ローカル線を残すには? 「『公』が支えない鉄道は日本だけ」専門家に聞く 必要なこと

地方のローカル線が存廃に揺れている。 復活の方策はあるのか。 未来の鉄道の在り方を、専門家に聞いた。 ローカル線を存続させるには、どうすればいいか。 島根県立大学准教授で、ローカルジャーナリストとして『ローカル鉄道という希望』の著書もある田中輝美さんは、鉄道に「プラスアルファの価値」を加えることが大切だという。 キーワードは「生かす」だ。 「鉄道を通勤通学の移動手段としてだけではなく、鉄道の持つ資産を有効活用し、新しい価値を生み出していくことです。 それが結果として、鉄道を『残す』ことにつながります。」

運命共同体の 3 者

田中さんが注目する鉄道の一つに、兵庫県南部の田園地帯を走る第三セクターの北条鉄道がある。 1987 年の国鉄民営化から赤字が続き、廃線議論と隣りあわせだった。 そこで北条鉄道は、利便性の向上はもちろん、演奏会やバー、お坊さんによる読経、絵手紙教室といった関わりたい人の想いを駅や列車で一緒に実現し、乗客を増やしていった。 また、各地の駅を活用し、みんなが集まる「場」にすることも有効だと田中さんは言う。

「今後必要なのは、住民と地元自治体、そして JR など鉄道事業者の信頼関係です。 特に自治体と JR は対立構造になってしまいがちですが、そうではなく、本来は住民と自治体、鉄道事業者の 3 者は運命共同体であるはず。 対立するのではなく、3 者が力を合わせることが大切。 そうしなければ、分断されたままで何の解決策も生まれません。」 鉄道と街づくりに詳しい国学院大学の大門創(はじめ)准教授(交通計画)は、鉄道の存続には「鉄道とセットになった都市計画が大事」と話す。

「鉄道利用者が減った一因に、人口増加期の都市計画において、市街地拡大に際し鉄道ネットワークを加味してこなかったことがあります。 1960 年代の高度経済成長以降、モータリゼーションの時代になり、道路をつくれば好きな時に移動できる豊かな時代が来ると考えられてきました。 そのため、行政は、駅から離れた場所を区画整理し住宅地をつくっていきます。 そうなれば当然、鉄道は利用されなくなります。」

そこで、鉄道と街づくりをセットにした地域を考えることが重要になってくるという。 キーワードに挙げるのが「コンパクト・プラス・ネットワーク」。 国交省が進めている、鉄道ネットワークを加味したコンパクトな街づくりの取り組みだ。 例えば、瀬戸内海を望む港町の広島県三原市は、JR 三原駅前の遊休地に 2020 年、図書館やホテル、スーパーなどが入る複合施設を開業。 中心部の衰退に、歯止めをかけている。

「このように駅周辺に商業、医療、福祉などの機能を整備し、鉄道に人を誘導するインセンティブ(動機)を設けることで鉄道の利用者を増やしていきます。 近年増えている、自然災害による河川の氾濫や土砂崩れが起きそうな場所に住宅を建てることも避けられます。(大門准教授)」 そんな中、鉄道を含めた公共交通の役割が再評価され、復活しているのがヨーロッパだ。 例えばオーストリアは 21 年に国内全ての鉄道、トラム、バスが 1 年間乗り放題の「気候チケット」を導入し利用者を増やしている。 チケットの価格は 1,095 ユーロ(約 17.5 万円)、1 日当たりに換算すると3ユーロ(約 480 円)だ。 そのために国は、まず 3 億ユーロ(約 480 億円)を用意した。

未来を起点に

国内外の公共交通に詳しい関西大学の宇都宮浄人(きよひと)教授(交通経済学)は、「コロナ禍を経て、欧州は移動手段を車から鉄道を始めとした公共交通へとシフトし、国が新たな取り組みを行っている」と語る。 「根底にあるのが『持続可能な社会』です。 持続可能と言えば、日本では『持続可能な交通』と、交通を維持することに焦点が当たっています。 対してヨーロッパは、ウェルビーイング(心身の健康や幸福)を向上させ、将来世代がそこで暮らしていける持続可能な社会を支える手段として交通を捉えています。」

こうしたヨーロッパの交通政策の枠組みの基本となっているのが、「SUMP (サンプ)」と呼ばれる交通計画だ。 Sustainable Urban Mobility Plan(持続可能な都市モビリティ計画)の頭文字を取ったもので、13 年に欧州委員会で提示され今では欧州発の指針として世界に広がっている。 SUMPの特徴は、未来を起点にした「バックキャスト」にあると宇都宮教授。 「目指す未来について市民も含めた関係者の合意形成を得ながらビジョンを固め、交通手段分担率などの目標値を設定した上で、逆算しインフラ整備や交通規制などの政策を展開します。」

日本でも、富山県が初めて SUMP の考え方を取り入れ、24 年度から 5 年間の地域交通戦略を策定している。 バックキャスティング型の計画で、収益性よりウェルビーイングの向上を目指す。 富山県地域交通戦略会議のメンバーでもある宇都宮教授は言う。 「地域交通サービスは『公共サービス』という認識で、民間に丸投げではなく自治体や住民が自ら投資・参画する形に切り替えます。 『公』が支えない鉄道は日本だけ。 欧州から学べることは学び、日本も舵を切る時です。」 時代の変化に応じた発想で、鉄道の未来を考えていく必要がある。 いったんなくなった鉄路は、二度と戻らない。 (野村昌二、AERA = 2-26-24)

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地方ローカル線、全国 90 区間で存続危機 最も崖っぷちにある鉄路は「輸送密度」 20 人

ローカル線を取り巻く環境は、厳しさを増している。 存続が危ぶまれる区間はどこか。 鉄路が寸断されるとどうなるか。

千葉県の房総半島のまん中を走る JR 久留里線(木更津 - 上総亀山)。 2 月上旬の平日の午後、終着の上総亀山駅(同県君津市)で 2 両編成の列車を降りた乗客は、5 人しかいなかった。 駅近くに住む 70 代の女性は、千葉市内の病院に行くのに、週に 1 度は列車を利用している。 「久留里線は大事な足。 なくなったら、困っちゃうわよ。」

昨年 3 月、里山を走るこの鉄道に衝撃が走った。 運営する JR 東日本が、久留里線 32.2 キロのうち、末端部の久留里(同) - 上総亀山間 9.6 キロについて、バス路線への転換も視野に存廃協議に入ると、千葉県と君津市に申し入れをしたと発表したのだ。 JR 東が事実上の存廃協議を申し入れたのは、災害で長期不通となった路線を除き初めて。 JR 東は、「鉄道の特性である大量輸送のメリットを発揮できていない状況にある」と説明した。

揺れる地方の鉄路

JR 東に限った話ではない。 地方の鉄路が存廃に揺れている。 国土交通省は昨年 8 月、赤字が続くローカル線の経営改善や存続などを議論する「再構築協議会」を設置する際の基準を示す基本方針を決定。 1 キロ当たりの 1 日平均利用者数を表す「輸送密度」が「1 千人未満」の線区を優先すると記した。 1 千人未満の線区は、いったいどれくらいあるのか。 非公表の JR 東海を除く、JR グループ 5 社がホームページなどで公表しているデータなどで調べると、全国に 90 区間。

最も崖っぷちにあるのは、広島・岡山両県を走る JR 西日本・芸備線の東城(広島県庄原市) - 備後落合(同)の 25.8 キロ区間で、輸送密度は 20 人(2022 年度)。 冒頭の久留里線の久留里 - 上総亀山間は、輸送密度は 54 人(同)とワーストスリー。 21 年度の運賃収入はわずか 100 万円で、3 億円近い赤字。 営業費用に対する運輸収入を示す収支率は 0.5% で、JR 東全体でも最低水準にある。

「鉄道の存続を真剣に議論する時にきている。」 鉄道と街づくりに詳しい国学院大学の大門創(はじめ)准教授(交通計画)はそう指摘する。 日本の鉄道は、鉄道事業者が全てを独立採算で賄うのが原則で、山手線など都市部で稼いだ利益を地方の赤字路線に充てる「内部補助構造」によってネットワークを維持してきた。 しかし、そもそも人口減少で鉄道利用者は減少傾向だったのが、コロナ禍で加速した。 稼ぐ力が細る中、今までの枠組みでは通用しなくなっている、という。 「例えば収支率 0.5% ということは、99.5% は赤字補填していることになります。 そうした路線まで内部補助構造によって支えるのは、限界にきています。(大門准教授)」

鉄道網途切れると

日本は、全国に鉄道が網の目のように張り巡らされている。 現在 JR、私鉄を合わせた鉄道の総延長は約 2 万 7 千キロと、地球を 3 分の 2 周するまでになっている。 そのネットワークが途切れると、何をもたらすのか。 大門准教授は、「広域的視点と地域の視点の両方でインパクトが生じる」と言う。

「広域的視点としては、ネットワークが寸断されることによって、利用者は今までは目的地に鉄道だけで行くことができたのができなくなり、車やバスなど別の代替交通手段を使うことになります。 その結果、既存の鉄道の収支が下がり、運賃の値上げになることも考えられます。 利用者にとっても、移動の選択肢が狭まります。」 地域的なインパクトは、高齢者や学生など「交通弱者」に及ぼす影響だ。 特に地方は、学生が鉄道を使えなくなると通える学校の選択肢が減ります。 また学校や塾などの送り迎えを保護者が行うことになり、そうなると保護者の時間が制約され活動が停滞するので、地域の活性化にマイナスの影響を与えることにもなります。(大門准教授)」

18 年 4 月、島根と広島を結ぶ JR 西日本の三江線(さんこうせん、三次 - 江津(ごうつ)、全長約 108 キロ)が、利用者の減少が止まらず廃線となり、バスに代替された。 廃線から 6 年近く経ち、沿線に住む 40 代の女性は、「街も寂しくなった」と嘆く。 「観光にも生かせる鉄道だったので、廃線になる前に何とかできなかったのかな、と思います。」 ただ、「鉄道がなくなると地方が衰退する」というだけで、苦境を乗り越えられるわけではない。 交通手段としてだけなら、バスで十分という面もある。

「オプション価値」

島根県立大学准教授で、ローカルジャーナリストとして『ローカル鉄道という希望』の著書もある田中輝美さんは、「大切なのは、一地域の問題に矮小化しないこと」だと強調する。 一地域の問題と捉えると本質を見失いがちになる、と。 「鉄道の価値の一つはネットワークです。 地域と地域、人と人が繋がれば、新しい出会いや交流の可能性が広がります。 繋がりの可能性を狭める社会が本当に幸せなのか、そうした視点から見ていくことも必要です。」 そのためにも、社会を支えるインフラとして鉄道を位置づけることが重要と田中さん。

「例えばインフラと認識されている道路について、赤字だからなくしてもいいという議論はあまり聞かれません。 鉄道も同じです。 ただ、日本は主に都市の鉄道事業者の成功体験があるために、鉄道に採算性を求める風潮が強すぎると感じます。」 鉄道の価値は採算面だけでは測れない。 いつでも誰でも乗れ、高齢になった時も使える。 こうした選択肢がある状態を「オプション価値」と言い、鉄道の場合は特に強い。 しかも脱炭素社会に向け、CO2 (二酸化炭素)の排出量が少ない鉄道が果たすべき役割は大きい。 (野村昌二、AERA = 2-25-24)


指宿枕崎線の赤字区間、将来の姿議論へ JR 九州が鹿児島県に提案

JR 九州は 11 月 30 日、利用客が特に少ない赤字路線の指宿枕崎線(鹿児島県)指宿―枕崎間で、将来の地域交通のあり方について議論を進めたいと鹿児島県に申し入れたと発表した。 同社から沿線自治体に話し合いを働きかけたのは初めてで、将来的に存廃議論に発展する可能性もある。 2022 年度の同社の線区別収支では、全 21 路線 59 区間のうち、10 路線 12 区間で 1 キロあたりの 1 日の平均利用者数が 1 千人未満でいずれも赤字。 このうち同線の指宿 - 枕崎間(営業 42.1 1キロ)の利用者数はワースト 3 位の 220 人だった。 民営化の 1987 年度と比べると 77% 減となっている。

鉄道路線の将来像を巡っては、今年 10 月、改正地域公共交通活性化再生法が施行され、鉄道事業者や沿線自治体の要請で国が必要と認めれば存廃を含め方向性を考える協議の場が設けられる。 対象となるのは輸送密度 1 千人未満の区間だ。

この日の定例会見で古宮洋二社長は、存廃の議論に発展する「再構築協議会」に向けた法的手続きではないと前置きしたものの、「ローカル線を取り巻く環境は厳しさを増している」と語り、「協議のかたちも含め、進め方を議論する前段階」とも口にした。 鹿児島県交通政策課の担当者は、「JR 九州がどんな働きかけをするのか、具体的な考え方を確認し、検討しなければならない。」と話した。(池田良、冨田悦央、asahi = 11-30-23)


北海道と本州むすぶ物流の大動脈 函館 - 長万部間の貨物線維持へ検討

北海道新幹線札幌延伸に伴い JR 北海道から経営分離される函館線・函館 - 長万部間の貨物線としての存続に向けて、国と道が 29 日、具体策を検討する有識者会議の初会合を札幌市内で開いた。 新幹線の並行在来線が貨物専用線として存続した例は過去になく、国が仕組み作りに乗り出した形だ。 議論の行方は、道内の他の鉄路の存廃にも影響を与える可能性がある。

会議は、座長を務める東京女子大学の二村真理子教授ら 4 人の学者、鉄道事業者の JR 北海道、JR 貨物のほか、道経済連合会やホクレン農業協同組合連合会など 5 関連団体で構成した。 この日は冒頭を除いて非公開で行われた。 同区間は旅客線としての収支見通しは厳しいが、北海道と本州を結ぶ物流の大動脈のため、国や道などが実務者レベルで存廃を検討してきた。 7 月にまとめた論点整理では、「鉄道を廃止し、船舶等の他の輸送手段で代替するには解決困難な課題が多くある」とし、同区間を維持する方向性に異論はなかったとした。

他の赤字路線の議論にも影響

ただ、存続にあたっては、JR 北から線路などの鉄道施設を引き継ぐ主体や、線路の維持管理費の負担のあり方を決める必要があり、維持管理に必要な数百人規模の要員確保という課題の解決も必要だ。 国土交通省によると、この日の会議では事務局が論点整理を報告し、自由に意見が交わされた。 今後は 3 - 4 カ月に 1 回のペースで開き、物流業界や産業界などへのヒアリングや各課題の議論を行う。 2025 年度中に提言をまとめる。 道南の貨物網維持をめぐる議論は、道内のほかの鉄路の行方も左右しそうだ。

 

JR 北海道は 2016 年に「単独では維持困難」とした赤字の 10 路線 13 区間のうち、8 区間について存続策を地元と探っている。 そのうちの一つ、石北線(新旭川 - 網走)には、生産量日本一の北見地方のタマネギを運ぶJR貨物の臨時列車、通称「タマネギ列車」が走る。地域経済にとって欠かせない路線だ。 ただ、旅客の利用はコロナ禍もあって伸び悩んでいる。 北見市の辻直孝市長は「函館線の貨物鉄道機能を確保できれば大いに評価したい」と話す。

石北線の存続には地元負担を求められている。 負担をめぐるJR 北 との協議はこれからだが、国や道の関与で函館線が貨物線として維持されれば、石北線の沿線自治体にとっても「追い風」になる。 また、函館 - 長万部間の貨物線としての存続が決まれば、同区間を旅客線としても維持しようという議論が出てくる可能性もある。 沿線 7 市町などでつくる渡島ブロックの並行在来線対策協議会は、旅客線として見込まれる赤字額を負担することが難しいとして廃線・バス転換の結論に傾きつつあるが、昨年 8 月以来、首長が集まる協議会は開かれていない。

その後、同区間を貨物線として維持しようと国や道が協議を始め、函館市の大泉潤市長が新幹線を函館駅に乗り入れる構想を提唱。 小樽 - 長万部間の並行在来線の存続を議論した後志ブロックの協議会は、いち早く廃線・バス転換を決めたが、バスの運転手不足でバス会社との交渉は進んでいない。 鉄路を取り巻く状況は刻々と変化している。

地域住民の足である公共交通網の空白区が生まれるのは避けなければならない。 渡島の沿線自治体からは「バス転換に必要な運転手を確保できるのか」、「通勤や通学に使う住民のことを考えれば一部でも旅客線として維持できないか」という声もあがる。 鈴木直道知事は 28 日の会見で「地域に不安な声があるのも現実だと思う」としながらも、「引き続き沿線の自治体としっかり話しながら持続可能な交通のあり方を考えていきたい」と述べるにとどめた。 (新田哲史、編集委員・堀篭俊材、asahi = 11-29-23)


赤字路線の存廃めぐり「もの言う株主」に 岡山・真庭が JR 株取得へ

JR ローカル線の存廃を含む議論を進める新たな仕組みができるなか、岡山県真庭市の太田昇市長は 28 日、来年度に市が JR 西日本の株式を取得する方針を表明した。 「地方の足を確保するという立場から資本参加する」としている。 太田氏は記者会見で、取得価額として「億単位」を想定しているとし、「ものも言うし、責任も持つ」と述べ、「もの言う株主宣言」をした。 市長会などを通じ、各地の首長に JR 株の取得を呼びかけるという。

県北部の真庭市には、JR の姫路駅(兵庫県姫路市)から新見駅(岡山県新見市)に至る姫新線が通る。 赤字区間を抱え、今後、存廃の議論の対象になる懸念がある。 真庭市内の駅などでは JR 西の交通系 IC カード「ICOCA(イコカ)」は利用できない。 太田氏は「同じ交通料金体系で、(都市部との)サービスに差があっていいのか。 (路線維持の)原則を忘れるな。」と訴えた。

また「(株主になったら)無責任なことを言うつもりはない。 地方路線を維持するために私たちも頑張るよ、という決意表明でもある。」などと語った。 今後、市議会とも調整を進める。 太田氏は京都府副知事を経て 2013 年に初当選し、現在 3 期目。 (礒部修作、asahi = 11-28-23)


JR 函館本線の長万部 - 小樽間、代替バス「運行困難」人材不足が深刻

乗客数の少ない鉄道路線はコストがかかりすぎる。 運行費用の安いバス路線に転換しよう。 これがローカル線のバス転換の常識だった。 しかし近年、バスの運転手不足が危惧され、鉄道路線のバス転換は難しいのではないかと言われるようになった。 それがついに現実問題として突きつけられた。 それも赤字ローカル線ではなく、かつての幹線鉄道、整備新幹線の並行在来線だった。

函館本線の函館 - 小樽間は、北海道新幹線の札幌延伸開業にともない JR 北海道から分離される。 このうち長万部 - 小樽間は沿線自治体がバス転換で合意した。 しかし、運行委託予定のバス会社 3 社は道に対し、道が示したダイヤ案を困難と回答した。

長万部 - 小樽間のバス転換に至る経緯は

整備新幹線の着工条件のひとつに「並行在来線の JR からの経営分離」がある。 ほとんどの並行在来線は JR から経営分離された後、自治体が設立した第三セクター鉄道会社によって鉄道運行が継続されている。 いままで例外は 1 つだけ。 信越本線の横川 - 軽井沢間だけだった。 JR 線において最も急な勾配で運行経費がかかり、貨物列車も中央本線や上越線の迂回ルートがあったため、横川 - 軽井沢間は廃止となった。

長万部 - 小樽間の沿線自治体は当初、鉄道維持を期待していた。 しかし、2012 年から 2022 年にかけて検討を重ねた結果、鉄道維持を断念し、バス輸送に転換する方針となった。 理由はおもに 3 点あり、「この区間は JR 貨物列車のルートから外れており、線路使用料を得られず第三セクター鉄道会社の赤字負担が大きすぎる」、「倶知安町が在来線線路を撤去して分断されたまちをまとめたい意向」、「沿線全体で、北海道新幹線の長万部、倶知安、新小樽の各駅と、建設中の後志(しりべし)自動車道のインターチェンジを組み合わせた交通ネットワークをつくりたい」であった。

2022 年 11 月 6 日の「第 15 回後志ブロック会議」で、事務局(道)からバスのルートとダイヤについて検討案が示された。 2023 年 5 月 28 日の「第 16 回後志ブロック会議」にて、沿線自治体からバス事業者に対して協力依頼する内容が確認された。 その後、バス事業者へ協力を求め、随時、関係者と協議を重ねていく方針となっていた。

その第 1 段階で、バス事業者から「後志ブロック会議が要望するルート、ダイヤは実行困難」と言われた。 あてにしていた相手から袖にされてしまった。 代替バスが走らなければ、地域の公共交通は消えてしまうかもしれない。 しかし、もう鉄道には戻れない。 在来線撤去でまちづくりを検討している自治体もあり、JR 北海道も赤字路線を残す体力がない。並行在来線問題は立ち止まってしまった。

良い材料があるとすれば、北海道新幹線札幌延伸開業が遅れる見込みであること。 現在は 2030 年度(2031 年春)開業予定となっているが、トンネル工事の遅れ、建設資材高騰、2024 年から建設業界の残業規制が強化されるなどで 4 年以上の開業延期がささやかれている。 7 年後のバス運行が 11 年後になるわけで、少し時間が稼げたことになる。 沿線自治体やバス会社の努力だけでなく、国や道の支援策を急ぐ必要がある。

代替バスのルートとダイヤは

函館本線の長万部 - 小樽間を走る列車は合計 42 本(下り 20 本・上り 22 本)。 このうち長万部 - 小樽間を直通する列車が下り 3 本・上り 1 本で、その他は区間運転となっている。 倶知安 - 小樽間の列車は下り 13 本・上り 12 本、蘭越 - 倶知安間の列車は下り 7 本・上り 7 本、長万部 - 倶知安間の列車は下り 4 本・上り 5 本。 俯瞰すると小樽駅発着が多く、長万部駅発着は少ない。

これらの列車を代替するバスのルートとして、長万部 - 黒松内間、黒松内 - 倶知安間、倶知安 - 余市間、余市 - 小樽間の 4 区間を想定している。 このうち黒松内 - 蘭越間については、いままでバス路線がなかった。 既存のバス路線のうち、ニセコ駅、銀山駅、塩谷駅を経由するバス路線もない。 既存の列車を代替するだけでなく、生活に即した経由地と停留所の新設も検討されている。

代替バス運行を担う予定のバス会社は

現在、函館本線長万部 - 小樽間の周辺で運行しているバス会社は、北海道中央バス、ニセコバス、道南バス、ジェイ・アール北海道バス、函館バスの 5 社。 その他に自治体コミュニティバスがあり、黒松内町、蘭越町、ニセコ町、倶知安町、仁木町、余市町が運行している。 ジェイ・アール北海道バスは長万部と小樽から他の地域を結ぶ。 函館バスは長万部以南を営業区域とする。

函館本線長万部 - 小樽間で競合する会社は北海道中央バスとニセコバスであり、最初はこの 2 社に協力を要請する方針だった。 後に道南バスも加えて打診したが、「そのダイヤでは運行できない」となってしまった。 北海道中央バスは小樽市に本社を置き、小樽・札幌・空知方面の広範囲なエリアで路線バスを運行する。 小樽駅前から余市駅前へ向かう路線も持っている。 高速バスは道南・道東方面にも足を伸ばす。 ただし、2023 年 12 月 1 日のダイヤ改正にて、多くの路線で減便または廃止を予定している。

ニセコバスは北海道中央バスグループの会社であり、ニセコ駅前から小樽駅前、ニセコ駅前から蘭越出張所、黒松内温泉から長万部駅前などの路線がある。 こちらも2023 年 10 月 1 日のダイヤ改正で一部路線の減便を実施した。 日曜祝日運休の路線もある。 道南バスはおもに室蘭・苫小牧を拠点とするバス会社。 倶知安駅前から洞爺湖温泉など、倶知安駅前を発着する路線がある。 8 月 1 日に室蘭 - 新千歳空港間の「高速はやぶさ号」を減便し、10 月 1 日に札幌 - 函館間で 4 社共同運行の「高速はこだて号」から撤退した。

各社とも減便や路線廃止のおもな理由は運転手不足だという。 そんな状態で新たな路線の参入などできるわけがない。 本来、新規路線の参入はビジネスチャンスだった。 とくに鉄道代替バスは一定の乗客数が見込める上に、赤字についても自治体が面倒を見てくれる。 それでも参入できない。 バス会社にとって歯がゆい状況となった。

「2024 年問題」は全国的な傾向、ドライバーの待遇を上げるしかない

運転手不足は全国各地で問題になっている。 大阪市の金剛自動車は自社の全 15 路線を 12 月 20 日に廃止すると発表した。 現在、自治体が経費を負担するコミュニティバス方式で調整している。 他にも帯広、広島、島根、福岡、北九州、沖縄などでバスの減便が報じられている。 鉄道も例外ではなく、福井鉄道や島原鉄道が減便した。

京急電鉄は 2023 年 7 月、「京急バス『来年4月から運転手が不足します』職員大募集!!」と題したウェブページを公開した。 2024 年 4 月から適用される「改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)」に対応するために、現在はドライバーが足りていても、残業規制で乗務時間が減ってしまう。 改善基準によると、1 年間の拘束時間は 3,380 時間から原則 3,300 時間に減り、1 カ月の拘束時間は最大 309 時間から最大 294 時間になる。 業務終了から次の業務開始までは現行の 8 時間から 9 時間に延びる。 ただし原則は 11 時間。 これがいわゆる「2024 年問題」である。

貨物の場合はトラック輸送から鉄道、船舶へのシフトが急務として、国を挙げて検討を始めている。 旅客輸送についても乗合タクシー、ライドシェア、パーソナルモビリティなどが検討されている。 しかし決定的な解決策が見つからないまま、来年には運転手不足時代がやってくる。 筆者は何度か自動運転バスの試験運行を取材したが、本格的に導入できるほど成熟していない。 不確定な技術をあてにすると、フリーゲージトレインのような手戻りを招くだろう。  結局、バス運転手を他社あるいは他の地域から引き抜くという人材獲得競争が始まるのではないか。

函館本線に話を戻すと、バスの運転に必要な大型二種免許の受験資格は 21 歳だから、いまから 7 年後に 21 歳となる 14 歳の人々を大切に育てていくか、それが無理なら自治体も巻き込み、余所のドライバー引き抜くしか手はないだろう。 きれい事では済まない段階になりそうだ。 (杉山淳一、MyNavi = 11-5-23)


新幹線延伸の駅で「はとバス」ならぬ「はぴバス」 背景に運転手不足

来春の北陸新幹線の福井開業で観光分野への期待が高まるなか、福井県内バス 5 社は、新幹線の県内 4 駅から観光地までの二次交通としてツアーに共同で取り組むことになった。 窓口を一本化して県外への発信を強める狙いがあるが、運転手不足の課題も改めて浮き彫りになっている。

「運転手の確保が大変厳しい一方で、点在する観光地を結び付けるのはバスの大事な役目と考えている。」

10 月 28 日、JR 敦賀駅西口のバスターミナル。 県バス協会の岩本裕夫会長(京福バス社長)は、5 社によるモニターツアーの出発式のあいさつでこう述べた。 きっかけは、県内観光業界から都内の観光名所などをめぐる「はとバス」のような定期観光バスの運行を協会に打診されたことだった。 県内のバス各社は、大阪などと結ぶ高速バス、県外旅行の観光バスもしているが対象は県内客。 県外客向けのツアーはあまりしてこなかったのが実情だ。

統一ブランドで売り出し

まず、5 社の強みのエリアですみ分け、ツアーを開発。 それを統一ブランド「はぴバス」で売り出すことで、各社が単独で取り組むより効果があると考えた。 運行は、福井開業と同じ来年 3 月 16 日からだが、試験を兼ねて 10 月 28 日から始めたのが、旅行会社や報道機関、県民を対象にしたモニターツアーだ。 5 社が  2 ルートずつ、計 10 のツアーを準備中だ。

例えば、芦原温泉駅発で東尋坊などに行くツアーは、ケイカン交通(あわら市)が企画。 目玉は、老舗日本料理店「小松屋(坂井市)」のツアー限定メニューで、ふくいサーモン丼、甘エビ丼、若狭牛の握りずし 1 貫などと季節に応じて福井の味覚が少しずつ食べられる。 インスタ映えも意識したといい、若女将の小松美穂さんは「店の新たな取り組みで期待しています」と話す。

もっとも 5 社は路線バス網を維持していたり、自治体が運営するコミュニティーバスを運行したりして、慢性的な運転手不足が続く。 全て自前でやりきるのが厳しい状況も連携につながったという。 嶺北一円に路線バス網がある県内大手の京福バス(福井市)。 路線網維持に必要な運転手の数 196 人に対し、31 人が不足する。

穴埋めのため配置転換

穴埋めのためバスを運転できる大型二種免許を持つ運行管理者約 10人も、運転手の指導監督をしながら運転業務に入る。 運行管理は国家資格が必要で、資格を持つ事務員が運行管理者の仕事を補っている。 さらに、観光など貸し切りバスの運転手 18 人のうち 10 人を配置転換。 路線バス網のほとんどは赤字だが、公共交通インフラとして維持する一方で、黒字が期待できる貸し切りバス事業を抑制している状況だ。

コロナ禍では、高速バスは運休。 貸し切りバスも需要減少で運転手を振り向けやすかった。 一方、その間に運転手が定年退職や離職で減少。 コロナ禍前の状態に戻そうとしたとき、運転手不足がより深刻な状況になっていたというわけだ。 日本バス協会が 9 月に公表した推計では、今年度のバス運転者の不足数は全国で約 1 万人。 時間外労働の上限規制が適用される「2024 年問題」で 2 万 1 千人に膨らみ、30 年度には 3 万 6 千人になると見込む。

運転手不足などを背景に、熊本県ではバス会社 5 社が共同経営を 21 年から実施。 収益性を高めるため、重複する区間の解消などを図る。 こうした取り組みは、群馬、広島など数県で始まっている。 北陸鉄道(金沢市)は、金沢地区の路線バスの運転手不足のため、今年 4 月のダイヤ改定で地区の路線バスを 8 - 15% 減便。 加越能バス(富山県高岡市)では、大型二種免許を取得した女性バスガイドが、昨年 7 月から路線バスの運転手となり、現在 6 人いる。

福井工業大学の吉村朋矩(とものり)教授(都市交通計画)は、「都市計画と公共交通計画を一体で取り組む視点が必要だ。 公共交通の沿線に住んでもらう街づくりを通じて、バスや鉄道の利用を増やし、バス事業の収支も改善していくべきだ。」と話す。 (長屋護、asahi = 11-4-23)


伊予鉄道「鉄道・バス大減便」が示す、地方交通の未来 坊ちゃん列車も運休へ

伊予鉄道と伊予鉄バスが、鉄道とバスの一部路線で大幅減便に踏み切ります。 理由は運転士不足。 名物の「坊ちゃん列車」も運休となるだけに、衝撃が広がりました。

坊ちゃん列車も運休

伊予鉄道と伊予鉄バスは、鉄道とバスの一部路線で 11 月 1 日にダイヤ改正をすると発表しました。 改正内容は減便で、「深刻な運転士不足および 2024 年問題に対応するため」と理由を明らかにしています。 鉄道では郡中線(松山市 - 郡中港)を、土日祝の日中から夜にかけて毎時 4 本だったところ、3 本に減らします。 松山市内の路面電車では、毎時 6 本だった松山市駅 - 道後温泉間を全日 5 本に減便します。

本町線(松山市駅前 - 本町六丁目)は、平日の松山市駅発 13 時 18 分以降の便を全便運休とします。 同線は 2020 年に土休日を全面運休としていますので、11 月以降に運行するのは平日の午前中(12 時 18 分発まで)のみとなります。 また、土日祝に 1 日 6 便運行していた観光客向けの「坊っちゃん列車」も当面運休とします。

長距離バスも削減

バスでは、松山観光リムジンバス(道後温泉 - 松山観光港)について、道後温泉行きを 11 便から 3 便に削減。 松山観光港行きは 10 便をすべて運休します。 長距離バスでは、新居浜特急線(新居浜〜松山)のうち、1 日 4 便の伊予鉄運行便を 1 日 1 便に削減。 共同運行しているせとうちバス担当便は、7 便が 6 便となります。 合計では、12 往復が 8 往復に削減されます。 また、八幡浜・三崎特急線(松山 - 三崎)は、1 日 3 往復を 1 往復に削減。 八幡浜 - 三崎の区間便を 1 日 1 往復設定します。 このほか、市内路線などで最終便の繰り上げなどをおこないます。

生活路線維持を優先

ダイヤ改正の内容を見ると、運行本数の比較的多い路線を少し間引きしつつ、代替交通のある路線で思い切った削減をしています。 また、観光路線より生活路線の維持を優先しているようです。 運転士不足の影響が、地域の利用者へ及ぶのを最小限に食い止めようとする配慮でしょう。 運転士不足は全国的です。 したがって、伊予鉄の今回のダイヤ改正は、今後の地方交通の運行ダイヤの方向性を象徴する内容にも感じられます。 すなわち、利用者の多い生活路線を間引きながら維持し、代替交通のある区間から撤退することで地域交通を維持する、という方針です。 観光路線は余力の範囲で対応する、というところでしょう。

「鉄道回帰」を促す?

注目点は、鉄道で代替できる松山 - 新居浜間(新居浜特急線)や、松山〜八幡浜間(八幡浜・三崎特急線の一部)を大胆に削減したことでしょうか。 運転士不足の影響で、「鉄道に任せられる区間は鉄道へ」という判断にも感じられます。 長距離特急バスは、これまで地方私鉄やバス会社の経営を支え、鉄道のライバルとして君臨してきました。 しかし、今後は運転士不足を背景に、各地でこうした減便を強いられそうです。 となると、利用者の「鉄道回帰」を促すかもしれません。 (鎌倉淳、タビリス = 10-14-23)


全線再開から 1 年の秘境路線は今 利用客は 1.6 倍になったけれど …

2011 年の豪雨災害で一部区間の不通が続いていた JR 只見線(福島県会津若松市 - 新潟県魚沼市、全長 135.2 キロ)は昨年 10 月、11 年ぶりに全線開通した。 慢性的な赤字を抱え、一時は廃線も検討されたが、地元住民らの熱意で復活を果たした。(斎藤徹)

9 月下旬の週末、会津若松駅を早朝に出発した 2 両編成の列車は、会津盆地を抜けると、只見川沿いの山深い峡谷をいくつも抜け、約 3 時間かけて只見駅に着いた。 車内は、通学などに使う地元住民のほか、カメラを持った鉄道ファンらでにぎわっていた。 コロナ禍が明けてやってきた外国人観光客の姿もあった。 「再開直後に見られた都心の通勤列車のような混雑はさすがにもうないけれど、落ち着いたという印象はまだもてないですね。」 車内で地元特産品などを販売する会社代表の酒井治子さん (42) は話す。

週末は 100 人近くが乗車し、只見駅などでは、乗車のために十数人が列をつくる光景が今も見られるという。 観光客からは「車窓からの景色を見に来た」、「話題になっていたので一度乗ってみたかった」などと声をかけられる。 「地元の私たちが思っている以上に、只見線がもつ力、魅力を実感してくれている」と酒井さんは言う。 JR 東日本が今年 7 月に公表した、只見線の 22 年度の平均通過人員(1 キロあたりの 1 日の平均乗客数)は、会津川口 - 只見間で 79 人だった。 不通になる前の 10 年度の 49 人から 1.6 倍に増えた。

秋にかけては峡谷の紅葉が見頃を迎え、JR 東や会津鉄道が臨時列車を走らせる。 来年には、只見線ファンが多いとされる台湾と福島空港を結ぶ定期便も就航予定だ。 地元の商工関係者は「只見線のにぎわいは当分続きそうだ」と顔をほころばせる。

上下分離方式で鉄道施設は県が所有 維持管理費は年 3 億円

只見線は 11 年の新潟・福島豪雨で甚大な被害を受け、会津川口 - 只見間が不通になった。 JR 東は当初、同区間を廃線にして代替バスを走らせることを地元自治体に提案。 3 億円の列車運行費に対し、収益は 500 万円しかない「超赤字区間」だったためだ。 だが、県や沿線自治体は「奥会津地域の持続のために只見線は不可欠」として全線再開にこだわった。 その結果、同区間は線路や駅舎など鉄道施設を県が所有し、JR 東は列車運行のみを担う「上下分離」方式での再開となった。

鉄道施設の所有者となった県は、列車を安全に運行するため、同区間の保線や点検業務を負うことになった。 県職員が鉄道会社と同じような保線業務をするのは異例だ。 維持管理費は、県と会津 17 市町村が分担して支出する。 22 年度は 2.5 億円かかったが、資材・物価高騰の影響もあり、今年度は 3.2 億円の見込みだ。 県と沿線自治体などは今年 4 月、第 2 期只見線利活用計画をつくり、27 年度までの 5 年間で取り組む施策をまとめた。 企画列車の運行や外国への宣伝強化などで、5 年後に会津川口 - 只見間の平均通過人員を 100 人に、只見線全体では 350 人に増やす目標を掲げる。 沿線住民には、年 1 回以上は只見線を利用することを求めている。

内堀雅雄知事は 9 月 25 日の会見で「全国で JR の地方鉄道のあり方が議論されているなか、上下分離方式を採った福島県の取り組みが大きく注目されている。 これからも覚悟をもって維持運営を続け、多くの方に只見線に乗ってもらえるよう取り組んでいきたい。」と語った。(斎藤徹)

「もっと乗ってもらうには」 沿線の子どもたちがアイデア

只見線を「持続可能な鉄路」としていくためには、どんなことが必要だろうか。 全線再開を機に、地元自治体や沿線住民らが動き出している。 9 月 16 日、只見町で「只見線こども会議」が開かれた。 鉄道好きの子どもに触発された地元住民有志が協力し、初めて開催にこぎつけた。 只見線に乗る人をもっと増やすにはどうしたらいいか、沿線の只見町や金山町、新潟県魚沼市などから集まった小中学生 15 人が、夏休み中に考えたアイデアを発表した。

「列車内を飾り付けて乗客をおもてなしする」、「駅をカフェにする」、「アイドルや人気芸人を呼んで車内ライブをする」 - -。 子どもらしい発想が出た一方、「接続を良くして周遊観光につなげる」、「駅と観光地を結ぶ 2 次交通を強化する」など、現状の課題を鋭く突くものもあった。 アイデア集は県や JR 東日本の担当者が受け取った。 会議を発案した只見町の小学 3 年、角田淳紘さん (9) は「大人になったら只見線の列車の運転士になりたい。 ずっと走り続けるためにはみんなの力が必要です。」と、大人たちに呼びかけた。 こうした地元住民の声を受け、実現に動き出しているものもある。

その一つがサイクルトレインだ。 今月 16 日に運用実験があり、参加者は自転車を駅ホームからそのまま列車内に持ち込み、会津若松駅を出発。 目的地の最寄り駅で降りると、自転車に乗って向かった。 「自転車を折りたたんで袋に入れたり組み立てたりしなくて済むので、駅から気軽に観光地に行ける」、「通学や買い物にも便利そう」など好評だった。 国土交通省などは、安全面の課題をクリアできれば実現させる方向で検討している。

かさむ維持管理コスト 観光客誘致だけでは …

只見線の全線再開後、不通だった会津川口 - 只見間の平均通過人員(1 キロあたりの 1 日の平均乗客数)は、不通になる前の 2010 年度から 1.6 倍に増えた。 「これだけ乗客が増えれば採算は取れそう」と思う人もいるかもしれない。 だが、地域交通政策に詳しい福島大経済経営学類の吉田樹・准教授は「そんなことはまったくない」と指摘する。 年間 3 億円近い運行経費がかかる同区間は、乗客が少し増えただけで収支が劇的に改善するわけではない。

さらに只見線は、鉄路や駅舎など施設の老朽化が著しいうえ、国内有数の豪雪地帯を走る。 「維持管理コストは現在の見込みよりもっと増える可能性が高く、県や沿線市町村の負担増が、今後課題となるだろう」とみる。 吉田准教授は、乗客を増やすための第 2 期只見線利活用計画にも疑問を呈する。 「観光重視の施策に偏っている。 地元住民が乗って支える策をもっと打ち出すべきだ」という。 例えば、駅舎に行政手続きができる出張所を設けたり、駅前を地域活動の拠点として利用したりといった、生活路線として積極的に使うような仕組みだ。 「ふだん使い」される鉄道となるには、駅から目的地への 2 次交通の充実も必要だ。

「自分たちが便利だと思えるアイデアをどれだけ出し、実行に移せるか。 それが、持続可能な鉄道のカギになる。」

全国で地方路線の廃線が相次ぐなか、行き先を「日本一の地方創生路線」と見定め、再び走り出した只見線。 その視界はまだ、霧の中にある。 (斎藤徹、asahi = 9-30-23)

只見線での主な施策メニュー (- 2027 年度、第 2 期只見線利活用計画から)

  • イベント列車運行やオリジナル観光列車の導入準備
  • 駅を起点にしたまち歩きマップの作成
  • 只見線乗車を組み込んだ旅行商品の開発
  • オリジナル駅弁や土産物の開発
  • 沿線や車窓からの景観を阻害する樹木の伐採
  • 奥会津の歴史や文化を学ぶ体験学習列車の運行
  • 只見線をテーマにしたふるさと納税返礼品の開発
  • 駅前広場での軽トラ市の開催
  • 沿線特産品などを運ぶ貨客混載サービスの検討
  • 「撮り鉄」を対象にした写真コンテストの開催