セールしない「スタイルデリ」 最安値より満足度の服

ネバーセイネバーの磐井友幸社長

女性向け衣料・雑貨ブランド「スタイルデリ」で人気を誇る、ネット専業の製造小売り (SPA) のネバーセイネバー(東京・渋谷)。 モノによっては原価率が 70% に達する品質本位を掲げ、アパレル業界に風穴を開けようと新たな企業モデル作りにいそしむ。 磐井友幸社長は「洋服でもネットでもない。目指すはクリエーティブカンパニー」と宣言する。

- - オフィスに赤ちゃんがいますね。

「うちは子連れ出勤 OK。 泣いたら会議が中断しますが(笑)。 この前は犬を連れてきた社員がいて、走り回っていたなぁ。 働きやすい環境が一番で、良いアイデアも浮かびます。」

- - 自由に働くというのは逆に難しいです。

「共通の価値観とビジョンがあって、結果で勝負するというのが理想ですね。 自由は不安ですが、縛っていたら面白いことなんてできない。 結局、遊びも仕事もない。 何にお金を使うのかという時代です。 孫(正義)さんがすべての産業は再定義されるべき、というのはまさに、その通りだと思います。」

ネット販売で生産地に還元

- - 素材の質の高さなどが特徴のスタイルデリですが、今の経営テーマは何でしょうか。

「初めはファストファッションの走りとして、最安値の洋服を長くやっていました。 楽天など色々なネットモールで 1 位にもなりました。 でもブランドにはなれなかった。 安いだけで支持されると、他が安いとそちらに顧客は流れてしまいます。 やはりうちで買いたいという顧客を増やさないと、ダメだなと。」

「スタイルデリは百貨店より安いけど質では負けていない。 ファストファッションの価格では買えないというポジションです。 満足度が高いのは原価率が高いことです。 70% という商品もあります。 そしてセールは一切しない。 多くのアパレルでは原価率が 20% で、売れ残ると最大 80% オフというケースもあります。」

- - 買って損したことはよくあります。

「セールなしは最初は厳しかったけど、次第にファンが生まれ、エンゲージメントが高くなりました。 激安より高い原価率で商売した方がビジネスとしても安定します。 セールありきの低原価率ビジネスでは働く人々への還元もできません。」

- - メード・イン・ジャパンが大事とアパレルや百貨店はいいますが、生産地は廃れています。

「きちんと対価を支払うには原価率を上げないと。 そのためには今までの流通経路を見直す必要があります。 インターネット販売でそれが可能になりました。」

「やはりファクトリーブランドがあるべき姿ではないかと。 信念を持って作るファクトリーと、売り方を知っている人間と手を組んだ方がいい。」

- - 東京・浅草の腕の良い靴職人が低賃金で苦しんでいるのを手助けしたそうで。

「その工場は大手百貨店で 5 万円で売る靴を数千円で作っていました。 それを 2 万円で売ればいいだけの話。 そうすれば給料も上げられます。」

- - もっともネット販売も今は競争が激しい。

「そこは商品ありきだと。 消費は冷え込んでいるし、上質なサービスを無料で手に入れられる時代です。 本当に良いモノを作らないと売れません。 社会的な価値があるとか、信念、ストーリーがないと終わっちゃいます。 しかも大量生産・消費を嫌う時代がそのうちやってくると思います。」

シンプルでも細部こだわる

- - 一方で原価が低くても顧客が納得する商品は残っています。 原価を超えたブランディングは欠かせません。

「もちろん原価率を上げることだけが正解ではありません。 高級ブランドは軒並み好業績です。 日本はものづくりがうまくても、デザインで勝負できない。 経済を回す人々のリテラシーが低いと思います。 マツダはデザイナーを取締役に入れて、業績が上がりましたよね。 多少効率が悪くなっても日本企業はデザインにこだわってほしい。」

- - スタイルデリはシンプルなデザインです。

「それが基本ですが、シンプルと言っても細部にはこだわります。 例えば腕を上げたときの袖の広がり具合とか、緻密な計算が重要です。」

- - 今後は洋服にこだわりませんか。

「自分たちをクリエーティブカンパニーと称しています。 表現の 1 つが洋服だっただけ。 今はオフィスの内装プロデュースをしたり、動画制作をしたり。 今後は沖縄にヴィラを計画しています。 今夏開業予定ですが、ホテル建設ラッシュで施工業者がぱんぱんで。」

- - どんな成長路線を描いていますか。

「2017 年 1 月期はモール向けが好調で売り上げが伸びました。 でもモール向けは我々のビジネスの本質ではない。 実はいくつか撤退しているんです。 モールはゾゾタウンやマガシークが基本です。」

「主力のスタイルデリは 8 割以上自社サイトなので心配ないです。 やはり自社サイトでないと、理念を 100% 表現できません。 他社モールで結果が出てしまうと、次に自社サイトに送客しようとしてもできません。」 (中村直文、nikkei = 10-13-18)

磐井友幸 : 2006 年中央大理工卒。 学生時代にはネット上で古着などを仕入れ販売。 卒業と同時にネバーセイネバーを創業。 共同代表の齊藤英太氏とは中学高校の同級生。 週末は 2 歳の子供の育児に没頭。 東京都出身。 35 歳。



iPhone 支える日本企業 アップルと日本経済の関係

8 月 2 日、アップルは、同社が日本国内で生み出す雇用創出の状況や、iPhone を中心としたアップル製品の製造に関し、日本で関わる企業のリストとその詳細など、「アップルと日本経済の関係」についてのリポートを公表しました。 同様のリポートはアメリカなどでも公開されていますが、日本向けはこれが初めてです。 今回、そのリポートの中に出てきた二つの企業を詳細に取材することができました。 iPhone のように、世界中で販売される製品に使われる部材を作るとはどういうことなのか、彼らのコメントから探ってみましょう。

アップルが「日本企業との関わり」を公表

アップルが公開したリポートでは、アップルが日本企業に対してどれだけの額を支払い、どれだけの部材を日本企業に依存しているのかが見えてきます。 同社によれば、同社が日本で創出・支援した雇用は 71 万 5,000 件。 これは、アプリなどのソフト産業からハードウェア製造関連まですべてを含みます。 特にハードウェア製造に関連した部材のサプライヤーとして関わる企業の数は 865 社と膨大です。

iPhone 需要の有無で、これらの部材を供給する企業の業績はもちろん大きく変化します。 7 月 27 日(米時間)に同社は、iPhone シリーズの累計出荷台数が 10 億台を超えた、とも発表しています。 2007 年からの約 9 年間でこれだけの台数が売れたことになりますが、これはもちろん、家電製品としては最高級の数字です。 その製造には様々な企業が関わっており、2 日に公表された日本向けのリポートも、その状況を示すもの、と言えます。

昨今、スマートフォン全体の成長鈍化に伴い、こうした企業への影響が語られることがありますが、その裏にあるのは、iPhone が日本の様々な企業とのコラボレーションで製作されているからにほかなりません。 アップルは米カリフォルニアの企業であり、iPhone の生産は中国で行われています。 「国内メーカー製でない」ことを残念がる人も少なくありませんが、もはや今の製品は、一つの国だけで生まれるものではない、ということがよく見えてきます。

技術を求めていきなりコンタクト

では、アップルが選んだ企業とはどのような企業なのでしょうか? 今回は、リポートにも登場した「帝国インキ製造株式会社」と「カシュー株式会社」に取材しました。 どちらも、iPhone を作る上で必要な「インク」、「塗料」を製造している会社です。 アップルとの大きな取引、というと、どちらも大規模な企業、というイメージをもちそうです。 しかしそうではありません。 共に社員二百数十人の中規模企業。 失礼ながら、今回取材にうかがった際も、社屋を見るだけでは、年間最低 1 億台を生産する製品に使われる部材を納入する企業には見えませんでした。

帝国インキ製造の澤登信成社長は「あのメールを無視していたら、今ごろ弊社のビジネスは大きく違っていたでしょう」と苦笑交じりに話します。 「2007 年のことですが、弊社のホームページにアップルから、『こういうインクはないか』という連絡があったのです。 日本の家電メーカーとのお付き合いはあったのですが、それまでアップルとはなんの接点もありません。 『これは本当だろうか。 アップルの名前をかたったいたずらじゃないのか。』 それが第一印象でした。」

同社は 1895 年創業の老舗。 幾度かの社名変更を経て、現在の帝国インキ製造になりました。 創業当時の主軸は新聞用インクの製造。 第 2 次世界大戦後には、疎開先で靴墨を作って事業を維持しつつ、その後も新聞印刷用を手がけていました。 しかし、大手印刷会社系が占める新聞用インクでは先がないと判断、スクリーン印刷技術に方向性を変えます。

当初は印刷物向けを下請けとして手がけていたものの、より経営の独立性を高めるために、その技術を生かして独自の方向性へとかじを切ります。 それが、紙以外への印刷、すなわち工業製品への応用です。 まずは自動車のスピードメーターから始まり、オーディオコンポなどの家電製品でも使われるようになりました。 使う素材に合わせ、金属用のインク・プラスチック用のインクなど様々な製品を開発し、国内の自動車・家電メーカーとの取引を広げています。

そんな中で、製品に使う「白いインク」を求めて、アップルは同社にコンタクトすることになります。 アップルは「正確にどこに使うかを明言することはできない」としていますが、現在の iPhone における「白い部分」というと、おおむね想像はつくのではないか、とは思います。 アップルが帝国インキ製造の白インクに求めたのは「遮光性」でした。 光が透けて見えると、製品としての価値が台無しになります。 そこで、光が透けず、ガラスなどにもきちんと印刷できるインクとして iPhone に使われることになったのです。

また iPhone には、外光の強さを測る「照度センサー」が内蔵されていますが、ここでもインクが活躍します。 「インク層を通ることで光の波長を選択し、フィルターとして働くようになっています」と澤登社長は説明します。 そうした卓越した「インクと印刷技術」を求めて、アップルはわざわざ帝国インキ製造を探してコンタクトしたわけです。

カシューの場合にはどうだったのでしょうか? カシュー株式会社の戸次強社長は「弊社と取引がある企業を経由してコンタクトがあった」と説明します。 同社は、有機化合物を使った合成塗料を生産する企業です。 もともとは、カシューナッツの生産段階で出る、食用にならない部分から抽出できる油脂を使って塗料やコーティング剤(いわゆるニスや漆の代用品)を作る企業としてスタートし、今でも漆の代用品として生産を続けています。 社名もカシューナッツからとって「カシュー」です。

そんなカシューに、最初にアップルが求めたのは「汚染性の少ない塗料」でした。 ここでいう汚染性とは、環境対策のことではなく、機器を指先で操作した場合、汚れが付着することを指します。 「いまから 11 年ほど前に、iPod のクリックホイールの部分について、汚染性(汚れの付着)の問題を解決できる塗料はないか、ということでご相談を受けました。 求めているのが低光沢で、しかも一般のウレタンではなく UV 塗料(紫外線で硬化する塗料)で、ということでした。 つや消しのものは 7、8 年前から今でもご採用いただいています。」

戸次社長はそう説明します。 低光沢ということは、表面がピカピカではなく、ひっかかりがあるということです。 そうすると、どうしても指先の汚れなどがつきやすくなります。 それでも汚れにくいものを、というのはかなり厳しい条件です。 その後、同社はアップルとの取引を拡大、iPhone の一部にも、同社の塗料・コーティング剤が使われています。

「多数の企業とお取引をさせていただいていますが、グローバルに見ても、弊社とのお取引先としてはトップ 3 に入る状況。 世界のアップルですから、最初は『この製品だけのお取引だろう、きっとこのあとはライバルに取られるだろう』と疑心暗鬼でしたが、年々採用は増えています。 我々でもできる、と自信が少しずつ出てきました。(戸次社長)」とのことですから、もはや欠くべからざるパートナーといえそうです。

秘密主義だが「濃密な対話」から生まれるものづくり

2 社を取材してみると、アップルとの取引にはある特徴があるのが見えてきます。 それは「秘密主義」と「こだわり」です。 「特徴として大きいのは、発注の段階では、最終製品の全体像がわからないこと」と、帝国インキ製造・澤登社長は言います。 同様に、カシューでアップルとの生産に関する交渉を担当する取締役塗料事業部長の縄悟氏も「開発当初は、それがなにに使われるのかわからない」と話します。

アップルは製品について秘密主義を採っています。 最近は製造工程からの情報流出もありますが、それを最小限に抑えるための「秘密主義」でしょう。 製品を作るパートナーにも秘密主義を採ることは、それだけを聞くと独善的と取られそうです。 しかしその点については、両社ともに「それが不快である、というわけではない(澤登社長)」と言います。 少なくとも筆者の見る限り、それは、大口の取引先に対する配慮からくる言葉、というわけではなさそうです。

ではそれはなぜなのか? 澤登社長はこう説明します。 「こちらの提案についてはきっちりと反応を返していただけるからです。 アップルの方々から強烈なことを言われることもありますが、弊社の研究所の人間も強烈なことを言えます。 そこで求めるものと違った場合でも、できるだけの情報を返してくれる。 一緒にやっている『連帯感』のようなものを感じられるからです。」

カシュー側も同様の回答をしています。 「企画段階から『アップルスペシャル』を用意することになるのですが、年に 4 回はアップル本社から技術者が来て、すり合わせと進捗の確認を行っています。 彼らの要求は、既存の技術ではなかなか対応しきれないものが多いのですが、技術者としては挑みがいのあるもの。 アップル担当者と弊社技術者のコミュニケーションは、非常に密度が高い。 アメリカからこれほど頻繁に直接の担当者がいらっしゃることはありません。 その上でのスピード感は、やはり他社と比べてもアップルは素早い。 『これをどうするんだ』ではなく『ではどう乗り切るのか』と一緒に考えていただける。(戸次社長)」

「どこに使うかは事前にわからないのですが、『こういうテストでこういう数値が欲しい』という目標は明確に示していただけます。 そして、仮スペックに満たない場合でも、どう満たなかったのか、数値をいただけます。 例えば、耐摩耗性で 300 回を確保したい場合、通常はパスしたか NG か、しかわからないのですが、アップルは『NG』ではなく数字で教えてくれるのです。 そして OK の場合も、限界までテストした値を教えていただけます。 数字までわかるのは、我々にとっても勉強になります。(縄取締役)」

すなわち、製品自体の情報は明かさないが「その部材を使うために必要な条件に関するコミュニケーション」はより濃密に行う、というのがアップルのやり方だ、ということです。 澤登社長はこうも言います。 「我々は印刷の現場に張り付いて作業しますが、アップルの人たちも現場に張り付く。 印刷の現場にメーカーの人が張り付く例はあまりありません。 現場・現物を重視して、一緒に問題解決をしようという姿勢が顕著です。」 アップルが現場に張り付くのは、製品のクオリティーにこだわりたいからです。

「他社に比べると要求水準は非常に高い。 製品が出て初めて『こんなところにこだわっていたのか』、『こんな細い部分のためだけに弊社の塗料を使ったのか』と驚かされることが多い。(縄取締役)」 「インクでは、気候条件で色の仕上がりがぶれやすい傾向にありますが、アップルは決めた白があればそれでなければダメ。 自分たちがアップル製品として世に出していいのはこれだ、という強いこだわりがある。(澤登社長)」

ここで重要なのは、iPhone が年間 1 億台近く生産される「超大量生産製品」だ、ということです。 大量に作れば作るほど部材の量は多くなり、品質の維持が重要になります。 複数のメーカーから同じスペックのパーツを仕入れて生産するのが基本なのですが、その中でも、同じ外観を維持するために、アップルがかなりの労力を費やしていることが見えてきます。 澤登社長は「少々失礼な言い方ですが」と言い添えた上で、こう話しました。 「正直おつきあいを始めるまで、アップルに『ものづくりの企業』というイメージはありませんでした。 しかし今は、ものすごく泥臭く見える。 地に足がついた、現場に入っているメーカーだな、と思います。」

「誰もが使う製品」に使われるというモチベーション

帝国インキ製造やカシューは、今もアップルと取引を続けています。 しかし、彼らが今後もアップルと取引を継続する、と決まったわけではありません。 毎回、各案件には競合企業がいて、アップルへの採用はコンペティションの形で決まると言います。 「過去にはご採用いただけないこともありました。 しかし、いいものを作れば、公平に評価し、採用していただける。 壁にぶち当たっても、それを打ち破れば採用が待っている。 非常にフェアに接していただいています。 価格面でも、アップル向けに特別に開発した製品を提供していますので、それなりに正当で、利益もきちんとしたお取引ができている、と考えます。(戸次社長)」

「きわめてフェアです。 人付き合いや人間関係が製品に直接影響することもありません。 競合との関係で特別扱いを受けたことも、要求されたこともありません。 インクはオーダーメイドですからアップルにしか合いません。 その上で値段交渉もきわめてストレート。 直球勝負で厳しく、裏切らない。 正当な評価をしてくれる一方で、ダメなものはダメ、です。(澤登社長)」 もちろん、企業同士のことですから、すべてがストレート、というわけではないでしょう。 事実、アップルは島野製作所との間で特許及び独禁法に関する紛争を抱えています。 意見の対立は必ず存在するものです。 一方で、アップルとビジネスを続ける人々が「真摯な協業」を築けていることも、事実ではあります。

そしてもうひとつ、2 社が異口同音に話すエピソードがあります。 「こういう製品に使われている、ということが、我々にとってのモチベーションでもあります。 これはお金には代えられない効果です。 どこにどう使われているのか、通常は社外には漏らせないのですが、『みんな使っている製品のあそこに使われているのを、俺たちだけが知っている』というのは、なんともいえないモチベーションです。(戸次社長)」

「仮にアップルとの取引がなくなっても、弊社は生き抜くつもりです。 しかし、彼らは安易に売れるものを作ろうとしてはいない。 世の中の人がうれしいと思う、これじゃなきゃ、というものを出そうとしています。 そうしたものを作る仕事の楽しさ・学びの姿勢という意味で、アップルとの取引がなくなるのはつらい。 この関係においては、それがもっとも大きな部分です。(澤登社長)」 言い換えれば、「世界で圧倒的な数が売れる、皆が持っている機器に関わる厳しさ」こそが、これらの企業とアップルを結びつける大きなモチベーションであり、そのために努力を重ねている、と言えるのではないでしょうか。 (西田宗千佳、asahi = 8-3-16)


国産ニット、身近になりますか?

「島精機製作所」社長・島正博さん (78)

- - 島精機製作所が 20 年前、世界で初めて開発した「ホールガーメント(無縫製)」の横編み機の新製品を 3 月に発売したそうですね。 何がすごいのですか。

「従来はセーターのように、首回りのつまった製品しか作れませんでしたが、編み地を上から押さえる装置を採用することで、首回りがきれいな立体的なドレスを作れるようになりました。 カジュアルさとエレガントさを備えるデザインが可能になったのです。」

- - 業界に大きなインパクトになるのでしょうか。

「国内で売られるニット製品は中国やバングラデシュなどで作られてきました。 先進国は人件費が高く、国内でも従業者が減ってきました。」 「新しい編み機は生産性が従来の 3 倍になりました。 1 着当たりのコストが下がることで、国内で起業を目指す人が増えてくるのではないか、と期待しています。」

- - ニット生産が国内回帰するかもしれない、と?

「ホールガーメントの横編み機は人の手をかけずに編み上がるので、24 時間動かせます。 カッティングや縫いしろのロスもなく、コストを抑えられます。 輸送にかかる時間や、納期管理や品質管理も改善できるでしょう。」 「日本では、流行を採り入れながら低価格で売る『ファストファッション』が普及していますが、(デザインが)同質化してしまうとこれ以上は(売り上げが)伸びないと思います。 ファストファッションのもう一段上に位置するような、エレガントなニットづくりをやっていけば多品種少量でも売れるはずです。」

- - 多品種少量は、売り方が難しいのでは。

「多品種の場合、店頭で販売する際は商品知識が追いつきませんが、ネット販売や通販、無店舗販売ではホールガーメントのよさを PR できるでしょう。」

- - 日本のニット業界は沈滞しています。

「経済産業省などによると、2014 年のニットのセーター類のうち日本産は 0.6%。 6 億枚のうち、約 400 万枚しか作っていない計算です。 日本製を 10 - 20 倍に伸ばしたいと思っているのです。」

- - それにはどんなことが必要ですか。

「(無縫製を使っていない)染色業者などにもホールガーメントの横編み機を採り入れてほしい。 たとえば無地でニットを作り、注文の色に応じて染色してもらえれば、糸のロスがなくなります。 異業種から参入してもらえれば、国産を増やせます。」

- - CG でデザインをつくれるシステムも売っているそうですね。

「今までは 100 カ所の店舗に送るとすると、サンプルも 100 点必要でした。 でもバーチャルサンプルなら、実際の服を作って送る必要がありません。 国内で作ることで納期を短くできれば、売れ行きがいい商品をすぐに補給でき、品切れのロスもありません。 商品の消化率が上がれば店も活性化されます。」

- - 国内でものづくりをする上で、どんなことを心がけていますか。

「日本のものづくりは国外にアウトソーシング(委託)、といっていた時代がありましたが、それは大きな誤りになると思います。 島精機では、昔から機械作りは魂を込めて自分のところでやっています。 匠(たくみ)の技で世界の超一流の機械を作っています。 よそがまねしようとしたって、できません。」 (新宅あゆみ、asahi = 6-26-15)

学校教育に新しい技を

大学や専門学校ではいまだに従来の縫製を教えていますが、(今後、主流が)無縫製に転換すると通用しなくなります。 学校教育は新しい技術も採り入れるべきですし、政府はそのために補助金を出してほしい。

しま・まさひろ 和歌山市出身。 県立和歌山工業高校機械科卒、61 年島精機製作所(和歌山市)の前身を創業し社長に就任。 わかやま産業振興財団理事長や日本繊維機械協会副会長も務める。 07 年、産業分野での優れた業績に贈られる「大河内記念生産特賞」を受賞した。 島精機の今年 3 月期の売上高は 483 億円、純利益は 36 億円。

〈ホールガーメント(無縫製)〉 従来のニット製品は、体の形をもとに裁断した複数の生地を縫い合わせ、立体的な体にフィットさせていた。 ホールガーメントは、1 着丸ごとを一つの工程で立体的に編み上げることができ、縫い合わせる必要がない。 縫いしろがないのですっきりとしたシルエットとなり、裁断などの無駄も省ける。 島精機が 95 年、ホールガーメントの横編み機を世界で初めて開発した。


福山デニム、ブームに沸く 備後絣の伝統生かした高品質

備後絣(かすり)の伝統を受け継ぐ福山(広島県)のデニム業界が、このところのデニムブームに沸いている。 はやりすたりが宿命の業界で生き残ってきた「福山デニム」の工場は、いまフル稼働中だ。

「デニムブームはまだ続きそうです。」 5 月に「デニム・フェア」を開催した JR 福山駅前の「パリゴ」の田中淳也店長は言う。 男女とも薄い色合いのデニム上下が売れ筋という。 天満屋福山店 2 階の「スウィート キャメル」でも、伸縮や涼感など機能性素材のジーンズに加え、今年は色落ちやダメージ加工を施したものも売れている。 紳士服の「パパス」では、麻との混紡のジーンズやブルゾンが人気。 「全国 70 店舗で完売しそうです。(高田博史店長)」

デニムブームを支えるのが、日本一のデニム産地の福山。 福山には紡績、染色、織り、縫製、加工といったデニム生産にかかわる業態がそろう。 県織物構造改善工業組合によると、現在、織りだけで 7 社ある。 同組合の貝原良治理事長(カイハラ会長)によると、明治時代からの絣製造業者の多くが戦後、デニム生産に切り替え、いま存続しているのは、不況など幾多の危機を乗り越えてきた企業が多い。 「昨年後半からデニム生地の受注が伸び始め、一過性かと思ったが衰えない。」 デニム生地を製造している篠原テキスタイル(駅家町中島)の広報担当、篠原京子さんは言う。

同社は 1907 (明治 40)年の創業で「織屋(はたや)」と呼ばれる。 比較的仕事が少ないとされる夏場になっても、工場内は熱気に包まれている。 月曜の午前 5 時から、32 台の織機の 24 時間フル稼働が始まり、日曜の午前 5 時まで続く。 糸を染色する「染め屋」の坂本デニム(神辺町平野)も染色機 5 台をフル操業。 こちらも 1892 (明治 25)年から続く老舗。 村上和美・統括部長は「円安とボイラー燃料の原油安もプラスに働き、来期の収益は期待できそう」と語る。

高品質デニムを紡績から生地まで一貫生産するカイハラ(新市町常、1893 年創業)を含め、3 社とも業績は上向きだが、いずれもブーム後を見据え、新商品の開発や技術革新に力を入れる。 カイハラは、再来年の春夏もの向けの新しいデニム素材を、欧州のブランドに提案し始めた。 篠原テキスタイルと坂本デニムも、常にファッションの変化を先読みして新しい織り・染めを研究しているという。

篠原さんは「小回りの利く少量多種の生産に切り替え、こちらから新製品を売り込んでいます。」 貝原理事長は、福山デニムが強みを見せる現状について、「新製品も定番化すると価格競争になる。 海外メーカーに対抗するため、質の高さを自分の言葉で顧客に語る姿勢を磨いています。」と話した。 (島ノ江正範、asahi = 6-24-15)

自由度高いデニムブーム

〈ファッションデザイナーのドン小西さんの話〉 実用的な繊維製品を作ってきた福山の伝統が「衣の実用品」としてのデニム製造に生きているんじゃないかな。 今回のデニムブームは、上はタイトで下はダボダボといった、見たことのないようなコーディネートで、より自由度が高まっているのが特徴。 今の窮屈な世間にあって、70 年代の自由な精神を表現する着こなしとしておすすめですよ。


苦しむアパレル、どう復活を? 「ワールド」社長・上山健二さん (50)

- - 業績は、2014 年 3 月期まで 2 年連続赤字と苦しみました。 消費者の変化をどう感じていますか?

「以前はモノを買うためには店にいかなければなりませんでしたが、今はすべて携帯電話ですませてしまう人がいます。 そんなデジタル化の波の中で、課題はリアルな店舗です。 ワールドは全国に約 3 千店舗を持っていますが、市場が右肩上がりのときは年 500 店舗を出していました。 1 店舗出すための初期投資が大きく、それを何年もかけて回収する形でした。」

「店舗では前年割れが続く売り上げをカバーするために営業時間をのばしています。 客が少ない時間でも、夜の 10 時まで開いているところもあります。 見えない敵と戦っているというか、戦い方が難しいと考えることが多くなりました。」

- - デジタル化の波をどう生かしますか?

「ワールドオンラインストアというネット上の店を持っていて、こちらの売り上げは増えています。 今は年 140 億円前後ですが、近い将来に倍以上にでき、全体の 1 割程度を占めるようになると思っています。 国内の人口は減っていきますが、デジタルツールを使う人は減りません。 今までデジタルは、自前の店を勝たせるための付随的な役割でした。 今後は店は 1 店舗だけ、あるいはデジタルだけで展開するブランドができないかなど、やり方もいろいろと考えられます。」

- - 業績回復には、コスト削減も課題です。

「今年 4 月に東京のオフィスを移転し、賃料が大幅に減りました。 これはインパクトが大きいものの一例ですが、小さなコストを意識すれば大きなコストにも目がいくようになって、全体の経費削減に勢いがでてきます。 今後はそういう風に持っていきたい。」

- - 18 年ぶりの社長交代で今年 4 月に就任しました。 期待される役割は?

「絶対にあきらめないことです。 あきらめなければ必ず勝負は勝ちます。 そこの意識も含めて、結果を出し切るということを身をもって示して社員に理解してもらうことだと思います。」

- - 社員にもメッセージを出していますね。

「COO (最高執行責任者)に就任した直後の昨年 7 月に話しました。 一番大事なのは商品ですが、その商品力と営業力すべてが、人間力によって支えられています。 間接部門で働く人も含め、自分の仕事の先に客がいるという発想で全員がワールドの広告塔であり、営業マンであるべきだと。 当時の寺井秀蔵社長が経営戦略の話をした後で、私は『ガッツ編』として話しました。」

- - ワールドは再び輝けるでしょうか?

「自分の商品が買ってもらえる瞬間を楽しみにしながら、一生懸命仕事をすれば間違いなく強くなる。 ニットの卸業から始まり、生産から販売まで担う SPA という業態を先駆けて手がけてきました。 変化を先取りしてチャレンジする文化があります。 かつて大幅な黒字を経験しているワールド社員にとっては、なんとか黒字という程度の決算では満足しないはずです。」(編集委員・多賀谷克彦、田幸香純、asahi = 6-5-15)

店舗回り現場見る

2013 年 12 月にワールドに入ってからできるだけ店舗を回っている。 休日や出張を利用して、約 3 千店のうち約 400 店を訪れた。 グループ連結約 1 万 6 千人の従業員が本気で仕事に向き合ってくれるかを見るためには現場にいくしかない。

かみやま・けんじ 兵庫県出身、東大経卒。 1988 年に住友銀行(現三井住友銀行)に入り、法人営業など 11 年勤めた。 転職した中古車販売大手では倒産危機を乗り越え、社長として再建につなげた。 その後、スーパー長崎屋社長や英会話学校 GABA 社長などを経て 13 年にワールドに入社。 15 年 4 月から社長。

〈ワールド〉 「アンタイトル」、「タケオキクチ」などのブランドがあるアパレル大手。 1959 年、神戸市でニット婦人セーターの卸会社として創業。 90 年代に店舗を運営して生産から販売まで手がける SPA (製造小売業)を展開し、事業を広げた。 2015 年 3 月期の純損益は日本基準で 7 億円と 3 年ぶりの黒字だったが、今年度に約 90 ブランド中 10 - 15 ブランドから撤退、約 3 千店舗中 400 - 500 店を閉める方針を掲げて構造改革を進める。 15 年 3 月期(国際会計基準)の売上高は 2,985 億円。