(影響力のある人)」を見つけ出し、それぞれのネット上のパーソナリティーを分析している。

特定のブランドがターゲットとする消費者の特性に合致するインフルエンサーを発掘し、そうした人とブランドを結び付けるためだ。ブランド側はインフルエンサーに報酬を払い、自社製品を宣伝してもらう。 つまり、インフルエンシャルのような企業が成功すれば、一方でブランド・インフルエンサーという全く新しい職種が誕生するわけだ。 来るべき AI 経済は、インターネットが予想外の仕事を生み出したように、現時点では想像もできない仕事をいくつも発明するだろう。 30 年前には「検索エンジン最適化の専門家」などという職業は存在しなかったが、今ではかなり実入りのいい仕事だ。

AI に限らず、産業の機械化・自動化で人間の職が奪われることは過去にもあった。 セルフ給油の普及で多くのガソリンスタンドから店員の姿が消えた。 だがそれは社会全体の生産性を向上させ、別な価値を生み出す別な職業を生む要因にもなった。 AI がつくり出す新たな仕事を探すことにかけては、今ある就職支援ツールよりも AI のほうが役立つはずだ。 将来、AI は人々の能力や夢、希望を把握し、世界中からそれに合った職を探してくるだろう。

米労働省によれば、アメリカには約 680 万の失業者がいるが、空いているポストも 600 万人分ある。 強力な AI のマッチングシステムがあれば適材を適所に配置でき、この雇用格差を劇的に減らせるだろう。 AI の時代にも活躍できるのは、人付き合いや創造的思考、複雑なインプットを要する意思決定、共感や探究といった「人間ならでは」の能力を生かす仕事に就いている人だ。

最後に勝つのは「善い魔女」

AI は手元にないデータについて考えることができない。 ある人が何を好むかというデータに基づき、その人がフェイスブック上で見たいものを予測するのは得意だが、とんでもないものを好きになる可能性は予測できない。 意外性を愛するのは人間だけだ。 また、AI の支持派によれば、AI は人間と競うのではなく協力する存在だ。 1 年ほど前、私は癌研究者のソレダ・セペダから、日々の研究に AI をどう取り入れているかを聞いた。 セペダによれば、研究助手が 2 週間かけてやっと分析できる量のデータとテキストを、AI ソフトは 2 秒で終わらせる。 おかげで助手は頭を使う仕事をする余裕ができ、治療法の研究速度が上がったという。

AI は協力者として喫緊の課題を解決するチャンスをもたらすだろう。 癌を撲滅し、気候変動を緩和し、人口爆発を制御し、人類を火星に送り込む手助けもするかもしれない。 もちろん、全てが成功するとは限らないが、AI なしでは実現できないことも確かだ。 つまり、人類にとって AI の開発より悪い唯一のことは、AI の開発をやめることだ。

おとぎ話の世界には悪い魔女と善い魔女が登場するが、AI は悪い魔女(破壊者)にも善い魔女(創造者)にもなり得る。 どうせ最後には善い魔女が勝つのだが、おとぎ話の住人はそれを知らずにうろたえる。 今の私たちもそんな状態にあるのだろう。 だから AI という怪物から逃げたがる。 でも、明日の AI は白馬の騎士に見えるかもしれない。 (ケビン・メイニー、NewsWeek = 12-27-18)


AI、データ不足 6 割 「動かない頭脳」続出の恐れ

大手 113 社の活用状況、日経と「xTECH」が調査

日本の主要企業の 6 割が人工知能 (AI) 運用に欠かせないデータ活用で課題を抱えていることが分かった。 製品やサービスの開発、事業開拓など AI の用途は新たな分野に広がりつつある。 だが必要なデータが不足していたり、データ形式が不ぞろいで使えなかったりと、AI の導入に戸惑う事例も多い。 欧米を中心に企業の AI 活用が急拡大するなか、「動かない AI」が増え続ければ世界競争に出遅れかねない。

日本経済新聞と日経 BP 社の専門サイト「日経 xTECH (クロステック)」は 7 - 8 月、大手 113 社に AI の活用状況を聞いた。 「AI を活用する」と答えた企業は予定も含めて98%に上った。 AI が企業活動に浸透しつつある一方、日本企業が抱える課題も浮き彫りになった。

実用化まで 2 年

ダイナマイトで掘り崩した先、AI の「目」がトンネル表面をくまなく観察し始めた。 所要時間は 2 分間。 地層や割れ目、漏水の有無から地盤が安全かどうかを機械診断する。 「これなら使える。」 2018 年夏、実証試験を繰り返していた大林組の畑浩二部長は胸をなで下ろした。 風化による地質変化の正答率は 87% と、全社でも 3 人しかいない専門技術者と肩を並べるまでになった。 近く山岳地帯の工事現場で実用化に乗り出すが、実はここまでくるのに 2 年かかった。

壁になったのが保管データの形式違いだ。 過去 2 千枚超の工事画像などをもとに地質診断のコツを AI に教え込もうとしたが、保存形態が「エクセル」や「PDF」などバラバラ。 担当者が画像や資料をスキャンし、手作業で数値を入力し直す必要があった。 AI の精度を高め、期待通り動かすには、膨大なデータを集めてその意味を学ばせる作業が欠かせない。 しかし調査では「データはあるが使えない」企業が 35% に上り「収集できていない」も 2 割を占めた。 「どんなデータが必要か分からない」も含め 6 割の企業が AI 導入に悩む。

背景にあるのはペーパーレス化の遅れや言語などの問題だ。 AI 学習用のデータ加工は自動化が難しく、入力や形式の統一など人海戦術に頼る部分が多い。 英語が通じるインドやフィリピンに大量のデータ処理を委託してきた欧米勢に比べ、日本企業はこうした「前工程」で腐心する。 2 月から「AI タクシー」を導入した東京無線タクシー。 AI で乗客の人数と地点を予想する。 精度は 95% と高く、新人ドライバーは売り上げが 1 日平均 3 千円増えた。 開発した NTT ドコモは、AI に学ばせるデータの「重み付け」でてこずった。

携帯電話から得られる人の分布、車両の運行履歴、付近の施設情報や気象データを掛け合わせる。 最低 1 千台のデータが必要と考えてAIに学ばせたが、数カ月間は予測精度が思うように出なかった。 実際はどの要素を重視させるか次第で、数十台でも十分に精度を上げることができた。 今回の調査では企業の 6 割超が「製品やサービスの革新」に AI を活用していくと回答。 「コスト削減 (45%)」や「人手不足の補完 (19%)」を上回り、事業強化に向けた用途でも AI に高い期待を寄せていることが分かった。

倫理規定で出遅れ

だが AI をうまく動かせても課題は残る。 73% の企業が「判断がブラックボックス化する」懸念を挙げた。 現在主流の AI 技術は内部の挙動が複雑で判断の根拠を示すのが難しい。 経営のどこまでを「説明できない AI」に頼るべきか、悩む企業は多い。 三井住友フィナンシャルグループ (FG) は 17 年 11 月、AI 利用に関する独自の倫理規定を導入した。 「判断が倫理的に不適切にならないようにする」、「基本的人権の保護や文化多様性に配慮する」などを掲げ、AI を開発・利用する社員に徹底させている。

与信判定などで AI による偏った判断が生じかねない場面を想定し、海外文献も参考に中身を練った。 調査時点で「規定を定めた」と答えたのは三井住友 FG の 1 社のみ。 9 月にソニーも独自の倫理規定を設けたが、グーグルやマイクロソフトなど規定導入が相次ぐ米国に比べ日本勢の取り組みの遅さが目立つ。 MM 総研の 17 年調査によると、企業経営層が AI を熟知している割合は米国が 5 割、ドイツが 3 割に対し、日本は 7% 台。 AI 活用が当たり前になる「データエコノミー」への理解が進まなければ、国や企業の競争力の差につながりかねない。 (平本信敬、日経クロステック = 竹居智久、nikkei = 9-30-18)