宇宙ステーション廃止、米政府が提案 日本も関わる「ゲートウェー」

日本も参加する米主導の月面有人探査「アルテミス計画」で、月への中継基地として建設する宇宙ステーション「ゲートウェー」について、米政府は 2 日、廃止を提案した。 ゲートウェーには日本人飛行士も滞在が見込まれており、廃止になれば日本の宇宙政策への影響が懸念される。 米政府が 2 日に公表した 2026 会計年度(25 年 10 月 - 26 年 9 月)の予算の要望をまとめた「予算教書」の中で明らかになった。 廃止の方針は提案段階で、今後の議会で修正される可能性がある。

ゲートウェーは月の周回軌道上につくり、月探査においては宇宙飛行士の滞在や物資の補給拠点などとして使うことが想定されている。 22 年には宇宙航空研究開発機構 (JAXA) )が生命維持装置などを提供する代わりに、日本人飛行士が搭乗することを約束する合意を日米間で交わしていた。 米航空宇宙局 (NASA) 全体の予算は前会計年度から約 25% 減額の 188 億ドル(約 2 兆 7 千億円)。 一方、米宇宙企業スペース X の創業者イーロン・マスク氏らが訴えてきた火星探査には予算をつける提案となった。 (サンフランシスコ・市野塊、asahi = 5-3-25)


宇宙ステーションが生み出す新たな経済圏 次世代 ISS かけ民間に熱

2030 年ごろに運用を終える国際宇宙ステーション (ISS) の後継を見据え、米国では民間企業主導で宇宙ステーションの開発が進む。 年内には米航空宇宙局 (NASA) による公募が始まる見込みで、本格化する宇宙空間の商業利用に向けて各社がしのぎを削っている。 丸みを帯びた真っ白な空間は、5 人ほどが入っても十分に広く、まるでホテルの一室のような高級感が漂う。 訪れた人は順番待ちの列をつくり、足を踏み入れる度に驚きの声を上げていた。 4 月中旬、米コロラドスプリングズで開かれたシンポジウムの会場に直径 4.4 メートル、長さ 10.1 メートルの円筒形のカプセルがあった。 初めて一般向けに展示された米宇宙企業バストが開発中の宇宙ステーション「ヘイブン 1」の実物大模型だ。

「ビジネスや科学研究の場」

廊下と共用部からなる約 45 立方メートルの居住空間には、宇宙空間仕様のベッドやテーブルを設置。 太陽光パネルで電力を供給し、米宇宙企業スペース X の「スターリンク」と接続することでインターネットも完備する。 4 人 1 組が一度に約 2 週間滞在することを想定しているという。 バスト社広報のエバ・ベーレンドさんは、「有人滞在だけでなく、ビジネスや科学研究ができる場所だと考えている」と胸を張った。 ヘイブン 1 は、スペース X の宇宙船で 26 年に打ち上げる計画だ。

ISS をはじめとする宇宙ステーションは、地球からの高度数百キロの低軌道と呼ばれる領域を使う。 地球と異なる微小重力の環境を生かし、創薬といった科学実験や人間が宇宙で活動するための訓練の場として重宝されている。 しかし、ISS は本格利用開始から 20 年以上が過ぎ、老朽化と維持費増などから 30 年ごろに退役する。

新たな市場に

NASA は、ISS 退役後も低軌道で有人活動できる環境を維持するため、民間主導の宇宙ステーションを後押しすることにした。 企業にとってもこの領域の価値は高く、実験場などだけでなく、将来的にホテルをつくって一般客が宇宙空間に滞在できるようにする構想を持つ社もある。 こうした経済活動は「低軌道経済圏」などとも呼ばれ、新たな市場ができつつある。 市場への参入には NASA との連携も重要で、各社が競い合っている。 初期設計などを NASA が公募したフェーズ 1 では、米宇宙企業ブルーオリジンなどが契約を勝ち取った。 宇宙へ打ち上げた後に、宇宙飛行士の滞在や実験施設利用の契約を NASA と結ぶことになるフェーズ 2 の公募は今年始まり、1 社以上がパートナーとして選ばれる見込みだ。

バストもフェーズ 2 に向けて開発を急ぐ企業の一つ。 マックス・ハウト最高経営責任者 (CEO) は講演で「ISS を私たちの民間宇宙ステーションに置き換えてみせる」と意気込んだ。 低軌道の民間利用については、日本も米国と同じ方向を向く。 文部科学省の専門家委員会で今年 2 月、ISS 後継のステーションの運営を民間に任せていく方針を決めた。 宇宙ステーション本体の開発で有力視される日本国内の企業はないものの、商社を中心に米宇宙企業への出資が進む。

宇宙で組み立て 日本のスタートアップも

宇宙ステーションのような施設は、地上でつくったものをロケットで運ぶのが一般的だ。 ただ、ロケットが一度に運ぶことができる重量には限界があり、巨大な建造物はつくりづらい。 この課題の克服に挑み、民間による開発の流れに乗ろうとしている日本のスタートアップ企業がある。 東北大学発のスタートアップ「スペース・クォーターズ(東京都)」は宇宙空間で建造物をつくる技術を開発している。 パーツとなる全長約 6 メートルのアルミ製の薄いパネルを大量に打ち上げ、遠隔ロボットで溶接しながら組み立てる。 パネルは六角形と五角形からなり、サッカーボールのように組み合わせ次第で様々な形にできるという。 軌道上や月面での作業を想定する。

前例が少なく、投資家にイメージを持ってもらうのに苦労しているというが、溶接のためのロボットの試作機などはできていて、資金調達は進んできた。 同社の大西正悟代表取締役 CEO は「宇宙で滞在するための空間が大きくなればインフラやアクティビティー(活動)が生まれ、初めて生活になっていく。(宇宙空間で建設する)私たちの方法なら、宇宙開発の世界が広がる」と話した。 (米コロラドスプリングズ・市野塊、asahi = 4-27-25)


生命は存在する? 英チーム、太陽系外の惑星に「最も強い証拠」検出

英ケンブリッジ大の研究チームは、地球から 124 光年の距離にある惑星の大気中に生命の痕跡を検出したと発表した。 太陽系の外に生命が存在する「最も強力な証拠」としている。 論文によると、今回観測したのは、地球の 2.6 倍の大きさを持つ「K2-18b」という惑星。 研究チームは惑星が恒星の前を通過する様子を、米航空宇宙局 (NASA) のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使って観測した。 惑星の大気を通ってきた恒星の光を分析すると、大気中から硫黄化合物「ジメチルスルフィド」と「ジメチルジスルフィド」という化学物質を検出した。

二つの物質は、地球上では海洋植物プランクトンなどの微生物によってのみ生成されるといい、太陽系の外にある惑星に生命が存在する可能性を示す強い証拠となるという。 この惑星は、恒星からの距離が近すぎず遠すぎず、液体の水が存在できる「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)」にあることがわかっていて、大気中にメタンと二酸化炭素が確認されている。 地球のように、大気と海が存在する可能性があるという。

ただ、検出された物質が非生物学的につくられた可能性もあり、生命の存在が確定したわけではない。より多くのデータを得るため、研究を続けるという。研究チームのニク・マドゥスダン教授は「今回の結果が転換点となり、宇宙で人類は私たちだけなのかどうかという根本的な疑問に答えられるようになるかもしれない」とコメントしている。 研究成果は専門誌 アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ に掲載された。 (小川詩織、asahi = 4-22-25)


大西卓哉宇宙飛行士が乗る宇宙船ドラゴン、ISS に到着 半年滞在へ

宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の大西卓哉飛行士 (49) ら 4 人を乗せた米スペース X 社の宇宙船ドラゴンが米東部時間 16 日未明(日本時間 16 日午後)、上空約 400 キロの軌道を回る国際宇宙ステーション (ISS)に到着した。船長として約半年間にわたり滞在し、実験などをする予定だ。 4 人が宇宙船から ISS に移ると、滞在中の 7 人の飛行士に出迎えられた。

この 7 人のうち、米航空宇宙局 (NASA) のウィルモア氏とウィリアムズ氏の 2 人は予定外の長期滞在になっている。 2024 年 6 月に米航空大手ボーイングの新型宇宙船「スターライナー」で ISS に到着。 約 1 週間の滞在予定だったが、スターライナーの問題で延長され、約 9 カ月が過ぎている。 この 2 人を含む 4 人は大西さんらとの引き継ぎ後、ISS に係留している別のスペース X の宇宙船で地球に戻る計画だ。(ワシントン・合田禄、asahi = 3-16-25)

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大西卓哉飛行士搭乗の宇宙船「ドラゴン」打ち上げ成功 ISS 滞在へ

宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の大西卓哉飛行士 (49) ら 4 人が乗る米スペース X の宇宙船「ドラゴン」が 14 日、フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられた。 宇宙船は予定の軌道に入り、打ち上げは成功した。 15 日に国際宇宙ステーション (ISS) へ到着し、約 6 カ月間滞在する予定だ。 ドラゴンは米東部時間 14 日午後 7 時(日本時間 15 日午前 8 時)ごろ、スペース X のファルコン 9 ロケットで打ち上げられた。 ISS への移動手段として 2020 年にドラゴンの本格運用が始まってから 10 回目になる。事故は一度も起こしていない。

大西さんは打ち上げ直後の宇宙船内からの中継で「日本のみなさん、たくさんの応援ありがとうございます。 9 年ぶりの無重力の感覚をかみしめています」と語った。 大西さんは 16 年に続いて 2 回目の宇宙飛行。 ほかに米航空宇宙局 (NASA) のアン・マクレイン氏とニコル・エアーズ氏、ロシアの宇宙機関ロスコスモスのキリル・ペスコフ氏が搭乗している。 マクレイン氏は 2 回目、ほかの 2 人は初の宇宙飛行となる。

大西さんらは ISS に滞在中、将来の有人探査を想定し、日本の実験棟「きぼう」で二酸化炭素を除去する装置の実験をしたり、超小型衛星を軌道に放出したりする。 米宇宙企業の企画で ISS に来る民間飛行士も出迎える。 ISS の船長も務める大西さんは打ち上げ前、「船長の任務と責任は、まず第一に、すべての乗組員と ISS の安全を確保することだ。 判断の前には必ずみんなの意見を聞くつもりだ」と話した。

現在、ISSには24年6月に米航空大手ボーイングの新型宇宙船「スターライナー」の初の有人試験飛行で到着した NASA の宇宙飛行士 2 人も滞在している。 当初は約 1 週間の滞在予定だったが、スターライナーにヘリウム漏れや推進装置の問題が起き、2 人はそのまま ISS に滞在することになって約 9 カ月が過ぎている。 この 2 人を含む宇宙飛行士 4 人は大西さんらと引き継ぎを済ませた後、ISS に係留している別のスペース X の宇宙船で地球に帰還する予定となっている。 (ケネディ宇宙センター〈フロリダ州〉・合田禄、asahi = 3-15-25)

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宇宙飛行士・大西卓哉さんを乗せた宇宙船、打ち上げ中止 … 準備最終段階でトラブル発生

【ケネディ宇宙センター(米フロリダ州) = 冨山優介】 米フロリダ州のケネディ宇宙センターで 12 日夜(日本時間 13 日朝)に予定されていた大西卓哉・宇宙飛行士 (49) らを乗せた宇宙船クルードラゴンの打ち上げは、直前で中止された。

準備の最終段階で地上の打ち上げ設備にトラブルが発生したためで、米航空宇宙局 (NASA) などが原因を調べている。 打ち上げは、14 日夜(日本時間 15 日朝)に延期された。 大西さんは米露の飛行士 3 人とともに、クルードラゴンで国際宇宙ステーション (ISS) へ向かい、長期滞在を始める予定だった。 大西さんの宇宙飛行と ISS 長期滞在は 2016 年以来、2 回目となる。 (yomiuri = 3-13-25)


スペース X 新型ロケット、再び「キャッチ」成功 宇宙船信号途絶える

イーロン・マスク氏が創業した米宇宙企業スペースXは 16 日、開発中の史上最大のロケット「スーパーヘビー」と宇宙船「スターシップ」を打ち上げた。 7 回目の無人飛行試験で、ロケットを発射地点に戻して発射台のアームで「キャッチ」することに再び成功した。 ただ、切り離された宇宙船の信号は途絶え、同社は「宇宙船は失われたとみられる」としている。 ロケットと宇宙船は米中部時間 16 日午後 4 時半過ぎ(日本時間 17 日午前 7 時半過ぎ)、同社が拠点としている米テキサス州ボカチカの「スターベース」で打ち上げられた。

同社の中継映像によると、打ち上げから約 7 分後、宇宙船から切り離されたロケットは発射地点に戻り、「箸」のようなアームがつかまえた。 ロケットの発射台での「キャッチ」は昨年 10 月に続き、2 回目の成功。 同 11 月の 6 回目の飛行試験でも試みる予定だったが、断念していた。 今回打ち上げに使ったロケットのエンジンは、昨年 10 月に発射台に戻ってきたロケットのものを再利用した。 打ち上げられた宇宙船はロケットと切り離された後、信号が途絶えた。 同社の衛星通信サービス「スターリンク」に使う衛星と同じサイズ、重さの模擬衛星 10 機が積み込まれていて、地球周回軌道に運ぶためのテストもする予定だった。

宇宙船は将来的に発射地点に戻ってアームで回収することを見越し、改良された宇宙船はキャッチのための部品やセンサーの性能を試す仕様としていた。 マスク氏は前回の飛行試験終了後、7 回目の試験で宇宙船の海上着水を試みた後、「それがうまくいけば、スペース X 社はタワーで宇宙船をキャッチしようとする」と宣言している。 スペース X は 2024 年、計 4 回のスターシップの打ち上げ試験を実施した。 大型ロケットの試験頻度では異例の多さだが、今年はさらに多くの打ち上げを見込む。

同社側は年間 25 回の打ち上げを提案し、宇宙企業の打ち上げの規制を担当する米連邦航空局 (FAA) は許可の手続きを進めている。 スペース X の提案には、25 回の打ち上げだけではなく、25 回のスーパーヘビーの着陸と、25 回のスターシップの着陸も含まれている。 これまでも競合他社を圧倒するスピードで開発を進めてきたが、今後はより頻繁になり試験が実施されそうだ。 (ワシントン・合田禄、asahi = 1-17-25)


ベゾス氏の米宇宙企業、大型ロケットを初打ち上げ スペース X と競合

アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が立ち上げた米宇宙企業ブルーオリジンは 16 日、開発中の大型ロケット「ニューグレン」を初めて打ち上げた。 試験飛行の位置づけで、ロケット上部は地球周回軌道に到達した。 同社は「第 1 目標は達成した」としている。

ニューグレンは米東部時間 16 日午前 2 時過ぎ(日本時間 16 日午後 4 時過ぎ)、フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられた。 約 3 分後、宇宙へ向かうロケット上部の 2 段目が切り離され、その後、宇宙空間に達して、地球周回軌道に入った。 ロケット上部には、地上との通信やデータを保存するための機器を載せている。 将来的に人工衛星などの積み荷を目的の軌道上に運ぶことを想定した。 試験は約 6 時間の予定。

再利用でコスト削減

ロケット下部の 1 段目は打ち上げ地点から数百キロ離れた太平洋上に戻ってきて、海上の回収船に降り立つ計画だったが、途中でデータが得られなくなったため、状況は不明。 将来的には 1 段目を再利用して費用を削減することを想定している。 ニューグレンは全長約 98 メートル、直径 7 メートル。 米国人として初めて地球周回軌道に乗った宇宙飛行士ジョン・グレン氏にちなんで命名された。 ロケットの 1 段目は少なくとも 25 回の再利用を想定。 同社は「民間旅客機のように運用することで、廃棄物とコストを大幅に削減することにつながる」としている。

ニューグレンは高度数百キロの「低軌道」から、赤道上空約 3 万 6 千キロの「静止軌道」まで人工衛星を運ぶことができる。 ロケットを大型化することで、大量の衛星や大きな衛星を打ち上げられる利点がある。 同社はニューグレンを数機生産しているとし、アマゾンが数千機の人工衛星で通信サービスを提供する「プロジェクトカイパー」の衛星を軌道へ運ぶ予定のほか、米航空宇宙局 (NASA) や米宇宙軍などが顧客になるという。

開発競争の現状は

ブルーオリジンはすでにニューグレンよりも小型のロケット「ニューシェパード」を使い、乗客が一時的な無重力を体験できる「宇宙旅行」を商業化している。 昨年 11 月には 28 回目の飛行を成功させた。 ニューグレンの競合相手と目されているのは、米宇宙企業スペース X の「ファルコン 9」だ。 同社は世界のロケットの年間打ち上げ回数の大半を占めている。 ファルコン 9 は 1 段目を再利用した商業運用を実現し、国際宇宙ステーションへの有人飛行も定期的に続けている。 打ち上げ能力を強化したファルコンヘビーも商業運用しているほか、さらに世界最大のロケット「スターシップ(全長 121 メートル)」も開発中だ。

ブルーオリジンの大型ロケット開発で、スペース X の「1 強」となっているロケット打ち上げビジネスに一石を投じられるのかが注目される。 (ワシントン・合田禄、asahi = 1-16-25)


有人月面着陸は 2027 年に再延期 NASA 発表 「中国には先行」

再び人類の月面着陸をめざす「アルテミス計画」について、米航空宇宙局 (NASA) は 5 日、2026 年に予定していた有人月面着陸計画について、27 年半ばに先送りすると発表した。 再度、計画を後ろ倒しすることになるが、ビル・ネルソン長官は中国よりも早く月面に宇宙飛行士を送れると強調した。 NASA はすでに第 1 弾の「アルテミス 1」として、22 年 11 月に新たに開発したロケットで新型宇宙船オリオンの無人飛行試験を実施している。 NASA の今回の発表によると、「アルテミス 2」として、宇宙飛行士が搭乗する月周回飛行は25年から 26 年 4 月に、月面着陸を目指す「アルテミス 3」は 27 年半ばに遅らせるという。

日本人宇宙飛行士が月面着陸を目指す「アルテミス 4」については、これまでの 28 年という計画の変更は今回発表されていない。 NASA は今年 1 月、アルテミス 2 とアルテミス 3 の計画を約 1 年ほど遅らせると発表していた。 アルテミス 1 の試験で、宇宙船オリオンの耐熱壁の一部がはがれ落ちたためだった。 その後、耐熱壁は発生したガスを十分に逃がせず、素材の一部に亀裂が入って、割れてしまったことが原因だと突き止めたという。

大気圏に突入する際に宇宙船に生じる熱を軽減するため、軌道を変更し、宇宙船内の生命維持装置の電気系統に生じていた問題にも対処するため、さらなる時間が必要だと判断した。 日程については、もともと 28 年に月面着陸する予定だったが、トランプ前政権が 24 年に前倒ししたという経緯がある。 その後、バイデン政権下での NASA は、繰り返し、日程を後ろ倒しにしてきた。 ネルソン長官は 5 日の会見で「宇宙(開発)は難しい。 決断において宇宙飛行士の安全性は常に第一だ。」と理解を求めた。

一方で、ネルソン長官が何度も言及したのが中国との開発競争だ。 ネルソン氏は 27 年半ばという月面着陸の目標時期について「中国政府が公表している 30 年という(月面着陸の)方針を大幅に先行する」と強調した。 さらに、「月の南極域には水があるため大きな可能性を秘めた地域だ。 そこに我々の存在を確立する必要がある。 中国がそこにやって来て、『出て行け』とは言わせない」と述べた。 中国が南シナ海のほぼ全域に管轄権があると主張し、岩礁を埋め立てて滑走路を建設してきたことにも言及し、「月の重要な部分ではそのようにならないことを願う」と訴えた。 (ワシントン・合田禄、asahi = 12-6-24)


スペース X ロケット打ち上げ後、地上で「キャッチ」に初めて成功

米宇宙企業スペース X は 13 日、史上最大のロケット「スーパーヘビー」と宇宙船「スターシップ」の 5 回目の無人飛行試験を実施した。 今回はテキサス州から打ち上げたロケットを発射場に戻し、発射台に取り付けられたアームで「キャッチ」することに初めて成功。 ロケットの再利用に向け、大きく前進した。 ロケットと宇宙船は米中部時間 13 日午前 7 時半ごろ(日本時間 13 日午後 9 時半ごろ)、同社が拠点としているテキサス州ボカチカの「スターベース」で打ち上げられた。

スペース X の中継によると、打ち上げ後にロケットと宇宙船が切り離された。 ロケットは再び噴射し、進行方向を調整。 発射地点に戻ってくると、逆噴射をしてゆっくりと地上に近づき、発射台に取り付けられた「箸」のようなアームがロケットをつかまえた。 打ち上げられた宇宙船はその間、飛行を続けて宇宙空間に到達した後、再び地球に戻ってきて、エンジンを逆噴射し、インド洋の海面に着水した。 これらの試験はロケットと宇宙船の再利用をめざしたものだ。 多額の建造費がかかるロケットと宇宙船を再利用できれば、一度の打ち上げ費用を大幅に減らせる。

スペース X はすでに国際宇宙ステーションを往復する宇宙船や、その打ち上げのためのロケットの再利用に何度も成功している。 ただ、発射台のアームがロケットをキャッチするのはこれまでにない設計だ。 スターシップは月や火星への有人飛行を視野に開発されている。 地球周回軌道へ運べる荷物の重さが桁違いに大きく、大量の人工衛星を一度に打ち上げることもでき、宇宙産業に変革をもたらす可能性がある。 今回、その再利用のための試験に成功したことは大きな一歩となる。

さらに、注目されるのはスペース X の開発スピードの速さだ。 このロケットと宇宙船を組み合わせた初めての打ち上げは 2023 年 4 月。 その後、同年 11 月に 2 回目、今年に入ってからは 3 月、6 月、10 月と 3 回の試験を実施している。 これまではロケットが空中で爆発したり、宇宙船が大気圏で燃え尽きたりするなどしてきたが、それらを「失敗」とは捉えず、すぐに次の試験につなげている。 実業家の前沢友作さんは 18 年、この宇宙船で月を周回する旅行を同社と契約。 当初は 23 3年の予定だったが、宇宙船の完成の見通しが立たないとして、前沢さんは今年、計画を中止している。(ワシントン・合田禄、asahi = 10-13-24)


初の民間人ミッション達成、スペース X 搭乗の 4 人が地球に帰還

世界初の民間人による船外活動を成功させたスペース X のミッション「ポラリス・ドーン」の乗員 4 人が 15 日、地球に無事帰還した。 宇宙船「クルードラゴン」は現地時間の 15 日午前 3 時 37 分、米フロリダ州沖のメキシコ湾の海上にパラシュートで着水した。 今回のミッションでは 50 年の有人宇宙飛行史上で最も高い、地球から 1,400 キロの高度に到達。 12 日には民間の出資で実現させた初の船外活動に成功した。 5 日間のミッションを終えて大気圏に突入したクルードラゴンは、最大 1,900 度の高熱にさらされながら時速 2 万 7,000 キロの速度で下降した。 乗員は、幅約 4 メートルの宇宙船の下部にある熱シールドに守られていた。

徐々に減速した宇宙船は、パラシュートを展開し、さらに速度を落として着水。 近くで待機していたレスキュー隊が引き揚げて「ドラゴンの巣」と呼ばれる特製ボートに乗せ、最終的な安全確認を行った後に、乗員が宇宙船から降り立った。 ポラリス・ドーンのミッションには、米金融テクノロジー企業創業者のジャレッド・アイザックマン氏と同氏の友人で元米空軍パイロットのスコット・ポティート氏、スペース X のエンジニアを務める女性のアナ・メノン氏とサラ・ギリス氏が参加していた。 (CNN = 9-16-24)


ボーイング新型宇宙船、無人で地球に帰還  有人飛行試験は完遂できず

米航空機大手ボーイングが開発中の新型宇宙船「スターライナー」が米東部時間 7 日午前 0 時過ぎ、国際宇宙ステーション (ISS) から地球に帰還した。 宇宙飛行士 2 人を乗せて戻る計画だったが、推進装置などに問題が生じ、無人飛行に変更。 大きな事故はなかったものの、同社は初の有人飛行試験で当初の計画を完遂できなかった。

スターライナーは 6 日に ISS を出発し、大気圏に再突入した。 パラシュートを開き、米南西部のニューメキシコ州に無事に着陸した。 スターライナーは 6 月、米国の飛行士 2 人を乗せて地球から ISS へ出発。 約 1 週間滞在し、2 人を乗せて地球に戻る予定だった。 しかし、ISS への飛行中にヘリウム漏れや推進装置の問題が確認されたため、滞在期間を延ばして対応を検討。 米航空宇宙局 (NASA) は 8 月下旬、安全を重視して 2 人を米宇宙企業スペース X の宇宙船で帰還させ、スターライナーは無人で戻すことを決めた。 (asahi = 9-7-24)

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ボーイング宇宙船、飛行士乗せずに地球帰還へ 問題発生で安全性懸念

米航空宇宙局 (NASA) は 24 日、米航空大手ボーイングの新型宇宙船「スターライナー」で国際宇宙ステーション (ISS) から地球に戻る予定だった宇宙飛行士 2 人について、別の宇宙船で帰還するよう、計画を変更すると発表した。 スターライナーに問題が発生して安全が確保できないためで、2 人は米宇宙企業スペース X の宇宙船に乗って、来年 2 月に地球へ戻ることになる。

2 人の飛行士はボーイングとして初めての有人飛行試験で 6 月、ISS に到着した。 当初は ISS に約 1 週間滞在する予定だったが、スターライナーの飛行中にヘリウム漏れや推進装置の問題が確認されたため、滞在期間を延長して対応が検討されてきた。 NASA のビル・ネルソン長官は 24 日の会見で、過去に 2 回のスペースシャトルの事故で宇宙飛行士の命が失われたことを振り返り、「私たちが過去に犯した過ちがあるという文脈でこの議論が行われていることを忘れてはならない」と述べ、 今回の決定では飛行士の安全を重要視したことを強調した。

帰還のために 2 席を確保

結果的に、スターライナーは飛行士を乗せずに、9 月始めに地球に戻る。 一方、予定を延長して ISS に滞在している米国人宇宙飛行士 2 人は来年 2 月にスペース X の宇宙船「ドラゴン」で帰還する。 約 1 週間だった ISS 滞在予定は、約 8 8カ月に延びることになる。 ドラゴンは定期的に地球と ISS の間を往復しており、次は 9 月下旬に地球を出発し、ISS に約半年間滞在した後、地球に帰還する予定になっている。 打ち上げの際には、4 人の飛行士が搭乗する予定だったが、スターライナーでISS に到着した 2 人を帰還させるため、ドラゴンに搭乗する飛行士 は 2 人に減らす。

ボーイングは航空機の製造開発で、飛行中の小型機の胴体側面のパネルが脱落したり、中型機の検査記録を改ざんした疑いが生じたりと数々の問題を抱えている。 宇宙開発は異なる部署が担当しているが、有人宇宙開発がうまくいかなければ会社全体が受ける影響も大きい。 スターライナーの打ち上げ時には、多くの幹部が現地に詰めかけていた。 スターライナーは 6 月、米フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられた。 様々な不具合があり、打ち上げ直前に延期が繰り返されたり、ISS への到着が 1 時間以上遅れたりしたが、飛行士 2 人を無事に ISS に届けた。

2 人は ISS に滞在した後、米西部の米軍施設にパラシュートで着陸して地球に戻る予定だった。 ボーイングは今回の有人飛行試験がすべてうまくいけば、本格的な運航を始めることを見込んでいたが、誤算となった。 (ワシントン・合田禄、asahi = 8-25-24)


月の地下洞窟を発見か 深い縦穴を分析、有人基地の一等地として有望

巨大な地下洞窟が月面に存在する - -。 イタリアなどの研究チームが 15 日、月の縦穴をレーダー分析した結果を科学誌ネイチャー・アストロノミーに発表した(https://doi.org/10.1038/s41550-024-02302-y)。 テニスコートが 5 面すっぽり入るほどの広さで、将来の月面基地の場として有望だという。 日本の月周回衛星「かぐや」などの観測により、月面には 200 以上の深い縦穴が存在することが分かっている。 一部は地下に洞窟が広がっているとみられるが、存在は確認されていない。

地下深くに隠された巨大空間

トレント大のロレンツォ・ブルツォーネ教授らは、月面の「静かの海」にある縦穴(直径約 100 メートル)に注目した。 米月周回衛星 LRO のレーダー画像を分析したところ、縦穴の西側で反射する電波の輝度が明るくなっていることがわかった。 これが、穴の西側に洞窟が延びている証拠だという。 縦穴に斜めに入射した電波が、洞窟内の床や天井で反射して戻ってきた結果だとし、洞窟を仮定したシミュレーション結果も観測データをよく再現できたという。 洞窟は深さ 130 - 170 メートルの地下にあり、幅 45 メートル、長さ 30 - 80 メートルと研究チームは推測。 洞窟内の底は斜面になっている可能性もあるらしい。 洞窟は、かつて溶岩が流れた名残という。 表面が冷えて固まった後も、地下の溶岩は冷えずに流れ続け、その通り道が洞窟になった。 洞窟の一部が崩落して縦穴ができ、入り口が生まれたようだ。

寒暖差 300 度、強い放射線から守る自然のシェルター

月で快適に暮らすには、洞窟は「一等地」とブルツォーネ教授は指摘する。 月表面は、昼と夜の寒暖差が約 300 度あり、空気がないため地球の 150 倍も強い放射線にさらされ、小さな隕石(いんせき)も時々落ちてくる過酷な環境だ。 一方、洞窟内なら温度は安定。 放射線は弱く、隕石の破片も届かない。 シェルターの役割をするため、将来の月面基地に有望。 氷の状態で水も存在するかもしれない。 ただ穴が深いため、安全に下りていく設備が必要だという。 今回調べた縦穴は、米アポロ 11 号が 1969 年 7 月 20 日、世界で初めて有人着陸したエリア。 あれから 55 年。 ブルツォーネ教授は「月の洞窟は 50 年以上謎のままだったが、ついに存在を証明できてエキサイティングです」と取材に答えた。 (石倉徹也、asahi = 7-16-24)


「スターシップ」初の地球帰還 4 度目の正直 スペース X 宇宙船

イーロン・マスク氏が創業した米宇宙企業スペース X は米中部時間 6 日朝(日本時間 6 日夜)、テキサス州で史上最大のロケットと宇宙船「スターシップ」を打ち上げた。 今回は 4 回目の無人飛行試験。 スターシップはロケットから切り離されて宇宙空間に達した。 打ち上げから約 1 時間後に、地球に戻ってインド洋に着水した。

スターシップは同社が拠点としているテキサス州ボカチカの「スターベース」で打ち上げられた。 スペース X の中継によると、打ち上げから約 3 分後にロケットとスターシップを切り離した。 ロケットは今後の再利用のため、エンジンを逆噴射して海面に着水した。  宙空間に到達した宇宙船スターシップは、再び大気圏に突入。中継映像では機体の一部が燃える場面もあったが、宇宙船は地球へ帰還し、エンジンを逆噴射してインド洋に着水した。

スペース X の公式 X (旧ツイッター)は「着水確認。 スペース X のチーム全員へ、スターシップのエキサイティングな 4 回目の飛行試験おめでとう!」と投稿した。 これまでの 3 回の試験も同様の飛行計画だったが、すべて爆発したり、大気圏で燃え尽きたりして機体は失われている。 スターシップは米航空宇宙局 (NASA) が再び月面着陸を目指す「アルテミス計画」で着陸船に選定され、火星への有人飛行も視野に開発されている。 月や火星に行くだけでなく、地球周回軌道へ運べる荷物の重さが桁違いに大きく、大量の人工衛星を一度に打ち上げるなど宇宙産業に変革をもたらす可能性がある。 (ワシントン・合田禄,、asahi = 6-7-24)


米ボーイングの新型有人宇宙船打ち上げ スペース X に続き民間 2 社目

米航空宇宙局 (NASA) の宇宙飛行士 2 人を乗せた米航空大手ボーイングの新型宇宙船が 5 日、米フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられた。 初の有人飛行で、約 25 時間半後に国際宇宙ステーション (ISS) に到着する予定。 米国は ISS への飛行士の輸送手段を 2 種類、確保することになる。 新型宇宙船「スターライナー」は米東部時間 5 日午前 10 時 50 分ごろ(日本時間 5 日午後 11 時 50 分ごろ)、アトラス V ロケットで打ち上げられた。 約 30 分後、地球を周回する軌道に入った。 今回の主な目的は有人宇宙船としての機能の確認。

生命維持装置や ISS にドッキングするシステムがきちんと動くかを検証する。 ISS に約 1 週間滞在した後、地球に戻り、米西部の米軍施設にパラシュートで着陸する計画だ。 今回の有人飛行試験は当初、5 月初旬に実施される予定だったが、直前にロケットで問題が発生して延期となった。 その後、宇宙船からヘリウムが漏れていることも判明し、安全性の再評価のために打ち上げが約 1 カ月遅れた。 NASA は 2011 年にスペースシャトルが退役して以降、ISS に宇宙飛行士を運ぶ有人宇宙船の開発を民間企業に委ねてきた。 起業家のイーロン・マスク氏が設立した宇宙企業スペース X に続き、有人宇宙船の打ち上げはボーイングが 2 社目となる。

NASA のビル・ネルソン長官は 5 日の打ち上げ後の会見で、NASA の有人宇宙船の開発は、マーキュリー、ジェミニ、アポロ、スペースシャトル、ドラゴンに次ぐ、6 代目になることに言及。 「いまはドラゴンとスターライナーによって、我々は独自の有人宇宙輸送システムを二つ持つことになる。 宇宙飛行士にとってより安全なバックアップは常に持っていたい」と開発の意義を語った。 NASA がスペースシャトルの後継となる宇宙船開発をめざし、ボーイングとスペース X の 2 社と契約を結んだのは 14 年。 ボーイングに最大 42 億ドル(約 6,500 億円)、スペース X に対しては最大 26 億ドル(約 4 千億円)を開発費として提供する内容だった。

ボーイングに先駆け、スペース X は 20 年に宇宙船「ドラゴン」で有人飛行に成功。 本格運用に入り、すでに 8 回、ISS へ宇宙飛行士を送り届けている。 事故は起こしていない。 スペースシャトルの退役後、米国は ISS への飛行士の輸送をロシアの有人宇宙船「ソユーズ」に頼ってきた。 スペース X の成功で、自前の手段を確保したうえ、追加の輸送手段も手に入れることになる。 ロシアとの外交関係で問題が起きても、地球周回軌道上へのアクセスで自前の代替手段を準備しやすくなるため、安全保障上も重要な意味を持つ。

有人宇宙船の開発技術を持つ中国も近年、独自に建設した宇宙ステーション「天宮」を本格的に運用し、宇宙飛行士の滞在を繰り返している。 現在、地球周回軌道への有人飛行に成功しているのはロシア、米国、中国の 3 カ国。 国の機関が直接開発してきたロシアや中国とは違い、米国では民間企業が主体となっている。 米国が見据えるのは、宇宙の商業利用の活性化だ。 ISS は 30 年に運用を終える見通しで、その後は民間企業が宇宙ステーションを建設するなど、地球周回軌道では商業活動がメインになると見込まれている。 その際の基幹技術として、スペース X やボーイングの宇宙船の活用が期待されている。

一方で、NASA が力を入れるのは月や火星の探査だ。 アポロ計画以来、再び人類の月面着陸をめざす「アルテミス計画」では、新型ロケット SLS と宇宙船オリオンを開発。 22 年に月を周回する無人試験飛行を成功させた。 25 年には宇宙飛行士が搭乗して月周回飛行、26 年には宇宙飛行士の月面着陸を予定している。(ケネディ宇宙センター〈フロリダ州〉・合田禄、asahi - 6-6-24)


地球から 240 億キロ、ボイジャー 1 号システム復旧に成功 5 カ月ぶりに解読可能データ受信

地球から最も遠い宇宙空間を飛行する米航空宇宙局 (NASA) の探査機「ボイジャー 1 号」から、5 カ月ぶりに解読可能なデータが地球に届いた。 NASA のチームが試行錯誤を繰り返し、通信問題を引き起こした原因が 1 個のチップにあることを突き止めて、解決策を編み出した結果だった。 ボイジャー 1 号は現在、地球から 240 億キロメートル離れた宇宙空間を飛行中。 打ち上げから 46 年を経て、さまざまな不具合や老朽化の兆候が見えている。

今回の問題は 2023 年 11 月に発生。 飛行データシステムの遠隔測定モジュールから送られてくるデータが解読不可能になった。 ボイジャー 1 号の飛行データシステムは、現在の健康状態を表す工学データを科学計器の情報と組み合わせて収集している。  地球上の管制室はそのデータを、0 と 1 で構成される 2 進コードで受信する。 ところが 11 月以来、この飛行データシステムがループ状態に陥り、無線信号は定期的に届くものの、利用可能なデータが含まれない状態になっていた。

ボイジャー 1 号の健康状態と現状に関する解析可能なデータが 5 カ月ぶりに受信できたのは今月 20 日。 この情報については今も解析を続けているが、これまでのところ、ボイジャー 1 号は健康な状態にあり、正常に作動している様子だという。 NASA ジェット推進研究所のリンダ・スピルカー氏は同日、「今日はボイジャー 1 号にとって素晴らしい日になった」と発表し、「通信が復旧した。 科学データを取り戻すことを楽しみにしている。」とコメントした。

240 億キロ離れたトラブルシューティング

ボイジャー 1 号の問題が 1 つのチップに起因することを突き止めた NASA のチームは、コマンドを送ってコンピューターシステムの再起動を試み、根本原因を探ろうとした。 3 月 1 日にコマンドを送ったところ、同月 3 日になって、飛行データシステムの一部に、解読不能なデータとは違う挙動があることを発見。この信号は、飛行データシステムが正常に機能しているかどうかを判断するために使っていたそれまでの形式ではなかったものの、NASAのディープスペースネットワークで解読することに成功した。

この内容を調べた結果、問題の原因が判明。 飛行データシステムのメモリの 3% が破損していたことが分かった。 システムのメモリの一部を保存していたチップが、同コンピューターのソフトウェアコードの一部も含めて正常に作動していなかった。 チップの不具合の原因は不明だが、劣化した可能性や、宇宙空間からのエネルギー粒子が衝突した可能性が考えられるという。 科学データと工学データの解読ができなくなったのは、このチップに保存されていたコードの損失が原因だった。

このチップを修理する手段がなかったことから、同チームはこのチップに保存されていたコードを同システムのメモリの別の場所に移すことにした。 全てのコードを保存できる区画は見つけることができなかったが、コードをセクシ ョンに分割して、それぞれ飛行データシステムの別々の場所に保存することに成功した。 計画を進行させるためには、こうしたコードのセクションが引き続き全体として機能することなどを確認する調整作業が必要だったと NASA は説明する。 飛行データシステムのメモリの別の部分で問題のコードの場所を参照している箇所も更新する必要があった。

ボイジャー1号の工学データのパッケージ化に必要なコードを見極めた技術者は、同システムのメモリの新しい場所を指し示すコードを 4 月 18 日に送信。 この信号がボイジャー 1 号に届くまでに約 22.5 時間、地球に反応が戻ってくるまでにさらに 22.5 時間を要した。 20 日、ボイジャー 1 号から届いた反応は、コードの修正が成功し、再び解読可能なデータを受信できる状態になったことを表していた。 その瞬間、NASA のジェット推進研究所は拍手と歓声に包まれた。

今後も同システムのソフトウェアの問題が起きた部分を別の場所に移す作業を継続し、数週間後には科学データを受信できる見通し。 「ボイジャーにこれから何が起きるかは分からない。 それでも飛行を続けて私たちを驚かせ続けている。」 「数多くの異常が発生して次第に困難になっている。 それでもこれまでのところ、幸運にも復旧できた。 ミッションは続く。 若いエンジニアがボイジャーチームに加わってその知識を生かし、ミッションを継続させている。」 ボイジャーのプロジェクトマネジャー、スザンヌ・ドッド氏はそうコメントしている。 (CNN = 4-23-24)


国際宇宙ステーションのゴミ? フロリダの家屋直撃か、NASA 調査

国際宇宙ステーション (ISS) から落下し、米フロリダ州の家屋に直撃した可能性がある金属片について、米航空宇宙局 (NASA) が回収して調査していることを明らかにした。 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が ISS に物資を運んできた補給機「こうのとり (HTV)」の部品の可能性もある。 フロリダ州の地元テレビ局によると、同州南部ネープルズで 3 月 8 日、上空から落ちてきた金属片が住宅の屋根を突き破り、床板も破壊したという。 金属片は空き缶より一回りほど小さいサイズだった。

この金属片が ISS から落下した部品ではないかと疑われている。 NASA は 2021 年 3 月、ISS で使って古くなったバッテリーを積んだ JAXA の荷物台を、大気圏に突入させるために放出した。  重さは約 2.9 トン。 NASA は当時、「地球の軌道を 2 - 4 年周回し、害を与えることなく大気圏で燃え尽きる」としていた。 一方、欧州宇宙機関 (ESA) は今年3月の大気圏への突入の際、「ほとんどは燃え尽きる可能性があるが、一部の部品が地上に到達するかもしれない。 ただ、死傷者が出るリスクは非常に低い。」としていた。

責任はどこに

もし、フロリダ州の家屋に落ちた金属片が、ISS からの物体だった場合、損害に対する責任を誰が負うことになるのかも注目されている。 科学技術のニュースサイト「アーズ・テクニカ」は、もし NASA の所有物であれば、住宅の所有者は連邦政府に損害賠償を請求できるが、他国に関係するものであれば、その国が責任を負うことになる、という宇宙法の専門家の見解を紹介している。 NASA の広報担当者は朝日新聞の取材に、この部品をすでに回収したことを明らかにした。 そのうえで「何に由来するものなのかを調べるため、フロリダ州のケネディ宇宙センターでできるだけ早く分析する」とした。 (ワシントン・合田禄、asahi = 4-3-24)


スペース X の新型ロケット、3 回目の試験打ち上げ 宇宙空間に到達

イーロン・マスク氏が創業した米宇宙企業スペース X は米中部時間 14 日朝(日本時間 14 日夜)、テキサス州南部で、史上最大のロケットと無人の宇宙船「スターシップ」を打ち上げた。 スターシップは宇宙空間に到達後、大気圏に再突入し、地球への帰還を試みたが、交信が途絶えた。 今回は 3 回目の試験で、過去 2 回は打ち上げ後に爆発していた。 スペース X の中継によると、打ち上げから 3 分弱後にロケットとスターシップを切り離した。 スターシップは宇宙空間に到達し、積み荷を降ろすためのドアを開けるテストや、将来的な宇宙空間での燃料補給のための試験を実施した。

再びエンジンを点火する予定だったが、実施されなかった。 その後、大気圏に突入したが、交信が途絶えた。 スペース X の技術者はスターシップが「失われた」と明らかにした。 計画では、打ち上げから約 1 時間後にインド洋に着水することになっていた。 それでも、スペース X は「信じられないほど(開発は)前進した」と評価。 中継映像には「おめでとう、スペース X のチーム」と表示された。 これまでに 2 回の打ち上げ試験があったが、いずれも爆発した。 約 1 年前の 2023 年 4 月の 1 回目の試験では、39 キロの高さまで到達したが、複数のエンジンが停止して回転し、スターシップとロケットの両方に機体を破壊させる信号が出された。

将来は月面着陸も

打ち上げから約 4 分後に大きな炎と煙を上げて爆発した。 2 回目となった 23 年 11 月の試験では、打ち上げから約 3 分後、スターシップはエンジンを点火してロケットから分離することに成功。 ただ、海上に着水する予定だったロケットは空中で爆発した。 また、打ち上げられたスターシップはロケットから切り離されて宇宙空間に出たが、その後に爆発した。 米航空宇宙局 (NASA) はアルテミス計画での月面着陸用の宇宙船にスターシップを選定している。

今年 1 月、月面着陸の予定が 26 年に延期されることが発表された。 スターシップの開発の進行状況も重要だが、宇宙飛行士が乗る NASA の宇宙船オリオンの開発でも問題が生じている。 スペース X はロケット「ファルコン 9」をすでに商業運用していて、国際宇宙ステーションに宇宙飛行士を運んだり、人工衛星を打ち上げたりしている。 スターシップは火星への有人飛行も視野に開発されているほか、運べる重さが桁違いに大きいため、大量の人工衛星を一度に打ち上げるなど宇宙産業に変革をもたらす可能性がある。 (ワシントン = 合田禄、asahi = 3-15-24)

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スペース X 社、「スターシップ」打ち上げ … 宇宙空間到達後に信号途絶し停止か

【ワシントン = 冨山優介】 実業家のイーロン・マスク氏が率いる米スペース X 社は 18 日午前 8 時頃(日本時間 18 日午後 10 時頃)、開発中の大型宇宙船「スターシップ」を米テキサス州の施設から打ち上げた。 2 回目となる無人の試験で、スターシップは高度 100 キロ・メートル超の宇宙空間へ到達した。 その後、信号が途絶するトラブルが発生、同社は飛行停止システムが作動したとみられると明らかにした。

スターシップは高さ 50 メートル。 同社のロケット「スーパーヘビー」に搭載した状態では、合わせて高さ約 120 メートルにも達する。 100 人が搭乗可能で、マスク氏は構想する将来の火星移住計画のために開発を進める。 また、米国主導の有人月探査「アルテミス計画」で月への着陸船として使用するほか、実業家の前沢友作氏 (47) らが参加する月周回旅行でも搭乗船として使われる予定だ。

ただ 4 月の最初の試験では打ち上げ直後に爆発して失敗。 開発は遅れており、前沢氏は今月上旬、目標としていた月周回旅行の年内実施を断念すると表明した。 アルテミス計画で、スターシップに乗った米国の宇宙飛行士が 2025 年 12 月に月面へ降り立つ目標も実現が危ぶまれている。 (yomiuiri = 11-18-23)

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世界最大ロケット、試験飛行中に爆発 スペース X の「スターシップ」

米テキサス州で 20 日、米宇宙開発企業スペース X が打ち上げた世界最大のロケットが、試験飛行中に爆発した。 世界最大のロケットを用いた宇宙船システム「スターシップは午前 8 時 33 分(日本時間午後 10 時 33 分)、テキサス州ボカチカにある同社施設「スターベース」からの打ち上げに成功。 宇宙船は飛行開始から 3 分後に第 1 段ロケットブースターから切り離される予定だったが、切り離しは失敗し、ロケットが爆発した。

今回の試験飛行は、宇宙船「スターシップ」と第 1 段ブースターロケット「スーパーヘビー」を組み合わせたものとしては初めてだった。 飛行は完了できなかった形だが、スペース X は試験の成功を宣言。 イーロン・マスク最高経営責任者 (EO) はツイッターへの投稿で、自社のチームをたたえ、「数か月後に行う次回の打ち上げ試験に向け、多くを学んだ」と表明した。 (AFP/時事 = 4-20-23)

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スペース X 「スターシップ」、試験打ち上げ延期

[ボカチカ(米テキサス州)] 米実業家イーロン・マスク氏率いる宇宙企業スペース X は 17 日、同日に予定されていた宇宙船「スターシップ」の試験打ち上げを延期した。 その後、20 日の再打ち上げを目指して取り組んでいるとツイッターに投稿した。 スペース X は打ち上げのカウントダウンの最終段階で、機体下部の「スーパーヘビー」と呼ばれるロケットブースターの加圧バルブ凍結を理由に、少なくとも 48 時間打ち上げを延期すると発表した。

スターシップは月や火星などへの有人飛行を目指す再利用可能なロケットとして注目されている。 打ち上げ後に切り離されるスーパーヘビーと共に地球に帰還し、無傷で着陸するように設計されている。 無人で行われる試験打ち上げでは、スターシップが地球をほぼ 1 周後、大気圏に再突入して太平洋上に着水し、スーパーヘビーはメキシコ湾の海面に着水する計画で、どちらも機体を回収できない見込み。 (Reuters = 4-18-23)