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中国の選手も購入 コロナ禍で人気の選手村のお土産は?

中国で東京から戻った五輪選手らが、帰国後に義務づけられている最低 14 日間の隔離生活の様子を SNS に投稿している。 体をなまらせないための運動方法を紹介したり、コロナ禍の中で同じく隔離を経験する人らに向けて「みなさんはどんな風に過ごしますか」と呼びかけたり、異例の五輪の後日談として楽しまれている。

トランポリン女子で金メダルを獲得した朱雪瑩選手は中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で「隔離中も怠けてはいけない。 一緒に運動しましょう。」と記し、隔離先の部屋でトレーニングする様子を公開した。 競泳男子 200 メートル個人メドレーで金メダルの汪順選手は、隔離先で提供される弁当を開けたり自身が運動したりする動画を投稿した。 こうした選手たちの投稿に、SNS 上では「もっと運動の動画をみたい。 解説もほしい。」との期待や、「私の隔離の時とほとんど同じ食事だ」、「私も今日から隔離。 朝と晩は運動しよう。」といった共感を呼んでいる。

このほか、ビーチバレーの薛晨(シュエチェン)選手は、選手村で「いつも売り切れていたのに帰る前日にやっと買えた」という全競技が描かれたパズルの写真を「これが隔離中の楽しみ」とのコメントを付けて投稿。 フェンシングの孫一文選手はスマホのゲームアプリの画像を上げて「私にとって隔離は旧正月の休みのようなもの。 つらくない。」と記した。 射撃・女子エアライフルで大会全体の金メダル「第 1 号」となった楊倩(ヤンチエン)選手が隔離先から行ったインタビュー中継は 100 万人以上が視聴した。

国営新華社通信などによると、五輪の中国代表団からは感染者は確認されなかったという。 競技を終えた選手から順次帰国しており、中国本土では他の入国者と同じく最低 14 日間の隔離が義務づけられている。 (瀋陽 = 平井良和、asahi = 8-9-21)

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中国で五輪「日本人選手」に誹謗中傷続く 2 つの訳
対戦相手の中国人選手が自制求めても収まらず

新型コロナウイルスの感染対策と並び、SNS の誹謗中傷が東京オリンピックの大きな問題になっている。 複数の日本人選手が Twitter やインスタグラムのコメントや DM で中傷を受けていることを明かしたが、その中には海外からの攻撃も少なくない。 特に卓球の水谷隼、伊藤美誠両選手、体操の橋本大輝選手は中国の SNS でトレンド入りするほど誹謗中傷の対象となっており、対戦相手の中国人選手が自制を求めても収まらない。 何が起きているのか。

日本選手がたびたびトレンド入り

中国国民はスポーツの国際大会への関心が高い。 自国が出場していないサッカー W 杯すらお祭り騒ぎになり、2018 年のロシア大会は中国企業の広告が会場を埋め尽くした。 五輪に対する熱狂ぶりは言うまでもなく、東京大会開幕以来、メディアは金メダルの数に一喜一憂し、中国版 Twitter 「ウェイボー(微博)」のトレンド上位 10 トピックの 8 割は五輪関連で埋まっている。 そして毎日のように、日本に関するトピックが上位に入る。

筆者が把握している限り、最初にトレンド入りしたのは卓球の試合に解説者として登場した福原愛さんだった。 「久々に見たが、色白でかわいい」、「元気そう」など平和な内容だったが、7 月 26 日に卓球混合ダブルス決勝で水谷・伊藤ペアが中国チームを破るとムードは一変した。 試合直後はトレンド 1 位から 3 位までを同試合関連が占め、うち 1 件は水谷・伊藤ペアに不正の疑いがあると指摘する内容だった。

27 日の男子シングルスで丹羽孝希選手が敗退すると「卓球男子日本選手全滅」が、29 日に女子シングルス準決勝で伊藤選手が中国の孫穎莎(スン・インシャー)選手に敗れると、「伊藤美誠が負かされて泣く」がトレンド入りした。 どちらのトピックもウェイボーには「ざまあみろ」、「万歳」といった投稿があふれた。

そして卓球以上に炎上が長引いているのが、28 日の体操男子個人総合で金メダルを獲った橋本大輝選手だ。 「橋本大輝が跳馬で失敗」から始まり、同選手が採点の不正で金を盗んだとの中傷、橋本選手がインスタのコメントが荒らしに遭っていること、その後 Twitter で誹謗中傷に対する心中を明かしたことなど、一挙手一投足がトレンド入りしている。

当然ながら中国選手は日本以外の国とも対戦しているのだが、攻撃されるのは日本人選手ばかりだ。 これには 2 つの理由が考えられる。 まず卓球と体操は中国にとっては国技・お家芸とも言える競技で、日本が目の上のたんこぶになっている点だ。

混合ダブルスで中国チームが敗れた瞬間、中国では激震が走った。 中国が五輪の卓球で金を逃したのは、2004 年のアテネ五輪以来 17 年ぶりだ。 現実を受け入れられず、かといってテレビの前で「申し訳ない」と号泣する中国人選手を責めるわけにもいかない国民のフラストレーションの一部が、対戦相手の水谷、伊藤ペアに向かった。 特に 26 日は、東京五輪で中国が初めて金メダルゼロに終わった日だったことも、国民感情をさらに刺激した。

男子体操については、日本と中国は 21 世紀に入って金を争い続けている。 2008 年の北京、2012 年のロンドンは中国が団体で 2 大会連続金メダルを獲っている。 その後は内村航平選手が圧倒する時代に移ったが、今大会は彼の全盛期が過ぎたこともあり、中国では団体、個人ともに金への期待が膨らんでいた。

ネット世論「審判が日本寄り」

日本人選手が攻撃される 2 つめの理由は、試合が日本で行われているからだ。 海外の SNS を見ていると、「審判が日本に有利な判断をしている」との批判が非常に多い。 無観客試合によってテレビの前の視聴者が心理的に「審判」になっていること、さらに SNS の普及で視聴者が疑いや批判を共有しやすいことが背景にありそうだ。 日本ではあまり報じられていないが、28 日に行われた水球女子の日本 - 中国戦でも、中国人選手がウェイボーで「日本人選手に乗っかられた」と投稿したことから、「日本人選手が反則したのに、審判が見逃した」と炎上、トレンド入りした。

同日、体操個人総合で橋本選手が僅差で中国の肖若騰(シャオ・ルオテン)選手を上回ると、橋本選手の跳馬の採点や肖選手が礼をしなかったため減点されたことなどが、審判の手心によるものと見なされ、今に至るまで「本当は肖選手が金だった」というネット世論がくすぶる状況になっている。 橋本選手の SNS には「カネで金メダルを買った」というような中傷が寄せられているが、これは中国のさまざまな局面で腐敗や買収が常態化していることも関係しているだろう。

習近平国家主席が就任後に「腐敗撲滅」に取り組んで喝采を浴びたが、裏を返せば、スポーツの世界を含めて、カネや人間関係で物事が左右されるという認識が国民の間で共有されていることを物語っている。 また、卓球選手の中でも水谷、伊藤両選手だけが名指しで攻撃されているのは、2 人がこれまでの日本人選手の枠を超えたからとも言える。 水谷選手は以前、中国チームに不正があると言及し、伊藤選手はこの 2、3 年、中国選手を何度か破っていた。 どちらも卓球王国にとってみれば面白いはずがない。

中国語を流暢に話し、胡錦濤前国家主席と卓球をすることもあった福原愛さんは、日中友好のシンボルであり中国人にとって「妹」のような存在だったが、実力ではライバルと見なされていなかった。 一方、伊藤選手が幼い頃、睡眠中に母から「中国に勝てる」とささやかれていたエピソードは中国でも有名であり、本人も「五輪で金を獲る」と公言し、それは夢物語ではなくなっていた。 中国人目線で伊藤選手は時代劇や漫画のラスボスのように映ったのかもしれない。

事態収拾の動きも道半ば

SNS での誹謗中傷は集団心理からか日増しに勢いを強め、それが一部の中国人によるものであったとしても、当事者にとっては耐えがたい状況になっている。 「一部」ではあっても母数が 14 億人なので、量も膨大だ。 さらに、自国の SNS で誹謗中傷しても気が済まない人たちが、自国のアクセスブロックを乗り越えて選手本人の Twitter やインスタグラムまで書き込みに行く。 こうした行為は許されるはずはない。

心を痛めているのは日本人選手本人にとどまらない。 彼らと戦った中国人選手も今の状況に当惑しており、体操の肖選手は 29 日、自身のウェイボーで自身への応援に感謝しながら、「アスリートを過度に攻撃しないでほしい。 スポーツ選手は皆すばらしく目標のために努力をし、自らを鼓舞している。」と、自国民に自制を求めた。

中国メディアでも、沈静化を図る記事が増えている。 国営放送・中国中央電視台が運営するニュースアプリは 30 日、伊藤選手が中国の SNS で叩かれている事実を伝えたうえで、「伊藤選手は福原愛さんと同じように、中国選手とプライベートで親しくしている。 孫選手ともおにぎりを分け合う仲だ。」、「伊藤選手は福原愛さんや石川佳純選手とは違い、自立心あふれ思ったことを言う性格だが、中国人からも愛される存在だ。」と論評し、バッシングをいさめた。

また、伊藤選手が Twitter で「水谷選手が言うように、中国選手の不正ラバー問題を何とかしないといけない。 中国は勝つために何でもやる国だ。」と発言したことを示す画像が中国で拡散し、水谷、伊藤両選手への誹謗中傷がさらに激しくなっているのに対し、言論メディアの観察者網は、「画像は日本の一般ユーザーが伊藤美誠のハッシュタグを付けてツイートしたもので、伊藤選手は無関係。 拡散するな。」と呼びかけた。

観察者網は体操個人総合の採点問題についても、国際体操連盟 (FIG) の解説や中国チームのコーチのコメント、橋本、肖両選手の SNS の投稿などを紹介し、冷静に受け止めるよう求めている。 ただしこれらの記事に対しても、一部の人々が「選手たちがどうであれ、私は納得しない」、「橋本選手のインスタにさらに書き込もう」と火に油を注ぎ続け、特定のスポーツメディアの SNS アカウントが、日本選手や日本チームを攻撃したり、ミスを喜ぶハッシュタグを使うため、そのたびに日本人選手やチームへの中傷の揺り戻しが起きている。

日本でも SNS の誹謗中傷の深刻さが認識されたのは最近だ。 自殺した木村花さん、あおり運転で加害者扱いされた無関係の女性など、取り返しのつかない被害が明るみになり、中傷された側の大変な労力によって、ルールが整備されつつある。

中国は毅然とした対応を取るべきだ

中国は半年後の冬季五輪のホスト国として、選手が競技に集中できるよう環境整備を先導する責任がある。 少なくとも「橋本選手のインスタを狙え」といった投稿は削除するなりアカウントを凍結するなり、毅然とした対応を取るべきではないだろうか。 また、日本人も、自国や海外チーム・選手を中傷する発言が機械翻訳などにかけられ、海外で炎上の要因になっていることも認識してほしい。 伊藤選手のツイートとして拡散した投稿もフォロワー数が 20 にも満たないアカウントで、日本ではスルーされている。 おそらく投稿者本人も、そこまで騒ぎになっているとは気づいていないだろう。 (浦上早苗、東洋経済 = 8-4-21)

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中国の最強卓球ペアが負けた瞬間 中国メディアは厳しい報道をするも、SNS では真逆の反応が …

卓球混合ダブルスの決勝で、日本の水谷隼、伊藤美誠ペアが中国の許マ、劉詩●(= 雨の下に文)ペアを下し、日本卓球史上初となる金メダルを獲得した。 勝利の瞬間、水谷と伊藤は抱き合って喜びを爆発させた。 試合後のインタビューで水谷は「この東京オリンピックで、今までのすべてのことをリベンジできたと思っています」と語り、伊藤も「すんごく、楽しかったです!」と満面の笑顔を見せた。

中国メディアは厳しい反応

一方、負けた中国ペアには、中国メディアから、容赦ない厳しい質問が飛んだ。

「大勢の国民が応援していたのに、なぜ勝てなかったのか?」
「敗因は何だと思うか?」

これに対し、劉は「この結果を受け入れるのがつらい。 チームに申し訳ない。 実力が足りなかったと思う。 皆さんに本当に申し訳ない。」と涙を流しながら、やっと言葉を絞り出した。 許も「皆が期待してくれていたのはよくわかっていた。 競技においては結果がすべてだ。 いちばん高いところに立った人だけが、人々の記憶に残る。 チームにとっても、この結果は受け入れられるものではない」と肩を落とした。

中国メディアの報道も 2 人の健闘を称えるものは少なく、厳しい内容だった。

「爆冷! 卓球ペア、金を失う。」
「恥の一戦だった。 極めて遺憾だ。」
「中国が日本に抵抗できず、金メダルを失った。」

厳しい報道の背景には、卓球王国・中国としての高いプライドがある。 中国は卓球が 1988 年に五輪に正式種目になって以降、ほとんどの五輪の試合で金メダルを獲得してきた。 2004 年のアテネ五輪での男子シングルスで、一度だけ金メダルを逃したが、それ以来、中国選手が五輪で金メダルを取れなかったのは、今回が初めてだったのだ。 しかも、中国ペアの許は 2016 年、リオデジャネイロ五輪の男子団体金メダリスト、劉も同女子団体金メダリストであり、2 人は 2019 年世界選手権の混合ダブルスで金メダルも獲得していた「大本命」だった。 そのため、中国メディアの期待も非常に大きかったのだ。

しかし、そんなメディアでの厳しい報道とは裏腹に、中国人の個人が発信する SNS である微博(ウェイボー)や微信(ウィーチャット)を見てみると、報道とはまったく違う反応だった。 7 月 26 日夜の試合終了後、ウェイボーのホットワードランキングには卓球についてのワードが多数並んでいたが、コメント欄を見ると、温かい内容が非常に多かった。

「2 人は本当にすごいよ。 銀メダルでも英雄だ!」
「2 人は中国人の誇りです。 結果がどうであれ、もう泣かないで。」
「金メダルだけがメダルじゃない。 この銀メダルも唯一のものだ。 だから、ごめんなさい、なんて言わないでください。」
「14 億人の中国人の心の中では、あなたたちは永遠に一番です。」
「どうか、自分を責めないで。」
「まだ、これからも人生は続く。 これからも 2 人を応援し続けるよ!」

2 人を責めるような内容はほとんど見当たらず、2 人の健闘を称えるものが多かった。 劉が「最後は彼ら(水谷・伊藤ペア)がすごくいいプレーをした」と語ったように、中国人の SNS でも、日本選手の実力を素直に認め、大接戦で見ごたえのある試合だったことを喜んでいる人たちもいた。 以前の中国であれば、このように負けた選手を褒める、ということはあまり多くなかったかもしれないが、昨今では、匿名の SNS であっても、傷口に塩を塗るような厳しいコメントは減っている。

中国メディアの報道は、建前上、厳しいものにならざるを得ないのかもしれないが、メディアや政府が取る「建前」と、中国人の「本音」は異なる。 精一杯、全力を出し切った選手に、純粋に温かい言葉を掛けていることからもわかるように、中国人も変わってきている。 (中島恵、Yahoo! = 7-27-21)

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中国人が見た東京五輪開会式 入場行進のメロディーに歓喜! でも中国メディアの報道は …

7 月 23 日、夜 8 時(日本時間)から、東京オリンピックの開会式が行われた。 約半年後の 2022 年 2 月に北京で冬季オリンピックが開かれる予定の中国では、どのように受け止められたのだろうか。

メディアでの報道は多くはないが …

中国メディアの報道を見てみると、新聞での扱いは、今月中旬から豪雨被害に見舞われている河南省鄭州での救助の様子や、習近平国家主席のチベット自治区視察のニュースなど国内ニュースが多く、東京オリンピックに関する報道は、比較的少なめだった。 各メディアの報道は、淡々と開会式の様子(パフォーマンス、入場行進、点火までの一連の内容)を時系列で伝えるものが中心だったが、むろん、中国選手団については詳しく報じているものもあった。 今回、中国からは最多の 777 人の代表団が参加しているが、とくに活躍が期待される選手の出場日程に関する情報や、中国選手団のユニフォームのデザインなどについての報道だった。

ゲーム音楽に歓喜の声が続出

個人が発信する SNS ではどうだろうか。 筆者の知り合いで、中国に住む中国人の SNS を見ると、以前日本に旅行にやってきたり、日本に住んだことのある人は、生中継を見ていて、その様子を興奮ぎみに投稿していたが、日本との関わりが深くない人たちの間では、生中継までじっくり見ている人はあまりいなかったようだ。 しかし、20 - 30 代の若者が最も歓喜した瞬間があった。 入場行進のメロディーが流れてきたときだ。

「わ〜、ドラクエのテーマ曲だ! 大賛! (とくに「いいね!」)」
「ここでファイナル・ファンタジーの曲が流れるとは! やっぱり、ここは日本だね!」

世界的に知られている日本のゲーム音楽のメロディーが流れてきたことに驚き、微博(ウェイボー)や微信(ウィーチャット)のタイムラインに次々と写真や動画を投稿する人が非常に多く、中国での人気の高さがうかがわれた。 日本でも入場行進のメロディーが流れてきたとたん、「感動した」、「鳥肌が立った!」という声が SNS 上に大量に投稿され興奮状態だったが、日ごろから日本のゲームに親しんでいる中国の若者も、まったく同様の反応を示した。

また、「君が代」を歌った MISIA さんへの「いいね!」も多く、その歌唱力と衣装を賞賛する声も大きかった。 ユニークなものとしては、聖火ランナーの中に、元プロ野球選手・監督の王貞治さんがいたことに触れている人がいたこと。 「王さんの父親の出身地は中国の浙江省だ」と説明し、王さんの現役時代の写真をわざわざ投稿していたことが印象的だった。

来年は中国で冬季五輪

日本に住む在日中国人の多くも、中国の SNS、ウィーチャットを利用して、主に中国人の友人に向けて、東京オリンピックの様子を逐一写真に撮り、投稿している人が多かった。 やはり、日本選手団と中国選手団、パフォーマンスの写真を撮って載せているものが中心だったが、市松模様のオリンピックのエンブレムが夜空にドローンで表現されたときには、「すごい、すばらしい!」、「きれい!」、「いま、この瞬間、日本にいられてよかった!」などと投稿している人が多かった。

来年の北京冬季五輪について触れているメディアや個人はまだ少なかったが、中国では残り 200 日を切った冬季五輪に向けて、すでに着々と準備が進められているといわれている。 今回の東京五輪は無観客での開会式となったが、中国では、今年 7 月 1 日に行われた中国共産党の創立 100 周年の記念式典の会場で、7 万人以上の観客を「マスクなし」で入れており、コロナ禍でも大規模イベントを成功させたという「実績」がある。

「中国政府は、是が非でも観客を入れて、コロナに打ち勝った証として、冬季五輪を成功させたい。 そして、それを世界にアピールしたいと思っているだろう。」と中国在住の友人はいう。 そうしたことからも、中国政府は、今回の東京五輪に注目しているはずだ。 (中島恵、Yahoo! = 7-24-21)


日本には高すぎる「一つの中国」を崩すハードル
日本政府高官の台湾傾斜発言はかなり危うい

高まる嫌中世論の裏返しとして、メディアや世論で台湾への情緒的傾斜が目立ち、菅義偉政権の高官が台湾を「国家」扱いするなど「失言」も相次ぐ。 日本が中国と国交正常化した際の共同声明は、台湾の中国返還を事実上認めたことを知る人は少ない。 台湾民主化を理由に日本の「一つの中国」政策の見直しを求める声もあるが、その壁は固くハードルは高い。 政府高官の「失言」は、揺らぐ日中関係をさらに動揺させ、「衰退ニッポン」に何の利益ももたらさないだろう。

2022 年は、田中角栄首相が 1972 年に訪中し周恩来・中国首相と国交正常化共同声明に調印してから半世紀となる節目である。 当時、日本とアメリカは台湾の「中華民国」政府と国交があり、台湾は、対中正常化の最大の障害だった。 そして今も台湾問題は、日米と中国との対立・衝突の火種になっている。 日本の「一つの中国」政策はいったいどのように確立され、台湾問題はどう扱われてきたのか。

日中共同声明に込められた「ポツダム宣言」

1972 年の日中共同声明の第 2 項は、日本政府は「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」と規定し、台湾問題の最大のポイントとなる第 3 項では「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。 日本政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第 8 項に基づく立場を堅持する。」と書いた。

「台湾独立」をはじめ「一中一台」、「二つの中国」に反対する中国政府は、「一つの中国」を「政策」ではなく「原則」と表記し、日中関係の「政治的基礎」として日本側に厳守を求めてきた。 中国の「原則」は、(1) 世界にはただ一つの中国しかない、(2) 台湾は中国の不可分の一部、(3) 中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府、という主張から成る。 中国の「一つの中国」原則に対し、外務省など日本側は第 3 項後半の前段で、中国政府の「立場を十分理解し、尊重」すると表現したのは、「台湾は中国の一部」という中国側の主張を「全面的に認めたわけではない」という主張を担保するためだ。 「一つの中国」政策の見直しを主張する勢力や台湾も、この立場をとっている。

しかし、それに続いて「ポツダム宣言第 8 項に基づく立場を堅持」との表記が追加されている。 それはいったい何を意味するのか。 第 8 項の中身は「カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルべク」という規定。 1943 年 11 月のカイロ宣言はアメリカ、イギリス、中国の 3 カ国のカイロ会談を受け、日本が奪った領土の返還を記述する内容。 台湾については「(日本が盗取した)台湾と澎湖諸島」の中国への返還を明記した。 1951 年のサンフランシスコ平和条約は、台湾へのすべての権利、権原、請求権を放棄したが、放棄後の「帰属先」は書いていない。 では、日中共同声明がカイロ宣言の履行を間接的に認める文言を入れたのはなぜか。

正常化交渉に外務省条約課長として参加した元駐米大使の故・栗山尚一は、「ポツダム宣言第 8 項に基づく立場とは、中国すなわち中華人民共和国への台湾の返還を認めるとする立場を意味する」と書く。 栗山によれば、中国側は「理解し尊重する」という文言だけでは納得しなかったため、日本側が「ポツダム宣言第 8 項」を追加。 周恩来首相はその意味を「正確に理解し」受け入れたという。 これが、日本政府の「一つの中国」政策の大きな輪郭である。

アメリカの政策は台湾の将来について曖昧

これに対し、アメリカの「一つの中国」政策はどうか。 日米関係に詳しいマイク・モチヅキ・ジョージワシントン大教授は筆者に、アメリカの「一つの中国」政策は、(1) 1972 年、1978 年、1982 年の 3 つの米中コミュニケ、(2) 1979 年、台湾への防衛的兵器供与をうたった「台湾関係法」、(3) レーガン大統領が 1982 年台湾に約束した、台湾への兵器供与の終了期日を定めない「6 つの保証」、(4) クリントン大統領が 1998 年 6 月に出した、台湾独立を支持しないなど「3 つのノー」政策から構成されると説明したことがあった。

このうちニクソン大統領訪中時の「上海コミュニケ(1972 年)」は台湾について、「アメリカは、台湾海峡の両岸のすべての中国人は、中国は一つであり、台湾は中国の一部であると主張していることを認識する (acknowledge)」 と書く。 日中共同声明同様、中国の主張をそのまま認めたのではなく「中国の主張を了解し反対しない」という意味であろう。 それにしてもアメリカの「一つの中国」政策は、主張とトーンがまるで異なる文書を、1 つのおもちゃ箱に一緒に放り込んだような内容ではないか。 日本の「一つの中国」政策が、台湾の中国返還にまで踏み込んだ含みがあるのに対し、台湾の将来には曖昧なアメリカの政策とは、大きな差があることを認識しておく必要がある。

アメリカはトランプ時代から現在まで、米台高官の相互訪問を認める「台湾旅行法」など、台湾関与を強化する政策を進め「一つの中国」政策の「空洞化」を狙っている。 日本でも、台湾についての国際的合意を指す「72 年体制」を、台湾の民主化を理由に見直すよう求める声も出ている。 バイデン政権は、日本に台湾問題でより積極姿勢をとるよう求め、菅政権もそれに従って「親台湾政策」を進めてきた。 台湾へ 3 回にわたりワクチンの優先供与を決定したのをはじめ、政権高官の「失言」も多い。 麻生太郎副総理・財務相は 2021 年 7 月 5 日、中国が台湾に侵攻すれば、安全保障関連法に基づき「存立危機事態」と認定し、集団的自衛権の限定的な行使もありうると発言した。

日米安保に基づく集団的自衛権の行使は、アメリカ軍の関与が「絶対必要条件」であり、中国の台湾への侵攻や武力行使だけでは発動できない。 もしそれだけで自衛隊が出動すれば、中国は日本の「宣戦布告」と見なすはずだ。 中山泰秀防衛副大臣は 2021 年 6 月 30 日、アメリカのシンクタンクが主催したシンポジウムで、「台湾は兄弟であり、家族だ」と述べ、台湾を「国家」と述べたのも問題視された。 日中共同声明は条約に準ずる拘束力を持つから、内容変更は簡単ではない。 せいぜい 2021 年 4 月の日米首脳共同声明などで触れたように、「台湾問題の平和的解決」を明記することで、中国の武力行使に反対する立場を明らかにする以外にはないだろう。

日本国憲法と日米安保条約の共存が崩れた

遠景から眺めると、日本は戦争の放棄をうたった日本国憲法と、日米同盟を外交・安全保障の基軸に「軍事による平和」を前提にする日米安保条約の「二つの法体系」の下で生きてきた。 政治的に対立しても、経済のパイ拡大には左右両派とも異存はなく、右肩上がりの経済の下で、矛盾する二つの法体系は「共存」してきた。 しかし安倍晋三政権は 2014 年、憲法改定によってではなく憲法解釈変更によってこの矛盾を突破した。 翌年、集団的自衛権の行使を可能にする安保法制を、世論の反対を押し切って成立させた。 「安保条約」が「憲法」に勝ったのである。

日本の衰退でパイ拡大が望めなくなった今、「憲法」体系は政治的影響力をどんどん失っている。 世論の右傾化はその反映であり、「中国の脅威」が主流世論になった。 しかし 2020 年、香港を含む対中貿易は貿易総額の 26.5% を占め、対米貿易は 14.7% にすぎない。 中国をいくら敵視しても「衰退ニッポン」から脱却できない。

バイデン政権のアジア政策を統括するカート・キャンベル・インド太平洋調整官が、ニューヨークのシンポジウムで「台湾独立は支持しない」と述べ、「一つの中国」政策を再確認する立場を打ち出した。 大統領が希望する秋の米中首脳会談に向けた地ならを始めたのだろう。 台湾をめぐり、日本のみが中国と対立する新しい構図に日本は耐えられるだろうか。 (岡田充・共同通信客員論説委員、東洋経済 = 7-15-21)


実は抜け穴だらけ? 「監視社会」中国の実態
IT を駆使して個人情報を収集しても管理は適当?

新型コロナウイルス感染症が最初に発生したものの、政府による強力な防疫体制でほぼ封じ込めている。 それには強力な「監視社会」が奏功したと言われるが、どれほど強力なものなのか。 携帯電話のアプリで登録された個人情報はすべて筒抜け、と言われるがそれはどこまで本当か。 一世を風靡したバンド「爆風スランプ」のドラマーで、現在は中国を中心に活動しているミュージシャンのファンキー末吉氏が、コロナ禍の中国での「監視社会」の実体験を語る。

かつて私は、「倭僑のススメ」と題して講演会まわりをしていたことがある。 中国生活がやや長くなってきたころからだ。 話す内容は、おおよそこんなものだった。

「中国人は長い戦乱が続いた歴史の中で、『地縁・血縁・金』しか信じなくなった。 だから、自分の国が住みにくいと思ったら、国境を越えて新天地を目指す。 その新天地で、その国の言葉や文化を学び、『華僑』となる。 陸路で国境を越えられる中国と違って、四方を海で囲まれた日本ではなかなかそれをしない。 『この国は自分にとって住みにくいのかも …』と思っても、我慢して『合わせる』しかないと思っているのではないか。」

実際に私は日本の芸能界、例えば大手プロダクションが幅をきかせるシステムの中で、いつも「住みにくい」と強く感じていた。 日本では「変わり者」といわれ、いつも輪の中からはじき出されたような疎外感を感じていた。 だからといって、そんな世界に合わせることは苦手だ。

中国人が規則を守るようになった!

そのような中、中国のロック界へと飛び出してみたら、中国というところはこんな自分をそのまま受け入れてくれた。 私にはとっても素晴らしところだった。 そんな経験から、

「世界は広い! 今の自分のままで生きていける世界がどこかにきっとある! 日本の若者よ、どんどん外に出ていって倭僑となろう!」

といった話をしていたのだが、当時と比べて世の中はさらに大きく変わっている。

日本人は「法律とは、お上が自分を守ってくれるもの」という感覚があると思う。 ところが中国人は、逆に「法律なんか上が下を搾取するためのものだ」と思っているようなところがある。 だから、「見つからなければ法律など破ってもかまわない。」 これは日本人に知られた中国人観ではないだろうか。 例えば、中国人が日本に来て夜中に横断歩道を渡ろうとする。 赤信号であれば車が来てなくても渡らずにずっと待っている日本人を見ていると、「意味ないでしょ?」と笑ってしまう。 私もついついそうしてしまうのだが、日本人はなぜだか赤信号では止まってしまう。

ところが、中国人がそんな日本人を見て笑っていたのも今は昔 …。 今では、車を運転しているすべての中国人は、真夜中の赤信号でも必ず止まる。 誰が見ていなくても、他に車が来ていなくても、赤信号であれば必ず止まる。 なぜか。 それは、国中至る所に設置されている監視カメラのせいだ。 日本では監視カメラの映像を証拠に罰金を請求されても、不服なら裁判で争うことができる。 ところが中国は、いやおうなしに罰金を支払うことになる。

今、私は仕事で寧夏回族自治区の銀川市に来ている。 銀川市は同自治区の首府とはいえ、田舎町だ。 それでも、至る所に監視カメラがある。 日本で言えば、電柱ごとにすべて監視カメラが設置されているような状態だ。 これほど設置すれば経済的な負担は大きい。 さらに、監視カメラの映像をすべてチェックして違反者を特定し罰金を徴収するためにかかる人件費だけでも莫大な費用がかかっているはずだ。 とはいえ、「多くの人民から片っ端に罰金を取れば、あっという間にペイするよ」という噂がある。

しかも、デジタル・IT 大国となった今の中国では当然、そのようなシステムもすべてデジタル化されている。 例えば駐車違反をすると、車のナンバーにひも付けされている電話番号に SMS メッセージが来る。 携帯電話にアプリを入れておくと、そのアプリに違反を示す証拠写真も送られ、罰金もそのアプリの中にあるデジタルマネーでの支払い機能で支払うことができる。

違反、即罰金のシステムに不満なし

これほど簡単に徴収されるがゆえに、私が誰かの車の助手席に座るときには「シートベルトをしてくれ」と言われる。 昔は誰もしていなかったのに …。 ちなみに、飲酒運転で捕まれば即、刑務所行きだ。 おかげで、飲酒運転やその他交通違反は劇的に減った。 そうしなければいけないから、といった人民の不満は、少なくとも私の周囲では皆無だ。 要は、違反しなければいい、交通事故は減るし、別に悪いことはない。 「こんなシステムはクソだ!」とお上にたてつく人はいない。 いたとしても、「国家安全法」でパクられておしまい、だ。

こんな国で暮らして、30 年になる。 在住外国人は人民が持つ ID に当たるものがパスポートになる。 私は新型コロナウイルス感染症が拡大する直前に出国して、1 年以上中国に入国できていなかったが、いない間に生活上のデジタル化がさらに進んだ。 外国人を含むすべての中国居住者は「行程●(= 上下に上と下)」というアプリを携帯電話に入れておかないと、中国国内の通行ができない。 これが日本であれば、「高齢者とか、スマホが使えない人たちはどうするんだ?」との意見が出てきそうだが、中国はそんなことは考えない。 故・ケ小平さんが「豊かになれる者から豊かになれ! 黒かろうが白かろうが、ネズミを捕る猫がいい猫なのだ!」と言った通りにこの国が進んでいるためだ。

私の経験を紹介しよう。 外国から上海空港に着き、空港近くのホテルでそのまま 2 週間の隔離生活を強いられた。 隔離期間が終わると、アプリ「行程●(= 上下に上と下)」が緑色になる。 これはどこでも通行できるサインなので、自主隔離場所に選んだ銀川市へ向かった。 どこの自主隔離先に向かうか、飛行機の便名まで書き入れる書類が回ってくる。 私は隔離終了証明書や新型コロナウイルスに対する陰性証明書も携帯していた。 おそらく、このような情報はお上のデータベースに入っているだろうが、もしものための用心だ。

その「もしも」が、まさか実際にやってくるとは思っていなかったが …。

銀川市では私がプロデュースしているバンドのメンバーたちが空港まで迎えに来てくれて、彼らが用意してくれた「自主隔離先」となる部屋まで案内してくれた。 私は北京にも家があるが、同居人がいると彼らまで隔離生活を送らなければならなくなるため、1 人での隔離生活を希望した。 この自主隔離先では、「最初の 1 週間はこの住居がある社区長(町内会の会長)のような人が監督し一歩も部屋から出ずに生活する。 その後の 1 週間は社区長が判断して、人混みとなるような場所でなければ外出してもよい」と聞かされていた。 ところが、この社区長からは 2 週間、まったく連絡が来なかった。 この社区長の話は、後に続く。

結局、連絡が来なかったので自主判断で隔離最終日に病院に行き、PCR 検査を受けた。 もし北京に帰ってから陰性証明書の提示を求められたとき、何か問題が生じたら困るためだ。 その後北京に戻ったが、ここでは自分の労働ビザの更新手続きが待ち構えていた。 ビザの更新のためには「住宿証明」を取得することと、病院での健康診断が必要となる。 この健康診断までにもう一騒動が起きる。

携帯アプリですべて手続きが済むのだが …

デジタル化が進む中国、病院での受診予約もアプリで行うのだが、選択肢が多岐にわたって迷うことが多く、しかも外国人向けの予約フォーマットがなかったりしてスマホを手にして試行錯誤してしまう。 ようやく予約し病院に向かうと、今度は健康診断を断られるというアクシデントが生じてしまった。 中国入国時点から計算した時間と、規則で決められている時間の計算方法が、私と病院側の認識で差が生じてしまったためだ。

到着する飛行機の時間といった細々としたことまで書かせて提出させ、記録として残しているはずなのに、実際のアプリではそんな計算ができていない。 ということは、国家がつくったアプリであるにもかかわらず、出入国情報や隔離情報といった情報がひも付けされていないのだ。 中国の IT と個人情報管理が、たとえ SF 映画のように完璧に管理されていたとしても、それを閲覧する権利を持つ者と持たない者がいると、当然、持たない者からは見えない情報が存在する。 そこに問題が生じる余地ができてしまうということだ。

そんな状況が、私をさらに振り回すことになる。 ビザ更新に必要な「住宿証明」でも、IT による情報管理ゆえにトラブルが起きた。 証明そのものはたいしたことがない。 マンションの大家と会い、そのマンションの管理会社に言って手書きで「うちのマンションにこの人は確かに住んでいますよ」と書いてもらうだけ。 この書類を最寄りの警察署に提出して「住宿証明」を取得するのだが、今度はこの警察署に入れなかった! 警察署に入るために必要な、健康状態に関する証明ができなかったためである。

この証明には「北京健康宝」というアプリが必要なのだが、インストールしても外国人には対応していない。 中国人の ID 「身分証」にしか対応しておらず、外国人のパスポート番号は選択肢にないのだ。 後でわかったことだが、外国人向けには「Health Kit」というアプリがあり、それを利用しなければならなかった。 ところが、警察署の前に立つ保安員にはそんなことを知らないし、知らされていない。 「北京健康宝」が OK サインを示せない者は入れてはいけないの一点張りだ。

内国人向けや外国人向けと、いろんなアプリが出てきて情報を入力させる中国。 そんな情報は確かに「管理」のために使われるのだが、その大本のデータベースに政府側のすべての人間がアクセスできるわけではない。 例えば保安員のような末端の人間には情報が知らされておらず、「北京健康宝の OK サインが出ているかどうか」でしか判断できないようなシステムなのだ。

情報の管理・伝達で機能不全が見られる社会

「NO」が出て、その理由を聞いても、担当者は「知らない」と言うしかない。 「OK が出ないと通すなと言われている。 それが仕事だ!」というわけなのだろう。 いずれにしろ、内国人向けのアプリに相当する外国人向けアプリを自分で見つけられない外国人は、中国の公的機関はもとより、どんなショッピングモールやレストランといった人の集まる所にはどこにも入れないということになる。 ここでも、先ほどの「スマホが使えない人は …」という考えをする人はいない。 使えなければ生きていけない。 まさにネズミを捕る猫にならねば生きていけないのがこの中国なのだ …。

いろんな手続きを終えて帰宅すると、今度は北京市朝陽区役所から連絡が来る。 「いつ、どの便で入国して、いつ北京に入ったかを教えてくれ」というのだ。 入国前からこのような情報は散々書いてきたのに、データのひも付けがここでもできていない。 データは収集しても共有されていないのだ。

隔離生活がようやく終了し、買い物に出かけてみた。 バスに乗るときも携帯アプリで乗り降りする。 ショッピングモールに入るときには前出の「Health Kit」アプリをかざし、買い物の支払いは「WeChat Pay」でキャッシュレス決済をする。 当然ながら、それら情報は政府に筒抜けになる。 中国は企業に対して「国が要請すればすべての情報を提供しなければならない」という法律があり、企業が自主的に「個人情報を保護する」というわけにはいかない。

ここで、ちょっと不思議な感情が湧いてくる。 私は、自分の情報が中国政府に筒抜けになったところでかまわないと思っている。 音楽活動以外、政治に関することもやっていなければ、後ろめたいこともやっていない。 だから自分に関する情報を政府が閲覧したところで、どうでもいいとさえ思っている。

でも、これを日本でやられるといやなのだ。 例えば、日本のホテルでチェックインするときに住所を書かされる。 これもいやだ。 かつて「なんであんたに住所教えないかんの?」といってスタッフを困らせたことさえある。 たいていの場合「規則ですから」の一点張りで、住所を書かせる理由を説明できるホテルスタッフはいない。 「個人情報保護法」とやらの関連法律があるのだから、書かせた住所の使い途を提示して誓約書にサインしろ、ぐらいまで思ってしまう。 なぜか。 それは、自由で民主的と言われている日本でそんなことをされるから腹が立つのだ。 だが、中国で同じことをされてもまったく腹が立たない。 「中国はそんな国やから、しゃーないなー」ぐらいしか思わないのだ。

再び銀川で個人情報を言わされる

北京で数日を過ごし、また銀川市に行くことになった。 ここで、自主隔離のときの話が関連してくる問題が起きる。 北京でビザ更新の手続きを終え、審査期間中になるとパスポートを当局に提出する代わりに「受取証」のような書類をくれる。 これがパスポートと同じ効力を発揮する。 北京の空港では「行程●(= 上下に上と下)」、「Health Kit」アプリを使って空港に入り、チェックインではパスポート代わりの書類を提示して無事出発。 ところが、銀川の空港に着くと、誰も飛行機から降りない。 私ともう 1 組の中国人カップルが先に降ろされ、バスに乗せられて空港の別室に案内された。 そこには「境外回寧人員登記所」、つまり「境外から寧夏(回族自治区)に帰った人が登記する場所」と書いてある。

ここでは防護服を着た担当者が、私にいろんな質問をしてきた。 おおよそ、入国時期や隔離場所に関する情報で、もうすでにすらすらと模範解答が頭に浮かぶほどだ。 だから、「情報はちゃんと共有しておけよ」と思わず毒づいた。

担当者の事情は、おそらくこんな感じではなかったのだろうか。 私はパスポートを持っていないので中国への入国日がわからない。 パスポート代わりの書類にはバーコードがあるものの、空港のチェックインカウンターではそれがスキャンできない。 北京の空港側は「入国日がわからない外国人を乗せたから」と連絡があった。 それを聞いた銀川市の当局は、「そういえば、自主隔離で銀川に来ると言っていた外国人がいたなあ」というわけで、こんな別室に案内されたのではないか。

無事、質問が済むと、担当者が「住居まで送る」と言う。 空港施設を通らず、この別室からそのまま住居まで行くのだ。 この住居こそ、前に 2 週間の隔離生活を送った場所だ。 ここに着いたら、社区長が呼び出されてやってきた。 彼は、私や迎えに来たバンドのメンバーから「すでに隔離はここで終えている」と伝えられ、どうしたらいいか戸惑っていた。 結局、社区長は私の電話番号を聞いて、「何かあったら電話する」と言って去っていった。 心なしか、「ちょっとほっとした」という表情も読み取れる。 銀川ではめったにないであろう外国人の隔離の責任者という重荷を背負わされてしまったものの、どうやら隔離はとっくに終わっている。 「このままそっとしておけば、何の問題はないのでは …」と感じたのではないか。

銀川市ではすでに 1 年以上、感染者が出ていないという。 ショッピングモールといった施設ではマスク着用だが、街中ではマスクをしていない人も目立つ。 小さな商店やレストランでは、入る際に必要なアプリのスキャナーは置いてあるものの、誰もスキャンしない。 スキャンしようとすれば「いいよ、いいよ」と言いながら中に入れてくれる。 緩い …。

上に政策があれば、下に対策がある

しかし、ここで考えてみてほしい。 コロナ禍まっただ中、感染者の拡大がまったく抑えられていない日本で、外国からの入国者にこれだけのことをするだろうか。 民主国家、自由の国の日本では、政府が国民に強制することはできない。 ただ、「入国者は公共交通機関に乗らないでくださいね」とお願いするのみである。 私が受けたように、当局がタダで住居まで送り届けることもない。 アプリや携帯電話の位置情報で、どんな行動をしたかを把握することもなければ、社区長のような人に責任を負わせて、隔離されているかどうかを見届けさせるようなこともない。

自由を謳歌してコロナがまだ蔓延している日本。 監視社会ではあるがコロナを封じ込め、次に行こうとしている中国。どちらが幸せなのかは、その人によって違うかもしれない。 ただ、私には中国人がその「監視」に対して不満を持っているようには見えない。 彼らを見ていると、社会を維持するために「仕方ないこと」として「やらねばならない」と思っているように感じる。 もちろん、われわれ外国人は新疆ウイグル自治区のウイグル人や香港での人権問題から目をそらしてはいけないと思う。 しかし、ここで暮らす中国人は、その情報を VPN (バーチャル・プライベート・ネットワーク)に接続して国外の情報を探そうとしない限り、知ることができないということもあり、あまりそういった問題に関心はなさそうだ。

それは、前述したような「スマホが使えない老人はどうするんだ?」という問題に対して、日本人なら「ちゃんと老人にも優しいシステムを作るべきだ」と考えるが、中国人は「自分の周りで困っている老人がいたら自分が教える。 それでいい。」と考えているように思えて仕方がない。 「上に政策あれば、下に対策あり。」 中国人は長い歴史を、ずっとこうやって生きてきたのだ。

もう一度繰り返すが、中国人は「地縁、血縁、金」しか信じない。 地縁とはご近所さんや職場など自分が出向く場所での縁、血縁とは血のつながりのある家族や親しい友人たち、金とは白猫でも黒猫でもネズミさえ捕れればいい猫になって得るもの。 この国はこれで突き進んできて社会が形成、成熟してきた。 監視カメラ? 買い物情報が政府に筒抜け? それがどうしたの? 俺たちはそれで経済は成長してコロナ禍もくぐり抜けた。 俺たちは幸せだけど、君たちは幸せかい? 中国社会は、私にそう問いかけているような気がしてならないのだ。 (ファンキー末吉、東洋経済 = 5-3-21)

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