古川聡宇宙飛行士が地球に帰還 ISS に半年以上滞在、日本人最年長

国際宇宙ステーション (ISS) に滞在していた宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の古川聡飛行士 (59) ら 4 人が乗った米スペース X 社の宇宙船ドラゴンが米東部時間 12 日朝(日本時間 12 日夜)、地球に帰還した。 古川さんは昨年 8 月下旬、上空約 400 キロの軌道を回る ISS に到着。 半年以上にわたり、日本の実験棟「きぼう」での技術実証や超小型衛星の放出などに取り組んできた。

古川さんらが乗った宇宙船は 11 日に ISS から分離し、12 日早朝に大気圏に再突入。 パラシュートを開いて米フロリダ沖に着水した。 NASA (米航空宇宙局)の中継映像では、宇宙船から出てきた古川さんが手を振る姿が見られた。 59 歳での宇宙飛行は、若田光一さんに並ぶ日本人最年長記録となった。 古川さんは 2023 年 1 月、責任者を務めた研究でデータの捏造や改ざんがあり、戒告処分を受けていた。 スペース X の有人飛行は、本格運用開始から 7 回目で一度も失敗していない。 (ワシントン = 合田禄、asahi = 3-12-24)

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スペース X 「ファルコン 9」打ち上げ 米ロの宇宙飛行士 4 人を ISS に

米宇宙開発企業スペース X の「ファルコン 9」ロケットが 3 日午後 10 時 53 分(日本時間 4 日午後 12 時 53 分)、米国人 3 人とロシア人 1 人の宇宙飛行士を乗せ、米フロリダ州ケネディ宇宙センターから国際宇宙ステーションへ向けて打ち上げられた。 米航空宇宙局の有人宇宙飛行ミッション「クルー 8」の 4 人を乗せたクルードラゴン宇宙船「エンデバー」は、打ち上げから約 9 分後に ISS とのドッキングに向けて軌道に投入された。 実業家イーロン・マスク氏のスペース X は、これまで 4 回にわたりエンデバーを打ち上げている。

男性 3 人女性 1 人のクルー 4 人は今後、ISS での半年間のミッションに臨む。 2022 年にロシアがウクライナ侵攻を開始して以降、宇宙研究は米国とロシアとが協力関係を維持している数少ない分野となっている。 (AFP/時事 = 3-4-24)


米宇宙企業の着陸船「オデッセウス」月面着陸に成功 民間企業として世界初

アメリカの宇宙企業が打ち上げた無人の月着陸船が、民間企業として世界で初めて月面着陸に成功しました。 こちらは日本時間午前 8 時半ごろの映像です。 アメリカの民間宇宙企業「インテュイティブ・マシーンズ」が 15 日に打ち上げた無人の月着陸船「オデッセウス」が、月の南極付近に着陸しました。 月面への着陸に成功したのは、民間企業として世界で初めての快挙です。 今回の打ち上げは、月への物資の輸送を民間企業が担う、NASA の事業の一環として行われました。 月の南極付近では多くの氷が採掘できるとみられるなど関心が集まっていて、宇宙の商業利用の拡大に向けてその動向に大きな注目が集まっていました。 (テレ朝 = 2-23-24)


「氷の星」に謎の海が存在か 土星に最も近い衛星ミマスを観測

土星の衛星ミマスを覆う分厚い氷の下に海が広がっている可能性が大きいことを、仏パリ天文台など仏英中の研究チームが、科学誌ネイチャーに発表した。 太陽系の長い歴史の中では、海ができたのはごく最近とみられる。 ミマスは直径400キロの小さな衛星で、土星に最も近い軌道を公転している。 18 世紀後半、英国の天文学者 ウィリアム・ハーシェルが発見した。 表面には無数のクレーターがあり、直径 130 キロの巨大クレーター「ハーシェル」が特徴だ。

土星の衛星エンケラドスや木星の衛星エウロパも氷で覆われ、その下に海が広がっているとみられる。 ただ、ミマスの氷の下に岩石があるのか、海が広がっているのかは不明だった。 研究チームは、米航空宇宙局 (NASA) の探査機カッシーニが観測したミマスの公転や自転のデータを詳しく分析。 氷の下に海が広がっている可能性が大きいと判断した。 表面を覆う氷の下の深さ 20 - 30 キロのところにあるという。 海ができたのは 2,500 万 - 200 万年前と推定される。 約 46 億年の太陽系の歴史の中では、ごく最近だ。 さらに詳しくミマスを研究することで、氷でできた天体のなりたちを知る手がかりが得られるという。 ウェブサイトに論文 が掲載されている。 (村山知博、asahi = 2-10-24)


米宇宙開発庁、ミサイル追跡衛星を 3,700 億円で契約 - 54 機が赤外線で追跡

米宇宙開発庁 (Space Development Agency : SDA) は米国時間 1 月 16 日、ミサイル追跡衛星の製造・運用で L3Harris Technologies、Lockheed Martin、Sierra Space の 3 社と 25 億ドル(約 3,700 億円)相当の契約を結んだと発表した。 今回の契約では、極超音速ミサイルを飛行の全段階で追跡できる赤外線センサーを搭載した、54 機の衛星が製造される。 これは SDA の「Tranche 2 Tracking Layer」として、高度 1,000 キロの低軌道で衛星ネットワークを形成する。

L3Harris と Lockheed Martin は、SDA のコンステレーションの他の部分で複数の契約を獲得している。 Sierra Space にとって、これが SDA との初の契約であり、米軍向け衛星の製造という意味でも初めてとなる。 SDA 長官を務める Derek Tournear 氏は、「L3Harris や Lockheed Martin と Tranche 2 の作業を続ける中でプライムベンダーとして Sierra Space を新たに迎えることを嬉しく思う」と語った。 SDA は米国防総省傘下の組織だったが、2022 年 10 月に米宇宙軍に編入された。 2019 年に設立された組織で、商業宇宙技術の支援を目的としている。 (UchuBiz = 1-17-24)


推進剤漏れで月着陸断念の探査機「Peregrine」、月軌道にたどり着く
 18 日ごろには地球大気圏に再突入へ

民間初の月面着陸を目指し、1 月 8 日に打ち上げられた米 Astrobotic の「Peregrine」は、打ち上げ直後に推進剤まわりのトラブルのため、予定していた月面着陸を断念せざるを得ない状況に追い込まれた。 しかし、Astrobotic の運用チームは、可能な限り科学的観測やデータ収集といった運用を継続することを決め、少しでも月に近づけるよう努力するとした。

そして 1 月 12 日、Astrobotic は Peregrine が地球から約 38.3 万km の距離、つまり月が地球を周回する軌道がある距離にまで到達したことを明らかにした。 ただし、Peregrineのいる場所には月はない。 Peregrine の月着陸は、一度月の公転軌道まで到達した後、旋回していったん地球にもどり、次に月軌道に到達するときに着陸するという算段だったからだ。

しかし、漏れが発生してしまった推進剤は、15 日にも枯渇する見込みであり、月着陸を行うことはできない。 チームは Peregrine の姿勢を安定的に保ち、すべてのアクティブな機器を使って科学データの収集を続けているが、月着陸船は 1 月 18 日ごろに地球の大気圏に落下して燃え尽きることになるという。 そのため Astrobotic は現在、NASA と協力して着陸再突入経路の更新と評価を継続中だ。

これは NASA や米国政府との協議によって、地球と月周辺のデブリを増やさないようにするための方針でもある。 もちろん民間企業による商業宇宙ミッションであるため、最終決定は Astrobotic が下すことになるが、Astrobotic は「すべての人のため、月 - 地球空間の未来を守るために、自分たちの役割を果たす」としている。 これまでの間に、チームは200 ミリ秒というわずかな時間だけ推進試験を実施、メインエンジンは推進能力を発揮できる可能性があることを示すデータを取得した。ただしトラブルのせいで燃料と推進剤の比率が異常値を示しており、長時間の燃焼を制御を保って行うことは困難だという。 それでも、わずかに残る推進剤で太陽光パネルの向きを最適に保つことはできている。

Astrobotic の CEO であるジョン・ソーントン氏は「われわれのチームがこのミッションで達成したことをとても誇りに思う。 推進異常が発生した後、宇宙船の能力を回復、運用するために多大な課題を克服したミッション管制チームの英雄的な努力を直接目撃できたことは大変光栄なことだった。 1 月 18 日にミッションが終了した後、これらの、そしてさらに注目に値するストーリーを共有できることを楽しみにしている。 われわれはこのミッションからすでに多くの学びを得ている。 そして次の月へのミッションで月への軟着陸を達成するという大きな自信が得られた」とミッションの上方アップデートにコメントを寄せた。 (Gadget Gate = 1-15-24)

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半世紀ぶりの米国の月面着陸機、打ち上げ数時間でいきなり「重大」な不具合

米国は約 50 年ぶりの月面着陸を試みようとしており、現地時間 1 月 8 日午前 2 時過ぎに宇宙船を打ち上げた。 しかし、この月面着陸機を設計した民間宇宙企業は、打ち上げの数時間後に重大な技術的不具合を発表し、2 月末に予定されている月面着陸の成否が危ぶまれている。 ピッツバーグを拠点とする宇宙企業アストロボティックが設計した月着陸機 Peregrine1 (ペレグリン 1)は、月面を探査するための 6 つの NASA のペイロード(貨物)を搭載している。

アストロボティックは、このミッションに関する最新のアップデートで、着陸機の推進システム(着陸船を前進させる役割を担う機器)の故障が、推進剤の重大なロスを引き起こしていると述べた。 同社のチームは推進剤の問題を解決しようとしているが、現状では収集可能な科学データを最大化することを優先し、「どのような代替ミッションが実行可能かを評価している」と述べた。

アストロボティックによると、ペレグリン 1 は、太陽光パネルの向きを安定させることができず、バッテリーを消耗させており、その原因が「推進力の異常にある可能性が高い」という。 これが事実であれば、「探査機が月に軟着陸する能力が脅かされることになる」と同社は述べている。 同社とペレグリン 1 との通信は一時的に途絶えたが、後に復旧し、チームは太陽光パネルの向きを変えてバッテリーを充電できるようにしつつ、推進システムの問題の評価にあたっている。

ペレグリン 1 は、ボーイングとロッキード・マーチンのユナイテッド・ローンチ・アライアンスによって設計された新型ロケット「バルカン」によって、ケープカナベラルから打ち上げられた。 この着陸機は、NASA がアストロボティックに 1 億 800 万ドル(約 155 億円)を支払って搭載したペイロードと、米国内外の団体からのその他のペイロードを搭載している。 このミッションは、今後も継続された場合、2 月 23 日頃の月面着陸を予定している。 米国が最後に月探査を行ったのは、1972 年のアポロ 17 号のミッションだった。 (Britney Nguyen、Forbes = 1-9-24)

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ULA、新型ロケット「ヴァルカン」初号機打ち上げ 月着陸船ペレグリンの分離に成功

ユナイッテド・ローンチ・アライアンス(ULA)は日本時間2024年1月8日に「Vulcan(ヴァルカン、バルカン)」ロケットの初打ち上げを実施しました。搭載されていたアメリカの民間企業アストロボティックの月着陸船「Peregrine(ペレグリン)」の分離に成功したことをULAが報告しています。

打ち上げに関する情報は以下の通りです。

■ 打ち上げ : Vulcan VC2S (Cert-1、初飛行) / 時間 : 日本時間 2024 年 1 月 8 日 16 時 18 分 / 場所 : ケープカナベラル宇宙軍基地(アメリカ) / ペイロード : ペレグリンほか

ヴァルカンは ULA が開発した新型ロケットで、1 段目にはブルー・オリジンが開発した「BE-4」エンジンを 2 基、2 段目「Centaur(セントール)」には 1960 年代から改良を重ねつつ使用されている「RL-10」エンジンを 2 基搭載しています。 初号機による今回のミッションは「Certification-1(Cert-1)」と呼ばれており、アストロボティックの月着陸船ペレグリンと、宇宙葬を手掛けるアメリカの企業セレスティスのペイロード(遺骨や遺髪など)が搭載されました。

日本時間 2024 年 1 月 8 日 16 時 18 分(米国東部標準時同日 2 時 18 分)に打ち上げられたヴァルカン初号機は、発射から約 50 分後の日本時間同日 17 時 8 分頃にセントールからペレグリンを分離し、月へ向かう軌道に投入しました。 また、セレスティスのペイロードが固定されたセントールは深宇宙に向けて飛行を続けており、日本時間同日 17 時 10 分の時点で Cert-1 ミッションは継続中です。 (Sorae = 1-8-24)


猫動画、深宇宙からレーザー送信成功 「速っ」 NASA 担当者も驚き

米国の探査機が宇宙のかなたから、レーザー通信を使って 3,100 万キロ離れた地球へ動画を送信することに成功した。 米航空宇宙局 (NASA) が発表した。 届いたのは、テイターズという名の猫動画だった。 動画は約 15 秒。 茶色の猫がレーザーポインターの赤い光を追いかけながらソファの上で遊び回っている映像で、「THIS IS A TEST」の文字や探査機の軌道も見える。

距離 3,100 万キロ、2 分足らずで

送信したのは、10 月に打ち上げられた小惑星探査機「サイキ」。 今月 11 日、地球と月の距離の約 80 倍にあたる約 3,100 万キロ先の地点から、深宇宙光通信の実験として送信を試みた。 レーザーを使い、267Mbps (メガビット/秒) の通信速度で送信されたデータは、101 秒かかって米カリフォルニア州の望遠鏡に到着。 NASA ジェット推進研究所でライブ再生され、成功が確認された。 「何百万マイルも離れた場所から送信しているのに、ほとんどの高速インターネット接続よりも速かった」と NASA の担当者も驚くほどだったという。

なぜ、じゃれる猫だったのか

NASA にとって、レーザーを使った高解像度の動画送信は初めて。 レーザーなら普段使っている電波通信の 10 - 100 倍の速さで送信でき、将来の有人火星探査で必要となる大量の動画や科学データの通信に役立つという。 ところでなぜ、猫だったのか。 NASA によると、1928 年に始まったテレビの試験放送に使われたのが、黒猫のキャラクター「フィリックス・ザ・キャット」だったから。 動画に出てくる猫のテイターズは、ジェット推進研究所の職員のペット。 事前に撮影され、打ち上げ前の探査機にアップロードされていたという。 (石倉徹也、asahi = 12-23-23)


宇宙空間で燃料補給、いよいよ実現か 人工衛星の寿命延長サービス

スマートフォンで位置情報を確認したり、インターネットに接続したり - -。 地上での活動に人工衛星のデータは欠かせないものになった。一方で、いま利用されている衛星は一般的に「使い捨て」。その常識が少し変わろうとしている。宇宙空間で燃料を補給したり、機能を追加したりして寿命を延長する試みが具現化しつつあるからだ。 米宇宙軍は今年 9 月、日本発のスタートアップ(新興企業)の米子会社「アストロスケール US」と人工衛星に燃料補給する技術開発の契約を結んだと発表した。 親会社のアストロスケール HD (本社・東京)は、宇宙空間のごみ(デブリ)の除去を目指す企業として有名だ。

契約は 2,550 万ドル(約 38 億円)で、2026 年までに燃料補給のための人工衛星の試作機を同社が提供する。 日本発の企業が米軍と衛星の開発で契約をするのは極めてまれだ。 人工衛星は地球の周りの軌道をぐるぐると高速で回り続けている。 ガスなどの推進剤を使って調整してその軌道にとどまり続けることが必要だ。

軍の作戦上の意義は

米軍にとって活動中の「機体」に燃料補給することは作戦上、重要だ。 海軍では海上で軍艦に燃料補給することを 1941 年の真珠湾攻撃の直後から実用化している。 空軍では 1950 年代から戦闘機に空中で燃料補給をしている。 米宇宙軍は宇宙空間でも人工衛星に対してこの能力を持つことで「軌道上での能力と運用の柔軟性によって、抑止力を強化し、敵対国の宇宙での能力増大という脅威に対し、より多用で効果的な対応ができる」と説明する。

アストロスケール HD は 21 - 22 年、宇宙空間で衛星が模擬デブリに接近したり、捕獲したりする技術実証に成功。 さらには実際のデブリに近づく試験も予定している。 この技術をデブリ除去だけではなく、幅広く活用するねらいだ。 26 年までに衛星「LEXI (レキシー)」を静止軌道に打ち上げる計画。 この衛星は軌道上を回る顧客の衛星に上部から近づいた後、並走し、最後はゆっくり接近してドッキングする。 軌道を調整したり、修理したりといったサービスを提供した後、LEXI は顧客の衛星を離れる。

「ガソリンスタンド」も

アストロスケール US は昨年、米国の宇宙企業「オービット・ファブ」とも契約を結んだ。 宇宙空間で衛星に燃料を補給する「ガソリンスタンド」のような施設を建設する予定だ。 早ければ 25 年にも静止軌道上でジェットエンジンの燃料(最大 100 キロ)を 2 千万ドルで提供し始める。 LEXI は宇宙空間にあるこの「ガソリンスタンド」から燃料の補給を受けて、顧客へのサービスを持続的に実施する。 まさに宇宙空間でのインフラだ。 打ち上げられた衛星は、いったん宇宙空間に出ると再び手を加えられないので、燃料が尽きれば役目を終える。

人工衛星の寿命は、赤道上空約 3 万 6 千キロの高度を周回する大型の静止衛星で 10 - 15 年ほど。 開発費も数百億円かかる。 もっと地球に近いところを回る小型の衛星ならより短く寿命が設計されていることが多い。 多くはバッテリーや電子機器の耐用年数、燃料の枯渇などで役割を終える。 その人工衛星が果たしていた役割を継続させようと思えば、それに代わる新たな衛星を打ち上げることが必要だが、ロケットで打ち上げるには大きなコストがかかる。 そこで、軌道上で寿命延長ができれば、更新コストは大幅に下がる。 地球の軌道上で衛星に様々なサービスを届ける「オン・オービット・サービス (OOS、軌道上サービス)」の実現が見えてきた。

参入企業が続々

米ノースロップ・グラマンの子会社スペース・ロジスティックスは 20 年、燃料が不足していた通信衛星に、エンジンを積んだ別の人工衛星をドッキングさせた。 軌道を保てるようになり、通信衛星の寿命を 5 年間延長できるようになった。 21 年にも同様の「寿命延長」を行った。 米国のスタートアップ「スターフィッシュ・スペース」も、アストロスケールと同様、人工衛星の寿命延長やデブリの除去の実現を目指している。 衛星サービスを担う衛星が別の衛星に正確に近づくためのソフトウェアの研究開発費を米宇宙軍から調達したと今夏発表した。

同社幹部のアレックス・クルトラップ氏は取材に「自律的に人工衛星に近づいたり並走したりするソフトウェアで自動化することで、(搭載する機器が減って)サービスを提供する衛星のサイズを縮小できる。 25 年には提供し始めたい。」と見通しを語った。 米調査会社によると、OOS の市場規模は 23 年時点で 24 億ドル、30 年には 51 億ドルにのぼると予測されている。

米航空宇宙局 (NASA) や宇宙企業などでつくるコンソーシアム(共同事業体)のグレッグ・リチャードソン事務局長は「00 年ごろから同様の試みがあったが、いま OOS を目指している多くの企業は 10 年代後半に立ち上がっている。 ロボットアームや近接するためのセンサーやアルゴリズムの構築にかかるコストが下がったことが大きい。 参入する企業が増えるのは自然なことだ。」と話す。

将来の宇宙のインフラ

日本の宇宙航空研究開発機構 (JAXA) も 30 年代には、データ通信や地球観測といった特定の役割を持った衛星群に対し、それらのメンテナンスやデータ処理などを担当する「宇宙のインフラ」となる衛星群ができると将来を予測する。 実現されれば、宇宙を利用したサービスのコストが下がったり、新たなサービスが生まれたりする可能性が高い。 一方で、軌道上サービスは軍事利用も可能な「デュアルユース」技術だ。 宇宙デブリが取り除ければ、同じように敵国の衛星に近づき、排除することも可能だ。

その分、この分野の米軍の研究開発は米国内の企業や同盟国、友好国以外と共同で行うことは現実的ではない。 米宇宙軍は取材に「日本が米国の緊密な同盟国であることは審査で考慮されたが、最終的にアストロスケール社の落札選考の要因とはならなかった。 同社の提案は任務の優先順位と技術的メリットに基づき、米政府にとって最も有益だと判断された。」とコメントした。

キラー衛星の脅威

中国はすでに 10 年代に宇宙空間で衛星を別の衛星に近づけ、ロボットアームで捕捉する実験を実施。 米政府は攻撃衛星(キラー衛星)の実験とみている。 米宇宙軍は攻撃衛星の能力をすでに持っているかどうかを明らかにしていない。 しかし、21 年の声明で、中国の動きに対し「宇宙での紛争を望んでいない」としながら、「この領域で競い、抑止し、勝つために公開、非公開の戦略を開発している」と表明している。 アストロスケールなど宇宙でサービスを提供する企業 26 社は 11 月、宇宙空間で衛星の破壊実験をすることに反対する声明を出した。 宇宙での物体の意図的な破壊は、宇宙の経済発展を脅かすと指摘している。(米バージニア州アーリントン = 合田禄、asahi = 12-10-23)


地球の核の謎を解く、NASA が金属小惑星「プシケ」探査機打ち上げ

「金属小惑星」と呼ばれる「プシケ」の探査が、第一歩を踏み出した。 小惑星プシケは、惑星の一番奥の核に該当すると推定されるだけに、「地球の核」の謎を解く手がかりを秘めているものとみられている。 米航空宇宙局 (NASA) は 13 日(現地時間)午前 10 時 19 分、フロリダのケネディ宇宙センターでプシケ探査機を積んだスペース X の「ファルコンヘビー」を打ち上げた。 プシケ(Psyche のラテン語読み)を英語読みした「サイキ」と名付けた探査機は、6 年間約 39 億キロを移動し、2029 年にプシケに到達する予定だ。 以後、26 ヵ月間プシケを公転しながら、磁場や鉱物構成、地形などを観測することになる。

火星と木星の間の小惑星帯にあるプシケは、鉄やニッケルなどの金属で構成されている。 岩石と氷で構成された多くの小惑星とは違う。 学界では、今回の探査を通じて、地球を含めた太陽系惑星がどのように形成されたのかを確認できるものと期待している。 プシケは主に金属で構成されているという点から見て、惑星の一番奥の核と推定されているためだ。 これまで知らなかった地球誕生の秘密を解くための旅程を始めたことになる。 国際学術誌「ネイチャー」は、「数千キロの岩石の下にあり、科学者たちが観察できない地球内部の核を理解する上で、プシケは窓の役割をするだろう」と話した。 (チェ・ジウォン、韓国・東亜日報 = 10-16-23)

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「1,000 京ドルの小惑星」目指す NASA 探査機、打ち上げへ準備着々

小惑星プシケ (16 Psyche) の真実を明らかにするべく米航空宇宙局 (NASA) が開発したソーラー駆動探査機が、打ち上げまで 80 日を切った。 プシケを英語読みした「サイキ」と名付けられたこの探査機は、火星と木星の間、40 億 km の彼方にある小惑星帯を目指す予定だ。 鉄とニッケルから成る独特の組成から、プシケには 1,000 京ドル(約 14 垓円)の価値があると推定されている。 しかし、それより重要なのは、地球の中心に似た鉄のコアを調べることで、太陽系の新しい金属の世界を発見する機会が得られることだろう。

NASA が 18 日に公表した最新情報によると、探査機の完成に向け、エンジニア、技術者からなる 30 人のチームが、ほぼ 24 時間体制で準備を進めている。 サイキはスペース X の打ち上げロケット「ファルコンヘビー」に載せられてケネディ宇宙センターの 39A 発射台から 2023 年 10 月 5 日午前 10 時 38 分(日本時間同日午後 11 時 38 分)に打ち上げられる予定だ。 打ち上げウィンドウ(発射時限)は 10 月 25 日まで確保されている。

ファルコンヘビーはこれまで主に大型衛星の打ち上げに使用されてきており、惑星間空間への打ち上げでの使用は初めてとなる。 南カリフォルニアにある NASA ジェット推進研究所のサイキ・プロジェクト・マネージャー、ヘンリー・ストーンは「打ち上げまでの日数をチームと共にカウントダウンしています」と述べている。 「チームは滞りなく準備を完了するために数多くの訓練を実施しています。 今は非常に忙しい時ですが、全員が打ち上げを楽しみにしています。」

科学機器、探査機のハードウェアとソフトウェアの試験が終わると、次はサイキの巨大ソーラーパネルの取り付けが行われる。 8 月中旬には、1,058kg のキセノン推進剤が探査機に中に注入される。 目的地に到着した後、サイキは 26 カ月間にわたりプシケの周回軌道にとどまり、マッピングとプシケの特性調査を行う。

惑星のできそこない

プシケは珍しい金属小惑星で、鉄、ニッケル、および金から成っているとみられているが、これは望遠鏡による輝度の観測のみに基づいた推測だ。 プシケの幅は約 279 km で、質量は太陽系の小惑星帯にある天体で最大級だ。 できそこなった惑星のコアであると考えられていることから、惑星天文学者の大きな関心を引いている。 地球には金属コア、マントル、および地殻がある。 金属小惑星は地球で見つかっている鉄隕石の起源の可能性があると考えられている。

米セントラルフロリダ大学フロリダ宇宙研究所の惑星科学者で、スペイン・カナリア諸島にある新しい 2 メートル二連望遠鏡 (TTT) を使用して金属に富む M 型小惑星を研究しているノエミ・ピニジャアロンソは「長年にわたり、M 型小惑星は太陽系初期に微惑星のコアが衝突によって、珪酸塩と有機物からなるマントルを剥がされたものと考えられてきました」と語る。 「最大の M 型小惑星であるプシケに関する詳細な分析に基づく最近の理論では、M 型小惑星は太陽により近い位置で形成され、部分的に溶けた薄い地殻を剥がされた後、現在の位置まで移動したと考えられています。」 (Jamie Carter、Forbes = 7-23-23)


NASA 探査機、「危険」な小惑星からサンプル持ち帰る なぜ大事なのか

太陽系の小惑星「ベンヌ」から岩などの試料を採取した米航空宇宙局 (NASA) の探査機 OSIRIS-REX (オサイリス・レックス)が 24 日、米ユタ州の砂漠に着地した。 「ベンヌ」は 45 億年前の太陽系の最初期に形成されたものだけに、探査機が持ち帰った試料から、生命の起源を知る手がかりが得られるものと、科学者たちは期待している。  さらに、「ベンヌ」は地球衝突の可能性が高いとされる小惑星のため、その生成を知ることがいざという時の危機回避策につながる可能性もある。 (BBC = 9-25-23)


古川聡さん、2 度目の ISS へ スペース X の宇宙船が打ち上げ成功

米航空宇宙局 (NASA) と米スペース X は米東部時間 26 日未明(日本時間 26 日夕方)、フロリダ州のケネディ宇宙センターから宇宙船「ドラゴン」を打ち上げた。 宇宙船は予定の軌道に投入され、打ち上げは成功した。 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の古川聡飛行士 (59) ら 4 人を乗せ、27 日朝(日本時間 27 日夜)に国際宇宙ステーション (ISS) に到着する予定。 搭乗したのは古川さんと、米国のジャスミン・モグベリ氏とデンマークのアンドレアス・モーゲンセン氏、ロシアのコンスタンチン・ボリソフ氏。 打ち上げから約 25 分後、宇宙船内からの交信で古川さんは「宇宙に行けてうれしいです。 日本のみなさん、ISS で仕事をしてきます。」と話した。 約半年間、ISS に滞在する。

古川さんは 2 度目の宇宙飛行で、前回は 2011 年に 165 日間、ISS に滞在した。 今回の滞在では、将来の有人宇宙探査に向けて二酸化炭素除去装置の技術実証などに取り組む。 スペース X のドラゴンは NASA や JAXA などの宇宙飛行士が ISS へ行くための移動手段として、20 年に本格運用が始まり、今回が 7 回目。 事故は一度も起こしていない。 このほか、民間人を乗せた商業飛行も実施している。

11 年のスペースシャトル退役後、NASA の宇宙飛行士が ISS へ行く場合、ロシアのソユーズ宇宙船に搭乗していた。 米国企業のスペース X の宇宙船が安定的に運用されていることは安全保障、外交の観点からも大きな意味を持つ。 米航空機大手ボーイングも新型宇宙船「スターライナー」を開発中。 すでに無人飛行でISSに到着する試験は成功させているが、有人飛行の予定は遅れている。 古川さんは今年 1 月、責任者を務めた研究でデータの捏造や改ざんがあった問題で戒告処分を受けている。 (ワシントン = 合田禄、asahi = 8-26-23)


韓国ロケット、実用衛星を初めて軌道に 大統領「宇宙強国 G7 だ」

韓国の自国開発のロケット「ヌリ」が 25 日、初めて実用衛星を搭載し、南部の羅老(ナロ)宇宙センターから打ち上げられた。 韓国政府は主な衛星を周回軌道に乗せることに成功したと発表。 打ち上げには国内の民間企業も参加しており、韓国政府はこれを機に航空宇宙産業を発展させたい考えだ。 ヌリは 3 段式のロケットで、今回の打ち上げの準備や運営には民間の「ハンファエアロスペース」も参加した。 韓国科学技術院 (KAIST) が開発した次世代小型衛星のほか、民間企業が開発した超小型衛星など 7 基も搭載された。

1 トン以上の衛星の打ち上げ能力を持つロケットの保有国としては米国、ロシア、日本などに次ぎ 7 カ国目で、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は声明で「宇宙強国 G7 に入ったことを宣言する快挙だ」と誇った。 「ヌリ」の打ち上げは今回で 3 回目。 21 年 10 月の 1 回目は、衛星を軌道に乗せられずに失敗。 昨年 6 月の 2 回目は、性能の検証用の衛星などを積んで初めて打ち上げに成功していた。 今回は当初発射が予定されていた 24 日には、システムの接続異常により打ち上げが延期された。 (ソウル = 太田成美、asahi = 5-25-23)


木星衛星探査機、今晩打ち上げ

木星とその衛星を目指す探査機「JUICE (ジュース)」が 13 日午後 9 時 15 分ごろ(日本時間)、南米フランス領ギアナのクールー宇宙基地からアリアン 5 ロケットで打ち上げられる。 探査計画は欧州宇宙機関 (ESA) が主導し、日本や米国、イスラエルが参加する。 太陽系最大の惑星である木星がどのように形成され、移動してきたかを調べて太陽系の成り立ちの解明につなげるほか、液体の水をたたえた海があるとされる衛星を観測して地球以外にも生命が存在する可能性を探る。

打ち上げから約 26 分後にロケット上段から探査機が分離。 その後、午後 11 時頃までに太陽電池の展開が完了する見込み。 今月下旬には日本の研究者が開発などに関わった観測機器 2 つが展開する。 探査機が木星軌道に到達するのは約 8 年後の 2031 年 7 月。 木星や衛星の近くを何度も通過しながら、観測を繰り返す。 主な観測対象は、ガリレオ・ガリレイが発見したことからガリレオ衛星とも呼ばれる、4 つの代表的な衛星のうち、エウロパ、ガニメデ、カリストの 3 つだ。

3 衛星は、表面が氷で覆われており、内部に液体の水の海があると見られている。 水のほか、有機物やエネルギーといった生命を育む環境を持つ可能性などを調べる。 34 年 12 月にガニメデの周回軌道に投入。 ガニメデは太陽系最大の衛星で、地球と同じような磁場を持つ独特の天体だ。 表面や内部構造を観測した後、最終的に衝突して 35 年 9 月に探査終了となる。 (sankei = 4-13-23)


若田光一さん 5 か月ぶり地球帰還 … 記録ずくめ、宇宙滞在は日本人最長・最高齢

【ワシントン = 冨山優介】 若田光一・宇宙飛行士 (59) ら日米露の飛行士計 4 人を乗せた宇宙船クルードラゴンが 11 日午後 9 時過ぎ(日本時間 12 日午前 11 時過ぎ)、米フロリダ州沖に着水し、地球に帰還した。 4 人は昨年 10 月以来、国際宇宙ステーション (ISS) に約 5 か月間、長期滞在した。 若田さんの宇宙飛行は今回で 5 回目、うち ISS 滞在は 4 回目。 宇宙滞在日数は累計 500 日を超えて、いずれも日本人最多となった。 日本人として最高齢での宇宙飛行でもあり、記録ずくめとなった。 今回の滞在中、自身初となる船外活動にも 2 度、取り組んだ。 年内には古川聡・飛行士 (58) が、ISS 長期滞在を予定している。 (yomiuri = 3-12-23)


日米が宇宙協力の包括協定に署名 アルテミス計画推進、中国とは競合

日米両政府は 13 日、宇宙開発での協力を進める上で必要な確認事項を盛り込んだ「枠組み協定」に署名した。 これまで個別案件ごとに結んでいた協定が不要となり、人類の月面着陸や火星探査をめざす「アルテミス計画」を進めるための日米連携の土台が整った。 協定には林芳正外相とブリンケン国務長官が署名。 宇宙分野の科学や探査、輸送など両国が協力する幅広い分野を対象に、事故があった場合に互いに損害賠償を求めないことや、宇宙開発に必要な物資の輸出入を非課税とすることなどが盛り込まれている。

国際宇宙ステーションでは、参加国間で同様の協定が結ばれている。 米国は複数の国々と個別に協定を結んでいて、今回はアルテミス計画を進めることを念頭に、日本とも協定を締結することになった。 ワシントンを訪問中の岸田文雄首相はこの日、米航空宇宙局 (NASA) の本部であった署名式で「日米の宇宙協力はアルテミス計画によって、新たな時代に突入した。 日米同盟の協力分野が一層広がることを強く期待する。」と語った。

署名式に同席したビル・ネルソン NASA 長官は「この協定で我々の協力関係はより深まる。 いまの時代の宇宙開発では、あらゆる発展が一つの国だけの成果になるのではなく、全人類の勝利となる。」とした。 ただ、実際には米国は中国と宇宙開発において競合関係にあることは明らかだ。 50 - 60 年ほど前のアポロ計画の時代には米国は旧ソ連と競い合った。中国はアルテミス計画に参加しておらず、独自の宇宙ステーションを建設している。 月探査でも、無人探査機の月の裏側への着陸にすでに成功している。

米国主導で進めているアルテミス計画には 20 カ国以上が参加。 昨年 11 月に第 1 弾となる打ち上げに成功し、無人の宇宙船が月を周回して地球に帰還した。 今後、有人での月周回飛行を経て、2025 年以降に有人月面着陸を目指す。 20 年代後半には日本人宇宙飛行士も月面に立つ可能性がある。(ワシントン = 合田禄、asahi = 1-14-23)

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アルテミス計画、再び月へ 装備や機器 … 民間の技術が支える月面活動

人類の月面着陸をめざす米国主導のアルテミス計画の第 1 弾「アルテミス 1」として、宇宙船オリオンを載せた新型ロケット SLS が米東部時間 16 日午前(日本時間 16 日午後)に打ち上がった。 月での長期滞在や、宇宙ステーション「ゲートウェー」をつくるなど、計画は壮大。 現地で活動する宇宙飛行士の装備や機器の開発には、民間企業も加わっている。 米国内での準備の中心地が、米南部テキサス州にある NASA のジョンソン宇宙センターだ。

無重力に近い状況を再現できる深さ 12 メートルの巨大なプールの底では、月面を模した岩などが置かれ、宇宙服で歩く試験を繰り返していた。 月面着陸時に使う宇宙服の開発企業には、米企業アクシオムスペースが選ばれた。 NASA の担当者は「ISS (国際宇宙ステーション)での宇宙服は、腕を動かしたり手を使ったりすることはできるが、歩いたりかがんだりするようにできていない。 月ではもっと機動性が必要になる。」と語る。

宇宙ステーション・ゲートウェーの最初の模型はすでにできている。 「HALO (ハロ)」と呼ばれる居住棟で、直径 3 メートルの円柱形。 オリオンに接続した状態で、最大 4 人の宇宙飛行士が 30 日間過ごせるように設計される。 その HALO に、太陽光パネルがついた設備や別の居住棟がくっつき、規模が拡大していく。

日本の技術も使われる。 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は、ゲートウェーへ物資を運ぶ新型補給機「HTV-X」を開発する。 ISS に物資を運んできた「こうのとり (HTV)」の後継機で、搭載量は約 1.5 倍。 太陽電池パネルを大型化して電力供給量を上げ、通信速度も高める。 開発中の H3 ロケットで打ち上げる予定だ。 また、JAXA はトヨタ自動車と、飛行士が乗って月面を移動する探査車「ルナクルーザー」を開発する。 燃料電池で動き、宇宙服なしで乗車できる。 最初は地球から運んできた水と酸素が動力源だが、将来は月で採取した水を利用したいという。 (合田禄、asahi = 11-16-22)

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再延期のアルテミス計画打ち上げ、次は 9 月後半以降に 無人試験飛行

米航空宇宙局 (NASA) は 3 日、再延期することにした新型ロケット「SLS」と有人宇宙船「オリオン」の試験飛行について、次の打ち上げ予定は 9 月後半以降になるとの見通しを示した。 問題となった不具合にどう対応するかを検討中で、その結果を受けて判断するという。

今回の打ち上げは米国主導で人類を再び月面着陸させる「アルテミス計画」の第 1 弾で、無人で実施することになっていた。 NASA は米東部時間 3 日午後 2 時 17 分(日本時間 4 日午前 3 時 17 分)、フロリダ州のケネディ宇宙センターで打ち上げを予定していたが、ロケットの燃料となる液体水素の注入を始めたところ、燃料漏れを検出。 複数の対策を講じても解決せず、延期を決めた。 延期は 8 月 29 日に続いて 2 回目。 (asahi = 9-4-22)

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月探査「アルテミス計画」始動へ 日米欧の結束重要に

宇宙飛行士を月に送る「アルテミス計画」が本格的に動き出す。 29 日にも米航空宇宙局 (NASA) が月探査のために開発した大型ロケット「SLS」を初めて打ち上げる。 米国が中心となり、日本や欧州も参加。 将来は月面に基地を設けて資源開発も目指す。 中国とロシアも協力して月探査を計画中で、日米欧の結束も試される。 今回は宇宙飛行士は搭乗せず、無人で月の上空まで往復する。 2025 年には男女 2 人の宇宙飛行士を月面に着陸させる。 並行して月の上空を周回する宇宙ステーション「ゲートウエー」も建設する。

月着陸が目的だったアポロ計画と異なり、アルテミス計画では 28 年にも月面に宇宙飛行士が継続して滞在できる基地の建設を始め、水などの資源を開発する。 水が重要視されるのは、水からロケット燃料やエネルギー源になる水素や酸素を作ることができるからだ。 NASA は水資源が期待できる月の南極付近に宇宙飛行士を着陸させる予定で、8 月には着陸候補の 13 地点も発表した。 月でロケット燃料を調達できれば月を宇宙開発の前線基地にして、火星や小惑星などより遠い天体に向かうコストを大きく引き下げられる。 米国は月基地を足がかりに 30 年代には火星の有人探査も目指している。

アルテミス計画は国際宇宙ステーション (ISS) に続き国際協力で進める。 日本もゲートウエー建設を分担するほか、新型無人補給機「HTV-X」で月への貨物輸送も担当する。 日本人宇宙飛行士が月面に着陸する期待も大きい。 民間企業の活躍も注目される。 NASA は月面の調査に使う機器などの輸送を民間企業に委託、独自に水資源の調査などを計画するスタートアップも登場している。 アルテミス計画をきっかけに月を巡る宇宙ビジネスが急速に立ち上がる可能性が高い。

一方で資源などを巡る衝突も懸念される。 そこで米国が主導して有志国による「アルテミス合意」と呼ばれる宇宙利用のルール作りも進む。 米日英など 8 カ国でスタートし、これまでに 21 カ国が参加した。 ただ中国とロシアも共同で月探査計画を進める。 両国は 30 年代前半には月面に宇宙飛行士を送り、30 年代後半には月の南極に基地を建設する計画だ。

今後の宇宙開発は米中を軸にした競争が一層激しくなる可能性が高い。 開かれた宇宙利用や持続可能な宇宙開発を進めるために、いかに国際的なルールづくりを進め、協力体制を構築するかが重要になる。 月開発も単なる米中の先陣争いではなく、宇宙利用のルール作りなど広範囲に影響を与えるはずだ。 日本も国内体制を強化しながら米欧との協力をより緊密にすることが求められる。 (小玉祥司、nikkei = 8-28-22)