NEC 社長、生成 AI 「ビジネスの可能性ある」 独自開発も視野

NEC の森田隆之社長が 5 日までに報道各社のインタビューに応じ、生成 AI (人工知能)について、自社開発も視野に研究を進めていることを明らかにした。 「インターネットの登場と匹敵するくらい、社会のあらゆる部分に影響を及ぼす技術だ。 ビジネスの可能性はあると思っている。」と語った。 生成 AI については、仕事で使うことを認める企業も増えているが、回答が事実と異なる場合もあり、信頼性に課題がある。 また、多くが英語で学習した製品で、日本語での回答に誤りが多いことも指摘されている。

このほか、著作権の問題もある。AI がインターネットなどから情報を学習する際には著作権者の許可は必要ないとされる一方、生み出された文章や画像に類似性などがあれば著作権法違反に当たる可能性があるためだ。 森田社長は「ビジネス用途で利用できるよう、安心して使えるものの提供を準備している」と語り、こうした課題に対応した製品を検討していると語った。 独自の生成 AI を開発することや、「ChatGPT (チャット GPT)」などのすでに公開されている AI に機能を追加する仕組みなどを考えているという。

また、政府が今後 5 年間の防衛費を大幅に増額することについては、「望ましい方向に動いている」と述べた。 NEC は自衛隊などの通信や管制システムといった宇宙や防衛関連の事業を手がける。 森田社長は増額される防衛費が、人件費や他国の製品の購入費にあてられるだけでなく、「日本が国際的に貢献すべき、先端技術の領域で使われるか関心がある。 そういう方向に動いてほしい。」と要望した。 (田中奏子、asahi = 6-5-23)


マイクロソフトの検索エンジン「ビング」、ChatGPT に搭載

米マイクロソフト (MS) は 23 日、米新興企業オープンAI の対話型 AI (人工知能)「ChatGPT (チャット GPT)」に MS の検索エンジン「ビング」を搭載すると発表した。 MS は、チャット GPT の技術を幅広く自社製品に搭載しており、オープン AI との双方向の連携を強めている。

ビングを搭載したチャット GPT は、ニュースや天気などの最新の情報を反映できるほか、回答で示される情報の引用元も表示される。 有料サービス「チャット GPT プラス」の利用者は同日からビングの機能が使え、無料の利用者も近く使えるようになるという。 従来のチャット GPT の基盤となる言語モデルは 2021 年までのデータで訓練されており、最新の情報に対応していなかった。

MS は同日、オープン AI の技術を使ったビングのチャット機能を、パソコン向け基本ソフト (OS) 「ウィンドウズ 11」にも搭載することも発表した。 「副操縦士」を意味する「コーパイロット」と呼ばれる機能を使い、ウィンドウズ上の画面横に表示されるチャットボックスでやりとりしながら、画面の色合いの変更や文章の修正など幅広い作業ができるようになる。 6 月から試験版として提供するという。

また、ソフトウェアどうしをつなぐ「プラグイン」と呼ばれる機能を使い、外部のサービスとの連携も強化する。 たとえば、旅行予約サイト大手の米エクスペディアの機能を使い、ビング上でチャットでやりとりしながら旅行の情報を調べることができる。 MS は今年 2 月、チャット GPT の技術を搭載した新型ビングを発表。 米グーグルも対話型 AI 「Bard(バード)」を公開し、G メールや文書作成ツール「グーグルドキュメント」など幅広い製品との連携を進めるなど、IT 大手で AI を活用した開発競争が加速している。 (サンフランシスコ = 五十嵐大介、asahi = 5-24-23)


NTT 西と日本マイクロソフト、生成 AI による役所の業務改革で協業

NTT 西日本と日本マイクロソフトは 22 日、地方自治体のデジタル化に向けて協業すると発表した。 人の指示に応じて文章や画像をつくる「生成 AI (人工知能)」などを使い、自治体の業務の効率化や人材育成の後押しを提案する。 西日本の自治体に向けて、クラウドサービスの導入や職員のデジタル技能の向上などを図るサービスを同日から売り込む。 生成 AI を用いて、申請手続きや職員の文書作成の手助けといった業務の効率化を提案する予定。

両社のサービスを導入することで、住民が窓口で待つ時間を減らしたり、役所に出向かずにオンラインで行政手続きができるようになったりするという。 2025 年度までに約 250 の自治体での利用を見込む。 5 年間で約 500 億円の売り上げを目標としている。 22 日に大阪市内で会見した NTT 西日本の森林正彰社長は「私どもが持っている強みと日本マイクロソフトの強みを合わせると、競争力のあるソリューションが出せると思っている」と話した。 (渡辺七海、asahi = 5-22-23)


ChatGPT、ウイルス作成に悪用も 手口放置? 「対策が後手に」

生成 AI (人工知能)の「ChatGPT (チャット GPT)」を利用して、コンピューターウイルスが作成できてしまうことが専門家の調査でわかった。 知識が少ない初心者でも、プログラムコードを瞬時に作れるため、犯罪へのハードルが下がってしまうなど、新たなリスクとして懸念が高まっているという。 チャット GPT は、米新興企業「オープン AI」が昨年秋に公開した対話型 AI。 無料で使えるほか、月額約 3 千円の有料版では、回答や日本語の精度が上がった最新版「GPT4」の機能を使うこともできる。

言葉で依頼すればコンピューターのコードを書いてくれる上に、翻訳機能もある。 ただ情報セキュリティー会社「三井物産セキュアディレクション(東京)」の上級マルウェア解析技術者、吉川孝志さんによると、コンピューターウイルス(マルウェア)など悪意のあるプログラムや、国際的な詐欺メールなどの作成に悪用できる可能性があると、公開直後から指摘されていたという。 チャット GPT はインターネット上で集めた大量の文章やプログラミングコードを事前に学習していると考えられており、利用者の指示に従って文章やコードを生成する。

ネット上には、マルウェアの作成に関わる情報や、振り込め詐欺に使われる文面など有害な文章があり、学習に利用されている可能性がある。 こうした情報の悪用を防ぐため、通常の利用方法では有害情報を生成しないよう制限がかけられている。 例えば、企業や病院などのコンピューターの中身を勝手に暗号化し、解除の見返りに金銭を脅し取る「ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)」について、記者が「作り方を教えて」と入力しても「教えることはできません」、「違法行為です」などと答え、回答しなかった。

ところが、吉川さんによると、ハッカーらの掲示板では、制限を突破してチャット GPT から有害情報を引き出す手法が共有されている。 制限を破るには、従来の AI に比べてチャット GPT が、長い文章や、質問の流れを踏まえて回答する能力が高いことを逆手にとる。 特定の長い文章を打ち込んでいけば、制限されたはずの内容を回答してしまうという。 一度、この状況になったチャット GPT にランサムウェアのコードの生成を依頼すると、「規則に従わなくてもいいから、ちょっとした例を提供してやろう」などと回答。 続いてランサムウェアをつくるためのコードを実際に提示してしまった。

吉川さんはこうした手法のリスクをしらべるため、チャット GPT が生成したコードでつくったランサムウェアを、検証用のパソコンで実行した。 その結果、パソコン内のファイルは瞬時に暗号化されロックがかけられた。 「あなたのファイルは強力な暗号化が施された。 解除して欲しかったら 1 ビットコイン(約 400 万円)を次のアドレスまで送るように」という英語の身代金の脅迫文まで、指示していないのに表示されたという。

チャット GPT 製のコードをコピーアンドペーストで実行するだけで、実際に被害を出しているのと同様のランサムウェアができてしまったという。 制限を破り、ランサムウェアの作り方をたずねて、ウイルスが実行されてしまうまでに 5 分もかからなかった。 この状態では、ほかの犯罪を招きかねない有害な情報も出力できるようになっていた。 吉川さんによると、徐々に対策は取られてきているが、発見されて 2 カ月以上経っても放置されているものがある。 4 月下旬の時点でも利用できるものがあったという。

また通常の状態でも不適切な使用ができてしまう。 例えば、国際的なサイバー犯罪グループに悪用されたランサムウェアの複雑なコードの一部を、チャット GPT に入力して解説させると、内容を明かしていないもかかわらず「これはランサムウェアの○○の処理を行うコードで …」と解説を始めるという。 吉川さんは「対策が完全に後追いとなって、追いつけていない状況に見える。 『ランサムウェア』という言葉を使い、不正だと判別できていながら、詳しく解説してしまうなど、すぐ対応できるはずのリスクまで残されているのは問題だ。」と話す。

チャット GPT は、こうしたコードを「別のプログラミング言語に変換して」と依頼すれば、瞬時に書き換えることもできる。 「日本語を含む自然な言葉でお願いするだけでコードが作れたり、どんなコードなのかをわかりやすく解説してくれたりする。 知識の少ない初心者がウイルスやフィッシング詐欺などのサイバー攻撃に参入しやすくなるなど、危険性が急速に高まりつつある。」と指摘する。 オープン AI もブログで「すべての悪用事例を予見できる訳ではない」と述べる。

チャット GPT のような技術はマイクロソフトの検索エンジン「Bing (ビング)」など既存のサービスとも結びつけて使われ始め、生成 AI の種類やユーザーも急速に増えている。 一方で吉川さんによると、こうした動きに便乗して、生成 AI の正規アプリなどを装ったマルウェアに感染させる手口が、既に発生しているという。 「パスワードなどの情報を安易に入力せず、信頼できる提供者のサイトやアプリかを確認するなど十分に気をつけてほしい」と話している。 (瀬川茂子、竹野内崇宏、asahi = 5-15-23)


EU、生成 AI に表示義務づけへ 政策トップ「技術規制役立たない」

欧州連合 (EU) の行政府である欧州委員会のベステアー上級副委員長が 28 日、単独インタビューに応じ、「ChatGPT (チャットGPT)」など生成 AI (人工知能)が作り出した文章や画像に表示を義務づける考えを明らかにした。 EU の理事会と議会で審議中の AI 規制法案に盛り込む方針で、年内の合意をめざす。 ベステアー氏は EU デジタル政策のトップで、主要 7 カ国 (G7) デジタル・技術相会合出席のため来日。 EU は世界に先駆けてAI 利用のルール作りに着手し、2021 年に AI 規制法案を公開している。

原案では、自動応答するチャットボットや、現存する人間があたかも本当に振る舞っているかのように見せかけた合成画像などについて、AI が使われていると明示するよう義務づけている。 ベステアー氏によると、この規定を新たに拡大し、AI が生成した全てのものに「メイド・ウィズ・AI」などと明記することを義務づける方向だ。 「AI が生成した画像はまだ不自然なところがあるが、今後より精度を上げたとき、AI が作ったものだと明示されていることが極めて重要になる」と強調した。

規制法案は AI 利用をリスクの度合いで 4 分類し、人権侵害の恐れのある利用に規制をかける。 ベステアー氏は「技術を規制しようとすれば法律はすぐに時代遅れになり、役に立たない。 チャット GPT の登場がそれを物語っている」と述べ、技術そのものではなく、AI の使い方を規制することが重要だとの認識を示した。 審議中の AI 規制法案は夏までに欧州議会で議論がまとまる見込みで、年内の政治合意をめざす方針。

ベステアー氏は生成 AI について、「チャット GPT はこれまでの AI よりはるかに影響力が大きい。 普及が進めば生産性を上げることができるが、それには安全に使えるという信頼が欠かせない」と指摘。 特に意思決定の補助として使われる際にリスクが大きいとの見方を示した。

オランダでは 2 年前、税務当局が児童手当の不正受給を防ぐ目的で導入したアルゴリズム(計算手順)が、特定の国籍の人などを高リスクと判定していたことが発覚し、当時の首相が辞任した。 「とくに公的セクターでは、安全性への信頼なしに導入できない」とも述べた。 一方、イタリアは EU 加盟国で初めてチャット GPT の国内使用を禁止していたが、個人データの取り扱いで改善があったとして 28 日、禁止を解除したと発表した。 (村井七緒子、渡辺淳基、asahi = 4-29-23)


ChatGPT で経産相 「リスク解消は、利活用阻害しない形で」

人工知能 (AI) の開発・規制や自由なデータ流通について議論する主要 7 カ国 (G7) デジタル・技術相会合が 29 日、群馬県高崎市で始まった。 西村康稔経産相は、AI の規制に前向きとされる欧米の閣僚らを前に、「リスクの解消にあたっては、できる限り技術の開発や利活用を阻害しない形で対応していかなければならない」と述べた。

西村氏は、人間のように自然な回答を返す対話型 AI 「ChatGPT (チャット GPT)」などの生成 AI について、「破壊的な影響を持つ技術は、社会を大きく変革する。 リスクを迅速に評価対応する必要がある」と指摘した。 そのうえで、「自由な言論や開かれた市場によって、民間の想像力を解放することが我々の豊かな社会の基盤だ」と語り、規制に慎重な日本の立場を強調した。 同会合は 30 日まで行われ、日本からは西村氏のほかに河野太郎デジタル相、松本剛明総務相が出席。 「責任ある AI」実現のため、G7 の連携を協議する。 (小手川太朗、asahi = 4-29-23)


ChatGPT の禁止解除、必要な措置明らかに イタリア当局が発表

対話型 AI (人工知能)「ChatGPT (チャット GPT)」の使用がイタリアで一時禁止された問題で、同国のデータ保護当局は 12 日、運営会社の米新興企業オープン AI に対して禁止解除に必要な措置を提示した。 同社は 30 日までにサイト上で利用者らに個人データの収集や使用方法を明示し、同意を得る措置が必要となる。 保護当局は同社にテレビや新聞で AI について市民に啓発することも求めた。 保護当局は 3 月 31 日、チャット GPT による膨大な個人データの収集が、個人情報保護法に違反する疑いがあるとして、イタリア国内での使用を一時禁止。 今月 5 日には、オープン AI 側とビデオ会議で協議したことを明らかにしていた。

保護当局は、利用者が登録する前に、チャット GPT の運用に必要なデータの収集や処理を説明する通知をサイト上に表示することを要求。 AI の訓練に必要な個人情報の取り扱いでは、欧州連合 (EU) の一般データ保護規則 (GDPR) の基準に沿って個人の同意などを得ることで、必要な法的根拠を満たすように命じた。 さらに、5 月 15 日までにイタリアのテレビや新聞、ラジオを通じて AI の訓練に必要な個人データの使用に関する啓発キャンペーンを実施することも求めた。 チャットGPTが作成した文章などに誤った情報が含まれていた場合に、利用者だけでなく利用者でない人からも修正や削除できる仕組みを作ることも義務づけた。

また、保護当局が個人データの取り扱いと並んで使用の一時禁止の理由としていた利用者の年齢制限に関しては、30 日までに利用者がサイトの使用前に 18 歳以上であることを宣言する仕組みの導入を指示するなどした。 その上で、13 歳未満と保護者の同意のない 18 歳未満には利用できないシステムを 9 月末までに追加するように求めた。

イタリア国内での使用禁止措置を受けて、オープン AI はこれまでに朝日新聞の取材に「我々が AI に求めているのは、世界について学ぶことであり、個人についてではない」としたうえで、「チャット GPT のような AI システムの訓練で扱う個人情報を積極的に減らしている」と説明している。 チャット GPT は昨年 11 月末の公開から 2 カ月間で、利用者が 1 億人に達したといわれる。 アプリや製品への導入も進み、オープン AI に出資するマイクロソフト (MS) やグーグルなど米 IT 大手の開発競争が激化している。

他国への影響は

一方で、ロイター通信によると、イタリアの動きを受け、フランスやアイルランドのプライバシー保護当局が、イタリア側と連絡を取るなど、欧州の他の国でもイタリアに追随する可能性が出ている。 13 日には EU のデータ保護当局でつくる「欧州データ保護会議 (EDPB)」の会合が予定されており、米政治サイト「ポリティコ」によると、少なくともフランスとスペインの当局がチャット GPT について議論することを求めているという。 (パリ = 宋光祐、asahi = 4-13-23)


翻訳も資料探しもできてしまう ChatGPT 英語学習がなくなる?

アドバイスや資料を求めれば、世界中のインターネット空間から資料を探し、日本語に翻訳して答えてくれる「ChatGPT (チャット GPT)」。 機械翻訳のアプリも進化し、あらゆる言語をリアルタイムで翻訳してくれる。 もはや、英語を学ぶ意味はあるのか。言語教育を研究する京都大の金丸敏幸准教授は「必修だった英語が選択式になる。 そんな時代がここ数年で来るかもしれない。」と話す。

「英語は必修でなくても」 議論が加速

英語を学ばなくてもいい時代が来たのでしょうか。

英語の基礎は大事です。 引き続き、小中高での学習は続くと思います。 ただ、「大学で英語を学ぶ意味があるのか」、「必修科目でなくてもいいのでは?」という議論が、一部の大学で始まっています。 機械翻訳が社会に浸透した 2 年前ごろから議論はあったのですが、チャット GPT の登場で加速しています。

チャット GPT と機械翻訳は何が違うのでしょうか。

大学で英語を学ぶ意味は、論文を書いたり、読んだり、自分の研究成果や意見を表現することです。 機械翻訳は、人間が入力しないと始まりません。 膨大なネット空間から海外の資料を探す作業は人間の役割です。 だからこそ英語学習の余地がありました。 ただ、チャット GPT は、アイデアや論旨の組み立てまでもやってくれる。 専門的な資料も探してくれる。

確かに、「英語学習の意味は?」と聞けば、「コミュニケーションスキルを高めるため」と答え、さらに「根拠となる論文は?」と追記すれば、いくつかの英語論文を提示してくれる。 「英語を学習する意義を論文にして」と打てば、数秒で原稿用紙 2 枚分の答えをくれて、翻訳もしてくれます。

はい。 チャット GPT の答えが自分の考えと同じか、正しく書かれているのか、人間はそれを確認すればいい。 つまり、英語の基礎がわかっていれば、大学で勉強するような専門的な英語は必要なくなってくるのではないでしょうか。

問い直される「受験のための英語学習」

中学や高校の英語教育にも影響はあるのでしょうか。

大いにあると思っています。 少し歴史を振り返りましょう。 日本での英語教育は必然性から生じたものではありません。 戦後に、英語が選択科目として指導要綱に入れられるようになり、1960 年代までには、実質的な必修化といっていいほど、中学生と高校生は英語を学ぶようになっていきました。 ただ、この時代は、海外からの観光客も、海外へ行く日本人もほとんどいません。 英語が日常生活に必要というわけではありませんでした。

では、なぜ勉強していたのでしょうか。

受験のためといっていいかと思います。 高校や大学入試に英語が導入されていたため、「何に使うの?」と思っていても、英語を勉強せざるを得なかったのです。 ただ、1989 年に冷戦が終結すると、一気にグローバル化が進みます。 誰もが海外に行く時代となり、英語に触れる機会が増えてきました。 その頃になって、グローバルな人材を育てるために、「誰もが英語を等しく身につけるべきだ」という理由が後付けされたのです。 今では、公立の小中高、ほとんどの大学で英語は必修科目となっています。 同時に、「将来海外で仕事をするために英語を勉強したい」など、英語学習の目的を持つ生徒も増えていったのです。

一方で、今も受験のためだけに英語を学ぶという生徒は多いと思います。

その通りです。 日本は英語を特別視しすぎていると私は思います。 入試があるために、理系、文系に関係なく、誰も英語からは逃れられない。 他の科目は選択できるのに。 英語だけが特権的です。 英語にまったく興味が無く、学ぶ意味もわからないのに、やらされている。 そんな生徒は少なくないと思います。 大学で英語が必修でなくなれば、大学入試に影響を与えるかもしれません。 入試が変われば、中学や高校の英語も選択制になるかもしれない。 英語が他の科目と同等になり得ると考えています。

変化はどの程度先の未来と考えますか?

一足飛びとはいかなくても、ここ数年で起きうる。 チャット GPT にはそれぐらいのインパクトがありました。 まだ正確性やセキュリティーの不安もありますが、チャットGPTを使えば、誰もが等しく英語を使うことができる時代になりつつあるからです。

AI の影響を受ける職業 2 位に英語教師

そうなると、英語教師は必要なくなるのでしょうか?

アメリカの学者が今年書いた論文では、AI の影響を受ける可能性の高い職業の 2 位に英語教師が入りました。 3 位は外国語教師、10 位までの七つを教職が占めています。 今思えば、1991 年に大学の設置基準の改正で科目ごとの最低単位数がなくなり、大学が自由にカリキュラムを設定できるようになりました。 その結果、ドイツ語やフランス語といった第二外国語を廃止する大学も増加。 多くの教師が職を失いました。

その時に、教師たちは考えたのです。 「この言語を教える意味はなんだろうか?」 英語教師たちも、その問い直しをする時期にきたのだと考えます。 英語を学ぶことだけが異文化を知るわけではない。 それは生徒や学生も同じです。 「なぜ、英語を学ぶのか」、「英語を使って何をしたいのか」を再確認するチャンスだと思います。

チャット GPT は道具 知的作業は人間の力で

英語を学ぶこと自体も揺らぐのでしょうか。

そうは思いません。 英語がグローバルスタンダードであることは変わらないので、世界的には英語ができた方がいい。 これまで話してきたのは、受験勉強のためだけに英語を勉強したり、英語学習に時間を取られて本当に自分が学びたい分野に手が回らなかったり。 そのような自分の時間を犠牲にして英語を学ぶ必要性がなくなる可能性を話してきました。

私は翻訳や通訳など、高度な英語を駆使する職業がなくなるとは思っていません。 チャット GPT は道具です。 平均的なコミュニケーションは代替できても、それ以上の知的作業は人間の力が必要です。 だから、留学の価値も変わらないと思います。 むしろ、チャット GPT で会話の練習ができる分、現地に行って得られる経験の重要さが増すのではないでしょうか。 (聞き手・江戸川夏樹、asahi = 4-12-23)

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「チャット GPT、全世界が実験台」、「データ集中と監視、強まる恐れ」 元グーグルの専門家が警告

「ChatGPT (チャット GPT)」など、高度な人工知能 (AI) に対する懸念の声が強まっている。 開発の停止を求める声や、プライバシーの面から利用を規制する動きも出てきた。 何が問題の根底にあるのか。 元グーグル社員で、AI を倫理面から研究してきたメレディス・ウィテカー氏は、高度な AI の登場が巨大 IT 企業へのデータと権限の集中をさらに進める恐れがあると警告する。

チャット GPT は、マイクロソフトが出資する米オープンAI の「対話型 AI」のサービス。 昨年秋に一般公開されて以降、利用が急増している。 質問を入力すると、人間との会話のように自然な回答を返すのが特徴だ。 ウィテカー氏は 13 年間グーグルに勤め、ニューヨーク大学で AI 倫理を研究する機関の設立に携わったほか、米連邦取引委員会 (FTC) でアドバイザーも務めた。現在は、暗号化通信によるメッセージアプリ「シグナル」の社長を務める。

3 月の来日中に朝日新聞の取材に応じたウィテカー氏は、チャット GPT など最先端の AI について、「正確性も安全性もわからない、実験的な技術」と指摘したうえで、チャット GPT の検索サービスへの導入を進めるマイクロソフトの判断を「非常に無責任で、無謀な行いだ」と批判した。 同氏は以前から、データとインフラなどの資源が一部の巨大 IT 企業に集中する構造が問題の根源だと指摘してきた。 利用者のデータを集めた AI の高度化は、インターネット広告の仕組みを通じて収益化する「監視のビジネスモデル」の延長線上にあるとして、「(AI は)中立的でも、民主的でもない。 究極的には彼らの利益につながるようにつくられている。」と語る。

社会に大きな影響を及ぼす技術が、企業の判断だけで一般公開されうる現状にも疑問を呈す。 「世界の全人口を実験台として利用することが許されてしまっている。 倫理や道徳の観点から、もっと民主的な統制があってしかるべきだ。 強いプライバシー規制の仕組みがあれば、AI 産業へのデータの流れを切断できる。」

最先端の AI が公開されることは、どのような影響をもたらすのか。 ウィテカー氏は、一般公開によって利用者を獲得した AI がいっそう多くの「学習データ」を得ることで、データの集中と監視がさらに強まる可能性を指摘する。 「AI 自体が独自の監視機能を提供できるようになる。 位置情報などではなく、もっと内面的な、推論的な形で私について明らかにすることができるようになる。 AI と監視モデルの関係は、さらに強まる恐れがあります。」

松本剛明総務相は 11 日の記者会見で、今月末に群馬県高崎市で開く主要 7 カ国 (G7) デジタル・技術大臣会合の場で「信頼できる AI の普及促進というテーマで、各国共通のビジョンを実現するための具体的な方策について議論をしていきたい」と述べた。 10 日には岸田文雄首相が、チャット GPT を開発した米オープン AI のサム・アルトマン CEO (最高経営責任者)と首相官邸で面会。 プライバシーや著作権面でのリスクなどについて意見交換した。 国内でも対話型 AI の課題や活用のあり方に関心が高まっている。 (渡辺淳基、asahi = 4-12-23)

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政権に不都合な表示防ぎたい? 中国、対話型 AI の事前審査義務づけへ

中国政府は 11 日、「ChatGPT (チャットGPT)」のような対話型 AI (人工知能)に対し、規制を新たに設ける方針を明らかにした。 当局による事前審査を義務づけるなどの内容で年内に施行する。 習近平(シーチンピン)政権にとって不都合な内容の表示を禁じる狙いがあるとみられる。 ネット空間の規制などを担当する国家インターネット情報弁公室が同日、文章や画像、動画などを作り出す生成 AI への新たな規制案を発表した。 国家転覆や社会主義制度を覆すような内容を禁じるとし、当局による事前審査を義務づける。

当局の要求に応じて AI の基礎となるアルゴリズム(計算手順)を提出することも求める。 法律に違反した場合は処罰することも明記した。 中国では米オープン AI 社のチャット GPT は使用できない。 中国のスタートアップ企業が昨年 12 月、対話型 AI を公開したが、その後利用できなくなった。 台湾メディアによると、ロシアのウクライナ侵攻や中国の経済状況について、党の見解とは異なる回答をしたためとされる。 一方、新たな成長分野として注目される対話型 AI の開発は中国でも熱を帯びている。 検索大手の百度(バイドゥ)が発表したほか、ネット通販大手のアリババ集団も 11 日に企業向けにサービスを提供すると発表した。 (北京 = 西山明宏、asahi = 4-11-23)

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チャット GPT、日本に事務所検討 開発の米企業 CEO、首相と面会

対話型 AI (人工知能)「ChatGPT (チャット GPT)」を開発した米新興企業オープン AI のサム・アルトマン CEO (最高経営責任者)が来日し、10 日に首相官邸で岸田文雄首相と面会した。 プライバシーや著作権面でのリスクなどについて意見交換をしたという。 アルトマン氏は、日本での事務所開設を検討していることも明らかにした。 アルトマン氏は面会後に記者団の取材に応じ、「この技術の利点と、欠点を軽減する方法」などについて首相に説明したと話した。

そして「日本の人にとって素晴らしいものを作りたい」として、事務所開設の検討を表明した。 対する首相も「(面会で)国際的なルール作りについて意見交換をした」と語った。 午後にはアルトマン氏が自民党本部を訪ね、党の部会に出席。 デジタル社会推進本部長を務める平井卓也元デジタル相によると、アルトマン氏は日本の技術者と交流ができるような研究開発の拠点を日本に設立する意向を示したという。

AI が学習に使うデータが、英語圏に偏ることで日本に関する結果も偏る「言語バイアス」の問題が指摘されている。 会合の出席者によると、アルトマン氏は「機微なデータを日本国内で保全するための仕組み」を検討することにも言及したという。 チャット GPT をめぐっては、個人データの取り扱いに関する説明が十分でないことへの懸念が広がり、欧州ではプライバシーの観点から使用の一時禁止など規制の議論が強まっている。 著作権も侵害されかねないとの指摘がある。

アルトマン氏によると、日本国内では 1 日あたり 100 万人以上がチャット GPT を利用している。 チャット GPT を公開してから、同氏が海外を訪問するのは日本が初めてだという。 (女屋泰之、渡辺淳基、asahi = 4-11-23)

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イタリアで一時禁止のチャット GPT 規制する? 欧米で過熱する議論

イタリアのデータ保護当局は 5 月 31 日、昨年 11 月公開の対話型 AI (人工知能)「ChatGPT (チャット GPT)」の使用を一時的に禁止すると発表した。 膨大な個人データの収集が個人情報保護法に違反する疑いがあるという。 運営する米新興企業オープン AI は、約 29 億円の罰金を科される可能性がある。 保護当局は 3 月 20 日、チャット GPT 利用者の会話内容や支払い情報に関するデータ侵害の報告を受け、調査を始めた。 英紙フィナンシャル・タイムズによると、利用者の氏名やクレジットカード番号の一部が 9 時間、外部からアクセスできる状態だったという。

保護当局によると、こうした調査の中で、チャット GPT が収集しているデータ内容を、利用者に適切に通知していなかったことが判明。 AI の訓練に必要となる膨大な個人情報を法的根拠なしに集めていた可能性があるという。 また、利用規約では利用者を 13 歳以上に限定しているものの、サイトへのアクセス時に年齢を確認する仕組みがないことも判明。 AI とのやり取りで、子どもが年齢にふさわしくない回答を受け取る恐れがあるとした。 今回は個人情報の違法収集の疑いと年齢確認の仕組みの未整備を理由に使用禁止を決めた。

ロイター通信によると、欧米でチャット GPT の使用を禁止するのはイタリアが初めて。 保護当局はオープン AI に対して、20 日以内に問題の解決策を実施して報告することを求めた。 対応をとらない場合には、最大 2 千万ユーロ(約 29 億円)か、世界での年間売上高の 4% に相当する罰金を科す可能性があるという。

運営企業、欧米、そして日本の対応はどうなる?

オープン AI のサム・アルトマン最高経営責任者 (CEO) は 31 日のツイートで「我々はもちろんイタリア政府に従う」としたうえで、「我々はすべてのプライバシー法に従っていると思うが、イタリアでのチャット GPT の提供を停止した」と述べた。 チャット GPT など最先端の AI をめぐっては、起業家イーロン・マスク氏らが、少なくとも今後半年間、開発を停止するよう求めるなど、欧米で規制を求める議論が過熱している。

欧州刑事警察機構(ユーロポール)は 27 日、フィッシング詐欺や偽情報、サイバー犯罪に悪用される恐れがあるとする報告書を発表。 リアリティーのある文章を短時間に量産する能力は、うそを信じ込ませたり、プロパガンダを拡散させたりするのに理想的なツールになると警告した。 欧州連合 (EU) の行政府である欧州委員会は 2021 年 4 月、主要国で初めて AI の利用に関する規制案を公表。 だが、当時チャット GPT のような対話型の生成 AI は規制の対象に想定されておらず、イタリアの決定を機に、規制をめぐる議論が加速しそうだ。

米国では非営利団体「AI とデジタル政策センター」が 3 月 30 日、米連邦取引委員会宛ての書簡で、オープン AI の最新の言語モデル「GPT4」が「プライバシーや公共の安全のリスクとなっている」と指摘。 GPT4 を搭載した製品が消費者保護法に違反しているとして、提供を差し止めるよう要求した。 一方、日本ではチャット GPT について、企業が顧客の個人データを入力することの懸念や、教育現場で利用することの是非を問う声などがあるものの、全面規制に向けた議論は広がっていない。

政府・与党内では、AI を積極的に利用しようという動きが目立つ。 河野太郎デジタル相は 3 月 31 日の閣議後会見で、デジタル庁として AI を活用していくとした上で、そのための人材も採用する考えを示した。 チャット GPT は昨年 11 月末の公開から 2 カ月間で、利用者が 1 億人に達したといわれる。 アプリや製品への導入も進み、オープン AI に出資するマイクロソフト (MS) やグーグルなど米 IT 大手の開発競争が激化している。 (宋光祐 = パリ、五十嵐大介 = サンフランシスコ、渡辺淳基、asahi = 4-1-23)