1 - 2 - 3 - 4 - 5 - 6 - 7

カイロス 2 号機、失敗原因はセンサー誤信号 次機「可能な限り早く」

和歌山県串本町で 2024 年 12 月に打ち上げられたが経路を逸脱し、飛行中止となった小型ロケット「カイロス」 2 号機について、宇宙ベンチャー「スペースワン(東京都)」は 8 月 31 日、センサーの誤信号が失敗の原因だと発表した。 3 号機の打ち上げ時期は明言しなかった。 2 号機は 24 年 12 月 18 日、打ち上げ 3 分 7 秒後に爆破、飛行を中断した。 当時、同社は「燃焼ガスを噴出するノズルに異常が起き、飛行経路を逸脱した」と発表していた。

8 月 31 日の会見で同社は、詳しい調査結果をもとに、舵角(だかく)を検知するセンサーの誤信号が原因でノズルを適切に制御できなくなったと説明した。 3 号機では対策を施したセンサーを使うという。 カイロス初号機は 24 年 3 月、打ち上げ直後に速度が予測よりも遅くなったことが原因で爆発した。 3 号機は改めて民間ロケットとして国内初となる人工衛星の軌道投入をめざす。 民間企業などの衛星 4 基を載せる予定。 豊田正和社長は打ち上げ時期について「可能な限り早く」と説明。 「2 カ月前に案内する。 20 年代の終わりには年 20 機(打ち上げ)という方針は変えていない」と話した。 (鈴木智之、asahi = 9-1-25)

前 報 (12-18-24)


H2A ロケット、最後の 50 号機が打ち上げ成功 「夢見ているよう」

日本の主力ロケット「H2A」として最後の 50 号機が 29 日午前 1 時 33 分、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。 観測衛星「いぶき GW」が軌道に投入され、打ち上げは成功した。 搭載された衛星は、気候変動の予測に役立てるため、二酸化炭素やメタン、海面水温などを観測する。 衛星は目的によって投入する軌道や高度が異なるため、その軌道によって発射時刻が秒単位で決められた。 当初、24 日に打ち上げ予定だったが、機体の電気系統の機器に異常が見つかり、交換したため日程を延期していた。

「まだ夢を見ているような状態」

打ち上げから 3 時間後の会見で、執行責任者を務めた三菱重工業の鈴木啓司さんは思いを語った。 H2A のこれまでを振り返り「会社生活のほとんどの日々を H2A を堕(お)とさないために費やしてきた。 50 号機には『よくやってくれたね、ありがとう』と言いたい」と話した。

急成長中の宇宙ビジネス スペース X が突出

H2A は全長 53 メートルの液体燃料ロケット。 先代の H2 ロケットの改良版として、2001 年に初号機が打ち上げられた。 日本の宇宙への「足」として、多い時で年間 6 回の打ち上げに成功した。 小惑星探査機はやぶさ 2 や月探査機 SLIM、気象衛星ひまわりなど、24 年間で計約 100 機の衛星を宇宙へ運んだ。 失敗は 03 年の 6 号機 1 回のみ。 今回で成功率は 98% となり、日本の宇宙開発への信頼を高めたロケットは引退した。 日本の基幹ロケットは、開発中の小型「イプシロン」があるが、当面は新型ロケット「H3」のみとなる。

JAXA の山川宏理事長は打ち上げ後の会見で「H2A で着実に技術と経験を重ねてきた。 H3 でも引き続き、高い信頼性、良いサービスを提供していきたい」と意気込んだ。 ただ、H2A は打ち上げ費用が 1 回につき約 100 億円と高額で、海外衛星の受注は 5 回にとどまった。 国際競争力の低さは課題として次世代のロケット開発に引き継がれる。

宇宙ビジネスは今後、40 年までに現在の 3 倍の 150 兆円規模になると言われ、急成長中だ。 24 年の世界のロケット打ち上げは 253 回で、半分以上が米企業スペース X。 1 機 5 千万ドル(約 72 億円)といわれる同社のファルコン 9 の一強状態が続く。 その中で、宇宙への「足」が脆弱な日本は出遅れ、去年は 5 回の打ち上げのみだった。 巻き返しを図るため、政府は 30 年代前半までに打ち上げ回数を年 30 回に引き上げる目標を描く。

H3 は H2A 並みの高い信頼性を確保して、低コスト化を狙い、開発された。 軽量形態で 1 機約 50 億円をめざし、高頻度の打ち上げと、商業受注を増やす狙いがある。 国際宇宙ステーション (ISS) に荷物を運ぶ姉妹機 H2B ロケットは、H2A をもとにつくられた増強型。 09 - 20 年に 9 回連続で成功し、一足先に引退した。 (小川詩織、asahi = 6-29-25)


月着陸失敗の ispace、原因は高度センサー 正常に距離測れず

日本の民間企業として初の月面着陸に失敗した宇宙ベンチャー「ispace (アイスペース)」は 24 日、着陸失敗の原因は、月面までの距離を測る高度センサーの異常だったと発表した。 センサーに異常が起こり、正常な計測が行われなかった可能性があるという。 ispace の月着陸船は 6 日、2 度目となる月面着陸に挑戦したが、予定時刻の午前 4 時 17 分の直前に管制室との通信が途切れた。 データが管制室に送られてこない状態が続き、通信の回復が見込めず着陸は失敗した。

ispace の分析によると、着陸船の高度を測るセンサー「レーザーレンジファインダー (LRF)」で測定値の取得が遅れ、月面着陸に必要な速度まで減速できていなかった。 測定値の取得が遅れたのは、飛行中の LRF の性能劣化や、性能が想定よりも低かった可能性がある。 ミッション 2 開発統括の日達佳嗣さんは「2 年前の失敗原因がソフトウェアであったのに対し、今回はハードウェアの問題。 高度測定に関する点は同じだが要因は異なっている」と説明した。 今回の LRF は、前回の事業者が製造を停止したため、前回のミッションとは別の社が製造したものを使用したが、性能を確かめる試験は前回同様に行っていたという。

日達さんは「異常が起きた要因はいくつか考えられるものの、さらなる絞り込みは難しい。 今後のミッションの改善策の中で検討していく。」と話した。 第三者の専門家による着陸センサーの検証や、センサーの選定、運用の見直しをするという。 今後、財務面で一定の影響は見込まれるというが、2027 年に予定しているミッション 3、4 の開発スケジュールへの影響はないという。 袴田武史代表は「2 回目も着陸ができなかったことは重いものだと捉えている。 学びを生かし、歩みを止めず、民間として(月輸送の)サービスを安定的に提供していきたい」と話した。

また、米航空宇宙局 (NASA) は 11 日、月探査機が上空 80 キロから撮影した着陸地点付近の画像を発表した。昨年 12 月と比べると、新たに黒い穴(クレーター)のようなものが見える。 着陸船が月面に衝突したときに、月面の岩石や砂を巻き上げた際に形成されたものとしている。 ispace によると、この衝突地点は目標着陸地点から南に 282 メートル、東に 236 メートルの地点に相当しているという。 (小川詩織、asahi = 6-24-25)

◇ ◇ ◇

ispace、月着陸失敗と表明 通信途絶、月面に衝突の可能性高く

日本の民間企業として初の月面着陸に挑戦していた宇宙ベンチャー「ispace (アイスペース)」は 6 日、着陸船「レジリエンス」が月面に衝突した可能性が高く、着陸は失敗したと発表した。 同日午前に記者会見を開き、「降下中に減速しきれず、月面に衝突した可能性が高い」と説明した。 ispace によると、着陸船は 6 日午前 3 時 15 分頃に、月まで約 100 キロの位置から降下を始めた。 エンジンを逆噴射させて減速しつつ月面に近づき、着陸予定時刻は午前 4 時 17 分だったが、直前に管制室との通信が途切れたという。 地上から再起動を試みたが、着陸を示すデータが管制室に送られてこない状態が続いた。

袴田武史代表は会見で「着陸船との通信の回復が見込めず、着陸は失敗した」と話した。 着陸に必要な速度まで十分に減速できなかったことが確認されていて、月面に激突した可能性が高いという。 引き続きデータ解析を続けて、詳しい原因を調べる。 公開されていた着陸船のデータによると、着陸予定時刻の 1 分 45 秒前に高度は 52 メートル、速度が時速 187 キロを示していたが、その 3 秒後に高度がマイナス 223 メートルになり、速度表示は消えた。

CTO (最高技術責任者)の氏家亮さんは「高度 10 - 3 キロで入ってくるはずの測定値が高度 1 - 1.5 キロくらいと、入ってくるのが遅かった。 着陸船がもっと減速できているはずだったが、減速が足りていなかった。」と説明した。 高度の測定システムに不具合が起きた可能性を挙げた。 ispace は今後もミッション 3、ミッション 4 と月をめざす計画を続ける。 今回得た知見を、次回以降に生かしていくという。 ispace は 2023 年にも着陸を試みたが、高度測定を誤り、失敗した。 このときは高度 5 キロを月面と認識し、着陸するための噴射を続け、燃料が尽きて激突した。

月には水や鋼材となる豊富な資源が眠るとされ、将来的には資源探査の場となる可能性がある。 さらには、火星探査への中継基地としても注目が集まる。 世界がこぞって月への探査を進める中で、「月への宅配便」サービスを確立させたい狙いだった。 着陸船は今年 1 月、米フロリダ州のケネディ宇宙センターから、米スペース X のロケット「ファルコン 9」で打ち上げられた。 少ない燃料で月まで行ける「遠回り」の軌道を飛び、5 月に月周回軌道に到達した。

今回は着陸に加え、探査にも挑む予定だった。 数日中に、ispace が開発した探査車「テネシアス」を走らせ、「レゴリス」と呼ばれる月の土をスコップで採取し、その一部の所有権を米航空宇宙局 (NASA) に売却する計画だった。 着陸船には、月面用の水電解装置や、宇宙での食料生産に向けた実験装置なども載せていた。 民間企業の月面着陸を巡っては、昨年 2 月、米インテュイティブ・マシーンズが世界で初めて成功。 同社は 25 年 3 月にも 2 度目の着陸を成功させた。 他にも、米ファイアフライ・エアロスペースの着陸機も 25 年 3 月、月面に降り立っている。 (玉木祥子、小川詩織,、asahi = 6-6-25)

◇ ◇ ◇

日本の ispace まもなく月面着陸 ぶっつけ本番、難敵は「重力」

日本の宇宙企業 ispace (アイスペース)が 6 日未明、日本の民間企業として初となる月面着陸に挑む。 豊富な資源が眠る月への「探査ラッシュ」が、各国の競い合いで起きている中、「月への宅配便」サービスを確立できるか。 月面に衝突した 2 年前の失敗から、再挑戦となる。

ispace によると、着陸船「レジリエンス」は 6 日午前 3 時 15 分ごろ、月の上空約 100 キロの周回軌道を離脱し、降下を始める。 約 1 時間後、月面「氷の海」の中央近くに着陸する計画だ。 開発統括の日達佳嗣さんは「ここまでは完璧な運用ができていて、確実に前回の経験が生かされている。 このまま最後まで一つ一つのミッションを丁寧に進めていく。」と話す。

ロシアでさえ失敗、中国は 4 連続成功

探査機による月着陸の歴史は、60 年以上前にさかのぼる。 世界で初めて月面に到達したのは 1959 年、旧ソ連の無人探査機「ルナ 2 号」だった。 地球以外の天体に初めて到達した人工物となったが、この時は月面に衝突。月への軟着陸に初めて成功したのは、66 年のルナ 9 号だった。 冷戦下にあった米国も同じ年、サーベイヤー 1 号が着陸した。 その 3 年後、アポロ 11 号で有人着陸にも成功。 アポロ 17 号までで計 6 回着陸し、計 12 人が月面を歩いた。 両国だけで 20 回近く着陸しているが、50 年以上たった今でも、月着陸は至難の業だ。

今世紀の月着陸の結果を調べると、成功率は 60%。 中国、イスラエル、インド、日本、ロシア、米国の計 15 の探査機が試みたが、成功したのは中国(4 機)とインド(1 機)、米国(3 機)、日本(1 機)の計 9 機。 宇宙大国ロシアでさえ、約半世紀ぶりの月探査機「ルナ 25 号」が 2023 年、失敗した。 注目すべきは、4 回挑戦し、着陸成功率 100% を誇る中国だ。 19 年には、通信などの面で着陸の難度が高い「月の裏側」に世界で初めて着陸した。 さらに 20 年には、米国のアポロ計画、旧ソ連のルナ計画以来、44 年ぶりに月の土を地球に持ち帰ることに成功した。

24 年には、月の裏側で採取した岩石も地球に持ち帰った。 将来の月面有人着陸も視野に入れ、「宇宙強国」の存在感を見せている。 世界的に見ると、ここ最近は、24 年に月に着陸した日本の探査機「SLIM」以降、5 回連続で着陸に成功している。

天体着陸で最難関の「月」

ただ、天体への着陸は、小惑星、火星、月の順で難しくなるとされる。 難敵は、月の重力だ。 探査機は重力に引っ張られ、落下速度がぐんぐん増すが、月には大気がほぼないため、パラシュートによる減速はできない。 エンジンの逆噴射だけで速度を抑え、機体を制御する技術が求められる。 着陸は、リハーサルなしの一発勝負。 重力の弱い小惑星への着陸と異なり、降下を始めたら後戻りはできない。 地球の管制室からできることは、ない。 探査機は高度などを測り、自動制御で姿勢を変えながら降りていく。

日本の SLIM が着陸する時は、時速約 6,400 キロの猛スピードから 20 分かけて約 800 キロメートル先に降り立つスピード勝負が求められた。 その難しさを、SLIM の責任者は「飛行機の数倍の速さで北海道を出発し、20 分後に兵庫県の甲子園球場内に着地するほどの難しさ」と表現している。 ispace の着陸船も、時速約 6 千キロから十数分かけて急減速し、着陸する計画だ。

逆立ち、斜め、横倒し 完璧な着陸も、難しい

SLIM の着陸は、直立ではなく、頭が下の「逆立ち」だった。 着陸直前、メインエンジンの一つが壊れ、姿勢のコントロールが効かなくなったためだ。 24 年 2 月、民間として初めて月着陸に成功した米企業の宇宙船「Nova-C」も、脚が岩などにぶつかって壊れたのか、着陸後に斜めに傾いた。 この企業は 25 年 3 月、別の宇宙船でも着陸に成功したが、この時も横倒しになり、搭載されていた日本のベンチャー企業の探査車は、月面走行を断念した。

ispace の着陸船は、計画が予定通り進めば、着陸できたかどうかの判断は、6 日午前 4 時半ごろに明らかになる見込み。 成功すれば、民間企業では世界 4 例目。 米国以外の企業では初の快挙となる。 (石倉徹也、小川詩織、asahi = 6-5-25)


ホンダ、小型ロケットの再使用実験に成功 国内の民間企業では初

ホンダは 17 日夜、打ち上げた小型ロケットを着陸させて再利用するための実験に成功したと発表した。 離着陸実験に成功したのは国内の民間企業で初めてだという。 同社は 2019 年に宇宙分野のチームを立ち上げ、人工衛星を搭載できる小型ロケットの開発に取り組んできた。 ロケットを再利用できると、使い捨てよりも打ち上げ頻度の向上やコスト削減が図れる。 事業化は決まっていないが、29 年までに高度 100 キロ程度の「準軌道」に到達させる目標を掲げている。

実験は 17 日夕方、北海道大樹町で行った。 発射された小型ロケットは高度約 300 メートルまで到達した後、目標地点に戻った。 地点との誤差は 37 センチで、目標の5メートル以内を上回る精度だった。 機体は全長 6.3 メートル、直径 85 センチ、燃料などを含まない重量は 900 キロ。車の制御やエンジンの燃焼技術を活用したという。 ロケットの再利用技術では、ロケットの打ち上げで「世界一強」の米スペース X が既に商用化につなげ、実績を積み上げている。 国内では、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) も再利用ロケットの研究開発を進めている。 (松岡大将、asahi = 6-18-25)


はやぶさ 2、機体異常の原因判明 姿勢制御装置を再起動し探査続行へ

宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 9 日、小惑星探査機「はやぶさ 2」が、機体の安全を確保する「セーフホールドモード」になっていた原因を調査した結果、姿勢制御に用いるリアクションホイール 4 台のうち 1 台の回転が止まっていたことが判明したと発表した。 リアクションホイールとは、モーターで円盤を回転させて姿勢を制御する装置。 初代「はやぶさ」でも小惑星「イトカワ」へ接近中に 3 台のうち 2 台が故障したため、はやぶさ 2 ではトラブル回避のため 4 台搭載している。

現在、リアクションホイールは 4 台とも再び使用できる状態だと確認されていて、再起動し立て直しているところだという。 5 月中には姿勢を立て直し、メインのエンジンであるイオンエンジンの運用を開始する予定としている。 JAXA によると、セーフホールドモードは機体に異常が起こった際、安全に最低限の運用を継続するための制御モードのことで、運用の「最後のとりで」とされている。 3 月 21 日の受信データで判明していた。

はやぶさ 2 は、2020 年に小惑星「リュウグウ」の砂が入ったカプセルを地球へ届けた後、新たな目的地の小惑星「1998KY26」に向けて旅を続けていて、31 年に到着する予定。 その途中の 26 年には別の小惑星にも立ち寄る予定で、ロケットで打ち上げてからすでに 10 年以上運用されている。 はやぶさ 2 の運用チームは公式 SNS に「探査機は 10 年以上使用しており、今後もこのようなことがあるかもしれませんが、大事に運用していきます。 引き続き、温かく見守って頂けると幸いです。」と投稿した。 (小川詩織、asahi = 5-9-25)

◇ ◇ ◇

はやぶさ 2 が異常を検知、セーフモードに移行 JAXA が影響を調査

宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 2 日、小惑星探査機「はやぶさ 2」が何らかの異常を検知し、機体の安全を確保する「セーフホールドモード」になったと発表した。 3 月 21 日の受信データで判明したもので、現在の通信は安定していてミッションへの影響を確認している。 JAXA によると、セーフホールドモードとは機体に異常が起こった際、安全に最低限の運用を継続するための制御モードのことで、運用の「最後のとりで」とされている。 例えば、探査機の姿勢が正常でなくなった場合、異常を検知し、このセーフホールドモードに移行することがある。

はやぶさ2は、2020 年に小惑星「リュウグウ」の砂が入ったカプセルを地球へ届けた後、新たな目的地の小惑星「1998KY26」に向けて旅を続けていて、31 年に到着する予定。 その途中の 26 年には別の小惑星にも立ち寄る予定で、ロケットで打ち上げてからすでに 10 年以上運用されている。 現在は、地球から 2 億 7 千万キロメートル先を飛行している。 (小川詩織、asahi = 4-3-25)


最後の H2A ロケット 50 号機、6 月 24 日に打ち上げ決定

三菱重工業は 25 日、H2A ロケットとして最後の 50 号機を 6 月 24 日に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げると発表した。 午前 1 時 33 分 - 52 分の間に打ち上げる。 50 号機には、気候変動の予測に役立てるため、二酸化炭素やメタン、海面水温などを観測する人工衛星「GOSAT-GW」を搭載する。 2024 年度中に打ち上げられる予定だったが、人工衛星の開発が遅れたため延期されていた。

H2A ロケットはこの 50 号機の打ち上げを最後に退役し、新たな主力ロケット「H3」に完全に移行する。 H2Aロケットは 01 年に初号機が打ち上げられ、これまで失敗は 03 年の 6 号機の 1 回のみ。 成功率は 97.96% と、高い信頼性を誇る。 ただ、打ち上げ費用が 1 回につき約 100 億円と高額だったことが課題で、後継の H3 は費用の半減をめざしている。 (小川詩織、asahi = 4-25-25)


10 年で 1 兆円の宇宙戦略基金、成功のカギは? 石田真康氏に聞く

宇宙産業を盛り上げるために、民間企業や大学に 10 年で約 1 兆円を投じる宇宙戦略基金の第 1 期(3 千億円分)の採択結果が出そろいました。 基金の運用方針の管理・調整を担う委員会の座長を務める一般社団法人「SPACETIDE (スペースタイド)」の石田真康代表理事は、宇宙政策の「切り札」と話します。 成功のカギを聞きました。

近年、宇宙ビジネスが世界中で盛り上がっています。 なぜですか?

一言で言うと「宇宙が近くなった」ということだと思います。 米スペース X などの台頭でロケット打ち上げのコストは、この 20 年ほどで格段に下がりました。 衛星の開発や製造のコストも下がったこともあり、宇宙は多くの国や民間企業でも手を伸ばせるようになりました。

日本政府の宇宙関連予算も上がっています。

宇宙産業が日本が勝てる可能性がある分野だということが大きいです。 長年の実績があり、技術やノウハウが蓄積されています。 とはいっても、ロケット開発などには他の業界と比べてもお金も時間もかかり、リスクが大きい。 そこで政府による民間への太く長い支援が重要になります。 基金はその「切り札」とも言えると思います。 加えて、安全保障において宇宙の重要性が高まってきたこともあります。

基金は何をめざしているのでしょうか。

宇宙関連市場拡大、社会課題解決、技術力強化のゴールに向けて、国内での宇宙活動のボリュームを増やすことです。 例えば「ロケットを年間 30 回打ち上げる能力を確保する」という目標が設定されていますが、達成にはロケット開発だけでなく、発射場の整備、サプライチェーンなど基金以外の取り組みも含めて様々な要素が重要になります。 世界でも競争力を持った企業が分野ごとに出てこなければ、目標は実現できません。 そのための支援も必要だと思います。

基金の第 1 期の採択結果が出そろいました。 座長として心がけていることは。

一つは、なるべく多くのステークホルダーと密に対話をすること。 もう一つが、1 期目の検証を通じて見えてきたことを 2 期目以降や基金以外の政策に反映するように政府に提言をすることです。

どんなことを改善したいですか?

世界で勝てるプレーヤーを育てるには、国外の企業との連携や国外市場の獲得も必要です。 審査などを通じて、こうした取り組みを後押しすることが必要だと思います。

採択予定 1 に対して応募が 1 機関だけだったものが多くありました。

宇宙産業は分野によってはプレーヤーが限られるので起こりえます。 競争環境をうまく作っていくことが、基金の運用上大切なので、工夫が必要だと思います。

10 年で 1 兆円という支援規模は破格です。

確かにそうですが、1 社あたりにわたる金額は、米国や欧州の支援と比べると十分ではないという見方もできます。 世界で勝つ意志と技術と事業を持つプレーヤーを育てていくためには、どこかで重点的に支援する枠組みも必要になると思います。

「宇宙産業は分岐点にいる」

日本の宇宙産業を育てるには何が必要でしょうか?

一つは政府が製品やサービスを購入する政府調達です。 民間企業の売り上げの予見可能性が高まり、投資だけでなく融資も集まりやすくなる好循環が生まれます。 もう一つは人材育成です。 政府は 2030 年代早期に宇宙産業の市場規模を約 8 兆円に倍増させることをめざしています。 SPACETIDE の試算では、宇宙関連の仕事をしている人は 3 万 - 4 万人です。 市場規模の倍増にはさらに 3 万 - 4 万人の人手が必要です。 そのためには、宇宙をキャリアの選択肢の一つにすることが大切です。

宇宙は、日本の将来を支える産業の一つになれる可能性がありますが、その分岐点にいると思います。 その意味でも宇宙戦略基金は成功させないといけないと思います。 (佐々木凌、asahi = 4-20-25)


民間の月面探査車「ヤオキ」、月の撮影と送信に成功 走行は叶わず

東京の宇宙ベンチャー「ダイモン(中央区)」は、月面探査車「YAOKI (ヤオキ)」で挑戦していた民間初の月面走行を断念した。 着陸船の姿勢が悪かったことが理由。 ただ、月面の写真撮影と送信に成功し、今後に希望をつないだ。

ヤオキは今月 7 日未明、米インテュイティブ・マシーンズが開発した着陸船「アテナ」に載せられ月面に着陸した。 だが、アテナが横倒しの姿勢で着陸したため、その後に予定していた月面走行はできないと判断した。 ヤオキの車輪は動かせたため、着陸姿勢に問題がなければ走行できたとみられるという。 ヤオキはアテナのケース内から月面で撮影した画像を 2 時間以上にわたって地球に送り、任務を終えた。

車輪のネジつくった中小企業の社長「喜ばしい」

同社の中島紳一郎社長は「ヤオキは月で倒れた状態でも元気に機能し、(ヤオキの名前の由来である)『七転びヤオキ』を文字どおり実現できたことを誇りに思う」とコメントした。 来年も月面走行に挑戦する方針という。 ヤオキの車輪に使われていたのは、人気ドラマ「下町ロケット」のロケ地となった東京都大田区の特殊精密部品メーカー「桂川精螺(せいら)製作所」のネジ。 同社の体験会で子どもたちが作ったネジも含まれていた。 同社の石井昌景社長は 10 日、「子どもたちのねじが YAOKI を通じて月に到着したことを喜ばしく思う」とコメントした。 (木佐貫将司、asahi = 3-10-25)

◇ ◇ ◇

民間の月面探査車「ヤオキ」が月に着陸 着陸船の姿勢に問題か

東京の宇宙ベンチャー「ダイモン(中央区)」が開発した月面探査車「YAOKI (ヤオキ)」を載せた米企業の着陸船が日本時間 7 日未明、月面に着陸した。 ただ、着陸の姿勢に問題が生じたといい、月面走行に向けた状況の分析を行っている。 ヤオキを月面に運んだのは、米インテュイティブ・マシーンズが開発した着陸船「アテナ」。 月面着陸には成功したが、予定していた直立姿勢ではなかったとみられる。 ダイモンによると、ヤオキからのデータは受信できており、機体の無事は確認されているという。 民間開発の探査車では初となるヤオキの月面走行は、約 5 日後の予定とされていた。 (木佐貫将司、佐々木凌、asahi = 3-7-25)

◇ ◇ ◇

ネジよ月へ 宇宙に夢託す町工場の挑戦 「下町ロケット」を現実に

宇宙に希望を託しているのは高校生だけではない。 戦後の日本経済を支えた製造業の衰退とともに、経営環境が厳しくなっている中小企業。 宇宙に商機を見いだし、「メイド・イン・ジャパン」の世界の評価を再び高めようとしている。 2024 年 11 月 21 日、中小の製造業が密集する東京都大田区にある、特殊精密部品メーカー「桂川精螺(せいら)製作所」。 ここで、区内の小学 3 年生約 30 人がネジ作りの体験をしていた。

ただのネジではない。 日本の宇宙ベンチャー「ダイモン」が開発した月面探査車「YAOKI (ヤオキ)」の部品になる。 YAOKI は 25 年、月などの有人探査を目指す米国主導の「アルテミス計画」の一環で月に打ち上げられる予定だ。 成功すれば、民間が開発した探査車として、世界で初めて月面を走る可能性もある。

この 4 ミリほどのネジが、宇宙に行くかもしれない - -。 社員がそう話すと子どもたちはうれしそうに、専用の機械でネジを作っていった。 ネジ作りを体験した小学生の一人は「月に自分の作ったネジが行くのはとてもうれしい。 将来は宇宙飛行士になりたい。」と声を弾ませていた。 近年厳しい状況に置かれている町工場。 宇宙産業に活路を見いだすため、新たな取り組みを行う町工場が出てきました。 記事後半では、そんな町工場の宇宙に対する思いや挑戦にさらに迫ります。

1938 年創業の桂川精螺製作所は、人気ドラマ「下町ロケット」のロケ地にもなった。 伝統的な中小企業と宇宙ベンチャーが協力するというドラマのストーリーが今、実際に起こっている。 石井昌景社長は「未来の宇宙産業を育てて、子どもたちに夢を与えたい」と語る。 大田区は「ものづくりの街」で知られるが、製造業が置かれている状況は厳しい。 区内の製造業の事業所数は 1983 年の 9,177 をピークに減少傾向に転じ、23 年には 3,584 にまで減った。

激しい国際競争に加え、社員の高齢化や後継者不足といった深刻な問題に直面している企業も少なくない。 そんな中、宇宙ビジネスは一筋の光でもある。 石井社長はこう願う。「成功すれば世界初の『宇宙ネジ』と認められ、今後の商機にもつながる。」

町工場伝統の「仲間回し」 宇宙ビジネスにも

ただ、宇宙ビジネスは簡単ではない。 ロケットなどの部品を作るには、厳しい資格や認定の取得が必要になる。 中小企業 1 社で、請け負うのはかなり難しいというのが実情だ。 こうしたハードルを、中小企業が助け合って乗り越えようと、航空宇宙産業に携わる東京の中小企業 10 社が 2009 年、設立したのが、「AMATERAS (アマテラス)」だ。 メンバーのある企業が宇宙関連の仕事を請け負った際、各メンバー企業の得意分野に応じて、仕事を分担するという仕組みだ。 大田区の町工場の習慣である「仲間回し」というシステムに近い。

三益工業(大田区)の社長で、アマテラスの中西忠輔会長は「宇宙産業には夢があるが、参入にはハードルが高い」と、互助の仕組みの意義を話す。 三益工業は航空部品加工がメインだが、アマテラスを通じて宇宙ロケットの仕事が入ってきたという。 中西会長は「宇宙は、まだまだ主要産業とまではいかないが、作り手にとっても夢があり、仕事をするモチベーションにもなる。 助け合うことで、実績を積み重ねたい。」

アマテラスは活躍の場を着実に広げている。 1998 年から宇宙分野の事業に取り組む航空宇宙部品を扱う中小企業「エイチ・エー・ティー(国立市)」は現在、「インターステラテクノロジズ(北海道大樹町)」のロケットの部品加工を請け負っている。 この会社は実業家の堀江貴文さんが創業し、2019 年 5 月に高度 100 キロ超の宇宙に初めて到達して話題を呼んだ。

エイチ・エー・ティーの特徴は、部品の素材入手から加工、検査まで、全て一社で担う「全加工」ができること。 この強みを生かし、ロケットの新たな挑戦を支えている。 吉田隆史社長は「宇宙はベンチャー企業を中心に、盛り上がっている。 まだまだ開発の伸びしろはある。」と話す。

宇宙産業に救われた中小も

宇宙に窮地を救われたのが、アルミやチタンなどを削る高い技術を持つ「コバヤシ精密工業(神奈川県相模原市)」だ。 08 年に起きたリーマン・ショックで仕事が激減し、経営が急激に悪化。 そんな時に、相模原にキャンパスを置く宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が仕事を依頼してきた。 小惑星探査機「はやぶさ」の部品の発注だった。 この仕事をきっかけに、航空宇宙産業に軸足を移したところ、経営が持ち直したという。 小林昌純社長は「宇宙に活路を見いだしたことが会社の転機になった。」と振り返る。

技術力を買われ、その後、アマテラスのメンバーとして迎えられた。 現在は、土星の衛星「タイタン」を探索する宇宙機「ドラゴンフライ」の部品などを手掛ける。 小林社長は「宇宙にはロマンがある。 宇宙産業を手掛けた事実が、その企業の信頼性を高めてくれる。」と今、手応えを感じている。 (木佐貫将司、asahi = 1-4-25)


H3 ロケット 5 号機の打ち上げ成功 衛星「みちびき 6 号機」軌道投入

日本の主力ロケット「H3」 5 号機が 2 日、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。 日本版「GPS」と言われる準天頂衛星「みちびき 6 号機」を高度約 400 キロで予定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。 H3 は 4 回連続の成功となる。 H3 は、大型ロケット「H2A」の後継機で、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) と三菱重工業が共同開発した。 初号機の打ち上げ失敗後、2 - 4 号機は成功している。

みちびき 6 号機は、スマホなどの位置情報を測る人工衛星。 日本の上空に長くとどまるような準天頂軌道を持つ。 現在は 4 機体制だが、高精度なデータを得るには他国の衛星が必要だった。 そこで他国に頼らなくてもいいよう、日本の衛星網だけで運用できる 7 機体制を 2025 年度中にめざしている。 開発費用は、みちびき衛星 3 機で約 1 千億円で、1 機当たり約 330 億円程度だ。 将来的に 11 機体制にする計画。 整備が進めば、スマホの位置情報の精度が、現状の 5 - 10 メートルから 1 メートルに向上する。

大型の基幹ロケットの 24 年の打ち上げは、H3 が 3 回、H2A が 2 回の計 5 回で、17 年の 6 回(いずれも H2A)に次ぐ回数だった。 今後、25 年度までに H2A を 1 回、H3 を 4 回打ち上げる見込み。 開発から 20 年以上たつ H2A は次が最終号機となり、小型のイプシロンは燃焼試験での相次ぐ爆発で、打ち上げの見通しは立っていない。 基幹ロケットは、当面は H3 のみとなる見込みで、JAXA などは打ち上げを重ねることで、98.0% の成功率を誇る H2A 並みの高い信頼性を確保して、商業打ち上げの受注を増やしたい考えだ。

その準備も進む。 現状では年 6 回が限度の H3 の打ち上げ回数を、7 回以上に増やすため、政府は関連費用を 25 年度当初予算案などに盛り込んだ。 種子島宇宙センターの燃料タンクなどを増やして設備を整え、1 カ月おきに発射できるようにする方針。 (石倉徹也、asahi = 2-2-25)

◇ ◇ ◇

H3 ロケット 5 号機、2 月 2 日に打ち上げへ 悪天候で 1 日延期

宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 30 日、種子島宇宙センター(鹿児島県)で 2 月 1 日に予定していた新型ロケット「H3」 5 号機の打ち上げを 2 日に延期すると発表した。 悪天候が予想されるため。 JAXA によると、1 日は発射場周辺の上空で「氷結層」と呼ばれる雷を誘発する雲が発生し、安全に飛行できないおそれがあるという。 ロケット自体に問題はないとしている。 今回は政府の準天頂衛星「みちびき 6 号機」を搭載する。 有田誠プロジェクトマネージャは 30 日の会見で「(2 号機からの)連続成功を続け、実績を確かなものにしていきたい」と話した。 (佐々木凌、asahi = 1-30-25)

◇ ◇ ◇

H3 ロケット 5 号機、2 月打ち上げ イプシロン S 爆発も「懸念なし」

宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 11 日、H3 ロケット 5 号機を来年 2 月 1 日に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げると発表した。 政府の準天頂衛星「みちびき 6 号機」を搭載する。 午後 5 時半から午後 7 時半の間に打ち上げる。 予備期間は 3 月 31 日まで。 H3 の固体ロケットブースターは、先月第 2 段モーター(エンジン)の試験で爆発が起きた小型ロケット「イプシロン S」と共通の材料を使っている。 JAXA は、ブースターの試験結果や検査データを再確認し、「懸念事項は無い」と判断したという。

H3 は、H2A の後継として開発された液体燃料を使う大型ロケット。 初号機の打ち上げは失敗したが、2 - 4 号機は成功している。 みちびきは、米国が運用する GPS 衛星を補い、位置情報を高精度に測位するための人工衛星。 現在は 4 機体制だが、6号機を含め 7 機体制にする計画だ。 政府は将来的に 11 機体制への拡張をめざしている。 (佐々木凌、asahi = 12-11-24)

1 - 2 - 3 - 4 - 5 - 6 - 7