ユニクロ世界一、滅びゆく旧来型商社、日本企業は外資に買収 … 10 年後のアパレル業界予測

2030 年のアパレル業界はどうなっているだろうか。 グローバルベースでは何が起こり、それに合わせて日本市場はどう変わっていくのか。 大量生産からの転換はあるのか、またアパレル企業が生き残るため主要 KPI は何にとって変わられるのか? 変化の諸相を読み解いた。

10 年以内にユニクロが世界一になる理由

「ユニクロに勝てるアパレルがでてきますか?」 ビジネススクールでの授業の一コマ。 私が教鞭をとっていたところ、ある生徒によって私に投げかけられた質問だ。 私はこう答えた。

「出てこない。 ユニクロはいずれZARAを抜かして世界一になる。もっと分かりやすく言おう。」 「地球を真ん中で半分に線を引いてほしい。 その線の上は成長は止まり成熟経済となる。 その線の下は成長経済となる。 線の上は、欧米と日本。線の下はアジアだ。」

私は続けた。

「ZARA は、線の上に店をたくさん持っている。 一方ユニクロは線の下に店舗を展開している。 だから、時価総額で 2 位となったユニクロは ZARA を抜かして世界一になる。」

私は 50 歳を過ぎて、自分の時間の半分を「人づくり」に充てている。 自分がやってきた企業改革のノウハウを若い世代の人間に継承し、また、ものの見方や考え方を若い人に教えることで産 業を救いたいと考えているからだ。 余談ながら、私は国内のあるアパレル産業を守るべく、新しい仕事をする予定だ。 その産業は、日本から消えつつあり、今は、補助金で生きている。 無意味な「南下政策」を繰り返し、日本から産業を奪っていったのは商社だ。 私は、その商社出身の人間として、その責任を果たすべく、友人の神藤光太郎(日本を代表するクリエイター)と一緒にこの産業を救おうと誓った。

日本市場は「グレーターチャイナの一部」という扱いに転落する

話を「半分になった地球」に戻す。 例えば、今は無き世界の流通コンサルティング、カートサーモンのパートナー会議を上海で行ったとき、各国から上海に集まったパートナー達は、東南アジアの経済成長とリテールの成長資料をスクリーンに映し、東南アジアへの進出を計画していた。 実際、東南アジアは、最もリテールが成長する国で年率約 8% の経済発展をしており、ユニクロなどは巨額の投資を行っている。 日本にとどまり続けたアパレル企業は、縮小する国内市場から抜けられないが、ユニクロは一歩も二歩も先を行っている。

これに対して、地球の半分の上。つまり、欧州、北米、そして、日本の 3 市場は成長が止まる。 まず、欧米などの企業がマーケットセグメントを、グレーターチャイナ(一般的に、中国に、香港と台湾を入れた言葉)の中に日本を入れると私は思っている。 欧米の巨大 SPA (製造小売)は、日本をもはや特別な市場と見ず、AP (アジアパシフィック) の一部として見なすだろう。 日本市場の存在感が大きく薄れるということだ。 ルイ・ヴィトンのような日本人が大好きなブランドも、中国人の旺盛な消費意欲の前では、市場として「無意味同然」となる。 欧米初のスーパーブランドは、中国本土の沿岸部に出店してゆけば、日本など不要だ。 実際、最近の Apple は新製品をだすとき日本市場はでてこない。 日本はビジネスでいえばすでに後進国になりつつある。

アパレルの KPI は売上から LTV に変わる

次に、欧州と北米などの市場を考えていきたい。 これら先進国と呼ばれる市場では、これからは必要な量だけを求め、必要な量だけを消費するようになる。 ユニクロが「これから必要な量だけを製造する」といっているのを聞いて、「ああ、プロパー消化率を上げるのか」と極小的な発想しかでてこない人は「チマチマ病(物事を俯瞰して見られず、局所的なところしか見ない癖)」にかかっている。 売上を作ることを目的とし、「プロパー消化率 50%」など、最初から半分は定価で売れない計画を立ててビジネスをしているアパレルは極めて厳しい状況に追い込まれることになる。 また、アパレル企業の主要な業績指標 (KPI) は、売上ではなく LTV (Life time value : 個人、個人が、生まれてから死ぬまでどのぐらい特定の商品、サービスを使うかという指標)に変わる。

日本市場の成長は止まり、乱発貨幣のつけで円安が進み、外資による M & A (合併・買収)によって、私たちの上司は中国人か欧米人になる。 すでに、その兆候はでているではないか。今は無きレナウン、マークスタイラー、バロックジャパンリミテッドなどは、中国の会社だ。 これからの 5 年、10 年、語学が話せず、あうんで仕事をしてきた人は仕事がなくなってゆく。 また、語学ができるだけではダメで、外国人とのコミュニケーションは論理と事実だけがベースとなる。

商社の多くは消えて無くなるだろう。 私の出自だけに無念極まりないがしかたない。 成長期に、一気に国の経済をブーストさせてきた商社という、売上の拡大だけがレゾンデトール(存在価値)だった業態は大きく業態転換を余儀なくされ、流通構造からはずされる。 D2C とはそういう意味だ。 商社の中で D2C という言葉を使っている方がおられるが、こういうことを分かっているのだろうかと  うときがある。

そして、もはや日本という衰退市場と決別したユニクロを横目で見、世界展開に遅れた企業は消えゆき、顧客をしっかり囲い込んだ企業だけが AI で需要を予測し、PLM (Product Life Management)で自動生産をする。 そして、それでも余った商品は二次流通市場で再販されて消費され、格差が広がった底辺を支える人達が、中古品を消費する。 こうして、アパレルの在庫の売れ残り問題、破棄問題は多くの企業の倒産と統合によって解決されることになる。 地球の温度を変えるほどの量のゴミを排出し続けてきた反逆がコロナによる産業再編なのだ。

環型経済への移行で二次流通市場が発達する

いかがだろう。 私は、占い師ではないので、こうした考察が当たるか当たらないかは問題ではないと開き直っている。 むしろ、こうした未来に対する事業環境を予測せず、その場その場の近視眼的対応をしている企業は、もう少し長期的な視座をもって頂きたいということなのだ。 もちろん、雨が降れば傘を売る。マスクがなくなればマスクを増産するなど、その場、その場の生き残り施策は大事だが、今のアパレル業界を見ていると、こうした大局的視座にたったビジネスを展開しているとは思えないほど局所的だ。

例えば、どのアパレル企業に行っても、判で押したように「次は、サステナブルのブランドを立ち上げよう」という。 また、評論家の方々も「サステナブルだからアパレル企業は在庫問題をなんとかしろ」と声高に叫ぶ。 しかし、なぜ、人がサステナブルな商品を選ぶのか、そして、そもそも、サステナブルな商品とは何かという根源的な問いかけに答えられない。 当然ながら、人がトレンドとしてサステナブルな商品を求めるのではなく、冒頭に書いたような社会背景の下、モノにまみれ、必要以上の商品が不要となった消費市場により消費型経済から循環型経済に移行するという背景があるという因果関係が重要なのだ。

現象ばかりを追い続け、「次のトレンドはなんだ」と躍起になっているから、そもそも 20 年で市場の 30%が消えて無くなっている一方で供給量は倍増しているという需給のアンマッチから在庫破棄問題が起きているのに、そのことも理解せずに、単に「AI を使えば、世の中から余剰在庫がなくなる」など勘違いし続けているわけだ。 また、循環経済になれば、企業は必要な量だけを生産し、破棄損ゼロを実現するために二次流通市場が発達するのは自明だろう。 論理立て、筋道を立ててものごとを考えれば誰でも分かる話だ。 某メディアで、「進むサステナブルへの取り組み」と書かれていたので、よく読んでみると、クズの綿を再生産した素材を使い、相も変わらず大量生産し「これがサステナブル商品だ」などとしていた。

今のアパレル企業は、目先のことで精一杯になり、ものごとを長期的視座に立って「今」を考えられない状況になっている。 こんな企業に未来はない。古き良き時代は、アメリカ様を見ていれば、そこに「4 年後の答え」はあった。 しかし、もはや答えは自分でつくる時代になった。 先生はいなければ教科書もない。こうした世の中を楽しめる企業だけが生き残ることになる。 (河合拓、Diammond Chain Store= 11-10-20)


ファストリ過去最高益予想の裏で … 金融主導によるアパレル業界崩壊の真実

金融主導の業界再編と聞いて、ピンと来る人は少ないだろう。 この私とて、個人的な事情から金融業界に関わりをもったおかげで、アパレル業界の現実が見えてきた。 そこは、まるでイギリスのサザビーズ(イギリスの伝統ある競売会社)にいるような錯覚に陥るがごとく、会社や組織の売買が行われ、また、さらに一歩中に足を踏み込めば、そこは、重病患者が次々と運ばれてくる野戦病院のような状況だった。

家に帰り、テレビをつけると何もなかったかの如く日常は過ぎてゆく。 しかし、私は自分の人生で二度会社が吸収合併された経験を持っている。 それは突然やってきて、私たちの生活を一変させる。 この最後の予言についていえば、リアルな世界を目の当たりにすれば、その壮大なダイナミズムと資本主義の冷徹さがミックスした不思議な気持ちに私を誘った。 「本当に鉄の山は動き出す。」 私はそう感じた。

政府と金融機関による会社救済の実態

コロナ過で倒産寸前の 3 大業種といえば、「旅行」、「飲食」、「アパレル」といわれている。 メディアでも、この 3 業種を「コロナ倒産」の典型事例として扱っている。 しかし、この分析は表面的なものに過ぎない。 実は、19 年と 20 年を比較すると、20 年の方が倒産件数は減っている。 まず、アパレルに関していえば、コロナ以前に、消費増税と暖冬という二つのダブルパンチですでに瀕死の状態に陥っていた。 このまま放置されれば、多くのアパレル企業が死滅してしまう。

それまで「DX (デジタル・トランスフォーメーション)こそアパレル産業を救う」と誰もが信じ、日本のアパレル業界は一部の勝ち組を除き、「デジタル祭り」に興じていた。 しかし、そんな小手先のテクニックで産業界が救われるほど状況は甘くない。 なぜなら、新型コロナウイルスによって時計の針はスピードを増し、産業界は、「時すでに遅し」という状況になっていたからだ。 このままでは、日本はユニクロと無印、外資 SPA、と新興 D2C 企業だけが残り、その他は大ダメージを受け、業界再編が起きる可能性がある。

私自身、M & A(合併・買収)の世界に身を投じ、もう一度企業再建の構えをとった理由はそこにある。 多くのアパレル企業が苦しんでいるのは、世界的にみて法外な上代をつけている企業だ。 そんなことは、今勝っている企業が「激安」であること、日本の衣料品の中心購買層の可処分所得を分析すれば一目瞭然なのだが、そうした本質的な課題から目をそらそうとする。 今、「安いことは正義」なのである。 高い販管費(固定費)に手をつけなければ、いかなるハイテク・デジタルツールを駆使しても競争に勝てない。

外食企業に関していえば、客がついている人気業態はそれほどコロナの影響は受けていない。 外食企業では、味が勝敗の分かれ道になる。 一方、産業全体で一様にコロナの影響をダイレクトに受けたのは、旅行業界だ。 このように、3 業種の業績不振は全く違う意味合いと構造が裏にある。

皆さんもご存じの通り、上場しているアパレル企業の多くは、この半期は赤字決算だった。 また、商社も壊滅的状況だ。 コロナ禍にもかかわらず、21 年 8 月期決算で過去最高益を予想しているファーストリテイリングは、奇跡を通り越し、もはや一時の Apple のような、「神に最も近い」ブランドとなり、他のアパレルが逆立ちしても勝てないほど差をつけている。 一昔前は、「私はワールド出身です」といえば、業界でも一目置かれたが、今は、「私はユニクロにいました」というのが履歴書を飾る殺し文句になっている。

アパレル 1 社平均売上は 50 億円 4、5 月だけで 1/6 の売上が蒸発

さらに分析を進める。 事業所数ベースでは、日本のアパレルの 97% 程度は中堅、零細企業で、その平均規模は 50 億円以下である。 テレビで学者達が、「日本はデジタル化せよ」と言っているが、誰がその原資を出すのだろう。 このレベルの売上企業が競争に勝てるに十分な「デジタル化」を推進できるはずがない。

計算すればわかるが、2020 年 4 月と 5 月に店舗がロックダウンされ、平均すれば売上の 1/6 を失ったのが今のアパレル業界だ。 EC だと騒いでいるのは学者や評論家だけで、日本の EC 化率は、コロナ禍前で 8% 程度。 つまり、ほとんどがリアル店舗なのである。 今でこそ、日本の大手アパレルメーカーの EC 化率は 30 - 40% となっているが、それは「トータルの売上が劇的に下がった一方で、EC は巣ごもり消費で持ち直している」からだ。 この状態を「神風」と考え、私の新書「生き残るアパレル、死ぬアパレル」を 50 冊まとめて購買し、浮かれる社員に配ると言ってくれた経営者がいた。 同社の株価は最高を記録している。

50 億円の企業が、1/6 の売上を失ったらどうなるか。 アパレル企業の 50% は原価と、マークダウンロス、および、ライトオフの積算だ。 今、アパレル企業のほとんどは、バランスシートに在庫を隠し、これを「流動資産」(1 年以内に換金できる在庫)として、計上しているが、現実は、これらの多くが、1 年どころか 5 年も眠っている状況である。 つまり「資産」の実態は、不良在庫の山であり、適正な棚卸資産評価損を出さねばならないのだ。

先日、私は某企業主催で講演したのだが、登壇後、ある倉庫業者の経営者が、「河合さんの言うとおり。私たちの第三者倉庫の 1 階のフロアでは足りず、2 階まで在庫が積まれ、中には、10 年もののビンテージ在庫まで眠っている」といっていた。 私自身も、YouTube で浮かれた動画を配信しているあるブランドの第三者倉庫、いわゆ 3PL 業者を見学させてもらい、余剰在庫がビルの 2 フロアを占拠している様をい見て、背筋が凍り付いたことがある。

こうした状況から論理的に算出すれば、50 億円の 1/2 を 12 ヶ月で割った 2 億円の現金を毎月失っているのが、日本に存在する 1 万 7,000 社(統計上、1 万 7,000 社であるが、実際は 2 万社あるといわれている)の実情なのだ。

彼らの多くは既に資金繰りが立ちゆかなくなっている。 そして、日本政府と金融機関のタッグマッチによる救済策と札束増産によって、ある企業は与信オーバーの借り入れ(銀行には、この企業であれば、貸してもリスクはすくないという上限枠があり、これを与信という)をし、リスケ(債務者が金融機関に支払いを延ばすこと)、そして、中には、ニッチもさっちもいかない企業には、債務圧縮(借入金の一部を棒引きすること)などを行い、死に体となっている会社を、生きながらえさせていた。

私は、何十年に一度のウイルス・パンデミックに国を挙げて救済措置をとることは大賛成で、むしろ、上記のような分析をすれば、救済支援策は足りないくらいだと思っている。 問題は、この状況に便乗するかのように、コロナ禍以前にすでに死に体となっている企業も一緒くたに救済されている状況にある。

アパレル業界をねらう、三すくみ状態のリアル

こうした中、アパレル業界は、1) 体力のある企業、2) 今にも破裂しそうな風船のようになっている銀行、3) こうした状況を横目で見ながら、価値ある企業を安価で買おうと見ているリスクマネー(いわゆる商社投資部門やファンド)の、思惑と情報戦とが入り乱れた三すくみ状態にある。

体力のある企業は、昔取った杵柄で、溜まったアセット(資産)を売却し、コロナ過を乗り切ろうとし、この状況の中でも投資を行っている。 彼らは、アフターコロナで最速のスタートダッシュをするためだ。 そのスタートダッシュは、二つのパターンがあり、一つは、異なる企業、異業種との連携による 2 階層プラットフォーム構築。 そして、もう一つは、M & A による垂直統合である。 こうしたダイナミックな構造改革も、本質的な課題を解決できるかどうかは疑問である。 なぜなら、彼らは自らの高い固定費を削ろうとしないからだ。

先日、世界的な投資の神様、パークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット氏が日本の 5 代商社に 60 億ドル(日本円で、6,300 億円)を投資し、世界中を驚かせた。 例えば総合商社の雄、三菱商事の PBR (株価純資産倍率、倍率が 1 を下回るほど割安)は 0.6 以下である。 商社という業態は売上が全てだ。 成長が止まった市場化において、このままでは商社の伝統的繊維事業は終わりを告げる可能性が高い。

話を繊維業界に戻す。 天下の三菱でさえそうなのだから、その数百分の 1 の売上規模しか持たない日本の繊維商社はどうなのかというと、資産リッチの一部商社を除き、多くが業績悪化し、アパレルや SPA リテーラーによる垂直統合戦略(アパレル企業の小売買収と商社買収)による D2C (工場と顧客データをデジタル結合する流れ)ビジネスモデルから排除されようとしている。 あるアパレルが、業績悪化にも関わらず、政府系ファンドと組んで次々と買収をしているのはこのためだ。 作り場(生産工場)も顧客(ビッグデータ)も持たない中間流通はデジタル化の餌食となり市場から退出させられる。 これからは、規模を追いかける時代でなく、付加価値の大きさでビジネスを拡大させる時代が来る。

加えて、体力のないアパレル企業は、上記のような政府と金融機関の過剰救済措置により延命しているが、もはや融資も限界を超えており、例えば、債権をもっている企業の中で体力のある企業に頼み、自己資金による資金繰りが限界に達している企業の救済を半ば押しつけるような形で出資をさせる。 今、不可解な出資が数多く起きているのはこうした背景が裏にある。 これが、私がいう「金融主導の業界再編」だ。

日本のアパレル業界を救う唯一の道

これに対し、商社、ファンドなどのリスクマネーは、冬のパンデミックを警戒し、企業のバリュエーション(企業価値評価)をつけられない。 先日、ZOZO 創業者の前澤氏がご自身の手金 80 億円をアパレル企業 2 社に投資をしたのは記憶に新しいが、商社やファンドからしてみれば、アパレル企業は絶好の買い時なのだが、自己勘定投資(自己資金で投資を行うため長期的に企業改革を行える)を行うエンジェルやファンドは動き出す可能性もあるが、他人資本を運用するファンドは慎重になっている。

なぜなら、前述のとおり、もし冬にパンデミックが再度発生し、ロックダウンがおきれば、算出したバリュエーションが狂い、彼らのエコノミクスが成立しなくなるからだ。 したがって、インフルエンザなどが流行する 11 月から 12 月まで様子を見、コロナの猛威が拡大するのか、あるいは、ニューノーマルといわれる行動が、ウィルスを押さえるのか、はたまた、すでに 200 弱もの臨床試験段階にはいっているといわれるワクチンが世に出回るのかをみているわけだ。

当然、コロナ禍の状況が好転すれば、世界でだぶついているリスクマネーが一気に市場に向かい、銀行のデット(貸し出し)は保全され、正しく中長期的な経営をすることで産業界は正常化され、不可思議な動きを繰り返す株価は正常化され、借金まみれとなった日本の救世主となるだろう。 これが、私が想定する好転のシナリオである。

しかし、もし、単に債権とアセットの有無だけで事業シナジーもない企業への出資が強要的に行われればどうなるか。 金は、「持つ者」から「持たざる者」へ流れ、死への片道切符をもった列車のスピードは遅くなるだけだろう。 そして、業界は緩やかに死滅へと向かうだろう。 なぜなら、そこには、事業という最も大事な競争力強化のための戦略がないからだ。 かくいう私自身、自ら評論家の立ち位置と決別し、リスクをとって産業界の大きな山にタックルを繰り返している。

私は、今年、世界的な金融機関に呼ばれ、海外の投資家に日本のアパレル業界の実態を説明し、最後に世界の投資家に救済を頼んだ。 自分でも、なぜあのような発言をしたのか、今思い出しても不思議だ。 しかし、その後、私の話が圧倒的に面白く説得力があったと言ってくれる投資家と何社も面談した。

日本には、まだまだ消えてはならない技術やブランドがある。 決して戦略無きマネーの食い物にされてはならない。 私は、資本主義のメカニズムを信じているが、放置プレイは時に大事なものを破壊することがある。 企業や組織、技術は一度無くなると二度と元に戻らない。 100 年に一度の危機といわれる今だからこそ、できるだけ多くの方が現状の正しい分析とリアルの理解が必要なのである。 正しい分析と理解だけがこの日本のアパレル業界を救う唯一の道だと信じている。 (河合拓、Diamond Chain Store = 11-3-20)


ワールド、希望退職 200 人募集に 294 人応募

ワールドは、8 月 5 日に発表した約 200 人の希望退職者募集について 294 人の応募があったと発表した。 11 月 20 日付で退職する。 特別加算金などの費用約 15 億円を 2020 年 3 - 8 月期に計上する。  希望退職者募集は新型コロナウイルスの感染拡大を受けての構造改革の一環として実施した。 対象は 40 歳以上の社員で、店舗従事者は含まない。 同時に事業整理も発表しており、「ハッシュアッシュ・サンカンシオン (HUSHHUSH 3CAN4ON)」、「アクアガール (AQUAGIRL)」、「オゾック (OZOC)」、「アナトリエ (ANATELIER)」を廃止し、計 358 店舗を 2020 年 3 月期中に閉める。 (jiji = 10-9-20)


三陽商会 3 - 8 月期は最終赤字 66 億円、160 の不採算売場を撤退へ

三陽商会が 2021 年 2 月期第 2 四半期(2020 年 3 月 1 日 - 8 月 31 日)の連結業績を発表した。 売上高は 153 億 2,800 万円(2019 年 1 月 1 日 - 6 月 30 日は 297 億 3,500 万円)、営業損益は 57 億 1,200 万円の赤字(同 8 億 6,300 万円の赤字)、経常損益は57億 3,800 万円の赤字(同 8億 2,700 万円の赤字)とし、親会社株主に帰属する四半期純損益は 66 億 4,800 万円の赤字(同 6 億 600 万円の赤字)に沈んだ(* 2020 年 2 月期は決算期変更に伴う 14 ヶ月の変則決算)。

業績不振の理由として同社は、新型コロナウイルス感染症の影響から実店舗では一般家庭の外出自粛やインバウンド需要が大幅に減少したことなどを挙げた。 増加した在庫品の圧縮や、新規商品仕入高のコントロール、EC 販路の強化などに取り組み、EC 販路では施策が奏功し順調に売上高を確保したが、主販路の百貨店を中心に運営する実店舗では休業および来店客数が減少し、売上高が大幅に減少。 販売費及び一般管理費に関しても人件費の抑制、不動産賃貸料の減額交渉などの削減に努めたが、営業損失は拡大したという。

また、未定としていた 2021 年 2 月期の通期連結業績予想を発表。 売上高は 380 億円、営業損益は 85 億円の赤字、経常損益は 96 億円の赤字、親会社の所有者に帰属する当期純損益は 35 億円の赤字と予想している。 同社は、4 期連続で最終赤字を計上しており、今期で 5 年連続での赤字決算となる見通し。 広告宣伝費、販売促進費の効率化に努めるほか、「ラブレス (LOVELESS)」や「キャスト : (CAST :)」をはじめとする店舗を集約し、今期中に 160 の不採算売場から撤退することで販売関連経費の削減を進めるという。 (FashionSnap = 10-6-20)


アパレル倒産ラッシュ 来春に深刻化は不可避な情勢か

長期間に及ぶコロナ休業や外出自粛によって大打撃を受けたアパレル業界。 ブランド規模の大小を問わず "倒産ラッシュ" が起きるのではないかと懸念されていたが、今のところ何とか持ちこたえている印象も受ける。 だが、「本当の危機はこれから訪れる」と指摘するのは、ファッションジャーナリストの南充浩氏だ。

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今春の新型コロナウイルスによる大規模な店舗休業によって、これまで経営が悪化していたアパレルがとどめを刺され、倒産に至りました。 その中には、かつて日本一だった「レナウン」も含まれていたため、主要顧客の年配層には大きな衝撃が走りました。 また経営破綻ではありませんが、同じく経営の悪化によって「セシルマクビー」が全店を閉鎖し、ブランドを終了させることも発表しました。 こちらは多くの女性に衝撃を与えました。 これが 6 月までの話です。

その後、店舗営業は再開されましたが、どこも売上高の V 字回復には至っていないため、「6 月以降もアパレルの倒産ラッシュが起きるのでは?」と業界の内外を問わず大きな懸念事項となっていました。 ところが、7 月、8 月はほとんど倒産が見られないまま過ぎ、9 月も無事に終わりました。 ではどうして、6 月以降のアパレルの倒産ラッシュが回避されたのでしょうか。 その理由について考えてみたいと思います。

今年 3 月から始まった営業時間短縮や店舗休業によってアパレル業界はちょっとしたパニックに陥りました。 なにせ、3 月、4 月はアパレル業界ではもっとも洋服が売れる時期のひとつです。 そこがまるまる休業になるわけですから、作ったり仕入れたりした商品はほとんど売れません。 商品が売れないということは製造費や仕入れ代を回収できないことになり、手元の資金が大きくショートする可能性が高まります。 このため、3 月から在庫処分業者に在庫の買い取り要請が急激に増えました。 これについては各業者が口を揃えているので、間違いない動きです。

倒産ラッシュの本格化は 2021 年春か

しかし、5 月の緊急事態宣言解除以降、在庫処分業者への不良在庫の買い取り要請は、当初見込まれていたほどには増えませんでした。 もちろん、アパレル各社の在庫所有数も個々に違えば、財務内容も異なります。 引き続き在庫引き取りを要請したアパレルもありましたが、6 月以降は要請しないまま過ごしたアパレルも珍しくありませんでした。 その理由はいくつか考えられますが、まず 6 月の営業再開からなし崩し的に各店頭で始まった春夏物バーゲンセールやインターネット通販での割引在庫処分などがある程度効果があったと考えられます。 もちろん、ブランド・店舗間によって売れ行きの好不調に格差があったことは言うまでもありませんが、九死に一生を得たアパレルも少なくありませんでした。

そして、政府や自治体等が矢継ぎ早に打ち出した金融支援によって一息つけたというアパレルも想像以上に多かったのです。 私の知り合いの在庫処分業者も話していましたが、持続化給付金などの資金援助は、通常の助成金や補助金よりも申し込みも審査方法も簡素化されており、支給されやすくなっているといいます。 また、政府の意向を受けた各銀行は、融資の枠や審査基準を大幅に緩めています。 ですから、通常よりもずっと融資を受けやすくなっているのです。 前出の業者によると、「政府の支援金と金融機関の融資によって年内は持ちこたえるメドがついた。 年内は在庫処分をする必要がなくなった。」と胸をなでおろすアパレルが想像以上にいるそうです。

しかし、政府からの支援金はこれから毎年継続されるわけではありませんし、銀行からの融資はいずれ返済が始まります。 今回の支給こそがイレギュラーだったと見るべきでしょう。 そのため、店頭の売れ行きが 2019 年レベルに回復しないことには、2021 年初頭からは過剰在庫を抱えて資金ショートするアパレルが続出するのではないかと考えられます。 前出の在庫処分業者も同様の危機感を抱いています。

また、国内有名ブランドからの委託を受けてアウトレット店をマネジメントしている知り合いの業者も、「来年の春から、今回一息ついたアパレルの経営破綻や倒産ラッシュが始まるのではないか」と心配しています。 在庫処分やアウトレット店といった "アパレル業務の裏" を知り尽くしている関係者が一様に同じ見解であるところにリアルさが感じられます。

在庫過剰の商習慣はリセットできない

今回のコロナショックでアパレル業界の苦戦が深刻化しましたが、報道などでは「これを機に在庫を多く抱える供給過剰の商慣習を見直すべき」という論調も多く見受けられます。 基本的には賛成ですが、何十年と続いてきた商慣習をいきなりリセットするわけにはいきません。 それこそ多くの倒産企業が生まれ、失業者が急増するでしょう。 物販で生計を立てていない人には実感がわかないかと思いますが、物販では 100 億円の売上高を稼ごうとするなら 100 億円分の在庫量が必要になります。 50 億円分の在庫量しかなければ完売しても売上高は 50 億円にしかならないのです。

資本主義経済における企業の目的とは成長することですから、これまでずっと前年実績を上回る売上高が目標に掲げられてきたのです。 そして、それに比例して用意する商品量も増え続けてきたというのがアパレル業界の構造です。 そして、在庫量が増えたからといって、一律に新規の仕入れ量や生産量を減らせば、売上高が確実に下がるばかりか、下手をすると営業利益(本業による儲け)も減りかねません。

基本的に多くのアパレル店舗はトータルアイテムを販売しています。 T シャツだけ、ジーンズだけ、ワイシャツだけという単品販売の店は多くありません。 ジャケット、ズボン、シャツ、T シャツ、セーターという具合にトータルアイテムを販売しています。 そして、それぞれ数種類の色・柄があります。 それを一律削減してしまえば、本来なら売れ筋になる品番も減らすことになり、販売の機会損失が起きてしまいます。 ですから、アパレルが新規の仕入れ品や商品製造を削減するにしても、「A という商品はまったく減らさないが、B という商品は 7 割減らす」というような自店舗・自ブランドの特性と照らし合わせた分析が必要となるのです。

この分析は方程式のように決まったロジックが存在するわけではありません。 なぜなら、売れ筋・死に筋はブランドごとにまったく異なるからです。 要するに、供給量を削減するためには各社・各ブランドそれぞれでの精緻な分析が必要となり、その分析の精度を上げることが唯一の正解なのです。 来年春からの倒産ラッシュを現実化させないためにも、各ブランドは自社の置かれた経営実態を正確に踏まえたうえで、早期の売り上げ回復に努めていただくことを切に願っています。 (News Post/Seven = 10-4-20)


破綻ドミノ迫るアパレル 消費者の価値観変化にコロナ禍が拍車

アパレル業界が「破綻ドミノ」の危機に瀕している。 新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛などの影響で各社の販売は大幅に減少。 5 月には名門レナウンが経営破綻するなど、ダメージの大きさは飲食業界や宿泊業界と並ぶ。 大手各社は衣料品をめぐる消費者の嗜好の変化などへの対応が遅れていたところをコロナ禍に見舞われ、弱り目にたたり目の状況だ。 長年の悪弊とされてきた過剰仕入れの商慣行から抜け出す動きもみせているが、新型コロナがもたらす新たな変化への対応を含めた事業改革の成否が問われている。

総崩れに近い現状

「供給側では大半が失敗者で、成功者はごく少数に限られている。 現場では相当、危機感をもってやっている。」 三陽商会の大江伸治社長は総崩れに近いアパレル業界の現状に神経をとがらせる。 大江氏は業績低迷が続いてきた三陽商会に外部から招かれた「再生請負人」だ。 スポーツ衣料大手、ゴールドウインの経営を立て直した実績を買われて 5 月 26 日付で社長となった。

しかし経験豊富な大江氏でさえ「(コロナ禍で)想定外の部分はある」と頭を抱える。 全店舗の 1 割強に当たる約 150 店の閉鎖をはじめとする構造改革に加え、東京・銀座のビルの売却などにより財務基盤を強化した上で改革を加速させる構えだが、目標とする 2022 年 2 月期の黒字化達成は予断を許さない状況だ。 苦境に陥っているのは三陽商会だけではない。 東京商工リサーチによると、8 月 31 日時点で新型コロナ関連の破綻(負債 1,000 万円以上)は累計 441 件。 外出自粛や店舗休業の影響を受けたアパレル関連は 51 件と飲食業(65 件)に次いで多く、宿泊業(43 件)を上回る。

5 月中旬に経営破綻したレナウンはスポンサー探しが難航。 8 月 21 日にようやく紳士服「ダーバン」など主要 5 ブランドを小泉(大阪市)のグループ企業に売却することが決まったが、レナウン本体は清算される見通しとなった。 レナウンや三陽商会に限らず、集客力が低下している百貨店を主戦場とするメーカーでの苦戦が目立つ。 オンワードホールディングスやワールドも大量閉店や希望退職の募集に踏み切っている。

構造問題を放置

もっとも、多くの場合、コロナ禍の前から経営は低迷していた。 大手幹部は「(コロナ禍で)より苦しくなったのは確かだが、環境変化に対応せず、構造問題にメスを入れてこなかったことに問題がある」と自戒を込めて語る。 衣料品に対する消費者の価値観はこの数十年で大きく変化した。 その表れが消費額の落ち込みだ。

総務省の調査によると、「被服及び履物」への支出(2 人以上世帯)は 19 年で約 13 万 5,600 円で、00 年に比べ 3 割以上も減った。 生活防衛意識を高める消費者は必要なものにしかお金を使わず、スマートフォンなどへの支出を優先。 「クールビズ」に象徴されるオフィスの軽装化や、社会進出の結果として女性が仕事着と普段着しか買わなくなったことも単価下落に拍車をかけたとされる。 バブル期に何万円もする「DC ブランド」の服が飛ぶように売れていたことを考えれば、まさに隔世の感がある。

「作りすぎ」慣行 断ち切れるか

こうした傾向を追い風にしたのが、ユニクロを代表格とするファストファッションと呼ばれるメーカーだ。 製造から販売まで一気通貫で手掛け、中国など人件費の安い国で製造し、中間コストをカットして価格を抑える。 その一方で顧客の反応を商品企画に素早く反映させ、多くの消費者を取り込んでいった。 しかしそのファストファッションでさえ、電子商取引 (EC) の普及という激震に襲われている。 消費者は安くて品質の良い商品をさらに入手しやすくなる一方で、メーカー間の競争は激化し、リアルな店舗の収益力が低下している。

アパレル大手にとってより深刻なのは、業界に長年はびこってきた「作りすぎ」が一向に改善されていないことだ。 市場が縮小しているにもかかわらず、多くのメーカーは商品を過剰に販売し、売れ残りをセールで割り引く慣行を改めようとしなかった。 こうした慣行が値引き拡大を招き、正価への不信や消費意欲の減退にもつながっている、との指摘は根強い。

日本で販売される衣料品の実に半分は売れ残り、廃棄処分されているといわれる。 コロナ禍による売れ残りの増加で、「内在していた供給過剰の矛盾が一気に現実化した(ワールド)」形だ。 衣料品の大量廃棄は、環境保護の観点からも問題視され、最近はブランドの価値にまで悪影響を及ぼすようになっている。 三陽商会の大江氏も「悪しき」慣行との決別を目指している一人だ。 「秋冬の仕入れは徹底して絞った。 欠品は覚悟の上だ。」と改革への決意を強調する。

ただしコロナ禍が収束したとしても、どこまで客足が戻るかは見通せない。 在宅勤務の定着などで軽装化が進み、衣料品への支出がさらに落ち込むとの見方もある。 新しい生活の在り方が定着していく中で、アパレル業界でメーカーの淘汰が進むことは確実。 ここ 1、2 年の間に悪循環を断ち切り、新たなビジネスモデルを確立できるかが明暗を分けそうだ。 (井田通人、sankei = 9-3-20)