百貨店売上高、4 か月連続増加 … 時計・宝飾などがコロナ禍前の水準超える

日本百貨店協会が 25 日発表した 6 月の全国百貨店売上高(既存店ベース)は、前年同月比 11.7% 増の約 4,143 億円と、4 か月連続で増加となった。 前年に比べて行動制限が緩和されたことで、好調な客足が続いている。 商品別では主な 5 品の全てが前年を上回り、時計・宝飾などの高額品はコロナ禍前の 2019 年の水準を超えて推移している。 6 月は下旬に猛暑となった影響から、日傘や帽子、サングラスなども好調だった。 (yomiuri = 7-25-22)


伊勢丹新宿本店の夏セール初日は衣料品がけん引 婦人、紳士服が前年比 1.5 倍

百貨店主要 5 社の 2022 年 6 月度業績は、1 - 2 割の増収だった。 コロナ禍以前の 19 年同月との比較では 1 - 2 割減。 ラグジュアリーブランドや宝飾品など高額品は引き続き好調で、気温の上昇により夏物衣料品も伸長した。 前年同月と比較した各社の売上高は、三越伊勢丹が 15.6% 増(19 年同月比 6.5% 減)、高島屋が 13.5% 増(同 5.3% 減)、そごう・西武が 7.2% 増(同 15.4% 減)、大丸松坂屋百貨店が 20.2% 増(同 13.3% 減)、阪急阪神百貨店が 20.2% 増(2.6% 減)。

三越伊勢丹は両本店(伊勢丹新宿本店と三越日本橋本店)が 19 年同月実績を上回った。 阪急阪神百貨店の阪急うめだ本店も 19 年同月比 2% 増。 100 万円以上の高額品の売上高が大きく伸長したほか、「夏のスタイリングを意識したアクセサリーやバッグなどのニーズが高い。(同社広報)」 大丸松坂屋百貨店はラグジュアリーブランドと宝飾カテゴリーで 19 年実績を上回った。

各社は 7 月 1 日から夏のクリアランスセールを一斉スタートした。 伊勢丹新宿本店のセール初日売り上げは前年比約 30% 増(19 年比では 34% 減)。 そのうち正価販売も 27% 伸びた。 特に衣料品は通勤や外出、旅行などを意識した買い替え需要が見られ、婦人、紳士共に 1.5 倍とけん引。 「セール以外の先行品、限定品目的の購買も目立った。(同社)」 高島屋もセール初動 3 日間(7 月 1 - 3 日)の売上高が前年から大きく伸びた。 (WWD = 7-5-22)


百貨店・衣料の売上高復調
5 月既存店 7 割がコロナ前に迫る しまむら、2% 増 / 三越伊勢丹、98% に回復

衣料品などを扱う小売り主要 12 社のうち 3 社の 5 月の既存店売上高が新型コロナウイルス禍前を上回り、9 割まで回復した企業を含めると 9 社(全体の 7 割)に達した。 コロナ禍の行動制限が解除された 3 月以降、旅行など外出を意識した衣料品や雑貨のほか、宝飾など高額品が好調だ。 ただ原料価格や食品の上昇が続くなか、個人消費の先行きに不透明感も残る。

百貨店大手 3 社と衣料品・雑貨大手 9 社が公表する既存店売上高の前年同月比増減率を基に、計 12 社の販売がコロナ前(2019 年)と比べてどこまで回復しているかを推計した。 22 年に入ってコロナ感染者数は減少傾向にあり、小売り各社の販売は復調している。 コロナ前の水準を上回ったり、9 割まで回復したりした企業の数は 3 月が 5 社、4 月が 7 社だった。 5 月が 9 社と 22 年に入って最多となった。

22 年春の大型連休は緊急事態宣言がなく、行楽や買い物に出かける人が目立った。 5 月の既存店売上高は、しまむらと西松屋チェーン、エービーシー・マートの 3 社がコロナ前の水準を上回った。 コロナ前の 9 割まで回復した企業はユニクロやアダストリア、ユナイテッドアローズなど 6 社に上る。 百貨店では、三越伊勢丹ホールディングスと高島屋の 5 月の既存店売上高(免税売上高を含む)がコロナ前と比べて 9 割超の水準に回復した。 三越伊勢丹の 5 月の既存店売上高は 21 年同月と比べて約 2 倍に増え、海外ブランドや宝飾品といった高額品が好調だった。

中でも都心店舗の回復が目立つ。 伊勢丹新宿本店(東京・新宿)の 5 月の売上高は、19 年同月の水準を 10% 上回った。 宝飾品や時計などの売り上げはコロナ前の水準を 2 桁上回ったという。 コロナ禍で訪日外国人(インバウンド)客の需要がほぼなくなったが、「外商の販売が伸び、インバウンド客の減少を補っている(三越伊勢丹)」という。 3 月にまん延防止等重点措置が解除され、行動制限が緩和された。 行楽などの外出を楽しむ人が増え、衣料品や雑貨などの販売も伸びている。 ユニクロの 22 年 5 月の既存店売上高は 21 年同月比 17.5% 増え、2 カ月連続で前年実績を上回った。

ユナイテッドアローズは「前年の緊急事態宣言の反動などで客数が大きく回復した」として、5 月はワンピースやスカートなど夏物衣料の販売が好調だったという。 外食ではファミリーレストランが復調している。 大手ファミレス 3 社の 5 月の既存店売上高は、ロイヤルホストがコロナ前の水準を上回った。 サイゼリヤは 5 月まで 2 カ月連続でコロナ前の 9 割程度の水準を維持した。 一方で、居酒屋はファミレスほどの回復が見られなかった。

小売り各社などの販売が好調な背景には、消費者心理の改善がある。 内閣府がまとめた 5 月の景気ウオッチャー調査(街角景気)は 3 カ月前と比べた現状判断指数 (DI、季節調整値)が好不況の分かれ目となる 50 を 2 カ月連続で上回った。 小売りや外食各社は個人消費の回復が進むとみて、今期決算での業績回復を見込む。 23 年 2 月期と 3 月期決算の小売り・外食業のうち約 6 割が最終増益・黒字化を予想する。

ただ、小売り各社の業績には懸念材料もある。 足元では資源の高騰や食品など値上げのスピードに賃金の上昇が追いつかない。 厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、4 月の実質賃金は 4 カ月ぶりにマイナスとなった。 JP モルガン証券の村田大郎氏は「物価上昇で中間層以下の購買力は落ちる可能性がある」と指摘する。 消費者の節約志向が強まれば、各社は販売戦略などの見直しを迫られる。 (平岡大輝、佐藤優衣、nikkei = 6-14-22)


百貨店 4 月度は 1 - 4 割増収 昨年の休業の反動増

百貨店大手 5 社の 4 月度の売上高が出そろった。 前年 4 月は前半がまん延防止法、25 日以降は緊急事態宣言によって食品などの "生活必需品" を除く大半の売り場を閉めていたため、各社ともに大幅な反動増になった。 天候にも恵まれ、外出する機会も増えたため、ジャケットなど衣料品にも動きが出ている。 三越伊勢丹が 29.6% 増、高島屋が 23.8% 増、大丸松坂屋が 24.5% 増、そごう・西武が 12.3% 増、阪急阪神百貨店が 42.2% 増だった。

それでもコロナ前の一昨年 4 月と比較すると、まだ 1 - 2 割減の水準になる。 昨年 4 月 25 日以降の緊急事態宣言中、"豪奢品" 扱いされて販売できなかったラグジュアリーブランドや宝飾品・時計などの高額品の前年対比が跳ね上がった。 高額品だけでなく、一般の婦人服や婦人靴、バッグなども外出機会の増加によって回復傾向にある。 三越伊勢丹は「ゴールデンウイークを控えた買い替えや気温の上昇に伴う実需購買などから、春夏衣料や服飾雑貨も好調だった」という。 (林芳樹、WWD = 5-2-22)


百貨店売上高、3 月 4.6% 増 外出機会増え衣料品が回復

日本百貨店協会(東京・中央)が 25 日発表した 3 月の全国百貨店売上高は、既存店ベースで前年同月比 4.6% 増と 2 カ月ぶりにプラスに転じた。 3 月下旬に新型コロナウイルス対策のまん延防止等重点措置が全面解除となり、客足が回復した。 4 月も外出に向けた商品を中心に販売が好調で、個人消費は持ち直してきている。 商品別では、コートやジャケットなど春物衣料が伸びた婦人服が 6.2% 増、紳士服が 5.9% 増といずれも 2 カ月ぶりプラスだった。 美術・宝飾・貴金属は 10.8% 増で、14 カ月連続で前年を上回った。 生鮮食品は価格高騰の影響もあり、4% 減った。

4 月も入店客数は増加が続き、主要百貨店 41 店の売上高は 4 月 1 - 17 日の期間、前年同期と比べて約 16% 増で推移している。 伊勢丹新宿本店(東京・新宿)では、ハンドバッグやアクセサリーなどの 4 月前半の売り上げが、コロナ前の 2019 年同期を 10 - 20% 上回った。 高島屋でも「色使いが鮮やかなボトムスの売れ行きが好調」という。 高島屋では旅行用品の売り上げが前年同期から 7 割増えた。 国内旅行用の小型 - 中型のスーツケースやボストンバッグが売れ筋だという。 松屋では 4 月前半のゴルフ用品の売り上げが前年から 2 割伸びるなど、旅行やレジャーを楽しむ動きが増えている。

日本百貨店協会の安田洋子専務理事は「足元の売上高はコロナ前の 19 年と比較しても、約 10% 減の水準にまで戻っている。 インバウンド(訪日外国人)を除くと、売上高がコロナ前の水準を上回る店舗も出てきた。」と指摘する。 (nikkei = 4-25-22)


百貨店向けアパレルが、今すぐ無駄なコストを 10 億円以上減らす方法
河合拓のアパレル改造論

一般ビジネスパーソンのみならず、評論家やメディア記者に至るまでが実は知らない、アパレル業界で常識と言われている「意味の見えない」業務と悲劇を解説したい。 きっと、本稿を読んで心ある読者は驚くだろう。 そして、私が「アパレル不況は人災である」という理由もさらに理解できると思う。 業界外の方から見ると非常識にしか思えない「常識」。 今回は、百貨店ビジネスに関するものを披露したい。

アパレルを在庫まみれにする無意味な展示会の実態

アパレルビジネスの業務フローを山のように書いている私が、もっとも理解できない(合理性がない)と思うのが、「展示会」を起点とした MD (商品政策)業務フローである。 呆れるのは、この業界何十年という記者でさえ「展示会」の実態を知らないのだ。 曰く、「展示会で受注したものだけつくれば、在庫はゼロだ。 これが受注生産だ。」などと書いている。 その御仁は「展示会で受注をとっても、リードタイムが長いので、見込み生産をせざるを得ず、余剰在庫が残る」とも書いていた。

業務を知らないにもほどがあるとはこのこと。 衣料品の仕様企画が決まり、サンプルアップ(展示会サンプル)すれば、素材さえ確保すれば、10 日あれば生産投入が可能なのは生産現場を理解していれば誰でも分かる。 企画と素材収集が最もリードタイムのボトルネックであるという基本的なフローさえしらないわけだ。 さらに、驚いたのは、「展示会」を受注の場だと思っていることだ。

この「展示会」で集計される「受注と称するもの」は、いわゆる「受注」ではない。 キャンセル可能が前提の口頭約束のようなもので、わたしは小売の「つぶやき」と呼んでいる。 正確に言えば、契約としての効力は何もない単なるお祭り騒ぎである。 ここで集計する数量を前提にアパレル企業は(すべてはないが、大部分は)生産を開始し、百貨店に納入する。 だが、百貨店から「残念でした、売れませんでした」と言われれば、余った商品が返品され、アパレルは在庫の山となるわけだ。

百貨店ビジネスには「委託取引」と「消化取引」という二つの形態がある。 委託販売というのは、百貨店に商品を渡したら、あとは売れるのを祈ることしかできない。 売れなければ翌月、大量の返品を受け取ることになる。 消化取引とは一旦在庫を百貨店に移動し、百貨店の店頭で売れた分だけ百貨店の取り分を引いて、入金データもないまま擬似的に自社売上として計上し、後に百貨店の債務と突き合わして、正式な売上とするやりかただ。

この二つの形態は、似て非なるモノだ。 売上基準にしても「出荷基準か」、「店頭販売基準か」で違うし、商品販売動向の収集ができるかどうかという違いもある。 もっとも重要なのは「販売動向の収集の可否」なのだが、そこまで動態的に顧客管理を行っている百貨店向けアパレルはない。

直営ビジネスとの大きな違いは、例えば、あなたがセレクトショップにいって、ある商品の M サイズがなかったとしたら、きっと店員さんは、「ああ、それは銀座店にありますから取り寄せますよ」と言ってくれるはずだ。 しかし、この委託消化のビジネスは、「ああ、伊勢丹にないので高島屋から取り寄せますよ」ということが(数多くの伝票処理をすれば可能ではあるが)基本的にはできない。 そもそも、伊勢丹が高島屋に電話をして、「在庫ありますか?」と聞くこともできないだろう。

話を戻すと、このように「返品が自由な展示会発注」などアパレル側にとって、惰性で昔のやり方を踏襲しているだけで、この展示会を起点に MD を組み立てることに意味は無い。 このような話をすると、必ず古い人間がでてきて「百貨店との昔の関係が、、、」とか、「PR 用に必要、、、」、「社内説明会に必要」などと言いはじめるのだが、こうした展示会サンプルの残反や、お釈迦になった商品の総額は、1,000 億円規模の企業でいえば、10億円近くになることを知らない(量産化率 70%、SKU1000、素材のミニマムロット 15kgs で算出)のだ。

だから、そんな人に、「あなたは会社に10億円近い損害を与えているんですよ」ということを告げると、慌てて業務フローを直す。つまり、やろうと思えば展示会など開かなくてもよいし、百歩譲って開催するならすべて 3D CAD やメタバース技術をつかってやればよい。 この分野に 5 億円投資したとしても、5 億円のネット利益が出て、すぐに回収できる。

「うちは、商社や工場にヘッジしており、展示会サンプルも現物と同じ値段しか払っていない」という人もいるが、あまりにもビジネスというものを理解していない。 商社や工場は研究開発費に計上し、現物仕入や反物にその費用を載せて請求してアパレルの調達コストを上げているからだ。 当たり前のことだ。 そんなアパレルの身勝手な費用を自前で吸収していたら、商社も工場も潰れてしまう。

百貨店の二重入力で、膨大な違算作業が発生

この百貨店との独特の商慣習に起因した、もう 1 つの問題について解説していきたい。 「売上計上の業務フロー」に伴って発生する、ある膨大な作業についてだ。

売上は、百貨店には上代(消費者への販売価格)で立てて、納入アパレルは下代(百貨店への納入価格)で立てる。 だから消化取引の場合、百貨店の POS レジと、納入アパレルの POS レジに、人間が「ダブルインプット(二重で入力すること)」をしている。 私は、幾社もの百貨店向けアパレルの ABC 分析(活動基準原価分析といって、人間の年収と活動時間でコストを割り出す究極のコスト計算方法)をしたのだが、例外なく、百貨店向けアパレル企業の経理部には(規模にもよるが) 10 名以上の人間がいて、アパレルからくる支払い明細と、自社の売上明細の違算突き合わせ業務を朝から晩までやっている。

業務をしらないデジタルベンダーは、「マスター化すればよいではないか」というが、納入率は一定でなく、百貨店側の都合でコロコロ変更されてマスター化できない。 そもそも日本に 200 もある百貨店がバラバラに納入率を決めているものだから、日本全国に納入しているアパレル企業のもっとも工数負荷が高い業務は、「委託消化取引」が生み出す違算管理になるのである。

クラウド POS を使えば解決可能

この問題は、クラウド POS というソリューションを使えば、簡単に解決が可能である。 クラウド POS というのは、マザーズに上場している gooddays ホールディングズ (https://gooddays.jp/) という企業が提供しているソリューションだ。 大企業でない分、価格競争力は非常に高く、私がいまもっとも注目しているソリューションプロバイダーである。

この企業は、もともと住宅やリノベーション事業からはじまった。 その後、「衣」の領域に進出。 「決済」という一見地味な領域が複雑化している実態に着目した。 例えば、上記の POS レジもさることながら、最近ではスマホ決済やキャッシュレス決済など、決済の様式は多岐に及んでいる。 この会社のソリューションは、それらの「ほぼ全てのハードウエア」と結合し、一旦クラウドにあげ、一つの売上データとして企業に提供する。

すでに、大手百貨店や総合スーパー (GMS)、最大手のアパレルも導入をしているが、あまり知られていない。 この技術を百貨店グループとアパレルが使うだけで、山のような決済処理から人間が解放され、恐ろしいほどの生産性向上に繋がることになる。 さらに、決済データから生み出されるビッグデータは、マーケティングデータとして、おそらく AI カメラより精度が高い(実際に購買したデータだからという意味で)基礎情報となり、百貨店と百貨店アパレルにとって「つぶやき展示会」よりは、遙かに高い精度をもったマーケティングデータを提供してくれるだろう。

私は、百貨店の方、そして、百貨店向けアパレル企業の方にぜひ一度、「クラウド POS」の導入を検討してもらいたいと思う(私は同社の営業ではないのでこれ以上は言わないが)。 まずは、何十年も放置された課題を解決し、メタバースや D2C などの新しい技術の導入検討をなされてはいかがだろうか。 (河合拓、Diamond = 3-22-22)


12 月の百貨店・スーパー販売額 小売業は 3 カ月連続プラス 気温低下で衣料品動く

経済産業省が 1 月 31 日に発表した 21 年 12 月の商業販売額は 52 兆 9,000 億円(前年同月比 6.2% 増)で、10 カ月連続で増加した。 卸売業は 38 兆 2,440 億円(8.1% 増)で 10 カ月連続、小売業は 14 兆 6,560 億円(1.4% 増)で 3 カ月連続の増加。 この結果、21 年の年間の商業販売額は 551 兆 8,690 億円(前年比 6% 増)、そのうち卸売業は 401 兆 3,820 億円(7.6% 増)、小売業は 150 兆 4,860 億円(1.9% 増)となった。

卸売業の販売額は繊維品卸売業が 2.1% 増で、8 カ月連続で増加。 一方で、前月は 6 カ月ぶりに増加した衣服・身の回り品卸売業は 5.5% 減だった。 小売業は原油高で 23.3% 増と大きく伸ばした燃料小売業を除くと 0.5% 減。 ただし、新型コロナウイルス感染者数の減少による客数増と月後半の気温低下によるアウター、ニット製品の売り上げ増が寄与し、織物・衣服・身の回り品は 1.2% 増で、2 カ月連続のプラス。

百貨店・スーパーマーケットの合計販売額は 2 兆 1,389 億円で 1.7% 増、既存店は 1.4% 増で、いずれも 3 カ月連続の増加。 百貨店は前月に引き続き、「入店客数の増加、高額品の好調な売れ行きが継続」したことに加え、冬物衣料の売り上げが上乗せし、3 カ月連続のプラスとなった。 スーパーは前年同月に飲食料品を大きく伸ばした反動で 2 カ月連続のマイナス。 百貨店とは対照的に、衣料品の苦戦が続いている。 小売業販売の基調判断は 2 カ月連続で「持ち直しの動きが見られる」とした。 (繊研新聞 = 2-1-22)


実在のデパート売り場、ネットでバーチャル回遊 松屋銀座、注文も可

東京の老舗百貨店、松屋銀座が 17 日、名物売り場をネット上で再現したバーチャルストアを開設した。 画面上で、売り場を歩き回るように商品を見て回れる仕組みで、店まで足を運べない人にも売り場の雰囲気を楽しんでもらう狙いだ。 寺社のデジタルコンテンツも手がける DiO (ディオ、京都市)と協力。 建築家の隈研吾氏ら 33 人が選んだ、デザイン性に優れた食器や雑貨などを集めた売り場「デザインコレクション」を隅々まで撮影し、画像をつなぎ合わせて再現した。 実店舗で扱う約 700 点の商品のうち、100 点程度はネットで注文できる。

コロナ下での消費行動の変化もあり、百貨店各社はネット対応を急いでいる。 三越伊勢丹も、伊勢丹新宿本店を模したバーチャル空間で商品を選べるスマホアプリを 3 月に投入した。 気に入った商品は通販サイト経由で買える。 (山下裕志、asahi = 11-17-21)


三越伊勢丹、3 年後に最高益への回復計画 不動産・金融も強化へ

三越伊勢丹ホールディングスは 10 日、2024 年度までの具体的な中期経営計画を発表した。 新型コロナ禍からの回復を見込んで百貨店事業の再生に取り組み、24 年度の営業利益は過去最高の 350 億円をめざす。 不動産・金融にも力を入れ、10 年後をめどに営業利益の半分を稼ぐ事業に育てる方針も明らかにした。 21 年度の営業利益は30 億円を見込んでおり、3 年後に 10 倍以上に増やす計画となる。 富裕層向けの外商やクレジットカード会員獲得などを強化するという。

営業利益は 10 年後をめどに 500 億円規模にすることを目指し、半分を不動産・金融事業で稼ぐ構想も明らかにした。 クレジットカードの利用増を手数料収入につなげるほか、保有する不動産をホテルやオフィスなど様々な用途に活用する。 営業利益に占める百貨店事業の比率は、24 年度の 63% から 45% に下がる見通しという。 同日発表した21 年 9 月中間決算は、売上高が前年同期比から約 2 割増の 3,989 億円で、コロナ前の約 7 割の水準だった。 純損益は 81 億円の赤字だった。 来年 3 月期の純損益は 30 億円の黒字を見込む。 (山下裕志、asahi = 11-10-21)


百貨店 9 月度業績は回復傾向 低気温で秋冬衣料が売れる

主要百貨店 5 社の 2021 年 9 月度売上速報が出そろった。 前年同月比で三越伊勢丹が 4.7% 増、高島屋が 2.4% 減、そごう・西武が 5.7% 減、大丸松坂屋百貨店が 0.2% 減、阪急阪神百貨店が 6.9% 減。 新型コロナウイルスの新規感染者の減少で、各社とも 8 月よりも減収幅が小さくなった。 三越伊勢丹は 2 カ月ぶりの増収を確保した。 例年と比較して低気温だったことも、秋冬衣料の売れ行きを後押しした。 (WWD = 10-1-21)


百貨店売上高、45 年ぶり低水準 店舗数は 200 店割れ

全国の百貨店の 2020 年の売上高は前年比 25.7% 減の 4 兆 2,204 億円となり、1975 年(4 兆 651 億円)以来、45 年ぶりの低水準となった。日本百貨店協会が 22 日、発表した。 新型コロナウイルスの感染拡大で臨時休業や営業時間の短縮を強いられたことが響いた。 2 割超の下落幅は、リーマン・ショック後の 09 年(10.1% 減)を上回って過去最大となる。 百貨店の売上高は 91 年に約 9 兆 7 千億円をピークに減少傾向が続いていたが、昨年 1 年間だけで約 1 兆 5 千億円も減った。 また、年末の店舗数は前年より 12 店少ない 196 店となり、70 年(192 店)以来、50 年ぶりに 200 店を下回った。 (asahi = 1-22-21)


三越伊勢丹、1 月 8 日から首都圏 6 店舗は 19 時閉店

三越伊勢丹ホールディングスは 1 月 8 日から、首都圏 6 店舗の営業時間を短縮する。 政府から「緊急事態宣言」が発出されることを受け、顧客・従業員の健康と安全の確保、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、当面の間、営業時間を短縮することを決定した。 伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店、三越銀座店、伊勢丹立川店の営業時間は 10 時 - 19 時、伊勢丹浦和店は 10 時 30 分 - 19 時、三越恵比寿店 1 時 - 19 時となる。 各店舗のレストランは、基本閉店時間を 20 時とするが、一部のレストランでは 20 時以前の閉店時間の場合もある。 (流通ニュース = 1-7-21)


コロナ禍連鎖、地方店に試練 デジタル接客に活路 - アパレル・百貨店

新型コロナウイルス感染拡大が、アパレル業界と百貨店に打撃を与えている。 アパレル各社は百貨店内からの撤退を加速し、地方百貨店のフロアが空洞化する「負の連鎖」も進む。 苦境脱却へ各社が活路を見いだすのは、豊富な知識を持つ販売員によるオンライン接客など、リアルとデジタルの融合。 感染「第 3 波」も広がる中、反転攻勢へ模索が始まっている。

アパレル撤退で空洞化

「(東京の)旗艦店の接客を受けられてうれしい。」 デザインが人気の高級ブランド「マーガレット・ハウエル」で TSI ホールディングスが 9 月から始めた、チャットで接客を受けられるサービス。 北海道から利用した女性は、普段は訪れることができない東京・渋谷の店舗スタッフとのやりとりを喜んだ。 アパレルと百貨店業界は、コロナ以前から右肩下がりの業況が続いていた。 百貨店売上高は 1991 年のピーク時から昨年は約 4 割減少。 特に「地方ではアパレルの出店は採算が合わなくなっていた(大手百貨店)」が、百貨店側もアパレルに頼り店舗が刷新されなかった。

相互に依存する構造的な苦境に、レナウンの経営破綻などコロナ禍が追い打ちを掛けた。 オンワードホールディングス、ワールドなど大手 4 社は今期中に国内外で約 1,320 店の大量閉店に踏み切る。 アパレル関係者は「百貨店との関係で閉店できなかった店舗も対象にした」と明かす。 悲鳴を上げるのは地方の百貨店だ。 九州地方のある百貨店では婦人服を中心に閉店が相次ぎ、フロアを再編成。 しかし、10 月から空いた 2 階分は使われていない。 高知大丸(高知市)では、紳士服など約 30 店舗が撤退。 空いたフロアに改めてアパレルの出店を期待するが、企画担当者は「アパレル自身の体力もなく、出店余力のあるブランドがない」と漏らす。

おもてなし、どこでも

店舗網が縮小する中、どうやって競争力を維持・向上させるか。各社が模索するのは、デジタルを活用した顧客満足度の改善だ。 TSI の新しいサービスは、不特定多数に販売する電子商取引 (EC) を「1 対 1 の店舗接客に近づける(広報)」ことを狙った。 自然に近い光の下での色や身に付けた時の雰囲気など、サイトの商品画面では分からない情報も伝わりやすく、購買にもつながっている。

松山三越(松山市)では今月 11 日、得意客に東京・銀座などの店舗販売員がオンラインで商品を案内する「デジタルサロン」を本格的に始めた。 地元で取り扱いがない高級ブランドを豊富な知識を持つ販売員が紹介。 「東京にある店舗の店員から商品の詳しい説明や接客を受けられるのが喜ばれている(サロン担当者)」という。 三越伊勢丹ホールディングスは「東京とつながるデジタルは地方店が生き残る手段だ」と指摘する。 デジタル以外の試行錯誤も始まる。 婦人服「アンタイトル」などを展開するワールドは、内装や商品陳列といった店舗開発力を異業種にも提供する事業を拡大。 百貨店で展開してきたこれまでのブランド事業にとらわれず、自社の強みを生かして苦境を乗り切る構えだ。 (jiji = 12-16-20)

20 年以降に営業終了・閉店予定の主な百貨店
2020年1月下旬大沼本店(山形市)
31日天満屋広島アルパーク店(広島市)
3月15日ほの国百貨店(愛知県豊橋市)
22日新潟三越(新潟市)
31日東急百貨店東横店(東京都渋谷区)
8月16日高島屋港南台店(横浜市)
17日井筒屋黒崎店(北九州市)
31日中合福島店(福島市)
そごう西神店(神戸市)、同徳島店(徳島市)
西武大津店(大津市)、同岡崎店(愛知県岡崎市)
イセタンハウス(名古屋市)
21年2月21日さいか屋横須賀店(神奈川県横須賀市)
28日三越恵比寿店(東京都渋谷区)
そごう川口店(埼玉県川口市)
9月松坂屋豊田店(愛知県豊田市)


画面越しに商品紹介 百貨店、オンラインサービスを強化

コロナ禍で外出を控えがちな客を取り込もうと、百貨店各社が、オンラインのサービスを強化している。 店で扱う商品を買いやすくし、売り上げの底上げを狙う。 海外向けのネット通販も好調だ。 東京・伊勢丹新宿本店で化粧品の販売員が 25 日、パソコンの画面越しに語りかけた。 「お友達へのプレゼントとしてボディークリームをお探しとのことだったので、今回は 3 種類ご用意させていただきました。」 視覚だけでは伝わりにくい感触や香りについても詳しく説明した。

オンラインでのサービスは、この日から始めた。 客は、専用アプリをダウンロードすれば、新宿本店で扱う 100 万種類の商品のうち服やアクセサリーなど1 万 5 千種類を、自宅で品定めできる。 さらに予約をすれば、販売員から商品の説明を受けられる。 クレジットカードで支払いを済ませれば、商品は自宅に届く。 三越伊勢丹ホールディングスは、来年 3 月期のネット通販の売上高を前期より 5 割多い 310 億円と見込んでいる。 それでも、売り上げ全体に占める比率はまだ数 %。 「どこにいても百貨店らしい買い物ができるよう、デジタル技術を使ったサービスを強化していく」と担当者は話す。

リモート接客は高島屋も今年 9 月、東京・世田谷の玉川店で始めた。 対象は、ほぼすべての売り場の約 9 割の商品。 客に、午前 10 時 - 午後 6 時の予約枠に事前に登録してもらい、専任の販売員は売り場に近い接客を遠隔で行う。 今後、ほかの大型店にも広げていくことを検討しているという。

阪急阪神百貨店は、店頭にある商品の注文をオンラインで受けるサービスを 3 月末に始めた。 LINE や電話でやりとりした上でサイトから決済してもらう。 利用者の 6 割は、阪急や阪神の百貨店での買い物経験はなく、新たな顧客の獲得につながっているという。 デジタル化を担当する取締役執行役員の竪帯宏壮(たてわきひろたけ)さんは「ネットの台頭で顧客との関係の持ち方が変わった。 いつでもどこでも商品を探せる環境をつくる。」と話す。 近鉄百貨店では、コロナ禍以前から始めた「越境 EC」が波に乗っている。 このうち日本の製品を、T モール(天猫)など中国のネット通販サイトで売る事業は、10 月の売上高が前年同月の 17 倍に増えた。 (加茂謙吾、佐藤亜季、asahi = 11-30-20)


百貨店は「オワコン」か 新しい業態へ、自己変革のとき

街のシンボルだった百貨店が、日本のあちこちで幕を閉じている。 欲しいものは指一本動かせば買える時代、デパートという「箱」の役割はなんだろうか。 未来の姿を考えたい。 (asahi = 11-22-20)

「半歩先」のライフスタイルを 最所あさみ(リテール・フューチャリスト)

百貨店の未来、ですか? 「百貨店」と「百貨店的な役割」は別物です。 インターネットの発達が危機を招いたように言われますが、「百貨店的な役割」はネット時代だからこそ、消費者にとって重要な存在になります。 その意味では、未来は明るいはずです。 私は 2012 年に新卒で三越伊勢丹に就職しました。 周囲の多くがネットに可能性を感じて IT 業界に入っていくなかで、百貨店を選んだのは、ネット時代にこそ、リアル空間の価値が高まると思ったからです。

1 年半ほどで退職し、小売業の未来を提言する仕事をするようになりましたが、今も百貨店という空間は好きです。 気分が落ち込めば日本橋の三越に行く。 具体的に欲しいモノが決まっていなくても、そこに行けば何かに出会える吸引力があるからです。 確かにいま、百貨店の存在は揺らいでいます。 若者たちは SNS で憧れのインフルエンサーをフォローし、その人が薦める服や食べ物をピンポイントで買うようになりました。 そうなると、買い物するのに百貨店などのリアルの店舗をぐるぐる歩き回る必要はなくなってしまう。

百貨店側もインフルエンサーを利用し、注目の商品を「バズらせる」ことに必死です。 でも「売ること」だけに焦点を絞る限り、結局はオンラインで完結してしまう。 それでも、百貨店の危機の本質がこうした消費スタイルの変化にあるのか、といえば、私は「むしろ反対ではないか」と答えます。 問題は、百貨店側が「売る」ために、「自分たちがブームをつくる」という意識を引きずり過ぎていること。 百貨店の原点を思い出す必要があります。

ネットの発達で、私たちは自分自身のこだわりのモノについては、かつてないほどの情報を持つようになりました。 一方で、そこから少しずれたら、まるで知りません。 例えば、両親に素敵なパジャマをプレゼントしようと思い立ったら? 自分世代の「憧れのインフルエンサー」では参考にならない。 ネットで検索すると無限に出てきて、絞れない。 そんな時に百貨店が消費の「かかりつけ医」として相談に乗ってくれればどうでしょう。

また、特定の商品に関心を持ち、事前にネットで調べて訪れるような人には、百貨店がワークショップなどを開いてより深い情報や学びを提供する「編集者」的な機能を果たせば、価値がある。 歴史的にみても、百貨店はそういう存在として発展してきました。 社会の価値観の変化にいち早く気づき、消費者がまだはっきりとは気づいていない「半歩先」のライフスタイルを提案する。 そういう売り場を作れるかが、百貨店の未来を決めると思います。(聞き手・高久潤)

最所あさみ : 1989 年生まれ。 百貨店、ネット広告会社などを経てフリー。 リテール(小売り)の未来像を研究し、ネットを中心に提言。

何を守り、捨てるのか 奥田務(Jフロントリテイリング特別顧問)

誤解を恐れずに言えば、百貨店は日本でも欧米でも、1980 年代にはもう「終わっていた。」 私は、そう思っています。 かつての百貨店では、自ら目利きした品を売り、多くの消費者が「間違いのない品」だと信頼して買っていた。 まさに日本の小売業の長(おさ)でした。 しかし時代の変化は速かった。 総合スーパーが登場し、90 年代後半には IT の普及で消費者の情報量が増えるとニーズも多様化。 そして家電量販店、ニトリやユニクロなど専門分野に特化したカテゴリーキラーが台頭し、ネット販売も広がった。 百貨店は「何でもあるけど欲しいものは何もない」と言われるようになってしまいました。

私は、百貨店という業態が「終わった」要因の一つに、日本の百貨店独特の商習慣といわれる「消化仕入れ」があると思っています。 店頭で商品が売れた時点で「仕入れた」と見なす取引形態で、在庫リスクや販売員も取引先が負担する仕組みです。 取引先に対する立場の強さを象徴しているように思われますが、実は、高級ブランドなどのメーカー側の力の高まりに応じて、百貨店がとった窮余の策でした。 百貨店が自らすべてのリスクを負って「目利きし、仕入れて売る」という従来の商売を手放したことは大きかったと思います。 それでも、バブル景気やインバウンド需要が押し寄せるたびにその陰りを覆い隠し、百貨店の経営者たちは旧来の百貨店のビジネスモデルに拘泥して、抜本的な変革に踏み切りませんでした。 このコロナ禍も 2、3 年をしのげば、大都市の百貨店は細々と存続できるかもしれない。 でも、それは「文化遺産的」な百貨店で、市場原理の中で生きていけるとは言えません。 大丸の社長に就任した私が手がけたのは、ビジネスモデルを「小売業」から「テナント業」へ転換させることでした。 百貨店の財産は、「お客様の信頼」と「一等地」という立地です。 百貨店が生き残る術(すべ)を突き詰めると、新しい業態の開発が不可欠だったのです。

「テナント業」という意味ではショッピングセンター (SC) と同じでも、「百貨店」として商品・テナント・情報・サービスの新しい組み合わせや、テナント間をまたぐ販売対応、外商、配送などの質の高いサービスを徹底していけば、百貨店の財産である「信頼感」は守れる。 私はそう考えます。 同時に高級 SC と割り切った「GINZA SIX (ギンザシックス)」のような業態も進めていく必要があります。 何を守り、何を捨てるのか。 百貨店はその昔、呉服屋が生き残りのために転身した結果生まれました。 世代をつなぐ憩いの場か、シニア層に特化したサービスなのか。 創業時の精神に立ち返った抜本的な自己変革ができれば、百貨店が新しい業態として生きる可能性は、まだまだあると私は思っています。(聞き手・藤田さつき)

奥田務 : 1939 年生まれ。 97 年に大丸社長に就き経営改革を主導。 松坂屋との統合に伴う初代 J フロント社長兼 CEO。

ヒントは「ファンビジネス」 谷口功一(法哲学者)

百貨店は、近代的都市に必須の構成要素でした。 都会的なにぎわいを演出する、豪華で優雅な「舞台」に、客は普段よりいい服を着て出かけ、「演者」として振る舞う。 客側に「気構え」や「背伸び」を要求する空間でした。 大分県出身の私にとって、県都の中心部にあるトキハ百貨店はパルコと並び、いわば文明の最前線にある「前哨点」でした。 インターネットもなかった当時、すさまじい文化的飢餓感の中で、「そこに行けば、いま流行しているものが分かる場所」でした。

百貨店が果たしてきた役割の一つが、こうした文化や消費の「共通体験」です。 ちょっと背伸びをして百貨店に出かけて高級品を買う、という光景は、一昔前にはよくあったでしょう。 館内には自分には手が届かない高価な品々も並んでいて、それらを買う人の姿や装いも自然に目に入ってきたものです。 買い物は人々の「選好」が最もよく表れる部分です。 ですが、ネット通販の普及で、他人の購買行動は格段に見えづらくなりました。 どんな人がどんな商品を好み、選ぶのか。 何が流行しているのか。 百貨店のような場所で得られた、こうした共通体験を得る場所は、今はありません。

共通体験を得る場所が失われた結果、自分や自分と似た境遇の人たちの行動しか見えない、壮大な「たこつぼ」世界に陥っています。 社会の分断化が進み、お互いが見えないなかでの階層化も進んでいくだろうと思います。 今の若い人にとっては「クロックスのサンダルで行ける」と言われるショッピングセンターこそが「故郷の原風景」になっているでしょう。 1989 年の日米構造協議以降の大規模商業施設の立地規制の緩和で、郊外にはモール型のショッピングセンターが次々と出店。 都市が無秩序に広がるなか、小売り商業圏の重心は郊外へ移動し、百貨店は勢いを失いました。

モールが、地域の商業圏を壊し、地元コミュニティーに悪影響を及ぼしたという批判もありますが、子連れで車で行けて、フードコートもある。 便利で、人が集まるのは自然の流れです。 ただ、モールの存在は「百貨店の継承」にはなっていません。 モールが推し進めた「大衆化」の結果、人々は均一化された商業施設の中で、背伸びをせず「身の丈」の消費をするようになりました。 買いやすい値段で大量に商品を供給する、ユニクロやニトリのような存在も大きかったと思います。

私は夜のスナックについての研究もしているのですが、シャッター商店街の町で、地元のスナックの多くがつぶれずに生き残っています。 スナックが商品の消費を目的としているのではなく、ママやマスターの人柄を目当てにさまざまな人々が集ってくる「ファンビジネス」だからです。 大型モールを全国展開するような大企業には、まねできない。 均一化し、他人が見えなくなった消費のなかで、駅前の百貨店が生き残るためのヒントが、そこにあるかもしれません。(聞き手・湯地正裕)

谷口功一 : 1973 年生まれ。 東京都立大学教授。 大分県別府市の出身。 主な著書に「ショッピングモールの法哲学」など。