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トヨタ、初の量産 EV 「bZ4X」を 5 月発売 個人向けはサブスクで

トヨタ自動車は 12 日、同社として初の電気自動車 (EV) 専用モデル「bZ4X」を、国内で 5 月 12 日に売り出すと発表した。 EV の世界販売を 2030 年に 350 万台まで引き上げる新たな戦略を昨年末に示しており、それを具体化する EV の第 1 弾となる。 トヨタは、強みとするハイブリッド車や EV、燃料電池車などを「全方位」でそろえ、国や地域の事情に応じた車種を投入する戦略を進めてきた。 EV については、先行する米テスラなどを追う立場だ。

bZ4X は中型 SUV (スポーツ用多目的車)で、トヨタにとって初の量産 EV。 国内では、個人向けは定額制(サブスクリプション)のサービス「KINTO (キント)」で提供を始める。 法人向けにはリースで販売する。 航続距離は 559 キロ(国際的な測定方法の WLTC モード)。 希望参考価格は税込み 600 万円から。 月額利用料などの詳細は改めて発表する。 初年度は 5 千台の申し込みを見込む。

サブスク方式にしたのは、EV の浸透が進んでいない国内事情を考慮したため。 EV は車両価格の高さや充電設備の不足といった課題がある。 中古車市場も整っておらず、消費者にとっては転売する時に電池の劣化により値崩れする心配があり、そのリスクを避ける仕組みとする。 サブスクやリースの場合、契約期間が終われば車両は売り手に戻ってくる。 トヨタにとっても、使い終えた電池の回収がしやすくなり、再利用につなげられる利点がある。

当面、bZ4X の供給能力には限りがあり、競争が激しい海外市場に車両を優先的に振り向ける狙いもあるとみられる。 欧州や中国、北米などでは今年半ばから順次発売する。 トヨタは昨年 12 月、2030 年に世界で EV30 車種を展開し、350 万台を世界販売する方針を発表した。 今回市場に投入する「bZ4X」を皮切りに、様々なタイプの EV を増やしていく。 「EV にも強いメーカー」をめざし、巻き返しをはかる方針だ。 (近藤郷平、asahi = 4-12-22)


ホンダ、EV に 5 兆円投資、世界で 30 車種展開 日本ではまず軽 EV

ホンダは 12 日、電気自動車 (EV) の開発や生産設備に 30 年までに計 5 兆円を投じると発表した。 世界で EV30 車種を展開し、想定される年間販売の 4 割(200 万台)超を EV にする。 トヨタ自動車と日産自動車も電動化戦略を発表しており、自動車大手の EV シフトが一段と加速する。 ホンダは、40 年までに全車種を EV と燃料電池車 (FCV) にする、日本勢で最も踏み込んだ目標を掲げる。 今回の発表はその具体的な方向性を示すものだ。 三部敏宏社長は「EV の販売は始まったばかりで、地域ごとに最適な道を探っていく。 40 年の目標を達するために、クリアしなければならない道筋だ。」と語った。

EV の 30 車種には、米ゼネラル・モーターズ (GM) と共同開発する中大型の SUV (スポーツ用多目的車) 2 車種を含む。 北米では 27 年に 300 万円台を想定した普及価格帯の EV を出す。 中国でも 27 年までに 10 車種を入れる。 一方、日本では軽商用の EV を先行させる。 24 年前半に 100 万円台で売り出す。 家庭用の充電インフラなどが整っていないため、まずは宅配などビジネス向けを狙う。 その後、SUV など一般向けも計画する。

トヨタ、日産も EV 投資加速

中核部品である電池は地域ごとに調達先を変えることで量を確保する。 北米は GM 製の電池を使う。 さらに他社と合弁会社をつくることも検討する。 中国では車載電池最大手の寧徳時代新能源科技 (CATL) から調達する。 日本では中国系電池メーカーのエンビジョン AESC から調達する。 次世代電池の「全固体電池」については栃木県さくら市の研究所に約 430 億円を投じて 24 年までに実証ラインをつくり、20 年代後半に売り出す車種への採用をめざす。

30 年までの研究開発費は EV 向けソフトウェアや宇宙事業、ロボット開発といった新領域なども含めると計約 8 兆円にのぼる。 巨額の投資資金をまかなうため、生産する車種数を減らしたり、共同開発を進めたりして 25 年までに 18 年比 10% 生産コストを削減する。 ホンダは 30 年までに、米国と中国で販売の 40%、日本では 20% を EV と FCV にする目標を公表してきた。 ただ、20 年には初めての量産 EV となる「ホンダe」を発売したが、昨年末時点の販売は日本と欧州で約 9 千台にとどまる。 21 年の EV の世界販売も約 1 万 4 千台止まりで、全体の 1% にも満たない。 40 年ガソリン車廃止という高い目標と、現状とのギャップをどう埋めるかが注目されていた。

トヨタは 30 年に世界販売の 8 割にあたる 800 万台を電動車とし、350 万台を EV にする方針。 EV 投資は 4 兆円、電動車全体では合計 8 兆円に上る。 日産は 30 年度までに車種に占める電動車(ハイブリッド車を含む)の割合を今の 10% 強から半数以上に引き上げ、26 年度までに EV 開発に 2 兆円を投資する。 東海東京調査センターの杉浦誠司氏は、ホンダの戦略について「他社以上に積極的に EV 化を進めていく方向性とやり方にみえる。 今後は、いかに売れる EV をつくっていけるかが重要になる。」と話す。

ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹氏は「ホンダはトヨタの全方位戦略と違って、持続可能な事業構造をつくることが大事だ。 GM との協業で、効率的に EV を生産することで、筋道はみえた。 ただ、ソフトウェア開発では、自前にこだわっている部分もあるが、先行するトヨタやフォルクスワーゲン (VW) に追いつけるかは疑問だ。」と指摘する。 (神山純一、asahi = 4-12-22)


日産自動車、全固体電池の試作生産設備を公開
実用化に向けた研究開発を加速

日産自動車株式会社(本社 : 神奈川県横浜市西区、社長 : 内田 誠)は 8 日、2028 年度の実用化を目指して研究開発を行っている全固体電池の積層ラミネートセルを試作生産する設備を初公開しました。 同社は本設備を総合研究所(神奈川県横須賀市夏島)内に設置し、全固体電池の技術開発を推進します。

全固体電池は、電気自動車(以下 EV)の普及を促進させるゲームチェンジャーとなる技術として期待されています。 従来比で約 2 倍となる高いエネルギー密度や、優れた充放電性能による大幅な充電時間の短縮、さらにはより安価な材料の組み合わせによるバッテリーコストの低減等により、ピックアップトラックなども含めた幅広いセグメントへの搭載が期待され、EV の競争力を高めます。

日産は、長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」において、2028 年度までに自社開発の全固体電池を搭載した EV を市場投入することを目指し、同電池の量産化に向けたパイロットラインを 2024 年度までに横浜工場内に設置する予定です。 今回公開した試作生産設備では、パイロットラインで量産試作を行う仕様の材料、設計、製造プロセスの検討を行います。 なお、同社は、全固体電池は 2028 年度に 1kWh あたり 75 ドル、さらにその後は EV がガソリン車と同等のコストレベルとなる 65 ドルまで低減可能なポテンシャルがあると考えています。

日産の研究開発を担当する副社長である中畔邦雄は、「日産は、分子レベルのバッテリー材料研究から、安全で高性能な EV 車両開発、さらには EV を蓄電池として活用した街づくりまで、幅広く研究開発を行い、電動化技術をリードしてきました。 過去の経験から得られた知見は、全固体電池の開発を支えています。 全固体電池については、重要な要素技術が積みあがってきています。 今後、開発部門と生産部門で一体となってこの試作生産設備を活用し、全固体電池の実用化を加速します。」と述べました。 (NissanNews = 4-8-22)


ソニーとホンダ、EV 共同開発で合意 2025 年に初期モデル販売へ

ソニーグループとホンダは 4 日、電気自動車 (EV) の事業で、戦略的な提携に向け協議すると発表した。 合弁会社を年内につくり、EV を共同開発することで基本合意した。 2025 年に初期モデルの販売をめざす。 電機と自動車の大手企業が、業種の垣根をこえて手を結ぶのは異例だ。 ソニーグループは国内の電機大手として、初めて EV の量産に乗り出す。 ホンダは EV 分野で、トヨタ自動車や日産自動車などのライバルと競っている。 今回の提携によって業界の勢力図が変わる可能性も出てきた。

ソニーグループの吉田憲一郎社長は会見で、「ユニークなモビリティー(乗り物)をつくって世に問いたい」と述べた。 ホンダの三部敏宏社長は「異業種間の提携の難しさを乗り越え、新しい価値を提供できる」とした。 昨年夏から現場レベルで交流を進め、年末ごろからトップで協議して合意に至ったという。 製造はホンダの工場を予定している。 音楽や映像などの車内向けサービスについては、ソニーが開発する。 ホンダは合弁会社とは別に、自社の EV の開発や販売は続ける。

ソニーの吉田社長は 1 月に米国・ラスベガスで開かれた米家電見本市「CES」で、EV の事業を担う新会社を今春設立し、量産化を検討する方針を示していた。 新会社はホンダとの合弁会社と連携していくという。 ホンダは世界で販売する新車について、40 年までに EV と燃料電池車 (FCV) にする目標を掲げる。 (鈴木康朗、asahi = 3-4-22)


日産、ルノー、三菱 3 社で EV 35 車種を投入 EV マーチ欧州発売へ

日産自動車と三菱自動車、仏ルノーの 3 社連合は 27 日、電気自動車 (EV) に 2026 年度までの 5 年で 3 兆円を投資する方針を発表した。 30 年度までに 35 車種の EV を投入する。 開発費を抑えるため、3 社で車台や部品の共通化を進める。 アライアンス(提携)を結ぶ 3 社のトップがこの日、1 年半ぶりにそろってオンラインで会見した。 発表によると、3 社の車種数を 26 年度までにいまより 1 割減の 90 にして、共通の車台の割合を 60% から 80% に増やす。 30 年度までに投入する EV 35 車種のうち約 9 割は、計 5 種類の共通車台を使う。 小型車向けの車台はルノーが開発、生産する。

日産はリチウムイオン電池よりも小型化でき、安全性も高い「全固体電池」を 28 年度に向けて開発している。 この電池を 30 年度までに 3 社で共用する予定だ。 リチウムイオン電池を含めた生産能力も増やす。 自動運転などで開発費がかさむソフトウェアについても、共通化を検討する。 3 社はこれまでも開発や生産で協力しており、EV 化をにらんで関係を強める。 日産の内田誠社長は「各社が得意な地域や車種の開発に特化することができる」と話した。

EV をめぐっては、トヨタ自動車が、EV の世界販売目標を 200 万台から 350 万台に増やし、30 年までに開発や設備に 4 兆円を投資する方針を昨年末に示した。 独フォルクスワーゲンや米ゼネラルモーターズも、EV を含めた電動車への数兆円単位の投資を発表するなど、開発競争が加速している。

小型車の EV 車台、ルノーが開発

日産自動車と三菱自動車、仏ルノーの 3 社連合は、小型車向けの共通車台をルノーが開発、生産することにした。 日産自動車を代表する小型車「マーチ(欧州名マイクラ)」も、共通車台をもとに EV 化する。 欧州で 2020 年代半ばにも販売する予定で、日本などでの展開は未定だという。 マーチは 82 年に販売を始めた小型車だ。 元々は日本で製造していたが、円高を受けてタイでの生産に切り替え、輸入して国内販売している。 国内では 10 年を最後に全面改良していないが、欧州では 17 年に新型車を発売していた。 EV 化して、環境規制の強まる欧州で普及をめざす。

EV は電池の価格が高く、メーカーにとっては利益を確保しにくい。 小型車の場合、重い電池を積んで航続距離を延ばすのは難しいともされてきた。 3 社連合は三菱が 09 年に「アイミーブ」、日産が 10 年に「リーフ」を発売するなど EV でリードしてきたが、足元の販売では米テスラなどに引き離されている。 3 社連合としてはマーチなど小型車にも力を入れて巻き返したい考えだ。 (神山純一、asahi = 1-27-22)



車用「全固体電池」、迫る日独決戦 トヨタは特許で先行

ポスト・リチウムイオン電池として期待される全固体電池の実用化競争が始まった。  特許で先行するトヨタ自動車は年内に試作車の公開を検討する。 独フォルクスワーゲン (VW) は米新興と組み電気自動車 (EV) の航続距離を大幅に延ばす電池生産に 2024 年ごろから乗り出す。 現行電池の生産規模で高いシェアを持つ中韓勢に対し、技術面の先行優位を生かせるかが問われる。 「全固体電池はリチウムイオン電池開発の最終章だ。」 VW の電池開発トップ、フランク・ブローメ氏は言い切る。 同社は出資する米シリコンバレーのスタートアップ、クアンタムスケープと組んで開発中だ。

独 VW、新興企業と組み開発加速

全固体電池は、電気を運ぶリチウムイオンが動き回る電解質に固体の材料を使う。 電解液を使うリチウムイオン電池に比べてショートしにくく、発火などのリスクが小さい。 電極と電解質を交互に並べて積層化することが容易なことも特徴だ。

そのため、既存のリチウムイオン電池より重量当たりのエネルギー密度が高まり、電池の大きさが同じでも EV の航続距離を延ばすことができる。 クアンタムスケープの全固体電池は金属リチウムを負極に使うなどして、航続距離をリチウムイオン電池より 1.8 倍長い 730 キロメートルに延ばせる。 15 分あれば全体の 80% まで充電ができる。 電池の劣化も進みにくく、38 万キロメートル走っても当初容量の 80% を維持できるという。

VW は EV シフトの切り札として新興企業の知見も取り込みながら全固体電池の実用化を急ぐ。 24 - 25 年に量産を開始する計画だ。 5 月 14 日にはクアンタムスケープが VW と合弁で試験生産ラインの設置場所を年内に決めると表明した。 独北部が有力候補だ。 当初の生産能力は年 1 ギガ(ギガは 10 億)ワット時で、その後に 20 ギガワット時分の能力を追加する計画だ。 現在の欧州全体の電池生産能力の半分強にあたる規模で、EV 数十万台分をまかなえる。

独 BMW も米スタートアップのソリッドパワーへの出資拡大を 5 月 3 日に発表。 同社の全固体電池は理論上、航続距離がリチウムイオン電池に比べて最大 2 倍になるという。 BMW は 22 年に試験用電池を調達、25 年までに全固体電池を載せた車両の路上試験を始め、30 年までに発売する計画だ。

ドイツメーカーが攻勢をかける一方、開発で先行するのは 1,000 超の特許を持つトヨタだ。 20 年代前半の実用化を目指す考えで、21 年中に試作車の公開も検討している。 同社が開発する全固体の性能は、既存電池と同じサイズの場合、航続距離は 2 倍超に増える計算だ。 電池開発ではパナソニックとも提携した。 日産自動車も 20 年代後半に全固体電池を実用化する。 平井俊弘専務執行役員は「大型車で EV 化を進めるには今後必要になる技術だ」と語る。

コストが課題

全固体電池の課題は、足元でリチウムイオン電池に比べて 4 倍以上高いとされるコストだ。米フォード・モーターなどの試算によると、EV 向けリチウムイオン電池は現状で 1 キロワット時当たり 1 万 3,000 円程度で、30 年には同 1 万円以下になる。 一方、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) がトヨタなどと取り組むプロジェクトでは、量産技術の確立や量産効果などで、全固体電池のコストを 25 年に同 1 万 5,000 円、30 年には同 1 万円とリチウムイオン電池並みまで下げる目標を掲げている。

コストを引き下げる技術の開発競争も始まっている。 米シリコンバレーに拠点を置く新興のサクウ・コーポレーションは 3D プリンターを活用して全固体電池をつくる技術を持っており、「競合製品の半分のコストで生産できる(ロバート・バゲリ最高経営責任者 = CEO)」と話す。 同社には部品メーカーの武蔵精密工業が出資している。

EV コストの 3 - 4 割を占める電池は低価格化が進み規模がモノを言う製品の代表格となった。 中国の寧徳時代新能源科技 (CATL) や韓国の LG 化学など中韓勢がリチウムイオン電池で 7 割超のシェアを握る。電池システム開発のエナックスの三枝雅貴社長は「コスト面でもはや電池は中国が制している」と指摘する。 日本勢などは技術力をテコに全固体での巻き返しを狙う。

日本企業、素材で存在感

富士経済によると、全固体電池の世界市場は 35 年に 2 兆 1,000 億円になる見通し。 EV向けが注目される中、小型のウエアラブル向けなどでも広がる可能性がある。 スマホ部品などで強みを持つ村田製作所はソニーグループから電池事業を買収して参入。 電子部品の開発技術を生かして全固体電池のウエアラブル応用などを狙う。 21 年度中に野洲事業所(滋賀県野洲市)に量産ラインを設置し、ウエアラブル端末向けに供給する。 最終的には月産 10 万個の生産量を計画している。

村田製の全固体電池は電解質に「酸化物」を用いる。 EV で主流の「硫化物」に比べて大容量、高出力の用途には向かないが、電子部品と同じように基板上に配置できるため、バッテリーを置く空間を狭めてデジタル機器そのものを小型化できる。 同社はこれまでスマホ向けに回路基板「メトロサーク」などの新技術を供給し、スマホの高性能・小型化に寄与してきた。 こうした実装技術を電池分野にも展開する。

ライバルの TDK もセラミック技術を使った超小型の全固体電池を既に量産しており、調理用温度計などに出荷している。 こうした民生機器で固体電池技術が発展すると、イヤホンやスマートグラス、指輪型端末や体に埋め込む端末など、より体に近い部位にもウエアラブル機器を安全に使えるようになる。

固体電池の開発をめぐっては日本企業による素材開発も相次ぐ。 特に主要材料では、電解質で三井金属が埼玉県の研究所で設備を稼働させたほか、出光興産も千葉県市原市に生産設備を新設する。 日本電気硝子も正極材に結晶化ガラスをつかった電池を試作、安全性を高めている。 いずれも素材のイオン技術や樹脂の品質改良技術の応用などに強みを持つ。

もともと既存のリチウムイオン電池は「正極材」「負極材」「セパレーター(隔離材)」「電解液」の主要 4 素材を日本の化学メーカーが握ってきた背景があり、この強みを固体電池の分野でも生かせるとの見方がある。 本格化しはじめた電池の革新は日本の部品・素材企業にとってのチャンスとなる。 (渡辺直樹、三隅勇気、フランクフルト = 深尾幸生、nikkei = 6-3-21)


離陸直前の空飛ぶクルマ 昇る中国、追う日本

「空飛ぶクルマ」の離陸へ向けたカウントダウンが始まった。 2020 年代半ばの実用化に向け、世界でスタートアップと大手が入り乱れ開発にしのぎを削る。 コロナ禍で企業の撤退や開発の停滞も起きており、制空権を巡るレースは予断を許さない。 日本では 21 年、有力スタートアップがこれまでの 1 人乗りに加え、2 人乗りの設計に着手する。 動向を追った。 名鉄豊田市駅から車で約 1 時間。 愛知県豊田市の人里離れた山中に、空飛ぶクルマスタートアップ、スカイドライブ(東京・新宿)の開発拠点がある。 空飛ぶクルマは垂直離着陸できる次世代の電動モビリティーだ。 「eVTOL (イーブイトール)」とも呼ばれる。 滑走路がいらず小回りがきき、ヘリコプターより一回り小さな機体で 1-5 人程度を運ぶ。

機体の軽さと信頼性を追求

拠点には 60 人ほどのメンバーが集い、一部は山の麓で寝食を共にしながらものづくりに打ち込んでいる。 トヨタ自動車やパナソニックなど大手メーカー出身者の姿もあり、空力や機体形状など自由闊達に技術を談議し合う。ネットに覆われたテニスコート 3 面分の試験場では低い高度で短い距離を飛ばしたり、プロペラの推力を検証したりと地道な作業が続く。 「21 年は実用化するモデルの開発に集中する 1 年になる。」 商用化を目指す 23 年が迫る中、スカイドライブの福沢知浩代表はこう話す。 同社は 20 年 8 月、国内初の 1 人乗りの飛行試験の様子を公開、注目を集めた。

もっとも、客を乗せないとタクシーやヘリコプターに代わる交通サービスにならない。 商用化の本命は 2 人乗り。 これまでより一回り大きい機体を設計、開発する必要がある。 この新型開発で立ちはだかるのが「重さ」、「機体制御」、「信頼性」の 3 つの壁だ。 コンパクトを志向する同社の機体は 1 人乗りで 400 キログラム(乗員含む)。 2 人乗りになった際、機体のサイズは 2 倍近くになり乗員の重さも 1 人分増えるが、「重さは 5 割増に抑えたい。(福沢氏)」 ボディーの外装を薄くしたり、電気系統の配線を短くしたりと、あらゆる面で軽量化の手を探る。 同時に、もっと出力の高いモーターを調達したり、プロペラを改善したりすることで推力の向上に取り組む。

1 人乗りなら重心は一定で機体は制御しやすい。 だが、2 人乗り機体には 1 人しか乗らない場合もある。 天候によっても制御方法は変わる。 センサーをどう配置して自機の姿勢や重心をどう細かく調整するか - -。 21 年はいくつもの計算式を解き、シミュレーションしながら設計に落とし込んでいく作業に入る。 また、乗客を運ぶ事業を始めるには航空機と同様に、信頼性を担保する型式証明の取得が欠かせない。 「有人と無人では求められる信頼性が 1 千倍違う(福沢氏)」とあってバッテリーなども段違いの品質保証がいる。

これまで試作に強い中国企業からの調達が多かったが、品質保証できる日米などのサプライヤーに特注品を頼むことが増えるとみている。 「安く早く」ではなく型式証明を意識した開発局面では、20 年に最高技術責任者として参画した三菱航空機元副社長の岸信夫氏らの知見が生きそうだ。

コロナ禍が開発レースに影響

都市の交通渋滞解消の切り札や都市間の移動、観光でも活用が見込まれる eVTOL。 開発プロジェクトは世界で160件を超えるとも言われ、過去5年間で50億ドルが同分野に投資されている。 スカイドライブは 20 年で開発着手から 7 年たつがその間、グローバルな競合相手が台頭。脅威になっている。 さらに 20 年は新型コロナウイルスという変数が加わり、開発レースは混沌としてきた。 20 年 12 月、米配車大手ウーバーテクノロジーズが業績悪化を受けて、空飛ぶクルマ 開発部門を米ジョビー・アビエーションに売却すると発表した。 ウーバーは空のライドシェアサービスを 23 年に始めるといち早く表明した先導役だったが乱気流に飲まれた。 欧州エアバスや米ボーイングも本業が青息吐息のなか開発が停滞する可能性が出てきた。

空飛ぶクルマは中国では実用化段階に入っている。 「素晴らしい。 とても安全だと思う。」 「また体験したい。」 20 年 7 月、スタートアップの億航智能(イーハン)が山東省の湾岸部で開いた遊覧飛行会で市民らは声を弾ませた。 2 人乗り機体の飛行距離は 1 キロメートル、高度は 35 メートル。 墜落すれば大ごとだが安全に航行を続け実力を見せつけた。 億航はこれまで同様の飛行会を米国やカナダ、カタールなど世界 8 カ国 39 都市で開催。 グローバルな販路を着々と築いている。 20 年 7 月には量産工場を広東省に建設することを発表。 社員の 1 人は「近い将来、空を飛んで通勤する日常がやってくる」と交通のニューノーマルを予告する。

電気自動車 (EV) メーカー、小鵬汽車も市場に参入、23 - 25 年の実用化を目指している。 20 年 9 月に北京で開かれたモーターショーでは 1 人乗りの試作機「T1」を披露した。 空飛ぶクルマで世界の空を紅(あか)く染めようとする中国勢。 政府も全面的に後押ししており、中国民用航空局は 20 年 10 月、「空の無人運転試験区」を上海市や浙江省杭州市など全国 13 カ所に設置すると発表した。 特区に人、モノ、カネを集中。世界の競争をリードする考えだ。

欧州勢も目線は世界に向く。「3 年以内にサービスを始める。」 ドイツのスタートアップ、ボロコプターは 20 年 12 月、23 年までに「空飛ぶタクシー」をまずはシンガポールで運航すると発表した。 狙うのは観光用だ。 これまでドバイや米ラスベガスなどで飛行試験を繰り返してきた。 20 年 9 月には先行乗車の予約を始めると、すぐにチケットは完売した。

ユニコーン企業も誕生

ボロコプターとならぶドイツの有望株がリリウムだ。 全幅 11 メートルの大きなシャチを思わせるつるんとした白い機体。 対照的に前後 2 対の翼はノコギリのようにギザギザしている。実はこのギザギザには 36 個のモーターが内蔵されている。 上空でモーターの向きを変えて前に航行したり旋回したりする。 19 年 5 月の初試験飛行ではぎこちなかったが、テストを重ね動きがなめらかになってきた。 25 年の商用化が目標だ。

20 年 2 月には整備中に機体から出火。 けが人はでなかったが、2 機しかない試験機のうちの 1 機が大きく損傷した。 もっとも、スタートアップに失敗はつきもの。 原因を検証しながら困難を乗り越え、その後、11 月には米フロリダ州オーランドに発着場を開くことを発表するなど勢いに乗る。 リリウムが目指すのは「誰もがいつでも使え、あらゆる場所をつなぐ」空のタクシーだ。 「自動車より 4 - 5 倍速く、料金はタクシーとほぼ同じ。 移動の全てを変える。」 ダニエル・ヴィーガンド最高経営責任者 (CEO) はゲームチェンジャーの座を狙う。

カネも集まる。 中国ネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)をはじめ、関心を持つ有力ベンチャーキャピタル (VC) から次々と資金調達し、企業価値 10 億ドル超の「ユニコーン」に躍り出た。 大型のドローンのような外観を持つのが、欧州エアバスが開発する一人乗りの電動無人飛行機「バハナ」だ。 機体に電動モーターを搭載し、時速約 190 キロで航行する。 タクシーやヘリコプターの代替を想定。 旅客機だけに飽きたらず制空領域を広げようとする。

センサーで飛行物体などを避ける実験も含めて飛行を繰り返し、19 年 11 月に最終試験を終えた。 これまでに 13 時間、約 900 キロメートルを航行。エアバスは「商用化のために欠かせない、豊富な情報を得られた」としている。 米ボーイングも 17 年に自律飛行システムの米オーロラ・フライト・サイエンシズを買収。 機体制御などの技術を取り込み素早く開発にこぎつけた。 航空機大手はこれまでの旅客輸送だけでなく、ワンランク下の空の階層でも都市ネットワークをつなぐ新たな手段として空飛ぶクルマを位置づける。

空の新サービスのライバルになりそうなのがヘリコプターだ。 ヘリを使ったライドシェアを手掛ける米ブレードは 12 月、SPAC (特別買収目的会社)との合併を通じて 21 年に米ナスダックに上場すると発表した。 一般的にヘリコプターの旅客サービスは、経営幹部らを乗せる法人向けが大半。 予約のプロセスは煩雑で、「ほとんどの場合、手書きの用紙とファクスが必要だった。(共同創業者のロバート・ウィーゼンタール CEO)」 6 人乗りのヘリコプターの平均利用率は約 1.4 人にとどまっていた。

ブレードはライドシェアと同じようにスマートフォンのアプリを使って集客。 同じ時間帯に同じ目的地に向かう旅行者をマッチングすることでコストを抑える。 かつて 1 回のチャーターに 3,000 ドルかかっていた価格は 1 席当たり 195 ドルまで下がり、19 年には 1 年間で約 4 万人の旅客を運んだ。

世界競争を前に福沢氏は「当社が狙うのは小型機の市場。 開発費が 1 桁少なくてすむ」と冷静。 米中のような長距離型ではなく、都市内の移動など国土が狭い日本や東南アジアに適した機体を目指す。 空飛ぶクルマは自動車同様、部品・素材からサービスまで産業の裾野が広い。 総合力で勝負しなければ制空権は握れない。 (山田遼太郎、フランクフルト = 深尾幸生、広州 = 比奈田悠佑、ロンドン = 佐竹実、シリコンバレー = 白石武志、仲井成志、nikkei business = 1-1-21)

初 報 (8-21-20)



「大人のマスク氏」安定感 テスラ時価総額が VW 逆転

米電気自動車 (EV) メーカー、テスラの株価上昇が続いている。 時価総額は 22 日終値で 1,026 億ドル(約 11 兆 2,400 億円)となり、独フォルクスワーゲン (VW) を超え自動車メーカーでトヨタ自動車に次ぐ世界 2 位になった。 市場関係者はテスラをハイテク銘柄ととらえ、VW などとは異なる視点で評価されている面もある。 「彼は非常にいい仕事をしているよ。」 米トランプ大統領は 22 日、米 CNBC とのインタビューでテスラ最高経営責任者 (CEO) のイーロン・マスク氏を持ち上げてみせた。 マスク氏が率いる米宇宙開発ベンチャーのスペース X が開発した再利用可能なロケットに強い印象を受けたといい、「彼のような天才を大事にしたい」と賛辞を惜しまなかった。

18 年夏にテスラの株式非公開化の計画を突如としてツイッター上で表明するなど、これまで数多くの問題発言で物議を醸してきたマスク氏だが、ここに来て起業家としての評価は安定してきた。 情報開示のあり方を問題視した米証券当局との合意に沿って、現在はツイッター上での重要な経営情報の発信は控えるようになった。 事業でも成長軌道がみえてきた。 19 年 7 - 9 月期決算では市場の事前予想を覆し、1 億 4,300 万ドルの最終利益を計上した。 黒字は 3 四半期ぶりだ。 決算に合わせ、中国・上海市で建設中だった EV 新工場が着工から約 10 カ月で稼働にこぎ着けたことも発表した。 生産計画の未達を繰り返してきたテスラの印象を大きく様変わりさせるきっかけになった。

主力小型車「モデル 3」を北米以外の市場に輸出し始めたことで、19 年の世界販売台数は 36 万 7,500 台と 18 年の 1.5 倍に増えた。 期初に示した 36 万 - 40 万台という目標を達成した格好だ。 上海に続き、21 年には独ベルリン郊外で欧州初となる工場を稼働させる計画で、今後も生産と販売の伸びが加速するとの期待感がある。 テスラは自動車を巡る次世代技術「CASE」のうち、EV 以外の分野でも先頭集団にある。 高速道路など一定の条件下での自動運転機能は既に実現させた。 最新の EV には、運転手が不要になる完全自動運転に必要な半導体を搭載しているという。 将来、ソフトウエアを更新すれば市街地での複雑な自動運転もできるようになるとの説明だ。

ただ、テスラ株の上昇はこうした技術革新の潜在力だけを評価したものではない。 「テスラは EV だから売れているんじゃない。 マスクの会社だから売れているんだ。」 ある取引先企業の幹部は同社の競争力をこう説明する。 石油依存社会からの脱却を掲げ、人類の火星移住を目指すマスク氏の壮大な構想に共感する消費者は多い。 同氏の存在がテスラのブランド力の源泉であり、市場関係者がテスラ株をハイテク銘柄に位置づける根拠にもなっている。

VW の新車販売台数は世界トップで、テスラと比べると約 30 倍だ。 それでも VW は危機感を隠さない。 ヘルベルト・ディース社長は 16 日、幹部を集めたスピーチで「伝統的な自動車会社の時代は終わった。 VW の未来はデジタルテックにしかない」と強調した。 携帯電話でノキアが衰退してアップルが台頭した例まで持ち出して意識改革を促した。 時価総額で VW を抜いたテスラも、自動車メーカーで世界トップのトヨタと比べるとなお半分以下だ。 トヨタの新車販売台数は VW に及ばないが、利益水準でライバルを圧倒している。 19 年度の連結純利益は 2 兆 1,500 億円の見通しで、VW の 1 兆 7,000 億円強(市場予測)を大きく上回る。

稼ぐ力と株価のバランスを示す予想 PER (株価収益率)はトヨタが 10 倍、VW は 6 倍なのに対し、テスラは 80 倍程度だ。 利益水準が低いにもかかわらず極めて高い株価になっていることが分かる。

米モルガン・スタンレーのアダム・ジョナス氏は「短期的な勢いは非常に強いが、最終的な持続可能性には疑問がある」と指摘する。 株価の上昇基調が続く 1 月中旬時点でもテスラ株の将来の値下がりを見込んだ空売りの動きは続いており、信用取引の残高は時価総額の 15% 前後に達しているもよう。 テスラの株高に対する懐疑的な見方が払拭されたわけではない。 テスラが 29 日に予定する 19 年 10 - 12 月期決算に合わせて説明する 20 年の販売計画などに関心が集まる。 (シリコンバレー = 白石武志、nikkei = 1-23-20)



EV 時代へ賭けた「敗者」 ゴーン氏「HV 投資はムダ」

約 130 年前、ドイツ人ベンツとダイムラーが生み出したエンジン車。 不動と思われたその地位がいま、電気自動車 (EV) の本格的な挑戦を受けている。 自動車産業の勢力図を塗りかえようとする国やメーカーの動きが背景にある。 7 月上旬、神奈川県厚木市にある日産自動車の研究施設に中国の万鋼(ワンカン)科学技術相がいた。 約 10 年にわたって独アウディで働いた EV のプロ。 日産の EV 開発の動向を視察し、幹部に「中国もハイブリッド車 (HV) はめざさない。 EV で先に行く。」と語った。 いあわせた日産関係者は「中国も日産と同じ。 HV ではトヨタが強すぎた。 HV は飛び越すのだ。」

これまで、日米欧の自動車大手を支えた競争力の源泉はエンジンだった。 中国など新興国が追いつけない車の心臓部。 そこにモーターや電池を組みあわせ、制御するのが HV だ。 部品メーカーを巻き込む「擦り合わせ」の結晶で、トヨタ自動車が他社を圧倒する。 2000 年代半ば。日産会長のカルロス・ゴーン氏は賭けにでた。 「トヨタが支配する HV に投資してもムダ。 EV だ。」 エンジンのない EV はエンジン車より部品数がかなり少ない。 多くの雇用を抱える部品メーカーの「系列」を重視するトヨタは、EV に急にはかじを切れない。 一方、「系列解体」を進めた日産にその配慮はいらない。 トヨタに勝てない「敗者」の戦略だった。

同じく EV に賭けた「敗者」が三菱自動車だ。 05 年、リコール隠し問題からの再建をめざし、益子修氏が社長につくと、09 年に世界初の量産 EV 「アイ・ミーブ」を発売。 いま最高経営責任者 (CEO) として指揮をとる益子氏は「新しい挑戦が再生の力になると思った」と振り返る。 三菱は 16 年、日産の傘下へ。 きっかけは燃費不正問題だが、EV への思いもゴーン氏と益子氏を結びつけた。

日産三菱・ルノー連合は 17 年 6 月までに約 48 万台の EV を売り、他社に先行。 日産「リーフ」は約 28 万台と、世界で最も売れた EV だ。 リーフの通信機能で、充電行動や走行距離、電池の減り具合などの膨大なデータをすでに持ち、開発にいかす。 日産の西川広人社長は「利用者の声を聞いてきたことも強みになる。」

様子見だった他社も EV に軸足を移しはじめた。 スウェーデン・ボルボは 7 月、19 年以降はエンジンのみで走る車をなくし、19 - 21 年に 5 車種の EV を出すと発表。 ホーカン・サムエルソン社長は「予想以上に大きな情勢の変化が起きた」と話した。 この後、仏・英政府が相次いで、40 年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出した。 「世界一になろう。」 ゴーン氏は、日産三菱・ルノー連合の幹部にそう呼びかけてきた。 17 年上半期、世界販売台数ではこの目標を達成。 さらに、EV という得意の「土俵」にトヨタなどのライバルを引き込み、勝ち残ろうとしている。 (青山直篤)

中国、EV 普及を後押し

世界最大の自動車市場、中国は、次世代エコカーを一定以上売るよう求める規制を 18 年にも導入し、EV 普及を後押しする。 HV はエコカーとみなさない。 「中国に寄りそい続ける。」 独フォルクスワーゲン (VW) のマティアス・ミュラー CEO は 4 月、上海でこう宣言した。 VW は世界販売の 4 割が中国向け。 15 年、ディーゼル車の排ガス不正が発覚したが、中国の好調に支えられ、翌 16 年は世界販売で首位に立った。 中国の国策にあわせ、25 年に世界販売の 20 - 25% を EV にする戦略だ。

中国メーカーの成長も著しい。 6 月、上海の国際見本市で EV ブランド「NEVS」は、18 年発売の新商品を発表。蒋大龍(チアンターロン)会長は「排ガスゼロの車で生活を改善したい」と述べた。 復旦大学環境経済研究センターの李志青(リーチーチン)氏は、EV の電池技術も「外国メーカーと大きな差はない」とみる。 中国は政府主導で 15 万基の充電スタンドを整備し、EV 購入に補助金をつぎ込む。 EV は北京市の運転制限の対象外で、上海市ではナンバー取得も無料。 ガソリン車を作るメーカーに罰金を科すことも検討中だ。

車づくりへの参入が難しいとの常識を覆したのが 03 年創業の米 EV メーカー、テスラだ。 14 年には約 200 の特許を公開。 EV 市場を広げる狙いがあったとされる。 今年、株式時価総額で米最大手ゼネラル・モーターズ (GM) を抜いた。 イーロン・マスク CEO は 7 月 28 日、量販型の新車種「モデル 3」の納車会で「これまでテスラ車を買ってくれた人に感謝したい」と話した。 米国での価格を 3 万 5 千ドル(約 390 万円)からに抑え、日産リーフの累計を上回る 37 万台超の予約を得た。 米国でも、18 年モデルから排ガスゼロの車を売るよう求める規制が強まる。 カリフォルニア州など 10 州が対象で、HV がエコカーから外れ、テスラが恩恵を受ける。

トヨタも、EV を避けて通れなくなった。 昨年 12 月、量産 EV の開発に向けた豊田章男社長直属の組織を発足。 19 年にも中国向けの EV 量産に乗り出す。 今月 4 日には、マツダと資本業務提携し、EV の共同開発にも取り組むと発表した。 「EV では、車メーカーが特徴を出しづらい。 どうブランドの味を出すかが大きな課題だ。」 記者会見で、豊田氏はそう語った。 (北京 = 福田直之、サンフランシスコ = 宮地ゆう)

充電スタンド・価格 なお壁に

トヨタの内山田竹志会長は「エコカーは普及してこそ環境に貢献できる」と言い切る。 EV の普及を疑う見方も根強い。 過去にも米国の規制強化で EV ブームが起きたが、すぐにしぼんだ。 コストの高さや走行距離など弱点が多い上、消費者の利点は見えにくい。 EV は 16 年に世界で走る車の 0.2% に満たない。 ハードルは多い。

EV では量販車の日産リーフで、補助金を受けても、購入時に 300 万円はする。 一方、日産の小型車「ノート」のガソリン車は上級グレードでも 200 万円ほど。 月 1 千キロ走る場合、リーフの電気代は急速充電器の使い放題プランが月 2 千円、家庭で夜間電力を使うと月約 3 千円。ノートの燃料代は月約 8 千円で、この点だけを見れば EV に分があるものの、購入時の価格差を埋めるのは難しい。 しかも、北米の「シェール革命」で石油生産が安定し、ガソリン価格は低水準で推移する見通しだ。

販売はどの国も補助金頼みだが、無理にエンジン車を減らせばガソリン関連税収も減り、補助金財源が問題になる。 充電スタンドも必要だが、電気代はガソリン代に比べて安く、事業として成り立ちにくい。 電池が劣化するため中古車価格も安い。 自動車評論家の国沢光宏氏は「EV に理解があるからリーフを買ったのに、電池の劣化で航続距離が短くなるのは気分がいいとは言えなかった」と話す。

走行時以外の二酸化炭素排出も考えれば、「エコ」ではないとの見方もある。 日本は東日本大震災後、発電の 9 割を化石燃料の火力に頼る。 再生可能エネルギーや原子力の割合が高い国に比べ、環境貢献度は低い。 「水力でまかなうノルウェーのような国ではすばらしいが、そうでない国で本当に EV なのか。 エンジンと(HV などの)電動化技術で対応できると提案していきたい。」 エンジン車に注力してきたマツダの藤原清志専務執行役員は今月 8 日の記者会見でこう語った。 (山本知弘、木村聡史、asahi = 8-13-17)

〈編者注〉いつの間にか通信手段を定置から移動に変えてしまいましたが、現状では、移動手段をエンジン動力から電動に変える為には、越えるべき障壁がまだまだ多すぎるように感じます。 何もデータを持ち合わせている訳ではありませんが、化石燃料から動力への変換効率に比べ、電池、蓄電池からの効率はあまりにも低すぎ、トータルで地球環境維持に貢献できるとは言えないのではないかと思えます。 電池の効率化、簡便化(純乾式にするなど)、それにコストダウンに大きな変化をもたらす "何か革命的な手法" が生まれないと、現状打破は非常に難しいのではないか、と考えます。

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