H3 ロケット 4 号機の打ち上げ成功 静止衛星を初めて搭載、軌道投入 日本の新しい基幹ロケット「H3」 4 号機が 4 日午後 3 時 48 分、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。 政府の X バンド防衛通信衛星「きらめき 3 号」を予定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。 高い軌道を回る「静止衛星」の打ち上げは H3 では初めて。 H3 は、大型ロケット「H2A」の後継機で、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) と三菱重工業が共同開発した。 初号機の打ち上げ失敗後、2 号機と 3 号機は成功している。 きらめき 3 号は、防衛省が整備・運用し、部隊の指揮統制などの重要な通信に使われる予定だ。 開発や運用などの費用は約 700 億円。 今回、H3 としては初めて静止衛星を打ち上げた。 赤道上空約 3 万 6 千キロの軌道(静止軌道)を地球の自転と同じ周期で移動するため、地球から見ると止まっているように見える人工衛星だ。 静止軌道まで直接ロケットで運ぶのは難しい。 そのため、地球に近い高度数百キロの軌道と静止軌道を結ぶ長楕円(だえん)軌道(静止トランスファー軌道)に投入する。 3 号機で打ち上げた「だいち 4 号」は、高度 628 キロの低軌道を回る。 今回も衛星を分離する高度は大きくは変わらないが、楕円軌道に投入するためにより高速で飛ばす。 その後、衛星は自らのエンジンと燃料を使って静止軌道まで飛行する。 JAXA の的川泰宣名誉教授(宇宙工学)は「3 連続成功で、初号機失敗時の問題は完全にクリアしたと考えていい。 ロケットは何回打ち上げれば安心ということではないが、安定した段階に入ったと言えるのではないか」と話した。 (佐々木凌、asahi = 11-4-24) ◇ ◇ ◇ H3 ロケット 4 号機の打ち上げ、10 月 26 日に 防衛通信衛星を搭載 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 27 日、H3 ロケット 4 号機の打ち上げを 10 月 20 日から同 26 日に延期すると発表した。 種子島宇宙センター(鹿児島県)から同日午後 3 時 44 分 - 5 時 30 分に打ち上げる予定。 防衛省が整備・運用する X バンド防衛通信衛星「きらめき 3 号」を載せる。 JAXA は延期の理由について、H2A ロケット 49 号機の打ち上げが当初の予定より 15 日遅れの今月 26 日にずれ込んだため、H3 の準備にかかる期間を考慮したと説明している。 H2A を継ぐ新たな基幹ロケットとして開発された H3 は、2023 年 3 月に初号機の打ち上げに失敗。 その後、今年 2 月の 2 号機、7 月の 3 号機は成功しており、連続成功を続けて信頼性を高められるかが注目される。 (佐々木凌、asahi = 9-27-24) X 線天文衛星「XRISM」の観測成果を発表 鉄の温度は 100 億度 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 20 日、X 線天文衛星「XRISM (クリズム)」の初期の観測成果を公表した。 星の一生の最期「超新星爆発」でできた鉄の温度が約 100 億度に達していることを明らかにした。 XRISM は 2023 年 9 月に打ち上げられ、上空約 550 キロの軌道を周回しながら天体を観測している。 天体からの光の波長を高精度で分光観測する望遠鏡を搭載。 宇宙空間にある高温ガスなどから出る X 線を捉え、宇宙の構造の解明につながる発見をめざす。 これまでにブラックホールや銀河団など 40 天体を観測し、このうち二つの成果が発表された。 一つ目は、地球から約 16 万光年の距離にある大マゼラン雲の天体で、約 3 千年前に超新星爆発が起きた「超新星残骸 N132D」の観測だ。 X 線の波長の幅から、超新星爆発のときにつくられた鉄のイオンが、約 100 億度に達していることがわかった。 これまでも鉄が超高温になることは理論的には予測されていたが、高精度で測定できたのは世界で初めてだという。 JAXA 宇宙科学研究所の山口弘悦准教授は記者会見で「超新星爆発で放出されたエネルギーは、次の世代の星を生み出したり、銀河全体の進化につながったりする。 エネルギーが残骸にどのように存在しているのかを知ることは、その過程を明らかにするために必要だ」と説明する。 もう一つは、地球から約 6,200 万光年離れた渦巻き銀河「セイファート銀河」にある巨大ブラックホール「NGC4151」だ。 これを取り巻くドーナツ状のガス「分子トーラス」の内部構造を明らかにした。 ブラックホールがどのように成長するのかを知る手がかりになるという。 山口さんは「XRISM の優れた分光性能は、銀河の進化のほか、星や生命の誕生にもつながるような宇宙の物質・エネルギーの循環過程の理解に大きく寄与するだろう」と話した。 来年 8 月までに、国内外の研究者らから公募した対象を含む 104 の天体を観測する予定だ。 (佐々木凌、asahi = 9-21-24) H2A ロケット 49 号機、16 日に打ち上げへ 種子島から 三菱重工 三菱重工業は 13 日、悪天候のため延期されていた H2A ロケット 49 号機の打ち上げを 16 日に行うと発表した。 種子島宇宙センター(鹿児島県)から午後 2 時 24 分 20 秒 - 同 25 分 21 秒に打ち上げる。 当初は 11 日の予定だったが、大雨や雷などのおそれがあるとして延期していた。 49 号機には夜間や曇りでも地上を撮影できる政府の情報収集衛星レーダー 8 号機を搭載する。 H2A の打ち上げは、50 号機が最後になる。 (佐々木凌、asahi = 9-13-24) 人類の次の目的地、火星へ 世界初をめざす JAXA の MMX とは? 月から火星へ - -。 将来の有人探査を見据え、火星探査が本格化している。 日本もこれまでの知見を生かし、火星圏からの世界初のサンプルリターンを目指す。 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が取り組むのが、火星の衛星フォボス(直径約 23 キロ)からのサンプルリターン。 ミッション名は MMX (Martian Moons eXploration) だ。 2026 年 10 月ごろの打ち上げを目指して、準備が進められている。 約 5 年かけて、31 年 7 月ごろに地球に帰還するという壮大なプロジェクトで、成功すれば、火星圏への往還飛行、サンプルリターンともに世界初となる。 「太陽系の中で人類が本格的に調べられていない場所の中で、最も重要なのがフォボス。 日本の強みを生かせるのが MMX だ。」と JAXA の川勝康弘・プロジェクトマネージャは説明する。 火星はできた当時は、水がなくカラカラだったが、「スノーライン」と呼ばれる火星と木星の間の境界線より外側から、小惑星や彗星(すいせい)によって水が運ばれ、地球と同じように大量の水で満たされた時期があったと考えられている。 フォボスは太陽系の中でも古くからあったとみられており、水の輸送を担った可能性がある。 試料を地球に持ち帰って詳しく調べることは、どのようにして火星に水や有機物が供給されたのかの解明に不可欠だ。 火星の「兄弟星」である地球になぜ海ができ、生命が生まれたのかという謎を解く上でも大きなカギとなるという。 また、フォボスの表面の 0.1% は、火星本体の表面から隕石(いんせき)の衝突によって吹き飛ばされた石や砂が降り積もっているとみられている。 重力の大きい火星本体からのサンプルリターンは多額のコストがかかり難しい。フォボスに行けば火星本体の情報も得られて「一石二鳥」と期待される。 将来の有人探査にも貢献 さらに、将来の火星有人探査のためにも、フォボスを調べることが欠かせない。 フォボスの上に建物が作れれば、「宇宙ステーション」として、火星探査の際に宇宙船を乗り換えたり、緊急時に避難したりする拠点にできるかもしれない。 フォボスの表面はどのくらい固いのかなどの情報を集めて可能性を探ることも、MMX の目的の一つだ。 火星のもう一つの衛星「ダイモス」の観測も行う。 川勝さんは「国際的にも注目度が高いミッション。 打ち上げまで、精力的に開発や試験を進めていきたい」と話す。 はやぶさ、はやぶさ 2、SLIM の経験を生かして 日本は「はやぶさ」、「はやぶさ 2」で世界初の偉業を次々と達成しており、サンプルリターンは「お家芸」とも言える。 今年 1 月に月探査機 SLIM(スリム) が世界で初めて成し遂げた、「ピンポイント着陸」の技術も日本の強みだ。 MMX の探査機の開発を担当した三菱電機の杉田幹浩・主席技師長は SLIM の開発にも携わった。 「ピンポイント着陸で最も難しいのは、降りたい場所に対して自分がどこにいるのかを正確に把握すること」だと語る。 高さは地面を電波にあてて跳ね返りを見れば分かるが、特に難しいのは水平方向だ。 SLIM では、別の探査機が撮った画像と、SLIM自身が撮った真下の画像とを比較。クレーターなどの地形の特徴を照合して位置を確かめることで、目標からわずか約 55 メートルの地点への着陸に成功した。 MMX でも同様の方法で、フォボスへ狙った場所への着陸を目指す。 ただ、もともと詳細な地形データがあった月に対し、フォボスは情報量が圧倒的に少ない。 そこで、探査機でフォボスを周回して観測し、着陸点を決める。 先に探査車を着陸させて表面の特性などの計測も行う。 また、場所によってはクレーターがあまりない可能性があるため、クレーターだけでなく地形の細かい凹凸の特徴などから照合して位置を割り出す方法も組み合わせる。 SLIM の場合は、地球と月は数秒単位で通信ができたため、問題があれば地球からも補正ができた。 だが、火星圏の場合は通信に往復 20 - 30 分ほどかかるため、地球からの補正が難しいことも違いだという。 世界初の挑戦 高いハードル 三菱電機の桐谷浩太郎・MMX 設計推進専任部長は「小惑星にタッチダウン(接地)したはやぶさ、はやぶさ 2 とは違い、MMX では脚で着陸するのが大きな違い。 技術的なハードルは高かった。」と説明する。 フォボスの重力は地球の 1 千分の 1 以下。 重力による抑えが効かない中でも転倒しないよう、脚の間隔や構造を繰り返し検討した。 MMX では 2 回着陸して試料を採取する。 そのため、脚に取り付けた衝撃吸収材の構造を工夫し、最初の着陸でつぶれた分だけ伸ばして 2 回目も高さを維持して着陸できるようにした。 また、MMX では効率化のため、日本の探査機では初めて 3 段式の構成にした。 @ 火星近くに到達する、A フォボス・ダイモスを探査する、B 地球に帰還する、の三つの段階に分けて不要になった部分から切り離し、最後は B だけになる。 桐谷さんは「宇宙空間でもきちんと分離するか、逆に分離する前は一つの探査機として電気信号を伝え続けられるかなど、気をつかう点は多い」と話す。 火星へ各国殺到 MMX は 24 年度中の打ち上げを目指していたが、H3 ロケット初号機の打ち上げが失敗した影響を受けて約 2 年後ろ倒しになった。 現在、開発が完了して探査機の組み立てが進められており、この秋から試験を行う。 時間ができたため、当初は省く予定だった試験も行うことで、ミッションの成功率を高めるという。 火星本体からのサンプルリターンを目指す。 米航空宇宙局 (NASA) と欧州宇宙機関 (ESA) は共同で、27 年に周回機、28 年に着陸機を打ち上げ、33 年の地球帰還を目指す。 ただ、コストの高さなどを理由に見直しも議論されている。 中国は 30 年前後に探査機を打ち上げる計画を示しており、サンプルが地球に帰還するのは 31 年か 33 年とみられている。 (佐々木凌、asahi = 9-1-24) 爆発した「カイロス」ロケット、12 月に打ち上げへ 再挑戦を発表 宇宙ベンチャー「スペースワン(東京)」は 25 日、小型ロケット「カイロス」 2 号機を今年 12 月中に、和歌山県串本町の発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる予定だと明らかにした。 打ち上げ直後に大爆発を起こした初号機の失敗から約 5 カ月。 爆発の原因を特定し、打ち上げの再開が可能だと判断したという。 スペースワンの遠藤守・取締役が 25 日、和歌山県主催の宇宙シンポジウムで明かした。 詳しい日程は今後発表するという。 カイロス初号機は、民間ロケットとして国内初となる人工衛星の軌道投入をめざし、今年 3 月 13 日に打ち上がった。 だが、打ち上げ約 5 秒後に爆発。 搭載した内閣官房の小型衛星もろとも粉々になり、地上に落下した。 (石倉徹也、asahi = 8-25-24) ◇ ◇ ◇ カイロス自ら異常を判断、自律的に爆発 打ち上げ 5 秒、いったい何が 宇宙ベンチャー「スペースワン(東京)」の小型ロケット「カイロス」初号機が 13 日午前、和歌山県串本町での打ち上げ直後に爆発した。 民間ロケットとして国内初となる人工衛星の軌道投入に挑んだが失敗した。 安全に飛行できない恐れがあるとロケット搭載のコンピューターが自ら判断し、機体を破壊する措置をとったという。 詳しい原因は分かっていない。 スペースワンによると、13 日午前 11 時 1 分に打ち上がったカイロスは約 5 秒後、高度約 50 - 60 メートルで爆発。 飛び散った破片により発射場周辺で火災が起きたが、消し止められた。 けが人はなかったという。 豊田正和・同社社長は会見で「みなさんの期待に十分お応えできなかったことに深くおわび申し上げる」と頭を下げた。 「一つ一つの試みにデータや経験があり、新しい挑戦への糧となる」と述べ、2 号機以降への意欲をみせた。 スペースワンは、小型衛星の打ち上げ事業への参入を狙う企業として 2018 年に設立。 カイロス初号機には、内閣官房の小型衛星(開発費用約 11 億円)を積んでいた。(石倉徹也) 打ち上げ再開のめどは未定 民間ロケットとして人工衛星を軌道に投入する国内初の試みは失敗に終わった。 小型衛星の打ち上げビジネスへの一歩となるロケットは、打ち上げ約 5 秒後に爆発。 いったい何が起きたのか。 会見を開いた宇宙ベンチャー「スペースワン(東京)」によると、予定時刻の 13 日午前 11 時 1 分に打ち上がった小型ロケット「カイロス」初号機は約 5 秒後に爆発。 機体は粉々になり、地上に落下した。 軌道投入をめざし積載していた内閣官房の小型衛星(開発費約 11 億円)も失われた。 ロケットは、位置や速度、電気回路などが正常かどうか、コンピューターが常に確認しながら上昇する。 「そこに何らか該当するもの(異常)があったのだろう。」 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) で H2A ロケットの開発を手掛けた経験があり、会見でマイクを握った遠藤守・スペースワン取締役は推測した。 異常な信号を感知すると従来の打ち上げでは、地上から「指令破壊」の信号を送る。 だが、カイロスは機体自らが異常を判断するシステムで、今回、自律的に爆発した。 4 段ある機体のうち 1 段目が燃焼中だった。 打ち上げ後、少し斜めに上昇したことは計画通りだったという。 例えば飛行経路の逸脱など、何を異常と判断したかはわかっていない。 スペースワンは対策本部を立ち上げ、飛行データの解析や実験などをして原因を究明する。 打ち上げ再開のめどは未定。 東京理科大の米本浩一教授(航空宇宙工学)は「爆発は、第 1 段ロケットの上端部に装備された指令破壊装置が起動したことによるものだろう」と指摘する。 カイロスは、全長約 18 メートル、直径約 1.4 メートル、重さ約 23 トンの固体燃料ロケット。 小型衛星の打ち上げ事業への参入を狙うスペースワンが 2018 年の設立から 6 年で開発した。 打ち上げ前、専門家からは「日本が培ってきたロケット技術が積み重ねられている」と高評価されていた。 ロケット大手の IHI エアロスペース (IA) や、ロケット制御機器をつくるキヤノン電子などが出資企業として参画しているためだ。 IA は、前身を含めると 1955 年のペンシルロケット以来、固体燃料ロケットを 70 年近く開発し、現在は日本の基幹ロケット「イプシロン」を手がける。 今回も、技術者十数人がスペースワンに出向し、開発に従事。 IA の工場でロケット部品を製造した。 トラブルが付きものの初号機段階から、内閣官房の衛星 1 機を積んで打ち上げたのも「最適なロケットをつくることができた(遠藤氏)との自信があったためだった。 小型ロケットの需要が急増 スペースワンは、20 年代中に年間 20 機、30 年代初めに年間 30 機を打ち上げる計画を掲げる。 だが、今回の爆発を受け、顧客の要望に応じて衛星を宇宙に届ける「宇宙宅配便」サービスへの参入が遅れることは必至だ。 すでに受注済みの 2 - 3 号機で載せる衛星への影響について、阿部耕三・同社執行役員は「まずは原因究明に全力を尽くす。(先方には)真摯に説明したい」と述べるにとどめた。 小型ロケット開発は今、世界中のベンチャーが競争する舞台だ。 背景には、小型衛星の打ち上げ需要の拡大がある。 通信衛星などを使った宇宙ビジネスが活況となり、22 年に打ち上げられた衛星などは 2,368 機、10 年ほどで約 11 倍に増えた。 一方、ロケットは不足気味。 ウクライナ侵攻後、ロシアのソユーズロケットが市場から退いたことも影響する。打ち上げ市場をリードする米スペース X の「ファルコン 9」のような大型ロケットでは衛星が「相乗り」となり不自由なため、小回りのきく小型ロケットの需要が急増。 世界で 100 社近くのベンチャーが開発に躍起だが、ビジネス展開できているのは米ロケットラボの 1 社のみとされる。 荷物を運ぶ日本のロケットは、JAXA が開発を主導した「H2A」、「H3」、そして小型のイプシロンのみ。 40 年には 1 兆ドル超(約 150 兆円)に拡大すると予想される世界の宇宙ビジネス市場を見すえ、政府も年数回にとどまっている日本のロケットの打ち上げ回数を 30 年代前半に年 30 回に引き上げる戦略を描き、その大半に民間ロケットを想定する。 国の宇宙政策委員会の委員などを歴任した中須賀真一・東京大教授(宇宙工学)は「スペース X、ロケットラボ以外の三番手以降が大きな存在になっていない。 実績をつくり世界にアピールする必要がある。」と語る。 国内では、実業家の堀江貴文さんが創業したインターステラテクノロジズ(北海道大樹町)が 19 年、小型ロケットで高度 100 キロ超の宇宙に初めて到達させ、衛星を打ち上げる小型ロケット「ZERO」を 24 年度以降に打ち上げる予定。 稲川貴大社長は今回の打ち上げを「ロケット開発は非常に難しい。 同じ民間ロケット会社として次の挑戦が続くことを期待しています。」とコメントを寄せた。 東京理科大の米本教授は「和歌山県という新たな地域で打ち上げに挑んだことで、宇宙やロケットへの関心が広がる意義は大きい。 期待を集めている分、何が起こったか調査結果をオープンにした上で、2 号機の打ち上げにつなげてもらいたい。」と話す。 JAXA の的川泰宣名誉教授(宇宙工学)は「海外の例からも初号機の失敗は決して珍しくない。 大切なのは、できるだけ早く原因を絞り込むこと。 スペースワンがどう乗り切るのか注目している」と話した。 (石倉徹也、玉木祥子、竹野内崇宏、村山知博、asahi = 3-13-24) H3 ロケット 3 号機成功は日本の宇宙政策上、極めて大きな一歩 さらなる成功の積み重ねを H3 ロケットは 3 号機の打ち上げ成功により、初めて重要な大型衛星を打ち上げられる実力を示した。 世界中の民間企業から衛星の打ち上げを大量に受注し、持続的な経済成長につなげることを目指す日本の宇宙政策上、極めて大きな一歩といえる。 H3 は、国の先進光学衛星「だいち 3 号」を搭載した初号機が打ち上げに失敗して最初からつまずき、日本の技術力への信頼が揺らいだ。 徹底的に対策を施した 2 号機は打ち上げに成功し、信頼回復の方向に転じたが、初号機失敗の影響で重要な大型衛星の搭載を見送り、実力の証明は不完全だった。 2040 年に約 1 兆ドル(約 160 兆円)に達すると予測される世界の宇宙ビジネス市場で、日本が存在感を示していくために、今回の成功は大きな弾みとなるだろう。 ただ、初号機が失敗したツケは大きい。 現在の日本の主力ロケット「H2A」は、これまで 48 機を打ち上げて成功は 47 機。 成功率は 97.9% と極めて高く、これが日本のロケット技術への信頼を支えていた。 現時点で 2 勝 1 敗の H3 3が今後、H2A 並みの成功率を実現するのは容易なことではない。 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の有田誠プロジェクトマネージャは、打ち上げ直前に「この先は連続成功あるのみだ」と決意を語っていた。 3 号機の成功は大きいが、今後もさらに成功を積み重ねていくことが最も重要だ。 (伊藤壽一郎、sankei = 7-1-24) ◇ ◇ ◇ H3 ロケット 3 号機の打ち上げ時刻、7 月 1 日午後 0 時 6 分に決定 衛星「だいち 4 号」搭載 7 月 1 日に種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられる日本の次世代主力ロケット「H3」 3 号機について、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 29 日、打ち上げ時刻を午後 0 時 6 分に決定したと発表した。 遅れが生じた場合、最大で 1 日午後 0 時 19 分まで延長する。 打ち上げ予備期間は 7 月 2 - 31 日。 3 号機は、防災などに役立てる国の先進レーダー衛星「だいち 4 号」を搭載する。 初号機の打ち上げ失敗で国の先進光学衛星「だいち 3 号」が失われ、2 号機は大型実用衛星の搭載を見送ったため、3 号機が打ち上げに成功すれば、H3 は重要な大型衛星を打ち上げられる能力を初めて実証することになる。 将来的に目指す民間衛星打ち上げの大量受注に向けて、非常に重要な局面だ。 (sankei = 6-29-24) 太陽系の歴史を記録? リュウグウの砂から新「ハードディスク」発見 探査機「はやぶさ 2」が小惑星リュウグウから持ち帰った砂の表面を調べたところ、初期太陽系の磁気情報をもつ可能性のある新たな「記録媒体」が見つかったと、北海道大などの研究グループが発表した。 太陽系の歴史の解明に役立つという。 グループは、磁場を可視化できる電子顕微鏡を使って砂の表面を調べた。 その結果、一部のマグネタイト(磁鉄鉱)は本来あるはずの磁性が失われ、その周りを取り囲むように磁性のある鉄の超微小粒子(ナノ粒子)が点在する組織が確認された。 この組織の元素の分布とシミュレーションの結果から、リュウグウの誕生後に非常に小さな宇宙のちりが秒速 5 キロ以上の速さで衝突し、表面が熱せられてできたとみられることが分かった。 組織の中の鉄粒子が、当時の磁場情報を記録している可能性があり、地球を含む惑星が誕生した時代の解明につながるかもしれないという。 こうした組織は、これまで地球に落ちた隕石などでは確認されていないという。 磁性をもつ普通のマグネタイトは、すでにリュウグウの砂からも見つかっている。 記録媒体のハードディスクなどに使われている物質で、当時の太陽系全体の磁場の強弱や向きなどの情報を残す「天然のハードディスク」といえる。 ただ、リュウグウは母天体に別の天体が衝突した際の破片が集まってできたと言われており、マグネタイトが記録しているのはリュウグウが誕生する前の母天体の磁場情報と考えられている。 北海道大低温科学研究所の木村勇気教授(物理学)は「偶然の発見で、驚いた。 リュウグウができた後の時代の磁場情報にアクセスできる新たなツールを得たことになる。 新しい時代の研究が進むと期待している。」と話す。 英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに 論文 が掲載された。 (佐々木凌、asahi = 5-6-24) 月探査機 SLIM、3 度目の復活に成功 通信再開、「タフさ」健在 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 28 日、月探査機 SLIM (スリム)との通信の確立を確認したことを明らかにした。 ここ約 1 カ月間は「休眠」状態だったが、太陽光が太陽電池パネルに当たり、3 度目の復活をしたという。 JAXA によると、SLIM から信号が届いたのは 27 日夜。 カメラが撮影した月面画像も送信してきた。 ただ、一部の搭載機器に不調が出ているといい、観測が再開できるかどうか確認中という。 月面では、太陽光が当たる状態と当たらない状態が約 2 週間ずつあり、太陽光が当たらないと零下約 170 度になる。 SLIM は過酷な環境に耐えられる設計になっておらず、当初稼働できるのは数日と見込んでいたが、着陸から2カ月以上たっても稼働する「タフさ」を見せている。 (asahi = 3-28-24) ◇ ◇ ◇ 太陽光が当たり、月探査機 SLIM が再復活 観測へ機器確認 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 26 日、月探査機 SLIM (スリム)との通信の確立を確認したことを明らかにした。 太陽光が再び太陽電池パネルに当たったという。 搭載している特殊なカメラでの観測が再開できるかどうか、確認中という。 JAXA によると、25 日午後 7 時ごろ、SLIM からの信号を受信したという。 ただ、機体の温度が高いといい、長時間のデータ受信が難しい状況だったため、月の岩石調査に使うカメラが正常に動くかどうか分かっていない。 機体の温度が下がったタイミングで機器の確認をし、観測を試みるという。 月では、太陽光が当たる状態と当たらない状態が約 2 週間ずつあり、太陽光が当たらないと零下約 170 度になる。 SLIM はこの過酷な環境に対応できる設計になっておらず、再起動できるかどうかは分からないと JAXA は説明していた。 JAXA の坂井真一郎プロジェクトマネージャは、この日の文部科学省の宇宙開発利用部会で「探査機の最低限の機能については機能していることが確認できた」と報告した。 SLIM は 1 月 20 日未明に月面に着陸し、直後にカメラで月の岩石の観測をした。 予定とは異なる姿勢で着陸したため、太陽電池パネルに太陽光が当たらず、「休眠」状態になった。 同 28 日夜、発電ができるようになり、観測を再開。 着陸地点に太陽光が当たらなくなるため、同 31 日で観測をいったん終了し、再び「休眠」状態になっていた。 一方、SLIM に続いて月面着陸した米国の民間企業の無人着陸船について、米宇宙企業インテュイティブ・マシーンズは、月面で横倒しになっている可能性が高いことを明らかにした。 着陸船は日本時間 2 月 23 日朝に月面に着陸した。 民間企業の月面着陸は世界初で、米国としてもアポロ計画以来、約 50 年ぶりの月面着陸となった。 開発した同社の担当者は当初、着陸船は「直立している」としていたが、その後のデータを解析したところ、着陸船は月面で横倒しになっている可能性が高いと説明した。 着陸時に減速ができず、着陸船の脚が月の岩石などにぶつかって、つまずいて横倒しになった可能性があるという。 ただ、太陽電池パネルには日光が当たり、充電の問題はないとしており、月面画像の送信などを試みているとしている。 SLIM に続いて横倒しになったことについて、X (旧ツイッター)では「正しい姿勢で着陸できる方が難しいのかな」、「月にはウサギじゃなくて、探査機をつついてひっくり返す妖怪がいるんではなかろうか」などと驚きが広がっている。 (玉木祥子、石倉徹也、asahi = 2-26-24) ◇ ◇ ◇ 月探査機 SLIM、再び休眠 犬種付いた岩石増加「観測結果に興奮」 月への着陸に成功した探査機 SLIM (スリム)の月面探査が 31 日、いったん終了した。 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) によると、着陸地点は 2 月 1 日ごろに太陽光が当たらなくなり、再び「休眠」状態に入るという。 月では太陽光が当たる状態と当たらない状態が約 2 週間ずつある。 太陽光が当たらないと、零下 100 度以下まで下がる。 SLIM はこの極寒に対応する設計になっていないという。 電子機器が約 2 週間の過酷な環境を乗り越えて、再び起動するかどうかはわからない。 ただ、坂井真一郎プロジェクトマネージャは 25 日の記者会見で「可能性がゼロでもないと思っているので、ある種の実験として試みはしようと考えている」と話していた。 JAXA によると、SLIM は 28 日夜から通信が確立し、太陽電池パネルの発電ができるようになった。 搭載した特殊なカメラで月の岩石の観測を再開した。 対象の岩石は、月の地下のマントル由来の鉱物「かんらん石」。 月の起源の謎に迫ることが目的だ。 当初、目星をつけていた岩石は六つで、相対的な大きさがイメージしやすいように「トイプードル」、「しばいぬ」など犬種の愛称を付けた。 その後、対象の岩石が増え、「ビーグル」や「ダルメシアン」などが加わったという。 31 日午前 9 時までで岩石の観測をいったん終え、データの分析を進めている。 プロジェクトチームは 31 日、X (旧ツイッター)で、「(カメラの観測)チームの科学者の皆さんは、お犬様の観測結果に興奮冷めやらず、いろいろと議論が尽きないようです」と報告した。 (玉木祥子、asahi = 1-31-24) ◇ ◇ ◇ 月探査機 SLIM が復活 太陽光で発電し通信確立 岩石調査も成功 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 29 日、月面着陸に成功後、電源オフになっていた月探査機「SLIM (スリム)」が再起動したと発表した。 太陽電池パネルの発電ができ、「休眠状態」から約 9 日ぶりに「復活」。 探査機による月面探査を再開したという。 JAXA によると、SLIM から通信が届いたのは、28 日午後 11 時ごろ。 プロジェクトチームは 29 日、X (旧ツイッター)で、「昨晩 SLIM との通信を確立することに成功し、運用を再開しました!」と報告した。 SLIM に搭載した特殊なカメラによる月の岩石の観測も再開。 着陸直後に撮影した際、観測対象として目星をつけていた「トイプードル」と名付けた岩石の調査にも成功したという。 SLIM は 20 日午前 0 時 20 分に月面に着陸した。 だが、太陽電池パネルの発電ができておらず、月の岩石の調査は内蔵バッテリーを使って約 45 分間しか実施できなかった。 約 12% 分を残して電源をオフにしていた。 発電できていなかったのは、姿勢が傾いて着陸し、太陽電池パネルが太陽光が当たらない西側の方向を向いているため。 月の公転に合わせて太陽光の差し込む方向が変われば再起動できるかもしれないと、チームが毎日、数時間ほど探査機との通信確立を試みていた。 着陸地点の日没は 2 月 1 日ごろ。 SLIM が復活したことで、もともと数日間の予定だった岩石調査が十分できる可能性がある。 (石倉徹也、asahi = 1-29-24) ◇ ◇ ◇ 成功は間一髪、逆さで降り立った月着陸機 SLIM 「新しい扉開いた」 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 25 日、月探査機「SLIM(スリム)」が撮影した月面の画像を公開した。 SLIM が月面に降り立ったことを裏付ける証拠を示した。 目標地点から誤差 100 メートル以内で着陸する「ピンポイント着陸」にも成功したという。 ただ、着陸直前にエンジン 2 基のうち 1 基を失うギリギリの着地だったと明かした。 午後 2 時からの記者会見は、月着陸当日の重々しい雰囲気とは打って変わって、おだやかだった。 JAXA によると、SLIM は 20 日午前 0 時 20 分ごろ、月面に着陸した。 着陸直前に 2 機の小型ロボットを放出。 小型ロボット「LEV-2」が月に着陸した SLIM の姿をとらえていた。 その写真や回収したデータから、SLIM はメインエンジンが上、太陽電池パネルが西を向いた状態にあることが分かったという。 SLIM の責任者を務める坂井真一郎プロジェクトマネージャは「自分たちのつくったものが本当に月面に行って、(LEV-2 が)そのスナップショットを撮ってくれた。 腰がぬけそうになるほどのインパクトを受けた。」と笑顔を見せた。 地面に頭からつんのめったような姿勢。 坂井さんは「よくあの姿勢でとどまってくれた。」と話した。 JAXA によると、SLIM は高度 50 メートルまで順調に降下した。 この時点の目的地からのズレは 3 - 4 メートルとみられる。 ただ、ここでトラブルが起きた。 メインエンジン 2 基のうち 1 基が失われ、推力は半分に低下。 その結果、東に流されながら降下した。 横方向の速度が十分減速できずに着陸したため、予期せぬ方向に転倒したとみられる。 降下中の SLIM のカメラが撮影した画像には、脱落したエンジンのノズルが確認できる。 エンジンの異常の原因は調査中だ。 着陸予定地点は、月の赤道の南にある「神酒(みき)の海」のクレーター近く。 実際に着陸した場所は、目標地点から東に約 55 メートルだったという。 坂井さんは「ピンポイント着陸は 100 点満点。 飛行機にたとえるなら、エンジン 1 個失った状態でなんとか着陸した。 機長のスリム君に審査員特別賞をあげたい。」と笑った。 着陸後、太陽電池パネルで発電できていないことが判明。 SLIM に搭載した特殊なカメラによる月の岩石の調査を数日間予定していたが、内蔵バッテリーを使って約 45 分間調査し、約 12% 分を残して電源をオフにしたという。 太陽電池パネルは、太陽光が当たらない西側の方向に向いている。 太陽光の差し込む方向が変われば、再起動できるかもしれない。電源がオンになったら、観測再開の信号を送るという。 着陸地点が日没となる 2 月 1 日までに復活する可能性が残されている。 ただ、月面が太陽光の熱で高温になると、機体が故障して動かなくなる可能性もあるという。 月面着陸は、日本としては約 20 年越しの計画だった。 月周回衛星「かぐや」の後継機として計画が立ち上がったのは 2002 年ごろ。 だが予算不足で計画は縮小。 SLIM がプロジェクトとして正式に発足したのは 16 年だった。 JAXA 宇宙科学研究所の国中均所長は「大変、大きな技術を獲得できた。 ますます惑星探査を拡大させていきたい。」 坂井さんは、ピンポイント着陸に成功したことから「これまでいけなかった所も探査できるようになる。 新しい扉を開いた。」と述べた。 着陸当日の会見で「辛口ですがギリギリ合格の 60 点」と述べた国中さんに、改めて評価を聞くと、「63 点」だった。 着陸直前に失われたメインエンジンを「大変もったいない」と国中さんは表現。 追加された 3 点は、撮影できた分光カメラが 1 点、活動した小型ロボ 2 機が 2 点だといい、「辛口評価」は健在だった。 (玉木祥子、石倉徹也、asahi = 1-25-24) ◇ ◇ ◇ 探査機 SLIM が月面に軟着陸 JAXA 発表、太陽電池は発電せず 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 20 日未明、日本の月探査機「SLIM (スリム)」が月面着陸したと発表した。 地球からの信号を正確に受信し、SLIM が反応していることは確認できているという。 国中均・宇宙科学研究所長は「月へのソフトランディング(軟着陸)は成功したといえる」と述べた。 山川宏理事長は「月面へのアクセスへの道が開けた。 さまざまな国との国際協力にも知見を提供できると考えている。」と話した。 ただ、SLIM の太陽電池が発電していない状況で、搭載しているバッテリーで運用しているという。 想定の方向を SLIM が向いていない可能性が考えられるといい、データの分析を進めている。 JAXA によると、SLIM は 20 日午前 0 時ごろ、高度約 15 キロから降下を開始。 エンジンを逆噴射させて減速しながら、約 20 分かけて月面に着陸した。 計画では、赤道の南にある「神酒(みき)の海」というエリアのクレーター周辺に着陸する。 目的地から 100 メートル以内に着陸するという「ピンポイント着陸」を他国に先駆けて挑戦。 ピンポイント着陸がうまくいったかどうかは現時点では詳しくは分からないが、国中所長は SLIM の現状のデータを見て、「予定通りのコースを描いていたことから、ピンポイント着陸技術が実証できたと考えている」と話した。 正確に確認するまでには約 1 カ月かかるという。 SLIM は着陸後、搭載しているカメラで月面を撮影し、月の岩石の組成を調べる。 運用期間は数日間の予定だった。 これまで月面着陸に成功したのは、旧ソ連、米国、中国、インド。 日本としては、22 年に JAXA の探査機「OMOTENASHI」が地球との通信が途絶えて断念。 23 年には、宇宙ベンチャー「ispace」の着陸船が月に衝突した。 (玉木祥子、asahi = 1-20-24) ◇ ◇ ◇ 日本の月面着陸機「SLIM」、着陸降下準備フェーズへ移行成功 - 高度 600km に 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 1 月 15 日、小型月着陸実証機 (SLIM) が着陸降下準備フェーズへ移行したと発表した。 発表によると、1 月 10 日(日本時間、以下同)に着陸降下準備フェーズへの移行を決定し、1 月 14 日 17 時 32 分に遠月点降下マヌーバ(軌道変更)を正常に完了した。 その後、高度 600km の円軌道に予定通り投入したことを確認したという。 今後は近月点降下マヌーバを実施し、1 月 19 日に近月点を高度 15km まで下げる。 その後、1 月 20 日午前 0 時 00 分に着陸降下を開始し、同 0 時 20 分に月面着陸を予定している。 SLIM は日本初の月面着陸を目指す探査機で、成功すれば米国、旧ソ連、中国、インドに続き 5 か国目の月面着陸となる。 また、着陸精度が 100m 以内という「ピンポイント着陸技術」の実証を目的としており、従来の「精度十数 - 数十km」とは桁違いの精度での着陸を目指す。 月面着陸の様子は JAXA の YouTube 公式チャンネル「JAXA Channel」でライブ配信する。 (UchuBiz = 1-15-24) ◇ ◇ ◇ 「試される最後の 20 分」 月探査機 SLIM、着陸は来年 1 月 20 日 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 5 日、9 月に打ち上げた月探査機「SLIM (スリム)」の月面着陸を来年 1月 20 日未明に実施すると発表した。 着陸に成功すれば、旧ソ連、米国、中国、インドに次いで世界で 5 カ国目となる。 H2A ロケットで打ち上げられた SLIM は、現在は月軌道より遠い位置にいる。 計画では、今月 25 日に月周回軌道に入り、来月 20 日午前 0 時ごろに高度 15 キロから降下を始め、約 20 分後に月の赤道の南にある「神酒(みき)の海」への着陸をめざす。 天体への着陸は、小惑星、火星、月の順で難しさが増すとされる。 月の重力に引っ張られ、落下速度が急激に増す中、大気がなくパラシュートが使えないため、逆噴射で速度を抑え、機体を制御する高い技術が必要だ。 JAXA の坂井真一郎・プロジェクトマネージャはこの日の記者会見で「試されるのは着陸の最後の20分間。 20 年かけて開発してきたものが、最後に試される 20 分を何とかしてクリアしたい。」と語った。 たった 20 分で時速 6,400 キロから急減速し、800 キロ先に降りる技術。 月を日本列島に例えるなら、航空機の数倍の速さで北海道の新千歳空港を出発し、20 分後に兵庫県の甲子園球場内に着地するほどの難しさという。 重力の弱い小惑星への着陸と異なり、降下を始めたら後戻りできない「一発勝負(坂井さん)」となる。 めざすのは、狙った場所から誤差 100 メートル以内の高精度なピンポイント着陸。 降下中に撮影する月面のクレーター画像を、月の地図と照合してすばやく位置を把握する。 最後は、自らの判断で岩などを避けながら、クレーター近くの斜面に倒れるように着陸する。 これまでの探査機の着陸精度は数キロメートル以上だった。 狙った場所から 100 メートル以内に降りる着陸技術は、成功すれば世界初となる。 坂井さんは「今後の国際協力でも、非常にアドバンテージになる技術」と話す。 着陸の直前には、SLIM から 2 機の小型ロボットが放出される。 先に月に着陸し、SLIM が着陸する様子を撮影したり、跳びはねたりして移動するという。 一方、月着陸をめぐっては今年 4 月、日本の宇宙ベンチャー「ispace (アイスペース)」が民間企業で初の月着陸をめざしたが、着陸船の高度測定に誤りが生じて、月面に激突した。 SLIM の月着陸が成功する確率はどのくらいなのか。 「もちろん 100%」と答えた坂井さん。 その後、こうも話した。 「本当に難しいことをやろうとしているので、本当のところ何 % と思っているのかは、数字としては上げにくい。 ただできる限り(過去の失敗の歴史も)理解して準備してきた。 できることはやったつもりだ。」 (石倉徹也、asahi = 12-5-23) |