良品計画の 21 年 9 - 11 月、純利益 36% 減 衣料品苦戦
良品計画が 7 日発表した 2021 年 9 - 11 月期の連結決算は、純利益が前年同期比 36% 減の 78 億円だった。 生活雑貨店「無印良品」で秋冬物の衣料品の販売が落ち込んだ。 前年同期に新型コロナ下の巣ごもり消費で食品の買いだめ需要があった反動も出た。 米国の店舗閉鎖に関わり前年同期に計上した 25 億円の特別利益もなくなった。 売上高にあたる営業収益は 7% 増の 1,229 億円。 枕やタオルなどの生活雑貨や化粧品などの販売は伸びたが、10月 上旬の気温が高く、厚手のシャツやコートなどの衣料品が振るわなかった。 アパレル商品の販売は 13.8% 減、食品は 7.1% 減と落ち込んだ。
衣料品や靴、かばんなどの服飾雑貨では値引き販売も増えた。 電子商取引 (EC) や店舗管理に関わるシステム開発の委託費などもかさみ、営業利益は 15% 減の 111 億円だった。 22 年 8 月期は純利益で前期比 6% 減の 320 億円とする従来予想を据え置いた。 同日の記者会見で堂前宣夫社長は「今春以降は洗濯用品や清掃用品などの消耗品を拡充し、普段使いの場として新規顧客の開拓を進める」方針を示した。 営業収益は 6% 増の 4,800 億円の見込み。 中国を中心とした東アジア事業では現地企画の生活雑貨を拡充して新規顧客の獲得を進める。 「オミクロン型」の感染拡大については「どんな形で影響がでてくるのか現時点では見通せない(堂前社長)」としている。 (nikkei = 1-7-22)
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無印良品・新社長はユニクロを 2 度も辞めた "柳井正の秘蔵っ子" … 売場を大変貌
生活雑貨店「無印良品」を展開する良品計画は 9 月から、在学中の学生から 30 歳未満の既卒者までを対象に通年採用を開始した。 これまでの新卒の一括採用を見直し、時期にとらわれず応募できる制度を初めて導入した。 優秀な人材は 20 代で執行役員になれるキャリアパスも用意し、経営幹部候補の人材を育成する。 専門学校、短大、大学、大学院に在学中の学生向けに、学年を問わずエントリーできる「定時入社コース」を用意した。 卒業年度の 4 月に入社するコースで就職活動時期に縛られず、学年に関係なく応募できるのが特徴だ。
大学生の場合は、1 学年につき 1 度の応募が可能。 不合格の場合でも翌年に再チャレンジできる。 内定後は在学中、無印良品でアルバイト勤務するのが条件となる。 既卒者は 30 歳未満が対象。 採用後、随時入社でき、早期に店舗運営を任せることを想定している。 これまでも、入社 3 年で店長に昇格できる仕組みを取り入れるなど人材育成に注力してきた。 今後の大量出店を見据え、通年採用に踏み切った。 通年採用で、店長候補となる人材を年間 150 人採用することを目標としている。
売上高 3 兆円、食品の品揃えに注力する小売りに大変貌
第二の創業 - 。 7 月に発表した中期経営計画では、新たな成長に挑戦する姿勢を鮮明にした。 2024 年 8 月期から出店の中心を郊外や地方に移し、店舗を大型化する。 国内の出店ペースを従来の 5 倍の年間 100 店、中国では 2 倍の 50 店に引き上げる。 中計の柱は食品スーパーの隣接地など消費者の生活圏で大型店を積極出店することだ。 店舗あたりの売り場面積は 2,000 平方メートル、年間売上高は 10 億円を計画。 新型コロナ感染拡大前の 20 年 2 月期の直営店の 1 平方メートル当たりの月平均売り上げや、平均売り場面積と比較すると、中計の売り場面積は 2 倍超、年間売上高は 7 割増えることになる。
カギを握るのが食品だ。 衣服や雑貨が主だった「無印良品」は近年、加工食品などの品揃えを増やしてきた。 出店が軌道に乗る 30 年 8 月期には売り上げに占める食品の割合を 30% に高めるとしている。 1 店舗当たりの 1 日の売上高(日販)は大型店で 273 万円。現在より 109 万円増加する。 食品は 26 万円から 82 万円に伸び、食品だけで伸びの半分を占めることを想定している。 食品中心に大変貌を遂げることで 30 年 8 月期に売上高 3 兆円、営業利益 4,500 億円を目指す。
売上高 3 兆円は、小売業トップのセブン-イレブン・ジャパン(チェーン全店売上高 4.8 兆円)には及ばないものの、同 2 位のファミリーマート(同 2.7 兆円)、カジュアル衣料チェーン「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(連結ベースで 2.1 兆円 = 21 年 8 月期)をしのぐ規模になる。 この高い目標を達成するには、毎年平均 2 割以上の成長が必要になる計算だ。
22 年 8 月期の営業利益は過去最高に迫る
中計の初年度に当たる 22 年 8 月期の連結決算は、売上高に当たる営業収益は、21 年 8 月期比 6% 増の 4,800 億円を想定している。 牽引役は 3,220 億円(同 8% 増)を見込む国内事業だ。 レトルト食品や菓子が伸びるほか、キッチン用品、日用品も堅調だ。 営業利益は 6% 増の 450 億円を見込む。 最高益は決算期変更前の 18 年 2 月期(452 億円)だったが、これに肉薄する。 円安による為替差益や米店舗関連の特別利益(31 億円)を計上した前期の反動が出るため、純利益は 6% 減の 320 億円となる。
21 年 8 月期決算は営業収益が 4,536 億円だった。 決算期を 2 月から 8 月に変更しているが、前年の同じ期間と比べると営業収益は 13% 増えた勘定になる。 営業利益は 424 億円(半年間の変則決算だった前期は 8 億 7,200 万円)。 純利益は 339 億円(同 169 億円の最終赤字)と黒字転換した。
後継者と目されながらユニクロを 2 度辞めた堂前・新社長
新年度が始まる 9 月 1 日、新社長に堂前宣夫氏が就任した。 堂前氏は、ファストリの創業者、柳井正氏の "秘蔵っ子" と評された人物だ。 柳井氏と同じ山口県出身で柳井氏の 20 歳年下となる。 1993 年、東京大学大学院電子工学修士課程修了。 マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンに入社。 コンサルティング業務を経験する。 その後、柳井氏の熱意に強く惹かれ 98 年 9 月にファストリに入社した。 ユニクロが東京・原宿に進出した年である。 入社 2 カ月後の 11 月に取締役に就任。 30 歳を迎えた翌 99 年 7 月に常務取締役に昇進した。
のちに社長となる玉塚元一氏(現ロッテホールディングス社長)や澤田貴司氏(現ファミリーマート副会長)などと共に、ユニクロでフリースブームを支えた。 澤田氏や玉塚氏は、柳井氏の期待に応えることができず相次いでファストリを去ったが、2000 年前後に入社した若手幹部のなかで、堂前氏は最後までユニクロに残った。 04 年には 30 代半ばで副社長に抜擢された。
堂前氏がユニークなのは、ファストリを 2 度辞めたことがあるからだ。 副社長として名実ともにナンバー 2 となったが、07 年、突然退任した。 この時は米国法人の代表だった。 3 カ月後に復帰し、周囲を驚かせた。 堂前氏の新しいポストは最高戦略責任者 (CSO)。 成長ドライバーとなる海外事業を成功させるミッションを帯びていた。 機能性インナーを世界共通ブランド「エアリズム」とし、大ヒットさせたのは記憶に新しい。 ところが堂前氏は 15 年ごろに、本当にファストリを辞めてしまう。 理由ははっきりしないがこれが 2 度目の退任である。 16 年 6 月、モバゲーなどを展開するディー・エヌ・エー (DeNA) とネット証券のマネックスグループの社外取締役になった。
19 年 2 月、良品計画の上席執行役員営業本部長に就任。 3 カ月後の同 19 年 5 月に専務取締役執行役員に昇進した。 赤字を続ける欧米事業を立て直すために招かれた。 そして、今回、社長に昇格した。 「無印食品」は「感性の経営」を掲げる堤清二氏が率いた旧セゾングループのアンチ・ブランドを標榜する会社として誕生した。 堂前新社長の下、第二の創業を謳い「MUJI」の規模の拡大を追求する。 柳井氏との "師弟対決" が見ものである。 (Business Journal = 10-3-21)
「日本勢はやられっぱなし」 アマゾンに謎の中国メーカーが大量発生する本当の理由
アマゾンやヤフー、楽天などのネット通販サイトで、中国企業の存在感が高まっている。 EC 事業のコンサルティング会社 GROOVE 代表の田中謙伍さんは「日本のモノづくりは真面目でレベルも高いが、商慣行が足を引っ張っている。 その結果、中国企業が国内市場でも台頭している」という - -。
■ 日本で起きているのは中国からの「逆・越境 EC」
自宅のパソコンやスマホからネットの通販サイトで商品を購入する人は多い。 こうした「e コマース(電子商取引、以下「EC」)」はもはや日常風景になっている。 企業側の中には、海外向けに販売する「越境 EC」も盛んだ。 だが、実際に日本で起きているのは中国からの「逆・越境 EC」だ。 Amazon やヤフーショッピング、楽天市場などのサイトに、中国人が運営する EC 店舗が増えているのだ。 アマゾンジャパンの市場シェア率を GROOVE が独自で分析したところ、金額ベースで全体の約 25% を占める。
なぜ、中国勢は日本国内の EC 市場を侵食できるのか。 それは、価格が安いからという単純な理由だけではなく、日本の商慣行に根本的問題があるからだ。 このままでは、新型コロナウイルス感染症拡大による巣ごもり需要が高まる中、中国からの逆・越境 EC だけが勢いを増す結果になりかねない。 私は大阪府内にある 5 代続く繊維メーカーの後継ぎとして生まれた。 大学を卒業してアマゾンジャパンの新卒採用 1 期生として入社後、数多くのメーカーの売り上げアップを実現しトップセールスとしての実績を挙げてきた。
その後、独立。 AmazonD2C メーカーを立ち上げ年商 50 億円を実現した。 D2C とは、メーカーが自ら企画・生産した商品を卸や小売店を挟まず、自社 EC サイトなどを用いて直接、消費者に販売するモデルのこと。 2015 年には日本のモノづくりをアップデートすることをミッションにしたコンサル会社 GROOVE を立ち上げ、メーカーに対し、EC 市場での成功に向けた支援を行い、現在に至っている。 それだけに数多くの日本企業が EC におけるチャンスを取りこぼしている現状に危機感を覚えている。
■ コロナでも開拓が進まない日本 … EC 化率は 8% 止まり
コロナ禍で EC は大きく伸びた。 経済産業省の調査によると、日本国内における 2020 年の EC 市場規模(物販系)は 12 兆 2,333 億円で前年比 21.7% 増となった。 ここ数年の EC 市場の伸び率は毎年 1 桁台で続いていたことを考えると急激な伸びを見せた年だった。 また、小売業全体の商業販売額の増減率は前年比 0.9% 増だったことからも、消費者の EC 需要が拡大していることが分かる。 しかし日本の EC 化率は前年から 1.32 ポイント増やしたものの、まだ 8.08% しか開拓できていない。 先進国の中では日本の EC は遅れているのが現状なのだ。
ここで米中両国の EC 市場規模(2020 年)も見ておこう。
・中国
市場規模 : 11 兆 7,600 億元(約 208 兆 1,520 億円、前年比 10.6% 増)
EC 化率 : 30.0% (前年比 3.9 ポイント増)
・米国
市場規模 : 7,879 億ドル(約 89 兆 4,270 億円、前年比 32.4% 増)
EC 化率 : 14.0% (前年比 3.1 ポイント増)
米中は 2 桁増で市場規模を拡大させていた。 日本は市場規模も EC 化率も大きく差をつけられている。 日本はコロナ禍による巣ごもり消費の定着で急拡大している市場をほとんど取り込めていないといえる。
■ しがらみに悩むメーカー幹部
日本国内の EC 市場開拓率が低い背景には、日本独特の商慣行の構造的な「しがらみ」の問題がある。 メーカーの中間流通業者への忖度が EC 推進の障壁になっているケースが多い。 現状、メーカーが消費者へ商品を届けるまでに、商社などの卸売業者や百貨店、ドラッグストアなどの小売業者が中間流通として複雑に絡み合っている。 EC 化を推進しようとしても、既存の取引先との古い付き合いや依然として高い実店舗売上比率(日本全体では約 92%)もあり、中間流通業者の影響力は大きい。
EC 側で価格を大きく下げるとすぐさま小売店のバイヤーから指摘の連絡が入る。 小売店も生き残りに必死だ。 こういった状況もあり、実店舗と同様に卸売などを中継した旧来の商流構造を EC でもなぞってしまうメーカーが多い。 そのため EC 化に向けた「戦略がない」、「人材がいない」、「ノウハウがない」といった課題が解決されず放置されたままとなっている。 旧来のメーカーがこのような既存のしがらみや商習慣から脱却できないまま、片手間的に EC に取り組んでいる間、近年「D2C (Direct to Consumer)」と呼ばれる EC を通して消費者に直接商品を販売するビジネスモデルが、スタートアップ企業を中心に盛んになっている。
D2C はそもそも中間流通業者を挟まないビジネスモデルのため、利益率が高く、価格決定権がメーカー側にあることが特徴だ。 また D2C メーカーは消費者からの意見を吸い上げやすく、商品改善サイクルが早いことが従来のメーカーの新商品開発体制との大きな違いである。 ターゲット消費者もミレニアルや Z 世代といったデジタル世代を中心に拡大をしている D2C は消費者の多様なニーズを捉え、次々と新ブランドが市場に誕生している。
■ 追い打ちをかける中国メーカーの躍進
このように市場での存在感を増している D2C メーカーだが、当然この流れは日本国内に限った話ではない。 世界中で D2C メーカーによる市場開拓が進んでおり、中国をはじめ海外の D2C メーカーは日本へと越境してきている。 中国は安い人件費を武器に単価を下げた商品ラインナップで、ジリジリと日本への越境 EC を展開してきた。 10 年以上前は、中国製品というと「粗悪品」、「盗品」、「コピー」などと否定的なイメージを抱く消費者が多かったであろう。
しかし今では、このような商品は大幅に減ってきており、日本の家庭では、雑貨をはじめ、服やパソコンのマウスに至るまで中国からの逆・越境 EC 商品という事態になっていることに気づいているだろうか。 低人件費で商品の単価を極限まで下げる一方で、商品の品質を徐々に "まとも" にさせ、日本国内に着実に浸透してきている。 今やこの種の低価格品の大半は中国からの越境 EC によってもたらされていて、日本の Amazon では約 4 分の 1 を中国製品が占めてしまうことになったわけだ。 この状況を日本企業が巻き返すのは容易ではない。
■ 中国と日本のメーカーの決定的な差
なぜ中国メーカーの品質が向上してきているのか。 国策をはじめいくつかの理由があるが、ここではメーカーとして日本との大きな違いをピックアップする。 中国メーカーのモノづくりは、日本従来の完璧品質を求めるモノづくりとはスタンスが全く異なっている。 最初から完全なものを作ろうとはせず、未完成な状態で市場に投入をして、後から改善をしていく考え方である。 何よりも市場に投入するスピードを重視し、そして消費者の声を取り入れながら改善を繰り返していく。 当然改善の速度も圧倒的で高い頻度で繰り返される。 永遠のベータ版をリアルなモノづくりで行っているのだ。
また中国の EC 市場規模は世界ランキングのトップである。 EC だけでなく、ライブコマースなどの新しい販売チャネルも発展しており、SNS を活用した消費者とデジタルで直接つながるマーケティングノウハウも、豊富に持ち合わせていることも中国メーカーが強い理由だ。 旧来の日本のメーカーでは前述のとおり、国内の既存中間流通業者の存在感が高く、コントロールできない領域があまりにも多い。 そのため消費者との距離が遠く、新商品の市場投入スピードも遅くなる。
さらに日本中で DX 人材不足が叫ばれているとおり、社内にデジタル人材が育っておらず、EC やデジタルマーケティングのノウハウの蓄積もできていない。 なお、国内でも D2C メーカーは中国メーカー同様の強みを持ち、従来の日本メーカーの弱点をついて、スピードとダイレクトな消費者とのつながりによる商品開発の力で成長をしてきている。
■ 従来の慣習から抜け出せなかった油断
結論として、少々厳しい言い方となるが、中国発の越境 EC があふれてしまった本当の理由は従来の慣習から抜け出せなかった日本企業の油断が招いたと言っても過言ではない。 EC 事業の伸びは実店舗小売と比べると高く見えるので安心しているメーカーがいるが、実は EC市場全体の成長スピードにはついていけておらず、市場内シェアはどんどん中国メーカーや一部の国内 D2C メーカーに食われてしまっている実態を見落としている。 特に Amazon ではそのケースが多いので注意が必要だ。
なお、政府も危機感を持って支援策を講じている。 今年から 10 月 10 日を「デジタルの日」と定め、デジタル庁を中心に EC でのセールやキャンペーン、イベントなどの開催に取り組んだ。 さらに今年度の補正予算にも、事業者に対する EC 化支援策を盛り込んでいる。 成果はこれからとなるが、政府の支援策は企業が EC サイトに出店することや EC サイトを構築するスタートラインに立つところだけの支援で終わっており、その先の成長戦略を描けていない課題がみられる。 本当に必要なのは、メーカーと消費者のコンタクトポイントをネット上に増やし継続的に運用し続けることであり、売り上げ増のための工夫やノウハウを伝える人材の確保・育成・投資などへの支援も今後期待したい。
■ 変化への対応力が日本メーカーに試されている
さて、従来の日本のメーカーが本質的に持つ強みはこれからの時代全く通用しないのだろうか。 日本 EC 市場に進出している中国メーカーのすべての企業がきちんとした商品を提供しているとは限らない。 いわゆる「やらせレビュー」、「サクラレビュー」といった不当な手法で高評価の書き込みを増やし販売を誘発するようなやり方をする企業も少なくない。 Amazon ではこの事態を大きく問題視しており、これら不当なレビューに対する対策に、年々力を入れ厳しく取り締まりを行っている。
米 Amazon シニア・バイス・プレジデント Russ Grandinetti (ラス・グランディネッティ) 氏は 10 月 5 日に開催した Amazon EC サミット 2021 において、不正レビューの取り締まりに対して年間数百億円の投資をしており、2020 年は 2 億件を超える不正なカスタマーレビューを停止したと明らかにした。 消費者の不安や不信感を取り除き、健全な市場を作ることに力を入れている証拠だ。 また、Amazon は日本国内の中小規模の販売事業者の支援を 2020 年から強化している。 日本国内だけではなく世界に向けての販売支援を行っているのは、日本のメーカーにはまだまだポテンシャルが眠っていると感じているからだろう。
■ 「真摯な姿勢」だけでは中国勢に勝てない
当然ながら消費者が求めているのは正しい情報と安心な取引、そしてきちんとした商品である。 中国メーカーの安かろう・悪かろうが受け入れられたのではなく、自分自身のニーズに対してその商品が持つ価値と価格が見合っていたから受け入れたのだ。 そこには中国メーカーであることも D2C メーカーであることも老舗の国産メーカーであることも関係ないのが今の時代の消費者の姿だろう。
日本企業のモノづくりや消費者に対する真摯さは、強みでもあり弱みにも成り得る。 消費者、メディア媒体、流通構造など時代の変化を捉えてフェアバリューを生み出すことが肝要である。 これまでの価値観を大きく変えてモノづくりを行い EC 市場への進出をうまく活用していかない限り、中国メーカーの躍進に勝てない状況が当面の間続くだろう。 (田中謙吾、President = 12-30-21)
田中謙伍 (たなか・けんご) : GROOVE 代表、EC コンサルタント、Amazon 研究家
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、新卒採用第 1 期生としてアマゾンジャパン合同会社に入社、出品サービス事業部にて 2 年間のトップセールス、同社大阪支社の立ち上げを経験。 マーケティングマネージャーとして Amazon CPC 広告スポンサープロダクトの立ち上げを経験。 GROOVE および Amazon D2C メーカーの AINEXT を創業。 立ち上げ 6 年で 2 社合計年商 50 億円超の年商を達成。
ファストリ中国戦略に「国潮」の荒波 新興ブランド台頭
中国のファッションブランドが存在感を高めている。 巨大な消費市場である中国国内では国産ブランドを支持する「国潮」が大きなトレンドを巻き起こし、欧米市場では中国発の新興アパレル「SHEIN (シーイン)」がデジタル技術を駆使した販売戦略で勢いを増す。 世界のファッション業界に生じる中国発の地殻変動 - -。 株式市場はファーストリテイリングなどグローバルブランドへの影響を探り始めている。
国潮は洗練・おしゃれ 躍進する「中国李寧」
11 月 11 日、中国最大のネット通販セール「独身の日」。 アリババ集団傘下の「天猫(T モール)」で躍進した中国ブランドがある。 李寧(リーニン)だ。 スポーツ用品の取扱高ランキングで 3 位となり、初めて独アディダスを抜いた。 首位は米ナイキ、2 位は中国の安踏体育用品(ANTA)だった。 李寧は中国の体操選手として活躍した李寧氏が創業したスポーツ用品メーカーだ。 販売は好調が続いており、2021 年 7 - 9 月期の既存店売上高は前年同期に比べ 20% 台後半の伸びとなった。 株価も飛躍し、年初から足元までにおよそ 7 割上げている。 香港ハンセン指数はこの間に 1 割超下げており、李寧の好パフォーマンスが際立つ。
中国では、李寧のような国産ブランドを好む若者が増えている。 中国の伝統的な文化のエッセンスを取り入れた商品が人気で「国潮(グオチャオ)」というトレンドを生んでいる。 国潮は中国と潮流を掛け合わせた造語。 10 代後半から 20 代の「Z 世代」が消費のけん引役だ。 中国の Z 世代の中核である 1995 - 2009 年生まれの若者は、日本の総人口の倍以上の 2 億 6,000 万人に上る。
中国経済の成長とデジタル化の恩恵を受けてきた彼らは、SNS (交流サイト)や電子商取引 (EC) を通じ最先端の流行を追う。 伊藤忠総研の須賀昭一・上席主任研究員は「欧米や日本のブランドに引けを取らないくらい中国のブランドが洗練され、オシャレになった面が彼らをひきつける」と分析する。
中国のユニクロ事業「転機を迎えた」
「中国大陸は今までどおり、毎年 100 店舗ずつ出店していきたい。」 カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファストリの柳井正会長兼社長は 10 月の決算説明会で、中国事業の展開についてこう語った。 ファストリの中華圏の営業利益は 2021 年 8 月期の連結決算(国際会計基準)で 1,002 億円。 日本国内は 1,232 億円だった。 営業利益ベースで日中が逆転する日はそう遠くはないだろう。
中華圏のユニクロ事業の営業利益はこれまで年 2 割ほどのペースで増えてきた。 しかし、この勢いが続くとみるのは楽観的かもしれない。 「中国本土には出店余地があるが、これまでのようなペースで伸び続けるビジネスではなくなっている。 李寧や安踏体育など現地ブランドの台頭で、中国のユニクロ事業は転機を迎えた。」 クレディ・スイス証券の風早隆弘シニアアナリストはこう話す。 中国ネット通販の動向はそうした現実の一端を映す。 クレディ・スイス証券によると、T モールでのユニクロの売上高は 8 月に前年同月比 5.8% 減少した。 9 月は 43.2% 減り、10 月は 19.7% 減だった。
アジア市場は日本人の体格に近い消費者が多く、ファストリにとっては収益拡大に欠かせない地域だ。 韓国は不買運動の影響が残り、東南アジアはコートなどが売れる冬が短いため、おのずと中華圏の重要度が高まる。 だが「中国大陸のローカルブランドが力をつけてきている。(ファストリの岡崎健 CFO = 最高財務責任者)」 中国ユニクロの成長力に対する株式市場の自信は揺らぎつつあるようだ。 ファストリ株は 12 月 2 日に年初来安値となる 6 万 5,110 円を付け、3 月の上場来高値から 4 割超下がった。 年間の騰落率がマイナスとなれば、5 年ぶりとなる。
「日本と中国にリソースを集中する。」 「無印良品」を展開する良品計画は 7 月にまとめた 22 年 8 月期 - 24 年 8 月期の中期経営計画で、こう宣言した。 中国では年間 50 店のペースで出店するという。 戻り歩調にあった良品計画の株価は 9 月以降、一転して下げが続き、12 月 6 日には 1,706 円と 1 年 3 カ月ぶりの安値水準となった。 国潮がブームとなるなか、中国をテコにしたグローバルブランドの成長戦略はもう一筋縄では株式市場に響かない。
オンライン販売に特化、若者に人気の「SHEIN」
「最大 85% OFF」、「まとめてお得!」 - -。 鮮烈な赤色が目を打つショッピングサイトに、手ごろな価格で買える衣類やアクセサリーの写真とともに、お買い得感を前面に打ち出したフレーズが並ぶ。 その名は「SHEIN(シーイン)」。 誕生から 10 年にも満たない新興アパレルだ。 シーインのマーケティング手法は類をみない。 まずオンライン販売に特化し、世界 150 以上の国・地域に展開する。 人工知能 (AI) で流行を分析し、多様な新商品をタイムリーに販売する。 顧客が動画投稿サイトで自由に宣伝するなど、ソーシャルメディアの活用も極めてうまい。
画像共有アプリ「インスタグラム」のシーインの公式アカウントのフォロワー数は 2,248 万人に達する。 ファストファッション業界ではユニクロのグローバルアカウント(235 万人)を大きく上回り、ZARA (ザラ)の 4,773 万人、H & M の 3,798 万人に迫る勢いだ。 シーインは日本だけでなく、欧米や新興国でも若者を中心に支持が広がり、急成長している。 市場の推計によると年間の売上高は 100 億ドル(約 1 兆 1,300 億円)を超えている。 米国では今年前半にファストファッション市場で一時、H & M を上回るシェアを獲得した。 2022 年の売上高は 200 億ドル近くに上る - -。 そんな可能性も取り沙汰されている。
シーインを運営するのは南京希音電子商務という中国の会社だ。 非上場だが、主要株主は米ベンチャーキャピタル (VC) のセコイア・キャピタル、米ファンドのタイガー・グローバル・マネジメントといった有力投資家の名前が伝わる。 デジタル技術の活用と効率的なサプライチェーン(供給網)を構築することで急成長するシーインに、市場関係者も期待を高めている。
アパレル、低価格化と成長コスト上昇に直面
「シーインがファストファッションにもたらすディスラプション(創造的破壊)」。 米モルガン・スタンレーは 10 月、こんなテーマのリポートをまとめた。 いわく、シーインの成功はアパレル業界への参入の壁が低くなっていることを示しており、「業界に同じようなディスラプションを起こしうる新規参入者が向こう 10 年間でさらに出現する可能性がある。」 モルガン・スタンレーは、シーインの台頭をきっかけにアパレル業界で低価格化が進むとみている。 そのため競争力を維持するのに必要な投資が各社の成長コストを押し上げるという。 そう判断し、世界のアパレル小売業の業績予想を全体的に下方修正した。
シーインとそれに続くディスラプションは「欧州の H & M、米国のギャップやアバクロンビー & フィッチなどの地位を脅かし、将来的にはファストリへの脅威が高まる。」 モルガン・スタンレーはそう読む。 中国で飛躍するスポーツ用品の李寧は売り上げの 9 割超を中国国内が占めているが、最近は米国や日本など海外でも徐々に知名度を上げている。 11 月初めには新株発行で約 104 億香港ドル(約 1,500 億円)の資金を調達した。 新商品や物流網の強化のほか、海外事業の拡大にも充てる方針だ。
中国の「Z世代」の若者から支持を得て成功を収めることで、グローバル市場に打って出るファッションブランドが増えても不思議はない。 日本のファッション業界でも「クリエーターなどに中国から好条件のオファーが来て、しばしば話題になる(業界関係者)」という。 世界のファストファッション銘柄は 2020 年に軒並み上昇したが、21 年は頭打ち感が目立つ。 米ネット通販のアマゾン・ドット・コムの台頭は店舗を持つ小売企業の逆風となり、「アマゾン・エフェクト」や「デス・バイ・アマゾン」などの言葉を生んだ。 シーインの急成長はファストファッション業界に同じような現象をもたらすのか、市場は見定めようとしている。 (三輪恭久・東京、鈴木孝太朗、須永太一朗・香港、nikkei = 12-13-21)
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