NTT 版生成 AI、来年 3 月から提供 医療などの業界特化で低コスト NTTは 1 日、生成 AI(人工知能)の基盤となる大規模言語モデル (LLM) を独自に開発し、来年 3 月から企業向けに提供を始めると発表した。 医療など業界に特化することで、学習や運用にかかるコストを抑える。 先行する米IT大手に対抗したい考えだ。 LLM は「tsuzumi (ツヅミ)」という。 NTT はコンピューターに人間の言葉を教える「自然言語処理」の研究を長年続けており、この技術を生かした。 特長はコスト負担の軽さだ。 AI の学習規模を示す指標「パラメーター」は、米新興企業オープン AI の GPT-3 が 1,750 億なのに対し、ツヅミは 6 億と 70 億の 2 種類。 パラメーター数が多いほど複雑な処理が可能な一方、学習にかかる消費電力量が増えるという欠点もある。 ツヅミは業界特化型にすることで、電力量や運用に必要な設備などを減らすことができるという。 10 月からは先行して京都大学医学部付属病院や、コールセンターをもつ東京海上日動火災保険などで試験運用を開始。 当面は日本語と英語に対応し、今後、言語数を増やしていく方針。 売上高は 2027 年度に年間 1 千億円以上をめざす。 島田明社長は 1 日の会見で「社会的な課題を解決していく LLM と位置づけていきたい」と話した。 日本企業による生成 AI サービス参入の動きが相次いでいる。 ソフトバンクは 24 年中に、日本語に特化した 3,500 億パラメーターの LLM を構築する計画。 NECは企業ごとにカスタマイズした生成 AI サービスの提供を始めている。 (松本真弥、asahi = 11-1-23) 報道・メディア 26 団体が「世界 AI 原則」を発表、日本新聞協会も 世界ニュース発行者協会 (WAN-IFRA) など報道・メディア 26 団体が 6 日、「世界 AI 原則」を連名で発表した。 知的財産や透明性など、生成 AI の技術開発に適用されるべき原則を明示した。 米国や欧州、韓国、ブラジルの報道団体のほか、日本新聞協会も名前を連ねた。 原則は、▽ 知的財産、▽ 透明性、▽ 説明責任、▽ 品質と誠実性、▽ 公平性、▽ 安全性、▽ 設計、▽ 持続可能な開発、の 8 項目から成る。 知的財産権の保護については「AI システムによる私たちの知的財産の見境ない流用は、非倫理的で有害であり、私たちの保護された権利の侵害である」と指摘。 報道機関や出版社が知的財産の使用に対し、十分な報酬を受けとる権利があると強調した。 生成 AI の開発では、インターネット上の情報を収集して訓練データに利用している。 これについて、「明示的な許可なく、私たちの独自のクリエーティブ・コンテンツをクローリングし、取り込み、使用すべきではない」とした。 また、透明性の項目では、開発者に対し、コンテンツなどを訓練データに利用する際にはアクセス記録などの詳細を保管することを義務づける「強力な規制」を求めた。 (村井七緒子、asahi = 9-6-23) なぜ神戸に? 米マイクロソフト、日本初の AI 開発支援拠点を設置へ 米マイクロソフト (MS) が今秋、神戸市に AI の技術開発支援の施設を開設する。 世界で五つ目で、日本で初めてという拠点は、神戸に本社を置く川崎重工が誘致を主導し、市も支援した。 IT 分野で世界を牽引する企業の力を借り、神戸の活性化につなげたいという狙いがある。(黒田早織) 施設の名前は「Microsoft AI Co-Innovation Lab」。 「MS と外部企業の『共創』の場」と銘打たれたこのラボは、MS 自身の開発拠点ではない。 AI (人工知能)などの技術を使った新サービスやロボット、アプリを開発したい企業や組織に対し、MS が技術を提供し支援するための施設だ。 ラボには AI などの分野で高いスキルを持った MS のエンジニアが数人常駐し、開発をサポート。 神戸や日本に限らずアジア全体からの利用を見込み、スタートアップから大企業、大学など教育機関にも門戸を開くという。 運営は MS に加え、神戸に本社を置き、誘致を担った川崎重工や市で作る協議会が担う。 日本 MS によると、MS 側の狙いは関連企業との関係作り。 「弊社のリソースを使って、新しいものを生み出せたら(担当者)」と話す。 ラボは、市の外郭団体が運営する神戸商工貿易センタービルの 24 階に入る予定。 アクセスや眺望、セキュリティーなどの条件で選ばれたという。 同様のラボは現在、米国、中国、ドイツ、ウルグアイにあり、神戸は世界で 5 カ所目の施設となる。 なぜ、神戸に。 ラボの誘致は川崎重工が中心に進めた。 同社は、産業用ロボットをリモートで動かすメタバース空間の実現を目指しており、一昨年から MS と技術連携を開始。 共同でシステム開発に取り組む中で、誘致構想が浮上したという。 同社は「本社のある神戸を中心に、新しい価値やビジネスを作る場を社会に提供したいとの思いがあった(広報)」という。 メタバースの技術連携とは別に、同社もこのラボを利用するといい「大きなメリット」を見込む。 神戸市も誘致に関わった。 市は人口減少が続いており、魅力作りが急務。 「優秀な若者を神戸に集めたい」と、2016 年から IT 関連のスタートアップ支援事業を積極的に進める。 海外のスタートアップの誘致などを目的に、4 年前に米・シリコンバレーに事務所を置いており、MS 米国本社とも接触していたという。 市はスタートアップ支援で存在感を高めようと 16 年 - 21 年、シリコンバレーのベンチャーキャピタルと連携し、国内外の延べ 500 社以上に総額約 140 億円の資金を調達。 現在もスタートアップの海外進出を支援しているが、神戸に拠点を置く企業が少ないことが課題だった。 市は「MS のラボが、地元企業が外部とつながるきっかけになれば」と期待を込める。 ラボを拠点に、スタートアップが市内に根付いたり、地元企業がイノベーションを起こしたりすることを期待する。 日本 MS 側は「神戸には地場の伝統ある製造業があり、スタートアップも比較的多いなど、様々な条件を考慮し開設を決めた」とコメントした。 (asahi = 8-12-23) AI 規制「数週間で行政措置」大統領令を発出へ バイデン氏明言 バイデン米大統領は 21 日、人工知能 (AI)のリスク管理には「いくつかの新しい法律や規制、監督が求められる」との考えを示した。 今後数週間のうちに「行政措置をとる」とも述べ、法的拘束力を伴う大統領令による AI 規制に踏み出す方針を表明した。 ホワイトハウスで政権の AI 政策について演説したバイデン氏は、AI などの新興テクノロジーが「民主主義や我々の価値観に脅威をもたらす可能性がある」と指摘。 「高度な AI や技術革新のペースが、いかに雇用と産業を破壊する力を持つか、米国人は目の当たりにしている」とも強調した。 バイデン氏は、民主主義の擁護や、中間層の雇用の維持を政策の柱に据える。 演説では、AI がそうした政権の優先事項に害をなしうるとして、強い危機感を表明。 大統領令の発出で、こうした懸念にどこまで歯止めをかけられるかが焦点になる。 バイデン氏はこの日、対話型 AI 「ChatGPT (チャット GPT)」を運営するオープン AI など、AI 大手 7 社の代表ともホワイトハウスで面会。 7 社が、AI の安全性や透明性を高めるため、自主的な取り組みに合意したことを歓迎し、「米国人に対して業界が負う義務を果たす助けになる」と語った。 チャット GPT などをめぐっては、個人情報の漏れや、誤情報の拡散などの懸念が強まる。 バイデン氏は「(AI による)個人データの収集に厳しい制限を課すなどの超党派の法案の可決が必要だ」とも述べ、法規制の議論を急ぐよう米議会に改めて求めた。 (ワシントン = 榊原謙、asahi = 7-22-23) ついに参入? 「アップル GPT 開発」米報道 ChatGPT に対抗か 米ブルームバーグ通信は 19 日、対話型 AI (人工知能)「ChatGPT (チャット GPT)」などに対抗するため、米アップルが AI の基盤技術の開発を進めていると報じた。 報道によると、アップルは文章や画像をつくり出す生成 AI の基盤となる「大規模言語モデル」と呼ばれる技術の開発を進めているという。 同社ではこの数カ月間、AI 開発が主要な取り組みとなっており、「アップル GPT」と呼ばれるチャット機能も作られたとしている。 アップルは音声アシスタント「Siri (シリ)」を運営するなど AI を活用したサービスを長年手がけているが、生成 AI 分野では遅れが指摘されていた。 IT 大手では、米マイクロソフトが、出資先の米新興企業オープン AI が運営するチャット GPT の技術を幅広い製品に導入。 米グーグルも独自の対話型 AI 「Bard (バード)」を公開するなど、競争が激しくなっている。 (サンフランシスコ = 五十嵐大介、asahi = 7-20-23) 業界衝撃、イオンのネットスーパー始動 心臓部の中は無数のロボット 小売業界でネットスーパーの競争が激化している。 流通大手イオンは 10 日から、AI (人工知能)を活用して宅配まで自社で手がけるネットスーパー「Green Beans (グリーンビーンズ)」を本格スタート。 英国で急成長するネットスーパー運営「オカドグループ」の子会社と業務提携して実現した。 本格稼働を前に、心臓部である物流拠点を訪ねた。 千葉市内にある「顧客フルフィルメントセンター (CFC)」。 東京ドーム約 1.5 個分の広さ(約 7 万 3 千平方メートル)の敷地に立つ建物の 3 階に入ると、AI で制御された無数の車輪つきロボットが格子状のレールの上を秒速 4 メートルで縦横に動いていた。 「ぶつかる。」 そう思った瞬間、1 台がスッと止まり、もう 1 台がその前を通り過ぎていった。 レールの下には商品が入った白いカゴが積まれている。 ロボットは目当てのカゴの上までレール上を動き、そのカゴを選んで 2 階に移す。 2 階には従業員が待ち受け、次々に手元に届く白いカゴの中から商品を取り出し、緑のカゴの中の袋に詰め替える。この袋が自宅に配送される。 CFC で扱うのは生鮮食品や加工食品、日用品など約 5 万品目。 売上高は一般のスーパーの約 50 店分に相当すると見込む。 注文された商品をいかに効率よく探すかがカギだが、ロボットなら 50 品目を約 6 分でそろえる。 イオンは店から出荷するネットスーパーも手がけるが、人が店で探すよりも 10 倍早いという。 熟練者並みの気配りも備える。 袋詰めをする従業員の手元に商品が届く順番に AI のアルゴリズム(計算手順)を駆使し、重い商品が上になって軽い商品がつぶれたり傷んだりしないように配慮。 配送途中でバランスが崩れて商品が傷むことがないよう、商品をトラックに積み込む際も AI が配置を指示する。 通常 1 時間ほどかかる積み荷作業は、約 10 分で終わる。 配送も自社で手がける。 宅配時間は午前 7 時 - 午後 11 時の間、1 時間単位で利用者が指定。 どうしたら効率的に配れるのか、AI が 1 秒間で最大 1,400 万通りの経路を計算し、最適ルートを導く。 タワーマンションなど集合住宅で注文が重なり配送時間が短縮できそうだとわかったら、注文枠を増やすなどして受注を最大化する。 こうした宅配まで含めたシステムは英オカドが開発した。 同社は「1 国 1 社」を原則とし、米クローガーや仏カジノなどの英国以外の小売企業にシステムを提供している。 グリーンビーンズを運営するイオンネクストの野沢知広副社長は「倉庫内の作業を効率化するシステムは他にもあるが、オカドのシステムは生産現場からお客様までをつなげて全体を最適化できる点がすごい」と話す。 日本ならではの工夫も施した。 葉物野菜がしおれにくい包装資材を導入し、鮮度を確保。 この包材は、客が商品を持ち帰る間に温度管理が徹底できないと効果が薄れるため店では採用しにくいという。 配送の運転手はイオンネクストの子会社が直接雇用。 残業が少ないことなどから、1 千人超の応募があったという。 都心の店の少なさを補完 全国に店舗網を持つイオンだが、東京 23 区内の総合スーパー(イオン、イオンスタイル)は 10 店あまり。市場調査では、23 区内でも豊富な品ぞろえの店で買い物をしたい消費者は多いとの感触が得られたが、地価が高く、出店は容易ではない。 店舗数の少なさを補完するため、目をつけたのがオカドとの提携だった。 グリーンビーンズは 330 - 550 円の送料がかかるが、「都心に住む若い世代はあまり車を持っておらず、買い物では電車やバスに乗る。 往復数百円がかかり、しかも 1 時間では終わらない。 『タイパ(時間対効果)』を求める若い世代にとっては高くない送料(野沢副社長)」とみる。 まずは 23 区の湾岸に近いエリアや川崎市、千葉市などで展開するが、2 カ所目の CFC を東京都八王子市に開設する。 さらに千葉や八王子の約 2 倍の売上高を見込む CFC を 5 年以内に埼玉県内につくることを検討しており、首都圏をカバーする計画だ。 流通経済研究所の池田満寿次・主任研究員は、イオンがオカドと組むのは「非常にインパクトがある」と指摘する。 「イオンを利用する消費者は多く、グリーンビーンズが軌道に乗って買い物の場がリアルからネットに移れば、日本全体の買い物動向にも影響が及ぶ。 スーパーだけでなくコンビニやドラッグストアなど他業態の関係者もその成否に注目している。」 「店舗出荷」から「センター出荷」へ 人口減や高齢化が進むなか、大手スーパーは 2000 年代以降にネットスーパーに注力し始めた。 その多くは近くの店から家などに商品を届ける「店舗出荷型」だったが、近年は「センター出荷型」の設備投資が相次ぐ。 アマゾンはプライム会員向けの「アマゾンフレッシュ」のサービスを 17 年に始めた。 川崎市内に専用の物流センターを設け、東京、神奈川、千葉の 3 都県に生鮮食品や飲料などを届けてきた。 収支は非開示だがコロナ禍もあって利用者数は伸びているといい、22 年には東京・葛西に 2 カ所目の物流拠点を開設した。 特徴は人の目による「6 面チェック」だ。商品棚が並ぶ倉庫でスタッフが商品を手に取り、鮮度などを 6 方向から目視で確かめた上で出荷する。 それでもアボカドのように見た目だけでは中身が傷んでいることに気付きにくい品もあり、利用者が鮮度に納得できない場合は返金に応じる。 鮮度に厳しい日本の消費者にあわせて通販に適した真空パックも開発した。 アマゾンフレッシュ事業本部の荒川みず恵事業本部長は「アマゾンは実店舗がないため、スーパーをやっているイメージを定着させるのに苦労している。 高品質の商品をお届けすることで『やっぱりアマゾンのネットスーパーがいいな』とお客様に思っていただけるようにしたい。」と話す。 「自前」にこだわらないのもアマゾン流だ。 首都圏と近畿圏で強いライフ、東海や北陸地方で支持されているバロー、関東や東海、関西地方を中心に展開する成城石井と組み、一部地域では店舗出荷型のネットスーパーも利用できるようにしている。「他社には私たちが扱えないオリジナルの商品がある。 選択肢が多い方がお客様は喜ぶ。(荒川氏)」 生鮮品以外のモノやサービスが充実しているのも強みという。 右肩上がりの市場、相次ぐセンター建設 「ネットスーパーで業界ナンバーワン」を目指して楽天と組む西友は 18 年、千葉県柏市に物流センターを開設。 横浜市都筑区と大阪府茨木市にも増設し、今年には柏市の拠点を閉じて千葉県松戸市に集約する形で最大 4 万 - 5 万品目を保管できるセンターを新設した。 25 年にはネットスーパーの売上高を 21 年比で倍増させたいという。 イトーヨーカドーも首都圏でのセンター開設を急ぐ。 これまで主流だった店舗出荷型は用地確保など初期投資はいらなかったが、「商品のピックアップや宅配コストを売価に転嫁しきれず消耗戦になっていた。(池田満寿次・主任研究員)」 一方、センター出荷型も、サミットと住友商事が 09 年に参入したものの受注が伸びず撤退するなど、苦戦気味だった。 ただ、買い物に時間を割けない共働き世帯や高齢者の需要は根強く、サミットは22 年に店舗出荷型で再参入した。 調査会社の富士経済によると、23 年のネットスーパー市場は前年比 12.9% 増の 3,128 億円になる見通しだ。 競争を勝ち抜くカギは? 激化する競争を勝ち抜くカギは何か。 池田氏は「認知度」を挙げる。 「消費者は知らないスーパーの商品を買うことには抵抗がある。 知名度やブランド力があるスーパーのほうがセンター出荷型はやりやすいだろう。」 その上で、「各家庭の困り事を解決する自社サービスを提案できるようになれば、チャンスはさらに広がる」と指摘する。 (末崎毅、asahi = 7-9-23) 米地方メディア、AI 活用に格差 人口の 2 割が「ニュース砂漠」 米国の地方メディアで AI を採り入れる動きは広がっている。 米ニューヨーク大の NYC メディアラボは 2021 年、地方メディアへの AI 活用を競うコンテスト「AI & ローカルメディアチャレンジ」を始めた。 今年はスタートアップ企業や大学など 20 以上のチームが参加。 チャット GPT を活用して地域の読者が記事へのコメントをしやすくするソフトや、記者自身の文体で記事の作成を AI が支援するプロジェクトなどが上位に選ばれた。 メディアチャレンジを取り仕切るマット・マクベイ氏は「報道機関は、テクノロジーの技術者と結びついて新しい技術を採り入れる必要がある」と話す。 グーグルやメタ(旧フェイスブック)などが主導するデジタル広告市場の台頭で、米国の地方メディアは 21 世紀に入ってから急速に衰退している。 米ノースウェスタン大の調査によると、05 年に全米で約 9 千あった地方紙の数は 4 分の 1 以上減った。 米国の人口の約 2 割にあたる 7 千万人が、地元のニュースにほとんど触れることができない「ニュース砂漠」の地域に住んでいるという。 ジャーナリズムの衰退が、民主主義に影響を与えるとの懸念が広がる。 大手の報道機関も AI の活用を模索する。 ワシントン・ポスト紙は 5 月、AI の活用を模索する部横断の部署の設立を公表。 ニューヨーク・タイムズ紙も記者の支援や購読者拡大のための部門を立ち上げた。 AP 通信は 14 年、決算原稿の執筆に AI を導入。 その後は活用範囲を広げ、一部のスポーツ記事の執筆も AI が手がけるようになった。 今のところは毎回決まったフォーマットで公開されるデータを、定型の記事に当てはめる用途に限定しているという。 ただ、地方メディアへの AI 活用にはハードルも多い。 AP は昨年、「ローカルニュースにおける AI」と題する報告書を公表した。 全米の約 200 の報道機関にアンケートをした結果、地方メディアは AI の活用に前向きな意見が多く聞かれた一方で、実際の AI の活用状況では大手メディアと地方メディアの「格差」が指摘された。 こうした状況を受け、AP は報道機関向けに AI に関する無料のオンラインコースを始めた。 AI が生成する記事をめぐり、大きな課題も浮かび上がる。 米ネットメディア「フューチャリズム」は 1 月、米テック系ネットメディア CNET が昨年 11 月から、AI で生成した記事をひそかに公開していたと報じた。 その後、AI が作った記事に多くの誤りや盗作の可能性があるとの指摘が相次いだ。 たとえば、「複利とは何か?」という記事では、1 万ドルを金利 3% で預けた際、1 年後に得られる利息を「1 万 300 ドル」としていたという。 米 CNET は昨年 11 月から公開された 77 本の記事の半分以上にあたる、40 本以上の記事を訂正した。 日本の CNET は朝日新聞社の子会社が運営するが、該当する記事について「一切掲載しておらず、日本の編集部で AI を使った記事作成もしておりません」とツイートで説明している。 また米 CNET は今年 3 月、従業員の 1 割超を削減。 記者たちは、コスト削減のために AI による記事作成を進めながら人員削減を繰り返す会社側の手法に反発する。 「多くの記者たちが憤りを感じていた。 私たちは評判を傷つけられたくない。」 米 CNET で携帯電話業界を担当するデビッド・ラム記者 (35) はそう話す。 3 月の大量解雇の後、ラムさんら約 100 人の社員は労働組合をたちあげ、待遇改善や AI の慎重な導入を求めている。 「AI に仕事を奪われることは心配していない。 心配なのは、AI が我々の仕事をこなせると考える幹部たちだ。」 ラムさんはそう話す。 「私には記者倫理があり、事実に忠実で、盗作もしない。 これらは AI には保証できないことだ。」 (サンフランシスコ = 五十嵐大介) 「記者の批判と検証が信頼感の前提」 武田徹・専修大教授 読者は自分では確かめられないことを、新聞記事を通じて知る。 メディアの信頼感は、「人」が自ら取材して書いたことに裏打ちされてきた。 新聞に署名記事が増えたのもその流れだろう。 文章や画像を作りだす生成 AI の活用は「この記事は信じて良いのか」という不安を生む恐れがある。 大量の資料を高速でデータ処理できる生成 AI を使って、時間がかかる仕事を短時間で済ませられれば、記者は空いた時間を他に使えるという理屈はわかる。 問題は、AI の機械学習の過程がブラックボックスになっている点だ。 提示された結果が正しいのか、疑いだせばきりがない。 記者が役所の発表を報じる際も、内容を要約しながら同時に批判的に検証している。 事実一つをどう解釈するか検証し、発表内容は本当か、事象同士を結びつけてよいかなどを考えながら伝えている。 そうした記者の批判と検証があることが、読者の記事に対する信頼感の前提になる。 大量の情報を処理できるメリットだけで生成 AI を活用するのは危うい。 報道の原点に立ち戻り、報道の役割を問い直しながら、生成 AI が入る余地を整理していく必要があるだろう。 (聞き手・和気真也、asahi = 7-2-23) ツイッターが閲覧可能な投稿数を一時的に制限 多数の障害報告 米ツイッターを所有する起業家イーロン・マスク氏は米東部時間 1 日午後(日本時間 2 日未明)、自身のツイッターアカウントへの投稿で、ユーザーが一日に読める投稿数を制限したと明らかにした。 認証済みアカウントは 6 千件、未承認アカウントは 600 件、未承認の新規アカウントは 300 件に制限したという。 マスク氏は、制限は一時的なもので「極端なレベルのデータ・スクレイピングとシステム操作に対処するため」と説明。 その後の投稿では、閲覧の上限を認証済みアカウントは 1 万件、未承認アカウントは 1 千件、未承認の新規アカウントは 500 件に引き上げる考えを示した。 だが解除の見通しは明らかにしていない。 マスク氏が問題視するスクレイピングとは、データを収集して加工することを意味する。 マスク氏は最近、生成 AI を扱う新興企業などが、システムの訓練に役立つ大量のデータをツイッターから無料で収集しようとする動きにいらだちを示していた。 「ツイートを取得できません」などの表示相次ぐ 今回の閲覧制限に先立ち、ツイッター社はウェブ上での閲覧にはログインを必要とする措置をとっていた。 マスク氏は先月「一時的な緊急措置だ。 データが略奪されすぎて、普通のユーザーへのサービスが低下していた」と投稿していた。 障害分析サイト「ダウンディテクター」によると、日本時間の 1 日夜以降、多数のユーザーが障害を報告している。 「ツイートを取得できません」などのエラーメッセージが表示されるという。 マスク氏は昨年 10 月にツイッターを買収した。 大規模な人員削減を経てシステム障害が相次いでおり、今年 2 月にはツイートの投稿や新規フォローができないなどの大規模な障害が起きていた。 (ワシントン = 下司佳代子、asahi = 7-2-23) 就活にも ChatGPT 広がる 30 秒で ES 作成 … 注意すべき点は 対話型 AI (人工知能)「ChatGPT (チャット GPT)」の活用が、就職活動の現場でもじわり広がっている。 学生向けには志望動機などを記入するエントリーシート (ES) の素案が 30 秒で作れるといったサービスが登場。 企業が採用業務に採り入れる動きもある。 ES で定番の設問「学生時代に力を入れたこと」の文案作成を支援する無料サービスが 4 月に始まった。 採用支援企業「アローリンク(神戸市)」が提供する「AI 就活サポたくん」だ。 「部活」や「アルバイト」などを選択肢から一つ選び、具体的な活動を 20 - 200 字で入力。 アピールポイントを「主体性」、「協調性」などから選択し、最後に「希望する業界」を入れる。 すると 30 秒ほどで完成度の高い文章が表示される。 チャット GPT に頼ることに抵抗感はないのか。 サービスを利用した大学 4 年生の女性 (21) は「チャット GPT は ES 作成の初期段階で使う。 丸写しではなく、分かりやすい表現や指定された文字数に自分で作り直す。」と話す。 文案づくりや推敲のサポート役として位置づけているという。 アローリンクの担当者は「かつては先輩の ES を参考にする学生も多かった。 チャット GPT を使えば、自分に合った精度の高い情報が手軽に入手できる。 『タイパ(時間対効果)』も良く、今の学生のニーズに合うのでは。」と話す。 同社によると、やり取りしたデータはチャット GPT を開発するオープン AI に送られる。 氏名や希望業種などの個人情報はアローリンク内で管理し、利用者へのサービス案内などに活用するという。 就職情報サイトを運営する「ワンキャリア(東京都渋谷区)」も、5 月からチャット GPT を使った ES 作成サービス「ES の達人」を始めた。 来春卒業予定の学生を対象にした同社の調査では、3 割の学生が「ES の書き方に悩んでエントリーに間に合わなかった」と答えたという。 同社広報は「ES の書き方に悩む時間を減らし、企業に関する情報収集や視野を広げることにあててほしい」と話す。 チャット GPT を就活で使う学生は「まだ一部では(アローリンク担当者)」とみられるが、企業側からは戸惑いの声もあがる。 金融業界の採用担当者は「ES はある意味、学生に負荷をかけて志望度を測るねらいもあった。 チャット GPT で簡単に作れるようになれば、選考方法をも変えなければならないかもしれない」と漏らす。 採用業務の負担減へ 企業側も活用 一方で、企業側でもチャット GPT を採用業務に採り入れようとする動きもある。 5 月下旬、採用担当者向けのオンラインセミナーには 800 人ほどの参加申し込みがあった。 AI 関連サービス開発「エクサウィザーズ(東京都港区)」などが開いた。 応募者の特性の分析や求人票の素案づくり、イベント企画など幅広い作業でチャット GPT を使うサービスを紹介。 「業務負担の 10 - 20% 程度は減らせるのではないか(同社)」という。 インターンシップや内定後のフォローなど採用担当の業務は増えている。 同社の人事責任者の半田頼敬執行役員は「採用活動では、戦略を考える時間や対人コミュニケーションに時間を割きたいが、その他の作業にかかる時間が多い。 チャット GPT など対話型 AI でそうした時間をいかに減らせるかが大事だ。」と語る。 一方で、個人情報をチャット GPT に入力しないなど留意すべき点はあるという。 「チャット GPT に人物評価を尋ねることや、チャット GPT の情報のみで学生を評価することはしない。 重要な決定は引き続き人間が行うし、そこに十分な時間をかけるためにこそ、対話型AIを活用する余地がある。」という。 就活でチャット GPT の活用が広がりつつあることについて、学生の就活相談にのる立命館大学衣笠キャリアオフィスの松尾憲太郎課長は「チャット GPT の情報がすべて正しいかは分からない。 うのみにせず、自分で考えるというプロセスが大切だ。 ES は自分の思いを企業に伝えるもの。 チャット GPT は便利で時間の短縮につながるかもしれないが、あくまで参考程度にした方がいい。」と話す。 (高橋諒子、北川慧一、asahi = 6-25-23) 「生成 AI は憲法揺るがす存在」 個人の意思がゆがめられる恐れとは 生成 AI と呼ばれる人工知能が社会を変えようとしている。 質問に人間が答えているかのような文章を返してくる ChatGPT (チャット GPT)などのサービスが実用化している。 急速な発展にはリスクも指摘される。 AI と民主主義は共存できるのか。 憲法の観点から論じてきた慶応大教授、山本龍彦さんに聞いた。 生成 AI について様々な懸念が指摘されています。
私たちの意思が操作されてしまうということでしょうか。
個人の自律的な意思形成は、日本国憲法でも保障されていますね。
思想、良心の自由はなぜ憲法に明記されたのでしょうか。
立憲民主主義の原則が揺らぐ可能性 立憲民主主義の原則が脅かされているのですか。
グーグルなどのデジタルプラットフォームは、国家に比類する権力になりつつあります。
生成 AI はプラットフォームの権力をより強めそうです。
デジタル時代の基本法制議論を AI と共存していくにはどうすればいいのでしょうか。
日本の状況はどうですか。
どのように議論を進めたらいいのでしょうか。
取材を終えて 生成 AI には期待と同時に懸念も大きい。 5 月の G7 広島サミットでは、閣僚級で議論する枠組み「広島 AI プロセス」の創設が決まった。 今後、偽情報対策などの課題を整理し、年内にも国際ルールづくりの方向性を示す。 AI 規制法案を審議している EU は、法整備を待たずに業界に自主的な行動規範の作成を求めることで米国と合意した。 米バイデン政権も規制案を検討中だ。 日本では規制の動きは鈍い。 政府の「AI 戦略会議」は 5 月の論点整理で七つのリスクを列挙したが、ルールづくりは具体化していない。 技術は急速に進歩する。 守るべきものは何なのか、侵されてはならない価値や個人の権利を起点にした議論を急ぐ必要がある。 (聞き手・村井七緒子、asahi = 6-11-23) |