鉄道ファンの俳優六角精児さんを招いて、中国山地を走る赤字ローカル線、JR 芸備線について話し合うシンポジウムが 23 日、広島県庄原市であった。 六角さんも「乗客が少なく厳しい」と危機感を語る路線を盛り上げようと、主催する市民グループは翌 24 日、お酒を飲みながら鉄道旅をする六角さんの番組にあやかり、「呑み鉄」貸し切り列車を運行。 車内で地酒の利き酒会を開催した。 JR 芸備線は岡山県と広島県を結ぶローカル線。 六角さんはシンポジウムの冒頭、「素朴な山と川と田んぼの風景」と芸備線の魅力を語った。
六角さんは昨年、備中神代駅(岡山県新見市) - 備後落合駅(広島県庄原市)間を乗車した。 山あいの川沿いを走る車窓の景色について、「派手ではないが、日本の原風景が見られる。 風が抜け、走ると気持ちいい。」と振り返った。 だが当時、地元の乗客は 1 人しかおらず、「現実の昼間の芸備線は厳しい」とも感じたという。 観光列車など各地の成功や失敗を見てきた経験を踏まえ、「ダメもとで遊び心で必死にやることが大切」と語り、「外の人間が乗りに来ようと思うのは、沿線の人たちが熱心に取り組んでいるから。 住民が考えることで、これから先につながる。」と呼びかけた。
JR 西日本は 10 月早々にも、国に要請して、芸備線のあり方を見直す議論を始めようとしている。 六角さんはシンポ終了後の取材に、「住民としっかり話し合ってほしい。 国が造った線路なんだから、無くすにしろ残すにしろ、国は慎重に判断して。」と語った。 今回のシンポは、地元住民らでつくる「芸備線魅力創造プロジェクト(横川修代表)」が呼びかけ、2 カ月間のクラウドファンディングで約 311 万円の資金を集めて実現した。 24 日の貸し切り列車は「呑み鉄鈍行ちどり足」号と名付けて運行し、約 100 人が乗り込んだ。 プロジェクトは今後も芸備線の活性化に取り組む。 (西本秀、asahi = 9-24-23)
「芸備線の『あり方』についての議論の場ではございません。」 広島県の幹部はいきなり、JR 西日本側を牽制した。 きょう、芸備線の存廃問題を議論する気はない。 そう宣言するかのように。 5 月 10 日、広島、岡山両県と JR 西、国土交通省による会合の冒頭の場面だ。 声の主は杉山亮一・地域政策局長。 会場に緊張が走った。 赤字ローカル線をめぐり、このような自治体と JR の神経戦は全国各地で起きている。 理由がある。 4 月、地域公共交通の再編に向けた改正地域公共交通活性化再生法が成立した。 関係者たちは一様にこの法整備を意識している。
ローカル鉄道に迫る廃線の危機。 線路は続くよ どこまでも - -。 希望を込めて歌うことはできないのか。 現場からの報告です。 中国地方での焦点は、乗客減少に悩む芸備線だ。 広島、岡山両県は JR 西側と会合を持ってはいるものの、あくまで芸備線の利用促進のためのヒアリングとの位置づけだ。 ただ、JR 西は赤字区間の存廃問題に踏み込みたいと考えている。 JR 西側は会合で、都市部を走る区間も含め芸備線の全区間が赤字だとするデータを自治体に示した。
同社の飯田稔督・地域共生部次長は会合後、記者団に「地域のお役に立ててない。 より良くするには、どうすればよいのか。 一日でも早く議論したい。」と強調した。 国土交通省の田口芳郎・鉄道事業課長も「芸備線の乗客が減少し、大変厳しい状況だ。 事業者と自治体が向き合った対話が必要だ。」と話した。 改正地域公共交通活性化再生法の整備は、平行線をたどる鉄道事業者と地元の話し合いに、国が関与していく姿勢を示す意味合いがある。 中国地方では、山あいを走る芸備線がJR 西の経営上、最も「非効率」な区間を抱えている。 法が新たに定めた「再構築協議会」の設置の第 1 号になるのではないかとの懸念が沿線自治体側には広がる。
自治体側が協議入りを拒む背景には、JR 西の「経営の論理」が優先されて廃線が決まり、その後のバス転換などでも、地元に負担を押し付けられかねないとの疑念がある。 一方、コロナ禍が直撃したJR西の経営は、今年3月期決算では885億円の黒字に持ち直している。沿線自治体からは「全体で黒字なら、ローカル線を含めて支えるのが、国鉄から民営化したときの議論の前提だったはずだ」との不満もくすぶる。
これに対し、JR 西側は「ローカル線は急に芽生えた問題ではない。 少子高齢化や過疎化など長い背景がある。(蔵原潮・中国統括本部長)」と反論。 将来の人口減を見据え、余力のあるうちに転換を模索すべきだと主張する。 互いに譲らないが、芸備線の厳しい現実はある。 自治体幹部からは着地点を探る声もささやかれ始めた。 「地域も必ずしも鉄道維持にこだわっているわけではない。 バスに転換しても、また赤字なら切り捨てられないか。 本当に『持続可能』な地域公共交通を実現できるよう、JR と国の責任を明確にしてほしい。」
JR 西日本は昨年 4 月、コロナ禍前の 2019 年度の実績を元に、輸送密度(1 キロあたりの 1 日平均利用者数)が 2 千人未満の 17 路線 30 区間の収支を公表した。 いずれも赤字運営で「大量輸送という観点で鉄道の特性が十分に発揮できていない」とし、沿線自治体に議論を呼びかけた。
そのうち芸備線を含む 10 路線 21 区間が中国地方を通る。 輸送密度が最も少なかったのは、広島県北東部の芸備線の東城 - 備後落合の 11 人で、次いで島根県と広島県を結ぶ木次線の出雲横田 - 備後落合(37 人)だった。 岡山県では広島県とつながる芸備線の備中神代 - 東城(81 人)、鳥取県では岡山県と結ぶ因美線の東津山 - 智頭(179 人)、山口県では島根県とつながる山陰線の益田 - 長門市(271 人)が少なかった。
中国地方知事会は昨年 5 月、ローカル線の維持・存続を図るよう国に求める要望を採択。 一方で国の有識者会議は 7 月、見直し論議に入る条件として「輸送密度 1 千人未満」などを提言。 19 年度実績に当てはめると、中国地方では姫新線、福塩線、山口線、小野田線、美祢線を含む 9 路線 19 区間が想定される。 (西本秀、asahi = 6-26-23)
北海道の木古内駅(木古内町)と五稜郭駅(函館市)を結ぶ第三セクター「道南いさりび鉄道」に廃止案が飛び出した。 道と沿線の市町で作る地域協議会が経営計画をまとめ、2025 年度までは運行を続けるが、26 年度以降は未定で今年度中に判断すると発表。 同路線は昨年度 2 億 1,100 万円の赤字を計上しており、道からの補助金で穴埋めしている。
道南いさりび鉄道とはどんな鉄道会社なのか、鉄道ライターが解説する。 元は JR 北海道の江差線でしたが、16 年に北海道新幹線の新青森駅と新函館北斗駅間が開業するのに合わせ JR 北海道から分離され、第三セクターの『道南いさりび鉄道』に移管されました。 海沿いを走り、車窓から津軽海峡と函館山が見え、観光客に人気です。 キハ40 を改装した観光列車『ながまれ海峡号』を運行するなど、観光にも力を入れていたんですが …。」
北海道の路線は乗客の減少が問題になっており、江差線も例外ではなかった。 14 年度の 1 日あたりの平均輸送量は 4,377 人で、100 円の営業収入を得るのに使われる営業費用は 248 円。 それを考えれば、道南いさりび鉄道になって経営状態がよくなっているとは考えにくい。 26 年以降、廃止が現実になってもおかしくないのだ。 もし道南いさりび鉄道が廃止になれば、北海道全体に影響を与える可能性もある。 鉄道ライターによると、
「道南いさりび鉄道の線路は貨物列車が入っており、ここから青函トンネルを通って本州へ多くの荷物を運んでいます。 荷はじゃがいもやにんじんなど、北海道で採れる農作物が中心。 もし廃線になって貨物列車が通れなくなれば、北海道の経済に大打撃を与えることになるでしょう。 といっても道南いさりび鉄道が廃止になった場合、おそらくこの区間は貨物専用ということに落ち着くとは思うのですが、保守はどこがするのか、その費用はどうするのか、解決しなければならないことは山積みです。」
北海道の命運を握る道南いさりび鉄道。 26 年度以降どうなるのか、今は見守るしかない。 (海野久泰、アサ芸 = 9-15-23)
乗務員不足、減便、老朽化 … 路線バス廃止決断の社長「見通し立たず」
12 月 20 日で路線バスの運行を終了する金剛自動車(本社・大阪府富田林市)の白江暢孝社長が 12 日、会社で記者会見を開いた。 乗務員不足が深刻なうえ、減便すればさらに収支が悪くなるとの見通しを示し、「できれば続けたかったが、この段階でないともっと大変なことになる。 利用者が混乱しないよう、路線維持に協力したい。」などと述べた。 白江社長によると、2013 年度に約 172 万人だった乗客数は 21 年度には 106 万人に。 19 年度から 22 年度までの間、赤字は最少でも約 2,500 万円、最大では約 8 千万円までになった。
乗務員不足で他社から 3 人の運転士の派遣を受けているが、30 人いた運転士は派遣の人を含めても 20 人で、ダイヤ維持が困難な状況が続いている。 以前から窮状を行政に非公式には伝えていたとし、6 月に補助の申し出があったという。 ただ、バス運転士の長時間労働が規制される「2024 年問題」に触れ、「補助をいただいても、2024 年問題もあって乗務員不足は解決できず、減便で収支が悪化する」と説明。 さらに「1 台 2、3 千万円はするバスの老朽化も進んでおり、今後の見通しが立たない」と厳しい事情を明かした。 (前田智、asahi = 9-12-23)
JR 城端線・氷見線が「青春 18」で乗れなくなる? 「あいの風とやま鉄道」が引き受けに前向き
JR 城端線・氷見線が「あいの風とやま鉄道(あい鉄)」に移管される方針が固まりつつあります。 実現すれば、「青春 18 きっぷ」で両線を乗ることができなくなり、富山 - 高岡間の特例もなくなりそうです。
城端線と氷見線は、富山県西部を走る JR 西日本のローカル線です。 両線とも高岡駅を起点としていますが、同駅を通る北陸本線が新幹線の開業によりあいの風とやま鉄道に移管されたため、JR 西日本の他の在来線と接続しない状態になっています。 JR 西日本は、2020 年に両線の LRT 化など「新しい交通体系」の構築を沿線自治体に提案。 沿線自治体では「城端線・氷見線 LRT 化検討会」で検討してきました。 その結論として、2023 年 4 月に LRT 化ではなく新型車両の導入を目指すことを決定。 新たに「城端線・氷見線再構築検討会」を設け、新型車両の導入などを目指すことで検討が続いています。
7 月に開かれた第 1 回検討会では、沿線自治体から、運行主体について、新たな三セクを設立するのではなく、あいの風とやま鉄道に変更する検討を求める声が上がりました。 これを受け、9 月 6 日に開かれた第 2 回会合では、同社の日吉敏幸社長が出席しました。 席上、日吉社長は、「将来的に当社が城端・氷見線の運営を引き継いで現在の路線と一体的に運営することになれば、県西部における交通ネットワークが強化され、鉄道の運営の面でも効率化を図ることができる。 新しい第 3 セクターをつくるよりも合理的」と述べ、両線の引き受けに前向きな姿勢を示しました。
引き受けの 5 条件
ただ、日吉社長は、無条件の引き受けを認めたわけではなく、引き受ける際の条件を 5 つ提示しました。
・ 城端線、氷見線の赤字補填の保証
・ 人員確保のためJR社員の出向
・ 経営移管前におけるレールなどの再整備
・ 設備整備のための財源確保
・ 直通化を行う場合に技術面における JRの全面支援
最大のポイントは、沿線自治体による赤字補填です。 あい鉄としては、城端線・氷見線を引き受けた場合も、現有路線と区分して採算を管理する姿勢を示していて、「本線」の運営や、他の自治体に影響が出ないよう配慮する方針です。 あい鉄の提示した「5 条件」に対し、自治体・JR 西日本とも前向きに検討する姿勢を示しました。 これにより、城端線・氷見線が JR 西日本から分離され、あい鉄に組み込まれる可能性が大きく高まったと言えます。
新型車両の候補
検討会では「新型車両」について、電気式気動車や蓄電池駆動電車、ハイブリッド気動車、水素車両を候補に挙げています。 一般的な「電車」は候補に入っておらず、両線を電化する方針はありません。 沿線自治体は、国交省が創設した「地域公共交通活性化再生法」などの枠組みを通じて、国の支援を得ながら、城端線・氷見線の再構築に取り組む姿勢です。 議論がまとまれば、数年後、両線は JR から分離され、大きく姿を変えそうです。
「青春 18 きっぷ」特例は?
旅行者的な視点でいえば、城端線・氷見線が JR から分離されれば、「青春 18 きっぷ」で乗車することができなくなります。 現在は、富山 - 高岡間で設定されている特例を活用すれば、高山線から富山であい鉄に乗り継いで、高岡から両線に乗ることができます。 しかし、JR から分離されれば、この特例もなくなるでしょう。 青春 18 きっぷや、その特例を利用して乗車をしたい方は、早めに訪れた方がよさそうです。 (鎌倉淳、タビリス = 9-7-23)
橋梁流出で廃線、高千穂鉄道「代替路線」の現在 たび重なる災害でバスも運行の確保に苦労する
ローカル鉄道の廃止反対理由として、「鉄道がなくなると町がさびれてしまう」としばしば述べられる。 しかし現実には鉄道の乗客が高齢者と高校生だけとなり、利用客数が極端に減少してしまったからこそ廃止論議が起こる。 消えた鉄道の沿線地域と、鉄道を代替した公共交通機関は今、どうなっているのか。 今回は国鉄特定地方交通線から一度、第三セクターになったものの、水害で廃止された高千穂線の沿線を見る。
水害に襲われやすい地域
延岡市は宮崎県北部にある産業都市で、熊本市や福岡市とも経済的なつながりが深い。 しかし、九州山地が間に横たわっており、まず建設された日豊本線は、ルートとしてはかなり遠回りとなった。 これに対し、直線状に熊本と結ぶ鉄道も計画された。 豊肥本線の立野へ向けて昭和初期に建設が進められ、熊本側はまず 1928 年に立野 - 高森間が開業(現在の南阿蘇鉄道高森線)。 延岡側は五ヶ瀬川沿いの険路を克服しつつ、1935 年に日ノ影線延岡 - 日向岡元間が最初に開業した。 これが高千穂に達し、高千穂線と改称されたのは戦後の 1972 年である。
しかし、高千穂 - 高森間が未開業のまま、国鉄は高千穂線を特定地方交通線に指定。 第三セクター鉄道「高千穂鉄道」へ 1989 年 4 月 28 日に転換された。 ところが、国鉄時代にもたびたび襲われていた水害に 2005 年 9 月に再び見舞われ、橋梁が流出。 最終的に復旧が断念され、書類上、2008 年に全線廃止に至っている。 代替交通機関は並行していた宮崎交通の路線バスで、増便により対処している。
現在、延岡駅 - 高千穂バスセンター間の路線バスは、旧道(県道 237 号)経由とバイパス経由の両系統が交互に、合わせてほぼ 1 時間ごとに 1 日 13 往復が走っている。 これは高千穂鉄道の最後のダイヤと運転本数の上では等しい。 ほかに、延岡 - 熊本間の特急バス「たかちほ号」も、途中停車するバス停は限られるものの延岡 - 高千穂間でも利用可能だ。 ただ、訪問した 7 月 14 日には日之影町内の県道 237 号で大型車の通行規制があり、槇峰 - 日之影町立病院間は全便ともバイパス経由で運行されていた。 旧道経由の方が所要時間が 17 分ほど長いため、時間調整を行いつつ走っている。
観光色豊かな代替バス
JR 延岡駅は 2017 年に JR の新駅舎、翌年に待合室や書店などがある複合施設「エンクロス」がオープンし、面目を一新した。 バス乗り場も駅前広場の南北 2 カ所に設けられている。延岡市内路線や近郊へ向かう路線のほとんどが、南側のロータリーに発着するのに対し、高千穂へ向かう路線だけが、長距離高速バスとともに北側のロータリーに発着する。 他の路線と比べ内外の観光客の比率が高いと思われるだけに、この措置は案内上、わかりやすい。
まず延岡駅 8 時 45 分発(旧道経由)のバスに乗ると、やはり観光客らしき人が座っていた。 車内の自動放送にも英語、ハングル、中国語が添えられている。 空港からも新幹線駅からも、さほど近いとは言えない土地だが、渓谷美や神楽をはじめとした高千穂の人気の高さがさっそくうかがえた。 バスは市街地を通り、途中のバス停で地元客を拾う。 延岡駅近くには古くからの商店街が固まっているが、現状は他の都市と変わらず、営業していない様子の店が目立つ。 イオンをはじめとするロードサイド形の大型店舗は、むしろ南延岡駅に近い、大瀬川より南のエリアに多い。
「神話街道」との愛称がある国道 218 号に入ると、ひたすら五ヶ瀬川に沿ってさかのぼってゆく。 旧行縢(むかばき)駅に近い平田までは、別系統の行縢山登山口行きも 1 日 3 往復加わる。 平田でいったん降りて周囲を観察した後、11 時 15 分発の旧道経由に乗り継ぎ、日之影町を目指す。 細見、岡元(日向岡元)、吐合と駅名で覚えがある地名も現れる。 ただ、完全に鉄道に沿ったルートではなく、例えば国道から離れる曽木は経由しない。 そうした地区は、旧北方町から継承した延岡市の乗合タクシーに任されている。
「駅」を名乗るバス停が残る理由
2006 年に延岡市へ編入された北方町の中心地が川水流。 廃止後も、そのまま「川水流(かわずる)駅」を名乗るバス停がある。 鉄道に対するノスタルジーかと思われがちだが、道幅も狭い集落の中で、元の駅前広場が駐車スペースとして使えるため自家用車を停めやすい。 つまりは鉄道時代と変わらず送迎の拠点でもあり続けているのだった。 駅自体は廃止されても、引き続き駅と称しておいた方が、わかりやすいのは確かである。 家族が高校生を迎えに来る場面が、このバス停でも展開される。 山岳地帯だけに、車がないと末端の輸送は担えない。
川水流から先、急流が削った谷はいちだんと深まり、平地はごく少なくなる。 一方、田畑は山の上に開かれた土地に広がっており、棚田の風景が広がる。 バイパスはそうした開拓地を通り、地形を半ば無視して長大トンネルで山を抜け、高い橋梁で谷をまたぎ越しているが、そちらに住まう人口も今や少なからず。 双方に路線バスを振り分けなければならないゆえんである。 川水流から少し進んだ蔵田で、バイパス経由と旧道経由のルートが分かれる。 バイパス経由は、延岡ジャンクションから蔵田交差点まで完成している自動車専用の北方延岡道路(九州中央自動車道)に合流。 この先は一般道となり歩行者や自転車の通行もできるようになるが、高速運転に適した規格が高い道路である。
一方の旧道は、時に対向車との離合も難しくなるような隘路が続き、川面をすぐそこに見つつ走る。 少しでも平らな土地があると、八戸、日之影といった集落がある。 日之影町の現在の人口は 3,200 人余り。 それが五ヶ瀬川に面した日之影の集落をはじめ、広い町内に散らばって住んでいる。 さらに日之影町の場合、標高差がこれに加わり移動を困難にしてきた。 温泉や高千穂鉄道の車両を転用した宿泊施設が今も営業している、元の日之影温泉駅は標高 108m ほど。これに対し、町のシンボルにもなっている青雲橋のたもとにある、バイパスに面した道の駅は標高 230m ほどある。 そんな高所にも集落が散在しており、徒歩や自転車などでの往来は極めて難しい。
川沿いと高台を結ぶ町営バス
青雲橋自体も川面からの高さは 137m。 高さ 100m を超える道路橋は、日之影町内に大小 215 基あるそうだ。 そのような地形であるから、自家用車の運転ができない層のために、日之影町がコミュニティバス「すまいるバス」を走らせている。 かつては五ヶ瀬川沿いにあった町役場や日之影町国民健康保険病院、あるいは中学校なども、災害の際の対策拠点になるべく、今は水害のおそれがない高台へと移転している。 こうした施設と、宮崎交通の日之影駅前バス停や、日之影町立病院バス停などを結ぶ「循環線」は平日 1 日 9 便、土曜日は 5 便と運転本数が多い。 他に、町内の集落と中心地を結ぶ系統も、運転日を決めて隅々まで走り回っている。
道の駅青雲橋 13 時 10 分発のすまいるバスで日之影温泉駅。 さらに日之影温泉駅 14 時発で日之影町立病院まで乗ってみた。 コミュニティバスは 1 乗車 100 円とか、場所によっては無料というところもあるが、日之影町は 300 円。1日乗車券が 500 円と比較的、割高だ。 急勾配、急曲線が続く悪路を走ってもらえるだけでもありがたいが、車両の傷みも早いであろうし、燃料費も高くつきそう。厳しい山間部の生活を支えている経費と考えると納得する。
日之影町立病院が宮崎交通とすまいるバスの小さなターミナルとなっており、待合室も設けられている。 14 時 57 分発のバイパス経由高千穂行きには、他の路線の運用との兼ね合いか小型バスが現れて、意表を突かれる。 しかし、混雑はない。 この便にも観光客は乗っていた。 高千穂行きはここからすべて同じ経路となり、いったんバイパスを進む。 自動車専用道の高千穂日之影道路(九州中央自動車道の一部)が完成しているが、バスは旧国道へ左折。高台の高巣野地区を通る。 再びバイパスに合流すると、岩戸川をまたぐ雲海橋を通り、高千穂町へ入る。
訪日客でにぎわうバスセンター
道沿いには都市部でもおなじみのファミリーレストラン、ドラッグストア、携帯電話ショップなどが次々に現れ、山深い秘境をイメージしていると面食らう。 この町は人口 1 万人以上。 延岡市内を除くと旧高千穂鉄道沿線唯一の高校も高千穂町内にある。 そして道路整備により、他県ナンバーや大型車も含めて自動車の通行量が多い。 旧高千穂駅前を通り、町の中心部にある高千穂バスセンターには 15 時 20 分に着いた。 延岡駅からここまでバイパス経由でも 1 時間 20 分かかっている。 しかし、高校生向けか朝 7 時台、8 時台に高千穂へ着く便も設定されており、高千穂バスセンターからも朝 5 時台に延岡駅行きが 2 本出発。 早朝からの流動がうかがえる。
高千穂バスセンターには観光案内所や宮崎交通の営業窓口などもあり、小規模ながらも地域の交通の中核となっている。 待合室にはインバウンド客の姿も多く、16 時 37 分発の延岡駅発西鉄天神高速バスターミナル行き「ごかせ号」と、16 時 57 分発の熊本駅前行き「たかちほ号」に分かれて乗り込んだ。 前者は 1 日 4 往復、後者も 2 往復(うち 1 往復は期間限定運行)もあり、山間部の基幹交通機関である。 (土屋武之、東洋経済 = 8-3-23)
〈編者注〉鉄道の代替輸送というより、同地域では公共交通機関として既にバスがその地位を確立していたのではないでしょうか? 個人的にも、狭く、高低差の大きい場所に鉄路を確保すること自体無理があるように感じます。 途中のバスターミナルから更に小さな集落へ、あるいは病院へとマイクロバスが運行され、有機的に人の動線を確保しているのであれば、到底、鉄路では叶いません。
この地域の特色は、高千穂が稀有で魅力的な観光地(高千穂峡や天の岩戸など)であり、非居住者の移動も多いことで今後も同地域のハブとして機能すると期待されます。 より安全に走行できる道路を整備することに投資を続けるのが得策でしょう。 ただ、鉄道の無くなった(あるいは、無くなる)地域の中では稀な例ではないでしょうか?
JR 四国 3 路線 4 線区、存廃議論の候補に 予讃線海回りなど社長意向
JR 四国の西牧世博(つぐひろ)社長は 25 日、予土線、予讃線、牟岐線の 3 路線 4 線区を候補として、存廃を含めた議論を自治体と始める意向を明らかにした。 同社が存廃議論の候補となる具体的な線区を挙げたのは初めて。 対象となる線区は、予土線の全線、予讃線海回り区間の向井原―伊予大洲間、牟岐線の阿南 - 牟岐間と牟岐 - 阿波海南間。
赤字ローカル線を巡っては、今月 21 日に成立した改正地域公共交通活性化再生法で、路線の存続やバスへの転換などを議論する「再構築協議会」を事業者や自治体の要請を受けて国が設置できると盛り込まれた。 西牧社長は会見で「改正法の成立を見越して、四国の 4 県に 3 月、路線の存廃について話し合いたいと投げかけた」と明かした。 国土交通省の有識者会議が示した目安によると、再構築協議会の設置対象となるのは、1 日 1 キロ当たりの平均利用者数が 1 千人未満の線区。 四国で 2019 年度、1 千人を下回っていたのがこの 4 線区だった。
西牧社長は今後について「いきなり協議会を開くのではなく、コロナ禍で傷んだ地域の(輸送人員などの)データを示すことから始めたい」とした。 国土交通省は、改正法を受けた各地の動向について「他の事業者から具体的な動きは聞いていない」としている。 赤字ローカル路線を巡っては、JR 西日本が昨年 5 月、中国山地を走る芸備線について、地元自治体との利用促進検討会議の場で「特定の前提を置かない議論を開始したい」と存廃を含めた議論を求めたところ、自治体側が反発した。 JR 西は取材に「出口を決めた議論ではなく、どんな交通体系が最適かを話し合っている。 廃線ありきではない。」としている。
JR 西管内では、広島と島根をつなぐ三江線について、JR 西が自治体側に話し合いを申し入れ、2018 年 3 月に営業を終えて廃線となった例がある。 (福家司、asahi = 4-25-23)
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全線で赤字、2 年連続 JR 四国が 21 年度の線区別収支公表
JR 四国は 8 日、2021 年度の全路線の線区別収支を公表した。 コロナ禍の影響が大きかった前年度よりやや改善したものの、2 年連続で全線区が赤字となり、厳しい経営が続いていることが明らかになった。 全路線の赤字額は 199 億 3,400 万円で、20 年度より 11.7% 減ったが、コロナ禍の影響の少ない 19 年度を 51.6% 上回った。 線区別にみると、赤字額が前年度より拡大したのは、予讃線の向井原 - 伊予大洲間(海周り)、土讃線の高知 - 須崎間と須崎 - 窪川間、高徳線の引田 - 徳島間と牟岐線徳島 - 阿南間、鳴門線池谷 - 鳴門間の計 6 路線だった。
赤字額が最大だったのは土讃線の琴平 - 高知間の 28 億 6,500 万円で、予讃線の観音寺 - 今治間、高松 - 多度津間の幹線系の 3 線区が 20 億円を超えた。 一方、19 年度まで唯一の黒字だった本四備讃線(児島 - 宇多津間)は 4 億 3,500 万円の赤字で、国の支援措置などで赤字額は縮小したが、2 年ぶりの黒字回復はならなかった。
100 円の収入を得るのにいくら経費がかかるのかを示す「営業係数」でみると、全路線では 233 円で前年度より 35 円改善したが、19 年度と比べると 78 円高い。 線区別では、予土線北宇和島 - 若井間が 1,761 円で前年度に続いて最も高く、国や自治体から委託された工事がなかったため、前年度より 360 円高くなった。 次いで牟岐線阿南 - 阿波海南間の 1,096 円、予讃線(海周り)の 626 円だった。
総合企画本部の新居準也担当部長は「新型コロナのワクチン接種が進むなどしたため人流が回復し、収支は改善されたが、まだ 19 年度の水準には戻っていない。 来春の運賃改定(値上げ)にご理解をいただきたい。」と話している。 (福家司、asahi = 11-9-22)
「混雑で疲れ果てる」、「ひどい」福岡都心の JR 減便、相次ぐ苦情
JR 九州は 2022 年 9 月のダイヤ改正で、福岡都市圏の鹿児島線で初めて、朝夕のラッシュ時の減便に踏み切り、編成車両の削減も進めた。 西日本新聞「あなたの特命取材班」が同年 10 月からウェブページで意見を募ると、乗客ら千人以上から「これまでにない混雑で疲れ果てる」、「乗り降りに時間がかかり、列車が遅延する」などの苦情が寄せられ、それは現在も続いている。 (水山真人、仲山美葵)
「乗客がコロナ前の 9 割程度に落ち込み、元に戻らないと判断した。」 JR 九州は今回のダイヤ改正の理由をこう説明する。 例えば、最も混雑する博多駅(福岡市博多区)の平日朝のラッシュ時(午前 7 時 15 分 - 8 時 45 分)に到着する快速と普通列車だと 31 本から 26 本に減った。 車両総数でみると、244 両から 14% 減の 210 両となった。 取材班は 22 年 10 月から、ダイヤ改正の意見を募るアンケートを実施中で、これまでに約 740 人が回答。 改正に「不満」、「やや不満」が 9 割以上だった。 これとは別に、取材班のウェブページにも 380 件以上の意見が書き込まれた。
JR 九州には厳しい意見が多い。 福岡市の男性会社員 (41) は「一定の合理化は必要だが座席減、減便、減車、3 重減はやり過ぎだ」とし、通勤を車に切り替えた。 同市の男性会社員 (68) は「(通勤列車の)混雑解消の流れに逆行し、都市鉄道の自殺行為」と批判。 別の人は「収益が改善しても、JR 九州への信頼が失われる。」と手厳しい。
列車遅延や事故の危険性を訴える声も多い。 通勤で 20 年以上利用してきたという福岡県岡垣町の女性会社員 (50) は「混雑がひどく(乗り降りに時間がかかって)、遅延も当たり前。 今回のダイヤ改正はこれまでになくひどい。」と悲鳴を上げる。 一方で、福岡市の女性会社員 (34) は「夕方の博多駅は人がごった返し、線路に落ちるのではないかと怖くなる」とホームの危険性を訴えた。
同様の回答は現在も続いている。 JR 九州にも、今回のダイヤ改正後 1 カ月弱(22 年 10 月中旬時点)で、約 900 件の苦情や意見が寄せられた。 18 年 3 月のダイヤ改正で減便した際に寄せられた苦情が、改正後 1 年間で約 900 件だったのと比べ、いかに多いかが分かる。 同社は改正後、一時的に、各駅の判断で乗車を支援する要員をホームに配置した。 12 月には混雑を緩和するため急きょ、博多駅を夕方以降に発車する 7 本の快速・普通列車を 6 両から 9 両編成に増やした。 今年 3 月 18 日のダイヤ改正では夕方の普通列車 1 本で、運転区間を延長する。
同社は「改正直後は一部の列車で混雑が激化したが、利用者が自ら時間帯をずらしたり、増車の対応をしたりして、現在は大きな混乱はない」との見解だ。 千鳥駅(福岡県古賀市)から利用するという小学生の男の子も 1 月中旬、アンケートに答えてこう要望していた。 「もう少し車両を増やすなど、利用客の数に見合った柔軟なダイヤを作ってほしい。」
サービス低下、利用客離れ進む懸念 交通評論家・佐藤信之氏
「JR 九州の光と影」の著書がある交通評論家の佐藤信之氏に、昨秋のダイヤ改正についてどう考えるか聞いた。 JR 九州は、地域に根ざした住民に優しい会社、と言われてきた。 車両の水準も高かった。 九州は比較的、沿線の人口規模があり、鉄道事業に有利な面がある一方、高速バスなど自動車の利用も多く、競争的な市場でもある。 JR 九州は、駅ビルの開業などエリア開発により旅客数を増やしてきた。 サービス改善のインセンティブが高かったとも言える。 これらが成功し、株式上場を果たした。
完全民営化したことで、低い鉄道収益率の改善が迫られた。 当初はローカル線でコストを削減したが、幹線系にも手が入り、ついに通勤列車にも及んだ。 座席撤去というサービスダウンによって、数字上の混雑率を下げている印象で、サービスが急に悪くなったと感じる。 その影響で、利用客離れが進むことを懸念すべきだろう。 将来的にはサービスダウンさせずに、自動運転などによる合理化が不可避。 都心へのアクセスサービスは大切だ。 鉄道各社は近年、座席指定による着席サービスで追加料金を取っている。 お金を払ってでも座りたい人は多い。 これからの都市鉄道のあり方だと思う。
黒字化とサービス維持の両立という難題に直面し、JR 九州は混乱しているようにみえる。 コロナ後、お客を戻すにはサービス向上が不可欠だ。 (西日本新聞 = 2-6-23)
鉄道の難所・板谷峠を延長 23 キロの「米沢トンネル」で抜ける
JR 東日本と山形県が建設推進で覚書 奥羽新幹線も視野に?
JR 東日本と山形県は 2022 年 10 月 24 日、「山形新幹線米沢トンネル(仮称)整備計画の推進に関する覚書」を締結しました。 米沢トンネルが建設されるのは、福島・山形県境の板谷峠。 古くから鉄道の難所として知られ、山形新幹線「つばさ」も、急こう配・急曲線の峠越えはスピードダウンを強いられます。 覚書の趣旨は、緩やかなカーブで峠を貫く山岳トンネルを建設し、東京 - 山形間の所要時間を短縮しつつ、輸送の安定性を高めるというものです。
米沢トンネルは 1973 年に基本計画が定められた「奥羽新幹線」の建設区間にも重なります。 本コラムは、覚書の中身とともに、山形新幹線の改良が将来の奥羽新幹線につながる可能性を解説。 2 つの新幹線の関係性を解きあかしたいと思います。
時速 55 キロ以下の走行区間もある「板谷峠」
福島市と、山形県第 4 の都市・米沢市の直線距離は 35 キロ程度。 鉄道営業キロは 40.1 キロです。 関東では中央線東京 - 立川(鉄道営業キロで 37.5 キロ)、関西では東海道・山陽線新大阪 - 兵庫(鉄道営業キロで 38.7 キロ)くらいの距離感です。 ところが、山形新幹線は福島 - 米沢間に所要 35 分程度かかります。 平均時速は、単純計算すれば 70 キロ弱。 「つばさ」は本来、在来線区間も最高 130 キロで走れるのですが、板谷峠は時速 55 キロ以下にスピードダウンしなければならない区間もあり、速達化のネックになっています。 自然条件の厳しい板谷峠は、雨や雪に加え、動物との衝突などによる運休・遅延も発生します。
JR 東日本と山形県の協議まとまる
現状の打開に向け、JR 東日本は 2017 年 11 月、山形県に対し抜本的な防災対策になるトンネルのおおまかなルートや事業費などの調査結果を提示しました。 これを受けて両者は翌 2018 年 3 月から、実務者レベルで検討。 2021 年 3 月には、JR が県に時速 200 キロ以上で高速走行できる、緩やかなカーブ状のトンネルを検討するため、より詳細な調査を山形県と共同で実施したい旨を提案しました。 その後、両者の協議がまとまり、今回の覚書締結になったというのが大枠の流れです。
米沢トンネルの早期実現に一致協力
覚書は、「米沢トンネル整備計画の早期実現に向けた基本事項」を定めます。 事業の進め方を表すのが実施内容で、JR と県は「事業スキーム確定に向けた検討」、「事業化に資する調査及び検討」、「財政的支援を得るための政府への働きかけ」などに共同で取り組みます。 ここで、米沢トンネルのスペックをあらためて。 建設区間は山形新幹線庭坂駅付近 - 関根駅付近までの約 23 キロ、工期は着工から約 15 年、事業費約 1,500 億円を想定します。 覚書の有効期間は 10 年間です。
米沢トンネルが構想される板谷峠越え区間。 全長 23 キロの新幹線トンネル(正式には在来線ですが)は、上越新幹線の大清水トンネル(22.2 キロ)に並ぶ長大トンネルになります。 トンネルは緩やかなカーブを描き、時速 200 キロ超での高速走行が可能。 東京 - 山形間の所要時間は現在より 10 分程度短縮される見込み。 自然災害による輸送障害も減って、山形新幹線の安全性・安定性が格段に向上します。 なお、庭坂 - 関根間には板谷、峠、大沢の 3 駅がありますが、山形県みらい企画創造部総合交通政策課によると、途中駅のあり方については今後の検討課題とのことです。
「新トンネルの実現は山形県の発展に直結」
山形県庁での締結セレモニーには、吉村美栄子知事、JR 東日本からは渡利千春常務・グループ経営戦略本部長、三林宏幸執行役員・東北本部長が出席。 吉村知事は「新トンネルの実現は県の発展に直結する。 整備効果を高めるためには、県内全域での沿線活性化や人流拡大が重要で、取り組みを加速させていきたい」とコメント。 JR の渡利常務と三林東北本部長も「米沢トンネルで、リスクへの備えが強化される。 山形新幹線の有効活用や利用促進に向け、官民連携を一層深めたい。」と述べました。
アプト式も検討された板谷峠
後段の奥羽新幹線に移る前に、板谷峠越えの鉄道史を一コマ。 福島 - 青森間の奥羽線が全通したのは明治年間の 1905 年です。 峠越えルートは 3 案あり、当初は群馬、長野県境の碓氷峠(在来線時代の信越線)と同じ、線路と車両の歯車をかみ合わせて進むアプト式も検討されました。 最終的には、こう配を 1,000 メートルで 33.3 メートル登る 33.3 パーミル(一部 38 パーミル)に抑え、一般鉄道の粘着式で建設されました。 しかし、急こう配に対応するため、戦前は 4110 形、戦後は E10 形という動輪 5 輪の強力 SL が峠越え専用機として投入されました。 国鉄は"板谷峠問題" を解決するため、他線区に先がけて 1949 年に電化しました。
昨年、地元 PT が調査結果を公表(奥羽新幹線)
ここから米沢トンネルと奥羽新幹線に話題を移しますが、山形新幹線のままの表記は 2 つの新幹線が登場して分かりにくいので、"本名" の「奥羽線」を原則使用します。 奥羽新幹線は、福島 - 秋田間の 265.6 キロ。 政府が 1973 年に基本計画を閣議決定したものの、その後約 50 年間にわたり目立った動きなしというのは、四国新幹線や山陰新幹線に共通します。 奥羽新幹線をめぐっては、早期着工を求める沿線自治体の「羽越・奥羽新幹線関係 6 県合同プロジェクトチーム (PT)」が 2021 年 6 月、初めての調査結果を公表しました。
それによると、奥羽新幹線の主な経由地は県庁所在地の山形市。 起点の駅部を共用すると仮定するとしても、既に建設済みなのは 700 メートル程度(福島駅付近と思われます)で、ほぼ全区間を新線として建設します。
新庄 - 大曲間を改軌すれば新幹線車両は走れますが …
奥羽新幹線の山形市以外の経由地は未定ですが、想定ルートを現在の奥羽線に重ねれば、福島 - 山形 - 新庄間 148.8 キロは山形新幹線として新幹線車両の走行が可能です。一方、北側の大曲 - 秋田間 51.7 キロは秋田新幹線として、こちらも新幹線車両が走れます。 理論的には、2 つの新幹線に挟まれた新庄 - 大曲間 98.4 キロを新幹線規格の標準軌(1,435 ミリ)に改軌すれば、(東京) - 福島 - 大曲 - 秋田のルートで一応新幹線車両は走れます。 しかし、沿線自治体や経済界が望むのは、在来線とは別線のフル規格新幹線です。
今回の覚書には、当然ですが「奥羽新幹線」のフレーズは一切登場しません。 それでも「時速 200 キロ超で走行可能」の米沢トンネルを、地元が「奥羽新幹線建設に向けた第一歩」ととらえることは容易に想像できます。 ちなみに、JR 東日本は秋田県と 2021 年 7 月、秋田新幹線の新仙岩トンネル(赤渕 - 田沢湖間)整備計画の推進に関する覚書を締結。 内容は今回の米沢トンネルとほぼ同趣旨で、JR 東日本は山形、秋田の両新幹線でネック解消による輸送改善に取り組みます。
本コラムは、奥羽新幹線の必要性には言及しませんが、米沢トンネルが山形新幹線の線区改良ばかりでなく、将来の奥羽新幹線建設に向けた最初のステップという見方もできることは、意識しておいていいでしょう。 (上里夏生、鉄道チャンネル = 11-12-22)